JP4136547B2 - パルスレーザ溶接方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、パルスレーザ溶接方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において最適なパルス変調周波数を求めるためのパルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法に従う新しいパルスレーザ溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明の課題】
近年の飛躍的なレーザ発振器の大出力化に伴い、レーザ発振器を深溶込みおよび高速溶接へと適用することが期待されている。しかし、溶込みが深くなるに伴い、レーザ照射部で形成されるキーホールを安定に維持することが困難となるため、ポロシティ、ブローホール、および、割れといった溶接欠陥が発生しやすくなることが問題となる。そこで、構造材などを含む広範囲な材料加工にレーザ溶接技術を適用する上で、溶接欠陥の発生の防止を実現する技術の開発が必要不可欠である。
【0003】
このような技術的課題に対して、この出願の発明者らは、図8に示したように、溶融池の固有振動と一致する周波数でレーザ出力を変動することにより、ポロシティ、ブローホール、および、割れといった溶接欠陥の発生を効果的に防止するレーザ溶接方法を開発した(特願2001−25954)。この方法においては、図9に示すように、溶接欠陥の防止効果がパルスレーザのパルス変調周波数に大きく依存する。すなわち、最適なパルス変調周波数において、顕著に欠損の抑制が行われるものであり、パルス変調周波数の選択方法が重要な課題である。この最適なパルス変調周波数fは、溶融池を波が往復する運動の周波数であるため、溶融池の長さLと波の進行速度vとからf=v/2Lと求められる。溶融池の長さLと波の進行速度vとを知るためには、予め溶融池表面を高速度撮影し、その画像から溶融池の長さLと波の進行速度vとを算出する方法が知られているが、実際の利用を考えたときに即時性などの観点から不便が生じており、より簡便かつ高速に最適なパルス変調周波数を決定する方法が求められていた。
【0004】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、溶接欠陥の発生を最小化するのに最適なレーザ出力変調周波数を簡便かつ高速に決定するための方法に従う新しいパルスレーザ溶接方法を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1に、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、発光強度が閾値以下となる時間帯の総和あるいは出現頻度から最適なパルス変調周波数を決定し、決定した最適なパルス変調周波数をレーザ光源にフィードバックし、出力のパルス変調を行い、レーザ溶接することを特徴とするパルスレーザ溶接方法を提供する。
【0006】
また、この出願の発明は、第2には、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0B、あるいは、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Bが、最小となる周波数を最適なパルス変調周波数として決定するパルスレーザ溶接方法を提供する。
【0007】
さらに、この出願の発明は、第3には、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0Bおよびピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0P、あるいは、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Bおよびピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Pを算出し、t0B/t0Pあるいはp0B/p0Pが最小となる周波数を最適なパルス変調周波数として決定することを特徴とするパルスレーザ溶接方法をも提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0009】
図1は、パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法を実施するための構成の一例を示したものである。レーザ光源から出力されるレーザ光(4)は放物面鏡(5)を介して、ワークテーブル(7)上に設置された被溶接物(6)に照射される。レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルーム(1)から発生する発光の発光強度を光センサ(2)で検出し、レーザ出力と同期して検出信号を記憶装置(3)に記憶する。光センサとしては、フォトダイオードなどが用いられる。記憶装置(3)に記憶されたデータから光センサで検出される発光の強度が予め設定された閾値以下となる時間帯の出現頻度を調べ、最適なパルス変調周波数を決定する。決定された最適なパルス変調周波数は、レーザ光源(4)にフィードバックされ、出力のパルス変調が行える。
【0010】
図2は、検出信号を時系列に並べた波形である。波形中には、*印で示したように、発光強度が微弱となる区間が見られる。これは、キーホール内部から大量の溶融金属が噴出した直後に、キーホール内部にてレーザと溶融金属の相互作用が無くなるために、金属の蒸発が瞬間的に途絶えることを示しており、発光強度が微弱となる区間の出現を調べることで大きな溶融金属の噴出を検知することができる。
【0011】
パルス変調の周波数が溶融池振動の周波数と一致する最適なパルス変調周波数においては、大きな溶融金属の噴出が、パルスレーザのピーク出力時に多く検出される。一方、パルス変調周波数が最適値から外れると、溶融金属の噴出がピーク出力時のみならず、ベース出力時にも、次第にランダムに検出されるようになる。このため、図2中に*印で示したようなプラズマ発光あるいはプルームの発光が途絶える区間(発光強度が微弱となる区間)がパルス変動に対してどのような位相で出現するかを調べることで、最適なパルス変調周波数を知ることができる。以下に、最適なパルス変調周波数を決定するための具体的な方法を示す。
【0012】
まず、図2にも示したとおり、発光強度が微弱となる区間を限定するために、波形に対して閾値を設ける。この閾値よりも、発光強度が小さい区間を拾うことで、溶融金属の噴出時期を検出する。ここで、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和をt0B、また、ピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和をt0Pとする。このとき、t0Bが最小となるようなパルス変調周波数が、最適なパルス変調周波数として決定される。また、t0Bとt0Pの比であるt0B/t0Pが最小となるようにパルス変調周波数を決定することにより、さらに高い精度で最適なパルス変調周波数が求まることとなる。
【0013】
また、t0Bおよびt0Pを算出する替わりに、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Bおよびピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Pを求め、p0Bあるいはp0B/p0Pが最小となるようにパルス変調周波数を求め、それを最適なパルス変調周波数としてもよい。
【0014】
パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法においては、発光強度波形のノイズカット処理や信号演算等を施すことにより、さらに高い精度で最適なパルス変調周波数を求めることが可能となる。また、プラズマ発光またはプルームにおける発光の発光強度が、閾値以下となる状態が、任意の設定時間以上持続する区間だけを選択し、その時間あるいは頻度をもとに最適なパルス変調周波数を決定してもよい。
【0015】
パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法においては、最適なパルス変調周波数の決定に必要とされる計算量が少ないことから高速での最適なパルス変調周波数の決定が可能であり、決定された最適なパルス変調周波数によるリアルタイムでのレーザ光源に対するフィードバック制御が容易に実施可能である。
【0016】
以上は、この出願の発明における態様の一例であり、この出願の発明が以上で示した形態に限定されることはなく、その細部について、様々な形態をとりうることが考慮されるべきであることは言うまでもない。
【0017】
レーザ溶接時に、プラズマ発光あるいはプルームにおける発光を検出することで、溶接現象をモニターする方法に関しては、数多くの特許出願がなされており、既に公知である。この出願の発明においては、プラズマ発光あるいはプルームにおける発光の検出により溶融池の固有振動周波数を高速かつ簡便に求め、求められた周波数をパルス変調周波数として設定してパルスレーザの出力を変動することで、溶接欠陥の発生を的確に防止することを実現するものであり、この点に関して公知の技術と大きく異なることを強調したい。
【0018】
この出願の発明は、以上の特徴を持つものであるが、以下に実施例を示し、さらに具体的に説明する。
【0019】
【実施例】
図1に示したような実施構成により、一般溶接構造用鋼SM490Aを被溶接物として、ビードオンプレートによりパルス変調部分溶込み溶接を行った。
【0020】
プラズマの発光強度を感度波長範囲190〜1100nmのSiフォトダイオード2(Si−PD)を用いて、サンプリング周波数50kHzで計測した。Si−PDは、被溶接物と同一レベルの水平方向に設置した。レーザビームは、焦点距離500mmの放物面鏡により被溶接物表面に収束した。レーザの出力は、ピーク出力20kW、ベース出力12kW、デューティ50%のパルス変調をかけ、パルス変調周波数を12Hzから98Hzの範囲で変化させた。
【0021】
図3は、得られたプラズマ発光強度の波形の一例である。前述の通り、*印で示されるような発光強度が微弱となる区間が随所で見られる。この区間においては、大量の溶融金属が噴出した後にレーザと溶融金属の相互作用がない状態となっていること示しており、パルス変調した出力信号においてこの状態が出現する位相を調べることで、最適なパルス変調周波数を決定することができる。
【0022】
まず、5kHzのローパスフィルターによりプラズマの発光強度波形よりノイズを除去する。次いで、0.3Vの閾値を設定し、この閾値より発光強度が小さくなる状態が2ms以上継続する確率を各位相ごとに調べた。図4は、パルス変調周波数が16Hzと20Hzの場合について、閾値より発光強度が小さくなる状態が2ms以上継続する確率を、それぞれ示したものである。図4(a)より、パルス変調周波数を16Hzとした場合には、ピーク出力時にプラズマの発光強度が閾値以下となる確率が高いが、ベース出力時にはこの確率が低い。一方、図4(b)より、パルス変調周波数を20Hzとした場合には、大きな溶融金属の噴出がランダムに発生するため、プラズマの発光強度が閾値以下になる確率が、ピーク出力時とベース出力時とで明確な区別が付かなくなっている。図5より、本実施例の溶接条件下において、ポロシティの発生が最も効果的に抑止されているパルス変調周波数は16Hzであり、16Hzが最適なパルス変調周波数であると考えられる。最適なパルス変調周波数においては、ピーク出力時にプラズマの発光強度が閾値以下となる確率が高くなるが、ベース出力時にはこの確率が低くなる傾向があることから、ピーク出力時およびベース出力時におけるプラズマの発光強度が閾値以下となる確率を調べることで、最適なパルス変調周波数が決定できる。
【0023】
ベース出力時にプラズマの発光強度が閾値0.3V以下となる状態が2ms以上継続する時間の総和をt0B、ベース出力の総和をtBとしたときの、各周波数におけるt0Bの出現頻度p0B(=t0B/tB)を図6に示す。同様に、ピーク出力時にプラズマの発光強度が閾値0.3V以下となる状態が2ms以上継続する時間の総和をt0Pとしたときの、各周波数におけるt0Bとt0Pの比t0B/t0Pを図7に示す。図6および図7より、ポロシティの発生率が最も小さい最適なパルス変調周波数において、p0Bおよびt0B/t0Pの値が最小となっている。
【0024】
以上の通り、パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法により、レーザ照射位置から発生するプラズマの発光強度を検出することで、溶接欠陥の発生を防止するのに最適なパルス変調周波数を決定することができた。
【0025】
【発明の効果】
この出願の発明によって、以上詳しく説明したとおり、出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、溶接欠陥の発生を最小化するのに最適なレーザ出力変調周波数を簡便かつ高速に決定する方法が提供される。
【0026】
この出願の発明により、従来技術においては困難であった厚板を対象とした高品質なレーザ溶接が簡便に実施可能となり、レーザ溶接の適用分野の拡大が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法を実施するための装置構成の一例を示した概要図である。
【図2】 パルスレーザ出力における最適パルス変調周波数の決定方法の原理について示した図である。
【図3】 この出願の発明の実施例において、Si−PDにより測定されたプラズマの発光強度の波形を示した図である。
【図4】 この出願の発明の実施例において、閾値より発光強度が小さくなる状態が2ms以上継続する確率について示した図である。
【図5】 この出願の発明の実施例において、ポロシティ発生率とパルス変調周波数との関係について示した図である。
【図6】 この出願の発明の実施例において、パルス変調周波数とp0Bとの関係について示した図である。
【図7】 この出願の発明の実施例において、パルス変調周波数とt0B/t0Pとの関係について示した図である。
【図8】 この出願の発明の発明者らによる従来技術の原理について示した図である。
【図9】 この出願の発明の発明者らによる従来技術の原理について示した図である。
Claims (3)
- 出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、発光強度が閾値以下となる時間帯の総和あるいは出現頻度から最適なパルス変調周波数を決定し、決定した最適なパルス変調周波数をレーザ光源にフィードバックし、出力のパルス変調を行い、レーザ溶接することを特徴とするパルスレーザ溶接方法。
- 出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0B、あるいは、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Bが、最小となる周波数を最適なパルス変調周波数として決定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーザ溶接方法。
- 出力のパルス変調を行うレーザ溶接において、レーザ溶接部で形成されるプラズマ発光、あるいは、プルームから発生する発光の発光強度を光センサで検出し、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0Bおよびピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の総和t0P、あるいは、ベース出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Bおよびピーク出力時において検出される発光強度が閾値以下となる時間帯の出現頻度p0Pを算出し、t0B/t0Pあるいはp0B/p0Pが最小となる周波数を最適なパルス変調周波数として決定することを特徴とする請求項1記載のパルスレーザ溶接方法。
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