JP2004097349A - 樹脂製品のスライド構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】成形上の誤差に関係なく、基台部の長穴部へ挿脱部材の長棒部をスムーズに挿脱できる樹脂製のスライド構造を提供する。
【解決手段】基台部(1)に予め定められた間隔を開けて複数設けられた長穴部(2a,b)と、夫々の長穴部に挿脱される複数の長棒部(3a,b)と、各長棒部を繋ぐ連装部(4a)とを有する挿脱部材(8a)とを備え、長穴部に対して長棒部をスライドさせて挿脱部材の基台部に対する相対位置を変更する樹脂製のスライド構造である。挿脱部材は、長棒部の少なくとも取付部(5a,b)と連装部とが一体成形された樹脂製部材からなり、複数の長棒部のうち少なくとも一つが、取付部に近い根元部(7a,b)の外径を第1の太さとし、長棒部の少なくとも先端部(6a,b)の外径を第2の太さとしたときに、第1の太さは第2の太さよりも細く構成されている。
【選択図】     図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基台部に複数設けられた長穴部に挿脱される樹脂製品のスライド構造に関するものであり、特に、ポータブルトイレの肘掛け部の構造に応用したものに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、基台部に予め定められた間隔を開けて複数設けられた筒状の長穴部に挿脱部材をスライドさせて、挿脱部材の基台部に対する相対位置を変更するスライド構造が用いられていることは公知である。
【0003】
例えば、特許文献1には簡易便器の肘掛けの取付構造が記載されている。この特許文献1に記載の肘掛けは、挿脱される二本の略平行状の支持棒(長棒部)と、これらの支持棒を繋ぐ肘掛け部(連装部)とを有する肘掛け部(挿脱部材)を、簡易便器の本体部(基台部)に予め定められた間隔を開けて設けられた二つの挿通孔(筒状の長穴部)のそれぞれに取り付け、肘掛けと簡易便器との相対位置を変更するスライド構造のものである。
【0004】
上記従来の技術のようなスライド構造では、本体部(基台部)の上面の左右縁部に設けた長穴部の相対間隔と、肘掛け部(挿脱部材)の長棒部同士の相対間隔とが互いに等しく構成されていることを前提に、二つの平行な長穴部に対して、二本の平行な長棒部を連装部で繋いだ状態のまま、長棒部を長穴内でスライドさせて高さ位置を変更し、適当な高さ位置で固定して、高さを変更できる構造となっている。
【0005】
このような肘掛け部(挿脱部材)では、連装部と長棒部とが完全に別部材で構成されている場合や、取付位置を任意に定めたり調整できる構造である場合には、長棒部同士の相対間隔が適正となる位置に取り付けることができるため、挿脱部材の長棒部を長穴部内に挿脱する際に特に問題は生じない。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−10950号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この種の肘掛け部(挿脱部材)では、連装部(肘置き部)と長棒部とが一体成形された樹脂製部材からなるものである場合が多く、少なくとも、長棒部の取付部までを連装部と一体に樹脂成形で製作することになる。さらに、基台部となるトイレ本体部も樹脂成形品で構成される場合には、そこに設けられる長穴部も本体部と一体成形されることとなる。
【0008】
樹脂成形品は、たとえ金型を正確に作っても、成形時の製造工程上の問題から、成形された製品が正確な寸法とはなりにくい。例えば、樹脂成形時は加熱された溶融状態の樹脂が用いられるが、その後の冷却条件(温度、時間、それらの変化状態)により、収縮率や膨張率が変わるので、正確な寸法条件を維持しにくい問題がある。
【0009】
そして、このような寸法精度を維持して製造するには、詳細な成形工程管理が必要となるので、製造工程が複雑化してスループットも低下し、製造コストがかさむと共に、製造時間も長くなるので、生産効率が下がる問題があった。
【0010】
逆に、製造工程を簡素化して製造コストを下げるためには、ある程度の寸法誤差を諦めなければならない。しかし、このような寸法精度の誤差が生じると、本件のような組み合わせ部材は、相互の嵌め合わせが正確に出来ない問題となる。
【0011】
例えば、複数の長棒部の少なくとも取付部を連装部と同時に成形すれば、あるいは、連装部と長棒部とを同時に成形した場合には、複数の取付部間の間隔、又は複数の長棒部同士の相対間隔に成形による誤差が生じてしまう。
【0012】
これにより、予め定められた間隔を開けて設けられている複数の長穴部と、長棒部との相対位置関係が成形誤差の分だけズレが生じることとなる。また、長穴部自体も本体部に一体成形される場合には、その相対間隔が設計通りに成形されない事態も生じてくる。これらは、本体部(基台部)と、肘掛け部(挿脱部材)との大きさや構造、材質の相違等にも起因して成形誤差はそれぞれ異なることとなる。
【0013】
従って、このような樹脂成形品の製造誤差の分だけ、連装部材の長棒部を基台部の長穴部へ挿脱し難くなってしまう。別言すれば、スムーズな挿脱が困難となってしまうのである。場合によっては、長棒部が長穴部の所定の長さ(深さ)位置まで入らないという事態も起こり得ることとなる。
【0014】
例えば、挿脱部材108aを一体成形した際に、製造工程上の寸法誤差により長棒部103a,bの相対間隔が適正間隔Aより若干狭く(相対間隔Bに)なった場合を図4(a)と共に以下に具体的に説明する。尚、この逆の場合、即ち、相対間隔Bが適正間隔Aより若干広くなった場合も同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0015】
上記の場合、長棒部の相対間隔B(長棒部の相対中心間距離)は、基台部の長穴部102a,bの相対間隔(ここでは長穴部の中心間距離、普通は長棒部の適正間隔Aと同じ間隔となる)よりも狭くなっている(図4(a)の上図の状態)。よって、このままでは長棒部103a,bの先端部106a,bは長穴部102a,bの開口縁部と干渉してしまい、長棒部103a,bが長穴部102a,bに入り込み難くなる。あるいは、開口縁部に当たって入り込むことが出来ない場合もある。
【0016】
ところが、長棒部103a,bの先端部106a,bに近い部位は、連装部104と接続する根元部107a,bからの長さが比較的長いので、樹脂製材料の弾性力で相対間隔を広げるように撓ませることができるため、先端部の相対間隔を若干広げる方向に変形させれば、基台部101の長穴部102a,bへの、少なくとも先端部の挿入は行える(図4(a)の中図の状態)。
【0017】
しかし、長棒部103a,bを深く長穴部102a,bへ挿入していくと、長棒部103a,bの根元部107a,bは連装部104からの長さが短いので、根元部107a,bの相対間隔を広げようとしても殆ど撓みが生じず、長棒部103a,bと長穴部102a,bとの相対間隔の差の分(即ち、相対距離A−相対距離B)だけ長穴部102a,bへの挿入の抵抗となって(長穴部へ長棒部が干渉して)、スムーズな挿脱部材108a(の長棒部103a,b)の挿脱ができなくなってしまう。あるいは、挿入の途中で、それ以上長穴部102a,bの奥へ入り込めない状態となる(図4(a)の下図の状態)。
【0018】
この問題を解決するために、長棒部自体の太さを、予め予想される寸法誤差の分だけ細く形成することも考えられる。この場合には、細くなっている先端部を長穴部への挿脱する事は可能であり、長穴部内でのスライド自体も行える。しかし、長穴部の内面部と、本来の設計より細い長棒部の外面部との間には、誤差分を許容した分だけ隙間が大きくなるので、挿脱部材ががたつく問題が生じる。
【0019】
さらに、いずれかの高さ位置で固定する場合にも、この隙間の存在が固定手段の係合状態を不確かなものとするので、しっかり固定できない場合も生ずる。このため、これを肘掛け部に応用した場合には、肘掛け自体がしっかり固定できなかったり、手をかけた場合にぐらついたり、最悪の場合は、いきなり下がってしまうので、使用者に不測の怪我などの問題が生ずる。
【0020】
本発明は、斯かる実情に鑑み、成形上の誤差に関係なく、基台部の長穴部へ挿脱部材の長棒部をスムーズに挿脱できる樹脂製のスライド構造を提供することを目的とする。さらに、本発明の目的は、スムーズな挿脱が可能な樹脂製のスライド構造を安価で提供することにある。本発明は、成形上の誤差が生じても、長穴部と長棒部とのスライド構造における固定手段を確実に維持できるスライド構造を得ることも目的としている。本発明は、ある程度の寸法誤差が生じてもスライド可能なスライド構造を提供することも本発明の目的である。また、ある程度の寸法誤差を許容するスライド構造を提供することで、複雑な製造工程管理が不要として、製造時間の短縮や、製造コストの低減を図ることも本発明の目的である。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、基台部に予め定められた間隔を開けて複数略平行に設けられた筒状の長穴部と、前記それぞれの長穴部に挿脱される複数の略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ連装部とを有する挿脱部材と、を備え、前記長穴部に対して前記挿脱部材の長棒部をスライドさせて、前記挿脱部材の前記基台部に対する相対位置を変更する樹脂製のスライド構造であって、前記挿脱部材は、前記長棒部の少なくとも取付部と、前記連装部とが一体成形された樹脂製部材からなり、前記挿脱部材の複数の長棒部のうち少なくとも一つの長棒部は、前記取付部に近い根元部の外径を第1の太さとし、前記長棒部の少なくとも先端部の外径を第2の太さとしたときに、前記第1の太さは、前記第2の太さよりも細く構成されていることを特徴とする樹脂製品のスライド構造を提供する。
【0022】
本発明は、長穴部に挿脱される長棒部を備えたスライド構造であって、長穴部と長棒部との組が二つ以上複数有って、それぞれの相対間隔が予め定められている樹脂製のスライド部材に関するものである。そして、長棒部は複数のものが一つの連装部で互いに繋がれており、この連装部で互いにその相対間隔(距離)が予め定められる構造のものであって、連装部で繋がれた複数の長棒部の全体が挿脱部材となる。
【0023】
さらに、基台部に設けられた長穴部は、この複数の長棒部が挿脱される筒状のものであって、複数の長穴部はそれぞれの相対間隔(距離)が、前記複数の長穴部の相対間隔に合わせて予め定められたもの(設計上の間隔を開けた位置に配置されたもの)である。なお、長穴部内にガイドパイプ等のガイド部材を備えている場合には、そのガイド部材を含めて基台部の長穴部とする。
【0024】
これらの長穴部と長棒部との形状やその長手方向は、それぞれが挿脱可能なスライド構造を構成できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、長棒部が丸棒部(円筒形)の外形であったり、角棒(角柱)形であっても良いし、長穴部も基台部に対して鉛直方向(垂直方向)に向いて設けられたもののみならず、例えば、複数の長穴部を互いに平行に斜めに向けて設けたものなども該当する。さらには、構造としても特に制限があるものではなく、例えば、中実部材であっても、中空部材であっても良い。さらに、本発明において複数の長棒部は、長穴部内への挿脱(内部摺動)により、スライド移動できるものであればよく、略平行状に配置されていれば、直線上に配置されていても、曲線上に配置されていても全て略平行状の配置である。
【0025】
これらの長棒部を繋ぐ部材が連装部であって、ここに設けられている複数の長棒部の相対間隔を規定する構造物となるものである。この連装部には、ここに設けられる長棒部の少なくとも取付部までが一体的に樹脂成形されたものであって、製造時に取付部の相対間隔が定まってしまうものが該当する。
【0026】
即ち、連装部に対して取付部が一体ではなく、任意の位置に長棒部を設けるものではその相対間隔は任意に変更できるが、少なくとも取付部が一体成形された樹脂部材である場合には、連装部への取付位置が製造時に確定してしまう構造であるので、そのような一体成形の樹脂部材からなる連装部が本発明の連装部に該当する。この場合、少なくとも長棒部の取付部のみを連装部の成形時に同時に成形してしまう場合には、そこに取り付けられる長棒部の相対間隔は、製造時の取付部の相対間隔に依存することとなるので、連装部の成形誤差がそのまま長棒部同士の相対間隔の誤差となる。なお、当然のことながら、長棒部の全体を連装部と一体成形したものや、長棒部の一部(例えば途中まで)を連装部と一体成形したものも、同じように成形誤差が長棒部の相対間隔に影響するので、本発明の概念に含まれることは言うまでもない。
【0027】
ところで、本発明の挿脱部材は、長棒部の少なくとも取付部と連装部が一体成形されているため、複数の長棒部間の相対間隔は、樹脂成形工程上の誤差範囲内でバラツキが生じることとなる。よって、この構成のままでは、図4(a)に示したように、挿脱部材の長棒部の位置と基台部の長穴部の位置とが成形上の誤差の分だけズレてしまい、長棒部を長穴部にスムーズに挿脱できない場合、あるいは、長穴部に入り込めない場合も生じてしまう。
【0028】
このため、本発明では複数の長棒部のうち少なくとも一つの長棒部の取付部に近い根元部(若しくはその近傍を含む部分)の外径を第1の太さで構成し、長棒部の少なくとも先端部(先端及び/又は先端の近傍位置を含む部分)の外径を第2の太さで構成し、この第1の太さが第2の太さよりも細くなるように構成されている。この構成により、樹脂製品の部材間の寸法誤差に関係なく挿脱部材の長棒部が基台部に設けられた長穴部にスムーズに挿脱可能となったスライド構造が提供される。
【0029】
この太さ(外径の大きさ)に関しては、いわゆる先端部の第2の太さ部分は、前提とする設計条件に従う太さであって、長穴内の内径に応じた外径であり、この長穴部内を摺動するのに適した太さ(外径)となることが好ましい。この部分が本来の摺動スライド部の機能を果たすからであり、本来の設計条件に見合った太さであり、いわゆるこの外径(の大きさ)を基準太さとする。
【0030】
前述したように、先端部は、長棒部の全体の撓み(しなり)を利用して、少々誤差があっても長穴部内に挿入可能であるから、長棒部間隔に少々の寸法誤差があっても、長穴内へは挿入可能である。
【0031】
そして、根元部は、前提とする設定条件の太さ(基準太さ)から、予め予想される程度の誤差を許容する分だけ細くなった太さ(外径の大きさ)となる。これは、例えば、二つの長棒間の誤差の半分程度の長さ(大きさ)分だけ、根元部の第1の太さを細く構成すればよい。このように太さを変えることにより、根元部は、仮に長棒間の距離(相対間隔)に誤差が生じていても、ほぼ弾性変形することなしに、長穴部に挿脱できてスライド移動可能だからである。
【0032】
この作用並びに効果について、図4(b)と共に以下に詳細に説明する。例えば、この図の場合には、挿脱部材8を樹脂で一体成形した際に、樹脂成形工程上の問題により長棒部3a,bの相対間隔Bが、適正間隔A(設計上の間隔、長穴間の間隔(距離)と同じ)より若干狭くなった(誤差が生じた)とする。そして、先端から中央部までの外径が太く(第2の太さ、又は、基準太さで)構成され、中央部から根元部までの形が細く(第1の太さで)構成されているものを例示する。なお、相対間隔Bが適正間隔Aより若干広くなった場合も同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0033】
上記の場合、長棒部3a,bの相対間隔B(図では長棒部の中心間距離)は、基台部1の長穴部2a,bの相対間隔A(長穴部の中心間距離、普通は長棒部の適正間隔Aと同じ間隔とする)よりも狭くなっている(図4(b)の上図の状態)。よって、本来このままでは長棒部3a,bの先端部6a,b(の周縁部)が、長穴部2a,bの開口部の周縁部と干渉してしまい、長棒部3a,bが長穴部2a,bに入り込み難くなるか、誤差の大きさによっては、入り込むことが出来なくなる。
【0034】
ここで、長棒部3a,bの先端部6a,b(長穴部に挿入する先端部とその近傍)は、連装部4aと接続する根元部7a,bから長棒部3a,bの先端部6a,bまでの長さが比較的長いので、樹脂製材料の弾性変型を利用して、相対間隔を広げるように撓ませる(しならせる、又は弾性変形させる)ことができ、基台部1の長穴部2a,bへの挿入は、素材の弾性変形を利用して比較的スムーズに行える(図4(b)の中図の状態)。ここまでは、従来技術(図4(a)の上図及び中図)と同じである。
【0035】
本発明の場合には、根元部の太さ(第1の太さ部分)が先端部(第2の太さ部分)より細く形成されているので、さらに長棒部3a,bを深く長穴部2a,bへ挿入していくと、やがて、形が細い第1の太さ部分の根元部7a,bが、長穴部2a,b内に挿入される状態となる。
【0036】
このとき、長棒部3a,bの根元部7a,bは、連装部4a(取付部)からの長さが短いので弾性変形しても変形量が少ないため、根元部7a,bの相対間隔を広げようとしても殆ど撓み(変移量)が生じない。
【0037】
しかし、本発明では根元部7a,bの径D1(第1の太さ)が、先端部6a,bの径D2(第2の太さ)より細く構成されているので、この細くした分(即ち、径D2−径D1の差)だけ長穴部2a,bとの間に遊びの部分Eが生じるので、この遊びの幅で、弾性変形することなく(あるいは極微少な弾性変形で)長穴部2a,b内に進入できる構成となっている。
【0038】
即ち、根元部7a,bの太さを、予め予想される誤差を許容するように、予め設計上の太さより細く構成したことにより、成形工程で生じる長棒部3a,b(取付部5a,b)間の相対間隔の誤差を吸収するものとなっている。
【0039】
この構成により、樹脂成形上の問題から寸法誤差があったとしても、長棒部3a,bを長穴部2a,bの奥まで(底部側へ)とスムーズに挿脱することができるようにしているのである。また、長棒部3a,bを長穴部2a,bへ挿入途中に、長棒部が長穴部に引っかかって、それ以上挿入できなくなるような事態を防いでいるのである。さらに、ある程度の寸法誤差が生じてもスライド構造を維持できるので、複雑な製造工程管理が不要であることから、製造時間の短縮や、製造コストの低減を図ることができるものとなっている。
【0040】
そして、前述したように、単に長棒部の径を、根元部から先端部にかけて一様に成形誤差分だけ細くすると、挿脱部材は長穴部に対してスムーズに挿脱可能(スライド摺動可能)となるが、これでは挿脱部材としての機能が損なわれる。即ち、長棒部の径を単に細くすると、挿脱部材の長棒部と基台部の長穴部との係合状態が、全体に渡って遊びが大きくなるのでガタガタとなってしまい、挿脱部材のスライド構造としては不適切となる。つまり、挿脱部材が基台部に対してガタつくような状態で取り付けられることは、根本的にスライド構造としての基本性能の要求から外れるものであり、たとえ挿脱がスムーズであっても、全く実益のないものとなってしまう。
【0041】
本発明では、長棒部の根元部(取付部に近い部分及び/又はその近傍部分)の外径(第1の太さ)を細くしているものの、先端部(先端部及び/又はその近傍部分)の外径は、根元部より太い第2の太さで構成されている。即ち、本発明では、先端部の外径(第2の太さ)は、長穴部と好適な係合状態を得ることができる径(基準太さ)のままにできるので、予め定めた設計条件(遊びが少なくガタつかない程度)の外径に構成することが可能である、この部分の摺動時に互いに接することで、何ら係合状態の不具合は生じない。
【0042】
つまり、本発明によれば、樹脂製品の製造工程上の理由により複数の長棒部(の取付部)の相対間隔に誤差が生じても、先端部は樹脂製材料の弾性力で若干撓むため、この誤差範囲内であれば、長棒部は長穴部に嵌り込むことができる。さらに、この先端部は長穴部内でがたつかない程度の、本来の設計条件に見合った外径に構成できるので、長穴部内で長棒部がスライドするにあたり、適正なスライド摺動を行う部分となる。
【0043】
そして、長棒部を深く長穴部に挿入したときには、本発明では長棒部(の少なくとも一つ)の根元部が、寸法誤差を考慮して先端部よりも細くなっているため、この太さの差の分だけ長穴部との間に遊びがあるので、この遊びで取付部の相対間隔の誤差を許容でき、長棒部を深く長穴部に挿入できる。しかも、根元部が細くなっているため、長棒部を深く長穴部へ挿入しても、長棒部の根元部が長穴部とほとんど干渉しないため、挿脱がスムーズである。
【0044】
なお、長棒部の根元部の外径(第1の太さ)をどれだけ小さくするかについては、樹脂成形条件(例えば、使用する樹脂の種類や性質、金型の形状、成形温度、冷却温度、冷却時間その他の成形工程上の寸法誤差に影響を与える諸条件)に伴う誤差などを考慮して適宜定めれば良い。
【0045】
また、少なくとも取付部とそれに近い根元部では外径が細い部分が設けられていれば良く、長棒部の根元部からどれだけの部分(長さ)だけ径を小さくする領域を形成するかについては、長棒部全長や、誤差の量などを考慮して適宜定めれば良い。あるいは、長棒部の先端部から根元部にかけて全体的に、あるいは部分的に細くなるようなテーパ形状にしても成形の誤差を許容してスムーズな挿脱が行える。
【0046】
さらに、根元部より太い第2の太さの先端部(又はその近傍部)は、前述したように、予め定められた設計条件に従う太さ、即ち、長穴部内でがたつかずに摺動してスライドできる太さの外径(基準外径)とすれば良く、この基準外径を持つ部分は、先端の端部である必要は必ずしもなく、先端部の近傍位置であっても良い。
【0047】
しかし、先端部の近傍位置を含めたある程度の長さ(長棒部の長さ方向に沿う長さ)が有ることが好ましい。この基準太さの部分で長穴内を摺動したときにがたつかないでスライドさせるためである。言い換えれば、基準太さの部分をある程度の長さで確保することで、安定したスライド移動が可能となる。
【0048】
なお、以上では、長棒部の成形工程上での誤差を例にとって説明したが、基台部(本体部)に製造工程上の誤差が生じた場合にも、本発明が有効なのは明らかである。即ち、基台部に複数の長穴部を一体成形した場合に、各長穴間の相対間隔(距離)に設計寸法からの誤差が生じた場合であっても、本発明は上記同様に有効に作用するものである。
【0049】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製品のスライド構造において、基台部に予め定められた間隔を開けて二箇所に略平行に設けられた筒状の長穴部と、前記それぞれの長穴部に挿脱される二つの略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ連装部とを有する挿脱部材と、を備えていることを特徴とするものである。
【0050】
即ち、本発明は、基台部に設けられる筒状長穴部の数と、この長穴部に挿脱される長棒部の数とをそれぞれ二つずつに限定したものであって、言い換えれば、長穴部とそこに挿入される長棒部を一組として、二組の摺動部を備えたスライド構造のものである。従って、長棒部同士の相対間隔の誤差と、長穴部同士の相対間隔の誤差とのいずれか一方若しくは双方の誤差を許容するように、修正する誤差量、即ち、長棒部の先端部に比べて根元部を細くする割合(大きさ)を定めればよい。
【0051】
ちなみに、例えば三つの長穴部とそこに挿脱される長棒部との三組の摺動部を備えている場合、一列に配した三組の摺動部がある場合には、中央部を基準にして両端の部材間に生ずる直線的な誤差を許容するように、修正量(細くする割合又は大きさ)を定めればよい。あるいは、三角形状態に配置された場合、その平面的な配置の相互間に生ずる誤差を許容するように修正量(細くする割合又は太さ)を定めればよいことは言うまでもない。
【0052】
次に、請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載の樹脂製品のスライド構造であって、前記長棒部は、略中央部から根元部までが第1の太さで構成され、略中央部から先端部までが第2の太さで構成されている、ことを特徴とするものである。
【0053】
ここで、第1の太さは、前述した基準太さから誤差分を許容して細くした太さの部分であり、第2の太さの部分とは、前記基準太さの部分である。即ち、予め定めた設計条件に従い、長穴部内でがたつかずに摺動して安定したスライド移動が可能な太さの外径部を第2の太さ部分としている。そして、この第2の太さ部分に対して、予め予想される誤差を許容する分だけ細くした部分を第1の太さ部分としている。
【0054】
さらに、長棒部の長さ方向に対して、概ね約半分程度を第1の太さ部分として根元側に形成し、同じく約半分程度を第2の太さ部分として先端側に形成した、二段構造の長棒部となっている。本発明でも、根元部は細く形成されているので、長棒部間や長穴部間に寸法誤差が生じても、長穴部内を長棒部がスライドできる構造であることは、前述の通りである。
【0055】
そして、基準太さとなっている第1の太さ部分を、長棒部の先端側の約半分の長さの領域に設けているので、この部分全体が長穴内の内壁に合致して摺動するため、長棒部は、長穴内でガタツキが無く安定したスライド構造となっている。
【0056】
次に、請求項4記載発明では、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記長棒部は、前記第2の太さの部分に、前記基台部に対して前記挿脱部材を固定する固定手段を備えていることを特徴とするものである。本発明では、前記長棒部は、前記第2の太さの部分に、前記基台部に設けられている長穴部の側壁部側に係合して、前記挿脱部材を固定する固定手段を有している。さらに、前記固定手段は、前気長穴部又は前記長棒部の長さ方向に沿って複数の異なる位置に固定できるものであることを特徴とする。
【0057】
即ち、本発明では、基台部に対する挿脱部材の固定手段を、長棒部の前記第2の太さ(基準太さ)の部分に設けていることを特徴とするものである。この固定手段は、挿脱部材を基台部に固定できる構造のものであって、例えば、長穴部の第2の太さ部分の側面から長穴部の側面側に係合するものであり、長穴部の側面に直接的に係合するもの、あるいは長穴部内にガイド部材などがある場合には、長棒部と長穴内のガイド部材とが係合するものでも良い。
【0058】
より具体的には、長棒部の側面から外方に挿脱自在に突出する係合部材と、それを受け入れて係止する係合穴を長穴部の内壁面やガイド部材の内壁面に設けるか、あるいは、長棒部の側面側に係合穴を設け、長穴部の内面側から挿脱自在に突出する係合部材を設けることで、固定手段を構築できる。そして、その長穴部の位置を複数ことなる高さ位置(長手方向の異なる位置)に設けることで、挿脱部材の固定高さを変更することができるものとなる。
【0059】
本発明では、この固定手段を前記第2の太さ(基準太さ)部分に設けているので、長棒部外面と長穴部(又は長穴内のガイド部材)との隙間が少ない(摺動関係は良好)状態の部分であるため、ここに係合部材を設ければ、高さ位置に依らず、係合状態が良好に維持できる。
【0060】
逆に、第1の太さ位置は、基準太さより細いので、長穴部(又は内部のガイド部材)の内面との間に隙間が大きくなり、相互間にガタツキが生じやすく、この部分に固定手段を設けても、遊びの隙間の大きさによっては、しっかりと係合できない事態が生ずる場合がある。本発明は、このような大きな隙間による係合状態の不良を排除して、固定手段の係合状態が良好に維持できるスライド構造を提供できる利点もある。
【0061】
本発明の好ましい態様の一つとしては、このスライド構造を肘掛け部に応用したポータブルトイレが挙げられる。
【0062】
即ち、本願請求項5に記載した発明は、高さ調整可能な肘掛け部を備えたポータブルトイレであって、前記ポータブルトイレは、本体部(基台部)の上部左右両縁に予め定められた間隔を開けて前後に二カ所略平行に(上下方向に)設けられた筒状の長穴部を備え、前記肘掛け部(挿脱部材)は、前記それぞれの長穴部に挿脱される二つの略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ肘置き部(連装部)とを備え、前記肘掛け部の高さ調整手段は、前記長穴部に対して前記肘掛け部(挿脱部材)の長棒部をスライドさせて、前記肘掛け部(挿脱部材)の前記本体部(基台部)に対する相対位置を変更する樹脂製のスライド構造であって、前記肘掛け部は、前記長棒部の少なくとも取付部と、前記肘置き部(連装部)とが一体成形された樹脂製部材からなり、前記肘掛け部の二つの長棒部のうち少なくとも一方の長棒部は、前記取付部に近い根元部の外径が第1の太さで構成され、前記長棒部の少なくとも先端部の外径が第2の太さで構成され、前記第1の太さが前記第2の太さよりも細く構成されていることを特徴とするポータブルトイレを提供する。
【0063】
本発明でも、上記した発明と同様に、第2の太さは前述した基準太さであって、第1の太さは、基準太さから予め予想される寸法誤差を許容する程度に細く形成されているものである。そして、本発明は上記のように構成されているので、挿脱部材として肘掛け部の長棒部間や、基台部として本体部の長穴部間に、樹脂成形工程上の問題から寸法誤差が生じていても、肘掛け部を本体部に対して上下にスライドさせて、高さを変更することが可能である。
【0064】
なお、基台部に設けた長穴部は、上下方向に向けて配設されたものであって、長穴部自体が本体部に一体成形されたものはもとより、その内部にガイド部材(ガイド部材自体は一体成形されたものではない)を備えているものも本発明の長穴部に含まれる。
【0065】
また、挿脱部材となる肘掛け部は、連装部となる肘置き部と長棒部の少なくとも取付部が一体成形されて、長棒部間の相対間隔に誤差が生じやすい構成のものが含まれるが、長棒部の全体や一部が一体成形されたものも当然該当する。さらに、肘置き部自体は、例えば上部にクッション部材などを設ける場合には、その部分が別部材であっても、少なくとも長棒部の取付部が一体に樹脂成形されて、その取付部間に誤差が生じる可能性のある構造のものが本発明の対象となる。
【0066】
即ち、上記発明は、ポータブルトイレの肘掛けに適用したスライド構造の一つの実施態様例でもある。この場合、肘掛けの長棒部をトイレ本体部の長穴部に挿脱する際に、樹脂成形工程上の誤差が生じても、肘掛け部をスムーズに挿脱できる。別言すれば、トイレ本体部に肘掛けが嵌らないといったトラブルがなく、しかも、肘掛けの相対位置変更(高さ調節)がスムーズとなるのである。
【0067】
別の態様では、このトイレにおいて、前記二つの長棒部のうち少なくとも一方は、略中央部から根元部までが前記第1の太さで構成され、略中央部から先端部までが前記第2の太さで構成されていることを特徴とするものもある。この場合も、前述と同様に、トイレ本体部に対してガタツキが少ない肘掛け部を提供できる。
【0068】
また、別の態様では、このポータブルトイレにおいて、前記長棒部は、前記第2の太さの部分に、前記基台部(本体部)に対して前記挿脱部材を固定する固定手段を有しており、前記固定手段は、前記長棒部の長さ方向に沿って複数の異なる位置に固定できるものであることを特徴とするものもある。
【0069】
この場合には、挿脱部材としての肘掛け部が複数の位置で固定可能とされており、前記トイレ本体部(基台部)に対する肘掛けの肘当て部の相対位置(高さ位置)が変更可能に構成される。この構成により、トイレ本体部に使用者が座って肘掛けの高さ位置を好適な位置までスライドして固定できるため、座り心地の良いものとなる。さらに、その固定状態が安定するものとなっているので、使用者が安心して肘掛けに手をかけられるものとなっている。
【0070】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る樹脂製品のスライド構造をポータブルトイレの肘掛け構造部分に適用した実施の形態を図示例と共に説明する。尚、図中、同一の符号を付した部分は同一物又は相当物を表わしている。
【0071】
図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造を備えたポータブルトイレの全体構成を示しており、便器本体部1(基台部)と、便器本体部1の内部に設けられた便槽22と、その上部に配置されるO型の便座23と、その便座23の上部から便槽22の開口部24を覆うように設けられた折り畳み可能な便器蓋25と、前記便器本体部1の上面後方部から上方に延びる背もたれ部26と、背もたれ部26の前部の位置で、便器本体部1の上面左右両側の長穴(長穴部)2a,b並びに2c,dにそれぞれ着脱可能に取り付けられた二つの肘掛け8a,8b(挿脱部材)とで主に構成されている。
【0072】
本実施形態に係る肘掛け8a(肘掛け8bも同様である)は本発明の挿脱部材を構成するものであり、肘を置く(のせる)ための肘当て4aを連装部とし、この肘当て4aを下方から支える二つの円筒状の支持棒3a,3bを長棒部として構成されている。より詳細には、図2及び図3に示すように、肘掛け8aは、肘当て4aの下面の前後部から略平行状に支持棒3a,bが垂設されて形成されている。支持棒3a,bは、肘当て4aに連続している取付部5a,bと、そこからほぼ中央部までの領域に形成される根元部7a,bと、該根元部7a,bから下端部までの領域に形成される先端部6a,bとで構成されている。そして、本実施形態においては、支持棒3a,bの取付部5a,b、根元部7a,b、先端部6a,bが、肘当て4aの本体部(下面部含む)と共に、アクリルブタジエンスチレンアロイ(ABS)樹脂製材料で一体成形されている。
【0073】
即ち、本実施形態の肘掛け8aは、ABS樹脂で、前後の長棒部である支持棒3a,bとがその取付部5a,bを含んで一体成形されている。このため、連装部である肘当て4aの長手方向の長さは、成形上の諸問題、例えば、冷却条件の差異などから予め設定した寸法から誤差が生ずることがあるが、その場合、長棒部である支持棒3a,bの相互の間隔にも同様に誤差が生ずることがある。
【0074】
本発明では、この長棒部である支持棒3a,bの長さ方向に沿って、その外径を異なる太さの部分を構成するようにしている。即ち、支持棒3a,bは、その根元部7a,bの外径(第1の太さ部分)を、成形上の誤差を考慮して先端部6a,bの外径(第2の太さ部分)よりも若干細い径としている。なお、肘掛け8bについても同様の構成となっている。そして、支持棒のそれぞれの根元部(第1の太さ部分)7a,bは、肘当て部4aの取付部から略中央部まで連続しており、ここで段差部を形成して、この段差部から先端までが先端部(第2の太さ部分)を形成している。
【0075】
一方、基台部である便器本体部1には、図1に示すように、一方の側縁部に予め定められた間隔で開けられた長穴が前後に二つ(2a,b)設けられており、他方の側縁部にも予め定められた二つの長穴2c,dが設けられている。この長穴に肘掛け8aの支持棒3a,b及び肘掛け8bの支持棒3c、dが夫々の長穴に挿入され、上下方向にスライドする。この実施態様では、長穴が鉛直上下方向に向いて配設されているが、上下方向へ肘掛け部を移動できる構成であれば、鉛直方向に限定されない。
【0076】
このように構成された肘掛け8a,bを便器本体部1の長穴2a〜dに挿入してポータブルトイレの肘掛けとして使用されるが、例えば、肘掛け8aの支持棒3a,b間の相対間隔が、長穴2a,b間の相対間隔より成形工程上の問題から生ずる誤差で若干狭くなったとしても、支持棒3a,bの根元部7a,bが先端部6a,bより細くなっているから、図4(b)に示すように先端部6a,bが互いに離れる方向に弾性変形で撓んで長穴2a,bにスムーズに挿入できる。なお、肘掛け8bについても同様である。
【0077】
そして、徐々に支持棒3a,bを長穴2a,bの奥へと押し込んでいくと、長穴2a,bの入口から出ている部分の支持棒3a,bの長さが短くなっていく分、長棒部による撓みが小さくなる。しかし、本実施形態によれば、支持棒3a,bの根元部7a,bが先端部6a,bより細くなっているので、図4(b)に示すように、細くなった遊びの部分Eで成形上の誤差を許容して、支持棒3a,bが長穴2a,bの奥まで入り込むことができる。しかも、根元部7a,bが細くなっているため、この根元部7a,bの挿入はスムーズに行える。さらに、先端部6a,bは長穴2a,bの大きさに応じた形状であるから、支持棒3a,bの長穴2a,bに対する係合状態にガタツキはなく、安定して摺動する。なお、肘掛け8bについても同様である。
【0078】
この実施態様では、例えば、図4(b)に示すように、肘掛け8aの支持棒3a,b間の相対間隔(B)が、長穴2a,b間の相対間隔(A)より、成形工程上の問題から生ずる誤差で若干狭くなったとした場合、その誤差は「B−A」となる。この誤差「B−A」の範囲(大きさ)は、予め成形条件などの要因を想定して予想できるので、根元部7a.bの外径(太さ)は、先端部6a,bの外径(太さ)より「(B−A)/2」の大きさだけ細く構成されている。言い換えれば、「(第2の太さ)−(第1の太さ)」=「(B−A)/2」となるように設計条件で定められている。もっとも、手動条件を考慮して、外径の減少率は、想定される誤差分より若干大きく設定されている。なお、肘掛け8bについても同様である。
【0079】
このように、本実施形態に係る樹脂製部材(肘掛け)のスライド構造によれば、支持棒の先端部の外径(第2の太さ)より根元部の外径(第1の太さ)を細くすることにより、支持棒(長棒部)の少なくとも取付部と肘当て部とが一体成形された樹脂製部材の肘掛けであっても、成形工程に関する誤差を許容し、便器本体部の長穴への挿入をスムーズに行える。しかも、肘掛けは一体成形されているから、製造コストも安価である。
【0080】
さらに、本実施形態では、肘掛け8a,bには、高さ調節手段を備えて構成されている。この高さ調節手段は、支持棒3a〜dの先端部6a〜dから外方に突出した挿脱可能な突起9を、長穴2a〜dの内側面に設けられた係止孔部に嵌め込む形式の一般的なものである。この突起9を長穴2a〜d内に、その長手方向の異なる位置に複数設けられた係止孔部の任意の位置に嵌め込めば、所望の高さ位置に肘掛けを調整でき、使い勝手の良いものとなる。
【0081】
ここで、本実施形態では、図3に示すように便器本体部1の長穴2a〜dにはガイドパイプ30が挿入されており、本発明の長穴部は、この実施態様では長穴とガイドパイプとの組み合わせで構成されている。これを図3を用いて説明する。
【0082】
この実施態様では、便器本体部1の長穴2a〜dは、本体部1と同じ樹脂の射出成形で本体部1と一体成形されている。射出成形で筒状の長い部分(長穴等)を成形する場合、その部分の金型上の問題から、この長穴には、いわゆる抜きテーパと呼ばれるように、徐々に太さが異なる形状に成形され、全体に渡って均一な内径の筒構造を形成することができない。
【0083】
このため、この実施態様では、長穴2a〜dはいずれも入り口部が広く(外径が大きく)、内部が奥に行くに従って狭く(外径が小さく)なるような、テーパ状に形成されている。しかし、このようなテーパ形状では、支持部がスライドできるものの、ガタツキが生じたり、固定手段がその位置により正確に係止できないような事態も生じてしまう。
【0084】
そこで、この実施態様では、内径がその長さ方向に渡って均一になるガイドパイプ30を長穴内に挿入しており、支持棒3a〜dと長穴2a〜dとの間に介在させている。即ち、支持棒3a,bは長穴に直接接して摺動するものではなく、長穴内に挿入されているガイドパイプ30の内面部と摺動するものとなっている。
【0085】
このガイドパイプ30は、図5及び図6に示すように、円周方向に二分割された略雨樋状の筒片31a,bを組み合わせて形成されるものである。そして、筒片31a,bを組み合わせると、その内面が長さ方向に均一な径でテーパのない内面部が形成される。このガイドパイプ30を図3に示すように長穴2a内に嵌め込むようにして、そのガイドパイプ30の内面部に肘掛け8aの支持棒3a,bを挿入する。
【0086】
このように、長穴と支持棒の間にガイドパイプを介在させることで、長穴の内面が製作の制約でテーパ状に形成されていても、支持棒自体はガイドパイプの内面部のテーパのない均一な内径の筒状部分で摺動するので、肘掛けのスライド動作(支持棒の長穴に対する挿脱)は良好となる。
【0087】
また、ガイドパイプ30の内側面に支持棒の係合穴としての固定孔32a〜cを設けておけば、肘掛けの高さ調整用の突起9をこの固定孔32a〜cに挿脱することで、確実な固定状態を維持できると共に、高さを変更しても、その固定状態が維持されるものとなる。
【0088】
このように、本実施形態における長穴部は、長穴とガイドパイプ部とで構成されており、ガイドパイプ部の中心位置を基準として長穴部の基準設計がなされている。そして、長穴が本体部と一体成形されているため、長穴間の相対間隔に誤差が生じる場合があるが、それは、そのまま相互の長穴に挿入されているガイドパイプ間の相対間隔の誤差にもなる。
【0089】
この場合であっても、支持棒部の根元部が先端部に対して誤差を許容する程度の細く構成されているので、長穴に対してスムーズにスライド移動して挿脱可能である。さらに、先端部の外径(第2の太さ部分)が、長穴部を構成するガイドパイプの内径に合わせて設計されているので、スムーズで且つガタツキのない摺動が可能である。加えて、先端部の第2の太さ部分の箇所に、長穴部を構成するガイドパイプ部の内面と係合する固定手段が設けられているので、固定状態も、その高さ位置に依らず安定した状態となる。
【0090】
尚、本発明の樹脂製部材のスライド構造は、上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上述の実施例では、二つの支持棒の両方共が、第1の太さを第2の太さより細くなるように構成しているが、片方の支持棒のみにこの構成を適用しても、成形の誤差を許容してスムーズでガタツキのない摺動は可能であることは前述した通りである。
【0091】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明に係る樹脂製品のスライド構造によれば、長棒部の先端部の外径より根元部の外径を細くしているから、製造工程上の寸法誤差に関係なく、基台部の長穴部へ挿脱部材の長棒部をスムーズに挿脱できるという優れた効果を奏し得る。さらに、本発明の構成とすることにより、長棒部の少なくとも取付部と連装部とを一体成形しても、長穴部への長棒部の挿脱はスムーズとなる。よって、一体成形により安価なスライド構造が実現できる。例えば、ポータブルトイレの肘掛けに適用すれば、肘掛けを樹脂製の一体成形品で製作できるから製造コストが安価となり、大いなる優れた効果を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造をポータブルトイレに使用した態様を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造における挿脱部材の詳細構造を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造における挿脱部材の長穴部への取付状態を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造における挿脱部材の長穴部への係合状態を従来技術と比較して説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造における長穴部へ取り付けるガイドパイプの構造を説明するための概略正面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る樹脂製品のスライド構造における長穴部へ取り付けるガイドパイプの構造を説明するための概略平面図である。
【符号の説明】
1:便器本体部
2a,2b:長穴
3a,3b、3c、3d:支持棒
4a,4b:肘当て
5a,5b:取付部
6a,6b:先端部
7a,7b:根元部
8a,8b:肘掛け
9:突起
30:ガイドパイプ
31a,31b:筒片
32a,32b,32c:固定孔

Claims (5)

  1. 基台部に予め定められた間隔を開けて複数略平行に設けられた筒状の長穴部と、
    前記それぞれの長穴部に挿脱される複数の略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ連装部とを有する挿脱部材と、を備え、
    前記長穴部に対して前記挿脱部材の長棒部をスライドさせて、前記挿脱部材の前記基台部に対する相対位置を変更する樹脂製のスライド構造であって、
    前記挿脱部材は、前記長棒部の少なくとも取付部と、前記連装部とが一体成形された樹脂製部材からなり、
    前記挿脱部材の複数の長棒部のうち少なくとも一つの長棒部は、前記取付部に近い根元部の外径を第1の太さとし、前記長棒部の少なくとも先端部の外径を第2の太さとしたときに、
    前記第1の太さは、前記第2の太さよりも細く構成されている
    ことを特徴とする樹脂製品のスライド構造。
  2. 基台部に予め定められた間隔を開けて二箇所に略平行に設けられた筒状の長穴部と、
    前記それぞれの長穴部に挿脱される二つの略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ連装部とを有する挿脱部材と、
    を備えていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製品のスライド構造。
  3. 前記長棒部は、略中央部から根元部までが前記第1の太さで構成され、略中央部から先端部までが前記第2の太さで構成されている、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂製品のスライド構造。
  4. 前記長棒部は、前記第2の太さの部分に、前記基台部に対して前記挿脱部材を固定する固定手段を有しており、
    前記固定手段は、前記長棒部の長さ方向に沿って複数の異なる位置に固定できるものである
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂製品のスライド構造。
  5. 高さ調整可能な肘掛け部を備えたポータブルトイレであって、
    前記ポータブルトイレは、本体部の上部左右両縁に予め定められた間隔を開けて前後に二カ所略平行に設けられた筒状の長穴部を備え、
    前記肘掛け部は、前記それぞれの長穴部に挿脱される二つの略平行状の長棒部と、これらの各長棒部を繋ぐ肘置き部とを備え、
    前記肘掛け部の高さ調整手段は、前記長穴部に対して前記肘掛け部の長棒部をスライドさせて、前記肘掛け部の前記本体部に対する相対位置を変更する樹脂製のスライド構造であって、
    前記肘掛け部は、前記長棒部の少なくとも取付部と、前記肘置き部とが一体成形された樹脂製部材からなり、
    前記肘掛け部の二つの長棒部のうち少なくとも一方の長棒部は、前記取付部に近い根元部の外径が第1の太さで構成され、前記長棒部の少なくとも先端部の外径が第2の太さで構成され、
    前記第1の太さが前記第2の太さよりも細く構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
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