JP2004148680A - インクジェット記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】いわゆるマルチパス記録方式において、記録動作を一時停止しても記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の減少を防止することができ、しかも記録動作の一時停止の時間に拘わらず濃度むらのない高品位の画像を記録することができるインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッド5を用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して記録ヘッド5を複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、一時停止中に記録ヘッド5の温度を制御し、かつ、一時停止の前に、画像の記録が未完了であった記録領域S1に対しての画像の記録を完成させる。
【選択図】 図7
【解決手段】インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッド5を用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して記録ヘッド5を複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、一時停止中に記録ヘッド5の温度を制御し、かつ、一時停止の前に、画像の記録が未完了であった記録領域S1に対しての画像の記録を完成させる。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、いわゆるマルチパス記録方式のインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等における記録装置として、あるいはコンピューターやワードプロセッサ等を含む複合型電子機器や、ワークステーションなどで処理した情報を出力する機器として用いられる記録装置として、紙、布、プラスチックシート、OHP用シートなどの種々の記録媒体に対して比較的簡潔な構成で記録をすることができるインクジェット方式の記録装置が普及している。この方式は、基本的に非接触記録方式であって記録媒体の種類を問わないことから、この方式の記録装置として、上記のような通常に用いられる記録媒体の他、布、皮革、不織布、さらには金属等を記録媒体として用いる記録装置も提案されている。このようなインクジェット方式の記録装置(インクジェット記録装置)では、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と交差する方向(主走査方向)に記録ヘッドを走査させながら画像を記録する、いわゆるシリアル方式が主流である。このシリアル方式のインクジェット記録装置は、簡潔な構成によって比較的再現性および一様性などに優れた画像等の記録を行なうことができる等の利点を有している。特に、電気熱変換素子が発生する熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ、この気泡の圧力によって吐出口からインクを吐出する、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式は、比較的高密度に吐出口を配列でき、また記録動作に伴って発生する騒音が小さい等の種々の利点を有しているため、近年広く用いられている。
【0003】
ところで、インクジェット記録装置において、例えばコンピュータで処理した情報を出力する場合には、コンピュータの処理能力のために、インクジェット記録装置への入力情報の遅延が発生して、インクジェット記録装置が一時停止する場合がある。また、ユーザーの都合に応じて一時停止が可能なように、一時停止機能が設けられているインクジェット記録装置も多い。
【0004】
また、インクジェット記録装置においては、記録ヘッドのインク吐出状態を良好に保つための回復処理を行うべく、記録動作の一時停止を行う場合がある。記録ヘッドは、例えば、吐出口からのインク吐出に伴ってインクミストを発生したり、あるいは吐出されたインクが記録媒体に着弾したときの衝撃によってスプラッシュを発生することがある。これらのミストやスプラッシュなどは、吐出口が配列された記録ヘッドの吐出口面に付着して、その吐出口を塞ぐなどしてインクの吐出不良を生じさせる要因となる。回復処理は、このような要因によるインクの吐出不良の発生を未然に防止すべく、記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つための処理である。
【0005】
回復処理の1つとしては、ゴム等の弾性材からなるブレードを記録ヘッドの吐出口面に当接させて、それらのブレードと記録ヘッドとを相対移動(通常は、記録ヘッドを移動)させることにより、吐出口の周辺に付着したインクなどを拭き取って除去する、いわゆるワイピングがある。また、他の回復処理としては、画像の記録に寄与しないインクを吐出口から吐出させる、いわゆる予備吐出がある。記録ヘッドの複数の吐出口から、記録データに応じて選択的にインクを吐出して画像を記録する場合に、ある時間インクを吐出しない吐出口が存在することになる。その吐出口近傍のインクは外気に晒されたままとなるために粘度が増大し、その吐出口からインクを吐出するときに、そのインクの吐出量や吐出速度の減少、およびインクの吐出方向の偏向などを招いて、インクの吐出不良を生じさせるおそれがある。そこで、このような増粘したインクを除去すべく、画像の記録に寄与しないインクを記録装置の所定箇所に向かって吐出する予備吐出が行われる。
【0006】
回復処理のさらに他の形態としては、吸引回復が知られている。記録ヘッドの液路内や共通液室等に、例えば、インクの連続した吐出や記録装置の長期間の不使用などのために気泡が混入もしくは発生した場合には、その気泡が液路へのインクの供給やインクの吐出動作の妨げとなって、インクの吐出不良を生じさせるおそれがある。主に、このような吐出不良を未然に防止するために、ゴム等の材料で形成されたキャップを記録ヘッドの吐出口面に当接させてから、そのキャップ内に負圧を導入することによって、そのキャップ内に吐出口からインクを強制的に吸引排出させる吸引回復が行なわれる。
【0007】
以上のような各種回復処理は、画像の記録前、画像の記録終了後、あるいは画像の記録中における記録走査間にて実行される。このような回復処理により、記録ヘッドのインクの吐出状態を常に適切に保ち、画像品位の低下を防いで高品位の記録を行うことが可能となる。特に、バナー記録等のように、連続して比較的大きな記録面に記録を行う場合には、その記録動作における各記録走査の間にて回復処理を行うことが重要となる。
【0008】
ところで、記録動作中における記録ヘッド内のインクの温度(本明細書では、「記録ヘッドの温度」あるいは単に「ヘッド温度」ともいう)は、インクを吐出するために生ずるエネルギーによって、記録開始直後と比較して高くなるのが一般的である。記録動作中における記録走査の間にて記録動作を一時停止した場合には、その一時停止の間に記録ヘッドの温度が下がり、その温度低下に起因してインクの吐出量が減少し、記録動作の一時停止の前後における記録濃度が変化するおそれがある。
【0009】
このような記録ヘッドの温度低下は、記録動作の一時停止前の記録走査と、その一時停止後の記録走査との間に比較的長い放熱時間が存在するからであり、そのときの放熱量は、連続的に記録動作を行う場合の各記録走査の間における放熱量よりも多くなる。特に、上述したような回復処理のために一時停止した場合、その一時停止期間中における記録ヘッドの温度低下は、他の一時停止、例えば、入力データの遅延やユーザーの都合によって一時停止した場合よりも顕著となることが多い。
【0010】
具体的に、回復処理としてのワイピングを行うために一時停止した場合、そのワイピング動作に要する一定時間においては、記録ヘッドに対して熱エネルギーなどの吐出エネルギーが供給されずに、専ら記録ヘッドからの放熱が行なわれる。そのため、一時停止後に記録を再開した時の記録ヘッドの温度は、その一時停止前より低くなる。
【0011】
同様に、回復処理としての予備吐出を行うために一時停止した場合には、その予備吐出のための熱エネルギーなどの吐出エネルギーがインクにもたらされるものの、その吐出エネルギーは、記録動作中にインクにもたらされる吐出エネルギーに比べて少ない。そのため、予備吐出を行なう間における記録ヘッドからの放熱の影響が大きく、一時停止の前後におけるインクの吐出量が減少して記録濃度の変化が目立つほどに、記録ヘッドの温度低下を生ずることがある。
【0012】
また、回復処理としての吸引回復を行うために一時停止した場合には、上述のワイピングや予備吐出と同様に、その動作期間中における記録ヘッドから放熱量が大きく、熱エネルギーなどの吐出エネルギーがもたらされない。しかも、温度が高くなったインクが専ら排出されると同時に比較的温度の低いインクが供給されるため、記録ヘッドの温度低下が比較的顕著に生ずる。
【0013】
このように、記録動作の一時停止時によって記録ヘッドの温度が低下し、インクの吐出量の減少によって記録濃度が変化した場合、特に、その一時停止の前後における記録濃度の差が記録画像の隣接領域において生じた場合には、わずかな濃度差でも目立って、記録品位を低下させることになる。
【0014】
このような記録動作の一時停止の前後におけるインクの吐出量の変化を抑制するための技術としては、一時停止による記録ヘッドの温度低下を補うように、記録ヘッドを昇温させる温度制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。記録動作の一時停止中に記録ヘッドを昇温させることにより、その一時停止の前後における記録ヘッドの温度差を小さく抑えて、インクの吐出量の変化を抑制することができる。
【0015】
一方、近年のインクジェット記録装置では、画像品位の向上を目的として、記録媒体上の同じ記録領域に対して、記録ヘッドを主走査方向に複数回スキャンさせることによって画像の記録を完成させる方式、いわゆるマルチパス記録方式が採用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
図1は、マルチパス記録方式として、記録媒体上の同じ記録領域に対して、記録ヘッドを主走査方向に2回スキャンさせることによって画像の記録を完成させ2パス記録方式の説明図であり、記録ヘッドHの位置と、記録媒体P上に記録される画像の記録領域との関係を示す。
【0017】
記録ヘッドHが主走査方向(矢印X1方向)に移動しつつ、画像データに基づいてインクを吐出することによって記録媒体P上に画像が記録され、また、このように記録ヘッドHが1回スキャン動作する毎に、記録ヘッドHの幅の1/2に相当する幅(以降、1/2バンド幅と表現する)ずつ記録媒体Pが副走査方向(矢印Y方向)に搬送される。図1においては、記録媒体Pの位置を固定し、その記録媒体Pに対して記録ヘッドHが副走査方向と反対の方向に移動するものとして表現している。1回目のスキャン動作では、記録ヘッドHの幅に相当する1バンド幅の画像データの内、近接画素について間引かれた画像データを記録し、2回目のスキャン動作では、その1バンド幅の画像データの内、1回目のスキャン動作においては間引かれなかった画像データを記録する。
【0018】
したがって、記録媒体P上の画像の記録は、記録ヘッドHの2回のスキャン動作によって1/2バンド幅分ずつ完了される。すなわち、記録媒体P上の1/2バンド幅分の記録領域に対して、1回目のスキャン動作では近接画素について間引かれた画像データを記録し、2回目のスキャン動作では、1回目のスキャン動作においては間引かれなかった画像データを記録する。以降、1回目のスキャン動作を1/2パス目、2回目のスキャン動作を2/2パス目といい、また記録媒体P上の1/2バンド幅分の記録領域について、1/2パス目の記録のみが行われた領域を1/2パス記録領域、2/2パス目の記録も行われて画像が完成された領域を2/2パス記録領域という。
【0019】
図2は、2パス記録を行った場合に、記録動作の途中において記録される画像を示す模式図である。記録動作の途中において、副走査方向後端の1/2バンド幅分の記録領域は1/2パス記録領域であり、1/2パス目の記録によって、間引かれた画像データのみが記録される。そのため、その後端の1/2パス記録領域は画像が未完了であり、その領域の濃度は画像完成時の略1/2となる。
【0020】
【特許文献1】
特開平6−328723号公報
【0021】
【特許文献2】
特開昭60−107975号公報
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したようなマルチパス記録方式においては、記録動作の途中にて、その記録動作を一時停止した場合に、同じ記録領域に対する1回目のスキャン動作と2回目のスキャン動作との間の時間間隔(以下、記録時間差という)が一時停止に伴って変化し、それに起因して記録濃度が変化して、濃度ムラ(以下、放置ムラという)が発生することがある。
【0023】
図3および図4は、このような記録時間差の変化に起因する放置ムラについての説明図である。
【0024】
図3は、2パス記録方式における1回目と2回目のスキャン動作(1/2パス目と2/2パス目)との間の時間が短いときに、記録媒体102に対するインクの浸透と定着の様子を模式的に表した図である。同図(a)のように1/2パス目に吐出されたインク滴101aは、同図(b)のように、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向へ浸透し、インク成分である染料などの色素が記録媒体102と物理的および化学的に結合する。同図(c)のように2/2パス目に吐出されたインク滴101bも、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向に浸透するものの、同図(d)のように、先に着弾したインク滴101aが定着した領域にはあまり浸透・定着しない。その原因は、先に着弾したインク滴101aが未だ浸透しつつある状態にあることが考えられる。そのため、後から着弾したインク滴101bは、同図(d)のように、先に着弾したインク滴101aが浸透した領域のさらに下の方へ浸透・定着することになる。
【0025】
図4は、2パス記録方式における1/2パス目と2/2パス目との間の時間が長いときに、記録媒体102に対するインクの浸透と定着の様子を模式的に表した図である。同図(a)のように1/2パス目に吐出されたインク滴101aは、同図(b)のように、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向へ浸透し、インク成分である染料などの色素が記録媒体102と物理的および化学的に結合する。同図(c)のように、2/2パス目に吐出されて後から着弾したインク滴101bは、先に着弾した101aが浸透・定着している領域に比較的多く浸透する。これは、先に着弾したインク滴101aが十分浸透して広がり、或いはその揮発成分が蒸発したため、記録媒体102の単位体積当たりのインク滴101aの量が減少し、後から着弾したインク滴101bが浸透できるようになったためではないかと考えられる。
【0026】
このように、1/2パス目と2/2パス目との時間間隔の変化により、記録媒体の表面付近に定着するインクの量、つまり染料などの色素の量が異なる。また、記録濃度は記録媒体の表面付近に定着する色素の光の吸収に対応するため、1/2パス目と2/2パス目との時間間隔の変化により、記録濃度が異なってしまう。
【0027】
したがって、マルチパス記録方式により画像を記録する場合、一時停止により記録が中断されると、その中断の前後の記録画像に放置ムラが生じてしまう。また、放置ムラの発生メカニズムから明らかなように、記録動作の一時停止の時間が長ければ長いほど、放置ムラの発生が顕著となり大きな問題となる。
【0028】
特に、前述したように、記録動作の一時停止の前後における記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の変化を抑制すべく、その一時停止中に記録ヘッドを昇温させようとした場合には、その記録ヘッドの昇温動作に伴なって記録動作の一時停止時間が増大し、その結果、放置ムラの発生も顕著になってしまう。
【0029】
本発明の目的は、いわゆるマルチパス記録方式において、記録動作を一時停止しても記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の減少を防止することができ、しかも記録動作の一時停止の時間に拘わらず濃度むらのない高品位の画像を記録することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御する温度制御手段と、前記一時停止の前に、画像の記録が未完成であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる記録制御手段とを備え、前記記録制御手段は、前記温度制御手段による温度制御の後に、前記一時停止を解除して記録動作を再開させることを特徴とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(記録装置の基本構成)
図5は、本発明の一実施形態に係わるインクジェット記録装置を示す上面図である。
【0032】
図5において、2は紙搬送系ユニットを含む記録装置本体を示し、本記録装置は比較的大判の記録用紙(記録媒体)に記録を行うものである。1はキャリッジを示し、12個の記録ヘッド5を搭載して、矢印X(X1,X2)の主走査方向に移動することにより、記録ヘッド5の記録用紙(記録媒体)に対する記録走査が可能となる。すなわち、キャリジ1は、ガイド軸11により、これに沿って主走査方向に移動可能に案内支持されており、またベルト13を介して伝達される駆動力によって主走査方向に往復移動される。なお、記録ヘッド5から吐出する使用インクとしては、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの他に、更に粒状感の低減を目的とした淡シアン、淡マゼンタを加えた計6色が採用されており、また、記録スピードの向上などを目的として、1色のインクに対して2個の記録ヘッド5が使用されている。すなわち、6色にインクに対して6つずつの計2組の記録ヘッド5は、主走査方向の一方のX1方向(以下、往走査の方向という)および他方のX2方向(以下、復走査の方向という)のそれぞれにおいて対称的に並ぶように配置されている。これにより、X1方向の往走査時とX2方向の副走査時における、計12個の記録ヘッド5からのインクの吐出順序を同じくして、記録ヘッド5の往走査と復走査の往復記録によって記録スピードを高めつつ、高品位の画像を記録することができる。
【0033】
また、1色のインク当たりに2個の記録ヘッド5に、インクを吐出可能な吐出口を記録用紙の搬送方向に沿って同一ピッチで列状に形成し、そして、一方の記録ヘッド5の吐出口列と他方の記録ヘッド5の吐出口列とを記録用紙の搬送方向に半ピッチずつずらするように、それらの記録ヘッド5を配置してもよい。この場合には、1色のインクに対して1個の記録ヘッド5を用いる場合に対して、記録用紙の搬送方向における記録密度を2倍にすることができる。記録装置は、必ずしも記録ヘッド5の往走査と復走査によって往復記録を行う構成に限定されず、往復の一方の走査のみよって記録をする片方向記録を行う構成であってもよい。
【0034】
30A、30B、30Cおよび30Dは回復機構であり、記録ヘッド5のインクの吐出状態を良好に保つための回復処理として吸引回復処理を行うと共に、記録ヘッド5の不使用時に記録ヘッド5を保護する。すなわち、これらの回復機構30A、30B、30Cおよび30Dは、インクの吐出口が形成された記録ヘッド5の吐出口面に当接可能なキャップを備えており、そのキャップを記録ヘッド5の吐出口面に当接させてから、そのキャップ内に不図示のポンプからの負圧を導入することによって、画像の記録に寄与しないインクを記録ヘッド5の吐出口からキャップ内に強制的に吸引排出させる。またキャップは、記録ヘッド5の不使用時に吐出口面に当接することによって、記録ヘッド5の吐出口を保護する。
【0035】
31は、各記録ヘッド5の予備吐出動作によって吐出されるインクを受容する予備吐出インク受領箱である。予備吐出は、記録ヘッド5に対する回復処理の他の1つであり、画像の記録に寄与しないインクを吐出口から予備吐出インク受領箱31に向かって吐出させる。32は、各記録ヘッド5の吐出口面のワイピング動作を行うためのワイピング機構である。ワイピングは、予備吐出は、記録ヘッド5に対する回復処理の更に他の1つであり、ゴム等の弾性材からなるブレードを記録ヘッド5の吐出口面に当接させて、それらのブレードと記録ヘッド5とを相対移動(本例の場合は、記録ヘッド5を移動)させることにより、吐出口の周辺に付着したインクなどを拭き取って除去する。
【0036】
以上のように構成された記録装置は、ホスト装置から記録データを受け取ると、図示しない紙搬送ユニットによって送られる記録用紙に画像を記録すべく、キャリッジ1をガイド軸11に沿って主走査方向(X1またはX2方向)に移動させつつ、記録ヘッド5からインクを吐出させることにより、記録用紙に1バンド分の画像を記録する。そして、紙搬送ユニットによって、記録用紙をキャリッジ1と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向に搬送する。キャリッジ1の移動位置を検出するために、そのキャリッジ1の移動経路に沿ってエンコーダフィルム12が配設されている。すなわち、キャリッジ1に搭載されたエンコーダセンサがエンコーダフィルム12を検出し、その検出信号に基づいてキャリッジ1の移動位置を検出することができる。また、このエンコーダセンサの検出信号に基づいて、キャリッジ1を所定のホームポジション(本例では、回復機構30A、30B、30Cおよび30Dと対応する位置)に移動制御する。
【0037】
それぞれの記録ヘッド5には、例えば、副走査方向に並ぶように256個の吐出口が600dpi(ドット/インチ)の密度で配列されており、各吐出口からインクを吐出することができる。吐出口からのインクの吐出方式は任意であり、例えば、ピエゾ素子を用いて吐出する方式、または電気熱変換体(ヒータ)の発熱を利用して吐出する方式などであってもよい。本例の記録ヘッド5は、電気熱変換体の発熱を利用してインクを吐出する構成となっている。すなわち、各吐出口に連通する各インク液路内に電気熱変換体を備え、その電気熱変換体から発生する熱エネルギーによって、インク液路内のインクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、そのときの圧力によって、インク液路と対応する吐出口からインクを吐出する。また、各記録ヘッド5には、電気熱変換体が設けられた基板と同一の基板上に、各記録ヘッド5の温度検知用の温度センサ211(図6参照)が設けられている。
【0038】
(記録装置の制御系)
図6は、図5のインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。
【0039】
図6において、200は本記録装置の主制御部をなすコントローラを示し、後述する図8などのシーケンスを実行するマイクロコンピュータ形態等のCPU201、そのシーケンスの実行手順に対応したプログラムやテーブル,ヒートパルスの電圧値,パルス幅,その他の固定データを格納するROM202、および記録データを展開する領域や作業用の領域等が設けられたRAM203を有する。204は環境温度センサであり、記録装置の環境温度を検出してコントローラ200に入力する。また、205は記録データの供給源をなすホスト装置を示し、このホスト装置205からの記録データ、その他コマンド、ステータス信号等は、インターフェース(I/F)206を介して、コントローラ200及びバンドメモリ207との間にて送受信される。
【0040】
208はマスクパターンセレクタであり、CPU201に接続されて制御され、その出力はマルチパスデータ処理部209に入力される。207はバンドメモリであり、記録のための画像データがインタフェース206から転送され、CPU201の制御によって、所定の幅に分割された記録領域の記録に必要な画像データが1バンド分の画像データとしてストアされる。バンドメモリ207の出力は、マルチパスデータ処理部209に入力される。マルチパスデータ処理部209は、CPU201の制御によって、分割された記録領域の記録を複数回のスキャンで完了させるように画像データの間引き処理を実行し、1スキャン分の画像データを生成してヘッドドライバ210に出力する。ヘッドドライバ210は、記録や予備吐出の際に、記録データ等に応じて記録ヘッド5の電気熱変換体(インク吐出用のヒータ)を駆動する。記録ヘッド5はヘッドドライバ210により制御され、キャリッジ動作と同期しながら、記録ヘッド5の吐出口からインクを吐出させることによって、1スキャン分の記録を実行する。また、各記録ヘッド5には温度センサ211が備えられ、各温度センサ211によって検出された各記録ヘッド5の温度の検出値がコントローラ200に入力されることにより、後述する図10のヘッド温度の制御を行なうことができる。
【0041】
212は、キャリッジ1を主走査方向に移動させるための駆動源となる主走査モータ、213は、そのドライバをそれぞれ示す。また214は、記録用紙を復走査方向に搬送するための駆動源となる副走査モータを示し、215は、そのドライバを示す。
【0042】
(記録動作)
次に、本実施形態のインクジェット記録装置によって、所定幅ずつの記録領域に対して2回の走査によって画像を記録(2パス記録)する動作について説明する。図7は、2パス記録動作を一時停止させてから再開させる場合の記録ヘッド5の位置と記録領域との関係を示す模式図である。図7においては、記録用紙の位置を固定し、その記録用紙に対して記録ヘッド5が矢印Yの副走査方向と反対の方向に移動するものとして表現している。図8は、CPU201の制御動作を示すフローチャートである。
【0043】
図8において、先ず、インタフェース206を経由して記録要求コマンドがCPU201に入力されると、CPU201は1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込む(ステップS401)。次に、マルチパスデータ処理部209は、バンドメモリ207から1バンド分の全ての画像データを読み出す(ステップS402)。次に、CPU201は、記録動作の中断要求(一時停止の要求)の有無を判定する(ステップS403)。その中断要求がなければ、マルチパスデータ処理部209において、2パス記録を行うための間引き処理を行う(ステップS404)。この間引き処理は、バンドメモリ207から読み出した画像データを所定のマスクパターンでマスクすることにより実現される。本実施形態では、2パス記録の1回目のスキャンで記録する画像データを間引くためのマスクパターンとして、図9(a)に示す千鳥パターンを用い、2回目のスキャンで記録する画像データを間引くためのマスクパターンとして、図9(b)に示す逆千鳥パターンを用いる。以下においては、1回目のスキャンのときに記録ヘッド5がX1方向に往走査し、2回目のスキャンのときに記録ヘッド5がX2方向に復走査するとして説明する。また、説明の簡略化のために、記録ヘッド5は8個のインク吐出口が1列に配列されているものとする。
【0044】
次に、間引かれた画像データをヘッドドライバ210に出力し、キャリッジ1を主走査方向にスキャンさせながら、間引かれた画像データに基づいて記録ヘッド5からインクを吐出させて、記録用紙上に画像を記録する(ステップS405)。例えば、ステップS404において千鳥パターンによって画像データが間引かれ、ステップS405において、図7中の段階Aのように記録ヘッド5がX1方向に往走査しつつ、千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づいて1スキャン分の全領域に間引き画像を記録する。そして、記録ヘッド5からのインクの吐出と共に、各記録ヘッド5の温度を温度センサ211により検出してモニタする(ステップS406)。すなわち、計12個の記録ヘッド5のそれぞれの温度T1〜T12を検出して、コントローラ200のRAM203に格納する。
【0045】
そして、1スキャン分の間引き画像の記録が終了したら、記録用紙を1/2バンド幅分だけ矢印Yの復走査方向に搬送する(ステップS407)。このステップS407における記録ヘッド5の位置は、図7中の段階Aよりも1/2バンド幅分だけずれた段階Bになる。そして、記録用紙1枚分の記録が全て完了していなければステップS401に戻り、インタフェース206から次の画像データの転送要求を出力して、外部ホスト装置などから新たに転送されてくる画像データをCPU201の制御によってバンドメモリ207に書き込む。以下、前述と同様のステップS402からステップS407の処理をする。その場合、ステップS404においては逆千鳥パターンによって画像データが間引かれ、またステップS405においては、図7中の段階Bのように記録ヘッド5がX2方向に復走査しつつ、逆千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づいて1スキャン分の全領域に間引き画像を記録する。
【0046】
以下、ステップS401からステップS408までの動作を繰り返すことにより、千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づく往走査記録と、逆千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づく復走査記録と、を交互に繰り返して、記録用紙上の全ての記録領域に画像を記録する。そして、記録用紙上の全ての記録領域についての画像を記録したときに、2パス記録動作が完了する。
【0047】
(記録動作の一時停止前の動作)
次に、記録動作を一時停止する場合の動作について説明する。
【0048】
ステップS401において、CPU201が記録動作を中断(一時停止)する必要有りと判断した場合には、先ず、記録動作の中断要求フラグをセットする。CPU201は、例えば、記録ヘッド5の回復処理が必要と判断したときに、記録動作の中断要求フラグをセットする。以下においては、回復処理の1つとしての吸引回復動作を行うために、記録動作を中断する場合の中断処理(ステップS409)について説明する。また以下においては、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに、中断要求があった場合について説明する。図10は、図8における中断処理を説明するためのフローチャートである。
【0049】
中断要求の発生により中断要求フラグがセットされると、マルチパスデータ処理部209は、2パス記録を行うための画像データの間引き処理を行う(ステップS501)。次に、間引かれた画像データをヘッドドライバ210に出力し、キャリッジ1を主走査方向に移動させながら、間引かれた画像データに基づいて記録ヘッド5からインクを吐出させることによって、記録用紙上に間引き画像を記録する(ステップS502)。ここまでの処理は、中断要求が無い場合の通常の処理と同じである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、ステップS501において、図9(b)の逆千鳥パターンを用いて画像データが間引かれ、ステップS502において、その間引かれた画像データに基づいて、記録ヘッド5が図7中の段階Bのように通常の復走査記録を行う。
【0050】
次に、通常の処理のような1/2バンド幅分の記録用紙の搬送は行わずに、CPU201が1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込む(ステップS503)。次に、マルチパスデータ処理部209は、バンドメモリ207から1バンド分の全ての画像データを読み出し(ステップS504)、CPU201は、マスクパターンセレクタ208によって間引き処理のためのマスクパターンを切り換える(ステップS505)。
【0051】
マスクパターンセレクタ208は、通常、CPU201の制御によって図11(b)のマスクパターンを選択している。この図11(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の全ての吐出口に対応する後述の元パターンを有効とするマスクパターンである。通常、マルチパスデータ処理部209が千鳥パターンによって画像データを間引く場合には、図11(a)と図11(b)のマスクパターンを掛け合わせた図11(c)のマスクパターンを用いる。図11(a)のマスクパターンは千鳥パターンの元パターンに相当し、図11(b)のマスクパターンと掛け合わされることによって、通常の画像データの間引きに用いられる図11(c)の千鳥パターンとなる。
【0052】
一方、中断処理のステップS505の場合、マスクパターンセレクタ208はCPU201の制御によって図12(b)のマスクパターンを選択する。その図12(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5における記録媒体の搬送方向上流側の半分の吐出口(図7中下側の1/2バンド幅の範囲S2内の吐出口)に対応する元パターンを有効とし、かつ記録ヘッド5における記録媒体の搬送方向下流側の半分の吐出口(図7中上側の1/2バンド幅の範囲S1内の吐出口)に対応する元パターンを無効とするマスクパターンである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、ステップS506において、図12(a)の千鳥パターンの元パターンと図12(b)のマスクパターンとを掛け合わせた図12(c)のパターンを用いて、マルチパスデータ処理部209が画像データを間引く。図12(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の全吐出口の内、図7中上側半分の範囲S1内の吐出口による記録動作を禁止することになる。
【0053】
ステップS506にて間引かれた画像データはCPU201によってヘッドドライバ210に出力され、記録ヘッド5は、図7中の段階Cにおいて範囲S2内の吐出口からインクを吐出して、間引き画像を往走査記録する(ステップS507)。段階B,Cでは、副走査方向における記録ヘッド5の位置が同じであり、記録ヘッド5は、段階Cにおいて範囲S2内の吐出口からインクを吐出することによって、先の段階Bの記録領域における下側半分の領域P1と相互補完の関係にある間引き画像を記録して、その領域P1に対して2/2パス目の記録を完了する。この段階Cにおいては、記録ヘッド5の範囲S1の吐出口による記録動作が禁止されることになる。
その後、記録動作を休止して一時停止の状態になり、図7中の段階Dに移行する。
【0054】
なお、本実施形態の場合は、中断要求があった後に、図7中の段階Bのように通常と同じ復走査記録(ステップS501,S502)を行ってから、段階Cのように、記録用紙を搬送せずに記録領域P1の画像を完成させている(ステップS503〜507)。しかし、中断要求があった後に、段階Bのような通常と同じ副走査記録を行うことなく、記録用紙を搬送せずに記録領域P1′の画像を完成させるようにしてもよい。その場合には、図10の中断処理をステップS505からスタートさせればよく、また記録領域P1′と相互補完の関係にある画像は、後述する図24(a),(b)のパターンを掛け合わせた同図(c)の逆千鳥パターンを用いて間引くことができる。中断要求は、上述したように図7中の段階Aのような往走査記録を行っているときのみに限定されず、図7中の段階Bのような副走査記録を行っているときにあってもよく、その場合には、中断処理における記録ヘッド5の往走査と副走査の関係や用いるパターンの千鳥と逆千鳥の関係が逆になる。
【0055】
(記録動作の一時停止中の動作)
本例の場合は、記録動作の一時停止の間に、CPU201が所定の吸引回復動作を実行する(S508)。また、その時点において、RAM203に格納されている各記録ヘッド5の検出温度T1〜T12を吸引回復動作前の温度Tb1〜Tb12として確定する。そして、この確定したヘッド温度Tb1〜Tb12の平均Taveを算出してRAM803に格納する(ステップS509)。図13は、各記録ヘッド5の確定したヘッド温度Tb1〜Tb12の一例の説明図である。この図の例では平均温度Taveが43℃となる。
【0056】
このように、吸引回復動作を終了してから平均温度Taveを求め(ステップS508,S509)、その平均温度TaveよりもT℃高い温度を目標温度(Tave+T)として、各記録ヘッド5の温度制御を行う。本例ではT=3として温度制御を行った。すなわち、各記録ヘッド5について、温度センサ211によって検出されるヘッド温度と、コントローラ200に格納されている目標温度(Tave+T)と、を比較する(ステップS510)。そして、検出されるヘッド温度が目標温度(Tave+T)よりも低い場合には、ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達するまで記録ヘッド5を加熱する。本例の場合は、図14に示すパルスを対応する記録ヘッド5の電気熱変換体に供給することによって、記録ヘッド5内のインクを加熱する。すなわち、このパルスは、記録ヘッド5の吐出口からインクを吐出させない程度に電気熱変換体を発熱させて、その熱エネルギーをインクに与えるものであり、このパルスを用いてヘッド温度を制御する(ステップS511)。そして、ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達してからは、追加時間として計測し始める(ステップS512)。その追加時間は、ヘッド温度の制御を継続するための時間Nsecであり、本例ではN=5とした。ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達した後もヘッド温度の制御を継続し(ステップS510,S511)、全ての記録ヘッド5の温度が最初に目標温度(Tave+T)に達した後、追加時間Nsec経過してから(ステップS513)、一時停止を解除して記録動作を再開する。
【0057】
図15〜図19は、このようなヘッド温度の制御の効果を説明するための図である。
【0058】
まず、比較例として、前述したヘッド温度の制御を行わなかった場合のヘッド温度の推移の一例を図15に示す。この図15は、横軸に記録用紙(記録媒体)上の記録位置をとり、縦軸にヘッド温度をとることにより、記録用紙に記録がなされていくに従って、ヘッド温度が変化する様子を示したものである。
【0059】
図15において、A点は吸引回復動作を行った位置であり、このA点よりも以前の記録位置においては、記録データに応じて比較的連続してインクを吐出のための熱エネルギーが供給されるため、ヘッド温度は記録開始直後から徐々に高くなてきている。一方、A点以後の記録位置において、記録を再開した直後のヘッド温度は、吐出回復動作前と比較して顕著に低くなる。吸引回復動作中は熱エネルギーがインクに供給されずに、専ら放熱が行なわれ、さらに、記録ヘッドのインク液路には比較的温度の低い新たなインクが流入するためである。ヘッド温度とインクの吐出量との間には、図16に示すような一定の関係、すなわちヘッド温度が高いほどインクの吐出量が多くなる関係がある。そのため、特に、上記A点におけるインクの吐出量が顕著に低下する。そのため、記録動作の途中で吸引回復処理を行った後にヘッド温度の制御を行わなかった場合には、図17に示すように、A点の前後の記録位置において比較的大きな濃度変化が発生する。この濃度変化は、記録画像において互いに隣接する領域で発生するため、微小な濃度変化(例えばOD差で0.02程度)でも大きく目立ち、記録品位を低下させる。
【0060】
これに対し、前述したヘッド温度の制御を行った場合のヘッド温度の推移の一例を図18に示す。
【0061】
同図に示すように、A点よりも以前の記録動作中におけるヘッド温度は、図15に示した例と同様である。しかし、上述したように、吸引回復動作の終了直後から記録動作を再開するまでに、パルス加熱によってヘッド温度を制御することにより、記録動作を再開して記録ヘッド5が記録用紙上の記録領域に達したときのヘッド温度は、吸引回復動作の直前のヘッド温度と略等しくなる。図19は、このようなヘッド温度の制御を行った場合の記録濃度の変化を示す図である。この図に示すように、吸引回復動作を行ったA点の前後の記録位置では顕著な濃度変化が発生しない。
このように、前記一時停止を解除して記録動作を再開する前に、ヘッド温度を制御して記録ヘッド5を昇温させることにより、吸引回復動作の前後におけるインクの吐出量の変化を抑えて、記録濃度の変化を抑制することできる。
【0062】
(記録動作の再開)
一時停止を解除して記録動作を再開する際には、まず、記録用紙の搬送動作を実行する(ステップS514)。ここでの記録用紙の搬送量は、図7中の段階Eのように、通常の搬送量(1/2バンド幅)よりも所定量ΔLだけ小さく設定する。
【0063】
以下、このように記録媒体の搬送量を通常よりも小さくすべく、その減少分(減算値)ΔLを設定する理由について説明する。
【0064】
記録用紙の搬送動作は、前述したモータドライバ215により、副走査モータ214を駆動することで実現される。この副走査モータ214の駆動量によって搬送量を制御するが、その駆動量のばらつき、紙搬送ユニットと記録用紙との間のスリップ等により、μmレベルの搬送量誤差が発生することがある。搬送量が大きくなった場合には、図20(a)のように、記録画像上に主走査方向に平行な白いスジが発生する。すなわち、前述した図10の中断処理によって記録動作の中断前に画像が完成された記録領域P1(図7参照)と、その中断後に再開する記録動作による記録領域P2(図7参照)との間において、記録用紙の搬送量が大きい搬送量L1となった場合には、記録領域P1,P2の間に画像が記録されない白スジが発生する。図20(b)のように、記録領域P1,P2との間において、記録媒体の搬送量が誤差のない理想的な搬送量Lである場合には、白スジは発生しない。逆に、搬送量が小さくなった場合には、図21(a)のように、記録画像上に主走査方向に平行な黒いスジが発生する。すなわち、記録領域P1と記録領域P2との間において記録媒体の搬送量が小さい搬送量L2となった場合には、記録領域P1,P2の画像が部分的に重なって黒スジが発生する。図21(b)のように、記録領域P1,P2との間において、記録媒体の搬送量が誤差のない理想的な搬送量Lである場合には、黒スジも発生しない。
【0065】
このような白スジや黒スジは、前述した図10の中断処理によって記録領域P1における画像を完成させて、その記録領域P1を2/2パス記録領域としてから記録動作を中断したために、生じやすくなる。すなわち、記録領域P1の画像を完成させる記録走査と、記録領域P2の画像を完成させる記録走査が全く共通せず、このように共通しない記録走査によって完成された画像が隣接することになるからである。このような白スジおよび黒スジは、μmレベルの搬送量誤差で発生することから、それらを完全に無くすことは困難を極める。
【0066】
仮に、記録領域P1における画像を完成させず、その記録領域P1を1/2パス記録領域としたまま記録動作を中断し、その中断後に再開する記録動作によって、その記録領域P1における画像を完成させて、2/2パス記録領域とした場合には、白スジや黒スジは発生し難くなる。その理由は、記録領域P1に対する2パス目の記録走査と、記録領域P2に対する1パス目の記録走査とを共通化し、このように共通する記録走査によって完成された画像を隣接させることができるからである。しかし、この場合には、記録領域P1における1パス目と2パス目の記録走査の間にて記録動作が中断するため、前述したように、記録時間差に起因する濃度ムラ(放置ムラ)が発生して記録品位の低下を招いてしまう。
【0067】
そこで、本実施形態においては、記録動作の中断前に記録領域P1の画像を完成させて放置ムラの発生を防止した上、白スジと黒スジの影響度を考慮して、記録用紙の搬送量を通常よりも小さく設定した。
【0068】
すなわち、本発明者は、記録用紙の搬送量を大きくする方向または小さくする方向に同等量の搬送誤差が生じた場合、つまり搬送量誤差の絶対値が等しい場合には、搬送量が大きくなったときに生じる白スジが画像欠陥として顕著に目立つものの、搬送量が小さくなったときに生じる黒スジは、許容できる程度の画像欠陥であることが多いことを見出した。図22は、搬送量誤差の絶対値が等しい場合に、その搬送量の増減に対する白スジ及び黒スジの画像欠陥に与える影響を官能評価で示した表である。ここでは5段階評価を行い、画像欠陥として致命的なものは5点、致命的ではないものの重大な欠点を4点、軽微なものを3点、著しく軽微なものを2点、画像欠陥が認められないものを1点とした。この表から明らかなように、同等の搬送量誤差の場合には、搬送量が大きいときに生じる白スジが画像欠陥として顕著に目立つものの、搬送量が小さいときに生じる黒スジは、許容できる程度の画像欠陥である場合が多い。
【0069】
そこで、本実施形態においては、記録の再開に先立って記録用紙の搬送動作を行った上、その搬送量を通常よりも小さくするための減算値を設定することによって、画像欠陥として顕著に目立つ白スジを抑制する。また、記録用紙の搬送量誤差は1回の搬送動作当たりの搬送量に依存、つまりマルチパス記録方式における記録パス数(本例の場合の記録パス数は2)に依存する。したがって、記録パス数に応じて搬送量の減算値を変更することが望ましい。本実施形態においては、図23に示す減算値のテーブルのように、記録パス数に応じた3段階の減算値を設けた。2パス記録を行う場合には、減算値を10μmに設定する。
【0070】
また、このように記録の再開に先立って記録用紙を搬送し、さらに、その搬送量を通常よりも小さく設定することは、図5のように比較的大判の記録媒体に記録を行う記録装置、特に、ロール状に巻回された大幅の記録媒体に記録を行う記録装置において有利となる。すなわち、このように大きな記録媒体に画像を記録する場合には、記録ヘッド5と対向する記録位置における記録媒体の部分に対して、その記録位置から搬送方向に排出された記録済みの記録媒体の部分の重量が張力として作用し、記録動作を中断している間に、記録位置における記録媒体が搬送方向にずらされるおそれがあるからである。
【0071】
このような搬送動作の終了後は、CPU201の制御によって、1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込み(ステップS515)、バンドメモリ207から1バンド分の画像データを読み出し(ステップS516)、マスクパターンセレクタ208によって図24(b)のマスクパターンを設定する(ステップS517)。その図24(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の範囲S2(図7参照)内の吐出口に対応する後述の元パターンを有効とし、かつ記録ヘッド5の範囲S1(図7参照)内の吐出口に対応する元パターンを無効とするマスクパターンである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、図24(a)の逆千鳥パターンの元パターンと図24(b)のマスクパターンとを掛け合わせた図24(c)のパターンを用いて、マルチパスデータ処理部209が画像データを間引く(ステップS518)。図24(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の範囲S1内の吐出口による記録動作を禁止することになる。
【0072】
そして、間引かれた画像データに対応したヘッド駆動信号がヘッドドライバ210に出力され、図7中の段階Eのように、記録ヘッド5によって記録用紙に間引き画像が記録される(ステップS519)。
【0073】
その後、CPU201は、通常の2パス記録を連続して実行するために、マスクパターンセレクタ208によって図11(b)のマスクパターンを選択し(ステップS520)、このマスクパターンを使用してステップS501からステップS507までの処理を順次繰り返す。したがって、通常の2パス記録が継続される。記録動作の再開によって記録される記録領域P2の画像は、図7中の段階Fにおいて完成される。
【0074】
このように、一時停止前に記録領域P1の画像を2パス記録によって完成させ、記録動作の再開後に、記録領域P2の画像を2パス記録によって完成させる。このような記録によって、前述した放置ムラを抑制する効果が生じる。その効果を図25によって説明する。
【0075】
図25は、一時停止前に記録領域P1の画像を2パス記録によって完了させなかったときの放置ムラの官能評価(従来例)と、一時停止前に記録領域P1を2パス記録によって完成させたときの放置ムラの官能評価(本実施形態)と、を示す図である。ここでは、5段階評価を行い、放置ムラが画像欠陥として致命的なものは5点、致命的ではないものの重大な欠点を4点、軽微なものを3点、著しく軽微なものを2点、画像欠陥が認められないものを1点とした。また、記録動作の中断時間は、上述したようなヘッド温度の制御を行った場合に約60secとなり、そのヘッド温度の制御を行わなかった場合は約30secとなった。従来例の場合には、ヘッド温度に起因するインク吐出量の変化を抑制すべくヘッド温度の制御を行った結果、中断時間が約2倍となって放置ムラが著しく悪化した。しかし、本実施形態の場合には、ヘッド温度に起因するインク吐出量の変化を抑制すべくヘッド温度の制御を行った結果、中断時間が約2倍となっても放置ムラの発生を抑制することができた。
【0076】
したがって、記録動作中に記録ヘッドの吸引回復動作をするために、記録動作を比較的長く一時停止させた場合に、記録動作の再開前に記録ヘッドを昇温させるべくヘッド温度を制御することにより、一時停止の前後におけるインクの吐出量の変化を抑制することができ、さらに、そのヘッド温度の制御に伴って一時停止の時間が増大しても、一時停止前の記録領域の画像をマルチパス記録(本例の場合は、2パス記録)によって完成させてから一時停止することによって、放置ムラを抑制することができる。また、記録動作の再開に先立って記録媒体の搬送動作を行い、かつ、その搬送量を通常時よりも小さく設定することにより、画像欠陥として顕著に目立ってしまう白スジの発生を抑制することができる。
【0077】
また、記録動作の一時停止は、吸引動作の他、記録ヘッドの回復処理としてのワイピング動作や予備吐出動作を行なうためであってもよく、さらに入力データの遅延による一時停止、ユーザーの都合による一時停止、その他一時停止動作であってもよく、いずれの一時停止においても上述した実施形態と同様の中断処理を行うことができる。したがって、いずれの一時停止の場合にも、一時停止後にヘッド温度を制御することにより、その一時停止の前後における記録ヘッドの温度差に起因するインクの吐出量の変化を抑制することができ、しかも、そのヘッド温度の制御に伴って一時停止の時間が増大しても放置ムラを抑制して、濃度ムラのない高品な画像を記録することができる。
【0078】
(他の実施形態)
本発明は、複数のインク吐出口を備える記録ヘッドを用いて画像を記録可能な種々のインクジェット記録装置に適用することができる。例えば、同一または色彩などが異なるインクを用いてカラー画像を記録する記録装置、同一色彩で異なる濃度のインクを用いて多階調の画像を記録する記録装置、さらに、これらの機能を組み合わせた記録装置に対して同様に本発明を適用することによって、同様の効果を達成することができる。
【0079】
さらに、本発明は、記録手段としての記録ヘッドとインクタンクとを一体化した交換可能なインクジェットカートリッジを用いる構成、記録手段としての記録ヘッドとインクタンクとを別体にして、それらの間をインク供給用のチューブ等で接続する構成など、記録手段とインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用して、同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、本発明は、特に、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式の記録手段を用いるインクジェット記録装置に対して、好適に適用して優れた効果を発揮することができる。その場合には、その熱エネルギーを発生する電気熱変換体を利用して、ヘッド温度を制御すべく記録ヘッドを昇温することができる。
【0081】
また、記録ヘッドの温度制御には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する電気熱変換体の他、記録ヘッドに備えた加熱用の電気熱変換体(ヒータ)等、種々の温度調整手段を用いることができる。その温度調整手段としては、記録ヘッドの温度を下げる冷却手段を備えてもよい。また、記録ヘッドの温度制御方式は、上述した実施形態のみに限定されず任意であり、要は、記録ヘッドの温度変化に起因するインクの吐出量の変化を小さく抑えて、記録濃度の変化を抑制することができればよい。例えば、記録ヘッド毎に、記録再開時の温度を記録動作の一時停止前の温度に戻すように温度制御してもよい。また、記録装置本体の内部や周辺の環境温度を環境温度センサ204(図6参照)によって検出し、その環境温度をも考慮して、記録再開時の記録ヘッドの温度を記録動作の一時停止前の温度に確実に戻すように温度制御してもよい。
【0082】
以下に、本発明の実施態様の例を列挙する。
[実施態様1] インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、
前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御する温度制御手段と、
前記一時停止の前に、画像の記録が未完成であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる記録制御手段とを備え、
前記記録制御手段は、前記温度制御手段による温度制御の後に、前記一時停止を解除して記録動作を再開させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0083】
[実施態様2] 主走査方向における前記記録ヘッドの走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向における前記記録媒体の搬送と、を繰り返すことによって前記記録媒体上に画像を記録し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるために前記記録ヘッドが走査する前には、前記記録媒体を搬送させない
ことを特徴とする実施態様1に記載のインクジェット記録装置。
【0084】
[実施態様3] 前記記録制御手段は、前記一時停止後の記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くすることを特徴とする実施態様2に記載のインクジェット記録装置。
【0085】
[実施態様4] 主走査方向における前記記録ヘッドの走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向における前記記録媒体の搬送と、を繰り返すことによって前記記録媒体上に画像を記録し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるために前記記録ヘッドが走査する前には前記記録媒体を搬送させず、かつ前記記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くすることを特徴とする実施態様1に記載のインクジェット記録装置。
【0086】
[実施態様5] 前記記録制御手段は、前記記録媒体上の同じ記録領域に対して画像の記録を完成させるために必要な前記記録ヘッドの走査回数に応じて、前記記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くする量を異ならせることを特徴とする実施態様3または4に記載のインクジェット記録装置。
【0087】
[実施態様6] 前記温度制御手段は、前記記録ヘッドの温度を検出する温度検出部と、この温度検出部の検出温度に基づいて前記記録ヘッドを昇温可能な昇温部とを含むことを特徴とする実施態様1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0088】
[実施態様7] 前記記録制御手段は、前記一時停止を解除して記録動作を再開させるにあたり、前記一時停止前に記録が完成している記録領域の次の記録領域に対し画像の記録を行う
ことを特徴とする実施態様6に記載のインクジェット記録装置。
【0089】
[実施態様8] 前記記録ヘッドの複数回の走査毎に、異なるマスクパターンを用いて画像データを間引くことによって前記複数の吐出口からのインクの吐出を制限し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるときに、画像の記録が完了している記録領域に対応する前記吐出口からのインクの吐出を制限するマスクパターンを用いることを特徴とする実施態様1から7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0090】
[実施態様9] 前記マスクパターンは、前記複数の吐出口に対応付けられる第1のマスクパターンと、前記未完了な記録領域に対応する前記吐出口に対応付けられる第2のマスクパターンと、を含むことを特徴とする実施態様8に記載のインクジェット記録装置。
【0091】
[実施態様10] 前記第2のマスクパターンは、前記未完了な記録領域の位置に基づいて前記第1のマスクパターンから求めることを特徴とする実施態様9に記載のインクジェット記録装置。
【0092】
[実施態様11] 前記一時停止中に、前記記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つための回復処理を行うことが可能な回復処理手段を更に備え、
前記温度制御手段は、前記一時停止中であって且つ前記回復処理の実行前における記録ヘッドの温度を検出し、前記回復処理後において、前記回復処理の実行前に検出された温度以上の所定温度に到達するまで前記記録ヘッドを昇温させ、
前記記録制御手段は、前記回復処理後における記録ヘッドの温度が前記所定温度以上に到達した後に前記記録動作を再開させることを特徴とする実施態様1から10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0093】
[実施態様12] 前記回復処理手段は、前記記録ヘッドの吐出口から画像の記録に寄与しないインクを吐出させる予備吐出、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吸引排出させる吸引回復、または前記記録ヘッドにおける吐出口の形成面を拭くワイピングの少なくとも1つを行うことを特徴とする実施態様11に記載のインクジェット記録装置。
【0094】
[実施態様13] インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録方法において、
前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御し、
前記一時停止の前に、画像の記録が未完了であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、いわゆるマルチパス記録方式において記録動作を一時停止した場合に、その一時停止中に記録ヘッドの温度を制御し、かつ、その一時停止前に、画像の記録が未完了であった記録領域に対しての画像の記録を完成させることにより、記録動作を一時停止しても記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の減少を防止することができ、しかも記録動作の一時停止の時間に拘わらず濃度むらのない高品位の画像を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】マルチパス記録としての2パス記録を行った場合の記録ヘッドの位置と記録領域との関係の説明図である。
【図2】2パス記録を行った場合の記録動作の途中における記録画像の説明図である。
【図3】2パス記録において、1/2パス目と2/2パス目の記録の時間間隔が短い場合のインクの浸透と定着の様子の説明図である。
【図4】2パス記録において、1/2パス目と2/2パス目の記録の時間間隔が長い場合のインクの浸透と定着の様子の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係わるインクジェット記録装置の上面図である。
【図6】図5のインクジェット記録装置における制御系のブロック構成図である。
【図7】図5のインクジェット記録装置によって2パス記録を行った場合において、記録休止時及び記録再開時の記録ヘッドの位置と記録領域との関係の説明図である。
【図8】図6におけるCPUの記録処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】(a),(b)は、図5のインクジェット記録装置による2パス記録に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図10】図6のCPUによる中断処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】(a),(b),(c)は、図5のインクジェット記録装置において通常の記録処理時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図12】(a),(b),(c)は、図5のインクジェット記録装置において中断処理時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図13】図5のインクジェット記録装置における記録ヘッドの温度の一例の説明図である。
【図14】図5のインクジェット記録ヘッドにおける記録ヘッドの温度制御に用いるパルスの説明図である。
【図15】記録動作の途中にて吐出回復動作を行った後、記録ヘッドの温度制御を行わなかった場合の記録ヘッドの温度変化の様子の説明図である。
【図16】記録ヘッドにおけるインクの吐出量と温度との関係の説明図である。
【図17】記録動作の途中にて吐出回復動作を行った後、記録ヘッドの温度制御を行わなかった場合の記録画像の濃度変化の説明図である。
【図18】記録動作の途中にて吸引回復動作を行った後に、記録ヘッドの温度制御を行った場合の記録ヘッドの温度変化の説明図である。
【図19】記録動作の途中にて吸引回復動作を行った後に、記録ヘッドの温度制御を行った場合の記録画像の濃度変化の説明図である。
【図20】(a)は、記録媒体の搬送量が大きくなって白スジが発生した場合の記録結果の説明図、(b)は、記録媒体の搬送量に誤差が無くて白スジが発生しなかった場合の記録結果の説明図である。
【図21】(a)は、記録媒体の搬送量が小さくなって黒スジが発生した場合の記録結果の説明図、(b)は、記録媒体の搬送量に誤差が無くて黒スジが発生しなかった場合の記録結果の説明図である。
【図22】記録媒体の搬送量誤差の絶対値が等しい場合において、白スジと黒スジが画像欠陥に与える影響を官能評価した比較結果の説明図である。
【図23】記録パス数に応じて記録媒体の搬送量を異ならせる場合に用いる搬送量の減算値テーブルの説明図である。
【図24】図5のインクジェット記録装置において、記録再開時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図25】本発明の実施形態と従来例における放置ムラの官能評価の比較結果の説明図である。
【符号の説明】
1 キャリッジ
2 装置本体(搬送系ユニットを含む)
5 記録ヘッド
11 ガイド軸
12 エンコーダフィルム
13 ベルト
30A、30B、30C、30D 回復機構
31 予備吐出インク受領箱
32 ワイピング機構
101a、101b インク滴
102 記録媒体
200 コントローラ
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 環境温度センサ
205 ホスト装置
206 I/F(インターフェース)
207 バンドメモリ
208 マスクパターンセレクタ
209 マルチパスデータ処理部
210 ヘッドドライバ
211 温度センサ
212 主走査モータ
213 主走査モータドライバ
214 副走査モータ
215 副走査モータドライバ
【発明の属する技術分野】
本発明は、いわゆるマルチパス記録方式のインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等における記録装置として、あるいはコンピューターやワードプロセッサ等を含む複合型電子機器や、ワークステーションなどで処理した情報を出力する機器として用いられる記録装置として、紙、布、プラスチックシート、OHP用シートなどの種々の記録媒体に対して比較的簡潔な構成で記録をすることができるインクジェット方式の記録装置が普及している。この方式は、基本的に非接触記録方式であって記録媒体の種類を問わないことから、この方式の記録装置として、上記のような通常に用いられる記録媒体の他、布、皮革、不織布、さらには金属等を記録媒体として用いる記録装置も提案されている。このようなインクジェット方式の記録装置(インクジェット記録装置)では、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と交差する方向(主走査方向)に記録ヘッドを走査させながら画像を記録する、いわゆるシリアル方式が主流である。このシリアル方式のインクジェット記録装置は、簡潔な構成によって比較的再現性および一様性などに優れた画像等の記録を行なうことができる等の利点を有している。特に、電気熱変換素子が発生する熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ、この気泡の圧力によって吐出口からインクを吐出する、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式は、比較的高密度に吐出口を配列でき、また記録動作に伴って発生する騒音が小さい等の種々の利点を有しているため、近年広く用いられている。
【0003】
ところで、インクジェット記録装置において、例えばコンピュータで処理した情報を出力する場合には、コンピュータの処理能力のために、インクジェット記録装置への入力情報の遅延が発生して、インクジェット記録装置が一時停止する場合がある。また、ユーザーの都合に応じて一時停止が可能なように、一時停止機能が設けられているインクジェット記録装置も多い。
【0004】
また、インクジェット記録装置においては、記録ヘッドのインク吐出状態を良好に保つための回復処理を行うべく、記録動作の一時停止を行う場合がある。記録ヘッドは、例えば、吐出口からのインク吐出に伴ってインクミストを発生したり、あるいは吐出されたインクが記録媒体に着弾したときの衝撃によってスプラッシュを発生することがある。これらのミストやスプラッシュなどは、吐出口が配列された記録ヘッドの吐出口面に付着して、その吐出口を塞ぐなどしてインクの吐出不良を生じさせる要因となる。回復処理は、このような要因によるインクの吐出不良の発生を未然に防止すべく、記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つための処理である。
【0005】
回復処理の1つとしては、ゴム等の弾性材からなるブレードを記録ヘッドの吐出口面に当接させて、それらのブレードと記録ヘッドとを相対移動(通常は、記録ヘッドを移動)させることにより、吐出口の周辺に付着したインクなどを拭き取って除去する、いわゆるワイピングがある。また、他の回復処理としては、画像の記録に寄与しないインクを吐出口から吐出させる、いわゆる予備吐出がある。記録ヘッドの複数の吐出口から、記録データに応じて選択的にインクを吐出して画像を記録する場合に、ある時間インクを吐出しない吐出口が存在することになる。その吐出口近傍のインクは外気に晒されたままとなるために粘度が増大し、その吐出口からインクを吐出するときに、そのインクの吐出量や吐出速度の減少、およびインクの吐出方向の偏向などを招いて、インクの吐出不良を生じさせるおそれがある。そこで、このような増粘したインクを除去すべく、画像の記録に寄与しないインクを記録装置の所定箇所に向かって吐出する予備吐出が行われる。
【0006】
回復処理のさらに他の形態としては、吸引回復が知られている。記録ヘッドの液路内や共通液室等に、例えば、インクの連続した吐出や記録装置の長期間の不使用などのために気泡が混入もしくは発生した場合には、その気泡が液路へのインクの供給やインクの吐出動作の妨げとなって、インクの吐出不良を生じさせるおそれがある。主に、このような吐出不良を未然に防止するために、ゴム等の材料で形成されたキャップを記録ヘッドの吐出口面に当接させてから、そのキャップ内に負圧を導入することによって、そのキャップ内に吐出口からインクを強制的に吸引排出させる吸引回復が行なわれる。
【0007】
以上のような各種回復処理は、画像の記録前、画像の記録終了後、あるいは画像の記録中における記録走査間にて実行される。このような回復処理により、記録ヘッドのインクの吐出状態を常に適切に保ち、画像品位の低下を防いで高品位の記録を行うことが可能となる。特に、バナー記録等のように、連続して比較的大きな記録面に記録を行う場合には、その記録動作における各記録走査の間にて回復処理を行うことが重要となる。
【0008】
ところで、記録動作中における記録ヘッド内のインクの温度(本明細書では、「記録ヘッドの温度」あるいは単に「ヘッド温度」ともいう)は、インクを吐出するために生ずるエネルギーによって、記録開始直後と比較して高くなるのが一般的である。記録動作中における記録走査の間にて記録動作を一時停止した場合には、その一時停止の間に記録ヘッドの温度が下がり、その温度低下に起因してインクの吐出量が減少し、記録動作の一時停止の前後における記録濃度が変化するおそれがある。
【0009】
このような記録ヘッドの温度低下は、記録動作の一時停止前の記録走査と、その一時停止後の記録走査との間に比較的長い放熱時間が存在するからであり、そのときの放熱量は、連続的に記録動作を行う場合の各記録走査の間における放熱量よりも多くなる。特に、上述したような回復処理のために一時停止した場合、その一時停止期間中における記録ヘッドの温度低下は、他の一時停止、例えば、入力データの遅延やユーザーの都合によって一時停止した場合よりも顕著となることが多い。
【0010】
具体的に、回復処理としてのワイピングを行うために一時停止した場合、そのワイピング動作に要する一定時間においては、記録ヘッドに対して熱エネルギーなどの吐出エネルギーが供給されずに、専ら記録ヘッドからの放熱が行なわれる。そのため、一時停止後に記録を再開した時の記録ヘッドの温度は、その一時停止前より低くなる。
【0011】
同様に、回復処理としての予備吐出を行うために一時停止した場合には、その予備吐出のための熱エネルギーなどの吐出エネルギーがインクにもたらされるものの、その吐出エネルギーは、記録動作中にインクにもたらされる吐出エネルギーに比べて少ない。そのため、予備吐出を行なう間における記録ヘッドからの放熱の影響が大きく、一時停止の前後におけるインクの吐出量が減少して記録濃度の変化が目立つほどに、記録ヘッドの温度低下を生ずることがある。
【0012】
また、回復処理としての吸引回復を行うために一時停止した場合には、上述のワイピングや予備吐出と同様に、その動作期間中における記録ヘッドから放熱量が大きく、熱エネルギーなどの吐出エネルギーがもたらされない。しかも、温度が高くなったインクが専ら排出されると同時に比較的温度の低いインクが供給されるため、記録ヘッドの温度低下が比較的顕著に生ずる。
【0013】
このように、記録動作の一時停止時によって記録ヘッドの温度が低下し、インクの吐出量の減少によって記録濃度が変化した場合、特に、その一時停止の前後における記録濃度の差が記録画像の隣接領域において生じた場合には、わずかな濃度差でも目立って、記録品位を低下させることになる。
【0014】
このような記録動作の一時停止の前後におけるインクの吐出量の変化を抑制するための技術としては、一時停止による記録ヘッドの温度低下を補うように、記録ヘッドを昇温させる温度制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。記録動作の一時停止中に記録ヘッドを昇温させることにより、その一時停止の前後における記録ヘッドの温度差を小さく抑えて、インクの吐出量の変化を抑制することができる。
【0015】
一方、近年のインクジェット記録装置では、画像品位の向上を目的として、記録媒体上の同じ記録領域に対して、記録ヘッドを主走査方向に複数回スキャンさせることによって画像の記録を完成させる方式、いわゆるマルチパス記録方式が採用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
図1は、マルチパス記録方式として、記録媒体上の同じ記録領域に対して、記録ヘッドを主走査方向に2回スキャンさせることによって画像の記録を完成させ2パス記録方式の説明図であり、記録ヘッドHの位置と、記録媒体P上に記録される画像の記録領域との関係を示す。
【0017】
記録ヘッドHが主走査方向(矢印X1方向)に移動しつつ、画像データに基づいてインクを吐出することによって記録媒体P上に画像が記録され、また、このように記録ヘッドHが1回スキャン動作する毎に、記録ヘッドHの幅の1/2に相当する幅(以降、1/2バンド幅と表現する)ずつ記録媒体Pが副走査方向(矢印Y方向)に搬送される。図1においては、記録媒体Pの位置を固定し、その記録媒体Pに対して記録ヘッドHが副走査方向と反対の方向に移動するものとして表現している。1回目のスキャン動作では、記録ヘッドHの幅に相当する1バンド幅の画像データの内、近接画素について間引かれた画像データを記録し、2回目のスキャン動作では、その1バンド幅の画像データの内、1回目のスキャン動作においては間引かれなかった画像データを記録する。
【0018】
したがって、記録媒体P上の画像の記録は、記録ヘッドHの2回のスキャン動作によって1/2バンド幅分ずつ完了される。すなわち、記録媒体P上の1/2バンド幅分の記録領域に対して、1回目のスキャン動作では近接画素について間引かれた画像データを記録し、2回目のスキャン動作では、1回目のスキャン動作においては間引かれなかった画像データを記録する。以降、1回目のスキャン動作を1/2パス目、2回目のスキャン動作を2/2パス目といい、また記録媒体P上の1/2バンド幅分の記録領域について、1/2パス目の記録のみが行われた領域を1/2パス記録領域、2/2パス目の記録も行われて画像が完成された領域を2/2パス記録領域という。
【0019】
図2は、2パス記録を行った場合に、記録動作の途中において記録される画像を示す模式図である。記録動作の途中において、副走査方向後端の1/2バンド幅分の記録領域は1/2パス記録領域であり、1/2パス目の記録によって、間引かれた画像データのみが記録される。そのため、その後端の1/2パス記録領域は画像が未完了であり、その領域の濃度は画像完成時の略1/2となる。
【0020】
【特許文献1】
特開平6−328723号公報
【0021】
【特許文献2】
特開昭60−107975号公報
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したようなマルチパス記録方式においては、記録動作の途中にて、その記録動作を一時停止した場合に、同じ記録領域に対する1回目のスキャン動作と2回目のスキャン動作との間の時間間隔(以下、記録時間差という)が一時停止に伴って変化し、それに起因して記録濃度が変化して、濃度ムラ(以下、放置ムラという)が発生することがある。
【0023】
図3および図4は、このような記録時間差の変化に起因する放置ムラについての説明図である。
【0024】
図3は、2パス記録方式における1回目と2回目のスキャン動作(1/2パス目と2/2パス目)との間の時間が短いときに、記録媒体102に対するインクの浸透と定着の様子を模式的に表した図である。同図(a)のように1/2パス目に吐出されたインク滴101aは、同図(b)のように、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向へ浸透し、インク成分である染料などの色素が記録媒体102と物理的および化学的に結合する。同図(c)のように2/2パス目に吐出されたインク滴101bも、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向に浸透するものの、同図(d)のように、先に着弾したインク滴101aが定着した領域にはあまり浸透・定着しない。その原因は、先に着弾したインク滴101aが未だ浸透しつつある状態にあることが考えられる。そのため、後から着弾したインク滴101bは、同図(d)のように、先に着弾したインク滴101aが浸透した領域のさらに下の方へ浸透・定着することになる。
【0025】
図4は、2パス記録方式における1/2パス目と2/2パス目との間の時間が長いときに、記録媒体102に対するインクの浸透と定着の様子を模式的に表した図である。同図(a)のように1/2パス目に吐出されたインク滴101aは、同図(b)のように、記録媒体102の表面に垂直な方向および表面に広がる方向へ浸透し、インク成分である染料などの色素が記録媒体102と物理的および化学的に結合する。同図(c)のように、2/2パス目に吐出されて後から着弾したインク滴101bは、先に着弾した101aが浸透・定着している領域に比較的多く浸透する。これは、先に着弾したインク滴101aが十分浸透して広がり、或いはその揮発成分が蒸発したため、記録媒体102の単位体積当たりのインク滴101aの量が減少し、後から着弾したインク滴101bが浸透できるようになったためではないかと考えられる。
【0026】
このように、1/2パス目と2/2パス目との時間間隔の変化により、記録媒体の表面付近に定着するインクの量、つまり染料などの色素の量が異なる。また、記録濃度は記録媒体の表面付近に定着する色素の光の吸収に対応するため、1/2パス目と2/2パス目との時間間隔の変化により、記録濃度が異なってしまう。
【0027】
したがって、マルチパス記録方式により画像を記録する場合、一時停止により記録が中断されると、その中断の前後の記録画像に放置ムラが生じてしまう。また、放置ムラの発生メカニズムから明らかなように、記録動作の一時停止の時間が長ければ長いほど、放置ムラの発生が顕著となり大きな問題となる。
【0028】
特に、前述したように、記録動作の一時停止の前後における記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の変化を抑制すべく、その一時停止中に記録ヘッドを昇温させようとした場合には、その記録ヘッドの昇温動作に伴なって記録動作の一時停止時間が増大し、その結果、放置ムラの発生も顕著になってしまう。
【0029】
本発明の目的は、いわゆるマルチパス記録方式において、記録動作を一時停止しても記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の減少を防止することができ、しかも記録動作の一時停止の時間に拘わらず濃度むらのない高品位の画像を記録することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御する温度制御手段と、前記一時停止の前に、画像の記録が未完成であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる記録制御手段とを備え、前記記録制御手段は、前記温度制御手段による温度制御の後に、前記一時停止を解除して記録動作を再開させることを特徴とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(記録装置の基本構成)
図5は、本発明の一実施形態に係わるインクジェット記録装置を示す上面図である。
【0032】
図5において、2は紙搬送系ユニットを含む記録装置本体を示し、本記録装置は比較的大判の記録用紙(記録媒体)に記録を行うものである。1はキャリッジを示し、12個の記録ヘッド5を搭載して、矢印X(X1,X2)の主走査方向に移動することにより、記録ヘッド5の記録用紙(記録媒体)に対する記録走査が可能となる。すなわち、キャリジ1は、ガイド軸11により、これに沿って主走査方向に移動可能に案内支持されており、またベルト13を介して伝達される駆動力によって主走査方向に往復移動される。なお、記録ヘッド5から吐出する使用インクとしては、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの他に、更に粒状感の低減を目的とした淡シアン、淡マゼンタを加えた計6色が採用されており、また、記録スピードの向上などを目的として、1色のインクに対して2個の記録ヘッド5が使用されている。すなわち、6色にインクに対して6つずつの計2組の記録ヘッド5は、主走査方向の一方のX1方向(以下、往走査の方向という)および他方のX2方向(以下、復走査の方向という)のそれぞれにおいて対称的に並ぶように配置されている。これにより、X1方向の往走査時とX2方向の副走査時における、計12個の記録ヘッド5からのインクの吐出順序を同じくして、記録ヘッド5の往走査と復走査の往復記録によって記録スピードを高めつつ、高品位の画像を記録することができる。
【0033】
また、1色のインク当たりに2個の記録ヘッド5に、インクを吐出可能な吐出口を記録用紙の搬送方向に沿って同一ピッチで列状に形成し、そして、一方の記録ヘッド5の吐出口列と他方の記録ヘッド5の吐出口列とを記録用紙の搬送方向に半ピッチずつずらするように、それらの記録ヘッド5を配置してもよい。この場合には、1色のインクに対して1個の記録ヘッド5を用いる場合に対して、記録用紙の搬送方向における記録密度を2倍にすることができる。記録装置は、必ずしも記録ヘッド5の往走査と復走査によって往復記録を行う構成に限定されず、往復の一方の走査のみよって記録をする片方向記録を行う構成であってもよい。
【0034】
30A、30B、30Cおよび30Dは回復機構であり、記録ヘッド5のインクの吐出状態を良好に保つための回復処理として吸引回復処理を行うと共に、記録ヘッド5の不使用時に記録ヘッド5を保護する。すなわち、これらの回復機構30A、30B、30Cおよび30Dは、インクの吐出口が形成された記録ヘッド5の吐出口面に当接可能なキャップを備えており、そのキャップを記録ヘッド5の吐出口面に当接させてから、そのキャップ内に不図示のポンプからの負圧を導入することによって、画像の記録に寄与しないインクを記録ヘッド5の吐出口からキャップ内に強制的に吸引排出させる。またキャップは、記録ヘッド5の不使用時に吐出口面に当接することによって、記録ヘッド5の吐出口を保護する。
【0035】
31は、各記録ヘッド5の予備吐出動作によって吐出されるインクを受容する予備吐出インク受領箱である。予備吐出は、記録ヘッド5に対する回復処理の他の1つであり、画像の記録に寄与しないインクを吐出口から予備吐出インク受領箱31に向かって吐出させる。32は、各記録ヘッド5の吐出口面のワイピング動作を行うためのワイピング機構である。ワイピングは、予備吐出は、記録ヘッド5に対する回復処理の更に他の1つであり、ゴム等の弾性材からなるブレードを記録ヘッド5の吐出口面に当接させて、それらのブレードと記録ヘッド5とを相対移動(本例の場合は、記録ヘッド5を移動)させることにより、吐出口の周辺に付着したインクなどを拭き取って除去する。
【0036】
以上のように構成された記録装置は、ホスト装置から記録データを受け取ると、図示しない紙搬送ユニットによって送られる記録用紙に画像を記録すべく、キャリッジ1をガイド軸11に沿って主走査方向(X1またはX2方向)に移動させつつ、記録ヘッド5からインクを吐出させることにより、記録用紙に1バンド分の画像を記録する。そして、紙搬送ユニットによって、記録用紙をキャリッジ1と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向に搬送する。キャリッジ1の移動位置を検出するために、そのキャリッジ1の移動経路に沿ってエンコーダフィルム12が配設されている。すなわち、キャリッジ1に搭載されたエンコーダセンサがエンコーダフィルム12を検出し、その検出信号に基づいてキャリッジ1の移動位置を検出することができる。また、このエンコーダセンサの検出信号に基づいて、キャリッジ1を所定のホームポジション(本例では、回復機構30A、30B、30Cおよび30Dと対応する位置)に移動制御する。
【0037】
それぞれの記録ヘッド5には、例えば、副走査方向に並ぶように256個の吐出口が600dpi(ドット/インチ)の密度で配列されており、各吐出口からインクを吐出することができる。吐出口からのインクの吐出方式は任意であり、例えば、ピエゾ素子を用いて吐出する方式、または電気熱変換体(ヒータ)の発熱を利用して吐出する方式などであってもよい。本例の記録ヘッド5は、電気熱変換体の発熱を利用してインクを吐出する構成となっている。すなわち、各吐出口に連通する各インク液路内に電気熱変換体を備え、その電気熱変換体から発生する熱エネルギーによって、インク液路内のインクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、そのときの圧力によって、インク液路と対応する吐出口からインクを吐出する。また、各記録ヘッド5には、電気熱変換体が設けられた基板と同一の基板上に、各記録ヘッド5の温度検知用の温度センサ211(図6参照)が設けられている。
【0038】
(記録装置の制御系)
図6は、図5のインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。
【0039】
図6において、200は本記録装置の主制御部をなすコントローラを示し、後述する図8などのシーケンスを実行するマイクロコンピュータ形態等のCPU201、そのシーケンスの実行手順に対応したプログラムやテーブル,ヒートパルスの電圧値,パルス幅,その他の固定データを格納するROM202、および記録データを展開する領域や作業用の領域等が設けられたRAM203を有する。204は環境温度センサであり、記録装置の環境温度を検出してコントローラ200に入力する。また、205は記録データの供給源をなすホスト装置を示し、このホスト装置205からの記録データ、その他コマンド、ステータス信号等は、インターフェース(I/F)206を介して、コントローラ200及びバンドメモリ207との間にて送受信される。
【0040】
208はマスクパターンセレクタであり、CPU201に接続されて制御され、その出力はマルチパスデータ処理部209に入力される。207はバンドメモリであり、記録のための画像データがインタフェース206から転送され、CPU201の制御によって、所定の幅に分割された記録領域の記録に必要な画像データが1バンド分の画像データとしてストアされる。バンドメモリ207の出力は、マルチパスデータ処理部209に入力される。マルチパスデータ処理部209は、CPU201の制御によって、分割された記録領域の記録を複数回のスキャンで完了させるように画像データの間引き処理を実行し、1スキャン分の画像データを生成してヘッドドライバ210に出力する。ヘッドドライバ210は、記録や予備吐出の際に、記録データ等に応じて記録ヘッド5の電気熱変換体(インク吐出用のヒータ)を駆動する。記録ヘッド5はヘッドドライバ210により制御され、キャリッジ動作と同期しながら、記録ヘッド5の吐出口からインクを吐出させることによって、1スキャン分の記録を実行する。また、各記録ヘッド5には温度センサ211が備えられ、各温度センサ211によって検出された各記録ヘッド5の温度の検出値がコントローラ200に入力されることにより、後述する図10のヘッド温度の制御を行なうことができる。
【0041】
212は、キャリッジ1を主走査方向に移動させるための駆動源となる主走査モータ、213は、そのドライバをそれぞれ示す。また214は、記録用紙を復走査方向に搬送するための駆動源となる副走査モータを示し、215は、そのドライバを示す。
【0042】
(記録動作)
次に、本実施形態のインクジェット記録装置によって、所定幅ずつの記録領域に対して2回の走査によって画像を記録(2パス記録)する動作について説明する。図7は、2パス記録動作を一時停止させてから再開させる場合の記録ヘッド5の位置と記録領域との関係を示す模式図である。図7においては、記録用紙の位置を固定し、その記録用紙に対して記録ヘッド5が矢印Yの副走査方向と反対の方向に移動するものとして表現している。図8は、CPU201の制御動作を示すフローチャートである。
【0043】
図8において、先ず、インタフェース206を経由して記録要求コマンドがCPU201に入力されると、CPU201は1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込む(ステップS401)。次に、マルチパスデータ処理部209は、バンドメモリ207から1バンド分の全ての画像データを読み出す(ステップS402)。次に、CPU201は、記録動作の中断要求(一時停止の要求)の有無を判定する(ステップS403)。その中断要求がなければ、マルチパスデータ処理部209において、2パス記録を行うための間引き処理を行う(ステップS404)。この間引き処理は、バンドメモリ207から読み出した画像データを所定のマスクパターンでマスクすることにより実現される。本実施形態では、2パス記録の1回目のスキャンで記録する画像データを間引くためのマスクパターンとして、図9(a)に示す千鳥パターンを用い、2回目のスキャンで記録する画像データを間引くためのマスクパターンとして、図9(b)に示す逆千鳥パターンを用いる。以下においては、1回目のスキャンのときに記録ヘッド5がX1方向に往走査し、2回目のスキャンのときに記録ヘッド5がX2方向に復走査するとして説明する。また、説明の簡略化のために、記録ヘッド5は8個のインク吐出口が1列に配列されているものとする。
【0044】
次に、間引かれた画像データをヘッドドライバ210に出力し、キャリッジ1を主走査方向にスキャンさせながら、間引かれた画像データに基づいて記録ヘッド5からインクを吐出させて、記録用紙上に画像を記録する(ステップS405)。例えば、ステップS404において千鳥パターンによって画像データが間引かれ、ステップS405において、図7中の段階Aのように記録ヘッド5がX1方向に往走査しつつ、千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づいて1スキャン分の全領域に間引き画像を記録する。そして、記録ヘッド5からのインクの吐出と共に、各記録ヘッド5の温度を温度センサ211により検出してモニタする(ステップS406)。すなわち、計12個の記録ヘッド5のそれぞれの温度T1〜T12を検出して、コントローラ200のRAM203に格納する。
【0045】
そして、1スキャン分の間引き画像の記録が終了したら、記録用紙を1/2バンド幅分だけ矢印Yの復走査方向に搬送する(ステップS407)。このステップS407における記録ヘッド5の位置は、図7中の段階Aよりも1/2バンド幅分だけずれた段階Bになる。そして、記録用紙1枚分の記録が全て完了していなければステップS401に戻り、インタフェース206から次の画像データの転送要求を出力して、外部ホスト装置などから新たに転送されてくる画像データをCPU201の制御によってバンドメモリ207に書き込む。以下、前述と同様のステップS402からステップS407の処理をする。その場合、ステップS404においては逆千鳥パターンによって画像データが間引かれ、またステップS405においては、図7中の段階Bのように記録ヘッド5がX2方向に復走査しつつ、逆千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づいて1スキャン分の全領域に間引き画像を記録する。
【0046】
以下、ステップS401からステップS408までの動作を繰り返すことにより、千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づく往走査記録と、逆千鳥パターンを用いて間引かれた記録データに基づく復走査記録と、を交互に繰り返して、記録用紙上の全ての記録領域に画像を記録する。そして、記録用紙上の全ての記録領域についての画像を記録したときに、2パス記録動作が完了する。
【0047】
(記録動作の一時停止前の動作)
次に、記録動作を一時停止する場合の動作について説明する。
【0048】
ステップS401において、CPU201が記録動作を中断(一時停止)する必要有りと判断した場合には、先ず、記録動作の中断要求フラグをセットする。CPU201は、例えば、記録ヘッド5の回復処理が必要と判断したときに、記録動作の中断要求フラグをセットする。以下においては、回復処理の1つとしての吸引回復動作を行うために、記録動作を中断する場合の中断処理(ステップS409)について説明する。また以下においては、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに、中断要求があった場合について説明する。図10は、図8における中断処理を説明するためのフローチャートである。
【0049】
中断要求の発生により中断要求フラグがセットされると、マルチパスデータ処理部209は、2パス記録を行うための画像データの間引き処理を行う(ステップS501)。次に、間引かれた画像データをヘッドドライバ210に出力し、キャリッジ1を主走査方向に移動させながら、間引かれた画像データに基づいて記録ヘッド5からインクを吐出させることによって、記録用紙上に間引き画像を記録する(ステップS502)。ここまでの処理は、中断要求が無い場合の通常の処理と同じである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、ステップS501において、図9(b)の逆千鳥パターンを用いて画像データが間引かれ、ステップS502において、その間引かれた画像データに基づいて、記録ヘッド5が図7中の段階Bのように通常の復走査記録を行う。
【0050】
次に、通常の処理のような1/2バンド幅分の記録用紙の搬送は行わずに、CPU201が1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込む(ステップS503)。次に、マルチパスデータ処理部209は、バンドメモリ207から1バンド分の全ての画像データを読み出し(ステップS504)、CPU201は、マスクパターンセレクタ208によって間引き処理のためのマスクパターンを切り換える(ステップS505)。
【0051】
マスクパターンセレクタ208は、通常、CPU201の制御によって図11(b)のマスクパターンを選択している。この図11(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の全ての吐出口に対応する後述の元パターンを有効とするマスクパターンである。通常、マルチパスデータ処理部209が千鳥パターンによって画像データを間引く場合には、図11(a)と図11(b)のマスクパターンを掛け合わせた図11(c)のマスクパターンを用いる。図11(a)のマスクパターンは千鳥パターンの元パターンに相当し、図11(b)のマスクパターンと掛け合わされることによって、通常の画像データの間引きに用いられる図11(c)の千鳥パターンとなる。
【0052】
一方、中断処理のステップS505の場合、マスクパターンセレクタ208はCPU201の制御によって図12(b)のマスクパターンを選択する。その図12(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5における記録媒体の搬送方向上流側の半分の吐出口(図7中下側の1/2バンド幅の範囲S2内の吐出口)に対応する元パターンを有効とし、かつ記録ヘッド5における記録媒体の搬送方向下流側の半分の吐出口(図7中上側の1/2バンド幅の範囲S1内の吐出口)に対応する元パターンを無効とするマスクパターンである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、ステップS506において、図12(a)の千鳥パターンの元パターンと図12(b)のマスクパターンとを掛け合わせた図12(c)のパターンを用いて、マルチパスデータ処理部209が画像データを間引く。図12(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の全吐出口の内、図7中上側半分の範囲S1内の吐出口による記録動作を禁止することになる。
【0053】
ステップS506にて間引かれた画像データはCPU201によってヘッドドライバ210に出力され、記録ヘッド5は、図7中の段階Cにおいて範囲S2内の吐出口からインクを吐出して、間引き画像を往走査記録する(ステップS507)。段階B,Cでは、副走査方向における記録ヘッド5の位置が同じであり、記録ヘッド5は、段階Cにおいて範囲S2内の吐出口からインクを吐出することによって、先の段階Bの記録領域における下側半分の領域P1と相互補完の関係にある間引き画像を記録して、その領域P1に対して2/2パス目の記録を完了する。この段階Cにおいては、記録ヘッド5の範囲S1の吐出口による記録動作が禁止されることになる。
その後、記録動作を休止して一時停止の状態になり、図7中の段階Dに移行する。
【0054】
なお、本実施形態の場合は、中断要求があった後に、図7中の段階Bのように通常と同じ復走査記録(ステップS501,S502)を行ってから、段階Cのように、記録用紙を搬送せずに記録領域P1の画像を完成させている(ステップS503〜507)。しかし、中断要求があった後に、段階Bのような通常と同じ副走査記録を行うことなく、記録用紙を搬送せずに記録領域P1′の画像を完成させるようにしてもよい。その場合には、図10の中断処理をステップS505からスタートさせればよく、また記録領域P1′と相互補完の関係にある画像は、後述する図24(a),(b)のパターンを掛け合わせた同図(c)の逆千鳥パターンを用いて間引くことができる。中断要求は、上述したように図7中の段階Aのような往走査記録を行っているときのみに限定されず、図7中の段階Bのような副走査記録を行っているときにあってもよく、その場合には、中断処理における記録ヘッド5の往走査と副走査の関係や用いるパターンの千鳥と逆千鳥の関係が逆になる。
【0055】
(記録動作の一時停止中の動作)
本例の場合は、記録動作の一時停止の間に、CPU201が所定の吸引回復動作を実行する(S508)。また、その時点において、RAM203に格納されている各記録ヘッド5の検出温度T1〜T12を吸引回復動作前の温度Tb1〜Tb12として確定する。そして、この確定したヘッド温度Tb1〜Tb12の平均Taveを算出してRAM803に格納する(ステップS509)。図13は、各記録ヘッド5の確定したヘッド温度Tb1〜Tb12の一例の説明図である。この図の例では平均温度Taveが43℃となる。
【0056】
このように、吸引回復動作を終了してから平均温度Taveを求め(ステップS508,S509)、その平均温度TaveよりもT℃高い温度を目標温度(Tave+T)として、各記録ヘッド5の温度制御を行う。本例ではT=3として温度制御を行った。すなわち、各記録ヘッド5について、温度センサ211によって検出されるヘッド温度と、コントローラ200に格納されている目標温度(Tave+T)と、を比較する(ステップS510)。そして、検出されるヘッド温度が目標温度(Tave+T)よりも低い場合には、ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達するまで記録ヘッド5を加熱する。本例の場合は、図14に示すパルスを対応する記録ヘッド5の電気熱変換体に供給することによって、記録ヘッド5内のインクを加熱する。すなわち、このパルスは、記録ヘッド5の吐出口からインクを吐出させない程度に電気熱変換体を発熱させて、その熱エネルギーをインクに与えるものであり、このパルスを用いてヘッド温度を制御する(ステップS511)。そして、ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達してからは、追加時間として計測し始める(ステップS512)。その追加時間は、ヘッド温度の制御を継続するための時間Nsecであり、本例ではN=5とした。ヘッド温度が目標温度(Tave+T)に達した後もヘッド温度の制御を継続し(ステップS510,S511)、全ての記録ヘッド5の温度が最初に目標温度(Tave+T)に達した後、追加時間Nsec経過してから(ステップS513)、一時停止を解除して記録動作を再開する。
【0057】
図15〜図19は、このようなヘッド温度の制御の効果を説明するための図である。
【0058】
まず、比較例として、前述したヘッド温度の制御を行わなかった場合のヘッド温度の推移の一例を図15に示す。この図15は、横軸に記録用紙(記録媒体)上の記録位置をとり、縦軸にヘッド温度をとることにより、記録用紙に記録がなされていくに従って、ヘッド温度が変化する様子を示したものである。
【0059】
図15において、A点は吸引回復動作を行った位置であり、このA点よりも以前の記録位置においては、記録データに応じて比較的連続してインクを吐出のための熱エネルギーが供給されるため、ヘッド温度は記録開始直後から徐々に高くなてきている。一方、A点以後の記録位置において、記録を再開した直後のヘッド温度は、吐出回復動作前と比較して顕著に低くなる。吸引回復動作中は熱エネルギーがインクに供給されずに、専ら放熱が行なわれ、さらに、記録ヘッドのインク液路には比較的温度の低い新たなインクが流入するためである。ヘッド温度とインクの吐出量との間には、図16に示すような一定の関係、すなわちヘッド温度が高いほどインクの吐出量が多くなる関係がある。そのため、特に、上記A点におけるインクの吐出量が顕著に低下する。そのため、記録動作の途中で吸引回復処理を行った後にヘッド温度の制御を行わなかった場合には、図17に示すように、A点の前後の記録位置において比較的大きな濃度変化が発生する。この濃度変化は、記録画像において互いに隣接する領域で発生するため、微小な濃度変化(例えばOD差で0.02程度)でも大きく目立ち、記録品位を低下させる。
【0060】
これに対し、前述したヘッド温度の制御を行った場合のヘッド温度の推移の一例を図18に示す。
【0061】
同図に示すように、A点よりも以前の記録動作中におけるヘッド温度は、図15に示した例と同様である。しかし、上述したように、吸引回復動作の終了直後から記録動作を再開するまでに、パルス加熱によってヘッド温度を制御することにより、記録動作を再開して記録ヘッド5が記録用紙上の記録領域に達したときのヘッド温度は、吸引回復動作の直前のヘッド温度と略等しくなる。図19は、このようなヘッド温度の制御を行った場合の記録濃度の変化を示す図である。この図に示すように、吸引回復動作を行ったA点の前後の記録位置では顕著な濃度変化が発生しない。
このように、前記一時停止を解除して記録動作を再開する前に、ヘッド温度を制御して記録ヘッド5を昇温させることにより、吸引回復動作の前後におけるインクの吐出量の変化を抑えて、記録濃度の変化を抑制することできる。
【0062】
(記録動作の再開)
一時停止を解除して記録動作を再開する際には、まず、記録用紙の搬送動作を実行する(ステップS514)。ここでの記録用紙の搬送量は、図7中の段階Eのように、通常の搬送量(1/2バンド幅)よりも所定量ΔLだけ小さく設定する。
【0063】
以下、このように記録媒体の搬送量を通常よりも小さくすべく、その減少分(減算値)ΔLを設定する理由について説明する。
【0064】
記録用紙の搬送動作は、前述したモータドライバ215により、副走査モータ214を駆動することで実現される。この副走査モータ214の駆動量によって搬送量を制御するが、その駆動量のばらつき、紙搬送ユニットと記録用紙との間のスリップ等により、μmレベルの搬送量誤差が発生することがある。搬送量が大きくなった場合には、図20(a)のように、記録画像上に主走査方向に平行な白いスジが発生する。すなわち、前述した図10の中断処理によって記録動作の中断前に画像が完成された記録領域P1(図7参照)と、その中断後に再開する記録動作による記録領域P2(図7参照)との間において、記録用紙の搬送量が大きい搬送量L1となった場合には、記録領域P1,P2の間に画像が記録されない白スジが発生する。図20(b)のように、記録領域P1,P2との間において、記録媒体の搬送量が誤差のない理想的な搬送量Lである場合には、白スジは発生しない。逆に、搬送量が小さくなった場合には、図21(a)のように、記録画像上に主走査方向に平行な黒いスジが発生する。すなわち、記録領域P1と記録領域P2との間において記録媒体の搬送量が小さい搬送量L2となった場合には、記録領域P1,P2の画像が部分的に重なって黒スジが発生する。図21(b)のように、記録領域P1,P2との間において、記録媒体の搬送量が誤差のない理想的な搬送量Lである場合には、黒スジも発生しない。
【0065】
このような白スジや黒スジは、前述した図10の中断処理によって記録領域P1における画像を完成させて、その記録領域P1を2/2パス記録領域としてから記録動作を中断したために、生じやすくなる。すなわち、記録領域P1の画像を完成させる記録走査と、記録領域P2の画像を完成させる記録走査が全く共通せず、このように共通しない記録走査によって完成された画像が隣接することになるからである。このような白スジおよび黒スジは、μmレベルの搬送量誤差で発生することから、それらを完全に無くすことは困難を極める。
【0066】
仮に、記録領域P1における画像を完成させず、その記録領域P1を1/2パス記録領域としたまま記録動作を中断し、その中断後に再開する記録動作によって、その記録領域P1における画像を完成させて、2/2パス記録領域とした場合には、白スジや黒スジは発生し難くなる。その理由は、記録領域P1に対する2パス目の記録走査と、記録領域P2に対する1パス目の記録走査とを共通化し、このように共通する記録走査によって完成された画像を隣接させることができるからである。しかし、この場合には、記録領域P1における1パス目と2パス目の記録走査の間にて記録動作が中断するため、前述したように、記録時間差に起因する濃度ムラ(放置ムラ)が発生して記録品位の低下を招いてしまう。
【0067】
そこで、本実施形態においては、記録動作の中断前に記録領域P1の画像を完成させて放置ムラの発生を防止した上、白スジと黒スジの影響度を考慮して、記録用紙の搬送量を通常よりも小さく設定した。
【0068】
すなわち、本発明者は、記録用紙の搬送量を大きくする方向または小さくする方向に同等量の搬送誤差が生じた場合、つまり搬送量誤差の絶対値が等しい場合には、搬送量が大きくなったときに生じる白スジが画像欠陥として顕著に目立つものの、搬送量が小さくなったときに生じる黒スジは、許容できる程度の画像欠陥であることが多いことを見出した。図22は、搬送量誤差の絶対値が等しい場合に、その搬送量の増減に対する白スジ及び黒スジの画像欠陥に与える影響を官能評価で示した表である。ここでは5段階評価を行い、画像欠陥として致命的なものは5点、致命的ではないものの重大な欠点を4点、軽微なものを3点、著しく軽微なものを2点、画像欠陥が認められないものを1点とした。この表から明らかなように、同等の搬送量誤差の場合には、搬送量が大きいときに生じる白スジが画像欠陥として顕著に目立つものの、搬送量が小さいときに生じる黒スジは、許容できる程度の画像欠陥である場合が多い。
【0069】
そこで、本実施形態においては、記録の再開に先立って記録用紙の搬送動作を行った上、その搬送量を通常よりも小さくするための減算値を設定することによって、画像欠陥として顕著に目立つ白スジを抑制する。また、記録用紙の搬送量誤差は1回の搬送動作当たりの搬送量に依存、つまりマルチパス記録方式における記録パス数(本例の場合の記録パス数は2)に依存する。したがって、記録パス数に応じて搬送量の減算値を変更することが望ましい。本実施形態においては、図23に示す減算値のテーブルのように、記録パス数に応じた3段階の減算値を設けた。2パス記録を行う場合には、減算値を10μmに設定する。
【0070】
また、このように記録の再開に先立って記録用紙を搬送し、さらに、その搬送量を通常よりも小さく設定することは、図5のように比較的大判の記録媒体に記録を行う記録装置、特に、ロール状に巻回された大幅の記録媒体に記録を行う記録装置において有利となる。すなわち、このように大きな記録媒体に画像を記録する場合には、記録ヘッド5と対向する記録位置における記録媒体の部分に対して、その記録位置から搬送方向に排出された記録済みの記録媒体の部分の重量が張力として作用し、記録動作を中断している間に、記録位置における記録媒体が搬送方向にずらされるおそれがあるからである。
【0071】
このような搬送動作の終了後は、CPU201の制御によって、1バンド分の画像データをバンドメモリ207に書き込み(ステップS515)、バンドメモリ207から1バンド分の画像データを読み出し(ステップS516)、マスクパターンセレクタ208によって図24(b)のマスクパターンを設定する(ステップS517)。その図24(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の範囲S2(図7参照)内の吐出口に対応する後述の元パターンを有効とし、かつ記録ヘッド5の範囲S1(図7参照)内の吐出口に対応する元パターンを無効とするマスクパターンである。本例のように、図7中の段階Aにて記録ヘッド5が往走査記録を行っているときに中断要求があった場合には、図24(a)の逆千鳥パターンの元パターンと図24(b)のマスクパターンとを掛け合わせた図24(c)のパターンを用いて、マルチパスデータ処理部209が画像データを間引く(ステップS518)。図24(b)のマスクパターンは、記録ヘッド5の範囲S1内の吐出口による記録動作を禁止することになる。
【0072】
そして、間引かれた画像データに対応したヘッド駆動信号がヘッドドライバ210に出力され、図7中の段階Eのように、記録ヘッド5によって記録用紙に間引き画像が記録される(ステップS519)。
【0073】
その後、CPU201は、通常の2パス記録を連続して実行するために、マスクパターンセレクタ208によって図11(b)のマスクパターンを選択し(ステップS520)、このマスクパターンを使用してステップS501からステップS507までの処理を順次繰り返す。したがって、通常の2パス記録が継続される。記録動作の再開によって記録される記録領域P2の画像は、図7中の段階Fにおいて完成される。
【0074】
このように、一時停止前に記録領域P1の画像を2パス記録によって完成させ、記録動作の再開後に、記録領域P2の画像を2パス記録によって完成させる。このような記録によって、前述した放置ムラを抑制する効果が生じる。その効果を図25によって説明する。
【0075】
図25は、一時停止前に記録領域P1の画像を2パス記録によって完了させなかったときの放置ムラの官能評価(従来例)と、一時停止前に記録領域P1を2パス記録によって完成させたときの放置ムラの官能評価(本実施形態)と、を示す図である。ここでは、5段階評価を行い、放置ムラが画像欠陥として致命的なものは5点、致命的ではないものの重大な欠点を4点、軽微なものを3点、著しく軽微なものを2点、画像欠陥が認められないものを1点とした。また、記録動作の中断時間は、上述したようなヘッド温度の制御を行った場合に約60secとなり、そのヘッド温度の制御を行わなかった場合は約30secとなった。従来例の場合には、ヘッド温度に起因するインク吐出量の変化を抑制すべくヘッド温度の制御を行った結果、中断時間が約2倍となって放置ムラが著しく悪化した。しかし、本実施形態の場合には、ヘッド温度に起因するインク吐出量の変化を抑制すべくヘッド温度の制御を行った結果、中断時間が約2倍となっても放置ムラの発生を抑制することができた。
【0076】
したがって、記録動作中に記録ヘッドの吸引回復動作をするために、記録動作を比較的長く一時停止させた場合に、記録動作の再開前に記録ヘッドを昇温させるべくヘッド温度を制御することにより、一時停止の前後におけるインクの吐出量の変化を抑制することができ、さらに、そのヘッド温度の制御に伴って一時停止の時間が増大しても、一時停止前の記録領域の画像をマルチパス記録(本例の場合は、2パス記録)によって完成させてから一時停止することによって、放置ムラを抑制することができる。また、記録動作の再開に先立って記録媒体の搬送動作を行い、かつ、その搬送量を通常時よりも小さく設定することにより、画像欠陥として顕著に目立ってしまう白スジの発生を抑制することができる。
【0077】
また、記録動作の一時停止は、吸引動作の他、記録ヘッドの回復処理としてのワイピング動作や予備吐出動作を行なうためであってもよく、さらに入力データの遅延による一時停止、ユーザーの都合による一時停止、その他一時停止動作であってもよく、いずれの一時停止においても上述した実施形態と同様の中断処理を行うことができる。したがって、いずれの一時停止の場合にも、一時停止後にヘッド温度を制御することにより、その一時停止の前後における記録ヘッドの温度差に起因するインクの吐出量の変化を抑制することができ、しかも、そのヘッド温度の制御に伴って一時停止の時間が増大しても放置ムラを抑制して、濃度ムラのない高品な画像を記録することができる。
【0078】
(他の実施形態)
本発明は、複数のインク吐出口を備える記録ヘッドを用いて画像を記録可能な種々のインクジェット記録装置に適用することができる。例えば、同一または色彩などが異なるインクを用いてカラー画像を記録する記録装置、同一色彩で異なる濃度のインクを用いて多階調の画像を記録する記録装置、さらに、これらの機能を組み合わせた記録装置に対して同様に本発明を適用することによって、同様の効果を達成することができる。
【0079】
さらに、本発明は、記録手段としての記録ヘッドとインクタンクとを一体化した交換可能なインクジェットカートリッジを用いる構成、記録手段としての記録ヘッドとインクタンクとを別体にして、それらの間をインク供給用のチューブ等で接続する構成など、記録手段とインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用して、同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、本発明は、特に、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式の記録手段を用いるインクジェット記録装置に対して、好適に適用して優れた効果を発揮することができる。その場合には、その熱エネルギーを発生する電気熱変換体を利用して、ヘッド温度を制御すべく記録ヘッドを昇温することができる。
【0081】
また、記録ヘッドの温度制御には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する電気熱変換体の他、記録ヘッドに備えた加熱用の電気熱変換体(ヒータ)等、種々の温度調整手段を用いることができる。その温度調整手段としては、記録ヘッドの温度を下げる冷却手段を備えてもよい。また、記録ヘッドの温度制御方式は、上述した実施形態のみに限定されず任意であり、要は、記録ヘッドの温度変化に起因するインクの吐出量の変化を小さく抑えて、記録濃度の変化を抑制することができればよい。例えば、記録ヘッド毎に、記録再開時の温度を記録動作の一時停止前の温度に戻すように温度制御してもよい。また、記録装置本体の内部や周辺の環境温度を環境温度センサ204(図6参照)によって検出し、その環境温度をも考慮して、記録再開時の記録ヘッドの温度を記録動作の一時停止前の温度に確実に戻すように温度制御してもよい。
【0082】
以下に、本発明の実施態様の例を列挙する。
[実施態様1] インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、
前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御する温度制御手段と、
前記一時停止の前に、画像の記録が未完成であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる記録制御手段とを備え、
前記記録制御手段は、前記温度制御手段による温度制御の後に、前記一時停止を解除して記録動作を再開させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0083】
[実施態様2] 主走査方向における前記記録ヘッドの走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向における前記記録媒体の搬送と、を繰り返すことによって前記記録媒体上に画像を記録し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるために前記記録ヘッドが走査する前には、前記記録媒体を搬送させない
ことを特徴とする実施態様1に記載のインクジェット記録装置。
【0084】
[実施態様3] 前記記録制御手段は、前記一時停止後の記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くすることを特徴とする実施態様2に記載のインクジェット記録装置。
【0085】
[実施態様4] 主走査方向における前記記録ヘッドの走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向における前記記録媒体の搬送と、を繰り返すことによって前記記録媒体上に画像を記録し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるために前記記録ヘッドが走査する前には前記記録媒体を搬送させず、かつ前記記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くすることを特徴とする実施態様1に記載のインクジェット記録装置。
【0086】
[実施態様5] 前記記録制御手段は、前記記録媒体上の同じ記録領域に対して画像の記録を完成させるために必要な前記記録ヘッドの走査回数に応じて、前記記録再開時における前記記録媒体の搬送量を通常時よりも短くする量を異ならせることを特徴とする実施態様3または4に記載のインクジェット記録装置。
【0087】
[実施態様6] 前記温度制御手段は、前記記録ヘッドの温度を検出する温度検出部と、この温度検出部の検出温度に基づいて前記記録ヘッドを昇温可能な昇温部とを含むことを特徴とする実施態様1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0088】
[実施態様7] 前記記録制御手段は、前記一時停止を解除して記録動作を再開させるにあたり、前記一時停止前に記録が完成している記録領域の次の記録領域に対し画像の記録を行う
ことを特徴とする実施態様6に記載のインクジェット記録装置。
【0089】
[実施態様8] 前記記録ヘッドの複数回の走査毎に、異なるマスクパターンを用いて画像データを間引くことによって前記複数の吐出口からのインクの吐出を制限し、
前記記録制御手段は、前記未完了な記録領域に対しての記録を完成させるときに、画像の記録が完了している記録領域に対応する前記吐出口からのインクの吐出を制限するマスクパターンを用いることを特徴とする実施態様1から7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0090】
[実施態様9] 前記マスクパターンは、前記複数の吐出口に対応付けられる第1のマスクパターンと、前記未完了な記録領域に対応する前記吐出口に対応付けられる第2のマスクパターンと、を含むことを特徴とする実施態様8に記載のインクジェット記録装置。
【0091】
[実施態様10] 前記第2のマスクパターンは、前記未完了な記録領域の位置に基づいて前記第1のマスクパターンから求めることを特徴とする実施態様9に記載のインクジェット記録装置。
【0092】
[実施態様11] 前記一時停止中に、前記記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に保つための回復処理を行うことが可能な回復処理手段を更に備え、
前記温度制御手段は、前記一時停止中であって且つ前記回復処理の実行前における記録ヘッドの温度を検出し、前記回復処理後において、前記回復処理の実行前に検出された温度以上の所定温度に到達するまで前記記録ヘッドを昇温させ、
前記記録制御手段は、前記回復処理後における記録ヘッドの温度が前記所定温度以上に到達した後に前記記録動作を再開させることを特徴とする実施態様1から10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【0093】
[実施態様12] 前記回復処理手段は、前記記録ヘッドの吐出口から画像の記録に寄与しないインクを吐出させる予備吐出、前記記録ヘッドの吐出口からインクを吸引排出させる吸引回復、または前記記録ヘッドにおける吐出口の形成面を拭くワイピングの少なくとも1つを行うことを特徴とする実施態様11に記載のインクジェット記録装置。
【0094】
[実施態様13] インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録方法において、
前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御し、
前記一時停止の前に、画像の記録が未完了であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、いわゆるマルチパス記録方式において記録動作を一時停止した場合に、その一時停止中に記録ヘッドの温度を制御し、かつ、その一時停止前に、画像の記録が未完了であった記録領域に対しての画像の記録を完成させることにより、記録動作を一時停止しても記録ヘッドの温度低下に起因するインクの吐出量の減少を防止することができ、しかも記録動作の一時停止の時間に拘わらず濃度むらのない高品位の画像を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】マルチパス記録としての2パス記録を行った場合の記録ヘッドの位置と記録領域との関係の説明図である。
【図2】2パス記録を行った場合の記録動作の途中における記録画像の説明図である。
【図3】2パス記録において、1/2パス目と2/2パス目の記録の時間間隔が短い場合のインクの浸透と定着の様子の説明図である。
【図4】2パス記録において、1/2パス目と2/2パス目の記録の時間間隔が長い場合のインクの浸透と定着の様子の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係わるインクジェット記録装置の上面図である。
【図6】図5のインクジェット記録装置における制御系のブロック構成図である。
【図7】図5のインクジェット記録装置によって2パス記録を行った場合において、記録休止時及び記録再開時の記録ヘッドの位置と記録領域との関係の説明図である。
【図8】図6におけるCPUの記録処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】(a),(b)は、図5のインクジェット記録装置による2パス記録に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図10】図6のCPUによる中断処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】(a),(b),(c)は、図5のインクジェット記録装置において通常の記録処理時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図12】(a),(b),(c)は、図5のインクジェット記録装置において中断処理時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図13】図5のインクジェット記録装置における記録ヘッドの温度の一例の説明図である。
【図14】図5のインクジェット記録ヘッドにおける記録ヘッドの温度制御に用いるパルスの説明図である。
【図15】記録動作の途中にて吐出回復動作を行った後、記録ヘッドの温度制御を行わなかった場合の記録ヘッドの温度変化の様子の説明図である。
【図16】記録ヘッドにおけるインクの吐出量と温度との関係の説明図である。
【図17】記録動作の途中にて吐出回復動作を行った後、記録ヘッドの温度制御を行わなかった場合の記録画像の濃度変化の説明図である。
【図18】記録動作の途中にて吸引回復動作を行った後に、記録ヘッドの温度制御を行った場合の記録ヘッドの温度変化の説明図である。
【図19】記録動作の途中にて吸引回復動作を行った後に、記録ヘッドの温度制御を行った場合の記録画像の濃度変化の説明図である。
【図20】(a)は、記録媒体の搬送量が大きくなって白スジが発生した場合の記録結果の説明図、(b)は、記録媒体の搬送量に誤差が無くて白スジが発生しなかった場合の記録結果の説明図である。
【図21】(a)は、記録媒体の搬送量が小さくなって黒スジが発生した場合の記録結果の説明図、(b)は、記録媒体の搬送量に誤差が無くて黒スジが発生しなかった場合の記録結果の説明図である。
【図22】記録媒体の搬送量誤差の絶対値が等しい場合において、白スジと黒スジが画像欠陥に与える影響を官能評価した比較結果の説明図である。
【図23】記録パス数に応じて記録媒体の搬送量を異ならせる場合に用いる搬送量の減算値テーブルの説明図である。
【図24】図5のインクジェット記録装置において、記録再開時に用いるマスクパターンの一例の説明図である。
【図25】本発明の実施形態と従来例における放置ムラの官能評価の比較結果の説明図である。
【符号の説明】
1 キャリッジ
2 装置本体(搬送系ユニットを含む)
5 記録ヘッド
11 ガイド軸
12 エンコーダフィルム
13 ベルト
30A、30B、30C、30D 回復機構
31 予備吐出インク受領箱
32 ワイピング機構
101a、101b インク滴
102 記録媒体
200 コントローラ
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 環境温度センサ
205 ホスト装置
206 I/F(インターフェース)
207 バンドメモリ
208 マスクパターンセレクタ
209 マルチパスデータ処理部
210 ヘッドドライバ
211 温度センサ
212 主走査モータ
213 主走査モータドライバ
214 副走査モータ
215 副走査モータドライバ
Claims (1)
- インクを複数の吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体上の同じ記録領域に対して前記記録ヘッドを複数回走査させることより画像を記録し、かつ画像の記録の一時停止が可能なインクジェット記録装置において、
前記一時停止中に前記記録ヘッドの温度を制御する温度制御手段と、
前記一時停止の前に、画像の記録が未完成であった記録領域に対しての画像の記録を完成させる記録制御手段とを備え、
前記記録制御手段は、前記温度制御手段による温度制御の後に、前記一時停止を解除して記録動作を再開させることを特徴とするインクジェット記録装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002316706A JP2004148680A (ja) | 2002-10-30 | 2002-10-30 | インクジェット記録装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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Publications (1)
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Family
ID=32460331
Family Applications (1)
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---|---|---|---|
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Country | Link |
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JP (1) | JP2004148680A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006076223A (ja) * | 2004-09-13 | 2006-03-23 | Canon Inc | インクジェット記録装置、そのヘッド温度制御方法、及びそのヘッド温度制御プログラム |
JP2006110958A (ja) * | 2004-10-18 | 2006-04-27 | Canon Inc | インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法 |
JP2015074130A (ja) * | 2013-10-08 | 2015-04-20 | セイコーエプソン株式会社 | 液滴吐出装置及び液滴吐出方法 |
-
2002
- 2002-10-30 JP JP2002316706A patent/JP2004148680A/ja active Pending
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