JP2004143019A - セメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物 - Google Patents
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Abstract
【課題】セメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物において、調湿性に優れ、汎用的な建築材料として利用可能で、資源の再生や再利用が可能となるようにする。
【解決手段】セメントマトリックス4と骨材3を混合したセメント混合物にカーボンナノチューブ2を混入して自己調湿型コンクリート1を構成する。自己調湿型コンクリート1を通常のコンクリートなどのように型枠に打設して、硬化させ、現場打ちの構造物や、プレキャスト部材を製造する。
【選択図】 図1
【解決手段】セメントマトリックス4と骨材3を混合したセメント混合物にカーボンナノチューブ2を混入して自己調湿型コンクリート1を構成する。自己調湿型コンクリート1を通常のコンクリートなどのように型枠に打設して、硬化させ、現場打ちの構造物や、プレキャスト部材を製造する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のコンクリート構造物では、コンクリート中に形成される一般的な毛細管空隙は、10nm〜1000nmであると言われている。低水セメント比で十分な水和反応が起こるという恵まれた条件下でも、毛細管空隙は、10nm〜50nm程度であると言われている。
このような大きな毛細管空隙では、コンクリート構造物への水分の出入りが容易となり、コンクリート内の水分が人間にとって快適な湿度を保つように吸収・放散されるような調湿性を得ることはできない。すなわち、従来のコンクリート構造物は、外部からの水分供給量に左右されて、乾燥しすぎたり、じめじめと湿りすぎたりしていた。したがって、その内部で人間が活動するコンクリート構造物では、空調設備を設けるのが一般的である。
【0003】
このような背景から、人間にとって快適な相対湿度の範囲で水分を吸収、放散するべく設計された、いわゆる調湿建材が知られている。
例えば、特許文献1には、トバモライトを主成分としたオートクレーブ養生軽量気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight Concrete、以下、ALCと略称する)、珪藻土などのケイ酸カルシウム化合物を用いた調湿成形体が記載されている。
また、特許文献2には、ALC廃材を用いた調湿建材が記載されている。
また、特許文献3には、ALCの粒体を炭酸化処理したバテライト形炭酸化カルシウムを用いた多孔質調湿材が記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−240457公報(第1−3頁)
【特許文献2】
特開2001−270766公報(第1−3頁)
【特許文献3】
特開2001−353418公報(第1−3頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来の調湿建材には以下のような問題があった。
特許文献1〜3に記載された調湿材料である珪藻土、トバモライト、バテライト形炭酸化カルシウムなどのケイ酸カルシウム化合物は、いずれも多孔質であって吸湿性を備えているが、天然、人工のいずれであっても、多孔質の空隙の大きさには、かなりのばらつきがあった。その結果、調湿性にもばらつきが生じていた。このため、例えば、人間が快適と感じる相対湿度範囲と言われる50〜70%といった狭い湿度範囲に合わせた調湿性を備える調湿建材を構成することは困難であるという問題があった。
さらに、これら調湿建材は、調湿材料を製造して、それらを高圧でプレス成形し、高温焼成処理するなど、特殊な製造装置が必要であった。そのため、建材の種類も、例えばパネル状などに限られるという問題があった。
また、従来の調湿建材はケイ酸カルシウム化合物を含むので、産業廃棄物となり、再生や再利用が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、調湿性に優れ、汎用的な建築材料として利用可能で、資源の再生や再利用が可能となるセメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、セメント硬化材において、セメント、骨材および水を含むセメント混合物に、保水性を有する筒状添加材を混入した構成とする。
この発明によれば、筒状添加材が混入されることにより、セメント硬化材の硬化時に筒状添加材同士あるいは筒状添加材と内部気泡とが連通して、硬化物が多孔質化され、筒状添加材の内径を適宜設定することにより、その内径、すなわち毛細管凝集径に応じた調湿性を備えることができる。その結果、従来のセメント硬化材と同様に流動性を備え、例えば高温環境、炭酸化処理などの処理を施すための装置などを要することなく、適宜の型枠や隙間に、常温で充填、硬化させることができ、かつ硬化後は優れた調湿性を備えるようにすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のセメント硬化材において、前記筒状添加材がカーボンナノチューブである。
この発明によれば、筒状添加材を環境への悪影響がないカーボンナノチューブとするので、使用後の廃棄、再生が容易であり、さらに、毛細管凝集半径が1nm〜数十nmのものを安定して製造することができるから、調湿範囲が人間にとって快適な相対湿度範囲になるようにすることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のセメント硬化材において、硬化時に、少なくとも硬化表面およびその近傍に配向される合成樹脂繊維を混入させた構成とする。
この発明によれば、合成樹脂繊維が硬化表面およびその近傍に配向されるので、合成樹脂繊維が補強材となり、吸湿乾燥の繰り返しによるひび割れを防止することができるとともに、合成樹脂繊維の種類を適宜選択することにより、表面に装飾性を備えることができ、建材表面に用いる仕上材としても好適となる。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を硬化させて形成したことを特徴とするセメント硬化体とする。
この発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の発明と同様の作用効果が得られる。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を設置場所以外の場所で硬化させるプレキャスト部材として製造されたことを特徴とするセメント硬化体とする。
この発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、汎用的な生産設備で製造できて生産性に優れ、設置施工容易なプレキャスト部材として提供することができる。
【0012】
請求項6に記載の発明では、型枠内部にコンクリートを打設して、型枠本体とコンクリートとが一体化されたコンクリート構造物を形成するコンクリート打込み型枠であって、前記型枠本体が請求項5に記載のセメント硬化体からなる。
この発明によれば、コンクリート打込み型枠として、請求項5に記載のセメント硬化体を用いるので、コンクリート構造物の表面が請求項5に記載の発明と同様の作用効果を備えることができる。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載のコンクリート打込み型枠の型枠内面に、所定温度で消失するか透水性となる不透水層が配置され、該不透水層を介して、コンクリートが打設されてなるコンクリート構造物とする。
この発明によれば、所定温度で消失するか透水性となる不透水層により、所定温度より低い平常時は、型枠内外の水分の流通が遮断されるから、硬化時にコンクリート内部に含まれる水分が逃げたり、逆に経時で湿潤したりすることなく保持され、例えば火災などにより所定温度を越えると不透水層が消失または透水性となり、コンクリート内部の水分がコンクリート打込み型枠を通して外部に放散される。その結果、平常時には打設されたコンクリートの含水分がコンクリート打込み型枠の調湿性に影響しないように保持され、火災などの場合には、打設されたコンクリートの含水分がコンクリート打込み型枠側に移動して、コンクリート打込み型枠の温度上昇を抑制するとともに、打設されたコンクリートの爆裂を防止することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なっても同一または相当する部材は同一符号を付し、重複する説明は省略している。また、模式図においては、視認しやすくするために、誇張して表現しており、実際の寸法比は反映されていない。
【0015】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化材およびその硬化物であるセメント硬化体について説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態に係る自己調湿型コンクリート1の概略構成を説明するための断面模式図である。図1(b)は、図1(a)におけるA部を拡大した拡大模式図である。図3は、本発明の実施形態に係る自己調湿型コンクリート1を硬化させて形成したコンクリート壁10の断面模式図である。
【0016】
自己調湿型コンクリート1(セメント硬化材)の概略構成は、セメントマトリックス4、骨材3、およびカーボンナノチューブ2からなる。
セメントマトリックス4は、例えばポルトランドセメントなどのセメント、水および適宜の混和材、混和剤の混合物であり、周知のように、モルタル、コンクリートなどの母体をなす硬化性の流動体である。セメントマトリックス4は、セメントと水が水和反応を起こすことにより、次第に水が失われて硬化するが、本明細書では、その硬化物も同じくセメントマトリックス4と称する。
【0017】
骨材3は、例えば砂、砂利、砕石、高炉スラグ材などの、天然または人工の強度部材である。骨材3は、セメントマトリックス4が硬化することにより相互に結合されて一体化され、硬化後の自己調湿型コンクリート1が所定の強度を備えるようにするためのものである。
【0018】
カーボンナノチューブ2は、グラファイト状の炭素6員環による円筒層が単層または多層に形成された筒状構造を有する炭素の同素体である。その円筒層の内径(以下、特に断らない限りこれをカーボンナノチューブ2の直径と称する。)は、一般に約1nmから数十nm、長さは数μm程度である。本実施形態では、特に優れた調湿性を得られるようにするために、直径が、約4〜6nmのものを採用する。
カーボンナノチューブ2は、グラファイト電極を不活性雰囲気でアーク放電させると生成するが、例えば鉄、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウムなどの触媒金属に高温で炭素を溶かして冷却したり、SiCなどの炭化物を加熱してSiを蒸発させたりするなどの種々の製造方法が知られている。
カーボンナノチューブ2は、分子構造を正確に制御することにより、ナノメートルオーダーの微細構造を制御して特有の機能を発現させるという、いわゆるナノテクノロジーの代表的な研究開発の対象であるが、現状でも上記のような直径の制御の如きは容易である。また、近い将来、量産技術が実用化されることが有望視されている。
【0019】
カーボンナノチューブ2の混入量は、その筒状構造の内部容積が、自己調湿型コンクリート1の単位質量当たり、0.1cm3/g以上であることが好ましい。このような割合でカーボンナノチューブ2を混入させることにより、図1(b)に模式的に示したように、セメントマトリックス4内にランダムに分散するカーボンナノチューブ2が互いに接してそれぞれの内部を連通させたり、セメントマトリックス4内に含まれるエントレインドエア5(連行空気)などの微細空隙に貫入したりして、複雑に連通した連通路、すなわち空隙のネットワークが形成されている。
そのため、自己調湿型コンクリート1を硬化させて、コンクリート壁10(セメント硬化体)を形成する場合、コンクリート壁10の表面1aにはチューブ開口2aがランダムに露出し、コンクリート壁10は、カーボンナノチューブ2によって形成される連通路によって多孔質化される。このとき、比表面積は調湿作用のひとつの目安となるが、より優れた調湿性を得るには、自己調湿型コンクリート1の比表面積は10m2/g以上であるようにすることが望ましい。
【0020】
次に、このような硬化した自己調湿型コンクリート1の作用について説明する。
図2(a)は、硬化した自己調湿型コンクリート1の調湿作用について説明するための、相対湿度と水分の吸着量との関係を模式的に示すグラフである。横軸は、測定環境の相対湿度を表し、単位は%である。縦軸は、水分の吸着量の重量比を表し、単位は%である。ただし、0%から軸の上側方向に増大する相対表示で表している。相対湿度の範囲B(50%〜70%)は、一般に人間が快適と感じる相対湿度の範囲を表している。
【0021】
曲線6は、従来の土壁の調湿特性を示している。その右上がりの曲線から理解されるように、吸着量は相対湿度の上昇とともに緩やかに増大する傾向にあるが、吸着量そのものは少ない。このような特性では、空気中の水蒸気が十分に吸収されないので、高湿度環境を快適とすることができない。
この理由は、土壁は、微細な土粒子が密に詰まっており多孔質でないからである。
【0022】
曲線7は、従来の多孔質構造を備えた調湿建材の一例を示している。低湿から高湿ヘ向かってほぼS字状の曲線となり、低湿側、高湿側それぞれで飽和する領域が見られる。しかし低湿側での吸着量は比較的多く、相対湿度0%の環境でも多くの水分が内部に残存している。この特性では、全体に吸着量が多く、空気中の水分を過度に吸着する建材となっている。
この理由は、細孔が比較的大きいため、高湿度では多量の水分を吸着するものの、表面からの蒸発量と建材内部に吸着された水分の移動量のバランスがとれていないことによると考えられる。
また建材内部の水分が放散されにくいと、例えば火災が起きた場合、建材内部の水蒸気が急に膨張して、いわゆる爆裂を起こすという問題がある。
【0023】
曲線8は、自己調湿型コンクリート1の調湿特性を示している。低湿から高湿ヘ向かってほぼS字状の曲線となっているが、ほとんどの範囲で曲線7よりも吸着量が少なくなっている。そして、相対湿度40%〜90%の範囲で吸湿量の変化が激しくなっており、特に相対湿度50%〜70%(範囲B)では、ほぼ直線的な変化を示している。
このような特性によれば、例えば、環境の相対湿度が上昇すれば、吸着量がほぼ比例して大きくなり除湿する。逆に環境の相対湿度が下降すれば、吸着量がほぼ比例して小さくなり、過剰な水分を放散して加湿する。したがって、自己調湿型コンクリート1の吸湿能力を絶対湿度に対して適宜量としておけば、環境の湿度変動が自律的に抑制されるものである。
【0024】
このような特性が得られる理由を、図2(b)を参照して説明する。
図2(b)は、相対湿度RHと毛細管凝縮半径rとの関係を表したものである。横軸は相対湿度を表し、単位は%である。縦軸は毛細管凝縮半径rを表し、単位はnmである。なお、縦軸が対数目盛の片対数グラフとなっている。
毛細管凝縮半径rは下記の式(1)により計算できる。式(1)は、液体の表面曲率半径と液体の蒸気圧との関係を表すケルヴィン(Kelvin)の式を変形したものである。
【数1】
ここで、各変数および定数は、以下のとおりである。かっこ内の数字は、図2(b)を描くのに用いた具体的な定数である。なお、P/P0は、液体が水蒸気の場合は相対湿度に相当する。
r0:細孔半径
t:多分子層吸着厚み
γ:液体の表面張力(72.76×10−3N/m)
M:液体の分子量(18)
θ:接触角(≒0°)
ρ:液体の密度(1.00285g/cm3)
R:気体定数(8.314J/mol/K)
T:絶対温度(293K)
P/P0:水平表面上の液体の蒸気(P0)に対する毛細管上の液体の蒸気圧Pの比
【0025】
折れ線9は、相対湿度30%〜70%の範囲でほぼ直線となり、相対湿度70%以上では右上がりの急峻な曲線となっている。
折れ線9より、相対湿度を50%〜70%(範囲B)にするには、毛細管凝縮半径rを、1.6nm〜3.1nm(範囲C)にすればよいことが分かる。すなわち、カーボンナノチューブ2の直径を3.2nm〜6.2nmにすればよい。
【0026】
このように湿度の自立的な調整が可能となったカーボンナノチューブ2によって、コンクリート壁10が多孔質化されているため、コンクリート壁10の外部の相対湿度に応じて、表面1aから矢印のように水蒸気を吸着、放散することが可能となっている(図3参照)。
【0027】
カーボンナノチューブ2は、所定の水蒸気圧を保つように水蒸気を搬送する機能を有する。一方、エントレインドエア5などの径の大きな空隙は、カーボンナノチューブ2が吸着した水分を内部で保持し、カーボンナノチューブ2からの蒸発が激しくなると水分を補給するという、言わばバッファーとしてふるまう保湿スペースの機能を備えるものである。
このようにして、硬化した自己調湿型コンクリート1は、カーボンナノチューブ2によりその外部の水蒸気圧が人間にとって快適な相対湿度となる所定範囲に制御された状態で、その内部には水分が保持されるという自己調湿性と保水性を兼ね備えた材料となる。したがって、優れた調湿建材を構成することができるという利点がある。
【0028】
また、自己調湿型コンクリート1は、従来のコンクリートなどのセメント混合物と全く同様に打設して硬化させることができるので、コンクリートなどを利用するすべての建築施工において汎用的に応用することできる。したがって、従来の調湿建材のように、高温でのプレスや特殊処理を必要とする製造装置を用いることなく容易に製造、施工することが可能となる利点がある。
【0029】
また、コンクリート壁10などのように、自己調湿型コンクリート1を硬化させて建材を形成する場合には、コンクリートに十分な強度特性が発現した後、通常の使用状態で履歴しない温度、例えば日照などの自然な加熱によってそれ以上は上昇しないと考えられるような温度である50℃程度において十分乾燥させておくと、より効果的に調湿機能を発揮することができる。
このようにすれば、通常の温度範囲では十分乾燥しているため、室内の余分な水分を多量に吸湿することができる。一方、火災などにより異常に加熱された場合を考えると、まだ、コンクリート壁10内に放散可能な水分を保水している状態であるから、加熱によりその水分が放散され、コンクリート壁10の温度を下げる効果が得られる。
【0030】
また、カーボンナノチューブ2は、炭素の同素体であり、長さもきわめて短いので、環境に放出されても無害である。そこで、従来の調湿建材とは異なり、硬化した自己調湿型コンクリート1、自己調湿型コンクリート1を用いた建材、構造物は、既存のあらゆる再生方法、再利用方法の適用が可能である。例えば、コンクリート殻として、路盤材などに使用する方法、加熱すりもみ法などにより粗骨材、細骨材、セメント原料となる微粉などに分別して回収し利用する方法、パネル、建材、部材そのものをそのままの形で他の建物に再利用する方法などが可能である。
したがって、地球環境の保全にも寄与し得る調湿建材となり得るものである。
【0031】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図4(a)は、本実施形態の変形例に係る仕上材11を説明するための概略模式図である。図4(b)は、図4(a)のD−D断面模式図である。
仕上材11は、自己調湿型コンクリート1に補強繊維12(合成繊維樹脂)を混合したセメント硬化材である。
補強繊維12は、自己調湿型コンクリート1が硬化したとき、セメント硬化体の靭性を向上させたり、表面強度などを補強して乾燥時のひび割れ抵抗性を高めたりするものである。補強繊維12としては、例えば、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂繊維が採用できる。
また特に、補強繊維12を熱可塑性の合成樹脂として、火災などによる熱を受けた場合、所定温度で溶融、分解または揮発するような材質とすることが好ましい。
【0032】
補強繊維12の混入率は、0.05体積%〜2.0体積%程度とすることが望ましい。
混入の仕方は、ランダムに分散するようにすればよいが、ひび割れを効果的に防止するためには、表面および表面近傍に確実に配向されることが好ましい。そのため厚肉の部材では、その表面と内部とで混入量を変えてもよい。
【0033】
また、仕上材11の硬化のさせ方は、設置場所の現場で組み立てられた型枠に打設してもよいし、現場以外で硬化させて、パネル状、ブロック状などのプレキャスト部材としてもよい。
また、図5(a)に示したように、仕上材11を、例えばコンクリート製などの構造部材あるいは区画部材であるパネル本体13aの表面に吹き付けたり、いったん薄板にしてから固定したりして、複合部材である壁面パネル13として用いてもよい。
【0034】
このような仕上材11によれば、硬化後にすぐれた調湿性を備えるとともに、吸湿、乾燥を繰り返してもひび割れしにくい。その結果、長期にわたって美観が維持できるから、壁体などの表面を覆う仕上用建材として好適である。特に、例えば10mm程度といった比較的薄肉の仕上用建材として用いる場合、仕上材11の流動方向に補強繊維12の長手方向が揃いやすいため、補強繊維12の配向方向は平面方向が支配的となって、ひび割れ強度が顕著に向上できるという利点がある。
また、補強繊維12に用いる材料は、色、太さなどを変えることにより、仕上材11の表面の外観を容易に変えることができるという利点もある。
【0035】
特に、壁面パネル13のようにして使用すれば、強度はパネル本体13aが担うので、仕上材11は、調湿性と、ひび割れ強度や外観などの補強繊維12の機能を備えていればよく、骨材は減らすか、場合によってはなくしてもよい。このようにすれば、仕上材11は、図示左側の室内に対して調湿建材として作用するとともに、図示右側のパネル本体13aに対しては、パネル本体13a内の水分が室内に移動するのを制御することができる。
【0036】
さらに、室内で火災が発生したときには、仕上材11に保水されていた水分が激しく蒸発し、その潜熱により壁面パネル13の温度上昇を抑制することができる。
この場合、特に補強繊維12として、所定温度で溶融、分解または揮発するような材質とすれば、より優れた耐火被覆材とすることができる。
まず、仕上材11内に水分が保持されている場合は上記のような温度上昇の抑制作用を有する。そして、所定温度に達すると、補強繊維12が溶融、分解または揮発して消失し、火災のエネルギーが消費される。さらに、仕上材11内で補強繊維12が占めていた場所に空隙が生じる。すると、それまで、室内側への移動が規制されていたパネル本体13a内の水分が、それらの空隙を通して、容易に室内側に移動し(図5(b)参照)、壁面パネル13の温度上昇の抑制作用が継続されるものである。しかも、パネル本体13a内に含まれる水分が効率的に逃されることによって、コンクリート爆裂が起こるのを防ぐことができるという利点もある。
【0037】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠およびそれを用いたコンクリート構造物について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠21および壁体20の概略構成を説明するための平面概略図である。
壁体20(コンクリート構造物)の概略構成は、コンクリート打込み型枠21、21と現場打ちコンクリート23とからなる。
【0038】
コンクリート打込み型枠21は、プレキャスト版を対向して立設することにより、その間にコンクリートを打設する空隙を設けたコンクリート型枠である。プレキャスト版は、自己調湿型コンクリート1と必要に応じて補強繊維12とを混合して、硬化させることにより形成する。コンクリート打込み型枠21は、現場打ちコンクリート23の打設後、その表面が壁体20の外表面となるので、外観について予め配慮されたプレキャスト版として製作される。補強繊維12を混合する場合は、ひび割れ強度、装飾性などを考慮して適宜の材質を選択する。
【0039】
コンクリート打込み型枠21の内面側には、その全面を覆う不透水シート24(不透水層)が配置されるとともに、適宜間隔でアンカー22が埋め込まれている。
不透水シート24は、所定温度以上では、熱により溶融、分解または揮発して、全体が消失したり、消失して貫通穴が空いたりして、不透水性が失われるような合成樹脂シートである。所定温度は、具体的には、500℃以下、より好ましくは、350℃以下の温度で消失することが望ましい。このような不透水シート24の材質としては、例えば、厚さ200μm以下のポリプロピレンフィルムなどが好適に採用できる。
アンカー22は、現場打ちコンクリート23内部に埋め込まれてコンクリート打込み型枠21と現場打ちコンクリート23を一体化させるものであれば、どのような構造のアンカーであってもよい。
現場打ちコンクリート23は、コンクリート打込み型枠21、21間の空隙に打設されたコンクリートである。コンクリートは、構造物を構築するためのどのようなコンクリートでもよい。また、図示していないが、鉄筋が配されていてもよいことは言うまでもない。
【0040】
このような壁体20は、まず所定の形状にコンクリート打込み型枠21、21を組立て、不透水シート24を配置して、アンカー22を埋め込む。そして、コンクリート打込み型枠21、21間に現場打ちコンクリート23を打設して、所定期間養生することにより製造することができる。
なお、不透水シート24を配置する代わりに、コンクリート打込み型枠21の内面に合成樹脂を吹付け塗布する工法により不透水層を形成してもよい。そうすれば、コンクリート打込み型枠21の内面が曲面や凹凸を備える場合でも容易に施工ができるという利点がある。
また、アンカーの代わりにコンクリート打込み型枠21側にコッターを形成しておいてもよい。
【0041】
次に、壁体20の作用について説明する。
図7は、壁体20の作用を説明するための平面模式図である。
コンクリート打込み型枠21は、自己調湿型コンクリート1からなるので、調湿作用を有している。すなわち、室内の湿度が所定範囲を保つように、水分が吸着、放散される。
一方、現場打ちコンクリート23は、一般に硬化後に2%〜4%程度の含水率があるが、コンクリート打込み型枠21との間が不透水シート24によって仕切られているため(図7右側参照)、平常時は、この水分がコンクリート打込み型枠21に移動することはない。すなわち、コンクリート打込み型枠21内に過大な水分が供給されてコンクリート打込み型枠21の吸湿特性が阻害されることがない。
【0042】
ところが、火災などによりコンクリート打込み型枠21が加熱されると、コンクリート打込み型枠21からの水分の蒸発が活発となり、その潜熱により温度上昇が抑制される。コンクリート打込み型枠21内に保持した水分がなくなると、温度が上昇してゆく。所定温度に達すると、不透水シート24が消失し、不透水シート24の位置に空隙24aが発生する。そのため、現場打ちコンクリート23内で加熱されて蒸発した水蒸気がコンクリート打込み型枠21側に移動する(図7左側参照)。
【0043】
その結果、コンクリート打込み型枠21の温度上昇が抑制されるとともに、現場打ちコンクリート23の爆裂が防止される。
コンクリート打込み型枠21内に、所定温度で消失する補強繊維12が混合されている場合には、補強繊維12が消失することにより、コンクリート打込み型枠21内に空隙が増加し、現場打ちコンクリート23からの水分の移動がより容易となるという利点がある。
【0044】
このようなコンクリート打込み型枠21および壁体20によれば、通常時には、優れた調湿性を有する。そして、火災などの加熱時には、被加熱面側の温度上昇が抑制されるとともに、所定温度以上では、現場打ちコンクリート23内の水分を、コンクリート打込み型枠21を通して外部に速やかに逃すことができる。その結果、コンクリート打込み型枠21の温度上昇を抑制するとともに、現場打ちコンクリート23の爆裂を防ぐことができるから、優れた耐火被覆を有するコンクリート構造物とすることができる。しかも、これらをコンクリート打込み型枠21に現場打ちコンクリート23を打設するだけ、という容易かつ迅速な製造方法により構築することができる。
【0045】
なお、上記の第2の実施形態において、コンクリート打込み型枠21を厚くするなどして吸湿性能を向上することができる場合は、現場打ちコンクリート23内に保持されている水分がコンクリート打込み型枠21の吸湿作用の妨げとならないので、不透水シート24を設けなくてもよい。
【0046】
なお、上記のすべての実施形態を通じて、セメント硬化材、セメント硬化体の例として、自己調湿型コンクリート1のように、骨材3を混合したコンクリートの例を挙げて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、骨材3を含まない構成のセメントペーストや、モルタルなど他のセメント混合物にカーボンナノチューブ2を混合したセメント硬化材、セメント硬化体であってもよい。
【0047】
また、上記の説明では、筒状添加材として、カーボンナノチューブの例で説明したが、適切な調湿性を得るための所定範囲の内径を有し、空隙などを介して細孔のネットワークを形成することができる筒状の中空部材であれば、カーボンナノチューブに限るものではない。
【0048】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明のセメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物によれば、調湿性に優れ、汎用的な建築材料として利用可能で、資源の再生や再利用が可能な優れた調湿建材を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化材の概略構成を説明するための断面模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化体の作用を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化体の作用を説明するための断面模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る変形例を説明するための概略模式図および断面模式図である。
【図5】同じく別の変形例を説明するための断面模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物の概略構成を説明するための平面概略図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るコンクリート構造物の作用を説明するための平面模式図である。
【符号の説明】
1 自己調湿型コンクリート(セメント硬化材)
2 カーボンナノチューブ(筒状添加材)
3 骨材
4 セメントマトリックス
5 エントレインドエア
10 コンクリート壁(セメント硬化体)
11 仕上材(セメント硬化材)
12 補強繊維(合成樹脂繊維)
13 壁面パネル(セメント硬化体)
20 壁体(コンクリート構造物)
21 コンクリート打込み型枠
24 不透水シート(不透水層)
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のコンクリート構造物では、コンクリート中に形成される一般的な毛細管空隙は、10nm〜1000nmであると言われている。低水セメント比で十分な水和反応が起こるという恵まれた条件下でも、毛細管空隙は、10nm〜50nm程度であると言われている。
このような大きな毛細管空隙では、コンクリート構造物への水分の出入りが容易となり、コンクリート内の水分が人間にとって快適な湿度を保つように吸収・放散されるような調湿性を得ることはできない。すなわち、従来のコンクリート構造物は、外部からの水分供給量に左右されて、乾燥しすぎたり、じめじめと湿りすぎたりしていた。したがって、その内部で人間が活動するコンクリート構造物では、空調設備を設けるのが一般的である。
【0003】
このような背景から、人間にとって快適な相対湿度の範囲で水分を吸収、放散するべく設計された、いわゆる調湿建材が知られている。
例えば、特許文献1には、トバモライトを主成分としたオートクレーブ養生軽量気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight Concrete、以下、ALCと略称する)、珪藻土などのケイ酸カルシウム化合物を用いた調湿成形体が記載されている。
また、特許文献2には、ALC廃材を用いた調湿建材が記載されている。
また、特許文献3には、ALCの粒体を炭酸化処理したバテライト形炭酸化カルシウムを用いた多孔質調湿材が記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−240457公報(第1−3頁)
【特許文献2】
特開2001−270766公報(第1−3頁)
【特許文献3】
特開2001−353418公報(第1−3頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来の調湿建材には以下のような問題があった。
特許文献1〜3に記載された調湿材料である珪藻土、トバモライト、バテライト形炭酸化カルシウムなどのケイ酸カルシウム化合物は、いずれも多孔質であって吸湿性を備えているが、天然、人工のいずれであっても、多孔質の空隙の大きさには、かなりのばらつきがあった。その結果、調湿性にもばらつきが生じていた。このため、例えば、人間が快適と感じる相対湿度範囲と言われる50〜70%といった狭い湿度範囲に合わせた調湿性を備える調湿建材を構成することは困難であるという問題があった。
さらに、これら調湿建材は、調湿材料を製造して、それらを高圧でプレス成形し、高温焼成処理するなど、特殊な製造装置が必要であった。そのため、建材の種類も、例えばパネル状などに限られるという問題があった。
また、従来の調湿建材はケイ酸カルシウム化合物を含むので、産業廃棄物となり、再生や再利用が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、調湿性に優れ、汎用的な建築材料として利用可能で、資源の再生や再利用が可能となるセメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、セメント硬化材において、セメント、骨材および水を含むセメント混合物に、保水性を有する筒状添加材を混入した構成とする。
この発明によれば、筒状添加材が混入されることにより、セメント硬化材の硬化時に筒状添加材同士あるいは筒状添加材と内部気泡とが連通して、硬化物が多孔質化され、筒状添加材の内径を適宜設定することにより、その内径、すなわち毛細管凝集径に応じた調湿性を備えることができる。その結果、従来のセメント硬化材と同様に流動性を備え、例えば高温環境、炭酸化処理などの処理を施すための装置などを要することなく、適宜の型枠や隙間に、常温で充填、硬化させることができ、かつ硬化後は優れた調湿性を備えるようにすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のセメント硬化材において、前記筒状添加材がカーボンナノチューブである。
この発明によれば、筒状添加材を環境への悪影響がないカーボンナノチューブとするので、使用後の廃棄、再生が容易であり、さらに、毛細管凝集半径が1nm〜数十nmのものを安定して製造することができるから、調湿範囲が人間にとって快適な相対湿度範囲になるようにすることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のセメント硬化材において、硬化時に、少なくとも硬化表面およびその近傍に配向される合成樹脂繊維を混入させた構成とする。
この発明によれば、合成樹脂繊維が硬化表面およびその近傍に配向されるので、合成樹脂繊維が補強材となり、吸湿乾燥の繰り返しによるひび割れを防止することができるとともに、合成樹脂繊維の種類を適宜選択することにより、表面に装飾性を備えることができ、建材表面に用いる仕上材としても好適となる。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を硬化させて形成したことを特徴とするセメント硬化体とする。
この発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の発明と同様の作用効果が得られる。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を設置場所以外の場所で硬化させるプレキャスト部材として製造されたことを特徴とするセメント硬化体とする。
この発明によれば、請求項1〜3のいずれかに記載の発明と同様の作用効果が得られるとともに、汎用的な生産設備で製造できて生産性に優れ、設置施工容易なプレキャスト部材として提供することができる。
【0012】
請求項6に記載の発明では、型枠内部にコンクリートを打設して、型枠本体とコンクリートとが一体化されたコンクリート構造物を形成するコンクリート打込み型枠であって、前記型枠本体が請求項5に記載のセメント硬化体からなる。
この発明によれば、コンクリート打込み型枠として、請求項5に記載のセメント硬化体を用いるので、コンクリート構造物の表面が請求項5に記載の発明と同様の作用効果を備えることができる。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載のコンクリート打込み型枠の型枠内面に、所定温度で消失するか透水性となる不透水層が配置され、該不透水層を介して、コンクリートが打設されてなるコンクリート構造物とする。
この発明によれば、所定温度で消失するか透水性となる不透水層により、所定温度より低い平常時は、型枠内外の水分の流通が遮断されるから、硬化時にコンクリート内部に含まれる水分が逃げたり、逆に経時で湿潤したりすることなく保持され、例えば火災などにより所定温度を越えると不透水層が消失または透水性となり、コンクリート内部の水分がコンクリート打込み型枠を通して外部に放散される。その結果、平常時には打設されたコンクリートの含水分がコンクリート打込み型枠の調湿性に影響しないように保持され、火災などの場合には、打設されたコンクリートの含水分がコンクリート打込み型枠側に移動して、コンクリート打込み型枠の温度上昇を抑制するとともに、打設されたコンクリートの爆裂を防止することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なっても同一または相当する部材は同一符号を付し、重複する説明は省略している。また、模式図においては、視認しやすくするために、誇張して表現しており、実際の寸法比は反映されていない。
【0015】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化材およびその硬化物であるセメント硬化体について説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態に係る自己調湿型コンクリート1の概略構成を説明するための断面模式図である。図1(b)は、図1(a)におけるA部を拡大した拡大模式図である。図3は、本発明の実施形態に係る自己調湿型コンクリート1を硬化させて形成したコンクリート壁10の断面模式図である。
【0016】
自己調湿型コンクリート1(セメント硬化材)の概略構成は、セメントマトリックス4、骨材3、およびカーボンナノチューブ2からなる。
セメントマトリックス4は、例えばポルトランドセメントなどのセメント、水および適宜の混和材、混和剤の混合物であり、周知のように、モルタル、コンクリートなどの母体をなす硬化性の流動体である。セメントマトリックス4は、セメントと水が水和反応を起こすことにより、次第に水が失われて硬化するが、本明細書では、その硬化物も同じくセメントマトリックス4と称する。
【0017】
骨材3は、例えば砂、砂利、砕石、高炉スラグ材などの、天然または人工の強度部材である。骨材3は、セメントマトリックス4が硬化することにより相互に結合されて一体化され、硬化後の自己調湿型コンクリート1が所定の強度を備えるようにするためのものである。
【0018】
カーボンナノチューブ2は、グラファイト状の炭素6員環による円筒層が単層または多層に形成された筒状構造を有する炭素の同素体である。その円筒層の内径(以下、特に断らない限りこれをカーボンナノチューブ2の直径と称する。)は、一般に約1nmから数十nm、長さは数μm程度である。本実施形態では、特に優れた調湿性を得られるようにするために、直径が、約4〜6nmのものを採用する。
カーボンナノチューブ2は、グラファイト電極を不活性雰囲気でアーク放電させると生成するが、例えば鉄、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウムなどの触媒金属に高温で炭素を溶かして冷却したり、SiCなどの炭化物を加熱してSiを蒸発させたりするなどの種々の製造方法が知られている。
カーボンナノチューブ2は、分子構造を正確に制御することにより、ナノメートルオーダーの微細構造を制御して特有の機能を発現させるという、いわゆるナノテクノロジーの代表的な研究開発の対象であるが、現状でも上記のような直径の制御の如きは容易である。また、近い将来、量産技術が実用化されることが有望視されている。
【0019】
カーボンナノチューブ2の混入量は、その筒状構造の内部容積が、自己調湿型コンクリート1の単位質量当たり、0.1cm3/g以上であることが好ましい。このような割合でカーボンナノチューブ2を混入させることにより、図1(b)に模式的に示したように、セメントマトリックス4内にランダムに分散するカーボンナノチューブ2が互いに接してそれぞれの内部を連通させたり、セメントマトリックス4内に含まれるエントレインドエア5(連行空気)などの微細空隙に貫入したりして、複雑に連通した連通路、すなわち空隙のネットワークが形成されている。
そのため、自己調湿型コンクリート1を硬化させて、コンクリート壁10(セメント硬化体)を形成する場合、コンクリート壁10の表面1aにはチューブ開口2aがランダムに露出し、コンクリート壁10は、カーボンナノチューブ2によって形成される連通路によって多孔質化される。このとき、比表面積は調湿作用のひとつの目安となるが、より優れた調湿性を得るには、自己調湿型コンクリート1の比表面積は10m2/g以上であるようにすることが望ましい。
【0020】
次に、このような硬化した自己調湿型コンクリート1の作用について説明する。
図2(a)は、硬化した自己調湿型コンクリート1の調湿作用について説明するための、相対湿度と水分の吸着量との関係を模式的に示すグラフである。横軸は、測定環境の相対湿度を表し、単位は%である。縦軸は、水分の吸着量の重量比を表し、単位は%である。ただし、0%から軸の上側方向に増大する相対表示で表している。相対湿度の範囲B(50%〜70%)は、一般に人間が快適と感じる相対湿度の範囲を表している。
【0021】
曲線6は、従来の土壁の調湿特性を示している。その右上がりの曲線から理解されるように、吸着量は相対湿度の上昇とともに緩やかに増大する傾向にあるが、吸着量そのものは少ない。このような特性では、空気中の水蒸気が十分に吸収されないので、高湿度環境を快適とすることができない。
この理由は、土壁は、微細な土粒子が密に詰まっており多孔質でないからである。
【0022】
曲線7は、従来の多孔質構造を備えた調湿建材の一例を示している。低湿から高湿ヘ向かってほぼS字状の曲線となり、低湿側、高湿側それぞれで飽和する領域が見られる。しかし低湿側での吸着量は比較的多く、相対湿度0%の環境でも多くの水分が内部に残存している。この特性では、全体に吸着量が多く、空気中の水分を過度に吸着する建材となっている。
この理由は、細孔が比較的大きいため、高湿度では多量の水分を吸着するものの、表面からの蒸発量と建材内部に吸着された水分の移動量のバランスがとれていないことによると考えられる。
また建材内部の水分が放散されにくいと、例えば火災が起きた場合、建材内部の水蒸気が急に膨張して、いわゆる爆裂を起こすという問題がある。
【0023】
曲線8は、自己調湿型コンクリート1の調湿特性を示している。低湿から高湿ヘ向かってほぼS字状の曲線となっているが、ほとんどの範囲で曲線7よりも吸着量が少なくなっている。そして、相対湿度40%〜90%の範囲で吸湿量の変化が激しくなっており、特に相対湿度50%〜70%(範囲B)では、ほぼ直線的な変化を示している。
このような特性によれば、例えば、環境の相対湿度が上昇すれば、吸着量がほぼ比例して大きくなり除湿する。逆に環境の相対湿度が下降すれば、吸着量がほぼ比例して小さくなり、過剰な水分を放散して加湿する。したがって、自己調湿型コンクリート1の吸湿能力を絶対湿度に対して適宜量としておけば、環境の湿度変動が自律的に抑制されるものである。
【0024】
このような特性が得られる理由を、図2(b)を参照して説明する。
図2(b)は、相対湿度RHと毛細管凝縮半径rとの関係を表したものである。横軸は相対湿度を表し、単位は%である。縦軸は毛細管凝縮半径rを表し、単位はnmである。なお、縦軸が対数目盛の片対数グラフとなっている。
毛細管凝縮半径rは下記の式(1)により計算できる。式(1)は、液体の表面曲率半径と液体の蒸気圧との関係を表すケルヴィン(Kelvin)の式を変形したものである。
【数1】
ここで、各変数および定数は、以下のとおりである。かっこ内の数字は、図2(b)を描くのに用いた具体的な定数である。なお、P/P0は、液体が水蒸気の場合は相対湿度に相当する。
r0:細孔半径
t:多分子層吸着厚み
γ:液体の表面張力(72.76×10−3N/m)
M:液体の分子量(18)
θ:接触角(≒0°)
ρ:液体の密度(1.00285g/cm3)
R:気体定数(8.314J/mol/K)
T:絶対温度(293K)
P/P0:水平表面上の液体の蒸気(P0)に対する毛細管上の液体の蒸気圧Pの比
【0025】
折れ線9は、相対湿度30%〜70%の範囲でほぼ直線となり、相対湿度70%以上では右上がりの急峻な曲線となっている。
折れ線9より、相対湿度を50%〜70%(範囲B)にするには、毛細管凝縮半径rを、1.6nm〜3.1nm(範囲C)にすればよいことが分かる。すなわち、カーボンナノチューブ2の直径を3.2nm〜6.2nmにすればよい。
【0026】
このように湿度の自立的な調整が可能となったカーボンナノチューブ2によって、コンクリート壁10が多孔質化されているため、コンクリート壁10の外部の相対湿度に応じて、表面1aから矢印のように水蒸気を吸着、放散することが可能となっている(図3参照)。
【0027】
カーボンナノチューブ2は、所定の水蒸気圧を保つように水蒸気を搬送する機能を有する。一方、エントレインドエア5などの径の大きな空隙は、カーボンナノチューブ2が吸着した水分を内部で保持し、カーボンナノチューブ2からの蒸発が激しくなると水分を補給するという、言わばバッファーとしてふるまう保湿スペースの機能を備えるものである。
このようにして、硬化した自己調湿型コンクリート1は、カーボンナノチューブ2によりその外部の水蒸気圧が人間にとって快適な相対湿度となる所定範囲に制御された状態で、その内部には水分が保持されるという自己調湿性と保水性を兼ね備えた材料となる。したがって、優れた調湿建材を構成することができるという利点がある。
【0028】
また、自己調湿型コンクリート1は、従来のコンクリートなどのセメント混合物と全く同様に打設して硬化させることができるので、コンクリートなどを利用するすべての建築施工において汎用的に応用することできる。したがって、従来の調湿建材のように、高温でのプレスや特殊処理を必要とする製造装置を用いることなく容易に製造、施工することが可能となる利点がある。
【0029】
また、コンクリート壁10などのように、自己調湿型コンクリート1を硬化させて建材を形成する場合には、コンクリートに十分な強度特性が発現した後、通常の使用状態で履歴しない温度、例えば日照などの自然な加熱によってそれ以上は上昇しないと考えられるような温度である50℃程度において十分乾燥させておくと、より効果的に調湿機能を発揮することができる。
このようにすれば、通常の温度範囲では十分乾燥しているため、室内の余分な水分を多量に吸湿することができる。一方、火災などにより異常に加熱された場合を考えると、まだ、コンクリート壁10内に放散可能な水分を保水している状態であるから、加熱によりその水分が放散され、コンクリート壁10の温度を下げる効果が得られる。
【0030】
また、カーボンナノチューブ2は、炭素の同素体であり、長さもきわめて短いので、環境に放出されても無害である。そこで、従来の調湿建材とは異なり、硬化した自己調湿型コンクリート1、自己調湿型コンクリート1を用いた建材、構造物は、既存のあらゆる再生方法、再利用方法の適用が可能である。例えば、コンクリート殻として、路盤材などに使用する方法、加熱すりもみ法などにより粗骨材、細骨材、セメント原料となる微粉などに分別して回収し利用する方法、パネル、建材、部材そのものをそのままの形で他の建物に再利用する方法などが可能である。
したがって、地球環境の保全にも寄与し得る調湿建材となり得るものである。
【0031】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図4(a)は、本実施形態の変形例に係る仕上材11を説明するための概略模式図である。図4(b)は、図4(a)のD−D断面模式図である。
仕上材11は、自己調湿型コンクリート1に補強繊維12(合成繊維樹脂)を混合したセメント硬化材である。
補強繊維12は、自己調湿型コンクリート1が硬化したとき、セメント硬化体の靭性を向上させたり、表面強度などを補強して乾燥時のひび割れ抵抗性を高めたりするものである。補強繊維12としては、例えば、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂繊維が採用できる。
また特に、補強繊維12を熱可塑性の合成樹脂として、火災などによる熱を受けた場合、所定温度で溶融、分解または揮発するような材質とすることが好ましい。
【0032】
補強繊維12の混入率は、0.05体積%〜2.0体積%程度とすることが望ましい。
混入の仕方は、ランダムに分散するようにすればよいが、ひび割れを効果的に防止するためには、表面および表面近傍に確実に配向されることが好ましい。そのため厚肉の部材では、その表面と内部とで混入量を変えてもよい。
【0033】
また、仕上材11の硬化のさせ方は、設置場所の現場で組み立てられた型枠に打設してもよいし、現場以外で硬化させて、パネル状、ブロック状などのプレキャスト部材としてもよい。
また、図5(a)に示したように、仕上材11を、例えばコンクリート製などの構造部材あるいは区画部材であるパネル本体13aの表面に吹き付けたり、いったん薄板にしてから固定したりして、複合部材である壁面パネル13として用いてもよい。
【0034】
このような仕上材11によれば、硬化後にすぐれた調湿性を備えるとともに、吸湿、乾燥を繰り返してもひび割れしにくい。その結果、長期にわたって美観が維持できるから、壁体などの表面を覆う仕上用建材として好適である。特に、例えば10mm程度といった比較的薄肉の仕上用建材として用いる場合、仕上材11の流動方向に補強繊維12の長手方向が揃いやすいため、補強繊維12の配向方向は平面方向が支配的となって、ひび割れ強度が顕著に向上できるという利点がある。
また、補強繊維12に用いる材料は、色、太さなどを変えることにより、仕上材11の表面の外観を容易に変えることができるという利点もある。
【0035】
特に、壁面パネル13のようにして使用すれば、強度はパネル本体13aが担うので、仕上材11は、調湿性と、ひび割れ強度や外観などの補強繊維12の機能を備えていればよく、骨材は減らすか、場合によってはなくしてもよい。このようにすれば、仕上材11は、図示左側の室内に対して調湿建材として作用するとともに、図示右側のパネル本体13aに対しては、パネル本体13a内の水分が室内に移動するのを制御することができる。
【0036】
さらに、室内で火災が発生したときには、仕上材11に保水されていた水分が激しく蒸発し、その潜熱により壁面パネル13の温度上昇を抑制することができる。
この場合、特に補強繊維12として、所定温度で溶融、分解または揮発するような材質とすれば、より優れた耐火被覆材とすることができる。
まず、仕上材11内に水分が保持されている場合は上記のような温度上昇の抑制作用を有する。そして、所定温度に達すると、補強繊維12が溶融、分解または揮発して消失し、火災のエネルギーが消費される。さらに、仕上材11内で補強繊維12が占めていた場所に空隙が生じる。すると、それまで、室内側への移動が規制されていたパネル本体13a内の水分が、それらの空隙を通して、容易に室内側に移動し(図5(b)参照)、壁面パネル13の温度上昇の抑制作用が継続されるものである。しかも、パネル本体13a内に含まれる水分が効率的に逃されることによって、コンクリート爆裂が起こるのを防ぐことができるという利点もある。
【0037】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠およびそれを用いたコンクリート構造物について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠21および壁体20の概略構成を説明するための平面概略図である。
壁体20(コンクリート構造物)の概略構成は、コンクリート打込み型枠21、21と現場打ちコンクリート23とからなる。
【0038】
コンクリート打込み型枠21は、プレキャスト版を対向して立設することにより、その間にコンクリートを打設する空隙を設けたコンクリート型枠である。プレキャスト版は、自己調湿型コンクリート1と必要に応じて補強繊維12とを混合して、硬化させることにより形成する。コンクリート打込み型枠21は、現場打ちコンクリート23の打設後、その表面が壁体20の外表面となるので、外観について予め配慮されたプレキャスト版として製作される。補強繊維12を混合する場合は、ひび割れ強度、装飾性などを考慮して適宜の材質を選択する。
【0039】
コンクリート打込み型枠21の内面側には、その全面を覆う不透水シート24(不透水層)が配置されるとともに、適宜間隔でアンカー22が埋め込まれている。
不透水シート24は、所定温度以上では、熱により溶融、分解または揮発して、全体が消失したり、消失して貫通穴が空いたりして、不透水性が失われるような合成樹脂シートである。所定温度は、具体的には、500℃以下、より好ましくは、350℃以下の温度で消失することが望ましい。このような不透水シート24の材質としては、例えば、厚さ200μm以下のポリプロピレンフィルムなどが好適に採用できる。
アンカー22は、現場打ちコンクリート23内部に埋め込まれてコンクリート打込み型枠21と現場打ちコンクリート23を一体化させるものであれば、どのような構造のアンカーであってもよい。
現場打ちコンクリート23は、コンクリート打込み型枠21、21間の空隙に打設されたコンクリートである。コンクリートは、構造物を構築するためのどのようなコンクリートでもよい。また、図示していないが、鉄筋が配されていてもよいことは言うまでもない。
【0040】
このような壁体20は、まず所定の形状にコンクリート打込み型枠21、21を組立て、不透水シート24を配置して、アンカー22を埋め込む。そして、コンクリート打込み型枠21、21間に現場打ちコンクリート23を打設して、所定期間養生することにより製造することができる。
なお、不透水シート24を配置する代わりに、コンクリート打込み型枠21の内面に合成樹脂を吹付け塗布する工法により不透水層を形成してもよい。そうすれば、コンクリート打込み型枠21の内面が曲面や凹凸を備える場合でも容易に施工ができるという利点がある。
また、アンカーの代わりにコンクリート打込み型枠21側にコッターを形成しておいてもよい。
【0041】
次に、壁体20の作用について説明する。
図7は、壁体20の作用を説明するための平面模式図である。
コンクリート打込み型枠21は、自己調湿型コンクリート1からなるので、調湿作用を有している。すなわち、室内の湿度が所定範囲を保つように、水分が吸着、放散される。
一方、現場打ちコンクリート23は、一般に硬化後に2%〜4%程度の含水率があるが、コンクリート打込み型枠21との間が不透水シート24によって仕切られているため(図7右側参照)、平常時は、この水分がコンクリート打込み型枠21に移動することはない。すなわち、コンクリート打込み型枠21内に過大な水分が供給されてコンクリート打込み型枠21の吸湿特性が阻害されることがない。
【0042】
ところが、火災などによりコンクリート打込み型枠21が加熱されると、コンクリート打込み型枠21からの水分の蒸発が活発となり、その潜熱により温度上昇が抑制される。コンクリート打込み型枠21内に保持した水分がなくなると、温度が上昇してゆく。所定温度に達すると、不透水シート24が消失し、不透水シート24の位置に空隙24aが発生する。そのため、現場打ちコンクリート23内で加熱されて蒸発した水蒸気がコンクリート打込み型枠21側に移動する(図7左側参照)。
【0043】
その結果、コンクリート打込み型枠21の温度上昇が抑制されるとともに、現場打ちコンクリート23の爆裂が防止される。
コンクリート打込み型枠21内に、所定温度で消失する補強繊維12が混合されている場合には、補強繊維12が消失することにより、コンクリート打込み型枠21内に空隙が増加し、現場打ちコンクリート23からの水分の移動がより容易となるという利点がある。
【0044】
このようなコンクリート打込み型枠21および壁体20によれば、通常時には、優れた調湿性を有する。そして、火災などの加熱時には、被加熱面側の温度上昇が抑制されるとともに、所定温度以上では、現場打ちコンクリート23内の水分を、コンクリート打込み型枠21を通して外部に速やかに逃すことができる。その結果、コンクリート打込み型枠21の温度上昇を抑制するとともに、現場打ちコンクリート23の爆裂を防ぐことができるから、優れた耐火被覆を有するコンクリート構造物とすることができる。しかも、これらをコンクリート打込み型枠21に現場打ちコンクリート23を打設するだけ、という容易かつ迅速な製造方法により構築することができる。
【0045】
なお、上記の第2の実施形態において、コンクリート打込み型枠21を厚くするなどして吸湿性能を向上することができる場合は、現場打ちコンクリート23内に保持されている水分がコンクリート打込み型枠21の吸湿作用の妨げとならないので、不透水シート24を設けなくてもよい。
【0046】
なお、上記のすべての実施形態を通じて、セメント硬化材、セメント硬化体の例として、自己調湿型コンクリート1のように、骨材3を混合したコンクリートの例を挙げて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、骨材3を含まない構成のセメントペーストや、モルタルなど他のセメント混合物にカーボンナノチューブ2を混合したセメント硬化材、セメント硬化体であってもよい。
【0047】
また、上記の説明では、筒状添加材として、カーボンナノチューブの例で説明したが、適切な調湿性を得るための所定範囲の内径を有し、空隙などを介して細孔のネットワークを形成することができる筒状の中空部材であれば、カーボンナノチューブに限るものではない。
【0048】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明のセメント硬化材、セメント硬化体、コンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物によれば、調湿性に優れ、汎用的な建築材料として利用可能で、資源の再生や再利用が可能な優れた調湿建材を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化材の概略構成を説明するための断面模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化体の作用を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るセメント硬化体の作用を説明するための断面模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る変形例を説明するための概略模式図および断面模式図である。
【図5】同じく別の変形例を説明するための断面模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るコンクリート打込み型枠およびコンクリート構造物の概略構成を説明するための平面概略図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るコンクリート構造物の作用を説明するための平面模式図である。
【符号の説明】
1 自己調湿型コンクリート(セメント硬化材)
2 カーボンナノチューブ(筒状添加材)
3 骨材
4 セメントマトリックス
5 エントレインドエア
10 コンクリート壁(セメント硬化体)
11 仕上材(セメント硬化材)
12 補強繊維(合成樹脂繊維)
13 壁面パネル(セメント硬化体)
20 壁体(コンクリート構造物)
21 コンクリート打込み型枠
24 不透水シート(不透水層)
Claims (7)
- セメント、骨材および水を含むセメント混合物に、保水性を有する筒状添加材を混入したことを特徴とするセメント硬化材。
- 前記筒状添加材がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化材。
- 硬化時に、少なくとも硬化表面およびその近傍に配向される合成樹脂繊維を混入させたことを特徴とする請求項1または2に記載のセメント硬化材。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を硬化させて形成したことを特徴とするセメント硬化体。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のセメント硬化材を設置場所以外の場所で硬化させるプレキャスト部材として製造されたことを特徴とするセメント硬化体。
- 型枠内部にコンクリートを打設して、型枠本体とコンクリートとが一体化されたコンクリート構造物を形成するコンクリート打込み型枠であって、
前記型枠本体が請求項5に記載のセメント硬化体からなることを特徴とするコンクリート打込み型枠。 - 請求項6に記載のコンクリート打込み型枠の型枠内面に、所定温度で消失するか透水性となる不透水層が配置され、該不透水層を介して、コンクリートが打設されてなるコンクリート構造物。
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