JP2004137367A - カチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】コロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
物品には、質感や高級感を付与することを目的として、低光沢の塗膜を形成することができる塗料を表面に塗布されることがある。
自動車用外板においては、電着塗装を行った後、通常、中塗り塗装及び上塗り塗装を行って複層塗膜を形成されている。ところで、この電着塗膜の平滑性は目視によって検査されるが、形成された電着塗膜の光沢値が高い場合には、光沢によって平滑性の検査を行うことが困難になり、不具合を見落とす場合がある。そのため電着塗膜は一般に低光沢のものが要求される。
【0003】
電着塗膜を低光沢化する方法としては、例えば、電着塗料中に内部架橋した微小樹脂粒子を添加すること、塗料の顔料濃度を高めること、電着塗膜形成における硬化速度を高めることによりちぢみ肌を意図的に作ること等を挙げることができる。
【0004】
しかしながら、内部架橋した微小樹脂粒子を添加したり、塗料の顔料濃度を高めたり、硬化速度を高めたりする場合には、加熱硬化途中での塗料粘度の上昇が急激であるため、熱時フローが充分に行われずに硬化し、得られる電着塗膜の平滑性が不充分となりやすい。
【0005】
また、このような方法で得られる電着塗膜は目視による平滑性を低下させることによって光沢値を下げるものであるため、美観という観点から不充分であった。更に自動車用外板に用いる場合、このような電着塗膜上に、更に、中塗り塗装、上塗り塗装を順次行うため、得られる複層塗膜の外観が低下したり、ゆがみ、うねり等の問題が起こるおそれがあった。
【0006】
ところで、カチオン電着塗料にビスマスを含有する化合物を添加する技術が多数行われている。
特開平5−320544号公報には、水酸基及びカチオン性基を有する樹脂、特定構造を有するエポキシ樹脂、及び、特定の金属元素の水酸化物及び有機酸の金属塩、更に無機ビスマス化合物を含有するカチオン電着塗料組成物が開示されている。
【0007】
特開2001−2997号公報には、カチオン電着塗料用樹脂、特定構造を有するハイドロタルサイト系固溶体及びビスマス含有化合物を含有するカチオン電着塗料が開示されている。
【0008】
特開2002−86052号公報には、ビスマス化合物を含有するカチオン電着塗料を塗装し、中塗り塗膜を形成し、硬化させる複層塗膜形成方法が開示されている。
【0009】
上述した公報において、カチオン電着塗料の成分として含まれる水酸化ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマスを含有する化合物は、防食性や硬化性を向上させる目的で添加されているものであり、電着塗膜の光沢値を低下させる目的で使用されているものではない。また、浴中での安定性に乏しいため、長期間同一の浴を用いて塗装を行うと、徐々に添加による効果が低下するという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、平滑性に優れ、かつ、低光沢値を示す電着塗膜を形成することができ、更に、低光沢値を長期間維持することが可能なカチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、コロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなることを特徴とするカチオン電着塗料である。
上記カチオン電着塗料は、更に、高分子顔料分散剤からなるものであることが好ましい。
上記コロイド状のビスマス金属は、カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、ビスマス金属換算で0.1〜1.5質量%の含有量であることが好ましい。
上記コロイド状のビスマス金属は、高分子顔料分散剤の存在下でビスマス含有化合物を還元することにより得られるものであることが好ましい。
本発明は、コロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料を塗装する工程からなることを特徴とする電着塗膜の光沢値制御方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のカチオン電着塗料は、コロイド状のビスマス金属を含有するものである。理由は明らかではないが、コロイド状のビスマス金属を上記カチオン電着塗料に添加すると、これを用いて形成される電着塗膜の光沢値を低下させることができる。また、ビスマス金属以外のビスマスを含有する化合物、例えば、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス等を添加する場合には、得られるカチオン電着塗料中において、これらの化合物の安定性が低いために、塗料を長期間貯蔵した後に電着塗膜を形成する場合に、得られる電着塗膜の光沢値が大きくなるという問題が発生してしまうが、本発明のコロイド状のビスマス金属を含有するカチオン電着塗料は、コロイド状のビスマス金属が塗料中での安定性に優れているために、長期間同一の浴を用いて電着塗装しても、形成される電着塗膜は、低光沢値及び優れた平滑性を維持しているものである。
【0013】
従って、本発明のカチオン電着塗料は、平滑性を低下することなく低光沢値を長期間維持することができる電着塗膜が要求される用途に好適に使用することができるものである。例えば、電着塗装のみを行う1コート仕上げに用いた場合には質感の高い、また、高級感のある電着塗膜を得ることができる。あるいは、自動車外板用に用いた場合には、電着塗膜の平滑性を容易に検査することができ、更に、中塗り塗装及び上塗り塗装からなる複層塗膜の外観も良好であることから、自動車塗装のような分野にも好適に用いることができる。
【0014】
本発明におけるコロイド状のビスマス金属は、平均粒子径が、例えば、2nm〜30nmのコロイド粒子であり、上記カチオン電着塗料中において、安定に存在するものである。本発明のカチオン電着塗料がコロイド状のビスマス金属を含有するものであることにより、得られる電着塗膜の光沢値を低下させることができ、また、上記コロイド状のビスマス金属が塗料中での長期安定性に優れているために、長期間同一の浴を用いて電着塗装しても、形成される電着塗膜は、平滑性を低下することなく低光沢値を維持することができる。
【0015】
上記コロイド状のビスマス金属は、ビスマス含有化合物から形成されるものである。
上記ビスマス含有化合物としては、溶媒に溶解し、還元することによってコロイド状のビスマス金属を供給することができるビスマスを含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、臭化ビスマス、ケイ酸ビスマス、水酸化ビスマス、三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、次硝酸ビスマス、オキシ炭酸ビスマス等の無機系ビスマス含有化合物;乳酸ビスマス、トリフェニルビスマス、没食子酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、メトキシ酢酸ビスマス、酢酸ビスマス、ギ酸ビスマス、2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸ビスマス等の他、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス等の(塩基性)ビスマス化合物と有機酸とを水性媒体中で混合・分散することによって製造できるような有機酸変性ビスマス(国際公開WO99/31187号公報参照)等の有機系ビスマス含有化合物等を挙げることができる。なかでも、反応溶媒である水への溶解性の観点から、塩化ビスマスや硝酸ビスマスが好ましい。
【0016】
上記有機酸としては、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸等の有機カルボン酸や、アミドスルホン酸等の有機スルホン酸等を挙げることができる。また、上記有機酸として、一般式R1C(H)(OR2)(CH2)nCOOH(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表わし、nは0又は1である。)で表される脂肪族カルボン酸も有機酸として使用することができ、例えば、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、3−メトキシプロピオン酸等の脂肪族アルコキシカルボン酸等を挙げることができる。
【0017】
本発明のカチオン電着塗料は、保護コロイドを含有していることが好ましい。これにより、コロイド状のビスマス金属を塗料中においてより安定に存在させることができる。
【0018】
上記保護コロイドとしては、疎水コロイドを安定化させる作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、セルロース、デンプン、繊維等の天然高分子;ポリスチレン、ナイロン、ポリアセタール等の合成高分子;アルミナ、シリカ、粘土鉱物等の複合酸化物;界面活性剤、クエン酸、クエン酸の塩等を使用することができる。本発明においては、特に、高分子顔料分散剤を含むことがより好ましい。これにより、本発明のカチオン電着塗料中において、コロイド状のビスマス金属をより安定に存在させることができる。
【0019】
上記高分子顔料分散剤は、高分子量重合体に顔料表面に対する親和性の高い官能基が導入されている両親媒性の共重合体である。このものは、塗料用等の樹脂組成物に対して充分な相溶性を有することから、有機顔料又は無機顔料の分散剤として好適であり、通常、顔料ペーストの製造時に顔料分散剤として使用されているものである。
【0020】
上記高分子顔料分散剤は、金属化合物の還元による金属コロイド粒子の生成及び生成後の溶媒中での分散をそれぞれ安定化する働きをしていると考えられる。
上記高分子顔料分散剤の数平均分子量は、1000〜100万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではないことがあり、100万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、2000〜50万であり、更に好ましくは、4000〜50万である。
【0021】
上記高分子顔料分散剤としては上述の性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開平11−80647号公報に例示したものを挙げることができる。上記高分子顔料分散剤としては、種々のものが利用できるが、市販されているものを使用することもできる。なお、上記高分子顔料分散剤は、極性のものである。
【0022】
上記高分子顔料分散剤としては、種々のものが利用できるが、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ディスパービックR、ディスパービック154、ディスパービック180、ディスパービック187、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192(以上ビックケミー社製)、ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース12000、ソルスパース40000、ソルスパース41090、ソルスパースHPA34(以上アビシア社製)、EFKA−450、EFKA−451、EFKA−452、EFKA−453、EFKA−4540、EFKA−4550、EFKA−1501、EFKA−1502(以上エフカケミカルズ社製)、フローレンTG−720W、フローレンTG−730W、フローレンTG−740W、フローレンTG−745W、フローレンTG−750W、フローレンG−700DMEA、フローレンG−WK−10、フローレンG−WK−13E(以上共栄社製)、ディスパーエイドW−30、ディスパーエイドW−39(エレメンティス社製)、K−SPERSE XM2311(キング社製)、ネオレッツBT−24、ネオレッツBT−175(以上ゼネカ社製)、SMA1440H(アトケム社製)、オロタン731DP、オロタン963(ローム・アンド・ハース社製)、ヨネリン(米山化学製)、サンスパールPS−2(三洋化成製)、トライトンCF−10(ユニオンカーバイド社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル683、ジョンクリル611、ジョンクリル680、ジョンクリル682、ジョンクリル52、ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリル63、ジョンクリル70、ジョンクリルHPD−71、ジョンクリル62(ジョンソンポリマー社製)サーフィノールCT−111(エアプロダクツ社製)、アジスパーPW911、アジスパーPB821(以上、味の素社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のカチオン電着塗料において、上記コロイド状のビスマス金属は、上記ビスマス含有化合物を還元することにより得ることができるが、上記高分子顔料分散剤の存在下でビスマス含有化合物を還元することより得るものであることが好ましい。これにより、得られるコロイド状のビスマス金属を塗料中でより安定に存在させることができる。
【0024】
即ち、上記コロイド状のビスマス金属は、例えば、上記ビスマス含有化合物を溶媒に溶解し、高分子顔料分散剤の存在下で、還元作用を有する化合物を使用して、ビスマス金属に還元することにより得ることができる。
【0025】
上記溶媒としては、上記ビスマス含有化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、水、酸、有機溶媒等を挙げることができる。
上記酸としては特に限定されず、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸等を挙げることができる。
【0026】
上記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、メトキシプロパノール等の炭素数1〜4のアルコール;アセトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。上記溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記溶媒が水と有機溶媒との混合物である場合には、上記有機溶媒としては、水可溶性のものが好ましく、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、エチレングリコール等を挙げることができる。本発明においては、限外濾過等で高分子顔料分散剤やコロイド状のビスマス金属以外の他の成分を除去する場合に、除去に適する点から、メタノール、エタノールが好ましい。
【0027】
上記溶媒として酸を使用する場合、酸溶液は、pH4以下であることが好ましい。pH4を超えると、ビスマスイオンを還元する際に還元不足のために酸化ビスマス等の副生成物が生成する場合があり、好ましくない。
【0028】
上記ビスマス含有化合物は、溶媒中のビスマスイオン濃度が0.01mol/l以上となるように用いられることが好ましい。0.01mol/l未満であると、充分高濃度のビスマスコロイド溶液を得ることができないおそれがある。より好ましくは、0.05mol/l以上、更に好ましくは、0.07mol/l以上である。
【0029】
上記高分子顔料分散剤の配合量は、上記コロイド状のビスマス金属100質量部に対して、下限5質量部、上限1000質量部が好ましい。5質量部未満であると、上記コロイド状のビスマス金属の分散性が不充分であり、1000質量部を超えると、塗料に配合した際に、バインダー樹脂に対する高分子顔料分散剤の混入量が多くなり、物性等に不具合が生じやすくなる。上記下限は、20質量部であることがより好ましく、上記上限は、200質量部であることがより好ましい。
【0030】
上記ビスマスイオンをビスマス金属に還元する方法としては、例えば、高圧水銀灯により光照射する方法、還元作用を有する化合物を添加する方法等を挙げることができる。このうち、還元作用を有する化合物を添加する方法が、特別な装置を必要とせず、製造上有利である。
【0031】
上記還元作用を有する化合物は、還元剤として通常使用される各種のものを使用することができ、例えば、亜二チオン酸、亜二チオン酸の誘導体であるホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(ロンガリットと称される)、ホルムアルデヒドスルホキシル酸亜鉛、クエン酸、酒石酸、アルコルビン酸、リンゴ酸、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、次亜リン酸、ハイドロサルファイト等を挙げることができる。上記還元剤のうち、比較的温和な還元剤であるクエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、リンゴ酸を使用する場合は、硫酸鉄(II)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)の溶液と混合・併用することによって還元能を向上することができる。上記還元剤のなかでも、安全性と反応効率の観点から、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(ロンガリット)がより好ましい。
【0032】
上記還元作用を有する化合物の添加量は、上記ビスマス含有化合物中のビスマスを還元するのに必要な量以上であることが好ましい。この量未満であると、還元が不充分となるおそれがある。また、上限は特に限定されないが、上記ビスマス含有化合物中のビスマスを還元するのに必要な量の30倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。
【0033】
上記還元作用を有する化合物としてホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムを使用する場合には、上記ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムの添加量は、上記ビスマス含有化合物1molに対して、下限1.5mol、上限20molが好ましい。1.5mol未満であると、還元が充分に行われず、20molを超えると、生成したコロイド粒子の凝集安定性が低下する。上記下限は、3molであることがより好ましく、上記上限は、10molであることがより好ましい。また、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムを使用する場合には、硫酸鉄(II)を併用してもよい。
【0034】
また、上記還元作用を有する化合物として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合、上記水素化ホウ素ナトリウムは、高価であり、取り扱いにも留意しなければならないが、常温で還元することができるので、加熱や特別な光照射装置を用意する必要がない。
【0035】
上記還元作用を有する化合物として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合には、上記水素化ホウ素ナトリウムの添加量は、上記ビスマス含有化合物1molに対して、下限1mol、上限50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、生成したコロイド粒子の安定性が低下し、凝集しやすくなる。上記下限は、1.5molであることがより好ましく、上記上限は、10molであることがより好ましい。
【0036】
上記還元作用を有する化合物としてクエン酸又はその塩を使用する場合、アルコールの存在下で加熱還流することによってビスマスイオン等を還元することができる。上記クエン酸又はその塩は、非常に安価であり、入手が容易である利点がある。上記クエン酸又はその塩としては、クエン酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0037】
上記還元作用を有する化合物としてクエン酸又はその塩を使用する場合には、上記クエン酸又はその塩の添加量は、上記ビスマス含有化合物1molに対して、下限1.5mol、上限50molが好ましい。1.5mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、生成したコロイド粒子の凝集安定性が低下する。上記下限は、10molであることがより好ましい。また、クエン酸又はその塩を使用する場合には、硫酸鉄(II)を併用してもよい。
【0038】
上記還元作用を有する化合物を添加する方法としては特に限定されず、例えば、上記高分子顔料分散剤の添加後に行うことができ、この場合は、例えば、まず溶媒に上記高分子顔料分散剤を溶解させ、更に、上記還元作用を有する化合物又はビスマス含有化合物の何れかを溶解させて得られる溶液に、還元作用を有する化合物又はビスマス含有化合物の残った方を加えることで、還元を進行させることができる。上記還元作用を有する化合物を添加する方法としては、また、先に高分子顔料分散剤と上記還元作用を有する化合物とを混合しておき、この混合物をビスマス含有化合物の溶液に加える形態をとってもよい。
【0039】
上記還元により、平均粒子径が約5nm〜100nmであるコロイド状のビスマス金属を含む溶液が得られる。
上記還元後の溶液は、上記コロイド状のビスマス金属及び上述の高分子顔料分散剤を含むものであり、ビスマス金属コロイド溶液となる。上記ビスマス金属コロイド溶液とは、ビスマス金属の微粒子が溶媒中に分散しており、溶液として視認できるような状態にあるものを意味している。
【0040】
上記還元後の溶液は、上記コロイド状のビスマス金属及び上記高分子顔料分散剤のほかに、ビスマス含有化合物等の原料に由来する塩化物イオン等の雑イオン、還元で生じた塩や、場合により還元作用を有する化合物を含むものであり、これらの雑イオン、塩や還元作用を有する化合物は、得られるビスマス金属コロイド溶液の安定性に悪影響を及ぼすおそれがあるので、除去しておくことが望ましい。これらの成分の除去には、例えば、遠心分離、限外濾過等の方法が用いることができる。
【0041】
上記遠心分離を行うことによって、コロイド状のビスマス金属は沈殿するが、上記不要な雑イオン、塩や還元作用を有する化合物及び上記高分子顔料分散剤は上澄み液中に溶解しているため、上澄み液を除くことにより、これらの成分を除去することができる。このようにして残ったコロイド状のビスマス金属は、溶剤を加えて洗浄し、更に遠心分離を繰り返して行うことにより、除去効果を高めることができる。
【0042】
上記遠心分離は1000G以上で行うものであることが好ましい。1000G未満では、上記高分子顔料分散剤の一部を除去することが困難になるおそれがある。遠心分離の条件はコロイド状のビスマス金属の粒径で異なり、例えば、粒径が数nmのオーダーの粒子を沈降させるには、いわゆる超遠心分離条件で行う必要がある。標準的な条件としては、3000Gで、下限5分、上限60分を挙げることができる。上記下限は、15分であることがより好ましく、上記上限は、45分であることがより好ましい。
【0043】
上記遠心分離は、上述の重力加速度、時間及び/又は操作回数の条件を適宜変えることにより、上記コロイド状のビスマス金属を粒径に基づき分画することができる。上記分画により、上記コロイド状のビスマス金属の粒径をある程度揃えることができる。
【0044】
上記遠心分離によって得られるビスマス金属コロイド溶液は濃縮されており、通常、ペースト状の形態となる。その濃度は質量基準で一般的に固形分80%以上であることが好ましい。上限は特に規定されないが、取り扱いの容易さを考慮すると、90%以下である。
【0045】
上記限外濾過(Ultrafiltration:UF)は、精密濾過(Microfiltration:MF)に用いられる濾過膜よりも更にふるいの目が小さいものである。限外濾過は、通常、高分子量物質やコロイド物質の分離を目的として用いられるものである。
【0046】
上記限外濾過は、通常、分離対象となる物質の径が1nm〜5μmである。上記径を対象とすることにより、上記不要な雑イオン、塩や還元作用を有する化合物とともに、上記高分子顔料分散剤を除去することができる。1nm未満であると、不要な成分が濾過膜を通過せず排除できないことがあり、5μmを超えると、上記コロイド状のビスマス金属の多くが濾過膜を通過し、求めるビスマス金属コロイド溶液が得られない場合がある。
【0047】
上記限外濾過の濾過膜としては特に限定されないが、通常、例えば、ポリアクリロニトリル、塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂製のものが用いられる。これらのうち、ポリアクリロニトリル、ポリサルフォンが好ましく、ポリアクリロニトリルがより好ましい。上記限外濾過の濾過膜は、また、上記限外濾過終了後に通常行われる濾過膜の洗浄を効率よく行う点から、逆洗浄が可能な濾過膜を用いることが好ましい。
【0048】
上記限外濾過の濾過膜としては、分画分子量が、下限3000、上限80000のものが好ましい。3000未満であると、不要な高分子顔料分散剤等が充分に除去されにくく、80000を超えると、上記コロイド状のビスマス金属が濾過膜を通過しやすくなるため、目的とするビスマス金属コロイド溶液が得られない場合がある。上記下限は、10000であることがより好ましく、上記上限は、60000であることがより好ましい。上記分画分子量は、一般的に、高分子溶液を限外濾過膜に通す場合に限外濾過膜の孔内を通過して外に排除される高分子の分子量を指し、濾過膜の孔径を評価するために用いられる。上記分画分子量が大きな値を示す程、濾過膜の孔径は大きい。
【0049】
上記限外濾過の濾過モジュールの形態としては特に限定されず、例えば、濾過膜の形態によって中空糸型モジュール(キャピラリーモジュールとも呼ばれる)、スパイラルモジュール、チューブラーモジュール、プレート型モジュール等が挙げられ、何れも本発明に好適に用いられる。これらのうち、膜面積が大きいほど濾過に要する時間を短縮することができるので、濾過面積の割にコンパクトな形態を有する中空糸型モジュールが、効率の点から好ましい。また、処理を行うビスマス金属コロイド溶液の量が多い場合には、使用する限界濾過膜本数が多いものを使うことが好ましい。
【0050】
上記限外濾過の方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が用いられ、通常、上述の反応により得られたコロイド状のビスマス金属及び高分子顔料分散剤を含む溶液を限外濾過膜に通すことにより行われ、これにより、上述の雑イオン、塩、還元作用を有する化合物や高分子顔料分散剤を含む濾液が排除される。上記限外濾過は、通常、濾液の上記雑イオンが所望の濃度以下に除去されるまで繰り返し行う。その際、処理するビスマス金属コロイド溶液の濃度を一定にするために排除された濾液の量と同じ量の溶剤を加えることが好ましい。このときに加える溶剤として、還元時に用いていたものと異なる種類のものを用いることで、ビスマス金属コロイド溶液の溶剤を置換することが可能である。
【0051】
上記限外濾過は、通常の操作、例えば、いわゆるバッチ方式で行うことができる。このバッチ方式は、限外濾過が進んだ分、処理対象であるビスマス金属コロイド溶液を加えていく方法である。なお、上記限外濾過は、上記雑イオンが所望の濃度以下に除去された後で、固形分濃度を高めるために更に行うことが可能である。
【0052】
上記遠心分離、上記限外濾過によって得られるビスマス金属コロイド溶液は、上記雑イオンや高分子顔料分散剤の一部が除去されたものであり、これを本発明のカチオン電着塗料に使用する場合には、塗料中でのコロイド状のビスマス金属の安定性がより優れるものとなり、また、得られる塗料の経時安定性も優れるものであることから、カチオン電着塗料として好適に用いることができ、良好な電着塗膜を形成することができる。
【0053】
本発明のカチオン電着塗料において、上記コロイド状のビスマス金属は、カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、ビスマス金属換算で、下限0.1質量%、上限1.5質量%の含有量であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光沢値を低下させる効果が見られないおそれがある。1.5質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的でなく、表面の平滑性が損なわれるおそれがある。上記下限は、0.3質量%であることがより好ましい。上記上限は、1.0質量%であることがより好ましい。
【0054】
本発明のカチオン電着塗料において、上記高分子顔料分散剤とビスマス金属との質量比(高分子顔料分散剤/ビスマス金属)は、下限1/9、上限9/1であることが好ましい。1/9未満であると、コロイド状のビスマス金属の塗料中での安定性が低下するおそれがある。9/1を超えても、効果の向上は見られず経済的でないばかりか、得られる電着塗膜の一般性能が低下するおそれがある。上記下限は、3/7であることが更に好ましく、上記上限は、7/3であることが更に好ましい。
【0055】
本発明のカチオン電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物を含有するものである。上記樹脂組成物を構成する樹脂は、一分子中にスルホニウム基及びプロパルギル基の両者を持っていてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又はプロパルギル基のいずれか一方だけを持っていてもよい。この後者の場合には、樹脂組成物全体として、これら2種の硬化性官能基の全てを持っている。即ち、上記樹脂組成物は、スルホニウム基及びプロパルギル基を持つ樹脂からなるか、スルホニウム基だけを持つ樹脂及びプロパルギル基だけを持つ樹脂の混合物からなるか、又は、これらすべての混合物からなるものであってもよい。本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、上述の意味においてスルホニウム基及びプロパルギル基を持つ。
【0056】
上記スルホニウム基は、上記樹脂組成物の水和官能基である。スルホニウム基は、電着塗装過程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化することができる。本発明のカチオン電着塗料は、このことにより高度のつきまわり性を発揮することができるものと考えられる。
【0057】
また、この電着塗装過程においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基が電着被膜中に発生するものと考えられる。この電解発生塩基は、電着被膜中に存在する加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0058】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物の骨格となる樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
上記エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有するものが好適に用いられ、例えば、エピビスエポキシ樹脂、これをジオール、ジカルボン酸、ジアミン等により鎖延長したもの;エポキシ化ポリブタジエン;ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂;ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂;ポリグリシジルアクリレート;脂肪族ポリオール又はポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;多塩基性カルボン酸のポリグリシジルエステル等のポリエポキシ樹脂を挙げることができる。なかでも、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるので、ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂、ポリグリシジルアクリレートが好ましい。なお、上記エポキシ樹脂の一部は、モノエポキシ樹脂であってもかまわない。
【0059】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂を骨格とする樹脂からなり、数平均分子量は、下限500、上限20000であることが好ましい。500未満であると、カチオン電着塗装の塗装効率が悪くなり、20000を超えると、被塗物表面で良好な被膜を形成することができない。上記数平均分子量は樹脂骨格に応じてより好ましい分子量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、下限700、上限5000であることが好ましい。
【0060】
上記樹脂組成物中のスルホニウム基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限5ミリモル、上限400ミリモルである。5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。上記スルホニウム基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、上記下限は、5ミリモルであることがより好ましく、10ミリモルであることが更に好ましい。また、上記上限は、250ミリモルであることが好ましく、150ミリモルであることが更に好ましい。
【0061】
上記樹脂組成物の持つプロパルギル基は、本発明のカチオン電着塗料において、硬化官能基として作用する。また、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存することにより、カチオン電着塗料のつきまわり性を一層向上させることができる。
【0062】
上記樹脂組成物の持つプロパルギル基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限495ミリモルである。10ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、495ミリモル/100gを超えると、カチオン電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記プロパルギル基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、上記下限は、20ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、395ミリモルであることがより好ましい。
【0063】
上記樹脂組成物の持つスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記樹脂組成物の持つスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0064】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、下限0.1/100g、上限40ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、アセチリド化による効果が充分発揮されず、40ミリモルを超えると、アセチリド化が困難である。この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
【0065】
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属を挙げることができる。これらのうち、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。銅を使用する場合、上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり0.1〜20ミリモルであることがより好ましい。
【0066】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるので、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に塗料組成物に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、更に、金属イオンが限外ろ過によって除去されることはなく、浴管理やカチオン電着塗料の設計が容易となる。
【0067】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物には、所望により、炭素−炭素二重結合を含有させてもよい。上記炭素−炭素二重結合は、反応性が高いので硬化性を一層向上させることができる。
【0068】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、後述するプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の含有量の条件を充たした上で、樹脂組成物固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限485ミリモルが好ましい。10ミリモル/100g未満であると、添加により充分な硬化性を発揮することができず、485ミリモル/100gを超えると、カチオン電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記炭素−炭素二重結合の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、下限20ミリモル、上限375ミリモルであることが好ましい。
【0069】
上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、下限80ミリモル、上限450ミリモルの範囲内であることが好ましい。80ミリモル/100g未満であると硬化性が不充分となるおそれがあり、450ミリモル/100gを超えるとスルホニウム基の含有量が少なくなり、つきまわり性が不充分となるおそれがある。上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、下限100ミリモル、上限395ミリモルであることがより好ましい。
【0070】
また、上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じて、より好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、例えば、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物を反応させて、プロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物を得る工程(i)、工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(ii)により好適に製造することができる。
【0072】
上記エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とをともに含有する化合物であってよく、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等を挙げることができる。これらのうち、入手の容易性及び反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
【0073】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物に、必要に応じて、炭素−炭素二重結合を持たせる場合には、上記工程(i)において、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)を、上記化合物(A)と併用すればよい。上記化合物(B)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素二重結合とをともに含有する化合物であってよい。具体的には、エポキシ基と反応する基が水酸基である場合、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等を挙げることができる。エポキシ基と反応する基がカルボキシル基である場合、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リノール酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0074】
上記工程(i)においては、上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に上記化合物(A)を反応させて、プロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物を得るか、又は、上記化合物(A)と、必要に応じて、上記化合物(B)とを反応させてプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を持つエポキシ樹脂組成物を得る。この後者の場合、工程(i)においては、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合してから反応に用いてもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に用いてもよい。なお、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0075】
上記工程(i)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合比率は、所望の官能基含有量となるように設定すればよく、例えば、上述したプロパルギル基と炭素−炭素二重結合の含有量となるように設定すればよい。
【0076】
上記工程(i)の反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂組成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基を一つ又は複数持つエポキシ樹脂の混合物であるか、又は、プロパルギル基と炭素−炭素二重結合とを一つ又は複数持つエポキシ樹脂の混合物である。この意味で、上記工程(i)によりプロパルギル基、又は、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を持つ樹脂組成物が得られる。
【0077】
工程(ii)においては、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基を反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0078】
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等を挙げることができる。具体的には、例えば、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等を挙げることができる。
【0079】
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン等を挙げることができる。
【0080】
上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/40〜100/100程度が好ましい。
【0081】
上記工程(ii)の反応は、例えば、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂組成物中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0082】
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0083】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物の持つプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂組成物中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程によって行うことができる。上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀又はバリウム等の遷移金属の錯体又は塩を挙げることができる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等を挙げることができる。これらのうち、環境適合性の観点から、銅又は銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み、好適である。
【0084】
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件としては、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られた樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。かくして、樹脂組成物中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の一つ又は複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂組成物に対して、上記工程(ii)によってスルホニウム基を導入することができる。
【0085】
なお、エポキシ樹脂組成物の持つプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と上記工程(ii)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
【0086】
このようにして、プロパルギル基及びスルホニウム基、必要に応じて、炭素−炭素二重結合、プロパルギル基の一部がアセチリド化したものを持つ樹脂組成物を、スルホニウム基の分解を抑制しつつ、製造することができる。なお、アセチリドは、乾燥状態で爆発性を有するが、水性媒体中で実施され、水性組成物として目的物質を得ることができるので、安全上の問題は発生しない。
【0087】
本発明のカチオン電着塗料は、上述の樹脂組成物を含有している。本発明におけるカチオン電着塗料には、上述の樹脂組成物自体が硬化性を有するので、硬化剤の使用は必ずしも必要ない。しかし、硬化性のさらなる向上のために使用してもよい。このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等を挙げることができる。
【0088】
また、本発明のカチオン電着塗料には、硬化触媒を必ずしも使用する必要はない。しかし、硬化反応条件により、更に硬化性を向上させる必要がある場合には、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。このような化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等を挙げることができる。上記硬化触媒の配合量は、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、下限0.1、上限20ミリモルであることが好ましい。
【0089】
本発明のカチオン電着塗料には、アミンを配合することができる。上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物を挙げることができる。これらのうち、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水分散安定性が優れているので、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0090】
上記アミンは、直接、本発明におけるカチオン電着塗料中に配合することができる。従来の中和型アミン系のカチオン電着塗料では、遊離のアミンを添加すると、樹脂中の中和酸を奪うことになり、電着溶液の安定性が著しく悪化するが、本発明においては、このような浴安定性の阻害が生じることはない。
【0091】
上記アミンの配合量は、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g未満であると、つきまわり性に対して充分な効果を得ることができず、25meq/100gを超えると、添加量に応じた効果を得ることができず不経済である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。
【0092】
本発明のカチオン電着塗料には、また、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合することができる。上記脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物の配合により、得られる塗膜の耐衝撃性が向上する。上記脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物としては、樹脂組成物固形分100gあたりスルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基80〜135ミリモル及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基のうち少なくとも1種10〜315ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基の合計含有量が樹脂組成物固形分100gあたり500ミリモル以下であるものを挙げることができる。
【0093】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合する場合、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、スルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基10〜300ミリモル及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計10〜485ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量が、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、500ミリモル以下であり、上記炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基の含有割合が、カチオン電着塗料樹脂固形分の3〜30質量%であることが好ましい。
【0094】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合する場合、スルホニウム基が5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。また、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基が80ミリモル/100g未満であると、耐衝撃性の改善が不充分であり、350ミリモル/100gを超えると、樹脂組成物の取扱性が困難となる。プロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計が10ミリモル/100g未満であると、他の樹脂や硬化剤と組み合わせて使用する場合であっても、充分な硬化性を発揮することができず、315ミリモル/100gを超えると、耐衝撃性の改善が不充分となる。スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり500ミリモル以下である。500ミリモルを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。
【0095】
本発明のカチオン電着塗料は、更に、必要に応じて、通常のカチオン電着塗料に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては特に限定されず、例えば、顔料、防錆剤、顔料分散樹脂、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の塗料用添加剤等を挙げることができる。
【0096】
上記顔料は、塗膜の外観が低下したり、塗料粘度が上昇し過ぎない範囲内で、上記カチオン電着塗料に添加してもよい。
上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;塩基性ケイ酸鉛、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;カオリン、クレー、タルク等の体質顔料等の一般にカチオン電着塗料に使用されるもの等を挙げることができる。上記防錆剤としては、具体的には、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、カルシウム担持シリカ、カルシウム担持ゼオライト等を挙げることができる。上記顔料と防錆剤との合計配合量は、カチオン電着塗料中、固形分として、下限0質量%、上限50質量%であることが好ましい。
【0097】
上記顔料分散樹脂は上記顔料をカチオン電着塗料中に安定して分散させるために用いられる。顔料分散樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般に使用されている顔料分散樹脂を使用することができる。また、樹脂中にスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂を使用してもよい。このようなスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とハーフブロック化イソシアネートとを反応させて得られる疎水性エポキシ樹脂に、スルフィド化合物を反応させるか、又は、上記樹脂に、一塩基酸及び水酸基含有二塩基酸の存在下でスルフィド化合物を反応させる方法等により得ることができる。上記非重金属防錆剤についても上記顔料分散樹脂によってカチオン電着塗料中に安定して分散させることができる。
【0098】
本発明のカチオン電着塗料の硬化温度は、下限130℃、上限220℃に設定されていることが好ましい。硬化温度が130℃未満であると、複層塗膜を形成する場合に、複層塗膜の平滑性が低下するおそれがある。硬化温度が220℃を超えると、複層塗膜を形成する場合に、複層塗膜の物性が低下したり、それに上塗り塗料を塗装して得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。硬化温度の設定は、硬化官能基、硬化剤及び触媒の種類や量等の調製といった当業者によって知られた方法で行うことができる。
【0099】
なお、本発明における硬化温度とは、30分間の加熱でゲル分率85%の塗膜を得るための温度のことをいう。上記ゲル分率の測定は、試験塗板をアセトンに浸漬し5時間還流させた時の、試験前後における試験塗板の質量差から算出する方法により行われる。
【0100】
本発明のカチオン電着塗料は、例えば、上記樹脂組成物に、上述した方法により得られるビスマス金属コロイド溶液を添加し、更に必要に応じて、上述の各成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。上記ビスマス金属コロイド溶液の添加の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、カチオン電着塗料中のバインダーに分散させて添加する方法、分散樹脂を用いてペースト化した後、塗料製造時又は製造後に得られたペーストを添加する方法等によって行うことができる。本発明のカチオン電着塗料は、例えば、カチオン電着塗装に用いる場合は、不揮発分が下限10質量%、上限30質量%の浴液となるように調製されることが好ましい。また、カチオン電着塗料中のプロパルギル基、炭素−炭素二重結合及びスルホニウム基の含有量が、上述の樹脂組成物のところで示した範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0101】
本発明の電着塗膜の光沢値制御方法は、上記カチオン電着塗料を塗装する工程からなるものである。上記カチオン電着塗料がコロイド状のビスマス金属を含有するものであることにより、これを塗装することによって形成される電着塗膜の平滑性を維持したまま、光沢値を低下させること等の制御ができるようになり、また、上記カチオン電着塗料中において、コロイド状のビスマス金属が塗料中での安定性に優れているために、塗料を長期間貯蔵した後に電着塗膜を形成しても、形成される電着塗膜が低光沢値を維持することができる。即ち、本発明の光沢値制御方法は、カチオン電着塗料中のコロイド状のビスマス金属の含有量を規定することによって、形成される電着塗膜の平滑性を維持したまま光沢値を制御することができ、更に、光沢値の制御効果を長期間維持することができる方法である。これにより、要求される光沢値に応じてカチオン電着塗料を設計することができ、また、上記カチオン電着塗料を長期間貯蔵した後であっても、初期と同様の低光沢値を有する電着塗膜を得ることができる。従って、例えば、上記カチオン電着塗料を1コート仕上げに用いた場合には質感の高い、また、高級感のある電着塗膜を得ることができる。また、例えば、自動車塗装において、電着塗装後の平滑性不良等の検査や、低光沢値を長期間維持することができる電着塗膜が要求される分野に対して、好適に用いることができる方法である。
【0102】
本発明のカチオン電着塗料は、コロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるものである。コロイド状のビスマス金属を含むことにより、形成される電着塗膜の光沢値を低下させることができ、また、コロイド状のビスマス金属は、カチオン電着塗料中において長期安定性に優れるものであることから、長期間同一の浴を用いて電着塗装しても、形成される電着塗膜は、平滑性に優れ、低光沢値を維持している。従って、本発明のカチオン電着塗料は、例えば、電着塗装、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤー塗装からなる自動車塗装における電着塗装において、低光沢値を示す電着塗膜を得ることができ、形成された電着塗膜の平滑性を容易に検査することができるようになり、優れた外観の複層塗膜を形成することができるものである。
【0103】
また、上記カチオン電着塗料は、低光沢値を長期間維持することができるものであるから、電着塗装のみを行う1コート仕上げに用いた場合には、質感の高い、また、高級感のある電着塗膜を得ることができる。
【0104】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0105】
製造例1 ビスマス金属コロイド溶液の製造
500mlコルベンに、1N塩酸300g、及び、塩化ビスマス9.46gを入れ、50℃の油浴中にて攪拌、溶解した。塩化ビスマスの溶解後、油浴を取り除き、ディスパービック190(ビックケミー社製、有効成分40質量%)6.72gを攪拌しながらコルベンに加え、50℃の湯浴中で30分間攪拌、溶解した後、室温まで冷却した。次に、上記コルベンとは別に、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム二水和物23.11g、及び、脱イオン水36.89gを50℃の湯浴中にて攪拌、溶解し、得られた溶液の温度が40℃以下になった時点で、攪拌しながら、瞬時にコルベンに加えた。液が一瞬で黒変した。そのまま放置して液温を25℃に保持しながら2時間攪拌を続け、黒色を呈するビスマス金属コロイド溶液が得られた。
【0106】
次に、限外濾過モジュールAHP1010(旭化成社製;分画分子量50000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ、及び、下部にチューブ接続口のある3lのステンレスカップをシリコンチューブでつなぎ、限外濾過装置とした。先のビスマス金属コロイド溶液をステンレスカップに入れ、更に2lの水を加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約20分後にモジュールからの濾液が2lになった時点で、ステンレスカップに2lの水を加えた。その後、濾液の伝導度が7μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mlになるまで濃縮を行った。
【0107】
続いて、500mlステンレスカップ、限外濾過モジュールAHP0013(旭化成社製;分画分子量50000、使用膜本数100本)、チューブポンプ、及び、アスピレーターからなる限外濾過装置を組んだ。このステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約100mlになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了することにより、固形分30%のビスマス金属コロイド溶液を得た。電子顕微鏡観察から得られた、この溶液中のコロイド状のビスマス金属の平均粒子径は、25nmであった。また、得られたビスマス金属コロイド溶液の組成は、ビスマスの含有量が14.2%、ディスパービック190 4.8%、脱イオン水77.4%であった。なお、上記組成は、示差熱天秤「TG−DTA」(セイコーインスツルメンツ社製)で得られた測定結果から計算して求めた。
【0108】
製造例2 スルホニウム基とプロパルギル基とを持つエポキシ樹脂組成物の製造エポキシ当量200.4のエポトートYDCN−701(東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)100.0質量部にプロパルギルアルコール23.6質量部、ジメチルベンジルアミン0.3質量部を攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させてエポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂組成物を得た。このものに銅アセチルアセトナート2.5質量部を加え50℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14ミリモル/100g樹脂固形分相当量のアセチリド化されたプロパルギル基を含有)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6質量部、氷酢酸4.7質量部、脱イオン水7.0質量部を入れ75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8質量部を加え、目的の樹脂組成物溶液を得た。このものの固形分濃度は70.0質量%、スルホニウム価は28.0ミリモル/100gワニスであった。数平均分子量(ポリスチレン換算GPC)は2443であった。
【0109】
実施例1 カチオン電着塗料の製造
製造例2で得られたエポキシ樹脂組成物142.9質量部、脱イオン水157.1質量部、及び、製造例1で得られたビスマス金属コロイド溶液を、樹脂固形分100質量部に対して、ビスマス金属換算で0.5質量%となるように加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に脱イオン水373.3質量部を加え、固形分濃度が15質量%となるように水溶液を調製し、カチオン電着塗料を得た。このカチオン電着塗料の硬化温度を測定したところ、150℃であった。
【0110】
〔塗膜形成〕
実施例1で得られたカチオン電着塗料をステンレス容器に移して電着浴とし、ここに被塗装物として、リン酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板(JIS G3141SPCC−SD、日本ペイント社製のリン酸亜鉛処理剤サーフダインSD−5000で処理)が陰極となるようにして、乾燥膜厚が30μmとなるように電着塗装を行った。電着塗装後、被塗装物をステンレス容器内の電着浴から引き上げ、水洗し、カチオン電着未硬化塗膜を形成し、180℃で20分焼き付けることにより、電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0111】
比較例1
製造例2で得られたエポキシ樹脂組成物142.9質量部、脱イオン水157.1質量部、及び、水酸化ビスマスを、樹脂固形分100質量部に対して、ビスマス金属換算で0.5質量%となるように加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に脱イオン水373.3質量部を加え、固形分濃度が15質量%となるように水溶液を調製し、カチオン電着塗料を得た。実施例1と同様にして電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0112】
比較例2
水酸化ビスマスの代わりに、酢酸ビスマスを用いた以外は、比較例1と同様にして電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0113】
比較例3
製造例1で得られたビスマス金属コロイド溶液を含有させなかった以外は、実施例1と同様にして電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0114】
〔評価試験〕
実施例1及び比較例1、2、3で得られた被塗装物について、下記の項目を評価した。なお、評価は、初期の評価と、上記により得られた各電着塗料を40℃で1ヶ月間攪拌しながら貯蔵した後、同様にして被塗装物を作成したものの評価とを行った。結果を表1に示した。
【0115】
<肌(Ra値)>
表面粗度計「SJ−201」(ミツトヨ社製)を用いて、被塗装物表面の肌(Ra値)を測定した。測定条件は、カットオフを0.8mmとした。
【0116】
<光沢値>
得られた被塗装物の光沢値を「micro−TRI−gloss」(BYKガードナー社製)を使用して測定した。
【0117】
<SDT(塩水浸漬試験)>
素地に至る長さ約10cmの傷を3cm間隔で被塗装物に入れたものを3%NaCl水溶液に浸漬し、密閉後55℃で10日間放置した後、テープを密着させて剥がし、電着塗膜の剥離幅を測定し、防食性を評価した。
評価基準は以下の通りである。
○:剥離幅は片側3mm以下である。
×:剥離幅は片側3mm以上である。
【0118】
【表1】
【0119】
表1から、Ra値に関しては、実施例1により得られた被塗装物は、比較例1、2、3により得られたものと同等の値を示すものであった。光沢値に関しては、実施例1により得られたものは、比較例3により得られたものに比べて、初期及び1ヶ月後ともに低い光沢値を示すものであった。比較例1、2により得られたものは、初期の光沢値は、低いものであったが、1ヶ月後の値は大きくなっていた。防食性に関しては、実施例1と比較例3とにより得られたものは、初期及び1ヶ月後ともに優れた防食性を示すものであったが、比較例1、2により得られたものは、1ヶ月後の防食性が初期に比べて低下していた。これにより、実施例1のカチオン電着塗料は、低光沢値、優れた防食性を長期間維持することができるものであり、これにより得られた電着塗膜は、平滑性に優れるものであった。
【0120】
【発明の効果】
本発明のカチオン電着塗料は、上述した構成よりなるので、低光沢値を示す電着塗膜を形成することができるものであり、また、得られた電着塗膜は、低光沢値及び優れた防食性を長期間維持することができるものであり、更に、優れた外観を有する複層塗膜を得ることができるものである。従って、本発明のカチオン電着塗料は、低光沢値及び優れた防食性を長期間維持することができるような電着塗膜が要求される用途に対して、好適に用いることができるものであり、また、例えば、電着塗装、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤー塗装からなる自動車塗装における電着塗装において、低光沢値を示す電着塗膜を得ることができることから、形成された電着塗膜の平滑性を容易に検査することができるようになり、かつ、急激な塗料粘度の上昇がないため、優れた外観を有する複層塗膜を得ることができる。
Claims (5)
- コロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなることを特徴とするカチオン電着塗料。
- 更に、高分子顔料分散剤からなる請求項1記載のカチオン電着塗料。
- コロイド状のビスマス金属は、カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、ビスマス金属換算で、0.1〜1.5質量%の含有量である請求項1又は2記載のカチオン電着塗料。
- コロイド状のビスマス金属は、高分子顔料分散剤の存在下でビスマス含有化合物を還元することにより得られるものである請求項1、2又は3記載のカチオン電着塗料。
- 請求項1、2、3又は4記載のコロイド状のビスマス金属、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料を塗装する工程からなることを特徴とする電着塗膜の光沢値制御方法。
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