JP2004085397A - はんだ接合部の寿命推定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】はんだ接合部の寿命サイクル数を、亀裂長さまで考慮して推定できる、はんだ接合部の寿命推定方法を提供する。
【解決手段】寿命までのサイクル数を亀裂発生寿命と亀裂進展寿命に分け、前者をCoffin−Manson則、後者を亀裂進展特性評価結果に基づく破壊力学アプローチにより求める。
【選択図】図1
【解決手段】寿命までのサイクル数を亀裂発生寿命と亀裂進展寿命に分け、前者をCoffin−Manson則、後者を亀裂進展特性評価結果に基づく破壊力学アプローチにより求める。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、はんだ接合部の寿命推定方法に関し、特に、半導体や電子部品等の接合に用いられるはんだ接合部の信頼性試験や実使用環境下における寿命を推定する方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来より、電子部品や半導体部品を基板にはんだ付けした表面実装型の実装基板や、そのような実装基板を搭載した電子機器は、温度サイクル試験など長期の信頼性試験により寿命が評価されている。
【0003】
また、このような長期間を要する信頼性試験の期間の短縮を図るために、例えば、Coffin−Manson則のような寿命推定式を用いた予測も同時に行われている。
【0004】
なお、Coffin−Manson則は金属疲労の経験式であり、次式で表される。
【0005】
【数1】
【0006】
ここでNfは寿命サイクル数、C、kは材料定数、Δεinは非弾性ひずみ範囲である。この式は寿命が塑性ひずみ範囲やクリープひずみ範囲などの非弾性ひずみ範囲の関数で表されること示している。したがって、この式を用いると、コンピュータシミュレーションで求めたΔεinから、Nfを簡単に求めることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Coffin−Manson則に基づく寿命推定は、本来、あくまで疲労問題に対して適用できるものである。一方、電子部品のはんだ接合部の破壊までの過程は、亀裂の発生過程と、亀裂の進展過程からなり、亀裂発生までの過程については、Coffin−Manson則に基づく疲労の理論によって整理することができるが、発生した亀裂の進展過程については、破壊力学による整理が必要となる。
【0008】
このため、従来は、亀裂長さを考慮した寿命推定方法がないために、Coffin−Manson則により亀裂進展過程を含んだ断線までの寿命を推定せざるをえず、結果として、同じΔεinであってもNfが異なってくるため、寿命を正しく推定できないという問題があった。
【0009】
従って、本発明は、はんだ接合部の寿命サイクル数を、亀裂長さまで考慮して推定できる、はんだ接合部の寿命推定方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のはんだ接合部の寿命推定方法は、シミュレーションモデルを用いたはんだ接合部の寿命推定方法であって、
(a)亀裂のないシミュレーションモデルを作成し、冷熱サイクルが生じた際に、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を求め、該非弾性ひずみ範囲から亀裂発生寿命を求める工程と、
(b)はんだ材料の亀裂進展試験から求めた亀裂進展速度と破壊力学パラメータの関係と、シミュレーションにより求めた破壊力学パラメータと亀裂長さとの関係に基づき、亀裂進展速度を亀裂長さの関数として表し、亀裂が特定の長さまで進展するまでの亀裂進展寿命を求める工程と、
(c)(a)の亀裂発生寿命と(b)の亀裂進展寿命を加算し、断線寿命を求める工程と、を具備することを特徴とする。
【0011】
このような方法によれば、電子部品や半導体部品に形成されているはんだ接合部の破壊までの過程を推定する場合に、まず、亀裂発生までの過程について、Coffin−Manson則に基づく疲労の理論によって整理し、次に、発生した亀裂の進展過程については、破壊力学により整理することから、結果的に、亀裂長さを考慮してはんだ接合部の破壊までの過程を推定することができる。
【0012】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、上記の(a)工程の非弾性ひずみ範囲が、相当クリープひずみ範囲であることが望ましい。本発明では、冷熱サイクルが生じた際に、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を相当クリープひずみ範囲として求めるために、時間依存性を含めた寿命の推定が可能となり、確度の高い寿命を求めることができる。
【0013】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、上記の(b)工程の破壊力学パラメータが、クリープJ積分範囲であることが望ましい。一般に、はんだ材料はクリープ変形が顕著であり、変形速度すなわち周波数によって亀裂先端のクリープ変形量が異なるためにヒステリシスループの形状が異なることがある。そのような材料に対して、破壊力学パラメータをクリープJ積分範囲とすることにより、破壊力学パラメータに対して、時間依存性を考慮した予測ができる。
【0014】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、はらつきが、対象とする製品の平均的なワイブル係数に基づき判定されることが望ましい。電子機器の信頼性試験結果は、その製品が1箇所でも熱疲労破壊すると、その製品を不良とみなせる点で最弱リンクモデルを合致させることができることからワイブル分布が適合しやすい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のはんだ接合部の寿命推定方法について、図1の本発明のはんだ接合部の寿命推定方法の手順を示すフローチャートをもとに詳細に説明する。
【0016】
本発明の寿命推定方法は、亀裂発生寿命を求める工程と、亀裂進展寿命を求める工程、両者を加算してばらつきまで考慮した寿命推定を行う工程の3つの工程から成ることが重要である。
【0017】
(a)亀裂発生寿命の算出
亀裂の発生は、ひずみの繰り返し負荷に起因した疲労の問題である。そのため、亀裂発生寿命は、汎用的にCoffin−Manson則により推定できると考えられる。
【0018】
【数2】
【0019】
ここでN0は寿命サイクル数、C,kは材料定数、Δεinは非弾性ひずみ範囲である。非弾性ひずみ範囲は、塑性ひずみ範囲やクリープひずみ範囲などの永久変形を伴うひずみ範囲である。塑性ひずみ範囲とクリープひずみ範囲のいずれが寿命を支配するかについては、はんだ材料の種類によって異なるが、疲労特性評価により見極めることが可能である。また、亀裂発生寿命は亀裂長さに依存しないので、材料定数C,kも、同一はんだ材料であれば同じ値になる。
【0020】
シミュレーションでは、亀裂の無いモデルを作成し、冷熱サイクルと同じ条件の温度履歴を与え、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を求める。求めた非弾性ひずみ範囲を数2式のCoffin−Manson則に代入することにより亀裂発生寿命を求めることができる。
【0021】
(b)亀裂進展寿命の算出
<亀裂進展特性評価による亀裂進展速度と破壊力学パラメータの関係の評価>ここでは、亀裂進展試験を行い、各はんだ材料に固有の亀裂進展特性、具体的には、亀裂進展速度と破壊力学パラメータである繰り返しJ積分範囲やクリープJ積分範囲との関係を定式化する。亀裂進展試験は、例えばASTM規格E647に記載の中央亀裂平板(MT)試験片やコンパクトテンション(CT)試験片などの亀裂進展試験用の試験片を用いて行う。亀裂進展試験を行う前にクリープ変形しない高い周波数にて繰り返し負荷を与え、0.3〜0.5mmの予亀裂を導入し、その後、荷重一定または変位一定の条件のもとで亀裂進展試験を行う。荷重の波形は正弦波、三角波などを用いる。また、亀裂進展試験では、荷重と亀裂開口変位を同時測定するとともに、亀裂長さの変化をCCDカメラや光学顕微鏡、又は電位差法などを用いて計測する。
【0022】
繰り返しJ積分範囲は、例えばDowlingの方法を用いて求めることができる(Dowling、N.E.,ASTM STP 601,(1976),19.)。
【0023】
図2は、亀裂進展試験で得られる荷重―亀裂開口変位ヒステリシスループである。この方法は、図2に示す荷重−亀裂開口変位ヒステリシスループを用いて繰り返しJ積分範囲を算出する方法である。
【0024】
【数3】
【0025】
ここで、ΔKは応力拡大係数、Eはヤング率、2aは亀裂長さ、Bは試験片のは厚さ、Wは試験片の幅、Sは荷重−亀裂開口変位のヒステリシスループの斜線部の面積である。
【0026】
図3は、サイクル数に伴う亀裂長さの変化の一例である。亀裂進展速度は、図3に示すようなサイクル数毎の亀裂長さの変化から近似曲線を求め、その近似曲線を微分して算出することができる。この方法により繰り返しJ積分範囲ΔJfを算出し、計測した亀裂長さの変化から1サイクル当りの亀裂進展速度da/dNを求め、両者の関係式を求めると、ほとんどの場合において、両者の間には、
【0027】
【数4】
【0028】
のべき乗則の関係が成り立つ(C,mは材料定数)。
【0029】
しかし、クリープ変形が顕著であるはんだ材料の場合には、変形速度すなわち周波数によって亀裂先端のクリープ変形量が異なるため、ヒステリシスループの形状が異なることがある。そのような材料に対しては、繰り返しJ積分範囲ΔJfとクリープJ積分範囲ΔJcを分離して定式化する必要がある。例えばヒステリシスループの形状の差を用いてクリープJ積分範囲を算出する平の方法(平修二他3名,材料,28(1981),414.)である。
【0030】
この方法は亀裂進展試験中に任意にクリープ変形しない周波数の速いサイクルを1サイクルだけ導入し、その際のヒステリシスループを重ね合わせることで、ヒステリシスループのひずみエネルギーを塑性ひずみ成分とクリープひずみ成分に分離し、クリープJ積分範囲を算出する方法である。図4はヒステリシスループを用いた時間依存成分と非時間依存成分の分離方法の模式図である。図4においてABDAで形成されるヒステリシスループは低周波数におけるヒステリシスループ、ABCAで形成されるヒステリシスループは1サイクルだけ導入した高周波数におけるヒステリシスループである。ヒステリシスループのScpからSpを除いた面積が、クリープ変形に寄与した量となり、クリープ指数αを用いて以下の式でクリープJ積分を算出することができる。
【0031】
【数5】
【0032】
<シミュレーションによる破壊力学パラメータと亀裂長さの関係評価>
前記亀裂進展特性評価技術により、亀裂進展速度と破壊力学パラメータである繰り返し(クリープ)J積分範囲の関係を定式化することができる。したがって、実製品のはんだ接合部に生じた亀裂の繰り返し(クリープ)J積分範囲を求めて破壊力学パラメータを亀裂長さの関数として定式化することができれば、亀裂進展速度を亀裂長さの関数として表すことができ、積分して亀裂進展寿命を算出することができる。
【0033】
一例として有限要素法を用いて繰り返し(クリープ)J積分範囲を算出する場合について説明する。まず、実製品を模擬し、はんだ接合部に異なる亀裂長さを有する解析モデルを作成する。この際、亀裂は、実際の進展経路に沿って長さを変えて設ける必要がある。次いで、作成した各モデルについて、所定の冷熱サイクル条件の履歴を与え、繰り返し(クリープ)J積分範囲を算出する。この解析においては、当然、はんだ材料のクリープ変形を考慮する必要がある。算出した繰り返し(クリープ)J積分範囲ΔJf(c)を、亀裂長さaに対してプロットすると、
【0034】
【数6】
【0035】
によりΔJf(c)を亀裂長さaだけの関数として定式化することができる。
【0036】
前記はんだ材料の亀裂進展特性評価にて(クリープ)J積分範囲ΔJf(c)と亀裂進展速度da/dNとの関係を定式化しているので、これら2つの式から、亀裂進展速度da/dNを亀裂長さaの関数
【0037】
【数7】
【0038】
として表すことができる。数7式を変形すると
【0039】
【数8】
【0040】
となり、亀裂進展に要するサイクル数、すなわち亀裂進展寿命を推定することが可能となる。
【0041】
(c)断線寿命の算出
はんだ接合部の断線寿命はNfは、亀裂発生寿命N0と亀裂進展寿命N1の和により推定することができる。
【0042】
【数9】
【0043】
<ばらつきの考慮>
電子機器の信頼性試験結果は、ワイブル分布に従うことが多い。これは、1箇所でも熱疲労破壊すると、その製品が不良とみなせる点が、最弱リンクモデルに合致するためである。そこで本寿命推定方法では、ワイブル分布関数に基づき寿命のばらつきを推定する。ただし、寿命がばらつく原因としては、はんだ材料自身の寿命ばらつき以外に、反りや位置ずれなどの実装工程に起因したばらつきが考えられ、一般的に前者よりも後者の影響の方が圧倒的に大きい。そのため本寿命推定方法では、ワイブル係数に依存しない平均の寿命サイクル数を推定し、ばらつきの尺度であるワイブル係数を一義的に決めることはせず、対象とする製品の平均的なワイブル係数を用いてばらつきを評価するものとする。
【0044】
【実施例】
<亀裂進展特性評価>
Sn−37Pbはんだ接合部の寿命推定を行うため、Sn−37Pbはんだ材料の亀裂進展特性の評価を行った。150mm×38mm×4mmのSn−37Pbはんだ製の板に長さ5mm、幅0.5mmの貫通亀裂を設けた中央亀裂平板試験片を作製した。鏡面研磨した試験片を油圧サーボ式材料試験機にセットし、試験片表面に2液性エポキシ樹脂で凸部を設けてクリップゲージを挟み込み、亀裂開口変位を測定できるようにした。亀裂長さはCCDカメラにて所定のサイクル数毎に測定した。周波数1kHzにて±2kNの正弦波荷重を負荷し、長さ0.5mmの予亀裂を導入した。亀裂進展試験の試験温度は−40℃、室温、125℃の3温度、試験周波数は0.01Hz、0.1Hz、1Hzの3周波数である。
【0045】
試験荷重は±1〜3kNの範囲で、荷重制御で行った。なお、荷重波形は正弦波、応力比は全て−1とした。周波数0.1Hz及び1Hzの試験では特定のサイクル数毎に周波数1Hzのサイクルを1サイクルだけ導入した。
【0046】
試験中の荷重−亀裂開口変位のヒステリシスループからDowlingの方法により繰り返しJ積分範囲を求め、亀裂進展速度との関係を求めた。その結果を図5に示した。
【0047】
また、平の方法によりクリープJ積分範囲を求め、亀裂進展速度との関係を求めた結果を図6に示した。これらの結果より、Sn−37Pbはんだの亀裂進展特性を繰り返しJ積分範囲に定式化すると試験周波数と温度に依存する形となるが、クリープJ積分範囲にて定式化すると、試験周波数と温度に依存しない形で定式化できることがわかる。したがって、Sn−37Pbはんだの亀裂進展特性はクリープJ積分範囲ΔJc(N/m)により、
【0048】
【数10】
【0049】
で表される。
<半導体パッケージの寿命推定>
BGA型半導体パッケージの信頼性試験における寿命サイクル数を推定した。対象としたパッケージは35mm×35mm×0.8mmのガラスセラミックス製パッケージであり、厚さ1.6mmのFR−4製プリント基板にSn−37Pbはんだで実装した。
【0050】
このパッケージの有限要素モデルを3次元ソリッド要素にて作成し、温度サイクル試験条件と同じ−40℃〜125℃、保持時間30分の温度履歴を与えて解析し、はんだ接合部に生じるクリープひずみを求めた。
Sn−37Pbはんだの亀裂発生寿命の推定式は、
【0051】
【数11】
【0052】
で表されるので、この式に、求めたクリープひずみを代入して亀裂発生寿命を算出した。
【0053】
亀裂進展寿命の推定では、亀裂長さを0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.6mmと変えたモデルを作成し、各モデルにおいてクリープJ積分範囲を求め、クリープJ積分範囲と亀裂長さとの関係を求めた。さらに1式に代入し、限界亀裂長さ0.7mmとして亀裂長さaについて積分し、平均の亀裂進展寿命を求めた。さらに、ワイブル係数が8であると仮定し、破壊確率0.1〜99.9%の寿命推定を行った。以上推定結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
実際にこの半導体パッケージに−40℃〜125℃の温度サイクル試験を最高2000サイクルまで行い、初期抵抗が10%以上変化するサイクル数を調べたところ、本発明にて推定した破壊確率0.1〜99.9%の寿命の範囲にすべて含まれており(表1の亀裂発生寿命+亀裂進展寿命(cycle)の欄)、本発明のはんだ接合部の寿命推定方法により、信頼性試験における寿命サイクル数を亀裂長さを含んで正確に推定できることが確認できた。一方、Coffin−Manson則を用いた亀裂発生寿命の評価では、いずれも実測の寿命から大きく異なった値であった(表1の亀裂発生寿命(cycle)の欄)。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、断線寿命を亀裂発生寿命と亀裂進展寿命の和として求めることにより、従来のCoffin−Manson則のみによる寿命推定では考慮できなかった亀裂長さの効果を考慮することが可能となり、寿命精度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のはんだ接合部の寿命推定方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】亀裂進展試験で得られる荷重−亀裂開口変位ヒステリシスループである。
【図3】サイクル数に伴う亀裂長さの変化の一例である。
【図4】ヒステリシスレープを用いた時間依存成分と非時間依存成分の分離方法の模式図である。
【図5】Sn−37Pbはんだの繰り返しJ積分範囲と亀裂進展速度の関係を示す図である。
【図6】Sn−37PbはんだのクリープJ積分範囲と亀裂進展速度の関係を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、はんだ接合部の寿命推定方法に関し、特に、半導体や電子部品等の接合に用いられるはんだ接合部の信頼性試験や実使用環境下における寿命を推定する方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来より、電子部品や半導体部品を基板にはんだ付けした表面実装型の実装基板や、そのような実装基板を搭載した電子機器は、温度サイクル試験など長期の信頼性試験により寿命が評価されている。
【0003】
また、このような長期間を要する信頼性試験の期間の短縮を図るために、例えば、Coffin−Manson則のような寿命推定式を用いた予測も同時に行われている。
【0004】
なお、Coffin−Manson則は金属疲労の経験式であり、次式で表される。
【0005】
【数1】
【0006】
ここでNfは寿命サイクル数、C、kは材料定数、Δεinは非弾性ひずみ範囲である。この式は寿命が塑性ひずみ範囲やクリープひずみ範囲などの非弾性ひずみ範囲の関数で表されること示している。したがって、この式を用いると、コンピュータシミュレーションで求めたΔεinから、Nfを簡単に求めることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Coffin−Manson則に基づく寿命推定は、本来、あくまで疲労問題に対して適用できるものである。一方、電子部品のはんだ接合部の破壊までの過程は、亀裂の発生過程と、亀裂の進展過程からなり、亀裂発生までの過程については、Coffin−Manson則に基づく疲労の理論によって整理することができるが、発生した亀裂の進展過程については、破壊力学による整理が必要となる。
【0008】
このため、従来は、亀裂長さを考慮した寿命推定方法がないために、Coffin−Manson則により亀裂進展過程を含んだ断線までの寿命を推定せざるをえず、結果として、同じΔεinであってもNfが異なってくるため、寿命を正しく推定できないという問題があった。
【0009】
従って、本発明は、はんだ接合部の寿命サイクル数を、亀裂長さまで考慮して推定できる、はんだ接合部の寿命推定方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のはんだ接合部の寿命推定方法は、シミュレーションモデルを用いたはんだ接合部の寿命推定方法であって、
(a)亀裂のないシミュレーションモデルを作成し、冷熱サイクルが生じた際に、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を求め、該非弾性ひずみ範囲から亀裂発生寿命を求める工程と、
(b)はんだ材料の亀裂進展試験から求めた亀裂進展速度と破壊力学パラメータの関係と、シミュレーションにより求めた破壊力学パラメータと亀裂長さとの関係に基づき、亀裂進展速度を亀裂長さの関数として表し、亀裂が特定の長さまで進展するまでの亀裂進展寿命を求める工程と、
(c)(a)の亀裂発生寿命と(b)の亀裂進展寿命を加算し、断線寿命を求める工程と、を具備することを特徴とする。
【0011】
このような方法によれば、電子部品や半導体部品に形成されているはんだ接合部の破壊までの過程を推定する場合に、まず、亀裂発生までの過程について、Coffin−Manson則に基づく疲労の理論によって整理し、次に、発生した亀裂の進展過程については、破壊力学により整理することから、結果的に、亀裂長さを考慮してはんだ接合部の破壊までの過程を推定することができる。
【0012】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、上記の(a)工程の非弾性ひずみ範囲が、相当クリープひずみ範囲であることが望ましい。本発明では、冷熱サイクルが生じた際に、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を相当クリープひずみ範囲として求めるために、時間依存性を含めた寿命の推定が可能となり、確度の高い寿命を求めることができる。
【0013】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、上記の(b)工程の破壊力学パラメータが、クリープJ積分範囲であることが望ましい。一般に、はんだ材料はクリープ変形が顕著であり、変形速度すなわち周波数によって亀裂先端のクリープ変形量が異なるためにヒステリシスループの形状が異なることがある。そのような材料に対して、破壊力学パラメータをクリープJ積分範囲とすることにより、破壊力学パラメータに対して、時間依存性を考慮した予測ができる。
【0014】
上記はんだ接合部の寿命推定方法では、はらつきが、対象とする製品の平均的なワイブル係数に基づき判定されることが望ましい。電子機器の信頼性試験結果は、その製品が1箇所でも熱疲労破壊すると、その製品を不良とみなせる点で最弱リンクモデルを合致させることができることからワイブル分布が適合しやすい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のはんだ接合部の寿命推定方法について、図1の本発明のはんだ接合部の寿命推定方法の手順を示すフローチャートをもとに詳細に説明する。
【0016】
本発明の寿命推定方法は、亀裂発生寿命を求める工程と、亀裂進展寿命を求める工程、両者を加算してばらつきまで考慮した寿命推定を行う工程の3つの工程から成ることが重要である。
【0017】
(a)亀裂発生寿命の算出
亀裂の発生は、ひずみの繰り返し負荷に起因した疲労の問題である。そのため、亀裂発生寿命は、汎用的にCoffin−Manson則により推定できると考えられる。
【0018】
【数2】
【0019】
ここでN0は寿命サイクル数、C,kは材料定数、Δεinは非弾性ひずみ範囲である。非弾性ひずみ範囲は、塑性ひずみ範囲やクリープひずみ範囲などの永久変形を伴うひずみ範囲である。塑性ひずみ範囲とクリープひずみ範囲のいずれが寿命を支配するかについては、はんだ材料の種類によって異なるが、疲労特性評価により見極めることが可能である。また、亀裂発生寿命は亀裂長さに依存しないので、材料定数C,kも、同一はんだ材料であれば同じ値になる。
【0020】
シミュレーションでは、亀裂の無いモデルを作成し、冷熱サイクルと同じ条件の温度履歴を与え、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を求める。求めた非弾性ひずみ範囲を数2式のCoffin−Manson則に代入することにより亀裂発生寿命を求めることができる。
【0021】
(b)亀裂進展寿命の算出
<亀裂進展特性評価による亀裂進展速度と破壊力学パラメータの関係の評価>ここでは、亀裂進展試験を行い、各はんだ材料に固有の亀裂進展特性、具体的には、亀裂進展速度と破壊力学パラメータである繰り返しJ積分範囲やクリープJ積分範囲との関係を定式化する。亀裂進展試験は、例えばASTM規格E647に記載の中央亀裂平板(MT)試験片やコンパクトテンション(CT)試験片などの亀裂進展試験用の試験片を用いて行う。亀裂進展試験を行う前にクリープ変形しない高い周波数にて繰り返し負荷を与え、0.3〜0.5mmの予亀裂を導入し、その後、荷重一定または変位一定の条件のもとで亀裂進展試験を行う。荷重の波形は正弦波、三角波などを用いる。また、亀裂進展試験では、荷重と亀裂開口変位を同時測定するとともに、亀裂長さの変化をCCDカメラや光学顕微鏡、又は電位差法などを用いて計測する。
【0022】
繰り返しJ積分範囲は、例えばDowlingの方法を用いて求めることができる(Dowling、N.E.,ASTM STP 601,(1976),19.)。
【0023】
図2は、亀裂進展試験で得られる荷重―亀裂開口変位ヒステリシスループである。この方法は、図2に示す荷重−亀裂開口変位ヒステリシスループを用いて繰り返しJ積分範囲を算出する方法である。
【0024】
【数3】
【0025】
ここで、ΔKは応力拡大係数、Eはヤング率、2aは亀裂長さ、Bは試験片のは厚さ、Wは試験片の幅、Sは荷重−亀裂開口変位のヒステリシスループの斜線部の面積である。
【0026】
図3は、サイクル数に伴う亀裂長さの変化の一例である。亀裂進展速度は、図3に示すようなサイクル数毎の亀裂長さの変化から近似曲線を求め、その近似曲線を微分して算出することができる。この方法により繰り返しJ積分範囲ΔJfを算出し、計測した亀裂長さの変化から1サイクル当りの亀裂進展速度da/dNを求め、両者の関係式を求めると、ほとんどの場合において、両者の間には、
【0027】
【数4】
【0028】
のべき乗則の関係が成り立つ(C,mは材料定数)。
【0029】
しかし、クリープ変形が顕著であるはんだ材料の場合には、変形速度すなわち周波数によって亀裂先端のクリープ変形量が異なるため、ヒステリシスループの形状が異なることがある。そのような材料に対しては、繰り返しJ積分範囲ΔJfとクリープJ積分範囲ΔJcを分離して定式化する必要がある。例えばヒステリシスループの形状の差を用いてクリープJ積分範囲を算出する平の方法(平修二他3名,材料,28(1981),414.)である。
【0030】
この方法は亀裂進展試験中に任意にクリープ変形しない周波数の速いサイクルを1サイクルだけ導入し、その際のヒステリシスループを重ね合わせることで、ヒステリシスループのひずみエネルギーを塑性ひずみ成分とクリープひずみ成分に分離し、クリープJ積分範囲を算出する方法である。図4はヒステリシスループを用いた時間依存成分と非時間依存成分の分離方法の模式図である。図4においてABDAで形成されるヒステリシスループは低周波数におけるヒステリシスループ、ABCAで形成されるヒステリシスループは1サイクルだけ導入した高周波数におけるヒステリシスループである。ヒステリシスループのScpからSpを除いた面積が、クリープ変形に寄与した量となり、クリープ指数αを用いて以下の式でクリープJ積分を算出することができる。
【0031】
【数5】
【0032】
<シミュレーションによる破壊力学パラメータと亀裂長さの関係評価>
前記亀裂進展特性評価技術により、亀裂進展速度と破壊力学パラメータである繰り返し(クリープ)J積分範囲の関係を定式化することができる。したがって、実製品のはんだ接合部に生じた亀裂の繰り返し(クリープ)J積分範囲を求めて破壊力学パラメータを亀裂長さの関数として定式化することができれば、亀裂進展速度を亀裂長さの関数として表すことができ、積分して亀裂進展寿命を算出することができる。
【0033】
一例として有限要素法を用いて繰り返し(クリープ)J積分範囲を算出する場合について説明する。まず、実製品を模擬し、はんだ接合部に異なる亀裂長さを有する解析モデルを作成する。この際、亀裂は、実際の進展経路に沿って長さを変えて設ける必要がある。次いで、作成した各モデルについて、所定の冷熱サイクル条件の履歴を与え、繰り返し(クリープ)J積分範囲を算出する。この解析においては、当然、はんだ材料のクリープ変形を考慮する必要がある。算出した繰り返し(クリープ)J積分範囲ΔJf(c)を、亀裂長さaに対してプロットすると、
【0034】
【数6】
【0035】
によりΔJf(c)を亀裂長さaだけの関数として定式化することができる。
【0036】
前記はんだ材料の亀裂進展特性評価にて(クリープ)J積分範囲ΔJf(c)と亀裂進展速度da/dNとの関係を定式化しているので、これら2つの式から、亀裂進展速度da/dNを亀裂長さaの関数
【0037】
【数7】
【0038】
として表すことができる。数7式を変形すると
【0039】
【数8】
【0040】
となり、亀裂進展に要するサイクル数、すなわち亀裂進展寿命を推定することが可能となる。
【0041】
(c)断線寿命の算出
はんだ接合部の断線寿命はNfは、亀裂発生寿命N0と亀裂進展寿命N1の和により推定することができる。
【0042】
【数9】
【0043】
<ばらつきの考慮>
電子機器の信頼性試験結果は、ワイブル分布に従うことが多い。これは、1箇所でも熱疲労破壊すると、その製品が不良とみなせる点が、最弱リンクモデルに合致するためである。そこで本寿命推定方法では、ワイブル分布関数に基づき寿命のばらつきを推定する。ただし、寿命がばらつく原因としては、はんだ材料自身の寿命ばらつき以外に、反りや位置ずれなどの実装工程に起因したばらつきが考えられ、一般的に前者よりも後者の影響の方が圧倒的に大きい。そのため本寿命推定方法では、ワイブル係数に依存しない平均の寿命サイクル数を推定し、ばらつきの尺度であるワイブル係数を一義的に決めることはせず、対象とする製品の平均的なワイブル係数を用いてばらつきを評価するものとする。
【0044】
【実施例】
<亀裂進展特性評価>
Sn−37Pbはんだ接合部の寿命推定を行うため、Sn−37Pbはんだ材料の亀裂進展特性の評価を行った。150mm×38mm×4mmのSn−37Pbはんだ製の板に長さ5mm、幅0.5mmの貫通亀裂を設けた中央亀裂平板試験片を作製した。鏡面研磨した試験片を油圧サーボ式材料試験機にセットし、試験片表面に2液性エポキシ樹脂で凸部を設けてクリップゲージを挟み込み、亀裂開口変位を測定できるようにした。亀裂長さはCCDカメラにて所定のサイクル数毎に測定した。周波数1kHzにて±2kNの正弦波荷重を負荷し、長さ0.5mmの予亀裂を導入した。亀裂進展試験の試験温度は−40℃、室温、125℃の3温度、試験周波数は0.01Hz、0.1Hz、1Hzの3周波数である。
【0045】
試験荷重は±1〜3kNの範囲で、荷重制御で行った。なお、荷重波形は正弦波、応力比は全て−1とした。周波数0.1Hz及び1Hzの試験では特定のサイクル数毎に周波数1Hzのサイクルを1サイクルだけ導入した。
【0046】
試験中の荷重−亀裂開口変位のヒステリシスループからDowlingの方法により繰り返しJ積分範囲を求め、亀裂進展速度との関係を求めた。その結果を図5に示した。
【0047】
また、平の方法によりクリープJ積分範囲を求め、亀裂進展速度との関係を求めた結果を図6に示した。これらの結果より、Sn−37Pbはんだの亀裂進展特性を繰り返しJ積分範囲に定式化すると試験周波数と温度に依存する形となるが、クリープJ積分範囲にて定式化すると、試験周波数と温度に依存しない形で定式化できることがわかる。したがって、Sn−37Pbはんだの亀裂進展特性はクリープJ積分範囲ΔJc(N/m)により、
【0048】
【数10】
【0049】
で表される。
<半導体パッケージの寿命推定>
BGA型半導体パッケージの信頼性試験における寿命サイクル数を推定した。対象としたパッケージは35mm×35mm×0.8mmのガラスセラミックス製パッケージであり、厚さ1.6mmのFR−4製プリント基板にSn−37Pbはんだで実装した。
【0050】
このパッケージの有限要素モデルを3次元ソリッド要素にて作成し、温度サイクル試験条件と同じ−40℃〜125℃、保持時間30分の温度履歴を与えて解析し、はんだ接合部に生じるクリープひずみを求めた。
Sn−37Pbはんだの亀裂発生寿命の推定式は、
【0051】
【数11】
【0052】
で表されるので、この式に、求めたクリープひずみを代入して亀裂発生寿命を算出した。
【0053】
亀裂進展寿命の推定では、亀裂長さを0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.6mmと変えたモデルを作成し、各モデルにおいてクリープJ積分範囲を求め、クリープJ積分範囲と亀裂長さとの関係を求めた。さらに1式に代入し、限界亀裂長さ0.7mmとして亀裂長さaについて積分し、平均の亀裂進展寿命を求めた。さらに、ワイブル係数が8であると仮定し、破壊確率0.1〜99.9%の寿命推定を行った。以上推定結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
実際にこの半導体パッケージに−40℃〜125℃の温度サイクル試験を最高2000サイクルまで行い、初期抵抗が10%以上変化するサイクル数を調べたところ、本発明にて推定した破壊確率0.1〜99.9%の寿命の範囲にすべて含まれており(表1の亀裂発生寿命+亀裂進展寿命(cycle)の欄)、本発明のはんだ接合部の寿命推定方法により、信頼性試験における寿命サイクル数を亀裂長さを含んで正確に推定できることが確認できた。一方、Coffin−Manson則を用いた亀裂発生寿命の評価では、いずれも実測の寿命から大きく異なった値であった(表1の亀裂発生寿命(cycle)の欄)。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、断線寿命を亀裂発生寿命と亀裂進展寿命の和として求めることにより、従来のCoffin−Manson則のみによる寿命推定では考慮できなかった亀裂長さの効果を考慮することが可能となり、寿命精度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のはんだ接合部の寿命推定方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】亀裂進展試験で得られる荷重−亀裂開口変位ヒステリシスループである。
【図3】サイクル数に伴う亀裂長さの変化の一例である。
【図4】ヒステリシスレープを用いた時間依存成分と非時間依存成分の分離方法の模式図である。
【図5】Sn−37Pbはんだの繰り返しJ積分範囲と亀裂進展速度の関係を示す図である。
【図6】Sn−37PbはんだのクリープJ積分範囲と亀裂進展速度の関係を示す図である。
Claims (4)
- シミュレーションモデルを用いたはんだ接合部の寿命推定方法であって、
(a)亀裂のないシミュレーションモデルを作成し、冷熱サイクルが生じた際に、はんだ接合部に生じる非弾性ひずみ範囲を求め、該非弾性ひずみ範囲から亀裂発生寿命を求める工程と、
(b)はんだ材料の亀裂進展試験から求めた亀裂進展速度と破壊力学パラメータの関係と、シミュレーションにより求めた破壊力学パラメータと亀裂長さとの関係に基づき、亀裂進展速度を亀裂長さの関数として表し、亀裂が特定の長さまで進展するまでの亀裂進展寿命を求める工程と、
(c)(a)の亀裂発生寿命と(b)の亀裂進展寿命を加算し、断線寿命を求める工程と、を具備することを特徴とするはんだ接合部の寿命推定方法。 - 請求項1に記載の(a)工程の非弾性ひずみ範囲が、相当クリープひずみ範囲であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ接合部の寿命推定方法。
- 請求項1に記載の(b)工程の破壊力学パラメータが、クリープJ積分範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のはんだ接合部の寿命推定方法。
- はらつきが、対象とする製品の平均的なワイブル係数に基づき判定されることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか記載のはんだ接合部の寿命推定方法。
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