JP2004156808A - 製錬炉、製錬設備、及び炉況検出方法、操業方法 - Google Patents

製錬炉、製錬設備、及び炉況検出方法、操業方法 Download PDF

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Nozomi Hasegawa
望 長谷川
Kozo Yamamoto
浩三 山元
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Abstract

【課題】全体的な炉況の把握と迅速な炉況の制御を行うことを可能にする。
【解決手段】炉本体11に、溶湯を受け入れるための溶湯入口12及び溶湯の下層部をなすマットMを炉本体11外に取り出すためのマット出口(第二溶湯出口)14と、溶湯の上層部をなすスラグSをオーバーフローさせて系外に取り出すためのスラグ出口(第一溶湯出口)13とを、互いに離間させて設ける。炉本体11の天井部11aに、複数のランシング口16を、炉本体11の溶湯入口12及びマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置する。天井部11aに挿通される電極17において天井部11a上に位置する部分に囲いを設け、囲いの外側の、少なくともランシング口16の近傍には作業床を設ける。天井部11aに、天井部11aを冷却するジャケット19を設ける。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉱石や有価金属を含むスクラップ等の製錬に用いられる製錬炉、製錬設備、及び炉況検出方法、操業方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
このような製錬炉は、製錬する原料を加熱溶融させてなる溶湯に製錬の少なくとも一つの段階における処理を施すものであって、製錬設備の少なくとも一部を構成している。そして、製錬設備を構成する他の炉との間での溶湯のやり取りには、例えば、樋やレードル等が用いられる。
例えば、後述する特許文献1には、銅製錬に用いる製錬設備として、原料である銅精鉱を加熱溶融してマット(カワ)とスラグ(カラミ)とを有する溶湯を生成する溶錬炉(S炉)と、この溶錬炉で生成されたマットとスラグとを分離する分離炉(CL炉)と、この分離炉で分離されたマットからさらに鉄をスラグとして分離して、高純度の粗銅を製錬する製銅炉(C炉)とを有する製錬設備が記載されている。
【0003】
銅製錬の原料となる銅精鉱は、一般に、Cu(銅)、Fe(鉄)、S(硫黄)をそれぞれ30%程度ずつ含有するものである。溶練炉では、銅精鉱を加熱して溶融させるとともに銅精鉱中に含まれるS及びFeを酸化させることで、SはSOとしてガス化させて溶湯から除去し、FeはFeO(酸化第一鉄)とし、これによって、銅精鉱から、目的の有価金属であるCuを主成分とするマットと、FeOを主成分とするスラグとを生成する。
【0004】
前記分離炉は、後述する特許文献2に記載されているように、溶湯中のマットとスラグとを比重差を利用して分離するものであり、分離炉中では、比重の小さいスラグが比重の大きいマットの上に層をなしている。そして、溶湯の上層部をなすスラグは、炉本体に設けられたスラグ出口を通じてオーバーフローされることで系外に連続的に取り出され、溶湯の下層部をなすマットは、炉本体に設けられたマット出口を通じて炉本体内から連続的に取り出されて後段の製銅炉に送り込まれる。
【0005】
ところで、分離炉の炉況が良好な状態では、スラグ出口から排出されるスラグには銅分がほとんど含まれないので、このスラグはそのまま系外に取り出され、このスラグに含まれる銅分の回収は行われない。このため、分離炉においては、スラグ中の銅濃度を低位に維持することが収益上重要点であり、そのためには、炉況を良好に保つことは勿論、異常事態を検知し、これに対処することが必要になる。
【0006】
従来、分離炉等の製錬炉の炉況の判断は、例えば後述する特許文献3に記載のように、炉本体の天井部に設けたランシング口から測定棒を溶湯に浸漬させ、これを引き上げ、測定棒についた溶湯の状態を目視で観察することや、例えば特許文献1に記載のように、スラグ出口でスラグの温度やスラグ中の銅濃度をモニタすることにより行ってきた。
ここで、従来、炉本体の天井部は吊り煉瓦によって構成しており、製錬炉の操業中は天井部上は非常な高温となるために作業者の立ち入りは困難である。また、製錬炉が電気炉である場合には、天井部には電極が挿通されており、感電の恐れがあるために、作業者の立ち入りは困難である。このため、従来の製錬炉においては、ランシング口は、天井部のうち炉本体内からの熱気を受けにくく、かつ電極から離間した位置に限定して設けられている。
【0007】
【特許文献1】
特開平01−294832号公報(第1ページ右欄第8行から第17行、第1図、並びに第2ページ左上欄第1行から第4行)
【特許文献2】
特開平04−186089号公報(第2ページ左上欄第4行から右上欄第1行、第9図、並びに第2ページ右上欄第2行から第4行)
【特許文献3】
特開2002−180141号公報(第0009段落、第1行から第3行)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、限られた炉内定点から測定棒を浸漬する方法では、局所的で時間的にも限られたデータに頼ることになるため、炉の全体的な概況を把握することができず、炉況の悪化を必ずしも検知できないことがあった。また、スラグ出口における温度や銅濃度が異常値を示す状態では、既に手遅れとなっている場合もあった。
【0009】
例えば、溶湯中にはスラグ層とマット層の間に粘性の高い異常層が現れることがあり、この層が出現すると、スラグとマットの分離性能が損なわれる。また、炉況によっては溶湯中にマグネタイト等の非常に融点の高い物質が析出して炉床に堆積することがあるが、この堆積物が大きくなりすぎると溶湯の下層部の流れを阻害し、滞留したマットがスラグとともにスラグ出口から溢れ出てしまう恐れがある。
このように、溶湯中に異常層や堆積物が生じると、スラグ中の銅濃度が高くなって収益を悪化させるため、電極条件の変更やランシング(ランス上吹き)等(例えば特許文献2参照)の対策を施す必要があるが、従来はこの異常層や堆積物が大きく発達するまで検知することができなかったので、対策を施してから効果が現れるまでに数日から1週間程度かかる場合もあった。また、ランシングは、ランシング口より炉本体内にランスを挿入して行うのであるが、上記のようにランシング口の位置が限定されていて、局所的にしかランシングすることができないので、ランシングの効果が低かった。
【0010】
また、製錬炉が電気炉である場合には、ランシングは、作業員が感電することのないように、電極への通電を停止した状態でしか行うことができなかったが、このように電極への通電を止めてしまうと溶湯の温度が低下してしまい、また炉本体内での溶湯の流れが変わってしまうので、場合によっては炉況をさらに悪化させてしまう恐れがある。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、全体的な炉況の把握と迅速な炉況の制御を行うことができる製錬炉、製錬設備、及びそのための炉況測定方法、及び操業方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる製錬炉は、炉本体の天井部に、複数のランシング口が列状に配置されていることを特徴としている。
【0013】
前記のように、製錬炉においては、炉本体の天井部に設けられるランシング口を通じて、炉況の検出及びランシングが行われる。
本発明にかかる製錬炉では、ランシング口が列状に配置されているので、これらランシング口を通じて、炉本体内の炉況を横断的に知ることができる。また、このように列状に配置されたランシング口にランスを差し込んでランシングを行うことで、炉本体内に横断的にランシングを施すことができ、より効果的なランシングを行うことができる。
【0014】
また、製錬炉において、ランシングを行った場合には、ランシング位置における溶湯の酸化反応が促進されるだけでなく、ランシング位置における溶湯の上層部や異常層、及び堆積物が周囲に押し出される。
本発明にかかる製錬炉では、このことを利用して、ランシング口の列に沿って順番に、炉本体の各ランシング口の下方位置でのランシングを行うことで、溶湯の上層部や異常層を、ランシング口の列に沿って移動させることができ、またランシング口の列に沿って堆積物が除去された領域を形成して炉床に溶湯の下層部の流れる湯道を確保することができる。
【0015】
この製錬炉において、ランシング口の列は、一列のみ設けてもよく、複数列設けてもよい。
また、このランシング口の列は、天井部において、炉本体内で炉況の検出やランシングを行いたい領域の直上位置を通るようにして設けられる。
【0016】
また、この製錬炉において、炉本体の天井部には、天井部を冷却するジャケットが設けられていてもよい。
この場合には、炉本体の熱によって加熱される天井部がジャケットによって冷却されるので、天井部上に作業員が立ち入ることが可能となり、天井部においてランシング口を設けることができる領域をさらに広げることができる。
【0017】
また、この製錬炉を、炉本体に溶湯の上層部を炉本体外に取り出すための第一溶湯出口が設けられる構成とし、前記ランシング口は、炉本体の天井部においてその任意の位置から炉本体の第一溶湯出口が設けられる側に向かって延びる列状に配置されていてもよい。
【0018】
この場合には、ランシング口が、炉本体において溶湯の上層部の流れの最下流である第一溶湯出口に向かう列状に設けられているので、これらランシング口を通じて炉本体内において各ランシング口の下方位置における炉況を検出することで、炉本体において任意の位置から第一溶湯出口までにかけて、炉況を横断的に検出することができる。例えば、ランシング口を、原料入口(または溶湯入口)が設けられる側から第一溶湯出口が設けられる側まで延びる列状に配置することで、溶湯において製錬炉による処理の初期段階にある領域からほぼ処理を終えた領域までにわたって溶湯の性状を検出することができるとともに、第一溶湯出口よりも上流側の位置で炉況を検出することができるので、炉況の異常を早期に発見することができる。
また、各ランシング口より炉本体内にランスを差し込んで、ランシング口の列のうち第一溶湯出口より離間した側から第一溶湯出口側に向けて順番にランシングを行うことで、溶湯の上層部やランシングによっては解消しきれなかった異常層を第一溶湯出口まで押し出して、これらを炉本体内から速やかに排出することができる。
【0019】
また、この製錬炉において、炉本体において第一溶湯出口とは離間した位置に、溶湯の下層部を炉本体外に取り出すための第二溶湯出口が設けられ、前記ランシング口は、炉本体の第二溶湯出口が設けられる側から第一溶湯出口が設けられる側に向かって延びる列状に配置されていてもよい。
この構成を採用することにより、炉本体において第一溶湯出口から第二溶湯出口までにわたって炉況の検出が可能であるので、第一溶湯出口側から第二溶湯出口側にかけて堆積物の発生や底上がりを検出することができ、これに基いて溶湯の下層部の流れの状態を検出することができる。
また、炉床に堆積物がたまった場合にも、第一溶湯出口から第二溶湯出口にかけてランシングを行うことができるので、これらの間の堆積物を押し流して湯道を確保することができ、溶湯の下層部で第一溶湯出口側から第二溶湯出口側に向かう溶湯の流れを良好に保つことができる。
【0020】
また、この製錬炉を、天井部から炉本体内に電極が挿入される電気炉とし、電極のうち、少なくともランシング口近傍に位置する電極には、天井部上に位置する部分に囲いが設けられていてもよい。
この場合には、ランシング口近傍に位置する電極には、天井部上に位置する部分が囲いによって囲まれているので、製錬炉の操業中(すなわち電極が通電されている状態)でも感電の恐れなしに測定棒による炉況の検出やランシングを行うことができる。
【0021】
本発明にかかる製錬設備は、溶湯を連続的に処理する製錬炉を複数連結して各製錬炉によって溶湯に対してそれぞれ製錬の少なくとも一つの段階における処理を施す連続製錬設備であって、請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉を有していることを特徴としている。
この製錬設備は、全体的な炉況の把握と迅速な炉況の制御が可能な製錬炉を有しているので、良好な製錬を行うことができる。
【0022】
本発明にかかる製錬炉の炉況検出方法は、請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉において、各ランシング口を通じて前記炉本体内の前記各ランシング口の下方位置における前記炉本体の炉況を検出することを特徴としている。
【0023】
この製錬炉の炉況検出方法では、炉本体の炉況を横断的に知ることができる。例えば、炉本体において各ランシング口の列に沿って横断的に湯深を検出したり、溶湯中の異常層や堆積物の発生とその位置、規模を検出することができる。
【0024】
本発明にかかる製錬炉の操業方法は、請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉において、各ランシング口より前記炉本体内にランスを差し込んで、前記各ランシング口の列に沿って順番にランシングを行うことを特徴としている。
【0025】
この製錬炉の操業方法では、溶湯の上層部や溶湯中の異常層を、ランシング口の列に沿って押し出して移動させることができる。また、溶湯の下層部の流れを遮る炉床の堆積物を押し流して、炉床に溶湯の下層部の流れる湯道を確保することができる。
ここで、ランシングは、各ランシング口に順番にランスを差し込んで行ってもよく、また複数のランシング口にランスを挿入した状態で順番に各ランスによるランシングを行ってもよい。
【0026】
本発明にかかる製錬炉の操業方法は、請求項3から5のいずれかに記載の製錬炉において、前記ランシング口のうち前記第一溶湯出口から離間した側から前記第一溶湯出口側に向けて順番に、前記各ランシング口の下方位置における前記炉本体の炉況を前記ランシング口を通じて検出し、炉況の異常が検出された場合には、以降のランシング口では、前記炉本体において前記各ランシング口の下方位置でのランシングを行うことを特徴としている。
【0027】
この製錬炉の操業方法では、炉本体においてランシング口の列に沿って炉況を検出してゆき、炉況の異常が検出された領域から第一溶湯出口側の領域にかけてランシングを行うので、異常が生じている領域のみにランシングを行うことができ、単にランシング口の列に沿って全てのランシング口を通じて順番にランシングを行う場合に比べて、炉況を速やかに回復させることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図を用いて説明する。図1は、本実施形態にかかる製錬設備の構成を示す縦断面図、図2は本実施形態にかかる製錬炉の構成を示す縦断面図、図3は本実施形態にかかる製錬炉の構成を示す平面図、図4は本実施形態にかかる製錬設備における炉況の検出方法を示す図、図5は本実施形態にかかる製錬設備の操業方法を示す図である。
【0029】
本実施の形態にかかる製錬設備1は、図1に示すように、溶湯を連続的に処理する製錬炉を複数連結して各製錬炉によって溶湯に対してそれぞれ製錬の少なくとも一つの段階における処理を施す連続製錬設備である。
このような連続製錬設備を構成する各製錬炉は、炉本体内への原料または溶湯の供給を連続的に行うとともに、炉本体内の溶湯を連続的に取り出す、いわゆる連続製錬炉とされている。
【0030】
本実施の形態では、製錬設備1を、原料である銅精鉱を加熱溶融してマットMとスラグSとを有する溶湯を生成する溶錬炉2と、この溶錬炉2で生成されたマットMとスラグSとを分離する分離炉3と、この分離炉3で分離されたマットMをさらに酸化して粗銅CとスラグSとを生成する製銅炉4と、この製銅炉3で生成された粗銅Cを精製して、より品位の高い銅を生成する精製炉5とを有する銅製錬設備としている。これら溶錬炉2、分離炉3、製銅炉4、精製炉5は、樋6A、6B、6Cで連結されており、溶湯が重力によって溶錬炉2、分離炉3、製銅炉4、精製炉5の順に移動させられるように、この順に高低差をつけて設けられている。
【0031】
ここで、溶錬炉2及び製銅炉4には、銅精鉱、酸素富化空気、溶剤、冷剤等を炉内に供給するための複数の管からなるランス7が、これらの炉の天井を挿通して昇降自在に設けられており、また、炉内から発生するガスを排出するための排出口8がこれらの炉の天井部に設けられている。
【0032】
分離炉3は、溶錬炉2から送り込まれた溶湯中のマットMとスラグSとを比重差を利用して分離するものであって、その炉本体11内では、図2に示すように、比重の大きいマットMの層の上に比重の小さいスラグSの層が形成されるようになっている。
炉本体11には、溶錬炉2から樋6Aを通じて送り込まれる溶湯を受け入れるための溶湯入口12と、炉本体11内の溶湯の上層部をなすスラグSをオーバーフローさせて系外に連続的に取り出すためのスラグ出口(第一溶湯出口)13とが設けられている。また、炉本体11には、溶湯の下層部をなすマットMを炉本体11内から連続的に取り出すためのマット出口(第二溶湯出口)14が、炉本体11内のスラグ出口13よりも低い位置に開口させて設けられている。このマット出口14は、樋6Bを通じて後段の製銅炉4に接続されており、これによってマットMが製銅炉4に連続的に送り込まれるようになっている。
【0033】
炉本体11において、溶湯入口12とスラグ出口13とは互いに離間させて設けられていて、溶湯入口12から投入された溶湯は、スラグ出口13まで緩やかに流れてゆきながら、スラグ出口13に達するまでの間に、マットMとスラグSとに分離されるようになっている。同様に、スラグ出口13とマット出口14とも互いに離間させて設けられており、溶湯の下層部ではマット出口14に向かう緩やかなマットMの流れが形成されるようになっている。
ここで、本実施の形態では、炉本体11は平面視略長円形状に形成されており、溶湯出口12及びマット出口14は炉本体11の長手方向の一端側に設けられており、スラグ出口13は炉本体11の長手方向の他端側に設けられている。
【0034】
炉本体11の天井部11aには、複数のランシング口16が列状に配置されており、炉修時等に作業者が炉本体11内に立ち入るためのマンホールHも設けられている。
ランシング口16は、例えば炉本体11のスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置されるものである。このランシング口16の列は、一列だけ設けてもよく、複数列設けてもよい。また、ランシング口16の列を構成するランシング口16の数及び各ランシング口16間の間隔は任意である。
本実施の形態では、ランシング口16は、炉本体11の溶湯入口12及びマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置されており、また炉本体11の中央位置を通る列と、炉壁近傍を通る列との二列設けられている。
ここで、ランシング口16は、上記のように列状に配置したものだけでなく、任意の位置に単独で設けられていてもよい。
【0035】
また、本実施の形態では、分離炉3は電気炉とされており、炉本体11の天井部11aには、上方から群分けした形で複数の電極17が下端をスラグ中に浸漬させた状態にして挿通されている。分離炉3では、これら電極17にトランスから三相交流を入力してジュール熱を発生させることで溶湯の保温を行っている。図3に示すように、これら電極17には、天井部11a上に位置する部分に囲い18が設けられている。囲い18は、例えば絶縁体製のフェンスや壁体等によって構成されるものであって、電極17のうち、少なくともランシング口16の近傍に位置する電極17の周囲に設けられる。
また、天井部11aにおいて囲い18の外側の、少なくともランシング口16の近傍には、図示せぬ作業床が設けられている。
【0036】
炉本体11の天井部11aには、天井部11aを冷却するジャケット19が設けられている。ジャケット19には、冷媒を供給する冷媒供給装置20が接続されており、冷媒供給装置20からジャケット19に冷媒を供給することによって天井部11aが冷却されるようになっている。ここで、ジャケット19は、天井部11a全体を冷却する構成とする必要はなく、天井部11aにおいて少なくともランシング口16近傍の作業者が立ち入る範囲内を冷却する構成であればよい。また、ジャケット19自体が天井部11aを構成していてもよい。ここで、冷媒供給装置20によってジャケット19に供給される冷媒は、冷却水のほか、他の任意の冷媒を用いることができる。
【0037】
本実施形態にかかる分離炉3では、上記のように電極18を囲む囲い18と作業床、及び天井部11aを冷却するジャケット19とが設けられることにより、分離炉3の操業中、すなわち電極17に通電している状態でも作業者が天井部11a上に安全に立ち入ることができるようになっている。
【0038】
本実施形態にかかる製錬設備1で銅を製錬するには、乾燥した銅精鉱とフラックス(硅砂、石灰、アルミナ等)とを酸素富化空気と共に溶錬炉2の溶湯中にランス7で吹き込む。溶錬炉2では、原料の溶解と酸化反応が進行し、主成分が硫化銅及び硫化鉄の混合物からなるマットMと、銅精鉱中の脈石、溶剤、酸化鉄等からなるスラグSが生成される。このマットMとスラグSは樋6Aにより分離炉3に送られ、ここで比重差により下層のマットMと上層のスラグSとに分離される。
【0039】
一方、分離炉3で分離されたマットMは樋6Bを介して製銅炉4に送られる。製銅炉4では、さらに空気と共にフラックスを吹き込んでマットM中の硫黄と鉄分を酸化し、純度98.5%以上の粗銅Cを得る。製銅炉4において連続的に生成された粗銅Cは、樋6Cを介して精製炉に注入される。また、このプロセスにおいて、製銅炉4における酸化の工程では、銅の一部も酸化してスラグSの中に取り込まれてしまう。つまり、製銅炉スラグSaには酸化鉄と共にかなりの量の酸化銅(14〜16%)が含まれる。このため、通常のプロセスでは、製銅炉スラグSaを水砕により固体粉末化し、乾燥後、溶錬炉2に回送して、原料鉱石と共に再び溶解させて銅の回収を図っている。
【0040】
ここで、分離炉3で生成されたスラグSには通常は銅分がほとんどないので、スラグ出口13を通じてそのまま系外に取り出されるが、炉況が悪化した場合には、スラグS中の銅濃度が高くなってスラグロスが大きくなるために収益が悪化してしまうので、操業中は常に炉況を監視し、必要があれば随時ランシングを行って、炉況を良好に保つことが好ましい。
【0041】
以下、本実施形態にかかる分離炉3の炉況検出方法を説明する。
この分離炉3の炉況は、作業者が炉本体11の天井部11a上に立ち入り、天井部11aに設けられるランシング口16を通じて、溶湯の性状や湯深、異常層や堆積物の発生などを検出することによって行う。
【0042】
溶湯の性状は、図4に示すようにランシング口16を通じて炉本体11内に測定棒Rを差し込んで測定棒Rを溶湯に浸漬させたのちに引き上げて、測定棒Rについた溶湯の状態を目視で観察することによって行うほか、温度測定装置を用いてランシング口16の下方位置における溶湯の温度を測定することによって行う。ここで、温度測定装置としては、高温の溶湯Mの温度を測定可能なもの、例えば、光高温計や熱電対、色高温計等の高温計を用いることができる。
【0043】
また、湯深は、図4に示すようにランシング口16を通じて炉本体11内に測定棒Rを底に当たるまで差し込み、測定棒Rにおいて溶湯に浸漬された長さを測定することによって求める。これにより、現在の溶湯の量や、鋳付きAや堆積物Dの発生による底上がりが検出される。ここで、湯深の測定の際に、堆積物Dの発生が認められた場合には、堆積物Dによって溶湯の流れが乱されないように、必要に応じて、測定棒Rによって堆積物Dを突き崩して平らにならすなどしてもよい。
【0044】
異常層Uや堆積物Dの有無の判定は、測定棒Rを溶湯中に差し込み、その際の感触(例えば測定棒Rを差し込んでいく過程での押し込み力に対する抵抗の変動等)に基いて行う。
【0045】
本実施の形態にかかる分離炉3では、ランシング口16が列状に配置されているので、これらランシング口16を通じてランシング口16の下方位置における炉況を検出することで、炉本体11内の炉況を横断的に知ることができる。例えば、炉本体11において各ランシング口16の列に沿って湯深を横断的に検出したり、溶湯中の異常層Uや堆積物Dの発生とその位置、規模を検出することができる。
ここで、炉本体11の中央位置では溶湯の流れや温度等の各種処理条件が炉壁近傍位置よりも安定していて、この位置における炉況は全体的な炉況を反映している。本実施の形態では、ランシング口16の列のうちの一つを、炉本体11の中央部を通るように配置しているので、全体的な炉況を検出することが可能である。
また、本実施の形態では、ランシング口16の列のうちの一つを、炉壁に沿って設けているので、炉本体11において炉況の安定しにくい炉壁近傍位置における炉況を横断的に検出することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態では、炉本体11の天井部11aには、ランシング口16を、炉本体11の溶湯入口12が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置している。
このように、ランシング口16が、炉本体11において溶湯の上層部をなすスラグSの流れの最上流である溶湯入口12側から最下流であるスラグ出口13に向かう列状に設けられているので、これらランシング口16を通じて測定棒Rを炉本体11内に差し込んで各ランシング口16の下方位置における炉況を検出することで、炉本体11において分離炉3による処理の初期段階にある領域からほぼ処理を終えた領域までにわたって溶湯の性状を検出することができる。また、この構成により、スラグ出口13よりも上流側の位置で炉況を検出することができるので、炉況の異常を早期に発見することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、炉本体11の天井部11aには、ランシング口16を、炉本体11のマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置しているので、スラグ出口13側からマット出口14側にかけて堆積物Dの発生や底上がりを検出することができ、これに基いて溶湯の下層部におけるマットMの流れの状態を検出することができる。
そして、本実施の形態では、溶湯入口11とマット出口14とは、炉本体11において同一の側に設けられており、ランシング口16は、炉本体11において溶湯入口11及びマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向けて延びる列状に配置されているので、前記のように炉況の検出を行うことで、前記した溶湯入口11側からスラグ出口13側にかけての溶湯の上層部の性状の検出と、前記したスラグ出口13側からマット出口14側にかけての溶湯の下層部の性状の検出、堆積物Dの発生の検出、及び底上がりの検出とを、同時に、または並行して行うことができる。
【0048】
次に、本実施形態にかかる分離炉3の操業方法を説明する。
本実施形態にかかる分離炉3では、炉況の制御は、作業者が炉本体11の天井部11a上に立ち入り、図5に示すように炉本体11の天井部11aに設けられるランシング口16にランスLを差し込み、このランスLを通じて炉本体11内においてランシング口16の下方位置に酸素富化空気を送り込むことで行われる。このようにランシングを行うことによって、ランシング位置における溶湯の酸化反応が促進されて溶湯中の十分に酸化されていないFe成分やS成分を酸化させてスラグSやガスに変化させるとともに、ランシング位置における溶湯温度を上昇させてマグネタイト等の析出物を溶融させて、異常層Uの解消を図る。
【0049】
本実施の形態にかかる分離炉3では、ランシング口16が列状に配置されているので、炉本体11内に横断的にランシングを施すことができ、より効果的なランシングを行うことができる。ここで、ランシングは、各ランシング口16に順番にランスLを差し込んで順次ランシングを行ってもよく、また複数のランシング口16にランスLを差し込んでおき、これらランスLに順番にランシングを行ってもよい。
【0050】
また、本実施の形態では、ランシング口16の列のうちの一つを、炉本体11の中央位置を通るように配置しているので、炉本体11の中央位置でランシングを行うことができ、ランシングの効果を炉本体11内全体に波及させることができる。
また、ランシング口16の列のうちの一つを、炉壁に沿って設けているので、炉本体11において炉況の安定しにくい炉壁近傍位置において横断的にランシングを行うことが可能となり、炉壁近傍位置においても炉況を良好に制御することができる。
【0051】
本実施の形態では、炉本体11の天井部11aには、ランシング口16を、炉本体11の溶湯入口12が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置している。
このように、ランシング口16が、炉本体11において溶湯の上層部をなすスラグSの流れの最下流であるスラグ出口13に向かう列状に設けられているので、これらランシング口16を通じてランシングを行うことで、炉本体11において分離炉3による処理の初期段階にある領域からほぼ処理を終えた領域までにわたって炉況の制御を行うことができるとともに、スラグ出口13よりも上流側の位置で炉況を制御することができるので、炉況を早期に回復することができる。
【0052】
ここで、このようにランシングを行うことで、ランシング位置における溶湯の上層部をなすスラグSや異常層U、及び堆積物Dが周囲に押し出される。このことを利用して、ランシング口16の列に沿って順番に、炉本体11の各ランシング口16の下方位置でのランシングを行うことで、溶湯の上層部をなすスラグSや異常層Uを、ランシング口16の列に沿って移動させることができ、またランシング口16の列に沿って堆積物Dが除去された領域を形成して、炉床に溶湯の下層部をなすマットMの流れる湯道を確保することができる。
本実施の形態では、ランシング口11の列のうちスラグ出口13より離間した側からスラグ出口13側に向けて順番にランシングを行うことで、溶湯の上層部をなすスラグSやランシングによっては解消しきれなかった異常層Uをスラグ出口13まで押し出して、これらを炉本体11内から速やかに排出させて、炉況を早期に回復することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、炉本体11の天井部11aには、ランシング口16を、炉本体11のマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向かって延びる列状に配置しているので、炉床に堆積物Dがたまった場合にも、スラグ出口13からマット出口14にかけてランシングを行うことによってこれらの間の堆積物Dを押し流して湯道を確保することができ、溶湯の下層部でスラグ出口13側からマット出口14側に向かう溶湯の流れを良好に保つことができる。
そして、本実施の形態では、溶湯入口11とマット出口14とは、炉本体11において同一の側に設けられており、ランシング口16は、炉本体11において溶湯入口11及びマット出口14が設けられる側からスラグ出口13が設けられる側に向けて延びる列状に配置されているので、前記のようにランシングを行うことで、前記した溶湯入口11側からスラグ出口13側に向けてのスラグSや異常層Uの押し出しと、前記したスラグ出口13側からマット出口14側にかけての湯道の確保とが同時に行われる。
【0054】
ここで、本実施形態にかかる分離炉3では、以下に示すように炉況の検出と炉況の制御を連続的に行うことで、より迅速に炉況を制御することができる。
まず、ランシング口16のうちスラグ出口13から離間した側からスラグ出口13側に向けて順番に、各ランシング口16の下方位置における炉本体11の炉況を検出していく。そして、炉況の異常が検出された場合には、以降のランシング口16では、炉本体11において各ランシング口16の下方位置でのランシングを行う。
【0055】
この方法では、炉本体11においてランシング口16の列に沿って炉況を検出してゆき、炉況の異常が検出された領域からスラグ出口13側の領域にかけてランシングを行うので、異常が生じている領域の検出に引き続いて、異常が生じている領域のみにランシングを行うことができ、単にランシング口16の列に沿って全てのランシング口16を通じて順番に炉況の測定を行ってから炉況の異常が検出された位置でランシングを行う場合や、炉況の検出を行わずにすべてのランシング口を通じてランシングを行う場合に比べて、炉況を速やかに回復させることができる。
【0056】
ここで、上記実施の形態では、本発明を銅製錬設備の分離炉3に適用した例を示したが、本発明は、これに限らず、溶湯中にスラグSとマットMとが含まれる製錬炉であれば、銅製錬設備の他の製錬炉や、他の金属の製錬に用いる製錬炉や、自溶炉、反射炉等、他の任意の製錬炉に適用することができる。また、本発明は、連続製錬炉に限らず、バッチ式炉に適用してもよい。
【0057】
【発明の効果】
本発明にかかる製錬炉及び製錬設備によれば、炉況の検出及びランシングを横断的に行うことができるので、全体的な炉況の把握が可能となるとともに、より効果的なランシングを行って炉況の制御を迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる製錬設備の構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる製錬炉の構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる製錬炉の構成を示す平面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる製錬設備における炉況の検出方法を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる製錬設備の操業方法を示す図である。
【符号の説明】
1 製錬設備 3 分離炉(製錬炉)
11 炉本体 11a 天井部
13 スラグ出口(第一溶湯出口) 14 マット出口(第二溶湯出口)
16 ランシング口 17 電極
18 囲い 19 ジャケット
L ランス R 測定棒

Claims (9)

  1. 炉本体の天井部に、複数のランシング口が列状に配置されていることを特徴とする製錬炉。
  2. 前記天井部には、該天井部を冷却するジャケットが設けられていることを特徴とする請求項1記載の製錬炉。
  3. 前記炉本体に、前記溶湯の上層部を前記炉本体外に取り出すための第一溶湯出口が設けられ、
    前記ランシング口は、前記炉本体の前記第一溶湯出口が設けられる側に向かって延びる列状に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の製錬炉。
  4. 前記炉本体において前記第一溶湯出口とは離間した位置に、前記溶湯の下層部を前記炉本体外に取り出すための第二溶湯出口が設けられ、前記ランシング口は、前記炉本体の前記第二溶湯出口が設けられる側から前記第一溶湯出口が設けられる側に向かって延びる列状に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の製錬炉。
  5. 前記天井部から前記炉本体内に電極が挿入される電気炉とされ、
    前記電極のうち、少なくとも前記ランシング口近傍に位置する電極には、前記天井部上に位置する部分に囲いが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の製錬炉。
  6. 前記溶湯を連続的に処理する製錬炉を複数連結して前記各製錬炉によって前記溶湯に対してそれぞれ製錬の少なくとも一つの段階における処理を施す連続製錬設備であって、請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉を有していることを特徴とする製錬設備。
  7. 請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉において、
    前記各ランシング口を通じて、前記炉本体内の前記各ランシング口の下方位置における前記炉本体の炉況を検出することを特徴とする製錬炉の炉況検出方法。
  8. 請求項1から5のいずれかに記載の製錬炉において、
    前記各ランシング口より前記炉本体内にランスを差し込んで、前記各ランシング口の列に沿って順番にランシングを行うことを特徴とする製錬炉の操業方法。
  9. 請求項3から5のいずれかに記載の製錬炉において、
    前記ランシング口のうち前記第一溶湯出口から離間した側から前記第一溶湯出口側に向けて順番に、前記各ランシング口の下方位置における前記炉本体の炉況を前記ランシング口を通じて検出し、
    炉況の異常が検出された場合には、以降のランシング口では、前記炉本体において前記各ランシング口の下方位置でのランシングを行うことを特徴とする製錬炉の操業方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2012067372A (ja) * 2010-09-27 2012-04-05 Pan Pacific Copper Co Ltd ランス口の構造体

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