JP2004176034A - 感光性化合物及び感光性樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の感光性化合物は、1分子中にナフタルイミド構造含有基とエチレン性不飽和基を有する化合物(a)又は、当該化合物(a)を含む1種以上のラジカル重合性化合物重合させた重合体(b)からなる。本発明の感光性樹脂組成物は、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料の形成材料として用いられる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、感光性化合物、当該感光性化合物を含有する感光性樹脂組成物、及び当該感光性樹脂組成物を用いて作製した印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料に関し、詳しくは、特に耐熱性が高く、硬化後の製品中には独立の成分として残存せず、温和な条件で合成可能なラジカル発生部位を有する感光性化合物、当該感光性化合物を含有する感光性樹脂組成物、及び当該感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、高耐熱性、高安定性である印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
紫外線等の放射線の照射によって硬化するか又は溶解性が変化する感光性樹脂は、一般に、露光部の溶解性が良好なもの(ポジ型)と、未露光部の溶解性が良好なもの(ネガ型)の2種に分類される。ネガ型の場合、感光性樹脂自体が露光により硬化し不溶になることから、感光性樹脂が基材上に残存し機能膜として製品の一部となる場合が多い。ネガ型の感光性樹脂は、例えば塗料、印刷インキ、接着剤、印刷原版等に用いられてきたが、近年、プリント配線板の配線保護用のソルダーレジストや、層間絶縁膜、カラーフィルターの画素形成用レジスト等にまで用途が広がってきている。
【0003】
一般に多く用いられるネガ型の感光性樹脂の一つに、エチレン性不飽和結合を一つ以上有する化合物、光照射によりラジカルを発生させる光ラジカル開始剤、及び、必要に応じて、現像性や塗膜の柔軟性等を付与する高分子化合物、無機フィラー、顔料等を配合した樹脂組成物がある。この組成物に放射線を照射すると、エチレン性不飽和結合を有する化合物がラジカル反応により結合し、大分子量化して硬化する。この硬化反応の際に、架橋反応により3次元網目構造が発達することにより、得られる硬化物の硬度、強度、密着性、耐溶剤性、耐熱性が向上する。
【0004】
光ラジカル開始剤は、自己開裂型と水素引き抜き型に概ね分類される。前者の場合、特定波長の光(電磁波又は放射線)を吸収することで、その波長に対応した部位の結合が切断され、その際に分断された各々の部位にラジカルが発生し、そこからラジカル反応が始まる。後者の場合、ある特定の波長の電磁波を吸収し励起状態になると、周囲にある水素ドナーから水素を引き抜き、その際に引き抜いた方、引き抜かれた方の各々にラジカルが発生する。
【0005】
一般に自己開裂型は、感度やラジカル発生効率は良好なものの、熱に対して不安定であり、これを含有する感光性樹脂組成物の耐熱性、安定性、保存性等に問題がある。一方、水素引き抜き型は、水素ドナーが励起された開始剤の近傍に存在する必要がある事や、水素を引き抜く際のエネルギー障壁の大きさによってラジカル発生効率が決まるため、感度は比較的低いが、励起状態になり水素を引き抜かないとラジカルが発生しないため、樹脂組成物の安定性、保存性は高い。
【0006】
プリント配線板の表面被覆に用いられるソルダーレジストには、耐熱性や難燃性付与のため有機顔料やフィラーを混合されていたり、カラーフィルターの画素形成用レジストには、色表示のための顔料が混合されている。これらの顔料は光を吸収する成分であることから、感光性樹脂の感度を高めるために、主に自己開裂型の光ラジカル開始剤を用い、しかもラジカル反応に充分利用されない分を見込んで多量に混合させている。ここで、ラジカル反応に利用されない分には、照射によっても開裂しなかった未反応の開始剤と、開裂によりラジカル化しても固相での反応ゆえに被反応物との接近が阻害されて失活する分とがある。
【0007】
露光後の硬化物中には、開始剤由来の残存物が多量に存在するが、そのうち未開裂の光ラジカル開始剤は、露光後にも反応性を残していることから製品を変質させる。また、未開裂の光ラジカル開始剤、及び、開裂したがラジカル反応で消費されずに失活した分解物は、マトリックスの架橋構造に結合しておらず、独立した成分として製品中に存在することから膜物性を阻害する。そのため、開始剤由来の残存物をそのまま放置すると、耐光性の悪化、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等を引き起こし、最終製品、例えば電子部品用の層間絶縁膜やソルダーレジスト、カラーフィルター用画素形成用レジストの信頼性を低下させる原因になるという問題がある。
【0008】
自己開裂型の光ラジカル開始剤は昇華性が強く、熱により分解するため、露光、現像後の製品を百数十℃以上の温度でポストベークすることにより製品から除去することができる。しかしながら、ポストベーク時に開始剤由来の昇華物が加熱装置内に多量に付着し、それが硬化により得られた製品上に落下して製品不良の原因となり、問題となっていた。また、加熱装置の周囲では雰囲気中に開始剤の分解物等が含まれるため、作業安全性の観点からも問題があった。
【0009】
ポストベークの条件を、より高温で、より長時間にすることによってラジカル開始剤由来の残存物をより多く除去することが可能であるが、固体中からの揮発の為、完全に除去することは困難である。より多くのラジカル開始剤由来の不純物を除去する為に条件を厳しくすると、その条件が、かえって製品不良を起こす原因となる。
【0010】
一方、剥離膜として用いられる電子部材の加工用レジスト及びドライフィルムレジスト等も、同様の放射線による硬化システムが用いられている。加工用レジストは、最終的には剥離され製品には残らないが、その銅配線形成等の加工工程において、加工に用いる塩化第二鉄や塩化第二銅等の薬液中にレジスト膜から開始剤由来の残存物が溶出し、薬液の寿命を短くするという問題があった。
【0011】
さらに、建築物の壁紙や壁の表面を保護する保護膜用塗料として、感光性樹脂が用いられる際には、シックハウス症候群対策等の観点から、建材全体から出て来る溶媒成分や臭気成分の削減が求められているが、揮発性の高い開始剤を用いることで、塗膜硬化後も臭気が発生するという問題があった。
【0012】
これらの問題点から、ポストベーク時や光硬化後に蒸発せず、しかも、塗膜中に独立して残存するラジカル発生剤由来の成分が実質的にないような、ラジカル発生剤及び樹脂組成物が望まれている。
【0013】
これらを解決する手段として、ESACURE KIP 150(商品名)(日本シイベルヘグナー株式会社製)等は、ポリマー骨格の側鎖に光ラジカル発生部位を導入している。このようにすれば光ラジカル発生剤は一分子内に複数のラジカル発生部位を有するため、当該分子内のどこか1箇所がラジカル化して塗膜のマトリックスと結合していれば、同じ分子内にある未反応のラジカル発生部位もポリマー骨格を介してマトリックスに結合するので、ポストベーク時に揮発せず、塗膜中を移動する事も無いため、最終製品での信頼性を低下させることが少ない。
【0014】
しかしながら、この場合、側鎖に導入されている光ラジカル発生部位が自己開裂型であり、加熱によって容易に分解してラジカルを発生させてしまうため、これを含有する感光性樹脂組成物の耐熱性、安定性、保存性等に問題があることに変わりない。また、ラジカル発生部位のうち開裂後にポリマー骨格に残る部分はマトリックス構造と結合しているが、光ラジカル反応及びポストベークによりポリマー骨格から開裂した分解物の一部は、ラジカル反応で消費されずに失活してマトリックスから独立して残存するため、そのまま放置すると塗膜物性に悪影響を与え、また、ポストベークを行っても完全に昇華除去させることが困難である。
【0015】
また、国際公開WO98/58912号公報、特開2002−3559号公報では、マレイミド基を有する(メタ)アクリレートが提案されている。これらは、マレイミドが電磁波を吸収することで、ビニルエーテルとは電子受容体として反応し、ラジカルを発生させる。また、水素を引き抜くことでもラジカルを発生させることができる(ラジカル重合ハンドブック 株式会社エヌ・ティー・エス刊 1999年 312ページ)。しかし、マレイミドはエチレン性2重結合を有するため、マレイミド基と(メタ)アクリル基を両方有するモノマーをラジカル重合すると、架橋反応が進行しゲル化してしまう。そのため、国際公開WO98/58912号公報や特開2002−3559号公報では、マレイミド基にシクロヘキシル基等の置換基を導入し、立体障害によりマレイミド基の反応性を低下させることにより、上記の課題を克服している。しかしながら、その反面マレイミド部位の反応性が低下するため、ラジカル反応開始効率も低下するという問題があった。また、酸無水物とアミンを反応させてマレイミド基を形成する反応は脱水反応で行なうため、触媒を用いずに効率よく反応させるためには100℃以上の高い温度が必要であり、マレイミド基の形成時に直接エチレン性不飽和結合の導入を行なおうとすると、エチレン性不飽和結合の重合が起こってしまうという合成上の問題があった。また、無水酢酸等の脱水触媒を用いて脱水反応を行なうこともできるが、コスト増の原因となると共に、その後の精製工程が複雑になる等、いずれにしろ合成上に問題があった。
【0016】
また、S.Jonssonらは、マレイミド基を両末端に有した化合物の光反応性架橋剤をProc.RadTech 96(North America Nashville 377ページ 1996年)で提唱している。これは、ビニルエーテルと速やかに反応するが、マレイミド基であるため、前述のように合成上に問題があった。
【0017】
さらに、工業材料 2002年7月号 P.107〜P.111には、マレイミド部位を有する化合物のUV吸収スペクトルが記載されており、それによれば、無置換のマレイミド化合物は、350nm以上には吸収を持たない。その為、一般的に用いられる露光光源である、高圧水銀ランプの主要な発光波長である365nm、405nm、436nmに吸収を持たず、これらの光に対しては、マレイミド基は何の変化も起こさないことが予測される。
【0018】
この為、マレイミド基は上記の波長に対して感度を持たない為、マレイミドを光硬化に用いるには、露光を、350nm以下に発光を有する光源によって行なわなくてはならないという問題があった。また、高圧水銀灯は365nm未満の波長も発光するが、通常フィルターでカットする領域である。フィルターでカットしなくても、発光強度が小さい為、365nmに吸収を有するラジカル発生剤に比べて、同じランプを使った場合に露光時間が非常に長くなると言う問題もあった。
【0019】
一方、1999年久保らにより、N−メチル−1,8−ナフタルイミドとp−キシレン等の芳香族化合物をアセトニトリル溶液中でメタノール存在下紫外線を照射すると、高収率でナフタルイミドと芳香族化合物の反応物が得られると報告されている(p.175 Chemistry Letters 1999)。その中で、その反応のメカニズムとして、紫外線により1重項励起されたナフタルイミドが芳香族化合物とエキサイプレックスを形成し、その後、水素を引き抜くことによりラジカルを発生し、ナフタルイミドと芳香族化合物の間で結合が形成されると記載されている。しかしながら、この文献では溶液中での反応であると共に、ナフタルイミドと一部の低分子の芳香族化合物との反応のみしか記載されていない。
【0020】
ナフタルイミド部位とエチレン性不飽和結合を有する化合物は、特開昭62−205108号、特開昭63−218970号に開示されている。しかしこれらは、電子写真用トナーに利用するものであり、ナフタルイミド基の光ラジカル発生剤としての機能や、耐熱性、合成の容易性については言及されていない。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、その第一の目的は、ラジカル発生剤としての機能と、硬化反応性化合物としての機能を兼ね備え、安定性、保存性が高く、硬化後にはラジカル発生剤が硬化物中に独立して残存することなく、耐熱性が高く、且つ、比較的温和な条件で合成することができ、生産性の高い感光性化合物を提供することにある。
【0022】
本発明の第二の目的は、ラジカル発生剤としての機能と、架橋剤としての機能を兼ね備え、さらに好ましくはバインダー成分としての機能を兼ね備えると共に、安定性、保存性が高く、硬化後にはラジカル発生剤が硬化物中に独立して残存することなく、耐熱性が高く、且つ、比較的温和な条件で合成することができ、生産性の高い感光性化合物を提供することにある。
【0023】
本発明の第三の目的は、上記本発明に係る感光性化合物を用いて、安定性、保存性が高く、硬化後には塗膜中にラジカル発生剤が独立して残存することなく、耐熱性が高く、且つ、合成上有利な感光性樹脂組成物を提供することにある。
【0024】
本発明の第四の目的は、上記本発明に係る感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されていて、高耐熱性、高安定性である製品を提供することにある。
【0025】
本発明は、これらの目的のうち少なくとも一つを解決するものである。
【0026】
【課題を解決するための手段】
上記第一の課題を解決するための本発明に係る感光性化合物は、下記式(1)
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、互いに結合した環構造であってもよい。R7、R8及びR9は、それぞれ独立して水素原子又は一価の有機基である。Xは2価の基である。)
で表される、1分子中にナフタルイミド構造含有基及びエチレン性不飽和基の両方を有する化合物(a)からなることを特徴とする。
【0029】
ナフタルイミド構造含有基によるラジカル発生機構は、ナフタルイミド構造が電磁波や放射線等の光を吸収することによってラジカルを発生させるものと推定される。
【0030】
上記化合物(a)からなる感光性化合物は、ナフタルイミド構造含有基が水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、光を照射して励起させることによりラジカル反応を起こしたり、ラジカル重合を開始したり、さらに一分子内にナフタルイミド構造含有基を2つ以上有する場合には高分子を架橋することもできる。ナフタルイミド構造含有基は、自己開裂型よりも安定性が高い水素引き抜き型であり、しかも耐熱性が良好なナフタレン骨格を有するため、本発明の感光性化合物は、耐熱性が高く、安定性、保存性が高い。
【0031】
さらに、π結合が多く連結していることから吸収波長がマレイミドよりも長波長化している為、高圧水銀灯の主要な発光波長である365nmの波長に対し吸収を持ちやすく、感度が良好である。
【0032】
また、本発明に係る感光性化合物は、エチレン性不飽和結合だけでなく芳香環等種々の化合物とも反応可能であり、エチレン性不飽和結合を有さない樹脂組成物であっても、高分子を架橋したり或いはラジカル重合を開始することができる。従って、本発明に係る感光性化合物は、一般的な光ラジカル重合開始剤として用いられるほか、例えば芳香族ポリマーを含有する樹脂組成物の架橋剤として用いて硬化後の耐溶剤性を向上させることが可能である。
【0033】
特に化合物(a)は、ナフタルイミド構造含有基と共に、ラジカル重合性部位であるエチレン性不飽和基を有しており、光ラジカル発生剤としての機能と、ラジカル重合性成分としての機能を兼ね備えていることから、感光性樹脂組成物の硬化反応性成分として好適に用いることができる。また、化合物(a)は、後述する重合物(b)の原料モノマーとしても用いられる。
【0034】
また、化合物(a)からなる感光性化合物の場合には、ナフタルイミド構造含有基がラジカルを発生させて重合体等反応物と直接結合するか、或いは、たとえナフタルイミド構造含有基がラジカル化せずに未反応のまま残ったとしても、同じ分子内にあるエチレン性不飽和基がラジカル反応により重合体等反応物と結合することによって、当該未反応のナフタルイミド構造含有基も重合体等反応物の化学構造の一部となる。そのため、化合物(a)からなる感光性化合物は、ラジカル発生部位が未反応のまま残ったとしても重合体等反応物中に遊離の形で残存せず、ポストベーク時に揮発しない。しかも、ラジカル発生部位は未反応のまま残存してもラジカル発生部位が耐熱性の高いナフタルイミド構造を有しているので、揮発性の分解物が生成しない。
【0035】
このように、本発明の感光性化合物のラジカル発生部位は、ラジカル化すると感光性樹脂組成物の硬化塗膜中においてマトリックスと結合し、且つ、未反応のまま残留しても硬化塗膜中においてマトリックスの化学構造の一部となり、いずれの場合も硬化塗膜中で化学的に安定した形で存在する。
【0036】
従って、作業安全性の問題や、耐光性の悪化や、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等、最終製品の信頼性を低下させる問題や、薬液寿命を短くする問題や、臭気が発生する問題も全て解決することができる。
【0037】
さらに、マレイミド構造を形成する反応は、加熱や触媒等により脱水縮合反応をしないと形成されず、そのため合成上様々な問題があったが、ナフタルイミド構造を形成する反応は脱水縮合反応が進行しやすく、マレイミド構造に比べて合成が非常に簡便であり、溶媒溶解性も良好なことから、合成上有利である。そのため、収率、反応速度、管理面、コスト面を含めて生産性が上がる。
【0038】
上記第二の課題を解決するための本発明に係る感光性化合物は、上記化合物(a)を含む1種以上のラジカル重合性化合物の重合物(b)からなることを特徴とする。
【0039】
重合物(b)からなる感光性化合物も、ナフタルイミド構造含有基が水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、光を照射して励起させることによりラジカル反応を起こしたり、ラジカル重合を開始することができる。重合物(b)において、一分子内にナフタルイミド構造含有基を2つ以上有する場合には、ラジカル発生剤としての機能と、架橋剤としての機能を兼ね備えている。また、この重合物(b)の分子量を調節することによって、バインダーポリマーとしての機能を付与したり、或いは、共重合成分を選ぶことにより、アルカリ現像性や水溶性等の機能を付与することが可能である。
【0040】
また、重合物(b)からなる感光性化合物の場合には、感光性化合物の一分子内に含まれる複数のナフタルイミド構造含有基(ラジカル発生部位)のうち、どこか1箇所でもラジカルを発生させて重合体等反応物と結合を形成していれば、当該分子に含まれる未反応のラジカル発生部位も全て重合体等反応物の化学構造の一部となる。そのため、重合物(b)からなる感光性化合物は、化合物(a)の場合と同様に、ポストベーク時に揮発せず、塗膜の変質を引き起こしにくい。このように、本発明の感光性化合物のラジカル発生部位は、ラジカル化すると感光性樹脂組成物の硬化塗膜中においてマトリックスと結合し、且つ、未反応のまま残留しても硬化塗膜中においてマトリックスの化学構造の一部となり、いずれの場合も化学的に安定した形で存在し、耐熱性、耐候性、安定性を損なわない。
【0041】
その結果、作業安全性の問題や、耐光性の悪化や、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等、最終製品の信頼性を低下させる問題や、薬液寿命を短くする問題や、臭気が発生する問題も全て解決することができる。
【0042】
さらに、マレイミド構造に比べて合成が非常に簡便であり、合成上有利である。そのため、収率、反応速度、管理面、コスト面を含めて生産性が上がる。
【0043】
上記第三の課題を解決するための本発明に係る感光性樹脂組成物は、上記化合物(a)及び重合物(b)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの感光性化合物を必須成分として含有することを特徴とする。
【0044】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、上記本発明に係る感光性化合物を含有しており、化合物(a)又は重合物(b)のナフタルイミド構造含有基が水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、光を照射して励起させることによりラジカル化し、感光性樹脂組成物中でラジカル反応を起こさせる。感光性樹脂組成物中のラジカル反応性化合物は、当該化合物の種類によってラジカル重合や、感光性化合物である化合物(a)又は重合物(b)とのラジカル二量化反応や、ラジカル性架橋反応等、さまざまなラジカル反応を引き起こし、感光性樹脂組成物を硬化させたり、溶解性を変化させたりする。
【0045】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、水素引き抜き型のラジカル発生基を含有しており、耐熱性、保存性、安定性が高い。また、この感光性樹脂組成物は、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基によって発生したラジカルが、エチレン性不飽和結合だけでなく芳香環等種々の化合物とも反応可能なため、エチレン性不飽和結合を有さない樹脂組成物であっても、高分子を架橋したり或いはラジカル反応をすることができ、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こすことができる。
【0046】
さらに、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基は、ラジカルを発生させた後、マトリックス構造に結合して樹脂組成物の化学構造の一部となる。また、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基が未反応のままでも、化合物(a)の場合には同じ分子内のエチレン性不飽和基がマトリックス構造と結合し、重合物(b)の場合には同じ分子内の他のナフタルイミド構造含有基がラジカル化してマトリックス構造に結合することにより、樹脂組成物の化学構造の一部となる。従って、従来のようにラジカル発生剤が樹脂組成物中に遊離の形で残存することがない。その結果、最終製品の信頼性を低下させる問題も解決する。
【0047】
前記感光性樹脂組成物には、エチレン性不飽和結合を有する化合物(c)をさらに含有させることが、耐熱性や硬度等の塗膜物性を向上させる点から好ましい。また前記感光性樹脂組成物には、当該組成物の未硬化状態での成膜性及び硬化後の塗膜物性を調節するために、高分子量のバインダー成分を配合しても良い。
【0048】
前記感光性樹脂組成物は、パターン形成材料として、或いは、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料の形成材料として好適に用いられる。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下において本発明を詳しく説明する。なお本発明において光には、感光性化合物のラジカル発生部位をラジカル化し又は感光性樹脂組成物にラジカル反応を引き起こさせることが可能な可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。樹脂組成物の光硬化には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等が使用される。
【0050】
先ず、本発明に係る感光性化合物について説明する。本発明に係る感光性化合物には、下記式(1)
【0051】
【化4】
【0052】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、互いに結合した環構造であってもよい。R7、R8及びR9は、それぞれ独立して水素原子又は一価の有機基である。Xは2価の有機基である。)
で表される、1分子中にナフタルイミド構造含有基及びエチレン性不飽和基を有する化合物(a)からなることを特徴とする第一の感光性化合物と、少なくとも前記化合物(a)を含む1種以上のラジカル重合性化合物の重合物(b)からなることを特徴とする第二の感光性化合物とがある。
【0053】
ナフタルイミド構造含有基によるラジカル発生機構は、ナフタルイミド構造が電磁波や放射線等の光を吸収することによってラジカルを発生させるものと推定される。
【0054】
上記化合物(a)又は重合物(b)からなる感光性化合物は、ナフタルイミド構造含有基が水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、光を照射して励起させることによりラジカル反応を起こしたり、ラジカル重合を開始したり、さらに一分子内にナフタルイミド構造含有基を2つ以上有する場合には高分子を架橋することもできる。
【0055】
また、上記化合物(a)は、ラジカル発生部位であるナフタルイミド構造含有基と、ラジカル重合性部位であるエチレン性不飽和基とを有し、ラジカル発生剤としての機能と、硬化反応性化合物としての機能を兼ね備えている。
【0056】
一方、上記重合物(b)は、一分子内にラジカル発生部位であるナフタルイミド構造含有基を2つ以上有するものを容易に合成することができるので、ラジカル発生剤としての機能と、架橋剤としての機能を兼ね備えることができる。また、この重合物(b)の分子量を調節することによって、高分子量のバインダー成分としての機能を付与することが可能である。
【0057】
上記式(1)に含まれるナフタルイミド構造含有基のうち、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、互いに結合した環構造であってもよい。
【0058】
上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、置換基を有していてもよい有機基、又はそれらが互いに結合した環構造が挙げられ、置換基を有していてもよい有機基としては、例えば、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又はフェニル基、ナフチル基等の芳香族基、アリル基、等が挙げられる。
【0059】
また、上記の互いに結合した環構造であってもよいとは、シクロヘキシル基等の脂肪族性の環構造だけでなく、例えば、R1、R2に芳香環が結合してアントラセン構造をとるものや、R2、R3に芳香環が結合してフェナントレン構造をとるものや、同様にしてピレン構造をとるものやペリレン構造をとるもの等、R1、R2、R3、R4、R5及びR6においてナフタレン環に結合してナフタレンより大きい縮合環炭化水素となっているものも、イミド環が6員環構造になっていれば、本発明のナフタルイミド構造含有基に含まれる。また、環構造は芳香族性の縮合環であっても、脂肪族性の環構造であっても良く、さらに環構成原子としてC以外の異種原子を含んでいても良い。
【0060】
感光性樹脂組成物に配合する時の溶解性を向上させる点から、ナフタルイミド構造含有基に導入される置換基としては、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルキル基、アルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基等が好ましい。
【0061】
上記式(1)に含まれるエチレン性不飽和基のうち、R7、R8及びR9は、それぞれ独立して水素原子又は一価の有機基であり、好ましくは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、飽和又は不飽和ヒドロキシアルキル基であり、特に好ましくは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基である。特に、価格やラジカル反応の速度の観点、最終的な塗膜の物性の観点から、エチレン性不飽和基は、R7が水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基であり、且つ、R8及びR9がそれぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であることが最も好ましい。
【0062】
エチレン性不飽和基の好ましい例としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−トリフルオロメチルアクリロイル基、及び、無置換のビニル基が挙げられる。
【0063】
上記式(1)においてナフタルイミド構造含有基とエチレン性不飽和基を連結している化学構造Xは、2価以上のいかなる化学構造を持つものでも良いが、代表的には2価の有機基であり、下記式(2)で表す化学構造とすることができる。
【0064】
【化5】
【0065】
上記式(2)で表される2価の有機基において、Yは2価の有機基であり、Zはエチレン性不飽和部位に結合する事が可能な結合であれば良く、具体的には、単結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、カーボネート結合等が例示されるが、公知の2価の結合であれば特に限定されない。
【0066】
Zは、特に、価格や入手のしやすさ、合成の簡便さ等の点から単結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、又は、カーボネート結合等が好ましい。
【0067】
また、上記式(2)のYは、2価の有機基であり特に限定されない。具体的には直鎖、分岐、又は、環状のアルキレン基であって、いずれも炭素数が1〜15程度が好ましい。但し、これらの飽和アルキレン基は、アルキル鎖内すなわち炭素骨格の途中に、脂肪族及び/又は芳香族の環状の部位、及び/又は、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、又は、カーボネート結合等の付加的構造を単独で又は2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0068】
2価の有機基以外の化学構造Xとしては、例えば、シロキサン、シラン、ボラジン等の骨格が挙げられる。
【0069】
化学構造Xは、特に、価格や入手のしやすさ、合成の簡便さ、溶解性の観点からは、直鎖、又は分岐のアルキル基が好ましく、その内部にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合を含むものがさらに好ましい。また、耐熱性の観点からは、飽和または不飽和の環状構造を有するような直鎖、又は分岐のアルキル基が好ましく、その内部にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合を含むものがさらに好ましい。
【0070】
上記式(1)で表される化合物(a)は、1,8−ナフタルイミド化合物であり、一般にナフタレンの1位と8位に置換基を有し、それらが無水物となって結合している1,8−ナフタル酸無水物から合成される。イミド結合は、まず無水物とアミンが付加反応し、アミド酸が形成されその後、加熱や触媒等により脱水縮合反応をすることで形成されるのが一般的である。フタル酸無水物やマレイン酸無水物の様に酸無水物が5員環構造を有する場合は、上記のような2段階で反応が進行し、加熱や触媒等により脱水縮合反応をしないとイミドが形成されず、そのため合成上様々な問題がある。これに対して1,8−ナフタル酸無水物は、6員環の無水物構造を有しているため、1級のアミンと付加反応をすると脱水反応が進行しやすい。これは6員環構造が5員環構造よりもゆがみが少なくエネルギー的に安定であり、6員環構造の場合、アミド酸よりもイミドの方が安定である為と考えられる。これらの事から、ナフタルイミド構造はマレイミド構造に比べ合成が非常に簡便であり、合成上有利である。そのため、収率、反応速度、管理面、コスト面を含めて生産性が上がる。
【0071】
上記化合物(a)は、公知の種々の手法を用いて合成することができる。具体的に例示すると、ナフタル酸無水物とエチレン性不飽和結合を有するアミンの反応や、ナフタル酸無水物にアミノアルコールを反応させて、N−ヒドロキシアルキル(アリル)ナフタルイミドを合成した後、(メタ)アクリル酸と脱水縮合させたり、(メタ)アクリル酸クロライドと反応させる手法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0072】
上記合成方法における原料としては、1,8−ナフタル酸無水物、4−ブロモ−1,8−ナフタル酸無水物等の酸無水物の他に、その誘導体を用いても良い。ナフタル酸無水物の誘導体としては、最終的に得たい化合物(a)の置換基R1乃至R6がすでに導入されたものを用いてもよい。また、式(1)の置換基R1〜R6は、イミド化反応を行う前に導入しても良いし、イミド化反応後に導入しても良い。
【0073】
一方、エチレン性不飽和基を導入する原料としては、エチレン性不飽和結合を有すると共に、ナフタルイミド構造含有基と結合させることが可能な官能基を有するものを適宜選択する。式(1)の置換基R7〜R9は、原料化合物に予めされていても良いし、或いはエチレン性不飽和基とナフタルイミド構造含有基を結合させた後に導入しても良い。
【0074】
化合物(a)を合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明の合成方法として特に限定されるものではない。また、類似の手法や公知の手法を用いて化合物(a)を合成することが出来る。
【0075】
まず、1,8−ナフタル酸無水物をN,N−ジメチルホルムアミドに投入し攪拌する。そこへ2−アミノエタノールをナフタル酸無水物と等モル滴下し、室温で1〜15時間程度、攪拌する。このとき用いる反応溶媒は、ジメチルホルムアミドに限定されず、2種以上の溶媒を混合して用いても良い。反応溶媒としては、有機極性溶媒等、最終生成物が溶解する溶媒が好ましい。ナフタル酸無水物は溶解性に乏しく、一般の溶媒には溶解し難いので、アミンと反応することで溶解するようになる場合が多い。
【0076】
1,8−ナフタル酸無水物は、室温でアミンと混合し攪拌するのみでイミド結合を形成する場合がある。さらに反応を加速させるために、室温〜200℃までの範囲で温度を加えても良い。また、反応の際に発生する水を除去するために、トルエン等の共沸溶媒を混合させて用いても良い。
【0077】
このように、数時間攪拌された反応液の溶媒を留去、または、水等に投入することで除去し、固体を取り出す。これを、所望の溶媒にて再結晶を行なうことで、N−置換ナフタルイミド化合物(この場合にはN−2―ヒドロキシエチルナフタルイミド)を得ることができる。精製の方法は、再結晶に限定されず、昇華精製やカラムクロマトグライフィー等、公知のあらゆる方法が用いることが可能であるが、コストの観点から再結晶が好ましい。
【0078】
次に、得られたN−2―ヒドロキシエチルナフタルイミドと、1.2モル等量の4−ジメチルアミノピリジンを、脱水したトルエン等の溶媒に溶解させる。そこに、1.2モル等量のアクリル酸クロライドを徐々に滴下し、1〜15時間室温で攪拌する。分液ろうとで、1N HClで処理し、4−ジメチルアミノピリジンを水層に移動させる。水層と油層に分離した後、油層を、さらに、飽和NaHCO3溶液を用い処理し、未反応のアクリル酸クロライド由来のアクリル酸を水層に移動させ、油層と水層を分離する。このようにして、得られた油層を硫酸マグネシウム等の適当な脱水剤で脱水し、ろ過を行なう。このろ液から溶媒を留去した物を再結晶すると化合物(a)が得られる。
【0079】
1,8−ナフタル酸無水物に2−アミノエタノールを反応させて合成したN−2―ヒドロキシエチルナフタルイミドには、上記以外にも種々の方法でエチレン性不飽和結合を導入することができる。例えば、WO98/58912公報に開示されているような酸触媒による脱水縮合による方法でも同様の化合物を得ることができる。
【0080】
上記例示の方法で用いる酸無水物は、1,8−ナフタル酸無水物だけでなく、目的に応じて4位にブロモ基を有した4−ブロモ−1,8−ナフタル酸無水物のように予め置換基が導入されたものを用いても良い。
【0081】
また、アミノ化合物も2−アミノエタノールに限定されず、目的に応じて種々のアミン化合物を用いることができる。例えば、プロパノールアミン、ヘキサノールアミン等のオキシアルキルアミン;エトキシエタノールアミン、プロポキシプロパノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール等の置換オキシアルキルアミンが挙げられる。
【0082】
さらに、この時に(置換)オキシアルキルアミンとアクリル酸クロライドを用いずに、エチレン性不飽和結合を有したアミンを用いることも可能である。具体的には、種々のアミノアルキルビニルエーテル、例えば、アミノメチルビニルエーテル、アミノエチルビニルエーテル、アミノブチルエーテル、アミノヘキシルビニルエーテル、アミノシクロヘキシルビニルエーテル、アミノノニルビニルエーテル、及びそれらのビニル基のα位またはβ位にアルキル又はアリール基が置換されたもの、例えばアミノアルキルプロペニルエーテル、アミノアルキルイソプロペニルエーテルおよびアミノアルキルスチリルエーテル等が挙げられる。
【0083】
次に、本発明の第二の感光性化合物である重合物(b)は、上記化合物(a)のホモポリマー、又は、化合物(a)を種々のエチレン性不飽和基を有する化合物と共重合させた2元系以上のコポリマーであり、エチレン性二重結合の重合反応により形成されたポリマー骨格にナフタルイミド構造含有基が通常は2つ以上、ペンダント状に結合した化学構造を有している。
【0084】
化合物(a)と共重合させるエチレン性不飽和基含有化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α−クロルアクリル酸、けい皮酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和ジカルボン酸(無水物)類;3価以上の不飽和多価カルボン酸(無水物)類;こはく酸モノ〔2−(メタ)アクリロイロキシエチル〕、フタル酸モノ〔2−(メタ)アクリロイロキシエチル〕等の2価以上の多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕エステル類;ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の両末端カルボキシポリマーのモノ(メタ)アクリレート類、スチレン、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、o−クロルスチレン、m−クロルスチレン、p−クロルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−ビニルベンジルメチルエーテル、m−ビニルベンジルメチルエーテル、p−ビニルベンジルメチルエーテル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、インデン等の芳香族ビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングルコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングルコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングルコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングルコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸エステル類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル類;グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸グリシジルエステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等の不飽和エーテル類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等のシアン化ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、α−クロロアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド;マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等の不飽和イミド類;1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の脂肪族共役ジエン類;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリn−ブチル(メタ)アクリレート、ポリシリコーン等の重合体分子鎖の末端にモノアクリロイル基或いはモノメタクリロイル基を有するマクロモノマー類等を挙げることができる。これらのエチレン性不飽和基含有化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
さらに、重合物(b)を電子部材やカラーフィルター等の用途で露光によりパターンを形成する材料(レジスト)として用いる場合には、アルカリ現像性を付与する為に、化合物(a)と共に重合物(b)を構成する他の単量体としてカルボキシル基やフェノール性水酸基、スルホン酸基、水酸基等のアルカリ可溶性や、親水性の官能基を有する化合物を共重合させてもよい。
【0086】
上記重合物(b)は公知の方法で単独重合又は他の不飽和化合物と共重合させることができる。特に、ナフタルイミド構造は、ただ加熱しただけではラジカル化しないので、熱ラジカル発生剤を用いて化合物(a)を重合させる方法が好ましい。この方法によれば、ナフタルイミド構造含有基による架橋反応を回避しながら、エチレン性不飽和結合間のラジカル反応を選択的に行うことができる。従って、重合物(b)の合成中にゲル化を起こさない。これに対して、エチレン性不飽和基と共にラジカル発生部位としてマレイミド構造を有する化合物は、マレイミド構造もエチレン性不飽和結合を有しているため、エチレン性不飽和だけを選択的に重合させることが困難であり、重合反応中にゲル化しやすい。
【0087】
充分な量のラジカルを発生させ、或いは、充分な量の架橋結合を形成するためには、重合物(b)中に、化合物(a)由来の構成単位を0.5モル%以上含有していることが好ましい。
【0088】
重合物(b)を感光性樹脂組成物中でメインポリマーとして用いる場合には、製膜性を付与するためにポリスチレン換算重量平均分子量を500〜500,000程度とする。この分子量が500,000を超えると溶解性が低下して実用に適さない場合がある。
【0089】
本発明の感光性化合物(化合物(a)又は重合物(b))は、π結合が多く連結していることから吸収波長がマレイミドよりも長波長化している為、高圧水銀灯の主要な発光波長である365nmの波長に対し吸収を持ちやすく、感度が良好である。
【0090】
上記感光性化合物の照射感度を向上させるためには、当該感光性化合物に含まれるナフタルイミド骨格が放射線によって励起し、ラジカルを発生させ易い化学構造となるように置換基R1乃至R6、置換基R7乃至R9、及びこれらを連結するXを選定することが有効と考えられる。
【0091】
実用的な感度を得るためには、上記式(1)のR1乃至R9の置換基を組み合わせ、感光性化合物の吸収波長の一部が、プロセスにおける露光光源(照射光源)に含まれるいずれかの波長の発光波長と重なる様にするのが好ましく、特に、化合物(a)又は重合物(b)の吸収極大が、該吸収極大に最も近い発光波長の値の±20%以内に入ることが好ましく、±10%以内に入ることがさらに好ましい。
【0092】
同じく感度の点から、プロセスにおける露光光源(照射光源)の発光のいずれかの波長において、感光性化合物のモル吸光係数が0.1以上であることが好ましい。ここでモル吸光係数εとは、Lambert−Beerの法則から導き出される関係で、以下の式で表される。
【0093】
A=εcb
A=吸光度
b=試料中の光路長(cm)
c=溶質の濃度(mol/L)
通常、同じ濃度の溶液を用い、同じ光路長のセルによって、入射波長を変化させながら吸光度の変化を記録すると、波長によって吸光度が変化し、測定対象とされる化合物に固有の波長において最大モル吸光係数εMAXを示す。上記露光波長における前記感光性化合物のモル吸光係数が0.1以上とは、当該化合物(a)又は重合物(b)を用いて露光を行う際に採用する波長のいずれかで測定した時のモル吸光係数が0.1以上と言う意味であり、最大モル吸光係数εMAXが0.1以上と言う意味ではない。
【0094】
また、ナフタルイミド化合物の最大モル吸光係数の点から考えると、ナフタルイミド化合物の励起状態は、π−π*遷移によるものと考えられる。この励起状態を経る事で、ラジカルが発生していると考えられるので、ナフタルイミドが、π−π*遷移を起こすことが重要である。有機化合物のスペクトルによる同定法第5版(R.M.Silverstein 1993)によれば、π−π*遷移は、10,000以上のモル吸光係数によって特徴付けられるとあるが、実際は、フェノールの様にモル吸光係数が数千程度でもπ−π*遷移を起こすものもあるので、ナフタルイミドの最大モル吸光係数が2,000以上であれば、ラジカルの発生や架橋反応をしやすいと考えられる。従って、感光性化合物の最大モル吸光係数εMAXは2000以上であることが好ましい。
【0095】
一般的な高圧水銀ランプの場合、365nm(i線)、405nm(h線)、436nm(g線)の3つの大きな発光があるが、実際は、333nm等にも発光があるため、これらの波長付近に化合物(a)又は重合物(b)の吸収極大があれば良い。また、F2エキシマレーザー(157nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)等で照射を行なう場合には、これらの波長付近に吸収を有していればよい。具体的には、365nm付近の吸収極大は365±73nmの範囲に入るのが好ましく、365±37nmの範囲に入るのがさらに好ましい。
【0096】
上記した汎用性の高い露光光原の主要な発光波長である157nm、193nm、248nm、365nm、405nm、436nmのいずれかの波長の少なくとも一つと重なる領域に吸収波長が重なる場合には、露光波長として利用するのに便利であり、その波長におけるモル吸光係数が0.1以上であることが特に好ましい。
【0097】
所望の波長に対して吸収波長をシフトさせる為に、どのような置換基を導入したら良いかという指針として、Interpretation of the Ultraviolet Spectra of Natural Products (A.I.Scott 1964)や、有機化合物のスペクトルによる同定法 第5版(R.M.Silverstein 1993)に記載の表を参考にすることができる。
【0098】
本発明の感光性化合物は、水素引き抜き型であることから、ただ加熱しただけではラジカルを発生させにくく、また、基本骨格がナフタルイミド骨格であることから加熱による分解を起こしにくい。従って、耐熱性に優れており、感光性樹脂組成物に配合した時に該樹脂組成物の保存安定性が良好であり、最終的に得られる硬化膜の安定性も向上し、塗膜の耐光性悪化、着色や退色、塗膜の剥がれやクラックを防止することができる。
【0099】
耐熱性の点から、本発明に係る感光性化合物は、前記化合物(a)の90%熱分解温度が50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが更に好ましい。
【0100】
ここで、90%熱分解温度とは、後述の本発明の実施例と同様の手法で、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期の重量の90%になった温度のことを言う。同様に95%分解温度とはサンプル重量が初期重量の95%になった時の温度である。
【0101】
上記感光性化合物は、塗布適性、硬化後の透明性、露光時の感度等を向上させる点から、感光性樹脂組成物に配合する時の溶解性が高いことが好ましい。
【0102】
塗布時の塗工適性の点からは、感光性化合物は溶剤に対する溶解性が高いことが好ましい。具体的には、使用する溶剤、特に後述する汎用溶剤のいずれかに対する感光性化合物の溶解性が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0103】
また、溶剤を用いて透明に溶解した感光性樹脂組成物であっても、その中に含有される固形分同士の相溶性が低い場合には、塗工時に溶剤が揮発すると乾燥中の塗膜内で析出物が生じ、充分な透明性が得られない。そのため、光学部材のように透明性が高い塗膜又は成形体が要求される場合には、感光性樹脂組成物中の他の固形成分、特に後述する化合物(c)との相溶性が高い感光性化合物を用いることが好ましい。高い透明性が求められる場合には、感光性樹脂組成物を硬化させて形成した塗膜の膜厚が10μmの時に、全光線透過率(JIS K7105)が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0104】
感光性化合物の重合性化合物に対する溶解性が高い場合には、開始剤としての作用が向上するので、露光時の感度にも優れる。この点から、モノマー成分の代表としてアクリル酸メチルを用いて溶解性を評価したときに、化合物(a)の20℃におけるアクリル酸メチルに対する飽和濃度が、0.01mol/L以上であることが好ましい。
【0105】
また、ナフタルイミド構造の部位を有する重合物の場合は、当該重合物に含まれる各ナフタルイミド部位をそれぞれ1分子とみなし、ナフタルイミド構造単位の飽和濃度(mol/L)として計算する。これは、NMR(核磁気共鳴分析装置)等によって用いる重合物の共重合比を求めることで計算する事が出来る。
【0106】
感光性化合物の溶解性又は相溶性は、ナフタルイミド環に置換基を導入することによって向上させることができる。この観点からは、ナフタルイミド環の置換基として、炭素数1〜15の飽和又は不飽和アルキル基、アルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基等が好ましい。また、上記式(1)のXの構造を変更か又はXに置換基を導入することでも、化合物(a)の溶解性又は相溶性を向上させることができる。化合物(a)のナフタルイミド環又はX部分に導入される置換基又は施される構造変更は、溶解させたい溶剤又は相溶させたい他の固形成分によって種々選択される。例えば、置換基としてカルボキシル基を選択した場合には、水や有機極性溶剤に溶解し易くなり、エステルを導入した場合には、エステル結合を有する溶剤や化合物への溶解性が向上する。
【0107】
上記化合物(a)又は重合物(b)からなる感光性化合物は、いずれも感光性のラジカル発生部位であるナフタルイミド構造含有基を有しており、光ラジカル発生剤として機能する。
【0108】
特に化合物(a)は、ナフタルイミド構造含有基と共に、ラジカル重合性部位であるエチレン性不飽和基を有しており、光ラジカル発生剤としての機能と、ラジカル重合性成分としての機能を兼ね備えていることから、感光性樹脂組成物の硬化反応性化合物として好適に用いることができる。また、化合物(a)は、重合物(b)の原料モノマーとしても用いられる。
【0109】
一方、重合物(b)は、一分子内に、通常、ラジカル発生部位であるナフタルイミド構造含有基を通常は2つ以上有しており、ラジカル発生剤としての機能と、架橋剤としての機能を兼ね備えていることから、感光性樹脂組成物のラジカル発生剤及び/又は架橋剤として好適に用いることができる。また、重合物(b)の分子量を調節することによって、高分子量のバインダー成分としての機能を付与することが可能である。
【0110】
本発明に係る感光性化合物に含まれるナフタルイミド構造含有基は水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、電磁波や放射線等の光を照射して励起させることによりラジカル反応を起こすことができる。ナフタルイミド構造含有基は、自己開裂型ではなく水素引き抜き型であり、しかも耐熱性が良好なナフタレン骨格を有するため、本発明の感光性化合物は、耐熱性、安定性、保存性が高い。
【0111】
また、ナフタルイミド構造含有基によって発生したラジカルは水素引抜きのメカニズムを経るため、エチレン性不飽和結合等の一般的なラジカル重合性基だけでなく、芳香環等種々の化合物とも反応可能なため、例えばキシレンのような低分子量の芳香族化合物と反応したり或いはPETのような芳香族部位を有する高分子を架橋することができる。また、重合物(b)の場合にはラジカル発生部位として機能するナフタルイミド構造含有基を通常は2つ以上有するため、一分子内の2つ以上のナフタルイミド含有基が他の分子と結合して3次元架橋構造を形成することもできる。従って、本発明の感光性化合物は、一般的な光ラジカル開始剤として用いられるほか、例えば芳香族ポリマーを含有する樹脂組成物の架橋剤として用いて硬化後の耐溶剤性を向上させることが可能である。
【0112】
また、化合物(a)からなる感光性化合物の場合には、ナフタルイミド構造含有基がラジカルを発生させて重合体等反応物と直接結合するか、或いは、たとえナフタルイミド構造含有基がラジカル化せずに未反応のまま残ったとしても、同じ分子内にあるエチレン性不飽和基がラジカル反応により重合体等反応物と結合することによって、当該未反応のナフタルイミド構造含有基も重合体等反応物の化学構造の一部となる。
【0113】
一方、重合物(b)からなる感光性化合物の場合には、感光性化合物の一分子内に含まれる複数のナフタルイミド構造含有基(ラジカル発生部位)のうち、どこか1箇所でもラジカルを発生させて重合体等反応物と結合を形成していれば、当該分子に含まれる未反応のラジカル発生部位も全て重合体等反応物の化学構造の一部となる。
【0114】
そのため、化合物(a)又は重合物(b)からなる感光性化合物は、ラジカル発生部位が未反応のまま残ったとしても重合体等反応物中に遊離の形で残存せず、ポストベーク時に揮発しない。しかも、ラジカル発生部位は未反応のまま残存しても水素引き抜き型であると共に、耐熱性の高いナフタルイミド構造を有しているから、硬化後の塗膜中で揮発性の分解物を生成することがない。そのため、本発明の感光性化合物由来の残存物は、塗膜の変質を引き起こしにくい。このように、このように、本発明の感光性化合物のラジカル発生部位は、ラジカル化すると感光性樹脂組成物の硬化塗膜中においてマトリックスと結合し、且つ、未反応のまま残留しても硬化塗膜中においてマトリックスの化学構造の一部となり、いずれの場合も化学的に安定した形で存在し、耐熱性、耐候性、安定性を損なわない。従って、最終製品の信頼性を低下させる問題も解決する。
【0115】
また、マレイミド構造を形成する反応は、加熱や触媒等により脱水縮合反応を促進させないと形成されず、そのため合成上様々な問題があったが、ナフタルイミド構造を形成する反応ではマレイミドに比べて脱水縮合反応が速やかに進行し、合成が非常に簡便であり、合成上有利である。そのため、収率、反応速度、管理面、コスト面を含めて生産性が上がる。
【0116】
次に、本発明に係る感光性樹脂組成物について説明する。
【0117】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、上述した化合物(a)及び/又は重合物(b)からなる感光性化合物必須成分として含有することを特徴とし、必要に応じてラジカル反応性化合物又はその他の硬化反応性化合物、高分子量のバインダー成分、水素供与体、化合物(a)又は重合物(b)以外のラジカル発生剤、又は、その他の成分を含有してもよい。
【0118】
本発明に係る感光性樹脂組成物(以下、単に、樹脂組成物とする。)は、上記本発明に係る感光性化合物を含有しており、化合物(a)又は重合物(b)のナフタルイミド構造含有基が水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、電磁波や放射線等の光を照射して励起させることによりラジカル化し、樹脂組成物中でラジカル反応を起こさせる。樹脂組成物中のラジカル反応性化合物は、当該化合物の種類によってラジカル重合や、感光性化合物である化合物(a)又は重合物(b)とのラジカル二量化反応や、ラジカル性架橋反応等、さまざまなラジカル反応を引き起こし、樹脂組成物を硬化させたり、溶解性を変化させたりする。また、感光性化合物として化合物(a)を用いる場合には、該感光性化合物自体がラジカル重合反応により硬化する。
【0119】
ここで、架橋とは、架橋結合を生成することをいい、架橋結合とは、鎖状に結合した原子からなる分子のうちの任意の2原子間に橋をかけるようにして形成された結合をいい、この場合の結合は、同一分子内でも他分子間でも良い(化学辞典 東京化学同人 p.1082)。
【0120】
感光性化合物として化合物(a)を用いる場合には、当該化合物(a)自体がエチレン性不飽和基を有しておりラジカル反応性化合物として機能するので、ラジカル反応性化合物を混合しなくても感光性樹脂組成物を調製することができる。また、感光性化合物として重合物(b)を用いる場合には、当該重合物(b)を高分子量のバインダー成分として機能させることができる。
【0121】
エチレン性不飽和結合を有する化合物(c)は、ラジカル重合可能な硬化反応性化合物として従来から広く利用されており、応用範囲が広いことから、本発明においても好適に用いられる。エチレン性不飽和結合を有する化合物(c)としては、エチレン性不飽和結合を1つ又は2つ以上有する化合物、及び、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合と共に他の官能基を有する化合物を用いることができ、例えば、前述したエチレン性不飽和基含有化合物、更に、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、スチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。
【0122】
アミド系モノマーとしては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン等のアミド化合物がある。
【0123】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、ヘキサヒドロフタルイミドエチルアクリレート、コハクイミドエチルアクリレート等のイミドアクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物のアクリレート類及びそのハロゲン核置換体;エチレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート等の、グリコールのモノまたはジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールおよびそのアルキレンオキサイドの(メタ)アクリル酸エステル化物、イソシアヌール酸EO変性ジまたはトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0124】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと有機ポリイソシアネートの反応物に対して、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等が挙げられる。
【0125】
ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエチレングリコール及びポリエステルポリオール等があり、低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられ、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオール及び/又はポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
【0126】
また、上記ポリオールと反応させる有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0127】
ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。
【0128】
エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノールあるいはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加反応体等が挙げられる。
【0129】
化合物(c)は、ラジカル重合性化合物又はラジカル重合以外のラジカル反応性化合物を3次元架橋する点からはエチレン性不飽和結合を2個以上、特に3個以上有することが好ましい。
【0130】
また、感光性樹脂組成物を、電子部材やカラーフィルター等の用途で露光によりパターンを形成するレジストとして用いる場合には、感光性樹脂組成物のアルカリ現像性を向上させる為に、化合物(c)としてカルボキシル基やフェノール性水酸基、スルホン酸基、水酸基等のアルカリ可溶性や、親水性の官能基を有すものを用いても良い。
【0131】
本発明の感光性樹脂組成物には、当該組成物の未硬化状態での成膜性及び硬化後の塗膜物性を調節するために、バインダー成分として高分子化合物を配合しても良い。高分子化合物としては、公知のあらゆる高分子化合物を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート;酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル又はビニル化合物の重合体及び共重合体;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ホルマール樹脂やブチラール樹脂等のアセタール樹脂;シリコーン樹脂;フェノキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂等に代表されるエポキシ樹脂;ポリウレタン等のウレタン樹脂;フェノール樹脂;ケトン樹脂;キシレン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリベンゾオキサゾール樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリスチレン樹脂;ノボラック樹脂;ポリカルボジイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリノルボルネン等の脂環式高分子;シロキサン系高分子等の公知のあらゆる高分子化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
また、必須成分である感光性化合物が有するナフタルイミド構造含有基によって発生したラジカルは、エチレン性不飽和結合だけでなく、芳香環等種々の化合物の反応も進行するため、エチレン性不飽和結合を有する化合物が存在しない系でも、硬化、及び/又は溶解性の変化を引き起こすことができる。従って感光性化合物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する感光性樹脂組成物を通常のラジカル重合反応により硬化させるだけでなく、例えば、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレート(PET)等の一般的には非重合性の芳香族ポリマーを含有する感光性樹脂組成物を架橋反応により硬化させて、耐溶剤性、耐熱性、硬度、強度、密着性等の膜物性を向上させることができる。
【0133】
そのため、感光性樹脂組成物を調製するために感光性化合物と混合する高分子量の硬化反応性バインダー成分としては、エチレン性不飽和結合を有する化合物等の一般的なラジカル重合性化合物ばかりでなく、公知のあらゆる高分子化合物を用いることができる。
【0134】
これらの高分子化合物は、単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い。バインダー成分である高分子化合物は、感光性樹脂組成物の用途にもよるが重量平均分子量が通常、10,000,000以下であることが好ましい。分子量が大きすぎると、溶解性や加工特性の悪化を招く。
【0135】
また、感光性化合物として化合物(a)を用いる場合には、当該化合物(a)自体がエチレン性不飽和基を有しておりラジカル反応性化合物として機能するので、ラジカル反応性化合物を混合しなくても感光性樹脂組成物を調製することができる。また、感光性化合物として重合物(b)を用いる場合には、当該重合物(b)を高分子量のバインダー成分として機能させることができる。
【0136】
本発明に係る樹脂組成物が充分な効果を発揮するためには、感光性化合物として化合物(a)又は重合物(b)中の化合物(a)に由来する部位が、樹脂組成物の固形分全体の0.1重量%以上であることが光照射による樹脂組成物の硬化速度が遅くなったり、発生するラジカルの量が少ないため架橋密度が低くなり、塗膜の強度や塗膜のガラス転移温度が低下することを防ぐ点から好ましく、感度や塗膜の物性の点から、1重量%以上であることが更に好ましい。
【0137】
本発明の樹脂組成物が、感光性化合物として重合物(b)を含む場合には、重合物(b)を固形分全体の1〜95重量%、好ましくは5〜80重量%含有することが硬化性の観点から好ましい。ただし、重合物(b)が、エチレン性不飽和結合を1つ以上有するような構造の場合には、重合物(b)の割合を95重量%以上と更に高くしても充分な硬化性が得られ、重合物(b)が100重量%の感光性樹脂組成物とすることもできる。
【0138】
この場合、目的に応じて諸物性を考慮の上、化合物(c)に対する感光性化合物の混合割合は適宜選択できる。なお、感光性樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0139】
また、硬化反応性化合物として、化合物(c)と共に他のラジカル反応性化合物を組み合わせて用いる場合には、組み合わせるラジカル反応性化合物の種類及び量に応じて感光性化合物(a)及び/又は(b)の量を適宜調節する。
【0140】
化合物(c)は、充分な光硬化性を得るために、感光性樹脂組成物の固形分全体の1重量%以上であることが好ましい。感光性樹脂組成物は、化合物(c)以外の高分子量のバインダー成分を含んでいても良く、その場合には用途に応じて、樹脂組成物全体の固形分の1重量%以上97重量%以下が好ましい。エチレン性不飽和結合を含まない高分子量バインダー成分が97重量%よりも多い場合は、光による硬化性が低下しやすい。
【0141】
また、本発明の感光性化合物は水素引き抜き型のラジカル発生剤であるので、よりラジカルの発生効率が向上し感度が良くなる点から、本発明の樹脂組成物中に水素供与体が含まれていることが好ましい。水素供与体の水素供与性基としては、アルキル基のように炭素に直接水素がついている官能基や、一般に水素供与性基として用いられているチオール、アミン、水酸基又はエーテル結合を有する有機基等が挙げられる。特に、水素を供与しやすいチオール、アミン、水酸基、及び、エーテル結合を有する有機基が感度の点から好ましい。エーテル結合は、該エーテル結合の隣りの炭化水素構造(アルカン、アルケン)の水素が引き抜かれ易いと言われている。従って、エーテル結合を含む水素供与基は、そのような水素を有する構造であることが好ましい。
【0142】
水素供与体に含まれる水素供与性基の配合割合は、感度の点からは、樹脂組成物に含まれているナフタルイミド部位のモル数と同じかそれ以上が好ましいが、感度と最終的に得られる塗膜の物性との関係により、適宜、適正な値を選択できる。
【0143】
本発明の感光性樹脂組成物を光により硬化させる際には、ラジカル反応を促進するために、必要に応じて感光性化合物(a)及び/又は(b)と共に、その他の光ラジカル発生剤を使用しても良い。感光性化合物(a)及び/又(b)と共に他の光ラジカル発生剤を併用する場合には、該他の光ラジカル発生剤が分解物を生じさせ、硬化膜の変色や物性、分解物の揮発、感光性樹脂組成物の安定性、保存性等の問題を起こす可能性がある。しかしながら、感光性化合物(a)及び/又は(b)の併用によって他の光ラジカル発生剤の使用量を少なくすることができるので、他の光ラジカル発生剤しか用いない場合と比べて、上記諸問題は発生し難く、仮に発生したとしても程度が軽いので、充分なラジカル反応性を引き出しながらも、光ラジカル発生剤による問題を実用的に許容できる程度に抑えることができる。
【0144】
その他の光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシドあるいはビスアシルホスフィンオキシド;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びにキサントン類等が挙げられる。
【0145】
これらの光ラジカル発生剤は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。これら光ラジカル発生剤の好ましい配合割合は、樹脂組成物の固形分全体に対して0.1重量%以上35重量%以下で、より好ましくは、1重量%以上10重量%以下である。
【0146】
本発明に係る感光性樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0147】
これら任意成分の配合割合は、樹脂組成物の固形分全体に対し、0.1重量%〜95重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、95重量%を越えると、樹脂組成物量が少なく樹脂組成物の特性が最終生成物に反映されにくい。
【0148】
照射光源の発光を吸収してしまうような成分を感光性樹脂組成物中に多量に配合する場合には、感光性化合物(a)及び/又は(b)に光が十分到達しなくなり、感度が低下する。そのため、樹脂組成物の感度を重視する点から、露光光源の発光波長と樹脂組成物に混合されている感光性化合物(a)及び/又は(b)の吸収波長が重なる波長領域における、感光性化合物(a)及び/又は(b)以外の成分の透過率が20%以上であることが好ましい。
【0149】
また、本発明に係る感光性樹脂組成物は、溶剤を用いて適切な濃度に希釈しても良い。溶剤としては各種の汎用溶剤、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、修酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。また、反応性希釈剤として、常温で液体のエチレン性不飽和化合物等、反応性基を構造中に有するような化合物を溶剤として用いても良い。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。また、これら溶剤は、通常例えば孔径0.05μm〜0.2μm程度のフィルター等、既知の種々の方法で不純物を濾過して用いても良い。
【0150】
樹脂組成物は、必須成分である感光性化合物に、必要に応じて化合物(c)等の硬化反応性化合物、高分子量のバインダー成分等の任意成分を場合や用途に応じて攪拌等して混合することにより調製できる。
【0151】
このようにして得られる本発明に係る感光性樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、印刷インキ、接着剤、充填剤、成形材料、3次元造形等、光の照射によって硬化したり又は溶解性が変化する材料が用いられている公知の全ての分野・製品に利用できるが、特に、耐熱性が必要で高度の信頼性を要求される、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料を形成するのに適している。
【0152】
例えば、カラーフィルターの場合には、画素部、当該画素部の境界に設けられる遮光部(ブラックマトリックス)、保護膜、セルギャップを維持するためのスペーサーを上記感光性樹脂組成物の硬化物により形成することができる。
【0153】
電子部品の場合には、例えば、半導体装置のアンダーフィル剤、封止剤、等が例示できる。
【0154】
層間絶縁膜としては、耐熱性、絶縁信頼性が要求されるビルドアップ基板用の層間絶縁膜や燃料電池における層間絶縁膜、自動車部品や家電製品の絶縁コーティング、等を上記感光性樹脂組成物の硬化物により形成することができる。
【0155】
また、配線保護膜としては、プリント配線板の表面の配線保護層であるソルダーレジストや、電線の表面被覆、等が例示できる。
【0156】
光学部材の場合には、各種光学レンズのオーバーコートや、反射防止膜、光導波路、分波装置等の光回路部品、レリーフ型、及び体積型のホログラム、等が例示できる。
【0157】
建築材料の場合には、壁紙、壁材、床材その他の揮発成分の少ない表皮材料、接着・粘着材料、インキ等が例示できる。
【0158】
本発明に係る印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料は、高耐熱性、高安定性の感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されているため、高耐熱性、高安定性であり、そのため生産の歩留まりも高いというメリットがある。
【0159】
【実施例】
1.製造例
(製造例1)(N−2−ヒドロキシエチルナフタルイミド)
1Lのなす型フラスコに、1,8−ナフタル酸無水物19.8g(0.1mol)とN,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF)500mlと触媒量のピリジンを入れ、攪拌した。そこに、2−アミノエタノール6.7g(0.11mol)を滴下し、室温で15時間攪拌した。ロータリーエバポレーターによって、DMFを留去し、メタノールによって再結晶をし、N−2−ヒドロキシエチルナフタルイミドの針状結晶を22.5g得た。(前駆体化合物1)
【0160】
【化6】
【0161】
(製造例2)
使用原料の酸無水物を、4−ブロモ−1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物2)
【0162】
【化7】
【0163】
(製造例3)
使用原料の酸無水物を、4―クロロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物3)
【0164】
【化8】
【0165】
(製造例4)
使用原料の酸無水物を、4―ニトロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物4)
【0166】
【化9】
【0167】
(製造例5)
使用原料のアミンを、2−(2−アミノエトキシ)エタノールに変更した以外は、製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物5)
【0168】
【化10】
【0169】
(製造例6)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、2−(2−アミノエトキシ)エタノール及び4−ブロモー1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、製造例1と製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物6)
【0170】
【化11】
【0171】
(製造例7)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、及び4−クロロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、末端が水酸基の化合物を得た。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物7)
【0172】
【化12】
【0173】
(製造例8)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、及び4−ニトロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、末端が水酸基の化合物を得た。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物8)
【0174】
【化13】
【0175】
(製造例9)
使用原料のアミンを、L−バリノールに変更した以外は、製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物9)
【0176】
【化14】
【0177】
(製造例10)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、L−バリノール及び4−ブロモー1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、製造例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物10)
【0178】
【化15】
【0179】
(製造例11)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、L‐バリノール、及び4−クロロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、末端が水酸基の化合物を得た。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物11)
【0180】
【化16】
【0181】
(製造例12)
使用原料のアミン及び酸無水物を各々、L‐バリノール、及び4−ニトロ―1,8−ナフタル酸無水物に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、末端が水酸基の化合物を得た。なお、各原料は製造例1と同じモル数で仕込んだ。(前駆体化合物12)
【0182】
【化17】
【0183】
(比較製造例1)
テトラヒドロフタル酸無水物と2−アミノエタノールをWO98/58912号公報と同様の手法で反応させた。(前駆体化合物13)
【0184】
【化18】
【0185】
2.感光性化合物の調製
(実施例1)
前駆体化合物1(N−2−ヒドロキシエチルナフタルイミド)9.6g(40mmol)と、4−ジメチルアミノピリジン5.4g(44mmol)を1Lの3つ口フラスコに投入し、中央部の口に塩化カルシウム管をつけ、残りの2つはシリコンWキャップ(商品名:アズワン社製)で、密閉する。そこへ予め脱水されたテトラヒドロフラン(THF)500mlをシリンジを用い、投入し室温で攪拌する。そこへ、アクリル酸クロライド4.0g(44mmol)を滴下し、室温で10時間攪拌する。その後、反応液を分液ろうとで、1N HClで処理し、4−ジメチルアミノピリジンを水層に移動させた。水層と油層に分離した後、油層を、さらに、飽和NaHCO3溶液を用い処理し、未反応のアクリル酸クロライド由来のアクリル酸を水層に移動させ、油層と水層を分離した。このようにして、得られた油層を硫酸マグネシウム等の適当な脱水剤で脱水し、ろ過を行なった。このろ液から溶媒を留去した物をクロロホルム−酢酸エチル混合溶媒で再結晶して目的物を10.3g得た。(化合物1)
【0186】
【化19】
【0187】
(実施例2)
使用原料の化合物を、4−ブロモ−1,8−ナフタル酸無水物由来の前駆体化合物2に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物2)
【0188】
【化20】
【0189】
(実施例3)
使用原料化合物を、前駆体化合物3に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物3)
【0190】
【化21】
【0191】
(実施例4)
使用原料化合物を、前駆体化合物4に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物4)
【0192】
【化22】
【0193】
(実施例5)
使用原料化合物を、前駆体化合物5に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物5)
【0194】
【化23】
【0195】
(実施例6)
使用原料化合物を、前駆体化合物6に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物6)
【0196】
【化24】
【0197】
(実施例7)
使用原料化合物を、前駆体化合物7に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物7)
【0198】
【化25】
【0199】
(実施例8)
使用原料化合物を、前駆体化合物8に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物8)
【0200】
【化26】
【0201】
(実施例9)
使用原料化合物を、前駆体化合物9に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物9)
【0202】
【化27】
【0203】
(実施例10)
使用原料化合物を、前駆体化合物10に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物10)
【0204】
【化28】
【0205】
(実施例11)
使用原料化合物を、前駆体化合物11に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物11)
【0206】
【化29】
【0207】
(実施例12)
使用原料化合物を、前駆体化合物12に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。なお、各原料は実施例1と同じモル数で仕込んだ。(化合物12)
【0208】
【化30】
【0209】
(実施例13)
化合物3 3.3g(10mmol)を、1Lの三つ口フラスコに投入し、乾燥させたイソプロピルアルコール500mLに溶解させ、室温で攪拌させた。そこへ、乾燥させたイソプロピルアルコール200mLに1gの金属ナトリウムを反応させて得られた、ナトリウムイソプロポキシドのイソプロピルアルコール溶液を、徐々に滴下しながらTLC(薄層クロマトグラフィー)で反応の経過を追跡し、原料である化合物3のスポットが消失するまで滴下を続け、化合物3のスポットが消失した時点で反応を終了させる。反応液を純水5Lに投入し、析出物を乾燥後、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物13を得た。
【0210】
【化31】
【0211】
(実施例14)
原料を、化合物7に変更した以外は、実施例13と同様の条件で反応を行い、化合物14を得た。なお、各原料は実施例13と同じモル数で仕込んだ。
【0212】
【化32】
【0213】
(実施例15)
原料を、化合物11に変更した以外は、実施例13と同様の条件で反応を行い、化合物15を得た。なお、各原料は実施例13と同じモル数で仕込んだ。
【0214】
【化33】
【0215】
(実施例16)
実施例1で得られた化合物1 8.9g(0.03mol)とアクリル酸メチル2.6g(0.03mol)をテトラヒドロフラン50mlに溶解させ攪拌した。100ml/minで窒素置換しながらAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)を200mg投入し、40℃で5時間攪拌し、化合物1とアクリル酸メチル共重合体の溶液を得た。それをヘキサンで再沈殿し精製した。(化合物16)
【0216】
【化34】
【0217】
(実施例17)
化合物1を3.0g(10mmol)とメタクリル酸メチル3.0g(30mmol)をクロロホルム50mLに溶解させ攪拌した。反応容器中を100mL/minで窒素を流しながらAIBN(2,2’−アゾビスブチロニトリル)を200mg投入し、50℃で14時間攪拌後、n−ヘキサンで再沈殿し化合物1とメタクリル酸メチルの共重合体を、5.2g得た。(化合物17)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で39000であり、NMRによる重合比は、化合物1:メタクリル酸メチル=1:3.2であった。
【0218】
【化35】
【0219】
(比較例1)
前駆体化合物13を用い実施例1の手法を用いて、テトラヒドロフタリミド骨格とアクリロイル基を有する比較化合物1を得た。
【0220】
【化36】
【0221】
3.感光性樹脂組成物の調製
(実施例18〜21、比較例2〜4)
実施例1、5及び17で得られた化合物1、5及び17、比較例1で得られた比較化合物1、市販の自己開裂型光ラジカル発生剤イルガキュア907(Irg907 商品名:チバスペシャリティケミカルズ)、及び、ベンゾフェノン(東京化成工業(株)製)のそれぞれと3官能アクリレート(商品名:M305、東亞合成製)を、3官能アクリレートのエチレン性不飽和結合に対して各化合物の光ラジカル発生部位がモル比(光ラジカル発生部位/エチレン性不飽和結合)で1/100になるように混合し、クロロホルムに溶解させて、実施例18〜20の感光性樹脂組成物1〜3、及び、比較例2〜4の比較組成物1〜3を作製した。
【0222】
また、化合物17とM305を重量で1:1になるように混合し、実施例21の感光性樹脂組成物4もあわせて作成した。
【0223】
(実施例22)
上記実施例18で得られた感光性樹脂組成物に、光ラジカル発生部位と等モルのトリエタノールアミンを水素供与体として添加し、実施例22の感光性樹脂組成物5を作製した。
【0224】
4.評価試験
(1)耐熱性評価
差動型示差熱天秤(リガク製TG8120)を用いて窒素雰囲気下10℃/minの昇温速度で化合物1〜15、比較化合物1及び光ラジカル発生剤(商品名:イルガキュア907、チバスペシャルティケミカルズ製)の90%熱分解温度を測定した。測定結果を表1に示す。この結果より、化合物1〜15は、比較化合物1やIrg907に比べ熱分解点が高く、耐熱性が良好であることがわかる。
【0225】
【表1】
【0226】
(2)UV吸収評価
化合物1、2、3及び13の1.0×10−5mol/Lアセトニトリル溶液を用い、UV吸収スペクトルを測定し、ナフタルイミドの芳香環へ導入される置換基の違いによる変化を比較した。なお、ニトロ基を置換した化合物4は溶解性が悪く、1.0×10−5mol/Lの溶液を調製できなかった。
【0227】
表2に極大の波長とその波長におけるモル吸光係数(最大モル吸光係数)、及び365nmにおけるモル吸光係数を示す。
【0228】
【表2】
【0229】
この結果より、置換基を持たない化合物1は溶液中では330nmに極大を示し、その波長でのモル吸光係数から、π−π*遷移による励起状態であることが推察される。
【0230】
モル吸光係数によって、その吸収がどの遷移状態に対応する吸収かを見積もることが出来る。一般に、モル吸光係数が大きいほど、光を吸収しやすく、つまり励起されやすく、ラジカルの発生や架橋反応が進行しやすい。つまり感度の点からは、露光波長におけるモル吸光係数が大きい分子の方が良い。
【0231】
また、ナフタルイミド基の4位に臭素を導入した化合物2、及び、塩素を導入した化合物3では、無置換の化合物に比べて極大波長が10nmほど長波長にシフトしており、高圧水銀灯の発光波長である365nmの波長での吸収が大きくなっている。また、置換基としてイソプロピルエーテル基を導入した化合物13では、吸収極大が365nmにあり、高圧水銀灯の発光波長である365nmに非常に大きな吸収を持つことがわかる。
【0232】
ナフタルイミドによるラジカルの生成は、水素引きぬきによるものと考えられる。一般に、水素引き抜きによるラジカルの生成は、カルボニル基の3重項励起状態によって引き起こされるといわれており、化合物が励起されても蛍光発光や熱失活に吸収したエネルギーを使ってしまう割合が多いと、ラジカルの発生効率が落ちると思われる。
【0233】
そのような水素引き抜き以外の失活過程の割合が少ない場合には、露光波長での吸収が大きければ大きいほど、感光性化合物は励起されやすくなる為、ラジカルの発生効率も向上すると考えられるので、化合物2、3及び13は化合物1と比べて365nmの波長に対して感度が向上すると考えられる。
【0234】
(3)硬化性評価1
多官能モノマーとして、水酸基含有5官能アクリレート(商品名サートマーSR399、日本化薬製)、6官能アクリレート(商品名M400、東亞合成(株)製)を用い、実施例の化合物1〜17を多官能モノマーの2重結合に対して、モル比で1/20混合した溶液を作製しガラス基板上にスピンコートした。比較の為に、実施例の化合物を、光ラジカル発生剤イルガキュア369及び907(商品名)(チバスペシャルティケミカルズ製)及び、ベンゾフェノン(東京化成工業(株)製)に置き換えた塗膜、及び、開始剤を添加しない塗膜も作製した。
【0235】
上記塗膜に、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA−1200)でh線換算で2000mJ/cm2照射を行い、その後、塗膜が硬化しているか確認した。硬化の程度は、露光後の塗膜を触指することで判定し、塗膜表面がべとつかず、充分硬い膜となっている場合を○、露光を行っても液状のままであったものを×とした。
【0236】
以下の表3に評価結果を示す。化合物1〜17はイルガキュア369及び907と同様に多官能アクリレートを硬化できることから、ナフタルイミドがラジカル発生剤として機能していることが分かる。但し、自己開裂型であるイルガキュア369及び907とは異なり、臭気がなかった。
【0237】
【表3】
【0238】
(4)硬化性評価2
感光性樹脂組成物1〜4及び比較組成物1〜3各々を、クロムをスパッタしたガラス基板上にスピンコートし、塗膜を得た。
【0239】
上記塗膜にUV露光しながら、赤外分光装置で810cm-1のピークの減少量を経時的に記録し、2重結合の消失がどの程度進行しているか確認した。測定時のサンプル周囲の雰囲気は窒素置換した。UV露光装置は、ウシオ電機製UVスポットキュアSP−III型(標準反射鏡タイプ)を用い、UVランプは、ウシオ電機製USH−255BYを用いた。また、赤外分光装置は、BIO RAD製FT S6000を用いた。
【0240】
3官能アクリレートM305との相溶性、露光量に対する2重結合の減少量(反応率)、塗膜の着色について観察した結果を表4に示す。
【0241】
組成物1〜4はナフタルイミド部位を持つ化合物を用いており、該化合物がアクリルモノマーであるM305と相溶し、反応性も高い。ナフタルイミド基含有化合物がM305と相溶していることで発生したラジカルの拡散が進行し反応していると考えられる。
【0242】
比較組成物1は、マレイミド基を持つ比較化合物1を用いており、該比較化合物1はM305と相溶するものの反応がそれほど進んでいない。また、同じく水素引抜き型のラジカル発生剤であるベンゾフェノンも同様である。市販の光ラジカル発生剤であるIrg907は反応率が高く、反応が良好に進行しているが自己開裂型のラジカル発生剤であるため、塗膜中に不純物が残存し、着色が生じる。
【0243】
【表4】
【0244】
(5)硬化性評価3
ナフタルイミド部位が水素引き抜き型ラジカル発生剤であることを確認するため、トリエタノールアミンを含有する感光性樹脂組成物5を用い、上記の硬化性評価2と同じ手順で、3官能アクリレートM305との相溶性、露光量に対する2重結合の減少量(反応率)、塗膜の着色について観察した。結果を表5に示す。
【0245】
上記結果から、化合物1の反応率がトリエタノールアミンの添加により向上したことを確認できた。つまり、ナフタルイミド基は水素供与性基が共存した状態で、露光することで感度を高められると考えられる。
【0246】
【表5】
【0247】
(6)モノマー成分に対する溶解性
(メタ)アクリロイル系多官能モノマーを、ナフタルイミドによって光硬化させる場合に、マトリックスに対する溶解性と反応率との関係を確認するために、類似の構造である化合物1、5について、上記の硬化性評価を行なった際のマトリックスである3官能モノマーM305(東亞合成製:商品名)に対する20℃における飽和濃度を求めた。さらに、溶解性の評価を一般化するために、アクリル酸メチルに対する20℃における飽和濃度も求めた。その結果を表6に示す。
【0248】
【表6】
【0249】
この結果より、溶解性が良好なサンプルほど反応率が良好である事がわかる。つまり、ナフタルイミド部位が同じ構造の場合、イミド結合の窒素原子より伸びる側鎖の構造によってマトリックスへの溶解性が変化し、この溶解性を良好にすることで、低露光量でも高い反応率を得られると思われる。
【0250】
(7)アウトガス評価
上記の感光性組成物1〜4、及び比較組成物2を、ガラス基板上にスピンコートし、50℃のホットプレート上で1分間加熱後、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA-1200)で、高圧水銀灯によりh線換算で2000mJ/cm2の露光を行ない、厚さ25μmの塗膜を得た。
【0251】
その塗膜が形成されたガラス基板を、1cm×1.5cmの大きさに切り出し、250℃で1時間加熱時に発生したガスを、GC-MS((株)島津製作所製 QP-5000)を用いて分析した。
【0252】
その他の測定条件は、以下の通りである。
【0253】
その結果、全てのサンプルにおいて、多官能モノマーM305由来の分解物が検出された。さらに、比較組成物2を用いた塗膜のみ、それ以外の光ラジカル発生剤由来の分解物と思われる芳香族化合物が数種類検出された。以上の事より、本発明のナフタルイミド化合物は、加熱によって開始剤由来の分解物をガスとして発生させることがないことが明らかとなった。
【0254】
【発明の効果】
本発明に係る感光性化合物に含まれるナフタルイミド構造含有基は水素引き抜き型のラジカル発生部位として機能し、光を照射して励起させることによりラジカル反応を起こすことができる。ナフタルイミド構造含有基は、自己開裂型よりも安定性が高い水素引き抜き型であり、しかも耐熱性が良好なナフタレン骨格を有するため、本発明の感光性化合物は、耐熱性、安定性、保存性が高い。
【0255】
本発明に係る感光性化合物は、エチレン性不飽和結合だけでなく芳香環等種々の化合物とも反応可能であり、エチレン性不飽和結合を有さない樹脂組成物であっても、高分子を架橋したり或いはラジカル反応をすることができる。従って、本発明に係る感光性化合物は、一般的な光ラジカル重合開始剤として用いられるほか、例えば芳香族ポリマーを含有する樹脂組成物の架橋剤として用いて硬化後の耐溶剤性を向上させることが可能である。
【0256】
特に化合物(a)は、ナフタルイミド構造含有基と共に、ラジカル重合性部位であるエチレン性不飽和基を有しており、光ラジカル発生剤としての機能と、ラジカル重合性の硬化反応性化合物としての機能を兼ね備えていることから、感光性樹脂組成物の反応硬化性化合物として好適に用いることができる。また、化合物(a)は、重合物(b)の原料モノマーとしても用いられる。
【0257】
一方、重合物(b)において一分子内にラジカル発生部位であるナフタルイミド構造含有基を2つ以上有している場合には、ラジカル発生剤としての機能と、架橋剤としての機能を兼ね備えていることから、感光性樹脂組成物のラジカル発生剤及び/又は架橋剤として好適に用いることができる。また、重合物(b)の分子量を調節することによって、高分子量のバインダー成分としての機能を付与することが可能である。
【0258】
また、化合物(a)からなる感光性化合物の場合には、ナフタルイミド構造含有基がラジカルを発生させて重合体等反応物と直接結合するか、或いは、たとえナフタルイミド構造含有基がラジカル化せずに未反応のまま残ったとしても、同じ分子内にあるエチレン性不飽和基がラジカル反応により重合体等反応物と結合することによって、当該未反応のナフタルイミド構造含有基も重合体等反応物の化学構造の一部となる。
【0259】
一方、重合物(b)からなる感光性化合物の場合には、感光性化合物の一分子内に含まれる複数のナフタルイミド構造含有基(ラジカル発生部位)のうち、どこか1箇所でもラジカルを発生させて重合体等反応物と結合を形成していれば、当該分子に含まれる未反応のラジカル発生部位も全て重合体等反応物の化学構造の一部となる。
【0260】
そのため、化合物(a)又は重合物(b)からなる感光性化合物は、ラジカル発生部位が未反応のまま残ったとしても重合体等反応物中に遊離の形で残存せず、ポストベーク時に揮発しない。しかも、ラジカル発生部位は未反応のまま残存しても水素引き抜き型であると共に、耐熱性の高いナフタルイミド構造を有しているから、硬化後の塗膜中で揮発性の分解物を生成することがない。
【0261】
このように、本発明の感光性化合物のラジカル発生部位は、ラジカル化すると感光性樹脂組成物の硬化塗膜中においてマトリックスと結合し、且つ、未反応のまま残留しても硬化塗膜中においてマトリックスの化学構造の一部となり、いずれの場合も化学的に安定した形で存在し、耐熱性、耐候性、安定性を損なわない。そのため、塗膜の変質を引き起こしにくい。
【0262】
その結果、作業安全性の問題や、耐光性の悪化や、着色や退色、塗膜のはがれやクラックの発生等、最終製品の信頼性を低下させる問題や、薬液寿命を短くする問題や、臭気が発生する問題も全て解決することができる。
【0263】
さらに、マレイミド構造を形成する反応は、加熱や触媒等により脱水縮合反応を促進させないと形成されず、そのため合成上様々な問題があったが、ナフタルイミド構造を形成する反応は、マレイミドのような5員環構造のイミドに比べて脱水縮合反応が速やかに進行し、合成が非常に簡便であり、溶媒溶解性も良好なことから、合成上有利である。そのため、収率、反応速度、管理面、コスト面を含めて生産性が上がる。
【0264】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、水素引き抜き型のラジカル発生基を含有しており、耐熱性、保存性、安定性が高い。また、この感光性樹脂組成物は、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基によって発生したラジカルが、エチレン性不飽和結合だけでなく芳香環等種々の化合物とも反応可能なため、エチレン性不飽和結合を有さない樹脂組成物であっても、高分子を架橋したりラジカル反応をすることができ、硬化及び/又は溶解性の変化を引き起こすことができる。
【0265】
さらに、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基は、ラジカルを発生させた後、マトリックス構造に結合して樹脂組成物の化学構造の一部となる。また、感光性化合物のナフタルイミド構造含有基が未反応のままでも、化合物(a)の場合には同じ分子内のエチレン性不飽和基がマトリックス構造と結合し、重合物(b)の場合には同じ分子内の他のナフタルイミド構造含有基がラジカル化してマトリックス構造に結合することにより、樹脂組成物の化学構造の一部となる。従って、そのため、ラジカル発生剤やその分解物が樹脂組成物中に遊離の形で残存することがない。その結果、最終製品の信頼性を低下させる問題も解決する。
【0266】
本発明に係る感光性樹脂組成物を、パターン形成材料(レジスト)、塗料、印刷インキ、又は、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム或いは建築材料の形成材料として用いる場合には、製品や膜が高耐熱性、高安定性となる効果がある。また、露光時の臭気の発生がない為、作業環境が向上する。
【0267】
本発明に係る印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料は、高耐熱性、高安定性の感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されているため、製品や膜としても高耐熱性、高安定性であり、そのため生産の歩留まりも高いというメリットがある。
Claims (24)
- 前記式(1)においてR1、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、置換基を有していてもよい有機基、又はそれらが互いに結合した環構造である、請求項1に記載の感光性化合物。
- 前記式(1)においてR7、R8及びR9は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、飽和又は不飽和ヒドロキシアルキル基である、請求項1又は2に記載の感光性化合物。
- 前記式(1)においてR7、R8及びR9は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基である、請求項3に記載の感光性化合物。
- 前記式(1)においてR7が水素原子、ハロゲン原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又は、ヒドロキシメチル基であり、R8及びR9が水素原子である、請求項4に記載の感光性化合物。
- 前記式(2)においてYは、直鎖、分岐、又は、環状の飽和アルキル基であって、アルキル鎖内にエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオカルバメート結合、カルボジイミド結合、又は、カーボネート結合を含んでいても良いものである、請求項6に記載の感光性化合物。
- 露光光源のいずれかの発光波長における前記化合物(a)のモル吸光係数が0.1以上である、請求項1乃至7のいずれかに記載の感光性化合物。
- 前記化合物(a)の最大モル吸光係数εMAXが2000以上であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の感光性化合物。
- 前記化合物(a)が、少なくとも157nm、193nm、248nm、365nm、405nm、436nmのいずれかの波長に吸収を有することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の感光性化合物。
- 前記化合物(a)の90%熱分解温度が50℃以上であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載の感光性化合物。
- 少なくとも前記請求項1乃至11のいずれかに記載の化合物(a)を含む1種以上のラジカル重合性化合物の重合物(b)からなることを特徴とする、感光性化合物。
- 20℃におけるアクリル酸メチルに対する、前記化合物(a)の飽和濃度、又は、前記重合物(b)に含まれるナフタルイミド構造単位の飽和濃度が、0.01mol/L以上であることを特徴とする、請求項1乃至11いずれかに記載の感光性化合物。
- 前記請求項1乃至11及び請求項13のいずれかに記載の化合物(a)及び前記請求項12に記載の重合物(b)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの感光性化合物を必須成分として含有することを特徴とする、感光性樹脂組成物。
- エチレン性不飽和結合を有する化合物(c)をさらに含有する、請求項14に記載の感光性樹脂組成物。
- 高分子量のバインダー成分をさらに含有する、請求項14又は15に記載の感光性樹脂組成物。
- 水素供与体をさらに含有する請求項14乃至16のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 前記化合物(a)又は重合物(b)以外の光ラジカル発生剤をさらに含有する請求項14乃至17のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 前記化合物(a)又は重合物(b)中の化合物(a)に由来する部位を、感光性樹脂組成物の固形分全体の0.1重量%以上の割合で含有する請求項14乃至18のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 前記感光性化合物として請求項13に記載の重合物(b)を5〜95重量%含有する、請求項14乃至19のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 前記感光性樹脂組成物に含有される前記化合物(a)又は重合物(b)以外の成分は、照射光源の発光波長と前記化合物(a)又は重合物(b)の吸収波長が重なる波長領域における透過率が20%以上であることを特徴とする、請求項14乃至20のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項14乃至21のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料の形成材料として用いられる請求項14乃至22のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
- 前記請求項14乃至23のいずれかに記載の感光性樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光学部材、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム又は建築材料。
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