アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は米国における痴呆の最も頻度の高い原因であり、毎年、200万人以上の人が該疾患に罹患している。それは、記憶の喪失、錯乱、および漸進的な身体劣化を特徴とする退行性の脳疾患である。それは、第四の一般的死因である。この疾患の病因はわかっていないが、種々のウイルス、毒素、重金属、並びに遺伝的欠損などが挙げられている。この疾患は現在のところ不治である。
ごく最近までアルツハイマー病は、老人性痴呆として分類される症例の比較的少数の原因であると考えられてきた。繰り返し性の穏やかな発作、甲状腺異常、アルコール中毒、およびある種のビタミンの不足を含む他の要因がかかる状態に導きうるが、これらの多くは潜在的に治癒しうるものである。それゆえ、アルツハイマー病に特異的な診断試験は、これら状態のすべてに共通する兆候を表す患者の臨床診断および適切な臨床治療に非常に有用であることが理解される。
アルツハイマー病を有する個体の脳は、ニューロン細胞体内の神経原線維のもつれ(neurofibrillary tangles)、および神経炎性(または老年)斑として生じるコンゴ親和性の(congophilic)繊維状物質の病的な蓄積を特徴とする。神経原線維のもつれはまた、ある種の脳血管壁にも認められる。神経原線維のもつれの主要な有機的構造成員は、対をなしたらせん状のフィラメントである。定性的に区別できないアミロイドの沈着はまた正常人の老年の脳にも生じるが、その数ははるかに少なく、地誌的な分布も限られたものである。
アルツハイマー病および他の神経学的疾患の神経炎性斑および神経原線維のもつれに認められるタンパク質の特徴付けに関し、近年、相当の研究活動がなされている。グレナー(Glenner)らによって最初に記載されたアミロイドタンパク質の一つはクローニングされ、配列が決定されている(グレナーら、Biochem.Biophys.Res.Commun.120:1131〜1135(1984);米国特許第4,666,829号)。神経炎斑および血管中に認められるA4アミロイドタンパク質は、グリコシル化された細胞表面レセプターとして機能すると提唱されているタンパク質である695アミノ酸前駆体の成員であることが決定されている(マスターズ(Masters)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA82:4245〜4249(1985)、カング(Kang)ら、Nature325:733〜736(1987))。加えて、このアミロイドタンパク質は、細胞接着分子として、およびカルシウムイオンチャネルタンパク質として機能することが提唱されている(フーパー(Hooper)、J.NIH Res.4:48〜54(1992);レンズバーガー(Rensberger)、Wayward Protein Molecule May Be Elusive Killer of Brain Cells、ワシントンポスト紙、1993年1月25日、A3の§1(1993))。A4をコードする遺伝子は第21染色体上に位置するが(カングら、上記文献;ゴールドガバー(Goldgaber)ら、Science235:877〜880(1987);タンジ(Tanzi)ら、Science235:880〜885(1987);セント・ジョージ−ヒスロプ(St.George−Hyslop)ら、Science235:885〜889(1987))、家族性の該疾患とは関係がないように思われる(バン・ブロークホーベン(Van Broekhoven)ら、Nature329:153〜155(1987))。アミロイドA4およびβタンパク質、その高分子量前駆体、および膵臓糸状タンパク質(pancreatic thread protein)(PTP)との間にタンパク質配列の相同性は、もしあったにしても殆どないと思われる(グロス(Gross)ら、J.Clin.Invest.76:2115〜2126(1985))。
ユビキチン、ALZ−50、微小管結合タンパク質τおよびMAP2、およびニューロフィラメントタンパク質を含む多くの他のタンパク質が該疾患に関係していると考えられた(たとえば、マネット(Manetto)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:4502〜4505(1988);ウォロジン(Wolozin)ら、Science232:648〜651(1986);セルコエ(Selkoe)、Neurobiol.Aging 7:425〜432(1986);ペリー(Perry)ら、Alterations of the Neuronal Cytoskeleton in Alzheimer's Disease、プレナム、ニューヨーク、137〜149頁(1987)参照)。さらに最近では、α1−アンチ−キモトリプシン(α1−anti-chymotrypsin)と呼ばれるセリンプロテアーゼインヒビターがアルツハイマー病のアミロイド沈着物中に認められている(アブラハム(Abraham)ら、Cell 52:487〜501(1988))。
現在のところ、臨床的に使われているものでアルツハイマー病の診断試験に有用なものはない。信頼性のある診断は、死後または生存中に脳の生検を取り、該疾患を特徴付ける特徴的な斑、もつれ、対のらせん状フィラメント、および他の脳血管沈着を明らかにすることによってのみ可能である。そのような侵入性の外科的手段は本来危険であり、それゆえ利用されることはまずない。その結果、アルツハイマー病の臨床における誤診断は約20%〜30%と推定されている。
糸状タンパク質(Thread Proteins)
原型となる糸状タンパク質分子は膵臓糸状タンパク質(PTP)であり、このタンパク質は中性のpHで不溶性のフィブリルを形成するが酸性またはアルカリ性のpHでは高度に可溶性であるという異常な物理特性を有する(グロスら、上記文献)。PTPは非常に広く分布し、膵臓の胞状細胞によって合成され、膵液中に1mg/mlを越える濃度で分泌される(同上)。PTPに対するモノクローナル抗体を用い、糸状タンパク質の免疫反応性が増加することがアルツハイマー病の病変を有する脳で示されている(オズターク(Ozturk)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:419〜423(1989))。加えて、非常の高感度の前(forward)サンドイッチ放射免疫(immunoradiometric)アッセイを用い、PTPと脳における関連タンパク質とに共通する少なくとも3つの異なる抗原性エピトープが存在することが示された(同上)。このような類似性にも拘わらず、膵臓糸状タンパク質と神経糸状タンパク質とは殆ど確実に異なるものである。というのは、そのmRNA分子およびタンパク質はサイズが異なり、膵臓糸状タンパク質中に存在する抗原性エピトープの多くは脳組織では検出されないからである(ド・ラ・モント(de la Monte)ら、J.Clin.Invest.86:1004〜1013(1990);ド・ラ・モントら、J.Neurol.Sci.113:152〜164(1992);ド・ラ・モントら、Ann.Neurol.32:733〜742(1992))。
糸状タンパク質の中枢神経系の形態(以下、「神経糸状タンパク質」(NTP)と称する)は、アルツハイマー病およびダウン症候群の脳組織中で同定されている(ウォンズ(Wands)ら、国際出願公開第WO 90/06993号)。NTPは、該疾患に特徴的な神経病理学的変化が存在する研究されたすべてのアルツハイマー病の脳で認められている(同上)。食塩水で抽出可能な可溶性の画分は、約17〜20kDの分子量を有する(同上)。
アルツハイマー病の脳の種々の領域におけるNTP免疫反応性を定量したところ、対照の脳の相当領域が1〜11ng/g組織(平均=5ng/g組織)であるのに比べて、12〜295ng/g組織(平均=116ng/g組織)のレベルであることが明らかとなった(同上)。
PTPの膵臓形態に対して向けられたモノクローナル抗体を用いて行った免疫細胞化学は、NTPがアルツハイマー病およびダウン症候群の両方の脳において細胞内、神経網内の微細な突起内に局在するか、または細胞外性であることを示した(同上)。2つの型の細胞:すなわちニューロンおよび星状細胞がNTPを含有する(同上)。罹患したニューロンは大きなピラミッド状の形態であり、アルツハイマー病の脳においてよく知られている神経原線維のもつれを一般に含有する(同上)。
ニューロン内でのNTPの蓄積が本質的に重要でありアルツハイマー病の病変の発生に必然的に関連しているということは、ダウン症候群の脳ではNTPの免疫標識の同一のパターンが存在するのに対照の脳には存在しないことによって確証される(同上)。アルツハイマー病と同じ構造上の異常が、痴呆の有無を問わずダウン症候群の中年の個体すべての脳に認められることに注意することは重要である。ダウン症候群の患者の家族においてはアルツハイマー病の発症率も高い。さらに、NTPを含有するニューロン密度の領域における差異は、アルツハイマー病およびダウン症候群の両者において神経原線維のもつれの密度分布と一致する。このこともまた、NTPがアルツハイマー病の病理と密接な関係にあるという証拠をさらに提供する。NTPが異所性の細胞代謝または輸送の結果としてニューロンの核周囲部細胞体内に蓄積するのかどうかについては、まだわかっていない。
米国特許第4,666,829号明細書
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米国特許第4,683,202号明細書
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欧州特許第336731号明細書
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米国特許第4,376,110号明細書
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米国特許第4,224,179号明細書
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米国特許第4,673,567号明細書
米国特許第4,247,411号明細書
米国特許第4,814,270号明細書
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欧州特許第0263740号明細書
国際公開第91/06626号パンフレット
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国際公開第92/06693号パンフレット
米国特許第5,082,670号明細書
米国特許第4,866,042号明細書
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(発明の要約)
アルツハイマー病に罹患しているかまたはその危険のあると思われる個体に行うことのできる信頼性のある診断試験に対する必要性が存在する。本発明は、そのような必要性を満たすものであり、さらに利点を提供する。
これら目的および他の目的が本発明によって実現される仕方は、以下に記載する要約および詳細な記載から明らかとなるであろう。
特に定義しない限り、本明細書において使用する術語は、本発明が属する当該技術分野においてよく理解されているのと同じ意味を有する。引用した刊行物はすべて、参照のため本明細書中に引用する。
この発明は、アルツハイマー病、神経外胚葉性腫瘍、悪性星状細胞腫、および膠芽細胞腫に付随する新規タンパク質を発現する組換え宿主に関する。この発明はとりわけ、約8kDa、14kDa、17kDa、21kDa、26kDaまたは42kDaの分子量を有する神経糸状タンパク質(NTP)をコードする遺伝子を含有する組換え宿主およびベクターに関する。この発明はまた、実質的に純粋な神経糸状タンパク質、神経糸状タンパク質の存在を検出するための免疫診断および分子診断法、および遺伝子療法における神経糸状タンパク質をコードする核酸配列の使用に関する。
とりわけ、本発明は、
(a)検出可能なレベルのNTPを含有すると思われるヒト個体から採取した生物学的試料を該NTPと結合しうる分子と接触させ、ついで
(b)該NTPに結合した該分子を検出する
ことを特徴とする、ヒト個体におけるNTPの検出または定量法を包含する。
本発明はさらに、該結合分子が
(a)天然の不純物を実質的に含まない抗体、
(b)モノクローナル抗体および
(c)(a)または(b)の断片
よりなる群から選ばれたものである、上記方法を包含する。
本発明はさらに、該検出分子が検出可能なように標識されており、そのような結合分子の組み合わせを用いる上記方法を包含する。
本発明はさらに、本発明の組換えヒトNTPに由来するポリヌクレオチドプローブを用いた、生物学的試料中のNTPをコードする遺伝子配列の存在を検出する方法を包含する。
本発明はさらに、ヒト個体における状態の存在を決定する方法を包含し、該状態は、アルツハイマー病、神経外胚葉性腫瘍の存在、悪性星状細胞腫の存在、および膠芽細胞腫の存在よりなる群から選ばれたものが含まれるが、これらに限られるものではない。
本発明はさらに、アルツハイマー病に罹患していると思われるヒト個体におけるアルツハイマー病の存在の診断方法であって、
(a)NTPを有していると思われる該個体から採取した生物学的試料をNTPを同定しうる分子とともにインキュベートし、ついで
(b)該試料中の結合した該分子を検出する(該検出は該個体がアルツハイマー病に罹患していることを示す)
ことを特徴とする方法を包含する。
本発明はさらに、神経外胚葉性腫瘍に罹患していると思われるヒト個体における神経外胚葉性腫瘍の存在の診断方法であって、
(a)NTPを有していると思われる該個体から採取した生物学的試料をNTPを同定しうる分子とともにインキュベートし、ついで
(b)該試料中の結合した該分子を検出する(該検出は該個体が神経外胚葉性腫瘍に罹患していることを示す)
ことを特徴とする方法を包含する。
本発明はさらに、悪性星状細胞腫に罹患していると思われるヒト個体における悪性星状細胞腫の存在の診断方法であって、
(a)NTPを有していると思われる該個体から採取した生物学的試料をNTPを同定しうる結合分子の存在下でインキュベートし、ついで
(b)該試料中の結合した該分子を検出する(該検出は該個体が悪性星状細胞腫に罹患していることを示す)
ことを特徴とする方法を包含する。
本発明はさらに、膠芽細胞腫に罹患していると思われるヒト個体における膠芽細胞腫の存在の診断方法であって、
(a)NTPを有していると思われる該個体から採取した生物学的試料をNTPを同定しうる結合分子の存在下でインキュベートし、ついで
(b)該試料中の結合した該分子を検出する(該検出は該個体が膠芽細胞腫に罹患していることを示す)
ことを特徴とする方法を包含する。
本発明はさらに、生物学的試料を該分子に接触させる前に該試料をヒト個体から採取する上記方法を包含する。
本発明はさらに、該タンパク質に結合した該分子の検出をインシトゥ造影により行う上記方法を包含する。
本発明はさらに、該タンパク質に結合した該分子の検出をインビボ造影により行う上記方法を包含する。
本発明はさらに、該生物学的試料と該結合分子との反応を該タンパク質の存在および分布を決定するのに充分な仕方および条件下で行う上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPを検出しうるように標識した結合分子をヒト個体に投与する上記方法を包含する。
本発明はさらに、該結合分子が該タンパク質にインビボで結合する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約42kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約26kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約21kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約17kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約14kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はさらに、NTPが実質的に天然の不純物を含まず、約8kDaの分子量を有する上記方法を包含する。
本発明はまた、とりわけ、イムノアッセイが固相支持体に結合した2つの異なる抗体と、それと組み合わせた溶液中の検出しうるように標識した第三の異なる抗体を含む上記方法を包含する。
本発明はまた、
(a)NTPをコードするヒト遺伝子を含む組換え宿主を培養し、ついで
(b)該宿主から該NTPを単離する
ことを特徴とする、NTPの製造方法に関する。
本発明はさらに、該方法によって得られた実質的に純粋なNTPに関する。
本発明はまた、NTP核酸配列には相補的であるがPTP核酸配列には非相同である15−〜30−マーのアンチセンスオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドおよび薬理学的に許容しうる担体を含む医薬組成物に関する。
本発明はまた、NTP核酸配列には相補的であるがPTP核酸配列には非相同である標的配列を含むリボザイム、並びに該リボザイムおよび薬理学的に許容しうる担体を含む医薬組成物に関する。
本発明はまた、許容しうる担体または発現ベクターによりNTP分子の脳への薬物送達(輸送)を行う方法に関する。
本発明はまた、種々のNTP遺伝子(核酸配列)と三重鎖領域を形成し、PTP核酸配列には非相同であるオリゴデオキシヌクレオチド、並びに該オリゴデオキシヌクレオチドおよび薬理学的に許容しうる担体を含む医薬組成物に関する。
本発明はまた、アルツハイマー型のニューロン変性の痴呆を緩和または改善するためのNTP由来分子またはその断片の治療学的使用に関する。
本発明はまた、散発性および家族性のアルツハイマー病の識別診断法に関する。
(定義)
以下の記載において、組換えDNA技術において使用される多数の術語が広範に用いられる。かかる術語によって与えられる範囲を含めて本明細書および請求の範囲の明快かつ首尾一貫した理解を得るため、以下に定義を記載する。
クローニングベクター
宿主細胞中で自律複製することができ、1または少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位であってベクターの必須の生物学的機能を失うことなく決定しうる仕方で切断される部位を有することを特徴とし、DNA断片を複製およびクローニングするために該DNA断片をスプライシングする、プラスミドまたはファージDNAまたは他のDNA配列。クローニングベクターはまた、該クローニングベクターでトランスフォームされた細胞の同定に用いるのに適したマーカーをさらに含有していてよい。マーカーは、たとえば、テトラサイクリン耐性またはアンピリシン耐性を付与する。
発現ベクター
クローニングベクターと同様のベクターであるが、宿主にトランスフォームした後に、クローニングした遺伝子の発現を促進しうるものである。クローニングする遺伝子は、通常、プロモーター配列などのある種の制御配列の制御下に置かれる(すなわち、機能的に連結)。プロモーター配列は、構成的であっても誘導的であってもよい。
実質的に純粋
本明細書においては、所望の精製したタンパク質が、ポリアクリルアミド−ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動後に単一のバンドによって示されるように、混入性の細胞成分(該細胞成分は、天然では該所望のタンパク質と結合している)を本質的に含まないことを意味する。混入性の細胞成分としては、タンパク質性の不純物、炭水化物性の不純物、または脂質性の不純物が挙げられるが、これらに限られるものではない。
「実質的に純粋」なる語は、さらに、当業者によって用いられる1または2以上の純度または均一性特性によって均一である分子を意味する。たとえば、実質的に純粋なNTPは以下のパラメータに関して標準実験偏差内で一定かつ再現性の特性を示すであろう:分子量、クロマトグラフ移動、アミノ酸組成、アミノ酸配列、ブロックしたまたはブロックしていないN末端、HPLC溶出プロフィル、生物学的活性、および他のパラメータ。しかしながら、この語は、該因子と他の化合物との人為的または合成の混合物を排除することを意図するものではない。加えて、この語は組換え宿主から単離したNTP融合タンパク質を排除することを意図するものではない。
組換え宿主
本発明によれば、組換え宿主とは、発現ベクターまたはクローニングベクター上の所望のクローニング遺伝子を含有する原核または真核細胞である。この語はまた、その染色体またはゲノム中に所望の遺伝子を遺伝子工学により組み込んだ原核または真核細胞をも包含する。
組換えベクター
所望のクローニング遺伝子を含むクローニングベクターまたは発現ベクター。
宿主
複製しうる発現ベクターまたはクローニングベクターの受け入れ側である原核または真核細胞。本明細書において用いる「宿主」なる語はまた、よく知られた方法によって所望の遺伝子をその染色体またはゲノム上に含まれるように遺伝子工学により組み込むことのできる原核または真核細胞をも包含する。そのような宿主の例については、サンブルック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリー、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989)を参照。
プロモーター
開始コドンの近位に位置し、遺伝子の5’領域として一般に記載されるDNA配列。隣接する遺伝子の転写はプロモーター領域で開始される。プロモーターが誘導性プロモーターである場合は、転写速度は誘導因子に応答して増加する。対照的に、プロモーターが構成的プロモーターである場合は、転写速度は誘導因子によって制御されない。
遺伝子
ポリペプチドまたはタンパク質を発現するための情報を含むDNA配列。
構造遺伝子
メッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、ついでこれが特定のポリペプチドに特徴的なアミノ酸配列に翻訳されるDNA配列。
アンチセンスRNA遺伝子/アンチセンスRNA
真核生物ではmRNAはRNAポリメラーゼIIによって転写される。しかしながら、特定のmRNAに相補的な配列を有するが通常は翻訳されないRNA配列が転写されるようなRNAポリメラーゼII鋳型を含む遺伝子を構築することができることも知られている。そのような遺伝子構築物を本明細書では「アンチセンスRNA遺伝子」と称し、そのようなRNA転写物を「アンチセンスRNA」と称する。アンチセンスRNAは、該アンチセンスRNA配列中に翻訳停止コドンが存在するために通常は翻訳されることはない。
アンチセンスオリゴヌクレオチド
特定のmRNAのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有するDNAまたはRNA分子。アンチセンスオリゴヌクレオチドは特定のmRNA中の相補的な配列に結合し、該mRNAの翻訳を抑制する。
アンチセンス療法
対応タンパク質の発現を抑制するために、患者にアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与する治療方法。
相補的DNA(cDNA)
「相補的DNA」または「cDNA」遺伝子は、mRNAの逆転写によって合成され、mRNAから介在配列(イントロン)が除かれた組換え遺伝子をいう。
発現
発現とは、構造遺伝子からポリペプチドが製造されるプロセスである。このプロセスには、該遺伝子のmRNAへの転写および該mRNAのポリペプチドへの翻訳が含まれる。
相同/非相同
2つの核酸分子が、HASH−コードアルゴリズムによって決定されるように(ウイルバー(Wilber,W.J.)およびリップマン(Lipman,D.J.)、Proc.Natl.Acad.Sci.80:726〜730(1983))、ヌクレオチド配列が50%を越える類似性を有する場合にはこれら核酸分子は「相同」であるという。2つの核酸分子が50%未満のヌクレオチド配列の類似性を有する場合には「非相同」であるという。
リボザイム
リボザイムは、触媒中心を含むRNA分子である。この語は、RNA酵素、自己スプライシングRNA、および自己開裂RNAを包含する。
リボザイム療法
標的mRNAの翻訳を抑制するために患者にリボザイムを投与する治療方法。
断片
NTPなどの分子の「断片」とは、該分子のポリペプチド部分集合をいう。
機能性誘導体
「機能性誘導体」なる語は、該分子の「変異体」、「類似体」または「化学的誘導体」を包含する。NTPなどの分子の「変異体」とは、分子の全体かまたはその断片のいずれかと実質的に類似の天然分子をいう。NTPなどの分子の「類似体」とは、分子の全体またはその断片と実質的に類似の非天然分子をいう。
ある分子と他の分子とが実質的に同じアミノ酸配列を有し、かつ同様の生物学的活性を有する場合に、これら両分子は「実質的に類似」であるといわれる。それゆえ、これら分子が同様の生物学的活性を有することを条件として、たとえこれら分子の一方が他方にはないアミノ酸をさらに含んでいても、あるいはアミノ酸残基の配列が同一ではないとしても、これら両分子は本明細書において使用する意味において変異体であると考えられる。
本明細書において、ある分子が他の分子の一部として通常含まれない化学残基をさらに有する場合に、該分子は該他の分子の「化学的誘導体」であるといわれる。そのような残基は、分子の溶解度、吸収、生物学的半減期などを改善する。これら残基はまた、該分子の毒性を減少させ、該分子の望ましくない副作用を除去または弱める。そのような効果を媒体する残基の例は、レミングトンズ・ファーマシューティカル・サイエンスィズ(Remington's Pharmaceutical Sciences)(1980)に開示されており、当業者には明らかであろう。
NTP
「NTP」なる語は、神経糸状タンパク質のファミリーをいう。NTPファミリーには、本明細書において記載するように、約8kDa、14kDa、17kDa、21kDa、26kDaおよび42kDaの分子量を有するタンパク質が含まれる。
イムノ−複製連鎖反応
特異的抗体−DNA結合体を用いて抗原を検出する方法。この方法によれば、DNAと抗体とに対して2特異的な結合親和性を有するリンカー分子を用い、DNA分子を抗原−抗体複合体に特異的に結合させる。その結果、特異的な抗原−抗体−DNA結合体が生成する。結合したDNAは、適当なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて複製連鎖反応(PCR)により増幅することができる。特異的なPCR産物の存在はDNA分子が抗原−抗体複合体に特異的に結合したことを示し、それゆえ抗原の存在を示している(サノ(Sano)ら、Science258:120〜122(1992))。
たとえば、上記サノらは、ビオチンおよび免疫グロブリンGに対して特異的結合親和性を有するストレプトアビジン−プロテインAキメラを構築した。このキメラ(すなわち、「リンカー分子」)を用い、ビオチン化したDNAを、マイクロタイタープレートウエル上に固定化した抗原−モノクローナル抗体複合体に特異的に結合させた。結合したDNAの部分を引き続きPCRにより増幅した。
この発明は、神経糸状タンパク質(NTP)、NTP mRNAまたはアンチセンスmRNAをコードする遺伝子配列、該遺伝子配列を含む発現ベクター、該発現ベクターでトランスフォームした組換え宿主、およびそのようなトランスフォームされた組換え宿主の発現によって産生されたNTPおよびアンチセンスRNAに関する。この発明はさらに、NTPリボザイム、およびNTPリボザイムおよびNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする組換えDNA分子に関する。この発明はさらに、NTPに対して向けられた抗体、並びに生物学的試料中のNTPの存在を検出するためのNTP抗体およびNTP核酸配列の使用に関する。本発明はさらに、遺伝子療法におけるNTPコード配列の使用に関する。
I.神経糸状タンパク質をコードするDNA配列の単離
NTPをコードするDNA配列は、種々の採取源から得ることができる。これら採取源としては、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、およびその組み合わせが挙げられる。
当該技術分野でよく知られた方法により(たとえば、サンブルックら、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル、第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリー、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989)参照)、ヒトNTPゲノムDNAをあらゆるヒト細胞または組織から抽出および精製することができる。本発明のNTPゲノムDNAは、天然のイントロンを含んでいてもよいし含んでいなくてもよい。さらに、そのようなゲノムDNAは、NTP遺伝子配列の5’プロモーター領域および/または3’翻訳終止領域が結合した状態で得てもよい。さらに、そのようなゲノムDNAは、NTP mRNAの5’非翻訳領域をコードするDNA配列および/または3’非翻訳領域をコードする遺伝子配列が結合した状態で得てもよい。宿主細胞がmRNAおよびタンパク質の発現に付随して転写および/または翻訳制御シグナルを認識することができる程度にて、該天然遺伝子の5’および/または3’非転写領域、および/または該mRNAの5’および/または3’非翻訳領域が転写および翻訳制御のために保持され用いられてよい。
別法として、NTPを発現する細胞からNTP mRNAを単離し、当該技術分野でよく知られた手段により(たとえば、サンブルックらの上記文献参照)cDNAを製造するのに用いることができる。mRNA調製物は、天然のまま大量のNTPを産生する細胞から単離することにより、またはインビトロでショ糖密度遠心分離などのような特定の配列についてmRNA調製物を富ませるために通常用いる技術により、またはその両者により、NTPをコードするmRNAに富んでいるのが好ましい。NTP mRNAは、哺乳動物のニューロン組織から、または該組織に由来する細胞株から得ることがでできる。ヒトcDNAライブラリーは、17〜18週の胎児脳、2歳の側頭葉新皮質、末期アルツハイマー病の大脳皮質、またはヒトニューロン組織由来の細胞株から構築する。そのような細胞株としては、中枢神経系初期神経外胚葉性腫瘍細胞(本明細書に記載するPNET1またはPNET2など)、神経芽腫細胞(本明細書に記載するSH−Sy5yなど)、または神経膠腫細胞(A172:ATCC CRL1620など)が挙げられるが、これらに限られるものではない。別法として、ラット神経膠腫細胞、たとえばC6ラット神経膠腫細胞(ATCC CCL107)から単離したmRNAからラットcDNAライブラリーを調製することができる。
ベクター中にクローニングするには、適当なDNA調製物(ゲノム由来かまたはcDNA)をそれぞれランダムに切断または酵素により開裂し、適当なベクター中にライゲートして組換え遺伝子(ゲノム由来かまたはcDNA)ライブラリーを生成させる。NTPをコードするDNA配列は、ライゲーションのための平滑末端または付着末端、適当な末端を提供するための制限酵素消化、付着末端の適当な充填、望まない結合を回避するためのアルカリ性ホスファターゼ処理、および適当なリガーゼを用いたライゲーションを含む、常法に従ってベクター中に挿入することができる。そのような操作技術はサンブルックらの上記文献に開示されており、当該技術分野でよく知られている。
NTPクローンを含有するライブラリーのスクリーニングおよびNTPクローンの同定は、たとえば、(1)該タンパク質のDNAに特異的な配列を有する適当な核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションによる、または(2)天然のmRNAが当該クローンにハイブリダイズし、インビトロで翻訳され、ついで翻訳産物をさらに特徴付ける、ハイブリダイゼーション−選択した翻訳分析による、または(3)クローニングしたDNA配列自体がmRNAを発現しうる場合には、該クローンを含有する宿主によって産生された翻訳NTP産物の免疫沈降による、などのNTP DNAを特異的に選択する手段によって行うことができる。
NTPのクローンを同定するのに用いることのできるNTPに特異的なオリゴヌクレオチドプローブは、対応NTPのアミノ酸配列またはPTPの相同領域に関する知見から設計することができる。別法として、オリゴヌクレオチドプローブはまた、PTPのヌクレオチド配列に関する知見から設計することができる(ド・ラ・モントら、J.Clin.Invest.86:1004〜1013(1990))。
NTP遺伝子の断片をコードしうる適当なオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセット(またはかかるオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットに相補的なもの)は、当該技術分野でよく知られた方法(たとえば、サンブルックらの上記文献参照)により合成することができる。核酸ハイブリダイゼーションおよびクローン同定の技術はサンブルックらの上記文献に開示されている。ついで、そのようなハイブリダイゼーションをしうると認められた上記遺伝子ライブラリーの成員を分析し、これら成員に含まれるNTPコード配列の程度および性質を決定する。
所望のNTPコード配列の検出を容易にするため、上記DNAプローブを検出可能な基で標識する。そのような検出可能な基は、検出可能な物理的または化学的特性を有するものであればいかなる物質であってもよい。そのような物質は核酸ハイブリダイゼーションの分野でよく開発されており、一般にそのような方法に用いるほとんどの標識を本発明において用いることができる。特に有用なものは、32P、3H、14C、125Iなどの放射性標識である。適切なシグナルを与え、充分な半減期を有するものであればいかなる放射性標識も用いることができる。DNAプローブは、当該技術分野でよく知られた他の方法のなかでもとりわけ、たとえば、ニックトランスレーションにより、T4DNAポリメラーゼ置換合成により、またはランダムプライミングにより標識することができる(サンブルックらの上記文献参照)。
別法として、DNAプローブは、ビオチン、酵素または蛍光基などの非放射性のマーカーで標識することができる。
NTP DNA配列をクローニングする別の方法において、本明細書に記載するように3’−および5’−RACE法を用い、細胞株および脳組織からcDNAを直接クローニングすることによりNTP cDNAを得ることができる。ヒト神経外胚葉性腫瘍細胞株またはアルツハイマー病の脳組織をmRNAの採取源として用いるのが好ましい。
II.NTPをコードする遺伝子の発現
それゆえ、上記方法は、NTPまたはその断片をコードするDNA配列を同定することができる。そのようなDNA配列をさらに特徴付けるため、および組換えタンパク質を製造するため、該DNA配列がコードするタンパク質を発現させるのが望ましい。
NTPを発現するには、適当な宿主によって認識されうる転写および翻訳シグナルが必要である。上記方法により得られたクローニングしたNTP DNA配列(好ましくは二本鎖の形態)を発現ベクター中での転写発現を制御する配列に「機能的に連結」し、原核もしくは真核の宿主細胞中に導入して組換えNTPを産生させることができる。該NTPコード配列のいずれの鎖が転写発現を制御する配列に機能的に連結されているかにより、NTPのアンチセンスRNAを発現させることも可能である。
異なる宿主中でのNTPの発現は異なる翻訳後修飾という結果となり、このことによってNTPの特性が変化しうる。好ましくは、本発明は、真核細胞、とりわけ哺乳動物、昆虫、および酵母細胞中でのNTPの発現を包含する。特に好ましい真核細胞宿主は哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞は、折り畳みおよび/またはリン酸化を含む翻訳後修飾を組換えNTPに与える。最も好ましくは、哺乳動物細胞は、ヒト中枢神経系の初期神経外胚葉性腫瘍細胞、ヒト神経芽腫細胞、ヒト神経膠腫細胞、またはラット神経膠腫細胞を包含する。特に好ましい初期神経外胚葉性腫瘍細胞としてはPNET1およびPNET2が挙げられ、特に好ましいヒト神経芽腫細胞としてはHg16およびHg17が挙げられ、特に好ましいヒト神経膠腫細胞としてはA172が挙げられ、特に好ましいラット神経膠腫細胞としてはC6が挙げられる(実施例1参照)。
別法として、NTPは原核宿主細胞中で発現させることもできる。組換えNTPは、本明細書に記載するように、かかる細胞によって融合タンパク質として発現されるのが好ましい。特に好ましい原核宿主は大腸菌である。好ましい大腸菌株としては、Y1088、Y1089、CSH18、ER1451、およびER1647が挙げられる(たとえば、モレキュラー・バイオロジー・ラブファックス(Molecular Biology LabFax)、ブラウン(Brown,T.A.)編、アカデミックプレス、ニューヨーク(1991)参照)。他の好ましい宿主はバシラス・サチリス(Bacillus subtilus)であり、BR151、YB886、MI119、MI120、およびB170などの株を含む(たとえば、ハーディー(Hardy)、DNAクローニング:ア・プラクティカル・アプローチ(DNA Cloning:A Practical Approach)、IRLプレス、ワシントン、DC(1985)中の「バシラス・クローニング・メソッズ(Bacillus Cloning Methods)」を参照)。
DNAなどの核酸分子は、それが発現制御配列を含み、該配列が転写制御情報を含み、そして該配列がタンパク質をコードするヌクレオチド配列に「機能的に連結されている」場合にポリペプチドを「発現しうる」ということができる。
ある核酸分子の2つの配列は、両配列が同じRNA転写物に転写されるか、または一方の配列で開始されたRNA転写が第二の配列に伸長していくかのいずれかの仕方で互いに連結している場合に、機能的に連結しているということができる。それゆえ、プロモーター配列および他の「第二の」DNAまたはRNA配列などの2つの配列は、該プロモーター配列で開始された転写が該機能的に連結された第二の配列のRNA転写物を生成する場合に、機能的に連結しているという。機能的に連結しているためには、2つの配列は互いに密に隣接している必要はない。
本発明のプロモーター配列は、原核細胞のもの、真核細胞のもの、またはウイルスのものであってよい。適当なプロモーターは、抑制性、構成的、または誘導性のものである。適当な原核細胞プロモーターとしては、T4ポリメラーゼを認識しうるプロモーター(マリク(Malik)ら、J.Biol.Chem.263:1174〜1181(1984);ローゼンバーグ(Rosenberg)ら、Gene59:191〜200(1987);シネドリング(Shinedling)ら、J.Molec.Biol.195:471〜480(1987);ヒュー(Hu)ら、Gene42:21〜30(1986));T3、Sp6およびT7を認識し得るプロモーター(チャンバーリン(Chamberlin)ら、Nature228:227〜231(1970);ベイリー(Bailey)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)80:2814〜2818(1983);ダバンルー(Davanloo)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)81:2035〜2039(1984));バクテリオファージラムダのPRおよびPLプロモーター(ザ・バクテリオファージ・ラムダ(The Bacteriophage Lamda)、ハーシー(Hershey,A.D.)編、コールドスプリングハーバープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1973);ラムダII(Lamda II)、ヘンドリックス(Hendrix,R.W.)編、コールドスプリングハーバープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1980));大腸菌のtrp、recA、熱ショック、およびLacZプロモーター;バシラス・サチリスのα−アミラーゼプロモーター(ウルマネン(Ulmanen)ら、J.Bacteriol.162:176〜182(1985))およびデルタ−28−特異的プロモーター(ギルマン(Gilman)ら、Gene32:11〜20(1984));バシラスのバクテリオファージのプロモーター(グリクザン(Gryczan)、ザ・モレキュラー・バイオロジー・オブ・ザ・バシライ(The Molecular Biology of the Bacilli)、アカデミック・プレス、ニューヨーク(1982));ストレプトマイセス(Streptomyces)のプロモーター(ウォード(Ward)ら、Mol.Gen.Genet.203:468〜478(1986));バクテリオファージラムダのintプロモーター;pBR322のβ−ラクタマーゼ遺伝子のblaプロモーター、およびpBR325のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子のCATプロモーターなどが挙げられる。原核細胞のプロモーターについては、グリック(Glick)、J.Ind.Microbiol.1:277〜282(1987);セナチエンポ(Cenatiempo)、Biochimie68:505〜516(1986);ワトソン(Watson)ら、モレキュラー・バイオロジー・オブ・ザ・ジーン(Molecular Biology of the Gene)、第4版、ベンジャミン・カミンズ、メンロパーク、カリフォルニア(1987);ゴッテスマン(Gottesman)、Ann.Rev.Genet.18:415〜442(1984);およびサンブルックらの上記文献に概説されている。
好ましい真核細胞プロモーターとしては、マウスメタロチオネインI遺伝子のプロモーター(ハマー(Hamer)ら、J.Mol.Appl.Gen.1:273〜288(1982));ヘルペスウイルスのTKプロモーター(マックナイト(McKnight)、Cell31:355〜365(1982));SV40初期プロモーター(ベノイスト(Benoist)ら、Nature(ロンドン)290:304〜310(1981));および酵母gal4遺伝子プロモーター(ジョンストン(Johnston)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)79:6971〜6975(1985);シルバー(Silver)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)81:5951〜5955(1984))が挙げられる。上記文献をすべて参照のため本明細書に引用する。
強力なプロモーターは、本発明の最も好ましいプロモーターである。そのような好ましいプロモーターの例は、T3、SP6およびT7ポリメラーゼプロモーターを認識するもの;バクテリオファージラムダのPLプロモーター;recAプロモーターおよびマウスメタロチオネインI遺伝子のプロモーターである。原核細胞中で発現させるのに最も好ましいプロモーターは、T7ポリメラーゼプロモーターを認識しうるものである。そのようなポリメラーゼ認識配列の配列は、ワトソンら、モレキュラー・バイオロジー・オブ・ザ・ジーン、第4版、ベンジャミン・カミンズ、メンロパーク、カリフォルニア(1987)に開示されている。哺乳動物細胞中で発現させるのに最も好ましいプロモーターは、SV40である(ゴーマン(Gorman)ら、DNA Cloning:A Practical Approach、II巻、IRLプレス、ワシントン、DC、143〜190頁(1985)中の「ハイ・エフィシャンシー・ジーン・トランスファー・イントゥ・ママリアン・セルズ(High Efficiency Gene Transfer into Mammalian cells)」)。
III.NTPの検出方法
この発明は、NTP遺伝子または転写物にハイブリダイズしうる核酸プローブまたはNTPに特異的な抗体を用いた、ヒト個体における神経学的疾患の検出方法に関する。「神経学的疾患」とは、アルツハイマー病(AD)、またはアルツハイマー型の病因変化を有する他の神経変性疾患(たとえば、アルツハイマー病型の神経変性を伴うパーキンソン病)、並びに神経外胚葉性腫瘍、悪性星状細胞腫、および膠芽細胞腫を意味する。「ヒト個体」とは、あらゆるヒト、または出生前のヒト胚もしくは胎児などの発達形態を意味する。本発明の診断方法は、神経組織の侵入性の除去を必要としない。
本発明はさらに、光学もしくは電子顕微鏡による組織学、造影、放射性もしくは酵素ベースのアッセイなどを用いて細胞中またはヒト個体の生物学的流体中のNTPの存在を検出するための、核酸ハイブリダイゼーションアッセイおよびイムノアッセイの両アッセイに関する。
a.核酸ハイブリダイゼーションアッセイ
核酸ハイブリダイゼーションアッセイを用いてNTPについて組織試料を試験するに際して、RNAの組織からの単離は、クリオスタット上で切片化し、SDSなどの界面活性剤およびEDTAなどのキレート化剤を用いて該切片を溶解し、場合によりプロテイナーゼK(50μg/ml)で一夜消化することにより行うことができる。そのような組織は、剖検および生検により得ることができる。好ましい組織量は、1〜10mgの範囲である。タンパク質をフェノールおよびクロロホルム抽出により取り除き、核酸をエタノールで沈殿させる。オリゴdTカラム上でのクロマトグラフィーにかけ、そこから溶出することによってRNAを単離する。当業者によく知られた方法に従い、さらに分画することもできる。
モレキュラーハイブリダイゼーションのための多くの技術が、組織中のDNAまたはRNA配列の検出のために用いられる。これら技術は、それぞれ利点および欠点を有する。多量の組織が利用できる場合には、ハイブリダイゼーション動力学の分析により、存在するDNAまたはRNAの量を正確に定量し、並びにプローブと同一ではないが密接に関連した配列を識別し、相同性のパーセントを決定する機会が得られる。
反応は、プローブの再会合の速度が最適となるようなハイブリダイゼーション条件下(温度は25℃)で行う(ウエットマー(Wetmur)ら、J.Mol.Biol.31:349〜370(1968))。反応の動力学は、組織中の配列がプローブの配列と同一である場合には二次反応である。しかしながら、プローブ配列が組織中の配列と部分的な相同性を有する場合には、反応は複雑な動力学を示す(シャープ(Sharp)ら、J.Mol.Biol.86:709〜726(1974))。
細胞RNAに対するプローブの比は、所望の感度により決定する。細胞当たり一つの転写物を検出するには、全細胞DNAまたはRNA 1μg当たり約100pgのプローブが必要であろう。これら核酸を混合し、変性させ、適当な塩濃度および温度とし、種々の時間ハイブリダイズさせる。再会合の速度は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー(ブリッテン(Britten)ら、Science161:529〜540(1968))かまたはS1ヌクレアーゼ消化(サットン(Sutton)、Biochim.Biophys.Acta240:522〜531(1971))のいずれかによりハイブリダイズしたプローブの量を定量することによって決定することができる。
もっと順応性のあるハイブリダイゼーション法は、ノーザンブロット法である。この方法は、ハイブリダイゼーション反応の厳格さにおける変化、並びに分析下の試料中のレトロウイルス配列の状態の決定をもたらす。ノーザン分析は、本明細書に記載するようにして行うことができる。
DNAまたはRNA配列のハイブリダイゼーション分析に関連して主として考慮しなければならないのは、研究下の試料中に存在する配列に対してプローブが有する関連性の程度である。このことはブロッティング法では重要である。というのは、ハイブリダイゼーションの非厳格条件下での中程度の配列相同性が、プローブと試料中に存在する配列とが非相同な遺伝子を表す場合においてさえも強いシグナルを生じうるからである。
特定のハイブリダイゼーション法は本発明にとって本質的なことではなく、当該技術分野で通常用いられるあらゆる方法が本発明の範囲に包含される。典型的なプローブ法はファルコウ(Falkow)らの米国特許第4,358,535号に記載されている(参照のため本明細書に引用する)。たとえば、ハイブリダイゼーションは、6×SSC(10×SSC:1.5M塩化ナトリウム、0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、5×デンハルト(1×デンハルト:0.2%ウシ血清アルブミン、0.2%ポリビニルピロリドン、0.02%フィコール400)、10mM EDTA、0.5%SDSおよび約107cpmのニックトランスレーションしたDNAを含有する溶液中、65℃にて16時間行うことができる。
上記標識プローブは、組織中のNTPの検出のための一般的な診断法を提供する。この方法は、適度に速く、プロトコールが簡単であり、標準化可能で市販のキットとして提供される試薬を有し、多数の試料の迅速なスクリーニングを可能とする。
本手順を行う一つの方法において、RNA転写物を含有する臨床単離物を支持体上に固定する。固定された核酸を、該NTP遺伝子のコード鎖に相補的または相同な塩基配列を有する標識ポリヌクレオチドと接触させる。
本発明のハイブリダイゼーションアッセイは、キットの形態の製造および商品化に特に適している。該キットは、1または2以上のコンテナー手段(バイアル、試験管等)を受け入れるべく密に詰め込まれた担体手段を含み、各担体手段はハイブリダイゼーションアッセイに使用する別々の要素を一つ有する。
たとえば、コンテナー手段には、「ニックトランスレーション」(標準的な方法については、たとえば、サンブルックらの上記文献を参照)により標識するのに適したNTP cDNA分子、または標識したNTP cDNAまたはRNA分子が含まれていてよい。別のコンテナー手段には、DNAポリメラーゼI/DNAアーゼおよび非標識のデオキシリボヌクレオチド(すなわち、dCTP、dTTP、dGTP、およびdATP)からなる、NTP cDNAのニックトランスレーションのための標識溶液が含まれていてよい。
NTP RNAの存在は、被験組織中のプローブと関連したRNAの出現および/または量の変化により決定する。
この発明のDNAプローブはまた、遺伝性または家族性のアルツハイマー病と非遺伝性または散発性のアルツハイマー病との識別診断にも用いることができる。家族性のアルツハイマー病は、しばしば一層若年の年齢で生じ、家族内のダウン症候群と関連している。それゆえ、家族性のアルツハイマー病の遺伝子試験によって家族の遺伝子カウンセリングが可能となる。家族性のアルツハイマー病の遺伝子マーカーを特徴付けるべく多大の努力がなされているにもかかわらず(グセラ(Gusella)、FASEB J3:2036〜2041(1989);フーパー(Hooper)、J NIH Res.4:48〜54(1992))、遺伝子連鎖分析によっては遺伝子マーカー配列が同定されるのみでゲノム配列の機能に関する知見については得られていない。対照的に、本明細書に記載され散発性アルツハイマー病の個体から得られたcDNAプローブは既知の機能を有する既知のタンパク質をコードしており、これがアルツハイマー病の患者の脳組織で過剰発現される。
アルツハイマー病については家族性の症例も多く記録されてはいるものの(グセラ、上記文献;ハリソンズ・プリンシプルズ・オブ・インターナショナル・メディスン(Harrison's Principles of International Medicine)、ブラウンウォルト(Braunwald)ら編、第11版、マックグロー−ヒル・ブック・カンパニー、ニューヨーク、2012〜2013頁(1987))、ほとんどの症例は散発性であるように思われる。家族性のアルツハイマー病を有する患者は、散発性のアルツハイマー病の患者と違って該疾患にかかりやすくさせる変異を生殖細胞を通じて受け継いでいる。家族性の症例の幾つかは、常染色体の優性遺伝パターンに従うことが示されている(同上)。それゆえ、家族性のアルツハイマー病を有する患者のDNAは、散発性のアルツハイマー病の患者のDNAでは存在しない受け継がれた遺伝子変化を有するであろう。
ヒト個体における散発性および家族性のアルツハイマー病の識別法には、アルツハイマー病を有すると思われるヒト個体から生物学的試料を得ることが含まれる。ついで、該生物学試料からDNAを精製する。最後に、得られたDNAをハイブリダイゼーション条件下でNTP DNAプローブと接触させる。家族性のアルツハイマー病は該プローブとDNAとのハイブリッド形成の検出によって示され、一方、散発性のアルツハイマー病はハイブリダイゼーションの検出の不在によって示される。
たとえば、生物学試料は血液試料であってよく、これを分別遠心分離にかけて回収の3日以内に白血球を富ませる(パーク(Park)、PCRプロトコールズ(PCR Protocols)、イニス(Innis)ら編、アカデミックプレス、ニューヨーク、407〜415頁(1990)中の「PCR・イン・ザ・ダイアグノーシス・オブ・レチノブラストーマ(PCR in the Diagnosis of Retinoblastoma)」)。DNA試料の調製は、N−ラウロイルサルコシンナトリウム−プロテイナーゼK、フェノール、およびRNAアーゼ法(サンブルックら、上記文献)を用いて行うことができる。DNA分析は、DNA試料(好ましくは5μg)を制限エンドヌクレアーゼ(Hind IIIなど)で消化することによって行うことができる。ついで、消化したDNAを、好ましくは89mMトリス−HCl(pH8)、89mM硼酸ナトリウムおよび2mM EDTAを含有する緩衝液中でアガロースゲル電気泳動(好ましくは1%水平アガロースゲル)を18時間行うことにより分画する(グセラら、Nature 306:234〜238(1983))。サザーン分析を常法(サンブルックら、上記文献)を用いて行うことができ、標識したアルツハイマー病のcDNAプローブを上記条件下でハイブリダイズさせることができる。この識別診断法のために好ましいDNAプローブとしては、1−9a、AD3−4、AD4−4およびG2−2 PstIが挙げられる。
b.イムノアッセイ
本発明に従って、NTPに対する抗体を用い、ADを検出および診断することができる。また本発明では、免疫組織化学的染色法などの種々の組織学的染色法を用いることもできる。銀染色法もまたNTPを視覚化する方法のひとつである。その他の本発明に有用な染色法は当業者にとって熟知されているものであり、当業者であれば、その定量を適切に行えるであろう[たとえば一般に、「A Textbook of Histology」,ブルーム(Bloom)およびファウセット(Faucett)編,ダブリュー・ビー・ソーンダース(Sounders)・カンパニー,フィラデルフィア(1964年)を参照]。
得られた化合物がNTP官能性誘導体であるかどうかを決定するためのスクリーニング法のひとつに、たとえばラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素免疫測定法(ELISA)法などの、NTPに対する特異的抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)の産生に基づくイムノアッセイが挙げられる。これらのアッセイ用の生体試料は、静脈穿刺(血液)、脊髄穿刺(大脳脊髄液(CSF))、尿およびその他の分泌液(汗および涙など)から得られる。たとえば、RIAの一形態においては、放射標識された抗原の存在下、試験に付す物質を希釈した抗血清と混合する。この方法においては、試験物質の濃度は、特異的抗体に結合した放射標識抗原の量に反比例し、遊離の放射標識抗原の量に直線的に比例する。当業者であれば、その他の適当なスクリーニング法を容易に想像しうるであろう。
また本発明は、標本または検体中のNTPまたはその官能性誘導体の検出方法に関する。NTPまたはその官能性誘導体に対する特異的抗体を検出可能にするために、たとえば放射性同位体、酵素、蛍光標識、常磁性標識またはフリーラジカルなどの適当なマーカーで標識することができる。
別法として、イムノポリメラーゼ鎖反応の技術によって、NTPまたはその官能性誘導体に対する特異的抗体をDNAで標識してもよい[サノ(Sano)らのScience, 258:120〜122(1992年)]。該ポリメラーゼ鎖(PCR)操作では、変性、オリゴヌクレオチドプライマーのアニーリング、およびDNAポリメラーゼによる該プライマーの伸長などの一連の手順を通して特異的核酸配列が増幅される[たとえば、ミュリス(Mullis)らの米国特許第4683202号;ミュリスらの米国特許第4683195号;ロー(Loh)らのScience, 243:217(1988年)を参照]。このようなステップを何回も繰り返し、オリジナルの特異的配列のコピーである多量の増幅物が得られる。ひとつのDNA配列のシングルコピー程度の配列を増幅して何百という数のナノグラム産物を得ることができる[リー(Li)らのNature,335:414(1988年)]。その他の公知の核酸増幅操作としては、転写に基づく増幅システム[クゥオー(Kwoh)らのProc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:1173(1989年);ジンゲラス(Gingeras)らのWO88/10315]、および得られる“ジオリゴヌクレオチド”の配列を有する核酸標的の存在下に2つ(またはそれ以上)のオリゴヌクレオチドを連結し、それによって該ジオリゴヌクレオチドを増幅するという“リガーゼ鎖反応”が挙げられる[ウー(Wo)らのGenomics, 4:560(1989年);バックマン(Backman)らのEP320308;ウォーレス(Wallace)のEP336731;オーゲル(Orgel)のWO89/09835]。たとえば、様々な量の試験物質をマイクロタイターウエルの表面に固定化して該イムノPCRアッセイを行うことができる[サンゾらの前記文献の122頁脚注7を参照]。次いでNTPモノクローナル抗体を加えて該ウエルをインキュベートし、洗浄し、さらにストレプトアビジン−タンパク質キメラに複合したビオチン化NTP DNA分子を加えてインキュベートする[同上文献]。このキメラはストレプトアビジン部分を介してビオチンに結合し、タンパク質A部分を介して免疫グロブリンG分子のFc部に結合する[同上文献の122頁;サンゾらのBio/Technology, 9:1378(1991年)]。次いでウエルを洗浄して非結合複合体を除去する。試験物質中に存在する幾らかのNTPに、NTPモノクローナル抗体が結合し、さらにビオチン化NTP DNA−ストレプトアビジン−タンパク質A複合体のタンパク質A部分が結合する。次いでPCRによって該NTP DNA配列を増幅する。簡単にいうと、デオキシリボヌクレオチド三リン酸塩、NTPオリゴヌクレオチドプライマーおよびTaqDNAポリメラーゼを加えたマイクロタイターウエルをインキュベートするということである[サンゾらの同上文献の122頁脚注11を参照]。自動熱循環器(PTC−100−96Thermal Cycler,MJ・リサーチ・インコーポレイテッド製など)を用いて標準的条件下でPCRを行うことができる[同上文献]。次いで臭化エチジウムで染色した後、アガロースゲル電気泳動法でPCR産物を分析する。
このような検出可能に標識された抗体またはその官能性誘導体を製造し、検出する方法は、当業者には公知であり、下記文献に記載されている。免疫学の一般的原理について述べている標準的参考文献として、クレイン(Klein)の「免疫学:自己−非自己の識別」,ジョン・ウイリー・アンド・サンズ,ニューヨーク(1982年);ケネット(Kennett)らの「モノクローナル抗体とハイブリドーマ:生物学的分析の新次元」, プレナム・プレス, ニューヨーク(1980年);キャンベル(Campbell)の"モノクローナル抗体テクノロジー", 「生化学と分子生物学における実験室テクニック」,13巻(バードン(Burdon,R.)ら編),エルセビア,アムステルダム(1984年)中;およびエイゼン(Eisen)の「マイクロバイオロジー」, 第3版, デービス(Davis)ら, ハーパー・アンド・ロウ, フィラデルフィア(1980年)が挙げられる。
語句「抗体」とは、実質的にホモ集団であるモノクローナル抗体およびヘテロ集団であるポリクローナル抗体の両方を意味する。ポリクローナル抗体は抗原で免疫感作した動物の血清から誘導される。特異的抗原に対するモノクローナル抗体(mAbs)は、当業者に公知の方法で得ることができる。たとえば、ケーラー(Kohler)およびミルシュタイン(Milstein)のNature, 256:495〜497(1975年)および米国特許第4376110号を参照。このような抗体は、IgG,IgM,IgE,IgA,IgDおよびそれらのサブクラスなどからなる免疫グロブリンクラスのいずれかに属する。
本発明に用いたモノクローナル抗体、特にmAbs Th7,Th9およびTh10は、下記文献の記載に従って製造することができる[グロス(Gross)らのJ. Clin. Invest., 76:2115〜2126(1985年);オツーク(Otzturk)らのProc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:419〜423(1989年);デラモンテ(de la Monte)らのJ. Clin. Invest., 86:1004〜1013(1990年);デラモンテらのJ. Neurol. Sci., 113:152〜164(1992年);デラモンテらのAnn. Neurol., 32:733〜742(1992年)]。Thモノクローナル抗体は、精製すい臓型糸状タンパク質に対して産生された[同上文献]。NTP特異的ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を、組換え宿主から単離された実質的に純粋なNTPに対して産生させることもできる[たとえば、キャロル(Carroll)らの"β-ガラクトシダーゼ融合タンパク質の外来セグメントに対するポリクローナル抗体の産生と精製", 「DNAクローニング:実用的アプローチ」,III巻,IRL・プレス,ワシントンDC,89〜111pp(1987年);モール(Mole)らの"大腸菌で産生された融合タンパク質に対するモノクローナル抗体の産生",「DNAクローニング:実用的アプローチ」,III巻,IRL・プレス,ワシントンDC,113〜1139pp(1987年)」を参照]。別法として、NTP特異的ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を、公知の技術を用いて、脳組織および細胞系などの生体物質から単離された実質的に純粋なNTPに対して産生することができる。
たとえば、分子量がおよそ8,14,17,21,26kDaおよび42kDaである種々のNTP分子に対して特異的なモノクローナル抗体を、組換え誘導タンパク質から製造してもよく、それらはcDNA(すなわち1−9a)、ゲノムクローン(G2−2 PstI)およびAD−NTP3−4cDNAクローンから発現、単離および精製される。これらのNTP分子を、上記cDNAおよびゲノムクローンから誘導し、挿入し、適当な発現ベクター中で製造する(図2Aおよび図2Bを参照)。1−9aNTPおよびPTPの5'末端において、60〜70%相同である領域が存在するので、NTP組換えタンパク質に特異的に結合し、すい臓型タンパク質に結合しないモノクローナル抗体を、通例の分画スクリーニングを行うことによって得ることができる[デラモンテらのJ. Clin. Invest., 86:1004〜1013(1990年)を参照]。NTPおよびPTPの両方に結合するモノクローナル抗体が存在する可能性はあるけれども、種々の形体のNTP分子(たとえば8,14,17,21,26および42kDa)の間には実質的配列分化があり、エピトープは僅か6〜8アミノ酸によって決定されるため、NTP特異的モノクローナル抗体を生産することは可能である。
また語句「抗体」は、完全分子およびそれらのフラグメント(断片)、たとえばFabおよびF(ab')2などの両方を包含し、それらは抗原に結合可能である。FabおよびF(ab')2フラグメントは、完全分子からFcフラグメントを除いたものであり、より速やかに循環から除去され、完全分子よりも非特異的組織結合性が弱い[ワール(Wahl)らのJ. Nucl.Med., 24:316〜325(1983年)]。
ADを検出および診断するために、本明細書に記載の方法に従って、完全抗体を用いる場合と同様な方法で、本発明に有用なFabおよびF(ab')2および抗体の他のフラグメントを用いてNTPを検出および定量しうることが認められるであろう。このようなフラグメントを生産する代表的な方法は、タンパク質分解的切断であり、パパイン(Fabフラグメントが生じる)あるいはペプシン(F(ab')2フラグメントが生じる)などの酵素を使用する。
抗体が、ある分子と特異的に反応して該分子を抗体に結合することが可能であるならば、その抗体はその分子に対して“結合可能”であるという。語句「エピトープ」とは、その分子において、抗体が結合することが可能かつ抗体が認識しうる部分を意味する。エピトープ決定基は通常、分子の化学的に活性な表面存在基(アミノ酸または糖側鎖など)からなり、特殊な3次元構造および特殊な荷電特性を有している。
「抗原」とは、抗体が結合可能な分子であり、さらに言えば、動物において抗原のエピトープを結合しうる抗体の産生を誘発しうるものである。抗原は1つあるいはそれ以上のエピトープを有する。これまでに述べた「特異的反応」とは、抗原が、高度な選択性のもとにその対応する抗体と反応し、他の抗原によって産生を喚起される多数の他の抗体とは反応しないことを意味する。
本発明に有用な抗体あるいは抗体フラグメントを用いて、NTP抗原を含む細胞の存在を定量的または定性的に検出することができる。したがって、本発明に有用な抗体あるいは抗体フラグメントを組織学に応用して、NTPの存在を検出または視覚化することができる。
このようなNTP検出アッセイは、通例、NTPを同定することができる検出可能に標識された結合分子(たとえば抗体)の存在下、NTPが存在する状態にあるとの疑いのある検体からの生体試料をインキュベートし、試料に結合する該結合分子を検出することから構成される。
したがって、本発明のこの態様においては、まず生体試料をニトロセルロース、または細胞,細胞粒子または可溶性タンパク質を固定しうるような他の固相支持体で処理する。次いで該支持体を適当な緩衝液で洗浄し、次いで検出可能に標識されたNTP特異的抗体で処理する。次いで固相支持体を緩衝液でもう一度洗浄して非結合の抗体を除去する。次いで支持体担体上に結合した標識の量を常套の手段で検出する。
「固相支持体」は、抗原または抗体を結合することができる支持体ならばどのようなものでもよい。公知の支持体または担体としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースおよびマグネタイトなどが挙げられる。該担体の性質は、本発明の目的のために、ある程度までの可溶性であってもよいし、または不溶性であってもよい。支持体物質は、結合した分子が抗原または抗体に結合可能である限り、実際どのような構造的形状であってもよい。したがって、支持体の形状は、ビーズのような球体、試験管の内側表面またはロッドの外側表面などの円筒体であってよい。また、シート状、試験片などの平面であってもよい。好ましい支持体はポリスチレンビーズである。当業者ならば、モノクローナル抗体または抗原を結合するための適当な担体をその他に数多く想当し、通例の実験を行うことができよう。
NTPを含む生体試料における本発明の診断アッセイのひとつの具体例は、
(a)検出可能に標識されたNTP特異的抗体を固相支持体と接触させて該NTP特異的抗体またはそのフラグメントの固定化を行い;
(b)NTPを含む疑いのある試料を該固相支持体と接触させ;
(c)該検出可能に標識されたNTP特異的抗体を該支持体とともに、固定化されたNTP特異的抗体がNTPに結合するに十分な時間インキュベートし;
(d)ステップ(工程)cで得られたインキュベーション混合物から固相支持体を分離し;および
(e)結合した標識を検出し、それによってNTPを検出し、定量すること
からなる。
別法として、試料中の標識NTP特異的抗体/NTP複合体を、免疫グロブリンに対して特異的な固定化抗体またはタンパク質(たとえばスタフィロコッカス・タンパク質A、スタフィロコッカス・タンパク質G、抗IgMまたは抗IgG抗体など)と接触させることによって反応混合物から分離してもよい。このような抗免疫グロブリン抗体はポリクローナルであるが、モノクローナル抗体が好ましい。次いで固相支持体を適当な緩衝液で洗浄して、固定化NTP/標識NTP特異的抗体複合体を得る。次いで標識を検出してNTPの測定を行うことができる。
この態様における本発明は、
(a)NTPを含む疑いのある試料を、NTPに結合するNTP特異的抗体またはそのフラグメントと接触させ;および
(b)複合体が形成されるかどうかを検出すること
からなる試料中のNTPまたはそのフラグメントの検出法に関する。
本発明は、さらに
(c)ステップaで得られた混合物を、固相支持体上に固定化されている、NTP特異的抗体に特異的な抗体であるスタフィロコッカス・タンパク質Aまたはスタフィロコッカ・スタンパク質GなどのFc結合分子と接触させ、抗体複合体に固定化されたNTP/NTP特異的抗体を得;
(d)ステップcで得られた固相支持体を洗浄して非結合のNTP/NTP特異的抗体複合体を除去し;および
(e)該固相支持体に結合した標識を検出すること
からなる試料中のNTPの検出法に関する。
もちろん、検出可能に標識された抗体およびNTPの特定の濃度、インキュベーションの温度と時間、およびその他のアッセイ条件は、試料中のNTPの濃度、試料の性質などの種々の因子に応じて変化させてよい。得られたロットの結合活性は公知の方法に従って決定する。当業者ならば、通例の実験を行って各測定に対する有効な最適アッセイ条件を決定することができよう。
通例に従って、あるいは個々の状況に必要な場合、洗浄、撹拌、振とう、濾過などのその他のこのようなステップを該アッセイに付加することができる。
NTP特異的抗体を検出可能になるように標識しうる方法のひとつは、該抗体を酵素に結合することである。この酵素は、後でその基質に触れさせたときに、該基質と反応して、分光光度法、蛍光法または視覚的手段などによって検出しうる化学的部位となる。NTP特異的抗体を検出可能に標識するのに用いる酵素としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
検出は、色々なイムノアッセイのどれかを用いて行う。たとえばNTP特異的抗体または抗体フラグメントを放射標識することによって、ラジオイムノアッセイ法を用いてNTPを検出することが可能となる。ラジオイムノアッセイに関しては、ワーク(Work)らの「分子生物学における実験技術および生化学」,ノース・ホランド・パブリッシング・カンパニー,ニューヨーク(1978年)、特にチャード(Chard)による“ラジオイムノアッセイおよび関連技術入門”と題する章に、優れた記載がある。この文献は本明細書の参考文献である。
放射性同位体は、ガンマ線カウンターまたはシンチレーションカウンターなどの手段またはオートラジオグラフィーによって検出することができる。本発明の目的に特に有用な同位体は、3H,125I,131I,35S,14Cであり、125Iが好ましい。
蛍光化合物でNTP特異的抗体を標識することもできる。蛍光標識した抗体を適当な波長の光を照射すると、蛍光を発するのでその存在を検出することができる。最も一般的に用いられる蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリセリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒドおよびフルオレサミンである。
125Euまたは他のランタニド系列の金属などの蛍光発光金属を用いてNTP特異的抗体を検出可能に標識することもできる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いてNTP特異的抗体に付加することができる。
化学発光化合物にカップリングさせることによってNTP特異的抗体を検出可能に標識することもできる。次いで化学反応中に発生する発光の存在を検出することによって、化学発光化合物付加NTP特異的抗体の存在を測定する。特に有用な化学発光標識化合物の例としては、ルミノール、イソルミノール、セロマチックアクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびオキサレートエステルが挙げられる。
ビオチンでNTP特異的抗体を標識し、次いでアビジンと反応させてもよい。ビオチン標識DNAフラグメントは、アビジンブリッジを介してNTPビオチン化モノクローナル抗体に結合する。次いで特定のプライマーを用いたDNAフラグメントのPCR増幅を行い、NTP分子を検出する[サノらのScience, 258:120〜122(1992年)]。
同様に、生物発光化合物を用いて、本発明のNTP特異的抗体を標識してもよい。生物発光は、生物に発見された化学発光のひとつであり、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を高める。発光の存在を検出することによって、生物発光タンパク質の存在を測定する。標識するという目的にとって重要な生物発光化合物はルシフェリン、ルシフェラーゼおよびアクオリンである。
たとえば検出可能な標識がガンマ線放出ならばシンチレーションカウンターを用い、または該標識が蛍光物質ならばフルオロメーターを用いてNTP特異的抗体の検出を行ってもよい。酵素標識の場合、その酵素に対する基質を用いる比色法によって検出を行うことができる。同様に調製した標準と基質との酵素反応の範囲を視覚的に比較することによって検出を行ってもよい。
このような検出可能に標識された抗体の分布の中心を検出することは、前述の疾患または機能不全状態の指標となる。本発明アッセイによって、生体試料中に存在するNTPを検出することができる。NTPを含むどのような試料でも使用することができる。しかし、本発明診断法の利点のひとつは、組織切除などの組織の損傷を与えることなく診断しうることである。それゆえに、試料は、大脳髄液、羊水、血液、血清および尿などの体液であることが好ましい。しかし、本発明は、これらの試料を用いたアッセイに限定されるものではなく、当業者であれば、他の試料を用いうるような適当な条件を決定することが可能である。
たとえば、3部位のモノクローナル抗体イムノラジオメトリックアッセイ(monoclonal antibody-based immunoradiometric assays:M−IRMA)を用いて体液(CSFなど)のNTP濃度を測定してもよい。ADの疑いがある個体から通例の方法に基づいた髄液穿刺によってCSFを得ることができる。したがって、この非侵入性イムノアッセイによってADの診断を簡単に行うことでき、AD患者のNTP濃度が正常者のものよりも非常に高いことが示される。
上記具体例では、体液試料を取り出し、該試料を検出可能に標識された抗体(または抗体フラグメント)の存在下でインキュベートすることによってAD検査が行われる。この技術が、磁気造影、フルオログラフィーなどの非侵入性の方法で行われるのが好ましい。
標識抗体(または抗体フラグメント)を被験者に投与するインビボ造影技術を用いてNTPを有する細胞の検出を行い、あらかじめ組織試料を取り出すことなくNTPの存在を検出するのが好ましい。このようなインビボ検出操作は、他の検出方法よりも侵入性が少ないという利点を持ち、さらに、脳組織などの容易に患者から取り出せない組織注のNTPの存在を検出することができる。
AD患者では脳全体からNTPが検出されるが、脳腫瘍の場合は分散した沈着物中にNTPが局在するので、インビボ造影技術を用いてADと脳腫瘍を区別することができる。たとえば、AD患者の脳では、NTPは側頭皮質、頭頂皮質および前頭皮質、ならびに扁桃体および海馬において発見される。星状細胞腫が発生しやすい部位は、小脳、視床、視神経交叉および脳橋[ペテルスドルフ(Petersdorf)らの「Harrison's Principles of Internal Medicine」, 第10版, マックグロー−ヒル・ブック・カンパニー,ニューヨーク,p2076(1983年)]および多形グリア芽腫は、主として大脳に局在する[同上文献,p2075]。
当業者には公知のインビボ標識およ標識方法は多数ある。本発明に用い得る標識の例としては、放射性同位体および常磁性同位体が挙げられる。当業者であれば、本発明に用いた抗体を結合するための他の適当な標識を承知しているか、あるいは通例の実験法を用いてそれらを確認しえるであろう。さらに、これらの標識の抗体への結合は、当業者には一般的である標準の技術を用いて行うことができる。
インビボ診断用の放射性核種を選択する際の重要な因子は、放射性核種の半減期が、標的による最大アップテイク時にまだ検出可能である程度には長く、一方宿主に対する有害な放射線を最小にするために充分短いことである。インビボ造影に用いる放射性核種は、粒子は放射しないが、常套のガンマ線カメラで容易に検出しうるような140〜200keVの範囲の多数の光子を放出するものが理想的である。
インビボ診断を行うために、放射性核種を抗体に直接的または仲介官能基を用いて間接的に結合する。金属イオンとして存在する放射性同位体の結合にしばしば用いられる仲介官能基は、DTPAおよびEDTAである。免疫グロブリンに結合しうるイオンの典型例は99mTc, 123I, 111In, 131I, 97Ru, 67Cu, 67Ga, 125I, 68Ga, 72As, 89Zrおよび201Tlである。
診断用インビボ造影をするために、利用できる検出装置の型が、放射性核種の選択における主要な因子となる。選択する放射性核種は、その検出装置で検出可能なタイプの崩壊をするものでなければならない。診断用造影を視覚化する常套の方法は概していずれも本発明に利用することができる。たとえば、PET,ガンマ,ベータおよびMRI検出器を用いて診断用造影を視覚化することができる。
インビボ診断を行うために、本発明に有用な抗体を常磁性同位体で標識することもできる。磁気共鳴造影(MRI)において特に有用な元素は、157Gd,55Mn,162Dyおよび56Feである。
本発明に有用な抗体(または抗体フラグメント)は、身体組織、体液(CSFなど)あるいは細胞抽出液中のNTPの存在を検出するインビトロイムノアッセイにも特に適している。このようなイムノアッセイにおいては、抗体(または抗体フラグメント)は液相で、あるいは好ましくは前述した固相担体に結合させて用いることができる。
当業者であれば、本発明に従って、他の利用しうる適当な標識について理解できよう。当業者には公知の標準的技術を用いて、これらの標識を抗体あるいは抗体フラグメントへ結合することができる。代表的な技術は、ケネディー(Kennedy)らのClin. Chim. Acta,70:1〜31(1976年)およびスカース(Schurs)らのClin.Chim.Acta,81:1〜40(1977年)に記載されている。後者に開示されたカップリング技術は、グルタールアルデヒド法、過ヨウ素酸塩法、ジマレイミド法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル法である。すべての方法は本明細書において参考とされる。
患者の組織学的標本を切除し、本発明の標識抗体を組み合わせて該標本に適用し、インシトゥ検出を行ってもよい。標識抗体(またはフラグメント)を生体試料に塗布するかまたは抗体で試料を被覆することによって適用するのが好ましい。このような操作を行うことによって、NTPの存在ばかりでなく、被検組織におけるNTPの分布状態も測定することができる。当業者であれば、多種多様な組織学的方法(染色法など)のいずれの方法でも、適当な変更を加えることにより、本発明インシトゥ検出に適用できることが容易に理解されよう。
本発明の結合分子を、“ツーサイト”または“サンドイッチ”アッセイとしても知られる免疫測定アッセイにおいて利用してもよい。典型的な免疫測定アッセイにおいては、ある量の非標識抗体(または抗体フラグメント)を被検液体(CSFなど)に不溶である固相支持体に結合し、ある量の検出可能に標識された可溶性抗体を加え、固相抗体、抗原および標識抗体の間で形成された3成分複合体を検出および/または定量する。
代表的かつ好ましい免疫測定アッセイは、固相に結合した抗体が最初に被検試料と接触し、固相抗体−抗原からなる2成分複合体を形成することによって該試料から抗原を抽出する“前進(forward)”アッセイである。適当な時間インキュベーションを行った後、該固相支持体を洗浄して未反応の抗原(もし存在するなら)を含む液体試料の残りを除去し、次いで未知量の標識抗体(“リポーター分子”として機能する)を含む溶液と接触させる。第2のインキュベーションを行って標識抗体を、非標識抗体を介して固相支持体に結合した抗原と複合させた後、固相支持体に第2の洗浄を行い、未反応の標識抗体を除去する。このタイプの前進サンドイッチアッセイは、抗原が存在するかどうかを測定する単純な"イエス/ノー"アッセイであるかまたは標識抗体の測定結果を、既知量の抗原を含む標準試料から得られた結果と比較して定量を行うものである。このような“ツーサイト”または“サンドイッチ”アッセイは、ワイド(Wide)によって「ラジオイムノアッセイ法」,カーカム(Kirkham)およびハンター(Hunter)編, イー・アンド・エス・リビングストーン,エジンバラ(1970年)のp199〜206に記載されている。
これもまた本発明の抗原に使用しうる、別のタイプの“サンドイッチ”アッセイにおいては、いわゆる“同時(simultaneous)”および“逆行(reverse)”アッセイが用いられる。同時アッセイは、固相支持体に結合した抗体と標識抗体の両方を被検試料に同時に加えるという一回のインキュベーションステップからなる。インキュベーション完了後、固相支持体洗浄して液体試料の残りおよび未複合の標識抗体を除去する。次いで固相支持体に会合した標識抗体の存在を常套の“前進”サンドイッチアッセイで測定する。
“逆行”アッセイにおいては、最初、液体試料に標識抗体の溶液を段階的に加え、次いで適当な時間インキュベーションを行った後、固相支持体に結合した非標識抗体を加える。第2のインキュベーション後、固相を常套の方法で洗浄して被検試料の残りおよび未反応の標識抗体を除去する。次いで固相支持体に会合した標識抗体の定量を“同時”および“前進”アッセイで行う。
これまでに述べたインビトロまたはインビボ検出法を用いて組織を切除せずにADを検出および診断することができる。このような検出法を用い、生体試料中のNTPの濃度を算定し、比較することは、ADにおける神経学的退行の測定の援助となる。
診断試薬(抗体または抗体フラグメントなど)の有効量とは、所望の区別が得られる診断結果に到達する量であり、患者の年令、健康状態、性別、疾患の程度、もしあれば対立指標、および医師によって判断されるべきその他の変数などの因子に応じて変化するものである。診断試験において代表的に使用される量は、一般的に0.1〜5mg、好ましくは0.1〜0.5mgである。
本発明のアッセイは、キットの製造にも適する。このようなキットは、閉じた境界内に受容するように仕切りをつけた担体手段、およびバイアル、チューブなどのひとつ以上のコンテナ手段からなり、該コンテナ手段にはそれぞれ別のイムノアッセイ成分が含まれる。
たとえば、固相支持体に固定化された第1の抗体の入ったコンテナ手段、および溶液中に第2の検出可能に標識された抗体の入った次のコンテナ手段である。さらなるコンテナ手段には検出されるべきNTPの濃度連続希釈液を含む標準溶液を入れる。NTPの標準溶液を用いて、横座標にNTP濃度をプロットし、縦座標に検出シグナルをプロットして標準曲線を作成する。NTP含有試料から得られた結果は、標準曲線から内挿法によってNTP濃度を算出する。
IV.NTPの分離
本発明のNTPタンパク質または断片は、既述の組換えDNAからの発現によって得ることができる。あるいはまた、NTPは生物材料から精製することができる。
本発明の目的において、以下の工程からなる精製法を例示するが、これに制限されるものではない。
NTP精製の最初の工程には、尿素、ギ酸、界面活性剤、もしくはチオシアネートの様な可溶化剤を含むかまたは含まない緩衝液中で、脳組織もしくはCSFの様な生物試料からNTP分画を抽出することが含まれる。
第二の工程には、可溶化物質をMono−QまたはMono−Sカラム(Pharmacia LKB Biotechnology,Inc;Piscataway,NJ)イオン交換クロマトグラフィーにかけることが含まれる。同様に、可溶化物質は、分子を例えば荷電密度、荷電分布、および分子サイズに応じて分離することができるいかなる他の方法によっても分離することができる。イオン交換樹脂からのNTPの溶離は、M−IRMAの様なイムノアッセイによって各分画ごとにモニターする。次いで免疫反応のピークを透析し、凍結乾燥し、分子ふるいもしくはゲルクロマトグラフィーにかけることになろう。
分子ふるいまたはゲルクロマトグラフィーは、分子サイズに基づいて分離を行う分別クロマトグラフィーの1種である。この種の分離には通常、デキストラン、ポリアクリルアミド、およびアガロースゲルを用いる。本発明において有用なゲルは、セファロース 12(Pharmacia LKB Biotechnology,Inc.)である。しかし、当業者に知られた他の方法を用いてサイズに基づいて効率的に分子を分離することができる。
NTPの精製プロトコールにおける第四の工程には、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)による免疫反応性ピークの分析、さらなるゲルクロマトグラフィーによる精製工程、および例えば銀染色の様な染色が含まれる。
精製法の第五工程には、SDS−PAGE後に得られるNTPをアフィニティークロマトグラフィーか、または分離される物質とこの物質が特異的に結合することができる分子の親和性に基づく他の何らかの方法にかけることが含まれる。NTPをさらに精製するためには、抗NTP mAbs(Th9または実質的に純粋なNTPに対して生じたmABsのような)が結合したセファロースアフィニティークロマトグラフィーを用いることができる。逆相HPLCの様な別の方法、または良好なピーク解像度を有する急速分離を特徴とする他の方法が有用である。
NTPを精製するための別の方法では、AD患者から得られた濃縮CSFを使用することができる。この方法では、凍結乾燥またはAmicon濾過などによって30〜40mLに濃縮し、二次元ゲル電気泳動にかける。タンパク質をpHグラジエント中で荷電によって一方向に分離し、次いで他の方向のポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子ふるいクロマトグラフィーにかける。NTP免疫反応性断片はウエスタンブロット分析を用いるThモノクローナル抗体(例えばTh9)によって、スポットとして確認される。ゲルを切り出し、ゲルからNTPタンパク質を溶離する。この方法で精製されるNTPは、配列を調べるか、または新しいモノクローナル抗体を作製するために使用することができる。
上記の好ましい方法の代わりに他の精製工程も使用し得ることは理解できよう。当業者は過度の実験を行うことなくこれに代わる精製工程を工夫することができよう。
V.アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムを用いる遺伝子治療
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、原核生物(Mizunoらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1966−1970(1984))ならびに真核生物(Heywoodの、Nucleic Acids Res.14:6771−6772(1986))において、遺伝子発現を抑える天然の生物学的阻害剤であると記載されて来た。おそらく、これらの配列は相補的なmRNA配列とハイブリダイズすることによって機能し、翻訳のハイブリダイゼーション停止をもたらす(Patersonらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:4370−4374(1987))。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、特定の遺伝子またはRNAメッセージと相補的となるように製造された短い合成DNAまたはRNAヌクレオチド分子である。標的とするDNAまたはmRNA配列に対するこれらのオリゴマーの結合によって、当該遺伝子の転写または翻訳を選択的に阻害することができ、当該遺伝子によって生じた疾患の過程を停止させることができる(例えば、Jack Cohenの、Oligodeoxynucleotides,Antisense Inhibitors of Gene Expression,CRC Press(1989)を参照のこと)。mRNAの細胞質における局在は、細胞に入り込むアンチセンスオリゴヌクレオチドに容易に接近できると思われる標的を提供するため、当該分野の多くの研究が標的となるRNAに絞られてきている。一般に、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、インビトロおよび細胞培養における遺伝子発現の調節を研究するための有用な手段となる(Rothenbergらの、J.Natl.Cancer Inst.81:1539−1544(1989))。
アンチセンス治療とは、細胞内に局在する標的ポリヌクレオチドに結合する外因性オリゴヌクレオチドを投与することである。例えば、抗癌療法において、アンチセンスオリゴヌクレオチドを全身的に投与することができる(Smithの、国際出願公開番号WO90/09180)。本明細書に記載したごとく、NTP関連タンパク質は神経外胚葉腫瘍細胞、悪性アストロサイトーマ細胞ならびにグリオブラストーマ細胞によって産生され、またAD患者の脳組織中に比較的高濃度(すなわち、対照に比較して)に産生される。したがって、本発明のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは、神経外胚葉腫瘍、悪性アストロサイトーマならびにグリオブラストーマ、およびADに対する治療において活性を持ち得る。 本発明のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドには、S−オリゴヌクレオチド(ホスホロチオエート誘導体またはS−オリゴ、既述のJack Cohenを参照のこと)の様な誘導体が含まれる。S−オリゴ(ヌクレオシドホスホロチオエート)は、リン酸基の架橋していない酸素原子が硫黄原子で置き換えられているオリコヌクレオチド(O−オリゴ)の等電性類似体である。本発明のS−オリゴは、対応するO−オリゴを硫黄伝達試薬である3H−1,2−ベンゾジチオール−3−オン−1,1−ジオキシドで処理することによって製造することができる。Iyerらの、J.Org.Chem.55:4693−4698(1990)、およびIyerらの、J.Am.Chem.Soc.112:1253−1254(1990)を参照のこと(これらの開示は本明細書の一部を構成する)。
本明細書に示すNTPcDNAクローンの配列分析が示すように、NTPはPTP DNA配列と相同性でない配列を含んでいる(図9を参照のこと)。したがって、本発明のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは、NTPに特異的なそのような配列と相補的で、またそのような配列と安定してハイブリダイズするRNAおよびDNAであろう。PTPを特定するmRNAとはハイブリダイズせずNTPmRNAと選択的にハイブリダイズするために、この領域に相補的なオリゴヌクレオチドを使用することができる。好ましくは、本発明のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは:
1. 5’−CCGATTCCAACAGACCATCAT−3’[配列番号:1]、
2. 5’−CCAACAGACCATCATTCCACC−3’[配列番号:2]、
3. 5’−CCAAACCGATTCCAACAGACC−3’[配列番号:3]、および
の様なAD3−4cDNAの非相同性配列をコードするアンチセンスDNA分子の15〜30量体断片である。そのようなアンチセンスオリゴヌクレオチド(30量体)の例には:
1. 5’−CCTGGGCAACAAGAGCGAAAACTCCATCTC−3’[配列番号:4]、
2. 5’−ATCGCTTGAACCCGGGAGGCGGAGGTTGCG−3’[配列番号:5]、および
3. 5’−GGGGAGGCTGAGGCAGGAGAATCGCTTGAA−3’[配列番号:6]
が含まれる。
本発明には、本発明の少なくとも1種類のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドの有効量と医薬的に許容される担体との組み合せからなる医薬組成物も同様に含まれる。1つの態様として、単一のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用する。別の態様として、NTPゲノムの近傍領域に相補的な2種類のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用する。当該ゲノムの近傍領域に相補的な2種類のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはそれに対応するmRNAを投与して、NTPゲノムの転写もしくはmRNAの翻訳をより効率的に阻害し、NTP産生をより効果的に阻害することができるであろう。
NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドを、アンチセンス分子の細胞への取り込みを増強する薬剤と共に投与することが好ましい。例えば、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドを、リポソームの形であってもよい脂肪親和性のカチオン化合物と組み合わせることができる。細胞内にヌクレオチドを導入するためのリポソームの使用については、例えば米国特許番号4,897,355および4,394,448に示されている(これらの開示は本明細書の一部を構成する)。生物材料を含むリポソームを製造するための一般的方法については、米国特許番号4,235,871、4,231,877、4,224,179、4,753,788、4,673,567、4,247,411、および4,814,270も参照のこと。
あるいはまた、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは、コレステロール、コーレート、およびデオキシコール酸を含む多くのステロールのいずれとも組み合わせることができる。好ましいステロールはコレステロールである。
さらに、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは細胞が取り込むペプチドと結合させることができる。有用なペプチドの例には、ペプチドホルモン、抗原もしくは抗体、およびペプチド毒素が含まれる。新生物性細胞が選択的に取り込むペプチドを選択することによって、アンチセンス薬剤の特異的な輸送を行うことができる。次いで、選択するペプチドは、アミノおよびスルフィドリル反応性ヘテロ2機能性試薬を介して、活性化NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドと共有結合することができる。後者は、選択するペプチド中に存在するシステイン残基と結合する。選択するペプチドに結合するペプチドNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドに対する細胞のばく露において、ペプチヂルアンチセンス薬剤はエンドサイトーシスによって取り込まれ、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは標的NTPmRNAと結合して翻訳を阻害する(Haralambidらの、WO8903849、Lebleuらの、EP0263740)。
本発明のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびその医薬組成物は、その意図する目的を達成するためのいかなる方法によっても投与することができる。例えば、非経口的、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、または経皮経路により投与することができる。投与する用量は、レシピエントの年齢、健康、および体重、併用治療の種類(もしあれば)、治療頻度、および所望する効果の性質によるであろう。
本発明の範囲内の組成物には、対象癌細胞の増殖阻害および/または分化刺激を達成するか、またはADを軽減するために有効な量のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有するすべての組成物が含まれる。個々の要求は異なるが、各成分の有効量の最適範囲の決定は当業者が行う。一般には、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチドは、哺乳動物(例えばヒト)に、1日当たり、体重に応じて0.005〜1mg/kgの用量で投与することができる。また、それ相当する量のその医薬的に許容される塩を投与してもよい。
あるいはまた、アンチセンスオリゴヌクレオチドは2本鎖DNA(イントロン、エクソン、またはその両方を含む)の転写領域に結合し、三重らせんを形成することによってNTP遺伝子の転写と干渉するように計画して製造することができる(Froehlerらの、WO91/06626;Tooleの、WO92/10590)。三重らせんを形成するための好ましいオリゴヌクレオチドは、当該オリゴヌクレオチドの少なくとも2領域の極性が逆転しているオリゴヌクレオチドである(同上)。その様なオリゴヌクレオチドは、Lがオリゴヌクレオチド間の0〜10塩基のオリゴヌクレオチド結合を表す3'---5'-L-5'---3'、または5'---3'-L-3'---5'のような極性が反対であるタンデム配列を特徴とする。極性が逆になった形は、エキソヌクレアーゼによる分解に対して1本鎖オリゴヌクレオチドを安定化する(Froehlerら、既述)。好ましい三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドは配列番号1〜3に基づいている:
1.3’−TACTACCAGACAACCTTAGCC−5’−L−
5’−CCGATTCCAACAGACCATCAT−3’[配列番号:7]、
2.3’−CCGATTCCAACAGACCATCAT−5’−L−
5’−TACTACCAGACAACCTTAGCC−3’[配列番号:8]、
3.3’−CCACCTTACTACCAGACAACC−5’−L−
5’−CCAACAGACCATCATTCCACC−3’[配列番号:9]、
4.3’−CCAACAGACCATCATTCCACC−5’−L−
5’−CCACCTTACTACCAGACAACC−3’[配列番号:10]、
5.3’−CCAGACAACCTTAGCCAAACC−5’−L−
5’−CCAAACCGATTCCAACAGACC−3’[配列番号:11]、および
6.3’−CCAAACCGATTCCAACAGACC−5’−L−
5’−CCAGACAACCTTAGCCAAACC−3’[配列番号:12]。
したがって、三重らせんを形成するオリゴヌクレオチド1および2は、それぞれ3’[配列番号:1]5’−L−5’[配列番号:1]3’、および5’[配列番号:1]3’−L−3’[配列番号:1]5’で表される。三重らせんを形成するオリゴヌクレオチド3および4は、それぞれ3’[配列番号:2]5’−L−5’[配列番号:2]3’、および5’[配列番号:2]3’−L−3’[配列番号:2]5’で表される。三重らせんを形成するオリゴヌクレオチド5および6は、それぞれ3’[配列番号:3]5’−L−5’[配列番号:3]3’、および5’[配列番号:3]3’−L−3’[配列番号:3]5’で表される。もちろん、同様な三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドは配列番号:4〜6またはその断片を用いて製造することができる。
治療的応用において、三重らせん形成オリゴヌクレオチドは、既述した全身または局所投与を含む様々な投与法のために医薬製造物として製剤化することができる。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、既述のごとく当該分野の通常の技術を有する者によく知られたいずれの方法で製造してもよい。
リボザイムはmRNA機能を阻害する別の方法を提供する。リボザイムはRNA酵素、自己スプライシングRNA、および自己開裂RNAであってよい(Cechらの、Journal of Biological Chemistry 267:17479−17482(1992))。ある標的配列の途中に対するエンドヌクレアーゼ活性を有する新たなリボザイムを構築することができる。これらのリボザイムは様々な配列に作用することができるので、リボザイムは実質的にいかなるRNA基質のためにも計画することができる。したがって、リボザイムは特定の遺伝子の発現を阻害するための非常に融通性のある道具である。
クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼmRNAに対するリボザイムの構築に成功している(Haseloffらの、Nature 334:585ー591(1988);Uhlenbeckらの、Nature 328:596−600(1987))。このリボザイムには3つの構造ドメインが含まれる:1)開裂部位の5’方向の隣の高度に保存された配列、2)リボソームの自然発生する開裂ドメインを含む、塩基対ステム(軸)を形成する高度に保存された配列、および3)開裂部位の両側の隣にある、その開裂部位に関連するリボザイムの正確な配列および基質ならびに酵素の結合を確実にする領域。インビトロでRNA配列に特定の開裂を生じさせるのに適した、このモデルに従って構築されたRNA酵素がすでに提供されている(Haseloffら、既述)。
あるいはまた、活性部位がタバコ輪紋(ring spot)ウイルスの付随RNAのマイナス鎖から誘導されるヘアピンリボザイムを用いてもよい(Hampelらの、Biochemistry 28:4929−4933(1989))。最近、ヒト免疫不全ウイルス1型のRNAを開裂させるヘアピンリボザイムが計画された(Ojwangらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10802−10806(1992))。他の自己開裂RNA活性は肝炎デルタウイルスに関連している(Kuoらの、J.Virol.62:4429−4444(1988))。
既述の通り、NTPリボザイムの好ましい標的は、PTP配列と相同性でないヌクレオチド配列である。好ましくは、本発明のNTPリボザイム分子は、既述のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼリボザイムまたはヘアピンリボザイムに基づいて計画される。あるいはまた、NTPリボザイム分子は、化学的および酵素的分解に対する安定性が増強され、治療薬として有用な、触媒的活性を有するリボザイム構造を開示しているEcksteinらの記載(国際公開番号WO92/07065)に従って計画される。
別の研究方法において、外部ガイド配列(EGS)を、内在性リボザイムのRNアーゼPを細胞性リボザイムによって実質的に開裂される細胞内NTPmRNAに作用させるように構築することができる(Altmanらの、米国特許番号5,168,053)。NTP EGSには、NTPmRNA、およびNがプリンであることが好ましい3’−NCCAヌクレオチド配列に相補的な10〜15ヌクレオチド配列が含まれることが好ましい(同上)。NTP EGS分子を以下に既述するごとく細胞に供給してNTPmRNAと相補性NTP EGS配列の間に塩基対を形成し、さらに塩基対形成領域の5’側のヌクレオチドにおいてRNアーゼPによるNTPmRNAの開裂を促進することによって、この分子を標的とするNTPmRNAと結合させる(同上)。
本発明には、本発明の少なくとも1種類のNTPリボザイムまたはNTP EGSの有効量と医薬的に許容される担体との組み合わせとを含む医薬組成物も含まれる。NTPリボザイムまたはNTP EGSは、本リボザイムまたはNTP EGS分子の細胞への取り込みを増強する薬剤と併用投与することが好ましい。例えば、NTPリボザイムまたはNTP EGSは、既述したようにリポソームの形であってよい脂肪親和性カチオン化合物と組み合わせることができる。あるいはまた、NTPリボザイムまたはNTP EGSはコレステロール、コーレート、およびデオキシコール酸を含む多くのステロールのいずれかのような脂肪親和性担体とも組み合わせることができる。
本発明のNTPリボザイムもしくはNTP EGS、および医薬組成物は、その意図する目的を達成するための如何なる方法により投与してもよい。例えば、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、または経皮経路で投与することができる。投与する用量は、レシピエントの年齢、健康ならびに体重、もしあれば併用処置の種類、治療頻度、および所望する効果の性質に依存するであろう。例えば、700mgものアンチセンスオリゴヌクレオチドが、毒性徴候を示すことなく10日間のクールにわたって患者に静脈内投与されている(すなわち、0.05mg/kg/時)(Sterlingの、「Taystemic Antisense Treatment Reported」Genetic Engineering News 12(12):1,28(1992))。
本発明の範囲内の組成物には、対象癌細胞の増殖を阻害し、ならびに/もしくはその癌細胞の分化を促進するか、またはADを軽減するのに有効な量のNTPリボザイムまたはNTP EGSを含有するすべての組成物が含まれる。個々の要求は異なるが、各成分の有効量の最適範囲の決定は当業者が行う。
溶液中の未加工の化学薬品としてNTPアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、またはNTP EGSを投与することに加えて、この治療分子を、NTPアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、またはNTP EGSを加工処理して医薬的に使用し得る製造物治療分子とするのを促進する賦形剤および補助剤を含む適切な医薬的に許容される担体を含有する医薬製造物の一部として投与することができる。
非経口投与に適した製剤には、水溶性の形のNTPアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、NTP EGS(例えば水溶性塩)の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を適切な油状注射用懸濁液として投与することができる。適切な脂肪親和性溶媒またはビークルには、脂肪油(例えば、ゴマ油)または合成脂肪酸エステル(例えばエチルオレエートもしくはトリグリセリド)が含まれる。水性注射用懸濁液は、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、および/またはデキストランを含む、この懸濁液の粘性を増大させる物質を含有することができる。この懸濁液には安定化剤が含まれていることがあってもよい。
あるいはまた、NTPアンチセンスRNA分子、NTPリボザイム、およびNTP EGSは、好ましくはインビボで複製することができないビリオンの形で投与されるDNA構築物にコードされることができる(例えば、Taylorの、WO92/06693を参照のこと)。例えば、そのようなDNA構築物は、ヘルペスを基礎としたウイルスを用いて投与することができる(Gageらの、米国特許番号5,082,670)。あるいはまた、NTPアンチセンスRNA配列、NTPリボザイム、およびNTP EGSはレトロウイルスの様なビリオンの形で投与されるRNA構築物にコードされることができる。レトロウイルスベクターの製造法は当該分野でよく知られている(例えば、Brownらの、「Retroviral Vectors,」in DNA Cloning:A Practical Approach,第3巻,IRL Press,Washington,D.C.(1987)を参照のこと)。
中枢神経系における遺伝子発現の特異性は、細胞特異的エンハンサーおよびプロモーターの様な適切な細胞特異的調節配列を用いることによって与えることができる。例えば、そのような配列には、JCウイルスのオリゴデンドログリア特異的な発現、プロテオリピッドタンパク質のグリア特異的な発現、およびグリア線維性酸性タンパク質遺伝子を調節する配列が含まれる(Gageら、既述)。タンパク質のリン酸化は神経調節において重要であるため(Kennedyの、「Second Messengers and Neuronal Function,」in An Introduction to Molecular Neurobiology,Hall,Ed.,Sinauer Associates,Inc.(1992))、プロテインキナーゼプロモーター配列を用いて十分なレベルのNTP遺伝子発現を得ることができる。
したがって、遺伝子療法を用いてNTPが特定の形で不適切に発現するのを阻害することによりADを軽減することができる。さらに、遺伝子療法を用いてNTPの特定の形の適切な発現レベルをもたらすことによりADを軽減することができる。この場合には、特定のNTP核酸配列を、既述したウイルスの形で投与するDNAまたはRNA構築物にコードすることができる。あるいはまた、「ドナー細胞」を、NTP配列を含むウイルスもしくはレトロウイルスベクターを用いるか、または外来DNAを細胞内に導入するための他のよく知られた技術を用いてインビトロで修飾することができる(例えば、Sambrookら、既述、を参照のこと)。そのようなドナー細胞には、線維芽細胞、神経細胞、グリア細胞、および結合組織細胞が含まれる(Gageら、既述)。遺伝子操作後、ドナー細胞を中枢神経系に移植し、遺伝的に修飾した細胞に治療型のNTPを提供する(既述)。
さらに、そのようなビリオンは、脳に輸送するために血流中に導入することができる。これは血液脳関門の浸透性を破壊した後にビリオンを投与することによって成し遂げられる(例えば、Neuweltの、米国特許番号4,866,042を参照のこと)。血液脳関門はマンニトール、アラビノース、またはグリセロールの様な医薬的に活性な無毒性の高張溶液を投与することによって破壊することができる(既述)。
大腸菌中の以下のクローンは、ブダペスト条約に従って、American Type Culture Collection(12301 Parklawn Drive,Rockville,Maryland,20852)に寄託された:G2−2 PstI−DH5(ATCC No.69257);G5d−PstI−DH5(ATCC No.69258);1−9a−LX−1 blue(ATCC No.69259);AD3−4−DH1(ATCC No.69260);HB4−XL−blue(ATCC No.69261);AD10−7−DH1(ATCC No.69262);AD2−2−DH1−(ATCC No.69263);G5d−1PstI−EcoRI−DH5(ATCC No.69264);およびG2−2PstI−EcoRI-DH5(ATCC No.69265)。
本発明における一般的な記載は、例示のために示された以下の実施例に対する引用例によってより容易に理解されるであろうが、これらは特に示さない限り本発明を制限することを意図するものではない。
実施例1
細胞株におけるNTP免疫反応性の発現
中枢神経系由来の細胞株7株について、膵臓型の糸状タンパク質に対して生じた(Grossらの、J.Clin.Invest.76:2115−2126(1985))、脳組織および脳脊髄液中に存在する糸状タンパク質と交差反応する(Ozturkらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:419−423(1989);de la Monteらの、L.Clin.Invest.86:1004−1013(1990);de la Monteらの、J.Neurol.Sci.113:152−164(1992);de la Monteらの、Ann.Neurol.32:733−742(1992))Th9モノクローナル抗体を用いて、糸状タンパク質に対する免疫反応性を発現することを確認した。それらの中には以下のものがあった:初期神経外胚葉腫瘍(PNET)細胞株2株、PNET1およびPNET2;グリオブラストーマ細胞株3株、Hgl 16、Hgl 17、およびC6;グリア細胞株A172;および神経芽細胞腫細胞株SH−Sy5y。グリオブラストーマ細胞株およびA172細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC)から得た。SH−Sy5y細胞はSloan−Kettering記念病院のDr.Biedlerから得た。PNET細胞株は以前に記載されており(Theらの、Nature genetics 3:62−66(1993)、MGH癌センターのDr.Rene’Bernardsから得た。すべての細胞株は10%ウシ胎児血清添加、抗生物質不含Earl変法Eagle培地中で維持した。
細胞の糸状タンパク質および他の免疫反応性を試験するために、2mM EDTAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(137mM NaCl、2.7mM KCl、4.3mM Na2HPO4、1.4mM KH2PO4(pH7.3))中に回収し、スライド当り105細胞を用いてサイトスピン標本を作製した。サイトスピン標本を100%メタノール(−20℃)中で速やかに固定し、風乾し、使用するまで−80℃に保存した。スライドを室温で平衡化し、PBSで水和した後、免疫染色を行った。非特異的な抗体結合を3%非免疫ウマ血清でブロックした。同じ培養からの複製サイトスピン標本を、一次抗体5または10μg/mLと4℃で一夜インキュベーションした。免疫反応の証明は、Vectastain Elite kit(Vector Laboratories,Burlingame,CA)をメーカーのプロトコールに従って用い、さらにクロモゲンとして3−3’ジアミノベンジジン(0.5mg/mL + 0.03%過酸化水素)を用いるアビジン−ビオチンホースラディッシュパーオキシダーゼ法によって行った。次に、細胞をヘマトキシリンで対比染色し、段階的アルコール溶液中で脱水し、キシレンで透徹して、Permount(Fisher Scientific)を用いてカバーグラス下に保存した。
各細胞株のサイトスピン標本を糸状タンパク質モノクローナル抗体Th9、Th7、Th10、Th29、Th34、TH46、Th67、およびTh90を用いて免疫染色した。さらに、複製スライドを陽性(ニューロフィラメント、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ならびにビメンチン)および陰性(デスミン、B型肝炎表面抗原−5C3)対照モノクローナル抗体によって免疫染色した。発明者の研究室で作製した5C3(Fujitaらの、Gastroenterology 91:1357−1363(1986))を除く対照抗体は購入した(Boehringer−Mannheim)。すべての血清学的試薬は1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで希釈し、一次抗体を除くすべてのインキュベーションは加湿チャンバー内で室温で行った。スライドは各工程の間でPBSを3回交換して洗浄した。
PNET1細胞およびPNET2細胞は共に、高分子量ならびに中分子量のニューロフィラメントタンパク質を発現し、グリア線維性酸性タンパク質またはビメンチンはほどんどあるいは全く発現しなかった。PNET1、PNET2、およびSH−Sy5y細胞は、未成熟ニューロンおよび再生細胞増殖を受けたニューロン中に高度に発現する豊富なカルモジュリン結合リンタンパク質であるGAP−43を発現した(Benowitzらの、J.Neurosci.3:2153−2163(1983);DeGraanらの、Neurosci.Lett.61:235−241(1985);Kalilらの、J.Neurosci.6:2563−2570(1986))。A172細胞およびC6細胞はGFAPおよびビメンチンを発現した。しかし、A172はニューロフィラメントに対する免疫反応性をも示し、それが純粋にグリア細胞の性状を持つかに対する疑問が生じた。いずれの細胞株もデスミンまたはB型肝炎表面抗原に対するモノクローナル抗体との免疫反応性を生じなかった。陰性対照細胞株として肝細胞癌細胞株Huh7も同様に免疫染色し、既述の抗体との免疫反応性を示さないことが示された。しかし、Huh細胞は、本細胞株の陽性対照として用いられるインスリン受容体基質タンパク質のIRS−1に対するモノクローナル抗体(Sasakiらの、J.Biol.Chem.268:1−4(1993))との免疫反応性を示した(データ示さず)。
Th9モノクローナル抗体を用いて、糸状タンパク質に対する免疫反応性を、原発性PNET(A)、原発性グリオブラストーマ(F)、PNET1(B)、およびC6細胞(G)において検出したが、肝細胞癌細胞株では検出されなかった(図1A−1J)。さらに、Th9免疫反応性を、試験した原発性ヒトCNS PNET8〜9株および原発性ヒトグリオブラストーマ5株すべての組織切片において検出した(図1A−1J)。細胞株5株はすべてTh9モノクローナル抗体との強い免疫反応性を示したが、これら細胞株の他のThモノクローナル抗体に対する免疫反応性に差がみられた。Th10(C、H)、Th7(D、I)、またはTh46モノクローナル抗体によって生じる免疫染色反応は、PNET1(C−E)およびC6(H−J)において低レベル(C、D)であるか、または欠如していた(H、I、E、J)。PNET2細胞はTh7およびTh29と低レベルの免疫反応性しか示さず、他のThモノクローナル抗体では免疫染色されなかった。A172、C6、およびSH−Sy5y細胞はTh9以外のThモノクローナル抗体とほとんどまたは全く免疫反応性を示さなかった。Huh7細胞は使用した如何なる糸状タンパク質モノクローナル抗体とも免疫応答性を示さなかったが、ヒト膵臓組織は精製膵臓型糸状タンパク質に対して生じたTh抗体すべてと免疫反応性を示した(Grossの、J.Clin.Invest.76:2115−2126(1985))。
実施例2
モノクローナル抗体に基づく免疫放射測定アッセイ(M−IRMA)による糸状タンパク質の分析
培養細胞をPBSで洗浄し、2mM EDTAを含むPBS中に回収した。細胞を1000×g、15分間遠心して沈さとし、さらに50mMトリス−HCl(pH7.5)、1%Triton X−100、2mM EGTA、10mM EDTA、100mM NaF、1mM Na4P2O7、2mM Na3VO4 、100μg/mLフェニルメチルスルホニルフロリド、1μg/mLアプロチニン、1μg/mLペプスタチンA、および1μg/mL ロイペプチンを含む溶解緩衝液中に再浮遊させた。溶解物を14,000×g、10分間遠心して得た上清分画をウエスタンブロット分析、免疫沈降試験、およびM−IRMAに用いた。タンパク質濃度はローリー比色分析法によって測定した。試料は−40℃に保存した。
M−IRMAは、細胞溶解物、組織培養液、組織ホモゲネート、および体液中のpモラーのNTPを定量することができる高感度の2または3部位前方サンドイッチアッセイである(Ozturkらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:419−423(1989);de la Monteらの、J.Clin.Invest.86:1004−1013(1990);de la Monteらの、J.Neurol.Sci.113:152−164(1992);de la Monteらの、Ann.Neurol.32:733−742(1992);Grossらの、J.Clin.Invest.76:2115−2126(1985))。さらに、SDS−PAGEと組み合わせると、M−IRMAを用いて糸状タンパク質および関連タンパク質の分子サイズを決定することができる(Ozturkらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:419−423(1989);de la Monteらの、J.Clin.Invest.86:1004−1013(1990);de la Monteらの、J.Neurol.Sci.113:152−164(1992);de la Monteらの、Ann.Neurol.32:733−742(1992))。M−IRMAには、固相マトリックスに固定したモノクローナル抗体Th7およびTh10を用いて生物試料中に存在する免疫反応性糸状タンパク質を捕捉し、次いで当該タンパク質に対する第三放射能標識トレーサーモノクローナル抗体(Th9)を用いて捕捉した抗原を検出することが含まれる。簡単には、1/4”ポリスチレンビーズ(Precision Ball,Inc)を糸状タンパク質(通常Th7+Th10)に対する1または2種類のモノクローナル抗体でコートした。細胞溶解物または組織ホモゲネートの上清分画(Ozturkらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:419−423(1989);de la Monteらの、J.Clin.Invest.86:1004−1013(1990);de la Monteらの、J.Neurol.Sci.113:152−164(1992);de la Monteらの、Ann.Neurol.32:733−742(1992))を当該コートしたビーズと一夜インキュベーションし、試料中に存在する糸状タンパク質を捕捉する。このビーズをPBSで5回洗浄し、次いでトレーサーとして125I標識Th9とインキュベーションし、捕捉された糸状タンパク質を検出する。細胞溶解物または組織ホモゲネート中の糸状タンパク質濃度を、既知量の精製糸状タンパク質によって作製した標準曲線から決定した。この高感度のアッセイは溶液中のわずか10pモルもの糸状タンパク質を検出することができる。SDS−PAGEで分画した糸状タンパク質をアッセイするために、湿潤したゲルを2mm間隔でスライスし、当該タンパク質をPBS0.5mL中で室温で24時間振とうすることにより溶離した。この溶離物中の糸状タンパク質をM−IRMAによって直接アッセイした。
Th7、Th10、Th34、およびTh29によるPNET1細胞の広範な免疫細胞化学染色に対応するこれらの細胞の糸状タンパク質に対する免疫反応性をM−IRMAによって容易に測定した。換言すれば、Th7、Th10、Th34、およびTh29モノクローナル抗体(MoAb)を単一でかまたは2種類を一緒にして捕捉抗体として用い、125I標識Th9をトレーサーに用いて、同様に高レベルの糸状タンパク質を測定した(図2)。反対に、Th9と強い免疫反応性を示すが、抗原を捕捉するために用いたThモノクローナル抗体ではほとんどまたは全く免疫細胞化学的に染色されないPNET2、C6、およびA172細胞において、M−IRMAによって検出される糸状タンパク質レベルは、PNET1細胞において測定されるものよりはるかに低かった(図2)。同様に、いかなる糸状タンパク質モノクローナル抗体による免疫細胞化学染色も示さなかったHuh7細胞の細胞溶解物中の糸状タンパク質は、M−IRMAによって実質的に検出不能なレベルであった。細胞溶解物中の糸状タンパク質濃度は、Th7およびTh10を捕捉抗体に用いる精製PTPを用いて作製した標準曲線から計算した。総タンパク質1mg当りの平均S.D.pgで表した結果は以下の通りである:PNET1−13.1±0.39;PNET2−2.06±0.10;A172−3.38±0.37;C6−2.52±0.22;およびHuh7−0.34±0.05。
実施例3
腫瘍細胞株の神経糸状タンパク質の特徴づけ
ウエスタンブロット分析において、タンパク質100μgを含む試料を、予め標識した分子量標準と共にSDS−PAGEによって分画化した。タンパク質を、半乾燥トランスファー装置(Integrated Systems)を用いてナイロン膜(Immubilon−Pトランスファー膜、Millopore)上にブロットした。膜をトリス緩衝生理食塩水(TBS;10mMトリス、0.85%塩化ナトリウム、pH7.5)で洗浄し、次いで3%BSAを含むTBSでブロックした。ブロットしたものを125I標識Th9モノクローナル抗体と4℃で一夜インキュベーションした。膜を室温でTBS−BSA中、15分3回、さらに30分1回洗浄することにより非特異的に結合したプローブを除去した。結果はコダックXARフィルムを用いるオートラジオグラフィーによって分析した。
免疫沈降試験用の試料を調製するために、タンパク質約1mg/mLを含む細胞溶解物試料1mLを免疫沈降試験に用いた。この溶解物を最初に非関連抗体(5C3または抗デスモシン)で、次いでプロテインAセファロースで予めきれいにする。糸状タンパク質はTh9 5〜10μgおよびプロテインAセファロースを用いて免疫沈降させた(Sasakiらの、J.Biol.Chem.268:1−4(1993))。遠心によって回収した免疫複合体を2%SDSおよび10mM β−メルカプトエタノールを含む緩衝液中に再懸濁し、変性および還元条件下でSDS−PAGEにかけた(同上)。粗細胞溶解物(100μgタンパク質)を同様に分析した。タンパク質をImmobilon−P膜上にブロットし、125I標識(同上)Th9をプローブとして糸状タンパク質および関連分子を検出した。B型肝炎表面抗原(5C3)またはデスミンに対するモノクローナル抗体を用いて、同時に陰性対照試験を行った。
100mm2ペトリ皿中で培養した単層の細胞を用いて代謝標識試験を行った。標識前に、細胞をメチオニンおよびシステイン不含培地に2時間ばく露した。ついで、培地を[35S]メチオニンまたは[35S]システイン各300μCiを含むDMEM3mLに置き換えた。3時間標識した後、細胞を様々な間隔で、放射性標識したアミノ酸を含まない10mMメチオニン添加完全培地でインキュベーションした。細胞溶解物を既述のごとく調製した。糸状タンパク質をTh9モノクローナル抗体およびプロテインAセファロースを用いて免疫沈降させ、免疫沈降生成物をSDS−PAGEおよびフィルムオートラジオグラフィーによって分析した。
インビボのリン酸化試験において、代謝標識試験について記載したごとく培養した細胞をTBSで2回洗浄し、10%透析ウシ胎児血清を含むリン酸不含Dulbecco’s MEMで2時間インキュベーションした。次に、細胞をTBSで洗浄し、[32P]オルソリン酸400μCi/mLを含む同じ培地で3時間インキュベーションした。細胞溶解物を糸状タンパク質、および陽性(p36)ならびに陰性(デスミン)対照モノクローナル抗体との免疫沈降、次いでSDS−PAGEによって分析した。
神経糸状タンパク質のグリコシル化状態を試験するため、タンパク質約100μgを含む細胞培養溶解物をSDS−PAGEにかけ、分画化したタンパク質をImmobilon−P膜(Millipore)に移した。O−およびN−グリカンを、ペリオデート酸化、次いでビオチニル化により、さらにStreptavidin−アルカリホスファターゼプローブおよび比色分析用基質としてNBT/BCIPを用いるウエスタンブロット分析によって検出した。本アッセイは、GlycoTrack Kit(Oxford Glycosystems,Rosedale,NY)をメーカーのプロトコールに従って用いることにより行った。
Th9免疫反応性タンパク質を、4つの異なる方法によってPNET1、PNET2、SH−Sy5y、C6、およびA172細胞の溶解物中に検出した:ウエスタンブロット分析、免疫沈降後のウエスタンブロット分析、代謝標識後の免疫沈降、およびSDS−PAGEとM−IRMAとの組み合せ。125I標識Th9を用いる粗細胞分解物のウエスタンブロット分析によって、上記細胞株において〜21kDaのバンド(図3中の矢印で表示)が示されたが、その信号強度は弱かった。反対に、ヒトすい臓組織の分解物では、予想された17kDaの非開裂型および14kDaの開裂型のすい臓糸状タンパク質がウエスタンブロット分析によって容易に検出された(図3)。糸状タンパク質は、ヒト肝細胞癌細胞株の溶解物中に検出されなかった。神経およびグリア細胞株と比較してすい臓組織中の糸状タンパク質が著しく大量であったことは、脳組織および脳脊髄液と比較してすい臓およびすい液中の糸状タンパク質濃度が106倍高かった以前の知見と一致している(Ozturkらの、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:419−423(1989);de la Monteらの、J.Clin.Invest.86:1004−1013(1990);de la Monteらの、J.Neurol.Sci.113:152−164(1992);de la Monteらの、Ann.Neurol.32:733−742(1992))。PNETおよびグリア細胞によって合成された糸状タンパク質がPTPおよびNTPの場合と同様に分泌されると予想する者もあるであろうが、糸状タンパク質は、ウエスタンブロット分析において、組織培養培地を凍結乾燥により4ないし5倍に濃縮した後も培地中に検出されなかった。
Th9免疫反応性糸状タンパク質は、TH7+Th10もしくはTh9のいずれかを用いて溶解物から最初の免疫沈降を行い、次いで125I標識Th9(直接)または125I標識プロテインAと非標識Th9(間接)を用いるウエスタンブロット分析を行うことによって、PNETおよびグリア細胞中により容易に検出された(図3)。 2つの方法においても、ウエスタンブロット分析によって検出されたものと同様の21kDa糸状タンパク質関連タンパク質が検出された。さらに、PNETおよびグリア細胞において〜17kDaのバンドも観察されたが、その信号はウエスタンブロット分析によって検出されたものと同様、一致せず、低レベルであった。陰性対照として、Huh7、HepG2、およびFOCUS(Lunらの、In Vitro(Rockville)20:493−504(1984))ヒト肝細胞癌細胞株を同様の条件下で同時に試験し、それらの細胞溶解物中にTh9免疫反応性タンパク質を検出しなかった。
PNETおよびグリア細胞中に存在する糸状タンパク質の分子サイズは、35S−メチオニンまたは35S−システインによる代謝標識、次いでTh9モノクローナル抗体を用いる免疫沈降によって最も顕著に証明された。デスミンまたはB型肝炎表面抗原(5C3)に対するモノクローナル抗体を免疫沈降の陰性対照として使用した。PNETおよびグリア細胞株において、〜26および〜21kDa Th9免疫反応性タンパク質が免疫沈降生成物のSDS−PAGE分析によって検出された(図4B)。PNET1細胞において、21kDaのバンドが二重に見えた(図4A);付随するわずかに高い分子量のバンドは〜21kDaの主バンドより大きくないようであった。さらに、PNETおよびグリア細胞株において、〜21kDaのバンドとほぼ同じ強度のバンドと関連する〜17kDaのTh9免疫反応性タンパク質も認められた。C6細胞において、PNET細胞では検出されない〜26kDa、〜14ー15kDa、および〜8kDaのTh9免疫反応性タンパク質も認められた(図4Aおよび4B、矢印)。
SDS−PAGE/M−IRMAから、21kDaならびに17kDaの糸状タンパク質はSh−Sy5y、PNET1、A172、ならびにC6細胞中には認められるが、肝細胞癌細胞中には認められないことが明らかとなった(図5A−5E)。SDS−PAGEによって分画化した細胞タンパク質を2mm間隔でスライスしたゲルから溶離し、Th7+Th10を捕捉抗体に、125I標識Th9をトレーサーに用いるM−IRMAによって、糸状タンパク質を直接アッセイした。低レベルにもかかわらず、2つの明瞭なピークがすべての神経外胚葉細胞株に認められたが、同時に同じ方法でアッセイしたHuh7肝細胞癌細胞株には本ピークは認められなかった。これらゲルの解像度では、存在しているかもしれない〜14−15kDaのタンパク質と〜17kDaのタンパク質を区別できなかった。
PNET1およびC6細胞を32Pまたは35Sメチオニンで代謝標識し、Th9モノクローナル抗体を用いて糸状タンパク質を溶解物から免疫沈降させた(図6)。陰性対照として、細胞溶解物とデスミンに対するモノクローナル抗体を同じ割合で用いて免疫沈降試験を行った。(図6、右図)。35Sメチオニンで標識した細胞において、Th9免疫反応性バンドが、〜26kDaならびに〜21kDa(上の矢印)、〜17kDa(下の矢印)、および〜14−15kDaにも検出された(図6)。32P標識後に、21kDのバンドのみがTh9モノクローナル抗体による免疫沈降によって観察された;他の分子量のバンドはリン酸化されていないようであった(図6)。リン酸化したTh9免疫反応性タンパク質はC6細胞において検出され、PNET1細胞では検出されなかったが、これはPNET1細胞はC6細胞より増殖が遅いため標識効率が悪かったことによるのかも知れない。免疫沈降にデスミンに対するモノクローナル抗体を用いると、14kDa〜26kDaの範囲のバンドは検出されなかった(図6)。Th9免疫沈降タンパク質中に炭水化物成分は検出されなかった(データ示さず)。
糸状タンパク質濃度は、PNET1細胞のコンフルエント前(すなわち、対数増殖期中)の培養中において最高濃度を示し、一夜の血清欠乏培養(増殖停止)において最低濃度を示した(図7)。100%コンフルエントとなった培養における糸状タンパク質の発現も、増殖期の培養に比べて低レベルであった。Huh7肝細胞癌細胞(陰性対照)についても同じ培養条件で同時に試験したが、糸状タンパク質レベルは全体を通じて低いままであった。
驚くべきことに、これらの様々な条件下で培養したPNET細胞の糸状タンパク質免疫細胞化学染色の程度に変化が見られなかった。しかしながら、M−IRMA測定によって変化する糸状タンパク質レベルの程度は、免疫細胞化学によって検出不能であるように思われる。それにもかかわらず、血清の欠乏によって誘発された細胞糸状タンパク質含有量の減少は、細胞の表現型の変化と関連していた。細胞が100%コンフルエントとなったとき、または細胞を一夜血清欠乏状態においた後において、細胞体の大きさは減少し、ニューロフィラメントタンパク質、GAP−43、およびGFAPに対する免疫反応性の程度ならびに分布の顕著な変化が認められた(図8)。50%コンフルエントのPNET培養において、細胞はニューロフィラメントの斑点状ならびにしばしば極性分布、およびGAP−43免疫反応性を示したが、100%コンフルエントならびに血清欠乏PNET培養では、ニューロフィラメントおよびGAP−43に対するび慢性の核周囲部における免疫反応性が認められた。び慢性の免疫反応性は神経突起におけるニューロフィラメントおよびGAP−43の分布と関連があるものと思われる。反対に、50%コンフルエントPNET培養ではGFAPに対する免疫反応性がみられなかったが、100%コンフルエントおよび血清欠乏培養にはGFAP陽性細胞が顕著な割合で認められた。さらに、GFAP免疫反応性細胞の割合は、100%コンフルエント血清欠乏培養において最も大きく、次いで10%ウシ胎児血清添加培地による100%コンフルエント培養が大きかった。したがって、一夜血清欠乏としたPNET細胞において測定された糸状タンパク質レベルの低下は、細胞のアストロサイト表現型への分化によるものであろうと思われる。C6細胞および他のグリオブラストーマ細胞株はTh9モノクローナル抗体との強い免疫反応性を示したが、M−IRMAによって測定した糸状タンパク質レベルはしばしば低く、これはおそらくTh7およびTH10を含む他の糸状タンパク質抗体との免疫反応性が低レベルであることによるものであろう(図1A−1Jを参照のこと)。
実施例4
ヒトcDNAライブラリーからの糸状タンパク質のクローニング
17〜18週齢の胎児脳から作成したヒト脳cDNAライブラリー(Stratagene,Inc.,La Jolla,CA)、2年齢の側頭葉新皮質(Stratagene)、及び最終段階のアルツハイマー病大脳皮質(In Vitrogen;San Diego,CA)をラットPTPcDNAのヌクレオチド235〜650に対応する416bpDNAフラグメントから作成したプローブを用いてスクリーニングした。O18と呼ばれるラットPTPcDNAは、公表された配列のヌクレオチド45〜104及び345〜404に対応する合成60マー(量体)DNAプローブを用いてラット膵臓cDNAライブラリーから単離した[テラゾノ(Terazono)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),263巻,2111〜2114頁,(1988年);ワタナベ(Watanabe)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),265巻,7432〜7439頁,(1990年)]。各ライブラリー由来の約2×106のプラーク又はコロニーを標準的な方法[サンブルーク(Sambrook)ら,前掲参照]を用いるローストリンジェンシーハイブリダイゼーションでもってスクリーニングした。推定上のクローンをプラーク/コロニー精製し、DNA挿入物をT7ポリメラーゼ(USBシークエナーゼ;United States Biochemical Corp.,Cleveland,OH)を用いるジデオキシヌクレオチド チェイン ターミネーション法により配列決定した。この配列をGenebankデータベースと比較し、他の糸状タンパク質cDNAの核酸配列とともに配列させた。
1.ヒト胎児脳ライブラリーから単離されたCNS神経糸状タンパク質cDNA
小断片のみが読み取り枠に対応し、残りは3’非翻訳領域に対応する1.35キロベース(kb)の1−9aCNS糸状タンパク質の部分的cDNAを単離した(図9A)。さらなる150ヌクレオチドの配列を5’アンカーPCR増幅生成物から得た。2回目の5’アンカーPCR増幅によりさらに600bp上流の生成物を得た(図9B)。1−9a cDNA配列の部分はヒトPTPcDNAの5’末端及びReg遺伝子に有意の相同性を共有している(図10B)。さらに、始めの5’アンカーPCR増幅生成物はReg遺伝子の5’末端と60%の相同性を有し、ヒトReg遺伝子のエクソン2と63%の相同性を有している(図10C)。さらに、1−9a cDNAの590bpの5’末端フラグメントから作成したプローブをヒト脳及び膵臓mRNAとハイブリダイズさせた(図12A−12C)。1−9a配列はまた、これらの完全な配列の一方の末端においてオーバーラップがかなりあるという点においてAD2−2及びAD3−4 cDNAと相同でもある(図10C)。
2.2年齢の側頭皮質ライブラリーから単離したCNS神経糸状タンパク質cDNA
HB4クローンは2年齢の側頭皮質ライブラリーから単離した593塩基対の部分的cDNAである。このcDNAは5’末端に読み取り枠を含みヌクレオチド275で終結している。ヌクレオチド475で始まるポリアデニル化シグナルがありこの配列はポリ−Aテールで終わる(図11D)。部分的HB4クローンの推論されるアミノ酸配列は、分子量10.4kDaでpIが12.1のタンパクを予言する。HB4cDNAはヒトPTPcDNA(図11E)、ヒトReg遺伝子断片(図11E)と核酸全体で50%の相同性を示す。
3.アルツハイマー病ライブラリー由来の神経糸状タンパク質cDNAの単離
O18ラットPTPcDNAプローブを用いて4つの関連するcDNAをAD脳ライブラリーから単離した。これらのクローンはAD2−2、AD3−4、AD4−4及びAD16c(AD10−7とも呼ばれる)と命名されている(図16D−16S)。
AD2−2cDNAはおよそ1.2kbであり、1−9a cDNA、AD16c、ラットPTPcDNA及びヒトReg遺伝子のエクソン1と有意の相同性を共有している(図17)。AD2−2プローブはAD3−4プローブで得られるのと同様のゲノムサザンブロットパターンを生じる。図16EはAD脳ライブラリーから単離されたAD2−2cDNAクローンの完全なヌクレオチド配列を示す。ランダムプライマーは膵臓RNAを有するグリアセルライン(細胞株)とはハイブリダイズしないがヒト脳及びニューロン試料とハイブリダイズするこの配列に基づいてプローブを生じる。
図16F、16I、16J及び16KはAD脳ライブラリーから単離されたAD3−4cDNAクローンの部分的なヌクレオチド配列を示している。ランダムプライマーで生じたAD3−4プローブは、1.6kB及び3.4kBの2つのmRNA転写物を生じた。これらのmRNAの種はAD脳において過剰に発現し、同年齢の対照と比較すると平均で2倍上昇する(N=8)。
AD3−4cDNA1.6kbクローンは同時に単離された別のクローン(AD5−3)と同一である(図18B)。AD3−4/AD5−3cDNAは1−9a 5’アンカーPCR生成物と実質的な相同性を示し(図18C)、同様にヒトReg遺伝子及びGen2a−EPゲノムクローンと実質的な相同性を示す(図18C)。AD3−4プローブによるヒトゲノムDNAのサザンブロット分析はAD2−2プローブにより得られたものと同様のパターンを示した。
図16L及び16MはAD4−4の部分的ヌクレオチド配列を示し、これは同時に単離された別のcDNA(AD3−5)と同一である0.8kbの部分的cDNAクローンである。このAD4−4クローンはAD2−2及び1−9a cDNAと実質的に相同な配列を共有している(図19)。図16iはAD脳ライブラリーから単離された部分的なcDNAクローンの完全なヌクレオチド配列を示している。このcDNAは脳及びニューロンセルラインmRNAとハイブリダイズし、1.4kBの転写物を単独で生じた。
図16Oは、AD2−2と72%相同である0.5kbの部分的なcDNAクローンAD16c(AD10−7とも呼ばれる)のヌクレオチド配列を示しており、これもまたヒトPTP及びヒトReg遺伝子配列とともに並んでいる(図20B及び20C)。
図16RはAD脳ライブラリーから単離されたAD10−7クローンの完全なヌクレオチド配列を示している。アンチセンスcRNAプローブ又はDNAプローブを生じるランダムプライマーのいずれかを用いるノーザンブロットのハイブリダイゼーションは、ニューロン細胞において2.6、1.9、1.4及び0.9kBのmRNA転写物を検出した。ニューロンセルラインは最も大きい2つの転写物のみを発現し、一方成熟した成人のヒトの脳は最も小さい2つの転写物を主に発現し、低いレベルか又は検出不可能なレベルの2.6kB及び1.9kBの転写物を発現した。ヒトの肝臓、卵巣、ファローピウス管、結腸、胃、脾臓、直腸、甲状腺、12週目の胎盤及び腎臓から得られたRNAのAD10−7プローブを用いるノーザンブロット分析はネガティブであった。
図16SはAD脳ライブラリーから単離されたAD16c cDNAクローンの完全なヌクレオチド配列を示している。DNAプローブを生じるランダムプライマーを用いるノーザンブロットのハイブリダイゼーションからAD10−7クローンで得られた結果と同じ結果を得た。AD16cクローンはAD10−7と同一に近い650bpの断片を共有している。さらにノーザンブロット分析により年齢対照脳と比較してAD16cmRNAのレベルの上昇がAD脳において検出された。
実施例5
脳糸状タンパク質遺伝子発現の分析
糸状タンパク質mRNA発現は以下の神経外胚葉腫瘍誘導セルラインにおいて試験した;PNET1及びPNET2と命名されている中枢神経系初期神経外胚葉腫瘍細胞;HGL−16及びHGL−17ヒトグリア芽腫細胞;A172ヒトグリオーム細胞;C6ラットグリオーム細胞;及びSH−Sy5y神経芽腫細胞。さらにアルツハイマー病の患者又は神経学的疾病のない患者(年齢対照)由来のヒト脳組織、及び胚の及び生後発達するラット脳を糸状タンパク質mRNA発現について分析した。ヒト及びラット膵臓から抽出したRNAはポジティブな対照として用いた。
RNAは5M グアジニウムイソシアナート中で抽出し、次いで塩化セシウムのステップグラジェントで遠心分離することにより単離した[サンブルーク(Sambrook)ら,前掲参照]。RNAを260nm及び280nmの吸収を測定することにより定量した。糸状タンパク質mRNA転写物の大きさをノーザンブロット分析により分析し、発現のレベルをRNAドットブロットハイブリダイゼーションにより評価した。ノーザンブロット分析は細胞全RNA 15μgを含む試料を1%アガロース−ホルムアルデヒドゲルで電気泳動することにより行った。RNAをナイロン膜に移し、紫外線で架橋させて1−9a cDNAクローンの600bpフラグメントから作成したプローブとハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション実験で用いたフラグメントはヒトPTPcDNAと最も相同な領域を含んでいる。プローブはランダムプライマー法(Amersham Corporation;Arlington Heights,IL)により[32P]α−dCTPで標識した。ブロットは50%ホルムアミド、5×SSPE、10×Denhardt’s(100×Denhardt’sは2%フィコール、2%ウシ血清アルブミン、2%ポリビニルピロリジンである)、0.5% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、及び100μg/mlのせん断し失活させたサケの精子DNAを含む緩衝液中、2×106dpm/mlのプローブでもって42℃で一晩ハイブリダイズさせた。膜を標準的な方法を用いて0.25%SDSを含むSSPE中で洗浄した。オートラジオグラムは膜を−80℃にてKodak XARフィルムにさらすことによって作成した。続いて膜からプローブを除いた後、18sRNAに対応する合成30マーと再度ハイブリダイズさせて試料のローディングを評価した。
1−9a cDNAから作成されたプローブを用いる全細胞RNAのノーザン分析により中枢神経系(CNS)腫瘍セルラインにおける2つの主要な転写物が現れた。転写物の1つは1.6kbで他方は0.9kbであった(図12A)。さらに、SH−Sy5y神経芽腫及びPENET1セルラインにおいてはより大きい4.2kbのmRNA転写物も検出された。4.2kbの転写物は前処理されたmRNAを示すのかもしれない。同じ大きさの転写物が成体(R.Brain)及び新生(NB)ラットにおいて検出されたが0.9kbの転写物は成体の脳においてより多く、一方、1.6kbの転写物は新生ラットの脳においてより多かった。ラット膵臓(R.Panc.)においては0.9kBの転写物のみが検出され、これはラットPTPmRNAの大きさに相当する[テラゾノ(Terazono)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),263巻,2111〜2114頁,(1988年);ワタナベ(Watanabe)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),265巻,7432〜7439頁,(1990年)]。mRNA転写物は正常な肝臓からは検出されなかった(Nl Liver)。1−9a cDNAの3’領域から作成したプローブを用いると、0.9kbの転写物ではなく1.6kbの転写物が現れた(図12B)。5’最末端の1−9a cDNAに対応する30マーのプローブを用いるとより高い分子量のmRNA転写物が検出された(図12C)。0.9kbの転写物もブロットをより長く露出させると明らかになった。
ヒト脳RNAのノーザン分析によって主に1.6kbの転写物が現れたが、1.2kb、0.9kb及び0.8kbの2つの、時には3つのより小さな転写物も現れた(図13B)。セルラインにおける結果とは対照的に4.2kbのmRNA転写物は成人のヒト脳においてまれにしか観察されなかった。ヒト膵臓とのハイブリダイゼーションにより0.8kbの転写物が現れ、これはPTPmRNAの大きさに相当する。1−9aプローブを用いてヒト脳及び膵臓において検出された転写物は、PTPcDNAプローブを用いて観察された転写物の大きさと同一であった。
1−9a cDNA(NTP)の600bpフラグメントを用いる全RNA 5μgへのドットブロットRNAハイブリダイゼーションは年齢対照脳と比較してADにおける高いレベルの発現を示した(図13A)。β−アクチンに対応するcDNAによる同じ膜の再度のハイブリダイゼーションは各ドットにおいて同様のRNAのローディングを示した。AD脳組織内における1−9a関連mRNAレベルの上昇が観察されたことは、ヒトPTPcDNAに対応する60マーのプローブを用いて、すでに報告されたものと同様である[デ・ラ・モンテ(de la Monte)ら,ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J.Clin.Invest.),86巻,1004〜1013頁,(1990年)]。ADと対照脳の間の違いは、図13Aおよび13Bに示したように1.6kb、0.9kb及び0.8kbの転写物のレベルの違いによるようである。
ADライブラリーから単離されたAD−NTP3−4cDNAはニューロン由来神経外胚葉腫瘍セルライン及びヒト脳組織からのRNAとハイブリダイズする。このセルラインにおいて、1−9aプローブを用いて認められる1.6kb及び0.9kbの転写物が検出された(図21C)。しかし、ヒト脳 においては約4kb、1.6kb、及び0.9kbの転写物が検出され、3つの転写物すべての発現のレベルは年齢対照脳と比較するとADにおいてより高かった(図21D)。
AD4−4cDNAプローブは0.9kbの転写物のみと、しかもニューロンセルラインのみにおいてハイブリダイズした。
実施例6
神経外胚葉腫瘍セルライン及びアルツハイマー病脳由来の糸状タンパク質cDNAの直接クローニング及びシークエンシング
糸状タンパク質cDNAは、PNET1、PNET2、SH−Sy5y、及びA172細胞、及びアルツハイマー病及び年齢対照脳由来のRNAから、3'−及び5'−RACE法を用いて直接クローニングした[フローマン(Frohman)ら,プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンセス・USA(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),85巻,8998頁,(1988年);オオハラ(Ohara)ら,プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンセス・USA(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),86巻,5673頁,(1989年);ロー(Loh)ら,サイエンス(Science),243巻,217頁,(1989年)]。要するに、RNAはオリゴ−dTプライマーを用いて逆転写した。5'−RACE反応についてはcDNAは1−9a配列の5'−領域に対応する特異的な17マー及び17dTプライマーを用いるポリメラーゼチェイン反応(PCR)によってcDNAを増幅した。得られたPCR生成物は、別の内部の、しかし重複している5'−末端プライマー、及び1−9a配列の3'−領域に対応する特異的な3'−17マーを用いて別の増幅に付した。3'−RACE反応についてはcDNAは最初にターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼを用いてdCTPでテイリングし、次いで、1−9aクローンのヌクレオチド781〜797に対応する特異的17マー及びdG(17マー)を用いて増幅した。2回目のPCR増幅は3'末端のヌクレオチド766〜792に対応する特異的17マー及び5'末端についてはdGTP(17マー)を用いて行った。PCR生成物は1−9a cDNAクローンの内部のDNAフラグメント及びO18ラットPTPcDNAクローンから作成したプローブを用いるサザンブロット分析に付した。PCR生成物はゲル精製し、ウラシルデオキシトランスフェラーゼを用いてpAmplベクターに結合させた。サブクローンしたDNA挿入物をT7 DNAポリメラーゼを用いるデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により配列させた。
CNS糸状タンパク質転写物は、逆転写とそれに続く1−9a cDNA配列の5'及び3'領域に対応する特異的なプライマーを用いるPCRによって神経外胚葉腫瘍セルライン及びヒトAD脳組織において検出された。PCR精製物のサザンブロット分析は、0.8kb及び1.0kbの主に2つのクロスハイブリダイズしたものを示した(図14A及び14B)。さらに、SH−Sy5y細胞においてはより大きな1.8kbのPCR生成物も検出された。PNET1、PNET2、SH−Sy5y、及びA172細胞においては1−9aプローブとハイブリダイズする0.4kbのPCR生成物が観察された。アルツハイマー病脳における糸状タンパク質mRNAのより高いレベルに対応して、AD試料におけるハイブリダイゼーションシグナルは年齢対照試料と比較するとより強かった。
SH−Sy5y細胞から生成したPCR生成物をサブクローンし配列決定した。クローンしたフラグメントのサザンブロット分析により1−9a cDNAとの強いハイブリダイゼーションが示され、O18cDNAとは弱いが明確なハイブリダイゼーションを示した(ラットPTP)(図14C)。SH−Sy5yPCRクローン(Sy−NTP)の核酸配列は1−9a cDNA配列と同一であった。
実施例7
ヒト脳糸状タンパク質をコードするゲノムクローンの単離
ヒトゲノムDNAライブラリーを2年齢の側頭皮質ライブラリーから単離した1−9a ヒト脳糸状タンパク質cDNAの600bpフラグメントで作成したプローブを用いてスクリーニングした。1−9a cDNAフラグメントはヒトPTPと60%の核酸配列が相同である領域を含んでいた。コロニー精製の後、推定上のゲノムクローンはO18ラットPTPcDNAフラグメントとのクロスハイブリダイゼーションにつきチェックした。1−9a及びO18プローブの両方とハイブリダイズするEcoRI、PstI、及びEcoRI/PstI制限フラグメントをpBluescript IIベクター(Promega,Inc.Madison,WI)にサブクローンし、次いでT7ポリメラーゼ(USBシークエナーゼ)又はポリメラーゼチェイン反応増幅及びVentポリメラーゼのいずれかを用いるデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法によって配列決定した。
G2−2PstI、G2−2PstI−EcoRI、G5d−1PstI、及びG5d−1PstI−EcoRIと命名された4つのゲノムフラグメントをヒトゲノムDNAライブラリーから単離した(図22B〜22E)。これらのゲノムフラグメントはすべて1−9aとO18cDNAプローブの両方とハイブリダイズし、それらは1.5kbから3kbの範囲の大きさである。部分的な核酸配列の情報は、G2−2PstIとヒトReg遺伝子、及びヒト及びラットPTPcDNAとの間(図23B);G2−2PstI−EcoRIと両方のReg遺伝子、及びラットPTPcDNAとの間(図23C)、またAD2−2、AD3−4及び1−9a cDNA(データなし)との間;G5d−1PstIとReg遺伝子、及びヒトPTPとの間(図23D);及びG5d−1PstI−EcoRIとReg遺伝子、ヒトPTP、1−9a、及びAD4−4との間の相同性を示している。
実施例8
LacZ融合タンパクのインビトロ発現及び糸状タンパク質に対する関連性の実証
1−9a cDNAクローンを含むバクテリア内の融合タンパクの発現、又は4つのゲノムクローンの内の1つを標準的な方法(Sambrookら,前掲)を用いてイソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)で誘導した。誘導された又は誘導されなかった培養細胞からの未精製のバクテリアのリゼイト(溶解物)をSDS−PAGE、糸状タンパク質に対するTh9モノクローナル抗体[ササキ(Sasaki)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),268巻,1〜4頁,(1993年)]及び125Iで標識されたタンパクAを用いるウエスタンブロット分析に付し、結合した抗体を検出した。さらに、クローンしたDNAを含んでいるバクテリアの菌叢を、IPTGで融合タンパクを発現させるために誘導し、レプリカフィルターをTh9モノクローナル抗体、次いで125I標識タンパクAで直接プローブした。
糸状タンパク質の免疫反応性は、IPTGを誘導したコロニーへの抗体の直接の結合によってバクテリア融合タンパクにおいて示された(図24A−24D)。糸状タンパク質の免疫反応性はPTPに対するTh9、Th7、及びTh10モノクローナル抗体のカクテル[ササキ(Sasaki)ら,ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),268巻,1〜4頁,(1993年)]、及び125Iで標識されたタンパクAを用いて検出した。
実施例9
AD及び年齢対照脳におけるAD16c mRNAの相対レベル
ノーザンブロット分析をAD16 cDNAプローブを用いて行った。ブロットは再度プローブして18sリボソームRNAを検出し、各レーン中のRNAのローディングを評価した。不飽和(unsaturated)のオートラジオグラムをMolecular Dynamics Image Analyzerを用いる濃度分析に付した。AD16c及び18sRNAハイブリダイゼーションシグナルの比率をそれぞれの場合についてプロットし、結果を図25Aおよび25Bにグラフで示した。平均の比率(AD16cの相対レベル)を標準誤差とともに小さい右側のグラフに示した。結果は、年齢を一致させた対照が6の内1つであることと比較してAD脳は9の内6つにAD16c mRNA発現のレベルが上昇していることを確認した。平均レベルの違いは統計学的に高い有意性がある(P<0.005)。同様の結果がAD10−7プローブを用いて得られた。これらの結果は、対照脳と比較してAD脳における発現レベルにおいて統計学的に有意な上昇があることを示している。
実施例10
組み換えAD10−7融合タンパクの調製及びモノクローナル抗体によるそれらの検出
AD10−7cDNAを3つの異なる読み取り枠内(2つは不正確なA及びB、そして正確なC)でpTrcHISベクター(In Vitrogen,San Diego)に結合した。3つのプラスミドの内の1つで形質転換したバクテリアをIPTGで誘導し、バクテリアのリゼイトをタンパクの発現について0、1及び5時間後に試験した。タンパクをSDS−PAGEで分画し、ウエスタンブロット分析を発現した標識タンパクに対するモノクローナル抗体(T7−標識マウスモノクローナル抗体;Novogen)を用いて行った。ブロットはアビジン−ビオチン、色原体としてジアミノベンジジンを用いるセイヨウワサビペルオキシダーゼ法で展開した(図26)。約45kDAに相当するバンドをAD10−7が正確な読み取り枠(C)にのみ結合しているプラスミドDNAで形質転換したバクテリア内に検出した(矢印)。同じ大きさのタンパクがウサギ網状赤血球リゼイト分析系においてインビトロのAD10−7cDNAの翻訳によって観察された。両方の系において融合相手のペプチドは約3kDAであり、約42kDAのタンパクをコードするcDNAであることを示している。約42kDAのNPT種はニューロンセルライン及びヒト脳組織のウエスタンブロット分析によって通常どおり検出される。
実施例11
インシトゥハイブリダイゼーションによるAD10−7mRNA発現のニューロンの局在化の実証
センス及びアンチセンスcRNAプローブはSP6又はT7DNA依存性RNAポリメラーゼを用いて直線化したAD10−7プラスミドDNAからそれぞれ作成した。アンチセンスプローブはこのクローンについて前記したようにニューロンセルラインmRNAとハイブリダイズした。一方、cRNAセンスプローブはノーザンブロット分析ではRNAとハイブリダイズしなかった。ジゴキシゲニン−UTPで標識されたcRNAプローブは初期のAD由来のヒト脳組織断片とハイブリダイズした。この断片をよく洗浄した後[デ・ラ・モンテ(de la Monte)ら,ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J.Clin.Invest.),86巻,1004〜1013頁,(1990年)]ハイブリダイズしたプローブを、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼを抱合したジゴキシゲニンに対するモノクローナル抗体を用いて検出し、標準的な方法を用いて比色反応した。明視野及び暗視野顕微鏡による断片の試験はニューロンにおいてのみAD10−7のハイブリダイゼーションが示された(図27;(図27A)の細胞体上の白い粒子の集塊)。対照的に、ノーザンブロット分析による結果と同様にセンスAD10−7cRNAプローブは脳組織(図27B)とハイブリダイズしなかった。
前記の記載は特定の好ましい態様であるけれども、本発明がそのように制限されないことは理解されるであろう。当業者は様々な変更をして開示された態様になし得ることを想到し得るが、そのような態様は本発明の範囲内にあり、本発明は以下の請求の範囲によって定義される。
本明細書中で記載したすべての出版物及び特許出願は本発明に属する技術分野における技術レベルを表す。すべての出版物及び特許出願は、それぞれの出版物又は特許出願がそれらの全内容において引用されるものとして特別にそして個別に示されるのと同程度に参考のために引用される。
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