JP2004091425A - 葉面散布剤およびその製造方法 - Google Patents

葉面散布剤およびその製造方法 Download PDF

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福屋 武
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Abstract

【課題】有機栽培の野菜等の植物に対しても安心して使用することのできる葉面散布剤を提供すること。
【解決手段】ハーブと糖蜜に水を加えて混合した状態で(ステップS14)、発酵させて(ステップS15)濾過し(ステップS16)、竹酢を蒸留してタール分を除去したもの(ステップS17)と混合することで葉面散布剤を製造する。これを所定の倍率で希釈したものを植物に散布する。希釈する量を調整することで、有機栽培の野菜等の植物の殺菌、害虫の忌避あるいは植物の活性化の効果を発揮させることができる。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は植物の生育時に使用する葉面散布剤およびその製造方法に係わり、特に植物の病気の予防や害虫の忌避あるいは植物の活性化を助ける葉面散布剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物の生育時に使用する葉面散布剤として従来から各種の提案が行われている。たとえば特開2000−159591号公報では、肥料有効成分の窒素とリン酸および加里の配合比率を1対1対1とした基剤に、有機物であるビタミン(BとC)、含硫アミノ酸(L−システイン)、糖類(ショ糖やソルビトールまたトレハロース)の機能的な有効成分を添加した葉面散布剤を提案している。この提案では、水溶性ビタミンのBとCそして含硫アミノ酸のシステインがポリアミン生成に関与し害虫の忌避的効果が期待されるばかりでなく、システイン自身も抗ウイルス効果を有するので、無公害栽培、無農薬栽培、有機栽培等の確立の一助になるとされている。
【0003】
同様に特開平05−330968号公報では、肥料要素の無機化合物を配合した基剤に難溶性のカルシウム化合物とビタミン(BおよびC)とアミノ酸(システイン)の有効成分を添加した植物、特に野菜の葉面散布剤を提案している。この提案でも健苗の育成、樹勢の維持、収量増加を図ることができる。また、植物、特に野菜の生理病害の要因である遊離の有機酸、特に蓚酸を中和する金属イオンであるカルシウム成分とグリオキシル酸回路の代謝亢進の働きをするビタミンBとC、そして代謝亢進を行う酵素の構造維持と病気進行の抑制物質であるポリアミン物質の前駆物質であるシステインを有効成分とするため、有効に植物、特に野菜の生理疾病の防除が行えるとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のこのような葉面散布剤は、肥料要素の窒素、リン酸、加里といった無機化合物を配合した基剤に有機物を添加した構成となっている。このように現代の農業の多くは化学肥料等の化学物質の連用と農薬による土壌消毒と土壌微生物無視の農業を行っている。この結果、土壌の物理性、化学性、微生物性が壊れ、植物が健康に育たなくなっている。また、能動的吸収がうまくできなくなり、栄養のバランスが壊れ自己防衛能力が低下し、病害虫の被害を受ける傾向が強くなっている。
【0005】
そこで、農業の有する問題の1つとしての病気の予防、病害虫の駆除等を、化学薬剤を使用することなく自然のもの自生の原料を用いて行うことが提案されている。特開平11−151062号公報では、ハーブの丁子花芽の乾燥粉末と、松脂の乾燥粉末をアルコールと共に容器に入れて攪拌し、溶解し、成分を抽出した後、水を加えて害虫、害動物撃退液を作成することを提案している。この害虫、害動物撃退液は、次のようにして製造される。
【0006】
第1工程では、乾燥ハーブの丁子粉末と乾燥松脂粉末を容器に入れて混合する。
第2工程では他の容器にアルコールを30cc満たし、この容器内に混合した丁子と松脂の粉末を入れて攪拌する。
第3工程では上記に水を加え、さらに攪拌することで、害虫、害動物撃退溶液を得る。この害虫、害動物撃退溶液に適宜、水を加え、アルコールや水にも溶けない物質を取り除くために、濾紙により濾過し、この溶液をスプレ付きポリ容器または、ノズル付きビン等に封入し、ハンドポンプによって、害虫、害動物等の生息場所、進路等に適宜散布する。
【0007】
しかしながら、この害虫、害動物撃退液はアルコールで成分の抽出を行ってこれに水を加えたものとなっている。アルコールは化学合成品である。このため、この害虫、害動物撃退液は製法が簡単なものの、有機栽培に使用することができない。もちろん、これを病気の予防等の目的で有機栽培の植物に対して散布することもできない。
【0008】
また、ハーブを使用した害虫に対する忌避剤がハーブのエッセンシャルオイルという形で従来から一部メーカによって製品化されている。このような油性の忌避剤は水との親和性が低い。そこで化学合成品としての乳化剤を使用して親和性を高めるようにしている。このため、このような製品も有機農業に使用することができない。
【0009】
そこで本発明の目的は、有機栽培の野菜等の植物に対しても安心して使用することのできる葉面散布剤を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明の葉面散布剤は、ハーブを混合した所定濃度の糖の発酵生成物を主成分とすることを特徴としている。
【0011】
すなわち請求項1記載の発明では、殺菌や害虫の忌避効果があるハーブに糖を加えた状態で発酵させているので、それ自体が水との親水性がある。しかも親水性を保つための化学合成品を使用しないので、有機農業に使用して葉面散布を行うことで殺菌や害虫の忌避効果を実現することができる。
【0012】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の発明で、ハーブと混合する糖は糖蜜であることを特徴としている。ここで、糖蜜は、甘しゃ(Cane)の糖汁から原糖を製造、または原糖を精製する際やてん菜からてん菜糖を生産する際に発生する副産物である。比重の大きな粘着性のある茶褐色の液体であり、50パーセント前後の糖分が含まれている。この糖分は従来から発酵工業の原料として、または家畜の飼料として利用されている。請求項2記載の発明では、糖蜜を糖として使用することでハーブを混合した状態で発酵させる。
【0013】
請求項3記載の発明では、請求項1記載の発明で、発酵生成物に有機酸が添加されていることを特徴としている。有機酸を添加することで殺菌および害虫の忌避に関する効果を相乗的に増大させることができる。また、有機酸を基にして作られるアデノシン三リン酸(ATP)が植物の生育を促進する。
【0014】
請求項4記載の発明では、請求項3記載の発明で、有機酸は竹酢液あるいは木酢液の蒸留生成物であることを特徴としている。これらは竹や木を焼く煙から採取する酸性の液体なので、植物に必要な多くの成分を含有しており、単に天然の酸として殺菌や害虫を忌避する効果を持つだけでなく、植物の活性化にも役立つ。
【0015】
請求項5記載の発明では、請求項1記載の発明で、ハーブはバジルであることを特徴としている。バジルはシソ科の植物で、スイートバジル、ブッシュバジル、シナモンバジル等の種類がある。バジルはハーブの中で手軽に材料として得ることができる。なお、オーデコロンミント、ペニーロイヤル、ルー、ローズマリー、サザンウッド、タイム、タンジ、サントリナ、ローズゼラニウム、ラベンダ、ナスタチウム、ディル、フェンネル、ソバ、セイヨウイラクサ、ガーリック、チャイブ、ヒソップ、セージ、ワームウッド等のハーブも同様に害虫を寄せつけないといった効果がある。これらを単独で糖および水と混ぜ合わせるだけでなく、葉面散布剤の種類に応じて複数種類のハーブを組み合わせて使用することも可能である。
【0016】
請求項6記載の発明では、(イ)それぞれ所定量のハーブと糖蜜に水を加えて混合する混合ステップと、(ロ)この混合ステップで形成された混合物を発酵させる発酵ステップと、(ハ)この発酵ステップで生成した発酵物に有機酸を添加する添加ステップとを葉面散布剤の製造方法に具備させる。
【0017】
すなわち請求項6記載の発明では、まずそれぞれ所定量のハーブと糖蜜に水を加えて混合し、これを発酵させ、これによって得られた発酵物に有機酸を加えて葉面散布剤を製造することで、有機栽培の野菜等の植物に対しても安心して使用することのできる葉面散布剤を実現している。
【0018】
請求項7記載の発明では、請求項6記載の葉面散布剤の製造方法で、発酵ステップでは酵母菌を使用して混合物を発酵している。酵母菌を使用することで発酵生成物を有機栽培の植物に適合させている。
【0019】
【発明の実施の形態】
【0020】
【実施例】
以下実施例につき本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施例における葉面散布剤の製造の流れを表わしたものである。まず、ハーブとしての生バジル25kgと糖蜜200リットルおよび水600リットルをそれぞれ計量する(ステップS11〜S13)。そして、これらを混合する(ステップS14)。本実施例のバジルは無農薬および無化学肥料で栽培している。ハーブと糖蜜の混合物は、所望の温度に保ち酵母菌を用いて発酵させる(ステップS15)。この発酵工程では、適宜、発酵中の材料を混合しながらにガス抜きと酸素の補給を行う。ガス抜きと酸素の補給は、嫌気性菌の増殖を抑えると共に発酵を促進する効果がある。次のステップS16では発酵生成物から固形分を除去するために濾過を行う。このようにして有機栽培に使用可能な発酵抽出液が得られる。
【0022】
一方、竹酢液を用意し、これを蒸留精製してタール分を除去する(ステップS17)。竹酢(ちくさく)液とは竹炭を作るときに煙から得られる液体で、pH3.0程度の強い酸性を示す。木酢(もくさく)液に比べるとタール分が少ない。竹酢液の主成分は酢酸、プロピオン酸、ギ酸、メタノール、プロパノール、エタノール、吉草酸エステル等である。ステップS16で濾過した後の発酵抽出液とステップS17で蒸留精製後の竹酢液をそれぞれ計量し(ステップS18、S19)、これらを混合する(ステップS20)。これにより、葉面散布剤としての原液が得られる。この葉面散布剤は所定量ずつ計量して(ステップS21)、瓶詰めし(ステップS22)、製品として出荷する。瓶詰めする代わりに、他の容器に詰めて出荷することも可能である。
【0023】
本実施例の葉面散布剤は、植物の葉面に散布するときに水で希釈して使用する。植物の病気の予防に使用する場合には200倍から500倍に希釈し、10日おきに葉面に散布する。植物の病気の治療に使用する場合には100倍から200倍に希釈して散布する。散布の間隔は1週間に2回以下とすることが望ましい。
【0024】
害虫の予防を行う場合には300倍から500倍に希釈し、10日おきに葉面に散布する。害虫を植物から防除する際には200倍から300倍に希釈して散布する。散布の間隔は1週間に2回以下とすることが望ましい。この他、本実施例の葉面散布剤は植物を活性化させる目的で散布することができる。この葉面散布剤は有機酸を含んでいるので、これがアデノシン三リン酸(ATP)に代わり生体エネルギの生成を助ける。植物の活性化の目的で葉面散布を行う場合には1000倍から1500倍に希釈して散布を行う。以上の対象となる植物は、果樹、野菜、花等のすべての作物である。
【0025】
図2はこの葉面散布剤を害虫の忌避のために散布した場合の効果を示すために、これを散布した散布区とそれ以外の対照区とを対比したものである。縦軸は害虫による食害率を表わしており、横軸は本実施例の葉面散布剤の散布を開始してからの時間の経過を示したものである。ここでは、ナスを試験作物とし、対象害虫をスリップスとした場合を示している。折れ線31が散布区の実験結果であり、他の折れ線32が本実施例の葉面散布剤を散布しなかった対照区での結果である。食害率は、収穫物にスリップスの食害痕があるものを全体に対する比率で示したものである。
【0026】
散布区では、7月10日、7月16日および7月29日に葉面散布剤を散布した。散布区はそれ以外の対照区と比較すると、折れ線31で示すように7月22日より食害率が低下している。7月10日および7月16日に葉面散布剤を散布してその効果が見え出すまでに10日以上経過している。これはスリップスがナスの開花時期に食害を行うが、この後の収穫までに約20日から25日を要するからである。本実施例では食害率は7月29日にゼロにまで低下した。
【0027】
以上、葉面散布剤としてステップS16で濾過した後の発酵抽出液に竹酢を混合したものについて説明したが、竹酢の代わりに木酢を蒸留精製したものを混合しても葉面散布剤として同様の効果を得ることができる。ここで木酢とは炭を焼く煙から採取した酸性の液体で、殺虫、殺菌効果のあるものや土の中の有用な微生物のエサとなって、微生物を増殖させる働きをする成分が含まれている。
【0028】
なお、竹酢および木酢にはもともと殺虫あるいは殺菌効果がある。また、ハーブも、たとえばバジルは殺菌、消毒の効果があり、ミントはその含有するメントールによって消毒作用がある。ラベンダも防虫・防腐の効果があり、ローズマリは細胞に活力を与える作用がある。しかしながら、図1におけるステップS14でハーブに糖蜜を加えて発酵抽出液を作成し、これに蒸留精製後の竹酢液あるいは木酢液を混合するという処理を経ることで、相乗効果が生じ、殺菌ならびに防虫効果を飛躍的に高めることができる。
【0029】
【発明の効果】
現在、有機農作物が注目されているが、生産者側の農家はそのための非常に厳しい規制によって生産性が上がらず、また植物の害虫駆除等に多くの手間を要している。農薬、化学肥料、化学合成品あるいは化学的な処理を行った資材を一切使用することができないからである。以上説明した請求項1〜請求項7記載の発明によれば、すべて天然の素材を使用することで有機農業に適合した葉面散布剤を実現することができ、安全性を消費者にアピールすることで高付加価値の植物を市場に提供することができるばかりでなく、生産者側も安全性に問題のない葉面散布剤を使用することで健康的な生活を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における葉面散布剤の製造工程を示した説明図である。
【図2】本実施例の葉面散布剤を散布した散布区とそれ以外の対照区とを対比した説明図である。

Claims (7)

  1. ハーブを混合した所定濃度の糖の発酵生成物を主成分とすることを特徴とする葉面散布剤。
  2. 前記糖は糖蜜を含有していることを特徴とする請求項1記載の葉面散布剤。
  3. 前記発酵生成物に有機酸が添加されていることを特徴とする請求項1記載の葉面散布剤。
  4. 前記有機酸は竹酢液あるいは木酢液の蒸留生成物であることを特徴とする請求項3記載の葉面散布剤。
  5. 前記ハーブはバジルであることを特徴とする請求項1記載の葉面散布剤。
  6. それぞれ所定量のハーブと糖蜜に水を加えて混合する混合ステップと、
    この混合ステップで形成された混合物を発酵させる発酵ステップと、
    この発酵ステップで生成した発酵物に有機酸を添加する添加ステップ
    とを具備することを特徴とする葉面散布剤の製造方法。
  7. 前記発酵ステップでは酵母菌を使用して前記混合物を発酵させることを特徴とする請求項6記載の葉面散布剤の製造方法。
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