JP5769510B2 - 制癌剤 - Google Patents
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卵巣癌の治療法としては、現在タキソールを中心とした化学療法しか手立てが無いが、これらの化学療法も一時的効果はあるものの、後には再発を許すことが多く、新たな治療法の開発が求められている。
フラグメントAが細胞質内に入る機構は、フラグメントBにあるレセプター結合ドメインが細胞表面のリセプターであるproHB−EGFに結合することにより、ジフテリア毒素はエンドサイトーシスによりエンドソームに取り込まれ、エンドソーム内で膜貫通ドメインがエンドソーム膜に挿入され、最終的にはフラグメントAがエンドソーム膜を通過して細胞質中に遊離され、そこでEF−2を失活させる(例えば、非特許文献6参照)。
ジフテリア毒素が毒性を発揮するためには、フラグメントAとフラグメントBの両方が必要である。したがってどちらのフラグメントに変異があっても、ジフテリア毒素の毒性を有さないタンパク質ができる。
ジフテリア毒素には触媒作用ドメインに変異を有する無毒化された変異体、例えばCRM197が分離されている。
すなわち、本発明の前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> パクリタキセル及びパクリタキセル誘導体の少なくともいずれかと、ジフテリア毒素の変異体であってHB−EGFとEGFレセプターとの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質とを、有効成分として含むことを特徴とする制癌剤である。
<2> タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列における少なくともレセプター結合ドメインを変異なしに含むことを特徴とする請求項1に記載の制癌剤である。
<3> タンパク質が、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質である請求項1及び2のいずれかに記載の制癌剤である。
<4> タンパク質が、CRM197及びDT52E148Kのいずれかである請求項3に記載の制癌剤である。
<5> パクリタキセル及びパクリタキセル誘導体の少なくともいずれかと、ジフテリア毒素の変異体であってHB−EGFとEGFレセプターとの結合を阻害する活性を有しかつジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質とを、併用することを特徴とする癌治療方法である。
前記ジフテリア毒素の変異体とは、ジフテリア毒素のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を表し、例えば1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質である。また、ジフテリア毒素の25個のシグナル配列は付いていても付いていなくてもよく、いずれの配列も本発明の範囲に含まれる。
また、パクリタキセル誘導体としては、ドセタキセル(Docetaxel(タキソテール Taxotale)等が挙げられる。
前記タンパク質は、ジフテリア毒素の一部若しくはその変異体又はそれらのタンパク質を含む複合タンパク質であって、レセプター結合ドメインを保持するものをいう。
次に、種々の濃度のジフテリア毒素を加えて、CO2インキュベーターで2〜5時間培養する。3.7MBq/mlの[3H]ロイシンを10μl加えて更に1時間培養する。
培養液を捨て、ウェルをPBSで1度洗った後、細胞を0.5mlの0.1M NaOHで溶解し、その溶液をチューブに集める。0.5mlの0.1N NaOHで再度ウェルを洗浄し、その溶液を同じチューブに集める。
これに20%のトリクロロ酢酸溶液0.5mlを加えて、Vortexミキサーでよく攪拌する。生じた沈殿をグラスフィルターでトラップし、フィルターをさらに5%トリクロロ酢酸溶液で洗浄する。
最後にフィルターを100%エタノールで洗浄し、乾燥させる。
フィルターをトルエン−PPOのシンチレーターにつけて、フィルターにトラップされた放射能を液体シンチレーションカウンターで測定する。ジフテリア毒素を加えなかった試料の値を測定し、これを100%として毒素を加えた時の値を%で求める。
ジフテリア毒素の毒性を実質的に有さないタンパク質とは、ジフテリア毒素の毒性を無毒化または極めて低レベルに弱毒化されたタンパク質をいい、本発明においては、ジフテリア毒素の毒性を1ng/mlの濃度で上記Vero細胞の系で測定した場合、ジフテリア毒素を加えなかった試料または触媒作用ドメインを有しないジフテリア毒素変異体を加えた試料の値と有意差がないものをいう。前記有意差は、t検定において有意水準5%として有意差が無いことが好ましく、有意水準1%として有意差が無いことがより好ましく、有意水準0.1%として有意差が無いことがさらに好ましい。
変異させた触媒作用ドメインの機能は、ADPリボシル化活性を直接測定することで、正確に調べることができる。ADPリボシル化活性は、分離精製したEF−2に、フラグメントAあるいはADPリボシル化活性を測定したい蛋白質(変異させた触媒作用ドメイン等)とラジオアイソトープで標識したNADを加えて、試験管内でEF−2をADPリボシル化させ、EF−2に取り込まれた放射能を測定することで、直接測定することができる。
その反応液に同容量の10%−トリクロロ酢酸溶液を加えて蛋白質を沈殿させ、生じた沈殿をグラスフィルターでトラップし、フィルターをさらに5%トリクロロ酢酸溶液で洗浄する。
フィルターをトルエン−PPOのシンチレーターにつけて、フィルターにトラップされた放射能を液体シンチレーションカウンターで測定する。
測定された放射能がADPリボシル化活性の程度を示しており、変異を加えないフラグメントAを用いたときの放射能を基準に、変異を加えた蛋白質のADPリボシル化活性の相対活性を求めることができる。
ここで、CRM197については、ジフテリア毒素の毒性を有さない、即ちADPリボシル化活性を有さないとの報告が既になされている(T. Uchida and A.M. Pappenheimer Jr. (1972) Science 175, 901-903)。また、148Eに変異を有する148K変異体が極めて弱い活性しか持たないことは知られており(J.T.Barbieri and R.J. Collier (1987) Infect. Immun. 55, 1647-1651)、52E変異体であるCRM197にさらに148Kの変異を入れたダブルミュータントであるDT52E148Kは、さらに安全な変異体として好ましい。また、これらの変異体の毒性は、前記タンパク質合成阻害実験によってもジフテリア毒素を加えなかった試料の値と有意差がないことが確かめられた。なお、GST−DTがジフテリア毒素の毒性を有しないことは、触媒作用ドメインを完全に欠如することから明らかである。
MSRKLFASILIGALLGIGAPPSAHAGADDVVDSSKSFVMENFSSYHGTKPGYVDSIQKGIQKPKSGTQGNYDDDWKEFYSTDNKYDAAGYSVDNENPLSGKAGGVVKVTYPGLTKVLALKVDNAETIKKELGLSLTEPLMEQVGTEEFIKRFGDGASRVVLSLPFAEGSSSVEYINNWEQAKALSVELEINFETRGKRGQDAMYEYMAQACAGNRVRRSVGSSLSCINLDWDVIRDKTKTKIESLKEHGPIKNKMSESPNKTVSEEKAKQYLEEFHQTALEHPELSELKTVTGTNPVFAGANYAAWAVNVAQVIDSETADNLEKTTAALSILPGIGSVMGIADGAVHHNTEEIVAQSIALSSLMVAQAIPLVGELVDIGFAAYNFVESIINLFQVVHNSYNRPAYSPGHKTQPFLHDGYAVSWNTVEDSIIRTGFQGESGHDIKITAENTPLPIAGVLLPTIPGKLDVNKSKTHISVNGRKIRMRCRAIDGDVTFCRPKSPVYVGNGVHANLHVAFHRSSSEKIHSNEISSDSIGVLGYQKTVDHTKVNSKLSLFFEIKS
(配列番号4)
GTGAGCAGAAAACTGTTTGCGTCAATCTTAATAGGGGCGCTACTGGGGATAGGGGCCCCA
CCTTCAGCCCATGCAGGCGCTGATGATGTTGTTGATTCTTCTAAATCTTTTGTGATGGAA
AACTTTTCTTCGTACCACGGGACTAAACCTGGTTATGTAGATTCCATTCAAAAAGGTATA
CAAAAGCCAAAATCTGGTACACAAGGAAATTATGACGATGATTGGAAAGAGTTTTATAGT
ACCGACAATAAATACGACGCTGCGGGATACTCTGTAGATAATGAAAACCCGCTCTCTGGA
AAAGCTGGAGGCGTGGTCAAAGTGACGTATCCAGGACTGACGAAGGTTCTCGCACTAAAA
GTGGATAATGCCGAAACTATTAAGAAAGAGTTAGGTTTAAGTCTCACTGAACCGTTGATG
GAGCAAGTCGGAACGGAAGAGTTTATCAAAAGGTTCGGTGATGGTGCTTCGCGTGTAGTG
CTCAGCCTTCCCTTCGCTGAGGGGAGTTCTAGCGTTGAATATATTAATAACTGGGAACAG
GCGAAAGCGTTAAGCGTAGAACTTGAGATTAATTTTGAAACCCGTGGAAAACGTGGCCAA
GATGCGATGTATGAGTATATGGCTCAAGCCTGTGCAGGAAATCGTGTCAGGCGATCAGTA
GGTAGCTCATTGTCATGCATAAATCTTGATTGGGATGTCATAAGGGATAAAACTAAGACA
AAGATAGAGTCTTTGAAAGAGCATGGCCCTATCAAAAATAAAATGAGCGAAAGTCCCAAT
AAAACAGTATCTGAGGAAAAAGCTAAACAATACCTAGAAGAATTTCATCAAACGGCATTA
GAGCATCCTGAATTGTCAGAACTTAAAACCGTTACTGGGACCAATCCTGTATTCGCTGGG
GCTAACTATGCGGCGTGGGCAGTAAACGTTGCGCAAGTTATCGATAGCGAAACAGCTGAT
AATTTGGAAAAGACAACTGCTGCTCTTTCGATACTTCCTGGTATCGGTAGCGTAATGGGC
ATTGCAGACGGTGCCGTTCACCACAATACAGAAGAGATAGTGGCACAATCAATAGCTTTA
TCGTCTTTAATGGTTGCTCAAGCTATTCCATTGGTAGGAGAGCTAGTTGATATTGGTTTC
GCTGCATATAATTTTGTAGAGAGTATTATCAATTTATTTCAAGTAGTTCATAATTCGTAT
AATCGTCCCGCGTATTCTCCGGGGCATAAAACGCAACCATTTCTTCATGACGGGTATGCT
GTCAGTTGGAACACTGTTGAAGATTCGATAATCCGAACTGGTTTTCAAGGGGAGAGTGGG
CACGACATAAAAATTACTGCTGAAAATACCCCGCTTCCAATCGCGGGTGTCCTACTACCG
ACTATTCCTGGAAAGCTGGACGTTAATAAGTCCAAGACTCATATTTCCGTAAATGGTCGG
AAAATAAGGATGCGTTGCAGAGCTATAGACGGTGATGTAACTTTTTGTCGCCCTAAATCT
CCTGTTTATGTTGGTAATGGTGTGCATGCGAATCTTCACGTGGCATTTCACAGAAGCAGC
TCGGAGAAAATTCATTCTAATGAAATTTCGTCGGATTCCATAGGCGTTCTTGGGTACCAG
AAAACAGTAGATCACACCAAGGTTAATTCTAAGCTATCGCTATTTTTTGAAATCAAAAGC
TGA
また、触媒作用ドメインに変異を有する変異体は、以下のようにして作成することができる。プラスミッドに組み込まれたCRM197をコードする遺伝子(Pβ197)を鋳型にして、変異を持たせたい部位をプライマーとして、PCR法にてCRM197領域を合成する。プライマーは、変異を持つように点突然変異を導入したものを合成し、使用する。合成したDNAを、大腸菌用の遺伝子発現ベクター(pET−22b)に組み込み、大腸菌に形質導入を行い、変異体を大腸菌で発現させて、作成することができる。
前記制癌剤は、経口的又は非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与、経気道投与など)に投与することができる。卵巣癌等腹腔内に播種する悪性腫瘍に適用する場合には、腹腔内に注射により投与することが、癌細胞に直接運搬される点で好ましい。
経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを挙げることができるが、剤形はこれらに限定されることはない。
前記本発明の制癌剤に含まれる有効成分の量は、制癌剤の製剤形態または投与経路によって異なり、一概に規定することはできないが、通常、最終製剤中に約0.0001%から70%の範囲から適宜選択して決定することができる。
本発明の制癌剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、成人一日あたりの有効成分の量として、有効成分のひとつであるジフテリア毒素の変異体タンパク質としては、体重1kgあたり1μgから30mg程度の範囲であることが好ましい。また、パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体としては、体重1kgあたり0.2〜4mg程度の範囲であることが好ましい。上記投与量の医薬は一日一回に投与してもよいし、数回に分けて投与してもよい。また、数日から数週間に1度又は単発的に投与してもよい。また、ステロイド等、副作用を抑える成分とともに投与することもできる。ジフテリア毒素の変異体タンパク質とパクリタキセル又はその誘導体とは、同時に投与してもよいし、時間差をつけて投与しても良い。
(CRM197タンパク質の生成)
C7(β197)の溶原菌のストック(C7(β197)ファージを溶原化したジフテリア菌C7(beta197)M1としてATCC(American Type Culture Collection)Bacteria collection(No.39255)から入手可能)を培養し、対数増殖期の後期の菌液を、2%の濾過したマルトースを加えたC−Y培地に、最初のOD590が約0.05になるように加える。このODは、約5×107菌体/mlにあたる。フラスコは毎分200回転のロータリーシェーカーに載せ、35℃で16時間から17時間培養する。ODが10から15になった時点で、培養を終了する。
培養液は、10000gで15分間遠心する。培養上清に硫安を65%の飽和状態になるように加える。氷室で24から48時間放置する。沈殿物を集めて0.02MのpH7.2のトリス−塩酸バッファーに溶かし、同液にて透析する。
遠心して、不溶物を除き、DE52カラムに添加し、0.02MのpH7.2のトリス−塩酸バッファー中のNaClの濃度勾配により溶出する。CRM197は、NaClが0.08Mのところで溶出する。溶出した液を硫安で65%飽和状態にする。沈殿物を0.01Mのトリス−塩酸バッファーに溶かし、再び平衡化する。そして、DE52カラムに再び掛け、再度硫安沈殿する。続いて、SephacrylS−200のカラムにかけ、HEPES−NaOH、pH7.2、0.15MNaClの溶液で溶出する。溶出されたCRM197をDeToxiゲルにアプライして、CRM197試料に含まれるLPS類似物質を取り除き、実験に使用する。CRM197の280nmにおける吸収は、1ODが約0.67mg/mlに相当する。
卵巣癌細胞株SKOV−3は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手した。
SK−HB−1細胞は、SKOV3細胞に、pRC/CMVベクター(Invitrogen社)に組み込まれたヒトHB−EGFcDNAをトランスフェクションした。トランスフェクションはLipofectAMINE試薬(Invitrogen社)を用いて、製品に添付のマニュアルに従って行った。トランスフェクションされた細胞は、400ug/ml G418を含む培養液(RPMI1640−10FCS)で培養し、生き残った細胞を再度低密度でペトリ皿にまき直し、成長したコロニーを拾って、SK−HB−1細胞を得た。この細胞がHB−EGFを高発現していることは、125Iで標識したジフテリア毒素を細胞に加えて、細胞に結合したジフテリア毒素の放射活性をSKOV3細胞と比較することで、確認した。
(ヌードマウスを用いた造腫瘍性実験)
RPMI+10%FBSで培養した卵巣癌細胞株SKOV−3(ATCCから入手可)及びSK−HB1を、それぞれ、EDTA/PBS(−)で洗浄し、0.25%トリプシンで回収した。RPMI+10%FBSで2回、RPMI(血清なし)で2回洗浄し、5×106細胞ずつRPMI(血清あり)250μLへ添加し、これをヌードマウスの背部に皮下注射により接種した。
次に、他の群のヌードマウスについては、SKOV−3又はSK−HB1細胞接種7日後よりCRM197及びタキソール(ブリストル製薬株式会社製)を併用して投与を開始し、腹腔内に図9及び図10に表す量で、週1回、4週に渡って投与した。CRM197及びタキソールを投与しないヌードマウスを対照実験とした。投与時期と腫瘍体積の関係を図9から図10に示す。
これらの結果から、タキソールとCRM197とを併用することにより、腫瘍の成長の抑制効果が相乗的に高くなることが分かった。
Claims (2)
- パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体と、CRM197とを有効成分として含み、前記パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体の1日に成人に投与される量が体重1kgあたり0.2〜4mgの範囲であり、CRM197の1日に成人に投与される量が体重1kgあたり1μg〜5mgであり、対象が、HB-EGFを発現しているヒトの悪性腫瘍であることを特徴とする制癌剤。
- パクリタキセル誘導体がドセタキセルである、請求項1に記載の制癌剤。
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