JP2004090069A - レーザとアークの複合溶接方法およびそれに用いる溶接継手の開先形状 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】2つの被溶接材1、2を隙間なしで当接した突合せ継手をレーザとアークにより複合溶接する方法において、開先3の表面側、すなわちレーザ光11の入射側にV形等の開先開口部31とこれに続けて継手当接部32を、その継手当接部の下方、すなわち開先の裏面側に、間隙幅をレーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙RGをそれぞれ設け、アーク溶接により形成される溶融池23上にレーザ光11を照射してキーホール12を形成しながら、アーク溶接による溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより溶接する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザとアークの複合溶接方法に関し、特に厚板の突合せ溶接に好適なレーザとアークの複合溶接方法およびその複合溶接に用いる溶接継手の開先形状に関する。
【0002】
【従来の技術】
レーザとアークを組み合わせた複合溶接方法は、一般的に溶接進行方向の先行をレーザ、後行をアークとして溶接するものであり、レーザの有する深溶込みの特性を活用し、より深い溶込みを得るようにする溶接方法である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。そのため通常は、アーク溶接による溶着金属を生成する前に先立ってレーザ光を開先のルートギャップに照射し、そのルートフェイス面をレーザにより溶融させたのちに、アーク溶接による溶着金属を流入させる方法がとられている。
このような、レーザとアークの複合溶接に用いられる開先形状は、図9に示すようになっている。同図(a)の開先Aは、前記特許文献1によるものであり、同図(b)の開先Bは、前記特許文献2によるものである。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−216972号公報(特許請求の範囲、段落[0012
]−[0015]、図1、図2)
【特許文献2】
特開平10−225782号公報(特許請求の範囲、段落[0013
]−[0017]、図1)
【0004】
前記開先Aは、V形開先50の底部に続けて0〜0.6mmのギャップ幅でルートフェイス面が平行なルートギャップ51を設けたものである。一方、開先Bは、V形開先50の底部に続けて始端幅をビーム径以下とする狭小な幅のV形ルートギャップ(レーザ導光用間隙)52を設け、このV形ルートギャップ52の底部に続けて突き当て部53を設けたものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、実施工では、溶接熱収縮によりルートギャップが減少するため、開先Aの溶接施工は困難である。また、このルートギャップの下限値を厳守するためには、溶接継手を拘束する必要があるが、継手拘束手段を設けたのでは手数、時間がかかり溶接コストが上がってしまうという問題がある。したがって、実施工では、開先Bのように、突き当て部を持つ開先の方が、熱収縮の影響を受けにくい。
しかしながら、前記特許文献2では、V形ルートギャップ(レーザ導光用間隙)が開先裏面側に向かうに従って、ギャップ幅が漸次減少するように規定している。また、V形ルートギャップ(レーザ導光用間隙)の始端側(開先表面側)のギャップ幅の上限値は、レーザ光のスポット径以下と規定している。
レーザ光のスポット径は、一般に1mm以下、通常は0.4〜0.8mmであるので、ルートギャップのない開先と比較すると、この程度の小さいルートギャップでも溶込み深さは増加するが、その増加量は厚板溶接の分野では必ずしも十分とはいえない。
また、前記特許文献1の実施例に該当する文献を調査したところ、7kWの大出力CO2レーザによる報告がなされているが、4kWの低出力のYAGレーザにおいて十分な溶込み深さを得るには、未だ不十分である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、低出力のレーザでも十分な溶込み深さが得られるレーザとアークの複合溶接方法を提供すること、及び、その複合溶接に適した開先形状を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るレーザとアークの複合溶接方法は、2つの被溶接材を隙間なしで当接した突合せ継手をレーザとアークにより複合溶接する方法において、
開先の表面側、すなわちレーザ光の入射側に開先開口部とこれに続けて被溶接材の当接面を、その当接面の下方、すなわち開先の裏面側に、間隙幅をレーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙をそれぞれ設け、アーク溶接により形成される溶融池上にレーザ光を照射してキーホールを形成しながら、アーク溶接による溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより溶接することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、開先突合せ面の間隙(すなわち、キーホール形成用間隙)をレーザ光のスポット径以上とすることと、未溶融の開先にレーザ光を直接照射するのではなく、アーク溶接により形成される溶融池上に照射することが重要である。したがって、ルートギャップがレーザ光のスポット径以上であっても、レーザ光はルートギャップを通過せずに、アーク溶接により形成される溶融池上にキーホールを形成する。そして、ルートギャップが従来技術よりも大きいため、キーホールの溶込み深さが増加し、その結果、従来技術よりも溶込み深さの大きいキーホールを容易に形成することができる。
【0009】
また、本発明の重要な点は、被溶接材の当接面とキーホール形成用間隙の位置関係にもある。すなわち、被溶接材の当接面をキーホール形成用間隙よりもレーザ光の入射側に位置させることにより、図8に示すような開先形状、すなわちキーホール形成用間隙が被溶接材の当接面よりもレーザ光の入射側にある場合と比較して、深い溶込みを得ることができる。
この理由について説明する。
一般に、レーザ・アーク複合溶接においては、レーザ光の焦点は溶融池表面とほぼ同じ高さ、すなわちV型開口部の底部付近に合わせる。本発明では、レーザ光の焦点は上記被溶接材の当接面の上部付近となる。したがって、本発明では、レーザ光のエネルギ密度が最も高い状態で、被溶接材の当接面を溶融し、その後キーホール形成用間隙に溶融金属が流れ込み、キーホールを形成する。
これに対して、図8に示すような開先形状では、レーザ光はキーホール形成用間隙部でキーホールを形成した後に、被溶接材の当接面に到達する。したがって、レーザパワーはキーホール形成により減衰しており、レーザ光の焦点から離れているため、エネルギ密度も減少している。したがって、深い溶込みを得るために、キーホール形成用間隙の長さを大きくすると被溶接材の当接面は溶融しないことになる。
よって、本発明では低出力のレーザでも深い溶込みが得られる。溶込み深さは図7のPであらわされる。
また、被溶接材は前記当接面で当接しているため、溶接の熱収縮によって所定幅のルートギャップ(すなわち、レーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙)が減少したりすることがない。したがって、継手拘束手段を設ける必要はなく、溶接コストの低減が可能となる。
【0010】
また、本発明のレーザとアークの複合溶接方法は、キーホールを貫通させ、片面裏波溶接を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明では、前述のように、被溶接材の当接面の下方、すなわち開先裏面側に、間隙幅をレーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙を設けたので、レーザパワーを減衰させることなく深いキーホールを形成することができる。したがって、厚板の場合でも、キーホールを貫通させることが可能となり、片面から裏波溶接を行うことが可能である。
【0012】
また、本発明のレーザとアークの複合溶接方法は、前記キーホール形成用間隙を構成するルートフェイス面が、レーザ光の入射方向に平行になっている開先に対して溶接するものであり、あるいは、レーザ光の入射方向に末広がり状、または平行な部分と末広がり状の部分とを有する開先に対して溶接するものである。
【0013】
すなわち、本発明では、前記キーホール形成用間隙が、レーザ光の入射方向(入射光軸)に平行な部分、末広がり状の部分、あるいは平行部と末広がり状の傾斜部を有する部分のいずれかに構成されるものであり、そのキーホール形成用間隙をレーザ光のスポット径以上とすることにより、溶込み深さを増加させることができるのである。
しかし、キーホール形成用間隙の幅をあまり大きくすると、溶着金属の抜け落ちや表面張力によりビード表面のひけ(アンダーフィル)が大きくなるため、キーホール形成用間隙の幅は、レーザ光のスポット径以上で、かつ4mm以下とする。
【0014】
また、前記被溶接材当接面の板厚方向の長さは、レーザ貫通能力の50%未満とするのが好ましく、具体的には、0.5mm以上3.0mm以下がよい。
【0015】
また、前記キーホール形成用間隙と前記被溶接材当接面の板厚方向の合計長さは、レーザ貫通能力の120%以上または6mm以上とするのがよい。
【0016】
また、本発明で使用するレーザは、YAGレーザが好ましい。
アークには、消耗電極式またはフィラワイヤを添加する非消耗電極式のアークを用いる。
【0017】
また、本発明のレーザとアークの複合溶接に用いて好適な開先形状は、
第1に、開先の形状が、V形またはこれに類似する形状を有する表面側の開先開口部と、中間部の継手当接部と、裏面側のキーホール形成用間隙部とからなり、前記キーホール形成用間隙部の幅を、レーザ光のスポット径以上とするものである。
【0018】
第2に、開先の形状が、V形またはこれに類似する形状を有する表面側の開先開口部と、中間部の継手当接部と、開先裏面方向に末広がり状の裏面側のキーホール形成用間隙部とからなり、前記キーホール形成用間隙部の幅を、レーザ光のスポット径以上とするものである。
【0019】
第3に、前記第1の開先形状において、前記キーホール形成用間隙部の裏面側の端部が末広がり状になっているものである。
【0020】
このような突合せ継手の開先形状とすることにより、ビード形状が良好で溶込み深さの深いレーザとアークの複合溶接を実施することができる。
【0021】
また、前記キーホール形成用間隙部の幅は、4mm以下とし、前記継手当接部の板厚方向の長さは、レーザ貫通能力の50%未満または0.5mm以上3.0mm以下とするのが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は本発明のレーザとアークの複合溶接方法の概要を示す模式図、図2はその溶接部の上面図、図3は複合溶接方法の作用を示す模式図である。これらの図において、1、2は被溶接材であり、溶接線に沿う突合せ面には所定形状の開先3が加工されている。開先3については後で詳しく説明する。溶接進行方向は矢印で示す方向である。ここでは、溶接進行方向の前方にレーザヘッド10を配置し、その後方に溶接トーチ20を配置して突合せ溶接を行っている。すなわち、アーク溶接トーチ20の溶接ワイヤ21の先端部から発生するアーク22による溶融池23上にレーザヘッド10からの収束されたレーザ光11を照射し、レーザ光11によりキーホール12を溶融池23に形成しながら溶接する状況が示されている。なお、Aはレーザ焦点、Bはアーク発生点をあらわし、24は溶接チップ、25は溶接ビードである。
【0023】
この実施形態において、レーザヘッド10は溶接線に対し垂直に設置され、アーク溶接トーチ20は溶接線に垂直な垂直線とのトーチ角度θが30゜の前進角で傾けて設置されている。また、レーザにはYAGレーザを使用しているが、特にこれに限定されるものではない。アーク溶接トーチ20による溶接は消耗電極式ガスシールアーク溶接(MGAW)が好ましい。非消耗電極式を使用することもできるが、この場合はフィラワイヤを用いるTIGアーク溶接が好まし。また、レーザ光11の照射位置Aとアーク22の狙い位置Bとの距離LAは、0〜2mmの範囲が適当である。
【0024】
このレーザヘッド10は、光ファイバや光学系等を介して導かれるレーザ光を集光レンズ13で収束し、いわゆるビーム・ウェスト(beam waist)と呼ばれるスポット光11を所定位置に照射するようになっている。また必要に応じて、アシストガス(例えば、アルゴンガス)を噴射するノズル(図示せず)がレーザヘッド10と同軸状に、もしくはその近傍に別体で設けられる。
【0025】
アーク溶接トーチ20は、自動的に送給される溶接ワイヤ21の先端からアーク22を発生させ、このアーク22の熱によって主に溶接ワイヤ21を溶融させ、溶融池23を生成する。また、アーク溶接の際、シールドガス(例えば、Ar等の不活性ガス、あるいはCO2等の活性ガス、もしくはArとCO2の混合ガス)をアーク溶接トーチ20を通じて噴出させている。
【0026】
図4は本発明の複合溶接方法に適用される基本的な開先形状の例を示す断面図である。
開先形状の基本形は、主に次の3種類に分けられる。
(1)平行開先型(図4(a)参照)
(2)逆V開先型(図4(b)参照)
(3)複合開先型(図4(c)参照)
【0027】
(1)平行開先型(図4(a)参照)
平行開先型は、被溶接材1、2の表面側(上面側)に形成されるV形開先開口部31と、被溶接材1、2の端面で形成される中間部の継手当接部32と、被溶接材1、2の裏面側に形成される板厚方向に平行なルートフェイス部33とからなる開先形状である。そして、この相対向する平行ルートフェイス部(ルートフェイス面が平行な部分をいう)33の間隙であるルートギャップRGは、レーザ光の前記ビーム・ウェスト部(または前記特開平10−225782号公報に記載の焦点平行部)のスポット径以上に設定する。このようにレーザ光のスポット径以上の間隙に設定される開先突合せ面の間隙、すなわちルートギャップRGを、本明細書においては「キーホール形成用間隙」と称している。
【0028】
(2)逆V開先型(図4(b)参照)
逆V開先型は、被溶接材1、2の表面側(上面側)に形成されるV形開先開口部31と、被溶接材1、2の端面で形成される中間部の継手当接部32と、被溶接材1、2の裏面側に形成される末広がり状のテーパ状ルートフェイス部34とからなる開先形状である。そして、前記キーホール形成用間隙RGは、テーパ状ルートフェイス部(ルートフェイス面が末広がり状の傾斜面となっている部分をいう)34の最も広くなる被溶接材裏面のギャップ幅で規定される。すなわち、この最大のギャップ幅RGがレーザ光のスポット径以上に設定される。
【0029】
(3)複合開先型(図4(c)参照)
複合開先型は、前記平行開先型と逆V開先型とを複合(合成)したものであり、V形開先開口部31の底部に連続して継手当接部32を設け、さらに継手当接部32に続けて平行なルートフェイス部33とテーパ状ルートフェイス部34を設けた開先形状である。この場合のキーホール形成用間隙RGは、平行ルートフェイス部33の間隙で規定され、その間隙がレーザ光のスポット径以上に設定される。なお、テーパ状ルートフェイス部34は、この例では裏ビード形状の調整を目的としているため、深さ(厚さ)DBは小さくされる。
【0030】
なお、上に述べたV形開先開口部31の開先角度α、深さDg、継手当接部32の厚さRT、平行ルートフェイス部33の深さ(厚さ)LP、およびテーパ状ルートフェイス部34のテーパ角度β、深さ(厚さ)DBは、被溶接材の板厚、溶接条件(レーザ出力、溶接電流・電圧、溶接速度等)などに応じて決められる。
また、キーホール形成用間隙RGのギャップ幅は、4mm以下に設定する。また、継手当接部32の厚さRTは、当該溶接速度におけるレーザ貫通能力の50%未満とするのがよい。具体的には、0.5mm以上3.0mm以下である。
レーザ貫通能力は溶接速度によって異なるが、継手当接部32の厚さRTをあまり大きくすると、所望の深い溶込みが得られなくなる。また、継手当接部32の厚さRTが小さすぎると、被溶接材の突き当て効果が薄れて溶接熱収縮により所定のキーホール形成用間隙RGを維持できなくなる。したがって、継手当接部32の厚さRTは、0.5mm以上3.0mm以下としている。
また、キーホール形成用間隙RGの長さ、すなわち平行ルートフェイス部33(テーパ状ルートフェイス部34を含む)の厚さLPと継手当接部32の厚さRTの合計長さ(LP+RT)は、レーザ貫通能力の120%以上、あるいは6mm以上とするのがよい。
【0031】
また、本発明においては、前記開先形状に類似する形状を含むものであることはいうまでもない。例えば、開先開口部31の断面形状はV形に限らずこれに類似するU形や円弧状としてもよい。また複合開先型では、V形開先開口部31から継手当接部32に続けて平行ルートフェイス部33、そしてテーパ状ルートフェイス部34と続く形状としているが、これとは逆に、V形開先開口部31、継手当接部32、テーパ状ルートフェイス部34、そして平行ルートフェイス部33と続く形状としてもよいものである。
【0032】
以上のいずれかの開先形状に形成された開先3を用いて本発明のレーザとアークの複合溶接を行う。この複合溶接方法を図1〜図3に基づいて説明する。
まず、アーク溶接トーチ20の溶接ワイヤ21の先端からアーク22を発生させ、開先3のV形開先開口部31内に溶融池23を形成する。溶融池23が形成されたのち、アーク22の近傍において溶融池23の上方からレーザヘッド10にて収束されたレーザ光11を溶接線に垂直に照射する。レーザ光11は(幾何学上の)焦点位置がV形開先開口部31の底部(すなわち、継手当接部32の上端部)、または若干上方に位置するように照射する。また、レーザとアーク間距離LAは0〜2mmの範囲内に設定する。そうすると、開先3の裏面側(被溶接材の裏面側)に設けられたルートギャップはレーザ光のスポット径以上となっているので、レーザ光は溶融池23上から直下の継手当接部32を容易に貫通し、開先3の深部(被溶接材の板厚方向の深部)にまで深いキーホール12を容易に形成することができる。そのため、アーク溶接による溶着金属がこの深いキーホール12内およびキーホール形成用間隙内に流入する。したがって、YAGレーザのような比較的低出力のレーザでも深いキーホールを形成することが可能なので、このようにキーホール12を形成しながら溶着金属をキーホール12およびキーホール形成用間隙RG内に流入させることにより、溶込み深さの深い突合せ溶接が可能となる。
また、被溶接材1と2は継手当接部32で当接しているため、溶接の熱収縮によってキーホール形成用間隙RGの所定のギャップ幅が減少したりすることがない。
【0033】
【実施例】
本発明の実施例を図5により説明する。図5の(a)は通常のビードオン複合溶接の場合、(b)はY型開先の複合溶接の場合、(c)はY型開先の複合溶接の場合で、キーホール形成用間隙ありの場合、(d)は本発明の開先形状(平行開先型)の複合溶接の場合である。実験に供した試験片、レーザ、アーク等の仕様、試験条件は次のとおりである。
(1)試験片
材料:SM490A
寸法:19mmt×100W×500L
(2)開先形状 :開先(α=70゜、RT=1mm、LP=9mm)
ギャップ幅:RG=0〜4.0mmの範囲内で0.5mmずつ変化
(2)レーザ :4kW・YAGレーザ(加工点出力:3.5kW)
照射角度:垂直
スポット径:0.5mm
(3)アーク :MAGアーク(0.9mmソリッドワイヤ使用)
電流・電圧:150A、16V
トーチ角度:前進角30゜
(4)シールドガス:Ar−20%CO2(MAGトーチだけで供給)
(5)溶接姿勢 :下向き
(6)レーザ・アーク間距離:LA=0/2mm
【0034】
また、図6は図5(c)の開先形状(Y型開先で、キーホール形成用間隙ありの開先)の複合溶接におけるルートギャップのギャップ幅と溶込み深さとの関係(試験結果)を示すものである。図7は溶込み深さの定義を示す図である。溶込み深さPは、開先開口部31の底部における継手当接部32の上端から開先溶融部の最下端までの距離である。
【0035】
まず、図5(a)に示す平板の試験片に対するビードオン複合溶接を行った場合、溶込み深さPはレーザ単独溶接の場合と同等(減る場合もある)である。すなわち、この溶込み深さは5mm程度である。
次に、図5(b)に示すY型開先の場合、キーホール形成用間隙なし(ギャップ零)のときには、溶込み深さはビードオンの場合とほとんど変わらない。
一方、図5(c)に示すY型開先の場合でも、本発明のようにキーホール形成用間隙を設けた場合には、溶込み深さは、図6に示すように、大幅に増加する。例えば、ギャップ幅RGがスポット径以上の1.0mmのときは、溶込み深さは10mmにもなる。ギャップ幅RGがスポット径と同等の0.5mmのときは、溶込み深さは7.0mm程度である。
ただし、溶込み深さは、ギャップ幅RGがあまり大きくなると、急激に減少する傾向を示す。また、溶込み深さはレーザとアーク間距離LAにより影響を受けるが、LA=0〜2mmの範囲では、ギャップ幅RGの上限値は4mmが適当である。その理由は、これ以上ギャップ幅が大きくなると、前述のように溶け落ちが生じるからである。
また、図5(d)に示す本発明の開先形状の場合、溶込み深さは図5(c)のY型開先の場合とほとんど変わらない。
【0036】
図8は比較例として示す開先形状例である。同図(a)は図4(a)の平行開先型の継手当接部とルートギャップ部を上下反転させた形状の開先であり、同図(b)は図4(b)の逆V開先型の継手当接部とルートギャップ部を上下反転させた形状の開先である。すなわち、図8(a)の開先は継手当接部32を下側に、平行ルートフェイス部33を上側逆向きにしてV形開先開口部31に接続したものであり、図8(b)の開先は同じく継手当接部32を下側に、テーパ状ルートフェイス部34を上側逆向きにしてV形開先開口部31に接続したものである。
これら比較例の開先の場合、図4(a)や(b)の開先(実施例)と比較して、片面溶接での貫通ビードが得られる最大板厚が減少することが実験により確認されている。また、同一溶接条件で溶接した場合、実施例の開先では安定な裏ビードが形成されたが、比較例の開先では裏波が出なかったりして、不安定であった。
【0037】
このような試験結果に対する理由としては、次のように考えられる。
▲1▼レーザパワーは、キーホールの深部に行くほど、減少していくこと。
実施例の開先では、継手当接部32が開先表面側にあるので、レーザパワーがそれほど減衰することなく未だ十分なパワーでもって継手当接部32を溶融させることができる。一方、比較例の開先では、継手当接部32が開先裏面側にあるので、レーザパワーが溶融池を掘り下げてキーホールを形成するために消費された状態で、継手当接部32を溶融させる必要がある。したがって、実施例の開先と比較して、溶込み深さが浅く、また同じ深さの溶込みを得るには大きなレーザ出力を必要とする。
▲2▼実施例の開先では、継手当接部32の溶融にはレーザだけでなくアーク入熱も寄与していること。そのため、継手当接部の溶融に消費されるレーザパワーは少なくてすむ。
【0038】
本発明は、前述のように更なる溶込み深さの増大化が可能であるので、厚板の突合せ溶接、特に溶接鋼管や造船、一般構造物等の突合せ溶接に好適なものである。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、開先の表面側、すなわちレーザ光の入射側に開先開口部とこれに続けて被溶接材の当接面を、その当接面の下方、すなわち開先の裏面側に、間隙幅をレーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙をそれぞれ設け、アーク溶接により形成される溶融池上にレーザ光を照射してキーホールを形成しながら、アーク溶接による溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより溶接するものであるので、低出力のレーザでも更なる溶込み深さの増大化が可能となる効果がある。したがって、厚板に対するレーザとアークの複合溶接を小型、低価格の溶接装置で実施することが可能となる。
また、前記当接面で被溶接材を当接させているので、キーホール形成用間隙のギャップ幅が溶接熱収縮により減少を生じないため、継手拘束手段を設ける必要がなく溶接コストの低減を図ることができる。
また、本発明の開先形状を用いることにより、ビード形状が良好で溶込み深さの深いレーザとアークの複合溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のレーザとアークの複合溶接方法の概要を示す模式図である。
【図2】図1の溶接部の上面図である。
【図3】本発明の複合溶接方法の作用を示す模式図である。
【図4】本発明の複合溶接方法に適用される基本的な開先形状の例を示す断面図である。
【図5】実施例における、通常のビードオン複合溶接の場合と各種開先形状の複合溶接の場合を示す図である。
【図6】実施例におけるルートギャップのギャップ幅と溶込み深さとの関係(試験結果)を示す図である。
【図7】溶込み深さの定義を示す図である。
【図8】比較例としての開先形状例を示す断面図である。
【図9】従来技術による開先形状例を示す断面図である。
【符号の説明】
1、2 被溶接材
3 開先
10 レーザヘッド
11 レーザ光
12 キーホール
13 集光レンズ
20 アーク溶接トーチ
21 溶接ワイヤ
22 アーク
23 溶融池
31 V形開先開口部
32 継手当接部
33 平行ルートフェイス部
34 テーパ状ルートフェイス部
RG キーホール形成用間隙
Claims (15)
- 2つの被溶接材を隙間なしで当接した突合せ継手をレーザとアークにより複合溶接する方法において、
開先の表面側、すなわちレーザ光の入射側に開先開口部とこれに続けて被溶接材の当接面を、その当接面の下方、すなわち開先の裏面側に、間隙幅をレーザ光のスポット径以上としたキーホール形成用間隙をそれぞれ設け、アーク溶接により形成される溶融池上にレーザ光を照射してキーホールを形成しながら、アーク溶接による溶着金属をそのキーホールおよびキーホール形成用間隙内に流入させることにより溶接することを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。 - 請求項1に記載のレーザとアークの複合溶接において、
キーホールを貫通させ、片面裏波溶接を行うことを特徴とするレーザとアークの複合溶接方法。 - 前記キーホール形成用間隙を構成するルートフェイス面が、レーザ光の入射方向に平行になっている開先に対して溶接することを特徴とする請求項1また2記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記キーホール形成用間隙を構成するルートフェイス面が、レーザ光の入射方向に末広がり状になっている開先に対して溶接することを特徴とする請求項1または2記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記キーホール形成用間隙を構成するルートフェイス面が、レーザ光の入射方向に平行になっている部分とその下方の開先裏面側に末広がり状になっている部分とを有する開先に対して溶接することを特徴とする請求項1または2記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記キーホール形成用間隙の幅は、4mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記被溶接材当接面の板厚方向の長さは、レーザ貫通能力の50%未満または0.5mm以上3.0mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 前記キーホール形成用間隙と前記被溶接材当接面の板厚方向の合計長さは、レーザ貫通能力の120%以上または6mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- レーザにYAGレーザを用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- アークには、消耗電極式またはフィラワイヤを添加する非消耗電極式のアークを用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接方法。
- 突合せ継手のレーザとアークの複合溶接において、
開先の形状が、V形またはこれに類似する形状を有する表面側の開先開口部と、中間部の継手当接部と、裏面側のキーホール形成用間隙部とからなり、
前記キーホール形成用間隙部の幅は、レーザ光のスポット径以上であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 突合せ継手のレーザとアークの複合溶接において、
開先の形状が、V形またはこれに類似する形状を有する表面側の開先開口部と、中間部の継手当接部と、開先裏面方向に末広がり状の裏面側のキーホール形成用間隙部とからなり、
前記キーホール形成用間隙部の幅は、レーザ光のスポット径以上であることを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 請求項11に記載の開先形状において、
前記キーホール形成用間隙部の裏面側の端部が末広がり状になっていることを特徴とするレーザとアークの複合溶接用の開先形状。 - 前記キーホール形成用間隙部の幅は、4mm以下であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接用の開先形状。
- 前記継手当接部の板厚方向の長さは、レーザ貫通能力の50%未満または0.5mm以上3.0mm以下であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のレーザとアークの複合溶接用の開先形状。
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