JP2004174408A - 中空糸膜の製造方法および製造装置 - Google Patents
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Abstract
【解決課題】透水性能や強伸度等の特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造することができる方法と装置を提供する。
【解決手段】製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造装置であって、紡糸口金と凝固浴とを有し、かつ、これら紡糸口金と凝固浴との間に形成される紡糸空間にその紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲むシート部材を設けた。
【選択図】 図1
【解決手段】製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造装置であって、紡糸口金と凝固浴とを有し、かつ、これら紡糸口金と凝固浴との間に形成される紡糸空間にその紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲むシート部材を設けた。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば排水の処理や各種の用水の製造において精密濾過膜や限外濾過膜として用いることができる中空糸膜の製造方法および製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密濾過膜や限外濾過膜等の分離膜は、排水の処理、工業用水や飲料水等の各種の用水の製造をはじめ、医療分野、食品分野等、さまざまな用途、分野で広く利用されている。なかでも、排水の処理や各種の用水の製造等の水処理分野においては、単位体積あたりの有効膜面積を大きくとれることから、中空糸膜が多く用いられている。そのような中空糸膜は、透水性能が高ければ高いほど膜面積を減らすことができて装置をコンパクトにでき、設備費を低減できるばかりでなく、設置面積や膜の交換費用の面でも有利になる。また、バイオファウリングを防止して長期の使用を可能とするために次亜塩素酸ソーダ等の殺菌剤を使用したり、塩酸、クエン酸、蓚酸等の酸や、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリや、塩素や、界面活性剤等の洗浄剤で膜を洗浄したりすることがあるが、その場合、膜が欠損するとこれら殺菌剤や洗浄剤が透過水中に混入し、特に飲料水を製造するような場合にあっては大事となるので、中空糸膜には高い強伸度も要求されている。
【0003】
さて、中空糸膜を製造する方法には、よく知られているように、大別して、非溶媒相分離法と熱誘起相分離法とがある。前者は、紡糸口金から、良溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液を紡糸空間を経て非溶媒を含む凝固浴中に吐出し、製膜溶液中の良溶媒と凝固浴中の非溶媒とを置換して中空糸膜とするものである。後者の熱誘起相分離法は、紡糸口金から、貧溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液を紡糸空間を経て凝固浴中に吐出し、冷却して中空糸膜とするものである。いずれも乾湿式紡糸によるものであり、製造の容易さや得られる中空糸膜の特性の安定性の面では前者が優れているが、利用できるポリマーと溶媒の種類の制約が大きいことから、近年、そのような制約の少ない、後者の熱誘起相分離法が注目されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
ところで、熱誘起相分離法は、非溶媒相分離法以上に、紡糸口金と凝固浴との間の空間(紡糸空間)の温度や溶媒蒸気圧の変動の影響を受けやすく、これらの条件の均一性が得られる中空糸膜の透水性能や強伸度等の特性を大きく左右する。これらの条件の均一化のために、紡糸空間に調温、調湿した空気を強制的に流すことが考えられる。しかしながら、紡糸口金から吐出された直後の製膜溶液は未だ形態的に不安定なものであって空気との一様な接触は困難であり、そのため、部位により相分離の程度に差ができて、特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して得ることはなかなか難しい。また、紡糸空間をガラスやステンレス等の筒体で完全に覆うことも考えられるが、そうすると紡糸空間が外気から完全に遮断されてしまい、紡糸空間が飽和した溶媒蒸気下におかれたり紡糸空間に熱が蓄積されたりして製膜溶液の適度な粘度低下が阻害されるようになり、やはり特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造するのは難しい。
【0005】
【非特許文献1】
化学工業社刊、“ケミカル・エンジニアリング”、1998年6月号、第45〜55頁
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の熱誘起相分離法による中空糸膜の製造技術における上記問題点を解決し、透水性能や強伸度等の特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造することができる方法と装置を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造方法であって、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲み、その囲まれた紡糸空間に製膜溶液を吐出することを特徴とする中空糸膜の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述した方法を実施する装置として、製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造装置であって、紡糸口金と凝固浴とを有し、かつ、これら紡糸口金と凝固浴との間に形成される紡糸空間にその紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲むシート部材を設けたことを特徴とする中空糸膜の製造装置を提供する。シート部材は通気性を有するものであってもよく、また、その場合、シート部材が筒状に形成されていてもよい。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1(概略斜視図)、図2(概略平面図)において、紡糸口金1から中空形状を形成するように紡糸空間中に吐出された、貧溶媒を含む溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液は、紡糸空間を走行している間に冷却され(粘度が上がり)、固体−液体、液体−固体または液体−液体に相分離して中空糸膜2となり、凝固浴3中で冷却せしめられた後ガイドロール4を経て凝固浴3外に導出され、さらに、ガイドロール5を経て、次の、たとえば巻取工程に搬送される。乾湿式紡糸である。紡糸空間は、突き合わせ端に適度な隙間ができるように並べられた4枚のシート部材6a〜6dで囲まれている。これにより、紡糸空間は非密閉状態に保たれ、隙間から溶媒蒸気が適度に漏れることで紡糸空間が非飽和の溶媒蒸気下に常時維持され、また、蓄熱が防止されて紡糸空間が所望の温度に常時維持されるようになる。
【0010】
製膜溶液は、上述したように貧溶媒を含む溶媒にポリマーを溶解してなる。ポリマーとしては、ポリアクリロニトリル系、ポリスルホン系、ポリエチレン系、ポリフッ化ビニリデン系等のポリマーを用いることができる。なかでも、耐薬品性に優れ、また、強伸度に優れた中空糸膜が得られることから、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを用いるのが好ましい。ポリフッ化ビニリデン系ポリマーは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有するポリマーである。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、フッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体が典型的なものである。共重合体としては、たとえば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体がある。なお、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量は、要求される中空糸膜の透水性能や強伸度特性等に応じて適宜選択すればよいが、通常は、重量平均分子量が10〜100万の範囲にあるものを使用する。製膜性を考慮すると、25〜60万の範囲にあるものが好ましく、35〜45万の範囲にあるものがさらに好ましい。
【0011】
貧溶媒とは、上述したようなポリマーから選択されるポリマーを、60℃未満の温度では5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上、ポリマーの融点以下の温度では5重量%以上溶解させることができる溶媒である。そのような貧溶媒にはいろいろなものがあるが、たとえば、ポリマーがポリフッ化ビニリデン系ポリマーである場合には、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等を用いることができる。なかでも、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、フタル酸ジメチルを用いるのが好ましい。最も好ましいのは、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンである。なお、製膜溶液は、ポリマーの溶解に支障をきたさない範囲で、貧溶媒以外の良溶媒や非溶媒を含んでいてもよい。ポリマーがポリフッ化ビニリデン系ポリマーである場合、良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等がある。また、非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン等がある。
【0012】
製膜溶液は、上述した貧溶媒を含む溶媒に上述したポリマーを溶解することによって調製する。溶解は、通常、80〜175℃、好ましくは100〜170℃の範囲の温度で、ポリマーの濃度が20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%の範囲になるように行う。このとき、必要に応じて造核剤、酸化防止剤、可塑剤、成形助剤、潤滑剤、着色防止剤等を添加してもよい。
【0013】
そのように調製された製膜溶液は、紡糸口金から紡糸空間に中空形状を形成するように吐出される。すなわち、紡糸される。紡糸口金の温度、すなわち紡糸温度は、通常、80〜175℃、好ましくは100〜170℃の範囲とする。紡糸口金としては、たとえば、中空形状を形成するための液体等の注入管を有する二重管式の口金を用いることができる。このとき、製膜溶液を、孔径が5〜100μmの、たとえばステンレス製フィルタ等であらかじめ濾過しておくのが好ましい。紡糸口金の寸法は、得たい中空糸膜の寸法や膜構造等により、たとえば、紡糸孔の外径0.7〜10mm、紡糸孔の内径0.5〜4mm、中空形状を形成するための注入管の内径0.25〜2mmといった範囲で選択する。また、紡糸ドラフト(引取速度/製膜溶液の吐出線速度)は、通常、0.8〜100、好ましくは0.9〜50、さらに好ましくは1〜30の範囲で選択する。さらに、紡糸空間の長さは、通常、10〜1,000mm程度とし、紡糸空間における温度の低下が5℃/分を上回らないような範囲を選択する。温度の低下が5℃/分以上と大きくなると、得られる中空糸膜の性能の斑が大きくなったり、著しい場合には糸切れを起こすことがある。
【0014】
中空形状の形成には、気体も可能ではあるが、通常は、液体を用い、これを製膜溶液に随伴させる。なかでも、濃度が60〜100重量%、好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%の、上述した貧溶媒を含有する液体を用いると、非溶媒相分離が抑制され、微細な球状構造をもつ中空糸膜を得ることができるようになるので好ましい。
【0015】
さて、本発明においては、上述したように、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を、非密閉状態が保たれるように囲んでいる。これには、図1、図2に示した実施形態では、4枚のシート部材を用いている。シート部材は、紡糸空間の、外気による急激な温度変動や気流の変動を抑制でき、また、紡糸空間の蓄熱を抑制できるものであればよく、たとえば、ポリエステルシート、ポリオレフィンシート等の合成樹脂製シートを用いることができる。ステンレス鋼やアルミニウム等の金属からなるシートを用いることもできるが、その場合は、紡糸空間の蓄熱防止の観点から厚みが1mm以下の薄いものを用いるのが好ましい。上述したように、熱誘起相分離法においては、製膜溶液の粘度や結晶化速度が熱による影響を受けやすい。したがって、紡糸空間の急激な温度変動を抑制することが必要で、そのためには、シート部材は放熱効果をもつものであるのが好ましい。断熱性の高いシート部材を用いると、中空形状に吐出された製膜溶液の周辺に熱が蓄積されやすく、紡糸空間の温度が上昇して得られる中空糸膜の太さの斑が大きくなったり、著しい場合には糸切れが発生したりするようになる。
【0016】
図1、図2に示したように4枚のシート部材を突き合わせて用いる場合、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は、通常、1〜10mmの範囲とする。この隙間があまり小さいと蓄熱が起こりやすくなり、一方、あまり大きいと紡糸空間の急激な温度変動を防ぎにくくなり、いずれの場合も特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して得にくくなる。また、中空形状に吐出される製膜溶液とシート部材までの距離は、通常、1〜50cmの範囲とする。あまり近いと吐出される製膜溶液に随伴される気流の影響で製膜溶液がシート部材に接触することがあり、一方、あまり離れていると紡糸空間の急激な温度変動を防ぎにくくなる。さらに、シート部材の高さは、シート部材同士の突き合わせの隙間の大きさにもよるが、紡糸空間に外気が入りにくいよう、紡糸空間の長さ、すなわち防止口金の下面から凝固浴の液面までの距離の少なくとも50%とするのが好ましい。なお、4枚のシート部材を用いて紡糸空間を囲むことが必須であるわけではなく、たとえば、相対向する2枚のシート部材6a、6cまたは6b、6dのみとしたり、場合によっては、最も影響を受けやすい側の1枚のみとすることも可能である。
【0017】
また、上述した合成樹脂製シートや金属製シート等の非通気性シートに変えて、たとえば、合成樹脂製シートや金属製シート等に適度な大きさの孔を分布させた、いわゆる多孔シートや、合成繊維の織物等の通気性を有するシート部材を用いることもできる。その場合は、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は必須ではない。また、角筒状や円筒状等の筒状にして用いることもできる。
【0018】
凝固浴には、温度が50℃以下、好ましくは5〜30℃で、60〜100重量%、好ましくは75〜90重量%の範囲で上述した貧溶媒を含有する水溶液を用いるのが好ましい。凝固浴に高濃度の貧溶媒を含有させると、非溶媒相分離が抑制され、膜表面に緻密層が形成されるのを防止することができるようになる。なお、凝固浴に用いる液体と中空形状の形成に用いる液体は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
【実施例および比較例】
(実施例1)
図1、図2に示した装置を用いて中空糸膜を製造した。
【0020】
すなわち、分子量28.4万のポリフッ化ビニリデンホモポリマーを、濃度が38重量%になるように、160℃の温度下にシクロヘキサノンに溶解し、製膜溶液を得た。
【0021】
次に、上記製膜溶液を、中空形状を形成するための液体として100%シクロヘキサノンを随伴させながら125℃の二重管口金から紡糸空間に吐出し、温度30℃のシクロヘキサノン90重量%水溶液からなる凝固浴中で冷却、固化した。このとき、紡糸口金の下面と凝固浴の液面との間の紡糸空間を、4枚のポリエステルシートからなるシート部材(厚み:0.1mm)で囲んだ。なお、紡糸空間の長さは20mmであり、凝固浴の液面から18mmの高さまでの部分をシート部材で囲んだ。また、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は2mmとし、中空形状に吐出される製膜溶液からそれぞれ100mmほど離れるように配置した。
【0022】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、得られた中空糸膜の90%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0023】
なお、透水性能は、中空糸膜を長さ20cm、本数10本の中空糸膜モジュールとして組み立て、その中空糸膜モジュールに1.5mの水位差を駆動力として25℃の逆浸透膜処理水を流し、そのときの透過水量を100kPaあたりの水量に換算して求めた。また、破断強力と破断伸度は、引張試験機を用い、試験長50mmでフルスケール2,000gの荷重をクロスヘッドスピード50mm/分で付与することによって求めた。
【0024】
【実施例2】
実施例1において、シート部材を、図2における上下方向の2枚(6a、6c)のみとした。
【0025】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の93%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.2回/日とほとんどなかった。
【0026】
【実施例3】
実施例1において、シート部材を、図2における左右方向の2枚(6b、6d)のみとした。
【0027】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の87%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0028】
【実施例4】
分子量28.4万のポリフッ化ビニリデンホモポリマーを、濃度が38重量%になるように、160℃の温度下にγ−ブチロラクトンに溶解して製膜溶液を調製し、この製膜溶液を、中空形状を形成するための液体として100%γ−ブチロラクトンを随伴させながら101℃の二重管口金から吐出し、温度5℃の90重量%γ−ブチロラクトン水溶液からなる凝固浴中で冷却、固化したほかは実施例1と同様にして、中空糸膜を得た。
【0029】
得られた中空糸膜は、外径1.60±0.10mm、内径0.89±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の90%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0030】
【実施例5】
実施例4において、シート部材を、図2における上下方向の2枚(6a、6c)のみとした。
【0031】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の87%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0032】
【実施例6】
実施例4において、シート部材を、図2における左右方向の2枚(6b、6d)のみとした。
【0033】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の88%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0034】
【実施例7】
実施例1において、シート部材をステンレス鋼製(厚み:0.05mm)に変えた。
【0035】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の88%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0036】
【実施例8】
実施例4において、シート部材をステンレス鋼製(厚み:0.05mm)に変えた。
【0037】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の93%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.2回/日とほとんどなかった。
【0038】
【比較例1】
実施例1において、4枚のシート部材のすべてを除去した。
【0039】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.20mm、内径0.90±0.20mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の33%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、88%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは3回/日と多かった。
【0040】
【比較例2】
実施例4において、4枚のシート部材のすべてを除去した。
【0041】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の45%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、89%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは5回/日と多かった。
【0042】
【比較例3】
実施例1において、4枚のシート部材を隙間なく突き合わせた。
【0043】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の34%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、92%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは7回/日と多かった。
【0044】
【比較例4】
実施例1において、4枚のシート部材を、隙間なく突き合わせるとともに、紡糸空間の長さ20mm全体にわたって配置した。
【0045】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の42%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、91%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは6.3回/日と多かった。
【0046】
【発明の効果】
本発明の方法および装置によれば、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲み、その囲まれた紡糸空間に製膜溶液を吐出するので、実施例と比較例との対比からも明らかなように、紡糸空間の溶媒蒸気圧や温度の影響を受けやすい熱誘起相分離法にあって透水性能や強伸度等の特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造することができる。また、紡糸時の糸切れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る中空糸膜の製造装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る中空糸膜の製造装置の概略平面図である。
【符号の説明】
1 :紡糸口金
2 :中空糸膜
3 :凝固浴
4 :ガイドロール
5 :ガイドロール
6a:シート部材
6b:シート部材
6c:シート部材
6d:シート部材
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば排水の処理や各種の用水の製造において精密濾過膜や限外濾過膜として用いることができる中空糸膜の製造方法および製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密濾過膜や限外濾過膜等の分離膜は、排水の処理、工業用水や飲料水等の各種の用水の製造をはじめ、医療分野、食品分野等、さまざまな用途、分野で広く利用されている。なかでも、排水の処理や各種の用水の製造等の水処理分野においては、単位体積あたりの有効膜面積を大きくとれることから、中空糸膜が多く用いられている。そのような中空糸膜は、透水性能が高ければ高いほど膜面積を減らすことができて装置をコンパクトにでき、設備費を低減できるばかりでなく、設置面積や膜の交換費用の面でも有利になる。また、バイオファウリングを防止して長期の使用を可能とするために次亜塩素酸ソーダ等の殺菌剤を使用したり、塩酸、クエン酸、蓚酸等の酸や、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリや、塩素や、界面活性剤等の洗浄剤で膜を洗浄したりすることがあるが、その場合、膜が欠損するとこれら殺菌剤や洗浄剤が透過水中に混入し、特に飲料水を製造するような場合にあっては大事となるので、中空糸膜には高い強伸度も要求されている。
【0003】
さて、中空糸膜を製造する方法には、よく知られているように、大別して、非溶媒相分離法と熱誘起相分離法とがある。前者は、紡糸口金から、良溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液を紡糸空間を経て非溶媒を含む凝固浴中に吐出し、製膜溶液中の良溶媒と凝固浴中の非溶媒とを置換して中空糸膜とするものである。後者の熱誘起相分離法は、紡糸口金から、貧溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液を紡糸空間を経て凝固浴中に吐出し、冷却して中空糸膜とするものである。いずれも乾湿式紡糸によるものであり、製造の容易さや得られる中空糸膜の特性の安定性の面では前者が優れているが、利用できるポリマーと溶媒の種類の制約が大きいことから、近年、そのような制約の少ない、後者の熱誘起相分離法が注目されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
ところで、熱誘起相分離法は、非溶媒相分離法以上に、紡糸口金と凝固浴との間の空間(紡糸空間)の温度や溶媒蒸気圧の変動の影響を受けやすく、これらの条件の均一性が得られる中空糸膜の透水性能や強伸度等の特性を大きく左右する。これらの条件の均一化のために、紡糸空間に調温、調湿した空気を強制的に流すことが考えられる。しかしながら、紡糸口金から吐出された直後の製膜溶液は未だ形態的に不安定なものであって空気との一様な接触は困難であり、そのため、部位により相分離の程度に差ができて、特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して得ることはなかなか難しい。また、紡糸空間をガラスやステンレス等の筒体で完全に覆うことも考えられるが、そうすると紡糸空間が外気から完全に遮断されてしまい、紡糸空間が飽和した溶媒蒸気下におかれたり紡糸空間に熱が蓄積されたりして製膜溶液の適度な粘度低下が阻害されるようになり、やはり特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造するのは難しい。
【0005】
【非特許文献1】
化学工業社刊、“ケミカル・エンジニアリング”、1998年6月号、第45〜55頁
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の熱誘起相分離法による中空糸膜の製造技術における上記問題点を解決し、透水性能や強伸度等の特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造することができる方法と装置を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造方法であって、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲み、その囲まれた紡糸空間に製膜溶液を吐出することを特徴とする中空糸膜の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述した方法を実施する装置として、製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造装置であって、紡糸口金と凝固浴とを有し、かつ、これら紡糸口金と凝固浴との間に形成される紡糸空間にその紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲むシート部材を設けたことを特徴とする中空糸膜の製造装置を提供する。シート部材は通気性を有するものであってもよく、また、その場合、シート部材が筒状に形成されていてもよい。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1(概略斜視図)、図2(概略平面図)において、紡糸口金1から中空形状を形成するように紡糸空間中に吐出された、貧溶媒を含む溶媒にポリマーを溶解してなる製膜溶液は、紡糸空間を走行している間に冷却され(粘度が上がり)、固体−液体、液体−固体または液体−液体に相分離して中空糸膜2となり、凝固浴3中で冷却せしめられた後ガイドロール4を経て凝固浴3外に導出され、さらに、ガイドロール5を経て、次の、たとえば巻取工程に搬送される。乾湿式紡糸である。紡糸空間は、突き合わせ端に適度な隙間ができるように並べられた4枚のシート部材6a〜6dで囲まれている。これにより、紡糸空間は非密閉状態に保たれ、隙間から溶媒蒸気が適度に漏れることで紡糸空間が非飽和の溶媒蒸気下に常時維持され、また、蓄熱が防止されて紡糸空間が所望の温度に常時維持されるようになる。
【0010】
製膜溶液は、上述したように貧溶媒を含む溶媒にポリマーを溶解してなる。ポリマーとしては、ポリアクリロニトリル系、ポリスルホン系、ポリエチレン系、ポリフッ化ビニリデン系等のポリマーを用いることができる。なかでも、耐薬品性に優れ、また、強伸度に優れた中空糸膜が得られることから、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを用いるのが好ましい。ポリフッ化ビニリデン系ポリマーは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有するポリマーである。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、フッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体が典型的なものである。共重合体としては、たとえば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体がある。なお、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量は、要求される中空糸膜の透水性能や強伸度特性等に応じて適宜選択すればよいが、通常は、重量平均分子量が10〜100万の範囲にあるものを使用する。製膜性を考慮すると、25〜60万の範囲にあるものが好ましく、35〜45万の範囲にあるものがさらに好ましい。
【0011】
貧溶媒とは、上述したようなポリマーから選択されるポリマーを、60℃未満の温度では5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上、ポリマーの融点以下の温度では5重量%以上溶解させることができる溶媒である。そのような貧溶媒にはいろいろなものがあるが、たとえば、ポリマーがポリフッ化ビニリデン系ポリマーである場合には、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等を用いることができる。なかでも、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、フタル酸ジメチルを用いるのが好ましい。最も好ましいのは、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンである。なお、製膜溶液は、ポリマーの溶解に支障をきたさない範囲で、貧溶媒以外の良溶媒や非溶媒を含んでいてもよい。ポリマーがポリフッ化ビニリデン系ポリマーである場合、良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等がある。また、非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン等がある。
【0012】
製膜溶液は、上述した貧溶媒を含む溶媒に上述したポリマーを溶解することによって調製する。溶解は、通常、80〜175℃、好ましくは100〜170℃の範囲の温度で、ポリマーの濃度が20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%の範囲になるように行う。このとき、必要に応じて造核剤、酸化防止剤、可塑剤、成形助剤、潤滑剤、着色防止剤等を添加してもよい。
【0013】
そのように調製された製膜溶液は、紡糸口金から紡糸空間に中空形状を形成するように吐出される。すなわち、紡糸される。紡糸口金の温度、すなわち紡糸温度は、通常、80〜175℃、好ましくは100〜170℃の範囲とする。紡糸口金としては、たとえば、中空形状を形成するための液体等の注入管を有する二重管式の口金を用いることができる。このとき、製膜溶液を、孔径が5〜100μmの、たとえばステンレス製フィルタ等であらかじめ濾過しておくのが好ましい。紡糸口金の寸法は、得たい中空糸膜の寸法や膜構造等により、たとえば、紡糸孔の外径0.7〜10mm、紡糸孔の内径0.5〜4mm、中空形状を形成するための注入管の内径0.25〜2mmといった範囲で選択する。また、紡糸ドラフト(引取速度/製膜溶液の吐出線速度)は、通常、0.8〜100、好ましくは0.9〜50、さらに好ましくは1〜30の範囲で選択する。さらに、紡糸空間の長さは、通常、10〜1,000mm程度とし、紡糸空間における温度の低下が5℃/分を上回らないような範囲を選択する。温度の低下が5℃/分以上と大きくなると、得られる中空糸膜の性能の斑が大きくなったり、著しい場合には糸切れを起こすことがある。
【0014】
中空形状の形成には、気体も可能ではあるが、通常は、液体を用い、これを製膜溶液に随伴させる。なかでも、濃度が60〜100重量%、好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%の、上述した貧溶媒を含有する液体を用いると、非溶媒相分離が抑制され、微細な球状構造をもつ中空糸膜を得ることができるようになるので好ましい。
【0015】
さて、本発明においては、上述したように、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を、非密閉状態が保たれるように囲んでいる。これには、図1、図2に示した実施形態では、4枚のシート部材を用いている。シート部材は、紡糸空間の、外気による急激な温度変動や気流の変動を抑制でき、また、紡糸空間の蓄熱を抑制できるものであればよく、たとえば、ポリエステルシート、ポリオレフィンシート等の合成樹脂製シートを用いることができる。ステンレス鋼やアルミニウム等の金属からなるシートを用いることもできるが、その場合は、紡糸空間の蓄熱防止の観点から厚みが1mm以下の薄いものを用いるのが好ましい。上述したように、熱誘起相分離法においては、製膜溶液の粘度や結晶化速度が熱による影響を受けやすい。したがって、紡糸空間の急激な温度変動を抑制することが必要で、そのためには、シート部材は放熱効果をもつものであるのが好ましい。断熱性の高いシート部材を用いると、中空形状に吐出された製膜溶液の周辺に熱が蓄積されやすく、紡糸空間の温度が上昇して得られる中空糸膜の太さの斑が大きくなったり、著しい場合には糸切れが発生したりするようになる。
【0016】
図1、図2に示したように4枚のシート部材を突き合わせて用いる場合、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は、通常、1〜10mmの範囲とする。この隙間があまり小さいと蓄熱が起こりやすくなり、一方、あまり大きいと紡糸空間の急激な温度変動を防ぎにくくなり、いずれの場合も特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して得にくくなる。また、中空形状に吐出される製膜溶液とシート部材までの距離は、通常、1〜50cmの範囲とする。あまり近いと吐出される製膜溶液に随伴される気流の影響で製膜溶液がシート部材に接触することがあり、一方、あまり離れていると紡糸空間の急激な温度変動を防ぎにくくなる。さらに、シート部材の高さは、シート部材同士の突き合わせの隙間の大きさにもよるが、紡糸空間に外気が入りにくいよう、紡糸空間の長さ、すなわち防止口金の下面から凝固浴の液面までの距離の少なくとも50%とするのが好ましい。なお、4枚のシート部材を用いて紡糸空間を囲むことが必須であるわけではなく、たとえば、相対向する2枚のシート部材6a、6cまたは6b、6dのみとしたり、場合によっては、最も影響を受けやすい側の1枚のみとすることも可能である。
【0017】
また、上述した合成樹脂製シートや金属製シート等の非通気性シートに変えて、たとえば、合成樹脂製シートや金属製シート等に適度な大きさの孔を分布させた、いわゆる多孔シートや、合成繊維の織物等の通気性を有するシート部材を用いることもできる。その場合は、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は必須ではない。また、角筒状や円筒状等の筒状にして用いることもできる。
【0018】
凝固浴には、温度が50℃以下、好ましくは5〜30℃で、60〜100重量%、好ましくは75〜90重量%の範囲で上述した貧溶媒を含有する水溶液を用いるのが好ましい。凝固浴に高濃度の貧溶媒を含有させると、非溶媒相分離が抑制され、膜表面に緻密層が形成されるのを防止することができるようになる。なお、凝固浴に用いる液体と中空形状の形成に用いる液体は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
【実施例および比較例】
(実施例1)
図1、図2に示した装置を用いて中空糸膜を製造した。
【0020】
すなわち、分子量28.4万のポリフッ化ビニリデンホモポリマーを、濃度が38重量%になるように、160℃の温度下にシクロヘキサノンに溶解し、製膜溶液を得た。
【0021】
次に、上記製膜溶液を、中空形状を形成するための液体として100%シクロヘキサノンを随伴させながら125℃の二重管口金から紡糸空間に吐出し、温度30℃のシクロヘキサノン90重量%水溶液からなる凝固浴中で冷却、固化した。このとき、紡糸口金の下面と凝固浴の液面との間の紡糸空間を、4枚のポリエステルシートからなるシート部材(厚み:0.1mm)で囲んだ。なお、紡糸空間の長さは20mmであり、凝固浴の液面から18mmの高さまでの部分をシート部材で囲んだ。また、隣接するシート部材同士の突き合わせの隙間は2mmとし、中空形状に吐出される製膜溶液からそれぞれ100mmほど離れるように配置した。
【0022】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、得られた中空糸膜の90%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0023】
なお、透水性能は、中空糸膜を長さ20cm、本数10本の中空糸膜モジュールとして組み立て、その中空糸膜モジュールに1.5mの水位差を駆動力として25℃の逆浸透膜処理水を流し、そのときの透過水量を100kPaあたりの水量に換算して求めた。また、破断強力と破断伸度は、引張試験機を用い、試験長50mmでフルスケール2,000gの荷重をクロスヘッドスピード50mm/分で付与することによって求めた。
【0024】
【実施例2】
実施例1において、シート部材を、図2における上下方向の2枚(6a、6c)のみとした。
【0025】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の93%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.2回/日とほとんどなかった。
【0026】
【実施例3】
実施例1において、シート部材を、図2における左右方向の2枚(6b、6d)のみとした。
【0027】
かかる条件下に7日間連続して紡糸を行いながら2時間ごとにサンプリングして得た中空糸膜は、外径1.70±0.15mm、内径0.99±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の87%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0028】
【実施例4】
分子量28.4万のポリフッ化ビニリデンホモポリマーを、濃度が38重量%になるように、160℃の温度下にγ−ブチロラクトンに溶解して製膜溶液を調製し、この製膜溶液を、中空形状を形成するための液体として100%γ−ブチロラクトンを随伴させながら101℃の二重管口金から吐出し、温度5℃の90重量%γ−ブチロラクトン水溶液からなる凝固浴中で冷却、固化したほかは実施例1と同様にして、中空糸膜を得た。
【0029】
得られた中空糸膜は、外径1.60±0.10mm、内径0.89±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の90%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0030】
【実施例5】
実施例4において、シート部材を、図2における上下方向の2枚(6a、6c)のみとした。
【0031】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の87%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0032】
【実施例6】
実施例4において、シート部材を、図2における左右方向の2枚(6b、6d)のみとした。
【0033】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の88%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.3回/日とほとんどなかった。
【0034】
【実施例7】
実施例1において、シート部材をステンレス鋼製(厚み:0.05mm)に変えた。
【0035】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の88%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.1回/日とほとんどなかった。
【0036】
【実施例8】
実施例4において、シート部材をステンレス鋼製(厚み:0.05mm)に変えた。
【0037】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.10mm、内径0.90±0.10mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の93%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは0.2回/日とほとんどなかった。
【0038】
【比較例1】
実施例1において、4枚のシート部材のすべてを除去した。
【0039】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.20mm、内径0.90±0.20mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の33%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、88%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは3回/日と多かった。
【0040】
【比較例2】
実施例4において、4枚のシート部材のすべてを除去した。
【0041】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の45%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、89%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは5回/日と多かった。
【0042】
【比較例3】
実施例1において、4枚のシート部材を隙間なく突き合わせた。
【0043】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の34%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、92%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは7回/日と多かった。
【0044】
【比較例4】
実施例1において、4枚のシート部材を、隙間なく突き合わせるとともに、紡糸空間の長さ20mm全体にわたって配置した。
【0045】
得られた中空糸膜は、外径1.61±0.15mm、内径0.90±0.15mmであった。また、実施例1と同様の評価で、得られた中空糸膜の42%が、目標透水性能1.00〜1.20m3/m2・hr、目標破断強力900〜1,000g/本、目標破断伸度90〜110%の範囲内にあり、また、91%が、透水性能0.70〜1.80m3/m2・hr、破断強力600〜1,000g/本、破断伸度40〜110%の範囲内にあった。また、糸切れは6.3回/日と多かった。
【0046】
【発明の効果】
本発明の方法および装置によれば、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲み、その囲まれた紡糸空間に製膜溶液を吐出するので、実施例と比較例との対比からも明らかなように、紡糸空間の溶媒蒸気圧や温度の影響を受けやすい熱誘起相分離法にあって透水性能や強伸度等の特性のばらつきの小さい中空糸膜を安定して製造することができる。また、紡糸時の糸切れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る中空糸膜の製造装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る中空糸膜の製造装置の概略平面図である。
【符号の説明】
1 :紡糸口金
2 :中空糸膜
3 :凝固浴
4 :ガイドロール
5 :ガイドロール
6a:シート部材
6b:シート部材
6c:シート部材
6d:シート部材
Claims (5)
- 製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造方法であって、紡糸口金と凝固浴との間の紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲み、その囲まれた紡糸空間に製膜溶液を吐出することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
- 製膜溶液を乾湿式紡糸して中空糸膜を製造する、熱誘起相分離法による中空糸膜の製造装置であって、紡糸口金と凝固浴とを有し、かつ、これら紡糸口金と凝固浴との間に形成される紡糸空間にその紡糸空間を非密閉状態が保たれるように囲むシート部材を設けたことを特徴とする中空糸膜の製造装置。
- シート部材が通気性を有する、請求項2に記載の中空糸膜の製造装置。
- シート部材が筒状に形成されている、請求項3に記載の中空糸膜の製造装置。
- 請求項1に記載の製造方法または請求項2〜4のいずれかに記載の製造装置によって製造された中空糸膜。
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