JP2004169218A - 消臭複合繊維 - Google Patents

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Hitoshi Nakatsuka
均 中塚
Nobuhiro Koga
宣広 古賀
Kazuhiko Tanaka
和彦 田中
Masao Kawamoto
正夫 河本
Shuhei Ishino
修平 石野
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Abstract

【課題】塩基性臭気成分、中性臭気成分、酸性臭気成分等の種々の臭気成分を効率的、また長期に亘って除去でき、抗菌性をも有する繊維を提供する。
【解決手段】四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有するポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とする消臭複合繊維。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカーペット、カーテン、病院用シーツ、おしめ、ワイピングクロス、衣料用素材等、臭気を嫌う用途に使用可能な消臭繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
合成繊維の中でポリエステル繊維、ポリアミド繊維等は優れた寸法安定性、耐薬品性、強度、耐久性等の点から衣料素材のみならず、生活資材素材として不可欠なものとなっている。しかしながら、使用用途によってはさらに特殊機能の付与が望まれていた。たとえば、家庭、オフィス、病院等の生活環境において様々な悪臭に対する関心が高まり、カーペット、カーテン、病院用シーツ、おしめ等、悪臭を嫌う用途ではできるだけ原因となる悪臭(アンモニア、アミン類等の窒素含有化合物、硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄含有化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、吉草酸等の低級脂肪酸類などが含まれる)を軽減させる性能を保持している繊維および繊維製品が望まれていた。
【0003】
しかしながら、生活環境には前記窒素含有化合物等の塩基性臭気成分、硫黄含有化合物、アルデヒド等の中性臭気成分、低級脂肪酸等の酸性臭気成分などの種々の臭気成分が存在し、種類の異なる複数の成分を有効に除去することは困難であった。これらの臭気成分を除去するために、種々の消臭繊維が提案されている。たとえば、天然の針葉樹、広葉樹からの抽出物あるいは緑茶からの抽出物等を後加工により繊維製品の表面に付着させる方法が提案されているが、後加工により機能を付与せしめるために耐久性に問題があった。とくに繰り返し洗濯を実施した場合、あるいは繊維製品に染色処理を施した場合など消臭性能が極端に低下する問題があった。
【0004】
また、吸着剤を繊維に担持させた消臭繊維も提案されている。しかし、このような消臭繊維では吸着剤の吸着容量に限界があるので、臭気成分の吸着量が飽和吸着量に達すると消臭できなくなり、消臭性能の持続性に問題があった。また、金属フタロシアニンを担持した消臭繊維により触媒的に悪臭成分を分解する技術も提案されている(特許文献1、2参照)が、金属フタロシアニンの触媒活性が小さいために消臭効果は十分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−6985号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開昭62−6986号公報 特許請求の範囲
【0006】
さらに、耐久性を向上させる目的で、樹脂中に練り込む消臭剤として鉄の二価イオン化合物とL−アスコルビン酸を併合させたものがあるが、耐熱性が不十分であったり、悪臭成分を脱臭した後に変色を生じたりして繊維素材として特定の用途にしか使用できないという問題点があった。その他、消臭性成分としてリン酸ジルコニウム粒子を繊維中に練り込んだ消臭繊維(特許文献3参照)、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とで構成されたアモルファス構造のケイ酸亜鉛粒子を繊維中に練り込んだ消臭繊維(特許文献4参照)、TiとZnの水和酸化物系の白色微粉末を繊維中に練り込んだ消臭繊維(特許文献5参照)が提案されている。さらに四価金属の水不溶性リン酸塩、二価金属の水酸化物を含有する吸着性組成物を繊維中に複合または配合した消臭繊維も提案されている(特許文献6、7参照)。しかし、これらの消臭繊維は酸性臭気成分、塩基性臭気成分および中性臭気成分のすべての臭気成分に対して優れた消臭性能を示すものではない。
【0007】
【特許文献3】特開昭63−29571号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開平2−91209号公報 特許請求の範囲
【特許文献5】特開平2−80611号公報 特許請求の範囲
【特許文献6】特表平5−504091号公報 特許請求の範囲
【特許文献7】特開平6−47276号公報 特許請求の範囲
【0008】
また、ある程度の消臭性能を具備していても、臭気成分を含んでいる空気との接触面積が少ないと臭気成分を完全に消臭することができず、臭いに敏感な人にとって臭気(悪臭)が残るものとなり、不快感を拭いきれない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、塩基性臭気成分、中性臭気成分、酸性臭気成分等の種々の臭気成分を効率的、また長期に亘って除去できる繊維であって、かつ微量の臭気成分をも除去できる熱寸法安定性に優れた消臭繊維を提供することにある。あわせて、抗菌性をも有した消臭繊維を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有するガラス転移温度(Tg)65℃以下のポリエステル成分(A)と融点150℃以上の結晶性熱可塑性ポリマー成分(B)とから成る複合繊維であって、該成分(A)が該複合繊維の繊維周長の50%以上を占有することを特徴とする消臭複合繊維である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明においては、特に言及しない限り、光触媒および吸着剤の練り込みによる繊維への含有及び後加工による繊維表面への担持を含めて『含有』という。また周期表の族番号は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry )無機化学命名法委員会命名規則1970年版による。前述のように、四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化物で構成される組成物を単に「吸着剤」と称する場合があるとともに、該吸着剤と必要に応じて他の吸着剤とで構成される組成物を単に「吸着剤成分」と称する場合がある。また、光触媒と該吸着剤を合わせて「消臭剤」と称する場合がある。
【0012】
本発明の複合繊維においては、消臭剤を含有するA成分が繊維周長の50%以上を占有するので繊維の表層部の消臭剤の濃度を高めることができ臭気成分を効率よく除去でき、単一成分からなる繊維のように繊維全体に亘り消臭剤を含有する繊維に比較し、消臭剤の使用量を低減することができ、少ない消臭剤量で大きな消臭効果を奏することができる。単一繊維の場合、消臭剤の使用量は1〜25質量%の範囲が好ましいが、本発明においては、単一繊維と同じ程度の消臭効果を奏するためには、消臭剤の使用量はA成分の割合にもよるが、繊維全体に対して0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜7.5質量%、さらに好ましくは0.25〜5質量%の範囲にまで低減できる。
【0013】
複合繊維を構成するポリマーの種類はとくに限定されず、A成分とB成分と同じ種類のポリマーを用いても差支えない。勿論、消臭剤を含有するA成分ポリマーは上述のガラス転移温度(Tg)65℃以下のポリエステルでなければならないことは言うまでもないことである。好ましいポリマーの組み合わせとしては、たとえばA、B共にポリエステルを挙げることができる。
【0014】
本発明の複合繊維のA成分とB成分との複合割合は、A/B=75/25〜5/95であることが好ましい。また、複合形態は、A成分が該複合繊維の繊維周長の50%以上を占有する複合形態であれば特に限定されないが、典型的には、A成分を鞘成分とする芯鞘型複合繊維である。さらに分割処理を施すことによって極細繊維を形成するような分割型複合繊維の形態をなしていても差支えない。その複合形態としては、多層貼合わせ型、ランダム複合型を適用することができる。
繊維の断面形状は特に限定されないが、より比表面積の大きい繊維となすには異形断面にすることが好ましい。異形断面の具体例としてはT字形、U字形、V字形、H字形、Y字形、W字形、3〜14葉型、多角形等を挙げることができるが、本発明においてはこれらの形状に限定されるものではない。また、中実繊維であっても中空繊維であってもよい。
【0015】
本発明でA成分として使用されるポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルが使用され、好ましくはポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸であり、特にポリブチレンテレフタレートが好ましい。PBTは、テレフタル酸単位を主体とするジカルボン酸単位及び1,4−ブタンジオール単位を主体とするジオール単位から主としてなり、その代表例としてはテレフタル酸単位と1,4−ブタンジオール単位のみからなるポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」ということがある)を挙げることができる。
ポリエステル成分(A)は、全構成単位に基づいて10モル%以下であれば必要に応じて基本構造を構成するジカルボン酸単位以外の他のジカルボン酸単位、及び/又は基本構造を構成するジオール単位以外の他のジオール単位を有していてもよい。但し変成量としては、10モル%より多い場合繊維強度、熱寸法安定性が低下する傾向にあるため用途が限定されるので10モル%より小さく設定する必要がある。 ポリエステル成分(A)が含み得る他のジカルボン酸単位の例としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;及びそれらのエステル形成性誘導体(メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル)などから誘導されるジカルボン酸単位を挙げることができる。ポリエステル成分(A)は、上記したジカルボン酸単位の1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。
【0016】
また、ポリエステル成分(A)が含み得る他のジオール単位の例としては、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタンジオールなどの炭素数2〜10の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど分子量6000以下のポリアルキレングリコールなどから誘導されるジオール単位の1種のみを有していても、または2種以上を有していてもよい。
【0017】
光触媒と吸着剤とからなる消臭剤をポリエステル成分(A)に含有させる方法としては、▲1▼ポリエステルの重合時または重合直後に消臭剤を添加含有させる方法、▲2▼ポリエステル中に消臭剤を添加してマスターバッチを作製しておき、それを使用する方法、▲3▼ポリエステルが紡糸されるまでの任意の段階(たとえば、ポリマーのペレットの作製段階、溶融紡糸段階など)で消臭剤を添加させる方法などがある。このうち、▲1▼方法では、繊維形成性ポリマーの原料スラリーに消臭剤を添加する方法、プレポリマーを製造した後に該プレポリマーをさらに重縮合させる直前に消臭剤を添加する方法、繊維形成性ポリマーの重合直後であって、未だ液状である間に消臭剤を添加する方法などを採用し得るが、本発明で使用する消臭剤は触媒活性が非常に高いのでポリマーの種類によっては重合反応が進行する場合があり注意が必要である。
【0018】
また、消臭剤は微粒子状態のものとして添加するが、粒子をそのままポリマー中に添加すると粒子の凝集により繊維化が困難となったり、繊維化できても強度の低いものしか得られない場合があるので、適当な分散媒に分散させたスラリー状態でポリマー中に添加することが好ましい。
【0019】
本発明においてB成分として使用される結晶性熱可塑性ポリマーは、融点が150℃以上のポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドなどを挙げることができ、A成分と複合されたときの界面剥離を回避するためには、ポリエステルを使用することが好ましい。
特に好ましいポリマーの組み合わせは、たとえばA成分としてはポリブチレンテレフタレート、B成分としてはポリエチレンテレフタレートを挙げることができる。
【0020】
本発明で使用される消臭剤を構成する光触媒は、紫外線等の光線の照射により活性ラジカルを生成させ、多くの有害物、悪臭物を酸化分解し、光酸化触媒として機能するものをいう。そのために、光触媒は酸化性光触媒の範疇に属する場合が多い。このような光触媒を用いると、単なる吸着作用ではなく、触媒的な分解を利用して消臭できるため、消臭または脱臭効果が長期間に亘り持続できる。さらに、この光触媒は有害物、悪臭物を分解するだけでなく、殺菌作用、抗菌作用等も有している。
【0021】
光触媒としては、無機、有機を問わず、種々の光半導体が使用できるが、無機光半導体である場合が多い。光触媒としては、たとえば硫化半導体(CdS、ZnS、In 、PbS、Cu S、MoS 、WS 、Sb 、Bi、ZnCdS 等)、金属カルコゲナイト(CdSe、InSe 、WSe 、HgSe、PbSe、CdSe等)、酸化物半導体(TiO 、ZnO、WO 、CdO、In 、AgO,MnO 、CuO、Fe 、V 、SnO 等)などが挙げられ、硫化物と酸化物以外の半導体として、GaAs、Si、Se、CdP 、Zn 等も含まれる。これらの光触媒は単独または2種以上の組合わせで使用できる。
【0022】
これらの光触媒のうち、CdS、ZnS等の硫化物半導体、TiO 、ZnO、SnO 、WO 等の酸化物半導体が好ましく、特に酸化物半導体、たとえばTiO 、ZnO等が好ましい。前述の光触媒を構成する光半導体の結晶構造はとくに制限されない。たとえばTiO はアナターゼ型、ブルカイト型、ルチル型、アモルファス型等のいずれであってもよい。とくに好ましいTiO にはアナターゼ型酸化チタンが含まれる。
【0023】
光触媒はゾルやゲル状で使用できると共に粉粒状で使用してもよい。光触媒を粉粒状で使用する場合、光触媒の平均粒子径は、光活性および脱臭効率を損なわない範囲で選択でき、たとえば0.05〜5μm、好ましくは0.05〜1μmである。粒子径が5μmを越えると、たとえば溶融紡糸時にフィルター詰まりや毛羽断糸が生じ易くなる。とくに、本発明の繊維を各種衣料用繊維素材として使用する場合には、単糸繊度が1dtex前後の細繊度糸も必要とされ、光触媒の粒子径が大きくなると延伸時の糸切れが激しくなりやすい。
【0024】
該光触媒の使用量は、繊維の構造に応じて触媒活性を損なわない広い範囲から選択でき、たとえば繊維全体に対して0.1〜25質量%、好ましくは0.3〜20質量%、さらに好ましくは0.5〜15質量%の範囲であり、特に0.5〜10質量%の範囲が好ましい。
【0025】
一方、消臭剤を構成する吸着剤(四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物)について説明する。リン酸塩を形成する四価金属は、四価の金属である限り、周期表における族はとくに制限されない。四価金属には周期表4族元素、たとえば、4A族元素(チタン、ジルコニウム、ハフニウム、トリウム等)、4B族元素(ゲルマニウム、錫、鉛等)が含まれる。これらの金属のうち、周期表4A族元素に属する金属、たとえばチタン、ジルコニウム、ハフニウムや、4B族元素、たとえば錫が好ましい。とくに、チタンおよびジルコニウムが好ましい。
【0026】
リン酸塩を構成するリン酸には種々のリン酸、たとえばオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が含まれる。リン酸はオルトリン酸、メタリン酸またはピロリン酸である場合が多い。また、リン酸塩にはオルトリン酸水素塩等のリン酸水素塩も含まれる。なお、本明細書において、とくに言及しないかぎりリン酸とはオルトリン酸を意味する。
【0027】
これらの四価金属リン酸塩は、通常、水不溶性または難溶性である。さらに、前記リン酸塩は結晶質塩であってもよいが、好ましくは非晶質塩である。これらの四価金属リン酸塩は単独または2種以上を組合わせて使用できる。
【0028】
水酸化物を形成する二価金属は周期表の族の如何を問わず二価の金属であればよい。二価金属には、たとえば銅等の周期表1B族元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素、亜鉛、カドミウム等の周期表2B族元素、クロム、モリブデン等の周期表6A族元素、マンガン等の周期表7A族元素、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム等の周期表8族元素などが挙げられる。これらの二価金属の水酸化物は単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
好ましい二価金属には遷移金属、たとえば銅等の周期表1B族元素、亜鉛などの周期表2B族元素、マンガン等の周期表7A族元素、鉄、コバルト、ニッケル等の周期表8族元素が含まれる。好ましくは銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケルである。
【0030】
これら二価金属の水酸化物は、通常、弱酸性〜弱アルカリ性領域(pH4〜10)で水不溶性または難溶性である。また該水酸化物は結晶質であってもよいが、非晶質である場合が多い。
【0031】
四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物との割合は、触媒活性、臭気成分に対する吸着能や脱臭能を損なわない範囲で選択でき、たとえば金属原子比換算で、金属原子比(二価金属/四価金属)=0.1〜10、好ましくは0.2〜7、さらに好ましくは0.2〜5の範囲である。なお、複数のリン酸塩および/または水酸化物を組合わせて用いる場合には、それぞれの金属の総和量に基づく金属原子比が上述の範囲内であればよい。また、四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物とで構成された組成物は、混合ゲル等のように共沈などにより複合化していてもよい。とくに四価金属のリン酸塩と二価金属の水酸化物とを組合わせて構成された吸着剤と、前述の光触媒とを混合または共沈などにより複合化して用いると、高い触媒活性を示し、長期間に亘り効率よく臭気成分などの種々の化合物を除去することができる。
【0032】
吸着剤の使用量も光触媒の使用量と同様に繊維の構造に応じて適宜選択でき、たとえば繊維全体に対して0.1〜25質量%、好ましくは0.5〜20質量%、さらには1〜10質量%の範囲が好ましい。なお、光触媒の量は、吸着剤100質量部に対して1〜1000質量部、好ましくは10〜750質量部、さらには20〜500質量部の範囲が好ましい。
【0033】
上述の消臭剤はさらに他の吸着剤(以下、付加的吸着剤と称する)を含有していてもよい。かかる付加的吸着剤として無機系吸着剤、有機系吸着剤のいずれであってもよく、黒色系であってもよいが、非黒色系吸着剤、好ましくは青色などの淡色ないし白色または無色の吸着剤を用いる場合が多い。無機系吸着剤には酸化アルミニウム(アルミナ)、シリカ(二酸化ケイ素)、酸化銅、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル等の金属酸化物;シリカゲル、シリカゾル、ゼオライト等のケイ酸塩;モンモリロナイト、アロフェン、セピオライト等の粘土鉱物などが挙げられる。他の吸着剤はこれらの成分が共沈などにより複合化した吸着剤であってもよい。有機系吸着剤にはカルボキシル基、スルホン基、アミノ基などのイオン交換性官能基を有する各種のイオン交換樹脂や前記酸性官能基を有する有機酸系吸着剤、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレン、多孔質ポリスチレン、多孔質ポリメタクリル酸メチル等の多孔質樹脂を挙げることができる。
【0034】
付加的吸着剤の種類は繊維の用途や臭気成分に対応させて適宜選択でき、たとえば繊維の製造過程または使用時に高温に晒される場合には、無機系吸着剤の使用が好ましい。また付加的な吸着剤は単独でまたは2種以上組合わせて使用でき、光触媒、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物から選択された少なくとも1つの成分と混合、または共沈などにより複合化していてもよい。
【0035】
上述の消臭剤を構成する吸着剤は比表面積を増加させ、吸着容量を高める上で有用な二酸化ケイ素とを組合わせてもよい。二酸化ケイ素としては、それ自体が高分子量化した無機高分子、二酸化ケイ素と四価金属リン酸塩との複合化合物などが挙げられる。また二酸化ケイ素は含水二酸化ケイ素であってもよい。このような二酸化ケイ素は結晶質であってもよいが、非晶質であることが好ましい。二酸化ケイ素の含有量は、光触媒の触媒活性や吸着性能が低下しない範囲で選択でき、たとえば吸着剤に対して金属原子比換算で、ケイ素/吸着剤の金属=0.2〜10、好ましくは0.5〜8、さらには1〜7の範囲が好ましい。
【0036】
上述の消臭剤は、前記付加的吸着剤とともに、または付加的吸着剤を含むことなく、さらに抗菌性金属成分(たとえば銀、銅、亜鉛、鉛等)、とくに銀成分を含んでいてもよい。抗菌性金属成分のうち銀成分を含む組成物は高い抗菌性能を有しているとともに、幅広い抗菌スペクトルをも有している。銀成分は金属銀であってもよく、AgCl、AgF、AgF等のハロゲン化銀、AgO、AgO等の酸化銀、AgS等の硫化物、AgSO、AgCrO、AgPO、AgCO、Ag等の酸素酸塩などの無機化合物であってもよい。銀成分は吸着剤、付加的吸着剤との複合化物であってもよい。また銀成分は水可溶性であってもよいが、水不溶性または水難溶性であることが好ましい。これらの銀成分は1種または2種以上組合わせて使用できる。なお、銀成分は慣用の方法、たとえばイオン交換法、共沈法等により光触媒、吸着剤、付加的吸着剤等に容易に導入できる。銀成分の含有量は消臭剤および付加的吸着剤全体に対して金属銀換算で0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、さらには0.5〜7質量%の範囲が好ましい。
【0037】
本発明において消臭剤、必要に応じて添加される付加的吸着剤や銀成分などの総量は、繊維の特性、繊維化工程性を損なわない範囲、たとえば繊維全体に対して0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜25質量%、さらには1〜20質量%の範囲が好ましい。
【0038】
消臭性成分は慣用の種々の方法により得ることができる。たとえば四価金属リン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を、必要に応じてさらに付加的な吸着剤(二酸化ケイ素等)および/または銀成分とともに混合するすることにより、消臭性成分を簡便に得ることができる。前記混合に際しては粉砕等により得られたそれぞれの粉粒状成分を混合してもよい。
【0039】
光触媒の調整は慣用の方法、たとえば光触媒に対応する金属イオンを含有する水溶液から水不溶性沈殿物を生成させる方法、金属アルコキシドから調整する方法、高温で酸化させる気相法等にしたがって行うことができる。
【0040】
光触媒の製造に際しては、触媒に対応する成分を含む化合物を用いることができる。酸化チタンを例にとって説明する。このような成分としてTiCl、TiF、TiBr等のハロゲン化チタン、Ti(SO、TiOSO等の硫酸塩、(CHO)Ti、[CH(CH)O]Ti、[(CHCHO]Ti、[CH(CHO]Ti、[(CHCHCHO]Ti等のC1−6アルコキシチタン等が使用できる。また予め調整された酸化チタンゾル等を用いてもよい。
【0041】
また、消臭性成分は四価金属イオン、二価金属イオンおよび光触媒に対応する成分を含む溶液や、これらの金属イオンのうち2種類以上の金属イオンを含む水溶液を使用して、それらの水不溶性物質の混合沈殿物を生成させる方法によっても得ることができる。この方法で得られた混合沈殿物は、通常ゲル状であり、乾燥により非晶質構造の混合物となる。なお、この方法において、光触媒に対応する成分は予め適切な結晶構造に調整して水溶液に添加することが好ましい。
【0042】
四価金属イオン、二価金属イオンおよび銀イオンを含む水溶液の調整には、各種の水溶液金属化合物が用いられる。このような二価金属、四価金属および銀の水溶性金属化合物としては、各種の金属塩、金属アルコキシド等を挙げることができる。金属塩としては、通常の金属塩(正塩)のほか、酸性塩、オキシ塩、さらに他の複塩、錯塩の形態の金属塩を用いてもよい。また、金属塩は水溶液のpHが中性付近で不溶性の化合物であっても、酸性溶液中で溶解する化合物であればよい。具体的には次のような化合物を挙げることができる。
【0043】
(1)金属のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物、(2)硫酸塩、硫酸アンモニウム塩、その他の硫酸塩(無機酸塩)、(3)硝酸塩(無機酸塩)、(4)塩素酸塩、過塩素酸塩、チオシアン酸塩、ジアンミン銀硫酸塩、ジアンミン硝酸塩、クロム酸塩等のその他の各種無機酸塩、(5)酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、(6)オキシ金属塩(ハロゲン化物、無機酸塩、有機酸塩の形態のオキシ金属塩)、(7)金属アルコキシド類などを挙げることができる。
【0044】
これらの金属のうち、無機酸塩、とくに硫酸塩や硝酸塩等の強酸塩を用いる場合が多い。なお、四価金属化合物のうちチタン化合物やジルコニウム化合物としてはオキシ金属塩を用いる場合が多い。
【0045】
二酸化ケイ素のためのケイ酸イオンの供給源である水可溶性ケイ酸塩化合物としてはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩、ケイ酸カルシウム、カイ酸バリウム等のケイ酸のアルカリ土類金属塩、ケイ酸アンモニウム等を例示することができる。また、二酸化ケイ素は水可溶性である必要はなく、たとえば、二酸化ケイ素のキセロゲル(シリカゲル)、ヒドロゾルやヒドロゲルを原料として使用することも可能である。ケイ酸イオン源としては、通常、アルカリケイ酸塩、好ましくはケイ酸アルカリ金属塩、ヒドロゾル、ヒドロゲルが使用され、とくにケイ酸ナトリウムは価格、取扱性の点で好ましい。
【0046】
四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化物を生成するには、四価金属のリン酸塩と二価金属イオンの共存下に二価金属の水酸化物を生成させればよい。たとえば、(i)四価金属イオンおよび二価金属イオンが共存する水溶液中で四価金属のリン酸塩を生成し、ついで二価金属の水酸化物を生成してもよく、また(ii)二価金属イオンを含有しない水溶液中で予め四価金属のリン酸塩を生成した後、二価金属イオンを含む水溶液を加え、二価金属の水酸化物を生成させてもよい。
【0047】
前記(i)の方法において、四価金属イオンおよび二価金属イオンが共存する水溶液を用いて組成物を生成させる場合、四価金属化合物および二価金属化合物を含む水溶液を撹拌しながら二価金属の不溶性水酸化物の生成を抑制しつつ、リン酸またはリン酸塩を添加して四価金属のリン酸塩の沈殿物を生成させればよい。この方法において、四価金属化合物および二価金属化合物を含む水溶液のpHは通常、酸性域、たとえばpHが0〜6の範囲であり、必要であれば二価金属水酸化物の生成を抑制するために酸を添加して酸性域であるpH4以下に調整し、リン酸またはリン酸塩を添加してもよい。
【0048】
前記水溶液のpHを調整する場合、適当なアルカリや酸を使用できる。アルカリとしてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)、アンモニア等の無機塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が使用できる。酸としては塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、酢酸、トリクロロ酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸が使用できる。
【0049】
不溶性リン酸塩の生成に使用されるリン酸またはリン酸塩としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸およびそれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が例示される。具体的にはリン酸塩には第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム[以下、これらを単にリン酸ナトリウムと称する]、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等が含まれる。
【0050】
前記(i)の方法において、通常、生成した四価金属のリン酸塩を熟成より十分に析出させる場合が多い。熟成方法には、慣用の方法、たとえば、室温で長時間放置する方法、100℃以下に加熱した状態で長時間放置する方法、加熱還流する方法等が利用できる。
【0051】
熟成終了後、アルカリの添加によりpHを中性域、たとえばpH4〜12に調整すると、二価金属の水酸化物を生成させることができる。なお、上記水酸化物の生成は、アルカリと、熟成終了後の四価金属のリン酸塩と二価金属イオンを含む溶液とを中性域、たとえばpH4〜12の範囲で並行して液中に添加することにより行ってもよい。前記のようなpH領域では二価金属の水酸化物からなる沈殿物が生成し、生成した水酸化物の沈殿物と四価金属の不溶性リン酸塩の沈殿物とが沈殿または析出混合物または共沈混合物として生成する。二価金属の水酸化物の生成において、常温での反応が遅い場合には反応系を加温してもよい。また必要に応じて加圧下に100℃以上の温度で反応させてもよい。また撹拌は空気を用いたバブリングにより行ってもよい。
【0052】
前記(ii)の方法において、四価金属のリン酸塩の沈殿物と二価金属の水酸化物とは上記(i)の方法に準じて生成させることができる。すなわち、前記四価金属イオンを含み二価金属イオンを含まない水溶液にリン酸またはリン酸塩を添加して予めリン酸塩を生成させる。生成したリン酸塩を必要により熟成した後、必要によりpHを4以下の酸性域に調整し、二価金属イオンを含む水溶液(たとえば金属塩を含有する水溶液)を添加して混合し、前記と同様にpHを4以上の中性域に調整することにより混合沈殿物を生成させてもよい。この方法では四価金属のリン酸塩の熟成は比較的短時間であってもよい。
【0053】
光触媒は四価金属のリン酸塩および二価金属の水酸化物を生成させる反応系に、たとえば粉粒状で添加していてもよく、前記四価金属のリン酸塩および/または二価金属の水酸化物を生成させた後、反応系または生成した沈殿物に添加してもよい。
【0054】
さらに、光触媒は四価金属のリン酸塩および/または二価金属の水酸化物の生成とともに同時に生成させてもよい。光触媒の生成には、上記(i)および(ii)の方法が利用できる。たとえば酸化チタンを生成させる場合、塩化チタン等のハロゲン化チタン、無機酸塩(硫酸チタン等の硫酸塩)やアルコキシドを必要に応じて前記反応系に添加し、反応系のpHを中性またはアルカリ性に調整することにより生成させることができる。
【0055】
二酸化ケイ素を含む組成物を調整する場合には、前記沈殿物生成反応の少なくともいずれか1つの工程で、二酸化ケイ素および/またはケイ酸イオン種を添加してもよく、光触媒成分等を含む生成した沈殿物と二酸化ケイ素を混合してもよい。なお、前記沈殿物の生成とともに二酸化ケイ素を生成させる場合、アルカリ性ケイ酸塩溶液(たとえばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等)をアルカリの代わりに使用することができる。ケイ酸イオン種を用いる場合、二価金属の水酸化物の生成とともに、pH4〜12の中性域に調整すると含水二酸化ケイ素を生成させることができる。
【0056】
さらに、銀成分に関し、前記二酸化ケイ素と同様に、沈殿生成物反応の少なくとも1つの工程で銀成分、たとえば銀の水不溶性化合物および/または銀イオン種を添加することにより銀成分を含む消臭成分を得ることができる。また銀イオン等の銀成分はイオン交換法、含浸法等の慣用の方法により、前記光触媒、リン酸塩、水酸化物、二酸化ケイ素やこれらの成分の少なくとも1種または2種以上の成分に容易に担持できる。
【0057】
このようにして得られた沈殿物は、必要に応じて慣用の方法により精製してもよい。たとえば、前記混合沈殿物等の沈殿物を含む反応液を濾過し、温水または水等の洗浄溶媒を用いて洗浄し、金属塩のアニオン種等の不純物を除去し、乾燥することにより、精製した消臭成分を得ることができる。前記濾過は濾紙や濾布等を用い、常温常圧下、減圧下または加圧下で行うことができ、遠心分離法、真空濾過法等を利用して行ってもよい。また、洗浄に際しては、傾斜洗浄法等を利用してもよい。前記乾燥操作は慣用の方法、たとえば風乾で行ってもよく、消臭性成分の分解温度未満の温度、たとえば約400℃以下、好ましくは200℃以下の温度に加熱した加温度下で行ってもよい。
【0058】
本発明の消臭繊維は、繊維の太さはとくに制限されるものではなく、繊維の長さ方向の形態も制限されるものではない。すなわち、繊維の長さ方向に程同じ直径を有する繊維であってもよく、太細を有するシックアンドシン繊維であってもよく、それ以外の繊維であってもよい。さらに繊維は短繊維または長繊維のいずれであってもよく、繊維製品が糸である場合、紡績糸、マルチフィラメント糸、短繊維と長繊維との複合糸であってもよい。さらに本発明の繊維には、用途や繊維の種類に応じて、仮撚加工、インターレース加工やタスラン(ヘバライン ファイバー テクノロジー Inc 登録商標)加工等の空気絡合処理、捲縮加工、防縮処理、防皺処理、親水加工、防水加工、防染加工などの任意の加工・処理が施されてもよい。本発明の消臭繊維は上述の消臭剤の他に、繊維の種類に応じて繊維に用いられている各種の添加剤、たとえば酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、艶消剤等を含有してもよい。
【0059】
また本発明の消臭繊維は種々の繊維製品として利用することができ、糸;織布、編布、不織布等の布帛;パイル織物、パイル編物等のパイル布帛;これらのものから形成された衣類やその他の身体着用品;インテリア製品類;寝具類;食品用包装材などを挙げることができる。具体的には下着、セーター、ジャケット、パジャマ、浴衣、白衣、スラックス、靴下、手袋、ストッキング、エプロン、マスク、タオル、ハンカチ、サポーター、ヘッドハンド、帽子、靴のインソール、芯地等の衣類や身体着用品;各種カーペット、カーテン、のれん、壁紙、障子紙、襖、繊維製ブラインド、人工観葉植物、椅子等の布張用生地、テーブルクロス、電気製品カバー、畳、布団の中詰材(詰綿等)、布団の側地、シーツ、毛布、布団カバー、枕、枕カバー、ベッドカバー、ベッドの中詰材、マット、衛生材料、便座カバー、ワイピングクロス、空気清浄機やエアーコンディショナー等のフィルターなどを挙げることができる。
【0060】
本発明の消臭繊維および該繊維を用いた繊維製品は、太陽光、蛍光灯、紫外線ランプ等の照射下、アンモニア、アミン類等の塩基性臭気成分、酢酸等の酸性臭気成分、ホルマリン、アセトアルデヒド等の中性臭気成分などの多くに臭気成分を速やかに、しかも長期に亘り分解し、無臭化することができる。そのため、多数の臭気成分を含むたばこ臭等であっても効率よく除去でき、室内や車内の消臭に有効である。また家具や新建材などから発生するホルマリン、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の消臭に対しても有効である。
【0061】
さらに消臭成分を含有する消臭性繊維は光を照射しなくても酸性臭気成分、塩基性消臭成分等を吸着して効果的に消臭し、太陽光や蛍光灯、紫外線ランプ等の光照射下においては光触媒の酸化分解作用と吸着剤の高い吸着作用との相乗効果により、酸性臭気成分や塩基性臭気成分に対する消臭性能を高めるだけでなく、アルデヒド類等の中性臭気成分に対しても高い消臭効果を示し、しかもその効果は長期に亘り持続する。また光触媒の作用により生成する酸化分解生成物(たとえばアセトアルデヒドの場合には酢酸が生成する)が一部放出され、新たな臭気の原因となる場合があったとしても、吸着剤を併用することにより酸化分解生成物を吸着することができる。そのため酸化分解生成物の放出または脱離を防止し、消臭効率をさらに高めることができるとともに、吸着剤に吸着された物質は光触媒によりさらに分解されるので消臭効果が長期に亘り持続するのである。
【0062】
なお光照射においては光触媒に応じた波長の光線が利用できる。この光線の波長は光触媒を励起する波長であればよいが、通常、紫外線を含む光線である場合が多い。光触媒として酸化チタンを用いた場合、太陽光や蛍光灯の光でも十分その触媒機能を有効に働かせることができる。なお、光照射は、通常、酸素、空気等の酸素含有基体の存在下で行われる。
【0063】
さらに、本発明においては光触媒を用いることにより、抗菌性能をも奏するのである。すなわち、酸化チタン等の光触媒にそのバンドギャップエネルギーを有する光で照射すると価電子帯から電子が励起され伝導体に電子が、価電子帯に正孔が生成する。これらの電子と正孔はそれぞれ反応性に富んだ還元能と酸化能を有しており、該触媒表面で触媒反応を喚起することができる。この高い還元能と酸化能とを利用して種々の有害物質を酸化分解して無害化すること、殺菌を行うことができる。
【0064】
本発明の消臭繊維は上述の消臭剤により長期に亘り消臭効果を持続することができる。ただ、該消臭剤のみでは、濃度の高い臭気成分をある程度まで低減することは可能であっても、濃度の低い臭気成分を完全に『ゼロ』にまで抑制することはできず、繊維の比表面積を特定化することと、四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有消を含有するガラス転移温度(Tg)65℃以下のポリエステル成分(A)と融点150℃以上の結晶性熱可塑性ポリマーのB成分とから成る複合繊維であり、該B成分が該複合繊維の繊維周長の50%以上を占有することよりはじめて、低濃度の臭気成分をほとんど『ゼロ』にまで除去することができるのである。
【0065】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法により測定された値である。
【0066】
(1)消臭性試験
a.初期性能
通常の白熱蛍光灯光照射下(500ルクス)、15cmに静置したテドラーバッグ(容積3リットル)に試料3gを入れて密封し、ついでシリンジを用いて所定の濃度の臭気成分を含む空気を、全ガス量3リットルとなるようにテドラーバッグ内に注入した。該注入ガスはアンモニア40ppm、硫化水素15ppm、(酢酸40ppm)、アセトアルデヒド50ppmであった。ガスを注入して特定時間経過後にテドラーバッグ内のガスをマイクロシリンジでサンプリングし、硫化水素、酢酸、アセトアルデヒドのガス濃度をガスクロマトグラフィ(島津製作所社製GC−7A型)にて測定し、臭気成分の除去率を下記式により算出した。アンモニアはガス検知管(北川社製、アンモニア用)を用い、直接テドラーバッグ内のガス濃度を測定し、臭気成分の除去率を算出した。同様にして遮光下での測定も行った。
除去率(%)=[(C−C)/C]×100
:初期ガス濃度
C:1時間後のガス濃度
b.繰り返し消臭性能
通常の白熱蛍光灯光照射下(500ルクス)、15cmに静置したテドラーバッグ(容積3リットル)に試料3gを入れて密封し、ついでシリンジを用いて所定の濃度の臭気成分を含む空気を、全ガス量3リットルとなるようにテドラーバッグ内に注入した。該注入ガスは酢酸40ppmであった。ガスを注入して1時間後のガス濃度をガスクロマトグラフィにより測定するとともに、酢酸40ppmを含む空気をテドラーバッグ内に注入した。ガス濃度の測定と酢酸の注入を1時間ごとに繰り返し行った。
【0067】
(2)抗菌性能評価
試料に試験菌の菌液を滴下し、光照射(30W2本の蛍光灯下30cm)または遮光下で35℃×18時間培養後、生菌数を測定した。対照布として標準ナイロン布を用いた。
【0068】
強度・熱水収縮率;JIS−L1013に準じて測定した。
【0069】
実施例1
以下の方法により消臭剤[Cu(II)−Ti(IV)−SiO−TiO]を調整した。
硫酸銅の結晶(CuSO・5HO、和光純薬製試薬特級)43.9gを蒸留水1リットルに溶解し、得られた水溶液に硫酸チタン溶液(約30質量%濃度、和光純薬製試薬)60gを添加した。この混合液はCu(II)0.175モル、Ti(IV)イオン0.075モル含んでいる。前記混合液のpHは約1であった。室温下で混合液を撹拌しながら15質量%のリン酸溶液約110gを滴下したところ、白色沈殿物が生成した。沈殿物が生成した混合液をそのまま一昼夜撹拌した。上記沈殿物を含有する液(A液)とケイ酸ナトリウムを含む水溶液(B液)471gとを別々のビーカー中で撹拌しながら、蒸留水500mlを入れた容器中へ平行して滴下したところ、Cu(II)−Ti(IV)−SiOを含む青白色の混合沈殿物が生成した。A液とB液との混合時のpHは常に約7となるようにA液とB液の滴下量を調整した。なお、B液はケイ酸ナトリウム(和光純薬製試薬)を蒸留水で30質量%に希釈し(SiOとしては0.86モル含有)、15質量%の水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加することにより調整した。
【0070】
A液とB液の混合液を室温下、さらに2時間撹拌した後、青白色混合沈殿物を吸引ろ過し、加温した脱イオン水で十分洗浄した後、40℃で乾燥した。乾燥物を乳鉢で120μm以下に粉砕し、Cu(II)−Ti(IV)−SiOを含む青白色の粉末を得た。該粉末80質量部に対して酸化チタン粉末(石原産業(株)製、MC−90)20質量部を混合し、ジェットミルで粉砕し消臭剤を調整した。
【0071】
次に、鞘部用のポリマー(A成分)として二軸押出機にて上記消臭剤5質量%添加したポリブチレンテレフタレート(PBT)用い、芯部用ポリマーとして極限粘度0.70(フェノール/テトラクロロエタン等質量混合溶液にて30℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸温度290℃、巻取速度1000m/分、芯:鞘=50:50(質量比)の複合比率、ノズル孔径0.25φ−24ホールで紡糸し、その後ローラプレート方式により延伸を行い、図1のロに示すような丸断面の84dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。紡糸性、延伸性ともに良好で問題はなかった。その後常法により該複合繊維を用いて筒編地を作成し、リラックス、水洗、乾燥、プレセットを施し消臭性能および抗菌性能を評価した。結果を表2に示す。高い除去率で臭気成分は除去されていた。また、抗菌性能も優れたものであった。なお、同じ筒編地を、アンモニア18ppmの雰囲気中に静置して消臭効果を測定したところ(光照射下)、24時間でアンモニアは完全に消臭されていた。18ppmという低い濃度の臭気成分をも完全に除去することができた。
【0072】
実施例2、3
繊維断面を図1のイに示すような三角断面芯鞘型(実施例2)、図1のニに示すような丸断面サイドバイサイド型(実施例3)にしたこと以外は実施例1と同様にして複合繊維を得、該複合繊維を用いて筒編地を作成した。得られた筒編地の各性能を評価した。結果を表2に示す。
【0073】
実施例4
消臭剤の青白色粉末と酸化チタン粉末の混合割合を50:50(質量部)にしたこと以外は実施例1と同様にして複合繊維を得、該複合繊維を用いて筒編地を作成した。得られた筒編地の各性能を評価した。結果を表2に示す。
【0074】
実施例5
消臭剤[Zn(II)−Ti(IV)−TiO]を以下の方法により調整した。まず、蒸留水1リットル中に硫酸チタン溶液(30質量%濃度、和光純薬製試薬)60gを添加した。この混合溶液は0.075モルのTi(IV)イオンを含んでいる。この混合溶液に室温下、撹拌しながら15質量%のリン酸溶液約98gを滴下したところ白色沈殿物が生成した。沈殿物が生成した状態で撹拌を2時間持続した。この白色沈殿物を含む溶液に硫酸亜鉛の結晶(ZnSO・7HO、和光純薬製試薬特級)50.3gを添加して溶解した。この溶液はZn(II)イオンを0.175モル含んでいる。該溶液を室温下撹拌しながら15%水酸化ナトリウム溶液をpH7になるまで滴下した。なお、水酸化ナトリウム溶液の滴下に際し、pHが低下した場合はさらに水酸化ナトリウム溶液を滴下することにより、pHを約7に保持した。pHの低下が認められなくなるまで撹拌を持続すると、Zn(II)−Ti(IV)を含む白色の混合沈殿物が生成した。
【0075】
この液に四塩化チタン(和光純薬製試薬特級)37gを滴下するとともに、15質量%の水酸化ナトリウム溶液をpH7になるまで滴下したところ、酸化チタンの沈殿物が生成した。生成した沈殿物を吸引濾別し、温脱イオン水で十分洗浄した後110℃で乾燥し、乾燥物を乳鉢で120μm以下に粉砕し、さらにジェットミルで微粉砕することにより、Zn(II)−Ti(IV)−TiOを含む白色の消臭剤粉末を得た。
【0076】
次に、鞘部用のポリマーとして二軸押出機にて上記消臭剤7.5質量%添加したポリブチレンテレフタレート(PBT)用い、芯部用ポリマーとして極限粘度0.70(フェノール/テトラクロロエタン等質量混合溶液にて30℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸温度290℃、巻取速度1000m/分、芯:鞘=70:30(質量比)の複合比率、ノズル孔径0.25φ−24ホールで紡糸し、その後ローラプレート方式により延伸を行い、丸断面の84dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。紡糸性、延伸性ともに良好で問題はなかった。その後常法により該複合繊維を用いて筒編地を作成し、リラックス、水洗、乾燥、プレセットを施し消臭性能および抗菌性能を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
実施例6
消臭剤[Zn(II)−Ti(IV)−TiO]を以下の方法により調整した。まず、蒸留水180ml中に硫酸チタニル粉末(TiOとして32.5質量%含有、富士チタン工業社製タイサルト)6.64g、硫酸亜鉛の結晶(ZnSO・7HO、和光純薬製試薬特級)18.1gを添加した。この混合溶液は0.027モルのTi(IV)イオンと0.062モルのZn(II)イオンを含んでいる。この混合溶液に室温下、撹拌しながら15質量%のリン酸溶液約35.3gを滴下したところ白色沈殿物が生成した。沈殿物が生成した状態で撹拌を一昼夜持続した。該溶液を室温下撹拌しながら15%水酸化ナトリウム溶液をpH7になるまで滴下した。なお、水酸化ナトリウム溶液の滴下に際し、pHが低下した場合はさらに水酸化ナトリウム溶液を滴下することにより、pHを約7に保持した。pHの低下が認められなくなるまで撹拌を持続すると、Zn(II)−Ti(IV)を含む白色の混合沈殿物が生成した。
【0078】
生成した沈殿物を吸引濾別し、温脱イオン水で十分洗浄した後120℃で乾燥し、乾燥物を乳鉢で120μm以下に粉砕し、Zn(II)−Ti(IV)を含む白色の消臭剤粉末を得た。
【0079】
該白色粉末70質量部に対して酸化チタン粉末(石原産業社製、MC−90)30質量部を混合し、得られた混合物をジェットミルで微粉砕し、Zn(II)−Ti(IV)−TiOを含む消臭剤を得た。
【0080】
次いで、該消臭剤を用いて、実施例5と同様にして複合繊維を得、該複合繊維を用いて筒編地を作成し、各性能を評価した。結果を表2に示す。
【0081】
実施例7
A成分ポリマーを表1に示すようにポリ乳酸に変更したこと以外は実施例1と同様にして複合繊維を得、該複合繊維を用いて筒編地を作成した。得られた筒編地の各性能を評価した。結果を表2に示す。
実施例8
実施例5で得られた複合繊維(消臭剤の添加量7.5質量%)を温浴中で延伸し、次いで捲縮を施して51mm長さに切断し、単繊維繊度3.3dtexの短繊維を製造した。得られた短繊維を用い、常法に従って紡績糸を作成し、該紡績糸を製編、リラックス、セットし各性能を評価した。結果を表2に示した。
【0082】
比較例1
A成分ポリマーを消臭剤を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET)に変更すること以外は実施例1と同様にして複合繊維を製造し、該フィラメントから筒編地を作成して各性能を評価した。なお、同じ筒編地を、アンモニア18ppmの雰囲気中に静置して消臭効果を測定したが、24時間経過後のアンモニアの濃度は10ppmであった。18ppmという低い濃度の臭気成分の除去は非常に困難であった。
【0083】
比較例2
消臭剤として酸化チタン粉末(石原産業社製、MC−90)を5質量%含有したPBTを用いたこと以外は実施例1と同様にして複合繊維を紡糸し、延伸を施し、該複合繊維を用いて筒編地を作成した。該筒編地の各性能評価を行い、結果を表2に示す。本発明で使用する消臭剤に比較し、とくに硫化水素に対する消臭効果が非常に低かった。
【0084】
比較例3
消臭剤としてリン酸チタンと水酸化亜鉛とがTiイオン:Znイオン=0.3:0.7(モル比)の割合で含む共沈物質を5質量%含有したPBTを用いたこと以外は実施例1と同様にして複合繊維を紡糸し、延伸を施し、該複合繊維を用いて筒編地を作成した。該筒編地の各性能評価を行った。結果を表2に示す。本発明で使用する消臭剤に比較し、とくにアセトアルデヒドに対する消臭効果が非常に低かった。
【0085】
比較例4
複合比率B:A=80:20(質量比)として、断面形状を図1のヌに示すような複合形態に変更し、A成分ポリマーの断面周長占有率を15%にしたこと以外は実施例1と同様にして紡糸、延伸を行い、該フィラメントを用いて筒編地を作成した。該筒編地の各性能評価を行い、表2に示した。A成分の断面周長占有率が低いため消臭性能が十分に発揮されなかった。
【0086】
【表1】
Figure 2004169218
【0087】
【表2】
Figure 2004169218
【0088】
【発明の効果】
本発明によれば、高濃度の臭気成分の消臭のみならず、低濃度の臭気成分をほとんど完全に消臭することができ、さらに抗菌性能をも合わせ持った繊維を提供することができる。したがって、本発明の繊維は衣料用素材のみならず、生活資材素材として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合繊維の複合形態を例示するための繊維断面模式図
【符号の説明】
A:消臭剤を含有するポリエステル成分(A)
B:融点150℃以上の結晶性熱可塑性ポリマー成分(B)

Claims (3)

  1. 四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物および光触媒を含有するガラス転移温度(Tg)65℃以下のポリエステル成分(A)と融点150℃以上の結晶性熱可塑性ポリマー成分(B)とから成る複合繊維であって、該成分(A)が該複合繊維の繊維周長の50%以上を占有することを特徴とする消臭複合繊維。
  2. ポリエステル成分(A)が、ポリブチレンテレフタレートまたはポリ乳酸である請求項1記載の消臭複合繊維。
  3. 請求項1または2に記載の消臭複合繊維を含む繊維製品。
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