本発明は、被験者における神経変性疾患の進行を診断、予測、および監視する方法に関する。さらに、神経変性疾患の調節物質の治療コントロールおよびスクリーニングの方法を提供する。本発明はまた、医薬組成物、キット、および組み換え動物モデルも開示する。
神経変性疾患、特に アルツハイマー病 (AD)は、患者の生活を強く衰弱させる影響を与える。さらに、これらの疾患は、甚大な健康上の、社会的な、および経済的な負担を構成する。ADは最も一般的な神経変性疾患であり、痴呆の症例全体の約70%を占め、65歳超の人口の約10%および85歳超の最大45%が罹患する、おそらく最も破壊的な加齢関連神経変性症状である(最近の総説はVickers et al., Progress in Neurobiology 2000, 60; 139−165を参照)。現在、これは米国、欧州、および日本において推定約1200万例に達する。この状況は、発展途上国における高齢者数の人口統計上の増加(「ベビーブーマーの高齢化」)に伴い不可避的に悪化する。ADを有する人の脳に生じる神経病理学的な顕著な特徴は、アミロイド−( タンパク質で構成される老人斑、および異常な線維状構造の出現および神経原線維変化の形成と一致して現れる著しい細胞骨格変化である。
アミロイド−β(Aβ)タンパク質は、さまざまな種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂から生じる。β/γ−セクレターゼによる開裂はさまざまな長さのAβペプチドの形成に繋がり、典型的には、40アミノ酸から構成される短くより可溶性が高く凝集が遅いペプチド、および細胞外で迅速に凝集し特徴的なアミロイド斑を形成する、より長い42アミノ酸ペプチドである(Selkoe, Physiological Rev 2001, 81; 741−66; Greenfield et al., Frontiers Bioscience 2000, 5; D72−83)。二つの型の斑、すなわちびまん性老人斑と老人斑を、AD患者の脳に検出することができ、後者は古典的で最も一般的な型である。それらは主に大脳皮質および海馬に見出される。老人斑は直径50μmないし200μmで、不溶性原線維アミロイド、死滅した神経細胞、小膠細胞、および星状細胞の断片、および、神経伝達物質、アポリポタンパク質E、グリコサミノグリカン、α1−抗キモトリプシンなどといったその他の構成成分から成る。脳における毒性のAβ沈着物の生成は、ADの経過のごく早期に開始し、ADの病理に繋がるその後の破壊過程の中心的存在であると論じられている。ADの他の病理学的な顕著な特徴は、神経原線維変化(NFTs)および、ニューロピル・スレッドと表現される異常な神経突起である(Braak and Braak, Acta Neuropathol 1991, 82; 239−259)。NFTsは神経細胞の内部に出現し、互いに絡まり合う対のらせん状線維を形成する、化学的に変化したタウタンパク質から成る。NFTsの形成と共に、神経細胞の喪失を観察することができる。前記の神経細胞喪失は、微小管関連輸送系の損傷が原因である可能性があると議論されている(Johnson and Jenkins, J Alzheimers Dis 1996, 1; 38−58; Johnson and Hartigan, J Alzheimers Dis 1999, 1; 329−351)。神経原線維変化の出現およびその数の増加は、ADの臨床的重症度とよく相関する(Schmitt et al., Neurology 2000, 55; 370−376)。
ADは進行性疾患であり、初期の記憶形成の障害を伴い、最終的にはより高次の認知機能の完全な衰退に繋がる。認知障害には、とりわけ、記憶障害、失語症、失認症、および実行機能の喪失がある。ADの病因の特徴的性質は、脳の特定の領域および神経細胞の部分集団の、変性過程に対する選択的な不安定性である。具体的には、側頭葉領域および海馬は、疾患の経過中に早期におよびより重度に冒される。一方、前頭皮質、後頭皮質、および小脳内の神経細胞は大体は損なわれないままであり、神経変性から守られている(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10; 184−92)。
ADの発症年齢は50年の範囲内でさまざまであり、65歳未満の人で起こる早発型AD、65歳超の人で起こる遅発型ADがある。ADの全症例のうち約10%が早発型ADに罹患し、1〜2%だけが家族性の遺伝例である。
現在、ADに治癒は無く、ADの進行を止めるか、または高確率で死亡前にADを診断するためさえ、有効な処置は無い。個人がADを発症する素因となるいくつかのリスク因子が特定されており、中でも非常に重要なのは、アポリポタンパク質E遺伝子(ApoE)の既存の3つの異なる対立遺伝子(イプシロン2、3、および4)のイプシロン4対立遺伝子である(Strittmatter et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90; 1977−81; Roses, Ann NY Acad Sci 1998, 855; 738−43)。他の感受性遺伝子および疾患関連多型を検出する努力は、ヒト第10および第12染色体上の特定の領域および遺伝子が遅発型ADと関連している可能性があるという仮定に繋がる(Myers et al., Science 2000, 290; 2304−5; Bertram et al., Science 2000, 290; 2303; Scott et al., Am J Hum Genet 2000, 66; 922−32)。
第21染色体上のアミロイド前駆体タンパク質(APP)、第14染色体上のプレセニリン−1、および第1染色体上のプレセニリン−2の遺伝子の遺伝的欠陥によるとされる早発型ADの稀な例が存在するが、遅発型散発性ADの一般的な型は、これまでのところ病因的起源は不明である。現在までに見出された突然変異は、家族性ADの症例の半分しか説明せず、それは全AD患者の2%に満たない。神経変性疾患の遅い発症および複雑な病因は、治療用および診断用薬の開発に困難な問題をもたらす。医薬標的および診断マーカーの候補のプールを拡大することが極めて重大である。したがって、神経疾患の病因に関する洞察を与えること、およびこれらの疾患の治療の診断および開発に特に適した方法、材料、物質、組成物、および動物モデルを提供することは、本発明の目的である。この目的は、独立した請求項の条項によって解決される。下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を定義する。
脳は、副腎、性腺、および胎児−胎盤軸によって合成および循環中へ分泌される末梢ステロイドホルモンの標的部位である。たとえば、性腺アンドロゲン類が脳に作用し個体の生殖行動に影響することはよく知られている。しかし、脳はまた、神経ステロイド産生という過程であるステロイドホルモン合成の場でもある。齧歯類脳における硫酸デヒドロエピアンドロステロン産生の最初の記載から20年しか経っておらず(Corpechot et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1981, 78;4704−4707)そして、したがって、この研究分野は、神経学、内分泌学、および行動科学の接点の新しい領域としてである。
脳組織においては、ステロイドホルモン作用の2つの主要な種類、ゲノム作用および直接非ゲノム作用がある。ゲノムレベルでは、ステロイドホルモンは、標的遺伝子の転写を調節する細胞内/核ホルモン受容体と結合する。これらの順応的反応は一般的に数時間または数日内に生じる。加えて、ステロイドホルモンは神経伝達物質ゲートイオンチャンネルの作用を介した中枢神経系の興奮性に直接の影響を示す(総説;Stoffel−Wagner, Eur. J. Endocrinol. 2001, 145;669−679)。特に、硫酸プレグネノロンはラット海馬神経細胞においてN−メチル−D−アスパラギン酸受容体のカルシウム伝導性を増強し、およびγ−アミノ酪酸受容体の塩化物伝導性を抑制し、それによって全体的な神経細胞興奮性に影響を及ぼす (Irwin et al., Neurosci. Lett. 1992, 141;30−34; Harrison et al., J. Neurosci. 1987, 7; 604−609)。
哺乳類脳における神経ステロイド産生の生理学的役割を理解するために、重要な酵素にすぐれ、したがって合成過程にかかわる可能性が高い脳の領域および細胞の型を特定することが重要である。この点の現在の知識の大部分は齧歯類での試験に由来し、現れる全体図は、グリア細胞、希突起膠細胞、および星状細胞が大脳および小脳における神経ステロイド形成および代謝に主要な役割を果たすというものである(総説; Tsutsui et al., Neurosci. Res. 2000, 36;261−273)。ラット系でのより近年の研究では、一方、海馬の錐体神経細胞および顆粒神経細胞(Furukawa et al., J. Neurochem. 1998, 71;2231−2238; Kimoto et al., Endocrinology 2001, 142;3578−3589)および小脳のプルキンエ神経細胞(Ukena et al., Endocrinology 1998, 139;137−147; Ukena et al., Endocrinology 1999, 140;805−813)が同じく神経ステロイド産生の重要な酵素を有することが示された。新鮮な脳材料を得ることが困難であるため、ヒト系における類似研究は初期段階にある。高感度逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法を用いて、神経ステロイド産生の律速酵素CYP11A1についてのメッセンジャーRNAが、副腎においてより200倍低いレベルでではあるが、前頭葉および側頭葉および海馬のヒト脳皮質の外科標本中に検出された(Watzka et al., J. Neuroendocrinol. 1999,11; 901−905)。神経ステロイド産生の他の2種類の重要な酵素、CYP21および17−βヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼについてのメッセンジャーRNAもまた、側頭葉および海馬の外科標本中に検出された(Beyenburg et al., Neurosci. Lett. 2001, 308;111−114; Stoffel−Wagner et al., J. Endocrinol. 1999, 160;119−126)。酵素のこの小さな補足に基づいて、プレグネノロンおよびプロゲステロンを含む7種類の異なるステロイドをin situで主に合成することができる。しかし、CYP19(アロマターゼ)、5−α−レダクターゼ、3−α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、CYP17、CYP11B1、などを含む他の神経ステロイド産生酵素が脳で検出されており(総説;Stoffel−Wagner, Eur. J. Endocrinol. 2001, 145;669−679)そして、したがって、多数の他の神経ステロイドが脳内で合成されている可能性が高い。
大体において上記の知見の潜在的な生理学的および病因生理学的意味は不明のままである。たとえば、神経活性ステロイドの抗痙攣作用、麻酔作用、および抗不安作用は、γ−アミノ酪酸受容体機能を調節するそれらの能力のためであり、したがって直接的、非ゲノム性の性質である(Stoffel−Wagner, Eur. J. Endocrinol. 2001, 145;669−679)。さらに、神経ステロイドはGタンパク質と結合した膜受容体、さまざまな神経ペプチド受容体、およびプロゲステロン受容体を介して神経細胞に作用するとみなされている(Orchinik et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1992, 89;3830−3834; Grazzini et al., Nature 1998, 392;509−512; Rupprecht et al., Neuron 1993, 11;523−530)。より現象論的なレベルでは、豊富な神経ステロイドであるデヒドロエピアンドロステロンおよび硫酸デヒドロエピアンドロステロンは、シトクロムP450 17−α−リアーゼおよびヒドロキシステロイドスルホトランスフェラーゼの作用によってプレグネノロンから生成されるが、神経保護物質として議論されており、そのレベルは加齢に伴いおよびストレス下で低下する(Kimonides et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1998, 95;1852−1857)。プレグネノロン、デヒドロエピアンドロステロン、およびそれらの硫酸エステルの、学習、記憶、および認識老化における潜在的な役割は論争下にある(Vallee et al., Brain Research Reviews 2001, 37;301−312; WO 01/55692)。神経活性ステロイドにおける変動は、月経周辺期、妊娠、産後期、および閉経期の女性において神経疾患を発症する高いリスクに寄与すると考えられている。認識レベルでは、エストロゲン類およびアンドロゲン類は、言語流暢性、空間性課題の成績、言語記憶検査、および微細運動に影響を及ぼす(総説; McEwen, Annu. Rev. Neurosci. 1999, 22;105−122; Stoffel−Wagner, Eur. J. Endocrinol. 2001, 145;669−679)。
本発明は、同年齢の対照者の脳でなく、AD脳の異なる領域におけるステロイド産生急性調節タンパク質(StAR)遺伝子の発現の差を開示する。StARはヒト染色体8p11.2上の同義遺伝子によってコードされる(Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92;4778−4782; GenBank登録番号U17280;米国特許第6194555号;米国特許第5807678号)。StARは285アミノ酸タンパク質であり、部分的にミトコンドリアに位置し、細胞質リボソームでN末端ミトコンドリア標的化配列を有する立体配座的に不安定な前駆体として合成される(Stocco, Biochim. Biophys. Acta 2000, 1486;184−197, GenBank登録番号P49675)。そのいわゆるSTARTドメインの性質によって、StARは細胞質内のコレステロールと化学量論的に結合し、その疎水性の積荷をミトコンドリア膜両方および囲まれた膜間腔を通して行き来する。ミトコンドリア内膜内でコレステロールはCYP11A1へ移され、次いでCYP11A1は神経ステロイド産生の関係する段階としてコレステロールのプレグネノロンへの変換を触媒する(Stocco, Biochim. Biophys. Acta 2000, 1486; 184−197)。StARの複数の転写産物がヒトのステロイド産生組織、特に卵巣、精巣、副腎、および腎臓内に見出された(Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92;4778−4782)。しかし、同じ研究でヒト脳におけるStARの発現は同定されなかった。StARの発現は、一般的にcAMP二次メッセンジャー系を介して作用する刺激ホルモンによる急性調節の制御下にある。副腎および性腺の場合、これらの刺激ホルモンは下垂体由来コルチコトロピンおよび黄体形成ホルモンであり、一方、腎臓では、StARの発現は副甲状腺ホルモンに反応する(Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92;4778−4782)。遺伝子発現の調節に加えて、StARタンパク質活性または安定性は、cAMP依存性プロテインキナーゼ/プロテインキナーゼAによって調節されると考えられている(Clark et al., Endocrine Res. 2000, 26;681−689)。
StAR遺伝子における突然変異は、類脂質先天性副腎過形成および用量依存性性転換という重度のヒト疾患症状と関連している(Lin et al., Science 1995, 267;1828−1831; Tee et al., Hum. Molec. Genet. 1995, 4;2299−2305;米国特許第6194555号、米国特許第5872230号、米国特許第5807678号、WO9629338)。より最近には、StAR遺伝子の過剰発現および/または増幅がいくつかの型のがん細胞、特に乳がん細胞で発見された(WO131342)。現在までのところ、神経変性疾患と関連すると記載されたStAR遺伝子における突然変異は無い。同様に、StAR遺伝子発現の調節障害と、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の病因との間の関係を実証することが記載された実験は無い。本発明の開示は、特に前記疾患の診断および治療のための新しい方法を提供する。
ここでおよび請求項で用いられる単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈でそうでないと示されない限り、複数への言及を含む。たとえば、「a細胞(一つの細胞)」は複数の細胞をも意味する、など。本明細書および請求項で用いられる「および/または」の語句は、この語句の前および後の語句が選択肢としてまたは組み合わせて考えられるべきであることを示す。たとえば、「レベルおよび/または活性の測定」という言い回しは、レベルだけ、または活性だけ、またはレベルおよび活性の両方が測定されることを意味する。ここで用いられる「レベル」の語は、転写産物、たとえばmRNA、または翻訳産物、たとえばタンパク質またはポリペプチドの、量または濃度の尺度または指標を含むことを意図する。ここで用いられる「活性」の語は、転写産物または翻訳産物が生物学的効果を生じる能力についての指標、または、生物学的に活性な分子のレベルの指標と理解すべきである。「活性」の語はまた、酵素活性もいう。ここで用いられる「レベル」および/または「活性」の語はさらに、遺伝子発現レベルまたは遺伝子活性をいう。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生に繋がる、転写および翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用と定義される。「調節障害」は遺伝子発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味することとする。遺伝子産物はRNAまたはタンパク質のどちらかを含み、遺伝子の発現の結果である。遺伝子産物の量は、遺伝子がどの程度活性であるかを測定するのに用いることができる。本明細書および請求項で用いられる「遺伝子」は、コード領域(エクソン)および非コード領域(たとえばプロモーターまたはエンハンサー、イントロン、リーダーおよびトレーラー配列といった非コード調節配列)の両方を含む。「ORF」の語は「オープン・リーディング・フレーム」の頭文字であり、少なくとも1つの読み枠に終止コドンを持たずしたがって潜在的にアミノ酸の配列に翻訳されうる核酸配列をいう。「調節配列」は、遺伝子発現を推進し調節する、誘導性および非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびその他の配列を含む。ここで用いられる「断片」の語は、たとえば択一的にスプライシングされ、または短縮され、またはさもなければ切断された転写産物または翻訳産物を含むことを意図する。ここで用いられる「誘導体」の語は、突然変異体の、またはRNA改変された、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた転写産物、または、突然変異体の、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた翻訳産物をいう。たとえば、「誘導体」は、変化したリン酸化、またはグリコシル化、またはアセチル化、または脂質化といった過程によって、または変化したシグナルペプチド開裂またはその他の型の成熟開裂によって生じうる。これらの過程は翻訳後に起こりうる。本発明および請求項で用いられる「調節因子」の語は、遺伝子、または遺伝子の転写産物、または遺伝子の翻訳産物のレベルおよび/または活性を変化または改変することができる分子をいう。好ましくは、「調節因子」は、遺伝子の転写産物または翻訳産物の生物学的活性を変化または改変することができる。前記の調節は、たとえば、酵素活性の上昇または低下、結合特性の変化、または遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的、または免疫学的性質の何らかのその他の変化または改変でありうる。「物質」、「試薬」、または「化合物」の語は、細胞、組織、体液に対して、または任意の生物学的系または被験分析系の背景内で、正または負の生物学的効果を有する任意の物質、化学物質、組成物または抽出物をいう。それらは標的の作用因子、拮抗因子、部分的作用因子または逆作用因子であることができる。そのような物質、試薬、または化合物は、核酸、天然または合成ペプチドまたはタンパク質複合体、または融合タンパク質でありうる。それらはまた、抗体、有機または無機分子または組成物、小分子、薬物、および上の前記物質のうち任意のものの任意の組み合わせでありうる。それらは診断のまたは治療の目的のための試験に用いることができる。「オリゴヌクレオチドプライマー」または「プライマー」の語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって、与えられた標的ポリヌクレオチドとアニーリングすることができ、ポリメラーゼによって伸長することができる、短い核酸配列をいう。それらは特定の配列に対して特異的であるように選択することができ、または任意に選択することができ、たとえばそれらはある混合物中のすべての可能な配列のプライマーとなることができる。ここで用いられるプライマーの長さは10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動しうる。「プローブ」はここで記載および開示される核酸配列の短い核酸配列またはそれと相補的である配列である。それらは完全長配列、または断片、誘導体、アイソフォーム、または任意の配列の変異体を含むことができる。「プローブ」と分析試料との間のハイブリダイゼーション複合体の同定は、試料内の他の類似配列の存在の検出を可能にする。ここで用いられる「ホモログまたはホモロジー」は、ヌクレオチドまたはペプチド配列の、別のもう一つのヌクレオチドまたはペプチド配列との関係性を表す本分野の用語であり比較される前記配列間の同一性および/または類似性の程度によって測定される。ここで用いられる「変異体」の語は、本発明で開示されたポリペプチドおよびタンパク質に関して、本発明の天然のポリペプチドまたはタンパク質の天然のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に、および/または中に1個以上のアミノ酸が付加されたおよび/または置換されたおよび/または欠失したおよび/または挿入された、任意のポリペプチドまたはタンパク質をいう。 さらに、「変異体」の語は、ポリペプチドまたはタンパク質の任意のより短いかまたはより長い形を含む。「変異体」はまた、ヒトStAR遺伝子配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも約80%配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%配列同一性、および非常に好ましくは少なくとも約95%配列同一性を有する配列も含む。 タンパク質分子の「変異体」は、たとえば、高度に保存された領域に保存されたアミノ酸置換を有するタンパク質を含む。本発明の「タンパク質およびポリペプチド」は、StAR配列番号1のアミノ酸配列を構成するタンパク質の変異体、断片、および化学的誘導体を含む。それらは、天然から単離することができるかまたは、組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができるタンパク質およびポリペプチドを含む。天然タンパク質またはポリペプチドは、天然に存在する短縮型または分泌型、天然に存在する変異型(たとえばスプライス変異体)および天然に存在する対立遺伝子変異体をいう。ここで用いられる「単離された」の語は、天然の環境から取り出された、すなわち通常存在する細胞からまたは生体から単離され、そして天然で付随して見出される共存成分から分離されたかまたは本質的に精製された分子をいうと考えられる。この概念はさらに、そのような分子をコードする配列を人間の手で、自然状態では結合していないポリヌクレオチドと結合させることができること、そしてそのような分子を組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができることを意味する。前記の目的のためにそれらの配列が、当業者に既知である方法によって生体または死んだ生物に導入されても、そしてそれらの配列が前記生物中にまだ存在していても、それらはなお単離されていると考えられる。本発明では、「リスク」、「感受性」、および「素因」の語は同等であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する確率に関して用いられる。
「AD」の語はアルツハイマー病を意味する。ここで用いられる「AD型神経病理」は、本発明に記載されている通りの、および最先端の文献から一般に既知である通りの、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的、および臨床的な顕著な特徴をいう(Iqbal, Swaab, Winblad and Wisniewski,『アルツハイマー病と関連疾患(疫学、病因論および治療薬)』(Alzheimer`s Disease and Related Disorders (Etiology, Pathogenesis and Therapeutics)), Wiley & Sons, New York, Weinheim, Toronto, 1999; Scinto and Daffner,『アルツハイマー病の早期診断』(Early Diagnosis of Alzheimer`s Disease),Humana Press, Totowa, New Jersey, 2000; Mayeux and Christen,『アルツハイマー病の疫学:遺伝子から予防まで』(Epidemiology of Alzheimer`s Disease; From Gene to Prevention),Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1999; Younkin, Tanzi and Christen,『プレインスリンとアルツハイマー病』(Presenilins and Alzheimer`s Disease),Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1998を参照)。
本発明に記載の神経変性疾患または障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭性痴呆症、進行性核麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆症、多系統変性症、嗜銀性顆粒痴呆症およびその他のタウオパシー、および軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含むその他の症状は、たとえば、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動神経細胞疾患、プリオン病、外傷性神経損傷および修復、および多発性硬化症である。
一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する方法を扱う。その方法は;前記被験者由来の試料中の(i) StAR遺伝子の転写産物の、および/または(ii) StAR遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定すること、および、前記レベル、および/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定することを含む。
本発明はまた、本発明に開示される通り、StAR遺伝子の核酸配列、またはその断片、または変異体に独自のプライマーおよびプローブの構築および使用に関する。そのオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブは、蛍光、生物発光、磁性、または放射性物質で特異的に標識することができる。本発明はさらに、適当な組み合わせの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、前記核酸配列、またはその断片および変異体の検出および製造に関する。PCR分析は、当業者によく知られた方法であるが、核酸を含む試料から前記遺伝子特異的核酸配列を増幅するために、前記プライマーの組み合わせを用いて実施することができる。そのような試料は、健常者または患者のどちらかから得ることができる。増幅の結果として特定の核酸産物を生じるかどうか、および異なる長さの断片を得ることができるかどうかは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を示しうる。このように、本発明は、調べる核酸配列を含む任意の試料中の、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連している可能性がある、遺伝子突然変異および一塩基多型の検出に有用な、少なくとも長さ10塩基、最大でコードおよび遺伝子配列全体の、核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー、およびプローブを提供する。この機能は、好ましくはまたキットの形式である、DNAに基づく迅速診断検査を開発するために有用である。
別の一態様では、本発明は被験者における神経変性疾患の進行を監視する方法を扱う。前記被験者由来の試料中の(i)StAR遺伝子の転写産物の、および/または(ii)StAR遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定する。前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較する。それによって前記被験者において前記神経変性疾患の進行を監視する。
さらに別の一態様では、本発明は、前記疾患について治療されている被験者由来の試料中の(i)StAR遺伝子の転写産物の、および/または(ii)StAR遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定することを含む、神経変性疾患の治療を評価する方法を扱う。前記レベル、または前記活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記神経変性疾患の治療を評価する。
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の好ましい一実施形態では、ヒト・リンタンパク質をコードする前記遺伝子は、STARTドメイン含有タンパク質1(STARD1)とも、またはシクロヘキシミド感受性因子ともいうヒト・ステロイド産生急性調節タンパク質(StAR)をコードする遺伝子であり、配列番号1(GenBank登録番号P49675; mRNA GenBank登録番号U17280)で表される。
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の別の好ましい一実施形態では、前記神経変性疾患または障害はアルツハイマー病であり、前記被験者はアルツハイマー病患者である。
本発明は、AD患者の特定の脳領域におけるStAR遺伝子の、検出、および発現の差、および調節を開示する。結果として、StAR遺伝子およびその対応する転写および/または翻訳産物は、ADで典型的に観察される局所性選択的神経細胞変性の原因的な役割を有する可能性がある。または、StAR転写および/または翻訳産物は、残りの生存神経細胞に神経保護機能を与える可能性がある。これらの開示に基づき、本発明は、神経変性疾患、特にADの、診断評価および予測診断のために、および素因の検出に有用である。さらに、本発明は、そのような疾患のための治療を受けている患者の診断的監視のための方法を提供する。
分析および測定する前記試料は、脳組織、またはその他の組織、器官、または体細胞を含む群から選択されるのが特に好ましい。試料はまた、脳脊髄液または、唾液、尿、血液、血清、血漿、または粘液を含むその他の体液を含むことができる。好ましくは、本発明に記載の神経変性疾患の診断、予測診断、進行の監視、または治療の評価は、体外で実施することができ、そしてそのような方法は好ましくは、たとえば、被験者または患者から摘出、採取、または単離された体液または細胞といった試料に関する。
さらに好ましい実施形態では、前記参照値は、前記神経変性疾患に罹患していない被験者由来の試料中の(i)StAR遺伝子の転写産物の、および/または(ii)StAR遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方の値である。
好ましい実施形態では、既知の健康状態を表す参照値に対する、前記被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、StAR遺伝子の転写産物の、および/またはStAR遺伝子の翻訳産物の、および/または前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベルおよび/または活性の変化が、神経変性疾患、特にADに罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
好ましい実施形態では、StAR遺伝子の転写産物のレベルの測定は、被験者の試料から抽出されたRNAの逆転写によって得られたcDNAに由来する前記遺伝子特異的配列を増幅するために、プライマーの組み合わせを用いた定量的PCR分析を使用して、被験者由来の試料で実施される。前記遺伝子に特異的なプローブを用いたノーザンブロットもまた適用することができる。チップを基礎とするマイクロアレイ技術によって転写産物を測定することがさらに好ましい。これらの手法は当業者に既知である(Sambrook and Russell,『分子クローニング:実験の手引き』(Molecular Cloning; A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001; Schena M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology), Eaton Publishing, Natick, MA, 2000を参照)。免疫測定法の一例は、特許出願WO02/14543に開示され記載される通り、酵素活性の検出および測定である。
さらに、StAR遺伝子の翻訳産物のおよび/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体のレベルおよび/または活性、および/または、前記翻訳産物および/またはその断片、または誘導体、または変異体の活性のレベルは、免疫測定法、活性測定法、および/または結合測定法によって検出することができる。これらの測定法は、前記タンパク質分子と抗タンパク質抗体との間の結合の量を、抗タンパク質抗体かまたはその抗タンパク質抗体と結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素、色力学、放射性、磁性、または発光標識を用いることによって測定することができる。加えて、他の高親和性リガンドを用いることができる。使用することができる免疫測定法は、たとえばELISA、ウェスタンブロット、および当業者に既知のその他の技術を含む(Harlow and Lane,『抗体:実験の手引き』(Antibodies; A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999およびEdwards R, 『免疫診断:実際的手法』(Immunodiagnostics; A Practical Approach), Oxford University Press, Oxford; England, 1999を参照)。StAR遺伝子の翻訳産物の酵素活性は、in vitro、細胞系、またはin vivo測定法によって測定する事ができる。これらの検出方法すべてはまた、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ、またはタンパク質チップを基礎とする技術の形式で使用することができる(Schena M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology), Eaton Publishing, Natick, MA, 2000)。
好ましい一実施形態では、前記疾患の進行を監視するため、ある期間にわたって前記被験者から採取された一連の試料中の(i)StAR遺伝子の転写産物の、および/または(ii)StAR遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が比較される。さらに好ましい実施形態では、前記被験者は前記試料収集の1回以上前に治療を受ける。さらに別の好ましい一実施形態では、前記レベルおよび/または活性は、前記被験者の前記治療の前および後に測定される。
別の一態様では、本発明は被験者において神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、または神経変性疾患、特にADを発症する傾向または素因を判定するためのキットを扱い、前記キットは下記を含む;
(a)(i)StAR遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬(ii)StAR遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも1つの試薬;および
(b)
−前記被験者に由来する試料中の、StAR遺伝子の前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出すること;および
−神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、またはそのような疾患を発症する前記被験者の傾向または素因を判定すること
による、神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、またはそのような疾患を発症する被験者の傾向または素因を判定するための指示。
但し、既知の健康状態を表す参照値と比較した前記転写産物および/または前記翻訳産物の、変化したレベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方;または既知の健康状態を表す参照値と同様であるかまたは等しい、前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、神経変性疾患、特にADの診断または予測診断、またはそのような疾患を発症する高い傾向または素因を示す。本発明に記載のキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある人の特定に特に有用である可能性がある。結果として、本発明に記載のキットは、疾患経過において不可逆的損傷が与えられる前に、特定された人を疾患の発症前の早期予防処置または治療的介入の対象とする方法となりうる。さらに、好ましい実施形態では、本発明で扱うキットは、被験者において神経変性疾患、特にADの進行を監視、および前記被験者のそのような疾患について治療的処置の成功または失敗を監視するのに有用である。
別の一態様では、本発明は、(i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方に直接的にまたは間接的に影響を及ぼす、治療的にまたは予防的に有効な量の一または複数の物質の前記被験者への投与を含む、被験者において神経変性疾患、特にADを治療または予防する方法を扱う。前記物質は小分子を含むことができ、またはペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドを含むこともできる。前記ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドは、StARをコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列、またはその断片、または誘導体、または変異体を含むことができる。本発明に記載の、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための物質はまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドから成ることができる。前記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、StARをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、センス方向かまたはアンチセンス方向のどちらかで含むことができる。
好ましい実施形態では、本方法は前記の一または複数の物質を投与するための遺伝子治療および/またはアンチセンス核酸技術の本質的に既知である方法の応用を含む。一般的に、遺伝子治療はいくつかの手法を含む;変異遺伝子の分子的置換、治療用タンパク質の合成を結果として生じる新しい遺伝子の付加、および組み換え発現方法によるかまたは薬剤による内因性細胞遺伝子発現の調節。遺伝子導入法は詳細に記載されており(たとえばBehr, Acc Chem Res 1993, 26; 274−278およびMulligan, Science 1993, 260; 926−931を参照)、細胞へのDNAの機械的マイクロインジェクションといった直接的遺伝子導入法、および生物ベクター(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)またはモデルリポソームを用いる間接的方法、またはDNAのポリカチオンとの共沈を用いた遺伝子導入に基づく方法、化学的(溶媒、界面活性剤、ポリマー、酵素)または物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜の不安定化を含む。出生後の中枢神経系への遺伝子導入は詳細に記載されている(たとえば Wolff, Curr Opin Neurobiol 1993, 3; 743−748を参照)。
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療、すなわちある種の重要な細胞へのアンチセンス核酸またはその誘導体の導入による、不適切に発現されたかまたは欠陥のある遺伝子のダウンレギュレーションを用いた、神経変性疾患を治療するかまたは予防する方法を扱う(たとえばGillespie, DN&P 1992, 5; 389−395; Agrawal and Akhtar, Trends Biotechnol 1995, 13; 197−199; Crooke, Biotechnology 1992, 10; 882−6を参照)。ハイブリダイゼーション戦略以外に、リボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の、疾患のメッセージを運ぶRNAを破壊する適用もまた記載されている(たとえば Barinaga, Science 1993, 262; 1512−1514を参照)。好ましい実施形態では、治療される被験者はヒトであり、治療的アンチセンス核酸またはその誘導体はStAR遺伝子の転写産物に対して向けられる。被験者の中枢神経系、好ましくは脳の細胞は、そのような方法で治療されるのが好ましい。細胞透過は、アンチセンス核酸およびその誘導体のキャリアー粒子へのカップリング、または上記の方法といった既知の戦略によって実施することができる。標的化した治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するための戦略は当業者に既知である(たとえばWickstrom, Trends Biotechnol 1992, 10; 281−287)。を参照)。一部の場合では、輸送は単なる局所投与によって実施することができる。別の手法はアンチセンスRNAの細胞内発現に向けられる。この戦略では、細胞は標的核酸の領域と相補的であるRNAの合成を指示する組み換え遺伝子を用いてex vivoで形質転換される。細胞内で発現されたアンチセンスRNAの治療的使用は、手続的に遺伝子治療と同様である。RNA干渉(RNAi)としてさまざまに知られる、二本鎖RNAを用いて遺伝子の細胞内発現を調節する近年開発された方法は、核酸治療のもう一つの有効な手法である可能性がある(Hannon, Nature 2002, 418; 244−251)。
さらに好ましい実施形態では、本方法は前記被験者の中枢神経系、好ましくは脳に、ドナー細胞、または好ましくは移植片拒絶を最小化または低減するように処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は前記一または複数の物質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子の挿入によって遺伝子組み換えされている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって運ばれうる。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAの非ウイルス物理的遺伝子導入によって、特にマイクロインジェクションによってドナー細胞へ挿入することができる。導入遺伝子の挿入はまた、エレクトロポレーション、化学的媒介遺伝子導入、特にリン酸カルシウム遺伝子導入またはリポソーム媒介遺伝子導入によっても実施することができる(Mc Celland and Pardee,『発現遺伝学:迅速および高処理量法』(Expression Genetics; Accelerated and High−Throughput Methods), Eaton Publishing, Natick, MA, 1999を参照)。
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療または予防するための前記物質は、対象細胞を前記被験者に導入し、ここで前記対象細胞は前記治療用タンパク質をコードするDNA断片を挿入するためにin vitroで処理されており、前記対象細胞がin vivoで前記被験者において治療的に有効な量の前記治療用タンパク質を発現することを含む過程によって、前記被験者、好ましくはヒトに投与することができる治療用タンパク質である。前記DNA断片は、前記細胞へin vitroでウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって挿入することができる。
本発明に記載の、治療の方法は、前記の細胞治療的および遺伝子治療的方法の任意のものと組み合わせた、治療的クローニング、移植、および胚性幹細胞または胚性生殖細胞および神経細胞性成体幹細胞を用いた幹細胞治療の適用を含む。幹細胞は全能性または多能性でありうる。それらはまた器官特異性でもありうる。罹患および/または損傷した脳細胞または組織を修復する戦略は、(i)ドナー細胞を成体組織から採取することを含む。これらの細胞の核は、遺伝物質が除去されている未受精卵細胞に移植される。胚性幹細胞は、体細胞核移植を受けた細胞の胚盤胞期から単離される。その時、分化因子の使用は、特化した細胞型、好ましくは神経細胞への幹細胞の分化誘導に繋がる(Lanza et al., Nature Medicine 1999, 9; 975−977)、または(ii)in vitroでの拡大およびその後の移植のために、中枢神経系、または骨髄(間葉性幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製する、または(iii)内因性神経幹細胞を直接、増殖、移動、および機能する神経細胞へ分化するように誘導する(Peterson DA,Curr. Opin. Pharmacol. 2002, 2; 34−42)。成体脳の胚中心は神経細胞損傷または機能障害が存在しないように、成体神経幹細胞は、損傷したかまたは罹患した脳組織を修復する大きな可能性がある(Colman A, Drug Discovery World 2001, 7; 66−71)。
好ましい実施形態では、本発明に記載の治療または予防の被験者は、ヒト、実験動物、たとえばマウスまたはラット、家畜、または非ヒト霊長類であることができる。実験動物は、神経変性疾患の動物モデル、たとえばAD型神経病理を有する遺伝子導入マウスおよび/またはノックアウトマウスであることができる。
別の一態様では、本発明は、(i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも1つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
別の一態様では、本発明は、前記調節因子および好ましくは医薬キャリアーを含む医薬組成物を扱う。前記キャリアーは、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または調節因子と共に投与する媒体をいう。
別の一態様では、本発明は、医薬組成物における使用のための(i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも1つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特に ADを治療するかまたは予防するための薬剤の調製のための(i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも1つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子の使用を提供する。
一態様では、本発明はまた、治療的にまたは予防的に有効な量の前記医薬組成物を詰めた一個以上の容器を含むキットを提供する。
別の一態様では、本発明はStARをコードする非天然遺伝子配列またはその断片、または誘導体、または変異体を含む組み換え非ヒト動物を扱う。前記組み換え非ヒト動物の作製は、(i)前記遺伝子配列および選択可能なマーカー配列を含む遺伝子ターゲッティング構築物を提供すること、および(ii)前記ターゲッティング構築物を非ヒト動物の幹細胞へ導入すること、および(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚へ導入すること、および(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物へ移植すること、および(v)前記胚を満期まで発生させること、および(vi)ゲノムが両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の修飾を含む遺伝子改変非ヒト動物を特定すること、および(vii)段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を繁殖させて、ゲノムが前記内因性遺伝子の修飾を含み、前記遺伝子が発現していない、または低発現である、または過剰発現である、および前記破壊または改変の結果として神経変性疾患、特にADと類似した神経病理の症状を発症する素因を示す遺伝子改変非ヒト動物を得ることを含む。そのような動物の作製および構築は当業者に既知である(たとえばCapecchi, Science 1989, 244; 1288−1292 and Hogan et al., 1994,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New YorkおよびJackson and Abbott,『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach), Oxford University Press, Oxford, England, 1999を参照)。そのような組み換え非ヒト動物を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を調べるための動物モデルとして利用することが好ましい。そのような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するのに有用である可能性がある。
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または (i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱う。このスクリーニング方法は下記を含む、(a)細胞を被験化合物と接触させること、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の前記物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(d)段階(b)と(c)の細胞中の物質のレベルを比較することで、接触させた細胞中の前記物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患および障害の調節因子であることを示す。
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または (i)StAR遺伝子、および/または(ii)StAR遺伝子の転写産物、および/または(iii)StAR遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニング測定法を扱い、下記を含む:(a)神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している被験動物に被験化合物を投与すること、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること、および(c)等しく前記疾患の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している、そのような被験化合物が投与されていない、一致した対照動物における前記物質の活性および/またはレベルを測定すること、および(d)段階(b)と(c)の動物における物質の活性および/またはレベルを比較することで、被験動物における物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患および障害の調節因子であることを示す。
好ましい一実施形態では、前記被験動物および/または前記対照動物は、StAR、またはその断片、または誘導体、または変異体をコードする、天然のStAR遺伝子転写調節配列ではない転写調節配列の調節下にある遺伝子を発現する組み換え非ヒト動物である。
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述のスクリーニング測定の方法によって神経変性疾患の調節因子を特定する、および(ii)調節因子を医薬キャリアーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記調節因子はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定することができる。
別の一態様では、本発明は、リガンドと、StAR遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体との間の結合の阻害について、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を提供する。前記スクリーニング測定法は、(i)前記StAR遺伝子翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記阻害についてスクリーニングされるべき、一または複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドを前記容器に加える、および(iv)前記StAR遺伝子翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記一または複数の化合物、および前記検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドをインキュベートする、および(v)前記StAR遺伝子翻訳産物に、またはその前記断片、または誘導体、または変異体に付随した蛍光の量を測定する、および(vi)前記リガンドの、前記StAR遺伝子翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の、一種類以上の前記化合物による阻害の程度を測定する段階を含む。リガンドと前記StAR翻訳産物との間の結合の阻害を測定するためには、前記StAR翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体を、人工リポソーム中に再構成し、対応するプロテオリポソームを作製するのが好ましい可能性がある。界面活性剤からリポソームへのStAR 翻訳産物の再構成の方法は詳しく説明されている(Schwarz et al., Biochemistry 1999, 38; 9456−9464; Krivosheev and Usanov, Biochemistry−Moscow 1997, 62; 1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、一部の態様では、当業者に既知である任意のその他の検出可能な標識、たとえば放射性標識を用い、それをしかるべく検出するのが好ましい可能性がある。前記方法は、新規化合物の同定に、およびStAR遺伝子翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へのリガンドの結合を阻害する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。キャリアー粒子の使用を基礎としたこの場合の蛍光結合測定法の一例は、特許出願WO00/52451に開示され記載されている。別の一例は、特許WO02/01226に記載された競合測定法である。本発明のスクリーニング測定法のために好ましいシグナル検出方法は、下記の特許出願に記載されている;WO96/13744、WO98/16814、WO98/23942、WO99/17086、WO99/34195、WO00/66985、WO01/59436、WO01/59416。
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の阻害結合測定法によって、化合物を、リガンドとStAR遺伝子の翻訳産物との間の結合の阻害因子として特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
別の一態様では、本発明は、StAR遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体との前記化合物の結合の程度を測定する、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を扱う。前記スクリーニング測定法は、(i)前記StAR遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記結合についてスクリーニングする検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)前記StAR遺伝子翻訳産物と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物をインキュベートする、および(iv)前記StAR遺伝子翻訳産物と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する、および(v)前記StAR遺伝子翻訳産物への、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への、一種類以上の前記化合物による結合の程度を測定する段階を含む。この型の測定では、蛍光標識を用いるのが好ましい。しかし、任意の他の種類の検出可能な標識もまた使用することができる。前記測定方法は、新規化合物の同定に、およびStAR遺伝子翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へ結合する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の結合測定法によって、StAR遺伝子産物への結合因子として化合物を特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得ることができる薬剤を提供する。別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得られた薬剤を提供する。
本発明は、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としての使用のための、配列番号1に示されるタンパク質分子(前記タンパク質分子は、StAR遺伝子の翻訳産物である)、またはその断片、または誘導体、または変異体を扱う。
本発明はまた、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、または治療、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のための、配列番号1に示されるタンパク質分子(前記タンパク質分子は、StAR遺伝子の翻訳産物である)、またはその断片、または誘導体、または変異体を扱う。
本発明は、免疫原と特異的に免疫反応する抗体を扱い、ここで前記免疫原はStAR遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である。その免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原性または抗原性のエピトープまたは部分を含むことができ、ここで翻訳産物の前記免疫原性または抗原性部分はポリペプチドであり、および前記ポリペプチドは抗体反応を動物において導き、前記ポリペプチドは前記抗体によって免疫特異的に結合している。抗体を作製する方法は当該分野でよく知られている(Harlow et al.,『抗体−実験の手引き』(Antibodies, A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1988を参照)。本発明で使用される「抗体」の語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、組み換え、抗イディオタイプ、ヒト化、または一本鎖抗体、およびその断片といった、当該分野で既知のすべての型の抗体を包含する(Dubel and Breitling,『組み換え抗体』(Recombinant Antibodies),Wiley−Liss, New York, NY, 1999を参照)。本発明の抗体は、たとえば(Harlow and Lane,『抗体利用:実験の手引き』(Using Antibodies; A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999およびEdwards R.,『免疫診断法:実践的手法』(Immunodiagnostics; A Practical Approach), Oxford University Press, Oxford, England, 1999を参照)、酵素免疫測定法(たとえば酵素結合免疫吸収測定法、ELISA)、ラジオイムノアッセイ、化学発光免疫測定法、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および抗体マイクロアレイといった、最先端の方法を基礎とするさまざまな診断および治療方法で有用である。これらの方法は、StAR遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の検出を含む。
本発明の好ましい一実施形態では、前記抗体は被験者に由来する試料中の細胞の病理状態を検出するのに用いることができ、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含み、ここで既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化は、前記細胞の病理状態を示す。好ましくは、病理状態は神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学染色は、当該分野でよく知られたいくつかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合の検出には自動化法を適用するのが好ましく、ここで、細胞の染色の程度の判定、または細胞の細胞染色または細胞成分染色のパターンの判定、または細胞表面上または細胞内のオルガネラおよびその他の細胞下構造の間の抗原のトポロジカルな分布は、米国特許第6150173号に記載の方法に従って実施される。
本発明のその他の特性および利点は、例証に過ぎずいかなる方法でも開示の残りを制限しないことを意図する下記の図および実施例の説明から明らかになる。
図1は、ADにおいて神経細胞喪失および変性に選択的脆弱性を有する脳の領域を描く。主に、下側頭葉、嗅内皮質、海馬、および小脳扁桃の内部の神経細胞が、ADにおいて変性過程の影響を受けやすい(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10;184−192)。これらの脳領域は主に学習および記憶機能の処理に関与する。対照的に、前頭皮質、後頭皮質、および小脳の中の神経細胞は概ね無傷で、ADにおいて神経変性過程から保護されたままである。AD患者および同年齢の対照健常者の前頭皮質(F)、側頭皮質(T)、および海馬(H)に由来する脳組織を、ここで開示する実施例に使用した。例示目的で、Strangeによる発表から正常健康脳の画像を取った(Brain Biochemistry and Brain Disorders, Oxford University Press, Oxford, 1992, p.4)。
図2および3は、AD脳組織におけるStAR遺伝子の発現の差を、定量的RT−PCR分析によって実証する。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図2a)、およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)に由来する試料(図3a)からのRT−PCR産物の定量を、ライトサイクラー(LightCycler)迅速熱サイクル法によって実施した。同様に、同年齢の対照健常者の試料を比較した(図2bは前頭皮質および側頭皮質、図3bは前頭皮質および海馬)。データは、遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子の組の平均値の組み合わせについて正規化した。前記標準遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から成った。図は、蛍光によって測定された増幅された物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって、増幅の動力学を示す。反応の指数期の間、対照健常者の前頭皮質および側頭皮質、および対照健常者の前頭皮質および海馬、のそれぞれ両方に由来するStARcDNAの増幅動力学は並列しており(図2bおよび3b、矢印)、一方、アルツハイマー病では(図2aおよび3a、矢印)対応する曲線の有意な分離があり、分析した脳領域のそれぞれでStAR遺伝子の発現の差を示していることに注意する。
図4は、StARプライマー配列の、ヒトStAR遺伝子(Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92; 4778−4782; GenBank登録番号U17280)のヌクレオチド配列との図式的整列を図示する;ポリA;ポリアデニル化部位;プライマー位置P1、P2は矢印によって示される;四角はStARオープン・リーディング・フレーム(127−984位)を表す。
図5は、StARプライマー対の、ヒトStAR遺伝子(Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1995, 92; 4778−4782; GenBank登録番号U17280)のヌクレオチドに対する正確なヌクレオチド配列整列を示す。
図6は、配列番号1、すなわち285アミノ酸を含むヒトStARのポリペプチド配列を開示する(GenBank登録番号P49675)。
図7は、抗StARウサギポリクローナル抗体(緑色シグナル)を用いて標識したヒト大脳皮質を示す。StARの免疫反応性は中心前皮質(CT)および白質(WM)の両方で検出された(図7a、低倍率)。皮質では、StAR免疫反応性は神経細胞体およびグリア細胞体、および神経突起に点状の部分として観察され、これはミトコンドリア局在化を示す(図7b、高倍率)。白質では、点状のシグナルが多数のグリア細胞の細胞質に検出された。青色シグナルはDAPIで染色した核を示す。
表1は、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P017、P019(1.72ないし7.30倍)で特定されるアルツハイマー病患者7名、および内部参照番号C005、C008、C011、C012、C014(0.59ないし2.25倍)で特定される同年齢の対照健常者5名における、側頭皮質と比較しての前頭皮質でのStAR遺伝子の遺伝子発現レベルを列記する。散布図は、それぞれ対照試料(点)およびAD患者試料(三角)における、側頭皮質に対する前頭皮質の調節比を視覚化する。示された値はここに記載する式に従った逆数値である(下記参照)。
表2は、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P019(2.24ないし25.61倍)で特定されるアルツハイマー病患者6名、および内部参照番号C005、C008(2.65ないし3.56倍)で特定される同年齢の対照健常者2名における、海馬と比較しての前頭皮質でのStAR遺伝子発現レベルを列記する。散布図は、それぞれ対照試料(点)およびAD患者試料(三角)における、海馬に対する前頭皮質の調節比を視覚化する。示された値はここに記載する式に従った逆数値である(下記参照)。
実施例1
(i)AD患者由来の脳組織解剖:
AD患者および同年齢の対照被験者由来の脳組織を死後6時間以内に採取し、直ちにドライアイス上で凍結した。診断の組織病理的確認のため、各組織からの試料切片はパラホルムアルデヒドで固定した。発現差の分析のための脳の部分を特定し(図1参照)、RNA抽出を実施するまで−80℃にて保存した。
(ii)総mRNAの単離:
総RNAは、RNeasyキット(キアゲン(Qiagen))を取扱説明書に従って使用することによって、死後脳組織から抽出した。正確なRNA濃度およびRNA品質は、DNAラブチップ(LabChip)系を用いてアジレント(Agilent)2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))を使用して測定した。調製したRNAの追加の品質試験、すなわち部分分解の排除およびDNA混入に関する試験は、特に設計したイントロンGAPDHオリゴヌクレオチドおよび参照対照としてゲノムDNAを使用して、ライトサイクラー(LightCycler)技術を取扱説明書(ロシュ(Roche))に従って用いて融解曲線を作成した。
(iii)定量的RT−PCR分析:
前頭皮質に対して側頭皮質における、および海馬に対して前頭皮質におけるヒトStAR遺伝子の発現レベルを、ライトサイクラー(LightCycler)技術(ロシュ(Roche))を用いて分析した。この手法はポリメラーゼ連鎖反応の迅速熱サイクリングおよび増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定を特色とし、したがって、終点計測値でなく動力学を用いることによってRT−PCR産物の高度に正確な定量が可能である。前頭皮質および側頭皮質由来の、ならびに前頭皮質および海馬由来の、StAR cDNAの比をそれぞれ測定した(相対的定量)。
最初に、ヒトStARに特異的なプライマー(5'−CCAATGTCAAGGAGATCAAGGTC−3'および5'−GCCAGCTCGTGAGTAATGAATGT−3')を用いたPCRの効率を測定するため、標準曲線を作成した。
PCR増幅(95℃で1秒間,56℃で5秒間、および72℃で5秒間)は、ライトサイクラー・ファストスタートDNAマスターSYBRグリーンI(LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I)混合物(ファストスタートTaqDNAポリメラーゼ、反応緩衝液、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBRグリーンI色素、および1mM MgCl2を含む;ロシュ(Roche))、0.5μMのプライマー、2μlのcDNA希釈系列(ヒト脳総cDNA終濃度40、20、10、5、1、0.5ng;クローンテック(Clontech))および、使用したプライマーに応じて追加の3mM MgCl2を含む、体積20μlで実施した。融解曲線分析は約80℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物の品質および大きさはDNAラブチップ(LabChip)系を用いて測定した(アジレント2100バイオアナライザー、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))。試料の電気泳動図で、StARの予測サイズ67bpに単一ピークが観察された。
同様の方法で、PCR手順を適用して、定量用の参照標準として選択された参照遺伝子の組のPCR効率を測定した。本発明では、5種類のそのような参照遺伝子の平均値を測定した:(1)シクロフィリンB、特異的プライマー5'−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3'および5'−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3'を用いMgCl2を省いて(別に1mMを3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)の単一バンド一本を示した。(2)リボソームタンパク質S9(RPS9)、特異的プライマー5'−GGTCAAATTTACCCTGGCCA−3'および5'−TCTCATCAAGCGTCAGCAGTTC−3'を用いて(例外;別に1mM MgCl2を3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約85℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)を有する単一バンド一本を示した。(3)ベータアクチン、特異的プライマー5'−TGGAACGGTGAAGGTGACA−3'および5'−GGCAAGGGACTTCCTGTAA−3'を用いて。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(142bp)を有する単一バンド一本を示した。(4)GAPDH、特異的プライマー5'−CGTCATGGGTGTGAACCATG−3'および5'−GCTAAGCAGTTGGTGGTGCAG−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(81bp)を有する単一バンド一本を示した。(5)トランスフェリン受容体TRR、特異的プライマー5'−GTCGCTGGTCAGTTCGTGATT−3'および5'−AGCAGTTGGCTGTTGTACCTCTC−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(80bp)を有する単一バンド一本を示した。
値の計算のために、まずcDNA濃度の対数を、StARおよび5種類の参照標準遺伝子についてのサイクル数閾値C
tに対してプロットした。標準曲線の傾きおよび切片(すなわち直線回帰)をすべての遺伝子について計算した。次の段階で、前頭皮質および側頭皮質由来の、ならびに前頭皮質および海馬由来のcDNAをそれぞれ平行して分析しシクロフィリンBに対して正規化した。C
t値を測定し、対応する標準曲線を用いてng総脳cDNAに変換した;
前頭および側頭皮質StARのcDNAについての値、および前頭皮質および海馬StAR cDNAについての値はそれぞれ、シクロフィリンBに対して正規化し、比を下記の式に従って計算した;
三番目の段階で、参照標準遺伝子の組を平行して分析し、個別の脳試料それぞれについて参照標準遺伝子の発現レベルの前頭対側頭比の、および前頭対海馬比の平均値をそれぞれ決定した。シクロフィリンBを段階2および段階3で分析し、また、一つの遺伝子から別の遺伝子への比は別々の分析で一定のままであったため、StARについての値を、単一の遺伝子だけに対して正規化するのでなく、参照標準遺伝子の組の平均値に対して正規化することが可能であった。計算は、上記に示すそれぞれの比を、すべてのハウスキーピング遺伝子の平均値からのシクロフィリンBの偏差で割ることによって行った。StAR遺伝子についてのそのような定量的RT−PCR分析の結果を図2および図3に示す。
(iv)免疫組織化学;
ヒト脳におけるStARの免疫蛍光染色のために、一名の提供者の死後中心前回からクリオスタット(ライカCM3050S)を用いて凍結切片を調製し、アセトン中で10分間固定した。PBSで洗浄後、切片をブロッキング緩衝液(10%正常ヤギ血清、0.2%トリトンX−100を含むPBS)で30分間プレインキュベートし、その後、アフィニティ精製抗StARウサギポリクローナル抗体(ブロッキング緩衝液で1:50希釈;ディアノバ(Dianova)、ハンブルク)と一夜4℃にてインキュベートした。0.1%トリトンX−100/PBSで3回洗浄後、切片をFITC結合ヤギ抗ウサギIgG(1%BSA/PBSで1:150希釈)と共に2時間室温にてインキュベートし、その後再びPBSで洗浄した。核の染色は、5(MDAPIを含むPBSとの3分間の切片のインキュベートによって実施した(青色シグナル)。ヒト脳中のリポフスチンの自己蛍光をブロックするため、切片を1%スダンブラックBを含む70%エタノールで2〜10分間室温にて処理し、その後連続して70%エタノール、蒸留水、およびPBSに浸した。切片は、「ベクトラシールド(Vectrashield)」封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)、カリフォルニア州バーリンゲーム(Burlingame))を用いてカバーガラスを掛け、倒立顕微鏡(IX81、オリンパス光学)下で観察した。デジタル画像は適当なソフトウェア(AnalySiS、オリンパス光学)を用いて取り込んだ。