JP2004123787A - 表示装置用蛍光体とそれを用いたカラー表示装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】CRTやFEDなどのカラー表示装置に用いられる六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善する。
【解決手段】表示装置用蛍光体1は、六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた硫化亜鉛蛍光体からなる。このような六方晶系の硫化亜鉛蛍光体1において、第2の付活剤は蛍光体母体粒子2中に均一に分散されており、かつ第1の付活剤3は蛍光体母体粒子2の表層部に偏在している。
【選択図】 図1
【解決手段】表示装置用蛍光体1は、六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた硫化亜鉛蛍光体からなる。このような六方晶系の硫化亜鉛蛍光体1において、第2の付活剤は蛍光体母体粒子2中に均一に分散されており、かつ第1の付活剤3は蛍光体母体粒子2の表層部に偏在している。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラー陰極線管や電界放出型表示装置などに用いられる表示装置用蛍光体とそれを用いたカラー表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルチメディア時代の到来に伴って、デジタルネットワークのコア機器となるディスプレイ装置には、大画面化や高精細化などが求められている。ディスプレイ装置としては陰極線管(CRT)を使用した装置が広く使用されている。CRTに関してはハイビジョン用テレビや高精細ディスプレイ管などが開発されており、画像の大画面・高品質化や高精細化などが進められている。また、CRTに代わる薄型のディスプレイ装置として、電界放出型冷陰極などの電子放出素子を用いた電界放出型表示装置(FED)の研究、開発が進められている。FEDは基本的な表示原理がCRTと同じであり、明るさ、コントラスト、色再現性などの基本的な表示性能に加えて、視野角が広い、応答速度が速い、消費電力が小さいなどの特徴を有する。
【0003】
上述したCRTやFEDなどのディスプレス装置は、フルカラー表示を可能とするために、青色発光、緑色発光および赤色発光の各蛍光体を含む蛍光膜を有している。このようなディスプレス装置用の青色発光蛍光体や緑色発光蛍光体としては、一般に硫化亜鉛(ZnS)を蛍光体母体とする硫化亜鉛蛍光体が用いられている。例えば、緑色発光蛍光体には硫化亜鉛に第1の付活剤としてCuやAuを含有させると共に、第2の付活剤としてAlを含有させた硫化亜鉛蛍光体が使用されている。
【0004】
ところで、CRTの大画面・高品質化や高精細化などに伴って、蛍光膜を励起する電子線の電流密度は高まってきている。また、FEDにおいても高電流密度の電子線が蛍光膜の励起用として使用されている。その結果として、蛍光膜を構成する蛍光体には高電流密度の電子線に対する耐性、すなわち高電流密度の電子線照射に起因する輝度劣化などを抑制することが求められている。このような点に対して、硫化亜鉛蛍光体に関しては結晶構造を立方晶から六方晶とすることによって、電子線衝撃による輝度劣化などを抑制し得ることが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1や特許文献2には、結晶構造の50%以上を六方晶とした青色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,AlまたはZnS:Ag,M,Al(M:Au,Cu))が記載されている。また、特許文献3には六方晶系の結晶構造を有する青色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,M,Al(M:Au,Cu)や緑色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Cu,Au,Al(Auの配合は任意))が記載されている。
【0006】
上述したように、硫化亜鉛蛍光体は結晶構造を六方晶とすることによって、高電流密度の電子線衝撃による輝度劣化などを抑制し得るものの、結晶構造を六方晶とすることで発光色が短波長側にずれるという問題が生じている。この発光色の変動は緑色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Cu,Al)で顕著に生じており、発光色が緑色から青色側にずれてしまうために、表示装置用の緑色発光成分に求められる発光色を満足させることができなくなってしまう。上述した特許文献3には、緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体にAuを添加することによって、発光色の青色側へのずれを補正することが記載されているが、必ずしも十分な効果は得られていない。
【0007】
一方、FEDなどの加速電圧が低い電子線で蛍光膜を励起する表示装置に使用される蛍光体(低電圧用蛍光体)に関しては、蛍光体母体(ZnS)の表面に金属塩や金属酸化物をコーティングした後に400〜800℃の温度で熱処理することによって、蛍光体母体の表面に付活剤をドーピングする技術が知られている(特許文献4参照)。ここでは、蛍光体母体(ZnS)の表面に付活剤としてMn、Cu、AuAgなどをドープしている。この付活剤のドーピング技術は、浸透深さが浅い電子線による発光効率の向上を目的とするものであり、硫化亜鉛蛍光体の結晶構造を六方晶とすることに起因する発光色の改善は意図しておらず、また六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体については記載されていない。さらに、CuやAuなどの主付活剤(第1の付活剤)のみの制御では、結晶構造を六方晶とした硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善することはできない。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−255791号公報
【特許文献2】
特開平11−349937号公報
【特許文献3】
国際公開第01/77254号パンフレット
【特許文献4】
特許第2914631号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、結晶構造を六方晶とした硫化亜鉛蛍光体は、高電流密度の電子線による輝度劣化などの抑制に有効であるものの、結晶構造を六方晶とすることで発光色が短波長側にずれるという問題を有している。この発光色の変動は緑色発光の硫化亜鉛蛍光体で顕著に生じることから、このような硫化亜鉛蛍光体の発光色の改善を図ることが強く求められている。
【0010】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、CRTやFEDなどのカラー表示装置に用いられる六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善し、カラー表示装置の色再現性などを向上並びに拡大することを可能にした表示装置用蛍光体を提供することを目的としており、またそのような表示装置用蛍光体を用いることによって、蛍光膜を励起する電子線の高電流密度化への対応を図った上で、色再現性などの表示特性を向上させたカラー表示装置を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、CRTやFEDなどの表示装置に使用される硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の結晶構造(六方晶)に起因する発光色の短波長側へのずれを改善(発光色の改善)するために、六方晶系の硫化亜鉛(蛍光体母体)に対する付活剤のドーピング濃度やドーピング方法などを検討した結果、電子線により直接的に励起される第2の付活剤を六方晶系の硫化亜鉛中に均一に分散させた上で、この第2の付活剤の励起エネルギーに基づいて発光する第1の付活剤を硫化亜鉛の表層部に偏在させることによって、発光輝度の低下などを抑制した上で、発光色のずれを補正し得ることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。本発明の表示装置用蛍光体は、請求項1に記載したように、六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた表示装置用蛍光体において、前記第2の付活剤は前記蛍光体母体粒子中に均一に分散されており、かつ前記第1の付活剤は前記蛍光体母体粒子の表層部に偏在していることを特徴としている。本発明の表示装置用蛍光体において、第1の付活剤には例えばCuおよびAuから選ばれる少なくとも1種が用いられ、かつ第2の付活剤には例えばAlが用いられる。
【0013】
また、本発明のカラー表示装置は、請求項6に記載したように、青色発光蛍光体と緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを含む蛍光膜と、前記蛍光膜に電子線を照射して発光させる電子源と、前記電子源と蛍光膜を真空封止する外囲器とを具備するカラー表示装置において、前記蛍光膜は上述した本発明の表示装置用蛍光体を前記緑色発光蛍光体として含むことを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
図1は本発明の表示装置用蛍光体の概略構成を説明するための図である。図1(a)に示す本発明の表示装置用蛍光体1は、蛍光体母体粒子として六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛粒子2を有する。この蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中には、図示を省略した第2の付活剤が均一に分散されている。さらに、硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2の表層部2aには、第1の付活剤3が局所的にドープされており、これらによって本発明の表示装置用蛍光体1が構成されている。
【0016】
表示装置用蛍光体1は、加速電圧が例えば5〜35kVの電子線を照射した際に、緑色や青色に発光する硫化亜鉛蛍光体からなるものである。このような硫化亜鉛を母体とする硫化亜鉛蛍光体1は、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中に含有させる付活剤の種類や量に基づいて所望の発光色が得られる。例えば、第1の付活剤としてCuやAuなどを含有させると共に、第2の付活剤としてAlなどを含有させることによって、緑色の発光色を得ることができる。
【0017】
緑色発光の硫化亜鉛蛍光体1の具体例としては、
一般式:ZnS:Cua,Alb
(式中、aおよびbは蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して、1×10−5≦a≦1×10−3g、1×10−5≦b≦5×10−3gの範囲の量をそれぞれ示す)
で実質的に表される組成を有する蛍光体が挙げられる。なお、Cuの一部はAuで置換してもよい。
【0018】
ここで、Cuは発光中心(Luminescence center)を形成する第1の付活剤(主付活剤)であり、蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して1×10−5〜1×10−3gの範囲で含有させることが好ましい。第1の付活剤の含有量が硫化亜鉛1gに対して1×10−5g未満であっても、また1×10−3gを超えても発光輝度や発光色度が低下する。第1の付活剤の含有量は硫化亜鉛1gに対して3×10−5〜8×10−4gの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは5×10−5〜5×10−4gの範囲である。
【0019】
また、Alは電子線により直接的に励起される第2の付活剤(共付活剤)であり、このような第2の付活剤の励起エネルギーで第1の付活剤を発光させることによって、硫化亜鉛蛍光体(例えばZnS:Cu蛍光体)の発光輝度を高めることができる。第2の付活剤の含有量は、蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して1×10−5〜5×10−3gの範囲で含有させることが好ましい。第2の付活剤の含有量が硫化亜鉛1gに対して1×10−5g未満であっても、また5×10−3gを超えても発光輝度が低下し、また発光色度も劣化する。第2の付活剤の含有量は硫化亜鉛1gに対して3×10−5〜3×10−3gの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは5×10−5〜1×10−3gの範囲である。
【0020】
上述したような硫化亜鉛蛍光体1において、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2は、六方晶を主体する結晶構造を有している。六方晶系の硫化亜鉛蛍光体は、その結晶構造に基づいて耐劣化性に優れることから、例えば高電流密度の電子線を繰り返し照射した場合においても、電子線の照射衝撃による経時的な輝度劣化などを抑制することができる。このような電子線衝撃による輝度劣化の抑制効果を得る上で、硫化亜鉛の結晶構造中における六方晶の比率は50%以上とすることが好ましい。六方晶の比率が50%未満であると、電子線に対する耐衝撃性を良好に得ることができない。結晶構造中の六方晶の比率は80%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95%以上である。特に、硫化亜鉛の実質的に全ての結晶構造を六方晶とすることが望ましい。
【0021】
ここで、本発明の表示装置用蛍光体を構成する硫化亜鉛蛍光体の結晶構造は、一般的に使用されているX線回折により測定することができる。すなわち、X線回折ピークにおいて、六方晶系は(100)面および(002)面のピークが現れるのに対し、立方晶系は(111)面にピークが現れるため、このピークが現れる方位によって、本発明で意図する六方晶の結晶構造を有していることが確認できる。より具体的には、約0.5mm程度の窪みを有するアモルファス製のガラスサンプルケース(板状)を使用し、その窪みに蛍光体粉末を詰め、表面が平面になるようにならしてX線を照射する。これにより少量の試料での測定が可能となる。
【0022】
上述した結晶構造が六方晶を主体する硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2において、Alなどの第2の付活剤は均一に分散された状態で含有されている。ここで、第2の付活剤を硫化亜鉛粒子2に均一に分散させた状態とは、硫化亜鉛粒子2の内部における第2の付活剤濃度(表面から深さ方向の濃度分布)を測定した際に、おおよそ一定の濃度分布を示すものであり、蛍光体母体としての硫化亜鉛を形成する材料と第2の付活剤を形成する材料とを均一に混合して焼成することなどにより得られるものである。
【0023】
そして、CuやAuなどの第1の付加剤3は硫化亜鉛粒子2の表層部2aに選択的にドープしており、これによって図1(a)に示したように第1の付加剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させている。ここで、第1の付活剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させた状態(表層部2aに局所的に存在させた状態)とは、図1(b)に示すように、第1の付活剤3の濃度が硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2の内部2bに比べて表層部2aで高い状態を示すものとする。第1の付活剤3を偏在させる表層部2aの厚さは特に規定されるものではないが、例えば表面から硫化亜鉛粒子2の深さ方向に2μmまでの範囲とすることが好ましい。なお、上記した第1の付活剤の含有量は、このような粒子表層部2aに偏在させた第1の付活剤の量を、硫化亜鉛粒子2の全質量で平均化した値を示すものである。
【0024】
上述したように、電子線により励起される第2の付活剤については蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中に均一に分散させ、その上で発光中心を形成する第1の付活剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させることによって、蛍光体母体となる硫化亜鉛の結晶構造を六方晶としたことに基づく発光色の短波長側へのずれを補正することができる。言い換えると、カラー表示装置用の緑色発光成分に求められる発光色度、例えばCIE色度値(x,y)が(0.24±0.03,0.6±0.03)の発光色度を有する緑色発光を安定して得ることが可能となる。
【0025】
立方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体の発光色度は、例えばCIE色度値で(x,y)=(0.264,0.620)であるのに対して、六方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体の発光色度は(x,y)=(0.195,0.528)となり、緑色発光成分としての発光特性を満たすことができない。このような六方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体中のCuを、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させることによって、上述したような発光色度を満足させることが可能となる。これは、硫化亜鉛の結晶構造を六方晶としたことによる発光色の短波長側(青色側)へのずれが、発光中心となる第1の付活剤を粒子表層部に過剰に存在させることで補正されることによるものである。
【0026】
ここで、発光中心となる第1の付活剤の含有量を高めることによっても、発光色の短波長側(青色側)へのずれを補正することができるものの、これでは濃度消光を起こして発光効率が大きく低下してしまう。これに対して、第2の付活剤を蛍光体母体としての硫化亜鉛中に均一に分散させ、その上で発光中心となる第1の付活剤のみを粒子表層部に偏在させる、言い換えると第1の付活剤を粒子表層部のみに過剰に存在させることによって、濃度消光を抑えた上で発光色の短波長側(青色側)へのずれを補正することが可能となる。
【0027】
すなわち、本発明の表示装置用蛍光体によれば、蛍光体母体としての硫化亜鉛の結晶構造を六方晶とすることで電子線衝撃に対する耐性を高め、その上で発光効率と発光色度(特に緑色発光成分に求められる発光色度)に優れた硫化亜鉛蛍光体(特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体)を提供することが可能となる。言い換えると、高電流密度の電子線などで励起するカラー表示装置に用いた場合においても、硫化亜鉛蛍光体の経時的な輝度劣化などを抑制した上で、カラー表示装置用の蛍光体に求められる発光色(特に緑色発光成分としての発光色度)を満足させることが可能となる。
【0028】
なお、本発明の表示装置用蛍光体は必ずしも緑色発光の硫化亜鉛蛍光体に限られるものではなく、例えば青色発光の硫化亜鉛蛍光体に適用することも可能である。例えば、蛍光体母体としての硫化亜鉛に、第1の付活剤としてAgを含有させると共に、第2の付活剤としてAlおよびClから選ばれる少なくとも1種を含有させることによって、青色の発光色を得ることができる。このような青色発光の硫化亜鉛蛍光体において、第1の付活剤を六方晶系の硫化亜鉛粒子の表層部に偏在させることによって、発光色を改善することができる。
【0029】
上述したような本発明の表示装置用蛍光体は、例えば以下のようにして製造される。まず、蛍光体母体である硫化亜鉛原料に対して、所定量の第2の付活剤原料を添加し、さらに塩化カリウムや塩化マグネシウムなどのフラックスを必要に応じて添加し、これらを湿式混合する。具体的には、イオン交換水に蛍光体原料を分散させてスラリー状とし、これに第2の付活剤原料およびフラックスを添加し、常法の撹拌機で混合する。混合時間は第2の付活剤が均一に分散するように設定する。次いで、蛍光体原料と第2の付活剤などを含むスラリーをパットなどの乾燥容器に移し、常法の乾燥機で乾燥させて蛍光体原料とする。
【0030】
このような蛍光体原料を適当量の硫黄と活性炭素と共に、石英るつぼなどの耐熱容器に充填する。この際、硫黄は乾燥された蛍光体原料とブレンダなどを使用して例えば30〜180分程度混合し、この混合材料を耐熱容器に充填した後、その表面を覆うようにすることが好ましい。これを硫化水素雰囲気、硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気中、あるいは還元性雰囲気(例えば3〜5%水素−残部窒素の雰囲気)中で焼成する。焼成条件は蛍光体母体(ZnS)の結晶構造を制御する上で重要であり、目的とする六方晶の結晶構造を得る上で焼成温度は1020〜1150℃の範囲とすることが好ましい。
【0031】
上記した温度範囲で蛍光体原料を焼成することによって、六方晶系の硫化亜鉛蛍光体を得ることができる。焼成温度が1020℃未満であると、結晶中に占める立方晶の割合が増大してしまう。一方、焼成温度が1150℃を超えると過度の結晶粒成長を引き起こし、緻密な蛍光面を形成することが困難になる。焼成時間は設定した焼成温度にもよるが、30〜360分とすることが好ましい。焼成時間が短すぎると、六方晶と立方晶の混晶になるおそれがある。焼成後の冷却は六方晶から立方晶への相変化を防ぐ上で急冷することが好ましい。
【0032】
次に、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し、これを乾燥した後に、さらに必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを実施することによって、第2の付活剤を均一に分散させた硫化亜鉛(例えばZnS:Al)粉末を得る。次いで、この硫化亜鉛粒子2の表層部2aに第1の付活剤をドープする。第1の付活剤のドープ工程は、例えば以下のようにして実施される。
【0033】
すなわち、第2の付活剤を均一に分散させた硫化亜鉛粉末を、イオン交換水中に分散させてスラリー状とし、これに所定量の第1の付活剤原料を添加し、常法の撹拌機で混合する。混合時間は第1の付活剤原料が十分に分散し、硫化亜鉛粒子の表面に良好に付着すればよく、例えば10〜30分程度行えばよい。このように、硫化亜鉛粒子と第1の付活剤の原料とを湿式混合した後、スラリーをパットなどの乾燥容器に移し、常法の乾燥機で例えば130℃で20hr程度乾燥する。
【0034】
そして、上記した第1の付活剤原料を表面に付着させた硫化亜鉛(第2の付活剤を含有する硫化亜鉛)粉末を、例えば硫化水素雰囲気、硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気、あるいは還元性雰囲気中で焼成することによって、第1の付活剤を硫化亜鉛粒子の表層部にドープする。この際の焼成条件は、蛍光体母体である硫化亜鉛の結晶構造が六方晶を維持するように、上述した蛍光体原料(硫化亜鉛と第2の付活剤との混合物)の焼成条件と同様とする。
【0035】
この後、得られた焼成物を十分にイオン交換水などで水洗し、これを乾燥(例えば120℃で20hr)し、さらに必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを実施することによって、目的とする六方晶系の硫化亜鉛蛍光体(例えばZnS:Cu,Al蛍光体)が得られる。そして、上述したような焼成工程を経ることによって、第2の付活剤を蛍光体母体粒子中に均一に分散させ、かつ第1の付活剤を蛍光体母体粒子の表層部に偏在させることができる。
【0036】
本発明の表示装置用蛍光体は、蛍光体の励起源として加速電圧が5〜35kVの範囲の電子線を用いるカラー表示装置、例えばカラー陰極線管(カラーCRT)や電界放出型表示装置(FED)に好適に用いられるものである。本発明の表示装置用蛍光体をFEDなどに使用した場合、高電流密度の電子線による輝度劣化などを抑制した上で、色再現性の向上などを図ることができる。また、大画面・高品質化や高精細化などに伴って電子線の電流密度を高めたCRTなどに対しても有効であり、この場合には高電流密度の電子線による輝度劣化などを抑制した上で、色再現性の向上などを図ることが可能となる。
【0037】
本発明のカラー表示装置は、上述したような本発明の表示装置用蛍光体(硫化亜鉛蛍光体)を少なくとも緑色発光蛍光体として用いると共に、蛍光体の励起源として電子線を用いたものであり、例えばカラーCRTやカラーFEDなどが挙げられる。図2は本発明のカラー表示装置をカラーFEDに適用した一実施形態の要部構成を示す断面図である。
【0038】
図2において、10はフェイスプレートであり、ガラス基板11などの透明基板上に形成された蛍光体層12を有している。この蛍光体層12は画素に対応させて形成した青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含む層を有し、これらの間を黒色導電材13で分離した構造となっている。蛍光体層12を構成する各色の蛍光体のうち、少なくとも緑色発光蛍光体は本発明の表示装置用蛍光体からなる。
【0039】
上述した青、緑および赤に発光する蛍光体層12およびそれらの間を分離する黒色導電材13は、それぞれ水平方向に順次繰り返し形成されている。これら蛍光体層12および黒色導電材13が存在する部分が画像表示領域となる。この蛍光体層12と黒色導電材13の配置構造には種々の構造が適用可能である。蛍光体層12上にはメタルバック層14が形成されている。メタルバック層14は、Al膜などの導電性薄膜からなる。メタルバック層14は蛍光体層12で発生した光のうち、電子源となるリアプレート20方向に進む光を反射して輝度を向上させるものである。
【0040】
さらに、メタルバック層14はフェイスプレート10の画像表示領域に導電性を与えて電荷が蓄積されるのを防ぐ機能を有し、リアプレート20の電子源に対してアノード電極の役割を果たすものである。また、メタルバック層14はフェイスプレート10や真空容器(外囲器)内に残留したガスが電子線で電離して生成するイオンにより蛍光体層12が損傷することを防ぐ機能を有する。メタルバック層14は、使用時に蛍光体層12から発生したガスが真空容器(外囲器)内に放出されることを防ぎ、真空度の低下を防止するなどの効果も有している。メタルバック層14上には、Baなどからなる蒸発形ゲッタ材により形成されたゲッタ膜15が形成されている。このゲッタ膜15によって、使用時に発生したガスが効率的に吸着される。
【0041】
リアプレート20は、ガラス基板やセラミックス基板などの絶縁性基板、あるいはSi基板などからなる基板21と、この基板21上に形成された多数の電子放出素子22とを有している。これら電子放出素子22は、例えば電界放出型冷陰極や表面伝導型電子放出素子などを備えるものである。リアプレート20の電子放出素子22の形成面には、図示を省略した配線が施されている。すなわち、多数の電子放出素子22は各画素の蛍光体に応じてマトリックス状に形成されており、このマトリックス状の電子放出素子22を一行ずつ駆動する、互いに交差する配線(X−Y配線)を有している。
【0042】
支持枠30はフェイスプレート10とリアプレート20との間の空間を気密封止するものである。支持枠30はフェイスプレート10およびリアプレート20に対して、フリットガラス、あるいはInやその合金などからなる接合材31を介して接合されている。これらフェイスプレート10、リアプレート20および支持枠30によって、外囲器としての真空容器が構成されている。なお、支持枠30には図示を省略した信号入力端子および行選択用端子が設けられている。これらの端子はリアプレート20の交差配線(X−Y配線)に対応する。
【0043】
図2に示すカラーFEDにおいては、電子線照射により発光する蛍光体層12の緑色発光成分として、本発明の表示装置用蛍光体(六方晶系の硫化亜鉛蛍光体)が用いられている。なお、青色発光蛍光体および赤色発光蛍光体には公知の種々の蛍光体を使用することができる。このようなカラーFEDによれば、本発明の表示装置用蛍光体の特性に基づいて、初期輝度や色再現性などの表示特性を向上させることが可能となる。
【0044】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0045】
実施例1
まず、硫化亜鉛(ZnS)1000gに、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)13.5gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。得られた蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1100℃×60分とした。
【0046】
次いで、上記した焼成物を水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、ZnS:Al粉末を得た。得られたZnS:Al粉末に対して、硫酸銅(CuSO4・5H2O)0.40gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。このようにして硫酸銅を付着させた化合物(ZnS:Al)粉末に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1000℃×30分とした。
【0047】
この後、上記した焼成物を十分に水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、目的とする緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体を得た。得られたZnS:Cu,Al蛍光体のX線回折を実施したところ、六方晶の結晶構造を有していることが確認された。このZnS:Cu,Al蛍光体の各付活剤の含有量は、ZnS1gに対してCuが1.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。
【0048】
さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMA(X線マイクロアナライザー)により測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子中に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0049】
実施例2
上記した実施例1において、ZnS:Al粉末に付着させる硫酸銅(CuSO4・5H2O)の量を0.60gとする以外は、実施例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが1.5×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子の全体に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0050】
実施例3
上記した実施例1において、ZnS:Al粉末に付着させる硫酸銅(CuSO4・5H2O)の量を0.80gとする以外は、実施例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが2.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子の全体に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0051】
比較例1
硫化亜鉛(ZnS)1000gに、硫酸銅(CuSO4・5H2O)0.60gと硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)13.5gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。得られた蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1100℃×90分とした。
【0052】
この後、上記した焼成物を十分に水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体を得た。得られたZnS:Cu,Al蛍光体のX線回折を実施したところ、六方晶の結晶構造を有していることが確認された。このZnS:Cu,Al蛍光体の各付活剤の含有量は、ZnS1gに対してCuが1.5×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0053】
比較例2
上記した比較例1において、硫酸銅(CuSO4・5H2O)の配合量を1.20gとする以外は、比較例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが3.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0054】
比較例3
上記した比較例1において、硫酸銅(CuSO4・5H2O)の配合量を2.40gとする以外は、比較例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが6.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0055】
上記した実施例1〜3および比較例1〜3の各緑色発光蛍光体を用いて蛍光体膜をそれぞれ形成し、得られた蛍光体膜の発光輝度と発光色度をそれぞれ調べた。各蛍光体膜は、ポリビニルアルコールを含む水溶液中に各緑色発光蛍光体を分散させてスラリーとし、これらのスラリーを回転塗布機でガラス基板上に塗布することにより形成した。回転塗布機の回転数とスラリー粘度を調整することによって、各蛍光体膜の膜厚は3×10−3mg/mm3とした。
【0056】
発光輝度は、各蛍光体膜に加速電圧10kV、電流密度2×10−5A/mm2の電子線を照射して測定した。各輝度は比較例3による蛍光体膜の輝度を100としたときの相対値として求めた。発光色度は色度測定機器として大塚電子株式会社製MCPD−1000を使用して測定した。発光色度の測定は、発光時の色度が外部から影響を受けない暗室内で行った。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜3による六方晶系硫化亜鉛蛍光体からなる緑色発光蛍光体は、第1の付活剤であるCuを蛍光体粒子の表層部に偏在させていることに基づいて、いずれも発光輝度を低下させることなく、良好な発光色度を有していることが分かる。これに対して、CuをAlと共に蛍光体粒子中に均一に分散させ、かつCuの含有量を各実施例と同程度とした比較例1は、発光色度が青色側に大きくずれていることが分かる。また、Cuの含有量を増加させた比較例2、3では、発光色度が若干補正されているものの、Cu含有量の増加に伴って発光輝度が低下していることが分かる。
【0059】
実施例4
実施例1による緑色発光蛍光体と、青色発光蛍光体(ZnS:Ag,Al蛍光体)と、赤色発光蛍光体(Y2O2S:Eu蛍光体)をそれぞれ用いて、ガラス基板上に蛍光体層を形成してフェイスプレートとした。このフェイスプレートと多数の電子放出素子を有するリアプレートとを支持枠を介して組立てると共に、これらの間隙を真空排気しつつ気密封止した。このようにして得たFEDは色再現性に優れ、さらに常温、定格動作で1000時間駆動させた後においても良好な表示特性を示すことが確認された。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の表示装置用蛍光体によれば、高電流密度の電子線などに対する耐性に優れる六方晶系硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善することができる。従って、そのような表示装置用蛍光体を用いることによって、蛍光膜を励起する電子線の高電流密度化への対応を図った上で、色再現性などの表示特性を向上させたカラー表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による表示装置用蛍光体の構成および第1の付活剤の分布状態を示す図である。
【図2】本発明のカラー表示装置の一実施形態としての電界放出型表示装置の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
1……表示装置用蛍光体,2……硫化亜鉛(蛍光体母体)粒子,2a……表層部,3……第1の付活剤,10……フェイスプレート,12……蛍光体層,20……リアプレート,22……電子放出素子,30……支持枠
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラー陰極線管や電界放出型表示装置などに用いられる表示装置用蛍光体とそれを用いたカラー表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルチメディア時代の到来に伴って、デジタルネットワークのコア機器となるディスプレイ装置には、大画面化や高精細化などが求められている。ディスプレイ装置としては陰極線管(CRT)を使用した装置が広く使用されている。CRTに関してはハイビジョン用テレビや高精細ディスプレイ管などが開発されており、画像の大画面・高品質化や高精細化などが進められている。また、CRTに代わる薄型のディスプレイ装置として、電界放出型冷陰極などの電子放出素子を用いた電界放出型表示装置(FED)の研究、開発が進められている。FEDは基本的な表示原理がCRTと同じであり、明るさ、コントラスト、色再現性などの基本的な表示性能に加えて、視野角が広い、応答速度が速い、消費電力が小さいなどの特徴を有する。
【0003】
上述したCRTやFEDなどのディスプレス装置は、フルカラー表示を可能とするために、青色発光、緑色発光および赤色発光の各蛍光体を含む蛍光膜を有している。このようなディスプレス装置用の青色発光蛍光体や緑色発光蛍光体としては、一般に硫化亜鉛(ZnS)を蛍光体母体とする硫化亜鉛蛍光体が用いられている。例えば、緑色発光蛍光体には硫化亜鉛に第1の付活剤としてCuやAuを含有させると共に、第2の付活剤としてAlを含有させた硫化亜鉛蛍光体が使用されている。
【0004】
ところで、CRTの大画面・高品質化や高精細化などに伴って、蛍光膜を励起する電子線の電流密度は高まってきている。また、FEDにおいても高電流密度の電子線が蛍光膜の励起用として使用されている。その結果として、蛍光膜を構成する蛍光体には高電流密度の電子線に対する耐性、すなわち高電流密度の電子線照射に起因する輝度劣化などを抑制することが求められている。このような点に対して、硫化亜鉛蛍光体に関しては結晶構造を立方晶から六方晶とすることによって、電子線衝撃による輝度劣化などを抑制し得ることが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1や特許文献2には、結晶構造の50%以上を六方晶とした青色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,AlまたはZnS:Ag,M,Al(M:Au,Cu))が記載されている。また、特許文献3には六方晶系の結晶構造を有する青色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,M,Al(M:Au,Cu)や緑色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Cu,Au,Al(Auの配合は任意))が記載されている。
【0006】
上述したように、硫化亜鉛蛍光体は結晶構造を六方晶とすることによって、高電流密度の電子線衝撃による輝度劣化などを抑制し得るものの、結晶構造を六方晶とすることで発光色が短波長側にずれるという問題が生じている。この発光色の変動は緑色発光の硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Cu,Al)で顕著に生じており、発光色が緑色から青色側にずれてしまうために、表示装置用の緑色発光成分に求められる発光色を満足させることができなくなってしまう。上述した特許文献3には、緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体にAuを添加することによって、発光色の青色側へのずれを補正することが記載されているが、必ずしも十分な効果は得られていない。
【0007】
一方、FEDなどの加速電圧が低い電子線で蛍光膜を励起する表示装置に使用される蛍光体(低電圧用蛍光体)に関しては、蛍光体母体(ZnS)の表面に金属塩や金属酸化物をコーティングした後に400〜800℃の温度で熱処理することによって、蛍光体母体の表面に付活剤をドーピングする技術が知られている(特許文献4参照)。ここでは、蛍光体母体(ZnS)の表面に付活剤としてMn、Cu、AuAgなどをドープしている。この付活剤のドーピング技術は、浸透深さが浅い電子線による発光効率の向上を目的とするものであり、硫化亜鉛蛍光体の結晶構造を六方晶とすることに起因する発光色の改善は意図しておらず、また六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体については記載されていない。さらに、CuやAuなどの主付活剤(第1の付活剤)のみの制御では、結晶構造を六方晶とした硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善することはできない。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−255791号公報
【特許文献2】
特開平11−349937号公報
【特許文献3】
国際公開第01/77254号パンフレット
【特許文献4】
特許第2914631号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、結晶構造を六方晶とした硫化亜鉛蛍光体は、高電流密度の電子線による輝度劣化などの抑制に有効であるものの、結晶構造を六方晶とすることで発光色が短波長側にずれるという問題を有している。この発光色の変動は緑色発光の硫化亜鉛蛍光体で顕著に生じることから、このような硫化亜鉛蛍光体の発光色の改善を図ることが強く求められている。
【0010】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、CRTやFEDなどのカラー表示装置に用いられる六方晶の結晶構造を有する硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善し、カラー表示装置の色再現性などを向上並びに拡大することを可能にした表示装置用蛍光体を提供することを目的としており、またそのような表示装置用蛍光体を用いることによって、蛍光膜を励起する電子線の高電流密度化への対応を図った上で、色再現性などの表示特性を向上させたカラー表示装置を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、CRTやFEDなどの表示装置に使用される硫化亜鉛蛍光体、特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体の結晶構造(六方晶)に起因する発光色の短波長側へのずれを改善(発光色の改善)するために、六方晶系の硫化亜鉛(蛍光体母体)に対する付活剤のドーピング濃度やドーピング方法などを検討した結果、電子線により直接的に励起される第2の付活剤を六方晶系の硫化亜鉛中に均一に分散させた上で、この第2の付活剤の励起エネルギーに基づいて発光する第1の付活剤を硫化亜鉛の表層部に偏在させることによって、発光輝度の低下などを抑制した上で、発光色のずれを補正し得ることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。本発明の表示装置用蛍光体は、請求項1に記載したように、六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた表示装置用蛍光体において、前記第2の付活剤は前記蛍光体母体粒子中に均一に分散されており、かつ前記第1の付活剤は前記蛍光体母体粒子の表層部に偏在していることを特徴としている。本発明の表示装置用蛍光体において、第1の付活剤には例えばCuおよびAuから選ばれる少なくとも1種が用いられ、かつ第2の付活剤には例えばAlが用いられる。
【0013】
また、本発明のカラー表示装置は、請求項6に記載したように、青色発光蛍光体と緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを含む蛍光膜と、前記蛍光膜に電子線を照射して発光させる電子源と、前記電子源と蛍光膜を真空封止する外囲器とを具備するカラー表示装置において、前記蛍光膜は上述した本発明の表示装置用蛍光体を前記緑色発光蛍光体として含むことを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
図1は本発明の表示装置用蛍光体の概略構成を説明するための図である。図1(a)に示す本発明の表示装置用蛍光体1は、蛍光体母体粒子として六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛粒子2を有する。この蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中には、図示を省略した第2の付活剤が均一に分散されている。さらに、硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2の表層部2aには、第1の付活剤3が局所的にドープされており、これらによって本発明の表示装置用蛍光体1が構成されている。
【0016】
表示装置用蛍光体1は、加速電圧が例えば5〜35kVの電子線を照射した際に、緑色や青色に発光する硫化亜鉛蛍光体からなるものである。このような硫化亜鉛を母体とする硫化亜鉛蛍光体1は、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中に含有させる付活剤の種類や量に基づいて所望の発光色が得られる。例えば、第1の付活剤としてCuやAuなどを含有させると共に、第2の付活剤としてAlなどを含有させることによって、緑色の発光色を得ることができる。
【0017】
緑色発光の硫化亜鉛蛍光体1の具体例としては、
一般式:ZnS:Cua,Alb
(式中、aおよびbは蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して、1×10−5≦a≦1×10−3g、1×10−5≦b≦5×10−3gの範囲の量をそれぞれ示す)
で実質的に表される組成を有する蛍光体が挙げられる。なお、Cuの一部はAuで置換してもよい。
【0018】
ここで、Cuは発光中心(Luminescence center)を形成する第1の付活剤(主付活剤)であり、蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して1×10−5〜1×10−3gの範囲で含有させることが好ましい。第1の付活剤の含有量が硫化亜鉛1gに対して1×10−5g未満であっても、また1×10−3gを超えても発光輝度や発光色度が低下する。第1の付活剤の含有量は硫化亜鉛1gに対して3×10−5〜8×10−4gの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは5×10−5〜5×10−4gの範囲である。
【0019】
また、Alは電子線により直接的に励起される第2の付活剤(共付活剤)であり、このような第2の付活剤の励起エネルギーで第1の付活剤を発光させることによって、硫化亜鉛蛍光体(例えばZnS:Cu蛍光体)の発光輝度を高めることができる。第2の付活剤の含有量は、蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して1×10−5〜5×10−3gの範囲で含有させることが好ましい。第2の付活剤の含有量が硫化亜鉛1gに対して1×10−5g未満であっても、また5×10−3gを超えても発光輝度が低下し、また発光色度も劣化する。第2の付活剤の含有量は硫化亜鉛1gに対して3×10−5〜3×10−3gの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは5×10−5〜1×10−3gの範囲である。
【0020】
上述したような硫化亜鉛蛍光体1において、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2は、六方晶を主体する結晶構造を有している。六方晶系の硫化亜鉛蛍光体は、その結晶構造に基づいて耐劣化性に優れることから、例えば高電流密度の電子線を繰り返し照射した場合においても、電子線の照射衝撃による経時的な輝度劣化などを抑制することができる。このような電子線衝撃による輝度劣化の抑制効果を得る上で、硫化亜鉛の結晶構造中における六方晶の比率は50%以上とすることが好ましい。六方晶の比率が50%未満であると、電子線に対する耐衝撃性を良好に得ることができない。結晶構造中の六方晶の比率は80%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95%以上である。特に、硫化亜鉛の実質的に全ての結晶構造を六方晶とすることが望ましい。
【0021】
ここで、本発明の表示装置用蛍光体を構成する硫化亜鉛蛍光体の結晶構造は、一般的に使用されているX線回折により測定することができる。すなわち、X線回折ピークにおいて、六方晶系は(100)面および(002)面のピークが現れるのに対し、立方晶系は(111)面にピークが現れるため、このピークが現れる方位によって、本発明で意図する六方晶の結晶構造を有していることが確認できる。より具体的には、約0.5mm程度の窪みを有するアモルファス製のガラスサンプルケース(板状)を使用し、その窪みに蛍光体粉末を詰め、表面が平面になるようにならしてX線を照射する。これにより少量の試料での測定が可能となる。
【0022】
上述した結晶構造が六方晶を主体する硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2において、Alなどの第2の付活剤は均一に分散された状態で含有されている。ここで、第2の付活剤を硫化亜鉛粒子2に均一に分散させた状態とは、硫化亜鉛粒子2の内部における第2の付活剤濃度(表面から深さ方向の濃度分布)を測定した際に、おおよそ一定の濃度分布を示すものであり、蛍光体母体としての硫化亜鉛を形成する材料と第2の付活剤を形成する材料とを均一に混合して焼成することなどにより得られるものである。
【0023】
そして、CuやAuなどの第1の付加剤3は硫化亜鉛粒子2の表層部2aに選択的にドープしており、これによって図1(a)に示したように第1の付加剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させている。ここで、第1の付活剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させた状態(表層部2aに局所的に存在させた状態)とは、図1(b)に示すように、第1の付活剤3の濃度が硫化亜鉛粒子(蛍光体母体粒子)2の内部2bに比べて表層部2aで高い状態を示すものとする。第1の付活剤3を偏在させる表層部2aの厚さは特に規定されるものではないが、例えば表面から硫化亜鉛粒子2の深さ方向に2μmまでの範囲とすることが好ましい。なお、上記した第1の付活剤の含有量は、このような粒子表層部2aに偏在させた第1の付活剤の量を、硫化亜鉛粒子2の全質量で平均化した値を示すものである。
【0024】
上述したように、電子線により励起される第2の付活剤については蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2中に均一に分散させ、その上で発光中心を形成する第1の付活剤3を硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させることによって、蛍光体母体となる硫化亜鉛の結晶構造を六方晶としたことに基づく発光色の短波長側へのずれを補正することができる。言い換えると、カラー表示装置用の緑色発光成分に求められる発光色度、例えばCIE色度値(x,y)が(0.24±0.03,0.6±0.03)の発光色度を有する緑色発光を安定して得ることが可能となる。
【0025】
立方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体の発光色度は、例えばCIE色度値で(x,y)=(0.264,0.620)であるのに対して、六方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体の発光色度は(x,y)=(0.195,0.528)となり、緑色発光成分としての発光特性を満たすことができない。このような六方晶系のZnS:Cu,Al蛍光体中のCuを、蛍光体母体としての硫化亜鉛粒子2の表層部2aに偏在させることによって、上述したような発光色度を満足させることが可能となる。これは、硫化亜鉛の結晶構造を六方晶としたことによる発光色の短波長側(青色側)へのずれが、発光中心となる第1の付活剤を粒子表層部に過剰に存在させることで補正されることによるものである。
【0026】
ここで、発光中心となる第1の付活剤の含有量を高めることによっても、発光色の短波長側(青色側)へのずれを補正することができるものの、これでは濃度消光を起こして発光効率が大きく低下してしまう。これに対して、第2の付活剤を蛍光体母体としての硫化亜鉛中に均一に分散させ、その上で発光中心となる第1の付活剤のみを粒子表層部に偏在させる、言い換えると第1の付活剤を粒子表層部のみに過剰に存在させることによって、濃度消光を抑えた上で発光色の短波長側(青色側)へのずれを補正することが可能となる。
【0027】
すなわち、本発明の表示装置用蛍光体によれば、蛍光体母体としての硫化亜鉛の結晶構造を六方晶とすることで電子線衝撃に対する耐性を高め、その上で発光効率と発光色度(特に緑色発光成分に求められる発光色度)に優れた硫化亜鉛蛍光体(特に緑色発光の硫化亜鉛蛍光体)を提供することが可能となる。言い換えると、高電流密度の電子線などで励起するカラー表示装置に用いた場合においても、硫化亜鉛蛍光体の経時的な輝度劣化などを抑制した上で、カラー表示装置用の蛍光体に求められる発光色(特に緑色発光成分としての発光色度)を満足させることが可能となる。
【0028】
なお、本発明の表示装置用蛍光体は必ずしも緑色発光の硫化亜鉛蛍光体に限られるものではなく、例えば青色発光の硫化亜鉛蛍光体に適用することも可能である。例えば、蛍光体母体としての硫化亜鉛に、第1の付活剤としてAgを含有させると共に、第2の付活剤としてAlおよびClから選ばれる少なくとも1種を含有させることによって、青色の発光色を得ることができる。このような青色発光の硫化亜鉛蛍光体において、第1の付活剤を六方晶系の硫化亜鉛粒子の表層部に偏在させることによって、発光色を改善することができる。
【0029】
上述したような本発明の表示装置用蛍光体は、例えば以下のようにして製造される。まず、蛍光体母体である硫化亜鉛原料に対して、所定量の第2の付活剤原料を添加し、さらに塩化カリウムや塩化マグネシウムなどのフラックスを必要に応じて添加し、これらを湿式混合する。具体的には、イオン交換水に蛍光体原料を分散させてスラリー状とし、これに第2の付活剤原料およびフラックスを添加し、常法の撹拌機で混合する。混合時間は第2の付活剤が均一に分散するように設定する。次いで、蛍光体原料と第2の付活剤などを含むスラリーをパットなどの乾燥容器に移し、常法の乾燥機で乾燥させて蛍光体原料とする。
【0030】
このような蛍光体原料を適当量の硫黄と活性炭素と共に、石英るつぼなどの耐熱容器に充填する。この際、硫黄は乾燥された蛍光体原料とブレンダなどを使用して例えば30〜180分程度混合し、この混合材料を耐熱容器に充填した後、その表面を覆うようにすることが好ましい。これを硫化水素雰囲気、硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気中、あるいは還元性雰囲気(例えば3〜5%水素−残部窒素の雰囲気)中で焼成する。焼成条件は蛍光体母体(ZnS)の結晶構造を制御する上で重要であり、目的とする六方晶の結晶構造を得る上で焼成温度は1020〜1150℃の範囲とすることが好ましい。
【0031】
上記した温度範囲で蛍光体原料を焼成することによって、六方晶系の硫化亜鉛蛍光体を得ることができる。焼成温度が1020℃未満であると、結晶中に占める立方晶の割合が増大してしまう。一方、焼成温度が1150℃を超えると過度の結晶粒成長を引き起こし、緻密な蛍光面を形成することが困難になる。焼成時間は設定した焼成温度にもよるが、30〜360分とすることが好ましい。焼成時間が短すぎると、六方晶と立方晶の混晶になるおそれがある。焼成後の冷却は六方晶から立方晶への相変化を防ぐ上で急冷することが好ましい。
【0032】
次に、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し、これを乾燥した後に、さらに必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを実施することによって、第2の付活剤を均一に分散させた硫化亜鉛(例えばZnS:Al)粉末を得る。次いで、この硫化亜鉛粒子2の表層部2aに第1の付活剤をドープする。第1の付活剤のドープ工程は、例えば以下のようにして実施される。
【0033】
すなわち、第2の付活剤を均一に分散させた硫化亜鉛粉末を、イオン交換水中に分散させてスラリー状とし、これに所定量の第1の付活剤原料を添加し、常法の撹拌機で混合する。混合時間は第1の付活剤原料が十分に分散し、硫化亜鉛粒子の表面に良好に付着すればよく、例えば10〜30分程度行えばよい。このように、硫化亜鉛粒子と第1の付活剤の原料とを湿式混合した後、スラリーをパットなどの乾燥容器に移し、常法の乾燥機で例えば130℃で20hr程度乾燥する。
【0034】
そして、上記した第1の付活剤原料を表面に付着させた硫化亜鉛(第2の付活剤を含有する硫化亜鉛)粉末を、例えば硫化水素雰囲気、硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気、あるいは還元性雰囲気中で焼成することによって、第1の付活剤を硫化亜鉛粒子の表層部にドープする。この際の焼成条件は、蛍光体母体である硫化亜鉛の結晶構造が六方晶を維持するように、上述した蛍光体原料(硫化亜鉛と第2の付活剤との混合物)の焼成条件と同様とする。
【0035】
この後、得られた焼成物を十分にイオン交換水などで水洗し、これを乾燥(例えば120℃で20hr)し、さらに必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを実施することによって、目的とする六方晶系の硫化亜鉛蛍光体(例えばZnS:Cu,Al蛍光体)が得られる。そして、上述したような焼成工程を経ることによって、第2の付活剤を蛍光体母体粒子中に均一に分散させ、かつ第1の付活剤を蛍光体母体粒子の表層部に偏在させることができる。
【0036】
本発明の表示装置用蛍光体は、蛍光体の励起源として加速電圧が5〜35kVの範囲の電子線を用いるカラー表示装置、例えばカラー陰極線管(カラーCRT)や電界放出型表示装置(FED)に好適に用いられるものである。本発明の表示装置用蛍光体をFEDなどに使用した場合、高電流密度の電子線による輝度劣化などを抑制した上で、色再現性の向上などを図ることができる。また、大画面・高品質化や高精細化などに伴って電子線の電流密度を高めたCRTなどに対しても有効であり、この場合には高電流密度の電子線による輝度劣化などを抑制した上で、色再現性の向上などを図ることが可能となる。
【0037】
本発明のカラー表示装置は、上述したような本発明の表示装置用蛍光体(硫化亜鉛蛍光体)を少なくとも緑色発光蛍光体として用いると共に、蛍光体の励起源として電子線を用いたものであり、例えばカラーCRTやカラーFEDなどが挙げられる。図2は本発明のカラー表示装置をカラーFEDに適用した一実施形態の要部構成を示す断面図である。
【0038】
図2において、10はフェイスプレートであり、ガラス基板11などの透明基板上に形成された蛍光体層12を有している。この蛍光体層12は画素に対応させて形成した青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含む層を有し、これらの間を黒色導電材13で分離した構造となっている。蛍光体層12を構成する各色の蛍光体のうち、少なくとも緑色発光蛍光体は本発明の表示装置用蛍光体からなる。
【0039】
上述した青、緑および赤に発光する蛍光体層12およびそれらの間を分離する黒色導電材13は、それぞれ水平方向に順次繰り返し形成されている。これら蛍光体層12および黒色導電材13が存在する部分が画像表示領域となる。この蛍光体層12と黒色導電材13の配置構造には種々の構造が適用可能である。蛍光体層12上にはメタルバック層14が形成されている。メタルバック層14は、Al膜などの導電性薄膜からなる。メタルバック層14は蛍光体層12で発生した光のうち、電子源となるリアプレート20方向に進む光を反射して輝度を向上させるものである。
【0040】
さらに、メタルバック層14はフェイスプレート10の画像表示領域に導電性を与えて電荷が蓄積されるのを防ぐ機能を有し、リアプレート20の電子源に対してアノード電極の役割を果たすものである。また、メタルバック層14はフェイスプレート10や真空容器(外囲器)内に残留したガスが電子線で電離して生成するイオンにより蛍光体層12が損傷することを防ぐ機能を有する。メタルバック層14は、使用時に蛍光体層12から発生したガスが真空容器(外囲器)内に放出されることを防ぎ、真空度の低下を防止するなどの効果も有している。メタルバック層14上には、Baなどからなる蒸発形ゲッタ材により形成されたゲッタ膜15が形成されている。このゲッタ膜15によって、使用時に発生したガスが効率的に吸着される。
【0041】
リアプレート20は、ガラス基板やセラミックス基板などの絶縁性基板、あるいはSi基板などからなる基板21と、この基板21上に形成された多数の電子放出素子22とを有している。これら電子放出素子22は、例えば電界放出型冷陰極や表面伝導型電子放出素子などを備えるものである。リアプレート20の電子放出素子22の形成面には、図示を省略した配線が施されている。すなわち、多数の電子放出素子22は各画素の蛍光体に応じてマトリックス状に形成されており、このマトリックス状の電子放出素子22を一行ずつ駆動する、互いに交差する配線(X−Y配線)を有している。
【0042】
支持枠30はフェイスプレート10とリアプレート20との間の空間を気密封止するものである。支持枠30はフェイスプレート10およびリアプレート20に対して、フリットガラス、あるいはInやその合金などからなる接合材31を介して接合されている。これらフェイスプレート10、リアプレート20および支持枠30によって、外囲器としての真空容器が構成されている。なお、支持枠30には図示を省略した信号入力端子および行選択用端子が設けられている。これらの端子はリアプレート20の交差配線(X−Y配線)に対応する。
【0043】
図2に示すカラーFEDにおいては、電子線照射により発光する蛍光体層12の緑色発光成分として、本発明の表示装置用蛍光体(六方晶系の硫化亜鉛蛍光体)が用いられている。なお、青色発光蛍光体および赤色発光蛍光体には公知の種々の蛍光体を使用することができる。このようなカラーFEDによれば、本発明の表示装置用蛍光体の特性に基づいて、初期輝度や色再現性などの表示特性を向上させることが可能となる。
【0044】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0045】
実施例1
まず、硫化亜鉛(ZnS)1000gに、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)13.5gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。得られた蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1100℃×60分とした。
【0046】
次いで、上記した焼成物を水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、ZnS:Al粉末を得た。得られたZnS:Al粉末に対して、硫酸銅(CuSO4・5H2O)0.40gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。このようにして硫酸銅を付着させた化合物(ZnS:Al)粉末に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1000℃×30分とした。
【0047】
この後、上記した焼成物を十分に水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、目的とする緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体を得た。得られたZnS:Cu,Al蛍光体のX線回折を実施したところ、六方晶の結晶構造を有していることが確認された。このZnS:Cu,Al蛍光体の各付活剤の含有量は、ZnS1gに対してCuが1.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。
【0048】
さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMA(X線マイクロアナライザー)により測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子中に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0049】
実施例2
上記した実施例1において、ZnS:Al粉末に付着させる硫酸銅(CuSO4・5H2O)の量を0.60gとする以外は、実施例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが1.5×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子の全体に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0050】
実施例3
上記した実施例1において、ZnS:Al粉末に付着させる硫酸銅(CuSO4・5H2O)の量を0.80gとする以外は、実施例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが2.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、Alは蛍光体粒子の全体に均一に分布しているのに対して、Cuは蛍光体粒子の表層部に偏在していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0051】
比較例1
硫化亜鉛(ZnS)1000gに、硫酸銅(CuSO4・5H2O)0.60gと硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)13.5gを適当量の水と共に添加し、十分に混合した後に乾燥した。得られた蛍光体原料に、硫黄および活性炭素を適当量添加して石英るつぼに充填し、これを還元性雰囲気中で焼成した。焼成条件は1100℃×90分とした。
【0052】
この後、上記した焼成物を十分に水洗および乾燥し、さらに篩別することによって、緑色発光のZnS:Cu,Al蛍光体を得た。得られたZnS:Cu,Al蛍光体のX線回折を実施したところ、六方晶の結晶構造を有していることが確認された。このZnS:Cu,Al蛍光体の各付活剤の含有量は、ZnS1gに対してCuが1.5×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0053】
比較例2
上記した比較例1において、硫酸銅(CuSO4・5H2O)の配合量を1.20gとする以外は、比較例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが3.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0054】
比較例3
上記した比較例1において、硫酸銅(CuSO4・5H2O)の配合量を2.40gとする以外は、比較例1と同様にしてZnS:Cu,Al蛍光体を作製した。このZnS:Cu,Al蛍光体も六方晶の結晶構造を有していることが確認された。また、各付活剤の含有量はZnS1gに対してCuが6.0×10−4g、Alが9×10−4gであった。さらに、ZnS:Cu,Al蛍光体中のCuとAlの分布をEPMAにより測定、評価したところ、いずれも蛍光体粒子中に均一に分布していることが確認された。このようなZnS:Cu,Al蛍光体(緑色発光蛍光体)を後述する特性評価に供した。
【0055】
上記した実施例1〜3および比較例1〜3の各緑色発光蛍光体を用いて蛍光体膜をそれぞれ形成し、得られた蛍光体膜の発光輝度と発光色度をそれぞれ調べた。各蛍光体膜は、ポリビニルアルコールを含む水溶液中に各緑色発光蛍光体を分散させてスラリーとし、これらのスラリーを回転塗布機でガラス基板上に塗布することにより形成した。回転塗布機の回転数とスラリー粘度を調整することによって、各蛍光体膜の膜厚は3×10−3mg/mm3とした。
【0056】
発光輝度は、各蛍光体膜に加速電圧10kV、電流密度2×10−5A/mm2の電子線を照射して測定した。各輝度は比較例3による蛍光体膜の輝度を100としたときの相対値として求めた。発光色度は色度測定機器として大塚電子株式会社製MCPD−1000を使用して測定した。発光色度の測定は、発光時の色度が外部から影響を受けない暗室内で行った。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜3による六方晶系硫化亜鉛蛍光体からなる緑色発光蛍光体は、第1の付活剤であるCuを蛍光体粒子の表層部に偏在させていることに基づいて、いずれも発光輝度を低下させることなく、良好な発光色度を有していることが分かる。これに対して、CuをAlと共に蛍光体粒子中に均一に分散させ、かつCuの含有量を各実施例と同程度とした比較例1は、発光色度が青色側に大きくずれていることが分かる。また、Cuの含有量を増加させた比較例2、3では、発光色度が若干補正されているものの、Cu含有量の増加に伴って発光輝度が低下していることが分かる。
【0059】
実施例4
実施例1による緑色発光蛍光体と、青色発光蛍光体(ZnS:Ag,Al蛍光体)と、赤色発光蛍光体(Y2O2S:Eu蛍光体)をそれぞれ用いて、ガラス基板上に蛍光体層を形成してフェイスプレートとした。このフェイスプレートと多数の電子放出素子を有するリアプレートとを支持枠を介して組立てると共に、これらの間隙を真空排気しつつ気密封止した。このようにして得たFEDは色再現性に優れ、さらに常温、定格動作で1000時間駆動させた後においても良好な表示特性を示すことが確認された。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の表示装置用蛍光体によれば、高電流密度の電子線などに対する耐性に優れる六方晶系硫化亜鉛蛍光体の発光色を改善することができる。従って、そのような表示装置用蛍光体を用いることによって、蛍光膜を励起する電子線の高電流密度化への対応を図った上で、色再現性などの表示特性を向上させたカラー表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による表示装置用蛍光体の構成および第1の付活剤の分布状態を示す図である。
【図2】本発明のカラー表示装置の一実施形態としての電界放出型表示装置の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
1……表示装置用蛍光体,2……硫化亜鉛(蛍光体母体)粒子,2a……表層部,3……第1の付活剤,10……フェイスプレート,12……蛍光体層,20……リアプレート,22……電子放出素子,30……支持枠
Claims (7)
- 六方晶を主体とする結晶構造を有する硫化亜鉛からなる蛍光体母体中に、第1の付活剤および第2の付活剤を含有させた表示装置用蛍光体において、
前記第2の付活剤は前記蛍光体母体粒子中に均一に分散されており、かつ前記第1の付活剤は前記蛍光体母体粒子の表層部に偏在していることを特徴とする表示装置用蛍光体。 - 請求項1記載の表示装置用蛍光体において、
前記第1の付活剤はCuおよびAuから選ばれる少なくとも1種からなり、かつ前記第2の付活剤はAlからなることを特徴とする表示装置用蛍光体。 - 請求項1または請求項2記載の表示装置用蛍光体において、
一般式:ZnS:Cua,Alb
(式中、aおよびbは蛍光体母体である硫化亜鉛1gに対して、1×10−5≦a≦1×10−3g、1×10−5≦b≦5×10−3gの範囲の量をそれぞれ示す)
で実質的に表される組成を有する緑色発光蛍光体であることを特徴とする表示装置用蛍光体。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の表示装置用蛍光体において、
前記硫化亜鉛からなる蛍光体母体は、結晶構造中の前記六方晶の比率が50%以上であることを特徴とする表示装置用蛍光体。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の表示装置用蛍光体において、
カラー陰極線管または電界放出型表示装置用の蛍光体であることを特徴とする表示装置用蛍光体。 - 青色発光蛍光体と緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを含む蛍光膜と、前記蛍光膜に電子線を照射して発光させる電子源と、前記電子源と蛍光膜を真空封止する外囲器とを具備するカラー表示装置において、
前記蛍光膜は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の表示装置用蛍光体を、前記緑色発光蛍光体として含むことを特徴とするカラー表示装置。 - 請求項6記載のカラー表示装置において、
電界放出型表示装置であることを特徴とするカラー表示装置。
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