JP2004106054A - 連続鋳造用鋳型及び連続鋳造方法 - Google Patents

連続鋳造用鋳型及び連続鋳造方法 Download PDF

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Mikio Suzuki
鈴木 幹雄
Masayuki Nakada
中田 正之
Makoto Suzuki
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【課題】高粘度のパウダーを高速度化した鋳片引き抜き速度の条件下で使用しても、所定のパウダーの流入量が確保され、高い鋳型内潤滑を維持した鋳造が可能な連続鋳造用鋳型及び連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも溶鋼湯面近傍の鋳型内面形状を鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー形状とした連続鋳造用鋳型であって、その逆テーパー値Tinvが下式を満たすように設定したことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
0.1×Vc/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−Vc/πfS)]≦Tinv≦0.3×Vc/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−Vc/πfS)]
但し、
 ;引抜速度(mm/s)
f ;鋳型振動数(サイクル/s)
S ;鋳型振動ストローク(mm)
η ;モールドパウダー粘度(Pa・s)
【選択図】     図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鋼の連続鋳造用鋳型及び連続鋳造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造は鋳型内に設置した浸漬ノズルから溶鋼を鋳型内に吐出し、凝固シェルを形成しながら鋳片を下方に引き抜くことで行われる。その際、鋳型と凝固シェルの潤滑、鋳型内の溶鋼の保温、溶鋼湯面の酸化防止等を目的として、鋳型内の溶鋼湯面にモールドパウダー(以下、単に「パウダー」とも記す)が投入される。
【0003】
このため、連続鋳造鋳片の表層部には、パウダーを巻き込んだノロカミと呼ばれる表面欠陥が発生する場合がある。このパウダーの巻き込み現象は、鋳型内における溶鋼とパウダー界面との不安定現象に基いて発生すると考えられているが、明確なことは分かっていない。
ただ、実際の操業では、使用するパウダーの粘度が高いほど、その鋳片を圧延した後の鋼板ではノロカミに起因する欠陥が少なくなることが分かっている。
このため、実際の鋳造作業では、高粘度パウダーを用いることが普通に行われている。
【0004】
しかしながら、高粘度パウダーを使用した場合には、パウダーの流入量、即ち、鋳型と凝固シェルとの間隙に流れ込むパウダー量が減少し、往々にして鋳型と凝固シェルとの潤滑不良が発生する。この潤滑不良が発生すると、凝固シェルに作用する摩擦力が増大し、凝固シェルに割れが発生したり、摩擦力が大きい場合には凝固シェルが鋳型に拘束され、凝固シェルが引きちぎれ、所謂ブレークアウトが発生する。
【0005】
このため高粘度パウダーを使用する際には、一般に鋳片引き抜速度を下げて鋳造を実施している。パウダー流入量は鋳片引き抜き速度に反比例して減少するので、鋳片引き抜き速度の低速度化によりパウダーの流入量が増大し、潤滑不良を防止できるからである。しかし、この場合には連続鋳造機の生産性は極端に低下するという問題がある。
【0006】
また、鋳造直後の鋳片が有する熱エネルギーを有効に利用するため、鋳造された高温鋳片を直接熱間圧延するHDRプロセスや、鋳造された高温鋳片を加熱炉に装入し、加熱した後に熱間圧延するHCRプロセスが広く採用されている。
これらのプロセスでは、鋳片温度を高温に維持する必要があり、鋳片引き抜き速度を高速度化している。
そのため、これらのプロセスでは安定鋳造を目的として、流入量が多い低粘度のパウダーを使用することが一般的であり、高粘度パウダーを使用してノロカミ低減対策は考慮されていないのが実状である。
【0007】
以上のように、鋳片の表面欠陥を防止するためには高粘度のパウダーを使用することが考えられるが、高粘度のパウダーを用いた場合にはパウダー流入不足からブレークアウトの危険がある。
他方、特定のプロセスでは鋳片引き抜き速度の高速度化の要請から高粘度のパウダーの使用ができず、表面欠陥発生の危険が大きい。
【0008】
このような状況のもと、高速連続鋳造における初期凝固シェルの破断を防止する連続鋳造鋳型が開示されている(特許文献1参照、従来技術1)。その連続鋳造鋳型は、鋳型のオシレーション手段を備え、かつ溶湯メニスカス相当部近傍を含む鋳型の上部内面が下広がりの逆テーパーを備えるというものである。
【0009】
また、高粘度のモールドパウダーを使用した場合でも、拘束性のブレークアウトを防止して、表面性状の優れた鋳片を製造できる連続鋳造用鋳型が開示されている(特許文献2参照、従来技術2)。その連続鋳造用鋳型は、拘束性ブレークアウトや表面欠陥の発生原因を鋳型と凝固シェルの間隙に流入したモールドパウダーが鋳型に固着してモールドパウダーと凝固シェルとの間隔が鋳型の縦振動によって極端に狭まることにあるとの知見に基づき、鋳型内面に固相のモールドパウダーが固着した状態でも、鋳型の対向する面に固着した固相のモールドパウダー表面間の間隔が、鋳型の振動中に一定になるようにするために、鋳型の内面に鋳型の対向する面間の間隔が下方に向かって広がるようなテーパー(逆テーパー)を設けるというものである。
【0010】
【特許文献1】
特開平10−109142号公報
【特許文献2】
特開2002−126854号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術1では単に鋳型内面を逆テーパーにするというだけである。確かに、逆テーパーのないものに比べるとパウダーの流入量は増加すると思われる。
しかし、実操業においては、単純にパウダーの流入量を増加させればよいというものではなく、パウダーを所定の流入範囲に制御したいという要請がある。しかし、従来技術1ではパウダーを所定の流入範囲に制御するためにテーパー値をどの程度にすればよいかは全く不明である。また、パウダー流入量は鋳片引き抜き速度に反比例することは前述の通りであるが、従来技術1には、この引き抜き速度とテーパー値との関係も全く示されていない。
【0012】
また、従来技術2では、鋳型の対向する面に固着した固相のモールドパウダー表面間の間隔が、鋳型の振動中にも一定になるように鋳型の内面に逆テーパーを設けるというものであり、この従来技術2においてもパウダーを所定の流入量に制御するための構成や、テーパー値と引き抜き速度との関係は全く示されていない。
【0013】
このように、従来技術1,2では鋳型に逆テーパーを設ける点が示されるのみであり、実操業での諸条件例えば、鋳造速度、鋳型振動数やストローク、および使用するパウダー粘度等が全く加味されておらず、これらの諸条件との関係でテーパー値をどのように設定するかが不明であり、実際に実施することができないものである。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高粘度のパウダーを高速度化した鋳片引き抜き速度の条件下で使用しても、所定のパウダーの流入量が確保され、高い鋳型内潤滑を維持した鋳造が可能な連続鋳造用鋳型及び連続鋳造方法を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る連続鋳造用鋳型は、少なくとも溶鋼湯面近傍の鋳型内面形状を鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー形状とした鋳型であって、その逆テーパー値Tinv(%)が下式を満たすように設定したものである。
0.1×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]≦Tinv≦0.3×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]
但し、
 ;引抜速度(mm/s)
f ;鋳型振動数(サイクル/s)
S ;鋳型振動ストローク(mm)
η ;モールドパウダー粘度(Pa・s)
【0016】
また、本発明に係る連続鋳造方法は、少なくとも溶鋼湯面近傍の鋳型内面形状を鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー形状とした鋳型を用いた連続鋳造方法であって、逆テーパー値Tinv(%)、引抜速度V(mm/s)、鋳型振動数f(サイクル/s)、鋳型振動ストロークS(mm)、モールドパウダー粘度η(Pa・s)が下式を満たすことを特徴とするものである。
0.1×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]≦Tinv≦0.3×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態を示す図で、スラブ連続鋳造機の鋳型部分を鋳片短辺側から見た概要図、図2は、図1の鋳型に取り付けられる長辺鋳型銅板を示す図で、(A)は正面図で(B)は側面図である。
【0018】
スラブ連続鋳造機の鋳型1は、相対する一対の長辺鋳型銅板3と、この長辺鋳型銅板3に挟まれた、相対する一対の短辺鋳型銅板(図示せず)とを具備している。短辺鋳型銅板は長辺鋳型銅板3内を移動して任意の幅のスラブ鋳片を鋳造可能としている。長辺鋳型銅板3と短辺鋳型銅板とで形成する矩形型の空間内には、タンディッシュ(図示せず)の底部に設置された浸漬ノズル10が挿入されており、タンディッシュ内の溶鋼4は浸漬ノズル10を通り、浸漬ノズル10の先端部に設けられた吐出孔11から鋳型1内に鋳造される。
【0019】
鋳型1内に鋳造された溶鋼4は、鋳型1により冷却されて凝固シェル5を形成する。凝固シェル5は下方に連続的に引き抜かれながらその厚みを増大し、やがて中心部まで凝固する。鋳型1は、連続鋳造中凝固シェル5に沿って上下に振動しており、鋳型1内の溶鋼湯面12上にはパウダー6が添加されている。パウダー6は溶鋼4から熱を受け、溶鋼4側は溶融して溶融パウダー8となり、その上には未溶融パウダー7が存在している。
【0020】
長辺鋳型銅板3の上部側には、鋳片引き抜き方向下方に向かって広がるテーパー(以下「逆テーパー」と記す)部3aが設けられている。この逆テーパー部3aの範囲内に溶鋼湯面12の位置を保持して鋳造を実施する。逆テーパー部3aの鋳片引き抜き方向の長さ(L)は、鋳型振動のストローク(振動の上下限の巾)以上であれば理論的には十分であるので、具体的には、鋳型振動ストロークの少なくとも3倍以上あればよい。実際の鋳造では溶鋼湯面12の位置が鋳造中に上下に変動するので、それを考慮して、最大で、鋳型振動ストロークの10倍あれば十分である。
【0021】
なお、鋳片引き抜き方向下方に向かって広がるテーパー形状とは、溶鋼湯面12の位置の鋳型内面積に比べて、その下方の鋳型内面積が広くなった形状を表しており、従って、長辺鋳型銅板3に挟まれており、最終的に長辺鋳型銅板3の間隔を決定する短辺鋳型銅板の形状も考慮する必要がある。
【0022】
ここで、逆テーパーを付与した鋳型におけるパウダー流入メカニズムについて説明する。
このパウダーの流れ込みのメカニズムを図3に模式的に示す。図3(A)は鋳型1が鋳片引き抜き速度よりも速い速度で下方に移動している状態(ネガティブストリップ状態)を示す図であり、図3(B)は、鋳型1が凝固シェル5に対して相対的に上方に移動している状態(ポジティブストリップ状態)を示す図である。
【0023】
図3(A)に示す鋳型1が凝固シェル5に対して相対的に下方に移動するときは、鋳型銅板2の内壁に付着した固着層9により凝固シェル5の先端部が鋳型1の内面側に押し曲げられ、溶融パウダー8は、固着層9が障害となって鋳型銅板2と凝固シェル5との間隙に流入できない状態となっている。
他方、図3(B)に示す鋳型1が凝固シェル5に対して相対的に上方に移動するときは、鋳型銅板2の内面が下に広がるテーパーを有しているので、固着層9が移動して形成された広い空隙に多くの溶融パウダー8が流入し、そして、溶融パウダー8は鋳型銅板2と凝固シェル5との間隙に流入する。
【0024】
以上が逆テーパーを設けた鋳型におけるパウダー流入メカニズムであるが、このメカニズムを前提として、逆テーパー値と各操業条件との関係について以下検討する。
図4は図1に示した鋳型1の拡大図であり、鋳型壁と凝固シェルとの位置関係を示したものである。図4(A)は、図3(A)に示したネガティブストリップ状態を示し、図4(B)は、図3(B)に示したポジティブストリップ状態を示している。
ネガティブストリップ状態では、図4(A)に示すように、凝固シェルの先端は鋳型壁で押し付けられた状態になっている。一方、図4(B)に示すポジティブストリップ状態では、鋳型壁と凝固シェルとの間にギャップGが生じている。このギャップG(mm)は、振動ストロークS(mm)と鋳型の逆テーパー値Tinv(%)の積で表せる。
G=S×Tinv/100
なお、逆テーパー値Tinvとは、鋳片引き抜き方向の長さ(L)に対する逆テーパー部3aの深さ(d)の百分率(100d/L)であり、相対する長辺鋳型銅板3の双方に逆テーパー部3aが設けられている場合には、双方の逆テーパー値の和が鋳型の逆テーパー値となる。
【0025】
このギャップGは逆テ―パー鋳型を用いたことにより通常鋳型に比べて余分に形成されたものであり、このギャップGを通過して流入するパウダーが通常鋳型(逆テーパーのない鋳型)に比べて増加するパウダー流入量であるとみなすことができる。
したがって、鋳型振動1サイクル中に流入する単位幅のパウダーの流入量増分△Q(kg/サイクル)は、ギャップGを通過するパウダーの流入速度V(mm/s)、流入時間t(s)とパウダー密度ρ(kg/mm)との積で下式(1)のように表すことができる。
△Q=ρ×G×V×t     ・・・・・・・・(1)
【0026】
振動1サイクルの間に形成する鋳片表面積をA(mm)すると、単位表面積当たりのパウダー流入量増分△Q(kg/m)は下式(2)で求まる。
△Q=ρ×G×V×t/(A×10−6) ・・・・・(2)
1サイクルの鋳型振動で形成する表面Aは、単位幅で考えると、1サイクルの振動中に引き抜かれる距離L(mm)から下式(3)で求まる。
=L ×1=V/f       ・・・・・・ (3)
したがって、パウダー流入量増分△Qは下式(4)のように表現できる。
△Q=ρ×V×(S×Tinv/100)×t/(V/f)×(10)・・・ (4)
【0027】
ここで、パウダー流入時間t(s)について検討する。
パウダーの流入はポジティブストリップ状態のときに起こることが実験的に知られており、パウダー流入量Qはポジティブストリップ時間tに比例する。
そこで、パウダー流入時間tはポジティブストリップ時間tに置き換えることができる。
【0028】
そして、鋳型がサイン波形で振動をしている場合のポジティブストリップ時間t(s)は、下式(5)で表現できることが知られている。
=(1/πf)×cos−1(−V/πfS) ・・・・・(5)
このtを(4)式に代入すると、
△Q=ρ×V×(S×Tinv/100)×(1/π)×cos−1(−V/πfS)/V×106 ・・・(6)
【0029】
ここで、mp=ρ×V×10/πと定義すると、パウダー流入速度Vはパウダー粘度に依存するのでmpはパウダー粘度の関数となる。
また、Fpを下式(7)で定義し、これを流入パラメーターと呼ぶ。
Fp=S×Tinv×cos−1(−V/πfS)/V   ・・・・(7)
上記のように、mp、Fpを定義すると△Qは下式(8)で表現できる。
△Q=mp×Fp    ・・・・・(8)
ここで、Fpは連続鋳造機の操業条件から決定され、mpはパウダーに関するものである。
そして、Fpは式(7)に示すように、鋳型振動ストロークS(mm)、鋳型の逆テーパー値Tinv(%)、引抜速度V(mm/s)、鋳型振動数f(サイクル/s)から構成され、予め定めることのできる操業条件によって決定できる。
【0030】
上記のように、△QのFpを予め定めることのできる操業条件で表現できたので、次にmpについて検討する。
mpを求めるにあたって実際に鋳片の引き抜き実験を行った。実験に際しては、逆テーパー値Tinvと引抜速度Vを変更し、振動数は、引抜速度Vに応じて変化させた。逆テーパーを付与した長さは60mm、鋳型振動ストロークSは8mm、実験開始時の湯面は逆テーパー範囲の中央より10mm下の位置になるように浸漬した。
引抜速度Vと振動数fは下記の通りである。
(実験1)
引抜速度V :1.5m/min(=25mm/s)
振動数   :102サイクル/min(=1.7サイクル/s)
(実験2)
引抜速度V :2.0m/min(=33.3mm/s)
振動数   :136サイクル/min(=2.27サイクル/s)
(実験3)
引抜速度V :3.0m/min(=50mm/s)
振動数   :203サイクル/min(=3.38サイクル/s)
【0031】
上記実験により引き抜き速度Vごとに、逆テーパー値Tinv(%)におけるパウダー流入量を求め、グラフ化したものを図5〜図7に示す。図5は実験1に、図6は実験2に、図7は実験3にそれぞれ対応する。また、図5〜図7において、縦軸がパウダー流入量Q(kg/m)、横軸が逆テーパーTinv(%)である。
【0032】
ここで、パウダー流入増分ΔQ(kg/m)は、逆テーパ鋳型を使用したときのパウダー流入量Q(逆テーパー)と逆テーパを設けていない鋳型を使用したときのパウダー流入量Q(逆テーパーなし)の差で表される。
したがって、例えば図6に示したV=2.0m/min(=33.3mm/s)の場合に着目すると、Tinv=0のときのパウダー流入量Qがパウダー流入量Q(逆テーパーなし)に相当するので、図6の各値からTinv=0のときのパウダー流入量Qを差し引くことで、パウダー流入増分ΔQが求まる。
また、式(7)に図6のTinvの値及びその他の操業条件を入れることで、図6の横軸を流入パラメーターFpに変換できる。
このようにして求めたV=2.0m/min(=33.3mm/s)におけるパウダー流入増分ΔQと流入パラメーターFpとの関係を図8に示す。
【0033】
図8から分かるように、パウダー粘度毎に△QとFpには直線的な関係が成り立っている。
次に、パウダー粘度を一定(η=0.8Pas)にして、引抜速度を1.5、2.0、3.0m/minのときのFpと△Qとの関係を求め、図9に示した。図9から分かるように、引き抜き速度に関係なく、Fpと△Qpは直線関係が成立している。
【0034】
図8の中で、Fpと△Qの直線の傾きをmpとして、mpをFpと△Qの関係を示す図8からパウダー粘度毎に求めて,粘度ηとmpとの関係を図示したのが、図10である。この図10からmpと粘度ηとの関係を求めると、下式(9)のように、mpをパウダー粘度η(pa・s)で表現できる。
mp=A/η+B=0.06/η+0.02 ・・・・・(9)
【0035】
結局、パウダー流入増量△Qは、式(9)(10)から、引き抜き速度V(mm/s)、鋳型の逆テーパー値Tinv(%)、鋳型振動条件(振動数f(サイクル/s)、ストロークS(mm))、パウダー粘度ηで表すことができる。
Figure 2004106054
【0036】
以上のようにパウダー流入増量△Qを表現できるとして、次に、具体的に流入量をどの程度にするのがよいかについて検討する。
鋳片厚みが100mm以下の薄スラブ連続鋳造では、鋳造速度が5〜6m/min(=83.3〜100mm/s)で操業しており、このときのパウダー流れ込み量は0.1kg/m 前後であると報告されている(杉谷泰夫:第153・154回西山記念技術講座、日本鉄鋼協会編、東京、(1994)、p225)。薄スラブ連鋳の操業ではブレークアウトの発生頻度は厚さ200〜300mmの通常スラブ連続鋳造のそれよりも高い。このことから推測して、パウダー流入量が0.1kg/m以上であれば鋳造可能であるといえる。したがって、パウダー流入量増分△Qpを0.1kg/m以上とすれば必ず鋳造は安定する方向になる。そこで、パウダー流入量増分△Qpの下限値を0.1kg/mと考える。
【0037】
△Qpが0.1kg/m以上になる条件は、
(0.06/η+0.02)×S×Tinv×cos−1(−V/πfS)/V≧0.1
この式から、逆テーパー値の条件は下式のように決定できる。
Figure 2004106054
【0038】
一方、パウダー流入量の増分△Qが0.3kg/m以上になると、流入量が過剰のため、モールド周方向の均一な流入が起こり難くなる。そのため、パウダーが過剰に流入した部位では凝固シェルからモールドへの抜熱が小さくなり凝固の進行が遅滞するため、凝固シェル厚さが薄くなり、この部位で表面割れが起こる。そこでパウダー流入量増分△Qpの上限値は0.3kg/mとした。この値は不均一凝固シェルが起こらない範囲の上限である。
【0039】
△Qpが0.3kg/m以下になる条件は、下式の通りとなる。
(0.06/η+0.02)×S×Tinv×cos−1(−V/πfS)/V≦0.3
この式から、逆テーパー値の条件は下式のように決定できる。
Figure 2004106054
【0040】
結局、逆テーパー値は、鋳造条件、鋳型振動条件、パウダー粘度条件によって、下式で与えられる条件の範囲に決めることが望ましいことになる。
0.1×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]≦Tinv≦0.3×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]・・・・・(13)
【0041】
このようにして設計した逆テーパーを有する鋳型を用いて鋳造することで、鋳片引抜速度が高速の場合において高粘度パウダーを使用しても、パウダーの流入量が確保され、高い鋳型内潤滑を維持した鋳造が可能となる。その結果、高速度鋳造条件でもパウダーの巻き込みを防止することが可能となり、直送圧延においても表面性状に優れた鋼板の製造が達成される。
【0042】
なお、上記説明では鋳片鋳型銅板3のみに逆テーパー部3aを設けた例を示したが、短辺鋳型銅板にも逆テーパー部3aを設けてもよい。また、逆テーパー部3aが短辺鋳型銅板の範囲まで拡大しないように長辺鋳型銅板3の中央部にのみ逆テーパー部3aを設けているが、短辺鋳型銅板の側面を長辺鋳型銅板3の形状に沿って加工する場合には、長辺鋳型銅板3の幅方向全域に逆テーパー部3aを設けることができる。更に、本発明はスラブ連続鋳造機に限るものではなく、ブルーム連続鋳造機やビレット連続鋳造機にも適用可能である。
【0043】
【実施例】
実施例1.
図1及び図2に示す連続鋳造用鋳型を用い、自動車用の極低炭素アルミキルド鋼を鋳片引抜速度が2.5m/min、この時の鋳型振動ストロークが8mm、振動数が170サイクル/min、振動波形がサイン波形で鋳造することを計画した。
式(13)から計算される逆テ―パ−値Tinvと1300℃におけるパウダー粘度の適正範囲を図11に示す。Tinv=5%の逆テーパーを有する鋳型を製作して鋳造に用いた。逆テーパ―の付与した範囲は鋳型銅版上端から50mmから200mm位置である。計算されるパウダーの適正粘度は、0.5〜2.2Pasの範囲であるので、0.8Pasの粘度を有するモールドパウダーを使用して鋳造を行った。比較のために逆テーパーの無い通常鋳型(順テーパ−鋳型)を用いて同じ連続鋳造機の別ストランドで鋳造した。
【0044】
極低炭素鋼の成分は、C:0.002mass%以下、Si:0.002mass%以下、Mn:0.1〜0.2mass%、P:0.008〜0.01mass%、S:0.008〜0.01mass%であった。
【0045】
パウダー流れ込み量は、逆テーパー値の方が増大した。2.5 m/min の鋳造速度でパウダー流入量の増分は0.29kg/m程度となり、鋳造には全く問題がなかった。また、パウダーの巻き込みも全く観察されず、良好な鋳片品質を得た。
一方、順テーパ−鋳型では、流れ込み量が0.08kg/mと少なくなり、2.5 m/min の鋳造速度を維持できなくなり鋳造速度を低下させざるをえなかった。
【0046】
実施例2.
実施例1と同様に、図1及び図2に示す連続鋳造用鋳型を用い、自動車用の極低炭素アルミキルド鋼を鋳片引抜速度が2.5m/minで鋳造を行った。この時の鋳型振動ストロークが8mm、振動数が170サイクル/min、振動波形がサイン波形を用いた。逆テーパー値Tinvを10%の鋳型を製作して鋳造に用いた。逆テーパーの付与範囲は実施例1と同じである。
このような鋳造条件の時のモールドパウダー粘度の適正範囲は、式(13)から、1.2〜16.6Pasと計算される。
この実施例ではモールドパウダーの粘度が適正範囲を外れた0.8Pasのものを意図的に用いた。比較のために逆テーパー部が設置されていない従来の鋳型を用いて同じ連続鋳造機の別ストランドで鋳造した。
【0047】
極低炭素鋼の成分は、C:0.002mass%以下、Si:0.002mass%以下、Mn:0.1〜0.2mass%、P:0.008〜0.01mass%、S:0.008〜0.01mass%であった。
逆テーパー鋳型と従来鋳型のパウダーの流れ込み量を比較すると、逆テーパー鋳型では、0.64kg/mを示した。一方、従来鋳型では、0.09kg/mであった。つまり、逆テーパー鋳型では流入量が多すぎ、逆に従来鋳型では流入量が少なすぎた。そのため、逆テーパー鋳型で鋳造したスラブの表面には微小な2重肌が発生した。一方、順テーパ−鋳型では、2.5 m/min の引抜速度を維持できず、鋳造の後半から引抜速度を2.2m/minまで低下させて鋳造を行った。このため鋳造時間が延長され、鋳造計画を変更せざるを得ず、生産量の低下につながった。
【0048】
【発明の効果】
本発明においては、連続鋳造用鋳型の逆テーパー値を引抜速度等の操業条件との関係で規定したので、鋳片引き抜き速度が高速の場合において高粘度のパウダーを使用しても、パウダーの流入量が確保され、高い鋳型内潤滑を維持した鋳造が可能となる。その結果、高速度鋳造条件でもパウダーの巻き込みを防止することが可能となり、直送圧延においても極めて表面性状に優れた鋼板の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す図で、スラブ連続鋳造機の鋳型部分を鋳片短辺側から見た概要図である。
【図2】本発明の一実施形態のスラブ連続鋳造機の鋳型部分を鋳片短辺側から見た概要図である。
【図3】本発明におけるパウダーの流れ込みのメカニズムを模式的に示す図である。
【図4】鋳型振動と凝固シェルとの位置関係を示す図である。
【図5】パウダーの流れ込み量と逆テーパー値との関係を示す図である(V=1.5m/min)。
【図6】パウダーの流れ込み量と逆テーパー値との関係を示す図である(V=2.0m/min)。
【図7】パウダーの流れ込み量と逆テーパー値との関係を示す図である(V=3.0m/min)。
【図8】引抜速度一定のときのパウダーの流入量増分△Qpと流入パラメータFpとの関係を示す図である。
【図9】引抜速度が変化したときのパウダー流入量増分△Qpと流入パラメータFpとの関係を示す図である。
【図10】傾きmpとパウダー粘度ηの関係を示す図である。
【図11】引抜速度2.5m/minのときの逆テ―パ−値とパウダー粘度の適正範囲を示す図である。
【符号の説明】
1 鋳型
2 鋳型銅板
3 長辺鋳型銅板
3a 逆テーパー部
4 溶鋼
5 凝固シェル
6 パウダー
7 未溶融パウダー
8 溶融パウダー
9 固着層
10 浸漬ノズル
11 吐出孔
12 溶鋼湯面

Claims (2)

  1. 少なくとも溶鋼湯面近傍の鋳型内面形状を鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー形状とした連続鋳造用鋳型であって、その逆テーパー値Tinv(%)が下式を満たすように設定したことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
    0.1×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]≦Tinv≦0.3×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]
    但し、
     ;引抜速度(mm/s)
    f ;鋳型振動数(サイクル/s)
    S ;鋳型振動ストローク(mm)
    η ;モールドパウダー粘度(Pa・s)
  2. 少なくとも溶鋼湯面近傍の鋳型内面形状を鋳片引き抜き方向下方に向かって広がる逆テーパー形状とした連続鋳造用鋳型を用いた連続鋳造方法であって、逆テーパー値Tinv(%)、引抜速度V(mm/s)、鋳型振動数f(サイクル/s)、鋳型振動ストロークS(mm)、モールドパウダー粘度η(Pa・s)が下式を満たすことを特徴とする連続鋳造方法。
    0.1×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]≦Tinv≦0.3×V/[(0.06/η+0.02)×S×cos−1(−V/πfS)]
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