JP2004147580A - セルロース系物質/無機物複合体、その製造法及び用途 - Google Patents

セルロース系物質/無機物複合体、その製造法及び用途 Download PDF

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邦彦 岡島
Atsushi Miyazawa
淳 宮沢
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Abstract

【課題】無機酸化物または水酸化物を組み込んだ新規なセルロ−ス複合体及びその製造法を提供する。
【解決手段】α−アルミ等の無機酸化物または水酸化物の微粒子をセルロース生産菌株の培養液に添加することにより、無機酸化物または水酸化物を組み込んだセルロ−ス複合体が形成される。この複合体は、研磨剤、フィルター等の材料として用いられる。
【選択図】 選択図なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロース産生微生物を用いてセルロース系物質/無機物複合体を製造する方法、セルロース系物質/無機物複合体及びその用途に関する。本発明のセルロース系物質/無機物複合体は、気体浄化フィルター、研磨材、ゴム加硫補強材、排煙脱硫材等の工業製品の材料として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
従来、セルロ−ス系物質生産菌として、数多くの微生物が知られている。例えば、アセトバクター属(酢酸菌)、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュ−ドモナス属、アクロモバクタ−属、アルカリゲネス属、アエロバクタ−属、アゾトバクタ−属、ズ−グレア属あるいはこれらの変異株が挙げられる。これらのうち、アセトバクター属については、具体的には、BPR2001株に代表されるアセトバクタ−・キシリナム・サブスピ−シ−ズ・シュクロファ−メンタ(Acetobacter xylinum subsp. sucrofermentans)、アセトバクタ−・キシリナム(A. xylinum)ATCC23768、アセトバクタ−・キシリナムATCC23769、アセトバクタ−・キシリナム ATCC14851、アセトバクタ−・キシリナムATCC11142、アセトバクタ−・キシリナムATCC10821等が挙げられる。
【0003】
これらの酢酸菌のセルロ−ス生産効率の向上を目指した方法は、株式会社バイオポリマ−・リサ−チ社を中心に多数の特許出願がなされている。例えば、これらの菌のN−メチル、N’−ニトロ、N”−ニトロソグアニジン(NTF)等用いて変異させた変異株を取得し、この菌株を用いる方法、培養時に高価な特殊薬剤を添加する方法(例えば、特許文献1〜8)、あるいは攪拌培養条件を制御する方法(例えば、特許文献9、10)など種々の検討がなされている。しかし、セルロースが、生産の経済性の点で、工業的に利用されるには、まだまだ、技術的改良が必要である。
【0004】
一方、本発明者らは、酢酸菌では利用不能の安価な廃糖蜜などを炭素源として用い、サルモネラ属、エンテロバクタ−属またはクリュ−ベラ属の微生物が、通気攪拌条件下で、培養系から分離容易な特殊な形状を持つセルロ−ス系物質産生することおよび培養温度の低下で、水溶性多糖群を生産することを見出し、これらの技術を開示している(特許文献11)。しかし、いずれのセルロ−ス系物質生産菌を用いても、セルロ−スの生産が酸素の存在下でしか行われず、酸素欠乏培養系では、本質的に嫌気培養に移行し、酢酸、エタノ−ル、アセトイン、2,3−ブタンジオ−ルなど嫌気発酵に特徴的な物質を生産してしまうという欠点があった。
【0005】
通気攪拌はこの欠点を補う有効な方法ではあるが、酸素消費速度が速いため、嫌気条件を免れることが出来ず、結果的に生産されるセルロ−ス系物質の対糖収率が低くなり、経済的見地から極めて不利であった。更に、生成したセルロ−ス系物質を2次製品とするには、特に離解操作など困難な操作が必要でプロセスコストにも大きな影響を及ぼしているのが現状である。
【0006】
特許文献
特許文献1 特開昭62−265990号公報
特許文献2 特開昭63−202394号公報
特許文献3 特開昭63−74490号公報
特許文献4 特開平2−238888号公報
特許文献5 特開平6−43443号公報
特許文献6 特開平5−1718号公報
特許文献7 特開平7−184677号公報
特許文献8 特開平7−184675号公報
特許文献9 特開平9−094094号公報
特許文献10 WO97/12987号公報
特許文献11 特開2001−321164号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のセルロ−ス系物質生産菌、特に本発明者らによって見出されたエンテロバクター属に属するCJF002株(FERM P−17799)を用いて、糖類を炭素源とした培地において、セルロ−ス系物質の生産を飛躍的に増加できることを見出した。特に、前記CJF002株の培養で生産されるセルロ−ス系物質と無機物との複合体が得られることを見出した。そしてこの複合体は、工業的利用価値の高い新規セルロ−ス系物質材料となり、またこの無機複合体の製造において操作性の優れたバイオプロセスを提供することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、セルロース系物質生産菌を用いてセルロース系物質の生産を飛躍的に高めるセルロース系物質の製造法を提供することにある。
また、本発明の課題は、セルロース系物質生産菌を用いてセルロース系物質と特定の無機物との複合体及びこの複合体の製造法を提供することにある。さらに、本発明の課題は、このような複合体を操作性よく生産し各種の工業用材料に提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため、詳細な培養実験を行い、電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能を持つ無機酸化物または水酸化物を培養系内に存在させることにより嫌気発酵生産物の生産を制御し、セルロ−ス系物質の生産を飛躍的に増加させ得ること、および、前記無機物と生産されるセルロ−ス系物質を複合体のまま回収することにより、分離、回収及び精製を容易とするプロセスを見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、セルロース系物質産生微生物の培養に際し、糖質などを炭素源とし、電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能をもつ無機酸化物または水酸化物の無機微粒子を培養系に共存させて培養し、セルロース系物質/無機物複合体を形成させ、これを採取することよりなるセルロース系物質/無機物複合体の製造法に関する。
本発明における電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能を持つ無機酸化物または水酸化物としては、α−アルミナ、γ−アルミナその他の無機物が用いられる。また、セルロース産生微生物としては、エンテロバクター属、アセトバクター属(酢酸菌)、その他のセルロース系物質生産能を有する微生物が用いられる。このうち、特にエンテロバクターCJF0002(FERM P−17799)株を用いることが望ましい。培養系、特に培地には、炭素源として糖質、特に廃糖蜜、澱粉水解物等を用い、前記微生物を10〜10cfu/ml程度植菌し、通気または無通気下で25〜45℃で培養することが望ましい。
また、本発明は、このような方法で培養して得ることのできる、セルロース系物質と無機物が結合したセルロース系物質/無機物複合体に関する。
さらに、本発明は、このような複合体を気体あるいは液体浄化フィルター、研磨材その他の工業用品の材料として使用する方法に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能を持つ無機酸化物または水酸化物としては、α−アルミナ、γ−アルミナ、ベ−マイト、バイヤライト、酸化ベリリウム、酸化カドミウム、水酸化カドミウム、水酸化コバルト、酸化銅、水酸化銅、α−酸化鉄、水酸化鉄、レビドクロサイト、水酸化鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マンガン、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、酸化タリウム、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ランタン等を例示することができる。
【0012】
しかし、セルロ−ス系物質の生産効率の観点からは、α−アルミナ、γ−アルミナ、水酸化コバルト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化バナジウム、水酸化マンガン、酸化亜鉛が好適である。一方、本発明のもう一つの目的であるセルロ−ス系物質と無機物との複合体としての機能を考慮すれば、α−アルミナ、γ−アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛が好適である。
【0013】
無機酸化物、水酸化物の平均粒径は小さいほど良いが、通常はミクロン〜サブミクロンのオ−ダ−のものが実用的である。添加量は培養液に対し、0.0001%(1ppm)から70%(7x10ppm)である。1ppm以下では、セルロ−ス生産性および生産速度の向上の程度が小さい。7x10ppm以上では、培養液の流動性が乏しく、初期の炭素源濃度の如何に依らず、有効な攪拌培養が出来なくなる。
【0014】
これらの無機物の添加量は、上記の範囲内で、生産されるセルロ−ス量との関係で、実験事実を踏まえて適宜、決定される。例えば、最終的に使用無機物とセルロ−スとの複合体として回収し、2次製品に用いる場合は、生産されるセルロ−ス系物質が複合体中に、99.8−0.3%あれば良い。セルロ−ス系物質が0.3%以下になると、通常の乾燥後の、離解・分散性は良いが、2次製品である各種工業材料の製造に際し、該複合体に賦形性を付与するのが困難となる。また、99.8%以上だと、複合体の均一離解の点でやや欠点を生じる。実用的には、セルロ−ス分が90−5%になるように調整すれば、複合体としての作業性、加工性も良い。
【0015】
また、無機物の添加時期は、培養当初から、培養母液に分散させても良いし、培養過程の、適当な時期に添加しても良い。現象論的には、培養系に本発明に用いる無機酸化物または水酸化物を添加後、著しく、または、即効的にセルロ−ス生産速度が早まり、生産量も顕著に向上する。この効果は、無機物粒子表面が、培養系中で、正に荷電されているため、微生物との間に何らかの相互作用があるとも考えられが、明確な理由は不明である。
【0016】
本発明で用いるセルロース系物質産生微生物としては、セルロース系物質産生能を有するエンテロバクター(Enterobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属、ズーグレア属、サルモネラ属、クリューベラ属に属する微生物あるいはその変異株が用いられる。
【0017】
エンテロバクター属に属する微生物としては、CJF002(FERM P−17799)株が、アセトバクターに属する微生物としては、アセトバクター・キシリナム・アブスピーシス・シュクロファーメント(Acetobacter xylinum subusp. Sucrofermenntas)、特にBPP2001株、アセトバクター・キシリナム(A.xylinum)ATCC23768株、アセトバクター・キシリナムATCC14851株、アセトバクター・キシリナムATCC11142株、アセトバクター・キシリナムATCC10821株等が好適な菌として例示することができる。
また、変異株は、NTG(N−メチル、N’−ニトロ、N”−ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理株として得ることもできる。また、自然変異株を用いてもよい。
特に、安価な炭素源の利用可能性、生産性、生成物の分離性などの観点からエンテロバクター属であるCJF002株、その各種変異株、あるいは継代培養微生物が好適に用いられる。
【0018】
本発明に用いる培地としては、各種の合成培地や天然培地を利用することができる。好ましくは、糖質を含有する培地である。この糖質としては、グルコ−ス、フルクト−ス、ガラクト−ス、シュ−クロ−ス、マルト−ス、スクロ−ス、フラクト−ス、レバンなどを例示することが出来る。また、マンニト−ル、ソルビト−ル、エリスリットなどの糖アルコ−ルも好適に利用できる。さらに、澱粉、糖蜜、コーン・ステープ・リカー、麦芽エキス、澱粉水解物、シトラスモラセス、ビ−トモラセス、ケ−ンモラセス、ビ−ト搾汁、サトウキビ搾汁、柑橘類などの果汁成分も利用できる。
特に、CJF002株の場合は、従来の酢酸菌では利用不可能な、安価な、所謂廃糖蜜としてのシトラスモラセス、ビ−トモラセス、ケ−ンモラセス、ビ−ト搾汁、サトウキビ搾汁、柑橘類などの各種果汁成分有機酸などを単独または2種以上混合したものが利用できる。
【0019】
窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機性窒素源や、ファ−マメデイア、ペプトン、大豆粉、肉エキス、カゼイン、尿素、豆乳などの有機性窒素源を単独または2種以上混合したものを例示できる。
また、培地には必要に応じて、有機微量栄養素としてアミノ酸、ビタミン、脂肪酸、または無機塩類としてリン酸塩、鉄塩、マンガン塩、その他の金属塩をそれぞれ単独あるいは2種以上併用して用いることが出来る。
かかる培養液に当初から、本発明に用いる無機物を分散させても良いし、また上記の培地に、培養を開始後、ある時点で本発明に用いる無機物を添加しても良い。
【0020】
本発明における培養形式には、特に制限はなく、微生物の培養に用いられる公知の方法を用いることができる。例えば、静置培養、攪拌培養、振とう培養もしくは通気攪拌培養など採用できる。攪拌培養とは、培養液を攪拌しながら行う培養法であり、例えば、簡便には、ジャ−ファ−メンタ−およびタンクなどの攪拌槽ならびにバッフル付フラスコ、坂口フラスコおよびエア−リフト型攪拌層、発酵ブロスのポンプ駆動循環などの手段や装置を任意に選択・組み合わせて使用できる。
【0021】
また、攪拌培養は必要に応じて、同時に通気を行いながら実施できる。通気は、例えば、空気など酸素含有ガス、アルゴン、窒素などの酸素非含有ガスを用いることが出来、これらのガスは培養系の条件に合わせて当業者により適宜選択できる。セルロ−ス系物質が酸素存在下で、選択的に生産されることを考慮すれば、通気攪拌培養が好ましい。
【0022】
培養操作においても公知の方法、例えば、回分発酵法、反復回分発酵法、連続発酵法などが使用できる。滅菌操作の後、本発明により得られるセルロ−ス系物質/無機物複合体は、サブミクロンオーダーで観察すると、放射線のミクロフィブリル束を表面に配した球状(ミクロフィブリルが高度にネットワークを形成し、一見球状になった)の独立分散体として生成し、荒いメッシュで容易に培養系から分離され、水洗のみでも菌体を分離でき、たとえば、簡単な、圧搾で、かなり脱水でき、そのまま(水を多少含んだ状態)で製品にすることもでき、離解しながら容易に乾燥も出来る。
【0023】
本発明のセルロース系物質/無機物複合体の最終用途によっては、除蛋白が不要の場合もあり、製造コストの低減にもなる。除蛋白操作の必要な場合は、プロテア−ゼまたは、界面活性剤、酸化漂白剤処理で除去できる。場合により、低濃度アルカリ水溶液を用いても良い。本発明の方法では、セルロ−ス系物質/無機物複合体の形で、培養系から分離され、最終的にもそのままの複合状態で、最終原料材料となし得るので、単位製品量当たりの、廃液処理費は大幅に低減される。
【0024】
本発明におけるセルロース系物質/無機物複合体は、研磨材、触媒担体、光学分割担体、絶縁材料、誘電媒体、気体浄化フィルター、液体浄化フィルター、分離膜、有機溶媒吸着分離材、殺菌材料、気体濃縮材料、X線バリヤー材料、低熱伝材料、高光屈折材料、感光体基材、磁性材料、インク吸収材料、コンデンサー用セパレーター材料、UV吸収材料、湿度調節材料、電子基板材料等の原料として用いることができる。
【0025】
これらの複合体は、添加する無機酸化物の機能を、より効率的に、発現する可能性がある。例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、水酸化コバルト、酸化バナジウムなどでは、水系媒体中での各種触媒担体、気体浄化フィルター、液体浄化フィルター、研磨基材、また酸化亜鉛では、感光体基材、エレクトロルミネッセンス分散基材、触媒担体、ゴム加硫補強材料、さらに酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムでは粉塵捕集基材、排煙脱硫基材、水酸化マンガンでは研磨基材、酸化鉄では、磁性材料、殺菌材料などへの応用が挙げられる。その他、気体浄化フィルタ−、液体浄化フィルタ−、分離膜、ハロゲン等有機溶媒吸着分離材、インク吸収材料、湿度調節材料などの原料としての利用することもできる。
【0026】
本発明で使用する無機物を利用しない場合、例えば、酢酸菌によるセルロ−ス生産では、リン片状の細片で、かつゲル状物として得られるため、スクリ−ンメッシュでは、容易に閉塞し、培養系からの分離自体も困難である。
【0027】
実際の培養に当たって、初期の菌体濃度は適宜選択し得るが、10−10cfu/ml程度、好ましくは、10−10cfu/ml程度が適当である。培地のpHは特に制限されず、pH2.2 − pH9.5、好ましくは、pH7近辺である。温度範囲は5−45℃が適応でき、好ましくは、30℃近辺である。本発明において、特に、CJF002株を使用する場合は、セルロ−ス系物質の培養生産過程で、水溶性多糖群を同時に産生しており、セルロ−ス系物質の収率向上には高温、例えば、20℃以上での培養が好ましい。
【0028】
以下実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定して解釈されるべきではない。
【実施例1】
3.0%のグルコ−スを添加した多糖生産培地(PPM培地)(Polysaccharide−production−medium、Akihiko Shimada, Viva Origino, 23(1); 52−53, 1995)に、対グルコ−ス7−100%のα−アルミナ(平均粒径0.5μm)(電荷ゼロ点pH9.1−9.2)を分散させ、その100mlを内容量500mlのフラスコに入れ、高圧蒸気殺菌処理した後、普通培地で増殖したCJF−002株を2x10cfu/mlになるように接種し、30℃で、48時間振とう培養した。培養終了後、容器ごとオートクレーブ滅菌(121℃、20分)し、遠心分離し、上澄液を捨て、これにプロテアーゼ+ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ液(1%混合液、37℃で6時間浸漬)を加え、反応終了後、濾布(200メッシュ程度)で濾別、水洗後、凍結乾燥する(実施例1)。
比較例1として、α−アルミナを添加しない以外上記と同様の方法を同時に実施した。
【0029】
培養中のpHは、7近辺になるよう、毎朝夕に希薄NaOH水溶液で調整した。結果を表1に示した。表中の全分離量(生成固体量)は、プロテア−ゼ処理・ドデシルベンゼンスルホン酸ソ−ダの1%混合液に、生成物を37℃で6時間浸漬し、水洗し、凍結乾燥した物の重量である。セルロ−ス系物質の収量は、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム溶液に、前記凍結乾燥物を溶解し、再沈殿し、水洗乾燥した重量で示す。この表から明らかなように、本実施例の培養方法では、セルロ−ス系物質生産量、生産速度とも著しく高く、かつ、加えたアルミナの殆どすべてが、同時に、産生するセルロ−ス系物質と何らかの結合状態(水素結合を介して)で分離されている。また、分離性も良好となった。
【0030】
【表1】
Figure 2004147580
【0031】
【実施例2】
グルコ−ス濃度3%の実施例1で用いたと同じ多糖生産培地(PPM培地)を用い、全容3Lの小型ジャ−ファ−メンタ− (培地量2L)に無菌的に、普通培地で増殖したCJF002株を植菌(2x10cfu/ml)し、α−アルミナ(4g)を添加して培養した。その後、実施例1と同様に滅菌、遠心分離、プロテアーゼ+ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ処理、濾別水洗後、凍結乾燥を行った(実施例2)。
比較例2としてα−アルミナを添加しない以外は上記と同様の方法を行った。
培養条件は、攪拌回転数50rpm、通気量2L/minにて攪拌培養を行った。α−アルミナ無添加培養で生成した球状のセルロース系物質塊及びα−アルミナ添加培養で生成した変形球状のセルロ−ス系物質塊の顕微鏡写真を、図1に示す。α−アルミナ存在下で生成したセルロ−ス系物質塊(写真A)は、α−アルミナの存在しない通常状態で生成させるセルロ−ス系物質塊(写真B)より、2倍以上の大きさであり、α−アルミナが完全に取り込まれていた。セルロ−ス分の変換効率を、表2に示した。表2から分かるように比較例2の変換効率9%に対し、実施例2では、15%になった。
【0032】
【表2】
Figure 2004147580
【0033】
上記のα−アルミナ添加培養により得られたセルロース系物質/α−アルミナ複合体(以下、α−アルミナ−セルロース複合体のように記載する)の電子顕微鏡写真を図2に示す(写真A)。α−アルミナ添加培養で得られたα−アルミナ−セルロ−ス複合体では、遊離α−アルミナ粒子(写真B)がセルロ−ス構造中に組み込まれ複合体を形成していること(写真A)が示された。一方、α−アルミナ無添加培養で得られたセルロ−ス系物質(以下、セルロースと記載する)では、粒子の組み込まれた構造は見られなかった(写真C)。
【0034】
【実施例3】
酢酸菌アセトバクター・パスツリアヌスATCC10245株を、グルコ−ス2%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.5%、リン酸二水素ナトリウム0.15%、クエン酸0.27%の組成の培地で静置培養で増殖してシ−ド菌液を調製した(特開平10−195713号公報記載の方法に準拠して調製した)。このシード菌液20mlを、2Lの滅菌済みの攪拌培養用培地(フラクト−ス 40g/L、KHPO1.0g/L、MgSO0.3g/L、(NHSO3g/L、Bacto−Soytone (Difco社製) 5g/L、初発pH 5.0)を含む小型ジャ−ファ−メンタ−(全容量3L)に無菌的に植菌し、20時間、pHを1N NaOHで5.0にコントロ−ルしながら、攪拌回転数200rpm、通気量2L/minにて攪拌培養を行なった。この培養の開始30分後に、1gのα−アルミナ(平均粒径0.5μm)を10分間にわたり、添加、分散し、攪拌培養した(実施例3)。一方、前記α−アルミナを添加しないこと以外は、上記と同様の方法で攪拌培養し、比較例3とした。この結果を表3に示した。
【0035】
【表3】
Figure 2004147580
【0036】
培養終了後、ジャ−ファ−メンタ−毎、蒸気滅菌し、固形物を集積し、100メッシュの金網で分離、水洗して培地成分を除去した後、1%NaOH水溶液中で20分間120℃に加熱処理して菌体を除去した。さらに、洗浄液が中性付近になるまで生成セルロ−スを水洗してセルロ−スとアルミナとの複合体を得た。複合体中のセルロ−ス分は実施例1に従って測定した。
【0037】
【実施例4】
α−アルミナ(電荷ゼロ点(pH)(以下、同じ)、9.1−9.2)、γ−アルミナ(7.4−8.6)、ベーマイト(7.7、9.4)、バイヤライト(9.3)、水酸化コバルト(11.4)、酸化マグネシウム(12.4)、水酸化マグネシウム(12.4)、酸化バナジウム(9.3)、水酸化マンガン(12.0)、酸化亜鉛(9.3)、酸化ベリリウム(10.2)、酸化カドミウム(10.4)、水酸化カドミウム(10.5以上)、酸化銅(9.5)、水酸化銅(7.7)、水酸化鉄(12.0)、レビドクロサイト(7.4)、水酸化鉛(9.8)、水酸化ニッケル(11.1)、酸化ニッケル(10.3)、α−酸化鉄(8.3)、酸化トリウム(9.0−9.3)、酸化ランタン(10.5)、各々を対グルコ−ス 7%添加し、実施例1に従って培養した。その結果を、表4に示した。表4に示されるように、基本的に、α−アルミナの場合と同様に、セルロ−ス生成の促進と無機物が生成セルロ−ス中に取り込まれて複合体を形成することが認められた。
【0038】
【表4】
Figure 2004147580
【0039】
【実施例5】
実施例2で得られたα−アルミナ−セルロ−ス複合体を凍結乾燥したもの1gを、直径1cmのカラムに、高さ約5cmとなるように詰め、このカラムに流速1L/minで空気を通し、カラムを通過した空気を1分間、普通寒天培地に注いだ後、空気に曝した普通寒天培地を37℃で一晩培養後、コロニ−の生成を見ることにより、普通寒天培地に注いだ空気中に存在した微生物を検出した。その結果、何も詰めないカラムを通過した空気を注いだ場合には、シャ−レの全面に細菌類のコロニ−が形成され、カラムを通過した空気中の微生物の存在が示されたが、α−アルミナ−セルロ−ス複合体を詰めたカラムで濾過した空気では、微生物のコロニ−は形成されず、カラムを通過する際に空気中の微生物がα−アルミナ−セルロ−ス複合体により完全に除去されることが示された。
【0040】
【実施例6】
実施例2に従って、セルロース/アルミナ複合体を形成させ、濾布(200メッシュ程度)で濾別、水洗後、セルロース/アルミナ複合体の数%を水に再分散させ、抄紙器にて、シート状に成型後、風乾、熱風乾燥した。直径5cmの2枚のガラス板の間に水に懸濁した#2000のカ−ボランダムを入れ、こすり合わせて作成したスリガラスを、水洗後、1gの前記熱風乾燥したα−アルミナ−セルロ−ス複合体で磨くことにより、スリガラスが透明となった。比較例として、1mlのスラリ−状の酸化セリウムをスリガラス間に注入して磨いた場合も同程度に透明なガラス板が得られた。スラリ−状の酸化セリウムを用いた場合には、処理後に、ガラス板からのスラリ−の洗浄除去、廃液処理が必要となるが、α−アルミナ−セルロ−ス複合体を用いた場合には、スラリ−の洗浄除去、廃水処理の必要がない。また、実施例4に基づいて、大量に培養して得られた水酸化マンガン−セルロ−ス複合体も、研磨効果は、やや劣るものの同様の、効果を示した。
【0041】
【実施例7】
生ゴム10gをロ−ルにて軟化させてから、珪石10g、ファクチス30g、硫黄5g、実施例4で得られた3gの酸化亜鉛−セルロ−ス複合体を加えてバンバリ−ミキサ−にて混練し、厚さ5mmのシ−トとし、120℃、20分間オ−トクレ−ブ処理することにより、ゴムが硬化した。比較例として、酸化亜鉛−セルロ−ス複合体の代わりに酸化亜鉛3gを加えて、同様の処理を行ったものでも同程度のゴムの硬化が見られた。強伸度特性は、150MPaの張力で、酸化亜鉛−セルロ−ス複合体を加えたものは250%を示し、酸化亜鉛を加えたものでも200%であった。張力を250MPaに上げた場合に、酸化亜鉛−セルロ−ス複合体を加えたものは250%のままであったが、酸化亜鉛を加えたものでも150%に低下した。この酸化亜鉛−セルロース複合体は磁性材料として用いられる。
【0042】
【実施例8】
実施例4の方法に従って得られた0.1gの酸化鉄−セルロ−ス複合体を、10mlの30%ニトロセルロ−ス(窒素含量10.9〜11.2%;イソプロピルアルコ−ル溶液)に懸濁し、混合しながら、5mlの酢酸ブチル、5mlの酢酸エチルを加え、酸化鉄−セルロ−ス複合体の懸濁液を作製した。この懸濁液を、ポリエステルフィルムに噴霧した。乾燥後、酸化鉄−セルロ−ス複合体はニトロセルロ−スとともにフィルム上に被膜を形成した。被膜は良好にフィルムにむらなく一様に接着し、容易に剥がれなかった。比較例として、酸化鉄−セルロ−ス複合体の代わりに酸化鉄0.1gを加えて、同様の処理を行ったものでは、良好に接着したものの、一部、被膜の形成にむらが見られた。
【0043】
【実施例9】
使用後の風呂水100mlを1L容のビ−カ−に入れ、実施例4で得られた1gの酸化バナジウム−セルロ−ス複合体を加えて、水面より50cmの高さで紫外線殺菌灯を照射して、一晩、攪拌した。処理前には、普通寒天培地で10cfu/mlの細菌が検出されたが、処理後には細菌は検出されなかった。比較例として、酸化バナジウム−セルロ−ス複合体を加えないものでは、紫外線処理による細菌数の減少は見られなかった。
【0044】
【実施例10】
実施例4で得られた水酸化マグネシウム−セルロ−ス複合体1gを凍結乾燥しこれを、直径1cmのカラムに、高さ約5cmとなるように詰め、このカラムに流速0.1L/minで1時間、重油燃焼排煙を通し、カラムを通過した排煙中のSOxを測定した。比較例として、カラムに何も詰めないものでは、500ppmのSOxが検出されてのに対して、本実施例の水酸化マグネシウム−セルロ−ス複合体を加えたものではSOxは検出されなかった。
【0045】
【発明の効果】
本発明はセルロ−ス系物質産生微生物の培養に際し、特定の無機酸化物または水酸化物を存在させて培養を行うことにより、セルロ−スへの変換効率の向上が、期待できる。また生産されたセルロース系物質/無機物複合体は培地からの分離性もよく、セルロ−ス生産の経済性の向上に資すると共に、セルロ−スと無機物との複合体として生産されるので、種々の工業製品の材料として使用され、無機物の機能向上や、アロイとしての基材とすることができ、工業的価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2の撹拌培養により得られた本発明のセルロ−ス系物質の光学顕微鏡写真。
(A)α−アルミナ添加培養により得られたセルロース系物質(実施例2)
(B)α−アルミナ無添加培養により得られたセルロース系物質(比較例2)
【図2】実施例2の撹拌培養により得られた本発明のセルロ−ス系物質の電子顕微鏡写真。
(A)α−アルミナ添加培養により得られたセルロース系物質(実施例2)
(B)α−アルミナ粒子
(C)α−アルミナ無添加培養により得られたセルロース系物質(比較例2)

Claims (14)

  1. セルロース系物質産生微生物を、糖質を炭素源とし、電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能を持つ無機酸化物または水酸化物の無機微粒子が存在する培養系で培養し、セルロース系物質/無機物複合体を産生させ、これを採取することを特徴とするセルロース系物質/無機物複合体の製造方法。
  2. 電荷ゼロ点がpH表示で7以上でコロイド形成能を持つ無機酸化物または水酸化物が、α−アルミナ、γ−アルミナ、ベーマイト、バイヤライト、水酸化コバルト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化バナジウム、水酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化カドミウム、水酸化カドミウム、酸化銅、水酸化銅、水酸化鉄、レビドクロサイト、水酸化鉛、水酸化ニッケル、酸化ニッケル、α−酸化鉄、酸化タリウム、酸化ランタンからなる群から選ばれる1種または2種以上の無機物である請求項1記載のセルロース系物質/無機物複合体の製造法。
  3. セルロース系物質産生微生物が、セルロース系物質産生能を有するエンテロバクター属、アセトバクタ−属、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュ−ドモナス属、アクロモバクタ−属、アルカリゲネス属、アエロバクタ−属、アゾトバクタ−属、ズ−グレア属、サルモネラ属、クリュ−ベラ属細菌及びこれらの変異株からなる群から選ばれる1種または2種以上の微生物である請求項1または2に記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体の製造方法。
  4. セルロ−ス系物質産生微生物が、通性嫌気性微生物のエンテロベクター属CJF002(FERM P‐17799)株またはその変異株である請求項3に記載のセルローズ系物質/無機物複合体の製造法。
  5. 炭素源として、廃糖蜜または澱粉水解物を用いる請求項4に記載のセルロ−ス系物質/無機物質複合体の製造方法。
  6. セルロース系物質産生微生物を、培地に10〜10cfu/ml接種し、通気または無通気下に25〜45℃で培養する請求項1に記載のセルロース系物質/無機物複合体の製造方法。
  7. 請求項1−6のいずれかに記載の方法で製造することのできるセルロース系物質に無機物が結合したセルロ−ス系物質/無機物複合体。
  8. 請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を、工業製品の材料として使用する方法。
  9. 無機物がアルミナである請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を気体浄化フィルタ−の材料として使用する方法。
  10. 無機物がアルミナである請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を研磨基材として使用する方法。
  11. 無機物が酸化亜鉛である請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体をゴム加硫補強体の材料として使用する方法。
  12. 無機物が酸化鉄である請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を磁性材料として使用する方法。
  13. 無機物が酸化バナジウムである請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を液体浄化フィルターの材料として使用する方法。
  14. 無機物が酸化マグネシウムである請求項7記載のセルロ−ス系物質/無機物複合体を排煙脱硫基材の材料として使用する方法。
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