JP2004099943A - 防錆剤組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーをインターカレートさせて複合化した複合体を含有させて防錆剤組成物を構成する。上記層状リン酸塩としては、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸スズなどが好ましく、上記層状リン酸塩の層間にインターカレートされたアニリンまたはその誘導体のポリマーは、アニリンまたはその誘導体をあらかじめ層状リン酸塩の層間にインターカレートした後、重合して得たものであってもよい。また、上記複合体はそのポリマー中に、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸などの有機スルホン酸を含有していてもよい。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、防錆剤組成物に関し、さらに詳しくは、層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体のポリマーとの複合体を含有する防錆剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
層状リン酸塩としては、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸スズ、リン酸セリウム、トリポリリン酸二水素アルミニウムなどが知られている。これらの層状リン酸塩は、その層状構造と固体酸性とに特徴があり、その層間に各種の有機化合物をインターカレートさせることができるという特性を有していて、防錆剤、吸着剤などに利用されている。
【0003】
上記層状リン酸塩のうち、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウムは、層間距離が0. 79nmの微粉末で、アンモニア、ブチルアミン、トリメチルアミンなどの各種脂肪族有機アミンや、アニリンなどの芳香族アミンなどをインターカレートさせることが知られており、その特性を生かして悪臭の吸着剤として利用されている。また、そのリン酸塩皮膜形成能を生かして防錆顔料としても利用されている。
【0004】
一方、ポリアニリンは、アニリンブラックを始めとする各種染料の原料として使用されるアニリンの重合体であり、導電性ポリマーとして知られている。そして、このポリアニリンは、導電性の有機高分子という特徴を生かして、帯電防止材料、樹脂の導電性を高めるための導電助剤、電解コンデンサやリチウム二次電池などの正極材料、発光素子材料、ガス、湿度などのセンサー材料、腐食抑制剤、電磁波遮蔽剤などの種々の用途への応用が期待されている。
【0005】
導電性ポリマーの腐食抑制効果は、比較的古くから知られており、例えば、ステンレス鋼鈑に導電性ポリマーをコーティングしたものが、無機酸中にて腐食抑制効果を有することが示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【非特許文献1】
J.Electrochem.Soc.Vol.132、No. 5、p.1022−1026(1985)
【0007】
特許面では、1993年にAllied Signal Inc.が、腐食防止用塗料組成物として導電性ポリマーを配合した塗料組成物を提案している(例えば、特許文献1参照)。その後、ドイツのZipperling社が、ポリアニリン含有塗料分散体の腐食防止効果について開示している(例えば、特許文献2参照)。また、ポリアニリンの塗料への応用としては、ポリアニリンとプロトン酸ドーパントを含有する樹脂とトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの非クロム系防錆顔料とを併用することにより、亜鉛系メッキ鋼鈑の耐食性を向上させる塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、ポリアニリンとプロトン酸ドーパントからなる防食塗料が提案されている(例えば、特許文献4参照)。ただし、これらはいずれもポリアニリンの特性をそのまま生かすものである。
【0008】
【特許文献1】
WO93/14166号公報(第1頁)
【特許文献2】
特表平2−500918号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開平11−335624号公報(第1頁)
【特許文献4】
特開平8−92479号公報(第1頁)
【0009】
層状リン酸塩へのアニリンのインターカレーションの研究としては、超音波照射によるアニリンのインターカレーションが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、アセトン中で撹拌することにより、アニリンを層状リン酸ジルコニウムにインターカレートさせることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。さらに、トリポリリン酸アルミニウムへの超音波照射によるアニリンのインターカレート後、酸化剤により層間中でのポリアニリンの生成を確認し、その導電性を評価していて、それによると、トリポリリン酸アルミニウムは導電率が2.29×10−6S/cmと低く不導体であるが、ポリアニリンとの複合体は導電率が1.91×10−3S/cmと半導体的特性を示している(例えば、非特許文献4参照)。
【0010】
【非特許文献2】
日本化学会誌1992年、No. 9、p.944〜950
【非特許文献3】
J.CHEM.SOC.FARADAY TRANS、1992年、No. 88、p.2275〜2281
【非特許文献4】
Journal of Inclusion Phenomena and Molecular Recognition in Chemistry、1994年、No. 18、p.193〜204
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ポリアニリンは、有機化合物であるため、耐熱性に問題があり、通常、150℃以上の高温では使用できない。そのため、ポリアニリンを使用する樹脂や塗料に制約が生じ、焼き付け塗料や焼き付け型の工業用接着剤、耐熱塗料への使用や熱可塑性樹脂への練り込みなどでは、ポリアニリンが劣化して所望の特性が得られない。
【0012】
そのため、防錆材としてのポリアニリンは、前記特開平11−335624号公報に記載されているように、特に非鉄系金属に対する防錆能が優れていることが知られているものの、耐熱性(熱安定性)が悪いため、その用途や使用条件に制約を生じることとなった。
【0013】
一方、層状リン酸塩は、単独でまたは酸化亜鉛などとの併用により、層状リン酸塩系防錆顔料として、鉄をはじめとする鉄系金属に対する防錆剤として使用されており、しかも完全な無機系材料のため、耐熱性が優れているものの、亜鉛などの非鉄金属系に対しては充分な防錆能を発揮できないという問題があった。
【0014】
本発明は、上記のような従来の防錆剤の有する問題点を解決し、耐熱性が優れ、鉄系金属および亜鉛などの非鉄系金属のいずれに対しても防錆能が優れた防錆剤組成物を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーをインターカレートさせて複合化することにより、アニリンまたはその誘導体のポリマーの耐熱性が著しく向上することを見出し、それに基づいて、上記課題を解決できる防錆剤組成物を提供したものである。
【0016】
すなわち、本発明は、層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーがインターカレートした複合体を含有することを特徴とする防錆剤組成物に関するものである。
【0017】
上記のように層状リン酸塩の層間へのアニリンまたはその誘導体のポリマーのインターカレートにより得られる複合体は、微粒子状粉体となり、また、両者を単に混合するだけでは得られない優れた耐熱性が得られ、層状リン酸塩に基づく鉄系金属に対する優れた防錆能とアニリンまたはその誘導体のポリマー(以下、このアニリンまたはその誘導体のポリマーを「アニリン系ポリマー」で表す場合がある)に基づく亜鉛などの非鉄金属に対する優れた防錆能を併有し、しかも耐熱性が優れている。
【0018】
従って、本発明の防錆剤組成物は、複合化によるアニリン系ポリマーの耐熱性の向上に基づき、焼き付け型塗料、焼き付け型の工業用接着剤、耐熱塗料への使用や熱可塑性樹脂などへの練り込みが可能になり、アニリン系ポリマーの単独使用やその特性をそのまま生かした防錆剤組成物に比べて、応用範囲が大幅に拡大する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明において、層状リン酸塩としては、例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウム(ATP)、リン酸チタン(TiP)、リン酸ジルコニウム(ZrP)、リン酸スズ(SnP)などが用いられるが、これらの層状リン酸塩としては、公知の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウムは、特開昭51−128698号公報を基に工業的に製造され、本出願人がK−フレッシュ#100Pの商品で上市している市販品を用いることができる。
【0020】
また、4価金属の層状リン酸塩であるリン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸スズの製造方法としては、フッ化錯体法、還流法、オートクレーブ法などが知られているが、例えば、特開平3−150214号公報の記載に基づいて水蒸気の存在下で容易に製造することができる。
【0021】
上記層状リン酸塩の層状構造は、粉末X線回折法による回折パターンから確認することができ、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸スズの層間距離は、それぞれ、0. 79nm(Cu−Kα:2θ=11.2°)、0. 76nm(Cu−Kα:11.6°)、0. 76nm(Cu−Kα:11.6°)、0. 79nm(Cu−Kα:11.2°)である。
【0022】
アニリン系ポリマーは、前記のように、アニリンまたはその誘導体の重合によって得られるが、そのアニリンの誘導体としては、例えば、ベンゼン環の2位または3位に置換基を有するアニリン誘導体、例えば、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、2−アミノチオフェノール、o−トルイジン、m−トルイジンなどが挙げられる。
【0023】
このアニリンの誘導体の重合方法は、アニリンの重合方法とほぼ同様なので、ここでは、アニリンの重合方法について述べると、アニリンの重合方法としては、通常、化学酸化重合法と電解酸化重合法が知られている。
【0024】
化学酸化重合法は、アニリンに塩酸などの酸を加え、過硫酸アンモニウムなどで酸化する方法で、得られたポリアニリンはそのままでは溶剤不溶性で絶縁性である。そのため、通常は、塩基処理の後、酸成分をドープすることによって導電性ポリアニリンが得られ、形態は粉体となる。一方、電解重合法では、直接基盤上にポリアニリン膜を生成させるので、、通常は粉体として得られない。
【0025】
そして、本発明の防錆剤組成物は、層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体をインターカレートした後に、過硫酸アンモニウムなどの酸化剤を用いて重合させて得ることができるが、その際、あるいはその後に、他の酸を添加したり、他の処理を行う必要なしに、導電性を有する複合体組成物が得られる。
【0026】
この導電性発現の理由は明らかでないが、層間という二次元の制限された空間内で重合した結果、配向性の良いアニリン系ポリマーが形成されることによるものと推定される。
【0027】
上記層状リン酸塩へのアニリンまたはその誘導体のインターカレーションについて、さらに説明をすると、アニリンまたはその誘導体は、水に難溶性であることが多いため、水系でアニリンまたはその誘導体を重合させるためには、通常、塩酸などにより酸性錯体にした後、過硫酸アンモニウムなどの酸化剤により重合反応を起こさせる方法が一般的に採用される。
【0028】
これに対し、本発明における複合体を製造する場合は、あらかじめ層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体(以下、このアニリンまたはその誘導体を「アニリン系モノマー」で表す場合がある)をインターカレートさせて、安定な層状リン酸塩/アニリン系モノマーインターカレート体を形成させ、その状態でアニリンまたはその誘導体を重合させる。特に層状リン酸塩/アニリン系モノマーインターカレート体は、ホストである層状リン酸塩が固体酸性を有しているので、水中で層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体とを撹拌することにより、容易にインターカレート化が生じるという特徴がある。
【0029】
また、上述した日本化学会誌1992年、No. 9、p944〜950に記載されているように、層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体との水分散液に超音波照射を行ってインターカレート化させてもよいし、また、アニリンがエタノール、メチルエーテル、ベンゼンなどに溶解することから、それらの有機溶剤中で反応を行って、層状リン酸塩にアニリンまたはその誘導体をインターカレートさせてもよい。
【0030】
このようにして得られるインターカレート体において、層状リン酸塩にアニリンまたはその誘導体がインターカレートしていることを確認するためには、次の方法で同定すればよい。すなわち、層状リン酸塩は、それぞれ固有の層間距離を有しているため、層間にアニリンなどのゲスト分子が取り込まれると、層間距離の変化が認められる。
【0031】
ゲスト分子の極性やリン酸基との反応性などの影響から、変化が非常に小さい場合もあるが、通常は、ゲスト分子の取り込みにより層間距離が広がる。
【0032】
例えば、粉末X線回折法(Cu−Kα)により求めたそれぞれの層状リン酸塩/アニリンインターカレート体の標準的な層間距離は、次の通りである。
【0033】
トリポリリン酸二水素アルミニウム/アニリン:1.58nm(2θ=5.6°)
リン酸チタン/アニリン:1.88nm(2θ=4.7°)
リン酸ジルコニウム/アニリン:1.38nm(2θ=6.4°)
リン酸スズ/アニリン:1.45nm(2θ=6.1°)
【0034】
上記インターカレート体における層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体との比率は、モル比で、層状リン酸塩1モルに対して、アニリンまたはその誘導体が0.1〜2モル、特に0.3〜1.5モルが好ましい。層状リン酸塩1モルに対して、アニリンまたはその誘導体が0.1モルより少ない場合は、最終的に得られる防錆剤組成物におけるアニリンまたはその誘導体による防錆能の向上が充分に発現せず、また、導電性も発現しないおそれがある。そして、層状リン酸塩1モルに対して、アニリンまたはその誘導体が2モルより多い場合は、層間にインターカレートされない過剰のアニリンが残存して、耐熱性が低下し、層状リン酸塩との複合化の特徴が生かせなくなる。
【0035】
上記のようにして得られた層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体とのインターカレート体は、水に難溶性のアニリンが層状リン酸塩の層間にインターカレートされているので、水に均一に分散できる粉体になり、作業性が良好である。
【0036】
そして、上記のようにして得られた層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体とのインターカレート体は、層状リン酸塩の層間に存在しているアニリンまたはその誘導体に対して、重合反応を起こさせ、高分子化させることができる。この場合の重合方法としては、通常に行われている低温での化学酸化重合法が有効である。
【0037】
例えば、層状リン酸塩とアニリンまたはその誘導体とのインターカレート体を含有するスラリーを、外部冷却により0〜10℃に保ちつつ、過硫酸アンモニウムなどの酸化剤を滴下して重合させる。重合が進むにつれて、スラリーのpHが徐々に低下し、白色スラリーが灰色、茶色を経て濃緑色へと変化する。
【0038】
なお、導電性ポリマーの耐熱性向上には、ドーパントとして使用される有機スルホン酸系の界面活性剤などを添加することにより、若干の改善効果が得られることが知られている。本発明においても、アニリンまたはその誘導体を重合させる際に、ドーパントとしてドデシルベンゼンスルホン酸、オルト、メタまたはパラトルエンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸などの各種有機スルホン酸を存在させることができる。上記有機スルホン酸の添加によって、得られる複合体は導電性の向上が期待できる。なお、上記の有機スルホン酸は、アニリンまたはその誘導体が層状リン酸塩の層間にインターカレートする際に、アニリンまたはその誘導体と共に層状リン酸塩の層間に入り、そこでアニリンまたはその誘導体が重合されてアニリン系ポリマーになるので、それらの有機スルホン酸は、層状リン酸塩の層間でかつアニリン系ポリマー中に含有されることになる。
【0039】
上記の高分子化によって得られた複合体については、粉末X線回折、元素分析、FT−IR分析、示差熱分析、走査型電子顕微鏡撮影などを行い、また、導電率を測定することによって、導電性を有する複合体であることを確認することができる。
【0040】
層状リン酸塩が本来有する層間距離は、アニリンまたはその誘導体をインターカレートすることにより、一旦は広がるが、アニリンまたはその誘導体の高分子化により複合体となった層状リン酸塩の層間距離は、アニリンまたはその誘導体の重合により逆に狭くなり、元の層状リン酸塩の層間距離とほとんど変わらなくなる。
【0041】
アニリンの高分子化により複合体となった、それぞれの層状リン酸塩/ポリアニリン複合体の層間距離は、粉末X線回折法(Cu−Kα)による測定で、それぞれ次の通りである。
【0042】
トリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン:0.79nm(2θ=11.2°)
リン酸チタン/ポリアニリン:0.76nm(2θ=11.6°)
リン酸ジルコニウム/ポリアニリン:0.76nm(2θ=11.6°)
リン酸スズ/ポリアニリン:0.79nm(2θ=11.2°)
【0043】
前記のように、アニリンまたはその誘導体の高分子化により層間距離が元の層状リン酸塩の層間距離とほとんど変わらなくなる理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、アニリンまたはその誘導体の状態でのインターカレーションでは、層状リン酸塩の層間のリン酸基とアニリンまたはその誘導体とが結合して、層間に幅を形成していたのが、アニリンまたはその誘導体の重合によりそれらが線状ポリマーを形成し、その結果として、アニリン系ポリマーがリン酸基から離れるため、層間距離が縮小するものと考えられる。このことから、制約された二次元環境のもとで重合が行われ、導電性を有するアニリン系ポリマーが生成するようになるものと推測される。
【0044】
上記した層状リン酸塩とアニリン系ポリマーとの複合体の製造方法から明らかなように、アニリンまたはその誘導体の層状リン酸塩の層間へのインターカレーションからアニリンまたはその誘導体の重合まで、水中での連続反応が可能である。
【0045】
従って、本発明によれば、アニリン錯体を形成するためだけに酸を使用する必要がなく、その結果、廃酸処理が不要になり、工業的なコストメリットも生じる。
【0046】
本発明における複合体が有する導電性と、本発明の防錆剤組成物が有する防錆能との関連性は必ずしも明確でないが、一般に腐食反応が局部電池反応と考えられており、錆が生じにくいということは局部的に生成する腐食電流を抑制しているものと推定されるので、導電性を有する複合体が何らかの形で防錆能の向上に寄与しているものと考えられる。
【0047】
本発明の防錆剤組成物の構成成分の一つである層状リン酸塩は、それ自身でも防錆能を有しているが、固体酸性を有しているので、防錆能をより有効に発揮させるために、各種の固体塩基性物質と併用してもよい。
【0048】
固体塩基性物質としては、例えば、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられるが、特に、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムなどが好ましい。
【0049】
固体塩基性物質の使用量としては、層状リン酸塩/アニリン系ポリマー複合体(層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーがインターカレートして複合化している複合体)100質量部に対して、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムなどの固体塩基性物質が5〜100質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましい。
【0050】
固体性塩基性物質の層状リン酸塩への混合方法としては、ヘンシェルミキサーなどによる物理的な混合の他に、温水中で湿式混合してもよい。特に湿式混合した場合は、水系樹脂塗料系での塗料の貯蔵安定性が向上するので好ましい。
【0051】
本発明の防錆剤組成物は、層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーがインターカレートした複合体が含有されていればよく、上記複合体だけで本発明の防錆剤組成物を構成することもできる。
【0052】
本発明の防錆剤組成物を、例えば、塗料などの防錆顔料として使用する場合、塗料用樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アミノアルキド樹脂、シリコーン樹脂などが使用できる。また、本発明の防錆剤組成物は、溶剤系のみならずアクリルエマルションなどの水系樹脂にも使用できる。さらに、本発明の防錆剤組成物は、その大きな特徴として、従来は耐熱性の面でポリアニリン単独では使用できなかったエポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系などの焼き付け塗料、粉体塗料などにも使用可能であり、また、熱可塑性樹脂への直接練り込みも可能である。
【0053】
【実施例】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
実施例1
この実施例1ではトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体の合成について説明する。なお、このトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体とはトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0055】
内容積が300mlの三ツ口フラスコに、水50mlとトリポリリン酸二水素アルミニウム10.11g(32ミリモル)を加え、マグネチックスターラーで撹拌し、その中に、アニリン2.41g(25.9ミリモル)を加えて撹拌した。この場合のトリポリリン酸二水素アルミニウムとアニリンとのモル比は1:0. 8であった。
【0056】
上記撹拌から約3時間経過後にアニリン臭が無くなり、トリポリリン酸二水素アルミニウムの層間へのアニリンのインターカレーションが完了したものと考えられることから、反応物を少量サンプリングし、ろ過、乾燥後、粉末X線回折分析を行い、アニリンのインターカレーションによる層間距離の増加を確認した。
【0057】
すなわち、トリポリリン酸二水素アルミニウムの層間距離は0. 79nm(2θ=11.2°:Cu−Kα)であるが、トリポリリン酸二水素アルミニウム/アニリンインターカレーション体の層間距離は、1. 58nm(2θ=5.6°:Cu−Kα)であり、層間距離の増加が認められた。
【0058】
その後、フラスコを外部から氷冷し、温度を約0℃にし、別途、過硫酸アンモニウム5.9g(25.9ミリモル)を水36mlに溶解させ、氷冷しておいたものを滴下ロートから上記フラスコ内に約3時間かけてゆっくり滴下して、アニリンを酸化重合させた。
【0059】
さらに重合を完結させるため、4時間撹拌を続けた。その間、pHが徐々に低下し、反応物の色は白色から灰色、茶色、緑青色、濃紫緑色、濃緑色へと変化した。重合終了後、ろ過、水洗し、固形物を60℃で乾燥して、トリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体を得た。この複合体は濃緑色を呈する粉末であった。
【0060】
得られた複合体について、粉末X線回折分析、元素分析、FT−IR分析、示差熱分析、走査型電子顕微鏡撮影を行い、また、四探針プローブ法により導電率を測定した。このトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体の導電率は3.4×10−2S/cmであり、このトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体は導電性を有していた。
【0061】
実施例2
この実施例2ではリン酸チタン/ポリアニリン複合体の合成について説明する。なお、このリン酸チタン/ポリアニリン複合体とはリン酸チタンの層間にポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0062】
トリポリリン酸二水素アルミニウムに代えてリン酸チタンを用い、リン酸チタンとアニリンとのモル比を1:1. 2にした以外は、実施例1と同様にして濃緑色のリン酸チタン/ポリアニリン複合体を合成した。このリン酸チタン/ポリアニリン複合体の導電率を測定したところ、このリン酸チタン/ポリアニリン複合体は、導電率が2.4×10−3S/cmであって、導電性を有していた。
【0063】
実施例3
この実施例3ではリン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体の合成について説明する。なお、このリン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体とはリン酸ジルコニウムの層間にポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0064】
トリポリリン酸二水素アルミニウムに代えてリン酸ジルコニウムを用い、リン酸ジルコニウムとアニリンとのモル比を1:0. 3にした以外は、実施例1と同様にして濃緑色のリン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体を合成した。このリン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体の導電率を測定したところ、このリン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体は、導電率が1.4×10−2S/cmであって、導電性を有していた。
【0065】
実施例4
この実施例4ではリン酸スズ/ポリアニリン複合体の合成について説明する。なお、このリン酸スズ/ポリアニリン複合体とはリン酸スズの層間にポリアニリン複合体がインターカレートして複合化している複合体を意味する。
【0066】
トリポリリン酸アルミニウムに代えてリン酸スズを用い、リン酸スズとアニリンとのモル比を1:1. 2にした以外は、実施例1と同様にして濃緑色のリン酸スズ/ポリアニリン複合体を合成した。このリン酸スズ/ポリアニリン複合体の導電率を測定したところ、このリン酸スズ/ポリアニリン複合体は、導電率が1.2×10−2S/cmであって、導電性を有していた。
【0067】
実施例5
この実施例5ではドデシルベンゼンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体の合成について説明する。このドデシルベンゼンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体とはトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にドデシルベンゼンスルホン酸を含有するポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0068】
300mlの三ツ口フラスコに、水100mlとトリポリリン酸二水素アルミニウム10.11g(32ミリモル)を加え、マグネチックスターラーで攪拌し、その中にアニリン2.41g(25.9ミリモル)を20分かけて滴下した。その後、3時間室温下で攪拌してからドデシルベンゼンスルホン酸(直鎖型)8.48g(26ミリモル)を加えて30分間攪拌した。
【0069】
その後、フラスコを外部から氷冷し、温度を約0℃にし、別途、過硫酸アンモニウム5.9g(26ミリモル)を水15mlに溶解させ、氷冷しておいたものを滴下ロートから上記フラスコ内に約3時間かけてゆっくり滴下して、アニリンを酸化重合させた。
【0070】
さらに24時間攪拌した後、メタノールを加えて生成物を析出させ、ろ過により得られた固形物をメタノールと水で洗浄した。得られた固形物を60℃で乾燥して、ドデシルベンゼンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体を得た。
【0071】
得られたドデシルベンゼンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体について、導電率を測定したところ、このドデシルベンゼンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体は、導電率が8.7×10−1S/cmであって、導電性を有していた。なお、上記のドデシルベンゼンスルホン酸はトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にアニリンがインターカレートするときに、アニリンと共にトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間に入り、その状態でアニリンが重合して高分子化するので、最終的な複合体においては、前記のように、ドデシルベンゼンスルホン酸を含有するポリアニリンがトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にインターカレートして複合化した状態になる。
【0072】
実施例6
この実施例6ではパラトルエンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体の合成について説明する。このパラトルエンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体とはトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にパラトルエンスルホン酸を含有するポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0073】
実施例5において、ドデシルベンゼンスルホン酸を添加するのに代えて、パラトルエンスルホン酸10ミリモルを加えた以外は、実施例5と同様にしてパラトルエンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体を合成した。このパラトルエンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体について導電率を測定したところ、このパラトルエンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体は、導電率が1.3×10−2S/cmであって、導電性を有していた。なお、上記のパラトルエンスルホン酸もトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にアニリンがインターカレートするときに、アニリンと共にトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間に入り、その状態でアニリンが重合して高分子化するので、最終的な複合体においては、前記のように、パラトルエンスルホン酸を含有するポリアニリンがトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にインターカレートして複合化した状態になる。
【0074】
実施例7
この実施例7ではα−オレフィンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体の合成について説明する。このα−オレフィンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体とはトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にα−オレフィンスルホン酸を含有するポリアニリンがインターカレートしていて複合化している複合体を意味する。
【0075】
実施例5において、ドデシルベンゼンスルホン酸を添加するのに代えて、α−オレフィンスルホン酸25.9ミリモルを加えた以外は、実施例5と同様にしてα−オレフィンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体を合成した。このα−オレフィンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体について導電率を測定したところ、このα−オレフィンスルホン酸を含有するトリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体は、導電率が1.6×10−1S/cmであって、導電性を有していた。なお、上記のα−オレフィンスルホン酸もアニリンがトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にインターカレートするときに、アニリンと共にトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間に入り、その状態でアニリンが重合して高分子化するので、最終的な複合体においては、前記のように、α−オレフィンスルホン酸を含有するポリアニリンがトリポリリン酸二水素アルミニウムの層間にインターカレートして複合化した状態になる。
【0076】
比較例1
内容積が300mlの三ツ口フラスコに、水50mlとアニリン2.41g(25.9ミリモル)を加え、攪拌しながら、さらに濃度が1mol/lの塩酸を加えてpH=1.0に調整した。この塩酸の添加によりアニリンは塩酸塩となって水に溶解した。その後、フラスコを外部から氷冷して温度を約0℃にし、別途、過硫酸アンモニウムを5.9g(25.9ミリモル)を水36mlに溶解させ、氷冷しておいたものを滴下ロートから上記フラスコ内に約3時間かけてゆっくり滴下して、アニリンを酸化重合させた。滴下後、さらに4時間攪拌を行い、その後、ろ過、水洗し、得られた固形物を60℃で乾燥して、濃緑色を呈する粉体を得た。この粉体は、FT−IR分析、示差分析および元素分析によって調べたところ、ポリアニリンであることが確認された。このポリアニリンについて導電率を測定したところ、このポリアニリンは7.1×10−1S/cmの導電率を有していた。
【0077】
比較例2
トリポリリン酸二水素アルミニウムと上記比較例1で合成したポリアニリンとを質量比80:20で混合した。
【0078】
上記実施例1〜7の複合体、比較例1のポリアニリンおよび比較例2のトリポリリン酸二水素アルミニウムとポリアニリンとの混合物について耐熱性試験を行った。その詳細を以下に説明する。
【0079】
耐熱性試験:
実施例1〜7の複合体、比較例1のポリアニリンおよび比較例2のトリポリリン酸二水素アルミニウムとポリアニリンとの混合物について、示差熱分析計(セイコー電子製の示差熱分析計SSC−500型)により、耐熱性を評価した。その測定条件は次の通りである。
【0080】
昇温速度: 10℃/min
測定範囲: 室温から500℃
測定雰囲気: 空気中
【0081】
耐熱性の評価は、発熱ピークの最高点での温度を測定することによって行った。その結果を表1に示す。また表1には、参考のため反応開始温度も示した。
【0082】
そして、表1には、実施例1〜7の複合体については「層状リン酸塩/アニリン系ポリマー」の表示態様で示し、それに添加されているものを「+物質名」で示す。また、比較例1〜2では複合体を用いていないので、それぞれの物質名を示すが、比較例2のように混合物の場合は「層状リン酸塩+アニリン系ポリマー」の表示態様で示す。なお表1において、それらの表示にあたっては、スペース上の関係で各物質を下記の略号で表示する。
【0083】
ATP:トリポリリン酸二水素アルミニウム
TiP:リン酸チタン
ZrP:リン酸ジルコニウム
SnP:リン酸スズ
PANI:ポリアニリン
DBS:ドデシルベンゼンスルホン酸
AOS:αーオレフィンスルホン酸
PTS:パラトルエンスルホン酸
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示す結果から明らかなように、比較例1のポリアニリン(PANI)の耐熱温度(最高発熱温度)が290℃であるのに対して、実施例1〜7の複合体は、耐熱温度が377〜390℃であって、比較例1のポリアニリンに比べて耐熱温度が約80℃高くなっていた。これは層状リン酸塩の層間でポリアニリンが熱的に保護されたことによるものと考えられる。また、有機スルホン酸類を添加した実施例5〜7の複合体は、それを添加していない実施例1の複合体より若干耐熱温度が高くなっていた。
【0086】
なお、トリポリリン酸二水素アルミニウムとポリアニリンとの単なる混合物である比較例2は、耐熱温度が293℃であって、ポリアニリン単独の比較例1に比べて耐熱温度が少しだけ高くなっていたが、その差は非常に小さく、混合による耐熱性の向上効果はほとんど認められなかった。
【0087】
防錆試験−1
つぎに、本発明の実施例の防錆剤組成物および本発明外の比較例の防錆剤組成物を常温乾燥型中油アルキド樹脂系の塗料に添加した場合の防錆能を調べた結果を防錆試験ー1として示す。この防錆試験ー1において用いた実施例の防錆剤組成物および比較例の防錆剤組成物について下記に示す。防錆剤組成物の表示は、前記のように略号で表示しており、実施例1〜7では前記の実施例1〜7の層状リン酸塩/ポリアニリン複合体をそのまま防錆剤組成物として用いているので、実施例番号を複合体と防錆剤組成物とで共通させている。つまり、前記層状リン酸塩/ポリアニリン複合体について用いた実施例番号をそのまま防錆剤組成物についても用いている。
【0088】
実施例1: ATP/PANI
実施例2: TiP/PANI
実施例3: ZrP/PANI
実施例4: SnP/PANI
実施例5: ATP/PANI+DBS
実施例6: ATP/PANI+PTS
実施例7: ATP/PANI+AOS
実施例8: ATP/PANI+ZnO=80:20
実施例9: ATP/PANI+CaSiO3 =85:15
実施例10: TiP/PANI+ZnO=80:20
実施例11:TiP/PANI+MgCO3 =70:30
実施例12:ZrP/PANI+ZnO=80:20
実施例13:SnP/PANI+ZnO=80:20
比較例1: PANI単独
比較例2: ATP+PANI=80:20(質量比)
比較例3: TiP+PANI=75:25(質量比)
比較例4: ATP
比較例5: ブランク(タルク使用)
【0089】
上記実施例8の防錆剤組成物は実施例1のATP/PANI(トリポリリン酸二水素アルミニウム/ポリアニリン複合体)とZnO(酸化亜鉛)とを質量比80:20で混合したものであり、実施例9の防錆剤組成物は実施例1のATP/PANIとCaSiO3 (ケイ酸カルシウム)とを質量比85:15で混合したものであり、実施例10の防錆剤組成物は実施例2のTiP/PANI(層状リン酸チタン/ポリアニリン複合体)とZnOとを質量比80:20で混合したものであり、実施例11の防錆剤組成物は実施例2のTiP/PANIとMgCO3 (炭酸マグネシウム)とを質量比70:30で混合したものであり、実施例12の防錆剤組成物は実施例3のZrP/PANI(層状リン酸ジルコニウム/ポリアニリン複合体)とZnOとを質量比80:20で混合したものであり、実施例13の防錆剤組成物は実施例4のSnP/PANI(層状リン酸スズ/ポリアニリン複合体)とZnOとを80:20で混合したものである。そして、比較例3の防錆剤組成物ではTiPとPANIとを質量比75:25で混合したものであり、比較例4はATP単独で、比較例5はブランクであって、タルクを実施例1〜13の防錆剤組成物と同量塗料中に添加している。
【0090】
この防錆試験ー1にあたって用いた塗料の種類、防錆剤組成物中の塗料の添加量(P/B、ただし、PはPigmentの略称で顔料成分、BはBinderの略称で樹脂固形分)試料片の作成条件、防錆試験条件、評価結果の表示方法は次に示す通りである。
【0091】
塗料:
常温乾燥型アルキド樹脂(中油アルキド樹脂)系塗料
〔ベッコゾール1334EL(商品名)、大日本インキ化学工業株製〕
防錆剤組成物の添加量:
塗料中 20質量%(P/B=0.25)
試料片の作製条件:
被塗板:軟鋼板(SPCC−SB)および亜鉛メッキ板(SPG)
乾燥時間:室温1週間
膜厚:25μm
防錆試験条件:
ソルトスプレー試験(5%NaCl:35℃)
軟鋼板:7日後評価、亜鉛メッキ板:14日後評価
平面部およびクロスカット部の評価
【0092】
上記防錆試験の評価結果を表2に示すが、その表2の評価結果の表示にあたっては、次のように記号化して示す。
評価結果の表示方法:
◎ :ほとんど錆の発生がない
○ :カット部に少し錆が発生
△ :カット部の錆が多い
× :カット部の錆が多く、平面部にも錆が発生
××:全体的に錆が多く発生
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜13は、比較例1〜5に比べて、防錆能が優れ、特に非鉄系の亜鉛メッキ板での防錆能が優れていた。すなわち、本発明の防錆剤組成物は、層状リン酸塩の層間にポリアニリンがインターカレートして複合化している層状リン酸塩/ポリアニリン複合体を主剤として含有しているので、ポリアニリンを単独で用いたものや、単に層状リン酸塩とポリアニリンとを混合したもの、トリポリリン酸二水素アルミニウムを単独で用いたものなどに比べて、防錆能が優れ、特に非鉄系の亜鉛メッキ板での防錆能が優れていた。
【0095】
防錆試験−2
つぎに、上記実施例1〜13の防錆剤組成物および比較例1〜5の防錆剤組成物をエポキシ樹脂系焼付型塗料に添加した場合の防錆能を調べた結果を防錆試験2として示す。
【0096】
この防錆試験−2にあたって用いた塗料の種類、防錆剤組成物の塗料への添加量、試料片の作製条件、防錆試験条件を次に示す。なお、防錆試験の評価結果を表3に示すが、その表示方法は前記防錆試験ー1の場合と同様である。
【0097】
塗料:
エポキシ樹脂〔エピコート1007(商品名)、ジャパンエポキシ社製〕系焼付型塗料
硬化剤〔スーパーベッカミンP−196−M(商品名)、大日本インキ化学化学工業社製〕
防錆剤組成物の添加量:
塗料中 5質量%(P/B=1.4)
試料片の作製条件:
被塗板:軟鋼板(SPCC−SB)および亜鉛メッキ板(SPG)
乾燥時間:200℃、10分
膜厚:25μm
防錆試験条件:
ソルトスプレー試験(5%NaCl:35℃)
軟鋼板:14日後評価、亜鉛メッキ板:40日後評価
平面部およびクロスカット部の評価
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示す結果から明らかなように、実施例1〜13は、比較例1〜5に比べて、焼付型エポキシ樹脂系塗料に添加した場合も防錆能が優れていた。すなわち、焼付型塗料においては、比較例1のようにポリアニリンを単独で用いた場合や比較例2〜3のようにポリアニリンを層状リン酸塩と混合しただけのものは、ポリアニリンの耐熱性が充分でないため、防錆能が低下するが、本発明の実施例1〜13の防錆剤組成物では、ポリアニリンが層状リン酸塩の層間にインターカレートしていて、熱に対して保護されているので、ポリアニリンの耐熱性が向上し、その結果、優れた防錆能を発揮する。
【0100】
高温保存後の防錆試験:
実施例1の防錆剤組成物(ATP/PANI)と比較例2の防錆剤組成物(ATP+PANI)とを、150℃の乾燥機中で24時間保存した後、前記防錆試験ー1と同様の防錆試験を行った。その結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4に示すように、実施例1の防錆剤組成物は、150℃の乾燥機中で24時間保存した場合でも防錆能の低下が認められなかったが、トリポリリン酸二水素アルミニウムとポリアニリンとの混合物からなる比較例2の防錆剤組成物は、加熱により防錆能が大幅に低下した。
【0103】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、耐熱性が優れかつ鉄系金属に対しても非鉄系金属に対しても優れた防錆能を発揮する防錆剤組成物を提供することができる。また、本発明の防錆剤組成物は、耐熱性が優れているので、例えば、焼付型樹脂系塗料に使用した場合でも、優れた防錆能を発揮することができる。従って、本発明の防錆剤組成物は、従来のポリアニリンを用いた防錆剤組成物に比べて、適用範囲が広い。
Claims (7)
- 層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーがインターカレートした複合体を含有することを特徴とする防錆剤組成物。
- 層状リン酸塩が、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムおよびリン酸スズよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の防錆剤組成物。
- 層状リン酸塩の層間にインターカレートされたアニリンまたはその誘導体のポリマーが、アニリンまたはその誘導体をあらかじめ層状リン酸塩の層間にインターカレートした後、重合して得られたポリマーである請求項1記載の防錆剤組成物。
- 層状リン酸塩に対するアニリンまたはその誘導体の比率が、モル比で、層状リン酸塩1モルに対して0.1〜2モルである請求項3記載の防錆剤組成物。
- アニリンまたはその誘導体のポリマー中に有機スルホン酸が含有されている請求項1〜4のいずれかに記載の防錆剤組成物。
- 有機スルホン酸が、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびα−オレフィンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5記載の防錆剤組成物。
- 層状リン酸塩の層間にアニリンまたはその誘導体のポリマーがインターカレートした複合体100質量部に対して、酸化亜鉛、炭酸マグネシウムおよびケイ酸カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を5〜100質量部配合した請求項1〜6のいずれかに記載の防錆剤組成物。
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