JP2004090068A - レーザ溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】レーザ溶接時に発生するプラズマもしくはプルームの発生強度がしきい値以下になる状態を検出して、この状態が最小となるように最適波形と最適周波数を決定する。
【選択図】 図6
Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明はレーザ溶接方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、レーザ出力に適切な波形並びに周波数で変動を付与することにより、ポロシティ、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥の発生を防止するレーザ溶接において、簡便に波形並びに周波数の最適化を行うことのできる、新しいレーザ溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明の課題】
近年、レーザ発振器の大出力化が飛躍的に進み、これを深溶込み・高速溶接へ適用することが期待されている。しかし、溶込みが深くなるにしたがい、レーザ照射部で形成されるキーホールを安定に維持することが困難となり、これに基づき、ポロシティ、ブローホール、割れなどの溶接欠陥が発生しやすくなる。このため、レーザ溶接技術を構造材などを含む広範囲な材料加工に適用するためには、溶接欠陥を確実に防止する技術が必要不可欠である。これに対して、この出願の発明者らは、溶融池の固有振動と一致した周波数でレーザ出力を変動し、かつその波形を適切に制御することにより、ポロシティ、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥を効果的に防止する技術を開発し、これを特許出願した(特願2001−77298)。
【0003】
添付した図面の図1は、このレーザ溶接の方法におけるレーザ出力の変動を模式的に示した図である。
【0004】
しかしながら、発明者らがすでに提案しているこの方法においては、溶接欠陥の防止効果は出力変調の周波数及び波形に大きく依存することから、これらを最適化するための方策として、あらかじめ種々の波形及び周波数の元で予備実験を行い、このときのポロシティの発生状況をX線透過撮影等の手段により調べ、最適条件を決定することが必要であった。このため、このような手順、方策は現実的には必ずしも簡便、容易ではないという問題があった。
【0005】
そこで、この出願の発明は、上記のとおりの発明者らが提案したレーザ溶接方法の特徴、すなわち、深溶込みレーザ溶接時に発生する溶接欠陥を、溶融池の固有振動と一致した周波数でレーザ出力を変動させ、かつ、その波形を適切に制御することで効果的に防止するとのことを、従来の問題点を解消して、簡便に、最適出力変調波形や周波数を決定することによって実現することのできる、新しいレーザ溶接方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、波形制御をともなうレーザの出力変調により溶接欠陥を効果的に防止するレーザ溶接法において、プラズマもしくはプルームの発光強度の時間変化にしきい値を設け、発光強度がしきい値以下になる状態を検出することにより、この状態が出力変調波形の特定の位相において最小となる出力変調の最適波形並びに最適周波数を決定することを特徴とするレーザ溶接方法を提供する。
【0007】
また、第2には、プラズマもしくはプルームの発光強度がしきい値以下になる状態が設定された時間以上持続するものだけを検出する事により、出力変調の最適波形並びに最適周波数を決定する上記のレーザ溶接方法を提供し、第3には、以上の方法により検出したプラズマもしくはプルームの発光強度がしきい値以下になる状態が、出力変調波形のどの位相で最も頻度が高いかを検出することにより、出力変調の最適波形並びに最適周波数を決定するレーザ溶接方法を提供する。
【0008】
以上のとおりのこの出願の発明は、レーザ照射位置から発生するプラズマもしくはプルームの発光強度を計測することによって、容易に短時間で、レーザ出力の変調波形と周波数の最適化を行うことを可能としている。
【0009】
このことは、次のようなこの出願の発明者による検討の結果を踏まえて実現されたものである。
【0010】
すなわち、この出願の発明者は、ポロシティの形成機構を明らかにするために、レーザ溶接時にキーホールの動的な挙動をX線透過像の高速度撮影により観察した。それによると、出力一定の元で溶接を行っても、キーホールは深さ方向及び径方向にランダムに大きく変動する。ポロシティの発生はこのようなキーホールの振動と大きく関係し、キーホール深さが急激に低下するときに、キーホール先端が不安定現象により分離して気泡が形成され、これが残留することによりポロシティとなる。また、キーホール深さの急激な低下が起こる際に、キーホールの径方向の振動が大きい、すなわちキーホールの乱れが大きいと、ポロシティが発生しやすくなる。このため、キーホールの径方向の乱れが検出できれば、出力低下時に乱れを起こさない条件を容易に見つけることができ、ポロシティを効果的に防止する条件の最適化が容易にできることになる。
【0011】
図2は、この出願の発明における最適条件の決定法を例示したものであるが、レーザ溶接部で発生するプラズマもしくはプルーム(1)の発光を溶接部周辺に設置した光センサー(2)で検出し、レーザ出力の変化と同期してこれを記録装置(3)に記録すると、センサーで検出した光信号は例えば図3のように示される。そして光信号には、図中に*で示したように、発光がしばらく途絶える現象が随所で見受けられる。これは、キーホール内部から大量の溶融金属が噴出した直後にキーホール内部でレーザと溶融金属の相互作用がなくなるために蒸発が短時間途絶えることを示しており、これにより大きな溶融金属の噴出を検出することができる。またこのような大きな溶融金属の噴出が起こった直後には、キーホールの径方向への振動が大きくなる。すなわち、キーホールの乱れが大きくなる。
【0012】
このため、出力変調を付与したレーザ溶接では、出力が低下しキーホール深さが低下する時点において、図3に*で示したプラズマ及びプルームの発光が途絶える現象が起こらないように波形及び周波数を選択すれば、ポロシティを防止する最適条件を決定することができる。そこで、図3に示すように、光信号に任意のしきい値を与え、これよりも信号強度が小さい領域を検出することにより、溶融金属の噴出時期すなわちキーホールの乱れが起こる時期を検出する。種々の出力変調条件下で、出力変調の位相と発光信号がしきい値以下になる頻度の関係を調べ、出力が低下する時点で頻度が最小となる条件を選択することにより、変調波形並びに周波数の最適化が行えることになる。
【0013】
このような最適周波数の決定方法は、発光信号のノイズカット処理、信号の演算等によってさらに正確にすることができる。たとえば、発光信号の高周波成分を遮断することにより、より正確に発光が途絶える現象を検出することができる。また、プラズマもしくはプルームの発光強度がしきい値以下になる状態が任意の設定時間以上持続するものだけを選択し、その時間もしくは頻度を検出することにより、より正確に最適周波数を求めることができる。このようにして、この出願の発明は、レーザ溶接時にその場で極短時間で検出することも可能なため、フィードバック制御として用いることもできる。
【0014】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は以上のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0015】
なによりもこの出願の発明においては、レーザ溶接のための最適条件を決定するためのプラズマもしくはプルームの発光強度を信号として検知することが必要になるが、このための方策としては、たとえば前記のとおり、図2の検出装置の構成を採用することができる。図中の符号は、プラズマもしくはプルーム(1)、フォトダイオード(2)、記録計(3)、レーザビーム(4)、放物面鏡(5)、そして被溶接物(6)とワークテーブル(7)を例示している。そして、この装置とは別に、レーザ溶接装置が用いられる。
【0016】
そして、この出願の発明では、この際に、検出装置の検知信号に基づいて、レーザ溶接装置の出力変動のための最適波形と最適周波数が決定されることになる。なお、この出願の発明においては、発光強度についてのしきい値は、溶接の状況に対応して任意であってよいが、一般的には、発光がしばらく途絶えたと判定できる状態を含んでいるかどうかを目安とすることができる。
【0017】
そこで、以下に実施例を示し、これにそって実施の形態を詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【0018】
【実施例】
一般溶接構造用鋼SM490Aを用いて、ピードオンプレートにより出力変調部分溶込み溶接を行った。図2はその際に使用した光強度の検出装置の構成図である。プラズマまたはプルーム(1)の発光強度を感度波長範囲190〜1100nmのSiフォトダイオード(2)(Si−PD)を使ってサンプリング周波数50kHzで計測した。Si−PDは、被溶接物(5)と同一レベルの水平方向に設置した。レーザビーム(4)は、焦点距離500mmの放物面鏡(5)により被溶接物(6)の表面に収束した。レーザ出力は、図4のとおりに、ピーク出力20kW、ベース出力8kWの三角波によるパルス変調をかけ、出力の立上り時間tuおよび、立下り時間tdを変化させた。
【0019】
図4には、各種立ち上がり時間におけるポロシティの発生率を示した。ポロシティ発生率は、溶接部縦断面のX線透過写真からポロシティの総面積と溶融断面積の比を求め、これを百分率で表示した。この図4より、波形制御出力変調溶接では、通常のレーザ溶接と比べてポロシティの発生が著しく抑制されていることがわかるが、その防止効果は、立ち上がり時間10ms立ち下がり時間40msにおいて最も大きいことが確認された。
【0020】
前出の図3はこのときに得られたプラズマ発光信号の一例を示している。プラズマの発光強度は、図中に*で示したように、発光がしばらく途絶える現象が随所で見受けられる。これは、前記したように、大量の溶融金属が噴出した後にレーザと溶融金属の相互作用がない状態を示しており、これがキーホール深さの減少時に起こると欠陥の発生を起こしやすい。
【0021】
図5は、最も効果的に欠陥が防止できたtd=40ms及び最適条件でないtd=10msで溶接を行ったときのキーホール深さの時間変化とプラズマ信号を示す。図5(a)に示す最適条件では、キーホール深さが減少する時点、すなわちレーザ出力が減少する後半部分で常にプラズマの発光が見られるのに対して、図5(b)に示す欠陥が発生する条件では、キーホール深さが減少する時に、すなわち出力減少時にプラズマの発光信号がほぼ0となる状態が持続する。したがって、溶込み深さが低下する時点、すなわちレーザ出力が減少する時間の後半部分でプラズマの発光信号がほぼ0となる頻度が多いかすくないかにより欠陥防止効果が判定できる。
【0022】
そこで、プラズマの発光信号のノイズを消すために5kHzのローパスフィルターを通過した後に0.3Vのしきい値を設定し、これよりプラズマ信号が小さくなる状態が2ms以上持続する頻度を各位相ごとに調べた。その結果を図6に示す。図6(a)は、欠陥が最も効果的に防止できた最適条件における結果であり、出力減少期間の後半部分で発光信号がしきい値以下になる頻度が小さい。一方、欠陥発生率の高い波形図6(b)では、出力減少の後半部分でしきい値以下になる頻度が上記(a)と比較して高い。したがって、出力減少の後半部分におけるプラズマ発光がしきい値以下になる頻度を調べることにより、溶接欠陥を防止する最適波形を決定することができる。
【0023】
以上の例においては三角波によるパルス変調として、出力の立上り時間tu=10ms、立下がり時間td=40msとすることが最適であることを例示しているが、この例に限られることなく、様々な波形として、その最適化、最適周波数を決定することができる。
【0024】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、発明者がすでに提案している深溶込みレーザ溶接時に発生する溶接欠陥防止法において、防止に適した最適出力変調波形及び周波数を容易に決定することができ、厚板の高品質溶接が簡便にできるようになる。これにより、従来困難であった厚板の高品質レーザ溶接が可能となり、レーザ溶接適用分野が拡大される。
【0025】
厚板を高能率に無欠陥で溶接するための出力変調波形並びに周波数が簡便にかつ極短時間で決定できるようになり、生産ラインにおけるコスト低減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】波形制御パルス変調波形の一例を示した図である。
【図2】プラズマもしくはプルームの発光信号の検出装置の構成を例示した図である。
【図3】プラズマ発光強度の測定例を示した図である。
【図4】波形制御した出力変調において、レーザ出力の立上がり時間と欠陥発生率の関係を例示した図である。
【図5】最適波形及び適切でない波形の元でキーホール深さ及びプラズマ発光強度の時間的な変化を測定した結果を例示した図である。
【図6】プラズマの発光強度がしきい値(0.3V)以下になる確率(頻度)と、パルス変調の位相の関係を例示した図である。
【符号の説明】
tu 立上り時間
td 立下り時間
1 プラズマもしくはプルーム
2 フォトダイオード
3 記録計
4 レーザビーム
5 放物面鏡
6 被溶接物
7 ワークテーブル
Claims (3)
- 波形制御をともなうレーザ出力の変調により溶接欠陥の発生を防止するレーザ溶接方法において、プラズマもしくはプルームの発光強度の時間変化にしきい値を設定し、発光強度がしきい値以下になる状態を検出することにより、この状態が出力変調波形の特定の位相において最小となるように、出力変調の最適波形と最適周波数とを決定することを特徴とするレーザ溶接方法。
- 発光強度がしきい値以下になる状態が設定された時間以上持続するものだけを検出することを特徴とするレーザ溶接方法。
- 請求項1または2の方法において発光強度がしきい値以下になる状態が、出力変調波形のどの位相で最も頻度が高いかを検出することを特徴とするレーザ溶接方法。
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