JP2004169222A - フェノール樹脂系繊維加工物 - Google Patents
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Abstract
【課題】フェノール樹脂系繊維を粉体等の形状を有する他の材料と混合・成形する用途において、粉体保持機能・材料混合時のハンドリングの容易さ・成形品中の材料偏在防止性能に加え、耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめる繊維加工物を提供する。
【解決手段】高度に捲縮を施したフェノール樹脂系繊維束を主体骨格として、その繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着させ、更にこの主体骨格にフェノール樹脂系繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された集合体状とすることで粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を有したフェノール樹脂系繊維加工物を提供できる。
【解決手段】高度に捲縮を施したフェノール樹脂系繊維束を主体骨格として、その繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着させ、更にこの主体骨格にフェノール樹脂系繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された集合体状とすることで粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を有したフェノール樹脂系繊維加工物を提供できる。
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は粉体等の形状を有する他の材料と混合・成形するための繊維素材として有用なフェノール樹脂系繊維加工物、及びこの繊維加工物を配合して成る鉄道車両、自動車、産業機械等に使用される摩擦材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェノール樹脂系繊維はその原料であるフェノール樹脂の特徴である耐熱性、耐薬品性を有する為、成型材に特性を付与させる場合の有望な繊維素材の一つとして挙げられる。しかしながら、粉体保持機能がなく材料混合時のハンドリングが困難で、更に成形品中の材料偏在が発生するなど重大な問題がある。更に極端な場合には材料混合時にフェノール樹脂系繊維同士が凝集し合い固い球状の塊が発生すること、一度発生した塊は簡単には崩れないなどが原因で、十分な特性が得られない場合や、あるいは製造そのものが不可能な事態につながり、このことが繊維素材としての幅広い適用を阻害してきた。
【0003】
例えば、繊維素材を粉体等の他材料と配合・成形する用途として、摩擦材を挙げて説明する。自動車等に使用されるブレーキにはディスクブレーキ、ドラムブレーキの2タイプがあり、この中にはパッドやライニングの形で摩擦材が使用されている。ブレーキ部品は重要保安部品であり、安全確保のためにも高い信頼性を要求されるが、自動車の高速化・重量化によりますます高性能化をもとめられている。
【0004】
これら摩擦材は自動車の運動エネルギーを摩擦により熱に変換する役割を担っているため、制動時に発生する摩擦熱に対する耐熱性と同時に、走行安定性の見地から、温度や天候によらず一定の摩擦特性を発揮すること、更に長期に亘って特性変化の少ない優れた耐摩耗性や制動時にノイズを発生しないなどの総合的な特性を同時に要求される。
【0005】
この要求を満たすため、摩擦材は各種素材を組合せて使用している。即ち、摩擦材は▲1▼形状を保持させるための繊維素材、▲2▼繊維素材同士を結合させる樹脂成分、▲3▼繊維素材と樹脂成分中に分散して特性の調整に用いられる充填材の三素材の組合せにより成っている。
【0006】
ここで▲2▼の樹脂成分としては優れた耐熱性を有することからフェノール樹脂が使われている。また、▲3▼の充填材は耐摩耗性や耐熱性の調整、摩擦係数の安定化、体積充填などの目的に応じて種々組合されている。
【0007】
ところで、▲1▼の繊維素材であるが、これには摩擦材の骨格を形成し摩擦材全体の割れや剥離を防いだり、摩擦材全体の強度や弾性を与え得る、最も重要な役割を担っている。この目的のためには以前には石綿繊維(アスベスト)が使われてきた。石綿は鉱物天然繊維であり、強靭で弾力及び屈撓性に富み、何よりも良好な熱特性、即ち、不燃性かつ耐熱性が特徴である。しかも絡みが良いため、充填材を安定保持することも摩擦材用繊維素材として相応しいものであった。
【0008】
しかしながら、現在、石綿が人体の健康に対して悪影響を与えることは周知の事実であり、その使用に当たっては厳しい規制や制限があり、このため摩擦材分野でも他繊維素材へ置き換わりが進んできた。
【0009】
最近では有機繊維でありながら比較的高い耐熱性を有し、高い引張強度を持ち、しかもフィブリル化できる点で芳香族ポリアミド繊維が多用されるようになってきた。このようなフィブリル化芳香族ポリアミド繊維を繊維素材の主体とする摩擦材はフィブリルによる粉体保持機能により材料混合時のハンドリングが容易で成形品中の材料偏在が抑えられる製造上のメリットに加え、軽量であり、発錆がなく相手への攻撃性が少なくノイズの発生が少ないなど摩擦材の特性面でのメリットも大きい。
【0010】
しかしながら、芳香族ポリアミド繊維は極めて結晶性が高く、繊維軸方向には高い引張強力をもつものの、繊維軸と垂直方向に圧縮力を加えることでキンクバンドと呼ばれる結晶部の滑りが発生する。このことは、芳香族ポリアミド繊維を用いた摩擦材は硬度が低く、比較的軟質であること、耐摩耗性が低いなどの欠点として現れる。
【0011】
耐摩耗性は摩擦材の重要特性の一種であり、特に高速、重量化の進む現在の自動車を始めとする車輌にとってはますます重要とされる項目である。
【0012】
そのため耐摩耗性を高めるため、摩擦材中の充填材として黒鉛や二硫化モリブテン等の固体潤滑剤を多く混入させる方法が考えられる。ところが固体潤滑剤を増やすことで耐摩耗性は向上するものの、これに伴って摩擦係数が低下するため根本的解決には成り得ない。
【0013】
これに対し、繊維素材の主材として芳香族ポリアミド繊維以外を使用する方法もある。例えば、スチール繊維を用いたセミメタリック系摩擦材の効果が開示されている(例えば、特許文献1参照)。セミメタリック系摩擦材は硬度の高い金属繊維のため耐摩耗性に優れる一方、比較的高い摩擦係数を得ることができる。しかし、一方で重量増加の問題や、発錆、更には同種金属の相手材への攻撃性が高くなり摩耗させやすいという欠点を有しているうえ、制動時の鳴きが発生する問題がある。特許文献1ではこの問題に対して黒鉛と金属硫化物とを特定の比率で配合することにより鳴きの改善を図るとしているが、この対策は基本的に摩擦係数を低下させる欠点を含んでいる。
【0014】
【特許文献1】
特開平2−117985号公報
【0015】
そこで、この石綿代替材料としてフェノール樹脂系繊維を考えた場合、フェノール樹脂系繊維はその優れた耐熱性、耐薬品性、断熱性から石綿代替として十分なる素質を持つうえ、摩擦材で一般的に用いられる繊維素材同士のバインダー樹脂成分がフェノール樹脂からなるため相互の接着性が高く優れた強度を持つことが知られていた。
【0016】
然るにこのフェノール樹脂系繊維が芳香族ポリアミド繊維と大きく異なる点はフィブリル化しないことである。このため、前述の如く粉体保持機能がなく材料混合時のハンドリングが困難で、更に成形品中の材料偏在が発生するなど、製造上重大な問題があることがその適用を阻害してきた。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
フェノール樹脂系繊維を粉体等の形状を有する他の材料と混合・成形する用途において、フェノール樹脂系繊維を用いることで耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめることが望まれているが、一方でフェノール樹脂系繊維を均一分散させることが困難であった事実に鑑み、本発明者らが鋭意検討を進めてきた結果、遂に完成に至ったのである。即ち、その課題とするところは、粉体保持機能・材料混合時のハンドリングの容易さ・成形品中の材料偏在防止性能に加え、耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめる繊維加工物を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは先ず、フェノール樹脂系繊維を混合した場合に凝集し合い固い球状の塊が発生する現象と、繊維の物性及び構造との関係を調査研究した。フェノール樹脂系繊維とは対照的に混合の容易な芳香族ポリアミド繊維は結晶性が高く、すなわち、繊維軸に沿って直鎖状分子が平行して整然と配された構造となっている。この直鎖状分子間の結合は化学的な結合ではなく分子間力等の物理的な結合で引き合っているに過ぎない。この結果、強度については繊維軸方向について強く、繊維軸と垂直方向には弱いという異方性を強く示す。このため混合機あるいは叩解機等で激しく叩くと繊維が縦に裂けて微細な繊維に分割される所謂フィビリル化現象を起こす。一旦フィブリル化した繊維は更に叩かれるうちに主繊維軸の周囲に細かくカールした微細繊維が取り囲む形態となり、繊維同士が接触してもこのフィブリル化微細繊維が反発し合って絡み合うことは無い。一方、フェノール樹脂系繊維はその分子構造が3次元綱目構造であり加えて非晶性であることから繊維中に整然とした分子構造は持たず、この結果、強度については繊維軸方向及び繊維軸垂直方向とも略等方性である。従ってフェノール樹脂系繊維は激しく叩かれてもランダムに砕けるだけでフィブリル化することは無い。
【0019】
このフェノール樹脂繊維が凝集し合い固い球状の塊が発生することについては、発明者らが実験を繰り返し得た推測により次のように考えられる。先ず、混合の初期においては繊維同士が接触・離合を繰り返すが、傾向としては比較的表面エネルギーの高いフェノール樹脂系繊維は纏まって、すなわち表面積を少なくして全体的にエネルギーレベルを下げる様、凝集して不規則形の小規模の核を形成する。これが混合中に壁や他成分とぶつかり合う内、更に大きく成長すると同時に球状に成形される。この状態では比較的柔らかい塊状であるが、更にぶつかり合い、塊の外側から内側に向かう力で周囲全体を押されることでフェノール樹脂系繊維は塊の中心に向かって深く突き刺さるようになる。なぜならばフェノール樹脂系繊維は芳香族ポリアミド繊維のように主繊維軸の周囲に物理的抵抗となる微細繊維がなく、その繊維表面は極めて平滑であることから、押されれば針が突き刺さるよう抵抗なく中心に向かって入り込む。この結果、塊は徐々に強固なものとなってゆくのである。
【0020】
以上の推測に基づき、本発明者らは、繊維が固い球状の塊を形成し難くするためには繊維の物理的形状が重要であること見出し、更にどの形状が最適であるかに加え、他材料と共に混ぜた場合の保持性を確かめる試験を繰り返し行い、ついに次の方法が最適であることを見出したのである。即ち、20ヶ/インチ以上50ケ/インチ未満の捲縮を付与した直径5μm以上50μm未満のフェノール樹脂系繊維束を主体骨格として、その繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着して成り、この主体骨格に繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された集合体状をなし、その集合体の大きさが直径10mm以下である繊維加工物とすることで耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめる一方で、フェノール樹脂系繊維を均一に材料中に分散させることが可能で、芳香族ポリアミド繊維同様の粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を付与できるのである。更にこのフェノール樹脂繊維加工物を、芳香族ポリアミド繊維に替えて摩擦材に用いることで、芳香族ポリアミド繊維の欠点であった耐摩耗性の低さを改善できるのである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。本発明に用いるフェノール樹脂系繊維は酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物を適切なる方法で繊維化したものである。本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるフェノール類としては、アルデヒド類と酸性あるいは塩基性触媒下で反応させてフェノール樹脂が得られるフェノール類であれば以下に例示したフェノール類に限定されるものではないが、例えばフェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、m−プロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2−メチルレゾルシノール、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジメチルレゾルシノール、2−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−エチルレゾルシノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、2−プロペニルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−ピロポキシフェノール、2−アリルフェノール、3,4,5−トリメトキシフェノール、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4−ベンゼントリオール、5−イソプロピル−3−メチルフェノール、4−ブトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、4−t−ペンチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3−フェノキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−へキシルオキシフェノール、4−ヘキサノイルレゾルシノール、3,5−ジイソプロピルカテコール、4−ヘキシルレゾルシノール、4−ヘプチルオキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ジ−sec−ブチルフェノール、4−クミルフェノール、ノニルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、4−シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが使用可能であり、また使用にあたっても該フェノール類単体でも混合物でも良い。このうちフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、4−フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、更にフェノールは最も好ましい。
【0022】
次に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド或いはこれらの混合物等が挙げられる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0023】
更に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される塩基性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
これらフェノール樹脂からの繊維化の方法であるが、一例を挙げれば、使用する樹脂がノボラック樹脂であれば一般的な溶融紡糸装置にて紡糸し、これにより得られた未硬化ノボラック繊維を塩酸、硫酸、燐酸、シュウ酸をはじめとする前述のフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒とホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン等、前述のフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類との混合水溶液に浸漬し、常温から徐々に昇温し、更に沸点近くで数時間保持することで硬化処理せしめる一般的な方法や、または上記水溶液に浸漬した未硬化ノボラック繊維を昇温初期の段階で取り出し、繊維の外周部のみを予備的に硬化した後、次いで例えばアンモニア、ヘキサメチレンテトラモン、尿素、水酸化カリウム等、前述のフェノール樹脂を得るために使用されるの塩基性触媒と上記アルデヒド類との混合水溶液にて繊維の内部まで更に硬化を行う方法も可能である。更には前述した方法での硬化反応の後、水洗乾燥後、窒素・ヘリウム・炭酸ガス等の不活性ガス中100℃〜300℃の温度で加熱することにより硬化させる方法等、公知の硬化処理方法を行うことができ、硬化処理が終了した時点で充分な強度を持ったフェノール樹脂系繊維となる。
【0026】
一方、使用する樹脂がレゾール型フェノール樹脂の場合には、例えば一定粘度に調整した液状レゾール型フェノール樹脂に塩酸や硫酸のような硬化速度を速める酸を混合し、これを過熱された流動するポリプロピレングリコールなどの媒体中に投入して繊維化し硬化反応を行う方法や、レゾール型フェノール樹脂をアセトンのような溶剤に溶解し、これを乾式法で紡糸した後熱処理する方法、あるいは常温で液状のレゾール型フェノール樹脂に硬化触媒として酸を混合し、この紡糸原液を遠心式で高温空気中に紡糸する方法など公知の方法で繊維化することでフェノール樹脂系繊維ができる。
【0027】
但し、上記記載のレゾール型フェノール樹脂からの繊維製造方法では、一定の繊維径の繊維を安定して、長期連続的に生産することが難しいことから、ノボラック樹脂からの溶融紡糸による繊維製造法が望ましいと言える。
【0028】
これらの方法にて得られたフェノール樹脂系繊維はフェノール核がメチレン結合或いは一部メチロール結合によって三次元綱目構造をもった繊維状高分子となっている。このフェノール樹脂系繊維は熱不融性であり耐熱性は芳香族ポリアミドより高く、また耐薬品性に優れ、燃焼ガスの毒性が低い等優れた特性を有している。
【0029】
本発明ではフェノール樹脂系繊維の形状を特に規制するものではなく、例えば任意長にカットしたステープル状でも、マルチフィラメント状でもトウ状でも良いが、本発明の一つの要件である捲縮処理を行うことを考慮するとトウ状での処理が望ましい。
【0030】
処理工程については順序を特に規制するものではないが、ここでは一般的な方法を例にして説明する。先ず、前述のいずれかの方法で得た単繊維直径5μm以上50μm未満のトウ状フェノール樹脂系繊維束の捲縮処理を行う。捲縮の方法は特に限定されるものではなく、例えばスタッフィングボックス中に押し込み座屈を生じさせる一般的なスタッフィングボックス式や一対の噛み合わせギアの間に押力を加えながら挟み込み機械的に凹凸を付ける、所謂ギアクリンプ方法などが可能であるが、繊維強度の低下、切断などを生じさせる恐れの少ないスタッフィングボックス式が望ましい。この捲縮処理は特殊な設備を必要としない。また、トウを集束させてスタッフィングボックスに押し込む直前でスチーム加熱を行うなどの定法に従い処理すれば良い。スタッフィングボックスへの投入総デニール数はスタッフィングボックスの幅に応じて決定するが、8〜25万デニール/インチになるように調整するのが良く、一般的には15万〜20万デニール/インチが望ましい。尚発明では20ヶ/インチ以上、50ヶ/インチ未満の捲縮を付与することが特徴となっており一般の紡績あるいはフェルト用途の捲縮に比べると非常に細かな捲縮であることが特徴である。このためには通常に比べ、かなり高いスタッフィング圧をかけるなどの工夫が必要である。以上の操作により高次の捲縮を掛けられたトウができるが、これが本発明で言うところのフェノール樹脂系繊維束である。
【0031】
本発明ではこのフェノール樹脂系繊維束に、繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系短繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合していることが必要である。このためには先ず前述のようにノボラック樹脂あるいはレゾール樹脂から直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系繊維を作り、これを目的の繊維長5μm以上500μm未満にすることが必要である。このためには例えばフェノール樹脂系繊維をクラッシャー、パルペライザー、ジェットミル等既存の設備を用いて処理することが可能である。
【0032】
続いて、前述のフェノール樹脂系繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着する方法、並びに繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系短繊維をフェノール樹脂系繊維束間に非規則的に多数結合される方法については種々の方法が考えられるが、一般的には次のような方法が望ましい一例である。フェノール樹脂系繊維束間及びフェノール樹脂系短繊維をフェノール樹脂系繊維束に接着するために用いるフェノール樹脂としては水溶性レゾール型フェノール樹脂が適切である。この水溶性レゾール型フェノール樹脂とフェノール樹脂系短繊維を同浴にて水溶液とする。おのおのの含有重量は目的に応じて変更する必要があるが、一般的には乾燥後に、元の繊維束に対して重量%で水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.1〜10%、フェノール樹脂系短繊維が0.5〜5%の付着量が望ましく、更には水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.1〜1%、フェノール樹脂系短繊維が0.2〜2%、がより望ましい。
【0033】
この水溶液に前述で示した方法で作成した捲縮処理済みのフェノール樹脂系繊維束を浸漬し、ニップローラーで搾液するが、この際の含有液量は乾燥繊維束の重量100に対し10〜50部、好ましくはて20〜40部で充分である。尚、処理中に水溶液中のフェノール樹脂系短繊維が沈降しないよう攪拌翼にて連続的に攪拌するか、強制的に液を循環させるなどの対応が望ましい。
【0034】
引き続き、この樹脂液を含浸したフェノール樹脂系繊維束を乾燥・熱処理する。その条件としてはフェノール樹脂が硬化するよう100℃以上250℃未満、より好ましくは130℃以上200℃未満で20分から60分処理することが適切である。
【0035】
上述の例示では先に捲縮処理済みのフェノール樹脂系繊維束を用意しておき、次いでこれを、フェノール樹脂系短繊維を含む樹脂溶液に浸漬して搾液する方法を示したが、何もこの方法に限定される訳ではなく、例えばこれらの工程を連続的に行う方法や、捲縮処理をする前にフェノール樹脂系短繊維を含む樹脂溶液に浸漬する方法、あるいはフェノール樹脂系短繊維と水溶性レゾール樹脂溶液を別々に付与する方法など、設備に応じて変更することは差し支えない。
【0036】
ここまでの処理でフェノール樹脂繊維束間がフェノール系樹脂で部分的に接着され、しかもこの繊維束にフェノール樹脂系短繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された形状となっている。
【0037】
続いてこの繊維束を大きさが直径1mm以上5mm未満の集合体とする必要がある。この目的のための処理方法は特定なものに限定される訳ではなく、種々の方法が考えられる。例えば、繊維束を1mm以上5mm未満の一定の繊維長になるようカッターにて切断した後、ビーター等の叩解力を持つ機器を用いて叩解させる方法や或いは、繊維束を1φ〜5φの孔径のスクリーンを有する粉砕機で直接粉砕する方法などが有効である。
【0038】
以上の操作を行ったものは極めて特徴的な構造体となる。即ち、繊維束は極めて細かく捲縮がかかった屈曲に富んだ形状となっている。例えば捲縮数25ケ/インチの場合1mmの中に2ケの折れ曲がりを持った形状となっている。しかもこの繊維束は部分的にフェノール系樹脂で接着されており、これがビーター等で叩解されることで屈曲点が部分的につながりながら解繊されたアコーディオン状に広がりをもった形状となっている。
【0039】
しかも、繊維束にはフェノール樹脂系短繊維が多数、ランダムに結合された構造となっている。
【0040】
本発明ではこの部分接着用フェノール系樹脂の付着量が重要であり、樹脂付着量が0.5%以下では叩解の際、屈曲点同士をつなぐ効果はなくバラバラになる。逆に10%を超えると繊維束間が強固に接着されるため叩解工程を通しても解繊されない。更に叩解を繰り返すと全体が粉砕される結果となる。
【0041】
本発明で得られる繊維加工物は、先に説明した芳香族ポリアミドに見られるように、繊維軸の周囲に細かくカールした微細繊維が取り囲む形態と同様の効果を持った構造を有し、繊維同士が接触しても繊維が反発し合って絡み合うことは無い。更に塊の外側から内側に向かう力で周囲全体を押されても繊維束に付着したフェノール樹脂系短繊維が抵抗となり、繊維束が突き刺さることは防止できるのである。
【0042】
しかも、本発明の加工物では繊維の間が空隙となっており、この中に摩擦材製造の際に同時に混合される充填材類を抱き込む効果を持つため、この面でも芳香族ポリアミド同様、高い粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を有するものである。更に加えるにフェノール樹脂系繊維は芳香族ポリアミド以上に優れた耐熱性、耐薬品性、断熱性を有し、このフェノール樹脂系繊維を摩擦材用の繊維素材として用いた場合には繊維素材同士を結合させる樹脂成分がフェノール樹脂からなるため相互の接着性が高く、したがって、制動時の強力なずり応力が加わっても脱落することが少なく、結果として芳香族ポリアミド繊維の場合とは異なり、優れた強度を持ち、尚且つ高い耐摩耗性を有する高性能の摩擦材となり得るのである。
【0043】
本発明の摩擦材においては、フェノール樹脂系繊維加工物を配合すること以外は従来と同様である。即ち、バインダーとしてフェノール樹脂、無機・有機の充填材、更にフェノール樹脂系繊維加工物以外の繊維素材として無機・有機・金属繊維等を用いるなど従来の方法が適用できる。バインダーとしてのフェノール樹脂は特に制限されるものではなく、例えば、酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類を反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類を反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらを複数混合して使用することができる。充填材としては硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体積充填材の他に、グラファイト、二硫化モリブテン、三硫化アンチモン等の固体潤滑材を使用することができる。また、主に熱伝導性を向上するための銅紛・亜鉛紛・真鍮紛等の金属紛、摩擦係数を向上させるためのシリカ・アルミナ・珪酸ジルコニウム(ジルコン)等のアブレッシブ材、あるいはその他の摩擦調整のための無機質の添加材等を適宜使用することが可能である。
【0044】
また、鳴き特性向上のための充填材としては加硫ゴムの粉砕物であるゴムダストが知られているが、有機物であるゴムダストは耐熱性が低いために、その過度の使用は耐フェード性の点から好ましくなく、代替として変性カシューダスト等や無機の充填材等の適切な配合による改善が望ましい。
【0045】
本発明の繊維加工物以外の繊維素材としてはシリケート繊維・アルミナ繊維・チタン酸カリウム繊維またはウィスカ・ロックウール・スラグウール・カーボン繊維あるいはガラス繊維等の無機繊維や、スチール繊維・ステンレススチール繊維・銅繊維・真鍮繊維等の金属繊維、またはアラミド繊維・レーヨン繊維等の有機繊維を求められる特性に応じて適宜調整して使用することも可能である。
【0046】
尚、本発明において配合するフェノール樹脂系繊維加工物の含有量は摩擦材中に3〜30重量%であることが必要である。3重量%以下では粉体保持機能・材料混合時のハンドリングの容易さ・成形品中の材料偏在防止性能が充分ではなくまた製品の耐熱性や強度などの諸特性が低下する。一方、30重量%以上では材料混合時の比重差による分離、仮成形時のスプリングバック等の問題が発生し易くなる。
【0047】
本発明の摩擦材は、例えばフェノール樹脂・本発明のフェノール樹脂系繊維加工物・カシューダスト等の有機・無機充填材、更に必要に応じてその他の繊維基材等の補助材料を加えて混合し、この混合物を予備成形した後、加熱加圧成形する等の従来からの通常方法によって製造することができるのである。
【0048】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
〔サンプル パッド作成〕 表1に示す配合組成で実施例1〜3、比較例1〜4の摩擦材を作成した。これらは自動車用ディスクパッドとして試作した。
尚、これらの成分の持つ目的は、摩擦材の骨格を形成する繊維状成分として本発明の繊維加工物とフィブリル化したアラミドパルプを用い、充填材として耐熱強度と耐摩耗性を向上させるためにチタン酸カリウムウィスカと耐熱強度と摩擦係数を保持するためのセラミックウール、摩擦性能調整剤としてカシューダスト、三硫化アンチモン、黒鉛は固体潤滑剤として用いた。また摩擦材をアルカリ性に保持し、ベースの金属との接合面の防錆性を高めるために消石灰と体積充填材として硫酸バリウムを用いた。
これら繊維基材と充填材を結合保持するフェノール樹脂には粉末状ノボラック型樹脂を用いた。
これらの原料は最初に本発明の繊維加工物或いはアラミドパルプをビーター中にいれ叩解、離解した後、チタン酸カリウムウィスカ、セラミックウール、カシューダスト、三硫化アンチモン、黒鉛、消石灰、硫酸バリウム、粉末状ノボラック型樹脂の順に加えて離解混合した。次いでこの粉状混合物を予備成形金型に入れ常温で20MPaの圧力で1分間加圧してパッド状の摩擦材予備成形物を形成した。
次いでこの摩擦材予備成形物を予め表面にフェノール樹脂系接着剤を塗布したベースの金属版と貼り合わせ熱成形金型にセットし、45MPaの加圧圧力、150℃の温度で15分間熱成形した。その後、引き続き250℃で120分間熱処理して供試用ディスクブレーキ用パッドを得た。
〔評価方法〕 本発明によるフェノール樹脂系繊維加工物の粉体保持機能、成形品中の材料偏在防止性能を評価するため、予備成形金型に入れ常温で20MPaの圧力で1分間加圧してパッド状の摩擦材予備成形物としたパッドを2mm間隔で削り、表面の状態を観察、フェノール樹脂系繊維の塊やその他材料の偏在の有無を目視にて観察し、直径1mm以上の塊状物の個数を調査した。
耐摩耗性についてはJASO−C406−82に準じて第二抗力時の制動試験を行い、1000回制動時の摩耗率(×10ー 3mm2 /N・m)を測定した。また、相手材への攻撃性に関しては上記の1000回制動時の摩耗量(μm)を測定した。摩擦係数は第二抗力試験時の100回の平均で表した。
試験条件は以下の通りである。
使用キャリパーブレーキ形式;ST−170
イナーシャ; 5.0Kg・m・s2
初速度 ; 50Km/hr
減速度 ; 3m/s2
【0049】
[実施例1]
平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.17mm、孔数200からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を550m/秒として単糸デニール1.4d(平均繊維径10μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとしてギロチンカッターで50mmにカットして反応容器にいれ、これを塩酸10重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。
その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗した。
このステープル状繊維を乾燥させた後、孔径0.8mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕し、平均繊維長150μmのフェノール樹脂系短繊維を得た。
これとは別に平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.2mm、孔数250からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を400m/秒として単糸デニール2d(平均繊維径14μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとして反応容器にいれ、これを塩酸15重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗しフェノール樹脂系繊維束を得た。
このフェノール樹脂系繊維束を、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした後、ロータリーカッターにて直ちに3mmにカットした。
次いで前述のフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.7重量%(固形分換算)を含む水溶液を前述の3mmカット品に対して重量で1:1になるよう混ぜ合わした後、乾燥炉で180℃、20分の熱処理を行い完全に硬化を完了させた。次いでこれを孔径3.0mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、繊維束の屈曲点の内、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体がアコーディオン状に広がった繊維集合体を形成しており、しかも繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は極めて嵩高く見かけの嵩比重は0.04であった。次いで、表1の処方で前述の〔サンプル パッド〕で示した通りの方法で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0050】
[実施例2]
平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.17mm、孔数200からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を550m/秒として単糸デニール1.4d(平均繊維径10μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとしてギロチンカッターで50mmにカットして反応容器にいれ、これを硫酸12重量%、ホルムアルデヒド15重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。
その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗した。
このステープル状繊維を乾燥させた後、孔径0.8mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕し、平均繊維長150μmのフェノール樹脂系短繊維を得た。
これとは別に平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.2mm、孔数250からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を400m/秒として単糸デニール2d(平均繊維径14μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとして反応容器にいれ、これを塩酸15重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗しフェノール樹脂系繊維束を得た。
前述のフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の割合で水溶液を作成した。
これに先程のフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした。この際、ニップロールでの絞り後のピックアップ量は50%であった。引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、繊維束の屈曲点の内、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体がアコーディオン状に広がった繊維集合体を形成しており、しかも繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は極めて嵩高く見かけの嵩比重は0.04であった。次いで、表1の処方で前述の〔サンプル パッド〕で示した通りの方法で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0051】
[実施例3]
実施例2と同じフェノール樹脂系繊維加工物を用い、試験摩擦材を作る際の配合比を変え、繊維素材に芳香族アラミドを本発明のフェノール樹脂系繊維加工物と1:1の比で加え試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
本発明のフェノール樹脂系繊維加工物を使用する代わりに芳香族ポリアミド繊維を使用すること以外は実施例2と同じ配合にて試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
本発明のフェノール樹脂系繊維加工物を使用する代わりに単純に5mmカットしたフェノール樹脂繊維を使用すること以外は実施例2と同じ配合にて試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0054】
[比較例3]
実施例2で使用したフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の割合で水溶液を作成した。
これに実施例2で使用したフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、捲縮加工を行わず、ニップロール後で、ピックアップ量は50%になるよう絞るだけにし、引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体が広がった繊維集合体を形成し、繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は実施例2に比べると嵩高性がなく、見かけの嵩比重は0.11であった。次いで、実施例2と同処方で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0055】
[比較例4]
水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の水溶液を作成した。
これに実施例2で使用したフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした。この際、ニップロールでの絞り後のピックアップ量は50%であった。引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体が広がった繊維集合体を形成していることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は実施例2に比べると嵩高性がなく、見かけの嵩比重は0.15であった。次いで、実施例2と同処方で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【発明の効果】
以上のように本発明のフェノール樹脂系繊維加工物は粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能に加え、耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめ、更に、摩擦材に用いた場合には相手攻撃性を高めることなく芳香族ポリアミド繊維の欠点であった耐摩耗性の低さを改善でき、その工業的価値は多大なるものがある。
【発明が属する技術分野】
本発明は粉体等の形状を有する他の材料と混合・成形するための繊維素材として有用なフェノール樹脂系繊維加工物、及びこの繊維加工物を配合して成る鉄道車両、自動車、産業機械等に使用される摩擦材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェノール樹脂系繊維はその原料であるフェノール樹脂の特徴である耐熱性、耐薬品性を有する為、成型材に特性を付与させる場合の有望な繊維素材の一つとして挙げられる。しかしながら、粉体保持機能がなく材料混合時のハンドリングが困難で、更に成形品中の材料偏在が発生するなど重大な問題がある。更に極端な場合には材料混合時にフェノール樹脂系繊維同士が凝集し合い固い球状の塊が発生すること、一度発生した塊は簡単には崩れないなどが原因で、十分な特性が得られない場合や、あるいは製造そのものが不可能な事態につながり、このことが繊維素材としての幅広い適用を阻害してきた。
【0003】
例えば、繊維素材を粉体等の他材料と配合・成形する用途として、摩擦材を挙げて説明する。自動車等に使用されるブレーキにはディスクブレーキ、ドラムブレーキの2タイプがあり、この中にはパッドやライニングの形で摩擦材が使用されている。ブレーキ部品は重要保安部品であり、安全確保のためにも高い信頼性を要求されるが、自動車の高速化・重量化によりますます高性能化をもとめられている。
【0004】
これら摩擦材は自動車の運動エネルギーを摩擦により熱に変換する役割を担っているため、制動時に発生する摩擦熱に対する耐熱性と同時に、走行安定性の見地から、温度や天候によらず一定の摩擦特性を発揮すること、更に長期に亘って特性変化の少ない優れた耐摩耗性や制動時にノイズを発生しないなどの総合的な特性を同時に要求される。
【0005】
この要求を満たすため、摩擦材は各種素材を組合せて使用している。即ち、摩擦材は▲1▼形状を保持させるための繊維素材、▲2▼繊維素材同士を結合させる樹脂成分、▲3▼繊維素材と樹脂成分中に分散して特性の調整に用いられる充填材の三素材の組合せにより成っている。
【0006】
ここで▲2▼の樹脂成分としては優れた耐熱性を有することからフェノール樹脂が使われている。また、▲3▼の充填材は耐摩耗性や耐熱性の調整、摩擦係数の安定化、体積充填などの目的に応じて種々組合されている。
【0007】
ところで、▲1▼の繊維素材であるが、これには摩擦材の骨格を形成し摩擦材全体の割れや剥離を防いだり、摩擦材全体の強度や弾性を与え得る、最も重要な役割を担っている。この目的のためには以前には石綿繊維(アスベスト)が使われてきた。石綿は鉱物天然繊維であり、強靭で弾力及び屈撓性に富み、何よりも良好な熱特性、即ち、不燃性かつ耐熱性が特徴である。しかも絡みが良いため、充填材を安定保持することも摩擦材用繊維素材として相応しいものであった。
【0008】
しかしながら、現在、石綿が人体の健康に対して悪影響を与えることは周知の事実であり、その使用に当たっては厳しい規制や制限があり、このため摩擦材分野でも他繊維素材へ置き換わりが進んできた。
【0009】
最近では有機繊維でありながら比較的高い耐熱性を有し、高い引張強度を持ち、しかもフィブリル化できる点で芳香族ポリアミド繊維が多用されるようになってきた。このようなフィブリル化芳香族ポリアミド繊維を繊維素材の主体とする摩擦材はフィブリルによる粉体保持機能により材料混合時のハンドリングが容易で成形品中の材料偏在が抑えられる製造上のメリットに加え、軽量であり、発錆がなく相手への攻撃性が少なくノイズの発生が少ないなど摩擦材の特性面でのメリットも大きい。
【0010】
しかしながら、芳香族ポリアミド繊維は極めて結晶性が高く、繊維軸方向には高い引張強力をもつものの、繊維軸と垂直方向に圧縮力を加えることでキンクバンドと呼ばれる結晶部の滑りが発生する。このことは、芳香族ポリアミド繊維を用いた摩擦材は硬度が低く、比較的軟質であること、耐摩耗性が低いなどの欠点として現れる。
【0011】
耐摩耗性は摩擦材の重要特性の一種であり、特に高速、重量化の進む現在の自動車を始めとする車輌にとってはますます重要とされる項目である。
【0012】
そのため耐摩耗性を高めるため、摩擦材中の充填材として黒鉛や二硫化モリブテン等の固体潤滑剤を多く混入させる方法が考えられる。ところが固体潤滑剤を増やすことで耐摩耗性は向上するものの、これに伴って摩擦係数が低下するため根本的解決には成り得ない。
【0013】
これに対し、繊維素材の主材として芳香族ポリアミド繊維以外を使用する方法もある。例えば、スチール繊維を用いたセミメタリック系摩擦材の効果が開示されている(例えば、特許文献1参照)。セミメタリック系摩擦材は硬度の高い金属繊維のため耐摩耗性に優れる一方、比較的高い摩擦係数を得ることができる。しかし、一方で重量増加の問題や、発錆、更には同種金属の相手材への攻撃性が高くなり摩耗させやすいという欠点を有しているうえ、制動時の鳴きが発生する問題がある。特許文献1ではこの問題に対して黒鉛と金属硫化物とを特定の比率で配合することにより鳴きの改善を図るとしているが、この対策は基本的に摩擦係数を低下させる欠点を含んでいる。
【0014】
【特許文献1】
特開平2−117985号公報
【0015】
そこで、この石綿代替材料としてフェノール樹脂系繊維を考えた場合、フェノール樹脂系繊維はその優れた耐熱性、耐薬品性、断熱性から石綿代替として十分なる素質を持つうえ、摩擦材で一般的に用いられる繊維素材同士のバインダー樹脂成分がフェノール樹脂からなるため相互の接着性が高く優れた強度を持つことが知られていた。
【0016】
然るにこのフェノール樹脂系繊維が芳香族ポリアミド繊維と大きく異なる点はフィブリル化しないことである。このため、前述の如く粉体保持機能がなく材料混合時のハンドリングが困難で、更に成形品中の材料偏在が発生するなど、製造上重大な問題があることがその適用を阻害してきた。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
フェノール樹脂系繊維を粉体等の形状を有する他の材料と混合・成形する用途において、フェノール樹脂系繊維を用いることで耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめることが望まれているが、一方でフェノール樹脂系繊維を均一分散させることが困難であった事実に鑑み、本発明者らが鋭意検討を進めてきた結果、遂に完成に至ったのである。即ち、その課題とするところは、粉体保持機能・材料混合時のハンドリングの容易さ・成形品中の材料偏在防止性能に加え、耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめる繊維加工物を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは先ず、フェノール樹脂系繊維を混合した場合に凝集し合い固い球状の塊が発生する現象と、繊維の物性及び構造との関係を調査研究した。フェノール樹脂系繊維とは対照的に混合の容易な芳香族ポリアミド繊維は結晶性が高く、すなわち、繊維軸に沿って直鎖状分子が平行して整然と配された構造となっている。この直鎖状分子間の結合は化学的な結合ではなく分子間力等の物理的な結合で引き合っているに過ぎない。この結果、強度については繊維軸方向について強く、繊維軸と垂直方向には弱いという異方性を強く示す。このため混合機あるいは叩解機等で激しく叩くと繊維が縦に裂けて微細な繊維に分割される所謂フィビリル化現象を起こす。一旦フィブリル化した繊維は更に叩かれるうちに主繊維軸の周囲に細かくカールした微細繊維が取り囲む形態となり、繊維同士が接触してもこのフィブリル化微細繊維が反発し合って絡み合うことは無い。一方、フェノール樹脂系繊維はその分子構造が3次元綱目構造であり加えて非晶性であることから繊維中に整然とした分子構造は持たず、この結果、強度については繊維軸方向及び繊維軸垂直方向とも略等方性である。従ってフェノール樹脂系繊維は激しく叩かれてもランダムに砕けるだけでフィブリル化することは無い。
【0019】
このフェノール樹脂繊維が凝集し合い固い球状の塊が発生することについては、発明者らが実験を繰り返し得た推測により次のように考えられる。先ず、混合の初期においては繊維同士が接触・離合を繰り返すが、傾向としては比較的表面エネルギーの高いフェノール樹脂系繊維は纏まって、すなわち表面積を少なくして全体的にエネルギーレベルを下げる様、凝集して不規則形の小規模の核を形成する。これが混合中に壁や他成分とぶつかり合う内、更に大きく成長すると同時に球状に成形される。この状態では比較的柔らかい塊状であるが、更にぶつかり合い、塊の外側から内側に向かう力で周囲全体を押されることでフェノール樹脂系繊維は塊の中心に向かって深く突き刺さるようになる。なぜならばフェノール樹脂系繊維は芳香族ポリアミド繊維のように主繊維軸の周囲に物理的抵抗となる微細繊維がなく、その繊維表面は極めて平滑であることから、押されれば針が突き刺さるよう抵抗なく中心に向かって入り込む。この結果、塊は徐々に強固なものとなってゆくのである。
【0020】
以上の推測に基づき、本発明者らは、繊維が固い球状の塊を形成し難くするためには繊維の物理的形状が重要であること見出し、更にどの形状が最適であるかに加え、他材料と共に混ぜた場合の保持性を確かめる試験を繰り返し行い、ついに次の方法が最適であることを見出したのである。即ち、20ヶ/インチ以上50ケ/インチ未満の捲縮を付与した直径5μm以上50μm未満のフェノール樹脂系繊維束を主体骨格として、その繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着して成り、この主体骨格に繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された集合体状をなし、その集合体の大きさが直径10mm以下である繊維加工物とすることで耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめる一方で、フェノール樹脂系繊維を均一に材料中に分散させることが可能で、芳香族ポリアミド繊維同様の粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を付与できるのである。更にこのフェノール樹脂繊維加工物を、芳香族ポリアミド繊維に替えて摩擦材に用いることで、芳香族ポリアミド繊維の欠点であった耐摩耗性の低さを改善できるのである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。本発明に用いるフェノール樹脂系繊維は酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物を適切なる方法で繊維化したものである。本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるフェノール類としては、アルデヒド類と酸性あるいは塩基性触媒下で反応させてフェノール樹脂が得られるフェノール類であれば以下に例示したフェノール類に限定されるものではないが、例えばフェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、m−プロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2−メチルレゾルシノール、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジメチルレゾルシノール、2−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−エチルレゾルシノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、2−プロペニルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−ピロポキシフェノール、2−アリルフェノール、3,4,5−トリメトキシフェノール、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4−ベンゼントリオール、5−イソプロピル−3−メチルフェノール、4−ブトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、4−t−ペンチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3−フェノキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−へキシルオキシフェノール、4−ヘキサノイルレゾルシノール、3,5−ジイソプロピルカテコール、4−ヘキシルレゾルシノール、4−ヘプチルオキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ジ−sec−ブチルフェノール、4−クミルフェノール、ノニルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、4−シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが使用可能であり、また使用にあたっても該フェノール類単体でも混合物でも良い。このうちフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、4−フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、更にフェノールは最も好ましい。
【0022】
次に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド或いはこれらの混合物等が挙げられる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0023】
更に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される塩基性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
これらフェノール樹脂からの繊維化の方法であるが、一例を挙げれば、使用する樹脂がノボラック樹脂であれば一般的な溶融紡糸装置にて紡糸し、これにより得られた未硬化ノボラック繊維を塩酸、硫酸、燐酸、シュウ酸をはじめとする前述のフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒とホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサン等、前述のフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類との混合水溶液に浸漬し、常温から徐々に昇温し、更に沸点近くで数時間保持することで硬化処理せしめる一般的な方法や、または上記水溶液に浸漬した未硬化ノボラック繊維を昇温初期の段階で取り出し、繊維の外周部のみを予備的に硬化した後、次いで例えばアンモニア、ヘキサメチレンテトラモン、尿素、水酸化カリウム等、前述のフェノール樹脂を得るために使用されるの塩基性触媒と上記アルデヒド類との混合水溶液にて繊維の内部まで更に硬化を行う方法も可能である。更には前述した方法での硬化反応の後、水洗乾燥後、窒素・ヘリウム・炭酸ガス等の不活性ガス中100℃〜300℃の温度で加熱することにより硬化させる方法等、公知の硬化処理方法を行うことができ、硬化処理が終了した時点で充分な強度を持ったフェノール樹脂系繊維となる。
【0026】
一方、使用する樹脂がレゾール型フェノール樹脂の場合には、例えば一定粘度に調整した液状レゾール型フェノール樹脂に塩酸や硫酸のような硬化速度を速める酸を混合し、これを過熱された流動するポリプロピレングリコールなどの媒体中に投入して繊維化し硬化反応を行う方法や、レゾール型フェノール樹脂をアセトンのような溶剤に溶解し、これを乾式法で紡糸した後熱処理する方法、あるいは常温で液状のレゾール型フェノール樹脂に硬化触媒として酸を混合し、この紡糸原液を遠心式で高温空気中に紡糸する方法など公知の方法で繊維化することでフェノール樹脂系繊維ができる。
【0027】
但し、上記記載のレゾール型フェノール樹脂からの繊維製造方法では、一定の繊維径の繊維を安定して、長期連続的に生産することが難しいことから、ノボラック樹脂からの溶融紡糸による繊維製造法が望ましいと言える。
【0028】
これらの方法にて得られたフェノール樹脂系繊維はフェノール核がメチレン結合或いは一部メチロール結合によって三次元綱目構造をもった繊維状高分子となっている。このフェノール樹脂系繊維は熱不融性であり耐熱性は芳香族ポリアミドより高く、また耐薬品性に優れ、燃焼ガスの毒性が低い等優れた特性を有している。
【0029】
本発明ではフェノール樹脂系繊維の形状を特に規制するものではなく、例えば任意長にカットしたステープル状でも、マルチフィラメント状でもトウ状でも良いが、本発明の一つの要件である捲縮処理を行うことを考慮するとトウ状での処理が望ましい。
【0030】
処理工程については順序を特に規制するものではないが、ここでは一般的な方法を例にして説明する。先ず、前述のいずれかの方法で得た単繊維直径5μm以上50μm未満のトウ状フェノール樹脂系繊維束の捲縮処理を行う。捲縮の方法は特に限定されるものではなく、例えばスタッフィングボックス中に押し込み座屈を生じさせる一般的なスタッフィングボックス式や一対の噛み合わせギアの間に押力を加えながら挟み込み機械的に凹凸を付ける、所謂ギアクリンプ方法などが可能であるが、繊維強度の低下、切断などを生じさせる恐れの少ないスタッフィングボックス式が望ましい。この捲縮処理は特殊な設備を必要としない。また、トウを集束させてスタッフィングボックスに押し込む直前でスチーム加熱を行うなどの定法に従い処理すれば良い。スタッフィングボックスへの投入総デニール数はスタッフィングボックスの幅に応じて決定するが、8〜25万デニール/インチになるように調整するのが良く、一般的には15万〜20万デニール/インチが望ましい。尚発明では20ヶ/インチ以上、50ヶ/インチ未満の捲縮を付与することが特徴となっており一般の紡績あるいはフェルト用途の捲縮に比べると非常に細かな捲縮であることが特徴である。このためには通常に比べ、かなり高いスタッフィング圧をかけるなどの工夫が必要である。以上の操作により高次の捲縮を掛けられたトウができるが、これが本発明で言うところのフェノール樹脂系繊維束である。
【0031】
本発明ではこのフェノール樹脂系繊維束に、繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系短繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合していることが必要である。このためには先ず前述のようにノボラック樹脂あるいはレゾール樹脂から直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系繊維を作り、これを目的の繊維長5μm以上500μm未満にすることが必要である。このためには例えばフェノール樹脂系繊維をクラッシャー、パルペライザー、ジェットミル等既存の設備を用いて処理することが可能である。
【0032】
続いて、前述のフェノール樹脂系繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着する方法、並びに繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系短繊維をフェノール樹脂系繊維束間に非規則的に多数結合される方法については種々の方法が考えられるが、一般的には次のような方法が望ましい一例である。フェノール樹脂系繊維束間及びフェノール樹脂系短繊維をフェノール樹脂系繊維束に接着するために用いるフェノール樹脂としては水溶性レゾール型フェノール樹脂が適切である。この水溶性レゾール型フェノール樹脂とフェノール樹脂系短繊維を同浴にて水溶液とする。おのおのの含有重量は目的に応じて変更する必要があるが、一般的には乾燥後に、元の繊維束に対して重量%で水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.1〜10%、フェノール樹脂系短繊維が0.5〜5%の付着量が望ましく、更には水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.1〜1%、フェノール樹脂系短繊維が0.2〜2%、がより望ましい。
【0033】
この水溶液に前述で示した方法で作成した捲縮処理済みのフェノール樹脂系繊維束を浸漬し、ニップローラーで搾液するが、この際の含有液量は乾燥繊維束の重量100に対し10〜50部、好ましくはて20〜40部で充分である。尚、処理中に水溶液中のフェノール樹脂系短繊維が沈降しないよう攪拌翼にて連続的に攪拌するか、強制的に液を循環させるなどの対応が望ましい。
【0034】
引き続き、この樹脂液を含浸したフェノール樹脂系繊維束を乾燥・熱処理する。その条件としてはフェノール樹脂が硬化するよう100℃以上250℃未満、より好ましくは130℃以上200℃未満で20分から60分処理することが適切である。
【0035】
上述の例示では先に捲縮処理済みのフェノール樹脂系繊維束を用意しておき、次いでこれを、フェノール樹脂系短繊維を含む樹脂溶液に浸漬して搾液する方法を示したが、何もこの方法に限定される訳ではなく、例えばこれらの工程を連続的に行う方法や、捲縮処理をする前にフェノール樹脂系短繊維を含む樹脂溶液に浸漬する方法、あるいはフェノール樹脂系短繊維と水溶性レゾール樹脂溶液を別々に付与する方法など、設備に応じて変更することは差し支えない。
【0036】
ここまでの処理でフェノール樹脂繊維束間がフェノール系樹脂で部分的に接着され、しかもこの繊維束にフェノール樹脂系短繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された形状となっている。
【0037】
続いてこの繊維束を大きさが直径1mm以上5mm未満の集合体とする必要がある。この目的のための処理方法は特定なものに限定される訳ではなく、種々の方法が考えられる。例えば、繊維束を1mm以上5mm未満の一定の繊維長になるようカッターにて切断した後、ビーター等の叩解力を持つ機器を用いて叩解させる方法や或いは、繊維束を1φ〜5φの孔径のスクリーンを有する粉砕機で直接粉砕する方法などが有効である。
【0038】
以上の操作を行ったものは極めて特徴的な構造体となる。即ち、繊維束は極めて細かく捲縮がかかった屈曲に富んだ形状となっている。例えば捲縮数25ケ/インチの場合1mmの中に2ケの折れ曲がりを持った形状となっている。しかもこの繊維束は部分的にフェノール系樹脂で接着されており、これがビーター等で叩解されることで屈曲点が部分的につながりながら解繊されたアコーディオン状に広がりをもった形状となっている。
【0039】
しかも、繊維束にはフェノール樹脂系短繊維が多数、ランダムに結合された構造となっている。
【0040】
本発明ではこの部分接着用フェノール系樹脂の付着量が重要であり、樹脂付着量が0.5%以下では叩解の際、屈曲点同士をつなぐ効果はなくバラバラになる。逆に10%を超えると繊維束間が強固に接着されるため叩解工程を通しても解繊されない。更に叩解を繰り返すと全体が粉砕される結果となる。
【0041】
本発明で得られる繊維加工物は、先に説明した芳香族ポリアミドに見られるように、繊維軸の周囲に細かくカールした微細繊維が取り囲む形態と同様の効果を持った構造を有し、繊維同士が接触しても繊維が反発し合って絡み合うことは無い。更に塊の外側から内側に向かう力で周囲全体を押されても繊維束に付着したフェノール樹脂系短繊維が抵抗となり、繊維束が突き刺さることは防止できるのである。
【0042】
しかも、本発明の加工物では繊維の間が空隙となっており、この中に摩擦材製造の際に同時に混合される充填材類を抱き込む効果を持つため、この面でも芳香族ポリアミド同様、高い粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能を有するものである。更に加えるにフェノール樹脂系繊維は芳香族ポリアミド以上に優れた耐熱性、耐薬品性、断熱性を有し、このフェノール樹脂系繊維を摩擦材用の繊維素材として用いた場合には繊維素材同士を結合させる樹脂成分がフェノール樹脂からなるため相互の接着性が高く、したがって、制動時の強力なずり応力が加わっても脱落することが少なく、結果として芳香族ポリアミド繊維の場合とは異なり、優れた強度を持ち、尚且つ高い耐摩耗性を有する高性能の摩擦材となり得るのである。
【0043】
本発明の摩擦材においては、フェノール樹脂系繊維加工物を配合すること以外は従来と同様である。即ち、バインダーとしてフェノール樹脂、無機・有機の充填材、更にフェノール樹脂系繊維加工物以外の繊維素材として無機・有機・金属繊維等を用いるなど従来の方法が適用できる。バインダーとしてのフェノール樹脂は特に制限されるものではなく、例えば、酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類を反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類を反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらを複数混合して使用することができる。充填材としては硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体積充填材の他に、グラファイト、二硫化モリブテン、三硫化アンチモン等の固体潤滑材を使用することができる。また、主に熱伝導性を向上するための銅紛・亜鉛紛・真鍮紛等の金属紛、摩擦係数を向上させるためのシリカ・アルミナ・珪酸ジルコニウム(ジルコン)等のアブレッシブ材、あるいはその他の摩擦調整のための無機質の添加材等を適宜使用することが可能である。
【0044】
また、鳴き特性向上のための充填材としては加硫ゴムの粉砕物であるゴムダストが知られているが、有機物であるゴムダストは耐熱性が低いために、その過度の使用は耐フェード性の点から好ましくなく、代替として変性カシューダスト等や無機の充填材等の適切な配合による改善が望ましい。
【0045】
本発明の繊維加工物以外の繊維素材としてはシリケート繊維・アルミナ繊維・チタン酸カリウム繊維またはウィスカ・ロックウール・スラグウール・カーボン繊維あるいはガラス繊維等の無機繊維や、スチール繊維・ステンレススチール繊維・銅繊維・真鍮繊維等の金属繊維、またはアラミド繊維・レーヨン繊維等の有機繊維を求められる特性に応じて適宜調整して使用することも可能である。
【0046】
尚、本発明において配合するフェノール樹脂系繊維加工物の含有量は摩擦材中に3〜30重量%であることが必要である。3重量%以下では粉体保持機能・材料混合時のハンドリングの容易さ・成形品中の材料偏在防止性能が充分ではなくまた製品の耐熱性や強度などの諸特性が低下する。一方、30重量%以上では材料混合時の比重差による分離、仮成形時のスプリングバック等の問題が発生し易くなる。
【0047】
本発明の摩擦材は、例えばフェノール樹脂・本発明のフェノール樹脂系繊維加工物・カシューダスト等の有機・無機充填材、更に必要に応じてその他の繊維基材等の補助材料を加えて混合し、この混合物を予備成形した後、加熱加圧成形する等の従来からの通常方法によって製造することができるのである。
【0048】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
〔サンプル パッド作成〕 表1に示す配合組成で実施例1〜3、比較例1〜4の摩擦材を作成した。これらは自動車用ディスクパッドとして試作した。
尚、これらの成分の持つ目的は、摩擦材の骨格を形成する繊維状成分として本発明の繊維加工物とフィブリル化したアラミドパルプを用い、充填材として耐熱強度と耐摩耗性を向上させるためにチタン酸カリウムウィスカと耐熱強度と摩擦係数を保持するためのセラミックウール、摩擦性能調整剤としてカシューダスト、三硫化アンチモン、黒鉛は固体潤滑剤として用いた。また摩擦材をアルカリ性に保持し、ベースの金属との接合面の防錆性を高めるために消石灰と体積充填材として硫酸バリウムを用いた。
これら繊維基材と充填材を結合保持するフェノール樹脂には粉末状ノボラック型樹脂を用いた。
これらの原料は最初に本発明の繊維加工物或いはアラミドパルプをビーター中にいれ叩解、離解した後、チタン酸カリウムウィスカ、セラミックウール、カシューダスト、三硫化アンチモン、黒鉛、消石灰、硫酸バリウム、粉末状ノボラック型樹脂の順に加えて離解混合した。次いでこの粉状混合物を予備成形金型に入れ常温で20MPaの圧力で1分間加圧してパッド状の摩擦材予備成形物を形成した。
次いでこの摩擦材予備成形物を予め表面にフェノール樹脂系接着剤を塗布したベースの金属版と貼り合わせ熱成形金型にセットし、45MPaの加圧圧力、150℃の温度で15分間熱成形した。その後、引き続き250℃で120分間熱処理して供試用ディスクブレーキ用パッドを得た。
〔評価方法〕 本発明によるフェノール樹脂系繊維加工物の粉体保持機能、成形品中の材料偏在防止性能を評価するため、予備成形金型に入れ常温で20MPaの圧力で1分間加圧してパッド状の摩擦材予備成形物としたパッドを2mm間隔で削り、表面の状態を観察、フェノール樹脂系繊維の塊やその他材料の偏在の有無を目視にて観察し、直径1mm以上の塊状物の個数を調査した。
耐摩耗性についてはJASO−C406−82に準じて第二抗力時の制動試験を行い、1000回制動時の摩耗率(×10ー 3mm2 /N・m)を測定した。また、相手材への攻撃性に関しては上記の1000回制動時の摩耗量(μm)を測定した。摩擦係数は第二抗力試験時の100回の平均で表した。
試験条件は以下の通りである。
使用キャリパーブレーキ形式;ST−170
イナーシャ; 5.0Kg・m・s2
初速度 ; 50Km/hr
減速度 ; 3m/s2
【0049】
[実施例1]
平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.17mm、孔数200からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を550m/秒として単糸デニール1.4d(平均繊維径10μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとしてギロチンカッターで50mmにカットして反応容器にいれ、これを塩酸10重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。
その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗した。
このステープル状繊維を乾燥させた後、孔径0.8mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕し、平均繊維長150μmのフェノール樹脂系短繊維を得た。
これとは別に平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.2mm、孔数250からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を400m/秒として単糸デニール2d(平均繊維径14μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとして反応容器にいれ、これを塩酸15重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗しフェノール樹脂系繊維束を得た。
このフェノール樹脂系繊維束を、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした後、ロータリーカッターにて直ちに3mmにカットした。
次いで前述のフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が0.7重量%(固形分換算)を含む水溶液を前述の3mmカット品に対して重量で1:1になるよう混ぜ合わした後、乾燥炉で180℃、20分の熱処理を行い完全に硬化を完了させた。次いでこれを孔径3.0mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、繊維束の屈曲点の内、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体がアコーディオン状に広がった繊維集合体を形成しており、しかも繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は極めて嵩高く見かけの嵩比重は0.04であった。次いで、表1の処方で前述の〔サンプル パッド〕で示した通りの方法で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0050】
[実施例2]
平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.17mm、孔数200からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を550m/秒として単糸デニール1.4d(平均繊維径10μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとしてギロチンカッターで50mmにカットして反応容器にいれ、これを硫酸12重量%、ホルムアルデヒド15重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。
その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗した。
このステープル状繊維を乾燥させた後、孔径0.8mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕し、平均繊維長150μmのフェノール樹脂系短繊維を得た。
これとは別に平均分子量1020のノボラック型フェノール樹脂を孔径0.2mm、孔数250からなる外周ピッチサークル径80mmφの円周配列型ノズルを用いてノズル温度150℃にて紡糸した。このときの紡糸速度を400m/秒として単糸デニール2d(平均繊維径14μm)の未硬化繊維フィラメント束を得た。この繊維束を集束して16万デニールとして反応容器にいれ、これを塩酸15重量%、ホルムアルデヒド12重量%の25℃混合水溶液にいれ、10分間静置した。続いて25℃から95℃までを3時間で昇温し、更に95℃に保ったまま5時間維持した。その後反応容器を冷却した後、繊維を取り出し十分に水洗した後、70℃、3%のアンモニア水にて残留酸を中和し、再び十分に水洗しフェノール樹脂系繊維束を得た。
前述のフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の割合で水溶液を作成した。
これに先程のフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした。この際、ニップロールでの絞り後のピックアップ量は50%であった。引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、繊維束の屈曲点の内、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体がアコーディオン状に広がった繊維集合体を形成しており、しかも繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は極めて嵩高く見かけの嵩比重は0.04であった。次いで、表1の処方で前述の〔サンプル パッド〕で示した通りの方法で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0051】
[実施例3]
実施例2と同じフェノール樹脂系繊維加工物を用い、試験摩擦材を作る際の配合比を変え、繊維素材に芳香族アラミドを本発明のフェノール樹脂系繊維加工物と1:1の比で加え試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
本発明のフェノール樹脂系繊維加工物を使用する代わりに芳香族ポリアミド繊維を使用すること以外は実施例2と同じ配合にて試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
本発明のフェノール樹脂系繊維加工物を使用する代わりに単純に5mmカットしたフェノール樹脂繊維を使用すること以外は実施例2と同じ配合にて試験摩擦材を作成した。この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0054】
[比較例3]
実施例2で使用したフェノール樹脂短繊維を1重量%、水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の割合で水溶液を作成した。
これに実施例2で使用したフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、捲縮加工を行わず、ニップロール後で、ピックアップ量は50%になるよう絞るだけにし、引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体が広がった繊維集合体を形成し、繊維束に短繊維が不規則にしかも多数接着されていることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は実施例2に比べると嵩高性がなく、見かけの嵩比重は0.11であった。次いで、実施例2と同処方で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0055】
[比較例4]
水溶性レゾール型フェノール樹脂が1.7重量%(固形分換算)の水溶液を作成した。
これに実施例2で使用したフェノール樹脂系繊維束を浸漬したのち、スタッフィングボックスの幅が25mmの試験クリンパーにて捲縮数が30ケ/インチになるよう捲縮加工をした。この際、ニップロールでの絞り後のピックアップ量は50%であった。引き続き180℃で20分の熱処理を行った。完全に硬化が終了していることを確認した後、約30mmにカットし、次いで孔径4.5mmのスクリーンを有する粉砕機で粉砕した。
取り出した粉砕品を顕微鏡で観察したところ、ところどころがフェノール樹脂により接着した構造となっており、全体が広がった繊維集合体を形成していることが分かった。繊維集合体の大きさは長径で2〜4mmの大きさであった。この繊維集合体は実施例2に比べると嵩高性がなく、見かけの嵩比重は0.15であった。次いで、実施例2と同処方で試験摩擦材を作成した。
この試験摩擦材を用いての試験結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【発明の効果】
以上のように本発明のフェノール樹脂系繊維加工物は粉体保持機能、材料混合時のハンドリングの容易さ、成形品中の材料偏在防止性能に加え、耐熱性や強度などの諸特性を良好ならしめ、更に、摩擦材に用いた場合には相手攻撃性を高めることなく芳香族ポリアミド繊維の欠点であった耐摩耗性の低さを改善でき、その工業的価値は多大なるものがある。
Claims (5)
- 直径5μm以上50μm未満のフェノール樹脂系繊維束を主体骨格として、その繊維束間をフェノール系樹脂で部分的に接着して成り、この主体骨格に繊維長5μm以上500μm未満、直径5μm以上30μm未満のフェノール樹脂系短繊維がフェノール系樹脂により非規則的に多数結合された集合体状をなし、その集合体の大きさが直径1mm以上5mm未満であることを特徴とするフェノール樹脂系繊維加工物。
- フェノール樹脂系繊維束に20ヶ/インチ以上、50ヶ/インチ未満の捲縮を付与することを特徴とする請求項1に記載のフェノール樹脂系繊維加工物。
- 接着用フェノール系樹脂の付着量が繊維加工物に対して重量で0.1%以上10%未満であることを特徴とする請求項1に記載のフェノール樹脂系繊維加工物。
- 請求項1から3に記載のフェノール樹脂系繊維加工物と、フェノール樹脂からなるバインダー及び有機充填材、無機充填材を配合して成ることを特徴とする摩擦材。
- 請求項1から3に記載のフェノール樹脂系繊維加工物の含有量が摩擦材中に3〜30重量%であることを特徴とする請求項4に記載の摩擦材。
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- 2002-11-20 JP JP2002336213A patent/JP2004169222A/ja active Pending
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