JP2004125625A - 表面プラズモン共鳴測定用バイオチップ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)と固定化部位以外のバックグラウンド部を有する表面プラズモン共鳴(SPR)測定用バイオチップであり、分子量が2000以上20000以下のポリ−L−グルタミン酸を1mg/mlの濃度で溶解しているpH7.4のリン酸緩衝液が30℃にてチップ表面に10分間接触させた後に、リン酸緩衝液で10分間洗浄した場合において、固定化部位に結合するポリ−L−グルタミン酸によって得られるSPRによるシグナルと、固定化部位以外のバックグラウンド部への非特異吸着によるシグナルのシグナル比が2以上であるSPR測定用バイオチップ
Description
【発明の属する技術分野】
表面プラズモン共鳴によって物質間の相互作用を評価できるバイオチップに関する。特には、生体分子内のCOOH等の官能基等を利用して生体分子をバイオチップに固定化しすることにより、表面プラズモン共鳴を測定した際にバックグランドとの差が明白になるバイオチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、DNAや蛋白質などの生体分子の機能を調べるあるいは、発現遺伝子、蛋白質を明らかにする手段として、生体分子間の相互作用を評価する試みがなされている。その一つとして表面プラズモン共鳴(SPR)法による相互作用解析法が挙げられる。SPRは分析体を固定化した金属薄膜に光を照射して反射光をモニターし、サンプルとの相互作用を共鳴角の変化で測定する方法である。
【0003】
SPRの利点は、相互作用分析に蛍光やラジオアイソトープなどのラベル物質が不要な点とリアルタイムでの測定が可能な点である。ラベル物質を物質に導入するのは非常に煩雑かつ困難な場合があり、ラベル操作により物質の本来の機能、活性が失われる場合がある。
【0004】
SPRで相互作用を観察するには分子を金属薄膜表面に固定化する必要がある。固相に生体分子を固定化する方法として、表面に導入した官能基を起点とし、共有結合、イオン結合によって固定化する手段などが挙げられる。
【0005】
従来の技術では基板上の一点を測定するものがほとんどであるが、文献等にあるようにSPR技術を応用したSPRイメージング法によって基板表面の局在部位におけるSPR変化を検出することが可能である(例えば、非特許文献1)。すなわち、基板上の異なる場所に複数の物質を固定化すれば、複数の物質の相互作用解析が同時に可能である。
【0006】
SPRに用いられるチップも、基板全体に官能基を導入するものがほとんどであり、生体分子を固定化していない状態では固定化部位とバックグラウンド部の区別がない。そのため、SPRイメージング法に適用すると、バックグラウンド部に存在する官能基へサンプルが非特異的吸着するのを無視できない場合がある。また、微少量だけ特定の位置に生体分子溶液をスポットする技術も必須であり、高価なスポッティング装置が必要となる。
【0007】
米国特許では、固定化部位に生体分子を固定化し、バックグラウンド部に起点となる官能基あるいは結合分子が存在しない親水性高分子を固定化したアレイを作製する手段が開示されている例えば、特許文献1)。この発明では、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化する際にはバックグラウンド部は可逆性疎水性保護基が固定化されており、スポッティングが容易である。しかし、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化したのちに塩基性有機溶媒を用いて疎水性保護基を除去し、親水性高分子を固定化する操作が必要であり、非常に煩雑かつ、塩基性有機溶媒が生体分子もしくは生物分子集合体に悪影響を与えることが懸念される。また、親水性高分子を固定化する際に固定化した生体分子もしくは生物分子集合体に悪影響を与えることが懸念される。具体的には親水性高分子が固定化生体分子に結合し、生体分子の機能が損なわれる点である。
【0008】
そこで、バックグラウンド部には非特異的吸着がほとんどなく、固定化部位に生体分子もしくは生物分子集合体を、活性を保ったまま固定化できるバイオチップが望まれている。
【0009】
本発明はバックグラウンド部に非特異的吸着を抑制する物質が固定化され、固定化部位には固定化させるための起点となる陽性荷電をもつ官能基を有する物質が固定化されているバイオチップを得ることを可能とする。
【0010】
【非特許文献1】
Anal. Chem. 1997年,69巻,1449−1456
【特許文献1】
米国特許6127129号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、バックグラウンド部には非特異的吸着がほとんどなく、結合部位に生体分子もしくは生物分子集合体の活性を保ったまま固定化できるSPR測定用バイオチップを得ることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
1.生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)と固定化部位以外のバックグラウンド部を有する表面プラズモン共鳴(SPR)測定用バイオチップであり、分子量が2000以上20000以下のポリ−L−グルタミン酸を1mg/mlの濃度で溶解しているpH7.4のリン酸緩衝液が30℃にてチップ表面に10分間接触させた後に、リン酸緩衝液で10分間洗浄した場合において、固定化部位に結合するポリ−L−グルタミン酸によって得られるSPRによるシグナルと、固定化部位以外のバックグラウンド部への非特異吸着によるシグナルのシグナル比が2以上であることを特徴とするSPR測定用バイオチップ。
【0014】
2.固定化部位に導入されている官能基がアミノ基であることを特徴とする1に記載のバイオチップ。
【0015】
3.バックグラウンド部に非イオン性物質が固定化されていることを特徴とする1もしくは2記載のバイオチップ。
【0016】
4.金を蒸着した透明ガラスもしくは透明プラスチックを基板として用いることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のバイオチップ。
【0017】
5.表面プラズモン共鳴がSPRイメージングであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載のバイオチップ
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明はSPR測定用のバイオチップであり、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に固定化し、相互作用解析や発現遺伝子、蛋白質などのスクリーニングに有効である。本発明の特性を持つバイオチップは生体分子もしくは生物分子集合体の固定化部位と、固定化部位以外のバックグラウンド部は明確に区別されており、固定化部位には好ましくは固定化させるための起点となる陽性荷電をもつ官能基を有する物質が固定化されていることが好ましい。生体分子もしくは生物分子集合体は陽性荷電をもつ官能基を起点として、共有結合、イオン結合などによって表面に固定化することができる。この場合、陽性荷電をもつ官能基にヘテロジニアスな架橋剤を用いるとより効果的に、生体分子もしくは生物分子集合体を表面に導入できる。
【0019】
本発明のバイオチップはSPRイメージングなどの基板表面を解析する方法に適しており、複数の固定化部位に複数の物質を固定化し、同時に相互作用解析することが可能である。SPRで解析できるよう、基板は透明プラスチックあるいはガラスが好ましく、その表面には金属薄膜が形成されている。金属薄膜は特に金を蒸着した表面が好ましい。
【0020】
陽性荷電をもつ官能基はアミノ基などが挙げられ、特に限定されるものではないが、官能基を導入する方法の例として、末端に陽性荷電をもつアルカンチオール物質を金蒸着表面に直接作用させ、金−硫黄結合によって直接的に陽性荷電をもつ物質を導入する方法が考えられる。
また、そのほかの方法としては、末端に陰性荷電をもつアルカンチオール物質を金蒸着表面に直接作用させ、金−硫黄結合によって陰性荷電を導入しておき、その後、陽性電荷部位を複数持つ化合物をイオン結合によって結合させ、陽性荷電物質を間接的に表面に導入する方法なども考えられる。
またさらには、反応性基を持つチオール物質を金蒸着表面に直接作用させ、金−硫黄結合によって反応性基を導入しておき、その後、反応性基と反応可能な基を持ちかつ陽性電荷を持つ化合物を反応させ、陰性荷電物質を表面に導入する方法なども考えられる。この際のチオール物質の反応性基と陽性電荷をもつ化合物の反応可能な基としては、水酸基、アミノ基、カルボン酸基、チオール基。グリシジル基、酸無水物基、イソシアネート基、ビニル基等があり、これらを適宜組み合わせて用いる。
【0021】
このようにして導入されたバイオチップの固定化部位表面上のアミノ基等の陽性荷電をもつ官能基は生体分子もしくは生物分子集合体と効果的に結合させることができる。生体分子もしくは生物分子集合体を結合させる方法は、特に限定するものではないが、例えば生体分子が有するCOOH基を活性化して表面に固定化することや、スクシンイミド基を有する架橋剤を用いて、生体分子を表面に固定化することができる。
【0022】
バックグラウンドは非特異的吸着を抑制するため非イオン性物質が固定化されることが好ましい。例えば末端に水酸基あるいはポリエチレングリコールなどの親水性高分子をもつアルカンチオールを直接金表面に固定化する方法が挙げられる。また、官能基を末端にもつアルカンチオールを導入しておき、該官能基を利用して間接的に非イオン性物質を表面に固定化する方法も挙げられる。
【0023】
固定化部位とバックグラウンド部を分ける手段としては光照射によるパターン化技術や、スタンプ技術などが挙げられる。例えば、光を照射してパターン化する手法では、紫外線により金−硫黄結合を酸化して洗浄除去し、新たにアルカンチオールを金表面に結合させることができる。
【0024】
バイオチップはSPR装置にセットされ、緩衝液中にて観察される。緩衝液の屈折率によってSPR共鳴角が変化するため、測定は同一の緩衝液で実施される。緩衝液を導入した段階で、撮影する角度が設定される。バイオチップがSPR共鳴を起こし、反射光強度が極小となる入射角(SPR共鳴角)から0.5度から1度小さい角度にて測定は実施されることが好ましい。本発明のバイオチップに対して、1mg/mlの濃度でpH7.4のリン酸緩衝液に溶解した分子量2000以上20000以下のポリ−L−グルタミン酸を30℃にてチップ表面に接触させると、イオン結合によってポリ−L−グルタミン酸が固定化部位に結合し、SPR共鳴角が広角側にシフトするため、反射光強度が増大する。ここでいうリン酸緩衝液は10mMリン酸、150mM塩化ナトリウムを使用する。バックグラウンド部には非イオン性物質が固定化されているため、陰性荷電をもつ高分子の吸着は少ない。
【0025】
SPR装置にはスライド表面の解析が可能である白色光源を用いたSPRイメージング装置を使用する。スライドからの反射像はCCDカメラによって撮影するSPRイメージングにより、経時的に画像が取り込まれる。取り込まれた画像から高分子を接触させる前の画像の差を演算処理によって得ることができる。分子量が2000以上20000以下のポリ−L−グルタミン酸を1mg/mlの濃度で溶解しているpH7.4のリン酸緩衝液が30℃にてチップ表面に10分間接触させた後に、リン酸緩衝液で10分間洗浄した場合において、固定化部位に結合するポリ−L−グルタミン酸によって得られるSPRによるシグナル増加と、固定化部位以外のバックグラウンド部への非特異吸着によるシグナル増加を比較する。比較対照はポリ−L−グルタミン酸を接触させる前の画像となる。この操作によって、ポリ−L−グルタミン酸を接触させる前と、10分間接触させ後に10分間洗い流した後のシグナル変化を比較することができる。なお、測定は実施例に示したようなフローセルを用いるが、フローセル内の容量と流量との関係がほぼ実施例と同じになるのであれば、実施例で示した形状のフローセルでなくても良い。
固定化部位に結合するポリ−L−グルタミン酸によって得られるSPRによるシグナルと、固定化部位以外のバックグラウンド部への非特異吸着によるシグナルのシグナル比が2以上であると、固定化部位に生体分子もしくは生物分子集合体を導入するのが容易となるため好ましい。また、このシグナル比は3以上あることがより好ましい。なお、シグナル比を得る場合、比較される固定化部位とバックグラウンド部は基板上1mm以上離れないように設定する。画像をコンピュータで解析する方法として、例えば画像処理ソフトV++(Digital Optics社)を用いてリアルタイムでシグナル変化を捉えることができる。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例]
厚さ1mm、18mm×18mmのSF10製透明ガラス基板上にクロム1nmを蒸着した後、金を45nm蒸着した。蒸着の厚みは水晶発振子にてモニターした。金が表面に蒸着された基板を7−Carboxy−1−Heptanethiol(7−CHT、同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、7−CHTの自己組織化表面を形成させた。0.2M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(ナカライテスク社製)、0.05M N−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク社製)、アミノ基末端ポリエチレングリコール分子量5000(mPEG−Amine,Sheawater Polymers社製)をリン酸緩衝液に10mg/mlで溶解し、金表面の8−AOTに2時間反応させ、PEGを表面に固定化した。水晶上にクロムでパターンを描いたフォトマスクを基板上に置き、ウシオ電機製1000W高圧水銀ランプにて一時間照射してパターン化を行った。
【0028】
フォトマスクのパターンは500μm×500μmの四角形が100個並んだものである。照射後、ミリQ水とエタノールで洗浄したのち、8−Amino−1−Octanethiol, Hydrochrolide(8−AOT,同仁化学研究所製)の1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、光を照射した部分に8−AOTの自己組織化表面を形成させた。こうして作製したバイオチップは固定化部位にアミノ基をもち、バックグラウンド部に非イオン性のPEGが固定化されている。
【0029】
このバイオチップをSPRイメージング機器(SPRImager:GWC instruments社製)にセットし、固定化部位のSPR共鳴角から1度入射角が小さい角度で観察した。観察は10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.4、30℃で実施した。1mg/mlの分子量3000−15000のポリ−L−グルタミン酸(シグマ社製)を接触させる前と接触させてから10分、前記の緩衝液を10分流した後の写真を連続的に5秒おきに撮影し、固定化部位とバックグラウンドのシグナル変化を解析した結果を図1に示す。
【0030】
固定化部位3点、バックグラウンド部3点の合計6点にて反射光強度の経時変化を求め、三箇所のシグナル比を得た。結果は5.20、3.93、19.2で、平均は9.46であり2を上回っていた。
【0031】
なお、pH7.4のリン酸緩衝液は10mMリン酸、150mM塩化ナトリウムを用い、バイオチップとの接触はこの溶液中に30℃で10分間接触させ、その後、同じpH7.4のリン酸緩衝液で30℃10分間洗い流した。バイオチップとの接触・洗浄はフローセルを用い、フローセルはPOM製で図4で示したものを用いた。具体的にはフローセルの溝部に線径1.5mm、内径15.5mmのシリコンゴム製Oリングをセットし、さらにこの上にバイオチップを金蒸着面がフローセルと向き合うようにして重ね、フーローセル−バイオチップの間隔が200μ程度になるようにして固定した。フローセルの注入部および排出部にチューブを接続し、緩衝液ポンプにてポリ−L−グルタミン酸溶液および緩衝液を導入した。導入流量はいずれも200μl/minで行った。
測定温度は25℃で行った。
【0032】
また、ポリ−L−グルタミン酸の接触前と緩衝液流入後の画像の差をとった結果を図2(概略図)に示す。色が濃くなっている部分は反射光強度が上がっていることを示す。
この画像の差の濃淡を、点線で観察したグラフを図3に示す。この図からもバックグラウンド部のシグナルと固定化部位のシグナルのシグナル比が2以上であることを察することができる。
【0033】
[比較例]
実施例と同様の金蒸着基板を8−AOTの1mMエタノール溶液に16時間浸漬し、全面に8−AOTの自己組織化表面を形成させ、基板全体にアミノ基を導入した。この表面に実施例と同様に1mg/mlの分子量3000−15000のポリ−L−グルタミン酸(シグマ社製)を接触させたところ、ポリ−L−グルタミン酸は基板全体に結合するため、シグナルの比は1.00となる。この場合のバイオチップは固定化部位とバックグラウンド部の区別がない。
【0034】
【発明の効果】
本発明のSPR用バイオチップは生体分子もしくは生物分子集合体がバックグラウンド部には非特異的吸着することががほとんどなく、効率よく活性を保ったまま結合部位には吸着し、SPRを測定した際にバックグランドとの差が明白になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で得られた、SPRにて固定化部位とバックグラウンドのシグナル変化を解析した結果の図
【図2】実施例でのポリ−L−グルタミン酸接触前と緩衝液流入後の画像の差をとった結果図
【図3】図2の画像の差の濃淡を点線部で観察したグラフ
【図4】実施例で用いたフローセルの上面および断面(上面図の点線部分の断面)図
Claims (5)
- 生体分子もしくは生物分子集合体を固定化する部分(固定化部位)と固定化部位以外のバックグラウンド部を有する表面プラズモン共鳴(SPR)測定用バイオチップであり、分子量が2000以上20000以下のポリ−L−グルタミン酸を1mg/mlの濃度で溶解しているpH7.4のリン酸緩衝液が30℃にてチップ表面に10分間接触させた後に、リン酸緩衝液で10分間洗浄した場合において、固定化部位に結合するポリ−L−グルタミン酸によって得られるSPRによるシグナルと、固定化部位以外のバックグラウンド部への非特異吸着によるシグナルのシグナル比が2以上であるSPR測定用バイオチップ
- 固定化部位に導入されている官能基がアミノ基であることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ
- バックグラウンド部に非イオン性物質が固定化されていることを特徴とする請求項1もしくは2記載のバイオチップ
- 金を蒸着した透明ガラスもしくは透明プラスチックを基板として用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバイオチップ。
- 表面プラズモン共鳴がSPRイメージングであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバイオチップ
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