JP2004161665A - 多成分系金属酸化物薄膜成膜用原料溶液、該原料溶液を用いた薄膜形成方法及び該方法により形成された薄膜 - Google Patents
多成分系金属酸化物薄膜成膜用原料溶液、該原料溶液を用いた薄膜形成方法及び該方法により形成された薄膜 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】液相法により、原料の溶解性、溶液の保存安定性に優れ、均質で、電気、機械特性に優れた薄膜と成膜用原料溶液を提供。
【解決手段】少なくとも加水分解性の有機Zr化合物の部分加水分解物及び/または部分重縮合物または2族及び3族から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩と加水分解性の有機Zr化合物が縮合反応して生成する2族及び3族から選ばれる金属を含む加水分解性の有機Zr化合物の部分加水分解物及び/または部分重縮合物を含み、かつ前記部分加水分解及び/または部分重縮合した該有機金属化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒との錯体を含む成膜用原料溶液である。中和価が250以上500未満であるカルボン酸と、多重結合が形成するπ電子を配位子として利用した原料溶液は保存安定性に優れ、乾燥、仮焼中、配位子が容易に除去でき、低温焼成が可能である。
【選択図】 なし
【解決手段】少なくとも加水分解性の有機Zr化合物の部分加水分解物及び/または部分重縮合物または2族及び3族から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩と加水分解性の有機Zr化合物が縮合反応して生成する2族及び3族から選ばれる金属を含む加水分解性の有機Zr化合物の部分加水分解物及び/または部分重縮合物を含み、かつ前記部分加水分解及び/または部分重縮合した該有機金属化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒との錯体を含む成膜用原料溶液である。中和価が250以上500未満であるカルボン酸と、多重結合が形成するπ電子を配位子として利用した原料溶液は保存安定性に優れ、乾燥、仮焼中、配位子が容易に除去でき、低温焼成が可能である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【産業の属する技術分野】
本発明は絶縁膜、誘電体膜や透明導電膜等としての電子材料、耐食性薄膜や高靭性および高強度薄膜等の表面保護材料、酸素センサーや燃料電池用の固体電解質材料等に用いられる多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液、該溶液を使用する成膜法およびこれにより成膜された多成分系金属酸化物薄膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
二酸化ジルコニウム(ジルコニア)は室温で単斜晶系であるが、2族金属であるカルシウム、マグネシウムや3族金属であるスカンジウム、イットリウム等の酸化物を添加し固溶させるとジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物となり、広い温度範囲で立方晶系である安定化ジルコニアや立方晶系および正方晶系が混在した部分安定化ジルコニアになることが知られている。また、ジルコニアに固溶させる2族金属酸化物や3族金属酸化物の量や処理温度を変えることで部分安定化または安定化ジルコニア薄膜を得ることができ、その金属酸化物によって固溶させる量は異なる。
【0003】
ジルコニウムイオンと異なる価数の金属酸化物が固溶すると結晶格子中に酸素イオン空孔が生じ、500℃以上において酸素イオン伝導性が発現することが知られている。この性質を利用して、立方晶系である安定化ジルコニア薄膜は酸素センサーや第三世代燃料電池用の固体電解質として用いられている。また、正方晶系と立方晶系の混在により高強度・高靭性を示す部分安定化ジルコニア薄膜は保護膜として使用される。また、電子材料分野では誘電体材料や絶縁材料として利用されている。
【0004】
ジルコニア以外の多成分系酸化物薄膜形成用金属酸化物としてインジウム、錫、亜鉛、イットリウムの各金属酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物が知られている。これらのインジウム、錫、亜鉛、イットリウムの各金属酸化物に異なる価数を持つ金属の酸化物を固溶させると、結晶全体として電気的に中性を保つためにキャリアが生成され、そのキャリアが局在化せずに結晶中を自由に動けるようになり、導電性が付与される。また、これらの多成分系金属酸化物薄膜は透明性があるため、コンピュータ等の表示装置の透明電極や発光素子として多く使われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物を得る代表的な例としては粉末からの焼結体を使用する方法が取られていたが、密度が理論値よりも低く不透明であり、薄膜化は難しかった。またスパッタ法やCVD法等の気相法による薄膜製作も試みられているが、組成制御が難しく、装置が非常に複雑で成膜コストが高く経済性に問題がある。また、透明導電材料薄膜の作製においては、気相法によるものが主であるが、CVD法では成膜装置が複雑なうえに組成制御が難しいことから成膜コストが高く経済性が問題にされており、PVD法でも多成分系金属酸化物ターゲット基板の作製および大基板全面に均一に成膜するには困難が伴う。
【0006】
液相法には、ゾルゲル法と有機金属熱分解法があげられる。これらは、均一な組成制御が容易で、大基板全面への成膜性にも優れ、気相法に比べ安価である。ゾルゲル法とは、原料となる加水分解性を有する金属化合物を用いて加水分解反応からゾルを生成させ、そのゾルを含有する溶液を基板に塗布し、膜を乾燥させてゲル膜にした後、結晶化温度以上の温度にて焼成して金属酸化物の膜を結晶化する方法である。有機金属熱分解法とは、熱分解性有機金属化合物(β‐ジケトン錯体、カルボン酸塩等)を含有する成膜用原料溶液を基板に塗布し、膜を乾燥させた後に、熱分解が生じるような温度以上にて熱処理を行い、金属酸化物の膜を結晶化する方法である。
【0007】
従来の液相法を用いた場合、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族金属酸化物の原料として硝酸塩、塩化物塩、低級カルボン酸塩が使用されるが、比抵抗17.5 MΩ・cm 未満である硝酸や塩酸、中和価が500以上である低級カルボン酸を生じてゲル化が促進され成膜用原料溶液寿命が短く問題となる。その点を克服するために、原料に、硝酸塩等ではなく、加水分解性を有する有機金属化合物が使用される場合もある。しかし、該有機金属化合物は加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物と加水分解・重縮合反応速度が異なるために反応制御が困難で反応操作性に劣る。また、該有機金属化合物は原料コストが高いためにコスト面でも問題がある。
【0008】
それに加えて、従来の液相法では、液寿命安定性の向上を目的としてβ‐ジケン類のようなキレート錯化剤を過剰に加えていたが、キレート結合を切断するには高エネルギーを要し、薄膜中に配位子に起因するカーボンが残渣しやすかった。電子部品等に応用する場合には、焼成工程の他に残渣カーボンを取り除くため、さらに高い温度での熱処理工程を必要としていた。
【0009】
本発明は、液相法によって、上記問題点の解消を目指したものである。元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族金属酸化物を含有する多成分系金属酸化物薄膜を成膜する場合に、安価な原料と従来とは異なる部分加水分解および部分重縮合有機金属錯体を用いることによって、表面形態が均質で透明な薄膜を形成することができる安価で、かつ一年以上の保存安定性が良い多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液と、この原料溶液を用いて簡単な操作で形成しえる多成分系金属酸化物薄膜の成膜方法および成膜された多成分系金属酸化物薄膜を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、加水分解性を有する有機金属化合物と、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩を用いて調製される溶液であり、少なくとも加水分解性を有する有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、有機金属塩と加水分解性を有する有機金属化合物の縮合反応物である2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物をいずれかを含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合有機金属化合物)の錯体を含んでいることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液、この原料溶液を基体に塗布し、加熱して金属酸化物を成膜し、該加熱中または加熱後に膜を結晶化温度以上で焼成して多成分系金属酸化物薄膜を形成することを特徴とする形成方法、および該当法により形成された多成分系金属酸化物薄膜である。
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、多成分系酸化物薄膜の成膜用原料溶液が、ジルコニウム等の部分加水分解または/および部分重縮合した有機金属化合物錯体を有機溶媒中に含有した溶液を用いて安価な方法にて保存安定性が飛躍的に向上し、上記問題点を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液は、加水分解性を有する有機金属化合物、例えば有機ジルコニウム化合物または有機亜鉛化合物または有機インジウム化合物または有機錫化合物等と、元素周期律における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩を用いて調製される溶液であって、少なくとも加水分解性を有する金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、縮合反応によって生成する2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合有機金属化合物)の錯体を含んでいることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液であり、安価でかつ長期保存安定性のある成膜用原料溶液を容易に得ることができる。その溶液を基板に塗布し、焼成することで優れた機械特性や電気特性を有する多成分系金属酸化物薄膜を従来の固相法よりも低温で得ることができる。
【0014】
多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液中に含まれる有機金属化合物錯体は、少なくとも加水分解性を有する有機金属化合物と炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒と水から成り、部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物中の金属に炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合が形成するπ電子が配位するか、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造となり、有機金属化合物錯体を形成する。
【0015】
得られる多成分系金属酸化物は、主成分の金属酸化物がジルコニア酸化物または亜鉛酸化物またはインジウム酸化物または錫酸化物または銅酸化物、添加金属酸化物が元素周期律表における2族、3族、13 族、14族、15族からなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属酸化物であり、添加濃度が50モル%未満である。また、その構成は添加金属酸化物が主成分である金属酸化物に固溶してもよいし、添加金属酸化物と主成分である金属酸化物から中間相を形成してもよいし、
固溶体と中間相の混晶体等も得ることができる。
多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液は、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液と、加水分解性を有する有機金属化合物から調製された金属酸化物前駆原料溶液を混合または反応させることによって得られる。
【0016】
元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液の出発原料として、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類のカルボン酸塩を用いる。
【0017】
加水分解性を有する有機金属化合物は、ジルコニウム、亜鉛、インジウム、錫、イットリア、銅等の金属を含み、特に、絶縁膜、耐熱材料そして固体電解質として用いる場合はジルコニウムを使用するのが望ましい。
【0018】
本発明により形成させた多成分系金属酸化物薄膜は、絶縁膜、誘電体膜、透明導電膜、発光素子等の電子材料、表面保護膜としての耐食性材料、高靭性および高強度材料や耐熱材料、酸素センサーや燃料電池用電解質としての固体電解質材料に用いられる。
【0019】
次に本発明の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液に関し、近年、燃料電池用の固体電解質として特に有望視されているジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を例にして説明する。
【0020】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の場合、有機ジルコニウム化合物錯体および/または2族金属(および/または3族金属)を含む有機ジルコニウム化合物錯体は、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物および/または2族金属(および/または3族金属)を含む有機ジルコニウム化合物と炭素‐炭素、炭素‐窒素、炭素‐酸素の多重結合を有する疎水性溶媒を含み、疎水性有機化合物の多重結合が形成するπ電子が金属に配位した錯体、またはπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物を有機溶媒中に含有する。
【0021】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液はジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物(および/または3族金属酸化物)前駆原料溶液を混合または縮合反応させることによって得られ、この成膜用原料溶液に含まれる部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物錯体の分子数は、成膜用原料溶液中に存在するこれら金属原子数に対して0.001モル倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.005〜1.0モル倍である。
【0022】
ジルコニア前駆原料溶液は、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性有機溶媒に溶解させ、ついで非共有電子対を有する親水性有機溶媒中に水を含ませた溶液を用いて加水分解または縮合反応させることによって、少なくとも有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有しており、かつ部分加水分解および/または部分重縮合した該有機ジルコニウム化合物の錯体を有機溶媒中に含む溶液である。
【0023】
ジルコニア前駆原料溶液に含まれる有機ジルコニウム化合物錯体の分子数は、その溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.001モル倍以上であることが好ましく、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の保存安定性を向上するにはジルコニア前駆原料溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.005〜1.0モル倍であることがより好ましい。
【0024】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液は、脂肪族または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解した溶液か、またはカルボン酸塩を脂肪族または脂環式カルボン酸と反応させて得られる溶液か、またはカルボン酸塩を疎水性溶媒に溶解させたいずれかの溶液であり、混合して用いても良い。2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いる低級カルボン酸塩またはカルボン酸塩の2族金属には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムが、また3族金属にはスカンジウム、イットリウム、ランタノイド系金属およびアクチノイド系金属が含まれる。
【0025】
成膜用原料溶液の溶液寿命に悪影響を及ぼさないようにするために、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いるカルボン酸塩は加水分解反応時に生成するカルボン酸の物性が中和価250以上500未満であるような塩、脂肪族または脂環式カルボン酸は中和価が250以上500未満であるカルボン酸を使用する。
【0026】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を使用する本発明によれば、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の塗布と加熱により成膜された安定化および部分安定化ジルコニア薄膜が提供される。この成膜は、一般的な成膜法に従って実施すればよい。即ち、この成膜用原料溶液を基板に塗布し、乾燥し、仮焼して安定化および部分安定化ジルコニア薄膜を成膜し、必要に応じて膜が所望の厚さになるまで塗布と乾燥と仮焼を繰り返し、前記仮焼中または塗布と乾燥と仮焼を繰り返した後に膜の結晶化を促す工程として結晶化温度以上で焼成することにより、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜を成膜してもよい。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を使用する本発明の一態様であるジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液について説明する。
【0028】
ジルコニア中に2族金属酸化物および/または3族金属酸化物を50モル%未満含有する多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を使用して成膜される薄膜は、通常、安定化または部分安定化ジルコニア薄膜となる。このような安定化または部分安定化ジルコニアの薄膜を得る代表的な例は、成分金属のアルコキシド、有機金属錯体といった加水分解性または熱分解性を有する有機金属化合物を用いて、液相法により成膜する方法が、当業者にはよく知られている(例、特開平9−227124号公報、特開平10−97860号公報、特開平11‐214018号公報参照)。
【0029】
本発明のジルコニアを主成分とする多成分系金属薄膜の成膜用原料溶液を使用する様態では、この成膜用原料溶液において、少なくとも加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、縮合反応によって生成するジルコニアと2族金属および/または3族金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合金属化合物)の錯体(多重結合が形成するπ電子が有機金属化合物の金属に配位した錯体、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物)を有機溶媒中に含有していることを特徴とする。この特徴を除けば、溶液組成や成膜方法は一般に従来の液相法と同様でもよい。
【0030】
成膜用原料溶液中に、その原料溶液の一部として有機金属熱分解に用いられる溶液を用いることも可能であり、結晶化温度および熱分解温度以上にて熱処理を行うと、金属酸化物を得ることができる。
【0031】
なお本発明における液相法は、ゾルゲル法、有機金属熱分解法、およびこれらのハイブリッドされた方法を含む用語であり、液相法は、低コスト化、化学量論組成制御の容易性、大面積コーティングの容易性の点で優れているという特徴がある。
【0032】
ジルコニウム原料として好ましい加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物は、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ‐i‐プロポキシジルコニウム、テトラ‐n‐ポロポキシジルコニウム、テトラ‐i‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐sec‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐t‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐2‐メチル‐2ブトキシジルコニニウム等のアルコキシドであるが、経済性の点からジルコニウム原料の一部として安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物、熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を使用してもよい。
【0033】
安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物の代表的な化合物として、有機酸塩やβ‐ジケトン錯体等が利用できる。ジルコニウム原料として好ましい熱分解性を有する有機酸として、プロピオン酸ジルコニル、ジメタクリ酸ジルコニル、メタクリ酸ジルコニル等が使用できる。また、熱分解性を有するβ‐ジケトン錯体として、アセチルアセトン錯体、ジピバロイルメタン錯体、ベンゾイルアセトン錯体等が使用できる。
【0034】
熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物の代表的な化合物として、ジ‐n‐ブトキシ(ビス‐2,4‐ペンタンジオネート)ジルコニウム、ジ‐i‐プロポキシビス(2,2,6,6‐テトラメチル‐3,5‐ヘプタンジオネート)ジルコニウム、ジ‐n‐ブトキシ‐ジメタクリレートジルコニウム、トリ‐n‐ブトキシ‐メタクリロキシアセトアセテートジルコニウム等の化合物である。
【0035】
安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物、熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物は、加水分解または重縮合反応が期待されないために、即ち結晶化温度の低温化に寄与されにくいために、本発明で用いる場合は使用する量を制限するのが好ましい。該有機ジルコニウム化合物は、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液中に含まれるジルコニウム原子数に対して0.5モル倍未満が好ましく、特に0.25モル倍未満が好ましい。
【0036】
上述したような有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性溶媒に一緒に溶解して、有機ジルコニウム化合物錯体を有機溶媒中に含有したジルコニア前駆原料溶液を調製する。
【0037】
多重結合を有する疎水性溶媒として好ましい溶媒は、芳香族化合物、炭素‐炭素の二重ないしは三重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素、炭素‐ヘテロ原子の二重結合ないしは三重結合を有する有機化合物等から選ばれた1種もしくは2種以上の疎水溶媒を使用することができる。なお、上記疎水性溶媒とは水への溶解度が6%以下の溶媒である。
【0038】
前記芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、フェノール、ニトロベンゼン、アセトフェノン、安息香酸エチル、フェニルエチルアルコール等があげられ、炭素‐炭素の二重ないしは三重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素としては、1‐ヘキセン、2‐ヘキセン、1‐ヘプテン、2‐ヘプテン、3‐ヘプテン、1‐オクテン、2‐オクテン、3‐オクテン、ノネン、デセン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニン、アリルエチルエーテル、シクロヘキセン、シクロペンテン、リモネン等があげられ、炭素‐ヘテロ原子の二重結合ないしは三重結合を有する有機化合物としては、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸アリル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等があげられる。
【0039】
また、ジルコニア前駆原料溶液中に含まれる多重結合を有する疎水性溶媒は、全量中のジルコニウムに対して2〜100倍モルの量が含まれているのが好ましく、より好ましくは5〜20倍モルであり、それ以外には飽和疎水性有機化合物を含んでいても差し支えはない。これは、2倍モル未満では反応制御が難しく、100倍モル以上では濃度が希薄すぎて経済性に劣るためである。
【0040】
非共有電子対を有する親水性溶媒として好ましい溶媒は、従来の液相法で使用されていたようなアルコール類、エーテル類、酸素原子、窒素原子および硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環式化合物、かつ単結合である有機化合物から選ばれた1種もしくは2種以上の親水性溶媒を使用することができるが、アルコールを含む混合溶媒であることが、反応操作性の点から好ましい。
【0041】
前記アルコール類としては、炭素数1〜10のアルコールから選ばれる少なくとも1種であり、例えば、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、イソブチルアルコール、1‐ペンタノール、2ペンタノール、2‐メチル‐ペンタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、グリセリン、エチレングリコール等のアルカノール類、シクロヘキサノールといったシクロアルカノール類、ならびに2‐メトキシエタノールといったアルコキシアルコール類が使用できる。
【0042】
エーテル類の例は、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジイソピルエーテル等があげられる。
【0043】
酸素原子、窒素原子および硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環式化合物の例としては、テトラヒドロフラン、モルホリン、ジオキサン、トリオキサン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、ピペリジン、イミダゾリン、ピペラジン等があげられる。
【0044】
なお、多重結合を有するヘテロ環式化合物は脱水操作を用いることで、疎水性溶媒の作用と同様に有機ジルコニウム化合物錯体を形成することができる。また、水を含有することができるので、親水性溶媒としても用いることができる。多重結合を有するヘテロ環式化合物としては、ピリジン、ピコリン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、チオフェン、イミダゾール、フラン等があげられる。
【0045】
有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性溶媒に一緒に溶解させて部分加水分解および/または部分重縮合した有機ジルコニウム化合物を含む溶液をジルコニア前駆原料溶液とする。より好ましくは、この溶液を加熱し、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を部分加水分解および/または部分重縮合反応させて、より多くの部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有した溶液をジルコニア前駆原料溶液とするのがよい。この溶液においては、少なくとも一部の有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解および/または部分重縮合した該有機ジルコニウム化合物の錯体を含有することになる。
【0046】
部分加水分解または部分重縮合反応は、温度や時間を制御することによって、即ち完全に加水分解または重縮合反応が進行してゲルが析出しないように反応を制御することが好ましい。完全に加水分解が進行すると、ジルコニア前駆原料溶液のゲル化が促進されるために、安定化ジルコニアおよび部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液保存安定性の低下を引き起こすので好ましくはない。加熱条件は、温度が35〜200℃、時間は1時間〜50時間が適当である。
【0047】
脂肪族または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解して調製した2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液の有機2族金属化合物および/または有機3族金属化合物原料として好ましい低級カルボン酸塩は、一般式(CXH2X+1COO)YM(ただし、M:2族金属または3族金属、Xは0〜2の整数、Yは2〜3の整数)で表すことができる塩であることが好ましく、2族金属および/または3族金属原料として好ましい低級カルボン酸塩は、蟻酸カルシウム、蟻酸ストロンチウム、蟻酸バリウム、蟻酸マグネシウム、蟻酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸イットリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ストロンチウム、プロピオン酸バリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸イットリウム等があげられる。
【0048】
上述した脂肪族または脂環式カルボン酸は、中和価が250以上500未満の性質も持つものを使用して2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液を調製する。
中和価が250未満のカルボン酸は、常温では固体のものが多いために取り扱いにくい。また、一部の液体であるものは開裂を引き起こしやすい活性な不飽和結合を有し、熱処理時にラジカルが生成して重合が起こる。そのため、多成分系金属酸化物膜中にカーボンが残存し易く、電子部品等には応用できない。中和価が500以上であるカルボン酸は、常温から操作反応温度域で比抵抗が 17.5MΩ・cm 未満であるために水素イオンを解離しやすく、部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニアの成膜用原料溶液に対して、急激に加水分解反応を促進させるために、成膜用原料溶液の保存安定性を著しく低下させる。
【0049】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液は、上述した性質を持つ脂肪族または脂環式カルボン酸にカルボン酸塩を溶解させるか、または疎水性溶媒にカルボン酸塩を溶解させて調製してもよい。2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液の有機2族金属化合物原料および有機3族金属化合物原料として好ましいカルボン酸塩は、一般式(R‐COO)ZM(ただし、M:2族金属または3族金属、R:脂肪族または脂環式、Zは2〜3の整数)で表すことができる。例としては、シクロヘキサンブチル酸マグネシウム、2エチル‐ヘキサン酸カルシウム、ネオデカン酸ストロンチウム、シクロヘキサンブチル酸バリウム、2エチル‐ヘキサン酸イットリウム等があげられる。
【0050】
中和価が250以上500未満である脂肪族または脂環式カルボン酸溶媒としては、ヘキサン酸、2エチル‐ヘキサン酸、3エチル‐ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸等を用いるのが好ましい。
【0051】
前述した脂肪族または脂環式カルボン酸を多量に使うと薄膜中に残存するカーボンが多くなるために、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いる脂肪族または脂環式カルボン酸の量は、有機2族化合物金属および/または有機3族金属化合物に対して、2〜40倍モルが好ましく、特に好ましくは2〜25倍モル、最も好ましくは2〜15倍モルである。
【0052】
カルボン酸塩を溶解させる疎水性溶媒は、多重結合を有する有機化合物が好ましく、芳香族化合物であるベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、シクロペンタジエン、炭素‐炭素の多重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素である1‐ヘキセン、2‐ヘキセン、1‐ヘプテン、2‐ヘプテン、3‐ヘプテン、炭素‐ヘテロ原子多重結合結合を有するペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン等から選ばれた1種もしくは2種以上の疎水溶媒が好ましいが、飽和結合を有する有機化合物であるヘキサンやシクロヘキサン等を使用してもよい。
【0053】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液として、脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解して調製した溶液、またはカルボン酸塩を脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸および/または疎水性溶媒に溶解させて調製させた溶液のどちらを用いても良い。または、それらを混合した溶液を2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液として用いることもできる。
【0054】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液をジルコニア前駆原料溶液と混合する前に、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液中に含まれる低級カルボン酸、低級カルボン酸塩や脂肪族または脂環式カルボン酸塩に付随する結晶水を除去することが特に好ましい。これらの低級カルボン酸と水の除去は、常圧下において約90〜110℃に沸点を有する疎水性溶媒を2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に加えて、この溶液の蒸留操作を行い、疎水性溶媒との共沸蒸留にて除去が実施できる。低級カルボン酸と水の除去を行わずにジルコニア前駆原料溶液と混合する場合、安定化ジルコニアおよび部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液に対して加水分解促進剤として働き、保存安定性を低下させることがある。
【0055】
本方法により、従来の液相法で用いられていたような低級カルボン酸塩を用いても、液寿命に悪影響を及ぼす因子がなくなり、飛躍的に液寿命が向上することになる。
【0056】
前記安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は、ジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液より調製される。ジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液を混合した溶液を、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液としてもよい。より好ましくは、混合した溶液を加熱して、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液中に含まれる有機2族金属化合物および/または有機3族金属化合物とジルコニア前駆原料溶液中に含まれる加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を複合化させた化合物、該化合物の錯体を多く含ませるのが良い。
【0057】
この複合化する工程は、すなわち、官能基交換反応である。この反応によって、安定化および部分安定化ジルコニアの該当有機金属化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物、およびその該当有機金属化合物の錯体が生成する。加熱することによって、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液中に含まれる加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物、および2族金属および/または3族金属が組み込まれた該有機ジルコニウム化合物が完全に加水分解または重縮合が進行してゲルが析出しないように反応を制御するのが好ましい。完全に加水分解または重縮合反応が進むと、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液保存安定性の低下を引き起こす。加熱条件は35〜150℃、時間は1時間〜25時間が適当である。
【0058】
安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は少量の安定化剤を加えても良い。安定化剤の添加により、加水分解反応および重縮合反応の制御することができ、成膜用原料溶液の保存安定性がさらに改善される。安定化剤として効果がある化合物をあげると、モノケトン類(2‐プロパノン、2‐ペンタノン、3‐ペンタノン)、低級エステル類(酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル)等があげられる。安定化剤を加えすぎると、薄膜中にカーボンが残留する可能性があるために必要以上に加える必要は無く、成膜用原料溶液中に存在するジルコウム原子数に対して0.4モル倍以下が好ましく、より好ましくは0.1モル倍以上0.2モル倍未満がよい。
【0059】
本発明に係る成膜用原料溶液は有機ジルコニウム化合物錯体を含有する。有機金属化合物錯体は成膜用原料溶液に含まれる疎水性溶媒の多重結合部位のπ電子が有機ジルコニウム化合物に配位した錯体か、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物である。この錯体または構造物が、成膜用原料溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.001倍以上で存在することが好ましく、より好ましくは0.005〜0.25倍である。
【0060】
配位子または相互作用を及ぼす疎水性溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、1‐キシレン、2‐キシレン等が挙げられ、これらの多重結合部位に生成するπ電子が金属に配位する、または金属と相互作用を及ぼすことによって、化1で示されるような有機金属化合物錯体である有機ジルコニウム化合物錯体の部分加水分解物および/またはその部分重縮合物構造の化合物が例示される(ただし、R:脂肪族基または有機金属塩、nは1以上の整数であり、4以下であることが望ましい)。これらの配位もしくは相互作用は、従来の液相法で用いられていたようなキレート結合に比べて結合力が弱く、仮焼または焼成時の低い温度にて配位子(疎水性溶媒)を除去することが可能となる。即ち、従来に比べて多成分系金属酸化物薄膜の物性に悪影響を及ぼすようなカーボンの残渣の危険性を従来の液相法に比べ低減することができる。
【0061】
【化1】
【0062】
例示した有機ジルコニウム化合物錯体は、多重結合を有する疎水性溶媒と加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を混合または加熱することによって生成できる。加熱条件は、温度が35〜200℃、時間は1時間〜50時間が適当である。
【0063】
このような有機ジルコニウム化合物錯体が安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液中に含まれると、その原料溶液から成膜された安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の表面は、均一で微細な結晶から成り、非常に平滑となる。また、蜜に充填された構造をとり、従来の液相法に比べて、著しく表面形態等が向上する。これは、有機ジルコニウム化合物錯体の配位子が従来のキレート錯体よりも低温で除去することができるために、分子の自由エネルギーが高く、ジルコニアの結晶化温度の低温化と結晶性の向上が促進されて基板上に均一にジルコニアが生成し、それが初期核となって結晶成長するために、このような向上を達成できたものと思われる。
【0064】
添加する2族金属酸化物や3族金属酸化物は、得られるジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の機械的特性を向上させるだけではなく、ジルコニアの結晶構造中に酸素欠陥を生じさせてイオン伝導性が向上する。
【0065】
上述したように、この成膜用原料溶液から従来の液相法と同様に安定化または部分安定化ジルコニア薄膜を成膜することができる。まず、基板上に成膜用原料溶液を塗布する。塗布法はバーコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、噴霧法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法等、用途に応じて選択すればよい。塗布した膜を乾燥させ、溶媒を除去する。この乾燥温度は溶媒の種類によっても異なるが、通常は80〜200℃の範囲内で行われる。ただし、次の金属酸化物に転化させるための仮焼の昇温中にも溶媒は除去することができるので、この乾燥工程は必ずしも必要であるわけではない。
【0066】
その後、仮焼工程として、塗布した基板を加熱し、有機金属化合物(または複合有機金属化合物)を完全に加水分解および熱分解させて金属酸化物に転化することによって、多成分系金属酸化物薄膜を形成させる。この仮焼は、通常、含水蒸気雰囲気中や含酸素雰囲気中で行われる。仮焼温度は、金属酸化物の種類(ジルコニアに固溶させる2族および3族からなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属酸化物の種類)によっても異なるが、通常は100℃〜300℃で行われる。仮焼時間は、加水分解および熱分解が完全に進行するように任意に設定するが、通常は1分〜120分程度である。
【0067】
液相法の場合は、成膜‐(乾燥)‐仮焼の1工程によって得られる膜厚が、必要とする膜厚に達しない場合がある。そのときは、成膜‐(乾燥)‐仮焼工程を所望の膜厚となるまで繰り返せばよい。こうして得られた膜を表面保護材料、固体電解質材料、電子材料等として用いてもよいが、一般的には結晶性が不十分で、部分安定化ジルコニアおよび安定化ジルコニア薄膜としての特性を得られない場合がある。
【0068】
そのため、最後に、より結晶化させるために焼成を行う。焼成工程は安定化および部分安定化ジルコニアの結晶化温度以上の温度で熱処理を行い、立方晶および/または正方晶構造を持つ結晶質の安定化および部分安定化ジルコニア薄膜として用いても良い。なお、焼成工程は、最後に一度行うのではなく、成膜‐(乾燥)‐仮焼‐焼成の工程を所望の膜厚となるまで繰り返すこともできる。
【0069】
この焼成工程での焼成温度は、通常、300〜1000℃の範囲である。従って、基板としては、この焼成温度に耐える程度の基板を使用する。結晶化のための焼成時間は、通常1分〜120分程度であり、焼成雰囲気は特に限定はされないが、通常は空気、酸素、酸化性ガスを含んだ不活性ガス等を用いる。
【0070】
耐熱性の基板材料としては、シリコン、白金、ニッケル、銅、鉄等の金属類や酸化マグネシウム、二酸化ルテニウム、二酸化イリジウム、ルテニウム酸ストロンチウム、二酸化チタン、二酸化珪素、水晶、ガラス等の無機化合物があげられる。
【0071】
このようにして成膜された部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニア薄膜の膜厚は、電子デバイス材料や表面保護材料として用いる場合は通常5〜500nm、固体電解質材料として用いる場合は500nm〜30000nm程度が好ましい。
【0072】
(実施例)
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0073】
実施例1
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.095mol、トルエン0.9molを適当な反応容器に入れ、100℃で10時間還流させて有機ジルコニウム化合物錯体を形成後に、溶液温度が25℃で水を0.19mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで100℃で30時間加熱・還流して、加水分解・重縮合させた溶液を濃縮し、ジルコニウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。イットリア前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸イットリウム・4水和物0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、トルエンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、イットリウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0074】
RCA洗浄したシリコン基体を、トルエン飽和蒸気中、先に濃度調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で、シリコン基体上に部分加水分解または/重縮合した有機ジルコニウム化合物錯体、部分加水分解または/重縮合したイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0075】
塗布したシリコン基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、シリコン基体上に透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約205nmであった。
【0076】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜のX線回折装置を用いて分析した結果を図1に示す。X線回折パターン図により、立方晶構造と正方晶構造を有する部分安定化ジルコニアであることが確認された。
【0077】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を図2に示す。表面SEMによればクラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0078】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜をダイナミック超微小硬度計にて硬度を分析した結果、硬度は12 GPa であることが確認された。これは1200℃で焼結を行った固相法によるバルクセラミックである部分安定化ジルコニアと同等の値であった。従来よりも低温で部分安定化ジルコニア薄膜の作製が可能になり、工業的に優れていることがわかった。
【0079】
実施例2
ジルコニア前駆原料溶液は、疎水性溶媒としてトルエン0.6molを用いて80℃で80時間還流後に0.095molの水を含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで70℃で加熱・還流して調製した以外は実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、2‐エチルヘキサン酸を用いて、80℃で80時間還流させ調製した以外は実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から80℃で50時間還流させた以外は実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて形成させた。
【0080】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約200nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0081】
実施例3
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウムと1‐オクテン、2‐ブタノールを用いて調製した以外は、実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、2‐エチルヘキサン酸、1‐オクテンを用いた以外は、実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて形成させた。
【0082】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約198nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0083】
実施例4
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム、1‐オクテン0.6molを用いて80℃で15時間還流させて調製した以外は、実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、蟻酸、2‐エチルヘキサン酸、1‐オクテンを用いて80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて得た。
【0084】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約213 nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0085】
実施例5
DHF洗浄された石英基体を用いて、空気雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートし、1000℃で1時間の焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0086】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約125nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0087】
実施例6
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.085molを用いて調製した以外は実施例1に準じて調製した。カルシア前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸カルシウム・1水和物0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、トルエンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、カルシウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とカルシア前駆原料溶液から、150℃で還流させて調製した以外は、実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、DHF洗浄を施した石英基体にディップコートし、1000℃にて焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0088】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約211nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0089】
実施例7
DHF溶液中で洗浄した石英基体を用いて、ディップコート法により塗布‐仮焼工程を10回行い、1000℃で1時間の焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0090】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1834nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0091】
実施例8
ジルコニア前駆原料溶液はジルコニア原料としてテトラ‐n‐プロポキシジルコニウム0.08mol、プロピオン酸ジルコニル0.015molを用いて調製した以外は実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、形成した薄膜を700℃にて焼成を行った以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0092】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約201nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0093】
実施例9
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.09mol、エチルベンゼン0.9molを適当な反応容器に入れ、100℃で10時間還流させて有機ジルコニウム化合物錯体を形成後に、溶液温度が25℃で水を0.18mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで100℃で30時間加熱・還流して、加水分解・重縮合させた溶液を濃縮し、ジルコニウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。イットリア前駆原料溶液は酢酸0.20mol、デカン酸0.20mol、酢酸イットリウム・4水和物0.02mol、トルエン0.6molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、エチルベンゼンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、イットリウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、金属イオン濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0094】
白金基体を脱脂・洗浄させた後、空気雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートを行い、白金基体上に部分加水分解または/重縮合した有機ジルコニウム化合物錯体および部分加水分解または/重縮合したイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0095】
塗布した白金基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させる、この「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回行い、白金基体上に安定化ジルコニア薄膜を形成させた。得られた透明な安定化ジルコニア薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約2110nmであった。
【0096】
得られた安定化ジルコニア薄膜のX線回折装置を用いて分析した結果を図3に示す。X線回折パターン図により、立方晶構造を有する安定化ジルコニアであることが確認された。
【0097】
得られた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真を図4に示す。表面SEMによればクラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0098】
得られた安定化ジルコニア薄膜の表面に白金ペーストを塗布して電極を形成し、900℃に保って直流4端子法により電気伝導度を測定した。その結果、0.026×10−3 Ω−1cm−1 であった。これは1000℃で焼結を行った固相法によるバルクセラミックである安定化ジルコニア(0.025×10−3 Ω−1cm−1)と同等の値であった。
【0099】
実施例10
ジルコニア前駆原料溶液は、エチルベンゼン0.6molを用いて、80℃で80時間還流し、水0.09mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで70℃で加熱・還流して調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、ノナン酸を用いて、80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を80℃で還流させた以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0100】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2090nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0101】
実施例11
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウムと1‐ヘキセン、2‐ブタノールを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、ノナン酸0.10molを用いて、80℃で還流した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0102】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2123nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0103】
実施例12
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム、1‐ヘキセン0.9molを反応容器に入れ80℃で15時間還流させて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、蟻酸、ノナン酸、1‐オクテンを用いて80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を80℃で還流させた以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、7000rpmの条件下でスピンコートし、1000℃にて焼成した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0104】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1323nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0105】
実施例13
洗浄したニッケル基体を用いて、空気中にて100mm/secの速度にてバーコートし、1000℃で1時間の焼成を施す工程を10回繰り返した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0106】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1899nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0107】
実施例14
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.08molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。スカンジア前駆原料溶液は酢酸0.20mol、デカン酸0.20mol、酢酸スカンジウム0.04mol、トルエン0.6molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、エチルベンゼンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、スカンジウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とスカンジア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、1000℃にて焼成を施した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0108】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2256nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0109】
実施例15
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.08molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。スカンジア前駆原料溶液は酢酸スカンジウム0.04molを用い調製した以外は、実施例9に準じて調製をした。ジルコニア前駆原料溶液とスカンジア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。トルエン飽和蒸気中、調整した該溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で塗布し、1000℃にて焼成を施す工程を10回繰り返した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0110】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2313nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0111】
実施例16
ジルコニア前駆原料溶液は、ジルコニア原料としてテトラ‐n‐プロポキシジルコニウム0.07mol、ジ‐n‐ブトキシ(ビス‐2,4‐ペンタンジオネート)0.02molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、形成した薄膜を700℃にて焼成を行った以外は、実施例9に準じて調製した。
透明な安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0112】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2078nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0113】
実施例17
インジウム酸化物前駆原料溶液は、トリ‐i‐プコキシインジウム0.095mol、フェニルエチルアルコール0.9mol、水を0.19mol含む2‐プロパノール360mlを適当な反応容器に入れ、100℃で30時間還流させて有機インジウム化合物錯体の形成と加水分解・重縮合反応をさせた溶液を濃縮し、インジウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。錫酸化物前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸錫0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸およびトルエンを供沸蒸留操作によって除去し、錫濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。インジウム酸化物前駆原料溶液と錫酸化物前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させて錫を含む有機インジウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0114】
RCA洗浄した石英基体を、トルエン飽和蒸気中、先に濃度調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で、0.15mm/secの速度で引き上げ、石英基体上に、部分加水分解物および/または部分重縮合した有機インジウム化合物錯体および部分加水分解物および/または部分重縮合錫を含む有機インジウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0115】
塗布した石英基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度400℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、石英基体上に透明なインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約187nmであった。
【0116】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜に対してX線回折装置を用いて分析した結果を図5に示す。X線回折パターン図により、インジウム酸化物に錫酸化物が固溶した多成分系金属酸化物であることが確認された。
【0117】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の表面SEM観察の結果、クラックのない均質なインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜が形成されていた。
【0118】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を直流4端子法により体積抵抗率を測定した。その結果、1.2×10−4 Ω・cm であった。これは気相法であるスパッタ法にて作製されたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜(1.1×10−4 Ω・cm)と同等の値であった。このことから、安価なこの液相法を用いれば高コストなスパッタ法よりも工業的に優れていることがわかった。
【0119】
実施例18
錫酸化物前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシ錫0.095mol、フェニルエチルアルコール0.9mol、水を0.19mol含む2‐ブタノール360mlを適当な反応容器に入れ、100℃で30時間還流させて有機インジウム化合物錯体の形成と加水分解・重縮合反応をさせた溶液を濃縮し、錫濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。アンチモン酸化物前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸アンチモン0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸およびトルエンを供沸蒸留操作によって除去し、アンチモン濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。錫酸化物前駆原料溶液とアンチモン酸化物前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてアンチモンを含む有機錫化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に錫有機化合物錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0120】
RCA洗浄した石英基体を、窒素雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートし、石英基体上に部分加水分解物および/または部分重縮合した有機錫化合物錯体および部分加水分解物および/または部分重縮合したアンチモンを含む有機錫化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0121】
塗布した石英基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、石英基体上に透明な錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約226nmであった。
【0122】
得られた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物に対してX線回折装置を用いて分析した結果、錫酸化物にアンチモン酸化物が固溶した多成分系金属酸化物であることが確認された。
【0123】
得られた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物の表面SEM写真を図6に示す。表面SEM像によればクラックのない均質な錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物酸化物薄膜が形成されていた。
【0124】
比較例1
田中義身, 岩本信也, 梅咲則正. 高温学会誌. 17, (1991)146 に準じて、ゾル‐ゲル法によって部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0125】
窒素雰囲気下、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム 0.095mol、トリ‐i‐プロポキシイットリウム 0.01mol、シクロヘキサン0.6molを溶解し、80℃にて1時間攪拌を行い、部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液とした。調製された部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液は、冷暗所での保存下、約3ヶ月経過後に微粒子が析出し始めて、5ヶ月後には溶液が完全に白濁し使用不能となった。
【0126】
RCA洗浄したシリコン基体を、ヘキサン飽和蒸気中、先に調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.95mm/secの速度で引き上げるディップコート法で部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液を塗布し、200℃における30分間の仮焼を行った後に、500℃にて1時間の焼成を行い、室温になるまで自然放冷し、透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0127】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約93nmであった。X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることが確認された。図7に示したSEM写真によれば、仮焼工程時に発生するゲル膜の収縮率が大きいために発生したと思われるクラックが確認された。
【0128】
比較例2
空気中にて3000rpmの条件下、スピンコート法を用いて塗布した以外は、比較例1に準じて半透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0129】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約107nmであり、X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることがわかった。白濁した薄膜が得られた。SEM写真によれば、大きなクラックと粒子が多数確認された。
【0130】
比較例3
「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回繰り返した以外は、比較例1に準じて不透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0131】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約1008nmであり、X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることがわかった
。SEM写真によれば、多数の大きな粒子が多数確認された。
【0132】
比較例4
公開特許公報平9‐227124に準じて、ゾル‐ゲル法によって安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0133】
塩化ジルコニウム・8水和物 1.4374gと塩化イットリウム・6水和物0.2041gを秤り取り、水1ml、エチレングリコール3ml、2‐ブタノール 2mlの混合溶媒に溶解させ、室温で1時間以上攪拌して安定化ジルコニアの成膜用溶液を調製した。調製された安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は、冷暗所での保存下、2ヶ月後には溶液が完全に白濁し使用不能となった。
【0134】
脱脂・洗浄した白金基体を、空気中、先に調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて1.66mm/secの速度で引き上げるディップコート法で安定化ジルコニアの成膜用原料溶液を塗布し、200℃における30分間の仮焼を行った後に、600℃にて2時間の焼成を行い、室温になるまで自然放冷し、半透明な安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0135】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約79nmであった。X線回折法にて得られた安定化ジルコニア薄膜の結晶構造について調べた結果を図8に示した。X線回折パターン図により、単斜晶と立方晶の混晶が得られた。これはイットリアがジルコニアに完全に固溶していないことを示している。
【0136】
また、得られた薄膜の表面SEM観察を行った結果を図9に示す。クラックが多数存在する多孔質な薄膜であることがわかった。
【0137】
比較例5
焼成温度を1300℃として、「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回繰り返した以外は、比較例1に準じて、不透明な安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0138】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約977nmであり、不透明な薄膜であった。X線回折パターン図から、立方晶構造である安定化ジルコニア薄膜であった。SEM写真によれば、多数の大きな粒子が多数確認され、表面は荒れていた。
【0139】
本発明の部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニア薄膜を形成させた基体は、絶縁膜や誘電体膜としての電子材料、表面保護膜としての耐食性材料や高靭性材料、酸素センサーや燃料電池用電解質としての固体電解質材料等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図2】実施例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図3】実施例9で形成させた安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図4】実施例9で形成させた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図5】実施例17で形成させたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜のX線回折パターン図である。
【図6】実施例18で形成させた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の表面SEM写真である。
【図7】比較例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図8】比較例4で形成させた安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図9】比較例4で形成させた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【産業の属する技術分野】
本発明は絶縁膜、誘電体膜や透明導電膜等としての電子材料、耐食性薄膜や高靭性および高強度薄膜等の表面保護材料、酸素センサーや燃料電池用の固体電解質材料等に用いられる多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液、該溶液を使用する成膜法およびこれにより成膜された多成分系金属酸化物薄膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
二酸化ジルコニウム(ジルコニア)は室温で単斜晶系であるが、2族金属であるカルシウム、マグネシウムや3族金属であるスカンジウム、イットリウム等の酸化物を添加し固溶させるとジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物となり、広い温度範囲で立方晶系である安定化ジルコニアや立方晶系および正方晶系が混在した部分安定化ジルコニアになることが知られている。また、ジルコニアに固溶させる2族金属酸化物や3族金属酸化物の量や処理温度を変えることで部分安定化または安定化ジルコニア薄膜を得ることができ、その金属酸化物によって固溶させる量は異なる。
【0003】
ジルコニウムイオンと異なる価数の金属酸化物が固溶すると結晶格子中に酸素イオン空孔が生じ、500℃以上において酸素イオン伝導性が発現することが知られている。この性質を利用して、立方晶系である安定化ジルコニア薄膜は酸素センサーや第三世代燃料電池用の固体電解質として用いられている。また、正方晶系と立方晶系の混在により高強度・高靭性を示す部分安定化ジルコニア薄膜は保護膜として使用される。また、電子材料分野では誘電体材料や絶縁材料として利用されている。
【0004】
ジルコニア以外の多成分系酸化物薄膜形成用金属酸化物としてインジウム、錫、亜鉛、イットリウムの各金属酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物が知られている。これらのインジウム、錫、亜鉛、イットリウムの各金属酸化物に異なる価数を持つ金属の酸化物を固溶させると、結晶全体として電気的に中性を保つためにキャリアが生成され、そのキャリアが局在化せずに結晶中を自由に動けるようになり、導電性が付与される。また、これらの多成分系金属酸化物薄膜は透明性があるため、コンピュータ等の表示装置の透明電極や発光素子として多く使われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物を得る代表的な例としては粉末からの焼結体を使用する方法が取られていたが、密度が理論値よりも低く不透明であり、薄膜化は難しかった。またスパッタ法やCVD法等の気相法による薄膜製作も試みられているが、組成制御が難しく、装置が非常に複雑で成膜コストが高く経済性に問題がある。また、透明導電材料薄膜の作製においては、気相法によるものが主であるが、CVD法では成膜装置が複雑なうえに組成制御が難しいことから成膜コストが高く経済性が問題にされており、PVD法でも多成分系金属酸化物ターゲット基板の作製および大基板全面に均一に成膜するには困難が伴う。
【0006】
液相法には、ゾルゲル法と有機金属熱分解法があげられる。これらは、均一な組成制御が容易で、大基板全面への成膜性にも優れ、気相法に比べ安価である。ゾルゲル法とは、原料となる加水分解性を有する金属化合物を用いて加水分解反応からゾルを生成させ、そのゾルを含有する溶液を基板に塗布し、膜を乾燥させてゲル膜にした後、結晶化温度以上の温度にて焼成して金属酸化物の膜を結晶化する方法である。有機金属熱分解法とは、熱分解性有機金属化合物(β‐ジケトン錯体、カルボン酸塩等)を含有する成膜用原料溶液を基板に塗布し、膜を乾燥させた後に、熱分解が生じるような温度以上にて熱処理を行い、金属酸化物の膜を結晶化する方法である。
【0007】
従来の液相法を用いた場合、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族金属酸化物の原料として硝酸塩、塩化物塩、低級カルボン酸塩が使用されるが、比抵抗17.5 MΩ・cm 未満である硝酸や塩酸、中和価が500以上である低級カルボン酸を生じてゲル化が促進され成膜用原料溶液寿命が短く問題となる。その点を克服するために、原料に、硝酸塩等ではなく、加水分解性を有する有機金属化合物が使用される場合もある。しかし、該有機金属化合物は加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物と加水分解・重縮合反応速度が異なるために反応制御が困難で反応操作性に劣る。また、該有機金属化合物は原料コストが高いためにコスト面でも問題がある。
【0008】
それに加えて、従来の液相法では、液寿命安定性の向上を目的としてβ‐ジケン類のようなキレート錯化剤を過剰に加えていたが、キレート結合を切断するには高エネルギーを要し、薄膜中に配位子に起因するカーボンが残渣しやすかった。電子部品等に応用する場合には、焼成工程の他に残渣カーボンを取り除くため、さらに高い温度での熱処理工程を必要としていた。
【0009】
本発明は、液相法によって、上記問題点の解消を目指したものである。元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族金属酸化物を含有する多成分系金属酸化物薄膜を成膜する場合に、安価な原料と従来とは異なる部分加水分解および部分重縮合有機金属錯体を用いることによって、表面形態が均質で透明な薄膜を形成することができる安価で、かつ一年以上の保存安定性が良い多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液と、この原料溶液を用いて簡単な操作で形成しえる多成分系金属酸化物薄膜の成膜方法および成膜された多成分系金属酸化物薄膜を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、加水分解性を有する有機金属化合物と、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩を用いて調製される溶液であり、少なくとも加水分解性を有する有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、有機金属塩と加水分解性を有する有機金属化合物の縮合反応物である2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物をいずれかを含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合有機金属化合物)の錯体を含んでいることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液、この原料溶液を基体に塗布し、加熱して金属酸化物を成膜し、該加熱中または加熱後に膜を結晶化温度以上で焼成して多成分系金属酸化物薄膜を形成することを特徴とする形成方法、および該当法により形成された多成分系金属酸化物薄膜である。
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、多成分系酸化物薄膜の成膜用原料溶液が、ジルコニウム等の部分加水分解または/および部分重縮合した有機金属化合物錯体を有機溶媒中に含有した溶液を用いて安価な方法にて保存安定性が飛躍的に向上し、上記問題点を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液は、加水分解性を有する有機金属化合物、例えば有機ジルコニウム化合物または有機亜鉛化合物または有機インジウム化合物または有機錫化合物等と、元素周期律における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩を用いて調製される溶液であって、少なくとも加水分解性を有する金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、縮合反応によって生成する2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合有機金属化合物)の錯体を含んでいることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液であり、安価でかつ長期保存安定性のある成膜用原料溶液を容易に得ることができる。その溶液を基板に塗布し、焼成することで優れた機械特性や電気特性を有する多成分系金属酸化物薄膜を従来の固相法よりも低温で得ることができる。
【0014】
多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液中に含まれる有機金属化合物錯体は、少なくとも加水分解性を有する有機金属化合物と炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒と水から成り、部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物中の金属に炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合が形成するπ電子が配位するか、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造となり、有機金属化合物錯体を形成する。
【0015】
得られる多成分系金属酸化物は、主成分の金属酸化物がジルコニア酸化物または亜鉛酸化物またはインジウム酸化物または錫酸化物または銅酸化物、添加金属酸化物が元素周期律表における2族、3族、13 族、14族、15族からなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属酸化物であり、添加濃度が50モル%未満である。また、その構成は添加金属酸化物が主成分である金属酸化物に固溶してもよいし、添加金属酸化物と主成分である金属酸化物から中間相を形成してもよいし、
固溶体と中間相の混晶体等も得ることができる。
多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液は、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液と、加水分解性を有する有機金属化合物から調製された金属酸化物前駆原料溶液を混合または反応させることによって得られる。
【0016】
元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液の出発原料として、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類のカルボン酸塩を用いる。
【0017】
加水分解性を有する有機金属化合物は、ジルコニウム、亜鉛、インジウム、錫、イットリア、銅等の金属を含み、特に、絶縁膜、耐熱材料そして固体電解質として用いる場合はジルコニウムを使用するのが望ましい。
【0018】
本発明により形成させた多成分系金属酸化物薄膜は、絶縁膜、誘電体膜、透明導電膜、発光素子等の電子材料、表面保護膜としての耐食性材料、高靭性および高強度材料や耐熱材料、酸素センサーや燃料電池用電解質としての固体電解質材料に用いられる。
【0019】
次に本発明の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液に関し、近年、燃料電池用の固体電解質として特に有望視されているジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を例にして説明する。
【0020】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の場合、有機ジルコニウム化合物錯体および/または2族金属(および/または3族金属)を含む有機ジルコニウム化合物錯体は、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物および/または2族金属(および/または3族金属)を含む有機ジルコニウム化合物と炭素‐炭素、炭素‐窒素、炭素‐酸素の多重結合を有する疎水性溶媒を含み、疎水性有機化合物の多重結合が形成するπ電子が金属に配位した錯体、またはπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物を有機溶媒中に含有する。
【0021】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液はジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物(および/または3族金属酸化物)前駆原料溶液を混合または縮合反応させることによって得られ、この成膜用原料溶液に含まれる部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物錯体の分子数は、成膜用原料溶液中に存在するこれら金属原子数に対して0.001モル倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.005〜1.0モル倍である。
【0022】
ジルコニア前駆原料溶液は、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性有機溶媒に溶解させ、ついで非共有電子対を有する親水性有機溶媒中に水を含ませた溶液を用いて加水分解または縮合反応させることによって、少なくとも有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有しており、かつ部分加水分解および/または部分重縮合した該有機ジルコニウム化合物の錯体を有機溶媒中に含む溶液である。
【0023】
ジルコニア前駆原料溶液に含まれる有機ジルコニウム化合物錯体の分子数は、その溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.001モル倍以上であることが好ましく、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の保存安定性を向上するにはジルコニア前駆原料溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.005〜1.0モル倍であることがより好ましい。
【0024】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液は、脂肪族または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解した溶液か、またはカルボン酸塩を脂肪族または脂環式カルボン酸と反応させて得られる溶液か、またはカルボン酸塩を疎水性溶媒に溶解させたいずれかの溶液であり、混合して用いても良い。2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いる低級カルボン酸塩またはカルボン酸塩の2族金属には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムが、また3族金属にはスカンジウム、イットリウム、ランタノイド系金属およびアクチノイド系金属が含まれる。
【0025】
成膜用原料溶液の溶液寿命に悪影響を及ぼさないようにするために、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いるカルボン酸塩は加水分解反応時に生成するカルボン酸の物性が中和価250以上500未満であるような塩、脂肪族または脂環式カルボン酸は中和価が250以上500未満であるカルボン酸を使用する。
【0026】
ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を使用する本発明によれば、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液の塗布と加熱により成膜された安定化および部分安定化ジルコニア薄膜が提供される。この成膜は、一般的な成膜法に従って実施すればよい。即ち、この成膜用原料溶液を基板に塗布し、乾燥し、仮焼して安定化および部分安定化ジルコニア薄膜を成膜し、必要に応じて膜が所望の厚さになるまで塗布と乾燥と仮焼を繰り返し、前記仮焼中または塗布と乾燥と仮焼を繰り返した後に膜の結晶化を促す工程として結晶化温度以上で焼成することにより、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜を成膜してもよい。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を使用する本発明の一態様であるジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液について説明する。
【0028】
ジルコニア中に2族金属酸化物および/または3族金属酸化物を50モル%未満含有する多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液を使用して成膜される薄膜は、通常、安定化または部分安定化ジルコニア薄膜となる。このような安定化または部分安定化ジルコニアの薄膜を得る代表的な例は、成分金属のアルコキシド、有機金属錯体といった加水分解性または熱分解性を有する有機金属化合物を用いて、液相法により成膜する方法が、当業者にはよく知られている(例、特開平9−227124号公報、特開平10−97860号公報、特開平11‐214018号公報参照)。
【0029】
本発明のジルコニアを主成分とする多成分系金属薄膜の成膜用原料溶液を使用する様態では、この成膜用原料溶液において、少なくとも加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、縮合反応によって生成するジルコニアと2族金属および/または3族金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解物および/または部分重縮合した該有機金属化合物(または複合金属化合物)の錯体(多重結合が形成するπ電子が有機金属化合物の金属に配位した錯体、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物)を有機溶媒中に含有していることを特徴とする。この特徴を除けば、溶液組成や成膜方法は一般に従来の液相法と同様でもよい。
【0030】
成膜用原料溶液中に、その原料溶液の一部として有機金属熱分解に用いられる溶液を用いることも可能であり、結晶化温度および熱分解温度以上にて熱処理を行うと、金属酸化物を得ることができる。
【0031】
なお本発明における液相法は、ゾルゲル法、有機金属熱分解法、およびこれらのハイブリッドされた方法を含む用語であり、液相法は、低コスト化、化学量論組成制御の容易性、大面積コーティングの容易性の点で優れているという特徴がある。
【0032】
ジルコニウム原料として好ましい加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物は、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ‐i‐プロポキシジルコニウム、テトラ‐n‐ポロポキシジルコニウム、テトラ‐i‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐sec‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐t‐ブトキシジルコニウム、テトラ‐2‐メチル‐2ブトキシジルコニニウム等のアルコキシドであるが、経済性の点からジルコニウム原料の一部として安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物、熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を使用してもよい。
【0033】
安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物の代表的な化合物として、有機酸塩やβ‐ジケトン錯体等が利用できる。ジルコニウム原料として好ましい熱分解性を有する有機酸として、プロピオン酸ジルコニル、ジメタクリ酸ジルコニル、メタクリ酸ジルコニル等が使用できる。また、熱分解性を有するβ‐ジケトン錯体として、アセチルアセトン錯体、ジピバロイルメタン錯体、ベンゾイルアセトン錯体等が使用できる。
【0034】
熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物の代表的な化合物として、ジ‐n‐ブトキシ(ビス‐2,4‐ペンタンジオネート)ジルコニウム、ジ‐i‐プロポキシビス(2,2,6,6‐テトラメチル‐3,5‐ヘプタンジオネート)ジルコニウム、ジ‐n‐ブトキシ‐ジメタクリレートジルコニウム、トリ‐n‐ブトキシ‐メタクリロキシアセトアセテートジルコニウム等の化合物である。
【0035】
安価な熱分解性を有する有機ジルコニウム化合物、熱分解性および加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物は、加水分解または重縮合反応が期待されないために、即ち結晶化温度の低温化に寄与されにくいために、本発明で用いる場合は使用する量を制限するのが好ましい。該有機ジルコニウム化合物は、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液中に含まれるジルコニウム原子数に対して0.5モル倍未満が好ましく、特に0.25モル倍未満が好ましい。
【0036】
上述したような有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性溶媒に一緒に溶解して、有機ジルコニウム化合物錯体を有機溶媒中に含有したジルコニア前駆原料溶液を調製する。
【0037】
多重結合を有する疎水性溶媒として好ましい溶媒は、芳香族化合物、炭素‐炭素の二重ないしは三重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素、炭素‐ヘテロ原子の二重結合ないしは三重結合を有する有機化合物等から選ばれた1種もしくは2種以上の疎水溶媒を使用することができる。なお、上記疎水性溶媒とは水への溶解度が6%以下の溶媒である。
【0038】
前記芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、フェノール、ニトロベンゼン、アセトフェノン、安息香酸エチル、フェニルエチルアルコール等があげられ、炭素‐炭素の二重ないしは三重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素としては、1‐ヘキセン、2‐ヘキセン、1‐ヘプテン、2‐ヘプテン、3‐ヘプテン、1‐オクテン、2‐オクテン、3‐オクテン、ノネン、デセン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニン、アリルエチルエーテル、シクロヘキセン、シクロペンテン、リモネン等があげられ、炭素‐ヘテロ原子の二重結合ないしは三重結合を有する有機化合物としては、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸アリル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等があげられる。
【0039】
また、ジルコニア前駆原料溶液中に含まれる多重結合を有する疎水性溶媒は、全量中のジルコニウムに対して2〜100倍モルの量が含まれているのが好ましく、より好ましくは5〜20倍モルであり、それ以外には飽和疎水性有機化合物を含んでいても差し支えはない。これは、2倍モル未満では反応制御が難しく、100倍モル以上では濃度が希薄すぎて経済性に劣るためである。
【0040】
非共有電子対を有する親水性溶媒として好ましい溶媒は、従来の液相法で使用されていたようなアルコール類、エーテル類、酸素原子、窒素原子および硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環式化合物、かつ単結合である有機化合物から選ばれた1種もしくは2種以上の親水性溶媒を使用することができるが、アルコールを含む混合溶媒であることが、反応操作性の点から好ましい。
【0041】
前記アルコール類としては、炭素数1〜10のアルコールから選ばれる少なくとも1種であり、例えば、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、イソブチルアルコール、1‐ペンタノール、2ペンタノール、2‐メチル‐ペンタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、グリセリン、エチレングリコール等のアルカノール類、シクロヘキサノールといったシクロアルカノール類、ならびに2‐メトキシエタノールといったアルコキシアルコール類が使用できる。
【0042】
エーテル類の例は、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジイソピルエーテル等があげられる。
【0043】
酸素原子、窒素原子および硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環式化合物の例としては、テトラヒドロフラン、モルホリン、ジオキサン、トリオキサン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、ピペリジン、イミダゾリン、ピペラジン等があげられる。
【0044】
なお、多重結合を有するヘテロ環式化合物は脱水操作を用いることで、疎水性溶媒の作用と同様に有機ジルコニウム化合物錯体を形成することができる。また、水を含有することができるので、親水性溶媒としても用いることができる。多重結合を有するヘテロ環式化合物としては、ピリジン、ピコリン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、チオフェン、イミダゾール、フラン等があげられる。
【0045】
有機ジルコニウム化合物を、多重結合を有する疎水性溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性溶媒に一緒に溶解させて部分加水分解および/または部分重縮合した有機ジルコニウム化合物を含む溶液をジルコニア前駆原料溶液とする。より好ましくは、この溶液を加熱し、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を部分加水分解および/または部分重縮合反応させて、より多くの部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有した溶液をジルコニア前駆原料溶液とするのがよい。この溶液においては、少なくとも一部の有機ジルコニウム化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物を含有し、かつ部分加水分解および/または部分重縮合した該有機ジルコニウム化合物の錯体を含有することになる。
【0046】
部分加水分解または部分重縮合反応は、温度や時間を制御することによって、即ち完全に加水分解または重縮合反応が進行してゲルが析出しないように反応を制御することが好ましい。完全に加水分解が進行すると、ジルコニア前駆原料溶液のゲル化が促進されるために、安定化ジルコニアおよび部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液保存安定性の低下を引き起こすので好ましくはない。加熱条件は、温度が35〜200℃、時間は1時間〜50時間が適当である。
【0047】
脂肪族または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解して調製した2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液の有機2族金属化合物および/または有機3族金属化合物原料として好ましい低級カルボン酸塩は、一般式(CXH2X+1COO)YM(ただし、M:2族金属または3族金属、Xは0〜2の整数、Yは2〜3の整数)で表すことができる塩であることが好ましく、2族金属および/または3族金属原料として好ましい低級カルボン酸塩は、蟻酸カルシウム、蟻酸ストロンチウム、蟻酸バリウム、蟻酸マグネシウム、蟻酸イットリウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸イットリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ストロンチウム、プロピオン酸バリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸イットリウム等があげられる。
【0048】
上述した脂肪族または脂環式カルボン酸は、中和価が250以上500未満の性質も持つものを使用して2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液を調製する。
中和価が250未満のカルボン酸は、常温では固体のものが多いために取り扱いにくい。また、一部の液体であるものは開裂を引き起こしやすい活性な不飽和結合を有し、熱処理時にラジカルが生成して重合が起こる。そのため、多成分系金属酸化物膜中にカーボンが残存し易く、電子部品等には応用できない。中和価が500以上であるカルボン酸は、常温から操作反応温度域で比抵抗が 17.5MΩ・cm 未満であるために水素イオンを解離しやすく、部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニアの成膜用原料溶液に対して、急激に加水分解反応を促進させるために、成膜用原料溶液の保存安定性を著しく低下させる。
【0049】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液は、上述した性質を持つ脂肪族または脂環式カルボン酸にカルボン酸塩を溶解させるか、または疎水性溶媒にカルボン酸塩を溶解させて調製してもよい。2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液の有機2族金属化合物原料および有機3族金属化合物原料として好ましいカルボン酸塩は、一般式(R‐COO)ZM(ただし、M:2族金属または3族金属、R:脂肪族または脂環式、Zは2〜3の整数)で表すことができる。例としては、シクロヘキサンブチル酸マグネシウム、2エチル‐ヘキサン酸カルシウム、ネオデカン酸ストロンチウム、シクロヘキサンブチル酸バリウム、2エチル‐ヘキサン酸イットリウム等があげられる。
【0050】
中和価が250以上500未満である脂肪族または脂環式カルボン酸溶媒としては、ヘキサン酸、2エチル‐ヘキサン酸、3エチル‐ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸等を用いるのが好ましい。
【0051】
前述した脂肪族または脂環式カルボン酸を多量に使うと薄膜中に残存するカーボンが多くなるために、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に用いる脂肪族または脂環式カルボン酸の量は、有機2族化合物金属および/または有機3族金属化合物に対して、2〜40倍モルが好ましく、特に好ましくは2〜25倍モル、最も好ましくは2〜15倍モルである。
【0052】
カルボン酸塩を溶解させる疎水性溶媒は、多重結合を有する有機化合物が好ましく、芳香族化合物であるベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、シクロペンタジエン、炭素‐炭素の多重結合を有する脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素である1‐ヘキセン、2‐ヘキセン、1‐ヘプテン、2‐ヘプテン、3‐ヘプテン、炭素‐ヘテロ原子多重結合結合を有するペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン等から選ばれた1種もしくは2種以上の疎水溶媒が好ましいが、飽和結合を有する有機化合物であるヘキサンやシクロヘキサン等を使用してもよい。
【0053】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液として、脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸に低級カルボン酸塩を溶解して調製した溶液、またはカルボン酸塩を脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸および/または疎水性溶媒に溶解させて調製させた溶液のどちらを用いても良い。または、それらを混合した溶液を2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液として用いることもできる。
【0054】
2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液をジルコニア前駆原料溶液と混合する前に、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液中に含まれる低級カルボン酸、低級カルボン酸塩や脂肪族または脂環式カルボン酸塩に付随する結晶水を除去することが特に好ましい。これらの低級カルボン酸と水の除去は、常圧下において約90〜110℃に沸点を有する疎水性溶媒を2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液に加えて、この溶液の蒸留操作を行い、疎水性溶媒との共沸蒸留にて除去が実施できる。低級カルボン酸と水の除去を行わずにジルコニア前駆原料溶液と混合する場合、安定化ジルコニアおよび部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液に対して加水分解促進剤として働き、保存安定性を低下させることがある。
【0055】
本方法により、従来の液相法で用いられていたような低級カルボン酸塩を用いても、液寿命に悪影響を及ぼす因子がなくなり、飛躍的に液寿命が向上することになる。
【0056】
前記安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は、ジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液より調製される。ジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液を混合した溶液を、ジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液としてもよい。より好ましくは、混合した溶液を加熱して、2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液中に含まれる有機2族金属化合物および/または有機3族金属化合物とジルコニア前駆原料溶液中に含まれる加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を複合化させた化合物、該化合物の錯体を多く含ませるのが良い。
【0057】
この複合化する工程は、すなわち、官能基交換反応である。この反応によって、安定化および部分安定化ジルコニアの該当有機金属化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物、およびその該当有機金属化合物の錯体が生成する。加熱することによって、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液中に含まれる加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物、および2族金属および/または3族金属が組み込まれた該有機ジルコニウム化合物が完全に加水分解または重縮合が進行してゲルが析出しないように反応を制御するのが好ましい。完全に加水分解または重縮合反応が進むと、安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液保存安定性の低下を引き起こす。加熱条件は35〜150℃、時間は1時間〜25時間が適当である。
【0058】
安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は少量の安定化剤を加えても良い。安定化剤の添加により、加水分解反応および重縮合反応の制御することができ、成膜用原料溶液の保存安定性がさらに改善される。安定化剤として効果がある化合物をあげると、モノケトン類(2‐プロパノン、2‐ペンタノン、3‐ペンタノン)、低級エステル類(酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル)等があげられる。安定化剤を加えすぎると、薄膜中にカーボンが残留する可能性があるために必要以上に加える必要は無く、成膜用原料溶液中に存在するジルコウム原子数に対して0.4モル倍以下が好ましく、より好ましくは0.1モル倍以上0.2モル倍未満がよい。
【0059】
本発明に係る成膜用原料溶液は有機ジルコニウム化合物錯体を含有する。有機金属化合物錯体は成膜用原料溶液に含まれる疎水性溶媒の多重結合部位のπ電子が有機ジルコニウム化合物に配位した錯体か、または多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造物である。この錯体または構造物が、成膜用原料溶液中に存在するジルコニウム原子数に対して0.001倍以上で存在することが好ましく、より好ましくは0.005〜0.25倍である。
【0060】
配位子または相互作用を及ぼす疎水性溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、1‐キシレン、2‐キシレン等が挙げられ、これらの多重結合部位に生成するπ電子が金属に配位する、または金属と相互作用を及ぼすことによって、化1で示されるような有機金属化合物錯体である有機ジルコニウム化合物錯体の部分加水分解物および/またはその部分重縮合物構造の化合物が例示される(ただし、R:脂肪族基または有機金属塩、nは1以上の整数であり、4以下であることが望ましい)。これらの配位もしくは相互作用は、従来の液相法で用いられていたようなキレート結合に比べて結合力が弱く、仮焼または焼成時の低い温度にて配位子(疎水性溶媒)を除去することが可能となる。即ち、従来に比べて多成分系金属酸化物薄膜の物性に悪影響を及ぼすようなカーボンの残渣の危険性を従来の液相法に比べ低減することができる。
【0061】
【化1】
【0062】
例示した有機ジルコニウム化合物錯体は、多重結合を有する疎水性溶媒と加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を混合または加熱することによって生成できる。加熱条件は、温度が35〜200℃、時間は1時間〜50時間が適当である。
【0063】
このような有機ジルコニウム化合物錯体が安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液中に含まれると、その原料溶液から成膜された安定化および部分安定化ジルコニア薄膜の表面は、均一で微細な結晶から成り、非常に平滑となる。また、蜜に充填された構造をとり、従来の液相法に比べて、著しく表面形態等が向上する。これは、有機ジルコニウム化合物錯体の配位子が従来のキレート錯体よりも低温で除去することができるために、分子の自由エネルギーが高く、ジルコニアの結晶化温度の低温化と結晶性の向上が促進されて基板上に均一にジルコニアが生成し、それが初期核となって結晶成長するために、このような向上を達成できたものと思われる。
【0064】
添加する2族金属酸化物や3族金属酸化物は、得られるジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の機械的特性を向上させるだけではなく、ジルコニアの結晶構造中に酸素欠陥を生じさせてイオン伝導性が向上する。
【0065】
上述したように、この成膜用原料溶液から従来の液相法と同様に安定化または部分安定化ジルコニア薄膜を成膜することができる。まず、基板上に成膜用原料溶液を塗布する。塗布法はバーコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、噴霧法、カーテンフローコート法、ドクターブレード法等、用途に応じて選択すればよい。塗布した膜を乾燥させ、溶媒を除去する。この乾燥温度は溶媒の種類によっても異なるが、通常は80〜200℃の範囲内で行われる。ただし、次の金属酸化物に転化させるための仮焼の昇温中にも溶媒は除去することができるので、この乾燥工程は必ずしも必要であるわけではない。
【0066】
その後、仮焼工程として、塗布した基板を加熱し、有機金属化合物(または複合有機金属化合物)を完全に加水分解および熱分解させて金属酸化物に転化することによって、多成分系金属酸化物薄膜を形成させる。この仮焼は、通常、含水蒸気雰囲気中や含酸素雰囲気中で行われる。仮焼温度は、金属酸化物の種類(ジルコニアに固溶させる2族および3族からなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属酸化物の種類)によっても異なるが、通常は100℃〜300℃で行われる。仮焼時間は、加水分解および熱分解が完全に進行するように任意に設定するが、通常は1分〜120分程度である。
【0067】
液相法の場合は、成膜‐(乾燥)‐仮焼の1工程によって得られる膜厚が、必要とする膜厚に達しない場合がある。そのときは、成膜‐(乾燥)‐仮焼工程を所望の膜厚となるまで繰り返せばよい。こうして得られた膜を表面保護材料、固体電解質材料、電子材料等として用いてもよいが、一般的には結晶性が不十分で、部分安定化ジルコニアおよび安定化ジルコニア薄膜としての特性を得られない場合がある。
【0068】
そのため、最後に、より結晶化させるために焼成を行う。焼成工程は安定化および部分安定化ジルコニアの結晶化温度以上の温度で熱処理を行い、立方晶および/または正方晶構造を持つ結晶質の安定化および部分安定化ジルコニア薄膜として用いても良い。なお、焼成工程は、最後に一度行うのではなく、成膜‐(乾燥)‐仮焼‐焼成の工程を所望の膜厚となるまで繰り返すこともできる。
【0069】
この焼成工程での焼成温度は、通常、300〜1000℃の範囲である。従って、基板としては、この焼成温度に耐える程度の基板を使用する。結晶化のための焼成時間は、通常1分〜120分程度であり、焼成雰囲気は特に限定はされないが、通常は空気、酸素、酸化性ガスを含んだ不活性ガス等を用いる。
【0070】
耐熱性の基板材料としては、シリコン、白金、ニッケル、銅、鉄等の金属類や酸化マグネシウム、二酸化ルテニウム、二酸化イリジウム、ルテニウム酸ストロンチウム、二酸化チタン、二酸化珪素、水晶、ガラス等の無機化合物があげられる。
【0071】
このようにして成膜された部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニア薄膜の膜厚は、電子デバイス材料や表面保護材料として用いる場合は通常5〜500nm、固体電解質材料として用いる場合は500nm〜30000nm程度が好ましい。
【0072】
(実施例)
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0073】
実施例1
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.095mol、トルエン0.9molを適当な反応容器に入れ、100℃で10時間還流させて有機ジルコニウム化合物錯体を形成後に、溶液温度が25℃で水を0.19mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで100℃で30時間加熱・還流して、加水分解・重縮合させた溶液を濃縮し、ジルコニウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。イットリア前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸イットリウム・4水和物0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、トルエンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、イットリウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0074】
RCA洗浄したシリコン基体を、トルエン飽和蒸気中、先に濃度調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で、シリコン基体上に部分加水分解または/重縮合した有機ジルコニウム化合物錯体、部分加水分解または/重縮合したイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0075】
塗布したシリコン基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、シリコン基体上に透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約205nmであった。
【0076】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜のX線回折装置を用いて分析した結果を図1に示す。X線回折パターン図により、立方晶構造と正方晶構造を有する部分安定化ジルコニアであることが確認された。
【0077】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を図2に示す。表面SEMによればクラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0078】
得られた部分安定化ジルコニア薄膜をダイナミック超微小硬度計にて硬度を分析した結果、硬度は12 GPa であることが確認された。これは1200℃で焼結を行った固相法によるバルクセラミックである部分安定化ジルコニアと同等の値であった。従来よりも低温で部分安定化ジルコニア薄膜の作製が可能になり、工業的に優れていることがわかった。
【0079】
実施例2
ジルコニア前駆原料溶液は、疎水性溶媒としてトルエン0.6molを用いて80℃で80時間還流後に0.095molの水を含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで70℃で加熱・還流して調製した以外は実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、2‐エチルヘキサン酸を用いて、80℃で80時間還流させ調製した以外は実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から80℃で50時間還流させた以外は実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて形成させた。
【0080】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約200nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0081】
実施例3
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウムと1‐オクテン、2‐ブタノールを用いて調製した以外は、実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、2‐エチルヘキサン酸、1‐オクテンを用いた以外は、実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて形成させた。
【0082】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約198nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0083】
実施例4
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム、1‐オクテン0.6molを用いて80℃で15時間還流させて調製した以外は、実施例1に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、蟻酸、2‐エチルヘキサン酸、1‐オクテンを用いて80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を実施例1に準じて得た。
【0084】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約213 nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0085】
実施例5
DHF洗浄された石英基体を用いて、空気雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートし、1000℃で1時間の焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0086】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約125nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0087】
実施例6
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.085molを用いて調製した以外は実施例1に準じて調製した。カルシア前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸カルシウム・1水和物0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、トルエンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、カルシウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とカルシア前駆原料溶液から、150℃で還流させて調製した以外は、実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、DHF洗浄を施した石英基体にディップコートし、1000℃にて焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0088】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約211nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0089】
実施例7
DHF溶液中で洗浄した石英基体を用いて、ディップコート法により塗布‐仮焼工程を10回行い、1000℃で1時間の焼成を施した以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0090】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1834nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0091】
実施例8
ジルコニア前駆原料溶液はジルコニア原料としてテトラ‐n‐プロポキシジルコニウム0.08mol、プロピオン酸ジルコニル0.015molを用いて調製した以外は実施例1に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、実施例1に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、形成した薄膜を700℃にて焼成を行った以外は、実施例1に準じて透明な部分安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0092】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約201nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な部分安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0093】
実施例9
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.09mol、エチルベンゼン0.9molを適当な反応容器に入れ、100℃で10時間還流させて有機ジルコニウム化合物錯体を形成後に、溶液温度が25℃で水を0.18mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで100℃で30時間加熱・還流して、加水分解・重縮合させた溶液を濃縮し、ジルコニウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。イットリア前駆原料溶液は酢酸0.20mol、デカン酸0.20mol、酢酸イットリウム・4水和物0.02mol、トルエン0.6molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、エチルベンゼンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、イットリウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、金属イオン濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0094】
白金基体を脱脂・洗浄させた後、空気雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートを行い、白金基体上に部分加水分解または/重縮合した有機ジルコニウム化合物錯体および部分加水分解または/重縮合したイットリウムを含む有機ジルコニウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0095】
塗布した白金基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させる、この「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回行い、白金基体上に安定化ジルコニア薄膜を形成させた。得られた透明な安定化ジルコニア薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約2110nmであった。
【0096】
得られた安定化ジルコニア薄膜のX線回折装置を用いて分析した結果を図3に示す。X線回折パターン図により、立方晶構造を有する安定化ジルコニアであることが確認された。
【0097】
得られた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真を図4に示す。表面SEMによればクラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0098】
得られた安定化ジルコニア薄膜の表面に白金ペーストを塗布して電極を形成し、900℃に保って直流4端子法により電気伝導度を測定した。その結果、0.026×10−3 Ω−1cm−1 であった。これは1000℃で焼結を行った固相法によるバルクセラミックである安定化ジルコニア(0.025×10−3 Ω−1cm−1)と同等の値であった。
【0099】
実施例10
ジルコニア前駆原料溶液は、エチルベンゼン0.6molを用いて、80℃で80時間還流し、水0.09mol含む2‐プロパノールを360ml滴下させ、ついで70℃で加熱・還流して調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、ノナン酸を用いて、80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を80℃で還流させた以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0100】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2090nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0101】
実施例11
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウムと1‐ヘキセン、2‐ブタノールを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、ノナン酸0.10molを用いて、80℃で還流した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0102】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2123nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0103】
実施例12
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム、1‐ヘキセン0.9molを反応容器に入れ80℃で15時間還流させて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は、蟻酸、ノナン酸、1‐オクテンを用いて80℃で80時間還流させ調製した以外は、実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液を80℃で還流させた以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、7000rpmの条件下でスピンコートし、1000℃にて焼成した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0104】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1323nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0105】
実施例13
洗浄したニッケル基体を用いて、空気中にて100mm/secの速度にてバーコートし、1000℃で1時間の焼成を施す工程を10回繰り返した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0106】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約1899nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0107】
実施例14
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.08molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。スカンジア前駆原料溶液は酢酸0.20mol、デカン酸0.20mol、酢酸スカンジウム0.04mol、トルエン0.6molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸、エチルベンゼンそして水を供沸蒸留操作によって除去し、スカンジウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。ジルコニア前駆原料溶液とスカンジア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、1000℃にて焼成を施した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0108】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2256nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0109】
実施例15
ジルコニア前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシジルコニウム0.08molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。スカンジア前駆原料溶液は酢酸スカンジウム0.04molを用い調製した以外は、実施例9に準じて調製をした。ジルコニア前駆原料溶液とスカンジア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。トルエン飽和蒸気中、調整した該溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で塗布し、1000℃にて焼成を施す工程を10回繰り返した以外は、実施例9に準じて透明な安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0110】
X線回折パターン図により、安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2313nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0111】
実施例16
ジルコニア前駆原料溶液は、ジルコニア原料としてテトラ‐n‐プロポキシジルコニウム0.07mol、ジ‐n‐ブトキシ(ビス‐2,4‐ペンタンジオネート)0.02molを用いて調製した以外は、実施例9に準じて調製した。イットリア前駆原料溶液は実施例9に準じて調製した。ジルコニア前駆原料溶液とイットリア前駆原料溶液から、90℃で還流させて調製した以外は、実施例9に準じてジルコニアを主成分とする2成分系金属酸化物薄膜用原料溶液を調製した。該溶液を用いて、形成した薄膜を700℃にて焼成を行った以外は、実施例9に準じて調製した。
透明な安定化ジルコニア薄膜を形成した。
【0112】
X線回折パターン図により、部分安定化ジルコニアであることが確認された。実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは約2078nmであった。SEM写真によれば、クラックのない均質な安定化ジルコニア薄膜が形成されていた。
【0113】
実施例17
インジウム酸化物前駆原料溶液は、トリ‐i‐プコキシインジウム0.095mol、フェニルエチルアルコール0.9mol、水を0.19mol含む2‐プロパノール360mlを適当な反応容器に入れ、100℃で30時間還流させて有機インジウム化合物錯体の形成と加水分解・重縮合反応をさせた溶液を濃縮し、インジウム濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。錫酸化物前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸錫0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸およびトルエンを供沸蒸留操作によって除去し、錫濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。インジウム酸化物前駆原料溶液と錫酸化物前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させて錫を含む有機インジウム化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に該有機金属化合物の錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0114】
RCA洗浄した石英基体を、トルエン飽和蒸気中、先に濃度調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.15mm/secの速度で引き上げるディップコート法で、0.15mm/secの速度で引き上げ、石英基体上に、部分加水分解物および/または部分重縮合した有機インジウム化合物錯体および部分加水分解物および/または部分重縮合錫を含む有機インジウム化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0115】
塗布した石英基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度400℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、石英基体上に透明なインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約187nmであった。
【0116】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜に対してX線回折装置を用いて分析した結果を図5に示す。X線回折パターン図により、インジウム酸化物に錫酸化物が固溶した多成分系金属酸化物であることが確認された。
【0117】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の表面SEM観察の結果、クラックのない均質なインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜が形成されていた。
【0118】
得られたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を直流4端子法により体積抵抗率を測定した。その結果、1.2×10−4 Ω・cm であった。これは気相法であるスパッタ法にて作製されたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜(1.1×10−4 Ω・cm)と同等の値であった。このことから、安価なこの液相法を用いれば高コストなスパッタ法よりも工業的に優れていることがわかった。
【0119】
実施例18
錫酸化物前駆原料溶液は、テトラ‐n‐ブトキシ錫0.095mol、フェニルエチルアルコール0.9mol、水を0.19mol含む2‐ブタノール360mlを適当な反応容器に入れ、100℃で30時間還流させて有機インジウム化合物錯体の形成と加水分解・重縮合反応をさせた溶液を濃縮し、錫濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。アンチモン酸化物前駆原料溶液は酢酸0.10mol、オクタン酸0.10mol、酢酸アンチモン0.01mol、トルエン0.3molを適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させた後に、酢酸およびトルエンを供沸蒸留操作によって除去し、アンチモン濃度が1mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。錫酸化物前駆原料溶液とアンチモン酸化物前駆原料溶液を適当な反応容器に入れ、120℃で50時間還流させてアンチモンを含む有機錫化合物、その部分加水分解物および/または部分重縮合物を生成させ、かつ溶液中に錫有機化合物錯体を含む溶液とし、それを濃縮した後に、全金属濃度が0.5mol/Lとなるようにトルエンで希釈して調製した。調製された溶液は、冷暗所にて保存したところ1年経過しても安定であった。
【0120】
RCA洗浄した石英基体を、窒素雰囲気中にて3000rpmの条件下でスピンコートし、石英基体上に部分加水分解物および/または部分重縮合した有機錫化合物錯体および部分加水分解物および/または部分重縮合したアンチモンを含む有機錫化合物錯体を含む溶液を塗布した。
【0121】
塗布した石英基体を200℃で30分間仮焼させ、さらに温度500℃で1時間の焼成を施した後に、室温になるまで自然冷却させて、石英基体上に透明な錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜を形成させた。得られた薄膜の厚みを、接触式表面粗計を用いて測定したところ、約226nmであった。
【0122】
得られた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物に対してX線回折装置を用いて分析した結果、錫酸化物にアンチモン酸化物が固溶した多成分系金属酸化物であることが確認された。
【0123】
得られた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物の表面SEM写真を図6に示す。表面SEM像によればクラックのない均質な錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物酸化物薄膜が形成されていた。
【0124】
比較例1
田中義身, 岩本信也, 梅咲則正. 高温学会誌. 17, (1991)146 に準じて、ゾル‐ゲル法によって部分安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0125】
窒素雰囲気下、テトラ‐n‐プロポキシジルコニウム 0.095mol、トリ‐i‐プロポキシイットリウム 0.01mol、シクロヘキサン0.6molを溶解し、80℃にて1時間攪拌を行い、部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液とした。調製された部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液は、冷暗所での保存下、約3ヶ月経過後に微粒子が析出し始めて、5ヶ月後には溶液が完全に白濁し使用不能となった。
【0126】
RCA洗浄したシリコン基体を、ヘキサン飽和蒸気中、先に調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて0.95mm/secの速度で引き上げるディップコート法で部分安定化ジルコニアの成膜用原料溶液を塗布し、200℃における30分間の仮焼を行った後に、500℃にて1時間の焼成を行い、室温になるまで自然放冷し、透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0127】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約93nmであった。X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることが確認された。図7に示したSEM写真によれば、仮焼工程時に発生するゲル膜の収縮率が大きいために発生したと思われるクラックが確認された。
【0128】
比較例2
空気中にて3000rpmの条件下、スピンコート法を用いて塗布した以外は、比較例1に準じて半透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0129】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約107nmであり、X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることがわかった。白濁した薄膜が得られた。SEM写真によれば、大きなクラックと粒子が多数確認された。
【0130】
比較例3
「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回繰り返した以外は、比較例1に準じて不透明な部分安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0131】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約1008nmであり、X線回折パターン図から、部分安定化ジルコニア薄膜であることがわかった
。SEM写真によれば、多数の大きな粒子が多数確認された。
【0132】
比較例4
公開特許公報平9‐227124に準じて、ゾル‐ゲル法によって安定化ジルコニア薄膜を形成させた。
【0133】
塩化ジルコニウム・8水和物 1.4374gと塩化イットリウム・6水和物0.2041gを秤り取り、水1ml、エチレングリコール3ml、2‐ブタノール 2mlの混合溶媒に溶解させ、室温で1時間以上攪拌して安定化ジルコニアの成膜用溶液を調製した。調製された安定化ジルコニア薄膜の成膜用原料溶液は、冷暗所での保存下、2ヶ月後には溶液が完全に白濁し使用不能となった。
【0134】
脱脂・洗浄した白金基体を、空気中、先に調整した溶液中に浸漬させ、スッテピングモータを用いて1.66mm/secの速度で引き上げるディップコート法で安定化ジルコニアの成膜用原料溶液を塗布し、200℃における30分間の仮焼を行った後に、600℃にて2時間の焼成を行い、室温になるまで自然放冷し、半透明な安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0135】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約79nmであった。X線回折法にて得られた安定化ジルコニア薄膜の結晶構造について調べた結果を図8に示した。X線回折パターン図により、単斜晶と立方晶の混晶が得られた。これはイットリアがジルコニアに完全に固溶していないことを示している。
【0136】
また、得られた薄膜の表面SEM観察を行った結果を図9に示す。クラックが多数存在する多孔質な薄膜であることがわかった。
【0137】
比較例5
焼成温度を1300℃として、「塗布→仮焼→焼成」の工程を10回繰り返した以外は、比較例1に準じて、不透明な安定化ジルコニア薄膜を得た。
【0138】
実施例1に準じて測定した部分安定化ジルコニア薄膜の厚さは、約977nmであり、不透明な薄膜であった。X線回折パターン図から、立方晶構造である安定化ジルコニア薄膜であった。SEM写真によれば、多数の大きな粒子が多数確認され、表面は荒れていた。
【0139】
本発明の部分安定化ジルコニア薄膜および安定化ジルコニア薄膜を形成させた基体は、絶縁膜や誘電体膜としての電子材料、表面保護膜としての耐食性材料や高靭性材料、酸素センサーや燃料電池用電解質としての固体電解質材料等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図2】実施例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図3】実施例9で形成させた安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図4】実施例9で形成させた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図5】実施例17で形成させたインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜のX線回折パターン図である。
【図6】実施例18で形成させた錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の表面SEM写真である。
【図7】比較例1で形成させた部分安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
【図8】比較例4で形成させた安定化ジルコニア薄膜のX線回折パターン図である。
【図9】比較例4で形成させた安定化ジルコニア薄膜の表面SEM写真である。
Claims (29)
- 多重結合を有する疎水性有機溶媒、加水分解性を有する有機金属化合物、元素周期律表の2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩を用いて調製される溶液であり、少なくとも加水分解性を有する有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物、あるいは有機金属塩と加水分解性を有する有機金属化合物の縮合反応物である2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物の部分加水分解物および/または部分重縮合物のいずれかを含有し、かつ部分加水分解および/または部分重縮合した該有機金属化合物と疎水性有機溶媒の多重結合が有するπ電子からなる錯体を含有していることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒が部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物、または2つ以上の金属を含む加水分解性を有する複合有機金属化合物に配位するか、多重結合が形成するπ電子と金属が相互作用を及ぼす構造となり、部分加水分解および/または部分重縮合した有機金属化合物(または複合有機金属化合物)の錯体を含んでいることを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 主成分の酸化物が加水分解性を有する有機金属化合物の金属の酸化物であり、元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属の少なくとも一種類の酸化物が添加物であり、添加濃度が50モル%未満である多成分系金属酸化物薄膜を得るための成膜用原料溶液であって、同組成となるように2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属の少なくとも一種類の有機金属塩を含むように調製されたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液。
- 元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液と加水分解性を有する有機金属化合物から調製された金属酸化物前駆原料溶液を混合または反応させることによって得られることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液。
- 元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を含有する少なくとも一種類の有機金属塩から調製された金属酸化物前駆原料溶液が、脂肪族または脂環式カルボン酸と低級カルボン酸塩の反応によって調製されるか、またはカルボン酸塩を脂肪族ないしは脂環式カルボン酸または疎水性有機溶媒に溶解することによって調製される溶液であること特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を少なくとも一種類を含有する金属酸化物前駆原料溶液が、中和価が250以上500未満であるカルボン酸を用いて調製されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- カルボン酸塩が、加水分解反応時に生成するカルボン酸の物性が中和価250以上500未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液。
- 加水分解性を有する有機金属化合物から調製された金属酸化物前駆原料溶液が、加水分解性を有する有機金属化合物を、炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性有機溶媒用いて加水分解または重縮合反応により調製されることを特徴する請求項1から7のいずれかに記載の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 加水分解性を有する有機金属化合物中の金属がジルコニウム、インジウム、錫、亜鉛、イットリウム、銅からなる群から選択される金属である請求項1から8のいずれかに記載の多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液。
- 少なくとも部分加水分解および/または部分重縮合した有機ジルコニウム化合物または部分加水分解および/または部分重縮合した2族金属および/または3族金属を含む有機ジルコニウム化合物のいずれかを含み、かつ炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒とから形成された部分加水分解および/または部分重縮合該有機金属化合物の錯体を含むことを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載のジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- ジルコニア前駆原料溶液と2族金属酸化物および/または3族金属酸化物前駆原料溶液を混合または縮合反応することによって得られることを特徴とする請求項10に記載のジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- ジルコニア前駆原料溶液が、加水分解性を有する有機ジルコニウム化合物を、炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性有機溶媒用いて加水分解または重縮合反応させることにより調製され、すくなくとも有機ジルコニウム化合物の部分加水分解および/またはその部分重縮合物を含み、かつ該化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒から形成された有機ジルコニウム化合物錯体を含む溶液である請求項10から11に記載のジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 2族金属および/または3族金属酸化物前駆原料溶液が、脂肪族または脂環式カルボン酸と低級カルボン酸塩の反応によって調製されるか、またはカルボン酸塩を脂肪族ないしは脂環式カルボン酸または疎水性有機溶媒に溶解することによって調製される溶液であること特徴とする請求項10から12までのいずれかに記載のジルコニアを主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 少なくとも部分加水分解および/または部分重縮合した有機亜鉛化合物、部分加水分解および/または部分重縮合した13族金属を含む有機亜鉛化合物のいずれかを含み、かつ炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒とから形成された部分加水分解および/または部分重縮合該有機金属化合物の錯体を含むことを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載の亜鉛酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 亜鉛酸化物前駆原料溶液と13族金属酸化物前駆原料溶液を混合または縮合反応させることによって得られることを特徴とする請求項14に記載の亜鉛酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 亜鉛酸化物前駆原料溶液が、加水分解性を有する有機亜鉛化合物を、炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性有機溶媒用いて加水分解または重縮合反応させることにより調製され、すくなくとも有機亜鉛化合物の部分加水分解および/またはその部分重縮合物を含み、かつ該化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒から形成された有機亜鉛化合物錯体を含む溶液である請求項14から15に記載の亜鉛酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 13族金属酸化物前駆原料溶液が、脂肪族または脂環式カルボン酸と低級カルボン酸塩の反応によって調製されるか、またはカルボン酸塩を脂肪族ないしは脂環式カルボン酸または疎水性有機溶媒に溶解することによって調製される溶液であること特徴とする請求項14から16までに記載の亜鉛酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 少なくとも部分加水分解および/または部分重縮合した有機インジウム化合物または部分加水分解および/または部分重縮合した14族金属を含む有機インジウム化合物のいずれかを含み、かつ炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒とから形成された部分加水分解および/または部分重縮合該有機金属化合物の錯体を含むことを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載のインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- インジウム酸化物前駆原料溶液と14族金属酸化物前駆原料溶液を混合または縮合反応させることによって得られることを特徴とする請求項18に記載のインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- インジウム酸化物前駆原料溶液が、加水分解性を有する有機インジウム化合物を、炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性有機溶媒用いて加水分解または重縮合反応させることにより調製され、すくなくとも有機インジウム化合物の部分加水分解および/またはその部分重縮合物を含み、かつ該化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒から形成された有機インジウム化合物錯体を含む溶液である請求項18から19に記載のインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 14族金属酸化物前駆原料溶液が、脂肪族または脂環式カルボン酸と低級カルボン酸塩の反応によって調製されるか、またはカルボン酸塩を脂肪族ないしは脂環式カルボン酸または疎水性有機溶媒に溶解することによって調製される溶液であること特徴とする請求項18から20に記載のインジウム酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 少なくとも部分加水分解および/または部分重縮合した有機錫化合物または部分加水分解および/または部分重縮合した15族金属を含む有機錫化合物のいずれかを含み、かつ炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性溶媒とから形成された部分加水分解および/または部分重縮合該有機金属化合物の錯体を含むことを特徴とする請求項1から9までのいずれかに記載の錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 錫酸化物前駆原料溶液と15族金属酸化物前駆原料溶液を混合または縮合反応させることによって得られることを特徴とする請求項22に記載の錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 錫酸化物前駆原料溶液が、加水分解性を有する有機錫化合物を、炭素‐炭素、炭素‐ヘテロ原子の多重結合を有する疎水性有機溶媒と水を含ませた非共有電子対を有する親水性有機溶媒用いて加水分解または重縮合反応させることにより調製され、すくなくとも有機錫化合物の部分加水分解および/またはその部分重縮合物を含み、かつ該化合物と多重結合を有する疎水性有機溶媒から形成された有機錫化合物錯体を含む溶液である請求項22から23に記載の錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 15族金属酸化物前駆原料溶液が、脂肪族または脂環式カルボン酸と低級カルボン酸塩の反応によって調製されるか、またはカルボン酸塩を脂肪族ないしは脂環式カルボン酸または疎水性有機溶媒に溶解することによって調製される溶液であること特徴とする請求項22から24に記載の錫酸化物を主成分とする多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- 元素周期律表における2族、3族、13族、14族、15族からなる群から選ばれる金属を少なくとも一種類を含有する金属酸化物前駆原料溶液が、中和価が250以上500未満であるカルボン酸を用いて調製されることを特徴とする請求項10から25のいずれかに記載の多成分系金属酸化物薄膜の成膜用原料溶液。
- カルボン酸塩が、加水分解反応時に生成するカルボン酸の物性が中和価250以上500未満であることを特徴とする請求項10から26のいずれかに記載の多成分系金属酸化物の成膜用原料溶液。
- 請求項1から27のいずれかに記載の成膜用原料溶液を基体に塗布した後に、焼成することを特徴とする多成分系金属酸化物薄膜の形成方法。
- 請求項28に記載の方法により形成された多成分系金属酸化物薄膜。
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