図1は、本発明の一実施例のトルク配分クラッチ制御装置を備えた車両の動力伝達装置を示している。図において、原動機として機能するエンジン10には、トルクコンバータ付自動変速機12、前部差動歯車装置14、およびトランスファ16を収容するトランスアクスルハウジング18が締結されている。これにより、エンジン10の出力トルクは、トルクコンバータ付自動変速機12、前部差動歯車装置14、左右1対の車軸20、22を介して左右1対の前輪24、26へ伝達される一方、上記トルクコンバータ付自動変速機12、トランスファ16、プロペラシャフト28、トルク配分クラッチとして機能する電磁クラッチ30、後部差動歯車装置32、左右1対の車軸34、36を介して左右1対の後輪38、40へ伝達されるようになっている。
上記電磁クラッチ30は、エンジン10から前輪24、26と後輪38、40とへそれぞれ伝達されるトルクの割合を調節するためのトルク配分クラッチとして機能するものであって、プロペラシャフト28に接続されてそれと共に回転する入力側摩擦板42と、後部差動歯車装置32のドライブピニオン44に接続されてそれと共に回転する出力側摩擦板46と、それら入力側摩擦板42と出力側摩擦板46とを電磁力に従って押圧することにより相互に摩擦係合させる電磁ソレノイド48とを基本的に備え、後述の電子制御装置110からの指令値tref に対応した大きさの伝達トルクを発生するように構成されている。上記電磁クラッチ30が解放された場合には、エンジン10から出力されるトルクの100%が前輪24、26へ伝達されるが、電磁クラッチ30が完全係合された場合には、エンジン10から出力されるトルクの50%が前輪24、26へ伝達され、残りの50%が後輪38、40へ伝達されるので、本実施例では、上記電磁クラッチ30によるトルク配分調節範囲は、前輪と後輪との重量配分比が0.5:0.5である場合には、1:0から0.5:0.5の間までのトルク配分比範囲となっている。なお、一般には、電磁クラッチ30が完全係合された場合には、前後輪の重量配分相当に前後輪のトルクが分配される。本実施例では、電磁クラッチ30により前輪駆動状態から直結4WDまで前後輪のトルクを調節できる。
図2に詳しく示すように、電磁クラッチ30は、プロペラシャフト28に連結されるユニバーサルジョイント50およびクラッチドラム52を両軸端に有し、クラッチハウジング54によりベアリング56を介して回転可能に支持された入力軸58と、その入力軸58に対して同心となる状態でクラッチハウジング54によりベアリング60を介して回転可能に支持された出力軸62と、入力軸58の軸端面に相対回転可能に嵌合された状態でその入力軸58と連結されたクラッチロータ64と、回転不能となるように非回転部材であるクラッチハウジング54の突起65に係合させられた状態でベアリング66を介して入力軸58に支持された電磁ソレノイド48と、電磁ソレノイド48の磁力により吸引される環状磁性部材68を有してクラッチドラム52の内周面とクラッチロータ64の外周面との間に設けられ、その電磁ソレノイド48の磁力によって比較的小さな摩擦トルクが発生させられるコントロールクラッチ(パイロットクラッチ)70と、そのコントロールクラッチ70からの摩擦トルクが伝達されるカムリング72とそのカムリング72に接触するボールカム74とを有し、上記コントロールクラッチ70を介して伝達された比較的小さな回転力をスラスト方向(軸心方向)の力に変換し且つ倍力して環状押圧部材76に伝達する押圧装置78と、軸方向において互いに重ねられた状態でクラッチドラム52の内周面およびクラッチロータ64の外周面に対して軸方向の移動可能且つ軸まわりの相対回転不能に設けられて、上記環状押圧部材76からのスラスト方向の力により押圧される前記入力側摩擦板42および出力側摩擦板46とを備え、たとえば図3に示す特性に従って、電磁ソレノイド48に供給される駆動電流に対応した大きさの伝達トルクを発生させる。
図1に戻って、車両には、4輪駆動モードを選択するときに操作される4輪駆動選択スイッチ80、左前輪24の回転速度を検出する車輪速度センサ82、右前輪26の回転速度を検出する車輪速度センサ84、左後輪38の回転速度を検出する車輪速度センサ86、右後輪40の回転速度を検出する車輪速度センサ88、車両の前後加速度Gすなわち走行方向の加速度GX を検出する前後Gセンサ90、車両の左右加速度Gすなわち横方向の加速度GY を検出する左右Gセンサ92、ステアリングホイール93により操作される車両の舵角を検出する舵角センサ94、アクセルペダルにより操作されるスロットル開度を検出するスロットルセンサ96、エンジン10の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ98、自動変速機12の実際のギヤ段すなわちシフト位置を検出するシフト位置センサ100、ブレーキペダル102が操作されたことを検出するブレーキセンサ104、パーキングブレーキレバー106が操作されたことを検出するPBブレーキセンサ108、車体の重心を通る鉛直線まわりの回転角速度(ヨー角速度)であるヨーレートrを検出するヨーレートセンサ116がそれぞれ設けられており、それらのスイッチ或いはセンサからは、4輪駆動モードを選択されたことを示す信号S4WD、左前輪24の回転速度NFLを示す信号SNFL、右前輪26の回転速度NFRを示す信号SNFR、左後輪38の回転速度NRLを示す信号SNRL、右後輪40の回転速度NRRを示す信号SNRR、前後加速度GX を示す信号SGX 、左右加速度GY を示す信号SGY 、車両の舵角δを示す信号Sδ、スロットル開度θthを示す信号Sθ、エンジン10の回転速度NE を示す信号SNE 、シフト位置SPを示す信号SSP、ブレーキペダル102の操作を示す信号SBK、パーキングブレーキレバー106の操作を示す信号SPB、ヨーレートrを表す信号Srが、トルク配分制御用の電子制御装置110へ供給される。
上記前後Gセンサ90および左右Gセンサ92は、比較的大きな質量をもった部材とその部材に作用する力すなわち加速度を検出する圧電素子とを備えた圧電型や、比較的大きな質量をもった部材とその部材に加えられる加速度による変位を元位置に保つような平衡力を電磁力にて発生させる電磁コイルとを備えてその電磁コイルの駆動電流に基づいて加速度を検出するサーボ型などにより構成されている。また、上記ヨーレートセンサ116は、レートジャイロとしてもよく知られたものであり、ガス式、振動式、レーザ式などにより構成されている。
上記電子制御装置110は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムを実行することにより上記の入力信号を処理し、電磁クラッチ30へ制御信号を出力するとともに、電磁クラッチ30の作動中を示す作動表示灯112および電磁クラッチ30の異常を示す異常表示灯114を表示させる。図4は、上記電子制御装置110の構成例を詳細に示すものである。エンジン制御および変速制御用電子制御装置115からは、スロットル開度θth、自動変速機12のギヤ段、エンジン系のフェイルを表す信号とエンジン10の回転速度に対応した周波数のエンジンパルス信号が電子制御装置110に供給される。電子制御装置110は、ABS用制御装置116および4WD用制御装置117と、指令値tref を表す指令信号に応じて電磁クラッチ30に制御電流を出力する駆動回路118とを備えている。
図5および図6は、上記電子制御装置110の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。先ず、図5において、トルク配分クラッチ制御手段120は、たとえば発進時制御、旋回走行時制御、通常走行時制御、制動時制御など、車両の前輪および後輪のトルク配分を制御する複数種類の制御モードの中のいずれか1つを、車両状態に基づいて択一的に選択し、選択した制御モードにおいて予め設定された制御式に従って、電磁クラッチ30の伝達トルク或いはその電磁クラッチ30に供給すべき駆動電流に対応する大きさの指令値tref を表す制御信号SCを出力すると共に、作動表示灯112を点灯させる。すなわち、トルク配分クラッチ制御手段120は、4輪駆動選択スイッチ80によって4輪駆動モードが選択されているとき、ブレーキセンサ104により主ブレーキの操作が検出されると制動時制御が選択される。また、たとえば図7の関係に示される領域から車速Vと車両舵角δとで示される走行状態に基づいて発進時制御(図7の1))、旋回走行時制御(図7の2))、通常走行時制御(図7の3))のいずれかを選択するトルク配分制御選択手段252と、このトルク配分制御選択手段252により択一的に選択されてトルク配分制御作動を行う制動時制御手段254、発進時制御手段256、旋回走行時制御手段258、通常走行時制御手段260とを含むのである。
車速算出手段178は、たとえば、前輪回転速度NFLおよびNFR、後輪回転速度NRLおよびNRRのいずれかから、或いは図示しない車速センサにより自動変速機12の出力軸の回転速度に基づいて検出された車速信号から、車速すなわち車体速度Vを算出する。
領域記憶手段262には、図7に示すように、車速Vを示す車速軸(横軸)と舵角を示す舵角軸(縦軸)との二次元座標において領域判定を行うための判断基準車速Vs および判断基準角度Mdelta (V)が記憶されている。この判断基準車速Vs は、たとえば20乃至30Km/hの範囲内、好適には25Km/h程度の値に設定される。また、上記判断基準角度Mdelta (V)は、車速Vの函数であって、車速Vの増加に伴って、上記判断基準車速Vs に対応する第1の値たとえば45°から60Km/h程度の車速に対応する第2の値たとえば25°に向かって変化し、その後一定となるように設定されている。上記トルク配分制御選択手段252は、ブレーキセンサ104により制動操作が検出されたときには制動時制御を決定するが、領域記憶手段262に記憶された図7のいずれかの領域内へ入ったことを実質的に表す所定の選択条件が成立したことを車速Vと車両の旋回操作量である舵角δとに基づいて判定し、複数種類たとえば発進時制御、旋回走行時制御、通常走行時制御の3種類のトルク配分制御から上記選択条件が成立した制御を決定(選択)するトルク配分制御決定手段264と、旋回走行時制御からその他の制御たとえば発進時制御または通常走行時制御への切り換えに関しては、そのトルク配分制御決定手段264による旋回走行時制御とは異なるその他の制御の決定が行われたときには、その決定からたとえば0.5乃至数秒程度の所定の遅延時間が経過したことに基づいてその他の制御を正式に選択するトルク配分制御選択遅延手段266とが含まれる。
また、前記トルク配分クラッチ制御手段120には、旋回操作量である舵角δに基づく目標ヨーレートr°と実際のヨーレートrとの間のヨーレート偏差e〔=(r°−r)sign(r)〕や、そのヨーレート偏差eの変化率 de/dt などの車両の実際の旋回状態を示すパラメータを検出する旋回状態検出手段270と、その旋回状態検出手段270により検出された車両の実際の旋回状態たとえばヨーレート偏差eおよびその変化率 de/dt が予め設定された判断基準値KMAPEおよびKMAPB以上となった場合には、前記トルク配分制御決定手段264により旋回操作量に基づく旋回走行時制御が決定されていない場合でもその旋回走行時制御を開始させるための指令を行う旋回走行時制御指令手段272とが含まれており、前記トルク配分制御決定手段264は、その旋回走行時制御指令手段272による指令を受けた場合には、旋回走行時制御を優先的に決定してそれを開始させる。上記判断基準値KMAPEおよびKMAPBは比較的大きく且つ急速増加するアンダーステアを判断するために予め設定されたものである。
前記発進時制御手段256による発進時制御では、車両状態に応じた最大のトラクションを得るために、荷重移動により変化する前輪24、26と後輪38、40との重量配分に応じたトルク配分となるように電磁クラッチ30が制御されたり、舵角δに応じて後輪38、40への伝達トルクを制限するように電磁クラッチ30が制御される。また、前記旋回走行時制御手段258による旋回走行時制御では、特に路面摩擦係数が小さい圧雪路或いは凍結路における旋回走行中の操縦安定性を高めるために、たとえばアンダーステアとオーバーステアとの中間の中立ステアとなるように決定された目標ヨーレートr°(重心を通る鉛直線まわりの旋回角速度)に実際のヨーレートrが追従するように、電磁クラッチ30が制御される。また、前記通常走行時制御手段260による通常走行時制御は、舵角δが所定の範囲内である直線走行時に行われるものであり、そこでは、基本的には重量配分に対応したトルク配分となるように電磁クラッチ30の入力側および出力側の回転速度差が発生すると伝達トルクが大きくなるようにされるが、直進走行などのような4輪駆動が不要なときには燃費を高めるために可及的に締結力を小さくするように、電磁クラッチ30が制御される。また、前記制動時制御手段254による制動時制御では、ABS制御やVSC制御との制御干渉を回避するために、ブレーキペダル102が操作されると、直接的に電磁クラッチ30が開放されるように、或いはABS制御が開始されるまでは電磁クラッチ30が締結されてエンジンブレーキ力を4輪に分配させるが、ABS制御が開始されると締結力が小さくされ、またVSC制御が開始されると解放されるように、電磁クラッチ30が制御される。
図6は、上記通常走行時制御手段260の機能をさらに詳しく説明する図である。入力トルク算出手段122は、エンジン10のプロペラシャフト28まわりの出力トルク(車両の駆動トルク)すなわち電磁クラッチ30の入力トルクtin(N・m)を、たとえば図8に示す予め記憶された関係から実際のエンジン回転速度NE (rpm)およびスロットル開度θth(%)或いは吸入空気量Qに基づいて逐次算出する。この入力トルク算出手段122は、好ましくは車両の直進、定速、平坦地走行が判定されている状態において、予め設定された時間幅を有して時間経過とともに移動させられる移動区間内に得られた複数個の入力トルクtinの平均値すなわち移動平均値tinavを入力トルクtinとして算出する。ここで、上記入力トルクtinは、前輪24、26側へ配分される前輪駆動トルクtf と電磁クラッチ30から後輪38、40側へ配分される後輪駆動トルクすなわち伝達トルクtr との和(tin=tf +tr )として定義される。上記後輪38、40側へ配分されるトルクtr は電磁クラッチ30の伝達トルクであり、定常状態では電磁クラッチ30に対する指令値tref に対応している。
回転速度差算出手段124は、電磁クラッチ30の入力軸58の回転速度Nf を前輪回転速度NFLおよびNFRの平均値と前部差動歯車装置14のギヤ比とに基づいて算出するとともに、電磁クラッチ30の出力軸62の回転速度Nr を後輪回転数度NRLおよびNRRの平均値と後部差動歯車装置32のギヤ比とに基づいて算出し、入力軸58の回転速度Nf から出力軸62の回転速度Nr を差し引くことにより、入力軸58と出力軸62との回転速度差ΔN(rpm)すなわち電磁クラッチ30の差動(スリップ)回転数ΔN(=Nf −Nr )を算出する。この回転速度差算出手段124も、好ましくは車両の直進、定速、平坦地走行が判定されている状態において、予め設定された時間幅を有して時間経過とともに移動させられる移動区間内に得られた複数個の差動回転数ΔNの平均値すなわち移動平均値として差動回転数ΔNavを算出する。
径差決定手段242は、たとえば、車両の直線走行が舵角δ或いは左右輪の回転速度差〔(NFL+NRL)/2〕−〔(NFR+NRR)/2〕が所定の判断基準値以下であることに基づいて判定され、車両の定速走行がたとえば車速の変化率ΔVが所定の判断基準値以下であることに基づいて判定され、車両の低スリップ率走行が、たとえば電磁クラッチ30の入力トルクtinが所定値以下であり且つ電磁クラッチ30の伝達トルクtr すなわち指令トルクtref が所定値以下であることに基づいて判定された場合には、たとえば数式1に示す予め記憶された算出式から、そのような直進走行、定速走行、低スリップ率走行時の電磁クラッチ30の入力軸58の回転速度Nf 、出力軸62の回転速度Nr 、電磁クラッチ30の実際の入力トルクtinおよび伝達(出力)トルクtr に基づいて、前輪と後輪との径差に関連する径差パラメータ、たとえば回転速度比すなわち径差補正係数kik を、算出する。上記の所定値は、たとえば図9に示すスリップ率〔(車体速度−車輪速度)/車体速度〕と前後力係数(路面摩擦係数μの函数である車輪の駆動力に対応する値)との間の関係において略線型となる領域A内であることを判定するために予め実験的に求められたものである。この数式1は、路面状態に拘らず径差を正確に求めるために車輪のスリップの影響を考慮した右辺第2項を加えたものであり、前後輪の2輪の力学モデルにおける回転運動方程式から理論的に導かれたものである。なお、それほどスリップが問題とならない場合には、上記径差決定手段242は、直線走行時における電磁クラッチ30の入出力回転速度比(=Nr /Nf )を径差補正係数kik として用いてもよい。
kik =(Nr /Nf )+Kkik ・(tin−2tr ) ・・・(1)
回転速度差補正手段132は、上記回転速度差算出手段124により算出された回転速度差ΔNから前輪および後輪の径差に起因する誤差を除去するために、たとえば数式2に示す補正式から上記径差決定手段242により求められた径差補正係数 kikに基づいてその回転速度差ΔNを補正し、補正後の回転速度差ΔN’をトルク配分クラッチ制御手段120内の通常走行時制御手段260へ供給する。
ΔN’=ΔN−(1−kik )Nf ・・・(2)
走行抵抗関連量算出手段276は、車両の走行抵抗に関連する走行抵抗関連量、たとえば平坦地定速直進走行に必要な駆動トルクすなわちマップ値Mtindf (V)を、たとえば図10に示す予め記憶された関係から車速Vに基づいて算出し、トルク配分クラッチ制御手段120内の通常走行時制御手段260へ供給する。
前記通常走行時制御手段260は、後述の数式3から、上記走行抵抗関連量算出手段276により算出された駆動トルクすなわちマップ値Mtindf (V)と入力トルク算出手段122により算出された入力トルクtinとに基づいて電磁クラッチ30の伝達トルクすなわちトルク指令値tref を算出して出力する。この数式3に示すように、電磁クラッチ30に対する差動制限トルク(伝達トルク)を指令するためのトルク指令値tref は、重量配分に対応した大きさとなるようにたとえば数式4から算出される基準トルク指令値tdfと、差動回転数に対応する大きさとなるようにたとえば数式5から算出されるトルク指令値tdnとの加算値である。上記基準トルク指令値tdfは前後輪の重量配分相当の前後輪のトルク配分を得るための値であり、上記トルク指令値tdnは前後輪の径差を補正を考慮して加速応答を改善するための値である。
上記基準トルク指令値tdfを求めるための数式4において、Mtindf (V)はたとえば図10に示す予め記憶された関係から車速Vに基づいて決定されるマップ値であり、LF は車体の重心から前輪軸心までの距離であり、Lはホイールベースであり、HCGは車体の重心の高さであり、GX は車両前後方向の加速度である。加速意思のある状態では電磁クラッチ30による差動制限を積極的に行う方がよいが、直進定速走行のような定常走行状態では差動制限の利益はなくむしろ差動制限により燃費や電磁クラッチ30の耐久性が低下するという不利益が生じることから、上記図10に示す関係は、車両の空気抵抗やころがり抵抗により定まる定常走行のための駆動トルク(エンジン10の出力トルク)を車速Vの函数として実線で示しており、実際のエンジン10の出力トルクすなわち電磁クラッチ30の入力トルクtinがその定常走行のための駆動トルクを下まわると、数式4から基準トルク指令値tdfが負となるが、その基準トルク指令値tdfは0以上の正の値をとるという条件(tdf≧0)から、そのような場合には基準トルク指令値tdfが零とされて電磁クラッチ30が解放されるようになっている。これにより、通常走行時制御手段260は、電磁クラッチ30の入力トルクtinが減少するほど電磁クラッチ30の伝達トルクを零に向かって減少させるように制御する。
また、上記伝達トルクすなわちトルク指令値tref を電磁クラッチ30の差動回転数ΔNに対応する大きさとなるようにするトルク指令値tdnを求めるための数式5において、マップ値MthnA(ΔN’)またはMthnA(ΔN)はたとえば図11に示す予め記憶された関係から径差補正係数kik による補正後の回転速度差ΔN’または補正前の回転速度差ΔNに基づいて決定されるマップ値であり、MthnB(ΔN)またはMthnB(ΔN’)はたとえば図12に示す予め記憶された関係から補正前の回転速度差ΔNまたは補正後の回転速度差ΔN’に基づいて決定されるマップ値である。車両において、車輪(タイヤ)の横力は、図13に示すように、スリップ率の絶対値の増加と共に減少する性質があるため、電磁クラッチ30の伝達トルクの増加に伴って後輪38、40のスリップ率が増加してその横力が減少し、直進安定性が損なわれる傾向がある。このため、車両駆動時において前輪24、26に比較して後輪38、40の回転速度Nr が高い状態すなわち回転速度差ΔNが負の状態では、電磁クラッチ30の差動制限トルクを零としてそれを解放し、径差に由来する横力の減少を防止することが望まれる。また、車両制動時において前輪24、26に比較して後輪38、40の回転速度Nr が低い状態すなわち回転速度差ΔNが正の状態でも、電磁クラッチ30の差動制限トルクを零としてそれを解放し、径差に由来する横力の減少を防止することが望まれる。このことから、径差に起因して前輪24、26に比較して後輪38、40の回転速度Nr が高い状態である(kik >1)場合は、(5-2) 式が用いられ、径差に起因して前輪24、26に比較して後輪38、40の回転速度Nr が低い状態である(kik ≦1)場合は、(5-1) 式が用いられることにより、直進安定性を高めるために、2種類の回転速度差ΔNおよびΔN’とマップ値MthnAおよびMthnBの使い分けが行われ、ΔNが零となる点からΔN’が零となる点の間の区間すなわち径差に起因して路面から回される区間にはトルク値tdnが零とされるようになっている。したがって、通常走行時制御手段260は、回転速度差ΔNが零となる点からその回転速度差ΔNの増加に伴って増加し、補正後のΔN’が零となる点からその補正後のΔN’の減少に伴って増加するようにトルク値tdnを決定するのである。
すなわち、たとえば前輪24、26の平均径が後輪38、40の平均径よりも大きい場合には、加速走行時において補正前の回転速度差ΔNの増加に応じて大きくなるように電磁クラッチ30の差動制限トルクを決定するとともに減速走行において補正後の回転速度差ΔN’の増加に応じて大きくなるように電磁クラッチ30の差動制限トルクを決定し、前輪24、26の平均径が後輪38、40の平均径よりも小さい場合には、加速走行時において補正後の回転速度差ΔN’の増加に応じて大きくなるように電磁クラッチ30の差動制限トルクを決定するとともに減速走行において補正前の回転速度差ΔNの増加に応じて大きくなるように電磁クラッチ30の差動制限トルクを決定するものである。これにより、車両のトラクションを高めることに関し、前後輪の径差に関連する誤差によりトルク配分クラッチが逆方向に作用することが解消される。
tref =tdf+tdn ・・・(3)
tdf=(1/2)〔tin−Mtindf (V)〕・
〔(LF /L)+(HCG/L・GX )〕 ・・・(4)
但し、tdf≧0
径差補正係数kik ≦1.0のときは
tdn=MthnA(ΔN’)+MthnB(ΔN) ・・・(5-1)
径差補正係数kik >1.0のときは
tdn=MthnA(ΔN)+MthnB(ΔN’) ・・・(5-2)
本実施例のように、電磁クラッチ30は前輪と後輪の差動制限を行っているのみであることから、回転数の速い方の車輪から遅い方の車輪へトルクが伝達されるので、前輪24、26と後輪38、40とでは駆動トルクの方向が逆転する場合が発生する。たとえば、前輪24、26のタイヤ径が後輪38、40のタイヤ径よりも大きい車両の定常走行または緩加速走行には、後輪38、40に制動トルクが発生する場合があり、これが前輪24、26と後輪38、40のスリップ率を増加させてその横力を低下させるので、車両の直進安定性が損なわれる。これを、前後輪2輪モデルで考えると、数式6に示すようになる。ここで、Ir は電磁クラッチ30の出力側回転体の慣性モーメントを出力軸62まわりに換算したものであり、If は電磁クラッチ30の入力側回転体の慣性モーメントをドライブピニオン44(入力軸58)まわりに換算したものである。また、ωf およびωr は、入力軸58および出力軸62の回転角速度、μ(sf)およびμ(sr)は前輪24、26および後輪38、40の前後力係数、Wf およびWr は前輪24、26および後輪38、40の接地荷重、sfおよびsrは前輪24、26および後輪38、40のスリップ率〔=(Rf ωf −V)/Rf ωf 、および=(Rr ωr −V)/Rr ωr 〕、Rf およびRr は前輪24、26および後輪38、40の動荷重半径である。
If ・ dωf /dt =tin+tr −μ(sf)・Wf ・Rf ・・・(6-1)
Ir ・ dωr /dt =−tr −μ(sr)・Wr ・Rr ・・・(6-2)
上記数式6において、定常走行では dωf /dt =0、 dωr /dt =0と見做すことができるので、数式7となる。また、図9に示すように、前輪24、26或いは後輪38、40の前後力係数(車輪に発生する駆動力に対応する係数)は、車輪スリップ率が比較的小さい範囲A内ではその車輪スリップ率に対して線型であるから、数式8に示すように、前輪24、26のスリップ率sfおよび後輪38、40のスリップ率srに比例する一方、前輪24、26の動荷重半径Rf と後輪38、40の動荷重半径Rr は互いに同じ値Rであるので、上記数式7は数式9に示すように書き替えられる。
tin−tr −μ(sf)・Wf ・Rf =0 ・・・(7-1)
tr −μ(sr)・Wr ・Rr =0 ・・・(7-2)
μ(sf)=K・sf ・・・(8-1)
μ(sr)=K・sr ・・・(8-2)
tin−tr =K・sf・Wf ・Rf ・・・(9-1)
tr =−K・sr・Wr ・Rr ・・・(9-2)
本実施例のように、前輪駆動と4輪駆動との間でトルク配分が制御される場合には、上述の(9-1) 式および(9-2) 式9は、sf=(tin−tr )/(K・Wf ・Rf )、およびsr=(−tr )/(K・Wr ・Rr )となる。このため、入力トルクtinが正であるときには、電磁クラッチ30の伝達トルクtr が増加するほど、前輪スリップ率の絶対値|sf|および後輪スリップ率の絶対値|sr|がそれぞれ増加して、図13に示すように車輪の横力が小さくなって直進安定性が損なわれる。したがって、径差により、後輪38、40が前輪24、26に比較して速く回転する場合には駆動(加速)時の後輪38、40のスリップ率を低くして直進安定性を高めるために電磁クラッチ30による差動制限クラッチを零とし、逆の径差により前輪24、26が後輪38、40に比較して速く回転する場合にも制動時における後輪38、40のスリップ率を低くして直進安定性を高めるために電磁クラッチ30による差動制限クラッチを零とすることが望まれるのである。したがって、径差に応じて図11および図12の関係の使い分けが行われるのである。
図6に示すように、通常走行時制御手段260には、前記数式4から入力トルクtinと図10に示す予め記憶された関係から車速Vに基づいて求められたマップ値(走行抵抗関連量)Mtindf (V)とに基づいて基準トルク指令値tdfを求める基準トルク算出手段278と、前記数式5から回転速度差ΔNおよび補正後の回転速度差ΔN’に基づいて回転速度差に対応する大きさのトルク指令値tdnを求める回転速度差対応トルク指令値算出手段280と、それら基準トルク算出手段278により求められた基準トルク指令値tdfと回転速度差対応トルク指令値算出手段280により求められたトルク指令値tdnとからトルク指令値tref を算出して電磁クラッチ30へ出力するトルク指令値算出手段282とが含まれる。
上記トルク指令値算出手段282から出力されたトルク指令値tref は、トルク指令値処理手段284を介して電磁クラッチ30へ供給される。このトルク指令値処理手段284には、ブレーキセンサ104などの何らかの故障によってたとえ制動時制御手段254の制動時制御が開始されなくてもABS制御の実行による不都合を回避するためにトルク指令値tref を制限するトルク指令値制限手段286と、逐次出力されるトルク指令値tref を良く知られたローパス処理或いは移動平均処理やなまし処理などを用いて平滑化する平滑化処理手段288とが含まれる。上記トルク指令値制限手段286では、トルク指令値tref が予め設定された最大値Tmax と最小値Tpre (≒0)との間に制限される。通常、ABS制御が行われるのはブレーキを操作しているときであることから、アクセルペダル操作量が略零であって入力トルクtinは極めて小さい値であるので、上記最大値Tmax は、比較的小さく且つ入力トルクtin以下となる値に設定される。また、通常の加速時においても必要なトルクはtin以上の大きさにはならないので、このような制限を設けても他の制御における支障はない。
図14乃至図16は、前記電子制御装置110の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、図14は制御モード判定ルーチン、図15は通常走行時のトルク配分制御ルーチン、図16は、図15の差動回転数に由来するトルク指令値tdn算出ルーチンを示している。
図14は前記トルク配分クラッチ制御手段120の一部に対応するものである。図において、図示しないステップにおいて車速V、舵角δ、ブレーキセンサ104の出力信号などが読み込まれた後、ステップ(以下、ステップを省略する)S1では、ブレーキペダル102が操作されたか否かがブレーキセンサ104からの信号に基づいて判断される。このS1の判断が肯定された場合は、前記制動時制御手段254に対応するS2において制動時制御が選択され且つ実行された後、本ルーチンが終了させられる。しかし、上記S1の判断が否定された場合は、S3において、車速Vが予め設定された判断基準車速VS 以下か否かが判断される。この判断基準車速VS は図7に示す予め記憶された領域1)すなわち発進走行時制御領域を判定するための値である。このS3の判断が否定された場合は、S4において、舵角δの絶対値が予め設定された判断基準角度Mdelta (V)以上であるか否かが判断される。この判断基準角度Mdelta (V)は図7に示す予め記憶された領域3)すなわち旋回走行時制御領域を判定するための函数値であって、たとえば車速VがVS であるときには40〜50°の範囲内、好適には45°程度となり、車速Vが55〜65Km/hの範囲内、好適には60Km/hとなると、15〜25°の範囲内、好適には20°となるように、直線的に減少するが、その車速Vが60Km/hを越えると、その値に保存される。このS4の判断が否定された場合は、前記旋回状態検出手段270および旋回走行時制御指令手段272に対応するS5において、ヨーレート偏差e〔=(r°−r)sign(r)〕およびその変化率 de/dt が旋回状態として検出されるとともに、その旋回状態が予め設定された規定内であるか否か、たとえば、ヨーレート偏差e〔=(r°−r)sign(r)〕が予め設定された判断基準値KMAPE以上であり且つヨーレート偏差eの変化速度 de/dt が予め設定された判断基準値KMAPB以上であるか否かが判断される。
上記判断基準値KMAPEおよびKMAPBは、旋回操作初期において比較的大きなアンダーステアが発生したことを判定するために設定された値である。また、上記目標ヨーレートr°は、前記旋回走行時制御手段258において実際のヨーレートrの追従目標とするためにたとえば数式10から実際の目標スタビリティファクタKh 、車速V、舵角δ、ステアリングホイール93と前輪24、26との間のギヤ比Rst、ホイールベースLに基づいて算出されたものである。この目標スタビリティファクタKh は、理想的なステアリングを示すように予め実験的に求められた、前後加速度GX および合成加速度GXY〔=√(GX 2 +GY 2 〕の函数〔Kh =f(GX ,GXY)〕であって、それが正(Kh >0)であるときにアンダーステア特性を示し、それが零(Kh =0)であるときにニュートラルステア特性を示し、それが負(Kh <0)であるときにオーバステア特性を示すものである。
r°=V・δ/(Kh ・V2 +1)Rst・L ・・・(10)
上記S4およびS5の判断のいずれかが肯定された場合には、前記旋回走行時制御手段258に対応するS6において、旋回走行時制御が実行される。しかし、上記S4およびS5の判断が共に否定された場合には、前記トルク配分制御選択遅延手段266に対応するS7において、旋回走行時制御からの所定回数ND の判定であるか否か、換言すれば、旋回走行時制御の実行中に通常走行時制御が判定されてから所定回数ND 分の遅延時間が経過したか否かが判断される。このS7の判断が否定された場合はS6の旋回走行時制御が継続されるが、肯定された場合は、前記通常走行時制御手段260に対応するS8において通常走行時制御が実行される。
前記S3の判断が肯定された場合は、前記トルク配分制御選択遅延手段266に対応するS9において、旋回走行時制御からの所定回数NS の判定であるか否か、換言すれば、旋回走行時制御の実行中に発進時制御が判定されてから所定回数NS 分の制御サイクルの実行時間に相当する遅延時間が経過したか否かが判断される。このS9の判断が否定された場合はS6の旋回走行時制御が継続されるが、肯定された場合は、前記発進時制御手段256に対応するS10において発進時制御が実行される。すなわち、旋回走行時制御から他の制御への切り換えに際しては、その他の制御が判定されてから所定の遅延時間が経過してから実際に切り換えられることにより、左右の旋回走行が連続的に繰り返されるワインディング路などにおいて、短時間内に頻繁に旋回走行時制御と通常走行時制御或いは発進時制御とが繰り返されることが好適に抑制されるようになっている。
図15の通常走行時制御ルーチンにおいて、前記基準トルク算出手段278に対応するSQ1では、前記数式4から実際の入力トルクtin、および車速の函数であるマップ値Mtindf (V)に基づいて、荷重移動による前後輪の重量配分相当の前後輪のトルク配分を得るための基準トルク指令値tdfが算出される。次いで、前記回転速度差対応トルク指令値算出手段280に対応するSQ2では、図16に示すトルク指令値tdnの算出ルーチンが実行され、前記数式5から実際の径差補正係数kik 、回転速度差ΔNの函数であるマップ値MthnA(ΔN)またはMthnB(ΔN)、補正後の回転速度差ΔN’の函数であるマップ値MthnA(ΔN’)またはMthnB(ΔN’)に基づいて、差動回転数ΔNに対応する大きさの差動制限力を得るためのトルク指令値tdnが算出される。
図16において、SR1では、車両の前輪24、26の平均径である前輪径が後輪38、40の平均径である後輪径よりも大きいか否かが、たとえば前記径差補正係数kik が「1」より大(kik >1)であるか否かに基づいて判断される。このSR1の判断が肯定された場合は、SR2において、前式(5-2) から実際の回転速度差ΔNおよび補正後の回転速度差ΔN’に基づいて、回転速度差に対応するトルク指令値tdnが算出される。反対に、上記SR1の判断が否定された場合は、kik ≦1である状態であるから、SR3において、前式(5-1) から実際の回転速度差ΔNおよび補正後の回転速度差ΔN’に基づいて、回転速度差に対応するトルク指令値tdnが算出される。
図15に戻って、前記トルク指令値算出手段282に対応するSQ3では、通常走行時のトルク配分制御時のトルク指令値tref が、数式3から上記基準トルク指令値tdfとトルク指令値tdnに基づいて算出される。次いで、前記トルク指令値制限手段286に対応するSQ4では、上記算出されたトルク指令値tref が予め設定された上限値Tmax 以上の大きさである場合(tref ≧Tmax )には、その上限値Tmax に制限(tref =Tmax )され、トルク指令値tref が予め設定された下限値TPRE 以下の大きさである場合(tref ≦TPRE )には、その下限値TPRE に制限(tref =TPRE )されることにより、変化範囲が制限される。また、上記トルク指令値tref が入力トルク|tref |に所定の増加量Tdup を加えた値(|tref |+Tdup )を越えるときにはその値に制限されることにより、その変化率が制限される。これにより、ABS制御作動時に何らかの故障によって差動制限トルクを零にできない場合でも、ABS制御性能の低下、および差動制限装置の発熱などが好適に防止されるようになっている。通常、ABS制御が作動するのはブレーキを操作しているときであってアクセルペダルを踏み込んではいないことから、入力トルクtinは略零となるので、上記上限値Tmax は極めて小さい値に設定される。また、通常の加速時などにおいても必要なトルクは入力トルクtin以上とはならないので、すべての場合に上記制限を設けておいても差し支えない。
次いで、前記平滑化処理手段288に対応するSQ5では、制御モードの切り換えなどによって上記トルク指令値tref の急変を避けるために、そのトルク指令値tref に対してローパスフィルタ処理、移動平均処理などの平滑化処理或いはなまし処理が実行される。特に、発進時制御から通常走行時制御が選択された場合にトルク指令値tref が急減して駆動系の振動の発生が予想されるが、このSQ5のなまし処理によってトルク指令値tref が緩やかに変化させられて振動の発生が抑制されるようになっている。そして、SQ6では、なまし処理されたトルク指令値tref がトルク配分制御のために出力される。
図17は、前記旋回走行時制御手段258に対応する旋回走行時トルク配分制御ルーチンであって、目標ヨーレートr°に実際のヨーレートrを追従させるようにトルク配分を行う制御を示している。このSH4において、前後加速度GX の増加に伴って減少し、且つ合成加速度GXYの増加に伴って増加するように目標ヨーレートr°が決定されることから、路面摩擦係数μを必ずしも直接検出することなく、比較的容易に検出可能な水平方向加速度を用いて目標ヨーレートr°を決定でき、自然な車両の旋回挙動が実現される。
図17のSH1では、エンジントルク(入力トルク)tin、電磁クラッチ30の入出力回転速度差すなわち差動回転速度ΔN(プロペラシャフト28の回転速度−ドライブピニオン44の回転速度)、舵角δ、補正後の前後加速度GX および横加速度GY 、それらの合成加速度GXY、ヨーレートr、前輪横すべり角βf 、後輪横すべり角βr 、路面摩擦係数μが読み込まれ、或いは算出される。次いで、目標スタビリティファクタ算出手段に対応するSH2では、予め記憶された関係から前後加速度GX および横加速度GY に基づいて目標スタビリティファクタKh が決定される。また、これに続いて、目標スタビリティファクタなまし処理手段に対応するSH3では、上記SH2において逐次求められた目標スタビリティファクタKh を緩やかに変化させるためのなまし処理としてローパスフィルタ処理が実行される。これにより、目標スタビリティファクタKh の変動がトルク応答性よりも激しい場合にも制御が追いつかず不安定な挙動となることが好適に防止されている。なお、上記ローパスフィルタ処理の時定数は、0.2乃至0.3秒程度の値であって、入力信号からノイズ除去するためのローパスフィルタ処理の時定数に比較して桁違いに大きい値とされている。
目標ヨーレート決定手段に対応するSH4では、予め記憶された数式10から実際の目標スタビリティファクタKh 、車速V、舵角δ、ステアリングホイール93と前輪24、26との間のギヤ比Rst、ホイールベースLに基づいて目標ヨーレートr°が算出される。続いてヨーレート偏差算出手段に対応するSH5では、目標ヨーレートr°と実際のヨーレート(車体の重心を通る鉛直線まわりの回転角速度)rとの偏差e〔=(r°−r)sign(r)〕が算出される。次いで、制御ゲイン決定手段に対応するSH6では、予め記憶された旋回走行時トルク配分制御の制御式の各制御ゲインGO 、Gtin 、GP 、GI 、GD 、GS が決定される。これら制御ゲインGO 、Gtin 、GP 、GI 、GD 、GS は、一定値でもよいので、このような場合には予め記憶された値が読み出されるが、より好ましくは所定の定義式から算出される。そして、SH7では、目標ヨーレートr°に実際のヨーレートrを追従させるためすなわちヨーレート偏差eを解消するための旋回走行時トルク配分制御式から、上記偏差eおよびゲインGO 、Gtin 、GP 、GI 、GD 、GS に基づいて、電磁クラッチ30に対する制御値すなわち電磁クラッチ30に対して伝達トルクを指令する指令値tref が逐次算出される。
次いで、制御量補正手段に対応するSH8では、ステアリングホイール93の切り込み操作時である条件(sign(r)=sign(δ)=sign( dδ/dt ))を満足する場合、ステアリングホイール93の戻し操作時である条件〔sign(r)≠sign( dδ/dt )〕を満足するときには、入力トルクtinおよび舵角δに基づいて補正量ts が決定され、SH7において算出された制御量すなわちトルク指令値tref にその補正量ts を加算することによりその指令値tref (=tref +ts )が補正される。続いて、制限値決定手段および制御量制限手段に対応するSH9では、指令値tref の範囲を制限して過剰なトルク伝達や過剰なスリップを回避するための最大トルクtmax および最小トルクtmin が、予め記憶された関係から入力トルクtinおよび電磁クラッチ30の差動回転速度ΔNに基づいて算出され、SH7で求められた指令値tref がその最大トルクtmax および最小トルクtmin に制限される。そして、電流値変換手段に対応するSH11において、たとえば図3に示す予め記憶された関係から、指令値tref が電磁クラッチ30の駆動電流を示す信号に変換された後、SH12においてその信号が駆動回路118へ出力される。
上述のように、本実施例によれば、トルク配分クラッチ制御手段120(SQ1、SQ3)により、走行抵抗関連量算出手段276により算出された走行抵抗関連量であるマップ値Mtindf (V)に基づいて電磁クラッチ30の伝達トルクtr (=tref ) が制御されるので、車両の燃費やトルク配分クラッチの耐久性が高められる。すなわち、トルク配分クラッチ制御手段120は、電磁クラッチ30の入力トルクtinが減少するほどその電磁クラッチ30の伝達トルクtr (=tref )を零に向かって減少させるものであるため、入力トルクtinがマップ値Mtindf (V)より大きい場合には電磁クラッチ30を介して大きなトルクが分配されて加速性能が高められる一方で、入力トルクtinがマップ値Mtindf (V)より小さい場合には電磁クラッチ30における係合負荷が抑制されて車両の燃費やトルク配分クラッチの耐久性が一層高められるのである。
また、本実施例によれば、トルク配分クラッチ制御手段120(SQ2、SQ3)により、回転速度差算出手段124により算出された実際の回転速度差ΔNと回転速度差補正手段132により補正された補正後の回転速度差ΔN’とに基づいて電磁クラッチ30の伝達トルクtr (=tref )が制御されるため、電磁クラッチ30の入力側回転体および出力側回転体の実際の回転速度差ΔNと回転速度差補正手段132により補正された補正後の回転速度差ΔN’との差に起因する、回転速度差に対応した伝達トルク制御のずれが好適に解消され、トルク配分制御精度が一層高められる。
また、本実施例によれば、トルク指令値制限手段286(SQ4)により、電磁クラッチ30の伝達トルクtr を制御するためのトルク指令値tref の最大値が予め設定されたTmax や入力トルクtin以上とならないように制限されるので、たとえ、制動操作の検出がスイッチや回路の故障などの何らかの原因によって正常に行われないことに関連して制動時のトルク配分制御が実行されなくても、制動時においてABS制御に関連してトルク配分クラッチの伝達トルクが過大になることがなく、ABS性能の低下やトルク配分クラッチの発熱が回避される。
また、本実施例によれば、トルク配分制御選択遅延手段266(S7、S9)により、トルク配分制御決定手段264(S3、S4、S5)により旋回走行時制御からその他のトルク配分制御への決定が行われたときには、その決定から所定時間経過したことに基づいてその他のトルク配分制御が選択されることから、たとえば左右の旋回走行が繰り返し行われるワインディング或いはスラローム走行において、旋回走行時のトルク配分制御を実行する旋回走行制御と直進走行時のトルク配分制御を実行する通常走行時制御或いは発進時制御とが短時間内に繰り返し選択される状態、すなわち制御モードの頻繁な切り換えが好適に解消される。
また、本実施例によれば、旋回走行時制御選択手段272(S5)により、旋回状態検出手段270(S5)により検出された車両の実際の旋回状態たとえばヨーレート偏差eやその変化率 de/dt が予め設定された判断基準値KMAPEおよびKMAPBを越える場合には、車両旋回操作量すなわち舵角δに基づく旋回走行時制御が決定されていない場合でもその旋回走行時制御へ切り換えられる指令が出力され、トルク配分制御選択手段252(S6)により優先的に旋回走行時制御が選択されるので、その旋回走行時制御の速やかな開始によって旋回操作開始時の車両の旋回応答性が高められる。
また、本実施例によれば、トルク配分制御選択手段252(S4、S5、S7)により、領域記憶手段262に記憶された複数種類の領域のいずれに、車速検出装置(車速算出手段178)および舵角検出装置(舵角センサ94)により検出された車速Vおよび舵角δにより示される車両が属するかに基づいて、上記複数種類のトルク配分制御から1つのトルク配分制御が自動的に選択されるので、車両の種々の走行状態に適合したトルク配分制御が自動的に得られる。
図18は、前記電子制御装置110の他の制御作動を説明するフローチャートであって、2輪・4輪駆動切替制御ルーチンを示している。図において、ST1では、トルク配分制御が行われる4輪駆動制御状態が選択されたか否かが4輪駆動選択スイッチ80からの信号に基づいて判断される。このST1の判断が否定された場合は、ST2において4輪駆動制御作動状態を示す作動表示灯112が消灯される。しかし、ST1の判断が肯定された場合は、ST3において、電磁クラッチ30の入出力差動回転数である回転速度差ΔNが予め設定された判断基準値ΔNsw以下であるか否かが判断される。また、ST3の判断が肯定された場合は、ST4において、スロットル開度θthが予め設定された判断基準値θsw以下であるか否かが判断される。上記判断基準値ΔNswおよびθswは、2(前)輪駆動状態から4輪駆動制御状態へ切り換えられたときに電磁クラッチ30の摩擦板42、46を損傷から保護することを必要とするほどの回転速度差ΔNおよび入力トルクtinに対応する値であって、予め実験的に求められたものである。
上記ST3およびST4のいずれかの判断が否定された場合には、直ちに4輪駆動制御状態にすると電磁クラッチ30の摩擦板42、46を損傷させる可能性があるので、そのような損傷を防止するために、ST5において2(前)輪駆動状態が維持されるとともに、ST6において、作動表示灯112が点滅表示されることにより運転者に対して4輪駆動選択スイッチ80が操作されたにも係わらず未だ2(前)輪駆動状態であることを示す。しかし、上記ST3およびST4の判断が共に肯定された場合は、直ちに4輪駆動制御状態にしても電磁クラッチ30の摩擦板42、46を損傷させるおそれがないので、ST7において2(前)輪駆動状態から4輪駆動制御状態とされるとともに、ST8において、作動表示灯112が連続点灯されることにより運転者に対して4輪駆動制御状態であることを示す。
図19は、前記電子制御装置110の他の制御作動を説明するフローチャートであって、前記発進時制御手段256に対応する発進時トルク分配制御ルーチンを示している。SU1では、シフトポジションがリバースレンジでない場合には前後Gセンサ90により検出された前後加速度GX0から誤差範囲を除くための値HCX0 を差し引くことにより、登坂路面勾配に対応する車両停止時の前後加速度GX1が決定され、シフトポジションがリバースレンジである場合には逆向き登坂であるので、前後Gセンサ90により検出された前後加速度−GX0から誤差範囲を除くための値HCX0 を差し引くことにより、登坂路面路面勾配に対応する車両停止時の前後加速度GX1が決定される。続くSU2では、数式11から上記前後加速度GX1に基づいて、斜度に応じて加算するためのプレトルクtst0 が算出される。数式11において、MV は車両重量、LF は車両の重心から前輪軸心までの距離、Lは車両のホイールベース、RW はタイヤ径、IDRは後部差動歯車装置32のギヤ比、GZ は重力加速度である。
tst0 =MV ・GX1・(LF /L)・(RW /IDR)・GZ ・・・(11)
SU3では、予め記憶されたマップから径差補正後の回転速度差ΔN’および舵角の絶対値|δ|に基づいて、差動回転によって発生するトルクに対応する差動回転数フィードバック係数ksn〔=Mksn (ΔN’、|δ|)〕が算出される。上記マップは、主として回転速度差ΔNに対応する大きさの伝達トルクとするためのものであるが、タイトコーナの影響を避けるために舵角|δ|が加味されている。続くSU4では、数式12から上記差動回転数フィードバック係数ksn、入力トルクtinに基づいて、重量配分に対応したトルク配分を得るための発進時基準トルクtstが算出される。数式12において、HCGは車両の重心高さである。数式12の右辺の括弧内は、重量配分相当のトルク配分を行うための係数値であって、1を越えない値である。
tst=ksn・tin・(LF /L+HCG/L・GX ) ・・・(12)
SU5では、発進時の制御トルクであるトルク指令値tref (=tst+tst0 )が算出される。そして、シフト位置がパーキングレンジ或いはニュートラルレンジであるときにはトルク指令値tref が零とされるとともに、予め設定された最小値TPRE と最大値TMAX との間に制限され、且つ入力トルクtinを越えないように制限される。続くSU6では、上記トルク指令値tref の変化が制限されることにより平滑化される。これにより、発進時において、前後輪の重量配分に対応するトルク配分を基本として、回転速度差ΔNの増加に応じた伝達トルクtr が得られるので、車両のトラクション性能が確保され且つ電磁クラッチ30に対して無駄な電流を付与することが防止される。
次いで、SU7では、図20に示すN→Dシフト異常判定ルーチンが実行されることにより、上記トルク指令値tref が重量配分相当(直結相当)のトルク値以上であるか否かが判断される。図20のSV1では、N→Dシフトが行われたか否かが判断される。このSV1の判断が肯定された場合は、SV2において、エンジン回転速度NE が予め設定された判断基準値NEJO 以上であるか否かが判断される。この判断基準値NEJO は、自動変速機12のトルクコンバータの損傷が発生するおそれがあるほどの高い回転数であるか否かが判断される。このSV1およびSV2の判断のいずれかが否定された場合はSV3においてN→Dシフトが正常であるとされるが、SV1およびSV2の判断が共に肯定された場合は、N→Dシフトが行われたときのエンジン回転速度NE がトルクコンバータの損傷が発生するおそれがあるほどの異常に高いエンジン回転速度である状態であるので、N→Dシフト異常であると判定される。
このSU7の判断が否定される場合はSU9が直接実行されるが、肯定される場合はSU8においてトルク指令値tref が重量配分相当のトルクに制限された後、SU9が実行される。また、SU9において、シフトレバーのN→D操作時のエンジン回転速度NE が所定値よりも高いN→Dシフト異常であるか否かが判断される。このSU9の判断が否定される場合はSU11が直接実行されてトルク指令値tref が出力されるが、肯定される場合はSU10においてトルク指令値tref が零に設定された後、SU11が実行される。これにより、N→Dシフト異常であると判定された場合には、トルク指令値tref が零に設定されて電磁クラッチ30が解放されるので、前輪24、26のスリップにより衝撃が緩和され、N→Dシフトによる急激な回転上昇による自動変速機12のトルクコンバータの損傷が防止され且つ保護される。
図21は、前記電子制御装置110の他の制御作動を説明するフローチャートであって、トルク配分制御に関連するセンサの故障に拘らずトルク配分制御が継続されるようにするためのセンサフェイル処理ルーチンである。上記トルク配分制御に関連するセンサとは、たとえば前後Gセンサ90、左右Gセンサ92、舵角センサ94、スロットルセンサ96、エンジン回転速度センサ98などであり、このルーチンでは3つのセンサA、センサB、センサCとして一般的に示されている。図のSW1ではセンサAが異常であるか否かが判断される。このSW1の判断が否定される場合はSW3においてセンサBが異常であるか否かが判断される。このSW3の判断が否定される場合はSW5においてセンサCが異常であるか否かが判断される。このSW5の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。しかし、上記SW1、SW3、またはSW5の判断が肯定される場合は、SW2、SW4、またはSW6において、センサA、センサB、またはセンサCのデフォルト値すなわち4輪駆動状態で車両が走行するに必要な差し支えない暫定値が設定される。たとえば、舵角センサ94が異常である場合には、舵角δが零に設定される。これにより、たとえば凍結路或いは雪路においてセンサがフェイルしても、性能は低下するが4輪駆動状態が継続されてトラクション性能が確保される。因みに、従来の4輪駆動制御装置では、センサのフェイルにより2輪駆動状態とされるので、凍結路或いは雪路において走行困難となる恐れがあったのである。
図22は、前記電子制御装置110の他の制御作動を説明するフローチャートであって、トルク配分クラッチ故障判定ルーチンを示している。図において、SX1では、電磁クラッチ30の入出力側の回転速度差ΔN(=Nf −Nr )が前述の回転速度差算出手段124と同様にして算出される。続くSX2では、前述の回転速度差補正手段132と同様にして回転速度差ΔNの径差補正が行われ、補正後の回転速度差ΔN’が算出される。次いで、SX3では、数式13からプロペラシャフト28(入力軸58)回りの前輪回転速度Nf 、出力軸62回りの後輪回転速度Nr 、舵角δ、ステアリングギヤ比ISTR に基づいて、理想状態すなわち車輪スリップのない状態の回転速度差(差動回転数)ΔNg が算出される。この数式13は車輪が路面と共回りをする理想状態での旋回走行時の回転速度差ΔNg を表しており、電磁クラッチ30の摩擦板の固着などの故障がなければΔN=ΔNg となる。
ΔNg =Nf ・(1− cos(δ/ISTR )) ・・・(13)
続くSX4では、実際の回転速度差ΔNが上記理想状態の回転速度差ΔNg 以下であるか否かが判断される。このSX4の判断が否定される場合は電磁クラッチ30の固着異常ではないので本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は、摩擦板の固着、カム機構の異常などの機械的原因や、電流センサやソレノイドの異常のような電気的原因によってたとえば図23の実線に示すような固着異常であると考えられるので、SX5において、電磁クラッチ30の固着異常を示す故障信号が出力されるとともに、異常表示灯114が点灯させられる。
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
たとえば、前述の走行抵抗関連量算出手段276は、図10に示す関係から車速Vに基づいて、平坦地定速直進走行時の駆動トルクを算出するものであったが、平坦地定速直進走行時のスロットル開度θth、燃料噴射量、エンジン10の吸入吸気量などの他の量であってもよい。要するに、走行抵抗に関連する量であればよいのである。
また、前述の実施例において、トルク配分クラッチ制御手段120は、入力トルクtinが上記平坦地定速直進走行時の駆動トルクを下まわるとトルク指令値tref を零とするものであったが、必ずしも零でなくてもよい。要するに、入力トルクtinの減少に応じてトルク指令値tref を減少させるものであれば、一応の効果が得られるのである。
また、前述の実施例において、トルク配分制御選択遅延手段266は、旋回走行時制御状態においてその他の制御が決定されてから所定のND 回或いはNS 回だけその決定が連続して行われるまで遅延させていたが、タイマにより遅延させられるものであっても差し支えない。また、その判断基準となる所定回数ND 或いはNS は車速Vなどの函数であってもよい。
また、前述の実施例において、旋回走行時制御指令手段272は、ヨーレート偏差eが所定の判断基準値KMAPE以上となり且つヨーレート偏差変化率 de/dt が所定の判断基準値KMAPB以上となったときという2条件が成立したときに、舵角δに基づく判断が未だ旋回走行時制御を決定していなくても、優先的にその旋回走行時制御を指令するものであったが、上記2条件は信頼性を高めるためのものであるから、それらのうちのいずれか一方だけが用いられても差し支えない。
また、前述の実施例の旋回状態検出手段270は、実際の車両の旋回状態を示す値としてヨーレート偏差eやヨーレート偏差変化率 de/dt を検出していたが、ヨーレート変化率 dr/dt などが検出されてもよい。要するに、車両のステア状態が検出されればよいのである。
また、前述の実施例では、エンジン10の出力トルクすなわち電磁クラッチ30の入力トルクtinを算出する際などに用いられるスロットル開度θthに替えて、アクセルペダル操作量、エンジン10の燃料噴射量や吸入空気量などの要求出力量が用いられても差し支えない。
また、前述の実施例の電磁クラッチ30は、プロペラシャフト28と後部差動歯車装置32との間に設けられるものであったが、所謂センターデフの差動を制限するためにそれに並列に設けられた差動制限クラッチ、トランスファと前部差動歯車装置との間に設けられたクラッチ、プロペラシャフト28とそれに連結された差動歯車装置の出力側の1対の車軸との3軸のうちの何れかの2軸間に設けられたクラッチなどであってもよい。要するに、原動機から複数の車輪へそれぞれ伝達されるトルクの割合を調節する電磁式、油圧式などのトルク配分クラッチであればよいのである。
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。