JP2004123484A - 金属酸化物膜およびその用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】平均径10〜50nm、高さ10〜100nmの大きさの島状金属酸化物粒子集合体から構成されてなる多孔組織からなる金属酸化物膜。上記金属酸化物が、酸化チタン、シリカおよび酸化ジルコニウムの複合酸化物であり、その組成(モル比)がSiO2:0.3〜0.1、TiO2:0.2〜0.03、ZrO2:0.9〜0.5である前記金属酸化物膜。上記複合酸化物が、酸化チタンの代わりに、あるいは酸化チタンとともに、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウムおよびアルミナを含む前記金属酸化物膜。
基材、及び該基材表面に形成された前記金属酸化物膜からなることを特徴とする複合材料。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定範囲の組織形状を有し、かつ水酸基を有する金属酸化物から構成される被膜によって高い生体活性を発現可能な複合材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来から臨床的に成功している硬質組織代替生体材料としては、金属材料が挙げられる。これは金属が生体に及ぼす影響または、生体が金属に及ぼす影響が共に極小である、所謂生体不活性であることがその主たる要因であると考えられてきた。このため硬質組織代替生体材料としての生体親和性とは、互いに不可侵な耐食性の強い材料の示す特性として位置付けられてきた。
【0003】
従来から考えられてきた概念は、生体と材料とのやり取りがまったくない耐蝕性のものが理想的と考えられ、実際一部の金属材料で臨床的に成功を収めてきた。すなわち生体が材料に及ぼす影響、逆に材料が生体に及ぼす影響が全くない互いに独立して存在しうる相互不可侵の金属材料が有望と考えられていた。しかし近年、ペースメーカー、人工関節、人工骨、人工歯根、経皮端子、人工血管、血流センサ、各種カテーテルなど、生体組み込み型の機器、器具が実用化されるにつれ、むしろこれらの生体親和性が問題となっている。そのため、これら機器、器具の基材表面に体液と成分がほぼ等しい疑似体液中でアパタイト被膜を形成する生体活性酸化チタン層をコーティングする試みがなされている。
【0004】
しかし近年の研究では、この不可侵性だけが生体親和性ではなく生体内での材料の表面反応と密接な関連性が指摘されつつある。例えばチタン金属では、生体組織との間に10〜50nmの厚さの表面反応場としての均質層が形成されることが確認されている( 村上・鵜飼、表面科学Vol.20,No.9,pp640−649,1999)。
【0005】
一般に生体材料が生体内で活性を有するということは、その表面にリン酸カルシウム類層を形成し、骨と結合することと同意義でとされ、本発明者らの一連の研究でも、いわゆる生体親和性は相互不可侵性の要件だけでは充分ではなく、本来の代替材料(人工骨)の表面に、生体と人工材料の橋渡しとなるリン酸カルシウム類の核形成を誘起し、爾後のリン酸カルシウム類表面に生体が取り入り易い環境を形成することが重要なことが判明してきた。たとえばCaO−SiO2系ガラスは、生体内でその表面に多数のSi−OH基を形成し、これが周囲のリン酸カルシウム類成分の濃度を増大させ、リン酸カルシウム類の核形成を誘起することが知られている。生体活性の有無は、実際に体内に埋入する他に、人の血漿の無機成分とほぼ等しい無機イオン濃度を有する疑似体液中で、材料表面にアパタイト層を形成するか否かによっても調べることができる。
【0006】
このような人工材料が生体内でその表面にリン酸カルシウム類を形成する条件は、表面にリン酸カルシウム類の核形成を誘起する官能基(−OH)を有することであるとされている。今まで特定の構造のTi−OH,Zr−OH,Ta−OHもヒドロキシアパタイトの核形成を誘起し得ることが確認されている(小久保・金、表面科学Vol.20,No9,pp621−628,1999)。
【0007】
このため人工骨のベース材料がプラスチックのような場合に如何にしてこれらの構造を表面に安定的に導入するか、すなわち表面にリン酸カルシウム類の核形成をどのように誘起するかが、本来生体活性のないプラスチック材料を生体活性材料とするための大きな課題であった。
【0008】
【発明の目的】
本発明は従来技術における問題点を解決したものであり、人工骨材料がプラスチックのようなものであっても表面に水酸基を有する金属酸化物膜を、高い接着強度で製膜することによって、これを生体内環境に設置するとリン酸カルシウム類とりわけヒドロキシアパタイト類の核形成を誘起するような生体活性を有する被膜および該被膜を使用した複合材料を提供することを目的とする。
【0009】
【発明の概要】
本発明者らは上記問題点を解消すべく鋭意検討した結果、プラスチック表面に生体親和性を付与するために、水酸基を有する非晶質或いは結晶質からなる酸化物膜をプラスチック表面上に形成するとともに、リン酸カルシウム類の核形成を誘起させるために、基材表面におけるOH等の官能基の存在以外に、リン酸カルシウム類に対する過飽和度が増大するような特異な表面構造を形成すれば、上記問題点を解消し、リン酸カルシウム類形成反応が円滑に進行することを見いだした。
【0010】
本発明に係る金属酸化物膜は、平均径10〜50nm、高さ10〜100nmの大きさの島状金属酸化物粒子集合体から構成されてなる多孔組織からなることを特徴としている。
前記金属酸化物が、酸化チタン、シリカおよび酸化ジルコニウムの複合酸化物であり、その組成(モル比)がSiO2:0.3〜0.1、TiO2:0.2〜0.03、ZrO2:0.9〜0.5であることを特徴としている。
【0011】
上記複合酸化物が、酸化チタンの代わりに、あるいは酸化チタンとともに、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウムおよびアルミナを含むこともある。
上記記載の金属酸化物膜表面が、水または水溶液中で表面に水酸基を形成し、さらに、生体内に埋入、あるいはリン酸カルシウム類形成溶液に浸漬すると、リン酸カルシウム類をその表面に形成することが可能である。
【0012】
本発明に係る複合材料は、
基材、及び該基材表面に形成された前記記載の金属酸化物膜からなる。
さらに本発明に係る複合材料は、
基材表面に2種類以上の金属酸化物膜が積層されてなり、最外層の金属酸化物膜が前記記載の金属酸化物膜からなることを特徴としている。
【0013】
本発明では、このような基材は高分子化合物材料からなることが好ましい。
金属酸化物膜(金属酸化物膜が2層以上積層されている場合は、基材と接した金属酸化物膜)と基材との接着強度が、5MP以上であることが好ましい。
本発明に係る複合材料の製造方法は、6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム、7フッ化タンタルアンモニウムのなかから選ばれる少なくとも一種と、ホウ素化合物を含む水溶液中に、基材を浸漬することにより、基材表面に金属酸化物膜を成膜することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る複合材料の製造方法は、6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム並びにホウ素化合物を含む水溶液中に基材を浸漬することにより、基材表面に金属酸化物膜を成膜することを特徴としている。
上記水溶液は、水溶性カルシウム塩を10−5〜1モル/リットルで含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係るインプラントは、前記複合材料からなり、医療用、歯科用に使用される。
【0016】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
金属酸化物膜
本発明に係る金属酸化物膜は、島状金属酸化物粒子集合体から構成された多孔組織からなる。
【0017】
島状金属酸化物粒子集合体としては、平均径10〜50nm、高さ10〜100nm、好ましくは平均径15〜40nm、高さ15〜80nmのものが望ましい。
このような金属酸化物粒子が、図1に示されるように、島状に集合して、多孔組織を構成している。なお、島状集合体とは数〜数十ナノメートルの球状金属酸化物粒子が緻密に配列を繰り返しながら積層したものであり、表面構造においては、特に凹部ではOH―イオンが特に濃集しやすい環境にあるため、これら水酸イオンの濃度の増大を引き起こし、これに伴ってリン酸カルシウム類の過飽和度が増大する。その結果、リン酸カルシウム類の核形成がこれら表面構造上に比較的容易に起こり易く、爾後のリン酸カルシウム類形成を円滑ならしめる働きをする。表面構造を、AFM(原子間力顕微鏡:SPA500)によってつぶさに観察し検討を重ねると、上記した平均径10〜50nm、高さ10〜100nmからなる島状の粒子集積体からなるこれらの集合組織こそが、これらの反応を比較的円滑ならしめる表面構造である。なお平均径はAFM像における位相像をもとに算出し、また平均高さ(深さ)は、断面像の計測結果から算出した。
【0018】
このような本発明に係る金属酸化物膜を構成する金属酸化物としては、生体活性(すなわち、上述したリン酸カルシウム類の形成を容易に行うことができる水酸基)を有するものであればいずれも金属酸化物を採用することが可能であり、例えば、酸化チタン、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化ガリウム、酸化ハフニウム、アルミナなどからなる群から選択される少なくとも1種が例示される。
【0019】
これらのなかでも、特に、酸化チタン、シリカおよび酸化ジルコニウムの複合酸化物からなるものが好ましく、その組成(モル比)がSiO2:0.3〜0.1、TiO2:0.2〜0.03、ZrO2:0.9〜0.5、好ましくはSiO2:0.25〜0.15、TiO2:0.15〜0.035、ZrO2:0.8〜0.4の比率にあるものが望ましい。
また、上記複合酸化物では、前記モル比率の範囲内であれば、酸化チタンの代わりに、あるいは酸化チタンとともに、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウムおよびアルミナのなかから選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0020】
このような金属酸化物から構成されると膜表面が、水または水溶液中で表面に水酸基を形成しやすくなる。特に、複合酸化物から構成されると、より生体親和性更には生体活性を向上させることができる。
なお、生体親和性は相互不可侵性の要件だけでは充分ではなく、本来の代替材料(人工骨)の表面に、生体と人工材料の橋渡しとなるリン酸カルシウム類とりわけヒドロキシアパタイト類の核形成を誘起し爾後ヒドロキシアパタイト類表面に生体が取り入り易い環境を形成することが重要である。なお、リン酸カルシウム類とは、第一リン酸カルシウム(Ca(H2PO4)2)、第二リン酸カルシウム(CaHPO4)、第三リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、リン酸四カルシウム(Ca4(PO4)2O)、リン酸八カルシウム(Ca8H2(PO4)6)、ヒドロキシアパタイト類を含むアパタイト類、アモルファスリン酸カルシウムなどを含み、結晶水をもつものも含む。またヒドロキシアパタイトとは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表される化合物をいう。ヒドロキシアパタイト類とは、ヒドロキシアパタイトまたはその構成元素が置換及び/または欠損しているものをいう。ヒドロキシアパタイト類は、例えばヒドロキシアパタイトを構成する元素或いは基の一部が、Na、Kなどの周期律表第I族の元素、Mg、Znなどの周期律表第II族の元素、F、Clなどの周期律表第VII族の元素;CO3 2−、HPO4 2−、SO4 2−などの基で置換されている。さらに希土類によって置換されても良い。
【0021】
水酸基を有していると、生体内に埋入されても、あるいはリン酸カルシウム類形成溶液に浸漬されても、リン酸カルシウム類をその表面に効果的に形成することが可能であり、その結果、生体親和性更には生体活性が非常に優れるようになる。
複合材料
本発明に係る複合材料は、基材、及び該基材表面に形成された前記記載の金属酸化物膜からなる。
【0022】
基材としては、前記したペースメーカー、人工関節、人工骨、人工歯根、経皮端子、人工血管、血流センサ、各種カテーテルなど、生体組み込み型の機器、器具に使用されるものを特に制限なく使用できうる。代表的な基材としては金属、半導体、ガラス、セラミックス、カーボン材料、ダイヤモンド、カルサイト等の塩、無機高分子化合物、合成高分子化合物、生体高分子化合物、プラスチック等を含む高分子化合物、貝ガラ、水晶等の天然物などが挙げられるが、特に高分子樹脂材料からなるものが好適である。具体的には、アクリル樹脂からなるもの、アクリル樹脂系コーティングまたはシリコン系ハードコートを有する材料が好適である。このような基材の形状としては、特に制限されるものではなく、板状、棒状、繊維状、編物状、多孔質、粒状、複雑な形状など如何なる形状でもあっても良い。
【0023】
本発明では、このような基材表面に上記した金属酸化物膜が形成されている。前記金属酸化物膜の厚さとしては、特に制限されるものではなく、目的用途に応じて適宜選択される。具体的には50nm〜500μm程度の範囲にあればよい。
このような金属酸化物膜は、単層であっても2層以上の積層体であってもよい。積層体の場合、最外層、すなわち、生体と直に接触する膜が、前記した金属酸化物膜で形成されていればよく、他の膜は、基材と金属酸化物膜とを、充分に接着させるものであれば特に制限されない。具体的に、他の膜としては、酸化チタン、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウムおよびアルミナから選択されるものが望ましく、これらは2種以上混合しても、また複合酸化物であっても、さらには上記した金属酸化物膜と同じ組成であってもよい。
【0024】
具体的には、金属酸化物複合膜一層、単純金属酸化物膜一層でも良いし、異種単純金属酸化物膜からなる多層膜、異種金属酸化物複合膜からなる多層膜、或いは金属酸化物複合膜の上に単純金属酸化物膜をコートしたもの、単純金属酸化物膜の上に金属酸化物複合膜をコートした物でもよい。
このような複合材料は、上記した金属酸化物膜を形成できれば特に制限されるものではないが、特に以下の方法で製造することが望ましい。
【0025】
[製造方法]
本発明では、フルオロ錯化合物の加水分解によって酸化物を析出し、金属酸化物膜と形成する。あるいは上記した基材表面に、前記金属酸化物を形成しうる前駆体層を形成し、酸化して酸化物にすることによって金属酸化物膜を形成する。前駆体としては、前記した金属酸化物膜が形成できるものであれば特に制限されるものではないが、好適には、ハロゲン金属錯化合物が使用され、さらにフルオロ金属錯化合物が好ましい。
【0026】
このようなフルオロ金属錯化合物としては、下記式で表されるものが好適である。
【0027】
【化1】
【0028】
(AはNH4、Na、K、またはHのいずれかを示す。MeはTi、Si、Zr、Ta、Nb、Sn、Ga、Al、Hfのいずれかを示す。xおよびyは、化合物が電気的中性を満たす数である)
本発明において有効なフルオロ金属錯化合物としては、例えば、6フッ化珪素アンモニウム:(NH4)2SiF6、6フッ化チタンアンモニウム:(NH4)2TiF6、6フッ化ジルコニウムアンモニウム:(NH4)2ZrF6、6フッ化ジルコニウムナトリウム:Na2ZrF6、7フッ化タンタルアンモニウム:(NH4)2TaF7、7フッ化二オブアンモニウム:(NH4)2NbF7、6フッ化スズアンモニウム:(NH4)2SnF6、6フッ化ガリウムアンモニウム、6フッ化アルミニウムアンモニウム:(NH4)3AlF6、6フッ化ハフニウムアンモニウム:(NH4)2HfF6などを挙げることができる。
【0029】
なお、これらの化合物はそれぞれ珪素、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、アルミニウム、ガリウムおよびスズの各酸化物にフッ化水素酸を作用させる等の操作によって、適宜作成することが可能である。
これらのフルオロ金属錯化合物を水中に溶解し、フッ素捕捉剤を添加すれば金属酸化物膜を形成することができる。
【0030】
均一系フッ素捕捉剤は、フッ素と反応して安定なフルオロ錯化合物および/またはフッ化物を形成することにより、金属酸化物を析出させるようにフッ素イオンの平衡を移動させるものである。オルトホウ酸、メタホウ酸などのホウ酸のほか、酸化ホウ素、塩化アルミニウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水などが例示される。このような捕捉剤は、通常、水溶液の形で用いられるが、粉末の形で添加して、系中に溶解させてもよい。このような捕捉剤の添加は、1回に、または数回に分けて間欠的に行ってもよく、制御された供給速度、たとえば一定の速度で連続的に行ってもよい。不均一系フッ素捕捉剤としては、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛などの金属、ガラスなどのセラミックス、およびケイ素、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウムなどの化合物が例示される。このような固形物を水溶液に添加または挿入すると、固形物近傍のF−が消費されて、その濃度が減少するので、その部分の化学平衡がシフトして、金属酸化物が析出する。このような固形物を用いると、その添加または挿入する方法と反応条件により、水溶液に浸漬した基材表面の全体に金属酸化物を析出させることも、その析出を選択された局部、すなわち該固形物の存在する近傍に限定することも可能である。あるいは、均一系と不均一系のフッ素捕捉剤とを併用することにより、基材表面の析出物薄膜を部分的に厚くすることもできる。
【0031】
フルオロ金属錯化合物水溶液中にホウ酸等のフッ素捕捉剤を添加すると、水溶液中でホウ素によってフッ素が捕捉されるため、フッ素と生成する方向に化学平衡がシフトし、フルオロ金属錯化合物が加水分解して金属酸化物となって析出する。
また析出にあたっては数〜数十ナノメートルの、中性近傍或いは塩基性の環境では表面にOH基を有することになる球状粒子となって基材上に緻密に配列を繰り返しながら積層すると考えられ、その結果、島状粒子集合体のように凹凸からなる表面構造においては、特に凹部ではOH−イオンが特に濃集しやすい環境にあるため、これら水酸イオンの濃度の増大を引き起こし、これに伴って生体に埋入させたり、リン酸カルシウム類形成溶液に浸漬させたりしたときにリン酸カルシウム類の過飽和度が増大し、リン酸カルシウム類の核形成がこれら表面構造上に比較的容易に起こり易く、爾後のリン酸カルシウム類形成を円滑ならしめる働きをするものと推察される。
【0032】
具体的には、6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム、7フッ化タンタルアンモニウムのなかから選ばれる少なくとも一種と、ホウ素化合物を含む水溶液中に、基材を浸漬することにより、基材表面に金属酸化物膜を成膜することができる。さらに複合酸化物膜を形成する場合は、上記フルオロ金属錯化合物を2種以上併用すればよく、さらに、上記したように酸化チタン、シリカおよび酸化ジルコニウムの複合酸化物からなる膜を形成する場合、6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム並びにホウ素化合物を含む水溶液中に基材を浸漬すればよく、その原料混合組成(モル比)を、前記したようにSiO2:0.3〜0.1、TiO2:0.2〜0.03、ZrO2:0.9〜0.5の比率にすればよい。
【0033】
これらの金属酸化物膜は、これらのフルオロ金属錯化合物の少なくとも2種類以上を水中に溶解し、フッ素捕捉剤を添加することによって金属酸化物複合膜を形成し用途に応じた化学的、機械的耐性を発現させることが可能となる。
なお生体に埋入させたり、リン酸カルシウム類形成溶液に浸漬させたりする際には、リン酸カルシウム類を特異な表面構造上に核形成し成長させやすくするために、リン酸カルシウム類と金属酸化物膜との親和性を高めてもよく、フルオロ金属錯化合物を溶解した水溶液中に予め水溶性カルシウム塩を溶解させ、これにフッ素捕捉剤を添加して金属酸化物を析出させることによって酸化物中にカルシウムイオンを混入させてもよい。
【0034】
水溶性カルシウム塩としては、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。
このような水溶性カルシウム塩は、フルオロ金属錯化合物水溶液中に、10−5〜1モル/リットル、好適には10−4〜10−1モル/リットルの量で添加されていることが望ましい。
【0035】
このように、リン酸カルシウム類の原料となるカルシウムを金属酸化物膜表面に混入させておくと、リン酸カルシウム類を析出成長させる際に親和性の高い環境を提供することが可能であり、カルシウムを混入させておくとリン酸カルシウム類の形成がより顕著となる。
また、このように金属酸化物膜を形成するに先立ち、基材表面に親水性を付与させるために、基材をアルカリ水溶液に浸漬させてもよい。このとき使用されるアルカリとしては特に制限されるものではなく、通常5〜8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム水溶液が使用され、かかる水溶液中に、50〜80℃下で、20〜120分程度浸漬処理すればよい。また、このようなアルカリ処理の他に、プラズマや紫外線を照射する処理を行っても良い。
【0036】
なお、このように前処理を行った場合、残存するアルカリ等は充分に純水で洗浄しておくことが望ましい。
さらに、前記方法では、低温下で基材表面に生体活性金属酸化物層を形成できるが、基材の熱的変質を生じない条件下で必要に応じて加熱工程(加熱温度50〜70℃程度)を設けても良い。
【0037】
また本発明を用いて金属酸化物薄膜を形成する前に、基材上にフォトリソグラフィなどの方法でレジスト膜を形成し、金属酸化物膜が形成される部位を制限することもできる。さらにまた、人工骨、生体埋め込み治療材料、生体埋め込み医療機器、器具等の表面に金属酸化物膜をコートした後、体内に埋入する場合、予めリン酸カルシウム類形成溶液または疑似体液に浸漬し、表面にリン酸カルシウム類の析出層を形成することもできる。
【0038】
本発明において、リン酸カルシウム類形成溶液は、カルシウムイオン(Ca2+)を0.02〜25mM、リン酸水素イオン(HPO4 2−)を0.01〜10mM含有し、pHが6〜8であることが好ましい。より好ましくはカルシウムイオンを0.2〜20mM、リン酸水素イオンを0.1〜8mM含み、pHは6.8〜7.6である。さらに好ましくは、カルシウムイオンを1.2〜5mM、リン酸水素イオンを0.5〜2mM含み、pHは7.2〜7.5である。
【0039】
リン酸カルシウム類形成溶液の調製には、リン酸水素二カリウム・三水和物及び塩化カルシウムを用いることが好ましい。リン酸カルシウム類形成溶液のpHは、適切な緩衝液、例えばNH2C(CH2OH)3を用い、更に塩酸のような酸を加えて調整することが好ましい。
生体適合性に優れたリン酸カルシウム類を形成させるためには、カルシウムイオンとリン酸水素イオンに加えて、例えば、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム・六水和物、硫酸ナトリウムなどをさらに含むことが好ましい。この場合、ナトリウムイオン(Na+)を1.4〜1420mM、カリウムイオン(K+)を0.05〜50mM、マグネシウムイオン(Mg2+)を0.01〜15mM、塩素イオン(Cl−)を1.4〜1500mM、炭酸水素イオン(HCO3 −)を0.04〜45mM、硫酸イオン(SO4 2−)を5.0×10−3〜5mM含有していてもよい。好ましくは、ナトリウムイオンを14〜1140mM、カリウムイオンを0.5〜40mM、マグネシウムイオンを0.1〜12mM、塩素イオンを14.5〜1200mM、炭酸水素イオンを0.4〜36mM、硫酸イオンを0.05〜4mM含む。より好ましくは、ナトリウムイオンを70〜290mM、カリウムイオンを2.5〜10mM、マグネシウムイオンを0.7〜3.0mM、塩素イオン70〜300mM、炭酸水素イオンを2.0〜9.0mM、硫酸イオンを0.2〜1.0mM含有していてもよい。
【0040】
本明細書で使用される擬似体液はリン酸カルシウム類形成溶液に含まれ、無機成分の組成が、人体の血漿中の無機成分に類似し、ナトリウムイオンを142.0mM、カリウムイオンを5.0mM、マグネシウムイオンを1.5mM、カルシウムイオンを2.5mM、塩素イオンを148.8mM、炭酸水素イオンを4.2mM、リン酸水素イオンを1.0mM、硫酸イオンを0.5mM含み、トリスヒドロキシメチルアミノメタンと塩酸を用いてpHを7.25〜7.4に調整したものである。
【0041】
以下、本発明に係る複合材料の製造方法の要点についてさらに詳細に説明する。
(1)表面形状制御
本発明では金属酸化物の析出反応を進行させるために、まずフルオロ金属錯化合物塩(例えばフッ化金属アンモニウム塩)を溶解した水溶液に、金属からフッ素を取り去るためにフッ素捕捉剤としてホウ酸等を添加する。これによって水溶液中でホウ素はフッ素と結びついてより安定なフッ化ホウ素イオンを形成するため遊離した金属イオンは高活性な状態となって酸素と化合し、基材表面に金属酸化物粒子として析出を開始する。この際水溶液中での析出反応は、ほぼ均質核形成にプロセスと類似し、数ナノ〜数百ナノメートルサイズの粒子となって析出する。これらの球状粒子はアモルファス状態からなることもあり、多結晶集合体や前者との混合状態或いは単結晶からなることもある。ここで単結晶粒子は、基材表面に対し表面自由エネルギーの高い結晶方位で接合し、結晶配向性を示す場合がある。
【0042】
このようなナノサイズの析出粒子は、基材表面に付着析出し特異な表面構造を形成する。形成粒子のサイズが均一である場合は、基材表面にナノ粒子が整然とかつ緻密に配列しながら膜形成が進行する。一層が形成されるとさらにその上に第二層が形成され始め、ところどころに島状析出物が形成される。しかし、一般的には形成粒子のサイズが不均一であるため、積層が進行するにつれて粒子配列の不整が生じ成膜表面に凹凸が生じたり成膜の各所に空隙が繋がって生じるホローが形成されたりする。
【0043】
これらの表面構造を機能発現にとって適正なものとするためには、水溶液中の溶解した試薬の濃度や、析出温度及び析出時間等を適当な範囲に制御しておくことが望ましい。
図2は、例えばある特定組成の酸化物膜作成(図4)のためにある試薬調合比(図3)で析出させたときの析出温度と膜厚及び表面構造の関係を模式的に示す概念図である。なお、析出時間は15時間とした。
【0044】
温度領域を大まかに30℃未満、30〜40℃及び40℃を超える範囲にその析出物の粒子集合状態から分割すると、30℃未満での析出では数ナノメートルレベルの析出粒子の集合によって基材表面を整然と覆い、一層が形成されるとさらにその上に島状粒子集合体を形成しながら析出が進行していく。したがって膜は緻密で表面の凹凸も少ない。30〜40℃の温度領域になると数ナノメートル〜数十ナノメートルと粒子径の分布に幅が生じ、サイズ的に混在した粒子より構成されるようになる。これによって表面構造に凹凸が生じるようになる。本発明の目的とするリン酸カルシウム類の核形成が誘起されやすい構造とは、即ち、適度のOH基の密度分布からなり、リン酸カルシウム類成分の過飽和状態が増大しやすく、かつ核形成のサイトを提供するような表面構造に相当する。
【0045】
さらに40℃を超えると、数十ナノメートル〜数百ナノメートルサイズの粒子が出現し、形成された膜に亀裂が入り易くなる。粒子径が大きくなることによって可視光領域に影響が現れ、形成した膜の白濁化が生じる。表面構造は、顕微鏡レベルでラフになり、多孔質体に近い状態になる。
以上3領域の表面構造のアウトラインを比較したが、30℃未満及び30〜40℃領域が膜の付着性、機械的強度といった観点から好ましいが、特に30〜40℃領域で形成された膜の表面構造は、リン酸カルシウム類が形成されやすい、即ち生体活性を有する表面構造膜である。またこれらの製造上のパラメーターを有効にコントロールすることによって最適な表面構造を再現性良く形成することが可能となる。
【0046】
なお、40℃を超えて形成された金属酸化物膜であっても本発明の目的を著しく損なうものではなく、そのまま使用に供することができる。
また、上記のような温度は、酸化物組成、金属種、フッ素捕捉剤の濃度、原料水溶液濃度等に応じて適宜変化するが、いずれにせよ、100℃以下の温度であれば、本発明の目的とする金属酸化物を形成することができる。
(2)複合金属酸化物の生成
本発明における膜形成のための水溶液中での反応は下記のように表現される。
【0047】
たとえばフルオロ金属アンモニウム錯体を純水中に溶解させると(I)式のような反応式により溶解する。
【0048】
【化2】
【0049】
この状態に、フッ素捕捉剤としてホウ酸を添加すると(III)式により、水溶液中のフッ素が減少するため、(II)式の化学平衡がフッ素を生成する右方向にシフトし、金属酸化物が生成し、基材表面に析出する。
【0050】
【化3】
【0051】
本発明を生体内材料に応用する場合は、膜付着力、膜の機械的耐性及び生体活性強度を膜組成によってコントロールしなければならない。一方特に本製造方法によれば金属酸化物を数種類複合化することで、一種類の酸化物の場合よりも生体活性が向上することが期待できる。
例えば酸化チタン、酸化ジルコニウム及び二酸化珪素はそれぞれ特殊な製法によればそれぞれ生体活性を示すが、これらを複合化することによりこれらの相乗効果により、生体活性の高さが大幅に増強されることを本発明者は見いだし、そしてさらに検討した結果、これら酸化物複合体の析出条件を特定し、試薬調合組成比と生成された膜組成、膜特性との関連性について検討し、生体適合性が強く現れる組成領域を特定できた。
【0052】
一般に(NH4)2SiF6−(NH4)2TiF6−(NH4)2ZrF6−B2O3−H2O系では、上述の式においてMe=Si、Ti,Zrのそれぞれにおいて反応式が相互作用しながら進行しそれぞれの酸化物或いは複合酸化物は酸化物複合体として共析する。
すなわち同時に表現すると、
【0053】
【化4】
【0054】
これらの共析物の化学組成は、反応前の試薬調整比と必ずしも一致するとは限らない。
具体的な膜組成は、上記したように、SiO2:0.3〜0.1, TiO2:0.2〜0.03, ZrO2:0.9〜0.5の範囲内にあり、これらの構成成分の一部は酸化二オブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウム及びアルミナ等で置換されても良い。
【0055】
原料として6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化チタンアンモニウム及び6フッ化ジルコニウムアンモニウム(それぞれASF,ATF及びAZFと略記)を用いたとき、特に生体活性強度が強く発現し、機械的化学的耐性が良好な複合成分比を現出させる試薬調合比率を図3に、図4に対応析出酸化物複合膜の組成比の領域を示している。
【0056】
なおSi,Ti,Zr系酸化物複合体が形成されれば図3の斜線部の領域にはとらわれず、また、上記調合比率は、原料、金属種に応じて図3の最適領域は適宜変更されることもある。
以上のように形成された金属酸化物膜(金属酸化物膜が2層以上積層されている場合は、基材と接した金属酸化物膜)と基材との接着強度は、通常5MP以上であり、非常に基材との接着性に優れており、このため、使用時、生体内で膜が脱落することもない。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、体液中でリン酸カルシウム類の形成を促すような表面に官能基(水酸基)を有する金属酸化物を、低温(室温)環境下でかつ複雑形状を有する対象物に、高付着力でコーティングできる。これによって従来では生体代替材料として顧みられなかったプラスチックのような基材表面に生体親和性を持たせることが可能となる。
【0058】
また体液中で、リン酸カルシウム類の形成が比較的容易に起こりうる金属酸化物膜を基材表面に形成できるので、生体親和性に非常に優れた基材を製造することができる。
さらに、一般には特定の製法で作成された水酸基を有する酸化物では、生体親和性が確認されているが、これらの酸化物を複数種複合させたものでは、相乗的効果によりこれら従来のものよりも生体活性が高い。
【0059】
このような本発明に係る複合材料は、
1.人工骨、人工歯根、医療用並びに歯科用インプラント材、人工血管、人工臓器
2.医療器具、経皮端子等の生体用端子
3.ハイブリッド生体材料
4.バイオセンサー、チップデバイス(プロティンチップ、DNAチップ)、化学反応マイクロチップ、化学実験プラント、ドラッグデリバリー、マイクロマシーン、ナノマシーン
5.細胞〔特にSE細胞〕培養の型、スキャホールド〔アパタイトだけで作るよりも丈夫〕
6.微細パターン
7.マイクロアレイとマイクロTAS
等広範な応用が可能となる。
【0060】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0061】
【実施例1】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このようなサンプルの表面に親水性を持たせるために8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保ちこのサンプルを45分間浸漬した。
【0062】
その後純水中に6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化チタンアンモニウム及び6フッ化ジルコニウムアンモニウムをそれぞれ30g、8g、2g加え、更に酸化ホウ素15gを加え水溶液を攪拌しながら純水を加えて1リットルに調整し完全に溶解させた。この水溶液の温度を40℃に保ちながら、モデルサンプルをこの水溶液に浸漬した。
【0063】
20時間浸漬後サンプルを処理液から取り出し純水によって洗浄し、乾燥させた。
その後サンプルの生体親和性を確認するために、浸漬するための擬似体液(SBF)を調製した。
[擬似体液]
まず蒸留水700mlにNaClを7.996g、NaHCO3を0.350g、KCl
を0.224g、K2HPO4・3H2Oを0.228g、MgCl2・6H2Oを0.305g、1M塩酸を40ml、CaCl2を0.278g、Na2SO4を0.071g、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを6.057g溶解させ、36.5℃でpHが7.4となるように、1M塩酸で調整し、その後蒸留水を加えて溶液全体を1リットルとした。
【0064】
この擬似体液中に、先に用意したモデルサンプルを浸漬し、2週間保持した。その後モデルを擬似体液中から取り出して表面に形成された薄膜のX線回折測定を実施した。浸漬一週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属される回折ピークが観測され、二週間後にそのピーク強度が増大したことから、モデル表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0065】
【実施例2】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このモデルサンプルの表面に親水性を持たせるために8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保った中でサンプルを45分間浸漬した。
【0066】
その後純水中に6フッ化珪素アンモ二ウム、6フッ化チタンアンモニウムおよび6フッ化ジルコニウムアンモニウムをそれぞれ4g、2g、30g加え、更に酸化ホウ素15gを加え水溶液を攪拌しながら純水を加えて1リットルに調整し完全に溶解させた。この水溶液を40℃に保ちながら、モデルサンプルをこの水溶液に浸漬した。
【0067】
20時間浸漬後サンプルを処理液から取り出し純水によって洗浄し、乾燥させた。実施例1と同じ擬似体液中に、用意したモデルサンプルを浸漬し、2週間保持した。その後モデルを擬似液体中から取り出して表面に形成された薄膜のX線回折測定を実施した。浸漬一週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属される回折ピークが観測され、二週間後にそのピーク強度が増大したことから、モデル表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0068】
【実施例3】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このようなサンプルの表面に親水性を持たせるために8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保ちながら、このサンプルを45分間浸漬した。
【0069】
その後純水中に6フッ化珪素アンモニウム、7フッ化タンタルアンモニウム及び6フッ化ジルコニウムアンモニウム、硝酸カルシウムをそれぞれ30g、14g、2g、0.5g加え、更にフッ素捕剤としてホウ酸を20g加えて水溶液を攪拌しながら純水を加えて1リットルに調整し完全に溶解させた。この水溶液を40℃に保ちながら,モデルサンプルをこの液中に浸漬した。
【0070】
20時間浸漬後、サンプルを処理液から取り出し純水によって洗浄し、乾燥させた。
実施例1と同じ擬似体液中に、用意したモデルサンプルを浸漬し、2週間保持した。その後モデルを擬似体液中から取り出して表面に形成された薄膜のX線回折測定を実施した。浸漬一週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属される回折ピークが観測され、二週間後にそのピーク強度が増大したことからモデル表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0071】
【実施例4】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このようなサンプルの表面に親水性を持たせるために8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保ちながら、このサンプルを45分間浸漬した。同様にして同じサンプルを2個用意した。
【0072】
次に6フッ化チタンアンモニウムを2g取り出し純水に溶解させ、さらに1リットルになるまで純水を加え液温を40℃とした。これに酸化ホウ素15gをすばやく溶解させ、これに先に作成したサンプルの一方を浸漬させ6時間放置した。その後サンプルを、処理液から取り出し純水で洗浄後乾燥させた。このとき作成された被膜は分析の結果、アナタ−ゼ型酸化チタンであった。
【0073】
一方別の容器中で、純水中に6フッ化珪素アンモニウム、7フッ化タンタルアンモニウム、6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム、硝酸カルシウムをそれぞれ30g、5g、3g、2g、0.5g添加し完全に溶解させてから、更に酸化ホウ素15g添加し完全に溶解させながら純水を加え1リットルとした。
この水溶液の温度を40℃に保ちながら、もう一方のモデルサンプルをこの水溶液に浸漬した。
【0074】
20時間後サンプルを処理液から取りだして純水によって洗浄し、乾燥させた。
実施例1と同じ疑似体液中に、2種のサンプルを浸漬して2週間保持した。
その後これらを取りだして表面に形成された薄膜のX線回折測定を実施した。
浸漬後一週間後に両者の表面にヒドロキシアパタイト類に帰属する回折ピークが観察された。更に二週間後には、そのピークが増大したが、前者の酸化チタン一層のサンプルに対して、後者サンプルのヒドロキシアパタイト類のメインピーク高(2θ=32°)は、前者より約1.5倍程度高いピークが観察された。
【0075】
【実施例5】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このようなサンプルの表面に親水性を持たせるために8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保ちこのサンプルを45分間浸漬した。
【0076】
その後純水中に6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化チタンアンモニウム及び6フッ化ジルコニウムアンモニウムをそれぞれ30g、8g、2g加え、更に酸化ホウ素30gを加え水溶液を攪拌しながら純水を加えて1リットルに調整し完全に溶解させた。この水溶液の温度40℃に保ちながら、モデルサンプルをこの水溶液に浸漬した。
【0077】
20時間浸漬後サンプルを処理液から取り出し純水によって洗浄し、乾燥させた。
その後、6フッ化チタンアンモニウム3.5g、硝酸カルシウム0.5gを純水中に加え完全溶解後、酸化ホウ素30g添加しながら純水を加えて1リットルに調整し、完全に溶解した水溶液中に、上記のサンプルを再度浸漬した。6時間後これを取りだして洗浄後乾燥させた。
【0078】
実施例1と同じ疑似体液中に、先に用意したモデルサンプルを浸漬し、10日間ほど保持した。その後モデルを疑似体液中から取り出して表面に形成された薄膜のX線回折測定を実施した。浸漬後3〜4日でヒドロキシアパタイト類に帰属される回折ピークが観測され、一週間後にそのピーク強度が増大したことからモデル表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0079】
【実施例6】
基材としてアクリル製平板(100mm×100mm×1mm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。
金属酸化物膜形成後の基材を実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、基材表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0080】
【実施例7】
基材としてアクリル製織布(100mm×100mm×0.5mm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。
金属酸化物膜形成後の基材を実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、基材表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0081】
【実施例8】
基材としてウレタンフォーム(100mm×100mm×10mm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。
金属酸化物膜形成後の基材を実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、基材表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0082】
【実施例9】
基材としてチタン合金(Ti−6Al−4V)製平板(100mm×100mm×1mm)を用い、さらに水酸化ナトリウムへの浸漬を行わなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。
金属酸化物膜形成後の基材を実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、基材表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0083】
【実施例10】
基材としてアルミナ製平板(100mm×100mm×1mm)を用い、さらに水酸化ナトリウムへの浸漬を行わなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。
金属酸化物膜形成後の基材を実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、基材表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【0084】
【実施例11】
アクリル製骨形状モデル(サイズ120×30×30mm)にアクリル系ハードコートを施したものを用意した。このようなサンプルの表面に親水性を持たせるために、8モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を70℃に保ちながら、このサンプルを45分間浸漬した。
【0085】
その後純水中に6フッ化チタンアンモニウム、硝酸カルシウムをそれぞれ4.5g、0.5g加え、更にフッ素捕捉剤としてホウ酸を20g加えて水溶液を攪拌しながら純水を加えて1リットルに調整し完全に溶解させた。この水溶液を40℃に保ちながら、モデルサンプルをこの液中に浸漬した。
金属酸化物膜形成後のモデルを実施例1と同じ疑似体液に浸漬したところ、1週間後にヒドロキシアパタイト類に帰属されるX線回折ピークが観測され、2週間後にそのピーク強度が増大したことから、モデル表面におけるヒドロキシアパタイト類の生成が確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における島状金属酸化物粒子集合体から構成された多孔組織の概略断面図を示す。
【図2】特定の試薬調合比で析出させたときの析出温度と膜厚及び表面構造の関係を模式的に示す模式図である。
【図3】原料として6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化チタンアンモニウム及び6フッ化ジルコニウムアンモニウム(それぞれASF,ATF及びAZFと略記)を用いたとき、特に生体活性強度が強く発現し、機械的化学的耐性が良好な複合成分比を現出させる試薬調合比率を示す。
【図4】図3の対応析出酸化物複合膜の組成比領域を示す。
Claims (13)
- 平均径10〜50nm、高さ10〜100nmの大きさの島状金属酸化物粒子集合体から構成されてなる多孔組織からなる金属酸化物膜。
- 上記金属酸化物が、酸化チタン、シリカおよび酸化ジルコニウムの複合酸化物であり、その組成(モル比)がSiO2:0.3〜0.1、TiO2:0.2〜0.03、ZrO2:0.9〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜。
- 上記複合酸化物が、酸化チタンの代わりに、あるいは酸化チタンとともに、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ハフニウムおよびアルミナから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2に記載の金属酸化物膜。
- 上記記載の金属酸化物膜表面が、水または水溶液中で表面に水酸基を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属酸化物膜。
- 生体内に埋入、あるいはリン酸カルシウム類形成溶液に浸漬すると、リン酸カルシウム類をその表面に形成することが可能な請求項1〜4のいずれかに記載の金属酸化物膜。
- 基材、及び該基材表面に形成された請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物膜からなることを特徴とする複合材料。
- 基材表面に2種類以上の金属酸化物膜が積層されてなり、最外層の金属酸化物膜が前記請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物膜からなることを特徴とする複合材料。
- 基材が高分子化合物材料からなることを特徴とする請求項6または7に記載の複合材料。
- 金属酸化物膜(金属酸化物膜が2層以上積層されている場合は、基材と接した金属酸化物膜)と基材との接着強度が、5MP以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の複合材料。
- 6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウム、7フッ化タンタルアンモニウム、7フッ化ニオブアンモニウム、6フッ化スズアンモニウムおよび6フッ化ガリウムアンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種と、ホウ素化合物を含む水溶液中に、基材を浸漬することにより、基材表面に金属酸化物膜を成膜することを特徴とする複合材料の製造方法。
- 6フッ化チタンアンモニウム、6フッ化珪素アンモニウム、6フッ化ジルコニウムアンモニウムおよびホウ素化合物を含む水溶液中に基材を浸漬することにより、基材表面に金属酸化物膜を成膜することを特徴とする複合材料の製造方法。
- 上記水溶液が、水溶性カルシウム塩を10−5〜1モル/リットルで含むことを特徴とする請求項第10または11に記載の複合材料の製造方法。
- 請求項6〜9に記載の複合材料からなるインプラント。
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