JP2004114064A - 溶接構造物の溶接変形制御方法および装置 - Google Patents
溶接構造物の溶接変形制御方法および装置 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】変形拘束治具の剛性や位置以外の因子を含めた溶接構造物の溶接変形、残留応力の最適化評価方法を構築し、複雑形状の溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図ったもの。
【解決手段】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置20は、半環状の被溶接部材3,4同士の内外側面を周方向に溶接して製造される溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図るものである。この溶接変形制御装置20は、溶接構造物1の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、溶接構造物1の溶接変形量と溶接変形許容量とを比較演算処理し、変形拘束治具2以外の因子を含めて溶接構造物11の溶接変形、残留応力分布の最適化を図る溶接変形最適化手段22とを備えたものである。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置20は、半環状の被溶接部材3,4同士の内外側面を周方向に溶接して製造される溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図るものである。この溶接変形制御装置20は、溶接構造物1の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、溶接構造物1の溶接変形量と溶接変形許容量とを比較演算処理し、変形拘束治具2以外の因子を含めて溶接構造物11の溶接変形、残留応力分布の最適化を図る溶接変形最適化手段22とを備えたものである。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接構造物の変形および残留応力を低減させることを目的とした溶接構造物の溶接変形制御方法および装置に係り、特に、半環状あるいは環状の溶接構造物、例えば、タービンノズルダイアフラムの溶接変形を制御する溶接構造物の溶接変形制御方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
固有ひずみという概念を用いた溶接構造物の溶接変形を予測する方法が報告されている。固有ひずみ法とは、固有ひずみと称される、溶接変形や残留応力の生成源となっているひずみ分布を求めておき、溶接構造物の溶接変形や残留応力を求める方法である。例えば、線形FEM(有限要素法)解析において、固有ひずみが分布する範囲の要素にひずみを与えることにより、残留応力、溶接変形をFEM解析により求めることが出来る。
【0003】
固有ひずみ分布を、予めデータベース化しておくなどして、既知の状態にしておけば、詳細な熱弾塑性解析を行なう場合と比較して、短時間で残留応力、変形の解析が可能である。更に、固有ひずみ法による溶接変形、残留応力解析は弾性解析で行なうことが可能であるため、複雑な構造物の溶接変形予測を簡便に行なうことができる
この固有ひずみ法による溶接変形、残留応力解析を用いると、溶接学会全国大会講演概要第70集(2002−4)の「固有ひずみ法を用いた複雑構造物の溶接変形最適化」(非特許文献1)に示されるように、固有ひずみ法の変形、残留応力解析手順の後に逆解析や感度解析の手順を付加することにより、簡便に最適化解析が行なえる。本公知例においては、複雑な構造物の溶接変形を均一化することを目的として、半環状のタービンノズルダイアフラムについて、溶接変形拘束治具の形状、寸法について最適化した例が示されている。
【0004】
しかし、溶接構造物の変形や残留応力は、変形拘束治具以外にも、余熱の状況、仮付けなどの拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法などの多くの因子の影響を大きく受ける。変形拘束治具の剛性や位置以外の因子要因については固有ひずみ法によって得られた溶接変形と変形許容値との関係が出てきても、弾性的な逆解析によって溶接構造物の溶接変形や残理由応力分布を最適化することは困難であった。
【0005】
従来の固有ひずみ法によって得られた溶接構造物の溶接変形と変形許容値から、逆解析により溶接変形を最適化する場合は、弾性的な逆解析によって求められる変形拘束治具の剛性や位置をパラメータとして、変形拘束治具の最適化に限られている。すなわち、固有ひずみ法によって最適化できるのは、弾性的な問題である変形拘束治具に限られている。
【0006】
【非特許文献1】
溶接学会全国大会講演概要 第70集(2002−4)「固有ひずみ法を用いた複雑構造物の溶接変形最適化」(第260頁〜第261頁)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の固有ひずみ法を用いて、複雑な溶接形状、例えばタービンのノズルダイアフラムのような半環状および環状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化することは困難であった。
【0008】
複雑な溶接形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化するためには、変形拘束治具の剛性や位置以外の因子、例えば、余熱の状況、仮付けなどの拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等を含めた溶接変形、残留応力の総合的な最適化評価方法が必要となる。
【0009】
本発明では、上述した事情を考慮してなされたもので、変形拘束治具の剛性や位置以外の因子を含めた溶接変形・残留応力の最適化評価方法を構築し、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化させ得る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、ノズルダイアフラム等の半環状、環状溶接構造物の溶接変形や残留応力のコントロールを行なうことができる溶接構造物の溶接変形制御方法および装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状溶接構造物を製造する際、溶接構造物の溶接変形許容値と固有ひずみ法により導出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を算出する一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、上記修正固有ひずみ分布を得るための溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定し、溶接構造物の溶接条件、拘束条件から変形拘束治具以外の因子を含めた溶接構造物の溶接変形の最適化を行なう方法である。
【0012】
また、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状の溶接構造物を製造する際、溶接構造物の溶接変形の許容値と固有ひずみ法により算出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、固有ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定する方法である。
【0013】
さらに、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項3に記載したように、前記溶接条件は、少なくとも溶接時の入熱量、溶接の種類、余熱温度、層間温度、溶接部の寸法・形状をパラメータに含み、前記拘束条件は、少なくとも被溶接部材の形状・寸法、変形拘束治具の形状・寸法、変形拘束治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度をパラメータに含み、前記材料特性は、少なくとも被溶接部材の機械的特性をパラメータに含む方法であり、また、請求項4に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形による計算と被溶接部材同士を溶接する開先変形による計算を分けて行ない、シュリンク変形と開先変形の合計値から溶接構造物の溶接変形分布を導出する方法である。
【0014】
さらにまた、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項5に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみと、被溶接部材同士を溶接する開先変形に支配的な固有ひずみとに分けて行なう方法であり、また、請求項6に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみ分布は、二次元軸対称モデル解析で得た固有ひずみを、溶接線に沿って台形に分布させる方法である。
【0015】
また、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項7に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、前記溶接構造物のシュリンク変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法を決定する方法であり、さらに、請求項8に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、被溶接部材同士を溶接する開先変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する方法であり、さらにまた、請求項9に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接施工時に、前記溶接構造物のシュリンク変形および被溶接部材同士を溶接する開先変形の少なくとも一方をモニタリングして固有ひずみ法による予測値と比較し、続く溶接施工における溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する方法である。
【0016】
一方、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置は、上述した課題を解決するために、請求項10に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段と、前記固有ひずみの解析手段で導出された溶接構造物の溶接変形量と変形許容値算出手段で算出された溶接変形許容量とを比較演算処理し、変形拘束治具以外の因子を含めて溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図る溶接変形最適化手段とを備えたものである。
【0017】
また、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置は、上述した課題を解決するために、請求項11に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する溶接変形値算出手段と、前記固有ひずみ解析手段で算出された溶接構造物の溶接変形量と前記溶接変形値算出手段で算出された溶接構造物の溶接変形許容量とを比較演算処理して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量を得るための固定ひずみ分布を計算し、固定ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定する溶接変形最適化手段とを備え、この最適化手段で溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図るようにしたものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
初めに、複雑な半環状の溶接構造物1の溶接変形をコントロールするため、固定ひずみ法による溶接変形解析結果に基づき、変形拘束治具2の最適化手法について説明する。
【0020】
図1に示された2つの半環状の被溶接部材3,4を溶接金属5にて周方向に溶接すると半環状の溶接構造物1が製造される。
【0021】
この溶接構造物1は、半環状の外側被溶接部材3の内径側と、半環状の内側被溶接部材4の外径側とを溶接金属5により周方向に接合したものである。外周側と内周側の被溶接部材3,4を溶接金属5を用いて溶接すると、溶接部近傍にほぼ円弧状の溶接線方向に均一な固有ひずみが生じる。この固有ひずみのうち、溶接線に沿った、すなわち、周方向の固有ひずみが、溶接構造物1の溶接変形に影響を及ぼすことを知見した。
【0022】
図1は、半環状の溶接構造物1の溶接変形を最適化する溶接変形制御方法および装置を示すものである。
【0023】
この溶接構造物1の溶接変形制御装置8は、溶接構造物1の溶接変形量、残留応力分布を出力変形として導出する固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、上記出力変形と溶接変形許容量とから必要な変形修正量を求め、弾性的な逆解析や感度解析により変形拘束治具2の剛性や位置を最適化する拘束治具最適化手段12とを備える。
【0024】
溶接変形制御装置8の固有ひずみ解析手段10では、溶接構造物1ひいては外側および内側被溶接部材3,4の形状、寸法、材料、溶接条件等をパラメータ入力装置13に入力させる。溶接構造物1の形状、寸法、溶接条件等が分かれば、固有ひずみデータベース(DB)14の温度履歴解析および熱弾塑性解析により、固有ひずみの大きさや分布領域、すなわち固有ひずみ分布を求めることができる。
【0025】
求められた固有ひずみ分布を用いて、FEM(有限要素法:Finite Element Method)等の応力解析システム15により、溶接構造物1の溶接変形や残留応力、すなわち出力変形を求めることができる。応力解析システム15では、求められた固有ひずみ分布を三次元FEMモデルに入力させることにより、溶接構造物1の溶接変形分布を求めることができる。応力解析システム15は、FEMに代えてBEMや差分法(Finite Difference Method)を用いてもよい。
【0026】
半環状の溶接構造物1は、周方向の固有ひずみにより、径方向、周方向にシュリンクする変形が生じる。このシュリンク変形のために、半環状の溶接構造物1は、特に端部にて溶接変形が大きくなり、時には溶接変形の許容値を超えて変形が生じる場合がある。溶接構造物1の溶接変形の許容値は、パラメータ入力装置13に入力される溶接構造物1の形状、寸法、材料等が決まれば、決定することができる。
【0027】
図1に示された溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、固有ひずみ解析手段10にて固有ひずみ法により求められた溶接変形は、拘束治具最適化手段12により変形許容値算出手段11で算出された溶接構造物1の変形許容値と比較され、必要な変形修正量が得られる。
【0028】
拘束治具最適化手段12における逆解析による溶接変形の最適化では、溶接変形を適切にする必要な変形修正量、単位荷重を作用させた場合の変形量から、弾性的な逆解析や感度解析により、最適な剛性の変形拘束治具2を最適な位置に入れる計算が可能である。図1に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、拘束治具最適化手段12により、変形拘束治具2の最適化を図ることにより、溶接構造物1の溶接変形の最適化を図っている。
【0029】
ところで、溶接構造物1の溶接変形や残留応力は、変形拘束治具2の剛性や位置以外の因子、例えば余熱の状況、仮付けなどの拘束状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等、多くの因子の影響を受ける。
【0030】
しかし、図1に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、固有ひずみ法により得られた溶接変形と変形許容値から、逆解析により溶接変形を最適化する場合、弾性的な逆解析で求められる変形拘束治具2の剛性や位置をパラメータとした最適化に限られており、変形拘束治具2以外の因子について考慮されていない。
【0031】
このため、タービンのノズルダイアフラムのような複雑形状の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布を最適化することは困難であった。半環状や円環状等の複雑な形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力を最適化するためには、変形拘束治具2の剛性や位置以外の因子を含めた溶接変形・残留応力の総合的な最適化評価方法が必要となる。
【0032】
図2は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第1実施形態を示す図である。
【0033】
この実施形態に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置20は、溶接変形最適化手段22の構成を、図1に示される溶接変形制御装置8とは基本的に異にし、他の構成は実質的に異ならないので同じ構成には同一符号を付して説明する。
【0034】
この溶接構造物の溶接変形制御装置20は、溶接構造物1の出力変形(溶接変形、残留応力)を求める固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、上記出力変形および溶接構造物の変形許容値を比較演算処理し、変形拘束治具2以外の多くの因子を含めて、溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、その評価が可能な溶接変形最適化手段22とを備える。
【0035】
溶接構造物1の溶接変形制御装置20は、固有ひずみ法によって溶接構造物の溶接変形および残留応力分布を求める固有ひずみ解析手段10を有し、この固有ひずみ解析手段13は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース(DB)14およびFEM等の応力解析システム15を備える。
【0036】
パラメータ入力装置13には、溶接構造物1の形状、寸法、剛性、拘束条件、材料、温度、溶接条件がパラメータとして入力されており、溶接構造物1の形状、寸法、材料等が分かれば、固有ひずみデータベース14に格納された、各溶接パス毎の温度履歴解析、熱弾塑性解析により、すなわち固有ひずみ法により、溶接構造物の固有ひずみ分布を得ることができる。
【0037】
求められた固有ひずみ分布をFEM等の応力解析システム15に入力させることで、溶接構造物1の溶接変形や残留応力等の出力変形(溶接変形および残留応力分布)を得ることができる。応力解析システム15は三次元FEMモデルを備え、この三次元FEMモデルに固有ひずみ分布を入力させることにより、溶接構造物1の溶接変形分布が出力分布として求められる。
【0038】
一方、溶接構造物1の溶接変形制御装置20に備えられる溶接変形最適化手段22には、パラメータ入力装置13を備えた変形許容値算出手段11で算出された溶接構造物1の変形許容値が入力される。
【0039】
この変形許容値は、固有ひずみ解析手段10で解析され、固有ひずみ法によって得られた出力変形と比較され、溶接構造物の変形修正量が得られる。
【0040】
また、溶接構造物1の変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算にて求めることで、修正固有ひずみ分布を得るための溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができる。
【0041】
この溶接条件や変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができるので、変形拘束治具2以外の因子、例えば、余熱の状況、仮付け等の拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等を含めた溶接変形、残留応力分布の最適化を行なうことができる。
【0042】
なお、固有ひずみ解析手段10、変形許容値算出手段11、溶接変形最適化手段22は、パソコン等のコンピュータに組み込まれている。
【0043】
図3は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第2実施形態を示す図である。
【0044】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Aでは、溶接変形最適化手段22Aの構成を図1に示される溶接変形制御装置20とは異にし、他の構成は実質的に異ならないので、同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
溶接変形最適化手段22Aは、固有ひずみ解析手段10からの出力変形と変形許容値算出手段11からの変形許容値とを比較し、溶接構造物1に必要な変形修正量を得ることができる。
【0046】
しかし、この変形修正量を得るために、固有ひずみ分布を計算することは、その都度多くの解析が必要となる。図3では、溶接変形最適化手段22Aに固有ひずみデータベース23を備え、この固有ひずみデータベース23に、予め溶接構造物1の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布との関係をデータベース化して格納しておく。固有ひずみデータベース23は固有ひずみ解析手段10に用いられる固有ひずみデータベース14であってもよい。
【0047】
溶接変形最適化手段22Aでは、固有ひずみ解析手段10からの出力変形(溶接構造物の溶接変形量)とパラメータ入力装置13に入力されたパラメータ計算により得られた変形許容値算出手段11からの変形許容値とから溶接構造物1の固有ひずみの値および分布、すなわち必要な変形修正量を決定する。そして、決定された変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を得るために、固有ひずみデータベース23に予め格納された固有ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性の関係から、溶接施工パラメータを入力して溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件、拘束条件を決定することができる。
【0048】
決定された溶接条件、拘束条件に従って溶接構造物1を溶接することにより、溶接構造物1の溶接変形や固有ひずみ分布の最適化、最小化を図ることができる。
【0049】
固有ひずみデータベース23に格納される溶接条件、拘束条件、材料特性において、溶接条件には、少なくとも溶接時の入熱量、溶接の種類、余熱温度、層間温度、溶接部形状、溶接部寸法をパラメータに含み、拘束条件には、少なくとも被溶接部材3,4の部材形状、部材寸法、変形拘束治具2の治具形状、治具寸法、治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度をパラメータに含む。材料特性には少なくとも被溶接材料3,4の機械的特性をパラメータに含むこととした。
【0050】
図4は本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第3実施形態を示すものである。
【0051】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bは、大型の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化に適したものである。半環状の溶接構造物1の場合、溶接変形に支配的な因子は、径方向・周方向のシュリンクである。大型の溶接構造物1では、溶接は多層で行なわれることとなり、溶接ビードを溶接開先に盛っていくに従って溶接構造物が変形することも大きな要因となる。
【0052】
このため、図4に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bは、固定ひずみ解析手段24をシュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26とに分ける。
【0053】
シュリンク変形解析手段25は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース14およびFEM等の応力解析システム15を備え、パラメータ入力装置13に、形状、寸法、剛性、拘束、材料、温度、溶接条件のパラメータを入力し、入力されたパラメータと固有ひずみデータベース14からシュリンク変形による溶接構造物1の固有ひずみ分布、すなわち固有ひずみの大きさ、分布領域を決定できる。この固有ひずみ分布を用いてFEM等の応力解析システム15にてシュリンク変形による溶接変形や残留応力分布を求めることができる。
【0054】
また、開先変形解析手段26は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース14およびFEM等の応力解析システム15を備え、シュリンク変形解析手段25と同様な解析、演算により、開先変形による溶接構造物1の固有ひずみ分布(固有ひずみの大きさ、分布領域)を決定できる。この固有ひずみ分布を用いてFEM等の応力解析システム15にて開先変形による溶接変形や残留応力を求めることができる。
【0055】
そして、固有ひずみ解析手段24は固有ひずみ法によるシュリンク変形解析手段25の解析により得られたシュリンク変形による溶接変形、残留応力と、同じく固有ひずみ法による開先変形解析手段26の解析により得られた開先変形による溶接変形、残留応力とから溶接構造物1の変形分布(溶接変形、残留応力分布)を求めることができる。
【0056】
固有ひずみ解析手段24は、シュリンク変形と開先変形の双方を加味した三次元の固有ひずみ分布を各要素に入力して応力解析システム15により解析が行なわれる。この場合、三次元モデルの要素数は数千以上、例えば約6000個ある。
【0057】
固有ひずみ解析手段24で弾性解析による固有ひずみ法を用いて、重ね合せの法則により、シュリンク変形と開先変形を評価し、溶接変形を溶接構造物1の変形分布として溶接変形、残留応力分布を出力できる。
【0058】
固有ひずみ解析手段24から出力される変形分布はパラメータ入力装置13にパラメータを入力して計算された変形許容値算出手段11からの変形許容値と比較・演算され、溶接構造物1に必要な変形修正量を決定する。
【0059】
一方、この溶接構造物1に必要な変形修正量を得るために固有ひずみ分布が修正され、この修正固有ひずみ分布と、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接構造物1の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布との関係から、溶接施工パラメータを入力して溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件、拘束条件を決定することができる。
【0060】
決定された溶接条件、拘束条件に従って溶接構造物1を溶接することにより、溶接構造物1の溶接変形や固有ひずみ分布の最適化を図ることができる。
【0061】
図4に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bにおいて、弾性解析による固定ひずみ法では、重ね合せの法則により、シュリンク変形と開先変形とを個々に考えて評価する一方、変形拘束治具2の剛性や設置位置以外の因子、例えば溶接時の入熱量、余熱温度、層間温度、溶接の種類や溶接部形状(開先形状)、溶接部寸法等の溶接条件、被溶接部材の形状・寸法、変形拘束治具の形状・寸法、変形拘束治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度等の拘束条件、被溶接部材の機械的特性等の材料特性の因子をパラメータとして含めて溶接構造物の溶接変形、残留応力分布を総合的に最適化評価することができる。
【0062】
また、半環状の被溶接部材3,4同士の内外側面を周回りに溶接して製造される半環状の溶接構造物1の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、シュリンク変形と開先変形を個々に考えることができる。シュリンク変形と開先変形を個々に考える場合、シュリンク変形に支配的な固有ひずみと、開先変形に支配的な固有ひずみとを分け、それぞれの変形に支配的な固有ひずみ成分のみを用いてシュリンク変形と開先変形を計算することができる。
【0063】
図5は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第4実施形態を示すものである。
【0064】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Cは、半環状の被溶接部材3,4同士を周回りに溶接して製造される半環状の溶接構造物1に対して、周方向の固有ひずみは周方向に均一に分布するとして、溶接構造物1の溶接変形や残留応力の最適化を図れるようにしたものである。
【0065】
この溶接構造物の溶接変形制御装置20Cは、固有ひずみ解析手段27にシュリンク変形解析手段28と開先変形解析手段26とを備える。このうち、開先変形解析手段26は、図4に示された開先変形解析手段と異ならないので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
また、シュリンク変形解析手段28は、半環状溶接構造物1の周方向の固有ひずみは周方向に均一に分布すると想定して二次元軸対称モデルを用いる。このシュリンク変形解析手段28では、パラメータ入力装置13に入力された形状、寸法、溶接条件等のパラメータから二次元軸対称モデルを用いた熱弾塑性FEM解析によりシュリンク変形による固有ひずみ分布を導出させる。導出された固有ひずみ分布を応力解析システム29の三次元FEMモデルに入力することにより、溶接構造物1のシュリンク変形の解析ができる。
【0067】
実際には、溶接構造物1の固有ひずみは、変形拘束治具2の剛性や拘束条件により異なるため、周方向でも、両端部と中央部とでは固有ひずみの値が異なる。シュリンク変形に必要な固有ひずみ分布は、半環状溶接構造物1の中央部では、二次元軸対称モデル解析で得られた固有ひずみとほぼ等しいが、両端部ではゼロに近い。
【0068】
このため、シュリンク変形に支配的な固有ひずみを、図5のAで示すように、溶接線に沿って台形状に分布させる。すなわち、二次元軸対称モデルを用いて固有ひずみ値を台形形状に分布させることにより、溶接構造物1のシュリンク変形をより高精度に求めることができる。
【0069】
このシュリンク変形解析手段28で求められたシュリンク変形と開先変形解析手段26で求められた開先変形とを重ね合せて、溶接構造物1の溶接変形分布を求める。
【0070】
この溶接変形分布は溶接変形最適化手段22Aに入力され、ここで(パラメータ入力装置13からのパラメータ入力で求められた)変形許容値算出手段11からの変形許容値と比較され、溶接構造物1に必要な変形修正量が決定される。
【0071】
決定された変形修正量から、この変形修正量を得るための溶接構造物1の修正固有ひずみ分布と、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布の関係とから、変更する溶接施工パラメータを入力させて溶接構造物1の溶接条件、変形拘束治具2の剛性を決定することができる。
【0072】
この溶接構造物1の溶接条件、変形拘束治具2の剛性を決定することができるので、変更拘束治具2以外の因子、例えば余熱の状況、仮付け等の拘束条件、溶接時の入熱量、開先形状・寸法等の溶接条件を含めた溶接変形や残留応力の最適化を図ることができる。
【0073】
図6は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第5実施形態を示すものである。
【0074】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dは、半環状の被溶接部材3,4同士を溶接した溶接構造物1の溶接変形を固定ひずみ法を用いて求めることができるようにしたものである。溶接構造物1の溶接変形には、シュリンク変形と開先変形とが存在するので、溶接変形制御装置20Dに備えられる固有ひずみ解析手段24は、図4に示された溶接変形制御装置20Bと同様、シュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26とを備える。
【0075】
シュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26の構成および作用は、図4に示された固有ひずみ解析手段24と異ならないので、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
また、図6に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dは、変形許容値算出手段11と溶接変形最適化手段30とを備え、この溶接変形最適化手段30は、さらに、シュリンク変形最適化手段31と開先変形最適化手段32とを備える。
【0077】
このうち、シュリンク変形最適化手段31は、固有ひずみデータベース23と、シュリンク変形による溶接条件、変形拘束治具決定手段33とを有する。
【0078】
また、開先変形最適化手段32も、固有ひずみデータベース23と、開先変形による溶接条件・変形拘束治具決定手段34とを有する。
【0079】
溶接構造物1の溶接変形には、シュリンク変形と開先変形が存在するので、溶接構造物1の溶接変形や残留応力を最適化する条件を固有ひずみデータベース23から決定する場合においても、シュリンク変形とを分けて行なうようにしている。
【0080】
シュリンク変形最適化条件31は、半環状の溶接構造物1のシュリンク変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から溶接条件、溶接拘束、溶接構造物の形状寸法を決定するための溶接変形制御条件決定手段である。また、開先変形最適化手段32は、被溶接材料3,4同士を溶接するための開先変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から溶接条件、溶接ビード順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定するための溶接変形制御条件決定手段である。図6には、シュリンク変形最適化手段31と開先変形最適化手段32とを組み合わせた例を示すが、いずれか一方から溶接変形制御条件を決定してもよい。
【0081】
溶接変形最適化手段30のシュリンク変形最適化手段31および開先変形最適化手段32で、溶接構造物1の溶接条件および変形溶接治具2の剛性等の拘束条件を決定する手順は、シュリンク変形と開先変形とを分けて求める点を除いて、図3ないし図5に示した溶接変形最適化手段22Aと、実質的に異ならないので、説明を省略する。
【0082】
図6に示された溶接変形最適化手段30においても、シュリンク変形最適化手段31でシュリンク変形における溶接構造物1の溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定させることができ、また、開先変形最適化手段32で開先変形における溶接構造物1の溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができ、これらの溶接条件および拘束条件の決定により、溶接構造物1の溶接変形制御条件を決定することができる。
【0083】
すなわち、図6に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dによっても、溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適値、最小値を求めることができる。
【0084】
図7は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第6実施形態を示すものである。
【0085】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Eは、図3に示された溶接変形制御装置20Aに、溶接構造物1の製品変形を実測する変形計測器38を備えた溶接変形計測手段40を設け、変形計測器38で測定された溶接変形計測値を、固定ひずみ解析手段10からの出力変形と変形許容値算出手段11からの変形許容値とから、溶接施工中に溶接構造物1の必要な変形修正量を求めることができる。
【0086】
図2ないし図6に示された溶接変形制御装置では、固有ひずみ解析手段10における固有ひずみ法によって得られた溶接変形分布(出力変形)と変形許容値算出手段11からの溶接変形許容量(許容値)とから溶接構造物1の必要な変形修正量を得る一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、変更する溶接加工におけるパラメータの入力を行なって、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみの関係から、溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件における変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定するものである。
【0087】
決定された溶接条件、拘束条件に従って半環状の溶接構造物1を周方向に溶接して接合することにより、変形修正量に適合する固有ひずみ分布を得る溶接構造物1の溶接変形の最適化を図ることができる。すなわち、最適化された溶接構造物1の溶接変形や残留応力を得ることができる。
【0088】
図3ないし図6に示された溶接構造物1の溶接変形制御装置では、溶接条件と変形許容値からのみ最適化を行なうものであるが、実際の溶接構造物の溶接施工では、溶接条件にはバラツキがあり、溶接変形分にもバラツキが含まれる。図7に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Eでは、変形計測器38により溶接構造物1である製品変形を実測することにより、溶接施工中に必要な変形修正量を求めることができる。
【0089】
大型で複雑な形状の溶接構造物1を溶接施工する場合、溶接構造物1の溶接パス数や溶接部が多く、溶接工程は複数に分かれる。
【0090】
このような場合、大型の溶接構造物1のシュリンク変形または開先変形を変形計測器38でモニタリングし、固有ひずみ法により得られる出力変形(予測値)およびパラメータ入力装置13における変形許容値と比較して必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量から求められる修正固有ひずみ分布を計算し、続く溶接施工におけるパラメータを入力し、固有データベース23の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみとの関係から、溶接構造物1の溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物1の形状・寸法、溶接構造物の開先形状・寸法を決定することが可能となる。
【0091】
これにより、大型で複雑な半環状の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化を図ることができる。
【0092】
図2ないし図7に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20,20A〜20Eにおいては、溶接構造物1として図8(A)に示す半環状(半リング状)の溶接構造物を例にとって検討したが、半環状溶接構造物1に代えて、図8(B)に示すように、環状の溶接構造物41を用いてもよい。
【0093】
環状の溶接構造物41は、半環状の溶接構造物1,1を直径方向で接合させて直径方向の2箇所でボルト結合43されたものである。
【0094】
また、溶接構造物として、図9(A)および(B)に示すように、複雑な形状を有するタービンのノズルダイアフラム45に適用することもできる。
【0095】
このタービンのノズルダイアフラム45は、ノズルダイアフラム外輪46とノズルダイアフラム内輪47、半環状の外輪および内輪当て板48,49と等ピッチ間隔に配設された複数のノズル板50とから構成され、半環状ノズルダイアフラム45を接合させてタービン静翼として環状のノズルダイアフラムが構成される。
【0096】
ノズルダイアフラム45における溶接ノズルの製造では、ノズル板50の上下に外輪当て板48と内輪当て板49を溶接し、1つの半環状のノズル構造物51を作る。その後、このノズル構造物51にノズルダイアフラム外輪46とノズルダイアフラム内輪47とを開先溶接にて周方向に溶接する。この溶接工程は主溶接と呼ばれ、図9(B)では4つの開先溶接による溶接金属52が周方向に溶着され、ノズルダイアフラム45が構成される。
【0097】
この主溶接のように3つの環状溶接構造物46,47,51を溶接する場合にも、溶接構造物の評価に本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置を適用することができる。符号52は変形拘束治具である。
【0098】
この溶接変形制御装置は、溶接構造物が半環状あるいは環状の3つ以上の場合にも、溶接変形メカニズムは異ならないので、この溶接変形制御装置を適用することができる。
【0099】
【発明の効果】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置においては、変形拘束治具以外の因子(パラメータ)を含めた溶接変形、残留応力の最適化評価方法を構築し、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図ることができる。
【0100】
さらに、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置においては、半環状、環状等の複雑な形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、ノズルダイアフラム等の溶接構造物の溶接変形や残留応力を最適かつ最小とするコントロールを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半環状等の複雑な溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の一般的な構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第1実施形態を示す説明図。
【図3】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第2実施形態を示す説明図。
【図4】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第3実施形態を示す説明図。
【図5】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第4実施形態を示す説明図。
【図6】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第5実施形態を示す説明図。
【図7】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第6実施形態を示す説明図。
【図8】(A)および(B)は半環状および環状の溶接構造物を示す正面図。
【図9】(A)は半環状溶接構造物としてタービンのノズルダイアフラムを示す正面図、(B)は図9(A)のB−B線に沿う断面図。
【符号の説明】
1…溶接構造物、2…変形拘束治具、3…外側被溶接部材、4…内側被溶接部材、5…溶接金属、8…溶接構造物の溶接変形制御装置、10…固有ひずみ解析手段、11…変形許容値算出手段、12…拘束治具最適化手段、13…パラメータ入力装置、14…固有ひずみデータベース、15…応力解析システム、20,20A,20B,20C,20D,20E…溶接変形最適化手段、23…固有ひずみデータベース、24…固有ひずみ解析手段、25…シュリンク変形解析手段、26…開先変形解析手段、27…固有ひずみ解析手段、28…シュリンク変形解析手段、29…応力解析システム、30…溶接変形最適化手段、31…シュリンク変形最適化手段、32…開先変形最適化手段、33,34…溶接条件および変位拘束治具の剛性決定手段、38…変形計測器、40…溶接変形計測手段、41…溶接構造物、43…ボルト結合、45…タービンのノズルダイアフラム、46…ノズルダイアフラム外輪、47…ノズルダイアフラム内輪、48…外輪当て板、49…内輪当て板、50…ノズル板、51…ノズル構造物。
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接構造物の変形および残留応力を低減させることを目的とした溶接構造物の溶接変形制御方法および装置に係り、特に、半環状あるいは環状の溶接構造物、例えば、タービンノズルダイアフラムの溶接変形を制御する溶接構造物の溶接変形制御方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
固有ひずみという概念を用いた溶接構造物の溶接変形を予測する方法が報告されている。固有ひずみ法とは、固有ひずみと称される、溶接変形や残留応力の生成源となっているひずみ分布を求めておき、溶接構造物の溶接変形や残留応力を求める方法である。例えば、線形FEM(有限要素法)解析において、固有ひずみが分布する範囲の要素にひずみを与えることにより、残留応力、溶接変形をFEM解析により求めることが出来る。
【0003】
固有ひずみ分布を、予めデータベース化しておくなどして、既知の状態にしておけば、詳細な熱弾塑性解析を行なう場合と比較して、短時間で残留応力、変形の解析が可能である。更に、固有ひずみ法による溶接変形、残留応力解析は弾性解析で行なうことが可能であるため、複雑な構造物の溶接変形予測を簡便に行なうことができる
この固有ひずみ法による溶接変形、残留応力解析を用いると、溶接学会全国大会講演概要第70集(2002−4)の「固有ひずみ法を用いた複雑構造物の溶接変形最適化」(非特許文献1)に示されるように、固有ひずみ法の変形、残留応力解析手順の後に逆解析や感度解析の手順を付加することにより、簡便に最適化解析が行なえる。本公知例においては、複雑な構造物の溶接変形を均一化することを目的として、半環状のタービンノズルダイアフラムについて、溶接変形拘束治具の形状、寸法について最適化した例が示されている。
【0004】
しかし、溶接構造物の変形や残留応力は、変形拘束治具以外にも、余熱の状況、仮付けなどの拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法などの多くの因子の影響を大きく受ける。変形拘束治具の剛性や位置以外の因子要因については固有ひずみ法によって得られた溶接変形と変形許容値との関係が出てきても、弾性的な逆解析によって溶接構造物の溶接変形や残理由応力分布を最適化することは困難であった。
【0005】
従来の固有ひずみ法によって得られた溶接構造物の溶接変形と変形許容値から、逆解析により溶接変形を最適化する場合は、弾性的な逆解析によって求められる変形拘束治具の剛性や位置をパラメータとして、変形拘束治具の最適化に限られている。すなわち、固有ひずみ法によって最適化できるのは、弾性的な問題である変形拘束治具に限られている。
【0006】
【非特許文献1】
溶接学会全国大会講演概要 第70集(2002−4)「固有ひずみ法を用いた複雑構造物の溶接変形最適化」(第260頁〜第261頁)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の固有ひずみ法を用いて、複雑な溶接形状、例えばタービンのノズルダイアフラムのような半環状および環状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化することは困難であった。
【0008】
複雑な溶接形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化するためには、変形拘束治具の剛性や位置以外の因子、例えば、余熱の状況、仮付けなどの拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等を含めた溶接変形、残留応力の総合的な最適化評価方法が必要となる。
【0009】
本発明では、上述した事情を考慮してなされたもので、変形拘束治具の剛性や位置以外の因子を含めた溶接変形・残留応力の最適化評価方法を構築し、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布を最適化させ得る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、ノズルダイアフラム等の半環状、環状溶接構造物の溶接変形や残留応力のコントロールを行なうことができる溶接構造物の溶接変形制御方法および装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状溶接構造物を製造する際、溶接構造物の溶接変形許容値と固有ひずみ法により導出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を算出する一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、上記修正固有ひずみ分布を得るための溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定し、溶接構造物の溶接条件、拘束条件から変形拘束治具以外の因子を含めた溶接構造物の溶接変形の最適化を行なう方法である。
【0012】
また、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状の溶接構造物を製造する際、溶接構造物の溶接変形の許容値と固有ひずみ法により算出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、固有ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定する方法である。
【0013】
さらに、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項3に記載したように、前記溶接条件は、少なくとも溶接時の入熱量、溶接の種類、余熱温度、層間温度、溶接部の寸法・形状をパラメータに含み、前記拘束条件は、少なくとも被溶接部材の形状・寸法、変形拘束治具の形状・寸法、変形拘束治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度をパラメータに含み、前記材料特性は、少なくとも被溶接部材の機械的特性をパラメータに含む方法であり、また、請求項4に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形による計算と被溶接部材同士を溶接する開先変形による計算を分けて行ない、シュリンク変形と開先変形の合計値から溶接構造物の溶接変形分布を導出する方法である。
【0014】
さらにまた、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項5に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみと、被溶接部材同士を溶接する開先変形に支配的な固有ひずみとに分けて行なう方法であり、また、請求項6に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみ分布は、二次元軸対称モデル解析で得た固有ひずみを、溶接線に沿って台形に分布させる方法である。
【0015】
また、上述した課題を解決するために、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法は、請求項7に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、前記溶接構造物のシュリンク変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法を決定する方法であり、さらに、請求項8に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、被溶接部材同士を溶接する開先変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する方法であり、さらにまた、請求項9に記載したように、前記半環状の溶接構造物の溶接施工時に、前記溶接構造物のシュリンク変形および被溶接部材同士を溶接する開先変形の少なくとも一方をモニタリングして固有ひずみ法による予測値と比較し、続く溶接施工における溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する方法である。
【0016】
一方、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置は、上述した課題を解決するために、請求項10に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段と、前記固有ひずみの解析手段で導出された溶接構造物の溶接変形量と変形許容値算出手段で算出された溶接変形許容量とを比較演算処理し、変形拘束治具以外の因子を含めて溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図る溶接変形最適化手段とを備えたものである。
【0017】
また、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置は、上述した課題を解決するために、請求項11に記載したように、半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する溶接変形値算出手段と、前記固有ひずみ解析手段で算出された溶接構造物の溶接変形量と前記溶接変形値算出手段で算出された溶接構造物の溶接変形許容量とを比較演算処理して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量を得るための固定ひずみ分布を計算し、固定ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定する溶接変形最適化手段とを備え、この最適化手段で溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図るようにしたものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
初めに、複雑な半環状の溶接構造物1の溶接変形をコントロールするため、固定ひずみ法による溶接変形解析結果に基づき、変形拘束治具2の最適化手法について説明する。
【0020】
図1に示された2つの半環状の被溶接部材3,4を溶接金属5にて周方向に溶接すると半環状の溶接構造物1が製造される。
【0021】
この溶接構造物1は、半環状の外側被溶接部材3の内径側と、半環状の内側被溶接部材4の外径側とを溶接金属5により周方向に接合したものである。外周側と内周側の被溶接部材3,4を溶接金属5を用いて溶接すると、溶接部近傍にほぼ円弧状の溶接線方向に均一な固有ひずみが生じる。この固有ひずみのうち、溶接線に沿った、すなわち、周方向の固有ひずみが、溶接構造物1の溶接変形に影響を及ぼすことを知見した。
【0022】
図1は、半環状の溶接構造物1の溶接変形を最適化する溶接変形制御方法および装置を示すものである。
【0023】
この溶接構造物1の溶接変形制御装置8は、溶接構造物1の溶接変形量、残留応力分布を出力変形として導出する固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、上記出力変形と溶接変形許容量とから必要な変形修正量を求め、弾性的な逆解析や感度解析により変形拘束治具2の剛性や位置を最適化する拘束治具最適化手段12とを備える。
【0024】
溶接変形制御装置8の固有ひずみ解析手段10では、溶接構造物1ひいては外側および内側被溶接部材3,4の形状、寸法、材料、溶接条件等をパラメータ入力装置13に入力させる。溶接構造物1の形状、寸法、溶接条件等が分かれば、固有ひずみデータベース(DB)14の温度履歴解析および熱弾塑性解析により、固有ひずみの大きさや分布領域、すなわち固有ひずみ分布を求めることができる。
【0025】
求められた固有ひずみ分布を用いて、FEM(有限要素法:Finite Element Method)等の応力解析システム15により、溶接構造物1の溶接変形や残留応力、すなわち出力変形を求めることができる。応力解析システム15では、求められた固有ひずみ分布を三次元FEMモデルに入力させることにより、溶接構造物1の溶接変形分布を求めることができる。応力解析システム15は、FEMに代えてBEMや差分法(Finite Difference Method)を用いてもよい。
【0026】
半環状の溶接構造物1は、周方向の固有ひずみにより、径方向、周方向にシュリンクする変形が生じる。このシュリンク変形のために、半環状の溶接構造物1は、特に端部にて溶接変形が大きくなり、時には溶接変形の許容値を超えて変形が生じる場合がある。溶接構造物1の溶接変形の許容値は、パラメータ入力装置13に入力される溶接構造物1の形状、寸法、材料等が決まれば、決定することができる。
【0027】
図1に示された溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、固有ひずみ解析手段10にて固有ひずみ法により求められた溶接変形は、拘束治具最適化手段12により変形許容値算出手段11で算出された溶接構造物1の変形許容値と比較され、必要な変形修正量が得られる。
【0028】
拘束治具最適化手段12における逆解析による溶接変形の最適化では、溶接変形を適切にする必要な変形修正量、単位荷重を作用させた場合の変形量から、弾性的な逆解析や感度解析により、最適な剛性の変形拘束治具2を最適な位置に入れる計算が可能である。図1に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、拘束治具最適化手段12により、変形拘束治具2の最適化を図ることにより、溶接構造物1の溶接変形の最適化を図っている。
【0029】
ところで、溶接構造物1の溶接変形や残留応力は、変形拘束治具2の剛性や位置以外の因子、例えば余熱の状況、仮付けなどの拘束状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等、多くの因子の影響を受ける。
【0030】
しかし、図1に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置8では、固有ひずみ法により得られた溶接変形と変形許容値から、逆解析により溶接変形を最適化する場合、弾性的な逆解析で求められる変形拘束治具2の剛性や位置をパラメータとした最適化に限られており、変形拘束治具2以外の因子について考慮されていない。
【0031】
このため、タービンのノズルダイアフラムのような複雑形状の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布を最適化することは困難であった。半環状や円環状等の複雑な形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力を最適化するためには、変形拘束治具2の剛性や位置以外の因子を含めた溶接変形・残留応力の総合的な最適化評価方法が必要となる。
【0032】
図2は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第1実施形態を示す図である。
【0033】
この実施形態に示される溶接構造物1の溶接変形制御装置20は、溶接変形最適化手段22の構成を、図1に示される溶接変形制御装置8とは基本的に異にし、他の構成は実質的に異ならないので同じ構成には同一符号を付して説明する。
【0034】
この溶接構造物の溶接変形制御装置20は、溶接構造物1の出力変形(溶接変形、残留応力)を求める固有ひずみ解析手段10と、溶接構造物1の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段11と、上記出力変形および溶接構造物の変形許容値を比較演算処理し、変形拘束治具2以外の多くの因子を含めて、溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、その評価が可能な溶接変形最適化手段22とを備える。
【0035】
溶接構造物1の溶接変形制御装置20は、固有ひずみ法によって溶接構造物の溶接変形および残留応力分布を求める固有ひずみ解析手段10を有し、この固有ひずみ解析手段13は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース(DB)14およびFEM等の応力解析システム15を備える。
【0036】
パラメータ入力装置13には、溶接構造物1の形状、寸法、剛性、拘束条件、材料、温度、溶接条件がパラメータとして入力されており、溶接構造物1の形状、寸法、材料等が分かれば、固有ひずみデータベース14に格納された、各溶接パス毎の温度履歴解析、熱弾塑性解析により、すなわち固有ひずみ法により、溶接構造物の固有ひずみ分布を得ることができる。
【0037】
求められた固有ひずみ分布をFEM等の応力解析システム15に入力させることで、溶接構造物1の溶接変形や残留応力等の出力変形(溶接変形および残留応力分布)を得ることができる。応力解析システム15は三次元FEMモデルを備え、この三次元FEMモデルに固有ひずみ分布を入力させることにより、溶接構造物1の溶接変形分布が出力分布として求められる。
【0038】
一方、溶接構造物1の溶接変形制御装置20に備えられる溶接変形最適化手段22には、パラメータ入力装置13を備えた変形許容値算出手段11で算出された溶接構造物1の変形許容値が入力される。
【0039】
この変形許容値は、固有ひずみ解析手段10で解析され、固有ひずみ法によって得られた出力変形と比較され、溶接構造物の変形修正量が得られる。
【0040】
また、溶接構造物1の変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算にて求めることで、修正固有ひずみ分布を得るための溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができる。
【0041】
この溶接条件や変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができるので、変形拘束治具2以外の因子、例えば、余熱の状況、仮付け等の拘束の状況、溶接時の入熱、開先形状・寸法等を含めた溶接変形、残留応力分布の最適化を行なうことができる。
【0042】
なお、固有ひずみ解析手段10、変形許容値算出手段11、溶接変形最適化手段22は、パソコン等のコンピュータに組み込まれている。
【0043】
図3は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第2実施形態を示す図である。
【0044】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Aでは、溶接変形最適化手段22Aの構成を図1に示される溶接変形制御装置20とは異にし、他の構成は実質的に異ならないので、同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
溶接変形最適化手段22Aは、固有ひずみ解析手段10からの出力変形と変形許容値算出手段11からの変形許容値とを比較し、溶接構造物1に必要な変形修正量を得ることができる。
【0046】
しかし、この変形修正量を得るために、固有ひずみ分布を計算することは、その都度多くの解析が必要となる。図3では、溶接変形最適化手段22Aに固有ひずみデータベース23を備え、この固有ひずみデータベース23に、予め溶接構造物1の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布との関係をデータベース化して格納しておく。固有ひずみデータベース23は固有ひずみ解析手段10に用いられる固有ひずみデータベース14であってもよい。
【0047】
溶接変形最適化手段22Aでは、固有ひずみ解析手段10からの出力変形(溶接構造物の溶接変形量)とパラメータ入力装置13に入力されたパラメータ計算により得られた変形許容値算出手段11からの変形許容値とから溶接構造物1の固有ひずみの値および分布、すなわち必要な変形修正量を決定する。そして、決定された変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を得るために、固有ひずみデータベース23に予め格納された固有ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性の関係から、溶接施工パラメータを入力して溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件、拘束条件を決定することができる。
【0048】
決定された溶接条件、拘束条件に従って溶接構造物1を溶接することにより、溶接構造物1の溶接変形や固有ひずみ分布の最適化、最小化を図ることができる。
【0049】
固有ひずみデータベース23に格納される溶接条件、拘束条件、材料特性において、溶接条件には、少なくとも溶接時の入熱量、溶接の種類、余熱温度、層間温度、溶接部形状、溶接部寸法をパラメータに含み、拘束条件には、少なくとも被溶接部材3,4の部材形状、部材寸法、変形拘束治具2の治具形状、治具寸法、治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度をパラメータに含む。材料特性には少なくとも被溶接材料3,4の機械的特性をパラメータに含むこととした。
【0050】
図4は本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第3実施形態を示すものである。
【0051】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bは、大型の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化に適したものである。半環状の溶接構造物1の場合、溶接変形に支配的な因子は、径方向・周方向のシュリンクである。大型の溶接構造物1では、溶接は多層で行なわれることとなり、溶接ビードを溶接開先に盛っていくに従って溶接構造物が変形することも大きな要因となる。
【0052】
このため、図4に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bは、固定ひずみ解析手段24をシュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26とに分ける。
【0053】
シュリンク変形解析手段25は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース14およびFEM等の応力解析システム15を備え、パラメータ入力装置13に、形状、寸法、剛性、拘束、材料、温度、溶接条件のパラメータを入力し、入力されたパラメータと固有ひずみデータベース14からシュリンク変形による溶接構造物1の固有ひずみ分布、すなわち固有ひずみの大きさ、分布領域を決定できる。この固有ひずみ分布を用いてFEM等の応力解析システム15にてシュリンク変形による溶接変形や残留応力分布を求めることができる。
【0054】
また、開先変形解析手段26は、パラメータ入力装置13、固有ひずみデータベース14およびFEM等の応力解析システム15を備え、シュリンク変形解析手段25と同様な解析、演算により、開先変形による溶接構造物1の固有ひずみ分布(固有ひずみの大きさ、分布領域)を決定できる。この固有ひずみ分布を用いてFEM等の応力解析システム15にて開先変形による溶接変形や残留応力を求めることができる。
【0055】
そして、固有ひずみ解析手段24は固有ひずみ法によるシュリンク変形解析手段25の解析により得られたシュリンク変形による溶接変形、残留応力と、同じく固有ひずみ法による開先変形解析手段26の解析により得られた開先変形による溶接変形、残留応力とから溶接構造物1の変形分布(溶接変形、残留応力分布)を求めることができる。
【0056】
固有ひずみ解析手段24は、シュリンク変形と開先変形の双方を加味した三次元の固有ひずみ分布を各要素に入力して応力解析システム15により解析が行なわれる。この場合、三次元モデルの要素数は数千以上、例えば約6000個ある。
【0057】
固有ひずみ解析手段24で弾性解析による固有ひずみ法を用いて、重ね合せの法則により、シュリンク変形と開先変形を評価し、溶接変形を溶接構造物1の変形分布として溶接変形、残留応力分布を出力できる。
【0058】
固有ひずみ解析手段24から出力される変形分布はパラメータ入力装置13にパラメータを入力して計算された変形許容値算出手段11からの変形許容値と比較・演算され、溶接構造物1に必要な変形修正量を決定する。
【0059】
一方、この溶接構造物1に必要な変形修正量を得るために固有ひずみ分布が修正され、この修正固有ひずみ分布と、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接構造物1の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布との関係から、溶接施工パラメータを入力して溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件、拘束条件を決定することができる。
【0060】
決定された溶接条件、拘束条件に従って溶接構造物1を溶接することにより、溶接構造物1の溶接変形や固有ひずみ分布の最適化を図ることができる。
【0061】
図4に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Bにおいて、弾性解析による固定ひずみ法では、重ね合せの法則により、シュリンク変形と開先変形とを個々に考えて評価する一方、変形拘束治具2の剛性や設置位置以外の因子、例えば溶接時の入熱量、余熱温度、層間温度、溶接の種類や溶接部形状(開先形状)、溶接部寸法等の溶接条件、被溶接部材の形状・寸法、変形拘束治具の形状・寸法、変形拘束治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度等の拘束条件、被溶接部材の機械的特性等の材料特性の因子をパラメータとして含めて溶接構造物の溶接変形、残留応力分布を総合的に最適化評価することができる。
【0062】
また、半環状の被溶接部材3,4同士の内外側面を周回りに溶接して製造される半環状の溶接構造物1の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、シュリンク変形と開先変形を個々に考えることができる。シュリンク変形と開先変形を個々に考える場合、シュリンク変形に支配的な固有ひずみと、開先変形に支配的な固有ひずみとを分け、それぞれの変形に支配的な固有ひずみ成分のみを用いてシュリンク変形と開先変形を計算することができる。
【0063】
図5は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第4実施形態を示すものである。
【0064】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Cは、半環状の被溶接部材3,4同士を周回りに溶接して製造される半環状の溶接構造物1に対して、周方向の固有ひずみは周方向に均一に分布するとして、溶接構造物1の溶接変形や残留応力の最適化を図れるようにしたものである。
【0065】
この溶接構造物の溶接変形制御装置20Cは、固有ひずみ解析手段27にシュリンク変形解析手段28と開先変形解析手段26とを備える。このうち、開先変形解析手段26は、図4に示された開先変形解析手段と異ならないので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
また、シュリンク変形解析手段28は、半環状溶接構造物1の周方向の固有ひずみは周方向に均一に分布すると想定して二次元軸対称モデルを用いる。このシュリンク変形解析手段28では、パラメータ入力装置13に入力された形状、寸法、溶接条件等のパラメータから二次元軸対称モデルを用いた熱弾塑性FEM解析によりシュリンク変形による固有ひずみ分布を導出させる。導出された固有ひずみ分布を応力解析システム29の三次元FEMモデルに入力することにより、溶接構造物1のシュリンク変形の解析ができる。
【0067】
実際には、溶接構造物1の固有ひずみは、変形拘束治具2の剛性や拘束条件により異なるため、周方向でも、両端部と中央部とでは固有ひずみの値が異なる。シュリンク変形に必要な固有ひずみ分布は、半環状溶接構造物1の中央部では、二次元軸対称モデル解析で得られた固有ひずみとほぼ等しいが、両端部ではゼロに近い。
【0068】
このため、シュリンク変形に支配的な固有ひずみを、図5のAで示すように、溶接線に沿って台形状に分布させる。すなわち、二次元軸対称モデルを用いて固有ひずみ値を台形形状に分布させることにより、溶接構造物1のシュリンク変形をより高精度に求めることができる。
【0069】
このシュリンク変形解析手段28で求められたシュリンク変形と開先変形解析手段26で求められた開先変形とを重ね合せて、溶接構造物1の溶接変形分布を求める。
【0070】
この溶接変形分布は溶接変形最適化手段22Aに入力され、ここで(パラメータ入力装置13からのパラメータ入力で求められた)変形許容値算出手段11からの変形許容値と比較され、溶接構造物1に必要な変形修正量が決定される。
【0071】
決定された変形修正量から、この変形修正量を得るための溶接構造物1の修正固有ひずみ分布と、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみ分布の関係とから、変更する溶接施工パラメータを入力させて溶接構造物1の溶接条件、変形拘束治具2の剛性を決定することができる。
【0072】
この溶接構造物1の溶接条件、変形拘束治具2の剛性を決定することができるので、変更拘束治具2以外の因子、例えば余熱の状況、仮付け等の拘束条件、溶接時の入熱量、開先形状・寸法等の溶接条件を含めた溶接変形や残留応力の最適化を図ることができる。
【0073】
図6は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第5実施形態を示すものである。
【0074】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dは、半環状の被溶接部材3,4同士を溶接した溶接構造物1の溶接変形を固定ひずみ法を用いて求めることができるようにしたものである。溶接構造物1の溶接変形には、シュリンク変形と開先変形とが存在するので、溶接変形制御装置20Dに備えられる固有ひずみ解析手段24は、図4に示された溶接変形制御装置20Bと同様、シュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26とを備える。
【0075】
シュリンク変形解析手段25と開先変形解析手段26の構成および作用は、図4に示された固有ひずみ解析手段24と異ならないので、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
また、図6に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dは、変形許容値算出手段11と溶接変形最適化手段30とを備え、この溶接変形最適化手段30は、さらに、シュリンク変形最適化手段31と開先変形最適化手段32とを備える。
【0077】
このうち、シュリンク変形最適化手段31は、固有ひずみデータベース23と、シュリンク変形による溶接条件、変形拘束治具決定手段33とを有する。
【0078】
また、開先変形最適化手段32も、固有ひずみデータベース23と、開先変形による溶接条件・変形拘束治具決定手段34とを有する。
【0079】
溶接構造物1の溶接変形には、シュリンク変形と開先変形が存在するので、溶接構造物1の溶接変形や残留応力を最適化する条件を固有ひずみデータベース23から決定する場合においても、シュリンク変形とを分けて行なうようにしている。
【0080】
シュリンク変形最適化条件31は、半環状の溶接構造物1のシュリンク変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から溶接条件、溶接拘束、溶接構造物の形状寸法を決定するための溶接変形制御条件決定手段である。また、開先変形最適化手段32は、被溶接材料3,4同士を溶接するための開先変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から溶接条件、溶接ビード順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定するための溶接変形制御条件決定手段である。図6には、シュリンク変形最適化手段31と開先変形最適化手段32とを組み合わせた例を示すが、いずれか一方から溶接変形制御条件を決定してもよい。
【0081】
溶接変形最適化手段30のシュリンク変形最適化手段31および開先変形最適化手段32で、溶接構造物1の溶接条件および変形溶接治具2の剛性等の拘束条件を決定する手順は、シュリンク変形と開先変形とを分けて求める点を除いて、図3ないし図5に示した溶接変形最適化手段22Aと、実質的に異ならないので、説明を省略する。
【0082】
図6に示された溶接変形最適化手段30においても、シュリンク変形最適化手段31でシュリンク変形における溶接構造物1の溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定させることができ、また、開先変形最適化手段32で開先変形における溶接構造物1の溶接条件および変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定することができ、これらの溶接条件および拘束条件の決定により、溶接構造物1の溶接変形制御条件を決定することができる。
【0083】
すなわち、図6に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Dによっても、溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適値、最小値を求めることができる。
【0084】
図7は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第6実施形態を示すものである。
【0085】
この実施形態に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Eは、図3に示された溶接変形制御装置20Aに、溶接構造物1の製品変形を実測する変形計測器38を備えた溶接変形計測手段40を設け、変形計測器38で測定された溶接変形計測値を、固定ひずみ解析手段10からの出力変形と変形許容値算出手段11からの変形許容値とから、溶接施工中に溶接構造物1の必要な変形修正量を求めることができる。
【0086】
図2ないし図6に示された溶接変形制御装置では、固有ひずみ解析手段10における固有ひずみ法によって得られた溶接変形分布(出力変形)と変形許容値算出手段11からの溶接変形許容量(許容値)とから溶接構造物1の必要な変形修正量を得る一方、この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、変更する溶接加工におけるパラメータの入力を行なって、固有ひずみデータベース23に予め格納された溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみの関係から、溶接構造物1の最適化に必要な溶接条件における変形拘束治具2の剛性等の拘束条件を決定するものである。
【0087】
決定された溶接条件、拘束条件に従って半環状の溶接構造物1を周方向に溶接して接合することにより、変形修正量に適合する固有ひずみ分布を得る溶接構造物1の溶接変形の最適化を図ることができる。すなわち、最適化された溶接構造物1の溶接変形や残留応力を得ることができる。
【0088】
図3ないし図6に示された溶接構造物1の溶接変形制御装置では、溶接条件と変形許容値からのみ最適化を行なうものであるが、実際の溶接構造物の溶接施工では、溶接条件にはバラツキがあり、溶接変形分にもバラツキが含まれる。図7に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20Eでは、変形計測器38により溶接構造物1である製品変形を実測することにより、溶接施工中に必要な変形修正量を求めることができる。
【0089】
大型で複雑な形状の溶接構造物1を溶接施工する場合、溶接構造物1の溶接パス数や溶接部が多く、溶接工程は複数に分かれる。
【0090】
このような場合、大型の溶接構造物1のシュリンク変形または開先変形を変形計測器38でモニタリングし、固有ひずみ法により得られる出力変形(予測値)およびパラメータ入力装置13における変形許容値と比較して必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量から求められる修正固有ひずみ分布を計算し、続く溶接施工におけるパラメータを入力し、固有データベース23の溶接条件、材料特性、拘束条件と固有ひずみとの関係から、溶接構造物1の溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物1の形状・寸法、溶接構造物の開先形状・寸法を決定することが可能となる。
【0091】
これにより、大型で複雑な半環状の溶接構造物1の溶接変形や残留応力分布の最適化を図ることができる。
【0092】
図2ないし図7に示された溶接構造物の溶接変形制御装置20,20A〜20Eにおいては、溶接構造物1として図8(A)に示す半環状(半リング状)の溶接構造物を例にとって検討したが、半環状溶接構造物1に代えて、図8(B)に示すように、環状の溶接構造物41を用いてもよい。
【0093】
環状の溶接構造物41は、半環状の溶接構造物1,1を直径方向で接合させて直径方向の2箇所でボルト結合43されたものである。
【0094】
また、溶接構造物として、図9(A)および(B)に示すように、複雑な形状を有するタービンのノズルダイアフラム45に適用することもできる。
【0095】
このタービンのノズルダイアフラム45は、ノズルダイアフラム外輪46とノズルダイアフラム内輪47、半環状の外輪および内輪当て板48,49と等ピッチ間隔に配設された複数のノズル板50とから構成され、半環状ノズルダイアフラム45を接合させてタービン静翼として環状のノズルダイアフラムが構成される。
【0096】
ノズルダイアフラム45における溶接ノズルの製造では、ノズル板50の上下に外輪当て板48と内輪当て板49を溶接し、1つの半環状のノズル構造物51を作る。その後、このノズル構造物51にノズルダイアフラム外輪46とノズルダイアフラム内輪47とを開先溶接にて周方向に溶接する。この溶接工程は主溶接と呼ばれ、図9(B)では4つの開先溶接による溶接金属52が周方向に溶着され、ノズルダイアフラム45が構成される。
【0097】
この主溶接のように3つの環状溶接構造物46,47,51を溶接する場合にも、溶接構造物の評価に本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御装置を適用することができる。符号52は変形拘束治具である。
【0098】
この溶接変形制御装置は、溶接構造物が半環状あるいは環状の3つ以上の場合にも、溶接変形メカニズムは異ならないので、この溶接変形制御装置を適用することができる。
【0099】
【発明の効果】
本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置においては、変形拘束治具以外の因子(パラメータ)を含めた溶接変形、残留応力の最適化評価方法を構築し、複雑形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図ることができる。
【0100】
さらに、本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置においては、半環状、環状等の複雑な形状の溶接構造物の溶接変形や残留応力分布の最適化を図り、ノズルダイアフラム等の溶接構造物の溶接変形や残留応力を最適かつ最小とするコントロールを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半環状等の複雑な溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の一般的な構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第1実施形態を示す説明図。
【図3】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第2実施形態を示す説明図。
【図4】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第3実施形態を示す説明図。
【図5】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第4実施形態を示す説明図。
【図6】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第5実施形態を示す説明図。
【図7】本発明に係る溶接構造物の溶接変形制御方法および装置の第6実施形態を示す説明図。
【図8】(A)および(B)は半環状および環状の溶接構造物を示す正面図。
【図9】(A)は半環状溶接構造物としてタービンのノズルダイアフラムを示す正面図、(B)は図9(A)のB−B線に沿う断面図。
【符号の説明】
1…溶接構造物、2…変形拘束治具、3…外側被溶接部材、4…内側被溶接部材、5…溶接金属、8…溶接構造物の溶接変形制御装置、10…固有ひずみ解析手段、11…変形許容値算出手段、12…拘束治具最適化手段、13…パラメータ入力装置、14…固有ひずみデータベース、15…応力解析システム、20,20A,20B,20C,20D,20E…溶接変形最適化手段、23…固有ひずみデータベース、24…固有ひずみ解析手段、25…シュリンク変形解析手段、26…開先変形解析手段、27…固有ひずみ解析手段、28…シュリンク変形解析手段、29…応力解析システム、30…溶接変形最適化手段、31…シュリンク変形最適化手段、32…開先変形最適化手段、33,34…溶接条件および変位拘束治具の剛性決定手段、38…変形計測器、40…溶接変形計測手段、41…溶接構造物、43…ボルト結合、45…タービンのノズルダイアフラム、46…ノズルダイアフラム外輪、47…ノズルダイアフラム内輪、48…外輪当て板、49…内輪当て板、50…ノズル板、51…ノズル構造物。
Claims (11)
- 半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状溶接構造物を製造する際、
溶接構造物の溶接変形許容値と固有ひずみ法により導出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を算出する一方、
この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、上記修正固有ひずみ分布を得るための溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定し、
溶接構造物の溶接条件、拘束条件から変形拘束治具以外の因子を含めた溶接構造物の溶接変形の最適化を行なうことを特徴とする溶接構造物の溶接変形制御方法。 - 半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して半環状の溶接構造物を製造する際、
溶接構造物の溶接変形の許容値と固有ひずみ法により算出される溶接構造物の溶接変形量とを比較して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、
この変形修正量を得るための修正固有ひずみ分布を計算し、
固有ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定することを特徴とする溶接構造物の溶接変形制御方法。 - 前記溶接条件は、少なくとも溶接時の入熱量、溶接の種類、余熱温度、層間温度、溶接部の寸法・形状をパラメータに含み、前記拘束条件は、少なくとも被溶接部材の形状・寸法、変形拘束治具の形状・寸法、変形拘束治具材料の機械的特性、仮付け位置、仮付け強度をパラメータに含み、前記材料特性は、少なくとも被溶接部材の機械的特性をパラメータに含む請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。
- 前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形による計算と被溶接部材同士を溶接する開先変形による計算を分けて行ない、シュリンク変形と開先変形の合計値から溶接構造物の溶接変形分布を導出する請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。
- 前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみと、被溶接部材同士を溶接する開先変形に支配的な固有ひずみとに分けて行なう請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。
- 前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により導出する際、前記溶接構造物のシュリンク変形に支配的な固有ひずみ分布は、二次元軸対称モデル解析で得た固有ひずみを、溶接線に沿って台形に分布させる請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。
- 前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、
前記溶接構造物のシュリンク変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法を決定する請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。 - 前記半環状の溶接構造物の溶接変形を固有ひずみ法により予測する際、前記溶接構造物のシュリンク変形と被溶接部材同士を溶接する開先変形を分けて計算し、
被溶接部材同士を溶接する開先変形を制御するために必要な固有ひずみ量、固有ひずみ分布から、溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。 - 前記半環状の溶接構造物の溶接施工時に、前記溶接構造物のシュリンク変形および被溶接部材同士を溶接する開先変形の少なくとも一方をモニタリングして固有ひずみ法による予測値と比較し、
続く溶接施工における溶接条件、溶接ビード手順、溶接拘束、溶接構造物の形状・寸法、開先形状・寸法を決定する請求項2記載の溶接構造物の溶接変形制御方法。 - 半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、
前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、
前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する変形許容値算出手段と、
前記固有ひずみの解析手段で導出された溶接構造物の溶接変形量と変形許容値算出手段で算出された溶接変形許容量とを比較演算処理し、変形拘束治具以外の因子を含めて溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図る溶接変形最適化手段とを備えたことを特徴とする溶接構造物の溶接変形制御装置。 - 半環状の被溶接部材同士の内外側面を周方向に溶接して製造される半環状溶接構造物の溶接変形制御装置において、
前記溶接構造物の溶接変形量を固有ひずみ法を用いて導出する固有ひずみ解析手段と、
前記溶接構造物の溶接変形許容量を算出する溶接変形値算出手段と、
前記固有ひずみ解析手段で算出された溶接構造物の溶接変形量と前記溶接変形値算出手段で算出された溶接構造物の溶接変形許容量とを比較演算処理して溶接構造物に必要な変形修正量を求める一方、この変形修正量を得るための固定ひずみ分布を計算し、固定ひずみデータベースに予め格納された固定ひずみ分布と溶接条件、拘束条件、材料特性との関係から溶接構造物の溶接条件、拘束条件を決定する溶接変形最適化手段とを備え、この最適化手段で溶接構造物の溶接変形、残留応力分布の最適化を図るようにしたことを特徴とする溶接構造物の溶接変形制御装置。
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---|---|---|---|---|
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- 2002-09-24 JP JP2002278195A patent/JP2004114064A/ja active Pending
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