JP2004113053A - (r)−ヒドロキシニトリルリアーゼ組成物及び安定化方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼと、タンパク質を含む安定化剤とを含み、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下であることを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化が図られた(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物、脱脂工程を行わずに抽出された(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化できる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化剤、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化方法及び光学活性シアノヒドリンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性シアノヒドリンは、ピレスロイド農薬製造や医薬合成の光学活性有機合成中間体として有用である。光学活性シアノヒドリンをシアン化水素(シアニドドナー)とカルボニル化合物とから直接合成する手段の一つとして、ヒドロキシニトリルリアーゼと呼ばれる酵素を使う合成方法が種々提唱されている。本酵素には、R−体のシアノヒドリンを生成する活性を有する、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼと、S−体のシアノヒドリンを生成する活性を有する、(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼとが知られている。前者の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼとしては、たとえば、バラ科植物、具体的にはアーモンド(Prunus amygdalus)由来の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.10)、アマ(Linum usitatissimum)由来の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼなどが知られている。後者のS−ヒドロキシニトリルリアーゼとしては、たとえば、トウダイグサ科に属する植物由来である、キャッサバ(Manihot esculenta)由来の(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.37)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.39)、またはイネ科植物であるモロコシ(Sorghum bicolor)由来の(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.11)などが知られており、これらの酵素をコードする遺伝子配列も知られている。これらの酵素は、当該酵素を含む植物組織からの抽出をするか、あるいは当該酵素遺伝子を他の細胞に導入し、得られた遺伝子組換細胞中で当該酵素遺伝子を発現させることにより得ることができる。
【0003】
また、アーモンドから(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを抽出、分離または精製する場合、通常、アーモンドの実を粉砕した後、酢酸エチル、ヘキサンやアセトン等の有機溶媒を使用してアーモンドの油分を除去し、その後、水性溶媒で抽出している(非特許文献1参照)。この方法は、工業的に行うには大量の有機溶媒の使用が必要であり、困難である。また、アーモンドに含まれる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの一部は、有機溶媒によって失活する場合もある。
【0004】
ところで、一般に酵素に関しては、当該酵素が本来存在する状態における安定性が最も優れていることが知られている。しかしながら、一旦、単離抽出された酵素に関して、酵素を本来存在する状態に近づけることは困難であり、様々な条件について詳細な検討を行う必要がある。また、抽出された酵素を、当該酵素が由来する植物等の抽出物と共存させたとしても、当該酵素が本来存在する状態に近づくとは言えない。すなわち、抽出された酵素を、当該酵素が由来する植物等の抽出物と共存させたとしても、当該酵素の安定化を図れるとは限らない。
【0005】
また、ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化するために、ポリエチレンイミン(PEI)やポリエチレングリコール(PEG)、アルブミンを添加することは知られている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】
Recl.Trav.Chim.Pays−Bas、1991、110、p.209−215
【非特許文献2】
Biocatalysis and Biotransformation、2001、19、p.119−130
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、非特許文献2に記載された手法は、(S)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化することを目的としており、酵素として分子構造が大きく異なる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化に効果を期待できないばかりでなく、実際検討したところ(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化に十分な効果はなかった。
【0007】
また、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを用いて工業的に物質合成を実施する場合、酵素を繰り返し使用することが有利であり、特に、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化することは重要であった。ところが、公知の技術では、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを十分に安定化させることはできず、安定な(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを使用することは不可能であった。
【0008】
そこで、本発明は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化を達成できる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物、脱脂工程を行わずに抽出された(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化できる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化剤、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化方法及び光学活性シアノヒドリンの製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを、タンパク質を含む安定化剤と共存させることによって、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
(1)(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼと、タンパク質を含む安定化剤とを含み、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下であることを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物。
(2)上記安定化剤は、アーモンドから水性溶媒により抽出した抽出物を含むことを特徴とする(1)記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物。
【0011】
(3)(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを含む水性溶液にタンパク質を共存させて、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性を30U/mg以下に調製することにより、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化させることを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化方法。
(4)アーモンドから脱脂工程なしに水性溶媒により抽出した抽出物を含むことを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化剤。
【0012】
(5)上記抽出物が、酸性条件下で析出させて得られる沈殿物を主成分とすることを特徴とする請求項4記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化剤。(6)(1)又は(2)記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物を用いて、カルボニル化合物とシアニドドナーとを酵素反応させることを特徴とする光学活性シアノヒドリンの製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物(以下、単に「組成物」と呼ぶ)は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼと、タンパク質を含む安定化剤とを含むものである。
【0014】
(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼとは、シアニドドナーの存在下、カルボニル化合物からR体のシアノヒドリンを合成する活性を有するものを意味する。(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼとしては、アーモンド(Prunus amygdalus)などのバラ科植物由来の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ及びアマ科植物由来の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを例示できる。
【0015】
(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼは、生物組織からの抽出によって調製することができるが、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子をクローニングし、当該遺伝子を組み込んで作製した遺伝子組換え生物によっても生産することもできる。また、天然型の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子を改変し、酵素機能を改変した(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼについても、上記の活性を有するものであれば用いることができる。
【0016】
(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを生物組織から抽出する方法としては、抽出溶媒として水性溶媒を用いて抽出する方法が挙げられる。具体的には、先ず、例えばアーモンドの粉砕物に水性溶媒を加え攪拌することによって抽出液を得る。次に、抽出液を酸性条件下とする。次に、酸性条件下とすることより生成した沈殿物を、遠心分離等の手法により除去する。そして、沈殿物を除去した後の上清に(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを抽出することができる。また、沈殿物を除去した後の上清は、使用形態に応じて濃縮してもよい。なお、最終的に得られた溶液には、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ以外の成分が含まれていてもよい。
【0017】
(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ抽出に使用できる水性溶媒としては、例えば、水、イオン交換水、蒸留水等を挙げることができる。また、水性溶媒には、pH調整に必要な緩衝液種(クエン酸、リン酸、酢酸等の成分)が含まれていてもよい。さらに、アーモンドの粉砕物に水性溶媒を加える際には、アーモンド粉砕物に対して重量で1〜20倍程度、好ましくは、2〜10倍程度の水性溶媒を加える。(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ抽出の際のpHは3〜10、好ましくは2〜9である。
【0018】
上述した方法では、アーモンド等の生物組織に含まれる油分を除去するための脱脂工程を行わず、アーモンド等の生物組織から水性溶媒を用いて(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを抽出している。脱脂工程では、一般にアセトンやヘキサン等の有機溶媒を用いているため、生物組織に含まれる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの一部を失活させることがある。しかしながら、上述した方法によれば、この脱脂工程を行わないため、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの失活を大幅に低減させることができる。言い換えると、上述した方法は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの回収率に優れた方法である。
【0019】
組成物に含まれる安定化剤は、例えば、アーモンドから(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを抽出する際に、アーモンドから水性溶媒により抽出した抽出物に含まれるタンパク質を主成分としている。当該抽出物に含まれるタンパク質は、当該抽出物を酸析や塩析、溶媒沈殿等の公知の方法で処理することによって沈殿物として分離することができる。なお、このように得られた沈殿物は、そのまま安定化剤として用いてもよいし、凍結乾燥処理を施した後に安定化剤として用いてもよい。
【0020】
抽出液を酸性条件下とするには、例えば、クエン酸、リン酸、酢酸等を抽出液に加える方法が挙げられる。酸性条件とは、抽出液のpHが2〜7、好ましくは3〜6であることを意味する。
【0021】
安定化剤に含まれるタンパク質としては、例えば、アルブミン、グロブリン、グルテリン、ヒストン及びプロタミン等の単純タンパク質を挙げることができる。また、安定化剤に含まれるタンパク質としては、例えば、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、リンタンパク質、色素タンパク質及び金属タンパク質等の複合タンパク質を挙げることができる。さらに、安定化剤に含まれるタンパク質としては、例えば、ケラチン、コラーゲン及びフィブロイン等の繊維状タンパク質を挙げることができる。さらにまた、安定化剤に含まれるタンパク質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、チーズホエータンパク質、小麦タンパク質、大豆タンパク質、アーモンドタンパク質及び魚肉タンパク質等の動植物由来のタンパク質を挙げることができる。
【0022】
組成物は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ、タンパク質を含む安定化剤及び水性溶媒以外に、例えば、アーモンドに含まれている炭水化物、脂質、核酸、無機塩、有機酸、微細組織等を含むものであってもよい。
【0023】
特に組成物は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ比活性が30U/mg以下である。ここで、比活性とは、単位タンパク質量辺りの活性を意味し、タンパク質1mg辺りの酵素単位数(U:ユニット)でU/mgで表される。実際には、酵素の容量活性(U/ml)とタンパク質濃度(mg/ml)を測定し、これら容量活性(U/ml)とタンパク質濃度(mg/ml)を用いて比活性(U/mg)を算出する。
【0024】
上記組成物を製造する方法としては、特に限定しないが、例えば、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ、安定化剤及び水性溶媒を、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下となるように混合する方法、水性溶媒に溶解した(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ溶液に、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下となるようにタンパク質を添加する方法が挙げられる。
【0025】
特に、上記組成物は、アーモンドの粉砕物に水を加え攪拌することによって得られた抽出液から、酸性条件下で生成した沈殿物を除去して得られた(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ溶液に、上記沈殿物を(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下となるように添加することによって製造することができる。
【0026】
なお、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性を30U/mg以下にするには、上記(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ溶液の容量活性(U/ml)及びタンパク質濃度(mg/ml)を予め測定する。そして、当該(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ溶液における比活性(U/mg)を容量活性(U/ml)及びタンパク質濃度(mg/ml)から算出する。次に、算出した(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ溶液における比活性(U/mg)から、添加すべき沈殿物の量を算出する。
【0027】
以上のように構成された組成物は、粉末状酵素、緩衝液等に溶解した酵素液、適当な担体に固定化してなる固定化酵素として使用することができる。反応終了後の反応液からの酵素の回収及び再利用が容易となることから、組成物は固定化酵素として使用するのが好ましい。上述した組成物を固定化酵素として使用した場合には、再利用によって繰り返し使用された場合でも高い酵素活性を維持することができる。固定化酵素は、例えば、上述した組成物と多孔性シリカゲル等の固定化担体とを混合することによって調製できるがその限りではない。
【0028】
上述した組成物或いは組成物を用いた固定化酵素は、光学活性シアノヒドリンの製造に使用することができる。すなわち、上述した組成物或いは組成物を用いた固定化酵素は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを含む反応溶媒中で基質であるカルボニル化合物とシアニドドナーとから光学活性シアノヒドリンを製造することができる。
【0029】
ここで、光学活性シアノヒドリンとは、一方の鏡像異性体(例えばR体)が他方の鏡像異性体(例えばS体)より多く含まれているシアノヒドリンのこと、又は、いずれか一方の鏡像異性体のみからなるシアノヒドリンのことをいう。なお、シアノヒドリンがいずれか一方の鏡像異性体のみからなる場合、光学純度100%という。
【0030】
カルボニル化合物とは、アルデヒド又はケトンをいい、具体的には、次式(I):
R1−CO−R2 (I)
(式中、R1及びR2は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数22以下の1価の炭化水素基を表し、前記炭化水素基中、−CH2−並びに−CH3のCH2はカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられていてもよく、=CH2は=O又は=Sで置き換えられていてもよく、また−CH2−のC−H、−CH3のC−H、>CH−のC−H、=CH−のC−H並びに=CH2のC−Hは、N又はC−ハロゲンで置き換えられていてもよく、また、R1及びR2は、共同して2価の基を表してもよい。)
で示される。
【0031】
前記式(I)において、炭素数22以下の1価の炭化水素基とは、直鎖状又は分岐状の鎖状炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある単環式炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある多環式炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のあるスピロ炭化水素基、側鎖のない又は側鎖のある環集合構造の炭化水素基、あるいは、前記の環式炭化水素基が置換した鎖状炭化水素基のいずれをも含む。また、飽和な炭化水素基並びに不飽和な炭化水素基のいずれをも含むが、不飽和な炭化水素基において、C=C=Cのアレン構造を含む基は除く。
【0032】
なお、以下においては、側鎖のない芳香族基、側鎖のある芳香族基、並びに、フェニルフェニル基又は側鎖のあるフェニルフェニル基などを併せて、アリール基といい、このアリール基で置換された直鎖状又は分岐状のアルキル基をアラルキル基という。他の環式炭化水素基に関しても、特に明記しない場合、環上に側鎖のないものとあるものを併せて指す場合には、単にシクロアルキル基等の名称を用いる。鎖状炭化水素基についても、直鎖状のものと分岐状のものを併せて指す場合には、単にアルキル基等の名称を用いる。
【0033】
前記炭化水素基中、−CH2−がカルボニル基、スルホニル基、−O−又は−S−で置き換えられると、それぞれケトン、スルホン、エーテル又はチオエーテルの構造が導入され、−CH3の−CH2−がカルボニル基、−O−又は−S−で置き換わると、それぞれホルミル基(アルデヒド)、水酸基又はメルカプト基に変わり、あるいは、末端の=CH2が=O又は=Sに置き換わると、ケトン、チオケトンの構造が導入されることを意味し、また、−CH2−のC−HがNに変わると、−NH−となり、>CH−のC−HがNに変わると、>N−となり、=CH−のC−HがNに変わると、=N−となり、末端の−CH3のC−HがNに変わると、−NH2が導入され、=CH2のC−HがNに変わると、=NHとなる。また、−CH3、−CH2−、=CH−、≡CH又は>CH−のC−HがC−ハロゲンで置き換えられると、当該炭素上へハロゲン原子を置換することになる。なお、炭素鎖中における−O−、−S−、Nへの置き換えは、当該炭化水素基に対する、それぞれオキサ置換、チア置換、アザ置換に当たり、例えば、炭化水素環の環の骨格炭素で起こると、炭化水素環のそれぞれ含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環への変換となる。該炭化水素基中、CH2並びにC−Hにおける置き換えは、それぞれ独立に行われてよく、加えて、前記の置き換えを行った後、なお当該炭素上にCH2又はC−Hが残存する際には、更に置き換えがなされてもよい。更には、前記の置き換えにより、−CH2−CH3の−CO−O−H;カルボン酸構造への変換などもなされる。
【0034】
本明細書において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を指すが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。
従って、前記炭化水素基としては、鎖状炭化水素基並びに環式炭化水素基など環構造を有する炭化水素基のいずれをも選択でき、例えば、飽和鎖状炭化水素基である直鎖状又は分岐状のアルキル基、不飽和鎖状炭化水素基である直鎖状又は分岐状のアルケニル基、直鎖状又は分岐状のアルキニル基、直鎖状又は分岐状のアルカジエニル基など、飽和な環式炭化水素基であるシクロアルキル基、不飽和な環式炭化水素基であるシクロアルケニル基、シクロアルキニル基、シクロアルカジエニル基など、芳香族炭化水素基であるアリール基、アラルキル基、アリールアルケニル基などが挙げられる。
【0035】
更に詳しくいえば、直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、2−メチルプロピル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルヘプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基、1,1−ジメチルエチル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,6−ジメチルヘプチル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基など、シクロアルキルアルキル基としては、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基など、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基など、ビシクロアルキル基としては、ノルボルニル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、アダマンチル基などが挙げられる。直鎖状又は分岐状のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、クロチル基(2−ブテニル基)、イソプロペニル基(1−メチルビニル基)など、シクロアルケニル基又はシクロアルカジエニル基としては、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサンジエニル基などが挙げられる。直鎖状又は分岐状のアルキニル基としては、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−フェニルフェニル基、3−フェニルフェニル基、4−フェニルフェニル基、9−アントリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、メチルエチルフェニル基、ジエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、フェネチル基(2−フェニルエチル基)、1−フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基、ジメチルベンジル基、ジメチルフェネチル基、トリメチルベンジル基、エチルベンジル基、ジエチルベンジル基などが挙げられる。アリールアルケニル基としては、例えばスチリル基、メチルスチリル基、エチルスチリル基、ジメチルスチリル基、3−フェニル−2−プロペニル基などが挙げられる。
【0036】
前記炭化水素基中のCH2がカルボニル基、スルホニル基、O又はSで、又はC−HがN又はC−ハロゲンで置き換えられた基としては、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、スルホン、エーテル、チオエーテル、アミン、アルコール、チオール、ハロゲン、複素環(例えば、含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環)などの構造を一つ以上含む基が挙げられる。なお、含酸素複素環、含硫黄複素環、含窒素複素環とは、環式炭化水素基の環骨格の炭素がそれぞれ酸素、硫黄、窒素で置き換わるものを意味し、更には、これらヘテロ原子置換が二種以上ある複素環であってもよい。前記の置換を有する炭化水素基としては、例えば、ケトン構造のアセチルメチル基、アセチルフェニル基;スルホン構造のメタンスルホニルメチル基;エーテル構造のメトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシプロピル基、ブトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、フェノキシメチル基;チオエーテル構造のメチルチオメチル基、メチルチオフェニル基;アミン構造のアミノメチル基、2−アミノエチル基、2−アミノプロピル基、3−アミノプロピル基、2,3−ジアミノプロピル基、2−アミノブチル基、3−アミノブチル基、4−アミノブチル基、2,3−ジアミノブチル基、2,4−ジアミノブチル基、3,4−ジアミノブチル基、2,3,4−トリアミノブチル基、メチルアミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、メチルアミノエチル基、プロピルアミノメチル基、シクロペンチルアミノメチル基、アミノフェニル基、ジアミノフェニル基、アミノメチルフェニル基;含酸素複素環のテトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、モルホリルエチル基;含酸素複素芳香環のフリル基、フルフリル基、ベンゾフリル基、ベンゾフルフリル基;含硫黄複素芳香環のチエニル基;含窒素複素芳香環のピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、テトラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、ピリジルメチル基;アルコール構造の2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシブチル基、2,4−ジヒドロキシブチル基、3,4−ジヒドロキシブチル基、2,3,4−トリヒドロキシブチル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシメチルフェニル基、ヒドロキシエチルフェニル基;チオール構造の2−メルカプトエチル基、2−メルカプトプロピル基、3−メルカプトプロピル基、2,3−ジメルカプトプロピル基、2−メルカプトブチル基、3−メルカプトブチル基、4−メルカプトブチル基、メルカプトフェニル基;ハロゲン化炭化水素基である2−クロロエチル基、2−クロロプロピル基、3−クロロプロピル基、2−クロロブチル基、3−クロロブチル基、4−クロロブチル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ジフルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジブロモフェニル基、クロロフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、トリクロロフェニル基、フルオロメチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基;アミン構造とアルコール構造を有する2−アミノ−3−ヒドロキシプロピル基、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピル基、2−アミノ−3−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−2−ヒドロキシブチル基、2−アミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−2−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−3−ヒドロキシブチル基、2,4−ジアミノ−3−ヒドロキシブチル基、3−アミノ−2,4−ジヒドロキシブチル基、2,3−ジアミノ−4−ヒドロキシブチル基、4−アミノ−2,3−ジヒドロキシブチル基、3,4−ジアミノ−2−ヒドロキシブチル基、2−アミノ−3,4−ジヒドロキシブチル基、アミノヒドロキシフェニル基;ハロゲンと水酸基で置換された炭化水素基であるフルオロヒドロキシフェニル基、クロロヒドロキシフェニル基;カルボン構造のカルボキシフェニル基などが挙げられる。
R1及びR2で表される非対称の2価の基としては、特に制限はなく、例えば、ノルボルナン−2−イリデン、2−ノルボルネン−5−イリデンが挙げられる。
【0037】
前記式(I)で示されるカルボニル化合物としては、例えば、ベンズアルデヒド、m−フェノキシベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド、2,3−メチレンジオキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フルフラール等の芳香族アルデヒド;アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、シクロヘキサンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;エチルメチルケトン、ブチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、メチルペンチルケトン、メチル(2−メチルプロピル)ケトン、メチル(3−メチルブチル)ケトン等の飽和脂肪族ケトン;メチル(2−プロペニル)ケトン、(3−ブテニル)メチルケトン等の不飽和脂肪族ケトン;(3−クロロプロピル)メチルケトン等のアルキル(ハロアルキル)ケトン;2−(アルコキシカルボニルアミノ)−3−シクロヘキシルプロピオンアルデヒド等の2−(保護アミノ)アルデヒド;3−メチルチオプロピオンアルデヒド等のアルキルチオ脂肪族アルデヒドが挙げられる。
【0038】
一方、シアニドドナーとは、反応系へ添加することによって、シアニド、すなわちシアン化物イオン(CN−)を生じる物質を意味し、例えば、シアン化水素、青酸(シアン化水素酸)、シアン化ナトリウムやシアン化カリウムなどのシアン化水素の塩、又は、アセトンシアノヒドリン等のシアノヒドリン類が挙げられる。特に回収リサイクルが容易な青酸(シアン化水素酸)を用いるのが好ましい。
【0039】
反応溶媒は、上述したヒドロキシニトリルリアーゼと、ヒドロキシニトリルリアーゼを用いた酵素反応に通常用いられる溶媒とを含むものである。溶媒としては、反応原料の濃度を高め、生産性を高めるために、水と実質的に混和しない有機溶媒を用いることが好ましい。ここで、「水と実質的に混和しない有機溶媒」とは、水に任意の割合で溶解する溶媒を除く有機溶媒を意味する。有機溶媒としては、水と実質的に混和せず、基質及び生成物を充分に溶解し、酵素反応に悪影響を与えないものであれば特に制限なく用いることができる。このような有機溶媒は、原料のアルデヒド又はケトンの物性、生成物であるシアノヒドリンの物性に応じて適宜選択することができる。
【0040】
水と実質的に混和しない有機溶媒としては、具体的には、ハロゲン化されていてもよい炭化水素系溶媒(例えば、直鎖状、分岐状又は環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素)、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルムなど;ハロゲン化されていてもよいアルコール系溶媒(例えば、直鎖状、分岐状又は環状の飽和又は不飽和脂肪族アルコール、アラルキルアルコール)、例えば、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−アミルアルコールなど;ハロゲン化されていてもよいエーテル系溶媒(例えば、直鎖状、分岐状又は環状の飽和又は不飽和脂肪族エーテル、芳香族エーテル)、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンなど;ハロゲン化されていてもよいエステル系溶媒(例えば、直鎖状、分岐状又は環状の飽和又は不飽和脂肪族エステル、芳香族エステル)、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等が挙げられ、これらを単独で用いてもまた2種以上を混合して用いてもよい。特に、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチルを用いるのが好ましい。
【0041】
前記有機溶媒は、水又は水性緩衝液で飽和されているのが好ましい。ここで水性緩衝液としては、特に制限はないが、酵素活性の最適pH(pH4〜7)の付近において緩衝能を発揮する緩衝液、例えば、リン酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o−フタル酸、コハク酸などの塩等によって構成される緩衝液等が好ましく用いられる。
【0042】
なお、反応溶媒に含まれる溶媒としては、水、或いは水と混和する有機溶媒であっても良い。また、反応溶媒には、カルボニル化合物又はシアニドドナーのいずれか一方を予め含んでいてもよい。この場合、本製造方法においては、反応溶媒に対して、カルボニル化合物及びシアニドドナーのうち反応溶媒に含まれていない他方を添加する。
【0043】
シアノヒドリンを合成する酵素反応の形態については制限しない。即ち、酵素反応が進行する反応溶液は、水系、水・有機溶媒混合系、有機溶媒系、有機溶媒水二相系、固定化酵素を使う反応系などのいずれであってもよい。
【0044】
なお、本製造方法において、ヒドロキシニトリルリアーゼ、カルボニル化合物及びシアニドドナーの使用量、反応温度は、用いる基質に応じて適宜決定される。通常、ヒドロキシニトリルリアーゼの使用量は基質であるカルボニル化合物50mmolに対して250〜100,000単位、好ましくは500〜50,000単位である。カルボニル化合物の濃度は通常0.1〜10mol/Lの範囲に設定し、シアニドドナーは用いるカルボニル化合物に対して0.5〜5倍モル、好ましくは0.8〜3倍モルの濃度とする。酵素反応はカルボニル濃度によって酵素活性及び反応速度が変化するので、用いるカルボニル化合物の種類に応じてその濃度を適宜決定する。反応時間は、カルボニル化合物の転換率が80%以上、好ましくは90%以上に達するまでの時間が適当であるが、これに限定されない。
【0045】
本製造方法をいわゆる回分式で行う場合には、撹拌などにより酵素が反応系内に分散するようにする。本製造方法を、カラムなどに充填した固定化酵素を用いて行う場合には、カルボニル化合物及び/又はシアニドドナーを含む溶液を、カラムに添加し、流出液を採取することで実施できる。回分式の場合には、反応が完結した時点で混合を止め、シアノヒドリンが溶解している有機相を常法により取り出すことで当該シアノヒドリンを回収できる。なお、いずれの方式であってもヒドロキシニトリルリアーゼは、再使用することができる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(調製例1)(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ及び安定化剤の調製
(1)アーモンド種子粉砕物100gに水300gを混合し、3時間攪拌した後、遠心分離し、抽出液を回収した。回収した抽出液にクエン酸水溶液を加え、pHを4.5に調製した。抽出液pHを4.5に調製することによって、抽出液中に沈殿物が生じた。
次に、pHを4.5に調製した抽出液を遠心分離し、沈殿物と上清とに分離しそれぞれ回収した。次に、回収した上清を限外濾過によって10倍に濃縮した。濃縮して得られた上清を酵素溶液とした。また、回収した沈殿物を凍結乾燥することによって安定化剤とした。
【0048】
(2)前記(1)で調製した酵素溶液に含まれる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの酵素活性を測定した。(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼは、DL−マンデロニトリルを基質とする場合、酵素反応によりベンズアルデヒドを生成する。したがって、酵素活性は、DL−マンデロニトリルを基質として含む反応溶液における、ベンズアルデヒドの生成速度として算出した。なお、ベンズアルデヒドの生成速度は、波長249.6nmの吸光度変化で測定することができる。ここで、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ酵素活性の1単位(U;unit)は、1分間にベンズアルデヒド1μmolを生成する活性と定義した。
【0049】
前記(1)で得られた酵素溶液について、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの酵素活性(容量活性)を測定したところ、1500U/mlであり、40,000Uの(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを回収できたことが判った。また、前記(1)で得られた安定化剤について、同様に(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの酵素活性を測定したところ殆ど酵素活性を示さないことが判った。
【0050】
続いて、前記(1)で得られた酵素溶液について、タンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度は、BCA Protein Assey Reagent Kit(PIERCE社製)を用いて測定した。前記(1)で得られた酵素溶液のタンパク質濃度は、37.5mg/mlであった。したがって、前記(1)で得られた酵素溶液の比活性は40U/mgと算出された。
【0051】
(調製例2)固定化酵素の調製
前記調製例1で調製した酵素溶液1mlに対して、前記調製例1で調製した安定化剤30mgを混合し、酵素組成物を調製した。得られた酵素組成物のタンパク質濃度を、調製例1と同様にして測定したところ60mg/mlであった。また、酵素組成物における(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの酵素活性(容量活性)は1500U/mlであったため、比活性は25U/mgと算出された。
【0052】
次に、得られた酵素組成物1mlに対して1gの割合で固定化担体(多孔性シリカゲル、商品名MB−5D、富士シリシア化学社(Fuji Silisia Chemical Ltd)製)を混合した。これにより、酵素組成物が固定化された固定化酵素を調製することができた。
【0053】
(実施例1)光学活性シアノヒドリンの合成
先ず、0.2Mクエン酸緩衝液で飽和させたt−ブチルメチルエーテル2.6gと青酸0.3gとを混合した混合液に、調製例2で調製した固定化酵素(850単位)を添加し、次いで、2−クロロベンズアルデヒド1.4gを添加した。これを室温で攪拌することによって、(R)−2−クロロマンデロニトリルの合成を行った。3時間反応させた後、反応液を回収し、HPLCによってアルデヒドの転化率及び(R)−2−クロロマンデロニトリルの光学純度を測定した。更に、反応終了後の固定化酵素を回収し、前記と同じ条件で繰り返し反応を行った。
【0054】
(比較例1)
比較例1では、前記調製例2で調製した固定化酵素を用いず、前記調製例1で調製した酵素溶液を固定化した固定化酵素を用いた以外は実施例1と同様に(R)−2−クロロマンデロニトリルの合成を行った。すなわち、比較例1で使用した固定化酵素は、安定化剤を添加せずに調製したものである。
【0055】
(結果)
前記実施例1及び比較例1で測定したアルデヒドの転化率及び(R)−2−クロロマンデロニトリルの光学純度を測定した結果を、繰り返し回数(バッチ数)毎に図1及び表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
図1及び表1から判るように、比較例1では、繰り返し回数の増加に応じて転化率が低下し、また光学純度の低下していた。これに対して、実施例1では、繰り返し回数が増加しても、高い転化率及び高い光学活性を維持していることが明らかになった。これらの結果から、前記調製例1で調製した安定化剤は、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化することができ、酵素反応を繰り返し行った場合でも酵素活性を高く維持することができることが判った。
【0058】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化が図られた(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ組成物、脱脂工程を行わずに抽出された(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化できる(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化剤、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化方法及び光学活性シアノヒドリンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】安定化剤による(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化効果を示す特性図である。
Claims (6)
- (R)−ヒドロキシニトリルリアーゼと、タンパク質を含む安定化剤とを含み、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性が30U/mg以下であることを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物。
- 上記安定化剤は、アーモンドから水性溶媒により抽出した抽出物を含むことを特徴とする請求項1記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物。
- (R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを含む水性溶液にタンパク質を共存させて、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの比活性を30U/mg以下に調製することにより、(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼを安定化させることを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化方法。
- アーモンドから脱脂工程なしに水性溶媒により抽出した抽出物を含むことを特徴とする(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化剤。
- 上記抽出物が、酸性条件下で析出させて得られる沈殿物を主成分とすることを特徴とする請求項4記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼの安定化剤。
- 請求項1又は2記載の(R)−ヒドロキシニトリルリアーゼ安定化組成物を用いて、カルボニル化合物とシアニドドナーとを酵素反応させることを特徴とする光学活性シアノヒドリンの製造方法。
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