液体使用装置、例えばインクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体へと液体であるインクを付与することにより記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置は、記録時の騒音が比較的小さくしかも小さなドットを高い密度で形成できるため、昨今においてはカラー印刷を含めた多くの印刷に利用されている。このようなインクジェット記録装置の一形態として、一体不可分にまたは分離可能に取り付けられたインクタンクからインクの供給を受けるインクジェット記録ヘッドと、記録ヘッドを搭載して記録媒体に対し記録ヘッドを所定方向に相対的に走査させるキャリッジと、記録媒体を記録ヘッドに対して上記所定方向に直交する方向に相対的に搬送(副走査)させる搬送手段と、を具え、記録ヘッドの主走査の過程でインク吐出を行わせることにより記録を行うものがある。さらに、キャリッジ上に、ブラックインクおよびイエロー、シアン、マゼンタ等の各カラーインクが吐出が可能な記録ヘッドを搭載し、ブラックインクによるテキスト画像のモノクローム印刷のみではなく、各インクの吐出割合を変えることにより、フルカラー印刷を可能としたものもある。
かかるインクジェット記録装置においては、インク供給経路内部に混入してくる、またはしている空気等の気体の排出を適切に行うことが問題となる。
ここで、供給系内部に進入してくる気体には大きく分類して4種類の発生要因がある。
1)プリントヘッドのインク吐出口から進入する、ないしは吐出動作に伴って発生するもの、
2)インク内部に溶存していた気体が分離したもの、
3)供給経路を構成する素材を通して外部から気体透過により進入してくるもの、および、
4)カートリッジ形態のインクタンクを交換する際に進入してくるもの、
である。
ところで、インクジェット記録ヘッド内に形成される液路は非常に微細に構成されており、従ってインクタンクから記録ヘッドに供給されるインクは、塵埃等の異物が混入していない清浄な状態であることが要求される。すなわち、塵埃等の異物が混入しているような場合、記録ヘッド内のインク流路の中でも特に狭い吐出口ないしこれに直接連通する液路部分に異物が詰まるという問題が発生し、これにより正常なインクの吐出動作が行えなくなり、記録ヘッドの機能の回復が不可能となることもある。
そこで、一般に記録ヘッドと、インクタンクに突入するインク供給針との間のインク流路に、異物を除去するフィルタ部材を配置し、このフィルタ部材によって記録ヘッド側への異物の侵入が防止できるように構成されることが多い。
一方、昨今においては記録の高速化を実現するために、インクを吐出するための吐出口数も増してきており、またインクを吐出させるためのエネルギを発生する素子に加える駆動信号も益々高周波数のものが採用されつつある。このために、単位時間当たりのインクの消費量も急激に増加している。
これに伴い、フィルタ部材を通過するインク量も当然ながら増大するが、フィルタ部材による圧力損失を低減するためには、供給路を一部拡大して大面積のフィルタ部材を配置するのが有効である。このために、供給経路内に気泡が混入すると、拡大部におけるフィルタ部材の上流側の空間に滞留し易く、これを排出できない状態となって、インクの円滑な供給が阻害されるという問題が生じる。また、供給経路内部に溜まっていた気体が微細な気泡となって吐出口に導かれるインク内部に混入し、インクの不吐出を生じさせる等の問題を引き起こす恐れもある。
従って、インク供給経路内に滞留する空気は速やかに除去されることが強く望ましく、そのためにいくつかの方法が挙げられる。
その一つは、次に述べるようなクリーニング操作を行うことである。
インクジェット記録ヘッドは、記録媒体に対向して配置される吐出口から液体であるインクを例えば滴として吐出させて印刷を行う関係上、吐出口からのインク溶媒の蒸発に起因するインク粘度の上昇やインクの固化、吐出口への塵埃の付着、さらには吐出口内方の液路への気泡の混入などにより吐出口に目詰まり等が生じ、印刷不良を起こすことがある。
このために、インクジェット記録装置には、非印刷動作時に記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャッピング手段や、吐出口が形成された記録ヘッドの面(吐出口形成面)を必要に応じて清掃するワイピング部材が備えられる。キャッピング手段は、印刷の休止時に前述した吐出口のインクの乾燥を防止する蓋として機能するだけではない。吐出口に目詰まりが生じた場合には、キャップ部材により吐出口形成面を覆い、例えばキャップ部材の内部に連通する吸引ポンプにより負圧を作用させることにより、吐出口からインクを吸引排出させ、吐出口のインク固化による目詰まりや、液路内の増粘インクあるいは混入気泡によるインク吐出不良を解消する機能をも備えている。
これらインク吐出不良を解消させるために行うインクの強制的な排出処理はクリーニング操作と呼ばれ、これは装置の長時間の休止後に印刷を再開する場合や、またユーザが記録画像の品質が悪化したのを認識して例えばクリーニングスイッチを操作した場合などに実行される。さらに、そのようにインクを強制排出させた後に、ゴムなどの弾性板からなるワイピング部材により吐出口形成面のワイピング操作を伴う。
そして、インクを初めて記録ヘッドの流路ないし液路内へ充填するための初期充填時や、インクタンクを交換した場合に実行されるクリーニング操作時において、キャッピングされた吐出口形成面に対し吸引ポンプを高速度で駆動することで大きな負圧を作用せしめ、これによりインク供給路内で高い流速を得て滞留気泡を排出させようとする試みもなされている。
しかしながら、上述したフィルタ部材が持つ動圧を抑えるためにフィルタ部材の面積を増大すると流路断面積も増大する。このため、前述のクリーニング操作において流路内に大きな負圧を発生せしめても、気泡を効果的に移送できるような高い流速が発生せず、残留気泡を吐出口側から吸引ポンプで除去するのは極めて困難となる。すなわち、吸引ポンプによるインクの流れにより気泡がフィルタを通過する条件として、フィルタを通過するインクに所定の流速が必要であるが、それを発生させるにはフィルタ両側に大きな圧力差を生じさせなくてはならない。それを実現するには、通常フィルタ面積を小さくして流路抵抗を高めるか、吸引ポンプを大流量化することが考えられるが、フィルタを小さくするとヘッドへの供給性能が損なわれ、また、大流量で気体を除去しようとする場合には、大量のインクが排出されてしまい、インクをいたずらに消費することにもなる。
そこで、気泡除去の他の方法として考えられるのは、気泡を外部へ直接排出させる方法と、インクタンク側に移動させ、インク供給を阻害しないタンク内の部位に留めてしまう方法との二つとなる。これらのうち、前者については、供給路中に外部への連通口を配置する構成を有するものとなるが、これは次の理由により好ましい方法とは言えない。
すなわち、通常のインクジェット記録装置においては、吐出口からのインクの好ましくない漏出を防止する目的で、インクタンク内に吸収体などの毛管力発生部材を配設したり、あるいは可撓性のインク収納袋に対しばね等の弾性部材を配置して内容積拡大方向への付勢力を作用させたりすることにより、インクタンクのインク収納空間に負圧を発生させているものが多い。このような場合においては、供給路に気泡除去のために単なる連通口が配置されると、却って連通口からエアが侵入することで負圧が解除されてしまうことになるので、連通口には圧力調整弁等の配設が必要となり、インク供給システムひいてはこれを用いる記録装置の構造が複雑化・大型化することになるからである。また、気泡排出用の連通口からのインクの漏洩を防止するために、気体は通過できるが液体は通過できない撥水膜等の配設を要したり、あるいは気泡が滞留した場合にのみ連通口を開放して排出させる装置(気泡量検知機構や連通口開閉機構等)が必要となるので、製造価格の増大や構造の複雑化・大型化が生じるからである。
一方、インクタンク側に気泡を移動させることを考える。このとき、インクタンクに移動する気泡の体積に相当する量のインクをヘッド側に移送することができれば、インクタンク内容積の変動はなく、発生する負圧を一定として、記録ヘッドに対し吐出口に形成されるメニスカスの保持力と平衡する負圧を作用することができるので、好ましいことである。また、インクタンクがカートリッジ形態のものであれば、収納するインク残量がなくなったときに新しいものと交換されるので、インク供給系から完全に気体を除去することができる構成であると言い得る。
しかし、民生用に広く普及しているインクジェット記録装置においては、ブラックインクおよびカラーインクをそれぞれ収納したカートリッジ形態のインクタンクを、記録ヘッドないしこれを搭載するキャリッジに対しその上部から着脱可能に装着できるように構成されることが多い。すなわち、例えばインクカートリッジにはキャリッジに上向きに搭載された中空のインク供給針が突入することで、記録ヘッドに対するインク供給が可能となるように構成されているものが多い。従って、インクカートリッジと記録ヘッドを連結するインク供給針の管内径が問題となる。つまり、大きな力を要さずにカートリッジ装着の操作が簡便に行われるようにするためにも、供給針として細いものを使用することが求められるが、管内径が小さくなればその分メニスカス力が大きくなるために気泡を円滑に移動することができないのである。
ところで、インクタンク側に気体を移動させる機構については、これまでにもいくつかの提案がなされている。
例えば、特許文献1においては、記録ヘッド側を、大気連通口を有する第1室と毛管力発生部材を有する第2室とに分離し、第1室とインクタンクとを第1室側の開口の高さが異なる2以上の連通路で連結させることで、連通路の1つからインクタンク側にエアが供給されるようにした構成が開示されている。かかる構成は、第1室と第2室との水頭差、あるいは、第2室に配置した毛管力発生部材によりヘッドに負圧を作用させているものであり、第1室に大気連通口を配置させることができている。
しかしながら、この特許文献1の構成は、変形しないインクタンク内のインクを使い切るためにインク供給に応じてインクタンク内に大気を導入することが目的であり、インク供給経路内に残留した気泡をインクタンクに排除することを目的とするものではない。すなわち、インク供給経路とりわけ第2室ないし記録ヘッド側からの気体をもインクタンクに移送するために同文献開示の技術を適用することはできない。
また、他の提案として、特許文献2には、負圧発生部材収納室と液体収納室とを分離可能とした場合に、両者を連結する連通部に気体優先導入路と液体導出路とを配置し、確実に気体を液体収納室に導入できるようにした構成が開示されている。しかしながら、同文献においても、インクタンクと記録ヘッドとの間に毛管力発生部材と大気連通口が配置されている構成が開示されており、特許文献1と同様、大気連通口としての開口から気体が自由に出入りする大気開放系のインク供給路であり、インク供給経路内に残留した気泡の排除を行う目的に対して、同文献開示の技術は適用できない。
さらに、特許文献3には、下側に液体導出管(drain conduit 66,72,74)と気体導入管(vent conduit 76,82,84)を突出させてなるインク収納容器(ink container 50)が開示され、液体導出管は収納容器の内壁底面に上部開口があり、気体導出管は収納容器の収納空間内部に開口が配置されている構成が示されている。同文献に開示の技術の目的は、リザーバ(reservoir 16,18,20)を有する部材(14)にインクをリフィルするためのシステムの構成であって、リザーバより下流のインク供給経路ないしインクを使用する部分内に残留している気泡除去を目的としたものではない。また、液体導出管と気体導入管の下部開口高さが等しいために管内でメニスカスを形成してしまうと、液体や気体の移動ができなくなるとも考えられる。さらに、同文献においては大気連通口の記載はないが、インク収納容器50および部材14で構成されている系が密閉されていると、インクの使用を続けて行くと内部の負圧が急激に高まり、インク使用部分に対するインク供給不能に陥るので、いずれかの部位に大気連通口が設けられているものと考えられる。リザーバ(reservoir 16,18,20)には吸収体(form 90)が収納されている点、及びFIG.2のインク収納容器、気体導出管等の構成および機能に鑑みれば、大気連通口はリザーバー(16,18,20)に設けられているものと考えられるが、いずれにせよ上記1)〜4)のような原因でインク供給経路内に残留した気泡の排除を積極的に行うという観点はない。
さらに、特許文献4には、負圧発生部材収納室とインク収納室とを有してなるリザーバタンクにインクを補充するための補充タンクが結合可能で、インク収納室の空間に対しその上部および下部において補充タンクが結合した場合に、下部の液体連通管を介して補充タンクからインクがインク収納室に導入される一方、上部の気体連通管を介してインク収納室から空気が補充タンク側に導入されるようにした構成が開示されている。しかしながら、同文献においても、インク収納室と記録ヘッドとの間に負圧発生部材と大気連通口とが配置されている構成において特許文献1および2と本質的に変わりはなく、従ってインク供給経路内に残留した気泡の排除を行う目的に対して、同文献開示の技術を適用することはできない。
また、特許文献5には、図23に示すように、記録ヘッド1018に連通したメインタンク1020にインクを補充するためのサブタンク1022をメインタンクの上部に装着し、キャリッジの加減速によりメインタンク内の気体をサブタンク内に導入する一方、サブタンク内のインクをメインタンク内へ供給する構成が開示されている。同文献においては、サブタンクと連通しているメインタンク部が自由状態でインクを収容するものの、メインタンク部に大気を導入する手段を有しており、本質的には特許文献1,2,4の構成と変わりはない。すなわち上記1)〜4)のような原因でインク供給経路内に残留した気泡の排除を積極的に行うという観点はない。
特許文献1、2、4および5に共通する構成は、分離可能な液体収納部(インクタンク)が複数の連通路で記録ヘッド側と連通し、さらに連通路より下流側(記録ヘッド側)に大気導入手段を有することであるが、この構成による問題点について特許文献5を代表して記述する。
図23は特許文献5に記載された同文献の発明を説明する概念図である。この状態において、エア移動(パイプ1056Aを介したサブタンク1022のサブインク室1081への気体の移動)が停止しているとして、パイプ1056Aで形成されているメニスカス部に作用する力のバランスを考える。まず、下向きに働く力は、サブインク室1081内のインク液面とパイプ1056Aの開口部に形成されているメニスカス位置との水頭差による圧力HAと、メニスカス力MAとがある。さらに上向きに作用する力はメインタンク1020内に配設されたインクバッグ1100に貯留されるエアによる圧力Pがある。これらの力がすべてつりあってエア移動が停止している。この場合、エアの圧力Pは、サブインク室1081内のインク液面とインクバッグ1100内のインク液面位置との水頭差による圧力およびメニスカスによる圧力の和とつりあっている(P=HA+MA)。さらに、サブインク室1081内のインクとインクバッグ1100内のインクはパイプ1056Bにより連通しているので、パイプ1056Aに形成されているメニスカスに作用している下向きのインク圧力とインクバッグ1100内の気体圧力との差は、パイプ1056Aのメニスカス位置とインクバッグ1100内の液面との水頭差による圧力HB−HAと等しくなる。よって、結果としてこの水頭差による圧力HB−HAとメニスカス圧力MAとがつりあうことで平衡状態となっている。
この状態からさらにインク消費が進み、気泡発生装置1104から気泡が導入されるなどして、インクバッグ1100内の液面が下がると、パイプ1056Aのメニスカス位置とインクバッグ1100内の液面との水頭差による圧力HB−HAが増大し、ついにはメニスカス圧力を超えるとエアがサブインク室1081へ導入され、それに伴いサブインク室1081内のインクがインクバッグ1100内に供給される。
しかしながら、記録ヘッド1018でインクを吐出する場合には、供給システム全体にインクの流れが生じるため、パイプ1056Bにおけるインク流量に応じた圧力損失がサブインク室1081とインクバッグ1100との間で発生する。従って、上述のメニスカス圧力MAと、メニスカス位置とインクバッグ1100内の液面との水頭差による圧力HB−HAとの関係にさらに、圧力損失を考慮する必要が生じ、結果として、上述のメニスカス圧力に圧力損失分を加えた圧力より、メニスカス位置とインクバッグ1100内の液面との水頭差による圧力が大きい場合にエア移動が発生することになる。つまり、エア移動停止状態に比較して、インク吐出状態すなわち動的な状態では、そのインク流量に応じたパイプ1056Bの圧力損失分だけさらに液面が低下しなければ気液交換は発生しない。そして、その気液交換が開始されるべき液面がパイプ1056Bの開口部より低くなった場合には、気液交換は発生せず、サブタンク1022内のインクを使用しないままメインタンク1020内のインクを使い切ってしまうことになる。
したがって、前述のようにタンク装着の操作を簡便にするためにパイプを細くした場合には、その分圧力損失が増大するので、これに応じてメインタンクの気液交換が開始される液面が低くなることを考慮しなければならない。すなわち、メインタンクのサイズを増大させざるを得ず、ひいては記録装置全体のサイズアップにつながることになる。
さらに、図23のような構成についての別の問題としては、気泡発生装置1104がメインタンクの下部に配設されている点にある。すなわち、インクの吐出口には気泡が極力移送されないようにすることが強く好ましいにもかかわらず、気泡発生装置1104から導入された気泡がインク吐出動作に伴って記録ヘッド1018に向かうインクの流れに乗って記録ヘッド1018に連通する流路1041に引き込まれてしまう恐れがあるのである。従って、そのような泡の引き込みを防止するためは、インク吐出動作に伴うインクの流れを制限したり、気泡発生装置1104をフィルタ部1039から離れた位置に配設するなどの手段を講じる必要が生じ、これによってさらにメインタンク1020のサイズが増大することになる。
これらの弊害については、連通路より記録ヘッド側に大気導入手段を備えた構成である特許文献1,2,4の構成についても同様である。
特開平5−96744号公報
特開平11−309876号公報
米国特許第6,347,863号明細書
特開平10−29318号公報
特開2001−187459号公報
以上の通り、上記特許文献1〜5には、気体を最上流のインクタンクへと導入する点については開示があるが、使用状態において密閉構造であるインク供給経路内に滞留する気体、すなわち上記(1)〜(4)のような要因で進入し、滞留するような気体をインクタンク側に円滑に移送し、留めておく目的には、いずれも合致していない。
よって本発明は、液体使用部分に対して密閉構造を持つ液体供給システムにおいて、液体使用動作および液体供給動作の障害となる気体を、構造の複雑化を伴うことなく液体使用部から迅速かつ円滑に排除できるようにすることを目的とする。
また、本発明の他の目的は、密閉構造のインク供給経路内に残留する気体を円滑かつ迅速にインクタンク側に移送させるとともに、記録装置の実使用時においても、滞留気泡に起因する問題点、すなわちインク供給の不良や混入気泡による吐出口の目詰まり等に起因した記録不良が生じないインクジェット記録装置を提供することにある。
以下に、本発明をインクジェット記録装置に適用したいくつかの実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する場合、または記録媒体の加工を行う場合を言うものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板等、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能な物も言うものとするが、以下では「用紙」または単に「紙」ともいうものとする。
なお、本発明の液体供給システムに用いられる液体として、以下の各実施形態ではインクを例にとって説明を行っているが、適用可能な液体としては、インクに限ることなく、例えばインクジェット記録分野にあっては、記録媒体に対する処理液などを含むことは言うまでもない。
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による液体供給システムの模式的断面図である。
図1に示す実施形態のインク供給システムは概して、液体収納容器としてのインクタンク10と、インクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」と称する)20と、それらの間を連絡するインク供給路を形成する液室50とから構成されている。液室50は、記録ヘッド20と分離可能または分離不能に一体化されたものでも良く、また、記録ヘッド20を搭載するキャリッジに設けられてその上部からインクタンク10が着脱可能であるとともに、当該装着時においてインクタンク10から記録ヘッド20に至るインク供給経路を閉成するものでも良い。この液室50は、インクタンク10と記録ヘッド」20への接続部を除いて実質的に密閉空間を形成しており、大気導入手段は有していない。
インクタンク10は、概してインク収納空間が画成されるインク収納室12およびバルブ室30との2室からなり、その両室の内部は連通路13を介して互いに連通されている。そして、インク収納室12内には記録ヘッドから吐出させるためのインクが収納され、吐出動作に伴って記録ヘッドに供給される。
インク収納室12には、一部に変形可能な可撓性膜(シート部材)11が配設されており、この部分と不撓性の外装15との間でインクを収納する空間を画成している。このシート部材11から見たインク収納空間に対する外側空間、すなわち図におけるシート部材11に対して上側の空間は、大気に開放され大気圧と等しくされている。さらにこのインク収納空間内は、下方に位置する液室50の接続部51への接続部およびバルブ室への連通路13を除いて、実質的に密閉空間を形成している。
本例のシート部材11の中央部分は平板状の支持部材である圧力板14によって形状が規制されており、その周縁部分が変形可能となっている。そして、このシート部材11は、予めその中央部分が凸状に形成されていて、側面形状がほぼ台形となっている。このシート部材11は、後述するように、インク収納空間内におけるインク量の変化や圧力変動に応じて変形する。その際に、シート部材11の周辺部分がバランスよく伸縮変形し、そのシート部材11の中央部分がほぼ水平姿勢を保ったまま、図の上下方向に平行移動する。このようにシート部材11がスムーズに変形(移動)するため、その変形に伴う衝撃の発生がなく、衝撃に起因するインク収納空間内に異常な圧力変動が生じることもない。
またインク収納空間内には、圧力板14を介してシート部材11を図の上方向に付勢する押圧力を作用することで、記録ヘッドのインク吐出部に形成されるメニスカスの保持力と平衡して記録ヘッドのインク吐出動作が可能な範囲にある負圧を発生させる圧縮ばね形態のばね部材40が設けられている。それとともに、インク収納室内の空気が環境変化(周囲温度や気圧)によって体積変動した場合、ばねとシートの変位で受容し、室内の負圧が大きく変動しないようになっている。なお、図1の状態は、インク収納空間内にほぼ完全にインクが充填された状態を示しているが、この状態でもばね部材40は圧縮された状態にあり、インク収納空間内に適切な負圧が生じているものとする。
バルブ室30には、インクタンク10内の負圧が所定値以上に高まったときに外部から気体(空気)を導入するとともに、インクタンク10からのインク漏出を阻止するための一方向弁が構成される。この一方向弁は、連通口36を有して弁閉鎖部材となる圧力板34と、バルブ室筐体内壁の連通口36との対向位置に固定されて連通口36を密閉可能なシール部材37と、圧力板と接合されるとともに連通口36が貫通したシート部材31とを有し、バルブ室30内においてもインクタンク10への連通口13および大気への連通口36を除いて実質的に密閉空間を維持している。そしてシート部材31より図中右側の、バルブ室筐体内の空間は、大気連通口32によって大気に開放され、大気圧と等しくされている。
シート部材31は、中央部分の圧力板34と接合されている部分以外の周縁部分は変形可能となっており、中央部分が凸状とされていて、側面形状がほぼ台形となっている。このような構成をとることによって弁閉鎖部材である圧力板34の、図の左右方向への移動が円滑に行われる。
バルブ室30の内部には、弁の開放動作を規制するための弁規制部材として、ばね部材35を設けてある。ここでもばね部材35はやや圧縮された状態としておき、この圧縮の反力によって圧力板34を図の右方に押す構成としている。このばね部材35の伸縮によって、連通口36に対するシール部材37の密着/離間を行うことで弁としての機能をもたせ、さらに大気連通口32から連通口36を介してバルブ室30内部への気体の導入のみを許可する一方向弁機構としている。
ここでシール部材37としては、連通口36が確実に密閉されるものであればよい。すなわち、少なくとも連通口36と接触する部位が開口面に対して平坦性を保つ形状を有したもの、あるいは連通口36の周囲に密着可能なリブを有したもの、さらには連通口36内に先端が突入して連通口36を閉塞可能な形状を有するものなど、密着状態が確保できるものであればよく、またその材質も特に限定されない。しかし、この密着はばね部材35の伸長力で達成されるものであるので、この伸長力の作用によって動くシート部材31と圧力板34に追随し易いもの、すなわち収縮性をもつゴムのような弾性体でシール部材を形成することは、より好ましい。
かかるインクタンク10の構成では、インクが十分に満たされている初期状態からインク消費が進んで行き、インク収納室12内の負圧と、バルブ室30内における弁規制部材によって作用する力等とがつりあった状態からさらにインク消費が継続されて負圧がさらに強まった瞬間に、連通口36が開放されて大気の流入が生じ、インク収納空間内に取り込まれるように各部の設計が行われる。そして、この大気の取り込みによってインク収納室10内の容積はシート部材11ないし圧力板14が図の上方に変位可能であることで逆に増大することができ、同時に、負圧も弱まることによって連通口36が閉鎖される。
また、インクタンクの周囲環境の変化、例えば、温度上昇あるいは減圧等が生じても、シート部材11ないし圧力板14の下方への最大変位位置から初期位置までの間の容積分、収納空間内に取り込まれている空気の膨張が許容されるので、換言すれば当該容積分の空間がバッファ領域として機能するので、周囲環境の変化に伴う圧力の上昇を緩和し、吐出口からのインク漏出を効果的に防止することができる。
また、初期充填状態からの液体導出に伴いインク収納空間の内容積が減少し、バッファ領域が確保されるまでは、外気が導入されないので、それまでに周囲環境の急激な変化や振動や落下などが生じてもインク漏れが発生しにくい。さらに、インク未使用状態から予めバッファ領域を確保しているのではないので、インク収納容器の容積効率も高く、コンパクトな構成とすることができる。
なお、図示の例ではインク収納室12内のばね40およびバルブ室30内のばね35をともにコイルばねの形態として模式的に示しているが、他の形態のばねを用い得るのは勿論である。特に、例えば円錐弦巻ばねとすることもできるし、板ばねを用いることもできる。さらに板ばねを用いる場合には、断面略U字形状を有する一対の板ばね部材を、U字形状の開放端同士を対応させた状態で組合せてなるものでもよい。
記録ヘッド20とインクタンク10との結合は、図示の例では記録ヘッドに一体に設けられている液室50の接続部51がインクタンク10内に挿入されることによってなされる。すなわち本例の場合、接続部51を有する液室50が流体連通構造を構成する。これによって両者が流体的に結合され、記録ヘッド20へ向けてインクが供給可能となる。なお、この接続部51が挿通されるインクタンク側開口にはゴム等の封止部材17が取り付けられ、接続部51の周囲に密着してインクタンク10からのインク漏出を防止するとともに、接続部51とインクタンク10との接続を確実なものにしている。なお、封止部材17には、接続部51の挿通を容易とするために、当該挿通位置に予めスリット等を形成しておいてもよい。そして、接続部51が挿通されないときは、封止部材17自体の弾性力によってスリットが閉じられることにより、インクの漏出を防止しているものである。
接続部51は内部が軸方向に沿って2分割された中空針状の部材であり、それぞれの中空部の、上側すなわちインク収納室12内に位置づけられる開口位置(以下、タンク側開口位置という)は鉛直方向に関してほぼ同一の高さである一方、下側すなわちヘッドに連結された液室内での開口位置(以下、ヘッド側開口位置という)は高さが異なる構成となっている。以下、液室50内でのヘッド側開口位置が鉛直方向において相対的に下にある方の流路(図中の右の流路)をインク流路54、ヘッド側開口位置が鉛直方向において上にある方の流路(図中の左の流路)をエア流路54と便宜上称する。しかしこれは、気泡排除過程において、主としてインク流路53からインクが記録ヘッド側に導出され、エア流路54からはインクタンク側にエアが移送されるからであって、後述するように各流路においてインクおよびエアの両者の移動も行われるものである。すなわち、それら流路の呼称は、それぞれの流体専用であることを意味するものではない。
液室50内におけるインク供給経路は、インクタンク10との接続部(上流)側から徐々に拡大し、そして記録ヘッド20(下流)に向かって徐々に縮小する断面を有する。インク供給経路の最大拡大部にはフィルタ23が備えられ、供給されるインク中に混入した不純物が記録ヘッド20内へ流れ込んでいくことを防止している。気体の滞留によって形成される液室50内の気液界面は、流路53および54の横方向断面積より大きい。こうすることで、流路53を通してインクタンク10内のインクの水頭差が液室50内のインクにかかった場合に、液室50内に存在する気体の圧力がより高まり、エア流路54から容易にインクタンク10に向けて気体を排出することが可能となる。このことは、液室50内におけるインク供給経路がインクタンク10との接続部(上流)側から徐々に拡大していること、換言すれば上方に向かって窄まって行くよう構成されていることから、エア流路54のヘッド側開口位置付近に気泡が集まりやすくなるので、より効果的なものとなる。
記録ヘッド20には、所定方向(例えば後述のようにキャリッジ等の部材に搭載されて記録媒体に対し相対移動しつつ吐出動作を行うシリアル記録方式を採るものにあっては当該移動方向と異なる方向)に配列された複数の吐出口と、各吐出口に連通する液路と、液路に配置されてインクを吐出するために利用されるエネルギを発生する素子とが設けられる。ここで、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式すなわちエネルギ発生素子の形態は特に限定されるものではなく、例えば、通電に応じ発熱する電気熱変換体を当該素子として用い、その発生する熱エネルギをインク吐出に利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによってインク吐出口からインクを吐出させることができる。また、電圧の印加に応じて変形するピエゾ素子のような電気機械変換素子を用い、その機械的エネルギを利用してインク吐出を行うものでも良い。
なお、記録ヘッド20および液室50は、分離可能または分離不能に一体化されたものでもよく、また別体に構成されて連通路を介し接続されるものでも良い。一体化した場合には、記録装置内の搭載部材(例えばキャリッジ)に着脱可能なカートリッジの形態とすることもできる。
図2〜図7を用い、以上の構成による本実施形態のインクタンクへの気泡除去の過程を説明する。
図2は、新しいインクタンク10が液室50ないし記録ヘッド20に未装着状態である状態を示す。ここで、インクタンク10は完全にインクIが充填されている状態であり、ばね部材40による負圧が発生しているとともに、シート部材11がインクタンク外側へ突出した状態となっている。記録ヘッド20側においては、それまで装着されていたインクタンク10が空になっても液室50に残ったインクを使用して記録が行われていたため、そのインクタンク側からエアが侵入し、液室50におけるフィルタ23の上流領域において上部に気体が溜まっている状態となっている。
この状態においては、接続部51の上部開口が大気に開放されているので、記録ヘッド20のインクを吐出するノズル部のメニスカス力よりも液室50内のインク液面からノズル部までの水頭差による圧力が大きい場合には、ノズル部からインクが漏洩してしまう場合がある。このインク漏洩は、この水頭差による圧力がメニスカス力より大とならないように設計を行うことで防止できる。液室50に残留しているインクの量すなわちインク液面の高さによらずノズル部からのインク漏洩が生じないようにする設計の具体例を挙げれば、接続部51の上部開口位置とノズル位置との間にインクが満たされているとした場合の水頭差による圧力が、ノズル部に形成されるインクのメニスカスによる保持力を超えないよう、接続部51の上部開口位置とノズル位置との鉛直方向距離を定めた設計とすればよい。本発明では、後述のように、液室50にはエアを導入する構成を有さないので、液室50をコンパクトに構成することができ、従って有効かつ簡単にインク漏洩を防止する設計を行うための自由度も高いものである。
図3は、図2の状態から、新たなインクタンク10を装着した直後の状態を示す。インクタンク装着前には、記録ヘッド20ないし液室50側は大気に開放されている状態であるために、フィルタ23の上流領域の気体の圧力は大気圧と等しい。それに対し、インクタンク内は、ばね部材40により大気圧よりも低い圧力(負圧)となっている。これにより、インクタンク10を装着した瞬間にフィルタ23の上流領域の気体の一部がインク収納室12内に移動してその上部に溜まり、インク収納室12内と液室50内とで圧力が平均化される。しかしながら、接続部51のインク流路53およびエア流路54内ではそれぞれインクがメニスカスを形成しており、そのメニスカスにより、圧力バランスがつりあった段階で気体の移動が停止する。液室側の気体の容積によってはこの状態で気体除去が完了する場合もあるが、図示の場合には気体の容積が大きく、除去すべき気体が残存している。
図4は、記録ヘッド20からインクを例えば滴として吐出させている状態を模式的に示している。インクを吐出させると、記録ヘッド20ないし液室50内の負圧が高まり、接続部51に形成されるインクのメニスカスを破り、インクタンク10から液室50に向けてインクが移動する。これに伴い、インク収納室12の内容積が減少し、シート部材11が圧力板14に規制されつつ下方に向けて変形する。これによりばね部材40が圧縮され、インク収納室12内の負圧も高まる。
ここで、本実施形態では、インク流路53とエア流路54とは管径をほぼ等しくしてあり、そのため流路の圧力損失は記録ヘッド20ないし液室50内の負圧に対して大きな差がなく、流路それぞれからインクが供給される。インク流路53のヘッド側開口53hがインクに接している図示の状態では、インク流路53からそのままインクが流れ込む一方、液室50ないし記録ヘッド20内で生じた気泡はフィルタ上流領域に移動し、既に残存している気体とともに当該領域すなわち液室50の上部に滞留している。この状態で、エア流路54のヘッド側開口54hの位置において、インクはメニスカスを形成するが、記録ヘッド20ないし液室50内の負圧が高ければ滴下する。なお、本実施形態においては、記録動作に伴うインク吐出または記録動作以外の動作として行うインク吐出(予備吐出)により、接続部51内がインクで満たされた状態となるが、記録ヘッド20の吐出口形成面をキャップ部材で封止し、吸引ポンプにより、吐出口からインクを排出することによりこの状態を得ることもできる。
図5は、インク吐出あるいは吐出口形成面側からのインク吸引が停止した状態を示す。この状態で、水頭差により、インク流路53では液室50へのインク移動が生じるような力が発生し、エア流路54ではインクタンク10側へのエア排出が生じるような力が発生する。この状態の理論的な説明については後述する。
図6は、それらの力により、液室50へのインク移動とインクタンク10側へのエア排出とが同時に進行している状態である。
図7は、フィルタ上流領域内の気液界面がエア流路54のヘッド側開口54hの位置まで上昇し、インク移動およびエア排出が停止している状態を示すものである。
図8を用い、図5の状態における各部の圧力バランスについて説明する。図5はインク移動とエア排除と行われるときの状態であるが、図8においては説明のために仮にこの状態でかかる移動および排除がまだ行われないものとする。
フィルタ上流領域内に滞留する気体の圧力を考える。インク収納室12内の気泡の圧力をP、インク収納室12のインク界面とフィルタ上流領域のインク界面との水頭差による圧力をHsとすると、フィルタ上流領域内の気体の圧力はインク収納室12の気体の圧力よりHsだけ大きいP+Hsとなる。これは、液室50ないし記録ヘッド20側が密閉構造であるために生じる圧力増加であり、前述の従来技術(例えば特許文献1)のようにインクタンクと記録ヘッドとの間に大気連通口があるような構成では生じることはない。
次に、エア流路54のヘッド側開口54hのメニスカス位置における圧力のバランスを考えると、下向きに作用する圧力はP+Ha、上向きに作用する圧力は上述の気体圧力P+Hsであるが、この状態でつりあっていると仮定しているので、上下方向の圧力差と、メニスカスに起因する次式で表される圧力Maとがつりあっていることになる。
Ma = 2γcosθa/Ra (1)
ここで、γはインクの表面張力、θaはエア流路54に対するインクの接触角、Raはエア流路54の管径(内径)である。
従って、エア流路54のヘッド側開口54hの位置での圧力バランスは次式で表される。
P+Hs−(P+Ha) = Ma (2)
Hs−Ha = Ma (3)
つまり、エア流路54のメニスカス位置とフィルタ上流領域のインク界面との水頭差による圧力と、エア流路のメニスカスによる圧力とがつりあっている状態である。
この状態から、フィルタ上流領域に残留する気体の容積が大きなり、
Hs−Ha > Ma (4)
となった場合においては、フィルタ上流領域内の気体圧力が高いので、エア流路54内のメニスカスがインク収納室12側に移動し始め、エアがインク収納室12側に移動することになる。また、これに伴ってインク収納室12内のインクはインク流路53を介して液室50内に移動し、液室内のインク液面位置もあがる。
エア流路の容積は液室に比較して非常に小さいので、エアが移動し始める初期の段階では、比較的容積の大きい液室50内のインク液面の上昇はさほど大きくない一方、エア流路54のメニスカス位置はインクタンク側開口54tの位置に向けて素早く移動する。よって、エア流路54タンク側開口位置54tからフィルタ上流領域内のインク界面位置までの水頭差による圧力(Hs−Ha)が、エア流路のメニスカスによる圧力に対してかなり大となり、エア排除が促進される。
インクタンク内へのエア導入が行われている状態においては、エア流路54内におけるメニスカス位置はエア流路のタンク側開口54tの位置となる。そのタンク側開口位置における水頭差による圧力をHa’とすると、
Hs−Ha’ > Ma’ (5)
という関係である限りエア移動が行われ(ただし、Ma’はエア流路タンク側開口位置に形成されるメニスカス圧力)、フィルタ上流領域のインク界面がエア流路ヘッド側開口54hの位置に達するまでに、以下の関係
Hs−Ha’ < Ma’ (6)
となった場合には、その時点でエア移動が停止する。
しかしながら、(5)式の関係のまま、フィルタ上流領域のインク界面がエア流路ヘッド側開口54hの位置に達した場合には、エア流路ヘッド側開口54hで形成されるメニスカス圧力も圧力バランスに関与するようになるので、
La < Ma+Ma’ (7)
となったときにエア移動は停止する(ただし、エア流路長さ分の水頭差による圧力La)。
しかし、
La > Ma+Ma’ (8)
である場合にはエア移動は停止せず、さらにインク界面がエア流路内を上昇する。
エア流路内をインク界面が移動している場合には、
Hs’−Ha’ > Ma’+Ms’ (9)
という関係式である限り、エア移動が行われる。ただし、Hs’はエア流路内のインク界面とタンク内のインク界面との水頭差圧力、Ms’は、エア流路内のインク界面に発生する動的なメニスカス圧力である。ここで、動的状態と静的状態とでは流路に対するインクの接触角が異なるため、エア移動開始時に考察したMaと、動的なMs’とは管径が同じであっても値は異なり、Ma>Ms’である。
以上では、図2のように、インク流路53のヘッド側開口53hがインクに接している場合について考察したが、インク消費がさらに進み、図9のようにインク流路53のヘッド側開口53hも液室50内のインクに接していない状態について考察する。
図2〜図7および図8においては、インク流路53のヘッド側開口がインクに接しているためにエア流路内のメニスカス位置における圧力のバランスだけを考察すれば足りたが、図9の状態ではインク流路53に形成されるメニスカスも考察されなければならない。
図9の状態で静止しているとする。液室50内にある気体の圧力をP’、インク流路53で形成されるメニスカスによる圧力をMiとすると、この状態でエア流路54およびインク流路53の各メニスカス位置での圧力バランスは次式
P’−(P+Ha) = Ma, P’−(P+Hi) = Mi (10)
で表され、インクタンクおよび液室間で流体の交換は生じない。よってエア排除およびインク移動が行われるためには、
P’−(P+Ha) > Ma, P’−(P+Hi) < Mi
となればよい。これらから、
P’−P > Ha+Ma, P’−P < Hi+Mi
つまり、
Hi+Mi > Ha+Ma
Hi−Ha = H > Ma−Mi (11)
となる。従って、インク流路53およびエア流路54のヘッド側開口位置53hおよび54hの鉛直方向の差に対応した、水頭による圧力差Hと、エア流路54およびインク流路53のメニスカスによる圧力の差との関係によって、インクの移動が生じかつエア排除が行われるか否かが決定されることになるので、インク吐出あるいは吐出口形成面側からのインク吸引等による液室内の負圧調整を適切に行えばよい。
以上では、エア流路54とインク流路53とは完全に分離された独立の連通路であるものとして説明したが、実際には両流路が微小な連通路を介して連通していてもよい。なぜなら、ここで考察しているような流路開口部に形成されるメニスカス力、液面との水頭差による圧力あるいはインクタンク内の負圧などと比較して、その微小連通部に形成されるメニスカス力が実質的に影響しない程度であれば、前述のエア排出動作を妨げることなく所望の効果が得られるためである。このことは、後述する他の実施形態についても同様である。
上記実施形態のように、本発明の主たる特徴の一つは、液体供給システム内にエアを導入する手段をインクタンクに限って配設したことである。換言すれば、液室50内に直接エアが導入されることがないため、上述のエア排出動作は実質的にインクタンク交換時のみで完了してしまい、通常のインク使用時(記録ヘッドによるインク吐出動作時)を考慮する必要がほとんどない。これに対して、特許文献5においては、インク使用時に液室内(特許文献5ではメインタンク)にエアを導入するので、インク使用時についても気液交換が可能となる条件について厳格に考慮されなければならない。
つまり前述したように、インク使用時には気液交換可能な液面位置が低下するため、静的な状態では図8のような状態で気液交換が行われても、インク流路長さHには限界があるため、インク流量(インク供給量)が増大するといずれは図9のような状態となり、気液交換が停止してしまう限界インク流量が存在する。
これに対し、本実施例においては、インクタンク10側にエア導入手段を有するため、インク使用時においてエア導入を原因としては液室内の液面が低下する(エアが滞留する)ことはない。従って、液室をコンパクトに設計できるだけでなく、インク使用時にはインク流路だけでなくエア流路からもインク供給が行われるので、接続部の圧力損失による影響を低減することが可能となり、接続部としても細い接続菅を使用することが可能となる。これらの結果として、インク供給システム全体のコンパクト化が実現できる。
本構成においても、インクタンク10内のインクを完全に使い切った後にさらにインク消費を行うと、インク液面が液室内まで低下し、インクタンク10のエア導入手段(バルブ室30)からインク収容室12を介して液室50内にエアが導入されてしまう場合もある。しかしこの場合には、すでにインクタンク10内や接続部51にはインクがない状態であるので、その部分の圧力損失は生じない。このような場合を考えても、インク流量を制限することにはならないのである。
さらに、本実施形態によれば、接続部51の内部を2分割して2つの流路を設け、各流路のヘッド側開口位置の高さに差をつけることで、複雑な構成を必要とすることなく、フィルタ上流領域の滞留気体をインクタンク側に速やかに移送することが可能となる。
また、インクタンクの交換操作後に若干のインク吐出あるいは吐出口形成面側からのインク吸引等を行えば液室内に滞留していた気体を迅速かつ円滑にインクタンク側に移送して供給経路から排除できることになり、吐出口側から吸引動作を行うことによって気体を排除する場合のような大量のインク浪費が生じることもない。
なお、インクタンクからのインク供給の過程でインク収納室内の負圧が所定値以上に高まった場合には、バルブ室の作用により外部から気体がインク収納室内に取り込まれることは前述した通りである。
また、インクに色材として顔料を含むものを用いた場合は、エアーがタンクに輸送される際に、顔料粒子の沈降を拡散させ、インクの保存安定性や吐出の信頼性を確保できる。
(第2の実施形態)
図10および図11を用いて本発明の第2の実施形態に係る液体供給システムを説明する。なお、第1の実施形態と同様に構成できる各部については、対応箇所に同一符号を付してある。
図10は記録ヘッドと20と一体化した液室60の模式的断面図である。図示のように、本実施形態においても、接続部61は第1の実施形態と同様に、その内部を2分割して2つの流路を設けているが、インク流路63のヘッド側開口63hの位置とエア流路64のヘッド側開口64hの位置には高さの差が実質的にない。しかしながら、エア流路64のヘッド側開口64hは液室60内の空間にそのまま開口しているのに対し、インク流路63のヘッド側開口63hはその一部が液室60の内壁面に接している。
図11はかかる液室に対しインクタンク10を装着した状態であり、この場合に生じる現象を説明する。
装着状態においてインクのメニスカスがインク流路63内の領域に存在して圧力がバランスしている場合には、前述の(10)式の説明から明らかな通りエア排除は行われない。しかしながら、インク吐出あるいは吐出口形成面側からのインク吸引等によって液室内の負圧が高まり、インク流路63のメニスカス位置がヘッド側開口63hの位置まで下がると、開口63hの一部が液室内壁面に接しているので毛管力によりインクが内壁面を伝って流れ落ち、開口63hにおいてメニスカスを形成することができなくなる。すると、液路60内に移動したインク体積により、フィルタ上流領域内の気体圧力が増加し、エア流路64のメニスカスが破れ、インクタンク10側へのエア排除が行われる。
つまり、本実施形態の構成によれば、インク流路およびエア流路のヘッド側開口位置の高さに差がなくてもインク移動およびエア排出が行われ、結果として接続部61の長さを短縮することが可能となる。これにより、第1の実施形態と比較して、液室ないしこれを一体化した記録ヘッドのさらなる小型化が可能となる。
なお本実施形態では、使用するインクの物性に応じて内壁の構成や材料、表面状態等を適切に選択することが望ましい。
(第3の実施形態)
図12は、全体的には第2の実施形態と同様の液室の構成を採る第3の実施形態に適用される接続部の、ヘッド側開口部の詳細を示す図である。すなわち、本例の接続部71にもその内部を2分割して2つの流路を設けているが、インク流路73のヘッド側開口73hの位置とエア流路74のヘッド側開口74hの位置には高さの差が実質的にない。しかしインク流路に沿って微細な溝を形成する部分75が併設され、その部分75がヘッド側開口73hからさらに延長して液室内方に突出している。
この構成においては、インクの毛管力により微細溝にインクが侵入するが、このためインク流路73のヘッド側開口部において高い圧力を作用するメニスカスが形成されなくなくなる。これにより、インク流路からインクが液室内に流れ落ち易くなる。すなわち、本実施形態においても、第2の実施形態と同様に、インク流路およびエア流路のヘッド側開口位置の高さに差がなくてもインク移動およびエア排除が行われ、同様の効果が得られる。
なお、インク流路のヘッド側開口部分において高い圧力を作用するメニスカスが形成できなくなるようにするための構成としては、第2および第3の実施形態に限られない。例えば、当該開口部分を拡大した形状とすること、流路間で径に差をつけること、あるいは材質の適切な選択や表面処理を行うことで流路内面の条件(インクとの接触角など)が流路間で異なっているようにすることなどによっても、同様の効果が期待できる。
(第4の実施形態)
図13(a)および(b)は、本発明の第4の実施形態に係る液室の構成および動作を説明するための図である。
本実施形態に係る液室80においても、接続部81には第1の実施形態と同様に、その内部を2分割してインク流路83およびエア流路84を設けているが、インク流路83のヘッド側開口位置がフィルタ面より下部に位置するように構成されている。
従って、フィルタ上流領域に十分にインクが存在している場合には、図13(a)中の矢印で示すようにインクが流れ、記録ヘッド20に供給される。
一方、図13(b)は、インクタンク(不図示)が空になった状態でもインク消費が行われた状態である。この図から明らかなように、インク流路83のヘッド側開口83hがフィルタ23の面よりも鉛直方向に低く位置しているので、ヘッド側開口83h付近のインクは使用されずに溜まっており、よって常にインク流路83のヘッド側開口83hはインクに接触している状態となっている。
従って、かかる構成では、(4)式の関係が満たされていれば常にエア排除が行われ、(11)式の関係を考慮した液室内の負圧制御を行わなくても足りることになる。また、メニスカスを形成させない目的でインク流路のヘッド側開口がインクに常に接触しているようにするためのインク流路の長さを短縮することができる。
(第5の実施形態)
図14(a)および(b)は、第5の実施形態に係るインク供給システムの構成および動作を説明する図である。
以上の諸実施形態ではインクタンクにエア導入用のバルブ室が配設されており、インク供給とともにバルブ室からインクタンク内にエアを導入する構成であったが、本実施形態のインクタンク10’には、図14(a)に示すように、外部からのエア導入用のバルブ室が存在せず、実質的にインク収納室のみの構成となっている。液室50および記録ヘッド20については第1の実施形態と同様の構成である。
かかる形態では、シート部材11、ばね部材40および圧力板14により適切な負圧が得られるように構成されることになり、式(4)の条件が満たされない限りは図14(b)のようにインク消費に伴ってシート部材11がそのまま下方に変位して行くが、同式の条件が満たされれば、これまでの実施形態と同様にフィルタ上流領域のエアがインクタンク10’側に移送され、インク供給経路から排除されることになるのは勿論である。
(第6の実施形態)
図15(a)および(b)は、第6の実施形態に係るインク供給システムの構成および動作を説明する図である。
以上の諸実施形態では記録ヘッド側ないしインク液室側にインク流路およびエア流路を有する接続部を設けたが、本実施形態では、第1の実施形態とほぼ同様の構成を有するインクタンク10Aに対し、図15(a)に示すようにインク流路部材53Aおよびエア流路部材54Aを設け、装着時にはこれらが同図(b)に示すように液室50A内に突入する構成としている。
インク流路部材53Aおよびエア流路部材54Aのそれぞれのヘッド側開口53Ahおよび54Ahは、インクタンク10Aの非装着時には、ばね53Asおよび54Asにより付勢された弁体53Avおよび54Avにより閉塞されている。そして、インク流路部材53Aおよびエア流路部材54Aを取り付け部50Ajを通して液室50A内に突入させてゆくと、弁体53Avおよび54Avが取り付け部50Ajに係合してばね53Asおよび54Asを圧縮しながら相対的に変位し、ヘッド側開口53Ahおよび54Ahが開放される構成となっている。
かかる構成においては、インクタンク10Aの装着によって第1の実施形態の図5の状態以降と同様の動作が行われ、同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施形態では、インクタンク10Aを装着する前の状態においてインク流路部材53Bおよびエア流路部材54Aはインクで満たされており、それぞれの部材の開口位置においては、それぞれの部材の長さに応じた水頭差による圧力が既に発生している。このため、インクタンク10Aが装着された時点で、液室50A側からエア流路部材54Aを介したエア排出が開始される。上記第1の実施形態においては、インクタンク10を装着した直後は図3に示したような状態となり、インク流路53およびエア流路54に形成されるメニスカスの鉛直方向の位置には差がないため、図4で示したようなインク吸引動作やインク吐出動作が必要となる場合がある。これに対して、本実施形態では、エア排出を開始させるための条件は装着時に整っているので、それらの動作が不要となるので好ましい。
なお、図示の例では、インク流路部材53Aおよびエア流路部材54Aを別体の部材としているが、先の諸実施形態と同様、内部を2分割して2つの流路を形成した接続部を用いてもよい。逆に、先の諸実施形態においても、別体のインク流路部材およびエア流路部材を用いてもよい。
(第7の実施形態)
図16(a)および(b)は、第7の実施形態に係るインク供給システムの構成および動作を説明するための図である。
第6の実施形態においては、インクタンク側にインク流路およびエア流路を設けた場合について説明したが、本実施形態では、図16(a)に示すように、第1の実施形態とほぼ同様の構成を有するインクタンク10Bに対しインク流路部材53Bを設ける一方、記録ヘッド側ないし液室50B側にエア流路部材54Bを設けている。すなわち、インクタンク装着時には、図16(b)に示すようにインク流路部材53Bが液室50B内に突入する一方、エア流路部材54Bがインクタンク10B内に突入する構成としている。
インク流路部材53Bヘッド側開口53Bhおよびエア流路部材54Bのタンク側開口54Btは、インクタンク10Bの非装着時には、ばね53Bsおよび54Bsにより付勢された弁体53Bvおよび54Bvにより閉塞されている。そして、インク流路部材53Bおよびエア流路部材54Bをそれぞれ液室50B内およびインクタンク10B内に突入させてゆくと、弁体53Bvおよび54Bvがばね53Bsおよび54Bsを圧縮しながら相対的に変位し、ヘッド側開口53Bhおよび54Bhが開放される。なお、エア流路部材54Bが突入するインクタンク10B側の開口部154rには、ばね154sによって付勢された弁体154vが設けられ、インクタンク10Bの非装着時には開口部154rを閉塞してインクの漏出を防止する一方、装着動作に伴ってばね154sを圧縮しながら後退することで、エア流路部材54Bの突入を受容するように構成されている。液室50B側も同様に、インク流路部材53Bが突入する開口部153rにはばね153sによって付勢された弁体153vが設けられ、インクタンク10Bの非装着時には開口部153rを閉塞する一方、装着動作に伴ってばね153sを圧縮しながら後退することで、インク流路部材53Bの突入を受容するように構成されている。
本構成においては、インクタンク10B装着前の図16(a)の状態において、インク流路53Bはインクで満たされており、エア流路54Bはエア状態となっている。この状態においても、第6の実施形態と同様に、インクタンク10Bが装着した時点でエア排出が行われエア排出を行うためのインク吸引動作やインク吐出動作が不要となる。さらに、本構成ではインク流路部材53Bの開口部53Bhとエア流路部材54Bの開口部54Btの高さの差を大きくすることが容易であるので、それぞれの流路部材の長さを短くしても、容易にエア排出が行われる点で好ましい。
(第8の実施形態)
図17は、本発明における第8の実施形態を説明するための接続部の拡大図である。
本実施形態における接続部51には、第1の実施形態と同様に、その内部を2分割して2つの流路を設けている。しかし本実施形態においては、エア流路54には、流路側部に設けた第1開口54cと、インク流路ヘッド側開口53hと高さがほぼ等しい第2開口54dとの2つのヘッド側開口を有している。これによる作用として第1実施形態と異なる点が2つある。まず、1つは、エア流路のインク充填のためのインク吐出動作が容易になる点である。これは、第2開口54dがインク流路ヘッド側開口53hとほぼ同位置にあり、インクに接している状態であるので、第1実施形態における図4の状態のようにインクの滴下が生じないため、図4の状態に比べ液室50内の負圧がより低い状態でエア流路のインク充填が完了する点である。さらにもう1点として、インク充填が完了した場合に、第1開口54cでのメニスカスが第1実施形態と比較して、より移動しやすいという点がある。第1開口54cにメニスカスが形成されている場合、これまでの実施形態と同様に、メニスカスによる圧力と、第1開口54cと液室50内の液面位置との水頭差による圧力とのバランスにより、メニスカスが移動するかどうかが決まるが、本実施形態においては、図においてメニスカスに対し右方向に働く力として、エア流路54内の第1開口54cから第2開口54dまでのインクの重力が加わるため、よりメニスカスが右方向へ移動しやすい状態となっている。
さちに、本構成のように、エア流路54とインク流路53とを同一部材で形成する場合には、両流路の長さを等しくできるので、接続部の製造における精度をより確保しやすいという点もあげられる。
(インク供給システムの具体的な構成例)
図18(a)は第1の実施形態を適用したインクタンクの具体的な構成例を示す分解斜視図、図18(b)はインク収容室部分の横方向断面図である。
15Aおよび15Bは、それぞれ、インクタンク10の外装15を構成する筐体部材および蓋部材であり、外装15の内部は概してインク収容室12と、バルブ室30と、接続部51の受容室65とに区画される。
インク収納室12に配置されるばね40は、図示の例では、断面略U字形状を有する一対の板ばね部材40Aを、U字形状の開放端同士を対向させた状態で組合せてなるものである。この組み合わせの態様としては、各板ばね部材40Aの両端部に凹部および凸部を形成しておき、互いの凹部および凸部が嵌りあうようにしたものとすることができる。
さらに、各板ばね部材の背面部分には圧力板14が互いに平行となる状態で溶着され、一方の板ばね部材の背面がシート部材11の凸部の内側平面部に接合されている。シート部材11は、その周縁部が蓋部材15Bに設けたリブ15Cに溶着され、シート部材11と蓋部材15Bとの間の空間は大気連通口15Dを介して大気に開放されている。これにより、インク消費に伴うシート部材11の変位ないし変形が許容される。
バルブ室30には、ばね35、シート部材31および圧力板34が収納され、さらに蓋部材15Bには連通口36を開閉可能にシール部材37が取り付けられている。
接続部51の受容室65には、封止部材17が収容される。封止部材17は、本例では、接続部51が突入する開口を形成し、少なくともその開口周囲がゴム等の弾性材料で構成された部材17Aと、開口を閉塞可能なボール状の弁体17Bと、弁体17Bをその閉塞位置に向けて付勢するばね17Cとからなっている。尚、インクタンク10内はばね40の作用により未装着状態においても負圧状態となるので、未装着状態においても部材17Aの開口からのインク漏洩が生じないよう、ばね17Cの強さを適切に定め、弁体17Bがその開口を確実に封止するようにすることが望ましい。
図19(a)および(b)は主に図1に示した第1の実施形態の構成を適用したインク供給システムの具体的な構成例を示す。ここで、インクタンク10は図18に示した基本的構成を採用しているが、図19(a)および(b)においては模式化して示されている。
インクタンク10は、記録ヘッド20ないし液室50を保持するキャリッジ153に着脱可能であり、同図(a)に示すようにキャリッジ上方より矢印方向に装着すると、同図(b)に示すように、ラッチ部153Aにタンク外装15の一部が係合して装着状態が保持される。
55はキャリッジ153に対し昇降可能に設けられた閉塞部材であり、ばね56により上方に付勢され、タンクの非装着時にはインク流路53およびエア流路54のタンク側開口を閉塞する。この閉塞部材55はインクタンク10の装着動作に伴って下降することで、接続部51のタンク側開口を開放しつつ、接続部51の受容部65への突入を許容する。
この例においては、エア流路54およびインク流路53の内径をともに0.8mm、エア流路の長さ(タンク側開口からヘッド側開口までの長さ)を12mm、インク流路の長さを28mmとし、またエア流路およびインク流路ともに同じステンレス部材で形成している。この状態において、エア流路のヘッド側開口部の液面からの高さが5mm以上であると、確実にエア排出が行われることを本発明者は確認した。特に、液室50内にエアが堆積し、エア流路ヘッド側開口部の液面からの高さが8mm以上となった場合に、次のタンク交換によってエア排出が行われる。したがって、インク流路は20mm程度まで短縮してもエア排出に影響はない。
さらに、液室55内の液面のフィルタ23の面からのインク高さが5mmの状態では、インク流量を8g/minとしてインク供給が行ってもエアをフィルタ下流側に引き込むことはなく、良好な記録を行えることを確認できた。したがって、液室55内にエアが堆積した場合には、確実にインクタンク10側にエアを排出し、さらに高流量を得て高速の記録を行うことも可能となり、かつ全体として非常にコンパクトなインク供給システムを提供することができた。
また、いずれの実施形態においても、流路の数は2つに限られず、3以上設けられるものでもよい。また、内部を複数に分割して複数の流路を形成する接続部とする場合にも、上例のように流路間の隔壁を直線状に形成するのみならず、同心円状に形成することで多重管構成の接続部とすることができる。
さらに、内部を複数に分割して複数の流路を形成する接続部とする場合、気体の移送とインクの移動とが相互に干渉して円滑かつ迅速な気液交換を阻害しない限り、各流路が完全に区画されていなくても良い。
また、以上ではインクタンク10内に外気を導入するためのバルブ室30をインクタンク10に一体とした。しかし、液室50を介さずに外気を直接インクタンク10内に導入可能であれば、バルブ室は必ずしもインクタンクと一体に構成されていなくてもよい。
図20(a)および(b)はそのインク供給システムの具体的構成例を示すもので、図19(a)および(b)とほぼ同様の構成を有するが、バルブ室30”をキャリッジ153側に配設している。このバルブ室30”の内部構成は上述のバルブ室30とほぼ同様であるが、大気導入用の中空針39がバルブ室30”から上方に突出している。そして、インクタンク10”の装着動作に伴って中空針39がインクタンク10”に設けられたゴム等の弾性部材でなる封止部材19を介してインクタンク10”内に突入する構成となっている。
かかる構成によっても、上述した第1の実施形態と同様の動作を行い、同様の効果を得ることができる。
(インクジェット記録装置の構成例)
図21は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための図である。
本例の記録装置150はシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置であり、ガイド軸151,152によって、キャリッジ153が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ153は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ153には、上記のいずれかの実施形態を可とし、記録ヘッドないし液室と、これに装着されてインクを供給するインクタンクとからなる液体供給システム154(例えば図19(a)および(b)に示したもの)が搭載される。記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口155から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ156によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録装置150は、記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ、プラテン157上の用紙Pの記録領域に向かってインクを吐出させる記録動作と、その記録幅に対応する距離だけ用紙Pを副走査方向に搬送する搬送動作と、を繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。
なお、記録ヘッドは、上述のように、インクを吐出するためのエネルギとして、電気熱変換体から発生する熱エネルギを利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによって、インク吐出口からインクを吐出することができる。また、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式は、このような電気熱変換体を用いた方式のみに限定されず、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出する方式等であってもよい。
キャリッジ153の移動領域における図21中の左端には、キャリッジ153に搭載された記録ヘッドのインク吐出口の形成面と対向する回復系ユニット(回復処理手段)158が設けられている。回復系ユニット158には、記録ヘッドのインク吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプなどが備えられており、インク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、インク吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持するための回復処理を行うことができる。また、画像形成とは別に、キャップ内に向かってインク吐出口からインクを吐出させることによって記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持する回復処理(予備吐出処理」ともいう)を行うこともできる。これら処理は、インクタンクが新たに装着された場合に上記(4)式または(11)式の条件を満たすようにするためにも行うことができる。
(その他)
上述のインク供給システムの諸実施形態では、基本的にいずれも吸収体等にインクを保持させずにそのまま貯留ないし供給されるようにした構成を採用する一方、可動部材(シート部材、圧力板)とこれを付勢するばね部材とにより負圧発生手段を構成するとともに供給システム内を密閉構造とすることで、記録ヘッドに対して適切な負圧を作用するようにした。
かかる構成は、吸収体により負圧を発生させる従来技術の構成に対して、容積効率が高く、かつインク選定の自由度も向上できるものである。また、そればかりでなく、近年の記録の高速化に伴って求められるインク供給の高流量化や安定化の要望にも好ましく応え得るものである。
また、本発明が特に主眼とした供給経路に滞留する気体を排除する目的に対しては、記録ヘッドから最も離れた最上流位置であるインクタンクにこれを移送するものとし、そのために複数の流路を介してインクタンクとインク供給経路とを連結するとともに、両者の圧力のバランスを利用することでインクタンクからのインク導出とインクタンクへの気体導入とが並行して行われるようにした。
かかる構成によれば、供給経路内の滞留気体を、複雑な装置を必要とせず、部品点数の増加が少なく簡単な構造でありながら、円滑かつ迅速にインクタンク側に排除することができる。また、排除のタイミングも、気体がある程度蓄積すると圧力のバランスに従って自ずと行われるため、気体排除の信頼性が高いものである。
また、気体排除の過程において、常にインクタンクの負圧を維持しているのでインクジェット記録ヘッドのインク吐出口などからの液体漏洩を確実に防止することができる。さらには、気体をインクタンク側に排除することによって、記録ヘッドの吐出口側からインク吸引を行うことで気体を排除する方法に比較してインク消費量を格段に減少させることができ、インク浪費を抑えて、ランニングコストの低減にも貢献するものである。
加えて、供給経路に対して着脱可能に構成されたインクタンクを用いる場合において、従来は、交換操作時に供給経路側に気体が侵入することを防止するために、供給経路がインクで満たされている状態で、すなわちインクを完全に消費しきる前にインクタンクの交換を行っている場合が多かった。しかし上記構成によれば、交換操作時に供給経路内に気体が侵入しても、新たなインクタンクを装着すればそのインクタンクに対して容易かつ迅速に気体を排除できるので、インクが完全に消費された後に交換を行うことができ、またこれにより、ランニングコストのさらなる低減できるのみならず、環境問題に対しても資するところが大きい。さらに、上述の実施形態においてはいずれも、通常の使用時の姿勢においてインクタンクを最も高所に配置し、供給部ないし記録ヘッドが低所に配置されている。これは、気液交換を迅速かつ円滑に、かつ簡単な構成で行う上で非常に好ましい配置である。
なお、インクタンクの構成にもよるが、インクタンクに導入された気体は、これがインク供給経路に戻らず、インク供給が阻害されない位置であれば、インクタンク内のどこに貯留されてもよい。しかし、インクを吸収体などに含浸させずにそのまま貯留するようにした上記実施形態の構成は、導入された気体がそのままインクタンク内の最上部に位置することになるので、好ましいものである。
そしてこのように、インクタンク内に吸収体が存在しない場合、タンクの容積そのものがインクの容量となりうるので、必要以上にインクタンクを大きくする必要がなく、またタンクの形状も比較的自由に設計できるのである。
本発明を構成するための基本的な条件は、液室がインクタンクとの接続部分および記録ヘッドとの接続部分を除き、インクをそのまま貯留する密閉構造を有すること、および、好ましい負圧を維持するための大気導入をインクタンクに対して直接行うようにして、記録ヘッドに直接連通する液室には気体が極力入らないようにしたことにある。この条件は、インク供給の高流量化や安定化を実現し、高速記録(吐出)を行っても吐出特性を常に良好に保持する上で極めて好ましく、特許文献1〜5のいずれにも開示ないし示唆されないものである。
この基本的な条件を満たす構成であれば、負圧発生手段は上記各実施形態のようなばねと可撓性部材との組み合わせによるもののほか、その他の構成を採ることもできる。すなわち、本発明の基本的な条件は負圧発生手段としての吸収体の採用を排除するものではない。
図22は吸収体を用いつつも上記基本的な条件を満たすように構成したインク供給システムの構成例である。ここで、図19(a)および(b)と同様に構成できる各部については対応箇所に同一符号を付してある。
本例の構成は、インクタンク100が、インクをそのまま収容して液室に直接インクを供給する一方、気体の排出を受容する液体収容室120と、この液体収容室120に連通して液体を吸引することで負圧を発生する部材としての吸収体400を収納して内部が大気に開放された負圧発生部材収納室401とを有してなることである。かかる構成によっても本発明の基本的な条件を満たすことができ、また部品点数を減じて製造工程を簡略化することができるものである。また、本発明の特徴である、密閉構造とされた液室側に存在する気体をインクタンク内の圧力、各流路の水頭差による圧力および各流路に形成されるメニスカスによる圧力の条件に応じて、記録ヘッドから離れたインクタンクに迅速かつ確実に移送し、かつそこに留めておくことができることは勿論である。
また、以上の説明では本実施形態の記録方式として、シリアル型のインクジェット記録装置を適用してきたが、本発明および本実施形態はこれに限定されるものではない。また、シリアル型でなくライン走査型の記録装置であっても本発明および本実施形態を適用することは可能である。さらに、液体供給システムは、インクの色調(色や濃度など)に対応して複数設けることができるのは言うまでもない。
さらに、以上では本発明を記録ヘッドにインクを供給するインクタンクに適用した場合について説明したが、記録部としてのペンにインクを供給する供給部に適用されるものでもよい。
また、本発明は、そのような種々の記録装置の他、飲料水や液体調味料などの種々の液体を供給するための装置、あるいは薬品を供給する医療の分野などに広範囲に適用することができる。