JP2004119139A - 燃料電池システム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】燃料ガスと酸化ガスの供給により発電する燃料電池スタックを備えた燃料電池システムにおいて、車両の運転状態に応じて設定された燃料電池スタックの電気出力目標値が前回設定した電気出力目標値から低下した場合に、酸化ガス状態量の目標値、例えば空気流量の目標値を補正する。これにより、燃料電池スタック内の水分が凝縮されずに水蒸気のまま外部に運び出されると共に、溢れた水分も同時に押し流されて、フラッディングの発生が未然に防止される。
【選択図】 図9
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池スタックを備えた燃料電池システムに関するものであり、特に、フラッディングと称される燃料電池スタック内での水溢れを防止する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の環境問題、特に自動車の排出ガスによる大気汚染や二酸化炭素による地球温暖化の問題等に対する対策として、クリーンな排気及び高エネルギ効率を可能とする燃料電池システムが注目を浴びている。燃料電池システムは、発電セルが多段に積層されてなる燃料電池スタックに対して、燃料となる水素ガス或いは水素リッチな改質ガス及び酸化ガス(空気)を供給して、電気化学反応を生じさせ、化学エネルギを電気エネルギに変換するシステムである。なかでも、各発電セルの電解質として固体高分子膜を用いた固体高分子電解質型の燃料電池システムは、低コストでコンパクト化が容易であり、しかも高い出力密度を有することから、自動車等の移動体用電源としての用途が期待されている。
【0003】
以上のような固体高分子電解質型の燃料電池システムにおいて、固体高分子膜は、飽和含水することによりイオン伝導性電解質として機能すると共に、水素と酸素とを分離する機能も有することになる。このため、固体高分子膜の含水量が不足すると、イオン抵抗が高くなり、水素と酸素とが混合して燃料電池としての発電ができなくなってしまう。したがって、固体高分子電解質型の燃料電池システムでは、外部から水分を供給して積極的に固体高分子膜を加湿する必要があり、例えば燃料電池スタックに供給される酸化ガスを加湿する等、何らかの加湿手段が設けられている。
【0004】
ただし、運転条件等によっては、加湿された酸化ガスに含まれる水分の一部が凝縮して水滴となったり、更には空気極において生ずる生成水が残留して液滴となり、これらが電極表面に付着して、燃料電池スタック内での水溢れ(いわゆるフラッディング)を引き起こす場合がある。フラッディングは、電極表面に付着した水滴によって電極へのガスの拡散が阻害される現象であり、電圧低下や出力低下の原因となる。
【0005】
このようなフラッディングを解消する方法としては、燃料電池スタックの出力電圧、内部抵抗、酸化ガスの排ガス湿度の少なくともいずれか1つを検出し、検出値が予め定めた許容範囲を外れた場合にフラッディングと判断して、酸化ガスの流量或いは圧力を増加させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
更に、排ガス流量や排ガス圧力、排ガス温度、出力電流に基づいて燃料電池スタックの内部の水含有状態を求め、水含有状態からフラッディングと判定されたときには燃料電池スタックの圧縮応力が小さくなるように、また、水含有状態からドライアップ状態と判定されたときには燃料電池スタックの圧縮応力が大きくなるように、圧縮応力調節機構を駆動する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2記載の方法では、圧縮応力を調節することにより、燃料電池スタック内部における水の移動スペースを調節し、燃料電池スタックの内部の水含有状態を適正な状態としている。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−167421号公報
【0008】
【特許文献2】
特開2001−319673号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1,2にて開示される技術は、いずれも燃料電池の運転状態からフラッディングが発生していることを検出し、燃料電池スタックに供給する酸化ガスの流量や湿度、或いは燃料電池スタックに加える圧縮応力を変化させるものであり、燃料電池スタックから取り出す電力の変動を抑え切れないという不都合がある。
【0010】
すなわち、従来の技術では、フラッディングが検出されてから、言い換えると燃料電池スタックのセル電圧が不安定になってからフラッディングへの対応を行うことになるので、燃料電池スタックから取り出す電力には必然的に変動が生じてしまう。したがって、例えば前記変動が車両挙動に影響を与えないように大容量のバッテリを搭載する必要が生じたり、酸化ガスの流量を変化させるためのコンプレッサが不自然な駆動音を発したりという不具合が生ずる。また、特許文献2記載の技術では、圧縮応力を変化させるための手段を追加する必要があり、装置構成が複雑なものとなる。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する不都合を解消することを目的に提案されたものである。すなわち、本発明は、燃料電池スタックから取り出す電力の変動無しにフラッディングの発生を抑制することが可能な燃料電池システムを提供することを目的としている。また、本発明は、新たなデバイス等を付加する必要がなく、装置構成を複雑なものとすることなくフラッディングを抑制することが可能な燃料電池システムを提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の燃料電池システムは、燃料ガス及び酸化ガスの供給により発電する燃料電池スタックを備え、車両の運転状態に応じて前記燃料電池スタックの電気出力目標値が設定される燃料電池システムであり、設定された電気出力目標値に応じて前記燃料電池スタックに供給する酸化ガス状態量の目標値を設定する共に、電気出力目標値の低下時には、設定された前記酸化ガス状態量の目標値を補正することを特徴とするものである。
【0013】
すなわち、従来技術では、上述したようにフラッディングを検出してから酸化ガスの流量等を変更し、余分な水を外部に運び出すようにしているのに対して、本発明は、電気出力目標値の低下時に酸化ガス状態量の目標値を補正することで、フラッディングの発生を未然に防止するようにしたものである。
【0014】
ここで、酸化ガス状態量とは、例えば、酸化ガス流量、酸化ガス圧力、酸化ガス温度、酸化ガス加湿量等をいい、燃料電池スタックの電気出力目標値が低下する際に、例えば所定の遅れを持たせて酸化ガスの流量を低下させるような補正を行う。或いは、燃料電池スタックの電気出力目標値が低下する際に、酸化ガスの圧力を素早く低下させるような補正を行う。これにより、燃料電池スタック内部で生じる生成水や加湿された酸化ガスに含まれる水分等に由来した液滴が、燃料電池スタックからの排ガス(排空気)によって効率的に排出されることになる。
【0015】
【発明の効果】
本発明によれば、燃料電池スタック内部の余分な水分(液滴)を燃料電池スタックからの排ガスによって効率的に排出することができるので、燃料電池スタックから取り出す電力に変動を生じさせることなく、フラッディングの発生を未然に防止することができる。また、本発明は、新たなデバイス等を付加することなく、現有のシステム構成に合わせて、例えばコントローラを動作させるプログラムの変更のみで実現できるので、装置構成の複雑化やコストの増大を招くこともない。更に、電気出力目標値の変化量に応じて、酸化ガス状態量の補正に必要な各種パラメータ(例えば遅れ時定数等)を予め算出しておくことで、コントローラで複雑な演算処理を行うことなく、フラッディング防止の効果を得ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した燃料電池システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
本実施形態は、燃料電池スタックの電気出力目標値が低下したときに、この電気出力目標値に応じて設定された酸化ガス流量の目標値を補正して、酸化ガス流量を低下させるタイミングに遅れを持たせることで、フラッディングの発生を未然に防止するようにした例である。
【0018】
本発明を適用した燃料電池システムの全体構成を図1に示す。この燃料電池システムは、燃料電池スタック1と、この燃料電池スタック1に燃料ガスである水素ガスを供給する燃料供給系、酸化ガスである空気を供給する空気供給系、及び燃料電池スタック1を冷却するための冷却機構を備えている。
【0019】
燃料電池スタック1には、電力制御装置2が接続されている。そして、この電力制御装置2の制御によって、燃料電池スタック1から車両の運転状態に応じた電力が取り出されるようになっている。また、この電力制御装置2はコントローラ3に接続されており、電力制御装置2からの情報に基づいて、コントローラ3が燃料供給系や空気供給系、冷却機構を制御するようになっている。
【0020】
燃料電池スタック1は、燃料ガスである水素ガスが供給される燃料極1aと酸化ガスである空気が供給される空気極1bとが電解質・電極触媒複合体を挟んで重ね合わされてなる発電セルが多段積層された構造を有し、電気化学反応により化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。燃料極1aでは、供給された水素ガスが水素イオンと電子に解離し、水素イオンは電解質を通り、電子は外部回路を通って電力を発生させて、空気極にそれぞれ移動する。空気極1bでは、供給された空気中の酸素と燃料極1aからの水素イオン及び電子が反応して水が生成される。この生成水は、外部に排出される。
【0021】
燃料電池スタック1の電解質としては、高エネルギー密度化、低コスト化、軽量化等を考慮して、例えば固体高分子電解質が用いられる。固体高分子電解質は、例えばフッ素樹脂系イオン交換膜等、イオン(プロトン)伝導性の高分子膜からなるものであり、上述したように、飽和含水することによりイオン伝導性電解質として機能する。したがって、この燃料電池スタック1には、固体高分子電解質を加湿するための水分が供給されるようになっている。
【0022】
燃料供給系は、水素調圧バルブ4、エゼクタ5、水素供給配管6、水素循環配管7、水素ガス加湿装置8を有する。そして、この燃料供給系は、図示しない水素供給源(例えば高圧水素タンク等)から供給される水素ガスを、水素調圧バルブ4及びエゼクタ5を通して水素供給配管6へと送り、水素ガス加湿装置8において加湿した後、燃料電池スタック1の燃料極1aに供給するようになっている。水素ガス加湿装置8には、図示しない加湿用純水経路が設けられており、純水の流量や温度等によって水素ガスの加湿量が制御される。
【0023】
燃料電池スタック1では供給された水素ガスが全て消費されるわけではなく、残った水素ガス(燃料電池スタック1から排出される排水素ガス)は、水素循環配管7を通ってエゼクタ5により循環され、水素供給源から新たに供給される水素ガスと混合されて、再び燃料電池スタック1の燃料極1aに供給される。なお、燃料電池スタック1の出口側には、水素パージバルブ9及び水素パージ配管10が設けられている。これら水素パージバルブ9及び水素パージ配管10は、水素ガスを循環させることで水素循環配管7内に蓄積された不純物や窒素等を除去するためのものである。すなわち、水素ガスを循環させるようにすると、水素循環配管7内に不純物や窒素等が蓄積し、水素分圧が降下して燃料電池スタック1の効率が低下する場合がある。これら水素パージバルブ9や水素パージ配管10を設けることで、水素循環配管7内から不純物や窒素等を除去することができ、燃料電池スタック1の効率低下を抑制することができる。
【0024】
また、この燃料供給系においては、水素供給配管6の中途部に燃料極圧力センサ11が設けられており、燃料電池スタック1の燃料極1aの圧力がこれによってモニタリングされている。そして、この燃料極圧力センサ11からの情報に基づいて、コントローラ3が水素調圧バルブ4を制御するようになっている。
【0025】
一方、空気供給系は、空気を送り込むコンプレッサ12、空気流量センサ13、空気加湿装置14、空気供給配管15、空気極調圧バルブ16を有している。そして、この空気供給系は、コンプレッサ12からの空気を、空気流量センサ13及び空気加湿装置14を通して空気供給配管15へと送り、燃料電池スタック1の空気極1bに供給するようになっている。空気加湿装置14には、図示しない加湿用純水経路が設けられており、純水の流量や温度等によって空気の加湿量が制御される。燃料電池スタック1で消費されなかった酸素及び空気中の他の成分は、燃料電池スタック1から空気極調圧バルブ16を介して排出される。
【0026】
この空気供給系においても、空気供給配管15の中途部には空気極圧力センサ17が設けられており、燃料電池スタック1の空気極1bの圧力がこれによってモニタリングされている。そして、この空気極圧力センサ17からの情報に基づいて、コントローラ3が空気極調圧バルブ16を制御するようになっている。
【0027】
固体高分子電解質を用いた燃料電池スタック1は、適正な作動温度が80℃前後と比較的低いため、過熱時には冷却することが必要である。そこで、この燃料電池システムにおいては、燃料電池スタック1を冷却する冷却機構が設けられている。この冷却機構は、冷媒としての冷却水を循環させる冷却水循環配管18を有し、循環する冷却水によって燃料電池スタック1を冷却することで、燃料電池スタック1を最適な温度に維持する。
【0028】
冷却水の循環経路にはラジエータ19が設けられている。また、このラジエータ19と並列にバイパス配管20が設けられており、冷却水バイパス流量制御弁21を制御することにより、バイパス配管20を流れる冷却水の流量が制御されるようになっている。
【0029】
このような冷却機構では、燃料電池スタック1で発生した熱は、冷却水循環配管18を流れる冷却水によって持ち去られ、ラジエータ19で外部に放出される。冷却水は、冷却水ポンプ22によって冷却水循環配管18内を循環される。ここで、冷却水循環配管18の燃料電池スタック1からの出口側中途部には、冷却水温度センサ23が設けられており、この冷却水温度センサ23によって冷却水の温度が測定される。そして、この冷却水温度センサ23からの検出温度に基づいて、コントローラ3が冷却水バイパス流量制御弁21を制御する。すなわち、冷却水温度が低すぎる場合には、冷却水バイパス流量制御弁21を制御してバイパス配管20を流れる冷却水を増加させ、温度低下を防止する。一方、冷却水温度が高すぎる場合には、冷却水バイパス流量制御弁21を制御してバイパス配管20を流れる冷却水を減少させ、温度上昇を防止する。
【0030】
以上、本発明を適用した燃料電池システムの基本的な構成を説明したが、次に、このような燃料電池システムにおいて特徴的な部分であるコントローラ3の構成及び機能について、詳細に説明する。
【0031】
コントローラ3は、CPUやROM、RAM、CPU周辺回路等がバスを介して接続されたマイクロプロセッサ構成を有しており、CPUがRAMをワークエリアとして利用して、ROMに格納された動作制御プログラムを実行することによって、図2に示すように、目標空気流量設定部(酸化ガス状態量設定手段)31、目標空気圧力設定部32、目標水素圧力設定部33、コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部(酸化ガス状態量制御手段)34、水素調圧バルブ開度制御部35、時定数設定部36、目標空気流量修正部(酸化ガス状態量補正手段)37としての各機能が実現されるようになっている。
【0032】
目標空気流量設定部31は、車両の運転状態に応じて設定された燃料電池スタック1の電気出力目標値、例えば燃料電池スタック1から取り出す電力目標値に応じて、燃料電池スタック1に供給する空気(酸化ガス)流量の目標値を算出するものである。燃料電池スタック1に供給する空気の最適な流量は、図3に示すように、燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値に応じて変化するものである。目標空気流量設定部31は、アクセルセンサや車速センサ等からの情報に基づいて燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値が設定されると、例えば図3に示すようなテーブルを参照して、設定された電力目標値に対応した空気流量の目標値を算出する。
【0033】
目標空気圧力設定部32は、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値に応じて、燃料電池スタック1に供給する空気圧力の目標値を算出するものである。燃料電池スタック1に供給する空気の最適な圧力も、図4に示すように、燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値に応じて変化するものである。目標空気圧力設定部32は、燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値が設定されると、図4に示すようなテーブルを参照して、設定された電力目標値に対応した空気圧力の目標値を算出する。
【0034】
目標水素圧力設定部33は、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値に応じて、燃料電池スタック1に供給する水素圧力の目標値を算出するものである。燃料電池スタック1に供給する水素ガスの最適な圧力も、図5に示すように、燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値に応じて変化するものである。目標水素圧力設定部33は、燃料電池スタック1から取り出すべき電力目標値が設定されると、図5に示すようなテーブルを参照して、設定された電力目標値に対応した水素圧力の目標値を算出する。
【0035】
コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部34は、空気極圧力センサ17からの出力信号と空気流量センサ13からの出力信号、目標空気流量設定部31により算出された空気流量の目標値、及び目標空気圧力設定部32により算出された空気圧力の目標値に基づいて、コンプレッサ12の制御量と空気極調圧バルブ16の制御量とを算出し出力する。このとき、コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部34は、目標空気流量設定部31により算出された空気流量の目標値が目標空気流量修正部37で補正された場合には、この補正された目標値を用いてコンプレッサ12の制御量と空気極調圧バルブ16の制御量とを算出し出力する。
【0036】
水素調圧バルブ開度制御部35は、燃料極圧力センサ11からの出力信号と、目標水素圧力設定部33により算出された水素圧力の目標値とに基づいて、水素調圧バルブ4への制御量を算出し出力する。
【0037】
なお、コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部34と水素調圧バルブ開度制御部35では、いわゆるPI制御方式により、下記(1−1)式〜(1−3)式により、コンプレッサ制御量Ucomp、空気極調圧バルブ制御量UP_AIR、水素調圧バルブ制御量UP_H2の算出を行う。
【0038】
【数1】
以上により、本実施形態の燃料電池システムでは、車両の運転状態に応じて燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が変化するたびに、燃料電池スタック1に供給する空気流量の目標値や空気圧力の目標値、水素圧力の目標値をこれに合わせて変更し、常に最適な運転状態が得られるようにする。ただし、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下する際には、燃料電池スタック1に供給する空気流量を直ちに低下させるとフラッディングの原因となるので、コントローラ3に上述した時定数設定部36及び空気流量修正部37としての機能を実現させて、空気流量の目標値を補正するようにしている。
【0039】
燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下した際に即座に空気流量を低下してはならない理由としては、大きく分けて、以下の2点が挙げられる。
【0040】
(1)発電により生じた生成水等が燃料電池スタック1内を通過し排出されるまでに所定の時間を要すること。
【0041】
(2)燃料電池スタック1の発熱量が減少し、その結果、排出される空気の温度が低下して飽和水蒸気圧が低下し、燃料電池スタック1内部で水の凝縮が起こること。
【0042】
本実施形態においては、先ず、(1)の問題に対応するため、電力目標値の低下に応じて空気流量を低下させる際に、遅延時間(いわば無駄時間)Δtを設ける。図6は、低下後の電力目標値と必要な無駄時間Δtとの関係を示すものである。時定数設定部36は、図6に示すようなテーブルを参照して、低下後の電力目標値に基づいて無駄時間Δtを設定する。
【0043】
また、本実施形態においては、(2)の問題を対応するために、空気流量の低下に遅れ時定数τQ_AIRを設定する。この遅れ時定数τQ_AIRは、電力目標値の変化量、すなわち、この電力目標値の変化に応じた温度低下から予測される水残留量に合わせて設定する必要がある。図7は、電力目標値の変化量と設定すべき遅れ時定数τQ_AIRとの関係を示すものである。時定数設定部36は、図7に示すようなテーブルを参照して、電力目標値の変化量に基づいて、空気流量を低下させる際の遅れ時定数τQ_AIRを設定する。
【0044】
目標空気流量修正部37は、時定数設定部36で算出された無駄時間Δtと遅れ時定数τQ_AIRとを用い、下記(1−4)式に示す演算を行い、目標空気流量設定部31で算出された空気流量の目標値を補正する。
【0045】
【数2】
なお、上記(1−4)式において、sはラプラス演算子、tQAIRは補正した空気流量の目標値、tQAIR_1(Δt)は目標空気流量設定部31でΔt秒前に設定された空気流量の目標値である。
【0046】
燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下したときのコントローラ3による処理の流れの一例を図8に示す。先ず、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が設定されると(ステップS1)、目標空気流量設定部31により、この電力目標値に応じた空気流量の目標値が設定される(ステップS2)。次いで、前回設定された電力目標値(低下前の電力目標値)が読み込まれて(ステップS3)、この前回設定された電力目標値と新たに設定された電力目標値とが比較され、これらの電力目標値の差、すなわち低下前と低下後との電力目標値の変化量が所定値以上であるかどうかが判断される(ステップS4)。
【0047】
その結果、電力目標値の変化が所定値以上の低下であれば、時定数設定部36により遅れ時定数τQ_AIRや無駄時間Δtが設定され(ステップS5)、これら遅れ時定数τQ_AIRや無駄時間Δtに基づいて、目標空気流量修正部37により、目標空気流量設定部31で設定された空気流量の目標値が補正される(ステップS6)。一方、低下前と低下後との電力目標値の変化量が僅かである場合には、空気流量目標値の補正は行われない。
【0048】
そして、空気流量の目標値が補正されない場合は目標空気流量設定部31で設定された空気流量の目標値、空気流量の目標値が補正された場合は目標空気流量修正部37で補正された空気流量の目標値に基づき、コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部34により、コンプレッサ12の制御量が算出され、所望の流量の空気が燃料電池スタック1に供給される(ステップS7)。
【0049】
なお、前回設定された電力目標値(低下前の電力目標値)が大きい場合には、燃料電池スタック1内に残留する水の量が多いと予想されるので、それに応じて遅れ時定数を変化させるようにしてもよい。また、燃料電池スタック1の温度に応じて遅れ時定数を変化させるようにしてもよい。
【0050】
燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下したときに空気流量の目標値に補正を加えた場合(第1の実施形態)の空気流量の変化の様子を、補正を加えない場合(従来例)と対比させて図9に示す。この図9に示すように、従来例では電力目標値が低下すると直ちに空気流量が低下されている。これに対して、本実施形態では、空気流量の低下に無駄時間Δtや遅れ時定数τQ_AIRが設定され、空気流量が低下するタイミングが遅らされていると共に、徐々に低下するように設定されている。
【0051】
空気流量が以上のように変化した場合に、燃料電池スタック1内部に残留する残留水の量が変化する様子を図10に示す。この図10から、従来例のように空気流量を直ちに低下させた場合には、電力目標値を低下させた直後に残留水が急激に増加していることがわかる。これに対して、本実施形態のように空気流量の目標値に補正を加え、電力目標値の低下に遅れて徐々に空気流量が低下するように設定することで、残留水の変化が緩やかになっている。これは、空気流量の目標値に補正を加えることで、電力目標値を低下させた直後にその電力目標を実現する空気量を超える空気が流れ、余分な水分が凝縮されずに水蒸気のまま燃料電池スタック1内から外部に運び出されると共に、溢れた水分も同時に押し流されて燃料電池スタック1から排出されるためと考えられる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下したときに、燃料電池スタック1内部に残留する水の量を減少させることができる。したがって、本実施形態によれば、フラッディングを未然に抑制することが可能である。
【0053】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、空気(酸化ガス)流量の低下を遅らせることで燃料電池スタックから持ち出す水の量を増加させているが、本実施形態では、それに加えて、空気(酸化ガス)の圧力を素速く低下させることで燃料電池スタックから持ち出し得る水の量を増加させている。すなわち、空気の圧力を低下させれば、単位体積当たり含水できる水分量が増加することにより凝縮水が減り、水分は水蒸気のまま燃料スタックから持ち出されることになる。
【0054】
本実施形態における燃料電池システムの構成は、上述した第1の実施形態において図1に示したものと同一であるので、ここではその説明は省略する。図11に本実施形態におけるコントローラ3の構成を示す。コントローラ3の構成も、上述した第1の実施形態において図2に示したものとほぼ同じであるが、第2の時定数設定部38と目標空気圧力修正部(酸化ガス状態量補正手段)39とが追加されている点のみ、図2に示したものとは異なっている。
【0055】
第2の時定数設定部38は、空気圧力の低下に進み時定数GQ_AIR_Bを設定するものである。燃料電池スタック1から取り出す電力目標値の変化量と設定すべき進み時定数GQ_AIR_Bとの関係を図12に示す。第2の時定数設定部38は、図12に示すようなテーブルを参照して、低下前と低下後との電力目標値の変化量に基づいて、空気圧力を低下させる際の進み時定数GQ_AIR_Bを設定する。
【0056】
目標空気圧力修正部39は、第2の時定数設定部38で設定された進み時定数GQ_AIR_Bを用いて、下記(2−1)式に示す演算を行い、目標空気圧力設定部32で算出された空気圧力の目標値を補正する。
【0057】
【数3】
なお、上記(2−1)式において、sはラプラス演算子、tPAIRは補正した空気圧力の目標値、tPAIR_1は目標空気圧力設定部32で算出された空気圧力の目標値、a,bは任意の定数である。
【0058】
燃料電池スタック1から取り出す電力目標値が低下したときに空気圧力の目標値に補正を加えた場合(第2の実施形態)の空気圧力の変化の様子を、補正を加えない場合(従来例)と対比させて図13に示す。この図13に示すように、従来例では電力目標値の低下に合わせて単純に空気圧力が低下されている。これに対して、本実施形態では、空気圧力の低下に進み時定数GQ_AIR_Bが設定され、電力目標値が低下されると同時に空気圧力が急激に低下するように設定されている。
【0059】
空気圧力が以上のように変化した場合に、燃料電池スタック1内部に残留する残留水の量が変化する様子を図14に示す。この図14から、従来例のように空気圧力を単純に低下させた場合には、電力目標値を低下させた直後に残留水が急激に増加していることがわかる。これに対して、本実施形態のように空気圧力の目標値に補正を加え、電力目標値の低下時に空気圧力が急激に低下するように設定することで、残留水の変化が緩やかになっている。これは、空気圧力の目標値に補正を加えることで単位体積当たり含水できる水分量が増加することにより凝縮水が減り、水分が水蒸気のまま燃料スタック1から速やかに持ち出された結果と考えられる。
【0060】
以上のように、本実施形態においても、燃料電池スタック1から取り出される電力目標値が低下したときに、燃料電池スタック1内部に残留する水の量を減少させることができ、フラッディングを未然に抑制することができる。
【0061】
なお、上述した何れの実施形態においても、燃料電池スタック1の電気出力目標値として、燃料電池スタック1から取り出す電力目標値(i×V)に応じて空気(酸化ガス)の状態量(流量や圧力)を設定しているが、燃料電池スタック1から取り出す電流(i)の目標値に応じて酸化ガス状態量を設定することも可能である。また、補正する酸化ガス状態量としては、上述したような空気の流量や圧力に限らず、空気の温度や空気の加湿量であってもよく、これらのうちから複数を組み合わせて補正することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料電池システムの全体構成を概略的に示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるコントローラに実現される各機能を示す機能ブロック図である。
【図3】燃料電池スタックから取り出す電力目標値と最適な空気流量との関係を示す特性図である。
【図4】燃料電池スタックから取り出す電力目標値と最適な空気圧力との関係を示す特性図である。
【図5】燃料電池スタックから取り出す電力目標値と最適な水素圧力との関係を示す特性図である。
【図6】燃料電池スタックから取り出す電力目標値と必要な無駄時間との関係を示す特性図である。
【図7】燃料電池スタックから取り出す電力目標値の変化量と最適な遅れ時定数との関係を示す特性図である。
【図8】電力目標値が低下した場合における処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第1の実施形態における空気流量の変化を従来例と比較して示す図である。
【図10】燃料電池スタック内に残留する残留水の量の変化を示す図である。
【図11】第2の実施形態におけるコントローラに実現される各機能を示す機能ブロック図である。
【図12】燃料電池スタックから取り出す電力目標値の変化量と最適な進み時定数との関係を示す特性図である。
【図13】第2の実施形態における空気圧力の変化を従来例と比較して示す図である。
【図14】燃料電池スタック内に残留する残留水の量の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 燃料電池スタック
2 電力制御装置
3 コントローラ
4 水素調圧バルブ
11 燃料極圧力センサ
12 コンプレッサ
13 空気流量センサ
16 空気極調圧バルブ
31 目標空気流量設定部
32 目標空気圧力設定部
33 目標水素圧力設定部
34 コンプレッサ回転数及び空気極調圧バルブ開度制御部
35 水素調圧バルブ開度制御部
36 時定数設定部
37 目標空気流量修正部
38 第2の時定数設定部
39 目標空気圧力修正部
Claims (9)
- 燃料ガス及び酸化ガスの供給により発電する燃料電池スタックを備え、車両の運転状態に応じて前記燃料電池スタックの電気出力目標値が設定される燃料電池システムにおいて、
設定された電気出力目標値に応じて前記燃料電池スタックに供給する酸化ガス状態量の目標値を設定すると共に、電気出力目標値の低下時には、設定された前記酸化ガス状態量の目標値を補正することを特徴とする燃料電池システム。 - 燃料ガス及び酸化ガスの供給により発電する燃料電池スタックを備え、車両の運転状態に応じて前記燃料電池スタックの電気出力目標値が設定される燃料電池システムにおいて、
設定された電気出力目標値に応じて前記燃料電池スタックに供給する酸化ガス状態量の目標値を設定する酸化ガス状態量設定手段と、
前記電気出力目標値の低下時に、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス状態量の目標値を補正する酸化ガス状態量補正手段と、
前記酸化ガス状態量設定手段により設定された目標値、又は前記酸化ガス状態量補正手段により補正された目標値に基づき、前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの状態量を制御する酸化ガス状態量制御手段とを備えることを特徴とする燃料電池システム。 - 前記酸化ガス状態量補正手段は、低下前の電気出力目標値、低下後の電気出力目標値、或いはこれら電気出力目標値の変化量のうちの少なくとも1つに応じて、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス状態量の目標値を補正することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
- 前記酸化ガス状態量補正手段は、前記電気出力目標値の変化量が所定値以上である場合に、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス状態量の目標値を補正することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
- 前記酸化ガス状態量が酸化ガス流量であり、
前記酸化ガス状態量補正手段は、前記電気出力目標値の変化量に応じた遅れ時定数に基づいて、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス流量の目標値を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料電池システム。 - 前記酸化ガス状態量補正手段は、前記電気出力目標値の低下時に、前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの流量が低下するタイミングを遅らせるように、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス流量の目標値を補正することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
- 前記酸化ガス状態量が酸化ガス圧力であり、
前記酸化ガス状態量補正手段は、前記電気出力目標値の変化量に応じた進み時定数に基づいて、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス圧力の目標値を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料電池システム。 - 前記酸化ガス状態量補正手段は、前記電気出力目標値の低下時に、前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの圧力が前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス圧力の目標値よりも低い圧力となるように、前記酸化ガス状態量設定手段により設定された酸化ガス圧力の目標値を補正することを特徴とする請求項7に記載の燃料電池システム。
- 前記電気出力目標値が前記燃料電池から取り出す電力目標値又は電流目標値であることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の燃料電池システム。
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