JP2004128140A - レーザ光発生装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】レーザ光発生装置において、安定性や信頼性を高めるとともに、そのために構成の複雑化や調整の煩雑化を伴わないようにする。
【解決手段】連続波の励起光を発生させる励起光源と、励起位置での発熱による熱レンズ効果を利用した共振器を備えたレーザ光発生装置1は、その構成素子として、レーザ媒質3、中間媒質4、反射手段5を備える。励起光の光軸に対して直交する方向における励起位置を調整することで、共振器内の構成素子の平行度に係る角度誤差を補正するために、構成素子(レーザ媒質や可飽和吸収体)と中間媒質(空気層)との界面を曲面として形成した。
【選択図】 図1
【解決手段】連続波の励起光を発生させる励起光源と、励起位置での発熱による熱レンズ効果を利用した共振器を備えたレーザ光発生装置1は、その構成素子として、レーザ媒質3、中間媒質4、反射手段5を備える。励起光の光軸に対して直交する方向における励起位置を調整することで、共振器内の構成素子の平行度に係る角度誤差を補正するために、構成素子(レーザ媒質や可飽和吸収体)と中間媒質(空気層)との界面を曲面として形成した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザ媒質や反射手段等を含むレーザ共振器と、励起光源を備えたレーザ光発生装置において、共振器構成素子間の平行度について許容範囲を広げるための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
マイクロチップレーザ(レーザ媒質長1mm以下の固体レーザ)は、その共振器を構成する2枚のミラーの間隔を、薄厚のレーザ媒質(利得媒質)の厚み程度まで短くしたところに特徴を有しており、共振器長から決まるFSR(Free Spectrum Range)がレーザ媒質のゲイン幅以上に広がるため、特に波長選択を行わずとも単一周波数の発振が可能である。
【0003】
このようなマイクロチップレーザに対して、クロムをドープしたYAG(Cr:YAG)やSESAM(SEmiconductor Saturable Absorber Mirror)、SBR(Saturable Bragg Reflector)等の可飽和吸収体(Saturable absorber)を組み合わせることで、非常に短いパルスの、連続波励起の受動Qスイッチ又はモードロックパルス光源を実現することができる。
【0004】
マイクロチップレーザの共振器については、2枚の平行平板を用いて構成されるが、理論上、2枚の平行平板ミラーによる共振器では安定な共振器モードが形成されず、レーザ発振しないことが知られている。ところが、励起光源によって共振器内のレーザ媒質が局所的に励起される際に、励起箇所の温度が光の吸収によって上昇して、屈折率の分布が形成されることにより、レンズと同様の効果(熱レンズ効果)が引き起こされる。この熱レンズ効果が安定な共振器モードの形成に寄与する結果、レーザ発振が可能となる。レーザ媒質が面内で一様であれば、面方向に対する制約がないため、励起箇所(あるいは励起位置)がレーザ発振箇所となる。
【0005】
図7は、励起光の熱レンズ効果についての概念的な説明図である。
【0006】
Nd:YVO4等のレーザ媒質a中に破線の楕円で示す部分(図のA部)が励起により熱レンズ効果を有する箇所、つまり、熱分布により等価的なレンズ作用をもつ場所を表している。また、レーザ媒質aに対向して配置される部材bは、共振器を構成するミラー又は可飽和吸収体を表す。尚、図には、励起光の照射方向を矢印pで示している。
【0007】
上記したように、2枚の平行平板ミラーで構成される共振器においては、形成される共振器モードの径が無限大となるため、損失が大きく共振しないが、レーザ媒質中に励起光による熱で屈折率分布が生じ、熱レンズ効果をもつ場合には、共振器モード径が小さくなり、低損失のレーザ発振が可能となる。そして、2枚のミラーの傾きに関する許容幅として、熱レンズ効果を考慮した場合には、その許容幅が広がる。
【0008】
図8において、「L」はレーザ媒質aと部材bとの間隔を示し、「θ」は部材bに係る傾き角を示している。
【0009】
レーザ媒質aにおける局部的な温度上昇により生じる熱レンズの焦点距離を「f」とし、光軸(励起光軸)方向における励起中心(スポット中心)からのずれ量を「Δd」と記すと、Δdは、共振器を構成する2枚のミラー間の相対的な傾き誤差に相当する角度θとfとの積にほぼ等しい(θが微小角であるため、「Δd=f・θ」が近似的に成り立つ。)。
【0010】
励起しているスポットサイズを「w0」とすると、Δdがw0の10分の1程度とされるミラーの傾き程度でも、横モードが発生してビームの品質を損う虞が生じる。尚、ここでw0=10μm(ミクロン)、f=10mm程度として計算上で見積もっている。この場合、2枚のミラー間の傾き角θの範囲については、0.1mrad(ミリラジアン)程度しか許容されないことになる。
【0011】
図9は、共振器構成素子間の平行度が許容範囲に収まらないことによる影響について説明するための概略図であり、上方にはレーザ媒質aと部材bとの間の相対的な傾き(平行度のズレ)を誇張的に示し、下方には出力光のプロファイルを概念的に示している。
【0012】
上図において、破線で示す曲線「T」は、局所的な温度分布の様子を概略的に示しており、励起光の光軸上をピークとして周辺部にいくにつれて温度が低くなっていく。
【0013】
上図のように、励起光軸と共振器モード軸との間にズレがあると、そのズレ量によっては横モードが励起されてビームの品質を損う虞が生じる。例えば、下図に示す概略的なプロファイル(強度分布)のように、ほぼ円形状で示す範囲(強度が大きい範囲を示し、励起光の強度が高い領域に対応する。)に関して非対称性が認められる(強度のピーク部分を中心として緩やかに変化する裾野部分が生じる。)。
【0014】
図10及び図11は、従来の構成例を概略的に示したものである。
【0015】
図10では、レーザ媒質cとその両側にそれぞれ設けられたミラーm、mを用いて共振器が形成されており、励起光源eから集光光学系gを介して共振器に励起光が照射される。尚、ミラーm、mについては、レーザ媒質cの界面を共振器ミラーとしている。このMooradianの提案する形態によれば、レーザ媒質結晶をエタロンのように平行研磨し、両面にコーティングを施すことで、再現性や安定性をもち、剛性を備えたレーザ共振器を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0016】
ところで、図10に示す構成に対して、その共振器内に可飽和吸収体を組み込む場合には、励起により発生する高熱が可飽和吸収体に及ぼす影響が問題となる。
【0017】
図11は、可飽和吸収体hがレーザ媒質cと直接接触するように、可飽和吸収体hを共振器内に組み入れた、Zayhowskiらの提案する構造例を概略的に示したものである(例えば、特許文献2参照)。
【0018】
励起光源eには、高出力の半導体レーザ等が用いられ、励起光によってレーザ媒質cの温度が数百度にまで達するので、図11の構成では、励起によって発生する高温部分から可飽和吸収体hに熱が伝わり、その特性を変化させてしまうといった問題が生じる。
【0019】
そこで、この問題を回避する方法として、例えば、レーザ媒質と可飽和吸収体との間に、空気層を中間媒質として介在させるとともに、レーザ媒質と可飽和吸収体をそれぞれ独立に保持するための部材(保持用基板等)を用いることが挙げられる。つまり、空気層によってレーザ媒質から可飽和吸収体への熱伝導の影響が緩和されるので、可飽和吸収体への熱の影響を抑えることができる。
【0020】
【特許文献1】
米国特許第4,860,304号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,394,413号明細書
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の構成では、安定性や信頼性の面で問題がある。
【0022】
例えば、レーザ媒質や可飽和吸収体がそれぞれ独立した基板上に固定された構造では、レーザ組立時に微細な調整が必要となり、組立の手順が複雑化する。また、レーザ媒質や可飽和吸収体の保持構造において機械的な安定性を充分に保証することが難しいため、レーザの動作安定性が悪化する虞がある。あるいは、レーザ媒質等の保持部分の経年変化に伴う劣化によりレーザの性能が長期間に亘って徐々に劣化していくことが考えられ、信頼性の面で問題がある。
【0023】
特に、共振器を構成する2枚のミラー面の平行度が問題であり、例えば、共振器長が数百ミクロン程度の場合に、ミラーの角度誤差が0.1ミリラジアン生じると出力ビームに歪が見られるようになり(図9参照。)、出力特性が劣化してしまう。
【0024】
そこで、ミラーの角度調整機構を付設して調整作業を行うことで平行度を許容範囲内に収める方法が採られるが、一般に角度調整機構については、特定の支点を中心にした回動機構を有しており、複雑で大型なものになり易い。加えて、機械的にも不安定であり、振動等による影響が不可避となる。従って、長期的な信頼性を保証する上で、角度調整のための機械的な機構を用いることは好ましくない。
【0025】
本発明は、レーザ光発生装置において、安定性や信頼性を高めるとともに構成の複雑化や調整の煩雑化を伴わないようにすることを課題とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した課題を解決するために、レーザ共振器の構成素子(あるいは構成要素)として、レーザ媒質及び反射手段を備えるともに、レーザ共振器の構成素子に係る平行度の角度誤差に応じて励起光の光軸に直交する方向における励起位置を調整するために、上記構成素子の界面を曲面として形成した構成を有するものである。
【0027】
従って、本発明によれば、レーザ共振器の構成素子のいずれかに曲面を形成するとともに、励起位置を選ぶことにより共振器モードの形成について適正に調整することができるので、構成素子間の平行度の許容範囲を広げることができる。よって、構成素子に係る角度誤差を、ミラー等の角度調整機構により低減させることで素子間の平行度を精度良く保つといった調整を必要としない。つまり、このような角度調整に代わって、励起光の光軸に対して直交する方向において励起位置を調整することで、安定な動作点を選択することが可能となるので、複雑な調整機構は不要であって、作業が容易になる。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明は、連続波の励起光を発生させる励起光源と、励起位置での発熱による熱レンズ効果を利用したレーザ共振器を備えたレーザ光発生装置に関するものである。例えば、共振器長で決まるFSR(Free Spectrum Range)がレーザ媒質のゲイン幅よりも広い超小型レーザへの適用に好適であり、GLV(Grating Light Valve)等を1次元光変調素子として用いたディスプレイ装置(2次元画像表示装置)等の光源に用いることができる。
【0029】
図1は、本発明に係るレーザ光発生装置の基本構成例について説明するための概略図である。
【0030】
レーザ光発生装置1において、励起光源を含む励起光学系2からレーザ媒質3に照射される励起光により、励起位置(図には破線で示す部分)では熱分布に従って熱レンズ効果が生じる。つまり、本例では、レーザ媒質3、中間媒質4、反射手段5(可飽和吸収体を含む)を構成素子として含むレーザ共振器において、熱レンズ効果により安定な共振器モードが形成される。尚、中間媒質4については、熱伝導率が小さく、屈折率がほぼ1の気体層(例えば、空気層)が好ましいが、構成素子の酸化防止等の観点から、窒素等を用いても良い。
【0031】
本発明では、レーザ共振器の構成素子に係る平行度の角度誤差に応じて、励起光の光軸に直交する方向における励起位置を調整するために、構成素子の界面が曲面として形成される。
【0032】
例えば、構成素子と中間媒質との界面が曲面として形成される。図1の例では、レーザ媒質3のうち、一方の界面が平坦なミラー面とされるが、他方の界面(中間媒質4との界面)については平坦面ではなく、曲面Sとして形成されている。
【0033】
この曲面Sについて、例えば、球面が挙げられるが、これに限らず、非球面であっても構わない。
【0034】
また、本発明の適用において、曲面として形成される界面がレーザ媒質の界面には限られないので、ミラーや可飽和吸収体において中間媒質との界面を曲面として形成することができ、例えば、下記に示す構成形態が挙げられる。
【0035】
・共振器の構成素子の界面において、中間媒質側を向いた凸曲面を形成する形態
・共振器の構成素子の界面において、中間媒質側を向いた凹曲面を形成する形態。
【0036】
例えば、図1の構成において、レーザ媒質3における中間媒質側の界面を凹曲面として形成したり、あるいは、反射手段5のうち中間媒質側の界面を凸曲面又は凹曲面として形成する等の構成を採用することができる。
【0037】
尚、図1に示す例では、レーザ媒質3と反射手段5との間に中間媒質4が介在された構成を有するが、本発明の適用においては、中間媒質を設けないでレーザ媒質3と反射手段5とを直接的に結合させた構成でも構わない(その場合には両者の界面が曲面として形成されていれば良い。)。
【0038】
図2は、連続波レーザとして構成した場合の装置例について、その要部の構成を示したものである。
【0039】
このレーザ光発生装置1Aでは、連続波の励起光を発生させる励起光源2aと集光光学系2b(図には単レンズで示す。)を備えており、励起光はレーザ共振器6に照射される。尚、励起光源2aとしては、例えば、半導体レーザ(レーザダイオード)等が用いられる。
【0040】
レーザ共振器6は、その構成素子としてレーザ媒質7及びミラー8、9を備えている。
【0041】
レーザ媒質7における一方の面(励起光が入射される側の面)が平坦面7aとされ、その反対側の面7bが曲面として加工されている。
【0042】
反射手段を構成するミラー8、9のうち、ミラー8は平坦面7aの側に付設され、また、ミラー9は、レーザ媒質7の面7bとの間に所定の距離をおいて配置されている。尚、ミラー8と9との間の平行度について、図では分かり易いようにミラー9の角度誤差を誇張して示している(後述するように、実際の角度値は数ミリラジアン程度である。)。
【0043】
レーザ媒質7とミラー9との間に介在される中間媒質として、本例では空気層4aを用いている。そして、レーザ共振器6の構成素子のうち、空気層4aを挟んで対向する2つの構成素子(本例ではレーザ媒質7とミラー9)のうち、一方の素子(レーザ媒質7)における空気層側の面が曲面として加工されている。尚、レーザ媒質7における空気層側の面7bが、空気層側に突出した凸曲面とされている。
【0044】
中間媒質として空気層が好ましい理由は、中間媒質を固体とする場合には、前記したようにレーザ媒質から反射手段への熱的影響が問題となること及び液体では取り扱いが容易でないこと等に依る。よって、中間媒質としては気体が好ましく、屈折の影響や構成の簡素化等を考慮すると、空気が望ましい。
【0045】
本例では、平板状をした基板10上にミラー8及びレーザ媒質7が設けられている。また、ミラー9の基板11については、凹部11aを有しており、凹部11a内にミラー9の支持部材12が受け入れられた状態で接着により固定されている。そして、支持部材12の一端面にミラー9が接着されている。
【0046】
基板10、11については、透明基材(石英やサファイア等)が用いられ、熱伝導性の良好な材料が好ましい。
【0047】
基板10のうち、レーザ媒質7やミラー8が設けらた場所の周囲部分が、基板11の一部(凹部11aの開口周辺部分)に接着で固定されている。つまり、レーザ媒質7が設けられた基板10と、ミラー9が設けられた基板11とが結合されることにより、両者が一体化された構造を有する。従って、レーザ媒質7やミラー9を独立の部材で別個に支持した構成に比べて、振動や経年変化等の影響を受け難いので、動作的に安定である(例えば、パルスジッターが少ない。)。
【0048】
尚、基板10と基板11とが結合された状態では、レーザ媒質7及びミラー8が、ミラー9及び空気層4aとともに凹部11a内に収容されるので(気密構造となる。)、共振器構成素子について外部からの影響を受け難い。また、ミラー9を凹部11aの底面に接着剤で直接固定した構成でも構わない。
【0049】
共振器長の調整については、ペルチェ素子等の温度制御用素子を用いた電子温度調節器を設けることで温度制御により行う方法と、駆動用素子(PZT等のピエゾ素子、電気光学素子等)を用いて構成素子の位置や姿勢の制御により行う方法等が挙げられる。
【0050】
図3は、受動Qスイッチレーザとして構成した場合の装置例について、その要部の構成を示したものである。
【0051】
このレーザ光発生装置1Bに関して、上記装置1Aと相違する点は、ミラー9が可飽和吸収体13に置き換えられていることである(従って、その他の部分については図2で使用した符号と同じ符号を用いることで、それらの詳細な説明を省略する。)。
【0052】
つまり、本例では、空気層4aを挟んで対向する2つの構成素子が、レーザ媒質7と可飽和吸収体13であり、レーザ媒質7の基板10と、可飽和吸収体13が設けられた基板11とが結合されることで一体化された構造を有している。
【0053】
可飽和吸収体13を用いた受動モード同期の結果、共振器からは、ピーク出力が大きく、パルス幅の狭いパルス光が出力される。
【0054】
本例でも、基板同士を結合させて両者を一体化することで振動等に強く、経年変化の影響を受け難い構成とし、レーザ媒質7と可飽和吸収体13とが中間媒質(空気層)を介して対向した状態で、凹部11a内に収容されることで密閉構造を備えている。また、レーザ媒質7における空気層側の面が曲面に加工されているが、これに限らず、可飽和吸収体13における空気層側の面を曲面とした形態でも構わない。要は、共振器構成素子のいずれかが曲面を有していれば、如何なる構成形態でも良い。
【0055】
共振器長の調整については、前記と同様に、温度制御による方法や構成素子の位置制御による方法等が挙げられる。
【0056】
尚、共振器から出力されるパルス光については、励起光に係る入射の向き(図の右方)に対して反対向き(図の左方)に出射される形態(例えば、出力光が、ダイクロイックミラー等による反射で光路変更を受けて取り出される。)と、可飽和吸収体を透過して励起光の入射の向きと同じ向きに出射される形態が挙げられる。
【0057】
以上のように、レーザ光発生装置については、励起光源と集光光学系、そして、レーザ媒質や反射手段を含む共振器を用いて構成される。また、可飽和吸収体を含むパルスレーザを構成する場合には、例えば、図3に示したように、レーザ媒質7と可飽和吸収体13とが中間媒質を挟んで対向した構成となる。ここで、可飽和吸収体13における一方の面(支持部材12側の面)については、共振波長に対して高反射面となるように、コーティングが施されている。
【0058】
励起光源としては、主に半導体レーザを用いるが、この他には、アルゴン(Ar)レーザ等を使用することができる。
【0059】
レーザ媒質7については、ネオジウム(Nd3+)をドープしたNd:YAG(Y3Al5O12)やNd:YVO4の他、Nd:YLF(YLiF4)等が挙げられる。本例では、励起光の吸収長の短いNd:YVO4を用いている。
【0060】
可飽和吸収体13としては、Cr:YAGの他、SESAM、SBR等の半導体素子が適当である。本例では、SBR(Saturable Bragg Reflector)を用いている。SBRは、ブラッグ反射鏡(Bragg Reflector)上に量子井戸構造を形成したもので、例えば、共振器のミラー構成の1つを、このSBRとした場合に、SBRが、励起光によって共振器内に蓄えられた光を量子井戸のポテンシャルに取り込むために、未飽和の状態では共振器ロス(損失要素)として機能する。しかし、ある一定量の光が量子井戸に取り込まれると飽和によって、急速にロスが小さくなるために、過渡的に共振器ゲインスイッチとして機能し、共振器のパルス発振を促す(つまり、受動Qスイッチとして機能する。)。
【0061】
尚、本例で用いているNd:YVO4やSBRについては、厚みが薄く機械的強度が小さいため、保持用の基板(サファイア基板等)に接着して使用される。例えば、Nd:YVO4は、サファイア基板との接着層にコーティングを施して、共振器の発振波長に対して高反射となるようにミラー機能を持たせている。この接着層におけるミラーと、SBRのブラッグ反射鏡との、2枚のミラーで共振器が構成される。
【0062】
このような2枚の平行ミラーで閉じ込められる光共振器の場合、安定性や再現性、振動に対する剛性を高めるには、相反する2つの要請からくる問題について解決が必要である。
【0063】
その一つは、レーザ媒質等の各構成素子の保持方法として、機械的な剛性を向上させるためには、各素子が面で接するように接着することである。そして、各構成素子を接着により固定して保持する部材(あるいは支持部材)については、同一部材又は一体化された部材とすることが好ましい。
【0064】
第二には、2つの構成素子間での相対的な傾きについて、サブミリラジアン(0.1mrad)の精度で平行に合わせる必要がある。つまり、前述したように、共振器構成の平行度に係る許容幅がサブミリラジアンのオーダーであって、平行度調整は必須といえる。
【0065】
この2つの課題を同時に満足することは困難であり、その理由には、支持部材の加工精度の面から実現可能な平行度には限界が存在することが挙げられる。
【0066】
例えば、レーザ媒質とミラー又は可飽和吸収体との間に、空気層を介在させた構造において、各光学素子と空気層との界面同士が正確に平行となるように平行度を確保することは困難である。組立や加工精度が充分でない場合には、空気層との界面の間で必要な平行度が得られなくなり、これが光学素子の傾き誤差となってレーザの特性や性能に悪影響を及ぼす虞がある。
【0067】
また、光学素子自体の平行精度又は接着層の平坦度等を、所望の許容幅に収めるための加工は困難であるか、又は可能であるとしても非常に高価なものとなる。このような加工精度のバラツキを加味した場合に、最終的に共振器を構成する反射手段(2枚の平行ミラー)の平行度には、数ミリラジアンのバラツキが存在することは避けられない。支持部材等の加工精度に起因する共振器ミラーの傾き誤差は、励起中心と、形成される共振器モードの中心との間のずれに帰着されるため、ビームの品質を劣化させる要因となる。
【0068】
そこで、共振器を構成する2つの素子(レーザ媒質7とミラー9、あるいはレーザ媒質7と可飽和吸収体9)について、同一の保持用部材に固定するか、又は、それぞれを別個の部材に固定した上で両部材を一体化することにより、機械的強度を高めて剛性を増すとともに、各素子間の平行度については、ミリラジアン程度のバラツキが存在することを許容した上で(角度誤差に伴う傾きをなくすための角度調整を不要にする。)、励起位置の調整により傾き補償を行えるようにするための構成(構成素子の界面を平面ではなく、曲面にした構成)を採用する。
【0069】
以下では、図2や図3のように、レーザ媒質において、空気層側の面を曲面に加工した形態について説明する。
【0070】
この曲面(以下、「S」と記し、本例では球面とする。)の曲率半径(これを、「R」と記す。)は、共振器長に比して十分に長いものとする。ここでは、共振器長を400μmとし、曲率半径Rを500mmとする。
【0071】
図4において、レーザ媒質(Nd:YVO4)側のミラー面「M」を基準として、該ミラー面に対する可飽和吸収体(SBR)の傾き角度を「φ」とすると、共振器モードについては、幾何学的には可飽和吸収体の面に対して垂直な直線上で形成される。
【0072】
図中に示す各記号の意味は、下記の通りである。
【0073】
・「θi」=曲面Sでの入射角(屈折点Pにおける界面の法線と入射光線との間になす角)
・「θo」=曲面Sでの出射角(屈折点Pにおける界面の法線と出射光線との間になす角)
・「d」=曲面Sの中心軸(曲率中心Oを通り励起光軸に対して平行な軸)から入射点までの距離
・「l」=曲面Sの中心軸上におけるレーザ媒質の厚み
・「Δl」=「l」を基準としたレーザ媒質の厚み変化。
【0074】
図4において、太線の矢印で示すように、レーザ媒質7における一方の面から垂直に入射される光(波長809nmの励起光)は、レーザ媒質7と空気層4aとの界面において屈折した後、空気層4aを経て可飽和吸収体13に入射される(可飽和吸収体13にはレーザ媒質7から空気層4aを透過した光が垂直に入る)。
【0075】
レーザ媒質7の屈折率を「N」と記すと、レーザ媒質7と空気層4aとの界面である曲面S上の点Pにおいて、スネル則から下式が成り立つ。
【0076】
sinθo=N・sinθi (1)式
尚、ここで、「sin」は正弦関数を意味する。
【0077】
距離dについては、θiとRに関して、幾何学的な関係から下式が成り立つ。
【0078】
d=R・tanθi 又は θi=arctan(d/R) (2)式
尚、ここで、「tan」は正接関数を意味し、「arctan」は逆正接関数を意味する。
【0079】
また、φ、θo、θiの3間には、下式の関係がある。
【0080】
θo−φ=θi 又は φ=θo−θi (3)式
【0081】
従って、θoやθiが十分に小さいとする1次近似の範囲内では、(1)式から「θo≒N・θi」が得られ、(2)式から「θi≒d/R」が得られるので、これらと(3)式に基いて下式が得られる。
【0082】
φ=(N−1)・(d/R) (4)式
【0083】
よって、Nd:YVO4の場合、その屈折率Nがほぼ2であるので、下式が成り立つ。
【0084】
φ≒d/R (5)式
【0085】
例えば、dの最大値を「dmax」と記し、「d=dmax=1」(単位:mm)、「φ=2」(単位:ミリラジアン)を上式に代入すると、曲率半径Rの値として500mmが得られる。尚、距離dにおけるΔlについては、「Δl=R・(1−cosθi)≒d2/(2・R)」から求められる。
【0086】
ここで重要なことは、可飽和吸収体13が角度φをもって傾いていても、曲率中心Oを含む中心軸から距離dだけ離れた位置で励起光を入射すれば、共振器モードがレーザ媒質7のミラー面「M」に対して垂直に形成されるという点である。即ち、励起光スポットの中心と、共振器モードの中心とが一致する(励起光軸と共振器モードの中心軸との間にずれがない)結果、不要な横モードを励起しない。
【0087】
例えば、レーザ媒質(Nd:YVO4)における空気層側の面に、曲率半径R=500mmの球面加工を施した場合に、可飽和吸収体(SBR)が仮に1ミリラジアン傾いたとしても(φ=1mrad)、(5)式から分かるように、d=0.5mmの距離だけ中心部から離れた場所を励起すれば、ビーム品質の良い、単一横モードのレーザ光(波長1064nm)を得ることができる。
【0088】
正確な平行平板ミラーを用いて構成される共振器の場合には、励起位置は任意であって場所を選ばないが、本例のように、曲面を用いる場合には、励起位置を特定して、その1点を発振ポイントとする必要が生じる。
【0089】
図5は、組立時の調整工程について説明するための図である。
【0090】
励起光源2aからの励起光は、光学系2b(レンズ14、レンズ15、ミラー16を含む。)を介して共振器6に照射され、レーザ媒質7、空気層4aを透過して、可飽和吸収体13に到達する。
【0091】
上記のように、レーザ媒質7のうち、空気層4a側の界面については曲面加工が施されており、可飽和吸収体13の傾きφを考慮した場合には、曲面Sの曲率中心を通る中心軸に対して、励起光軸を常に一致させる訳には行かず、「d=(R・φ)/(N−1)」から決まる距離dの変位量をもって励起位置を調整することが必要である。
【0092】
そのためには、下記に示す方法が挙げられる。
【0093】
(1)励起光に対して共振器を移動させる方法
(2)共振器に対して励起光を移動させる方法
(3) (1)と(2)とを組み合わせた方法。
【0094】
要は、励起光学系と共振器系との間の相対的な位置合わせを行うことによって、励起位置を適正に設定することができる。上記した例では、レーザ媒質7に形成される曲面Sの曲率半径Rと、可飽和吸収体13に係る傾き角度φとの積によって決まる距離dを調整することで角度補正が可能となり(レーザ媒質と可飽和吸収体のクリアアパーチャーである数mm程度の範囲内で補正が可能となる。)、機械加工の精度として数ミリラジアンの公差を許容できる。
【0095】
従って、レーザ媒質と可飽和吸収体を、同一部材又は一体化された部材に固定したものを全体として、励起光軸に対して相対的に移動させることによって、角度誤差について調整することができる。しかも、一体化された基板に固定された構成素子によって形成される共振器部分(アセンブリ)については、環境変動や外部応力、振動等に対して強い構造を備えており、また、その調整については、励起光軸に直交する方向における光学系又は共振器の移動(横方向へのシフト)で済むため作業が簡単であり、調整後の接着固定について十分な剛性が得られる。
【0096】
尚、本例では、レーザ媒質における空気層側に、凸曲面を形成した例については説明したが、これに限らず、図6で誇張的に示すように、各種形態での実施が可能である。
【0097】
・レーザ媒質7の空気層側の面に、凹面加工を施した形態(図6(A)参照)
・可飽和吸収体13を湾曲させて、その空気層側の面が、レーザ媒質7側に突出した凸曲面とされた形態(図6(B)参照)
・可飽和吸収体13を湾曲させて、その空気層側の面が、レーザ媒質7から離れる方向に窪んだ凹曲面とされた形態(図6(C)参照)
【0098】
以上に説明した各構成によれば、レーザ共振器を構成する素子のうち、空気層側の界面について曲面加工を施すとともに、励起位置を調整することにより、共振器モード形成のための調整を行うことができる。即ち、共振器ミラーの角度調整を行って平行度を許容範囲に収めるのと同様の効果を、励起位置の調整によって実現できるので、作業性が向上する。そして、共振器の構成素子間の平行度に係る許容範囲を広げるとともに、安価な部品構成及び組み立て調整でもって、高精度かつ高品質のビームを作り出すことができる。
【0099】
【発明の効果】
以上に記載したところから明らかなように、請求項1に係る発明によれば、励起位置を選ぶことにより共振器モードの形成について適正に調整することができるので、構成素子間の平行度の許容範囲を広げることができる。よって、組立時において非常に微妙な調整を行う必要がなくなり、また、組立や調整の手順が比較的単純である。そして、複雑な調整機構は不要であり、作業が容易であって、励起位置の設定(選択)した後において、経年変化等の影響を受けにくいので、動作的に安定であり、信頼性が高い。
【0100】
請求項2に係る発明によれば、構成素子間の中間媒質として気体層を設けることにより、熱的な影響による特性や動作点の不安定化を防止することができる。
【0101】
請求項3に係る発明によれば、共振器構成素子が空気層を挟んで対向した構成の採用により、素子間の熱的な影響を軽減したり、コスト低減にとって有利である。
【0102】
請求項4に係る発明によれば、連続波レーザへの適用において、振動等の影響を受け難くし、動作の安定性を保証することができる。
【0103】
請求項5に係る発明によれば、受動Qスイッチレーザへの適用において、振動等の影響を受け難くし、動作の安定性を保証することができる。
【0104】
請求項6に係る発明によれば、可飽和吸収体に曲面を形成する場合に比較して、加工面で有利である。
【0105】
請求項7や請求項8に係る発明によれば、凹面形成に比べて曲面の加工が容易であり、コスト面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るレーザ光発生装置の基本構成例を示す図である。
【図2】図3とともに、レーザ光発生装置の構成例を示す図であり、本図は連続波レーザへの適用例を示す図である。
【図3】受動Qスイッチレーザへの適用例を示す図である。
【図4】共振器設計についての説明図である。
【図5】組立工程における励起位置の調整について説明するための図である。
【図6】共振器に係る各種の構成形態を示す概略図である。
【図7】熱レンズ効果の説明図である。
【図8】部材の傾きを示す概略図である。
【図9】励起光軸と共振器モード軸とのズレによる影響について説明するための図である。
【図10】従来例を示す説明図である。
【図11】別の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
1、1A、1B…レーザ光発生装置、2a…励起光源、3…レーザ媒質、4…中間媒質、4a…空気層、5…反射手段、6…レーザ共振器、7…レーザ媒質、10、11…基板、13…可飽和吸収体、S…曲面
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザ媒質や反射手段等を含むレーザ共振器と、励起光源を備えたレーザ光発生装置において、共振器構成素子間の平行度について許容範囲を広げるための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
マイクロチップレーザ(レーザ媒質長1mm以下の固体レーザ)は、その共振器を構成する2枚のミラーの間隔を、薄厚のレーザ媒質(利得媒質)の厚み程度まで短くしたところに特徴を有しており、共振器長から決まるFSR(Free Spectrum Range)がレーザ媒質のゲイン幅以上に広がるため、特に波長選択を行わずとも単一周波数の発振が可能である。
【0003】
このようなマイクロチップレーザに対して、クロムをドープしたYAG(Cr:YAG)やSESAM(SEmiconductor Saturable Absorber Mirror)、SBR(Saturable Bragg Reflector)等の可飽和吸収体(Saturable absorber)を組み合わせることで、非常に短いパルスの、連続波励起の受動Qスイッチ又はモードロックパルス光源を実現することができる。
【0004】
マイクロチップレーザの共振器については、2枚の平行平板を用いて構成されるが、理論上、2枚の平行平板ミラーによる共振器では安定な共振器モードが形成されず、レーザ発振しないことが知られている。ところが、励起光源によって共振器内のレーザ媒質が局所的に励起される際に、励起箇所の温度が光の吸収によって上昇して、屈折率の分布が形成されることにより、レンズと同様の効果(熱レンズ効果)が引き起こされる。この熱レンズ効果が安定な共振器モードの形成に寄与する結果、レーザ発振が可能となる。レーザ媒質が面内で一様であれば、面方向に対する制約がないため、励起箇所(あるいは励起位置)がレーザ発振箇所となる。
【0005】
図7は、励起光の熱レンズ効果についての概念的な説明図である。
【0006】
Nd:YVO4等のレーザ媒質a中に破線の楕円で示す部分(図のA部)が励起により熱レンズ効果を有する箇所、つまり、熱分布により等価的なレンズ作用をもつ場所を表している。また、レーザ媒質aに対向して配置される部材bは、共振器を構成するミラー又は可飽和吸収体を表す。尚、図には、励起光の照射方向を矢印pで示している。
【0007】
上記したように、2枚の平行平板ミラーで構成される共振器においては、形成される共振器モードの径が無限大となるため、損失が大きく共振しないが、レーザ媒質中に励起光による熱で屈折率分布が生じ、熱レンズ効果をもつ場合には、共振器モード径が小さくなり、低損失のレーザ発振が可能となる。そして、2枚のミラーの傾きに関する許容幅として、熱レンズ効果を考慮した場合には、その許容幅が広がる。
【0008】
図8において、「L」はレーザ媒質aと部材bとの間隔を示し、「θ」は部材bに係る傾き角を示している。
【0009】
レーザ媒質aにおける局部的な温度上昇により生じる熱レンズの焦点距離を「f」とし、光軸(励起光軸)方向における励起中心(スポット中心)からのずれ量を「Δd」と記すと、Δdは、共振器を構成する2枚のミラー間の相対的な傾き誤差に相当する角度θとfとの積にほぼ等しい(θが微小角であるため、「Δd=f・θ」が近似的に成り立つ。)。
【0010】
励起しているスポットサイズを「w0」とすると、Δdがw0の10分の1程度とされるミラーの傾き程度でも、横モードが発生してビームの品質を損う虞が生じる。尚、ここでw0=10μm(ミクロン)、f=10mm程度として計算上で見積もっている。この場合、2枚のミラー間の傾き角θの範囲については、0.1mrad(ミリラジアン)程度しか許容されないことになる。
【0011】
図9は、共振器構成素子間の平行度が許容範囲に収まらないことによる影響について説明するための概略図であり、上方にはレーザ媒質aと部材bとの間の相対的な傾き(平行度のズレ)を誇張的に示し、下方には出力光のプロファイルを概念的に示している。
【0012】
上図において、破線で示す曲線「T」は、局所的な温度分布の様子を概略的に示しており、励起光の光軸上をピークとして周辺部にいくにつれて温度が低くなっていく。
【0013】
上図のように、励起光軸と共振器モード軸との間にズレがあると、そのズレ量によっては横モードが励起されてビームの品質を損う虞が生じる。例えば、下図に示す概略的なプロファイル(強度分布)のように、ほぼ円形状で示す範囲(強度が大きい範囲を示し、励起光の強度が高い領域に対応する。)に関して非対称性が認められる(強度のピーク部分を中心として緩やかに変化する裾野部分が生じる。)。
【0014】
図10及び図11は、従来の構成例を概略的に示したものである。
【0015】
図10では、レーザ媒質cとその両側にそれぞれ設けられたミラーm、mを用いて共振器が形成されており、励起光源eから集光光学系gを介して共振器に励起光が照射される。尚、ミラーm、mについては、レーザ媒質cの界面を共振器ミラーとしている。このMooradianの提案する形態によれば、レーザ媒質結晶をエタロンのように平行研磨し、両面にコーティングを施すことで、再現性や安定性をもち、剛性を備えたレーザ共振器を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0016】
ところで、図10に示す構成に対して、その共振器内に可飽和吸収体を組み込む場合には、励起により発生する高熱が可飽和吸収体に及ぼす影響が問題となる。
【0017】
図11は、可飽和吸収体hがレーザ媒質cと直接接触するように、可飽和吸収体hを共振器内に組み入れた、Zayhowskiらの提案する構造例を概略的に示したものである(例えば、特許文献2参照)。
【0018】
励起光源eには、高出力の半導体レーザ等が用いられ、励起光によってレーザ媒質cの温度が数百度にまで達するので、図11の構成では、励起によって発生する高温部分から可飽和吸収体hに熱が伝わり、その特性を変化させてしまうといった問題が生じる。
【0019】
そこで、この問題を回避する方法として、例えば、レーザ媒質と可飽和吸収体との間に、空気層を中間媒質として介在させるとともに、レーザ媒質と可飽和吸収体をそれぞれ独立に保持するための部材(保持用基板等)を用いることが挙げられる。つまり、空気層によってレーザ媒質から可飽和吸収体への熱伝導の影響が緩和されるので、可飽和吸収体への熱の影響を抑えることができる。
【0020】
【特許文献1】
米国特許第4,860,304号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,394,413号明細書
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の構成では、安定性や信頼性の面で問題がある。
【0022】
例えば、レーザ媒質や可飽和吸収体がそれぞれ独立した基板上に固定された構造では、レーザ組立時に微細な調整が必要となり、組立の手順が複雑化する。また、レーザ媒質や可飽和吸収体の保持構造において機械的な安定性を充分に保証することが難しいため、レーザの動作安定性が悪化する虞がある。あるいは、レーザ媒質等の保持部分の経年変化に伴う劣化によりレーザの性能が長期間に亘って徐々に劣化していくことが考えられ、信頼性の面で問題がある。
【0023】
特に、共振器を構成する2枚のミラー面の平行度が問題であり、例えば、共振器長が数百ミクロン程度の場合に、ミラーの角度誤差が0.1ミリラジアン生じると出力ビームに歪が見られるようになり(図9参照。)、出力特性が劣化してしまう。
【0024】
そこで、ミラーの角度調整機構を付設して調整作業を行うことで平行度を許容範囲内に収める方法が採られるが、一般に角度調整機構については、特定の支点を中心にした回動機構を有しており、複雑で大型なものになり易い。加えて、機械的にも不安定であり、振動等による影響が不可避となる。従って、長期的な信頼性を保証する上で、角度調整のための機械的な機構を用いることは好ましくない。
【0025】
本発明は、レーザ光発生装置において、安定性や信頼性を高めるとともに構成の複雑化や調整の煩雑化を伴わないようにすることを課題とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した課題を解決するために、レーザ共振器の構成素子(あるいは構成要素)として、レーザ媒質及び反射手段を備えるともに、レーザ共振器の構成素子に係る平行度の角度誤差に応じて励起光の光軸に直交する方向における励起位置を調整するために、上記構成素子の界面を曲面として形成した構成を有するものである。
【0027】
従って、本発明によれば、レーザ共振器の構成素子のいずれかに曲面を形成するとともに、励起位置を選ぶことにより共振器モードの形成について適正に調整することができるので、構成素子間の平行度の許容範囲を広げることができる。よって、構成素子に係る角度誤差を、ミラー等の角度調整機構により低減させることで素子間の平行度を精度良く保つといった調整を必要としない。つまり、このような角度調整に代わって、励起光の光軸に対して直交する方向において励起位置を調整することで、安定な動作点を選択することが可能となるので、複雑な調整機構は不要であって、作業が容易になる。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明は、連続波の励起光を発生させる励起光源と、励起位置での発熱による熱レンズ効果を利用したレーザ共振器を備えたレーザ光発生装置に関するものである。例えば、共振器長で決まるFSR(Free Spectrum Range)がレーザ媒質のゲイン幅よりも広い超小型レーザへの適用に好適であり、GLV(Grating Light Valve)等を1次元光変調素子として用いたディスプレイ装置(2次元画像表示装置)等の光源に用いることができる。
【0029】
図1は、本発明に係るレーザ光発生装置の基本構成例について説明するための概略図である。
【0030】
レーザ光発生装置1において、励起光源を含む励起光学系2からレーザ媒質3に照射される励起光により、励起位置(図には破線で示す部分)では熱分布に従って熱レンズ効果が生じる。つまり、本例では、レーザ媒質3、中間媒質4、反射手段5(可飽和吸収体を含む)を構成素子として含むレーザ共振器において、熱レンズ効果により安定な共振器モードが形成される。尚、中間媒質4については、熱伝導率が小さく、屈折率がほぼ1の気体層(例えば、空気層)が好ましいが、構成素子の酸化防止等の観点から、窒素等を用いても良い。
【0031】
本発明では、レーザ共振器の構成素子に係る平行度の角度誤差に応じて、励起光の光軸に直交する方向における励起位置を調整するために、構成素子の界面が曲面として形成される。
【0032】
例えば、構成素子と中間媒質との界面が曲面として形成される。図1の例では、レーザ媒質3のうち、一方の界面が平坦なミラー面とされるが、他方の界面(中間媒質4との界面)については平坦面ではなく、曲面Sとして形成されている。
【0033】
この曲面Sについて、例えば、球面が挙げられるが、これに限らず、非球面であっても構わない。
【0034】
また、本発明の適用において、曲面として形成される界面がレーザ媒質の界面には限られないので、ミラーや可飽和吸収体において中間媒質との界面を曲面として形成することができ、例えば、下記に示す構成形態が挙げられる。
【0035】
・共振器の構成素子の界面において、中間媒質側を向いた凸曲面を形成する形態
・共振器の構成素子の界面において、中間媒質側を向いた凹曲面を形成する形態。
【0036】
例えば、図1の構成において、レーザ媒質3における中間媒質側の界面を凹曲面として形成したり、あるいは、反射手段5のうち中間媒質側の界面を凸曲面又は凹曲面として形成する等の構成を採用することができる。
【0037】
尚、図1に示す例では、レーザ媒質3と反射手段5との間に中間媒質4が介在された構成を有するが、本発明の適用においては、中間媒質を設けないでレーザ媒質3と反射手段5とを直接的に結合させた構成でも構わない(その場合には両者の界面が曲面として形成されていれば良い。)。
【0038】
図2は、連続波レーザとして構成した場合の装置例について、その要部の構成を示したものである。
【0039】
このレーザ光発生装置1Aでは、連続波の励起光を発生させる励起光源2aと集光光学系2b(図には単レンズで示す。)を備えており、励起光はレーザ共振器6に照射される。尚、励起光源2aとしては、例えば、半導体レーザ(レーザダイオード)等が用いられる。
【0040】
レーザ共振器6は、その構成素子としてレーザ媒質7及びミラー8、9を備えている。
【0041】
レーザ媒質7における一方の面(励起光が入射される側の面)が平坦面7aとされ、その反対側の面7bが曲面として加工されている。
【0042】
反射手段を構成するミラー8、9のうち、ミラー8は平坦面7aの側に付設され、また、ミラー9は、レーザ媒質7の面7bとの間に所定の距離をおいて配置されている。尚、ミラー8と9との間の平行度について、図では分かり易いようにミラー9の角度誤差を誇張して示している(後述するように、実際の角度値は数ミリラジアン程度である。)。
【0043】
レーザ媒質7とミラー9との間に介在される中間媒質として、本例では空気層4aを用いている。そして、レーザ共振器6の構成素子のうち、空気層4aを挟んで対向する2つの構成素子(本例ではレーザ媒質7とミラー9)のうち、一方の素子(レーザ媒質7)における空気層側の面が曲面として加工されている。尚、レーザ媒質7における空気層側の面7bが、空気層側に突出した凸曲面とされている。
【0044】
中間媒質として空気層が好ましい理由は、中間媒質を固体とする場合には、前記したようにレーザ媒質から反射手段への熱的影響が問題となること及び液体では取り扱いが容易でないこと等に依る。よって、中間媒質としては気体が好ましく、屈折の影響や構成の簡素化等を考慮すると、空気が望ましい。
【0045】
本例では、平板状をした基板10上にミラー8及びレーザ媒質7が設けられている。また、ミラー9の基板11については、凹部11aを有しており、凹部11a内にミラー9の支持部材12が受け入れられた状態で接着により固定されている。そして、支持部材12の一端面にミラー9が接着されている。
【0046】
基板10、11については、透明基材(石英やサファイア等)が用いられ、熱伝導性の良好な材料が好ましい。
【0047】
基板10のうち、レーザ媒質7やミラー8が設けらた場所の周囲部分が、基板11の一部(凹部11aの開口周辺部分)に接着で固定されている。つまり、レーザ媒質7が設けられた基板10と、ミラー9が設けられた基板11とが結合されることにより、両者が一体化された構造を有する。従って、レーザ媒質7やミラー9を独立の部材で別個に支持した構成に比べて、振動や経年変化等の影響を受け難いので、動作的に安定である(例えば、パルスジッターが少ない。)。
【0048】
尚、基板10と基板11とが結合された状態では、レーザ媒質7及びミラー8が、ミラー9及び空気層4aとともに凹部11a内に収容されるので(気密構造となる。)、共振器構成素子について外部からの影響を受け難い。また、ミラー9を凹部11aの底面に接着剤で直接固定した構成でも構わない。
【0049】
共振器長の調整については、ペルチェ素子等の温度制御用素子を用いた電子温度調節器を設けることで温度制御により行う方法と、駆動用素子(PZT等のピエゾ素子、電気光学素子等)を用いて構成素子の位置や姿勢の制御により行う方法等が挙げられる。
【0050】
図3は、受動Qスイッチレーザとして構成した場合の装置例について、その要部の構成を示したものである。
【0051】
このレーザ光発生装置1Bに関して、上記装置1Aと相違する点は、ミラー9が可飽和吸収体13に置き換えられていることである(従って、その他の部分については図2で使用した符号と同じ符号を用いることで、それらの詳細な説明を省略する。)。
【0052】
つまり、本例では、空気層4aを挟んで対向する2つの構成素子が、レーザ媒質7と可飽和吸収体13であり、レーザ媒質7の基板10と、可飽和吸収体13が設けられた基板11とが結合されることで一体化された構造を有している。
【0053】
可飽和吸収体13を用いた受動モード同期の結果、共振器からは、ピーク出力が大きく、パルス幅の狭いパルス光が出力される。
【0054】
本例でも、基板同士を結合させて両者を一体化することで振動等に強く、経年変化の影響を受け難い構成とし、レーザ媒質7と可飽和吸収体13とが中間媒質(空気層)を介して対向した状態で、凹部11a内に収容されることで密閉構造を備えている。また、レーザ媒質7における空気層側の面が曲面に加工されているが、これに限らず、可飽和吸収体13における空気層側の面を曲面とした形態でも構わない。要は、共振器構成素子のいずれかが曲面を有していれば、如何なる構成形態でも良い。
【0055】
共振器長の調整については、前記と同様に、温度制御による方法や構成素子の位置制御による方法等が挙げられる。
【0056】
尚、共振器から出力されるパルス光については、励起光に係る入射の向き(図の右方)に対して反対向き(図の左方)に出射される形態(例えば、出力光が、ダイクロイックミラー等による反射で光路変更を受けて取り出される。)と、可飽和吸収体を透過して励起光の入射の向きと同じ向きに出射される形態が挙げられる。
【0057】
以上のように、レーザ光発生装置については、励起光源と集光光学系、そして、レーザ媒質や反射手段を含む共振器を用いて構成される。また、可飽和吸収体を含むパルスレーザを構成する場合には、例えば、図3に示したように、レーザ媒質7と可飽和吸収体13とが中間媒質を挟んで対向した構成となる。ここで、可飽和吸収体13における一方の面(支持部材12側の面)については、共振波長に対して高反射面となるように、コーティングが施されている。
【0058】
励起光源としては、主に半導体レーザを用いるが、この他には、アルゴン(Ar)レーザ等を使用することができる。
【0059】
レーザ媒質7については、ネオジウム(Nd3+)をドープしたNd:YAG(Y3Al5O12)やNd:YVO4の他、Nd:YLF(YLiF4)等が挙げられる。本例では、励起光の吸収長の短いNd:YVO4を用いている。
【0060】
可飽和吸収体13としては、Cr:YAGの他、SESAM、SBR等の半導体素子が適当である。本例では、SBR(Saturable Bragg Reflector)を用いている。SBRは、ブラッグ反射鏡(Bragg Reflector)上に量子井戸構造を形成したもので、例えば、共振器のミラー構成の1つを、このSBRとした場合に、SBRが、励起光によって共振器内に蓄えられた光を量子井戸のポテンシャルに取り込むために、未飽和の状態では共振器ロス(損失要素)として機能する。しかし、ある一定量の光が量子井戸に取り込まれると飽和によって、急速にロスが小さくなるために、過渡的に共振器ゲインスイッチとして機能し、共振器のパルス発振を促す(つまり、受動Qスイッチとして機能する。)。
【0061】
尚、本例で用いているNd:YVO4やSBRについては、厚みが薄く機械的強度が小さいため、保持用の基板(サファイア基板等)に接着して使用される。例えば、Nd:YVO4は、サファイア基板との接着層にコーティングを施して、共振器の発振波長に対して高反射となるようにミラー機能を持たせている。この接着層におけるミラーと、SBRのブラッグ反射鏡との、2枚のミラーで共振器が構成される。
【0062】
このような2枚の平行ミラーで閉じ込められる光共振器の場合、安定性や再現性、振動に対する剛性を高めるには、相反する2つの要請からくる問題について解決が必要である。
【0063】
その一つは、レーザ媒質等の各構成素子の保持方法として、機械的な剛性を向上させるためには、各素子が面で接するように接着することである。そして、各構成素子を接着により固定して保持する部材(あるいは支持部材)については、同一部材又は一体化された部材とすることが好ましい。
【0064】
第二には、2つの構成素子間での相対的な傾きについて、サブミリラジアン(0.1mrad)の精度で平行に合わせる必要がある。つまり、前述したように、共振器構成の平行度に係る許容幅がサブミリラジアンのオーダーであって、平行度調整は必須といえる。
【0065】
この2つの課題を同時に満足することは困難であり、その理由には、支持部材の加工精度の面から実現可能な平行度には限界が存在することが挙げられる。
【0066】
例えば、レーザ媒質とミラー又は可飽和吸収体との間に、空気層を介在させた構造において、各光学素子と空気層との界面同士が正確に平行となるように平行度を確保することは困難である。組立や加工精度が充分でない場合には、空気層との界面の間で必要な平行度が得られなくなり、これが光学素子の傾き誤差となってレーザの特性や性能に悪影響を及ぼす虞がある。
【0067】
また、光学素子自体の平行精度又は接着層の平坦度等を、所望の許容幅に収めるための加工は困難であるか、又は可能であるとしても非常に高価なものとなる。このような加工精度のバラツキを加味した場合に、最終的に共振器を構成する反射手段(2枚の平行ミラー)の平行度には、数ミリラジアンのバラツキが存在することは避けられない。支持部材等の加工精度に起因する共振器ミラーの傾き誤差は、励起中心と、形成される共振器モードの中心との間のずれに帰着されるため、ビームの品質を劣化させる要因となる。
【0068】
そこで、共振器を構成する2つの素子(レーザ媒質7とミラー9、あるいはレーザ媒質7と可飽和吸収体9)について、同一の保持用部材に固定するか、又は、それぞれを別個の部材に固定した上で両部材を一体化することにより、機械的強度を高めて剛性を増すとともに、各素子間の平行度については、ミリラジアン程度のバラツキが存在することを許容した上で(角度誤差に伴う傾きをなくすための角度調整を不要にする。)、励起位置の調整により傾き補償を行えるようにするための構成(構成素子の界面を平面ではなく、曲面にした構成)を採用する。
【0069】
以下では、図2や図3のように、レーザ媒質において、空気層側の面を曲面に加工した形態について説明する。
【0070】
この曲面(以下、「S」と記し、本例では球面とする。)の曲率半径(これを、「R」と記す。)は、共振器長に比して十分に長いものとする。ここでは、共振器長を400μmとし、曲率半径Rを500mmとする。
【0071】
図4において、レーザ媒質(Nd:YVO4)側のミラー面「M」を基準として、該ミラー面に対する可飽和吸収体(SBR)の傾き角度を「φ」とすると、共振器モードについては、幾何学的には可飽和吸収体の面に対して垂直な直線上で形成される。
【0072】
図中に示す各記号の意味は、下記の通りである。
【0073】
・「θi」=曲面Sでの入射角(屈折点Pにおける界面の法線と入射光線との間になす角)
・「θo」=曲面Sでの出射角(屈折点Pにおける界面の法線と出射光線との間になす角)
・「d」=曲面Sの中心軸(曲率中心Oを通り励起光軸に対して平行な軸)から入射点までの距離
・「l」=曲面Sの中心軸上におけるレーザ媒質の厚み
・「Δl」=「l」を基準としたレーザ媒質の厚み変化。
【0074】
図4において、太線の矢印で示すように、レーザ媒質7における一方の面から垂直に入射される光(波長809nmの励起光)は、レーザ媒質7と空気層4aとの界面において屈折した後、空気層4aを経て可飽和吸収体13に入射される(可飽和吸収体13にはレーザ媒質7から空気層4aを透過した光が垂直に入る)。
【0075】
レーザ媒質7の屈折率を「N」と記すと、レーザ媒質7と空気層4aとの界面である曲面S上の点Pにおいて、スネル則から下式が成り立つ。
【0076】
sinθo=N・sinθi (1)式
尚、ここで、「sin」は正弦関数を意味する。
【0077】
距離dについては、θiとRに関して、幾何学的な関係から下式が成り立つ。
【0078】
d=R・tanθi 又は θi=arctan(d/R) (2)式
尚、ここで、「tan」は正接関数を意味し、「arctan」は逆正接関数を意味する。
【0079】
また、φ、θo、θiの3間には、下式の関係がある。
【0080】
θo−φ=θi 又は φ=θo−θi (3)式
【0081】
従って、θoやθiが十分に小さいとする1次近似の範囲内では、(1)式から「θo≒N・θi」が得られ、(2)式から「θi≒d/R」が得られるので、これらと(3)式に基いて下式が得られる。
【0082】
φ=(N−1)・(d/R) (4)式
【0083】
よって、Nd:YVO4の場合、その屈折率Nがほぼ2であるので、下式が成り立つ。
【0084】
φ≒d/R (5)式
【0085】
例えば、dの最大値を「dmax」と記し、「d=dmax=1」(単位:mm)、「φ=2」(単位:ミリラジアン)を上式に代入すると、曲率半径Rの値として500mmが得られる。尚、距離dにおけるΔlについては、「Δl=R・(1−cosθi)≒d2/(2・R)」から求められる。
【0086】
ここで重要なことは、可飽和吸収体13が角度φをもって傾いていても、曲率中心Oを含む中心軸から距離dだけ離れた位置で励起光を入射すれば、共振器モードがレーザ媒質7のミラー面「M」に対して垂直に形成されるという点である。即ち、励起光スポットの中心と、共振器モードの中心とが一致する(励起光軸と共振器モードの中心軸との間にずれがない)結果、不要な横モードを励起しない。
【0087】
例えば、レーザ媒質(Nd:YVO4)における空気層側の面に、曲率半径R=500mmの球面加工を施した場合に、可飽和吸収体(SBR)が仮に1ミリラジアン傾いたとしても(φ=1mrad)、(5)式から分かるように、d=0.5mmの距離だけ中心部から離れた場所を励起すれば、ビーム品質の良い、単一横モードのレーザ光(波長1064nm)を得ることができる。
【0088】
正確な平行平板ミラーを用いて構成される共振器の場合には、励起位置は任意であって場所を選ばないが、本例のように、曲面を用いる場合には、励起位置を特定して、その1点を発振ポイントとする必要が生じる。
【0089】
図5は、組立時の調整工程について説明するための図である。
【0090】
励起光源2aからの励起光は、光学系2b(レンズ14、レンズ15、ミラー16を含む。)を介して共振器6に照射され、レーザ媒質7、空気層4aを透過して、可飽和吸収体13に到達する。
【0091】
上記のように、レーザ媒質7のうち、空気層4a側の界面については曲面加工が施されており、可飽和吸収体13の傾きφを考慮した場合には、曲面Sの曲率中心を通る中心軸に対して、励起光軸を常に一致させる訳には行かず、「d=(R・φ)/(N−1)」から決まる距離dの変位量をもって励起位置を調整することが必要である。
【0092】
そのためには、下記に示す方法が挙げられる。
【0093】
(1)励起光に対して共振器を移動させる方法
(2)共振器に対して励起光を移動させる方法
(3) (1)と(2)とを組み合わせた方法。
【0094】
要は、励起光学系と共振器系との間の相対的な位置合わせを行うことによって、励起位置を適正に設定することができる。上記した例では、レーザ媒質7に形成される曲面Sの曲率半径Rと、可飽和吸収体13に係る傾き角度φとの積によって決まる距離dを調整することで角度補正が可能となり(レーザ媒質と可飽和吸収体のクリアアパーチャーである数mm程度の範囲内で補正が可能となる。)、機械加工の精度として数ミリラジアンの公差を許容できる。
【0095】
従って、レーザ媒質と可飽和吸収体を、同一部材又は一体化された部材に固定したものを全体として、励起光軸に対して相対的に移動させることによって、角度誤差について調整することができる。しかも、一体化された基板に固定された構成素子によって形成される共振器部分(アセンブリ)については、環境変動や外部応力、振動等に対して強い構造を備えており、また、その調整については、励起光軸に直交する方向における光学系又は共振器の移動(横方向へのシフト)で済むため作業が簡単であり、調整後の接着固定について十分な剛性が得られる。
【0096】
尚、本例では、レーザ媒質における空気層側に、凸曲面を形成した例については説明したが、これに限らず、図6で誇張的に示すように、各種形態での実施が可能である。
【0097】
・レーザ媒質7の空気層側の面に、凹面加工を施した形態(図6(A)参照)
・可飽和吸収体13を湾曲させて、その空気層側の面が、レーザ媒質7側に突出した凸曲面とされた形態(図6(B)参照)
・可飽和吸収体13を湾曲させて、その空気層側の面が、レーザ媒質7から離れる方向に窪んだ凹曲面とされた形態(図6(C)参照)
【0098】
以上に説明した各構成によれば、レーザ共振器を構成する素子のうち、空気層側の界面について曲面加工を施すとともに、励起位置を調整することにより、共振器モード形成のための調整を行うことができる。即ち、共振器ミラーの角度調整を行って平行度を許容範囲に収めるのと同様の効果を、励起位置の調整によって実現できるので、作業性が向上する。そして、共振器の構成素子間の平行度に係る許容範囲を広げるとともに、安価な部品構成及び組み立て調整でもって、高精度かつ高品質のビームを作り出すことができる。
【0099】
【発明の効果】
以上に記載したところから明らかなように、請求項1に係る発明によれば、励起位置を選ぶことにより共振器モードの形成について適正に調整することができるので、構成素子間の平行度の許容範囲を広げることができる。よって、組立時において非常に微妙な調整を行う必要がなくなり、また、組立や調整の手順が比較的単純である。そして、複雑な調整機構は不要であり、作業が容易であって、励起位置の設定(選択)した後において、経年変化等の影響を受けにくいので、動作的に安定であり、信頼性が高い。
【0100】
請求項2に係る発明によれば、構成素子間の中間媒質として気体層を設けることにより、熱的な影響による特性や動作点の不安定化を防止することができる。
【0101】
請求項3に係る発明によれば、共振器構成素子が空気層を挟んで対向した構成の採用により、素子間の熱的な影響を軽減したり、コスト低減にとって有利である。
【0102】
請求項4に係る発明によれば、連続波レーザへの適用において、振動等の影響を受け難くし、動作の安定性を保証することができる。
【0103】
請求項5に係る発明によれば、受動Qスイッチレーザへの適用において、振動等の影響を受け難くし、動作の安定性を保証することができる。
【0104】
請求項6に係る発明によれば、可飽和吸収体に曲面を形成する場合に比較して、加工面で有利である。
【0105】
請求項7や請求項8に係る発明によれば、凹面形成に比べて曲面の加工が容易であり、コスト面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るレーザ光発生装置の基本構成例を示す図である。
【図2】図3とともに、レーザ光発生装置の構成例を示す図であり、本図は連続波レーザへの適用例を示す図である。
【図3】受動Qスイッチレーザへの適用例を示す図である。
【図4】共振器設計についての説明図である。
【図5】組立工程における励起位置の調整について説明するための図である。
【図6】共振器に係る各種の構成形態を示す概略図である。
【図7】熱レンズ効果の説明図である。
【図8】部材の傾きを示す概略図である。
【図9】励起光軸と共振器モード軸とのズレによる影響について説明するための図である。
【図10】従来例を示す説明図である。
【図11】別の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
1、1A、1B…レーザ光発生装置、2a…励起光源、3…レーザ媒質、4…中間媒質、4a…空気層、5…反射手段、6…レーザ共振器、7…レーザ媒質、10、11…基板、13…可飽和吸収体、S…曲面
Claims (8)
- 連続波の励起光を発生させる励起光源と、励起位置での発熱による熱レンズ効果を利用したレーザ共振器を備えたレーザ光発生装置において、
上記レーザ共振器の構成素子としてレーザ媒質及び反射手段を備えており、
上記レーザ共振器の構成素子に係る平行度の角度誤差に応じて上記励起光の光軸に直交する方向における上記励起位置を調整するために、上記構成素子の界面が曲面として形成されている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項1に記載したレーザ光発生装置において、
上記構成素子間の中間媒質として気体層が介在されるとともに、上記構成素子と中間媒質との界面が曲面として形成されている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項2に記載したレーザ光発生装置において、
上記中間媒質として空気層が設けられ、上記レーザ共振器の構成素子のうち、空気層を挟んで対向される2つの構成素子のうち、その一方の素子における空気層側の面が曲面とされている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項3に記載したレーザ光発生装置において、
上記空気層を挟んで対向される2つの構成素子が、レーザ媒質及び反射手段であり、
上記レーザ媒質が設けられた基板と、上記反射手段が設けられた基板とが結合されることで一体化された構造を有する
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項3に記載したレーザ光発生装置において、
上記空気層を挟んで対向される2つの構成素子が、レーザ媒質及び可飽和吸収体であり、
上記レーザ媒質が設けられた基板と、上記可飽和吸収体が設けられた基板とが結合されることで一体化された構造を有する
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項5に記載したレーザ光発生装置において、
レーザ媒質のうち空気層側の面が曲面に加工されている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項4に記載したレーザ光発生装置において、
レーザ媒質のうち空気層側の面が、該空気層側に突出した凸曲面とされている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。 - 請求項5に記載したレーザ光発生装置において、
レーザ媒質又は可飽和吸収体のうち空気層側の面が、該空気層側に突出した凸曲面とされている
ことを特徴とするレーザ光発生装置。
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JP2007214207A (ja) * | 2006-02-07 | 2007-08-23 | Sony Corp | レーザ光発生装置 |
JP2008503096A (ja) * | 2004-06-14 | 2008-01-31 | フランス テレコム エス アー | 光電磁波増幅集束器 |
KR101609850B1 (ko) * | 2014-03-24 | 2016-04-08 | 주식회사 나무가 | 광원을 이용한 렌즈 광축조정시스템 및 광축조정방법 |
CN106025778A (zh) * | 2016-07-08 | 2016-10-12 | 山东省科学院激光研究所 | 用于光纤激光器被动锁模的饱和吸收体 |
WO2022249733A1 (ja) * | 2021-05-26 | 2022-12-01 | ソニーグループ株式会社 | レーザ素子及び電子機器 |
-
2002
- 2002-10-01 JP JP2002288766A patent/JP2004128140A/ja active Pending
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