JP2004149645A - ポリシルセスキオキサン薄膜 - Google Patents

ポリシルセスキオキサン薄膜 Download PDF

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Abstract

【課題】膜厚が800nm以下で、且つ引張強度が優れ、また柔軟性および耐クラック性が優れているポリシルセスキオキサン薄膜を提供する。
【解決手段】ポリシルセスキオキサン薄膜は、2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解することにより得られた2種以上のシラントリオール類を用いて形成され、且つ800nm以下の膜厚を有することを特徴とする。2種以上のトリハロシラン類は、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの組み合わせが好ましく、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの割合は、前者/後者(モル比)=30/70〜90/10であってもよい。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ・オプテックスデバイス用途などの光学用途で実用性の高い機能性薄膜として好適に使用されるポリシルセスキオキサン薄膜に関する。
【0002】
【従来技術】
ポリシルセスキオキサン(「PSQ」と称する場合がある)は、ケイ素原子数に対する酸素原子数の比が1.5であるようなシリコーン系レジンの総称であり、例えば、下記式(1)で示すことができる。このようなPSQは、耐熱性、高硬度、耐摩耗性、電気絶縁性などに優れた材料として注目されており、耐熱性絶縁材料、耐熱性グリース、滑材、しゅう動材、剥離材、耐炎材などに、単独ないしは他のオルガノシロキサンやフッ素系材料等と併用して使用されている。
【化1】
Figure 2004149645
(式(1)において、R、Rは、同一又は異なって、有機基を示す。nは正の整数である。)
【0003】
なお、RやRは、通常、炭化水素基であり、酸素原子を有していない。
【0004】
このようなPSQの製造方法は、種々検討されており、例えば、出発物質としてフェニルトリクロロシランを用いる場合、加水分解物の反応性が比較的穏やかであるので、フェニルトリクロロシランの加水分解物を高沸点溶媒(ジフェニルエーテルなど)中で水酸化カリウム(KOH)を触媒としてアルカリ平衡化により重縮合を行って、可溶性のポリフェニルシルセスキオキサン(PPSQ)を得る方法(例えば、非特許文献1参照。)が提案されている。
【0005】
一方、出発物質としてメチルトリクロロシランを用いる場合、加水分解物の反応性が非常に高いので、トルエン等の有機溶媒中で、加水分解したものは、すぐに不溶性のゲルとなってしまい、可溶性のポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)を得ることは困難であるが、水に不溶性の溶媒とアセトンとを用いて、メチルトリクロロシランを加水分解する方法(例えば、特許文献1、非特許文献2参照。)が提案されている。
【0006】
また、出発物質としてのフェニルトリクロロシランやメチルトリクロロシランをエチレンジアミン等のジアミンと反応させた後に加水分解して、ジアミンをテンプレートとしてラダー型ポリマーを得る方法(例えば、非特許文献3参照。)が提案されている。
【0007】
さらに、フェニルトリクロロシランのトルエン溶液を0℃の水に滴下した後、水相を0℃で炭酸水素ナトリウム(NaHCO)でpHを酸性(pH=3〜4)に調整することにより、結晶性の沈殿状態の加水分解物を得て、これを水酸化カリウム(KOH)を触媒としてトルエン中で環流して高い結晶性のPPSQを得る方法(例えば、非特許文献4参照。)も提案されている。
【0008】
さらにまた、特定の分子量範囲の硬化性のPMSQの製造方法として、含酸素有機溶媒ないしは含酸素有機溶媒とこの有機溶媒に対して50容積%以下の酸化水素系溶媒とを含む混合溶媒にメチルトリハロシランを溶解させたものを単独ないしは水と一緒に、水中に滴下して、水と含酸素有機溶媒ないしは混合溶媒の2層系中で加水分解及び重縮合を行う方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0009】
これらのPSQの製造方法では、PSQの形態や大きさ等を考慮しておらず、例えば、メチルトリハロシランを用いて、水と含酸素有機溶媒ないしは混合溶媒の2相系中で加水分解及び重縮合を行う前記PMSQの製造方法では、独立したフィルムとして使用するのに十分な柔軟性と耐クラック性、引張強度を与える材料を得ることを目的としており、含酸素有機溶媒を含む有機層中に形成されたPMSQを乾燥させ白色の固体として生成物を得て、それを用いてフィルム化している。
【0010】
PMSQの微粒子化に関しては、例えば、メチルトリアルコキシシランをアルカリ土類金属やアルカリ金属を含む水溶液中で加水分解・重縮合させて微粒子を得る方法(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。また、エチレンオキサイド等の親水性のポリオキシアルキレン鎖を有する3官能の加水分解性シランを加水分解・縮合させ水中に懸濁させることにより、例えば、最大粒子径が1.3μm、最小粒子径が0.4μm、平均粒子径が0.8μm程度の球状微粒子を得る方法(例えば、特許文献4参照。)も開示されている。
【0011】
一方、分子材料をサブマイクロオーダー(例えば、0.1μmのオーダー)やナノオーダー(例えば、1nmのオーダー〜10nmのオーダー)の大きさに微粒子化して、高分子ミクロスフェアやゲル微粒子として微粒子特有のサイズ効果や大きな比表面積を利用して、触媒担持体や薬剤のキャリアー、感温性の可逆性ゲル等に使用したり、均一な薄膜形成用の材料やスペーサー等に微粒子を応用することが盛んに行われている。従って、PSQについても、サブマイクロオーダーやナノオーダーの微粒子が精度よく製造できれば、PSQが本来的に有している優れた耐熱性、高硬度、耐摩耗性、電気絶縁性の活用の幅が広げられる可能性がある。特に、平均粒子径が可視光の最大波長領域に相当する800nm以下であれば、光学的に透明性が確保でき、光学機能材料の素材として使用することが可能である。また、水中にサブマイクロオーダーやナノオーダーの微粒子状で分散したPSQを製造する際の出発物質として、安価なトリハロシラン類を用いることができれば、コスト面、取り扱い性、環境に対する負荷や薄膜化の手段などで、有機溶剤系に比べて大きな優位性や実用性が期待される。
【0012】
また、PSQの薄膜化に関しては、例えば、フェニルトリエトキシシランを出発物質とするPSQ微粒子のゾル中に、酸化インジウム錫(「ITO」と称する場合がある)層が設置されたガラス基板を浸漬し、DC電源(直流電源)で通電し、電気化学的反応により、約8μm程度の比較的厚みの厚いPPSQ膜を形成し、さらに、基板上に形成された膜を200〜400℃の熱処理を行うことにより表面のクラックや空孔を無くし、3μm以下の透明性に優れた膜を得る方法(例えば、非特許文献5参照。)が提案されている。
【0013】
さらにまた、PSQの薄膜において、・独立したフィルムとして使用するに充分なレベルの柔軟性、・硬化物の薄膜によらず実用上問題となるレベルのクラックを有しない、・引っ張り強度等の物性が優れていることなどを目的としたPSQ薄膜を製造する方法が提案されており、例えば、有機層中に形成されたPMSQを乾燥させ白色の固体として生成物を得て、該白色固体のPMSQを用いてフィルム化する製造方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0014】
【特許文献1】
カナダ国特許第868996号明細書
【特許文献2】
特開2000−159891号公報
【特許文献3】
ベルギー国特許第572412号明細書
【特許文献4】
特開平11−255888号公報
【非特許文献1】
J.F.Brown,Jr.著,「J.Am.Chem.Soc.」,(米国),ACS publications,1960年,82巻,p.6194
【非特許文献2】
伊藤 真樹著,「高分子」,社団法人 高分子学会,1998年,47巻,p.899
【非特許文献3】
R.Zhang著,「Chinese J.Polym.Sci.」,(中国),Chinese Chemical Society,1989年,7巻,p.183
【非特許文献4】
E.C.Lee,Y.Kimura著,「Polym.J.」,社団法人 高分子学会,1998年,30巻,p.234
【非特許文献5】
Tsutomu Minami著,「J.Am.Ceram.Soc.」,(米国),1998年,81巻,p.2501
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
このようなPSQやPSQ微粒子などの製造方法では、得られるPSQを用いて作製される薄膜や微粒子は、十分な柔軟性や耐クラック性、さらには優れた引張強度を有することが実用上必要であり、従来、これらの特性を考慮すべき事項として挙げられている。このように、ポリシルセスキオキサンの薄膜(PSQ薄膜)として、柔軟性、耐クラック性および引張強度が優れているものは、マイクロ・オプテックスデバイス用途等の光学用途などで、実用性の高い機能性薄膜として有用である。
【0016】
なお、PSQは、SiOに比べて、そのRSiO3/2中の橋架け酸素原子の量が、SiO中の橋架け酸素原子の量よりも少ないので、本来的に、SiOよりも柔軟性に富んだ構造と、低い軟化温度とを有している。そのため、PSQの実用性を高めるためには、十分に高い分子量を有するように調製することが必要である。例えば、出発物質としてトリハロシランを用いる場合は、PSQが高分子量化されるように、トリハロシランの加水分解工程を制御することが重要である。
【0017】
本発明の目的は、膜厚が800nm以下で、且つ引張強度が優れているポリシルセスキオキサン薄膜を提供することにある。
本発明の他の目的は、さらに、柔軟性および耐クラック性が優れているポリシルセスキオキサン薄膜を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、特に光学用途で実用性の高い機能性薄膜として好適に使用されるポリシルセスキオキサン薄膜を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質として2種類以上のトリハロシラン類を用いるとともに、該2種以上のトリハロシラン類を有機溶剤に溶解した溶液を水中に滴下して水相に加水分解された2種以上のシラントリオール類を用いてポリシルセスキオキサンの膜を形成すると、極めて薄い薄膜を得ることができ、しかも柔軟性、耐クラック性及び引張強度が優れ、実用性が高いポリシルセスキオキサン薄膜が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明は、2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解することにより得られた2種以上のシラントリオール類を用いて形成され、且つ800nm以下の膜厚を有することを特徴とするポリシルセスキオキサン薄膜である。
【0020】
前記2種以上のトリハロシラン類としては、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの組み合わせを好適に用いることができ、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの割合としては、前者/後者(モル比)=30/70〜90/10が好ましい。
【0021】
また、ポリシルセスキオキサン薄膜としては、加水分解物のシラントリオール類を含む水溶液を用いて乳化重縮合して予め得られた、平均粒子径が800nm以下の球状のポリシルセスキオキサン微粒子を用いて形成されていてもよく、また加水分解物のシラントリオール類、または該シラントリオール類を重縮合により球状のポリシルセスキオキサン微粒子化したものを用いて、基板を浸漬する方法、または基板を電極として印加電圧を加える方法により、基板上に形成されていてもよい。200℃〜500℃の熱処理が行われていることが好ましい。さらにまた、基板上に形成された後、剥離処理により、基板上から剥離されていることが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のポリシルセスキオキサン薄膜では、2種以上のシラントリオール類を用いていることが重要であり、該2種以上のシラントリオール類は、2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解することにより得られる。
【0023】
このように、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質としてトリハロシラン類を用いているので、製造する際の取り扱い性および環境への負荷低減性が優れている。しかも、トリハロシラン類として2種以上を用いているとともに、該2種以上のトリハロシラン類の加水分解物である2種以上のシラントリオール類を用いているので、膜厚が800nm以下(例えば10nm〜800nm)のポリシルセスキオキサン薄膜を得ることができる。これは、前記2種以上のシラントリオール類を用いているので、800nm以下という極めて薄い厚さであっても、優れた精度でポリシルセスキオキサン薄膜を作製することができる。
【0024】
また、ポリシルセスキオキサン薄膜は、引っ張り強度が優れている。これは、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成するポリシルセスキオキサンは、優れた引っ張り強度を達成するに十分な高分子量及び/又は高架橋密度を有しているためであると思われる。このように、高分子量化されたポリシルセスキオキサンによる薄膜であるので、例えば、その表面を木綿布等により擦過しても破壊されず、優れた耐摩擦性が発揮される。
【0025】
さらにまた、柔軟性や耐クラック性も優れている。もちろん、耐熱性、耐摩耗性、電気絶縁性などの特性も良好である。
【0026】
なお、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質として、2種以上のトリハロシラン類を用いずに、単独のトリハロシランを用いる場合には種々の問題が生じる。例えば、トリハロシラン類としてフェニルトリクロロシランを単独で用いる場合には、乳化重縮合自体は可能であるが、反応温度を90℃以上に設定しても十分に重縮合が進行せず、得られるポリフェニルシルセスキオキサンの数平均分子量が数千程度と低く、そのため強度(引っ張り強度)や耐クラック性などが低く、実用面で限定された材料としてしか利用できなくなる。一方、メチルトリクロロシランを単独で用いた場合は、加水分解の段階で重縮合反応が起こり、乳化重縮合を円滑に進行させるためには厳密な条件設定が必要になり、製造が困難になる。しかしながら、本発明のように、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質として、2種以上のトリハロシラン類(例えば、フェニルトリクロロシランとメチルトリクロロシランとの組み合わせなど)を用いると、上記のような問題が低減又は解消される。
【0027】
(トリハロシラン類)
トリハロシラン類としては、特に制限されないが、下記式(2)で示される炭化水素基置換トリハロシラン類を好適に用いることができる。
R−Si−X (2)
(式(2)において、Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0028】
前記式(2)において、Xのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、塩素原子が特に好ましい。なお、ケイ素原子に結合している3つのXにおけるハロゲン原子は、全部又は一部が同一のハロゲン原子であってもよく、全部が異なるハロゲン原子であってもよい。
【0029】
Rの炭化水素基としては、特に制限されず、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基などを用いることができるが、アルキル基が好適である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などのアルキル基が挙げられる。
【0030】
脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基が好適であり、該シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0031】
また、芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などのアリール基を好適に用いることができる。
【0032】
炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が好適である。また、炭化水素基は、トリハロシラン類の溶解性や加水分解性、シラントリオール類の乳化重縮合性、ポリシルセスキオキサン微粒子の物性などを損なわない範囲で、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、他の炭化水素基などを用いることができる。
【0033】
具体的には、前記式(2)で表されるトリハロシラン類としては、例えば、脂肪族炭化水素基置換トリクロロシラン(例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、イソプロピルトリクロロシラン、n−ブチルトリクロロシラン、イソブチルトリクロロシラン、s−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルトリクロロシラン等のアルキルトリクロロシランなど)、脂環式炭化水素基置換トリクロロシラン(例えば、シクロヘキシルトリクロロシラン等のシクロアルキルトリクロロシランなど)、芳香族炭化水素基置換トリクロロシラン(例えば、フェニルトリクロロシラン、ナフチルトリクロロシラン等のアリールトリクロロシランなど)などの炭化水素基置換トリクロロシランや、これらの炭化水素基置換トリクロロシランに対応する炭化水素基置換トリフルオロシラン、炭化水素基置換トリブロモシランなどが挙げられる。
【0034】
本発明では、トリハロシラン類としては、2種以上を用いている。このような2種以上のトリハロシラン類としては、例えば、前記式(2)で表されるトリハロシラン類の場合、トリハロシラン類に置換している炭化水素基が異なる炭化水素基である組み合わせからなる2種以上のトリハロシラン類が好適である。なお、2種以上のトリハロシラン類において、各トリハロシラン類に置換している炭化水素基としては、炭化水素基のなかでも、メチル基とエチル基などのように同一の炭化水素基の部類(脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基など)に属している組み合わせであってもよいが、メチル基、エチル基等のアルキル基とフェニル基等のアリール基などのように異なる炭化水素基の部類に属している組み合わせであることが好ましい。特に、2種以上のトリハロシラン類としては、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの組み合わせが好ましい。このような好適な組み合わせからなる2種以上のトリハロシラン類において、芳香族炭化水素基置換トリハロシランは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができ、また、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、このような好適な組み合わせからなる2種以上のトリハロシラン類としては、フェニルトリクロロシラン、ナフチルトリクロロシランなどのアリールトリクロロシランから選択された少なくとも一種のトリクロロシランと、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなどのアルキルトリクロロシランから選択された少なくとも一種のトリクロロシランとの組み合わせなどが挙げられる。
【0035】
このような2種以上のトリハロシラン類中の各トリハロシランの割合は特に制限されない。例えば、2種以上のトリハロシラン類として、アリールトリクロロシラン(フェニルトリクロロシラン、ナフチルトリクロロシランなど)と、アルキルトリクロロシラン(メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシランなど)とを組み合わせて用いる場合、アリールトリクロロシランとアルキルトリクロロシランとの割合としては、例えば、アリールトリクロロシラン/アルキルトリクロロシラン(モル比又はモル%比)=30/70〜90/10(好ましくは40/60〜80/20)程度の範囲から選択することが望ましい。アリールトリクロロシランとアルキルトリクロロシランとの割合において、フェニルトリクロロシランなどのアリールトリハロシランの割合が30重量%未満では、メチルトリクロロシランなどのアルキルトリクロロシランの加水分解物の重縮合が非均一又は選択的に生じるようになる場合があり、一方、90重量%を超えると重縮合反応性が低下し、高分子量のポリ(アリール・アルキル)シルセスキオキサン(ポリ(フェニル・メチル)シルセスキオキサンなど)を得ることが困難になる場合がある。
【0036】
なお、2種以上のトリハロシラン類における各トリハロシランのハロゲン原子は、同一のハロゲン原子であることが好ましい。本発明では、2種以上のトリハロシラン類には、ハロゲン原子の違いによる2種以上のトリハロシラン類が含まれない場合がある。これは、ハロゲン原子の違いによる2種以上のトリハロシラン類を加水分解した際には、同一のシラントリオール類が生成する場合があるからである。
【0037】
一方、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質として、トリアルコキシシラン類を用いることも考えられるが、トリアルコキシシラン類はトリハロシラン類に比べて原料コストが高く、また、加水分解反応の速度が遅く、しかも、球状であり且つその粒子径が精度よく制御されたものを得るためには、厳密な反応条件の設定が必要である。従って、前記出発物質としてはトリハロシラン類を用いる方が有利である。特に、シラントリオール類を水中で生成させるには、トリハロシラン類の加水分解による方法が最も優れている。
【0038】
(トリハロシラン類の加水分解)
2種以上のシラントリオール類は、前記のような2種以上のトリハロシラン類を加水分解することにより得られる。該加水分解は、前記のような2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で行うことができる。具体的には、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で有機溶媒に溶解させて各溶液又は混合溶液(「トリハロシラン類含有溶液」と称する場合がある)を調製し、このトリハロシラン類含有溶液を、水への滴下等により、水中で、前記2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解することにより、シラントリオール類を得ることができる。
【0039】
2種以上のトリハロシラン類の加水分解に際しては、それぞれのトリハロシラン類を単独で加水分解反応を行ってもよく、2種以上のトリハロシラン類を共存させて共加水分解反応を行ってもよい。また、2種以上のトリハロシラン類の加水分解に際しては、トリハロシラン類含有溶液を全量を一気に水中に入れてもよいが、滴下により、トリハロシラン類含有溶液を徐々に水中に導入することが好ましい。具体的には、2種以上のトリハロシラン類を加水分解する方法としては、例えば、(1)2種以上のトリハロシラン類を共存下で有機溶媒に溶解させて混合溶液(2種以上トリハロシラン類を含む溶液)を調製し、この混合溶液を、水中に滴下して、該水中で、前記2種以上のトリハロシラン類を共存下で加水分解する方法、(2)2種以上のトリハロシラン類を個別に有機溶媒に溶解させて各溶液(各トリハロシラン類を含む2種以上の溶液)を調製し、この各溶液を、同一の水中に、同時に又は順次に滴下して、該水中で、前記2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解する方法の他、(3)2種以上のトリハロシラン類を個別に有機溶媒に溶解させて各溶液(各トリハロシラン類を含む2種以上の溶液)を調製し、この各溶液を、異なる水中に滴下して、前記2種以上のトリハロシラン類を個別に加水分解する方法(この場合、工程Bに際しては、得られる2種以上の水溶液を混合すればよい)などが挙げられる。これらの中でも(1)や(2)の方法が好ましく、特に(1)の方法が好適である。なお、前記(1)〜(3)の方法は、単独で又は複数組み合わせて利用することができる。
【0040】
出発物質のトリハロシラン類を溶解させる際に用いられる有機溶媒としては、トリハロシラン類を溶解する溶媒であれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などが挙げられる。有機溶媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。有機溶媒としては、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒を好適に用いることができる。なお、有機溶媒は出発物質のトリハロシラン類の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0041】
加水分解する際に用いられる水は、滴下するトリハロシラン類含有溶液中の有機溶媒の全容量(トリハロシラン類を溶解させる際に用いられる有機溶媒の容量に相当する)よりも多いことが重要である。具体的には、加水分解する際に用いられる水の容量は、例えば、滴下するトリハロシラン類含有溶液中の有機溶媒の全容量に対して2〜20倍(好ましくは5〜10倍)の容量であることが望ましい。
【0042】
また、前記水の温度は、常温以下の温度であることが望ましく、好ましくは10℃以下(さらに好ましくは5℃以下、特に0℃程度)の温度に保たれた条件を設定することができる。
【0043】
さらにまた、局部的に加水分解反応が生じることを避けるために、激しく攪拌しながら(例えば、スターラーを高速で回転させて攪拌させながら)、トリハロシラン類含有溶液の滴下を行うことが好ましい。
【0044】
このようなトリハロシラン類の加水分解により、シラントリオール類が生成する。また、トリハロシラン類含有溶液を水に滴下し加水分解した後、得られる反応混合液を静置すると水相と有機相との分離が生じ、シラントリオール類は水相側に多く含まれている。従って、トリハロシラン類の加水分解後は、分液ロートによる分液方法等の公知乃至慣用の分液方法を利用して、水相と有機相とを分離することにより、2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を得ることができる。
【0045】
なお、シラントリオール類の安定化のために、シラントリオール類を含む水溶液に塩基を加えてpHを中性(pH=7程度)にして中和してもよい。このような塩基としては、特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、硫酸水素ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム等)などや、アンモニアなどを用いることができる。塩基は水溶液の状態で用いることができる。塩基としては弱塩基が好ましい。なお、塩基は、無機塩基であってもよく、有機塩基(アミン類など)であってもよい。
【0046】
ポリシルセスキオキサン薄膜は、前記2種以上のトリハロシラン類の加水分解により得られた2種以上のシラントリオール類を用いていれば、その形成方法としては特に制限されず、前記2種以上のシラントリオール類をそのまま用いてもよく、また、前記2種以上のシラントリオール類を乳化重縮合して得られるポリシルセスキオキサン微粒子を用いてもよい。前記乳化重縮合では、前記加水分解物の2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を用いることができる。また、該乳化重縮合により、平均粒子径が800nm以下(例えば、10nm〜800nm)の球状のポリシルセスキオキサン微粒子が調製される。なお、ポリシルセスキオキサン微粒子は、球状の形態を有しており、該球状の形態としては、真球状の形態が好適であるが、略球状の形態であってもよい。前記ポリシルセスキオキサン微粒子は、安定して且つ安価に製造することができる。
【0047】
従って、ポリシルセスキオキサン薄膜は、前記加水分解物の2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を用いて乳化重縮合して予め得られた、平均粒子径が800nm以下の球状のポリシルセスキオキサン微粒子を用いて形成することもできる。より具体的には、ポリシルセスキオキサン微粒子は、下記の工程A〜工程Bを具備する製造方法により作製することができる。
工程A:2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解する工程(加水分解工程)
工程B:前記加水分解工程により得られた2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を用いて乳化重縮合を行う工程(乳化重縮合工程)
【0048】
なお、ポリシルセスキオキサン微粒子を製造する際には、例えば、2種以上のトリハロシラン類の加水分解を各成分毎に独立して行い、この加水分解により得られた2種以上のトリハロシラン類の各加水分解物を加水分解後に混合して、乳化重縮合を行ってもよいが、工程の簡略化や反応の制御の面の観点から、予め混合した2種以上のトリハロシラン類を共加水分解して、その後乳化重縮合を行うことが好ましい。
【0049】
(シラントリオール類の乳化重縮合)
2種以上のシラントリオール類の乳化重縮合は、前述のように、前記加水分解で得られた2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を用いて行うことができる。具体的には、前記加水分解で得られた2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を必要に応じて乳化剤等を加えて乳化して、2種以上のシラントリオール類の乳化重縮合を行うことができる。なお、該ポリシルセスキオキサン微粒子におけるポリシルセスキオキサンは、例えば、前記式(1)で表される。
【0050】
乳化剤は、必要に応じて用いればよいが、通常、用いられる。乳化剤としては、特に制限されず、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであっても用いることができる。乳化剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。具体的には、乳化剤としては、例えば、脂肪族石鹸類、高級アルコール硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジナフチルメタンスルホン酸塩、N−メチルアルキルタウレート、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルザルコシン酸塩、アルキルアミン塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪族エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンアルキル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、エーテルアルキロールアミド、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ブロックコポリマー、脂肪族ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、アルキルペタイン、N−アルキル(アミノエチル)グリシンなどが挙げられる。
【0051】
乳化剤の使用量(添加割合)は、特に制限されないが、水溶媒に対して10重量%以下(例えば、0.1〜10重量%)の範囲から選択することができるが、好ましくは0.5〜3重量%程度である。乳化剤の添加割合が水溶媒に対して0.5重量%未満では、均一なディスパージョンの形成が不安定になる場合があり、一方、3重量%を超えると、乳化剤の溶解限界を超える場合が多く、そのため、不要部が発生して不均一系となり、重縮合が精度よく進行せず、重縮合を行うことが困難になる場合がある。
【0052】
シラントリオール類の乳化重縮合は、2種以上のシラントリオール類を含む水溶液を乳化した後、又は乳化しながら、加熱条件下で一定時間攪拌を続けることにより行うことができる。この乳化重縮合反応に際して、シラントリオール類の割合(濃度)は、特に制限されないが、例えば、溶媒の水に対して0.1〜5重量%(好ましくは0.3〜1重量%)程度の範囲から選択することができる。
【0053】
乳化重縮合に際しての加熱温度としては、常温以上の温度であることが望ましく、好ましくは80〜100℃(特に90〜100℃)の設定可能な最高温度に近い条件に設定することができる。また、乳化重縮合を行う時間は、任意によって設定できるが、6〜24時間程度の時間に設定することができる。
【0054】
このようなシラントリオール類の乳化重縮合反応により、ポリシルセスキオキサン微粒子が生成する。なお、乳化重縮合により形成されるポリシルセスキオキサン微粒子の大きさは、シラントリオール類の濃度が一定の場合、乳化剤に濃度が高くなるほど小さくなる傾向があり、一方、乳化剤の濃度が一定の場合、シラントリオール類の濃度が低くなるほど小さくなる傾向がある。
【0055】
前記ポリシルセスキオキサン微粒子は、通常、水溶液中に分散された(均一又はほぼ均一に分散された)状態で得られる。なお、ポリシルセスキオキサン微粒子を単離する際には、公知乃至慣用の微粒子分離方法を採用することができる。例えば、ポリシルセスキオキサン微粒子を含む水溶液(均一に分散されている水溶液)を凍結解凍凝固することにより、前記微粒子を単離する方法などが挙げられる。
【0056】
ポリシルセスキオキサン微粒子は、球状の微粒子であり、その粒子径(特に、平均粒子径)がサブマイクロオーダー(例えば、0.1μmのオーダー)やナノオーダー(例えば、1nmのオーダー〜10nmのオーダー)であっても高精度に制御されている。ポリシルセスキオキサン微粒子の平均粒子径としては、例えば、800nm以下(例えば、10〜800nm)であることが好ましく、さらに好ましくは500nm以下(例えば、10〜500nm)である。本発明の製造方法を利用すると、ポリシルセスキオキサン微粒子の平均粒子径は300nm以下(例えば、20〜300nm)、特に250nm以下(例えば、30〜250nm)であっても精度よく得られる。このように、ポリシルセスキオキサン微粒子は、その平均粒子径が800nm以下であれば、可視光の最大波長領域に相当する粒子径以下となり、光学的に透明性が確保される。
【0057】
ポリシルセスキオキサン微粒子又は該ポリシルセスキオキサン微粒子を含む水溶液(通常、ポリシルセスキオキサン微粒子が均一に分散されている)中のポリシルセスキオキサン微粒子について、その形状や大きさ(粒子径など)は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる方法や動的光散乱(DLS)を利用する方法などにより、観察・計測を行うことができる。
【0058】
ポリシルセスキオキサン微粒子の分子量(重量平均分子量や数平均分子量など)や架橋密度の測定方法は、特に制限されないが、例えば、トルエン、クロロホルム、アセトン等の汎用の有機溶媒による溶解性で、分子量(重量平均分子量又は数平均分子量)や架橋密度の簡易判定を行うことができる。具体的には、得られたポリシルセスキオキサン微粒子が、汎用の有機溶媒(トルエン、クロロホルム、アセトンなど)に溶解せず、膨潤度が数%以下であるならば、実用的に十分な高分子量および高架橋密度を有していると判定することができる。なお、ポリシルセスキオキサン微粒子が有機溶媒(特に汎用の有機溶媒)に可溶の場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、分子量(重量平均分子量又は数平均分子量)を測定することができる。
【0059】
(ポリシルセスキオキサン薄膜)
ポリシルセスキオキサン薄膜は、前記2種以上のシラントリオール類を用いて形成されており、その膜厚は、800nm以下(例えば、10nm〜800nm)、好ましくは300nm以下(例えば、20nm〜300nm)、さらに好ましくは250nm以下(例えば、30nm〜250nm)程度である。特に本発明では、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚は、100nm以下(例えば、10〜100nm)であっても優れた精度で形成される。なお、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚としては平均の膜厚を採用することができ、該膜厚の平均値の求め方は特に制限されない。
【0060】
しかも、ポリシルセスキオキサン薄膜は、その表面粗さを、例えば、200nm以下(好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に30nm以下)程度とすることができる。このように、ポリシルセスキオキサン薄膜は、その表面粗さが200nm以下という小さな表面粗さで形成することができる。従って、ポリシルセスキオキサン薄膜は優れた精度で形成され、その表面は良好な平滑性を有している。
【0061】
なお、本発明のポリシルセスキオキサン薄膜の表面状態としての具体例又はそのデータを、図1〜図6で示す。図1、図3〜図6は、それぞれ、実施例により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)による写真像の例を示す図である。図2は、図1で示されるポリシルセスキオキサン薄膜の表面粗さのデータを示すグラフである。なお、図1および図3に係るポリシルセスキオキサン薄膜は、浸漬方法を利用して形成されており、図4〜図6に係るポリシルセスキオキサン薄膜は、電気化学的方法を利用して形成されている。また、これらの図(表面のAFMによる写真像、表面粗さのデータのグラフ)で示されるポリシルセスキオキサン薄膜では、ポリシルセスキオキサンを製造する際の出発物質として、フェニルトリクロロシランとメチルトリクロロシランとの2種のトリハロシラン類を用いている。
【0062】
具体的には、図1は下記の実施例1により得られたポリシルセスキオキサン薄膜のAFMによる写真像であり、図3は実施例2により得られたポリシルセスキオキサン薄膜のAFMによる写真像であり、図4は実施例3により得られたポリシルセスキオキサン薄膜のAFMによる写真像であり、図5は実施例4により得られたポリシルセスキオキサン薄膜のAFMによる写真像であり、図6は実施例5により得られたポリシルセスキオキサン薄膜のAFMによる写真像である。
【0063】
図1、図3〜図6で示される写真像より、ポリシルセスキオキサン薄膜の厚みは、すべて、その膜厚が100nm以下であることが確認される。このように、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚を800nm以下とすることができる。
【0064】
なお、図1、図3〜図6では、原子間力顕微鏡(AFM)として、装置名「走査型プローブ顕微鏡 NanoscopeIII」[(株)東陽テクニカ製]を用いている。測定条件としては、下記の通りである。
図1:Digital Instruments NanoScope;Scan size:5.00μm、Scan rate:0.9988Hz、Number of sample:256、Image Data:Height、Data scale:100.0nm
図3:Digital Instruments NanoScope;Scan size:5.00μm、Scan rate:0.9988Hz、Number of sample:256、Image Data:Height、Data scale:100.0nm
図4:Digital Instruments NanoScope;Scan size:5.00μm、Scan rate:0.9988Hz、Number of sample:256、Image Data:Height、Data scale:100.0nm
図5:Digital Instruments NanoScope;Scan size:5.00μm、Scan rate:1.038Hz、Number of sample:256、Image Data:Height、Data scale:100.0nm
図6:Digital Instruments NanoScope;Scan size:5.00μm、Scan rate:1.027Hz、Number of sample:256、Image Data:Height、Data scale:100.0nm
【0065】
また、図2で示されるグラフでは、縦軸は高さ方向(表面に垂直な方向)を示し、該縦軸のフルスケールは30nmである。一方、横軸は表面の幅方向(表面に平行な方向)を示し、該横軸のフルスケールは5μmである。従って、ポリシルセスキオキサン薄膜の表面粗さは30nm以下であることが確認される。このように、ポリシルセスキオキサン薄膜の表面粗さを200nm以下とすることができる。
【0066】
このように、本発明のポリシルセスキオキサン薄膜は、膜厚が800nm以下(10nm〜800nm)という薄さであり、しかも、その表面粗さを200nm以下とすることができる。従って、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚は、可視光の最大波長領域に相当する厚み以下となり、マイクロ・オプテックスデバイス用途などの光学用途で優れた実用性を発揮できる。
【0067】
ポリシルセスキオキサン薄膜は、基板上に形成することができる。もちろん、基板上に形成されていなくてもよく、また、基板上に形成された後は、剥離処理により剥離することができる。
【0068】
(基板)
前記基板としては、特に制限されず、例えば、いわゆるソーダーガラスや、鉛ガラスなどの無機ガラス;各種金属や希土類などの成分をドープした無機ガラス;金属やITO等の金属酸化物をコートした無機ガラス;シリコン・ウエハ、ケイ素酸化物や窒化ケイ素系化合物等のケイ素含有化合物からなる表面層を有するシリコン・ウエハ;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)などの耐熱性高分子フィルム又はシート;ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリノルボルネン(PN)などの透明性光学フィルム又はシートなどが挙げられる。基板は単層、積層体のいずれの構成を有していてもよい。
【0069】
基板の厚さは特に制限されないが、例えば、10μm〜10mm(好ましくは0.1〜1mm)程度の範囲から選択することができる。
【0070】
(薄膜の形成方法)
ポリシルセスキオキサン薄膜の形成方法としては、前述のような2種以上のシラントリオール類を用いて形成する方法であれば特に制限されない。例えば、基板上にポリシルセスキオキサン薄膜を形成する際には、基板を浸漬する方法(浸漬方法)や、基板を電極として印加電圧を加える方法(電気化学的方法)を好適に用いることができる。なお、ポリシルセスキオキサン薄膜の形成に際しては、加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子を含む溶液を用いることができる。ポリシルセスキオキサン薄膜は、1種の形成方法のみを利用して形成されていてもよく、2種以上の形成方法を利用して形成されていてもよい。
【0071】
より具体的には、例えば、基板が、ケイ素含有化合物(例えば、ケイ素酸化物や窒化ケイ素系化合物など)からなる表面層を有するシリコン・ウエハ(例えば、いわゆるSOIウエハなど)である場合、前記基板の表面に形成されたSiOH基と、シラントリオール類とが化学的相互作用を発揮するので、基板(ケイ素含有化合物による表面層を有するシリコン・ウエハ)を、加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子を含む溶液中に浸漬するだけで、基板上にポリシルセスキオキサン薄膜を形成することができる。このように、基板がシラントリオール類又はポリシルセスキオキサン微粒子に対して化学的に活性な基板である場合、基板を浸漬して薄膜を形成する方法(浸漬方法)を好適に利用することができる。
【0072】
前記浸漬方法について、具体例を次に示す。
浸漬方法:加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子を含む中性水溶液中に、所定の温度下で、基板を浸漬させ(特に、垂直に浸漬させ)、所定時間浸漬した後、さらに、基板を蒸留水中に所定時間浸漬して、基板上の塩類などを水洗し、その後、常温にて、所定時間自然乾燥後、デシケーター中にて所定時間減圧乾燥させることにより、基板上にポリシルセスキオキサン薄膜を形成することができる。
【0073】
なお、前記加水分解物等を含む中性水溶液中に基板を浸漬させる際の温度としては、特に制限されず、室温(20〜25℃、特に23℃)が好ましいが、10〜30℃程度の範囲から選択することができる。また、基板を加水分解物等を含む中性水溶液中に浸漬させる際の浸漬時間としては、特に制限されず、通常、1〜120分間程度である。加水分解物等を含む中性水溶液中に基板を浸漬させる際の温度が高すぎると、又は浸漬時間が長すぎると、ポリシルセスキオキサン薄膜の表面の平滑性は高まるが、膜厚が増大する。従って、浸漬方法では、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚や平滑性は、浸漬時の温度や時間などをコントロールすることにより調整できる。
【0074】
一方、基板が他の基板である場合(シラントリオール類又はポリシルセスキオキサン微粒子に対して化学的に不活性な基板である場合)、加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子におけるSi基がマイナス荷電を有していることから、基板を電極として加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子を含む溶液中に浸漬して、さらに印加電圧を加えることにより、基板上にポリシルセスキオキサン薄膜を形成することができる。このように、基板がシラントリオール類又はポリシルセスキオキサン微粒子に対して化学的に不活性な基板である場合、基板を電極として用い印加電圧を加えて電気化学的に薄膜を形成方法(電気化学的方法)が有効である。
【0075】
前記電気化学的方法について、具体例を次に示す。
電気化学的方法:加水分解物のシラントリオール類乃至該シラントリオール類の重縮合によるポリシルセスキオキサン微粒子を含む中性水溶液中に、基板をアノード電極、ステンレス棒をカソード電極として浸漬し(特に、垂直に浸漬し)、DC電源を用いて、所定の印加電圧で所定時間通電した後、さらに、前記基板を蒸留水中に所定時間浸漬して、基板上の塩類などを水洗し、その後、常温にて、所定時間自然乾燥後、デシケーター中にて所定時間減圧乾燥させることにより、基板上にポリシルセスキオキサン薄膜を形成することができる。
【0076】
なお、前記印加電圧としては、通常、0.5v〜20vであり、通電時間としては、通常、1分間〜120分間である。この通電の際の温度としては、特に制限されず、例えば、10〜30℃程度であってもよく、室温(20〜25℃、特に23℃)程度が好ましい。印加電圧が高すぎると、又は通電時間が長すぎると、ポリシルセスキオキサン薄膜の表面の平滑性は高まるが、膜厚が増大する。従って、電気化学的方法では、ポリシルセスキオキサン薄膜の膜厚や平滑性は、印加電圧、通電時間、通電の際の温度などコントロールすることにより調整できる。
【0077】
なお、前記浸漬方法や電気化学的方法では、蒸留水への浸漬時間は、通常、3〜10時間(好ましくは5時間程度)である。また、常温での自然乾燥時間は、通常、10〜48時間(好ましくは24時間程度)である。さらにまた、デシケーター中での減圧乾燥時間は、通常、2〜10時間(好ましくは4時間程度)である。
【0078】
本発明では、ポリシルセスキオキサン薄膜に熱処理を行うことができる。該熱処理により、ポリシルセスキオキサン薄膜の表面の平滑性を向上させて、光散乱性を低減し透明性を向上させることができる。この熱処理は、ポリシルセスキオキサン薄膜が基板上に形成された状態で行ってもよく、独立した単体のポリシルセスキオキサン薄膜の状態で行ってもよい。なお、前記熱処理の温度としては、特に制限されず、ポリシルセスキオキサンの種類や薄膜の厚みなどに応じて適宜選択することができ、例えば、200℃〜500℃(好ましくは300℃〜400℃)程度の範囲から選択することができる。また、該熱処理の時間としては、ポリシルセスキオキサンの種類や薄膜の厚みの他、熱処理の温度などに応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理時の温度が400℃である場合、30秒〜5分(好ましくは1〜3分)程度の範囲から選択することができる。
【0079】
このように、本発明のポリシルセスキオキサン薄膜は、その膜厚が800nm以下であり、しかもその表面粗さも小さく、特に、引っ張り強度が優れており、薄膜の表面を木綿布で擦過しても、容易には剥がれない。また、柔軟性および耐クラック性が優れており、また耐熱性も良好である。もちろん、ポリシルセスキオキサンが本来有している特性(例えば、耐摩耗性、電気絶縁性など)を保持しているとともに、光学的な有用な透明性を発揮できる。従って、ポリシルセスキオキサン薄膜は、その膜厚が可視光の最大波長領域に相当する厚み以下の800nm以下であり、マイクロ・オプテックスデバイス用途などの光学用途で実用性の高い機能性薄膜として好適に使用される。具体的には、反射防止膜、高効率回折光学素子、偏光素子、波長選択フィルターなどの高機能なマイクロ・オプテックス用素子などとして利用することができ、特に、反応性エッチング方法や高速原子ビーム方法などのより高度なマイクロマシニング技術を利用して、可視光の波長よりも、より一層短い長さの格子を形成することにより、より一層高機能なものとすることができる。
【0080】
【発明の効果】
本発明のポリシルセスキオキサン薄膜によれば、膜厚が800nm以下で、且つ引張強度が優れている。さらに、柔軟性および耐クラック性が優れている。もちろん、耐熱性などのポリシルセスキオキサンの本来の優れた特性も保持している。従って、特に光学用途で実用性の高い機能性薄膜として好適に使用可能である。
【0081】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
フェニルトリクロロシラン:4.3gと、メチルトリクロロシラン3.1gとを含むトルエン溶液:100mlを、スターラーにより激しく攪拌され且つ温度が0℃の水:500ml中に滴下して、共加水分解反応を行った。該共加水分解反応終了後、反応液を分液ロートに入れた後静置し、水相とトルエン相とを分離し、水相に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてpHを7にして中和を行った。これにより得られた共加水分解物を含む水溶液は614mlであり、共加水分解物は4.2g(水溶液全量に対して0.68重量%)含まれていた。
前記共加水分解物を含む水溶液150ml(該水溶液中の共加水分解物の濃度は0.68重量%である)中に、基板として表面にケイ素酸化物からなる層(表面層)を有するシリコンウエハー(基板の厚み:約625μm)を、10分間浸漬した。浸漬後取り出して、蒸留水中に5時間浸漬させて水洗し、その後、常温にて24時間放置して乾燥させた後、さらに、デシケータ中で4時間減圧乾燥(6.7×10−2Pa)させて、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様にして共加水分解物を含む水溶液を得た。共加水分解物を含む水溶液(150ml)中に、基板として表面にケイ素酸化物からなる層(表面層)を有するシリコンウエハーを浸漬する時間を、10分間に代えて、1時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0084】
(実施例3)
実施例1と同様にして共加水分解物を含む水溶液を得た。前記共加水分解物を含む水溶液(150ml)中に、基板として表面にケイ素酸化物からなる層(表面層)を有していないシリコンウエハーをアノード電極とし、且つステンレス棒をカソード電極として浸漬し、DC電源(直流電源)を用いて2vの印加電圧を10分間通電した。該通電させた後取り出して、蒸留水中に5時間浸漬させて水洗し、その後、常温にて24時間放置して乾燥させた後、さらに、デシケータ中で4時間減圧乾燥(6.7×10−2Pa)させて、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0085】
(実施例4)
印加電圧を2vに代えて5vとしたこと以外は、実施例3と同様にして、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0086】
(実施例5)
印加電圧を2vに代えて10vとしたこと以外は、実施例3と同様にして、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0087】
(比較例1)
フェニルトリクロロシラン:4.3gを含むトルエン溶液:100mlを、スターラーにより激しく攪拌され且つ温度が0℃の水:500ml中に滴下して、加水分解反応を行った。該加水分解反応終了後、反応液を分液ロートに入れた後静置し、水相とトルエン相とを分離し、水相に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてpHを7にして中和を行った。これにより得られた加水分解物を含む水溶液は560mlであり、加水分解物は3.2g(水溶液全量に対して0.57重量%)含まれていた。
前記加水分解物を含む水溶液150ml中に、基板として表面にケイ素酸化物からなる層(表面層)を有するシリコンウエハーを、20分間浸漬した。浸漬後取り出して、蒸留水中に5時間浸漬させて水洗し、その後、常温にて24時間放置して乾燥させた後、さらにデシケータ中で4時間減圧乾燥(6.7×10−2Pa)させて、シリコンウエハー上に、ポリシルセスキオキサン薄膜を形成した。
【0088】
(比較例2)
メチルトリクロロシラン6.2gを含むトルエン溶液:100mlを、スターラーにより激しく攪拌され且つ温度が0℃の水:500ml中に滴下して、加水分解反応を行おうとしたが、ゲル化が生じ、加水分解反応が進行しなかった。
【0089】
(機械的強度の評価)
実施例1〜5および比較例1により得られたポリシルセスキオキサン薄膜について、以下の簡易摩擦試験を行って、機械的強度を評価したところ、表1に示される結果が得られた。
・簡易摩擦試験:ポリシルセスキオキサン薄膜の表面を、木綿布により一定の力(2.45〜9.8N/cm)で往復させて擦過し、その際に、膜が容易に破壊される場合は「×」とし、膜は容易に破壊されず膜形状が維持される場合は「○」として評価する。
【0090】
(薄膜の厚みおよび表面状態の評価)
実施例1〜5および比較例1により得られたポリシルセスキオキサン薄膜を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、薄膜の厚みおよび表面状態を観察したところ、表1に示される結果が得られた。なお、実施例1〜5により得られたポリシルセスキオキサン薄膜に関するAFMによる写真像を、それぞれ、図1、図3〜図6に示す。なお、実施例1に係るポリシルセスキオキサン薄膜の表面粗さのデータのグラフを図2に示す。
【0091】
【表1】
Figure 2004149645
【0092】
表1および図1〜図6より、実施例1〜5により得られたポリシルセスキオキサン薄膜は、膜厚は800μm以下であり、しかも機械的強度も優れていることが確認された。
【0093】
一方、比較例1に係るポリシルセスキオキサン薄膜は、機械的強度が低く、木綿布による擦過で、容易に膜が破壊されて剥がれている。これは、分子量(例えば、数平均分子量など)が低く、多数のシロキシルグループ(シロキシル基)を有するオリゴマーから膜が構成されていると考えられ、実用的な使用に十分な分子量を有していないことが確認された。
【0094】
また、比較例2では、メチルトリクロロシランの加水分解の段階で縮合反応が起こってしまい、乳化重縮合により球状のしかも均一な粒子径を有するポリメチルシルセスキオキサン粒子が得られないことが確認された。
【0095】
これらの評価結果より、実施例1〜5に係るポリシルセスキオキサン薄膜は、安定的に作製できるとともに、膜厚が10〜800nmである高精度の厚み(すなわち、ナノオーダーからサブマイクロオーダーの大きさの厚みを有する高精度の薄膜)であり、しかも、機械的強度が優れており、実用性が高い薄膜であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡による写真像の例を示す図である。
【図2】図1で示されるポリシルセスキオキサン薄膜の表面粗さのデータを示すグラフである。
【図3】実施例2により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡による写真像の例を示す図である。
【図4】実施例3により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡による写真像の例を示す図である。
【図5】実施例4により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡による写真像の例を示す図である。
【図6】実施例5により得られたポリシルセスキオキサン薄膜の原子間力顕微鏡による写真像の例を示す図である。

Claims (7)

  1. 2種以上のトリハロシラン類が個別に又は共存下で有機溶媒に溶解している各溶液又は混合溶液を用いて、水中で、2種以上のトリハロシラン類を個別に又は共存下で加水分解することにより得られた2種以上のシラントリオール類を用いて形成され、且つ800nm以下の膜厚を有することを特徴とするポリシルセスキオキサン薄膜。
  2. 2種以上のトリハロシラン類が、芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの組み合わせである請求項1記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
  3. 芳香族炭化水素基置換トリハロシランと、脂肪族炭化水素基置換トリハロシランとの割合が、前者/後者(モル比)=30/70〜90/10である請求項2記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
  4. 加水分解物のシラントリオール類を含む水溶液を用いて乳化重縮合して予め得られた、平均粒子径が800nm以下の球状のポリシルセスキオキサン微粒子を用いて形成された請求項1〜3の何れかの項に記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
  5. 加水分解物のシラントリオール類、または該シラントリオール類を重縮合により球状のポリシルセスキオキサン微粒子化したものを用いて、基板を浸漬する方法、または基板を電極として印加電圧を加える方法により、基板上に形成された請求項1〜3の何れかの項に記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
  6. 200℃〜500℃の熱処理が行われている請求項1〜5の何れかの項に記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
  7. 基板上に形成された後、剥離処理により、基板上から剥離されている請求項1〜6の何れかの項に記載のポリシルセスキオキサン薄膜。
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