JP2004084516A - 境界層剥離制御装置と燃料噴射器および制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】剥離制御および剥離域および逆流域の上流拡大抑制を行おうとする境界層内(壁面)に、主流に対して下流方向へ角度Θ1傾いた面Aと、面Aを有する段差の前後の壁B、Cが主流となす角度をそれぞれΘ2、Θ3として傾斜させる。それら角度Θ1、Θ2、Θ3の関係を、0° <Θ1< 90°、−90° <Θ2とし制御する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、境界層剥離制御装置と燃料噴射器および制御方法に関するものであり、特に流路主流が超音速となるスクラムジェットエンジンにおける燃料混合と燃焼の制御および作動特性制御に係わる技術である。具体的には、エンジン内壁面に後部(下流)に向く鋭角の突起物体を設けることで、この突起物体により人為的に境界層剥離点近傍の流れ場を模擬し、燃焼時に後部(下流)から遡上する境界層剥離域内の再循環流を後方に向けることで境界層剥離域の遡上を抑制すると共に突起物体背面圧力上昇による推力向上をもたらすものであり、さらに突起物体に渦生成装置や燃料噴射器を設けることにより突起物体背後の剥離剪断層における混合燃焼促進と剥離域の規模の制御を行うことによる安定かつ高効率の燃焼器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
飛行マッハ数4−12程度の極超音速域での推進エンジンであるスクラムジェット(Scramjet)エンジンの推力性能および制御性の向上には、燃焼器の超音速気流中における燃料空気の混合促進と安定した着火、保炎性能の向上とともに、エンジン内壁境界層の剥離域の制御が不可欠であり、そのための研究が続けられている。
具体的に、従来の燃焼器の問題点1−4を以下に詳述する。
問題点1
スクラムジェットエンジン等のエンジン内境界層の耐剥離性能(剥離限界圧力)や剥離域の規模と位置を制御することは、エンジンの作動状態を効率よく制御するために必須である。また同様に、機体壁面上の超音速境界層の剥離制御を適切に行うことは極めて重要である。しかし従来、そのような機体壁面およびエンジン内境界層の耐剥離性能(剥離限界圧力)や剥離域の規模・位置の適切な制御は困難であった。
問題点2
一般にスクラムジェット燃焼器の一部に壁面設置型燃料噴射器を用いた場合、燃料は境界層内およびその近傍において燃焼しやすく、この燃焼による圧力上昇は境界層内およびその近傍から生じる。このことと、上記問題点1に述べた適切な境界層制御の欠如から、境界層は容易に大規模剥離を起こす。その結果,以下の多くの重大な問題があった。1)境界層剥離に伴う強い衝撃波により大きな総圧損失を起こす。2)境界層剥離泡に壁面設置型燃料噴射器が埋没することにより燃料噴射器本来(設計意図どおり)の空力性能を引き出せない。例えば、渦生成装置タイプの燃料噴射器であれば、境界層付着時に対して設計されたように効率よく渦を作れない。3)主燃焼は剥離泡内およびその近傍における亜音速燃焼となり超音速燃焼を得にくい。4)超音速燃焼モードと亜音速燃焼モード作動の選択制御が困難。5)燃料流量の増加により境界層剥離域の更なる増大を招きインレット不始動に陥りやすい。
問題点3
スクラムジェットエンジンでは、マッハ数4から12以上の広いマッハ数範囲での作動が望まれるが、高マッハ数域では、燃料を極力主流方向へ噴射(平行噴射あるいは斜め噴射)して、噴射燃料の運動量を推力として利用すると共に、燃料噴射に伴う衝撃波による損失を極力抑制する必要がある。しかし、一般に平行噴射(斜め噴射を含む)を用いた場合、混合・着火・保炎性能が極めて低いこと(特に低マッハ数においては着火・保炎性能が低い)が問題であった。平行噴射の混合・着火・保炎性能の向上策として、縦渦の利用が提案されており、これまでにそのような縦渦を導入する壁面設置型スウェプトランプやAWストラットなどが提案され、混合燃焼性能の格段の改善を見ている。しかし、壁面設置型スウェプトランプの場合でも他の壁面設置タイプの燃料噴射器と同様に大規模境界層剥離を起こし上記の問題点1が生じる。したがって、燃料平行噴射・斜角噴射形態での壁面噴射器においても良好な混合燃焼の実現とともに、上記問題点2 の境界層剥離制御能力の向上の実現を両立する技術の開発が必要である。
問題点4
従来、燃料平行噴射あるいは斜め噴射を行う壁面噴射器を利用する場合、特に低い飛行マッハ数時における低い気流総温時には、噴射器の直下流における保炎が困難であった。このため、燃料平行噴射あるいは斜め噴射形態での燃料噴射器の保炎性能向上の技術開発が必要であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点の解決を図ったもので、エンジン内壁に後部にむく鋭角の突起物体を設け、後部からの再循環流を後方に向け、主流境界層との干渉を低減し剥離域の拡大を抑止し、突起物体背面の圧力上昇による推力向上をもたらすようにしたもので、さらに突起物体に燃料噴射器を設けることにより燃料の主流への噴射を行なうことの出来る安定な燃焼の推力の高いエンジンを提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このため、本発明が採用した課題解決手段として、壁面に突起物体を設置し、その突起物体が、主流に対して下流方向へ角度Θ1(ただし0° <Θ1< 90°)だけ傾いた面Aを有することを特徴とし、この突起物体により、境界層の剥離制御を行うようにしたことを特徴とする境界層剥離制御装置としたことである。
また、剥離制御および剥離域および逆流域の上流拡大抑制を行おうとする境界層内(壁面)において、主流に対して下流方向へ角度Θ1傾いた面Aと、前記面Aを有する段差の前後の壁B、Cが主流となす角度をそれぞれΘ2、Θ3とし、それら角度Θ1、Θ2、Θ3の関係を、0° <Θ1< 90°、−90° <Θ2< Θ1°および −Θ1 <Θ3< 90°とした境界層剥離制御装置としたことである。
また、面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)を楔状あるいはなめらかな凹形状にすることで、上流側の境界層に対し、擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作りだす境界層剥離制御装置としたことである。
また、前記突起物体に渦生成装置を設置した境界層剥離制御装置としたことである。また、前記面Aと壁Bの作る楔部分において、渦生成装置を設置することによる渦導入とともに、面Aに燃料噴射口の設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入するようにした境界層剥離制御装置および混合燃焼制御装置としたことである。
また、燃料平行噴射・斜め噴射形態の壁面噴射器により、飛行マッハ数4相当の低総温時においても壁面噴射器直下流からの保炎性能を向上するするようにした境界層剥離制御装置としたことである。
また、面Aと壁Cの交差する部分にフィレットを設けることにより、逆流域の方向転換をなめらかにするようにした境界層制御装置としたことである。
また、面Aが主流方向となす角度Θ1、段差の高さh、壁Bが主流となす角度Θ2、壁Cが主流となす角度Θ3を制御することにより、境界層剥離域の上流伝播抑制効果と面A下流での剥離域の大きさおよび面Aが生み出す推力の制御を行う境界層剥離制御および推力制御方法としたことである。
また、面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)を楔状あるいはなめらかな凹形状にすることで、上流側の境界層に対し、擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作り出し、これにより、その疑似剥離角である角度Θ2を制御できるとともに、下流からの逆流が上流境界層を減速する効果を抑制して上流への剥離域拡大を抑制し、また,上流からの境界層を面Aおよび壁Bが構成する楔の後縁付近で強制的に剥離させ、このように上流への剥離域拡大を抑制しつつ、スムーズな剥離泡の生成制御と剥離泡の大きさ位置の制御を行う制御方法としたことである。
また、角度Θ1、角度Θ2(楔角度)、段差の高さh、角度Θ3を制御することにより、剥離域の上流拡大抑制制御とおよび剥離泡の位置と大きさの制御を行う制御方法としたことである。
また、面Aと壁Bの作る楔部分において渦生成装置を設置して渦生成を行うことにより、その楔部分から放出されるの剥離剪断層内に渦導入を行い、剥離剪断層における混合を制御することにより、剥離泡の大きさや再付着位置の制御を行う制御方法としたことである。
また、面Aと壁Bの作る楔部分において、渦生成装置設置による渦導入とともに、燃料噴射口設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入し、これにより剥離域の逆流域への燃料注入を極力抑制して再循環域(逆流域)での燃焼を極力抑制しつつ、剥離剪断層内での混合燃焼制御を行い、これにより、剥離域の上流への拡大を防ぎつつ、超音速流中での燃焼を促進し、また、剥離泡の大きさや再付着位置の制御を行う制御方法としたことである。
また、飛行条件および必要なエンジン作動状態に応じて境界層制御および燃料の混合燃焼制御を適切に行い、境界層剥離域の規模を抑制しつつ、燃焼器最大圧を高め、この剥離抑制により、壁面噴射器を大規模剥離域に埋没させずに壁面噴射器の本来の性能(設計性能)を極力引き出すとともに、超音速燃焼の促進により超音速燃焼モ−ドでの作動を可能にする、あるいは、剥離域の上流拡大を抑制しつつ、剥離泡の大きさの制御と混合燃焼制御により、超音速燃焼モ−ドおよび亜音速燃焼モ−ドを選択制御し、また、楔部からの渦導入により平行(斜め)噴射形態においても混合燃焼性能を高める制御方法としたことである。
【0005】
【発明の実施形態】
前記した従来の問題点1の解決手段を、本発明である図1(a)(b)に基づいて説明する。
図1(a)は壁面に段差を設けた場合の実施例で、図1(b)は壁面に段差と、壁BとCに、ある角度を設けて傾斜させた場合の実施例である。
図1(a)(b)に示すように、剥離制御および剥離域および逆流域の上流拡大抑制を行おうとする境界層内(壁面)において、主流(Main Flow)に対して下流方向へ角度Θ1(0°< Θ1< 90°)傾いた面Aを有する段差を設ける。
また、図1(b)に示す実施例のように、この面Aを有する段差の前後の壁B、Cは、主流となす角度Θ2およびΘ3でもって傾斜させ、それらの角度の関係は、それぞれ−90° <Θ2< Θ1および −Θ1 <Θ3< 90°である。
このような構成のもとで、下流からの逆流(Reverse Flow)(壁Cに沿う逆流)を主流方向へ傾いた面Aにより受け止めるとともに強制的に主流方向へ偏向させる(下流方向の運動量を持たせる)。その結果、逆流してきた流れと上流からの流れ(壁Bに沿う流れ)が干渉する際に、下流からの逆流が上流からの流れを減速する効果を弱くする。
言い換えれば、図1(a)(b)に示すような装置により、面Aにより下流からの逆流によって上流からの境界層が剥離する際の剥離点近傍の流れ場を強制的に作り出すことにより、面Aが下流からの逆流の運動量を受け止めることで,上流境界層と逆流の衝突を回避して逆圧力勾配を軽減し、上流への境界層剥離の拡大を抑制する。さらに、従来同様なものに後ろ向きステップ(Θ1=90°のもの)があったが、本発明のように面Aを主流向きに偏向することにより、次の2点が改善される。すなわち、逆流に対して主流向きの運動量を与える点で、1)逆流の上流境界層への影響(逆流が上流境界層を剥がそうとする効果)を更に小さくできる。2)面Aがより大きな圧力を受けることでより大きな推力を生む。
【0006】
このような装置において、面Aが主流方向となす角度Θ1、段差の高さh、壁Bが主流となす角度Θ2、壁Cが主流となす角度Θ3の制御により、境界層剥離域の上流伝播抑制効果と面A下流での剥離域の大きさおよび面Aが生み出す推力を制御することができる。
図1(c)(d)は、図1(a)(b)における面Aと壁Cの交差する部分にフィレットを設けた実施例を示したもので、このフィレットを設けたことにより、逆流域の方向転換をなめらかにするものである。
次に、図2に、面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)に楔状あるいはなめらかな凹形状を設けた実施例を説明する。このように面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)に楔状あるいはなめらかな凹形状を設けることにより、上流側の境界層に対し、擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作り出す。
これにより、その疑似剥離角である角度Θ2を制御できるとともに、下流からの逆流が上流境界層を減速する効果を抑制して上流への剥離域拡大を抑制する。また、上流からの境界層を面Aおよび壁Bが構成する楔の後縁付近で強制的に剥離させる。このように上流への剥離域拡大を抑制しつつ、スムーズな剥離泡の生成制御と剥離泡の大きさ位置の制御をおこなうことができる。
また、図2の実施例の場合において、面Aの角度面Θ1、壁Bの楔角度Θ2、面Aの段差の高さh、壁Cの主流となす角度Θ3を制御することにより、剥離域の上流拡大抑制制御および剥離泡の位置と大きさの制御を行うことができる。
図3は、図2の構成のものに、更に、渦生成装置(Vortex Generator)を設けたものである。
この渦生成装置は、面Aと壁Bの作る楔部分に設置したもので、この渦生成装置で渦生成を行うことにより、その楔部分から放出されるの剥離剪断層内に渦導入を行い、剥離剪断層における混合を制御することにより、剥離泡の大きさや再付着位置を制御することができる。
【0007】
図4は、図3の構成の渦生成装置(Vortex Generator)に、更に、この渦生成装置の先端に燃料噴射口(Feuel Injection)を設けたものである。
図4の構成から、面Aと壁Bの作る楔部分において、渦生成装置設置による渦導入とともに、燃料噴射口設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入する。これにより剥離域の逆流域への燃料注入を極力抑制して再循環域(逆流域)での燃焼を極力抑制しつつ、剥離剪断層内での混合燃焼制御を行う。これにより、剥離域の上流への拡大を防ぎつつ、超音速流中での燃焼を促進する。また、剥離泡の大きさや再付着位置を制御する。
また、これらの装置によって、飛行条件および必要なエンジン作動状態に応じて境界層制御および燃料の混合燃焼制御を適切に行い、境界層剥離域の規模を抑制しつつ、燃焼器最大圧を高める。この剥離抑制により,壁面噴射器を大規模剥離域に埋没させずに本来の性能を引き出すとともに、超音速燃焼モードでの作動を可能にする。あるいは、剥離域の上流拡大を抑制しつつ、剥離泡の大きさの制御と混合燃焼制御により、超音速燃焼モードおよび亜音速燃焼モードを選択制御する。また、楔部からの渦導入により、平行(斜め)噴射形態においても混合燃焼性能を高める。(問題点2、問題点3の解決)
更に、前記装置における、燃料平行噴射・斜め噴射形態の壁面噴射器により,飛行マッハ数4相当の低総温時においても壁面噴射器直下流からの保炎性能を向上する.(問題点4の解決)
前記した上記いずれの実施例の装置の面Aと壁Cの交差する部分に、フィレットを設けることにより逆流域の方向転換をなめらかにする。
上記を実現する一つの具体例として下記に示す2つの装置(「装置1」「装置2)を用いて燃焼実験を行った。
【0008】
「装置1」
装置1を図5(a)、その拡大図を図5(b)にそれぞれ示す。
ここで、渦導入装置としては、交互ランプ(Alternating−Wedge)タイプの縦渦導入装置を用いており、その各交互ランプ境界から主流に対して斜め方向に燃料噴射を行い、縦渦と燃料を剥離剪断層内へ導入している。
これにより、壁Aによる剥離泡の上流拡大抑制効果と、燃料が逆流域へ直接導入されて剥離泡内で燃焼するのを極力抑制することにより剥離泡の拡大抑制効果を得つつ、主流に近い剥離剪断層内での燃料の混合制御および燃焼制御を行う。
主流が超音速の場合には,これにより超音速燃焼が促進される。剥離域拡大抑制制御および混合燃焼制御は、Θ1、Θ2、Θ3、hの制御および燃料流量と導入する渦特性の制御により行う。
尚、図5(a)、を図5(b)に示した流れ場のパターンの模式図は,装置下流における燃焼域での燃焼量が極めて大きく、したがって本装置により剥離剪断層内へ導入された縦渦による剥離域内への主流運動量の導入によっても、剥離剪断層が装置の極下流近傍では再付着しない場合のものである。
縦渦の運動量導入効果と装置下流での燃焼量(圧力増分)との兼ね合いで、図5の装置下流の剥離域の大きさ、パターンは変化する。例えば,導入する縦渦の循環を大きく(強く)するほど、また装置下流での燃焼量が減少するほど、装置下流の剥離域は小さくなる。
逆に、導入する縦渦の循環を小さく(弱く)するほど、また装置下流での燃焼量が増加するほど、装置下流の剥離域は大きくなる。
【0009】
「装置2」
装置2を図6(a)に、その拡大図を図6(b)にそれぞれ示す。
本装置は、上記において下流方向に傾いた面Aと上流方向に傾いた面Eをスパン方向に(紙面に垂直に)交互に並べた構造である(本例では各面のスパン方向幅はhに等しい)。この装置において、面Aにより下流からの逆流を下流向きに反転させて剥離域の拡大を抑えること、面Aでの推力(壁圧)を高めることは上記と同様である。
さらに、面Aと面Eが交互に並んだ構造(交互ランプ,Alternating−Ramp)により、縦渦を生成し、この縦渦を境界層内(含む剥離域内)へ導入して混合促進制御することにより主流の運動量を境界層内に運び込み、剥離抑制制御を行う。
また、さらに、面Aおよび面Eおよびその周辺部分から燃料を噴射することにより、縦渦による燃料と主流の混合促進制御および着火・保炎・燃焼制御をおこなう。
本装置の場合は、面Aと壁Eがなす楔部の後縁から主流に対して斜め方向に燃料噴射している。このように,楔部後縁付近から剥離剪断層内へ直接燃料注入を行うことにより、剥離域への燃料導入を極力抑制しつつ、主流との混合燃焼を促進する。主流が超音速の場合には、超音速燃焼が促進される。
尚、図6(a)、図6(b)に示した流れ場のパターンの模式図は、装置下流における燃焼域での燃焼量が極めて大きく、したがって本装置により剥離剪断層内へ導入された縦渦による剥離域内への主流運動量の導入によっても、剥離剪断層が装置の極下流近傍で再付着しない場合のものである。縦渦の運動量導入効果と装置下流での燃焼量(圧力増分)との兼ね合いで、図6の装置下流の剥離域の大きさ、パターンは変化する。例えば、導入する縦渦の循環を大きく(強く)するほど、また装置下流での燃焼量が減少するほど、装置下流の剥離域は小さくなる。逆に,導入する縦渦の循環を小さく(弱く)するほど、また装置下流での燃焼量が増加するほど、装置下流の剥離域は大きくなる。
【0010】
「実験結果」
上記装置を用いて、主流マッハ数2.5、気流総温2200Kにおける燃焼実験例を示す。本実施例の燃焼器形態を図7(a)、(b)に示す。
図7(a)では、装置1(Injector−1)あるいは装置2(Injector−2)を、燃焼器流路内の向かい合う上下の壁面に向かい合わせて設置し、これにより上下の燃焼器壁面上の境界層に対して剥離制御をおこない、装置により形成される剥離域の剥離剪断層内への縦渦導入と燃料噴射を行った。燃料は常温ガス水素である。
図7(b)では、燃料噴射装置として、一般的な垂直噴射器(N1)を、図7(a)と同様に燃焼器上下壁面に設置した。
図8は本燃焼実験において得られた燃焼器壁圧分布である。
図8中、Injector−1、Injector−2はそれぞれ装置1、装置2に対応する。
また、N1は壁面から主流に垂直な方向へ燃料噴射するタイプの一般的な垂直燃料噴射器である。それぞれの装置で、当量比0.3および0.5を比較している。
また、燃料噴射を行わない(燃料噴射器を設置しない)場合の壁圧分布も同時に示している。ただし、壁圧は流入気流総圧により無次元化されている。
まず装置1であるが、壁圧分布を見ると、当量比の増加に伴い、燃焼量変化(発熱による圧力上昇変化)により、装置下流の剥離域の規模が変化している。
本装置1により、その下流に強制的に境界層剥離域を形成し、その剥離剪断層への縦渦導入による燃料混合燃焼の促進効果により、燃料の斜め方向噴射にもかかわらず、当量比0.3、0.5いずれの場合も垂直噴射(N1)の場合より大きな壁圧上昇(つまりより優れた混合燃焼性能)を示している。
また、垂直噴射に比べてより高い壁圧上昇にも関わらず、壁圧上昇域(境界層の大規模剥離域)をより下流にとどめている。このように,装置−1による剥離域制御と混合燃焼促進制御の効果が示されている。
装置2の場合、燃料の斜め噴射を採用しているにもかかわらず、垂直噴射と比べてほぼ同等の壁圧上昇(混合燃焼性能)を得ており、かつ壁圧上昇位置はより下流に位置している。このように、装置−2による剥離域制御と混合燃焼促進制御の効果が示されている。
また、装置2の各当量比における燃焼による壁圧上昇は装置−1に比べると小さい。これは、装置2では,装置1に比べ、その形状により強制的に作り出される剥離域の規模が小さいことと、また導入される縦渦の循環がより大きいことにより、装置下流での剥離域規模の成長は装置−1に比べて抑制されており、その結果燃焼量もより小さくなっているからである。
このように、本提案の手法の装置形状の制御により、境界層剥離域および混合促進の制御が可能であり、その結果、これによる燃焼量が極めて大きく影響されること、つまり燃焼量の制御が極めて効率よく実施できることを示している。
【0011】
【発明の効果】
本発明は、主流に対して下流方向へある角度をもって傾いた面Aを有する段差hを設けたので、下流からの逆流によって上流からの境界層が剥離する際の剥離点近傍の流れ場を強制的に作りだし、面Aが下流からの逆流の運動量を受け止めることで、上流境界層と逆流の衝突を回避して逆圧力勾配を軽減し上流への境界層剥離の拡大を抑制するという効果を奏する。
また、上記のように面Aを主流向きに偏向することにより,次の2点が改善される。すなわち,逆流に対して主流向きの運動量を与える点で1)逆流の上流境界層への影響(逆流が上流境界層を剥がそうとする効果)を更に小さくできる。2)Aがより大きな圧力を受けることでより大きな推力を生む。)
また、面Aが主流方向となす角度Θ1、段差の高さh、壁Bが主流となす角度Θ2、壁Cが主流となす角度Θ3の制御により,境界層剥離域の上流伝播抑制効果と面A下流での剥離域の大きさおよび面Aが生み出す推力を制御することができる。また、面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)を楔状あるいはなめらかな凹形状にすることで,上流側の境界層に対し,擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作り出し、それによって、その疑似剥離角を制御できるとともに,下流からの逆流が上流境界層を減速する効果を抑制して上流への剥離域拡大を抑制するという効果を奏する。また、面Aと壁Bの作る楔部分において,渦生成装置設置による渦導入とともに,燃料噴射口設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入し、これにより剥離域の逆流域への燃料注入を極力抑制して再循環域(逆流域)での燃焼を極力抑制しつつ,剥離剪断層内での混合燃焼制御を行い、これにより,剥離域の上流への拡大を防ぎつつ,超音速流中での燃焼を促進するという効果を生ずる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は面Aを有する段差を設けた壁面の断面図で、(b)は壁面の壁BとCとに角度を設けた断面図で、(c)は面Aと面Cとの交叉部をゆるやかなカ−ブで連らねた壁面の断面図で、(d)は面Aと壁Cとの交叉部を壁Cからの垂直な立ち上がり部から面Aに連らねた断面図である。
【図2】壁Bと壁Dの接合部を楔状あるいはなめらかな凹形状とした壁面の断面図である。
【図3】面Aと壁Bの作る楔部分に渦生成装置を設置した壁面の断面図である。
【図4】面Aと壁Bの作る楔部分に渦生成装置と燃料噴射口を設置した壁面の断面図である。
【図5】(a)は本発明の燃焼実験を行った装置1の断面図で、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】(a)は本発明の燃焼実験を行った装置2の断面図で、(b)は(a)の拡大図である。
【図7】(a)は本発明の縦渦導入型壁面設置燃料噴射器の燃焼器形態図で、(b)は垂直燃料噴射器の燃焼器形態図である。
【図8】燃焼試験における各燃料噴射装置の壁圧分布の比較図である。
【符号の説明】
A 面
B 壁
C 壁
D 壁
E 壁
Claims (13)
- 壁面に突起物体を設置し、その突起物体が主流に対して下流方向へ角度Θ1(ただし0° <Θ1< 90°)だけ傾いた面Aを有することを特徴とし、この突起物体により、境界層の剥離制御を行うようにしたことを特徴とする境界層剥離制御装置。
- 剥離制御および剥離域および逆流域の上流拡大抑制を行おうとする境界層内(壁面)において、主流に対して下流方向へ角度Θ1傾いた面Aと、前記面Aを有する段差の前後の壁B、Cが主流となす角度をそれぞれΘ2、Θ3とし、それら角度Θ1、Θ2、Θ3の関係を、0° <Θ1< 90°、−90° <Θ2< Θ1°および −Θ1 <Θ3< 90°としたことを特徴とする請求項1記載の境界層剥離制御装置。
- 面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)を楔状あるいはなめらかな凹形状にすることで、上流側の境界層に対し、擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作りだすことを特徴とする請求項1〜2のうちの1記載の境界層剥離制御装置。
- 前記突起物体に渦生成装置を設置したことを特徴とする請求項1〜3のうちの1記載の境界層剥離制御装置。
- 前記面Aと壁Bの作る楔部分において、渦生成装置を設置することによる渦導入とともに、面Aに燃料噴射口の設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入するようにしたことを特徴とする請求項1〜4のうちの1記載の境界層剥離制御装置および混合燃焼制御装置。
- 燃料平行噴射・斜め噴射形態の壁面噴射器により、飛行マッハ数4相当の低総温時においても壁面噴射器直下流からの保炎性能を向上するするようにしたことを特徴とする請求項5記載の境界層剥離制御装置。
- 面Aと壁Cの交差する部分にフィレットを設けることにより、逆流域の方向転換をなめらかにするようにしたことを特徴とする請求項2〜6のうちの1記載の境界層剥離制御装置。
- 面Aが主流方向となす角度Θ1、段差の高さh、壁Bが主流となす角度Θ2、壁Cが主流となす角度Θ3を制御することににより、境界層剥離域の上流伝播抑制効果と面A下流での剥離域の大きさおよび面Aが生み出す推力の制御を請求項2記載の装置を用いて行うことを特徴とする境界層制御および推力制御方法。
- 面Aの上流側の壁面(壁Bおよび壁Dの接合部)を楔状あるいはなめらかな凹形状にすることで、上流側の境界層に対し、擬似的に境界層剥離点近傍の流れ場を作り出し、これにより、その疑似剥離角である角度Θ2を制御できるとともに、下流からの逆流が上流境界層を減速する効果を抑制して上流への剥離域拡大を抑制し、また、上流からの境界層を面Aおよび壁Bが構成する楔の後縁付近で強制的に剥離させ、このように上流への剥離域拡大を抑制しつつ,スムーズな剥離泡の生成制御と剥離泡の大きさ位置の制御を請求項3記載の装置を用いて行うことを特徴とする制御方法。
- 角度Θ1、角度Θ2(楔角度)、段差の高さh、角度Θ3を制御することにより、剥離域の上流拡大抑制制御とおよび剥離泡の位置と大きさの制御を請求項3記載の装置を用いて行うことを特徴とする制御方法。
- 面Aと壁Bの作る楔部分において渦生成装置を設置して渦生成を行うことにより、その楔部分から放出されるの剥離剪断層内に渦導入を行い、剥離剪断層における混合を制御することにより、剥離泡の大きさや再付着位置の制御を請求項4記載の装置を用いて行うことを特徴とする制御方法。
- 面Aと壁Bの作る楔部分において、渦生成装置設置による渦導入とともに、燃料噴射口設置による燃料噴射をも行うことにより、渦と燃料を剥離剪断層内に直接導入し、これにより剥離域の逆流域への燃料注入を極力抑制して再循環域(逆流域)での燃焼を極力抑制しつつ、剥離剪断層内での混合燃焼制御を行い、これにより、剥離域の上流への拡大を防ぎつつ、超音速流中での燃焼を促進し、また、剥離泡の大きさや再付着位置を制御を請求項4〜6のうちの1記載の装置を用いて行うことを特徴とする制御方法。
- 飛行条件および必要なエンジン作動状態に応じて境界層制御および燃料の混合燃焼制御を適切に行い、境界層剥離域の規模を抑制しつつ、燃焼器最大圧を高め、この剥離抑制により、壁面噴射器を大規模剥離域に埋没させずに壁面噴射器の本来の性能(設計性能)を極力引き出すとともに、超音速燃焼の促進により超音速燃焼モ−ドでの作動を可能にする、あるいは、剥離域の上流拡大を抑制しつつ、剥離泡の大きさの制御と混合燃焼制御により、超音速燃焼モ−ドおよび亜音速燃焼モ−ドを選択制御し、また、楔部からの渦導入により平行(斜め)噴射形態においても混合燃焼性能を高める請求項4〜6のうちの1記載の装置を用いて行うことを特徴とする制御方法。
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