JP2004091872A - 超電導磁場発生装置及び、それを用いたスパッタ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる超電導磁場発生装置と、それをスパッタガンの一部として用いたスパッタ装置を提供すること。
【解決手段】スパッタ装置20においては、真空チャンバ21の中に、スパッタガン35と、ターゲット32、さらに、その上に薄膜を形成するための基材31が配置されている。そして、スパッタガン35には、磁気回路を構成するためのヨーク23と超電導磁場発生装置1Cが組み込まれている。この点、ヨーク23は、スパッタガン35の内部に固定されている。また、超電導磁場発生装置1Cは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成され、着脱機構により上下に移動させることにより着脱可能になっている。
【選択図】 図10
【解決手段】スパッタ装置20においては、真空チャンバ21の中に、スパッタガン35と、ターゲット32、さらに、その上に薄膜を形成するための基材31が配置されている。そして、スパッタガン35には、磁気回路を構成するためのヨーク23と超電導磁場発生装置1Cが組み込まれている。この点、ヨーク23は、スパッタガン35の内部に固定されている。また、超電導磁場発生装置1Cは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成され、着脱機構により上下に移動させることにより着脱可能になっている。
【選択図】 図10
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導体による磁場発生装置と、それをスパッタガンの一部として用いたスパッタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、各種基材に薄膜を形成する装置として、マグネトロンスパッタ装置が広く用いられている。これは、磁場中にターゲットを配置し、磁場の作用でターゲットの表面近傍にプラズマを集中させてスパッタリングを行う装置である。ターゲット上に形成される磁場により、ターゲットの表面近傍にプラズマが高密度に集中し、その結果、成膜速度の向上、基材に形成される薄膜のプラズマによるダメージの低減、高真空での成膜による膜質の向上などのメリットが得られる。
【0003】
そして、例えば、ターゲットと基材とを対向させて配置するプレーナ型スパッタ装置においては、ターゲットの背面に永久磁石とヨークを配置し、ターゲットのおもて面に中央部から出て周縁部に戻るループ状の磁場を発生させる。このとき、ターゲット上に発生した磁場のうち、ターゲットに平行な磁場の強度が大きいほど、プラズマが強く集中し、上述した効果がより顕著に表れる。
【0004】
この点、従来は、磁場の発生源として永久磁石を用いていたため、ターゲット上の水平磁場は0.1T(テスラ)程度と弱かった。もっとも、近年、高温超電導体が数T(テスラ)の磁場を捕捉できることが見出され、これを磁場源に用いるスパッタ装置が考案されている。
【0005】
尚、本発明の先行技術文献としては、特開平10−72667号公報や、特開2002−146529号公報、特開2000−133849号公報、特開2000−68338号公報、特開平11−283822号公報などがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記高温超電導体を用いたスパッタ装置においては、発生磁場強度は大きいものの、ターゲット上で磁束線が完全にはループを形成しないため、ターゲット上の水平磁場の強度がそれほど大きくなく、上述したような効果が十分得られないという問題点があった。
また、ターゲット上の水平磁場をより強くするため、超電導体を低温まで冷却してより多くの磁場を捕捉させると、捕捉した磁場で超電導体が割れてしまう恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明者は、超電導体の磁場分布形状について検討を行い、研究、実験を重ねた結果、図14に示すように、超電導体の捕捉磁場分布が原理的に円錐状になることが原因であり、磁場分布を制御することで問題を解決できる旨の知見を得た。
【0008】
すなわち、本発明は、この知見に基づくものであり、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる超電導磁場発生装置と、それをスパッタガンの一部として用いたスパッタ装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するためになされた請求項1の発明は、超電導遷移温度以下に冷却され磁場を捕捉することにより外部に磁場を発する超電導体と、該超電導体を冷却する冷却手殴と、該超電導体を収容する断熱容器とを含む超電導磁場発生装置において、該超電導体の中央部を環流する電流の密度が、該超電導体の周縁部を環流する電流の密度より小さいこと、を特徴としている。
【0010】
本発明において、最も注意すべき点は、超電導体の中央部を環流する電流の密度を、超電導体の周縁部を環流する電流の密度より小さくすることにある。
【0011】
すなわち、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合、超電導体の上に発生する磁場の分布は、円柱状の超電導体では、図2(a)に示す円錐状になる。この点、図2(b)に示すように、超電導体の周縁部から発せられる磁場では、超電導体の一方の極から磁束線が出た後、小さくループを描いて超電導体の他の極に戻るので、超電導体の上に水平磁場が形成されるけれども、超電導体の中央部から発せられる磁場では、強度は大きいものの、超電導体から真っ直ぐに発せられる磁束線が極めて大きなループを描くため、超電導体の上における水平磁場の形成には実質的に寄与しない。
また、磁場の捕捉により超電導体内に発生する応力は、磁場強度の強い中央部で最も大きくなり、ここでは、水平磁場の形成に寄与しない中央部の磁場で超電導体の破壊を引き起こす大きさとなる。
【0012】
これに対して、超電導体の中央部を環流する電流の密度が小さい場合には、図1(a)に示すように、超電導体の上に発生する磁場の分布は、中央部の勾配が緩やかな円錐状になる。しかしながら、超電導体の周縁部から発せられる磁場は変わらないので、図1(b)に示すように、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合と同等の水平磁場強度が得られる(図2(b)参照)。一方で、超電導体の中央部から発せられる磁場の強度は小さくなるので、磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場が減少し、また、超電導体の中央部に働く応力が減少する。その結果、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる。
また、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)に着目した場合においても、材料の破壊強度内で最大に励磁すると、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が還流する従来の場合よりも超電導体から発せられる総磁束量を大きくすることができる。即ち、超電導体の中央部を還流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0013】
尚、超電導体の形状は円柱状に限るものではなく、角柱状であってもよい。また、中央部と周縁部は超電導体における相対的な位置関係を表すものであって、必ずしも明確な境界が存在するものではない。環流する電流の密度は、超電導体の中央部と超電導体の周縁部とでステップ状に変わっていてもよいし、超電導体の中央部から超電導体の周縁部に向かって連続的に変化していてもよい。冷却手段は、窒素、酸素、アルゴン、ネオン、水素、ヘリウムなどの液体または気体の冷媒を用いてもよいし、GM冷凍機、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機などの冷凍機を用いてもよいし、冷媒を冷凍機で冷却して循環させる方法でもよい。
【0014】
また、超電導体の中央部と超電導体の周縁部とで電流密度が異なるように超電導体を励磁する方法としては、例えば、静磁場を印加した状態で超電導体を超電導遷移温度Tc以下に冷却するFieldCooling法(以下、「FC法」という。)や、超電導体を超電導遷移温度Tc以下に冷却してからパルス磁場を印加するパルス着磁法がある。
【0015】
この点、FC法では、図12に示すように、(1)最初に超電導体に磁場Hlを印加するとともに、(2)そのまま超電導体を温度Tl(<超電導遷移温度Tc)に冷却する、(3)温度Tlに保持したまま印加磁場をH2(<Hl)に減少させる、(4)印加磁場をH2に保持したまま温度をT2(<Tl)に下げる、(5)温度T2に保持したまま印加磁場ゼロにする、の手順によって実現することができる。また、(3)〜(5)において温度と磁場をステップ的に交互に減らすのではなく、同時に連続的に減らしてもよい。
【0016】
一方、パルス着磁法では、例えば、超電導体の温度を下げながら一定の強度の磁場を繰り返し印加することにより実現が可能である。
【0017】
次に、請求項2の発明のように、請求項1に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体の中央部を環流する電流の密度はゼロであることが好ましい。
【0018】
この場合には、超電導体の上に発生する磁場の分布は、図3(a)に示すように円錐台状になり、また、図3(b)に示すように、超電導体の中央部から発した磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場を最小にすることができ、捕捉した磁場を最も効率的に水平磁場に反映することが可能である。
また、超電導体を破壊する恐れが最も少なく安全に励磁できる。
【0019】
次に、請求項3の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、周縁部から中心部に向かって臨界電流密度が連続的または段階的に小さくなるよう単一または複数の超電導体から構成することができる。
【0020】
この場合には、超電導体を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを段階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0021】
次に、請求項4の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、周縁部から中央部に向かって超電導遷移温度が連続的または段階的に低くなるよう単一または複数の超電導体から構成することができる。
【0022】
一般に、超電導遷移温度が低いほど、同じ温度における臨界電流密度も小さくなる傾向にあるので、この場合にも、超電導体を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを殴階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0023】
次に、請求項5の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、実質的にリング状にすることができる。
【0024】
ここで、「実質的にリング状」とは、穴が開いている場合のみならず、穴は開いていないが中央部が超電導体でない、或いは、中央部は超電導体の一部ではあるが超電導状態になっていないことを意味する。また、超電導体の外周および内周(中央部と周縁部との境界)は、必ずしも円であるとは限らず、多角形状あるいは凹凸がある場合も含む。この場合には、超電導体の励磁の仕方・条件によらず、中央部から発する磁場をなくすことができる。
【0025】
次に、請求項6の発明のように、請求項2に記載する超電導磁場装置では、環流する電流の密度がゼロである前記中央部の領域は、前記超電導体の中心軸から外周までの距離の1/2以下の範囲であることが望ましい。
【0026】
なぜなら、電流の密度がゼロである領域が超電導体の中心軸から外周までの距離の1/2を越えると、超電導体の全体に電流が流れている場合に比べて、超電導体の上に形成される水平磁場強度が大きく減少し、磁場発生装置としての性能が著しく低下するからである。
【0027】
次に、請求項7の発明のように、請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、溶融法により作製した、その主成分がRE−Ba−Cu−O(REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Er,Yb,Dy,Hoのうちの1種以上)で表されるものであることが好ましい。
【0028】
この点、一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融法で合成したRE−Ba−Cu−O系超電導体は、結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有している。この絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の強度が大きい超電導体が得られ、磁場発生装置としての性能が向上する。
【0029】
次に、請求項8の発明のように、請求項7に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、Ag,Au,Pt,Rh,Ceの少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0030】
この点、Ag,Auは超電導相と反応せずに超電導母相内に析出し、超電導遷移温度などの超電導特性を損なうことなく、セラミックスであるRE−Ba−Cu−O系超電導体の機械的強度を向上させる。
また、Pt,Rh,Ceを含有したRE−Ba−Cu−O系超電導体は、母相である超電導相に絶縁相がより微細に分散しており、より強いピン止め力を示すので、当該超電導体の捕捉磁場が増加する。
従って、Ag,Au,Pt,Rh,Ceの少なくとも1種類を超電導体に含ませれば、磁場発生装置としての信頼性又は性能が向上する。
【0031】
次に、請求項9の発明のように、請求項7又は請求項8に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、原子数比で全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれた1または複数種からなるものであって、かつ、その製造方法が、前記超電導体の原料粉を溶融後、中央部に設置した種結晶から、結晶成長終盤の酸素分圧が結晶成長初期の酸素分圧より低くなるように結晶成長させる工程を経ていることが好ましい。
【0032】
この点、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれるものからなる超電導体は、合成時の酸素分圧によって超電導遷移温度Tc、臨界電流密度Jcなどの超電導特性が変化する。例えば、酸素分圧が低いほど超電導遷移温度Tcが高くなる。超電導体の原料粉を溶融後、超電導体の中央部に設置した種結晶から結晶成長させて凝固させるときに、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くすると、最初に凝固した中央部は超電導遷移温度Tcが低く、終盤に凝固した周縁部は超電導遷移温度Tcが高い特性をもった超電導体ができる。その結果、既に上で述べたように、比較的簡便な操作で超電導磁場発生装置を励磁できる。なお、種結晶は、原料粉を溶融する前に予め原料粉の上に設置しておいてもよいし、また、原料粉の溶融後に設置してもよい。
【0033】
次に、請求項10の発明のように、請求項1乃至請求項9のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、前記超電導体から発せられた磁場およびその戻りの磁場が通過する部位を肉薄部とし、かつ、前記超電導体の背面に強磁性体の磁場補助部材を有し、かつ、該磁場補助部材は前記断熱容器の該肉薄部の一部に近接するように伸延していることが好ましい。
【0034】
この点、断熱容器のうち、超電導体から発せられた磁場が通過する部位が肉薄部になっていると、超電導体に捕捉された磁場が断熱容器の厚みによって減衰することを少なく抑えることができるので、強力な磁場を断熱容器の外で有効に利用することができる。また、超電導体の背面に強磁性体の磁場補助部材を配置し、断熱容器の肉薄部に近接するようにすると、超電導体から発せられた磁場が戻りやすくなり、断熱容器の外部における水平磁場強度が増加する。
さらに、断熱容器外にヨーク等を配置して磁気回路を構成する場合には、断熱容器の壁を挟んで内部から外部へつながる磁路を形成する必要があるが、磁場補助部材が断熱容器の肉薄部に近接しており、磁束の漏れを最小に抑えることができるので、断熱容器の外部における水平磁場強度をより強くすることができる。
【0035】
尚、強磁性体の磁場補助部材としては、飽和磁束密度または残留磁束密度の大きいものが好ましい。具体的には、パーメンジュール(Fe−Co−V)、電磁軟鉄(Fe)、珪素銅板(Fe−Si)、センダスト(Fe−Si−Al)などの高透磁率材料や、Nd−Fe−B、Sm−Coなどの永久磁石材料を用いることができる。
【0036】
次に、請求項11の発明のように、請求項1乃至請求項10のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、その一部または全部が強磁性体でできており、磁気回路を構成するヨークの一部とすることができる。
【0037】
この場合には、ヨーク材を新たに追加することなく、磁気回路を構成することができるので、コンパクトな磁極で強力な磁場を外部に発することができる。
【0038】
次に、請求項12の発明のように、請求項11に記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、前記超電導体と前記磁場補助部材の周囲に位置する部位が強磁性体でできていることが好ましい。
【0039】
この場合には、最も有効に磁気回路を構成することができる。
【0040】
次に、請求項13の発明は、薄膜原料を含むターゲットと、スパッタガンと、を有し、該スパッタガンから発せられる磁場の作用で該ターゲットの表面近傍にプラズマを集中させてスパッタリングを行い、放出される薄膜原料を基材の表面に被着させて薄膜を形成するスパッタ装置において、前記スパッタガンは、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載する超電導磁場発生装置が組み込まれていること、を特徴としている。
【0041】
上述したように、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載する超電導磁場発生装置は、磁極から発せられる水平磁場が極めて強いという特徴を有しており、これをスパッタガンに組み込むことにより、ターゲット上に形成される水平磁場が強化されるので、高性能なスパッタ装置を実現することができる。
【0042】
尚、スパッタ装置に取付けられるスパッタガンの台数は1台に限るものではなく、複数の種類のターゲットを具備する、いわゆる多元スパッタ装置にも適用でき、この場合は、スパッタガンを複数台取付けることことができる。
また、複数のターゲットが対向して構成される対向型スパッタ装置にも適用できる。
【0043】
次に、請求項14の発明のように、請求項13に記載するスパッタ装置では、前記超電導磁場発生装置を着脱可能にする着脱機構を具備することが好ましい。
【0044】
本発明において最も注目すべき点は、上記超電導磁場発生装置が着脱機構により着脱可能に組み込まれていることである。上記スパッタガンを機能させるためには、超電導磁場発生装置を励磁する必要があり、例えば、超電導体を励磁する際に超電導マグネットを用いる場合には、スパッタ装置に組み込んだままでは励磁を行うことが原理的に不可能である。そこで、着脱機構を設けて、超電導磁場発生装置をスパッタ装置から着脱可能とすることにより、あらゆる励磁方法に対応ができ、汎用性のあるスパッタ装置が実現できる。また、保守点検が容易というメリットもある。
【0045】
尚、上記着脱機構は、上記超電導磁場発生装置を円滑にスライドさせるためのガイドや、上記超電導磁場発生装置の重量を支えて移動させるための移動装置、着脱の際の衝撃を緩和するダンパ等で構成してもよい。
また、スパッタガンには、通常、磁気回路を構成するためのヨークが組み込まれ、さらに、スパッタガンの上には強磁性体のターゲットを配置することがある。このとき、励磁した超電導磁場装置をスパッタガンに組み込む際には、これらのヨークやターゲットが強力な磁力により引きつけられるが、これらの着脱機構を具備することで適正な位置に衝撃を与えることなく、かつ、安全に組み込むことができる。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照にして説明する。
【0047】
図5に、第1実施の形態による超電導磁場発生装置を示す。図5に示すように、第1実施の形態の超電導磁場発生装置1Aは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。
【0048】
この点、超電導体2は、真空に排気された断熱容器4内に収容されており、冷凍機5のコールドヘッド6に磁場補助部材3と共に接続され冷却されるようになっている。また、断熱容器4は、非磁性であり、上部と側面に肉薄部7a,7bが設けてある。また、超電導体2は、円柱状であり、その背面には磁場補助部材3が配置されている。また、磁場補助部材3では、その上部が超電導体2と同じ径である一方、その下部の径は、超伝導体2の径よりも大きく、しかも、断熱容器4の側面の肉薄部7bに近接するように伸延している。
【0049】
従って、図5に示すように、断熱容器4のうち、超電導体2から発せられた磁場が通過する部位が肉薄部7aになっており、超電導体2に捕捉された磁場が非磁性体の断熱容器4の厚みによって減衰することを少なく抑えることができるので、強力な磁場を断熱容器4の外で有効に利用することができる。また、超電導体2の背面に強磁性体の磁場補助部材3を配置し、断熱容器4の肉薄部7bに近接するようにしており、超電導体2から発せられた磁場が戻りやすくなり、断熱容器4の外部における水平磁場強度が増加する。
尚、断熱容器4外にヨーク等を配置して磁気回路を構成する場合には、断熱容器4の壁を挟んで内部から外部へつながる磁路を形成する必要があるが、磁場補助部材3が断熱容器4の肉薄部7bに近接しており、磁束の漏れを最小に抑えることができるので、断熱容器4の外部における水平磁場強度をより強くすることができる。
【0050】
また、超電導体2は、超電導遷移温度Tc以下に冷却され、中央部2aを環流する電流の密度が周縁部2bを環流する電流の密度より小さくなるように励磁されている。その励磁方法は、図12に示す通りである。すなわち、
(1)超電導体2を収容した断熱容器4からなる磁極を、図示しない超電導マグネットのボアに入れ、磁場H1を印加する。
(2)磁場Hlを印加したまま、超電導体2を超電導遷移温度Tc以下の温度T1まで冷却する。
(3)温度をTlに保持したまま、印加磁場をH2(<Hl)まで減少させる。
(4)磁場H2を印加したまま、超電導体2を更に低い温度T2(<Tl)まで冷却する。
(5)温度をT2に保持したまま、印加磁場をゼロにする。
【0051】
そして、励磁後の超電導体2の磁場分布・電流分布は、図1に示す通りである。すなわち、磁場の印加により超電導体2に磁場が捕捉されると、マクロ的には超電導体2に電流が環流した状態になる。そのときに誘起される超電導体2の電流の密度は、通常、その温度で超電導状態を保ちながら流すことのできる最大の電流密度、即ち、その温度における臨界電流密度Jcとなる。
【0052】
従って、高い温度Tlで磁場を捕捉させた中央部2aを環流する超電導電流の密度は温度Tlでの臨界電流密度Jc(Tl)となり、低い温度T2で磁場を捕捉させた周縁部2bは温度T2での臨界電流密度Jc(T2)となる。この点、臨界電流密度Jcは温度が低いほど大きいので、Jc(Tl)<Jc(T2)となり、周縁部2bを環流する超電導電流の密度は中央部2aよりも大きくなる(図1(b))。
【0053】
また、図1(a)に示すように、超電導体2から発せられる垂直(Z)方向の磁場は、超電導体2の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合(図2(a)参照)の円錐分布よりも、中央部2aの勾配が援やかな分布となる。その結果、超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに遠方に発せられる磁場が減少する。一方、超電導体2の周縁部2bから発せられる磁場は、図5に示すように、磁束線がループを描いて背後の磁場補助部材3を通るので、断熱容器4の外部の磁極表面に水平磁場が形成される。このとき、図1(a)及び図2(a)を比較すればわかるように、超電導体2が捕捉する磁場の最大値は、超電導体2の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合よりも小さくなるので、磁場の捕捉により超電導体2に働く応力(フープカ)は小さくなり、破損する危険性は小さくなる。
【0054】
次に、図6に、第2実施の形態による超電導磁場発生装置を示す。図6に示すように、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。この点、第1実施の形態の超電導磁場発生装置1Aと異なる点は、以下の通りである。すなわち、断熱容器4の側面は、超電導体2と磁場補助部材3の周囲に位置する部分が強磁性体からなっている。その結果、ヨーク等を追加することなく、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bだけで最も有効に磁気回路を構成することができ、磁極表面の水平磁場がコンパクトな磁極で強化される。
【0055】
尚、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bでは、断熱容器4の一部が強磁性体からなっている。この点、断熱容器4の全部が強磁性体からなっていも、上述した効果を得ることができる。
【0056】
次に、第3実施の形態の超電導磁場発生装置として、超電導体の中央部を環流する電流の密度がゼロである超電導磁場発生装置について説明する。尚、第3実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じであるが、超電導体2の励磁方法が異なる。
【0057】
そこで、超電動体の励磁方法を図4(a)(b)に示す。すなわち、
(1)先ず、超電導体2を冷却する温度Tlで、超電導体2が捕捉できる磁場の最大値をB*とする。
(2)図示しない超電導マグネットでB*より小さな磁場Ha(<B*)を超電導体2に印加する。
(3)磁場Haを印加したまま、超電導体2を超電導遷移温度Tc以下の温度Tlまで冷却する。
(4)温度をTlに保持したまま、印加磁場をゼロにする。
【0058】
そして、励磁後の超電導体2の磁場分布・電流分布は、図3に示す通りである。すなわち、図3(b)に示すように、印加した磁場HaがB*より小さいために、超電導体2の中央部2aを環流する電流はゼロになり、温度Tlで磁場を捕捉させた超電導体2の周縁部2bには、温度Tlで決まる臨界電流密度Jc(Tl)が流れる。この電流分布を反映して、図3(a)に示すように、超電導体2から発せられる垂直(Z)方向の磁場の形状は円錐台状になる。その結果、水平磁場の形成にはとんど寄与しない超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに遠方に発せられる磁場がより減少する。また、超電導体2が捕捉する磁場の強度が大幅に小さくなるので、磁場の捕捉により超電導体2に働く応力(フープカ)はよりいっそう小さくなり、破損する危険性が更に小さくなる。
【0059】
従って、この場合には、超電導体2の上に発生する磁場の分布は、図3(a)に示すように円錐台状になり、また、図3(b)に示すように、超電導体2の中央部2aから発した磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場を最小にすることができ、捕捉した磁場を最も効率的に水平磁場に反映することが可能である。
また、超電導体2を破壊する恐れが最も少なく安全に励磁できる。
【0060】
次に、第4実施の形態の超電導磁場発生装置として、超電導体が実質的にリング状である超電導磁場発生装置について説明する。尚、第4実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じであるが、超電導体2の材質が異なる。すなわち、図7に示すように、超電導体2の周縁部2bは、超電導遷移温度Tc以下で有限の臨界電流密度Jcをもつものであり、例えば、Gd−Ba−Cu−O系超電導体である。一方、超電導体2の中央部2aは、周縁部2bと同じ結晶構造をもつが、超電導体ではない材料であり、例えば、Pr−Ba−Cu−O系化合物である。そのため、超電導体2の中央部2aには、電流が全く流れないので、第3実施の形態の超電導磁場発生装置のように、Ha<B*を満たす条件で超電導体2を励磁する必要がない。従って、この場合には、超電導体2の励磁の仕方・条件によらず、超電導体2の中央部2aから発する磁場をなくすことができる。
【0061】
次に、第5実施の形態の超電導磁場発生装置として、上述した第3実施の形態又は第4実施の形態の超電導体の中央部を環流する電流の密度がゼロである超電導磁場発生装置について、電流密度がゼロである領域のサイズを変えたときの効果について説明する。
【0062】
図3(b)に示すように、直径2Rの円柱状の超電導体2において、直径dの中央部2aは電流密度がゼロであり、φd〜φ2Rの周縁部2bには、一定の電流密度で超電導電流が環流しているとする。そして、電流密度がゼロの領域をφd=0、φd=(1/3)×2R、φd=(1/2)×2R、φd=(2/3)×2Rと変化させたときの、第5実施の形態の超電導磁場発生装置の磁極から発せられる磁場の強度分布(1T(テスラ)のライン)を図8に示す。これより、超電導体2において、電流密度がゼロの領域を広げていくと、超電導体2から発せられる磁場は弱くなり、特に、超電導体2の中心近傍r≒0では、磁場強度が急激に低下し、超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに発せられる磁場が大幅に減少するのがわかる。これに対し、超電導体2の外周近傍r≒2Rでは磁場強度の減少は緩やかで、φd=0〜(1/2)×2Rまでは、超電導体2の全体に電流が環流している場合(φd=0)とほとんど同じ磁場強度が得られることがわかる。
【0063】
そして、第5実施の形態の超電導磁場発生装置をスパッタ装置のガンに用いる場合には、上述したように、磁極表面の水平磁場が強いほど装置としての性能が向上する。そこで、φdを変えたときの水平磁場強度B〃の変化を図9に示す。ここで、B〃とは、磁場ベクトルが磁極表面に平行になる点(即ち、Bz=0)の磁場(この点ではB〃=Brとなる)であり、例えば、図2(b)においては、磁場空間の代表的なB〃の位置と大きさを横矢印の位置と太さで表した。図9の横軸は、第5実施の形態の超電導磁場発生装置において、磁場ベクトルが磁極表面に平行となる位置のz座標(磁極表面からの距離z)である。これより、超電導体2において、φd=(1/2)×2Rまで、電流密度がゼロの領域を広げても、磁極表面の水平磁場B〃の減少はわずかで超電導体2の全体に電流が環流している場合(φd=0)と同等の水平磁場強度が得られることがわかる。
【0064】
以上の結果より、電流密度がゼロの領域を超電導体2の直径2Rの1/2以下とすることで、水平磁場強度B〃を落とすことなく、効果的に超電導体2の中央部2aから真っ直ぐ発せられる磁場を低減できることがわかる。
【0065】
次に、第6実施の形態の超電導磁場発生装置として、Sm−Ba−Cu−O系超電導体を用いた超電導磁場発生装置について説明する。尚、第6実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じである。
【0066】
すなわち、超電導体2として使用されるされる、Sm−Ba−Cu−O系超電導体は以下のように作製した。先ず、超電導原料粉末と、Ag2O(酸化銀)粉末、Pt(白金)粉末を混合して圧粉した成形体を炉に入れ、Ar(アルゴン)とO2(酸素)の混合ガス中で、超電導相であるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)が分解する温度以上まで昇温して部分溶融させる。その後、表面に種結晶を設置して徐冷し、超電導体2の中心から周囲に向かって結晶成長させて凝固させる。この際、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くする。そして、この溶融凝固体を酸素中で熱処理し、十分に酸素を吸収させる。
【0067】
この点、上述したように、一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融法で合成したSm−Ba−Cu−O系超電導体は、結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有している。この絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の強度が大きい超電導体が得られ、磁場発生装置としての性能が向上する。また、Ptを添加しているので、絶縁相がより微細に分散して、より大きな磁場を捕捉できる超電導体が得られる。また、添加したAg2Oは、合成時に分解し、Agとなり、超電導母相状に析出しているので、超電導体の機能的強度が向上し、大きな磁場を捕捉しても、超電導体が壊れにくい。
【0068】
尚、このようにして作製したSm−Ba−Cu−O系超電導体の超電導特性を調べたところ、高い酸素分圧で凝固した中央部2aが最も超電導遷移温度Tcが低く、低い酸素分圧で擬固した周縁部2bほど超電導遷移温度Tcが高くなることがわかった。
【0069】
さらに、この超電導体2を用いて第6実施の形態の超電導磁場発生装置を組み立て、超電導マグネットで静磁場を印加しながら、超電導体2の中央部2aの超電導遷移温度Tcよりも低い温度に冷却して励磁したところ、図1に示すような磁場分布と電流分布が得られた。また、最も超電導体2の中央部2aの超電導遷移温度Tcより高く、最も超電導体2の周縁部2bの超電導遷移温度Tcより低い温度に冷却して励磁したところ、図3に示すような磁場分布と電流分布が得られた。
【0070】
すなわち、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がSmからなる超電導体2は、合成時の酸素分圧によって超電導遷移温度Tc、臨界電流密度Jcなどの超電導特性が変化する。上述したように、酸素分圧が低いほど超電導遷移温度Tcが高くなる。超電導体2の原料粉を溶融後、種結晶を超電導体2の中央部2aに設置して、種結晶から結晶成長させて凝固させるときに、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くすると、最初に凝固した中央部2aは超電導遷移温度Tcが低く、終盤に凝固した周縁部2bは超電導遷移温度Tcが高い特性をもった超電導体2ができる。
【0071】
その結果、既に上で述べたように、比較的簡便な操作で、第6実施の形態の超電導磁場発生装置を励磁できる。すなわち、一般に、超電導遷移温度Tcが低いほど、同じ温度における臨界電流密度Jcも小さくなる傾向にあるので、超電導体2を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを殴階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0072】
尚、第6実施の形態の超電導磁場発生装置では、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がSmからなる超電導体2を使用している。この点、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がNd,Eu,Gdから選ばれた1からなるものを同様な方法で作製し、超電導体2として使用しても、同様な効果を得ることが可能である。また、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれた複数種からなるものを同様な方法で作製し、超電導体2として使用しても、同様な効果を得ることが可能である。
【0073】
次に、第7実施の形態の超電導磁場発生装置として、Sm−Ba−Cu−O系超電導体を用いた超電導磁場発生装置について説明する。尚、第7実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じである。
【0074】
すなわち、超電導体2として使用されるされる、Sm−Ba−Cu−O系超電導体は以下のように作製した。先ず、超電導原料粉末と、Ag2O(酸化銀)粉末、Pt(白金)粉末を混合して圧粉した成形体を炉に入れ、Ar(アルゴン)とO2(酸素)の混合ガス中で、超電導相であるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)が分解する温度以上まで昇温して部分溶融させる。その後、表面に種結晶を設置して徐冷し、超電導体2の中心から周囲に向かって結晶成長させて凝固させる。そして、この溶融凝固体を酸素中で熱処理し、十分に酸素を吸収させる。
【0075】
このとき、超電導原料粉末として、超電導相となるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)粉末、絶縁相となるSm2BaCuO5(以下、Sm211)粉末を使用するが、Sm123とSm211の比率を変えて合成すると、臨界電流密度Jcの異なる超電導体を作製できる。例えば、Sm123とSm211の混合モル比をSm123:Sm211=1:xで表すと、x=0〜0.5の範囲では、Sm211の添加量が多いほど臨界電流密度Jcが大きくなる。
このことを利用して、図13の(b)のように、中心部に向かうほどSm211の添加量が少なくなるように配合して超電導体2を合成すると、中心ほど臨界電流密度Jcが小さなSm−Ba−Cu−O系超電導体2ができる。
この超電導体2を、図4(a)に示すFC法で励磁すると、各部の臨界電流密度Jcの大きさを反映した図13の(a)の磁場分布が得られる。
【0076】
すなわち、第7実施の形態の超電導磁場発生装置では、超電導体2を、周縁部2bから中心部2aに向かって臨界電流密度Jcが連続的または段階的に小さくなるよう単一または複数の超電導体2から構成することができる。
【0077】
この場合には、超電導体2を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを段階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0078】
次に、本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置について説明する。図10及び図11は、第8実施の形態のスパッタ装置の概要を示した図である。この点、図10は、超電導磁場発生装置1Cを取り付けた後の状態を示した図である。一方、図11は、超電導磁場発生装置1Cを取り付ける前の状態を示した図である。図10及び図11に示すように、第8実施の形態のスパッタ装置20の構成は、以下の通りである。
【0079】
すなわち、第8実施の形態のスパッタ装置20においては、真空チャンバ21の中に、スパッタガン35と、ターゲット32、さらに、その上に薄膜を形成するための基材31が配置されている。そして、スパッタガン35には、磁気回路を構成するためのヨーク23と超電導磁場発生装置1Cが組み込まれている。この点、ヨーク23は、スパッタガン35の内部に固定されている。また、超電導磁場発生装置1Cは、上述した第1〜第7実施の形態のいずれかのものであり、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成され、着脱機構により上下に移動させることにより着脱可能になっている。
【0080】
ここで、着脱機構について説明すると、着脱機構としては、昇降装置(移動装置)41、ガイド25、ダンパ24などを具備している。この点、ガイド25は、超電導磁場発生装置1Cの取り付け方向に平行になるように真空チャンバ21のガン取付面22に固定されている。また、ダンパ24は、金属の円筒の内部に円筒より長いスプリングが入った構造をしており、ガイド25の付け横に配置されている。また、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2の側面にはフランジ11が固設されており、フランジ11には、ガイド25が通るように貰通穴が設けてある。また、昇降装置41は、超電導磁場発生装置1Cの下部に取付けられ、超電導磁場発生装置1Cを上下に動かせると共に、昇降装置41の下面にあるキャスタ42により床上を水平に動かすことができる。
【0081】
次に、第8実施の形態のスパッタ装置20において、スパッタガン35の内部に、超電導磁場発生装置1Cを組み込む操作手順について説明する。先ず、図11から図10で示すように、励磁した超電導磁場発生装置1Cを取り付け位置の下に持っていき、昇降装置41によりスパッタガン35の内部に挿入する。その際、真空チャンバ21のガン取付面22に固定されたガイド25を、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2のフランジ11の貫通穴に通るようにする。その後、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2のフランジ11は、ガイド25の付け横に配置されたダンパ24のスプリングを押しながら、ダンパ24の円筒に当たるまで上昇する。尚、ダンパ24の円筒の長さは、超電導磁場発生装置1Cが適正な位置にくるように、予め調整してある。以上より、超電導磁場発生装置1Cをスパッタガン35の内部に挿入する際、磁極が内蔵されているヨーク23と引き合うけれども、ガイド25があるため軸ずれが起こらない。また、ダンパ24があるため衝撃を与えることなく滑らかに、超電導磁場発生装置1Cを適正な位置に取付けることができる。そして、組付け完了後は、真空チャンバ21の中にスパッタガスを導入して放電させると、図10に示すように、ターゲット32の表面の強力な水平磁場33により高密度なプラズマ34が生成され、高性能なスパッタ装置20として機能する。
【0082】
次に、第9実施の形態として、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)をできるだけ大きくするような超電導磁場発生装置について、超電導体全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流するように励磁した場合と、中央部の電流密度が周縁部より小さくなるように励磁した場合を比較する実験を行った結果を基に説明する。
【0083】
図15は、この実験に用いた装置を示した図である。図15に示すように、第9実施の形態における超電導磁場発生装置1Dは、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。
【0084】
この点、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)は、真空に排気された断熱容器4内に収容されており、冷凍機5のコールドヘッド6に磁場補助部材3と共に接続され冷却されるようになっている。また、断熱容器4は、非磁性であり、上部に肉薄部7aが設けてある。また、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)は、円柱状であり、その背面には磁場補助部材3が配置されている。また、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)の上には、磁場を測定するためのセンサ200が貼り付けてある。
【0085】
そして、第9実施の形態における超電導磁場発生装置1Dを用いて実験を行い、φ58mmのSm系超電導バルク体の場合について、(1)通常行われているのと同様十分な磁場をかけて着磁する場合と(2)本発明の原理に基づき印加する外部磁場を制限した場合とを比較した。いずれの場合も試料は冷凍機5のコールドヘッド6に直接固定して冷却し、着磁後に捕捉された磁場を試料表面の中心、半径方向9mm、半径方向15mmの3箇所に貼り付けたセンサ200により記録した。超電導マグネットにより試料に所定の磁場を印加した状態で所定温度まで冷却し、その後マグネットの磁場を取り去ることにより、試料表面に捕捉できた磁場を計測した。初めに77Kまで冷却した場合の捕捉磁場を調べ、ついで70K、以下5Kごとに測定することとした。
【0086】
(1)の場合には、各温度での臨界電流密度Jcより予想される最大捕捉磁場と同等以上の印加磁場を与えて着磁した。その結果を図16に示す。なお、図16,17では簡略化のため、対称であるとして半径方向9mm、15mmのデータをプロットした。3.5T磁場中で77Kまで冷却した後印加磁場を取り去って着磁したところ、試料中心表面では1.4Tが捕捉でき(図16の黒塗りの四角印)、次いで同様に5T磁場中で70Kまで冷却して着磁したところ、2.6Tとなった(図16●)。さらに6T磁場中で65Kまで冷却して着磁したところ、印加磁場を取り去る過程で超電導体内に流れる電流によるフープ力で試料にクラックが入り、試料中心部の捕捉磁場がなくなってしまった(図16▲)。この試験による捕捉磁場の温度依存性を示したのが図18である。超電導体の臨界電流密度Jcは温度の低下とともに増えるため、試料が破壊されなければ捕捉磁場も同様に増加するが、この試験では試料が応力で破壊されたため、最大2.8Tの磁場しか捕捉できなかった。
【0087】
一方、(2)の場合は本発明の知見に基づき、着磁の際の印加磁場を65K以下の温度でも5Tとした。その結果を示したのが図17および図19である。印加磁場を制限したため、中心での捕捉磁場は65Kより低い温度では温度を下げても十分増加していないが、試料の周縁部(半径方向9mm、15mm)のところでは温度の低下とともに、捕捉磁場が増えている。そのため、5T磁場中で50Kまで冷却して着磁した場合には、円錐台状の捕捉磁場分布となり、中心の最大捕捉磁場は4.8Tとなった。なお、この超電導体をさらに5.5T磁場中で50Kまで冷却して着磁したところ、(2)の場合と同様に印加磁場を取り去る過程で破壊された。
【0088】
これらの結果から、この試験で評価した超電導体を破壊せずにちょうど円錐状に磁場を捕捉できる条件は、印加磁場5.5T程度で65K付近まで冷却した場合と推察できる。その模式図を図20に示す。この図より、材料の破壊強度内で円錐台状に最大に励磁すると、円錐状に励磁した場合に比べ、発生できる磁場の最大値は若干小さくなるが、磁場の量(総磁束量)は、この場合約1.3倍になることがわかる。すなわち、超電導体の中央部を環流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0089】
【発明の効果】
本発明の超電導磁場発生装置では、超電導体の周縁部から発せられる磁場は変わらないので、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合と同等の水平磁場強度が得られる一方で、超電導体の中央部から発せられる磁場の強度は小さくなるので、磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場が減少し、また、超電導体の中央部に働く応力が減少する。その結果、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる。
また、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)に着目した場合においても、材料の破壊強度内で最大に励磁すると、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が還流する従来の場合よりも超電導体から発せられる総磁束量を大きくすることができる。即ち、超電導体の中央部を還流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0090】
また、本発明のスパッタ装置では、磁極から発せられる水平磁場が極めて強いという特徴を有した超電導磁場発生装置をスパッタガンに組み込んでおり、ターゲット上に形成される水平磁場が強化されるので、高性能なスパッタ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半径Rの超電導体の中央部に環流している電流の密度が周縁部のものより小さい場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図2】半径Rの超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図3】半径Rの超電導体の中央部に環流している電流の密度がゼロの場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図4】超電導体の中央部に環流している電流の密度がゼロとなるように超電導体を励磁する際のFC法の概要を示した図である。
【図5】第1実施の形態の超電導磁場発生装置を示した図である。
【図6】第2実施の形態の超電導磁場発生装置を示した図である。
【図7】第4実施の形態の超電導磁場発生装置において、超電導体の臨界電流密度の分布を示した図である。
【図8】第5実施の形態の超電導磁場発生装置の磁極から発せられる磁場の強度分布(1T(テスラ)のライン)であって、超電導体を環流する電流の密度がゼロの領域をφd=0、φd=(1/3)×2R、φd=(1/2)×2R、φd=(2/3)×2Rと変化させたときの図である。
【図9】第5実施の形態の超電導磁場発生装置において、超電導体を環流する電流密度がゼロの領域を変えたときの水平磁場強度の変化示した図である。
【図10】本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置の概要を示した図であり、超電導磁場発生装置を取り付けた後の状態を示したものである。
【図11】本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置の概要を示した図であり、超電導磁場発生装置を取り付ける前の状態を示したものである。
【図12】超電導体の中央部と超電導体の周縁部とで電流密度が異なるように超電導体を励磁する際のFC法の概要を示した図である。
【図13】半径Rの超電導体の中央部の臨界電流密度が周縁部のものより小さい場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。
【図14】従来の超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を立体的に示した図である。
【図15】水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)をできるだけ大きくするような超電導磁場発生装置について、超電導体全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流するように励磁した場合と、中央部の電流密度が周縁部より小さくなるように励磁した場合を比較する実験に用いた装置を示した図である。
【図16】φ58mmのSm系超電導バルク体について、通常行われているのと同様に十分な磁場をかけて着磁する場合に、各温度での臨界電流密度より予想される最大捕捉磁場と同等以上の印加磁場を与えて着磁した結果を示した図である。
【図17】φ58mmのSm系超電導バルク体について、本発明の原理に基づき印加する外部磁場を5T又は6Tに制限して着磁した結果を示した図である。
【図18】図16の場合の捕捉磁場の温度依存性を示した図である。
【図19】図17の場合の捕捉磁場の温度依存性を示した図である。
【図20】超電導体の破壊強度内で最大に励磁して円錐状と円錐台状に磁場を捕捉させた時の実験結果に基づく模式図である。
【符号の説明】
1A,1B,1C 超電導磁場発生装置
2 超電導体
2a 超電導体の中央部
2b 超電導体の周縁部
3 磁場補助部材
4 断熱容器
5 冷凍機
7a,7b 断熱容器の肉薄部
11 断熱容器のフランジ
20 スパッタ装置
23 ヨーク
24 ダンパ
25 ガイド
31 基材
32 ターゲット
34 プラズマ
35 スパッタガン
41 昇降装置
42 キャスタ
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導体による磁場発生装置と、それをスパッタガンの一部として用いたスパッタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、各種基材に薄膜を形成する装置として、マグネトロンスパッタ装置が広く用いられている。これは、磁場中にターゲットを配置し、磁場の作用でターゲットの表面近傍にプラズマを集中させてスパッタリングを行う装置である。ターゲット上に形成される磁場により、ターゲットの表面近傍にプラズマが高密度に集中し、その結果、成膜速度の向上、基材に形成される薄膜のプラズマによるダメージの低減、高真空での成膜による膜質の向上などのメリットが得られる。
【0003】
そして、例えば、ターゲットと基材とを対向させて配置するプレーナ型スパッタ装置においては、ターゲットの背面に永久磁石とヨークを配置し、ターゲットのおもて面に中央部から出て周縁部に戻るループ状の磁場を発生させる。このとき、ターゲット上に発生した磁場のうち、ターゲットに平行な磁場の強度が大きいほど、プラズマが強く集中し、上述した効果がより顕著に表れる。
【0004】
この点、従来は、磁場の発生源として永久磁石を用いていたため、ターゲット上の水平磁場は0.1T(テスラ)程度と弱かった。もっとも、近年、高温超電導体が数T(テスラ)の磁場を捕捉できることが見出され、これを磁場源に用いるスパッタ装置が考案されている。
【0005】
尚、本発明の先行技術文献としては、特開平10−72667号公報や、特開2002−146529号公報、特開2000−133849号公報、特開2000−68338号公報、特開平11−283822号公報などがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記高温超電導体を用いたスパッタ装置においては、発生磁場強度は大きいものの、ターゲット上で磁束線が完全にはループを形成しないため、ターゲット上の水平磁場の強度がそれほど大きくなく、上述したような効果が十分得られないという問題点があった。
また、ターゲット上の水平磁場をより強くするため、超電導体を低温まで冷却してより多くの磁場を捕捉させると、捕捉した磁場で超電導体が割れてしまう恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明者は、超電導体の磁場分布形状について検討を行い、研究、実験を重ねた結果、図14に示すように、超電導体の捕捉磁場分布が原理的に円錐状になることが原因であり、磁場分布を制御することで問題を解決できる旨の知見を得た。
【0008】
すなわち、本発明は、この知見に基づくものであり、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる超電導磁場発生装置と、それをスパッタガンの一部として用いたスパッタ装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するためになされた請求項1の発明は、超電導遷移温度以下に冷却され磁場を捕捉することにより外部に磁場を発する超電導体と、該超電導体を冷却する冷却手殴と、該超電導体を収容する断熱容器とを含む超電導磁場発生装置において、該超電導体の中央部を環流する電流の密度が、該超電導体の周縁部を環流する電流の密度より小さいこと、を特徴としている。
【0010】
本発明において、最も注意すべき点は、超電導体の中央部を環流する電流の密度を、超電導体の周縁部を環流する電流の密度より小さくすることにある。
【0011】
すなわち、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合、超電導体の上に発生する磁場の分布は、円柱状の超電導体では、図2(a)に示す円錐状になる。この点、図2(b)に示すように、超電導体の周縁部から発せられる磁場では、超電導体の一方の極から磁束線が出た後、小さくループを描いて超電導体の他の極に戻るので、超電導体の上に水平磁場が形成されるけれども、超電導体の中央部から発せられる磁場では、強度は大きいものの、超電導体から真っ直ぐに発せられる磁束線が極めて大きなループを描くため、超電導体の上における水平磁場の形成には実質的に寄与しない。
また、磁場の捕捉により超電導体内に発生する応力は、磁場強度の強い中央部で最も大きくなり、ここでは、水平磁場の形成に寄与しない中央部の磁場で超電導体の破壊を引き起こす大きさとなる。
【0012】
これに対して、超電導体の中央部を環流する電流の密度が小さい場合には、図1(a)に示すように、超電導体の上に発生する磁場の分布は、中央部の勾配が緩やかな円錐状になる。しかしながら、超電導体の周縁部から発せられる磁場は変わらないので、図1(b)に示すように、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合と同等の水平磁場強度が得られる(図2(b)参照)。一方で、超電導体の中央部から発せられる磁場の強度は小さくなるので、磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場が減少し、また、超電導体の中央部に働く応力が減少する。その結果、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる。
また、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)に着目した場合においても、材料の破壊強度内で最大に励磁すると、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が還流する従来の場合よりも超電導体から発せられる総磁束量を大きくすることができる。即ち、超電導体の中央部を還流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0013】
尚、超電導体の形状は円柱状に限るものではなく、角柱状であってもよい。また、中央部と周縁部は超電導体における相対的な位置関係を表すものであって、必ずしも明確な境界が存在するものではない。環流する電流の密度は、超電導体の中央部と超電導体の周縁部とでステップ状に変わっていてもよいし、超電導体の中央部から超電導体の周縁部に向かって連続的に変化していてもよい。冷却手段は、窒素、酸素、アルゴン、ネオン、水素、ヘリウムなどの液体または気体の冷媒を用いてもよいし、GM冷凍機、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機などの冷凍機を用いてもよいし、冷媒を冷凍機で冷却して循環させる方法でもよい。
【0014】
また、超電導体の中央部と超電導体の周縁部とで電流密度が異なるように超電導体を励磁する方法としては、例えば、静磁場を印加した状態で超電導体を超電導遷移温度Tc以下に冷却するFieldCooling法(以下、「FC法」という。)や、超電導体を超電導遷移温度Tc以下に冷却してからパルス磁場を印加するパルス着磁法がある。
【0015】
この点、FC法では、図12に示すように、(1)最初に超電導体に磁場Hlを印加するとともに、(2)そのまま超電導体を温度Tl(<超電導遷移温度Tc)に冷却する、(3)温度Tlに保持したまま印加磁場をH2(<Hl)に減少させる、(4)印加磁場をH2に保持したまま温度をT2(<Tl)に下げる、(5)温度T2に保持したまま印加磁場ゼロにする、の手順によって実現することができる。また、(3)〜(5)において温度と磁場をステップ的に交互に減らすのではなく、同時に連続的に減らしてもよい。
【0016】
一方、パルス着磁法では、例えば、超電導体の温度を下げながら一定の強度の磁場を繰り返し印加することにより実現が可能である。
【0017】
次に、請求項2の発明のように、請求項1に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体の中央部を環流する電流の密度はゼロであることが好ましい。
【0018】
この場合には、超電導体の上に発生する磁場の分布は、図3(a)に示すように円錐台状になり、また、図3(b)に示すように、超電導体の中央部から発した磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場を最小にすることができ、捕捉した磁場を最も効率的に水平磁場に反映することが可能である。
また、超電導体を破壊する恐れが最も少なく安全に励磁できる。
【0019】
次に、請求項3の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、周縁部から中心部に向かって臨界電流密度が連続的または段階的に小さくなるよう単一または複数の超電導体から構成することができる。
【0020】
この場合には、超電導体を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを段階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0021】
次に、請求項4の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、周縁部から中央部に向かって超電導遷移温度が連続的または段階的に低くなるよう単一または複数の超電導体から構成することができる。
【0022】
一般に、超電導遷移温度が低いほど、同じ温度における臨界電流密度も小さくなる傾向にあるので、この場合にも、超電導体を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを殴階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0023】
次に、請求項5の発明のように、請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、実質的にリング状にすることができる。
【0024】
ここで、「実質的にリング状」とは、穴が開いている場合のみならず、穴は開いていないが中央部が超電導体でない、或いは、中央部は超電導体の一部ではあるが超電導状態になっていないことを意味する。また、超電導体の外周および内周(中央部と周縁部との境界)は、必ずしも円であるとは限らず、多角形状あるいは凹凸がある場合も含む。この場合には、超電導体の励磁の仕方・条件によらず、中央部から発する磁場をなくすことができる。
【0025】
次に、請求項6の発明のように、請求項2に記載する超電導磁場装置では、環流する電流の密度がゼロである前記中央部の領域は、前記超電導体の中心軸から外周までの距離の1/2以下の範囲であることが望ましい。
【0026】
なぜなら、電流の密度がゼロである領域が超電導体の中心軸から外周までの距離の1/2を越えると、超電導体の全体に電流が流れている場合に比べて、超電導体の上に形成される水平磁場強度が大きく減少し、磁場発生装置としての性能が著しく低下するからである。
【0027】
次に、請求項7の発明のように、請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、溶融法により作製した、その主成分がRE−Ba−Cu−O(REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Er,Yb,Dy,Hoのうちの1種以上)で表されるものであることが好ましい。
【0028】
この点、一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融法で合成したRE−Ba−Cu−O系超電導体は、結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有している。この絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の強度が大きい超電導体が得られ、磁場発生装置としての性能が向上する。
【0029】
次に、請求項8の発明のように、請求項7に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、Ag,Au,Pt,Rh,Ceの少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0030】
この点、Ag,Auは超電導相と反応せずに超電導母相内に析出し、超電導遷移温度などの超電導特性を損なうことなく、セラミックスであるRE−Ba−Cu−O系超電導体の機械的強度を向上させる。
また、Pt,Rh,Ceを含有したRE−Ba−Cu−O系超電導体は、母相である超電導相に絶縁相がより微細に分散しており、より強いピン止め力を示すので、当該超電導体の捕捉磁場が増加する。
従って、Ag,Au,Pt,Rh,Ceの少なくとも1種類を超電導体に含ませれば、磁場発生装置としての信頼性又は性能が向上する。
【0031】
次に、請求項9の発明のように、請求項7又は請求項8に記載する超電導磁場装置では、前記超電導体は、原子数比で全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれた1または複数種からなるものであって、かつ、その製造方法が、前記超電導体の原料粉を溶融後、中央部に設置した種結晶から、結晶成長終盤の酸素分圧が結晶成長初期の酸素分圧より低くなるように結晶成長させる工程を経ていることが好ましい。
【0032】
この点、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれるものからなる超電導体は、合成時の酸素分圧によって超電導遷移温度Tc、臨界電流密度Jcなどの超電導特性が変化する。例えば、酸素分圧が低いほど超電導遷移温度Tcが高くなる。超電導体の原料粉を溶融後、超電導体の中央部に設置した種結晶から結晶成長させて凝固させるときに、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くすると、最初に凝固した中央部は超電導遷移温度Tcが低く、終盤に凝固した周縁部は超電導遷移温度Tcが高い特性をもった超電導体ができる。その結果、既に上で述べたように、比較的簡便な操作で超電導磁場発生装置を励磁できる。なお、種結晶は、原料粉を溶融する前に予め原料粉の上に設置しておいてもよいし、また、原料粉の溶融後に設置してもよい。
【0033】
次に、請求項10の発明のように、請求項1乃至請求項9のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、前記超電導体から発せられた磁場およびその戻りの磁場が通過する部位を肉薄部とし、かつ、前記超電導体の背面に強磁性体の磁場補助部材を有し、かつ、該磁場補助部材は前記断熱容器の該肉薄部の一部に近接するように伸延していることが好ましい。
【0034】
この点、断熱容器のうち、超電導体から発せられた磁場が通過する部位が肉薄部になっていると、超電導体に捕捉された磁場が断熱容器の厚みによって減衰することを少なく抑えることができるので、強力な磁場を断熱容器の外で有効に利用することができる。また、超電導体の背面に強磁性体の磁場補助部材を配置し、断熱容器の肉薄部に近接するようにすると、超電導体から発せられた磁場が戻りやすくなり、断熱容器の外部における水平磁場強度が増加する。
さらに、断熱容器外にヨーク等を配置して磁気回路を構成する場合には、断熱容器の壁を挟んで内部から外部へつながる磁路を形成する必要があるが、磁場補助部材が断熱容器の肉薄部に近接しており、磁束の漏れを最小に抑えることができるので、断熱容器の外部における水平磁場強度をより強くすることができる。
【0035】
尚、強磁性体の磁場補助部材としては、飽和磁束密度または残留磁束密度の大きいものが好ましい。具体的には、パーメンジュール(Fe−Co−V)、電磁軟鉄(Fe)、珪素銅板(Fe−Si)、センダスト(Fe−Si−Al)などの高透磁率材料や、Nd−Fe−B、Sm−Coなどの永久磁石材料を用いることができる。
【0036】
次に、請求項11の発明のように、請求項1乃至請求項10のいずれか一つに記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、その一部または全部が強磁性体でできており、磁気回路を構成するヨークの一部とすることができる。
【0037】
この場合には、ヨーク材を新たに追加することなく、磁気回路を構成することができるので、コンパクトな磁極で強力な磁場を外部に発することができる。
【0038】
次に、請求項12の発明のように、請求項11に記載する超電導磁場装置では、前記断熱容器は、前記超電導体と前記磁場補助部材の周囲に位置する部位が強磁性体でできていることが好ましい。
【0039】
この場合には、最も有効に磁気回路を構成することができる。
【0040】
次に、請求項13の発明は、薄膜原料を含むターゲットと、スパッタガンと、を有し、該スパッタガンから発せられる磁場の作用で該ターゲットの表面近傍にプラズマを集中させてスパッタリングを行い、放出される薄膜原料を基材の表面に被着させて薄膜を形成するスパッタ装置において、前記スパッタガンは、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載する超電導磁場発生装置が組み込まれていること、を特徴としている。
【0041】
上述したように、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載する超電導磁場発生装置は、磁極から発せられる水平磁場が極めて強いという特徴を有しており、これをスパッタガンに組み込むことにより、ターゲット上に形成される水平磁場が強化されるので、高性能なスパッタ装置を実現することができる。
【0042】
尚、スパッタ装置に取付けられるスパッタガンの台数は1台に限るものではなく、複数の種類のターゲットを具備する、いわゆる多元スパッタ装置にも適用でき、この場合は、スパッタガンを複数台取付けることことができる。
また、複数のターゲットが対向して構成される対向型スパッタ装置にも適用できる。
【0043】
次に、請求項14の発明のように、請求項13に記載するスパッタ装置では、前記超電導磁場発生装置を着脱可能にする着脱機構を具備することが好ましい。
【0044】
本発明において最も注目すべき点は、上記超電導磁場発生装置が着脱機構により着脱可能に組み込まれていることである。上記スパッタガンを機能させるためには、超電導磁場発生装置を励磁する必要があり、例えば、超電導体を励磁する際に超電導マグネットを用いる場合には、スパッタ装置に組み込んだままでは励磁を行うことが原理的に不可能である。そこで、着脱機構を設けて、超電導磁場発生装置をスパッタ装置から着脱可能とすることにより、あらゆる励磁方法に対応ができ、汎用性のあるスパッタ装置が実現できる。また、保守点検が容易というメリットもある。
【0045】
尚、上記着脱機構は、上記超電導磁場発生装置を円滑にスライドさせるためのガイドや、上記超電導磁場発生装置の重量を支えて移動させるための移動装置、着脱の際の衝撃を緩和するダンパ等で構成してもよい。
また、スパッタガンには、通常、磁気回路を構成するためのヨークが組み込まれ、さらに、スパッタガンの上には強磁性体のターゲットを配置することがある。このとき、励磁した超電導磁場装置をスパッタガンに組み込む際には、これらのヨークやターゲットが強力な磁力により引きつけられるが、これらの着脱機構を具備することで適正な位置に衝撃を与えることなく、かつ、安全に組み込むことができる。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照にして説明する。
【0047】
図5に、第1実施の形態による超電導磁場発生装置を示す。図5に示すように、第1実施の形態の超電導磁場発生装置1Aは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。
【0048】
この点、超電導体2は、真空に排気された断熱容器4内に収容されており、冷凍機5のコールドヘッド6に磁場補助部材3と共に接続され冷却されるようになっている。また、断熱容器4は、非磁性であり、上部と側面に肉薄部7a,7bが設けてある。また、超電導体2は、円柱状であり、その背面には磁場補助部材3が配置されている。また、磁場補助部材3では、その上部が超電導体2と同じ径である一方、その下部の径は、超伝導体2の径よりも大きく、しかも、断熱容器4の側面の肉薄部7bに近接するように伸延している。
【0049】
従って、図5に示すように、断熱容器4のうち、超電導体2から発せられた磁場が通過する部位が肉薄部7aになっており、超電導体2に捕捉された磁場が非磁性体の断熱容器4の厚みによって減衰することを少なく抑えることができるので、強力な磁場を断熱容器4の外で有効に利用することができる。また、超電導体2の背面に強磁性体の磁場補助部材3を配置し、断熱容器4の肉薄部7bに近接するようにしており、超電導体2から発せられた磁場が戻りやすくなり、断熱容器4の外部における水平磁場強度が増加する。
尚、断熱容器4外にヨーク等を配置して磁気回路を構成する場合には、断熱容器4の壁を挟んで内部から外部へつながる磁路を形成する必要があるが、磁場補助部材3が断熱容器4の肉薄部7bに近接しており、磁束の漏れを最小に抑えることができるので、断熱容器4の外部における水平磁場強度をより強くすることができる。
【0050】
また、超電導体2は、超電導遷移温度Tc以下に冷却され、中央部2aを環流する電流の密度が周縁部2bを環流する電流の密度より小さくなるように励磁されている。その励磁方法は、図12に示す通りである。すなわち、
(1)超電導体2を収容した断熱容器4からなる磁極を、図示しない超電導マグネットのボアに入れ、磁場H1を印加する。
(2)磁場Hlを印加したまま、超電導体2を超電導遷移温度Tc以下の温度T1まで冷却する。
(3)温度をTlに保持したまま、印加磁場をH2(<Hl)まで減少させる。
(4)磁場H2を印加したまま、超電導体2を更に低い温度T2(<Tl)まで冷却する。
(5)温度をT2に保持したまま、印加磁場をゼロにする。
【0051】
そして、励磁後の超電導体2の磁場分布・電流分布は、図1に示す通りである。すなわち、磁場の印加により超電導体2に磁場が捕捉されると、マクロ的には超電導体2に電流が環流した状態になる。そのときに誘起される超電導体2の電流の密度は、通常、その温度で超電導状態を保ちながら流すことのできる最大の電流密度、即ち、その温度における臨界電流密度Jcとなる。
【0052】
従って、高い温度Tlで磁場を捕捉させた中央部2aを環流する超電導電流の密度は温度Tlでの臨界電流密度Jc(Tl)となり、低い温度T2で磁場を捕捉させた周縁部2bは温度T2での臨界電流密度Jc(T2)となる。この点、臨界電流密度Jcは温度が低いほど大きいので、Jc(Tl)<Jc(T2)となり、周縁部2bを環流する超電導電流の密度は中央部2aよりも大きくなる(図1(b))。
【0053】
また、図1(a)に示すように、超電導体2から発せられる垂直(Z)方向の磁場は、超電導体2の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合(図2(a)参照)の円錐分布よりも、中央部2aの勾配が援やかな分布となる。その結果、超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに遠方に発せられる磁場が減少する。一方、超電導体2の周縁部2bから発せられる磁場は、図5に示すように、磁束線がループを描いて背後の磁場補助部材3を通るので、断熱容器4の外部の磁極表面に水平磁場が形成される。このとき、図1(a)及び図2(a)を比較すればわかるように、超電導体2が捕捉する磁場の最大値は、超電導体2の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合よりも小さくなるので、磁場の捕捉により超電導体2に働く応力(フープカ)は小さくなり、破損する危険性は小さくなる。
【0054】
次に、図6に、第2実施の形態による超電導磁場発生装置を示す。図6に示すように、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bは、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。この点、第1実施の形態の超電導磁場発生装置1Aと異なる点は、以下の通りである。すなわち、断熱容器4の側面は、超電導体2と磁場補助部材3の周囲に位置する部分が強磁性体からなっている。その結果、ヨーク等を追加することなく、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bだけで最も有効に磁気回路を構成することができ、磁極表面の水平磁場がコンパクトな磁極で強化される。
【0055】
尚、第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bでは、断熱容器4の一部が強磁性体からなっている。この点、断熱容器4の全部が強磁性体からなっていも、上述した効果を得ることができる。
【0056】
次に、第3実施の形態の超電導磁場発生装置として、超電導体の中央部を環流する電流の密度がゼロである超電導磁場発生装置について説明する。尚、第3実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じであるが、超電導体2の励磁方法が異なる。
【0057】
そこで、超電動体の励磁方法を図4(a)(b)に示す。すなわち、
(1)先ず、超電導体2を冷却する温度Tlで、超電導体2が捕捉できる磁場の最大値をB*とする。
(2)図示しない超電導マグネットでB*より小さな磁場Ha(<B*)を超電導体2に印加する。
(3)磁場Haを印加したまま、超電導体2を超電導遷移温度Tc以下の温度Tlまで冷却する。
(4)温度をTlに保持したまま、印加磁場をゼロにする。
【0058】
そして、励磁後の超電導体2の磁場分布・電流分布は、図3に示す通りである。すなわち、図3(b)に示すように、印加した磁場HaがB*より小さいために、超電導体2の中央部2aを環流する電流はゼロになり、温度Tlで磁場を捕捉させた超電導体2の周縁部2bには、温度Tlで決まる臨界電流密度Jc(Tl)が流れる。この電流分布を反映して、図3(a)に示すように、超電導体2から発せられる垂直(Z)方向の磁場の形状は円錐台状になる。その結果、水平磁場の形成にはとんど寄与しない超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに遠方に発せられる磁場がより減少する。また、超電導体2が捕捉する磁場の強度が大幅に小さくなるので、磁場の捕捉により超電導体2に働く応力(フープカ)はよりいっそう小さくなり、破損する危険性が更に小さくなる。
【0059】
従って、この場合には、超電導体2の上に発生する磁場の分布は、図3(a)に示すように円錐台状になり、また、図3(b)に示すように、超電導体2の中央部2aから発した磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場を最小にすることができ、捕捉した磁場を最も効率的に水平磁場に反映することが可能である。
また、超電導体2を破壊する恐れが最も少なく安全に励磁できる。
【0060】
次に、第4実施の形態の超電導磁場発生装置として、超電導体が実質的にリング状である超電導磁場発生装置について説明する。尚、第4実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じであるが、超電導体2の材質が異なる。すなわち、図7に示すように、超電導体2の周縁部2bは、超電導遷移温度Tc以下で有限の臨界電流密度Jcをもつものであり、例えば、Gd−Ba−Cu−O系超電導体である。一方、超電導体2の中央部2aは、周縁部2bと同じ結晶構造をもつが、超電導体ではない材料であり、例えば、Pr−Ba−Cu−O系化合物である。そのため、超電導体2の中央部2aには、電流が全く流れないので、第3実施の形態の超電導磁場発生装置のように、Ha<B*を満たす条件で超電導体2を励磁する必要がない。従って、この場合には、超電導体2の励磁の仕方・条件によらず、超電導体2の中央部2aから発する磁場をなくすことができる。
【0061】
次に、第5実施の形態の超電導磁場発生装置として、上述した第3実施の形態又は第4実施の形態の超電導体の中央部を環流する電流の密度がゼロである超電導磁場発生装置について、電流密度がゼロである領域のサイズを変えたときの効果について説明する。
【0062】
図3(b)に示すように、直径2Rの円柱状の超電導体2において、直径dの中央部2aは電流密度がゼロであり、φd〜φ2Rの周縁部2bには、一定の電流密度で超電導電流が環流しているとする。そして、電流密度がゼロの領域をφd=0、φd=(1/3)×2R、φd=(1/2)×2R、φd=(2/3)×2Rと変化させたときの、第5実施の形態の超電導磁場発生装置の磁極から発せられる磁場の強度分布(1T(テスラ)のライン)を図8に示す。これより、超電導体2において、電流密度がゼロの領域を広げていくと、超電導体2から発せられる磁場は弱くなり、特に、超電導体2の中心近傍r≒0では、磁場強度が急激に低下し、超電導体2の中央部2aから真っ直ぐに発せられる磁場が大幅に減少するのがわかる。これに対し、超電導体2の外周近傍r≒2Rでは磁場強度の減少は緩やかで、φd=0〜(1/2)×2Rまでは、超電導体2の全体に電流が環流している場合(φd=0)とほとんど同じ磁場強度が得られることがわかる。
【0063】
そして、第5実施の形態の超電導磁場発生装置をスパッタ装置のガンに用いる場合には、上述したように、磁極表面の水平磁場が強いほど装置としての性能が向上する。そこで、φdを変えたときの水平磁場強度B〃の変化を図9に示す。ここで、B〃とは、磁場ベクトルが磁極表面に平行になる点(即ち、Bz=0)の磁場(この点ではB〃=Brとなる)であり、例えば、図2(b)においては、磁場空間の代表的なB〃の位置と大きさを横矢印の位置と太さで表した。図9の横軸は、第5実施の形態の超電導磁場発生装置において、磁場ベクトルが磁極表面に平行となる位置のz座標(磁極表面からの距離z)である。これより、超電導体2において、φd=(1/2)×2Rまで、電流密度がゼロの領域を広げても、磁極表面の水平磁場B〃の減少はわずかで超電導体2の全体に電流が環流している場合(φd=0)と同等の水平磁場強度が得られることがわかる。
【0064】
以上の結果より、電流密度がゼロの領域を超電導体2の直径2Rの1/2以下とすることで、水平磁場強度B〃を落とすことなく、効果的に超電導体2の中央部2aから真っ直ぐ発せられる磁場を低減できることがわかる。
【0065】
次に、第6実施の形態の超電導磁場発生装置として、Sm−Ba−Cu−O系超電導体を用いた超電導磁場発生装置について説明する。尚、第6実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じである。
【0066】
すなわち、超電導体2として使用されるされる、Sm−Ba−Cu−O系超電導体は以下のように作製した。先ず、超電導原料粉末と、Ag2O(酸化銀)粉末、Pt(白金)粉末を混合して圧粉した成形体を炉に入れ、Ar(アルゴン)とO2(酸素)の混合ガス中で、超電導相であるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)が分解する温度以上まで昇温して部分溶融させる。その後、表面に種結晶を設置して徐冷し、超電導体2の中心から周囲に向かって結晶成長させて凝固させる。この際、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くする。そして、この溶融凝固体を酸素中で熱処理し、十分に酸素を吸収させる。
【0067】
この点、上述したように、一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融法で合成したSm−Ba−Cu−O系超電導体は、結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有している。この絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の強度が大きい超電導体が得られ、磁場発生装置としての性能が向上する。また、Ptを添加しているので、絶縁相がより微細に分散して、より大きな磁場を捕捉できる超電導体が得られる。また、添加したAg2Oは、合成時に分解し、Agとなり、超電導母相状に析出しているので、超電導体の機能的強度が向上し、大きな磁場を捕捉しても、超電導体が壊れにくい。
【0068】
尚、このようにして作製したSm−Ba−Cu−O系超電導体の超電導特性を調べたところ、高い酸素分圧で凝固した中央部2aが最も超電導遷移温度Tcが低く、低い酸素分圧で擬固した周縁部2bほど超電導遷移温度Tcが高くなることがわかった。
【0069】
さらに、この超電導体2を用いて第6実施の形態の超電導磁場発生装置を組み立て、超電導マグネットで静磁場を印加しながら、超電導体2の中央部2aの超電導遷移温度Tcよりも低い温度に冷却して励磁したところ、図1に示すような磁場分布と電流分布が得られた。また、最も超電導体2の中央部2aの超電導遷移温度Tcより高く、最も超電導体2の周縁部2bの超電導遷移温度Tcより低い温度に冷却して励磁したところ、図3に示すような磁場分布と電流分布が得られた。
【0070】
すなわち、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がSmからなる超電導体2は、合成時の酸素分圧によって超電導遷移温度Tc、臨界電流密度Jcなどの超電導特性が変化する。上述したように、酸素分圧が低いほど超電導遷移温度Tcが高くなる。超電導体2の原料粉を溶融後、種結晶を超電導体2の中央部2aに設置して、種結晶から結晶成長させて凝固させるときに、結晶成長終盤の酸素分圧を結晶成長初期より低くすると、最初に凝固した中央部2aは超電導遷移温度Tcが低く、終盤に凝固した周縁部2bは超電導遷移温度Tcが高い特性をもった超電導体2ができる。
【0071】
その結果、既に上で述べたように、比較的簡便な操作で、第6実施の形態の超電導磁場発生装置を励磁できる。すなわち、一般に、超電導遷移温度Tcが低いほど、同じ温度における臨界電流密度Jcも小さくなる傾向にあるので、超電導体2を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを殴階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0072】
尚、第6実施の形態の超電導磁場発生装置では、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がSmからなる超電導体2を使用している。この点、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がNd,Eu,Gdから選ばれた1からなるものを同様な方法で作製し、超電導体2として使用しても、同様な効果を得ることが可能である。また、RE−Ba−Cu−O系超電導体のうち、原子数比で全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれた複数種からなるものを同様な方法で作製し、超電導体2として使用しても、同様な効果を得ることが可能である。
【0073】
次に、第7実施の形態の超電導磁場発生装置として、Sm−Ba−Cu−O系超電導体を用いた超電導磁場発生装置について説明する。尚、第7実施の形態の超電導磁場発生装置の構成は、図5の第1実施の形態の超電導磁場発生装置1A又は、図6の第2実施の形態の超電導磁場発生装置1Bと同じである。
【0074】
すなわち、超電導体2として使用されるされる、Sm−Ba−Cu−O系超電導体は以下のように作製した。先ず、超電導原料粉末と、Ag2O(酸化銀)粉末、Pt(白金)粉末を混合して圧粉した成形体を炉に入れ、Ar(アルゴン)とO2(酸素)の混合ガス中で、超電導相であるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)が分解する温度以上まで昇温して部分溶融させる。その後、表面に種結晶を設置して徐冷し、超電導体2の中心から周囲に向かって結晶成長させて凝固させる。そして、この溶融凝固体を酸素中で熱処理し、十分に酸素を吸収させる。
【0075】
このとき、超電導原料粉末として、超電導相となるSmBa2Cu3Ox(以下、Sm123)粉末、絶縁相となるSm2BaCuO5(以下、Sm211)粉末を使用するが、Sm123とSm211の比率を変えて合成すると、臨界電流密度Jcの異なる超電導体を作製できる。例えば、Sm123とSm211の混合モル比をSm123:Sm211=1:xで表すと、x=0〜0.5の範囲では、Sm211の添加量が多いほど臨界電流密度Jcが大きくなる。
このことを利用して、図13の(b)のように、中心部に向かうほどSm211の添加量が少なくなるように配合して超電導体2を合成すると、中心ほど臨界電流密度Jcが小さなSm−Ba−Cu−O系超電導体2ができる。
この超電導体2を、図4(a)に示すFC法で励磁すると、各部の臨界電流密度Jcの大きさを反映した図13の(a)の磁場分布が得られる。
【0076】
すなわち、第7実施の形態の超電導磁場発生装置では、超電導体2を、周縁部2bから中心部2aに向かって臨界電流密度Jcが連続的または段階的に小さくなるよう単一または複数の超電導体2から構成することができる。
【0077】
この場合には、超電導体2を励磁する際に、印加する磁場強度と冷却温度とを段階的に操作する必要がなく、例えば、一定の磁場を印加したままで冷却すればよいので、励磁操作が簡便になる。
【0078】
次に、本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置について説明する。図10及び図11は、第8実施の形態のスパッタ装置の概要を示した図である。この点、図10は、超電導磁場発生装置1Cを取り付けた後の状態を示した図である。一方、図11は、超電導磁場発生装置1Cを取り付ける前の状態を示した図である。図10及び図11に示すように、第8実施の形態のスパッタ装置20の構成は、以下の通りである。
【0079】
すなわち、第8実施の形態のスパッタ装置20においては、真空チャンバ21の中に、スパッタガン35と、ターゲット32、さらに、その上に薄膜を形成するための基材31が配置されている。そして、スパッタガン35には、磁気回路を構成するためのヨーク23と超電導磁場発生装置1Cが組み込まれている。この点、ヨーク23は、スパッタガン35の内部に固定されている。また、超電導磁場発生装置1Cは、上述した第1〜第7実施の形態のいずれかのものであり、超電導体2や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成され、着脱機構により上下に移動させることにより着脱可能になっている。
【0080】
ここで、着脱機構について説明すると、着脱機構としては、昇降装置(移動装置)41、ガイド25、ダンパ24などを具備している。この点、ガイド25は、超電導磁場発生装置1Cの取り付け方向に平行になるように真空チャンバ21のガン取付面22に固定されている。また、ダンパ24は、金属の円筒の内部に円筒より長いスプリングが入った構造をしており、ガイド25の付け横に配置されている。また、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2の側面にはフランジ11が固設されており、フランジ11には、ガイド25が通るように貰通穴が設けてある。また、昇降装置41は、超電導磁場発生装置1Cの下部に取付けられ、超電導磁場発生装置1Cを上下に動かせると共に、昇降装置41の下面にあるキャスタ42により床上を水平に動かすことができる。
【0081】
次に、第8実施の形態のスパッタ装置20において、スパッタガン35の内部に、超電導磁場発生装置1Cを組み込む操作手順について説明する。先ず、図11から図10で示すように、励磁した超電導磁場発生装置1Cを取り付け位置の下に持っていき、昇降装置41によりスパッタガン35の内部に挿入する。その際、真空チャンバ21のガン取付面22に固定されたガイド25を、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2のフランジ11の貫通穴に通るようにする。その後、超電導磁場発生装置1Cの断熱容器2のフランジ11は、ガイド25の付け横に配置されたダンパ24のスプリングを押しながら、ダンパ24の円筒に当たるまで上昇する。尚、ダンパ24の円筒の長さは、超電導磁場発生装置1Cが適正な位置にくるように、予め調整してある。以上より、超電導磁場発生装置1Cをスパッタガン35の内部に挿入する際、磁極が内蔵されているヨーク23と引き合うけれども、ガイド25があるため軸ずれが起こらない。また、ダンパ24があるため衝撃を与えることなく滑らかに、超電導磁場発生装置1Cを適正な位置に取付けることができる。そして、組付け完了後は、真空チャンバ21の中にスパッタガスを導入して放電させると、図10に示すように、ターゲット32の表面の強力な水平磁場33により高密度なプラズマ34が生成され、高性能なスパッタ装置20として機能する。
【0082】
次に、第9実施の形態として、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)をできるだけ大きくするような超電導磁場発生装置について、超電導体全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流するように励磁した場合と、中央部の電流密度が周縁部より小さくなるように励磁した場合を比較する実験を行った結果を基に説明する。
【0083】
図15は、この実験に用いた装置を示した図である。図15に示すように、第9実施の形態における超電導磁場発生装置1Dは、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)や、磁場補助部材3、断熱容器4、コールドヘッド6を有した冷凍機5などから構成されている。
【0084】
この点、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)は、真空に排気された断熱容器4内に収容されており、冷凍機5のコールドヘッド6に磁場補助部材3と共に接続され冷却されるようになっている。また、断熱容器4は、非磁性であり、上部に肉薄部7aが設けてある。また、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)は、円柱状であり、その背面には磁場補助部材3が配置されている。また、超電導体2(後述する「試料」に相当するもの)の上には、磁場を測定するためのセンサ200が貼り付けてある。
【0085】
そして、第9実施の形態における超電導磁場発生装置1Dを用いて実験を行い、φ58mmのSm系超電導バルク体の場合について、(1)通常行われているのと同様十分な磁場をかけて着磁する場合と(2)本発明の原理に基づき印加する外部磁場を制限した場合とを比較した。いずれの場合も試料は冷凍機5のコールドヘッド6に直接固定して冷却し、着磁後に捕捉された磁場を試料表面の中心、半径方向9mm、半径方向15mmの3箇所に貼り付けたセンサ200により記録した。超電導マグネットにより試料に所定の磁場を印加した状態で所定温度まで冷却し、その後マグネットの磁場を取り去ることにより、試料表面に捕捉できた磁場を計測した。初めに77Kまで冷却した場合の捕捉磁場を調べ、ついで70K、以下5Kごとに測定することとした。
【0086】
(1)の場合には、各温度での臨界電流密度Jcより予想される最大捕捉磁場と同等以上の印加磁場を与えて着磁した。その結果を図16に示す。なお、図16,17では簡略化のため、対称であるとして半径方向9mm、15mmのデータをプロットした。3.5T磁場中で77Kまで冷却した後印加磁場を取り去って着磁したところ、試料中心表面では1.4Tが捕捉でき(図16の黒塗りの四角印)、次いで同様に5T磁場中で70Kまで冷却して着磁したところ、2.6Tとなった(図16●)。さらに6T磁場中で65Kまで冷却して着磁したところ、印加磁場を取り去る過程で超電導体内に流れる電流によるフープ力で試料にクラックが入り、試料中心部の捕捉磁場がなくなってしまった(図16▲)。この試験による捕捉磁場の温度依存性を示したのが図18である。超電導体の臨界電流密度Jcは温度の低下とともに増えるため、試料が破壊されなければ捕捉磁場も同様に増加するが、この試験では試料が応力で破壊されたため、最大2.8Tの磁場しか捕捉できなかった。
【0087】
一方、(2)の場合は本発明の知見に基づき、着磁の際の印加磁場を65K以下の温度でも5Tとした。その結果を示したのが図17および図19である。印加磁場を制限したため、中心での捕捉磁場は65Kより低い温度では温度を下げても十分増加していないが、試料の周縁部(半径方向9mm、15mm)のところでは温度の低下とともに、捕捉磁場が増えている。そのため、5T磁場中で50Kまで冷却して着磁した場合には、円錐台状の捕捉磁場分布となり、中心の最大捕捉磁場は4.8Tとなった。なお、この超電導体をさらに5.5T磁場中で50Kまで冷却して着磁したところ、(2)の場合と同様に印加磁場を取り去る過程で破壊された。
【0088】
これらの結果から、この試験で評価した超電導体を破壊せずにちょうど円錐状に磁場を捕捉できる条件は、印加磁場5.5T程度で65K付近まで冷却した場合と推察できる。その模式図を図20に示す。この図より、材料の破壊強度内で円錐台状に最大に励磁すると、円錐状に励磁した場合に比べ、発生できる磁場の最大値は若干小さくなるが、磁場の量(総磁束量)は、この場合約1.3倍になることがわかる。すなわち、超電導体の中央部を環流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0089】
【発明の効果】
本発明の超電導磁場発生装置では、超電導体の周縁部から発せられる磁場は変わらないので、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している従来の場合と同等の水平磁場強度が得られる一方で、超電導体の中央部から発せられる磁場の強度は小さくなるので、磁束線がループを描かずに遠方まで達する磁場が減少し、また、超電導体の中央部に働く応力が減少する。その結果、超電導体に捕捉された磁場を有効に水平磁場に利用でき、かつ、超電導体の破壊を防止できる。
また、水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)に着目した場合においても、材料の破壊強度内で最大に励磁すると、超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が還流する従来の場合よりも超電導体から発せられる総磁束量を大きくすることができる。即ち、超電導体の中央部を還流する電流の密度を周縁部よりも小さくすることにより、超電導体を破壊することなく、より多くの磁場を超電導体から発することができるようになる。
【0090】
また、本発明のスパッタ装置では、磁極から発せられる水平磁場が極めて強いという特徴を有した超電導磁場発生装置をスパッタガンに組み込んでおり、ターゲット上に形成される水平磁場が強化されるので、高性能なスパッタ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半径Rの超電導体の中央部に環流している電流の密度が周縁部のものより小さい場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図2】半径Rの超電導体の全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流している場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図3】半径Rの超電導体の中央部に環流している電流の密度がゼロの場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。ここで、(b)の黒矢印の太さは水平磁場の強度の大きさを示す。
【図4】超電導体の中央部に環流している電流の密度がゼロとなるように超電導体を励磁する際のFC法の概要を示した図である。
【図5】第1実施の形態の超電導磁場発生装置を示した図である。
【図6】第2実施の形態の超電導磁場発生装置を示した図である。
【図7】第4実施の形態の超電導磁場発生装置において、超電導体の臨界電流密度の分布を示した図である。
【図8】第5実施の形態の超電導磁場発生装置の磁極から発せられる磁場の強度分布(1T(テスラ)のライン)であって、超電導体を環流する電流の密度がゼロの領域をφd=0、φd=(1/3)×2R、φd=(1/2)×2R、φd=(2/3)×2Rと変化させたときの図である。
【図9】第5実施の形態の超電導磁場発生装置において、超電導体を環流する電流密度がゼロの領域を変えたときの水平磁場強度の変化示した図である。
【図10】本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置の概要を示した図であり、超電導磁場発生装置を取り付けた後の状態を示したものである。
【図11】本発明の第8実施の形態であるスパッタ装置の概要を示した図であり、超電導磁場発生装置を取り付ける前の状態を示したものである。
【図12】超電導体の中央部と超電導体の周縁部とで電流密度が異なるように超電導体を励磁する際のFC法の概要を示した図である。
【図13】半径Rの超電導体の中央部の臨界電流密度が周縁部のものより小さい場合であって、(a)は超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を示した図であり、(b)は超電導体内の電流密度の方向・大きさと超電導体から発せられた磁束線を示した図である。
【図14】従来の超電導体の表面における垂直(Z)方向の磁場分布を立体的に示した図である。
【図15】水平磁場強度ではなく、超電導体から発せられる磁場の総量(総磁束量)をできるだけ大きくするような超電導磁場発生装置について、超電導体全体に同じ大きさの電流密度で電流が環流するように励磁した場合と、中央部の電流密度が周縁部より小さくなるように励磁した場合を比較する実験に用いた装置を示した図である。
【図16】φ58mmのSm系超電導バルク体について、通常行われているのと同様に十分な磁場をかけて着磁する場合に、各温度での臨界電流密度より予想される最大捕捉磁場と同等以上の印加磁場を与えて着磁した結果を示した図である。
【図17】φ58mmのSm系超電導バルク体について、本発明の原理に基づき印加する外部磁場を5T又は6Tに制限して着磁した結果を示した図である。
【図18】図16の場合の捕捉磁場の温度依存性を示した図である。
【図19】図17の場合の捕捉磁場の温度依存性を示した図である。
【図20】超電導体の破壊強度内で最大に励磁して円錐状と円錐台状に磁場を捕捉させた時の実験結果に基づく模式図である。
【符号の説明】
1A,1B,1C 超電導磁場発生装置
2 超電導体
2a 超電導体の中央部
2b 超電導体の周縁部
3 磁場補助部材
4 断熱容器
5 冷凍機
7a,7b 断熱容器の肉薄部
11 断熱容器のフランジ
20 スパッタ装置
23 ヨーク
24 ダンパ
25 ガイド
31 基材
32 ターゲット
34 プラズマ
35 スパッタガン
41 昇降装置
42 キャスタ
Claims (14)
- 超電導遷移温度以下に冷却され磁場を捕捉することにより外部に磁場を発する超電導体と、該超電導体を冷却する冷却手段と、該超電導体を収容する断熱容器とを含む超電導磁場発生装置において、
該超電導体の中央部を環流する電流の密度が、該超電導体の周縁部を環流する電流の密度より小さいこと、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体の中央部を環流する電流の密度はゼロであること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、周縁部から中央部に向かって臨界電流密度が連続的または段階的に小さくなるよう単一または複数の超電導体から構成されていること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、周縁部から中央部に向かって超電導遷移温度が連続的または段階的に低くなるよう単一または複数の超電導体から横成されていること、を特徹とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1又は請求項2に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、実質的にリング状であること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項2に記載する超電導磁場装置であって、
環流する電流の密度がゼロである前記中央部の領域は、前記超電導体の中心軸から外周までの距離の1/2以下の範囲であること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、溶融法により作製した、その主成分がRE−Ba−Cu−O(REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Er,Yb,Dy,Hoのうちの1種以上)で表されること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項7に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、Ag,Au,Pt,Rh,Ceの少なくとも1種類を含むこと、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項7又は請求項8に記載する超電導磁場装置であって、
前記超電導体は、原子数比で全REの50%以上がNd,Sm,Eu,Gdから選ばれた1または複数種からなるものであって、かつ、その製造方法が、前記超電導体の原料粉を溶融後、中央部に設置した種結晶から、結晶成長終盤の酸素分圧が結晶成長初期の酸素分圧より低くなるように結晶成長させる工程を経ていること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1乃至請求項9のいずれか一つに記載する超電導磁場装置であって、
前記断熱容器は、前記超電導体から発せられた磁場およびその戻りの磁場が通過する部位を肉薄部とし、かつ、前記超電導体の背面に強磁性体の磁場補助部材を有し、かつ、該磁場補助部材は前記断熱容器の該肉薄部の一部に近接するように伸延していること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項1乃至請求項10のいずれか一つに記載する超電導磁場装置であって、
前記断熱容器は、その一部または全部が強磁性体でできており、磁気回路を構成するヨークの一部となっていること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 請求項11に記載する超電導磁場装置であって、
前記断熱容器は、前記超電導体と前記磁場補助部材の周囲に位置する部位が強磁性体でできていること、を特徴とする超電導磁場発生装置。 - 薄膜原料を含むターゲットと、スパッタガンと、を有し、該スパッタガンから発せられる磁場の作用で該ターゲットの表面近傍にプラズマを集中させてスパッタリングを行い、放出される薄膜原料を基材の表面に被着させて薄膜を形成するスパッタ装置において、
前記スパッタガンは、請求項1乃至請求項12のいずれか一つに記載する超電導磁場発生装置が組み込まれていること、を特徴とするスパッタ装置。 - 請求項13に記載するスパッタ装置であって、
前記超電導磁場発生装置を着脱可能にする着脱機構を具備すること、を特徴とするスパッタ装置。
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