JP2004155776A - 制癌剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 ジフテリア毒素の変異体であってHB−EGFとEGFレセプターとの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質、或いは、ジフテリア毒素の一部からなり該ジフテリア毒素のレセプター結合ドメインを少なくとも含むタンパク質又は該タンパク質を含む複合タンパク質等であってHB−EGFのEGFレセプターへの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質を、有効成分として含むことを特徴とする制癌剤である。
【選択図】 なし
Description
卵巣癌の治療法としては、現在タキソールを中心とした化学療法しか手立てが無いが、これらの化学療法も一時的効果はあるものの、後には再発を許すことが多く、新たな治療法の開発が求められている。
フラグメントAが細胞質内に入る機構は、フラグメントBにあるレセプター結合ドメインが細胞表面のリセプターであるproHB−EGFに結合することにより、ジフテリア毒素はエンドサイトーシスによりエンドソームに取り込まれ、エンドソーム内で膜貫通ドメインがエンドソーム膜に挿入され、最終的にはフラグメントAがエンドソーム膜を通過して細胞質中に遊離され、そこでEF−2を失活させる(例えば、非特許文献6参照)。
ジフテリア毒素が毒性を発揮するためには、フラグメントAとフラグメントBの両方が必要である。したがってどちらのフラグメントに変異があっても、ジフテリア毒素の毒性を有さないタンパク質ができる。
ジフテリア毒素には触媒作用ドメインに変異を有する無毒化された変異体、例えばCRM197が分離されている。
すなわち、本発明の前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> ジフテリア毒素の変異体であってHB−EGFとEGFレセプターとの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質を、有効成分として含むことを特徴とする制癌剤である。
<2> タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列における少なくともレセプター結合ドメインを変異なしに含むことを特徴とする前記<1>に記載の制癌剤である。
<3> タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質である前記<1>及び<2>のいずれかに記載の制癌剤である。
<4> タンパク質が、CRM197及びDT52E148Kのいずれかである前記<3>に記載の制癌剤である。
<5> 前記ジフテリア毒素の変異体に残存するジフテリア毒素の毒性を中和する活性を有し、かつ、前記ジフテリア毒素の変異体の細胞への結合を抑制しない前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体をさらに含み、
前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体と、ジフテリア毒素の変異体とが複合体を形成する前記<1>から<4>のいずれかに記載の制癌剤である。
<6> 前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体が、#2 anti−DT mAbである前記<5>に記載の制癌剤である。
<7> 以下の(a)、(b)及び(c)のいずれかのタンパク質であって、HB−EGFのEGFレセプターへの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする制癌剤である。
(a) ジフテリア毒素の一部からなり、該ジフテリア毒素のレセプター結合ドメインを少なくとも含むタンパク質
(b) (a)のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c) (a)及び(b)のいずれかのタンパク質を含む複合タンパク質
<8> (a)、(b)及び(c)のいずれかのタンパク質が、ジフテリア毒素の触媒作用ドメインを有しない前記<7>に記載の制癌剤である。
<9> (c)のタンパク質が、GST−DTである前記<8>に記載の制癌剤である。
前記ジフテリア毒素の変異体とは、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を表し、例えば1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質である。また、ジフテリア毒素の25個のシグナル配列は付いていても付いていなくてもよく、いずれの配列も本発明の範囲に含まれる。
前記タンパク質は、ジフテリア毒素の一部若しくはその変異体又はそれらのタンパク質を含む複合タンパク質であって、レセプター結合ドメインを保持するものをいう。
次に、種々の濃度のジフテリア毒素を加えて、CO2インキュベーターで2〜5時間培養する。3.7MBq/mlの[3H]ロイシンを10μl加えて更に1時間培養する。
培養液を捨て、ウェルをPBSで1度洗った後、細胞を0.5mlの0.1M NaOHで溶解し、その溶液をチューブに集める。0.5mlの0.1N NaOHで再度ウェルを洗浄し、その溶液を同じチューブに集める。
これに20%のトリクロロ酢酸溶液0.5mlを加えて、Vortexミキサーでよく攪拌する。生じた沈殿をグラスフィルターでトラップし、フィルターをさらに5%トリクロロ酢酸溶液で洗浄する。
最後にフィルターを100%エタノールで洗浄し、乾燥させる。
フィルターをトルエン−PPOのシンチレーターにつけて、フィルターにトラップされた放射能を液体シンチレーションカウンターで測定する。ジフテリア毒素を加えなかった試料の値を測定し、これを100%として毒素を加えた時の値を%で求める。
ジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質とは、ジフテリア毒素の毒性を無毒化または極めて低レベルに弱毒化されたタンパク質をいい、本発明においては、ジフテリア毒素の毒性を1ng/mlの濃度で上記Vero細胞の系で測定した場合、ジフテリア毒素を加えなかった試料または触媒作用ドメインを有しないジフテリア毒素変異体を加えた試料の値と有意差がないものをいう。前記有意差は、t検定において有意水準5%として有意差が無いことが好ましく、有意水準1%として有意差が無いことがより好ましく、有意水準0.1%として有意差が無いことがさらに好ましい。
変異させた触媒作用ドメインの機能は、ADPリボシル化活性を直接測定することで、正確に調べることができる。ADPリボシル化活性は、分離精製したEF−2に、フラグメントAあるいはADPリボシル化活性を測定したい蛋白質(変異させた触媒作用ドメイン等)とラジオアイソトープで標識したNADを加えて、試験管内でEF−2をADPリボシル化させ、EF−2に取り込まれた放射能を測定することで、直接測定することができる。
その反応液に同容量の10%−トリクロロ酢酸溶液を加えて蛋白質を沈殿させ、生じた沈殿をグラスフィルターでトラップし、フィルターをさらに5%トリクロロ酢酸溶液で洗浄する。
フィルターをトルエン−PPOのシンチレーターにつけて、フィルターにトラップされた放射能を液体シンチレーションカウンターで測定する。
測定された放射能がADPリボシル化活性の程度を示しており、変異を加えないフラグメントAを用いたときの放射能を基準に、変異を加えた蛋白質のADPリボシル化活性の相対活性を求めることができる。
ここで、CRM197については、ジフテリア毒素の毒性を有さない、即ちADPリボシル化活性を有さないとの報告が既になされている(T. Uchida and A.M. Pappenheimer Jr. (1972) Science 175, 901-903)。また、148Eに変異を有する148K変異体が極めて弱い活性しか持たないことは知られており(J.T.Barbieri and R.J. Collier (1987) Infect. Immun. 55, 1647-1651)、52E変異体であるCRM197にさらに148Kの変異を入れたダブルミュータントであるDT52E148Kは、さらに安全な変異体として好ましい。また、これらの変異体の毒性は、前記タンパク質合成阻害実験によってもジフテリア毒素を加えなかった試料の値と有意差がないことが確かめられた。ただし、前述のように、これらの変異体であっても、極めて微弱なジフテリア毒素の毒性が残存していることが、本発明の、より詳細な解析により明らかになっている。
なお、GST−DTがジフテリア毒素の毒性を有しないことは、触媒作用ドメインを完全に欠如することから明らかである。
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また、触媒作用ドメインに変異を有する変異体は、以下のようにして作成することができる。プラスミッドに組み込まれたCRM197をコードする遺伝子(Pβ197)を鋳型にして、変異を持たせたい部位をプライマーとして、PCR法にてCRM197領域を合成する。プライマーは、変異を持つように点突然変異を導入したものを合成し、使用する。合成したDNAを、大腸菌用の遺伝子発現ベクター(pET−22b)に組み込み、大腸菌に形質導入を行い、変異体を大腸菌で発現させて、作成することができる。
本発明の制癌剤は、前記ジフテリア毒素の変異体に残存するジフテリア毒素の毒性を中和する活性を有し、かつ、前記ジフテリア毒素の変異体の細胞への結合を抑制しない前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体をさらに含み、
前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体と、ジフテリア毒素の変異体とが複合体を形成することも好ましい。
一方、該モノクローナル抗体が、ジフテリア毒素の変異体の細胞への結合を抑制しないことは、前記125Iで標識したジフテリア毒素のHB―EGFへの結合の阻害や、後述するIL−3依存的に増殖能を示す32D cells(ATCCより入手)に上皮細胞増殖因子受容体遺伝子を発現させた、DER cellにおいて、HB−EGFの増殖活性阻害作用を測定すること等により調べることができる。
ジフテリア毒素の変異体に残存するジフテリア毒素の毒性を中和する活性を有し、ジフテリア毒素の変異体の細胞への結合を抑制しないジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体としては、例えば#2 anti−DT mAb(特許生物寄託センター 寄託番号:FERM P−19551のハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体)が挙げられる。
ジフテリア毒素の変異体との複合体は、ジフテリア毒素の変異体とモノクローナル抗体とを適当な比により混合することにより作成できる。
前記制癌剤は、経口的又は非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与、経気道投与など)に投与することができる。卵巣癌等腹腔内に播種する悪性腫瘍に適用する場合には、腹腔内に注射により投与することが、癌細胞に直接運搬される点で好ましい。
経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを挙げることができるが、剤形はこれらに限定されることはない。
前記本発明の制癌剤に含まれる有効成分の量は、制癌剤の製剤形態または投与経路によって異なり、一概に規定することはできないが、通常、最終製剤中に約0.0001%から70%の範囲から適宜選択して決定することができる。
本発明の制癌剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、成人一日あたりの有効成分の量として、体重1kgあたり1μgから30mg程度の範囲であることが好ましい。上記投与量の医薬は一日一回に投与してもよいし、数回に分けて投与してもよい。また、数日から数週間に1度又は単発的に投与してもよい。また、ステロイド等、副作用を抑える成分とともに投与することもできる。
CRM197タンパク質の生成
C7(β197)の溶原菌のストック(C7(β197)ファージを溶原化したジフテリア菌C7(beta197)M1としてATCC(American Type Culture Collection)Bacteria collection(No.39255)から入手可能)を培養し、対数増殖期の後期の菌液を、2%の濾過したマルトースを加えたC−Y培地に、最初のOD590が約0.05になるように加える。このODは、約5×107菌体/mlにあたる。フラスコは毎分200回転のロータリーシェーカーに載せ、35℃で16時間から17時間培養する。ODが10から15になった時点で、培養を終了する。
培養液は、10000gで15分間遠心する。培養上清に硫安を65%の飽和状態になるように加える。氷室で24から48時間放置する。沈殿物を集めて0.02MのpH7.2のトリス−塩酸バッファーに溶かし、同液にて透析する。
遠心して、不溶物を除き、DE52カラムに添加し、0.02MのpH7.2のトリス−塩酸バッファー中のNaClの濃度勾配により溶出する。CRM197は、NaClが0.08Mのところで溶出する。溶出した液を硫安で65%飽和状態にする。沈殿物を0.01Mのトリス−塩酸バッファーに溶かし、再び平衡化する。そして、DE52カラムに再び掛け、再度硫安沈殿する。続いて、SephacrylS−200のカラムにかけ、HEPES−NaOH、pH7.2、0.15M NaClの溶液で溶出する。溶出されたCRM197をDeToxiゲルにアプライして、CRM197試料に含まれるLPS類似物質を取り除き、実験に使用する。CRM197の280nmにおける吸収は、1ODが約0.67 mg/mlに相当する。
ヌードマウスを用いた造腫瘍性実験を行った。
RPMI+10%FBSで培養した卵巣癌細胞株SKOV−3(ATCCから入手可)を、EDTA/PBS(−)で洗浄し、0.25%トリプシンで回収した。RPMI+10%FBSで2回、RPMI(血清なし)で2回洗浄し、5×106細胞ずつRPMI(血清あり)250μLへ添加し、これをヌードマウスの背部に皮下注射により接種した。
これらの結果から、いずれの場合も、CRM197の投与により、腫瘍の成長が抑えられることが分かった。
卵巣癌細胞株RMG−1(Japanese Collection of Research Bioresources Cell Bankに登録)、卵巣癌細胞株OV47、及び、卵巣癌細胞株SKOV−3細胞にHB−EGF遺伝子をトランスフェクションして作製した細胞であるSKOV−Hを、前記実施例2におけるSKOV−3細胞と同様に回収し、SKOV−3細胞の代わりにヌードマウス背部に皮下注射により接種した。
いずれの細胞を接種した場合にも、細胞接種直後と一週間後にCRM197を腹腔内に1mg投与した。また、それぞれCRM197を投与しないヌードマウスを対照実験とした。
投与時期と腫瘍体積の関係を図10から図12に示す。図10はRMG−1細胞、図11はOV47細胞、図12はSKOV−H細胞を接種したヌードマウスの場合の結果を示す。
これらの結果からも、いずれの場合も、CRM197の投与により、腫瘍の成長が抑えられることが分かった。
CRM197の細胞毒性試験
これまでの実験では、CRM197のフラグメントAにはADPリボース転移酵素活性が認められず、全く無毒の分子であると考えられてきたが、全く毒性がないか、わずかながらもジフテリア毒素としての毒性を有しているかを明らかにすることは、本発明において極めて重大であるので、CRM197のADPリボース転移酵素活性について、さらに詳しく解析した。
図13はVero細胞及びVero−H細胞を6wellプレートに300cell/wellの密度で蒔き、10時間培養し、これにCRM197を加えて24時間培養し、その後CRM197を含まない培養液で6日間培養してコロニー数をカウントした場合のコロニー形成率を示している。図14はVero細胞及びVero−H細胞にCRM197を加えて一週間培養した場合のコロニー形成率を示している。その結果、Vero−H細胞は、CRM197を加えて24時間培養した場合には1μg/mlのCRM197で、CRM197存在下で一週間培養した場合には100ng/mlのCRM197で、コロニー数の減少が確認された。Vero細胞ではどちらの条件においても有意なコロニー数の減少は認められなかった。CRM197がVero細胞よりもVero−H細胞に対して強い毒性を示したことから、この毒性がジフテリア毒素リセプター(proHB−EGF)に関係したものであることが示唆された。なお、CRM197の代わりにジフテリア毒素を24時間作用させ、その後ジフテリア毒素を含まない培養液で6日間培養した場合、ジフテリア毒素は約1fg/mlの濃度でコロニーの出現をほとんど見なかった(毒素を加えない場合に得られるコロニー数の約3%)。したがって、ここで用いたコロニー形成法で測定されるCRM197の細胞毒性はジフテリア毒素の1010以下であり、CRM197の細胞毒性は極めて微弱なものであることがわかった。
CRM197によるタンパク合成阻害試験
ジフテリア毒素の毒素作用は、EF2のADPリボシル化に基づく、タンパク合成阻害作用である。そこで、CRM197の毒性がタンパク質合成阻害によるものかどうかを検討するために、CRM197によるタンパク合成阻害作用を調べた。実施例4で使用したのと同様のVero細胞、及びVero−H細胞にCRM197を36時間暴露させ、そのタンパク質合成阻害能を[3H]Leuの蛋白への取り込み率から調べた。具体的には、24wellプレートにVero細胞、Vero−H細胞を1×105cell/mlの密度で蒔き、16時間培養後、CRM197を加えて、さらに36時間培養した。その後、[3H]Leuを添加し、1時間インキュベートしたのち、タンパク質に取り込まれた[3H]Leuの放射能量を液体シンチレーションカウンターにて測定し、タンパク質の合成阻害能を求めた。
その結果、Vero−H細胞では100 ng/ml以上の濃度のCRM197でタンパク質合成の阻害が観察された。この条件でVero細胞ではタンパク合成阻害作用はほとんど観察されなかった(図15)。
DT52E148Kの細胞毒性試験
ジフテリアトキシンに2カ所の変異を持つ変異体であるDT52E148K及びリコンビナント蛋白GST−DTについても実施例4と同様にその毒性をコロニー形成法で測定した。その結果、CRM197よりもさらに微弱ではあるが、DT52E148KはVero−H細胞対して毒性を示した(図16)。一方、Vero細胞には細胞毒性は認められなかった(図17)。したがって、完全に毒性を消失させるためには、この2カ所の変異だけでは不十分であることが示された。GST−DTはVero細胞に対してもVero−H細胞に対しても、全く毒性を示さなかった。
Vdtr細胞のCRM197及びDT52E148Kに対する耐性
これまで示されたCRM197及びDT52E148Kの細胞毒性、タンパク質合成阻害作用がジフテリア毒素の持つADPリボシル化活性によるEF−2の不活性化であるのかどうかを検討するために、ジフテリア毒素耐性株Vdtr細胞を作成した。具体的には以下の文献(Moehring JM and Moehring TJ, Somat. Cell Genet. 5, 453-468, 1979;
Kohno K et al., Somat. Cell Genet. 11, 421-423, 1985)に従って、Vero細胞をEMS処理した後、ジフテリア毒素を加えて培養し、生存する細胞を得た。これらの中から、高濃度のジフテリア毒素を加えても耐性である細胞を選別し、Vdtr細胞を得た。次ぎに、このVdtr細胞にHB−EGFを高発現させ、Vdtr−4H細胞を得た(OriGene Technologies社製ヒト由来HB−EGF遺伝子をpCDNA3.1プラスミッド(インビトロゲン社製)にクローニングしたものを、トランスフェクションして作成した細胞)。Vdtr−4H細胞にジフテリア毒素を加えたときの蛋白合成阻害率を図18に、この細胞より得た細胞破砕液にフラグメントAを加えたcell−freeのADPリボシル化アッセイの結果を図19に示す。この細胞ではcell−freeのADPリボシル化アッセイにおいてもEF2のADPリボシル化が全く認められないことから、この細胞ではジフテリア毒素耐性はEF2に原因があることが示された。
無細胞系でのEF−2のADPリボシル化実験
実施例7のVdtr細胞を用いた実験結果は、CRM197及びDT52E148Kに存在する細胞毒性が、残存するADPリボシルトランスフェラーゼ活性によるものであることを示している。これをさらに確認するために、Cell−freeの条件下でADPリボシル化実験を行った。以下の文献Gill, DM and Pappenheimer, AM Jr. J. Biol. Chem. 246, 1492-1495,1971) に示された方法を用いて、ウサギ肝より抽出したEF−2にCRM197又はDT52E148Kを加え、これに[32P]NADを加えて、37℃で10分間インキュベートし、cell−freeでADPリボシル化反応を行った。その後、液体シンチレーションカウンターにて放射能量を測定した。その結果、極めて弱い活性であるが、CRM197及びDT52E148KにEF−2をADPリボシル化する活性が認められた(図21及び図22)。なお、図21におけるの右上の図は、CRM197のADPリボシル化活性を縦軸の尺度を拡大して示したものである。この結果から、CRM197及びDT52E148Kの両者にEF2をADPリボシル化する活性がわずかではあるが残存することが結論づけられた。
ジフテリア毒素モノクローナル抗体#2 anti−DT mAb(diphtheria toxin monoclonal antibodies ♯2)によるCRM197の細胞毒性の中和
CRM197をHB−EGF増殖活性阻害物質として利用する場合、CRM197に微弱ではあるが細胞毒性があることは、場合によっては望ましくない。そこで、次にCRM197に残る毒性を抑制する条件を検討した。ジフテリア毒素に対するモノクローナル抗体は、多数分離されている(Hayakawa S, J. Biol. Chem. 258, 4311-4317, 1983)。これらの中には、ジフテリア毒素の細胞毒性は抑制するが、ジフテリア毒素の受容体への結合は抑制しない抗体がある。これらの中で、#2 anti−DT mAbが、ジフテリア毒素の場合と同様にCRM197の毒性は中和するが、CRM197のHB−EGFへの結合は抑制しないことを見出した。
ジフテリア毒素に対するモノクローナル抗体の作成は、以下の文献(Hayakawa S,J. Biol. Chem. 258, 4311-4317, 1983) によって示されるが、簡単に記述すると以下のようになる。BALB/cマウスの腹腔に、ホルマリン処理したジフテリア毒素0.1 mgを、フロインドアジュバントと共に接種し、これを1週間ごとに合計3回行った。最後の接種から数日後に、このマウスの脾臓細胞を取り出し、これをマウスミエローマ細胞SP2/0細胞と融合させた。融合反応後の細胞をHAT選択培地で培養し、増殖細胞の中から、ジフテリア毒素に対する抗体を作成しているクローンを分離した。ジフテリア毒素に対する抗体を作成しているクローンの中で、最終的にジフテリア毒素の毒性を中和する活性は持つが、ジフテリア毒素の細胞への結合を抑制しない抗体を作成しているクローンを分離した。
CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体のHB−EGF増殖活性阻害作用
CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体のHB−EGF増殖活性阻害作用(HB−EGFの増殖活性を阻害する作用)について検討した。IL−3依存的に増殖能を示す32D cells(ATCCより入手)に上皮細胞増殖因子受容体遺伝子(EGFR遺伝子、OriGene Technologies社製)を発現させて、DER cellを作成した(EGFR遺伝子を、pCDNA3.1プラスミド(インビトロゲン社製)にクローニングしたものを、トランスフェクションして作成)。この細胞は、IL−3非存在下では、HB−EGFの増殖活性により増殖する。この細胞に対し、HB−EGF存在下で、CRM197及びCRM197/#2 anti−DT mAb 複合体を添加した。細胞を48時間培養し、増殖した細胞数をMTT assayによって測定した。CRM197及びCRM197/#2 anti−DT mAb 複合体が存在しない条件ではDER cellは増殖したが、CRM197やCRM197/#2 anti−DT mAb 複合体が存在する条件では、DER cellの増殖は抑制された(図24)。CRM197とCRM197/#2 anti−DT mAb複合体の増殖活性阻害作用を比較したところ、両者にはほとんど違いはなく、同様の阻害効果を示した。すなわち、CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体は、CRM197が持つ細胞毒性は抑制されているが、HB−EGFの増殖活性阻害作用についてはCRM197単独と同様の阻害活性を保持していることがわかった。
CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体による腫瘍抑制効果
一群のヌードマウス(3個体づつ)について、SKOV−H細胞をそれぞれ接種し、接種から1週間後よりCRM197(1mg/1個体/week)、あるいはCRM197/#2 anti−DT mAb 複合体(CRM197 1mgを含む/week)の投与を開始し、腹腔内に週1回を4週に渡って投与した)。CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体は1mgのCRM197と8 mgの#2 anti−DT mAbを1時間、室温でインキュベーションしたものを使用した。また、CRM197を投与しないヌードマウスを対照実験とした。CRM197、あるいはCRM197/#2 anti−DT mAb 複合体投与と腫瘍体積の関係を図25に示す。腫瘍体積の測定は実施例2と同様に行った。この実験から、CRM197/#2 anti−DT mAb 複合体は腫瘍の増殖を抑制することが明らかになったが、その効果はCRM197単独よりも弱いことが示された。
DT52E148KとCRM197について、投与が週1回を3週にわたっての投与であった以外は、実施例11と同様に腫瘍抑制効果を調べた。DT52E148K又はCRM197と、腫瘍体積との関係を図26に示す。この実験から、DT52E148Kは腫瘍の増殖を抑制することが明らかになったが、その効果はCRM197よりも弱いことが示された。ADPリボース転移酵素活性を有するAフラグメントに2箇所の変異があり、細胞毒性が低い(図16)DT52E148Kに関するこの結果は、前記、CRM197においてはCRM197がもつHB−EGF増殖活性阻害作用に加えて、CRM197が持つ微弱な細胞毒性が腫瘍の増殖の抑制に効果を有しているという推定を裏付けるものである。
一群のヌードマウス(10個体づつ)について、SKOV−3細胞又はSKOV−H細胞をそれぞれ接種し、接種から1週間後及び2週間後に、タキソール(Taxol)40mg/kg/weekを腹腔内に投与した。結果を図27に示す。タキソールは、SKOV−3細胞には効果があるが、SKOV−H細胞には効果が少ないことが分かった。SKOV−H細胞は、HB−EGFを多く発現する性質があることから、タキソールは本発明の制癌剤とは作用機序が異なることが分かった。したがって、本発明の制癌剤は、タキソールがあまり有効でない症例にも効果があることが示唆される。
Claims (9)
- ジフテリア毒素の変異体であってHB−EGFとEGFレセプターとの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質を、有効成分として含むことを特徴とする制癌剤。
- タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列における少なくともレセプター結合ドメインを変異なしに含むことを特徴とする請求項1に記載の制癌剤。
- タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質である請求項1及び2のいずれかに記載の制癌剤。
- タンパク質が、CRM197及びDT52E148Kのいずれかである請求項3に記載の制癌剤。
- 前記ジフテリア毒素の変異体に残存するジフテリア毒素の毒性を中和する活性を有し、かつ、前記ジフテリア毒素の変異体の細胞への結合を抑制しない前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体をさらに含み、
前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体と、ジフテリア毒素の変異体とが複合体を形成する請求項1から4のいずれかに記載の制癌剤。 - 前記ジフテリア毒素の変異体のモノクローナル抗体が、#2 anti−DT mAbである請求項5に記載の制癌剤。
- 以下の(a)、(b)及び(c)のいずれかのタンパク質であって、HB−EGFのEGFレセプターへの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質を有効成分として含むことを特徴とする制癌剤。
(a) ジフテリア毒素の一部からなり、該ジフテリア毒素のレセプター結合ドメインを少なくとも含むタンパク質
(b) (a)のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c) (a)及び(b)のいずれかのタンパク質を含む複合タンパク質 - (a)、(b)及び(c)のいずれかのタンパク質が、ジフテリア毒素の触媒作用ドメインを有しない請求項7に記載の制癌剤。
- (c)のタンパク質が、GST−DTである請求項8に記載の制癌剤。
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