JP2004123978A

JP2004123978A - 潤滑剤

Info

Publication number: JP2004123978A
Application number: JP2002292380A
Authority: JP
Inventors: Hiroe Okawa; 大川　広衛; Katsumi Mizojiri; 溝尻　勝美; Nobikatsu Kimura; 木村　宣且; Takayuki Shibayama; 柴山　隆之
Original assignee: Daido Metal Co Ltd
Current assignee: Daido Metal Co Ltd
Priority date: 2002-10-04
Filing date: 2002-10-04
Publication date: 2004-04-22
Also published as: US20040067858A1; US7141536B2

Abstract

【課題】従来の潤滑油に代わる無公害のものであって、潤滑特性なかでも特に低摩擦特性に優れる潤滑剤を提供する。
【解決手段】スクロースを主体としこのスクロースに対して０．２〜２０質量％の二糖類カラメルを添加した糖質を、全体の０．５〜３０質量％含み、残部を水（純水）とした水溶液から潤滑剤を構成する。スクロースとしては、グラニュー糖または氷糖を採用することが好ましく、予め二糖類カラメルを含んだコーヒーシュガーを採用することもできる。さらに、ラウリン酸ナトリウム及び／又はラウリン酸カリウムを、０．００１〜１質量％添加することがより好ましい。また、防腐剤としてのソルビン酸カリウムを、０．１〜３質量％添加することが望ましく、防錆剤としてのベンゾトリアゾール及びそのアルカリ金属塩を０．１〜３質量％添加することが望ましい。
【選択図】　なし

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体摩擦面間の潤滑に用いられる潤滑剤に関する。
【０００２】
【従来の技術】
例えばエンジンや電動機、発電機等の各種機械の軸受部やギヤ部、ピストン，シリンダ部等における潤滑のためには、石油系の液状の潤滑油が用いられることが一般的である。ところが、この種の石油系の潤滑油を無闇に漏らしたり廃棄したりすると、自然環境の汚染などを招く虞がある。これに対し、従来の石油系の潤滑油に代わる、自然環境の汚染を招くことのない無公害の液状の潤滑剤として、精製糖，粗糖，含密糖などの糖質を０．１質量％以上含む水溶液からなる潤滑剤が考えられている（例えば特許文献１参照）。
【０００３】
【特許文献１】
特開２００１−１７２６６４号公報
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記のような糖質を含んだいわゆる水系潤滑剤においては、糖質であればどの種類でも良好な潤滑特性（低摩擦特性、耐摩耗性、非焼付性）が得られるとは限らず、糖質の種類によっては特に非焼付性の面で劣るものがあるといった事情がある。そこで、本発明者らは、その後の研究により、このような無公害の水系潤滑剤に採用すべき糖質としては、スクロースが優れた潤滑特性、特に非焼付性を得ることができることを知見し、糖質としてスクロースを採用した水系潤滑剤を開発し、先に出願している（特願２００２−８６２６０）。
【０００５】
このような、糖質としてスクロースを採用した水系潤滑剤の発明により、水系潤滑剤における潤滑特性の向上に、大きな成果をあげることができたのである。しかし、本発明者らは、そのような成果に満足することなく、潤滑剤に要求される潤滑特性のより一層の向上、特に摩擦係数をより小さくすることを目指して、更に研究開発を進めてきたのである。
【０００６】
従って、本発明の目的は、従来の潤滑油に代わる無公害のものであって、潤滑特性なかでも特に低摩擦特性に優れる潤滑剤を提供するにある。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、糖質を含む水溶液からなる無公害の水系潤滑剤にあっては、糖質として二糖類のうちトレハロース型であるスクロースを採用することが、良好な潤滑特性、なかでも優れた非焼付性を得ることができることを既に知見している。ここで、一般的には、糖質の中で環状炭化水素構造をもつ構造体が水中で良好な摺動特性を示すが、そのなかでも、特にスクロースのように両構成単糖にアルコール基をもつ炭素原子がエーテル結合しているものが、優れた潤滑特性を得ることができると考えられる。これは、水潤滑剤としての使用時に、エーテル結合している炭素に付いているアルコール基が、金属表面との親和性を呈し、従って、スクロースが摺動面である金属表面に吸着するため優れた摺動特性（非焼付性）が発現したものと推測される。
【０００８】
そして、本発明者らは、このように糖質としてスクロースを主体として含んだ水系潤滑剤にあって、更に、潤滑特性なかでも低摩擦特性のより一層の向上を図るべく、試験、研究を重ねた結果、主体となるスクロースに二糖類カラメルを適量添加させることによって、摩擦係数が大幅に低下することを知見し、本発明を完成させるに至ったのである。
【０００９】
即ち、本発明の請求項１の潤滑剤は、スクロースを主体としこのスクロースに対して二糖類カラメルを０．２〜２０質量％添加した糖質を、全体の０．５〜３０質量％含む水溶液からなるところに特徴を有する。これにより、従来の潤滑油に代わる自然環境の汚染を招くことのない無公害のものであって、潤滑特性に優れ、なかでも低摩擦特性に特に優れた潤滑剤を提供することができる。
【００１０】
ここで、二糖類カラメルとは、二糖類（スクロース）を約２００℃に加熱溶融させて生じたあめ状の不定形の物質のことである。本発明者らは、スクロースに、この二糖類カラメルを添加することにより、スクロース単独のものに比べて摩擦係数を大幅に低減させることができるということを明らかにしたのである。また、単糖類からつくったカラメルでは、摩擦係数の低減の効果は得られないということも明らかにした。
【００１１】
この場合、二糖類カラメルの添加量は、スクロースに対して０．２〜２０質量％が望ましい。また、糖質（スクロースと二糖類カラメルとの合計）の含有量（濃度）は、水溶液全体の０．５〜３０質量％であることが望ましく、糖質の含有量が０．５質量％未満では、摩耗量、摩擦係数が大きくなると共に、非焼付性に劣るものとなり、３０質量％を越えると、摩耗量、摩擦係数が大きくなる。
【００１２】
尚、二糖類カラメルの添加方法としては、予めスクロースを加熱溶融し、二糖類カラメルを添加して均一に分散させた後、冷却固化あるいは冷却徐冷結晶化させ、粉砕したものを水に溶解させる方法を採用することもでき、また、単純に、スクロースと二糖類カラメルとを別々に添加して水に溶解させるようにしても良い。
【００１３】
また、上記スクロースは、一般的には砂糖の主成分であり、その精製度合いや製法、原料によって、上白糖、三温糖、グラニュー糖などがある。請求項２の発明では、スクロースとして、純度の高いグラニュー糖または氷糖を用いるようにしたところに特徴を有する。これにより、摩擦係数の低減効果をより一層高めることができた。
【００１４】
請求項３の発明では、上記水溶液に、ラウリン酸のアルカリ金属塩、即ち、ラウリン酸ナトリウム及び／又はラウリン酸カリウムを、０．００１〜１質量％添加したところに特徴を有する。これにより、非焼付性をより一層高くすることができた。
【００１５】
これは、界面活性剤として使用される脂肪酸のアルカリ金属塩が、摺動する金属面上に分子が化学吸着や物理吸着によって配向し、上記スクロースとの相乗効果により非焼付性を向上させるものと考えられ、特に、ラウリン酸のアルカリ金属塩が、ステアリン酸等の他の脂肪酸のアルカリ金属塩に比較して常用使用温度域における比表面張力が低く安定しており、水溶液と摺動材料表面が濡れやすくなるためであると考えられる。
【００１６】
このラウリン酸のアルカリ金属塩は、極めて少量の添加でも効果が得られ、その含有量を、全体の０．００１〜１質量％とすることが望ましい。ラウリン酸のアルカリ金属塩の含有量が０．００１質量％未満では、非焼付性向上の効果が得られず、１質量％を越えると、摩耗量、摩擦係数が共に大きくなる。
【００１７】
請求項４の発明では、上記水溶液に、防腐剤としてのソルビン酸カリウムを、０．１〜３質量％添加したところに特徴を有する。これにより、細菌やカビの発生，増殖による衛生上や潤滑性能上の問題の発生を防止し、長期間の使用に耐える潤滑剤を得ることができる。
【００１８】
本発明者らは、複数種類の防腐剤においてその防腐効果を確かめる試験を行った結果、防腐剤としての効果に優れ、且つ、環境への悪影響が少ないという観点から、ソルビン酸カリウムを採用することが最も好ましいということを明らかにした。そして、その添加量としては全体の０．１〜３質量％が適量であり、０．１質量％未満では、防腐剤としての効果が十分に得られず、また、３質量％を越えて添加しても、効果は変化しない。
【００１９】
請求項４の発明では、上記水溶液に、防錆剤としてのベンゾトリアゾール又はそのアルカリ金属塩を、０．１〜３質量％添加したところに特徴を有する。これにより、相手材（摺動面）の錆の発生を防止して長期間の使用に耐える潤滑剤を得ることができる。
【００２０】
この場合も、本発明者らは、複数種類の防錆剤においてその防錆効果を確かめる試験を行った結果、ベンゾトリアゾール及びそのアルカリ金属塩を採用することが最も好ましいということを明らかにした。そして、その添加量としては全体の０．１〜３質量％が適量であり、０．１質量％未満では、防錆剤としての効果が十分に得られず、また、３質量％を越えて添加しても、効果は変化しない。
【００２１】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態に係る潤滑剤を適用した具体例として、水力発電機のロータシャフトを受ける軸受ユニットにおける潤滑構造について、図１及び図２を参照して簡単に述べる。
【００２２】
この軸受ユニット１は、箱状のケーシング２を備え、水力発電機のロータシャフト３は、そのケーシング２の中央やや上部寄り部位を、図１で左右に貫通した状態で支持されるようになっている。このとき、ケーシング２におけるロータシャフト３の貫通部分には、オイルシール等が設けられ密閉状態とされるようになっている。このケーシング２内には、支持壁部４が、内部を図１で左右に仕切るように設けられており、この支持壁部４に、軸受ハウジング５が取付けられるようになっている。ケーシング２内の下部は、本実施形態に係る潤滑剤が収容される潤滑剤溜り２ａとされる。この潤滑剤の詳細については後述する。
【００２３】
これに対し、前記ケーシング２の外部には、図２に示すように、潤滑剤タンク６が設けられ、供給管７及び戻し管８によって前記ケーシング２の下部部分と接続されている。この潤滑剤タンク６には、潤滑剤が収容され、また、該潤滑剤を冷却する冷却機能を有している。これにて、潤滑剤タンク６からの低温の潤滑剤が、供給管７を通してケーシング２内の潤滑剤溜り２ａに供給されると共に、ケーシング２内で高温となった潤滑剤が、戻し管８を通して潤滑剤タンク６に戻されて冷却されるという循環がなされるようになる。尚、ケーシング２内では、常に潤滑剤の液位Ａが保たれるようになっている。また、前記支持壁部４には、潤滑剤の流通を可能とするための開口部４ａが設けられている。
【００２４】
そして、図１に示すように、前記軸受ハウジング５の内周部のうち左半部には、前記ロータシャフト３のラジアル荷重を受けるための円筒状のジャーナル軸受９が設けられる。このジャーナル軸受９は、軸方向の一部（図１で左端寄り部分）においてほぼ上半部が切欠かれており、この切欠き部分に位置して給油用のリング１０が設けられている。このリング１０の上部内周がロータシャフト３に引掛かっていると共に、その下部が前記潤滑剤に浸っており、ロータシャフト３の回転に伴ってリング１０が潤滑剤をすくい上げるようにして、ジャーナル軸受９とロータシャフト３との摩擦摺動面に潤滑剤が循環供給されるようになっている。
【００２５】
また、前記ロータシャフト３の途中部には、径大な鍔状部１１が設けられており、軸受ハウジング５の内周部の右半部には、その鍔状部１１に対応して径大となった径大部が設けられ、この径大部に、ロータシャフト３のスラスト荷重を受けるための一対のスラスト軸受（ティルティングパッド軸受）１２，１２が、該鍔状部１１を挟むように設けられている。このスラスト軸受１２は、周知のように、キャリアリングの内面に複数のスラストパッドを有して構成され、またキャリアリングの外面側には軸受ハウジング５との間にスペーサが設けられる。
【００２６】
このとき、軸受ハウジング５の下部には、前記鍔状部１１の外周側に位置して潤滑剤入口部１３及び潤滑剤出口部１４が形成されており、また、ケーシング２内には、前記潤滑剤入口部１３に連なるように吸上管１５が設けられている。これにて、ロータシャフト３と一体に回転する鍔状部１１の回転によるポンプ作用によって、吸上管１５から潤滑剤入口部１３を通して吸上げられ、鍔状部１１の外周部を通って摩擦摺動面に潤滑剤が循環供給されるようになっており、さらにその潤滑剤は、潤滑剤出口部１４を通して隣のジャーナル軸受９部分などにも供給されるようになっている。
【００２７】
ここで、本実施形態に係る潤滑剤について述べる。この潤滑剤は、特許請求の範囲の記載の通りのものであり、スクロースを主体としこのスクロースに対して二糖類カラメルを０．２〜２０質量％添加した糖質を、全体の０．５〜３０質量％含み、さらに、ラウリン酸のアルカリ金属塩、防腐剤としてのソルビン酸カリウム、防錆剤としてのベンゾトリアゾールを含み、残部を水（純水）とした水溶液から成る。
【００２８】
前記ラウリン酸のアルカリ金属塩としては、ラウリン酸ナトリウムが採用され、その添加量が０．００１〜１質量％とされている。また、前記ソルビン酸カリウムの添加量が０．１〜３質量％とされ、前記ベンゾトリアゾールの添加量が０．１〜３質量％とされている。尚、上記ラウリン酸のアルカリ金属塩としては、ラウリン酸カリウムや、ラウリン酸ナトリウムとラウリン酸カリウムとの混合物を採用しても良く、また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールのアルカリ金属塩を採用しても良い。
【００２９】
さて、後に掲載する表１は、糖質として適量のスクロース及び二糖類カラメルを含んだ水溶液からなる潤滑剤（実施例１〜実施例１０）が、優れた摺動特性（低摩擦特性、耐摩耗性、非焼付性）を有することを、いくつかの比較例（比較例１〜比較例７）と比較することにより調べた摩擦摩耗試験の結果を示すものである。
【００３０】
即ち、実施例１〜実施例１０は、特許請求の範囲に含まれる潤滑剤である。実施例１〜実施例９では、スクロースとして、グラニュー糖、氷糖、蔗糖を用いている。そのうち蔗糖は、スクロース純度が９９．５％の粒状のものを用い、グラニュー糖は，その蔗糖をさらに精製してスクロース純度が９９．９５％のものを用いた。氷糖は、そのグラニュー糖を溶解し、徐冷して結晶を大きく成長させた後、粉砕したもの（スクロース純度が９９．９５％のもの）を用いた。そして、二糖類カラメルは、スクロース純度が９９．５％の蔗糖を２００℃前後で煮詰め、水あめ状とした茶褐色の非晶質結晶構造をもつものを用いた。
【００３１】
また、実施例１０では、コーヒーシュガーを用いている。このコーヒーシュガーは、グラニュー糖を溶解し、二糖類カラメルを１質量％添加し、種結晶を加えて数日間徐冷し、結晶を大きく成長させて不純物を取除いた後に、破砕したものを用いた。
【００３２】
具体的には、実施例１は、０．５質量％のグラニュー糖及び０．０１５質量％の二糖類カラメル（糖質全体に対しては約２．９質量％）を配合し、実施例２は、２５質量％のグラニュー糖及び５質量％の二糖類カラメル（糖質全体に対しては約１６．７質量％）を配合し、実施例３は、９質量％のグラニュー糖及び１質量％の二糖類カラメル（糖質全体に対しては１０質量％）を配合し、夫々、残部を水（純水）とした水溶液から成る。
【００３３】
実施例４、５、６は、前記実施例３と同様に９質量％のグラニュー糖及び１質量％の二糖類カラメルを配合し、これに加え、ラウリン酸ナトリウムを、夫々、０．００２質量％、０．９質量％、０．２質量％配合して、残部を水とした水溶液から成る。実施例７は、前記実施例６と同様の配合に加えて、防腐剤としてのソルビン酸カリウム及び防錆剤としてのベンゾトリアゾールを夫々１質量％配合し残部を水とした水溶液から成る。
【００３４】
実施例８は、９質量％の氷糖及び１質量％の二糖類カラメル（糖質全体に対しては１０質量％）を配合すると共に、０．２質量％のラウリン酸ナトリウム、０．５質量％のソルビン酸カリウム及び０．５質量％のベンゾトリアゾールを配合し、残部を水とした水溶液から成る。実施例９は、実施例３のグラニュー糖に代えて９質量％の蔗糖を配合し、実施例１０は、１０質量％のコーヒーシュガー（グラニュー糖に二糖類カラメルを添加して結晶化させたもの）を配合し、夫々、残部を水とした水溶液から成る。
【００３５】
尚、糖質としての添加量は、実施例１が０．５１５質量％、実施例２が３０質量％であり、残りの実施例３〜実施例１０は、全て１０質量％である。また、これら実施例においては、スクロース及び二糖類カラメルを含んだ水溶液についての効果（摺動特性）を純粋に調べるため、実施例７及び実施例８を除いては、防腐剤（ソルビン酸カリウム）及び防錆剤（ベンゾトリアゾール）を除いた（添加しない）状態で試験を行っている。
【００３６】
これに対し、比較例１〜比較例７は、比較のために調整した、特許請求の範囲から外れた潤滑剤であり、比較例１は、グラニュー糖のみを配合しその配合量を過少としたものであり、比較例２は、グラニュー糖及び二糖類カラメルの配合量を過多としたものである。比較例３、４，５は、スクロースのみを配合し二糖類カラメルを含まないものであり、スクロースとして、夫々、グラニュー糖、氷糖、蔗糖を１０質量％ずつ配合している。比較例６、７は、二糖類カラメルに代えて、単糖類であるブドウ糖からつくったカラメルを共に１質量％配合したものである。
【００３７】
摩擦摩耗試験は、スラスト型摩擦摩耗試験機を用い、軸受材料の材質に、Ｃｕ−２３質量％Ｐｂ合金（裏金付き焼結材料）を採用し、相手材の材質にＳＵＳ３０４を採用して行った。また、その試験は、潤滑剤中に軸受材料を浸漬して行った。尚、試験片の表面粗さは、軸受材料、相手材共にＲｙ０．３μｍ以下とし、試験開始時の潤滑剤の温度を３０℃とした。そして、摩擦摩耗試験は、摺動速度が３０ｍ／ｍｉｎ　、面圧が２ＭＰａの条件で２時間行い、焼付試験は、摺動速度が３０ｍ／ｍｉｎ　、面圧を１０分毎に０．５ＭＰａずつ増加する条件で行った。試験結果は、次の表１の通りである。尚、焼付判断は、試料の背面温度が２００℃以上に上昇した場合、あるいは、急激なトルク上昇があった場合に、その焼付く前の面圧を限界焼付荷重とした。
【００３８】
【表１】

【００３９】
この試験結果から明らかなように、適量のスクロース及び二糖類カラメルを配合した実施例１〜実施例１０の潤滑剤は、全てについて、二糖類カラメルを添加していない比較例１、比較例３〜比較例７と比べて、摩擦係数が飛躍的に小さくなった。また、実施例２〜実施例１０は、比較例１〜比較例７に比べて、耐摩耗性（摩耗量）及び非焼付性にも優れることが明らかになった。スクロース及び二糖類カラメルの添加量が比較的少ない実施例１においても、比較例と同等以上の耐摩耗性及び非焼付性が得られた。
【００４０】
この場合、スクロース及び二糖類カラメルの添加量を過多とした比較例２では、摩擦係数のさほどの低減効果が得られず、耐摩耗性、非焼付性にも劣っていた。そして、比較例６及び比較例７の結果から判るように、カラメルであっても、単糖類からつくられたブドウ糖カラメルでは、摩擦係数低減の効果は得られず、耐摩耗性及び非焼付性にも劣っていた。尚、比較例１及び比較例５における「焼き付き」の記載は、摩耗試験途中に、急激なトルク上昇により焼付いて試験がストップしたものである。比較例２では、試験中特に異常な現象は発生しなかったが、試験終了後、試験片に茶褐色の生成物が多量に付着していた。
【００４１】
さらに、実施例のなかを見てみると、ラウリン酸ナトリウムを添加した実施例４〜実施例８は、添加しないものと比べて、非焼付性に優れたものとなった。また、スクロースとして蔗糖を用いた実施例９よりも、グラニュー糖や氷糖、あるいはコーヒーシュガーを用いた実施例３や実施例８、実施例１０の方が、潤滑特性全般的により優れている傾向が見られる。スクロースの純度がより高くなるほど、優れた潤滑特性が得られると考えられる。さらには、実施例７のように、防腐剤（ソルビン酸カリウム）及び防錆剤（ベンゾトリアゾール）を添加しても、実施例６と比べて潤滑特性に悪影響を及ぼすことはなかったのである。
【００４２】
このように、適量のスクロース及び二糖類カラメルを配合した実施例１〜実施例１０の潤滑剤は、従来の潤滑油に代わる自然環境の汚染を招くことのない無公害のものであって、極めて優れた潤滑特性を得ることができ、なかでも摩擦係数を大幅に低下させることができたのである。さらには、ラウリン酸ナトリウムを添加することにより、非焼付性についてのより一層の向上をも図ることができるものである。
【００４３】
ところで、上記したような適量のスクロース及び二糖類カラメルを配合した水溶液からなる潤滑剤では、細菌やカビの発生，増殖を招き、衛生上や潤滑性能上の問題を発生させる虞があるので、防腐剤を添加してそのような細菌やカビの発生，増殖を防止することが望ましい。また、水系の潤滑剤では、相手材（摺動面）の錆の発生を招く虞があるので、防錆剤を添加して錆の発生を防ぐことが望ましい。
【００４４】
そこで、本発明者らは、本発明に係る潤滑剤において採用すべき防腐剤並びに防錆剤の適正を調べる試験（防腐試験及び防錆試験）を行った。詳しい説明は省略するが、まず、防腐試験は、４種類の防腐剤（安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ヨウ素）について、各防腐剤を潤滑剤に添加した際の防腐効果を調べることにより行った。この防腐試験の結果から、本発明の潤滑剤に採用する防腐剤としては、ソルビン酸カリウムが最も好ましいことが明らかとなった。
【００４５】
また、このソルビン酸カリウムの添加量としては全体の０．１〜３質量％が適量であり、０．１質量％未満では、防腐剤としての効果が十分に得られず、また、３質量％を越えて添加しても、効果的には変化がないことも併せて明らかになった。尚、このソルビン酸カリウムは、食品等にも使用されており、人体や環境への影響が少ないものとなっている。
【００４６】
次に、防錆試験は、３種類の防錆剤（ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダ、クエン酸アンモニウム）、について、各防錆剤を潤滑剤に添加した際の防錆効果を調べることにより行った。この防錆試験の結果から、本発明の潤滑剤に採用する防錆剤としては、ベンゾトリアゾール及びそのアルカリ金属塩が最も好ましいことが明らかとなった。又、ベンゾトリアゾールとそのアルカリ金属塩は同等の防錆効果を得られるが、アルカリ塩にすることにより更に水溶液中での溶解度が向上する。
【００４７】
このベンゾトリアゾール及びそのアルカリ金属塩の添加量としては全体の０．１〜３質量％が適量であり、０．１質量％未満では、防錆剤としての効果が十分に得られず、また、３質量％を越えて添加しても、効果的には変化がないことも併せて明らかになった。
【００４８】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、例えば、本発明の潤滑剤は、上記した水力発電機用の軸受ユニットに限らず、自動車用のエンジンや変速機、電動機，ディーゼル機関、各種工業用機械の軸受部やギヤ部、ピストン，シリンダ部の潤滑や作動油等、様々な用途に適用することができる。また、ラウリン酸のアルカリ金属塩としては、ラウリン酸ナトリウムに限らずラウリン酸カリウム（並びに双方の混合物）を採用しても良い。さらには、本発明の潤滑剤は、濃縮液状で提供し、実使用時に水で薄めるといった使用形態をとることもできるなど、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施の形態を示すもので、軸受ユニットの縦断正面図
【図２】一部を断面で示す軸受ユニット部分の側面図
【符号の説明】
図面中、１は軸受ユニット、２はケーシング、２ａは潤滑剤溜り、３はロータシャフト、６は潤滑剤タンク、７は供給管、８は戻し管、９はジャーナル軸受、１２はスラスト軸受を示す。

Claims

スクロースを主体としこのスクロースに対して二糖類カラメルを０．２〜２０質量％添加した糖質を、全体の０．５〜３０質量％含む水溶液からなる潤滑剤。
前記スクロースとして、グラニュー糖または氷糖が用いられることを特徴とする請求項１記載の潤滑剤。
ラウリン酸ナトリウム及び／又はラウリン酸カリウムを、前記水溶液総量に対して０．００１〜１質量％含むことを特徴とする請求項１又は２記載の潤滑剤。
ソルビン酸カリウムを、前記水溶液総量に対して０．１〜３質量％含むことを特徴とする請求項１ないし３のいずれかに記載の潤滑剤。
ベンゾトリアゾール又はそのアルカリ金属塩を、前記水溶液総量に対して０．１〜３質量％含むことを特徴とする請求項１ないし４のいずれかに記載の潤滑剤。