JP2004074145A - 放熱性に優れた電子機器部材用塗装体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
図1に示す放熱性評価装置を用い、
供試材として前記塗装体を使用したときのT1位置の温度T1Aと、
供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときのT1位置の温度T1Bとの差ΔT1(=T1B−T1A)が1.5℃以上である電子機器部材用塗装体である。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子・電気・光学機器(以下、電子機器で代表させる場合がある)等の筺体として有用な、放熱性に優れた電子機器部材用塗装体;放熱性及び自己冷却性に優れた電子機器部材用塗装体;これらの特性に優れた電子機器部品;及び被験体の放熱性を評価する為の放熱性評価装置に関するものである。本発明の塗装体は、カーボンブラック等の黒色添加剤を塗膜厚との関係で適切に含有している為、放熱特性に極めて優れており、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録分野;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連分野等に好適であり、更にプロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等、種々の電子機器部材用筺体として用いることができる。更に本発明の塗装体は、有害な6価クロムを一切含まないクロムフリー塗装体としても使用することができ、しかもクロメート処理鋼板に匹敵する耐食性及び塗膜密着性を有し、更には良好な加工性も兼ね備えたクロムフリー塗装体を提供できる点で、極めて有用である。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子・電気・光学機器等の高性能化・小型化に伴い、電子機器等のシャーシ内部における発熱量が増大(高温化)し、高熱化する等の問題が生じている(電子機器内部の高熱化)。電子機器の内部温度は通常雰囲気温度で約40〜70℃、最高で100℃程度の高温になることがあるが、そうすると、IC、CPU(半導体素子)、ディスク、モーター等の耐熱温度を超える為、安定操業に支障をもたらすことが指摘されている。更に温度が上昇すると半導体素子が壊れて故障する等し、電子機器部品の寿命が低下するといった問題を抱えている。
【0003】
そこで、電子機器の内部温度を低減化(放熱化)させる為の放熱手段として、電子機器の筺体(筺体本体、フレーム、シールドケース、液晶等のバックパネル等)に、ヒートシンクやヒートパイプ等の放熱部品を取り付ける方法が提案されている。しかしながら、この方法では、電子機器内部の熱源(発熱体)から放出される熱を、せいぜい、筺体内全体へ拡散させる程度の効果しか得られず、特に筺体の容積が小さい場合、所望の放熱効果が得られない。更に、当該放熱部品の取り付けに手間がかかり、設置場所を別途確保しなければならない、コストが高くつくといった不利不便がある等、小型化・低廉化が進む電子機器用途に適用するには不適切である。
【0004】
また、電子機器の筺体に金属板(塗装体)を用い、この金属板に穴をあけてファンを取り付け、対流を利用して放熱させる方法も提案されている。しかしながら、一般に電子機器は水や埃に弱い為、用途によっては適用が困難である他、前述したヒートシンク等の場合と同様、部品のコスト増、取り付けの手間及び取り付け場所の確保等の点で問題がある。
【0005】
従って、電子機器に要求される本来の特性(防水・防塵等に伴う気密性確保、小型化・軽量化)を満足しつつ、当該電子機器内部温度の低減化(放熱特性)をも達成し得る新規な電子機器部材用筺体の提供が切望されている。
【0006】
一方、電子機器の筺体には、上述した放熱特性に加え、当該筺体自体の温度上昇を抑えることも要求されている。これにより、電子機器製品の稼動中に、消費者が当該筺体に触れてやけど等する危険を防止でき、安全な製品を提供できるからである。この「電子機器の筺体自体の温度上昇を抑える特性」を、前述した「放熱性」と区別する目的で、本発明では特に、「自己冷却性」と呼ぶ。これらの両特性に優れた筺体を得るに当たり、前述した放熱対策(ヒートシンクやヒートパイプ等の放熱部品を取り付ける方法や、金属板に穴をあけてファンを取り付ける方法等)を採用したのでは、やはり、同様の問題が見られる。従って、これらの両特性を備えた筺体の提供も切望されている。
【0007】
加えて、基板側に着目すると、従来は、耐食性、塗膜密着性等の観点から、基板にクロメート処理が施されているが、有害な6価クロムを多量使用することから環境汚染の問題が深刻化している。そこで、有害なクロメート処理に代わり、クロムフリーのノンクロメート処理への対応が要請されている。しかしながら、クロメート処理を施さない場合には、耐食性や塗膜密着性、更には加工性も劣ることが知られている。従って、クロメート処理を施さなくとも、耐食性、塗膜密着性、更には加工性にも優れたクロムフリーの塗装体であって、しかも前述した放熱性、更には自己冷却性にも優れた電子機器部材用筺体の提供が切望されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、電子機器の筺体として使用される塗装体であって、電子機器部材に要求される本来の特性(防水・防塵等に伴う気密性確保、小型化・軽量化)を満足しつつ、当該電子機器内部温度の低減化(放熱特性)をも達成し得る新規な塗装体;更には、当該塗装体自体の温度上昇を抑える特性(自己冷却性)にも優れた電子機器部材用塗装体;更には、耐食性及び塗膜密着性に優れており、加工性も良好なクロムフリーの電子機器部材用塗装体;この様な優れた特性を兼ね備えた塗装体で被覆された電子機器部品;クロムフリー系下地処理の施された基板に適用される塗料組成物であって、放熱性、耐食性、塗膜密着性、及び加工性に優れた塗料組成物;及び被験体の放熱性を評価する為の放熱性評価装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し得た本発明に係る放熱性に優れた塗装体(以下、第一の塗装体と呼ぶ場合がある)は、基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であって、「優れた放熱性」を表す指標として、下記(I)若しくは(II)の特性を満足するところに要旨を有するものである。
【0010】
(I)後記する図1に示す放熱性評価装置を用い、
供試材として上記塗装体を使用したときのT1位置の温度T1Aと、
供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときのT1位置の温度T1Bとの差ΔT1(=T1B−T1A)が2.6℃以上であるもの。
【0011】
(II)上記塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(1)を満足するものであり;且つ、更に推奨される態様として、a≧0.65及び/又はb≧0.65、及び/又は4.5〜15.4μmの波長域における分光放射率の最大値Aと最小値Bとの差(A−B)が0.35以下であるもの。
【0012】
a×b≧0.42 … (1)
a:表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
この様な放熱性に優れた塗装体を得る為の具体的構成は、基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
該放熱塗膜のうち少なくとも片面は黒色添加剤を含有しており、且つ、下式(2)を満足するところに要旨を有するものである。
【0013】
(X−3)×(Y−0.5)≧15 … (2)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を、
Yは塗膜厚さ(μm)を、夫々、意味する。
【0014】
ここで、X(放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量)が4≦X<15[式(3)]を満足するもの;Y(塗膜厚さ)がY>1μmを満足するもの;更に黒色添加剤の平均粒径が5〜100nmを満足するもの;黒色添加剤がカーボンブラックであるものは、より優れた放熱性を得るのに有用である。
【0015】
また、上記課題を解決し得た本発明に係る「放熱性及び自己冷却性に優れた塗装体(以下、第二の塗装体と呼ぶ場合がある)」は、基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
「優れた自己冷却性」を表す指標として、下記(III)若しくは(IV)を;
当該第二の塗装体における「良好な放熱特性」を表す指標として、下記(V)を、満足するところに要旨を有するものである。
【0016】
(III)前記した図1に示す放熱性評価装置を用い、
供試材として上記塗装体を使用したときの塗装体温度T2Aと、
供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときの基板温度T2Bとの差ΔT2(=T2B−T2A)が0.5℃以上であるもの。
【0017】
(IV)上記塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(4)を満足するもの。
【0018】
b≦0.9(a−0.05) … (4)
(V)上記塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(5)を満足するもの。
【0019】
(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08 … (5)
a:表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
この様な「放熱性及び自己冷却性」に優れた塗装体を得る為の具体的構成は、基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
該放熱塗膜は黒色添加剤を含有しており、且つ、下式(6)を満足するところに要旨を有するものである。
【0020】
(X−3)×(Y−0.5)≧3 … (6)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を、
Yは塗膜厚さ(μm)を、夫々、意味する。
【0021】
ここで、X(放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量)が4≦X<15[式(7)]を満足するもの;Y(塗膜厚さ)がY>1μmを満足するもの;更に黒色添加剤の平均粒径が5〜100nmを満足するもの;黒色添加剤がカーボンブラックであるものは、より優れた特性を得るのに有用である。
上述した本発明の塗装体(第一〜第二の塗装体)において、放熱塗膜を形成する樹脂として、非親水性樹脂(好ましくはポリエステル系樹脂)を用いれば、耐食性が向上するので好ましい態様である。
【0022】
更に本発明において、上記放熱塗膜にクリアー塗膜が被覆されたものは、耐疵付き性及び耐指紋性が高められるので有用である。
【0023】
本発明の塗装体は、クロムフリー塗装体にも適用することができる。即ち、上記基板はクロムフリーの下地処理がなされており、且つ、放熱塗膜は、更に防錆剤を含有するものは好ましい態様である。具体的には、上記放熱塗膜の形成成分は、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂、及び架橋剤(好ましくはイソシアネート系樹脂及び/又はメラミン系樹脂、より好ましくは両者を併用したもの)を含有することが推奨され、これにより、優れた耐食性[JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(72時間)における外観異常部の面積率:10%以下]、塗膜密着性(曲げ部をテーピングした後における塗膜の剥離状況)、加工性(JIS K 5400に規定されている密着曲げ試験におけるクラック数:5個以下)を確保することができる。更に、上記塗膜の上に塗膜が被覆された二層塗膜構成とすれば、防錆剤の溶出を防止し得るので一層優れた耐食性[JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(120時間)における外観異常部の面積率:10%以下]が得られるので非常に有用である。ここで、上記塗膜の上に被覆される塗膜を、クリヤー塗膜とすれば、更に耐疵付き性及び耐指紋性も高められる。
【0024】
更に本発明には、クロムフリー系下地処理の施された基板に適用される塗料組成物であって、塗膜形成成分に対し、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂を35質量%以上、防錆剤を2〜25質量%、架橋剤を1〜20質量%、及び黒色添加剤を3質量%超、含有する電子機器部材用塗料組成物も本発明の範囲内に包含される。ここで、上記架橋剤は、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、メラミン系樹脂を5〜80質量部の比率で含有することが好ましい。また、上記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmであり、カーボンブラックの使用が推奨される。この様な組成を満足する塗料組成物を使用すれば、放熱性、耐食性、塗膜密着性、及び加工性に優れたクロムフリー系塗膜を形成することができる。
【0025】
更に本発明には、閉じられた空間に発熱体を内臓する電子機器部品であって、その外壁の全部または一部が前述した本発明の電子機器部材用塗装体で構成されている電子機器部品(例えばCD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等)も本発明の範囲内に包含される。
【0026】
また、本発明には、被験板の放熱性を評価する放熱性評価装置であって、
天井面の全部または一部は前記被験体で構成され、側面及び底面は断熱材で構成された箱体の底面には発熱体が設置され、且つ、箱体内略中央部には測温装置を設けた放熱性評価装置も本発明の範囲内に包含される。ここで、上記被験板の上方に、外気条件から遮断する防護部材を設けた放熱性評価装置は、放熱性に悪影響を及ぼす恐れのある因子(外気や空調機等からの風等)を防ぐことができ、放熱特性を安定して評価できるので非常に有用である。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の電子機器部材用塗装体は、下記(イ)〜(ロ)の態様を包含するものである。
【0028】
(イ)放熱性に優れた電子機器部材用塗装体(第一の塗装体)
(ロ)放熱性及び自己冷却性に優れた電子機器部材用塗装体
(第二の塗装体)
まず、上記(イ)〜(ロ)に共通する基本思想について説明する。
【0029】
本発明者らは、電子機器に要求される本来の特性(防水・防塵等に伴う気密性確保、小型化・軽量化、低コスト等)を満足しつつ、当該電子機器内部温度の低減化(放熱特性)をも達成し得る新規な電子機器部材用塗装体を提供すべく、特に、当該塗装体自体の放熱性改善を中心に鋭意検討してきた。その結果、基板の表裏面に、所定の塗膜を被覆すれば所期の目的が達成されることを見出した。
【0030】
そのメカニズムは、「電子機器内部の熱源(発熱体)から放出される熱(輻射熱)を、裏面の塗膜で吸収(放射)し、この熱を、表面の放熱塗膜から放射させる」というものであり、所謂『熱スルー方式』の考えを、電子機器部材にうまく適用したところに最大の特徴がある。この様な『熱スルー方式』の考えを、電子機器部材に適用し、電子機器から放出される熱量を、「基板の裏面」→「基板の表面」へと吸収→放射させた塗装体は従来知られておらず、新規である。
【0031】
次に、各塗装体について説明する前に、第一の塗装体(放熱性に優れた塗装体)と、第二の塗装体(放熱性及び自己冷却性に優れた塗装体)の関係について説明する。
【0032】
第一の塗装体も第二の塗装体も、共に前述した「熱スルー」の考えを電子機器部材に適用して放熱性の向上を図る点で、基本思想は一致する。しかしながら、両者は、究極的に目指す解決課題(主な解決課題)、当該解決課題を解決する為の技術的思想、及び構成は相違する。即ち、第一の塗装体では、放熱性の向上(電子機器内部温度の低減化)を最大の解決課題として掲げており、「表面・裏面の赤外線放射率の積はできるだけ高い程好ましい」という思想のもと、表面・裏面を、放熱塗膜を構成する一体として捉えて当該放熱塗膜の構成を特定しているのに対し;第二の塗装体では、上述した「熱スルーの考え」を利用して放熱特性を或る程度維持しながら、且つ、「塗装体自体の温度上昇抑制」を最大の解決課題として掲げており、「表裏面の赤外線放射率について積極的に差を設け、裏面の赤外線放射率は表面よりも低く、表面の赤外線放射率はできるだけ高くすることにより、塗装体に吸収された熱を放出させる」という思想のもと、表面・裏面の塗膜構成を夫々、別々に捉えて制御している点で、両者は、目指す方向性が異なる発明ともいえる。
【0033】
即ち、第一の塗装体では、放熱性に極めて優れるものの、自己冷却性に劣る態様も包含している。一方、第二の塗装体は、自己冷却性に極めて優れたものであるが、放熱性に関しては、第一の塗装体に比べると若干低い態様も包含している。この様な両者の相違を一層明らかにすべく、第一の塗装体で定める領域[上式(1)を満足する放熱特性に優れた範囲]を図2に;第二の塗装体で定める領域[上式(5)を満足する放熱特性に優れた範囲と、上式(4)を満足する自己冷却性に優れた範囲との重複部分]を図3に、夫々、示す。これらの塗装体は、互いに重なり合う部分[表裏面の赤外線放射率の積が高い為に放熱特性に優れており、且つ、裏面に比べて表面の赤外線放射率が高い為に自己冷却性にも優れている]も包含しているが、当該部分は、放熱特性及び自己冷却性の双方に極めて優れた領域である。
【0034】
以下、本発明に係る各塗装体について、説明する。
【0035】
(イ)放熱性に優れた電子機器部材用塗装体(第一の塗装体)について
上記第一の塗装体は、前述した基本思想をベースとしてなされたものであり、基板の表裏面に、放熱性を有する所定の放熱塗膜を被覆すれば所期の目的が達成されることを見出し、完成したものである。
【0036】
即ち、上記第一の塗装体は、電子機器部材用塗装体として、基板の表面及び裏面[本発明では、当該塗装体から見て外気側を「表面」、当該塗装体の内側を「裏面」と呼ぶ]に、任意の赤外線波長域(波長:4.5〜15.4μm)における積分放射率(以下、単に「赤外線積分放射率」若しくは「赤外線放射率」と略記する場合がある)が所定範囲を満足する放熱塗膜を被覆した塗装体を使用することにより、優れた放熱性を確保したところに技術的思想を有している。
【0037】
ちなみに、従来の塗装体として、例えばプレス加工等の加工後に塗装するアフターコート材、加工前に予め塗装するプレコート材等が挙げられるが、これらは本発明の如く「電子機器部材用筺体として適用するに当たり、熱スルー方式の考えを適用して放熱性を高めよう」という思想は全くない為、基板の表裏面に、所定の放熱性を有する放熱塗膜は被覆されていない。実際のところ、これら従来の塗装体は、その外観面(表面)は、意匠性や機能性(耐食性等)等の観点から塗装処理しているが、その放熱特性は低い。一方、その裏面(塗装体内部面)は無塗装か、塗装されたとしても、せいぜい、最低限の耐食性を確保する程度の塗装しか施していない(従って、所望の放熱特性は得られない)というのが実状である。従って、この様な片面塗装体では、所望の放熱特性が得られないことを、後記する実施例により確認している。
【0038】
以下、上記塗装体について、具体的に説明する。
【0039】
上記第一の塗装体は、基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆されたものであり、「優れた放熱性」を表す指標として、下記(I)に示すΔT1(電子機器の内部温度の差)、若しくは下記(II)に示す「a×b」(塗装体の表面及び裏面の赤外線放射率の積)を満足するものである。
【0040】
このうち「a×b」は、塗装体から放出される赤外線の放射率の積を定めたもので、塗装体の放熱効果を示す指標として有用である。一方、ΔT1は、電子機器部材用途を模擬した実用レベルの放熱効果を定めたもので、当該用途で想定される雰囲気温度(電子機器の種類等によって雰囲気温度は異なるが概ね50〜70℃、最高で100℃程度)における放熱特性を評価できる為、本発明において採用した次第である。
【0041】
この様に両者は、いずれも「放熱性」を表す指標として有用であり、且つ、良好な相関関係を有している。参考までに、後記する実施例の結果(表1及び表3)をプロットしたグラフを図4に示す。図中、●は、表裏面の放熱塗膜の組成が異なる塗装体の結果を;○は、表裏面の放熱塗膜の組成が同じ(黒色添加剤として、カーボンブラックを使用)塗装体の結果を、夫々、示す。
【0042】
この様な放熱特性を満足する上記第一の塗装体によれば、電子機器の高性能化・小型化に伴い、シャーシ内部における発熱量が増加(高温化)して高熱化する等しても、放熱特性に優れている為、電子機器内部の温度を低下させることができる。従って、電子機器部品の寿命延命化、省電力化、低騒音化、装置設計自由度の更なる拡大(高速化、高機能化、小型化等)を図ることができる等、非常に有用である。
【0043】
以下、各特性について説明する。
【0044】
(I)ΔT1(=T1B−T1A)≧2.6℃
ここで、T1Aは、後記する図1に示す放熱性評価装置を用い、供試材として本発明塗装体を使用したときのT1位置の温度を;T1Bは、同様に上記図1の放熱性評価装置を用い、供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときのT1位置の温度を、夫々、意味する。
【0045】
上記ΔT1は、基板(塗膜が被覆されていない裸ままの原板)を用いた場合に比べ、本発明塗装体を用いた場合には、如何に電子機器の内部温度を低減できるかという指標を定めたものであり、本発明では、ΔT1を測定する装置として、特に、図1に示す本発明独自の放熱性評価装置を用いた。図1の装置は、電子機器等の用途で想定される雰囲気温度(電子機器部材の種類等によって雰囲気温度は異なるが、概ね50〜70℃、最高で100℃程度)の放熱特性を評価し得る装置として極めて有用であり、これにより、電子機器用途を模擬した実用レベルでの放熱効果を正しく評価することが可能となる。従来、放熱性を評価し得る有用な装置はなかったことから、この様な図1の装置を包含する放熱性評価装置も、本発明の範囲内に包含される(後記する)。
【0046】
図1は、内部空間が100mm(縦)×130mm(横)×100mm(高さ)である直方体の装置である。図1中、1は供試材(被験体、測定面積は100×130mm)、2は断熱材、3は発熱体[底面積は1300mm2、当該発熱体面積内で引ける最も長い直線の長さ(図1では、対角線の長さ)は164mm]、5は測温装置である。
【0047】
このうち発熱体3には、シリコンラバーヒーターを用い、その上にアルミ板(赤外線放射率は0.1以下)を密着したものを使用する。また、図1のT1位置[内部空間の中央部(発熱体3から50mm上方)]に、測温装置5として熱電対を固定する。尚、発熱体からの熱輻射の影響を排除する目的で、熱電対の下部をカバーしておく。また、断熱材2は、その種類や使用態様等によって箱内雰囲気温度が変化する(放熱性にも影響する)為、赤外線放射率が0.03〜0.06の金属板[例えば電気亜鉛めっき鋼板(JIS SECC等)]を用い、後記する方法によってT1位置の雰囲気温度(絶対値温度)が約73〜74℃の範囲になる様、断熱材の張り方等を調整する。その他、放熱性に影響を及ぼす因子(例えば供試材の固定法等)についても、同様にT1位置の雰囲気温度(絶対値温度)が約73〜74℃の範囲になる様に調整する。
【0048】
次に上記装置を用いて放熱特性を評価する方法について説明する。
【0049】
測定に当たっては、外気条件(風等)によるデータのバラツキをなくす目的で、測定条件を、温度:23℃、相対湿度:60%に制御しておく。
【0050】
まず、各供試材1を設置し、電源を入れてホットプレート3を140℃にまで加温する。ホットプレートの温度が安定して140℃となり、T1位置の温度が60℃以上になっていることを確認した後、一旦、供試材を取外す。箱内温度が50℃まで下がった時点で、再び供試材を設置し、設置してから90分後の箱内温度を夫々測定する。次に、上記供試材を用いたときの温度と、塗膜を施さない無塗装原板を用いたときの温度の差(ΔT1)を算出する。
【0051】
尚、ΔT1は、各供試材につき5回ずつ測定し、そのうち上限、下限を除いた3点のデータの平均値を、本発明におけるΔT1と定めた。
【0052】
この様にして算出されたΔT1は大きい程、放熱特性に優れていることを意味する。好ましい順に2.7℃以上、3.0℃以上、3.3℃以上、3.5℃以上、3.7℃以上、4.0℃以上である。
【0053】
尚、放熱特性の指標(目標レベル)は、電子機器の種類等によって異なるが、本発明によれば、後記する通り、放熱塗膜中に含まれる黒色添加剤を、塗膜厚との関係で適切に制御することによって、容易に、所定の放熱特性に調整することができる。
【0054】
(II)式(1):a×b≧0.42
式中、a及びbは、基板の表裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率において、表面の赤外線積分放射率(a)及び裏面の赤外線積分放射率(b)を夫々、意味する。赤外線積分放射率は後述する方法で測定され、表面若しくは裏面の赤外線積分放射率を夫々、別々に測定することができる。
【0055】
上記「赤外線積分放射率」とは、換言すれば、赤外線(熱エネルギー)の放出し易さ(吸収し易さ)を意味する。従って、上記赤外線放射率が高い程、放出(吸収)される熱エネルギー量は大きくなることを示す。例えば物体(本発明では塗装体)に与えられた熱エネルギーを100%放射する場合には、当該赤外線積分放射率は1となる。
【0056】
尚、本発明では、100℃に加熱したときの赤外線積分放射率を定めているが、これは、本発明塗装体が電気機器用途(部材等によっても相違するが、通常の雰囲気温度は概ね、50〜70℃で、最高で約100℃)に適用されることを考慮し、当該実用レベルの温度と一致させるべく、加熱温度を100℃に定めたものである。但し、200℃に加熱しても赤外線積分放射率は殆ど変化せず、200℃に加熱したときの赤外線積分放射率は、100℃の赤外線積分放射率に比べ、概ね0.02程度高いものの、略一致することを実験により確認している(尚、後記する実施例では、100℃及び200℃に加熱したときの赤外線放射率を夫々、併記する)。
【0057】
本発明における赤外線積分放射率の測定方法は以下の通りである。
【0058】
装置:日本電子(株)製「JIR−5500型フーリエ変換赤外分光
光度計」及び放射測定ユニット「IRR−200」
測定波長範囲:4.5〜15.4μm
測定温度:試料の加熱温度を100℃に設定する
積算回数:200回
分解能 :16cm−1
上記装置を用い、赤外線波長域(4.5〜15.4μm)における試料の分光放射強度(実測値)を測定した。尚、上記試料の実測値は、バックグラウンドの放射強度及び装置関数が加算/付加された数値として測定される為、これらを補正する目的で、放射率測定プログラム[日本電子(株)製放射率測定プログラム]を用い、積分放射率を算出した。算出方法の詳細は以下の通りである。
【0059】
【数1】
【0060】
式中、
を夫々、意味する。
【0061】
ここで、上記A(λ:装置関数)、及び上記KFB(λ:固定バックグラウンドの分光放射強度)は、2つの黒体炉(80℃、160℃)の分光放射強度の実測値、及び当該温度域における黒体の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)に基づき、下記式によって算出したものである。
【0062】
【数2】
【0063】
式中、
を夫々、意味する。
【0064】
尚、積分放射率E(T=100℃)の算出に当たり、KTB(λ,TTB)を考慮しているのは、測定に当たり、試料の周囲に、水冷したトラップ黒体を配置している為である。上記トラップ黒体の設置により、変動バックグランド放射(試料によって変化するバックグラウンド放射を意味する。試料の周囲からの放射が試料表面で反射される為、試料の分光放射強度の実測値は、このバックグランド放射が加算された数値として表れる)の分光放射強度を低くコントロールすることができる。上記のトラップ黒体は、放射率0.96の疑似黒体を使用しており、前記KTB[(λ,TTB):波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度]は、以下の様にして算出する。
【0065】
KTB(λ,TTB)=0.96×KB(λ,TTB)
式中、KB(λ,TTB)は、波長λ、温度TTB(℃)における黒体の分光放射強度を意味する。
【0066】
本発明に係る第一の塗装体は、この様にして測定した赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率[上記E(T=100℃)]であって、表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率(a)及び裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率(b)の積(a×b)が0.42以上[式(1)]を満足するものである。上述した通り、「a×b」で算出される数値(塗装体から放出される赤外線積分放射率の積)は、塗装体自体の放熱効果を示す指標として有用であり、上式を満足する塗装体は、上記波長域において、平均して高い放射特性を発揮することから、上記第一の塗装体における放熱特性の目標レベルを「a×b≧0.42」に定めた。「a×b」(最大で1)の値は大きい程(1に近ければ近い程)、優れた放熱特性を発揮し、好ましい順に、0.49以上、0.56以上、0.61以上、0.64以上、0.72以上である。
【0067】
尚、上記第一の塗装体では、上述した放熱特性の目標レベルを満足する限り、表面の赤外線放射率と、裏面の赤外線放射率の関係は特に限定されず、表面と裏面の赤外線放射率が異なる態様、及び両面が同程度の放射率を有する態様の両方を包含する。これに対し、本発明に係る第二の塗装体では、放熱性に加え、自己冷却性の向上を主目的としており、裏面に比べ、表面の赤外線放射率が高い塗装体のみに限定している点で、両者は相違する[後記する(ロ)の項に記載する]。
【0068】
具体的には、上式(1)「a×b≧0.42」の放熱特性を満足する限りにおいて、表面/裏面は、任意の赤外線放射率を定めることができる。但し、赤外線放射率の最大値は1であるから、上式(1)を満たす為には、少なくとも片面の赤外線放射率を0.42以上;a×b≧0.56を満たす為には、少なくとも片面の赤外線放射率を0.56以上;a×b≧0.62を満たす為には、少なくとも片面の赤外線放射率を0.64以上とすることが必要である。
【0069】
ここで、片面の赤外線放射率は大きければ大きい程好ましく、少なくとも片面の赤外線放射率が0.65以上を満足するものは好ましい態様である。より好ましい順に、0.7以上、0.75以上、0.8以上である。両面が0.65以上の塗装体は、更に好ましい。
【0070】
更に上記第一の塗装体では、上記赤外線(波長4.5〜15.4μm)の任意の波長域における分光放射率の最大値Aと最小値Bとの差(A−B)は0.35以下であることが好ましい。この「A−B」は、上記赤外線波長域における「放射率の変化幅」を表すもので、「A−B≦0.35」とは、上記赤外線波長域のいずれにおいても、安定して高い放射特性を発揮することを示している。従って、上記要件を満足するものは、例えば、放出される赤外線の波長が異なる部品を種々搭載した電子機器等の用途への適用も可能となる等、電子機器部材用への用途の拡大が期待されるものである。具体的には、上記の如く測定した任意の放射率を測定し、当該波長域における分光放射率の最大値(A)と最小値(B)との差(A−B)を「放射率の変化幅」として算出する。上記「A−B」の値は、小さければ小さい程、安定した放熱特性を得ることができ、より好ましくは0.3以下、更により好ましくは0.25以下である。
【0071】
次に、上記第一の塗装体を得る為の具体的構成について説明する。
【0072】
上記塗装体は、基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であるが、放熱塗膜のうち少なくとも片面に含まれる黒色添加剤の含有量X(質量%:以下、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する)を、塗膜厚Y(μm)との関係で適切に制御することにより、所望の放熱特性を得ることができる。具体的には、上記X及びYが下式(2)を満足し、このうちXは好ましくは下式(3)を、Yは好ましくはY>1μmを満足するものである。
【0073】
▲1▼式(2):(X−3)×(Y−0.5)≧15
以下、左辺[(X−3)×(Y−0.5)]の計算値をP値で代表する場合
がある。
【0074】
上式(2)は、前述した放熱特性[ΔT1若しくは(a×b)で表される指標]を得る為の構成要件として、放熱塗膜のうち少なくとも片面に含まれる黒色添加剤の含有量X(%)と塗膜厚さY(μm)の関係を定めたものである。上式の意味するところは、第一の塗装体で定める「放熱特性」を確保するには、カーボンブラック等の黒色添加剤を塗膜厚さとの関係で適切に制御することが必要であり、「膜厚が薄い場合には、黒色顔料の含有量を多くしなければならない(即ち、単位厚さ当たりの黒色顔料含有量は大きくなる)が、膜厚が厚い場合には、黒色顔料の含有量は少なくても良い(即ち、単位厚さ当たりの黒色顔料含有量は小さくなる)」という、本発明による知見を数式化したものである。
【0075】
ここで、P値[=(X−3)×(Y−0.5)]と、放熱特性は、概ね、良好な相関関係を示している。図5は、後記する実施例の結果(表4及び表5)に基づき、P値と、放熱特性(a×b)の関係をグラフ化したものであるが、同図より、上記第一の塗装体で掲げる放熱特性の目標レベル(a×b≧0.42、ΔT1≧2.6℃)を確保する為には、上記P値を15以上とする必要がある。本発明によれば、放熱特性の指標が定まれば、それに対応するP値を算出し、当該P値が得られる様に、X及びYの範囲を夫々、適切に調整するだけで、容易に所望の放熱特性を確保できるというメリットがある。
【0076】
尚、より優れた放熱特性を得る為には、上記P値は大きい程好ましく、好ましい順に、7以上、11以上、15以上、30以上である。
【0077】
但し、P値をあまり大きくしても放熱特性は飽和していまい、使用する黒色添加剤等の量が増えるだけで経済的に無駄である他、本発明塗装体は電子機器の筺体として使用され、加工性や導電性等も要求されることを考慮すると、P値の上限を、好ましい順に、240、200、150、100に制御することが推奨される。
【0078】
▲2▼式(3):4%≦X<15%
更に本発明では、黒色添加剤の含有量Xは3%超を前提とし、4%以上とすることが推奨される。ここで、「X>3%」を前提としたのは、上式(2)を満足する為には、当該式の左辺の係数である(X−3)は正(>0)であることが必要だからである。
【0079】
また、上記Xの下限は、優れた放熱特性を得ると同時に、塗装体自体の特性(塗装性、外観等)を確保する為に定められたもので、3%以下では所望の特性が得られない。好ましい下限は順に、5%、7%、8%、10%である。一方、Xの上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、15%以上になると塗装性が悪くなり、塗布むらが生じて外観不良が発生する。従って、塗装性等を考慮した好ましい上限は順に、15%未満、13%、11%である。
【0080】
▲3▼Y>1μm
更に本発明では、放熱塗膜の塗膜厚さYに関し、0.5μm超を前提とし、1μm超とすることが推奨される。ここで、「Y>0.5μm」を前提としたのは、上式(2)を満足する為には、当該式の左辺の係数である(Y−0.5)が正(>0)であることが必要だからである。
【0081】
上記Yの下限は、特に優れた放熱特性を得る為に定められたもので、Yが0.5μm以下では、黒色添加剤を多く添加しても所望の放熱効果が得られない。好ましい下限は順に、3μm、5μm、7μm、10μmである。
【0082】
尚、上記Yの上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、本発明塗装体は電子機器部品への適用を意図しており、当該用途との関係上、加工性の向上も要求されること;特に曲げ加工時における塗膜のクラックや剥離等の発生防止等を考慮すると、50μm以下(より好ましい順に、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下)に制御することが推奨される。
【0083】
更に、良好な加工性を備えると共に、優れた導電性も確保する為には、上記Yを12μm以下(より好ましい順に、11μm以下、更により好ましくは10μm以下)に制御することが推奨される。
【0084】
以上、上式(2)中、X(黒色添加剤の含有量)及びY(塗膜厚さ)について説明した。
【0085】
尚、本発明に用いられる黒色添加剤としては黒色を付与し得るものであれば特に限定されず、代表的にはカーボンブラックが挙げられるが、その他、Fe,Co,Ni,Cu,Mn,Mo,Ag,Sn等の酸化物、硫化物、カーバイドや黒色の金属微粉等を使用することもできる。最も好ましいのはカーボンブラックである。
【0086】
ここで、塗膜中のカーボンブラックの添加量(X)は、以下の方法により、測定することができる。
【0087】
まず、被験体(分析サンプル)に溶媒を加えて加温し、被験体中の有機物を分解する。使用する溶媒の種類は、ベース系樹脂の種類によっても異なり、各樹脂の溶解度に応じて、適宜、適切な溶媒を使用すれば良いが、例えば、ベース樹脂としてポリエステル系樹脂やウレタン系樹脂を用いる場合は、水酸化ナトリウム−メタノール溶液を添加した容器(ナス型フラスコ等)に被験体を加え、この容器を70℃のウオーターバスで加温し、被験体中の有機物を分解すれば良い。
【0088】
次いで、この有機物をガラスフィルター(孔径0.2μm)で濾別し、得られた残渣中の炭素を、燃焼赤外線吸収法により定量し、塗膜中のカーボンブラック濃度を算出する。
【0089】
更に、上記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmに制御することが好ましい。上記添加剤の平均粒径が5nm未満では、所望の放熱特性が得られない他、塗料の安定性が悪く、塗装外観に劣る。一方、平均粒径が100nmを超えると放熱特性が低下するのみならず、塗装後外観が不均一となってしまう。好ましくは10nm以上、90nm以下;より好ましくは15nm以上、80nm以下である。尚、放熱特性に加え、塗膜安定性、塗装後外観均一性等を総合的に勘案すれば、黒色添加剤の最適平均粒径は概ね20〜40nmとすることが推奨される。
【0090】
また、塗膜中に添加される樹脂(放熱塗膜を形成するベース樹脂)の種類は、放熱特性の観点からは特に限定されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらの混合または変性した樹脂等を適宜使用することができる。但し、本発明塗装体は電子機器の筺体として使用される為、放熱性に加え、耐食性、加工性の向上も要求されることを考慮すると、上記ベース樹脂は、非親水性樹脂[具体的には、水との接触角が30°以上(より好ましくは50°以上、更により好ましくは70°以上)を満足するもの]であることが好ましい。この様な非親水性特性を満足する樹脂は、混合度合や変性の程度等によっても変化し得るが、例えばポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらの混合または変性した樹脂等の使用が好ましく、なかでもポリエステル系樹脂若しくは変性したポリエステル系樹脂(エポキシ変性ポリエステル系樹脂、フェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂等の熱硬化性ポリエステル系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂)の使用が推奨される。
【0091】
更に上記塗膜には、本発明の作用を損なわない範囲で、カーボンブラック等の黒色添加剤の他、防錆顔料,シリカ等の顔料も添加しても良い。或いは、黒色添加剤以外の他の放熱性を有する添加剤(例えばTiO2、セラミックス、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素等を1種または2種以上の少なくとも一種)も、本発明の作用を損なわない範囲で、添加することができる。
【0092】
また、上記塗膜には、架橋剤を添加することができる。本発明に用いられる架橋剤としては、例えばメラミン系化合物やイソシアネート系化合物等が挙げられ、これらを1種または2種以上、0.5〜10質量%の範囲で添加することが推奨される。
【0093】
この様に本発明塗装体は、カーボンブラック等の黒色顔料を含有する放熱塗膜が被覆されたものであるが、従来においても、樹脂塗膜にカーボンブラック等の黒色顔料を添加した塗装鋼板は開示されている。
【0094】
例えば特開平3−120378号公報には、熱器具部材に使用される遠赤外線放射板(基材に、遠赤外線特性を有するセラミック層が形成されたもの)の製造方法について開示されており、「所定の黒色アクリル樹脂皮膜に、カーボンブラック等の黒色顔料を添加しても良く、これにより、遠赤外線放射特性が発揮されること;その配合量は樹脂100質量部当たり0.1〜10質量部、樹脂皮膜厚は通常0.1〜5μmである」ことが記載されている。
【0095】
しかしながら、上記公報に記載の遠赤外線放射板は、基材の片面にのみセラミック層が形成されているに過ぎず、本発明塗装板の如く、基板の表裏面に塗膜が形成されていない為、所望の放熱性は得られない。
【0096】
そもそも両者は、適用対象(用途)が相違する為、課題解決手段の基礎となる考え方を異にしており、構成要件も相違するものである。即ち、上記公報の遠赤外線放射板は、約200〜300℃といった非常に高温下での放熱特性が要求される熱器具(代表的にはストーブ等)の分野に使用されるものであり、本発明塗装体の如く、特に、内部温度が通常雰囲気温度で約40〜70℃、最高でも100℃程度となる電子機器部材への適用については、全く意図していない。従って、上記公報では、ストーブ等の熱器具から放出される遠赤外線の放射率(輻射率)をできるだけ高くしようというという発想しかなく、その為にカーボンブラックを添加しているだけであって、本発明の如く、「電子機器の内部温度を低下させる為に、電子機器から放出される熱量を、基板の裏面→基板の表面へと吸収→放射させる」という所謂「熱スルーの方式」に通じる発想は、熱器具を対象としている以上、生じる余地は全くない。
【0097】
実際のところ、上記放射板は片面のみしか塗装されていない為、本発明に記載の条件で積分放射率及び放射率の変化幅を調べたところ、本発明の如く優れた放熱特性は得られないことを実験により確認している(後記する表5のNo.19)。
【0098】
更に上記公報では、Zn−Ni合金めっき鋼板をベースとして黒色化処理して黒色皮膜を形成させ、更にその上層に黒色樹脂皮膜を被覆することにより、高温領域での遠赤外線放射特性を発揮させているが、この様な放射板をそのまま、本発明で対象とする電子機器部材(遠赤外線放射板に比べ、遥かに低温域で使用されるもの)に適用すると、用途の違いによって要求特性も異なる為、種々の不具合が生じる。即ち、▲1▼熱器具用途に比べて電子機器部材では、より苛酷な曲げ加工性が要求される為、合金めっき層にクラックが発生し、このクラックを起点として黒色樹脂皮膜やめっきのカスが剥離・脱落して外観不良が生じる;▲2▼この様な剥離や脱落現象が合金めっき層の内部で生じると、剥離した皮膜やめっきのカスが電子機器の部品に付着、堆積してしまい、電子機器が故障する恐れがある等の不具合が生じる。
【0099】
従って、本発明と上記放射板は、異なる発明であると考える。
【0100】
以上、黒色添加剤を含む放熱塗膜について説明した。上記第一の塗装体では、基板の表裏面に被覆される放熱塗膜のうち少なくとも片面が、黒色添加剤を主に含有するが、他方の放熱塗膜はこれに限定されず、本発明で定める所望の放熱特性を満足する様、黒色添加剤以外の、放熱性を有する添加剤(「他の放熱性添加剤」と呼ぶ場合がある)を添加して放熱塗膜を形成することができる。勿論、基板の表裏面がいずれも、上記関係を満足する黒色添加剤含有放熱塗膜を有する塗装体は、特に好ましい態様である。
【0101】
ここで、上記「他の放熱性添加剤」としては、例えばTiO2、セラミックス、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素等を1種または2種以上の少なくとも一種)が挙げられる。この様な「他の放熱性添加剤」を主に含む放熱塗膜の膜厚は、使用する「他の放熱性添加剤」の種類や用途等に応じ、所望の放熱特性が得られる様、適宜適切な膜厚を設定することができるが、概ね、15〜30μm程度とすることが推奨される。
【0102】
具体的にはTiO2含有塗膜の場合、塗膜中にTiO2を約40〜60%含有する皮膜を、約25〜30μm形成させると、概ね、0.8前後の赤外線放射率が得られる。上記塗膜中に、更にカーボンブラック等の黒色添加剤等を添加すれば、赤外線放射率は一層大きくなる。また、メタリック調外観の塗膜を施したいときは、塗膜中にAlフレーク等を概ね、5〜30%添加し、塗膜厚を約5〜30μmとすれば、約0.6〜0.7の赤外線放射率が得られる。
【0103】
(ロ)放熱性及び自己冷却性に優れた電子機器部材用塗装体(第二の塗装体)について
上記第二の塗装体は、基板の表裏面に塗膜が被覆され、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であり、「優れた自己冷却性」を表す指標として、下記(III)に示すΔT2(塗装体自体の温度上昇抑制の程度)若しくは下記(IV)に示す式(4)[b≦0.9(a−0.05)]を;また、上記第二の塗装体における「優れた放熱性」を表す指標として、下記(V)に示す式(5)[(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08]を満足するものである。
【0104】
まず、自己冷却性の指標について説明する。
【0105】
このうち式(4)は、裏面の赤外線放射率に比べ、表面の赤外線放射率を高くし、塗装体に吸収された熱を外気側へ移動させる放熱効果を示す指標として定めたものであり;一方、ΔT2は、電子機器部材用途を模擬した実用レベルの塗装体での放熱効果を定めたものである。
【0106】
この様に両者は、いずれも「自己冷却性」を表す指標として有用であり、良好な相関関係を有している。参考までに、後記する実施例の結果をプロットしたグラフを図6に示す。図6の縦軸は、上式(4)を変形した式(0.9a−b≧0.05)中、左辺(0.9a−b)の計算値(以下、Q値で代表させる場合がある)である。
【0107】
この様な自己冷却性を満足する上記第二の塗装体によれば、塗装体自体の温度上昇が抑えられるので、当該塗装体を電子機器の筺体として使用したとき、電子機器稼動時に、取扱者が触れたとしても「熱くない」と感じる等、取扱者側から見て安全な電子機器を提供することができる。しかも上記塗装体は、良好な放熱性も兼ね備えているので、これらの両特性を兼ね備えた電子機器部材は、更なる用途の拡大をもたらす点で非常に有用である。
【0108】
以下、(III)〜(V)の各特性について説明する。
【0109】
(III)ΔT2(=T2B−T2A)≧0.5℃
ここで、T2Aは、前記した図1に示す放熱性評価装置を用い、供試材として本発明塗装体を測定したときの塗装体温度を;T2Bは、同様に上記図1の放熱性評価装置を用い、供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときの基板温度を、夫々、意味する。尚、ΔT1は、先の説明と同様に測定した。また、供試材を用いたときの温度と、塗膜を施さない無塗装原板を用いたときの温度の差(ΔT2)を算出した。
【0110】
尚、ΔT2は、各供試材につき5回ずつ測定し、そのうち上限、下限を除いた3点のデータの平均値を、本発明におけるΔT2と定めた。
【0111】
上記ΔT2は、基板(塗膜が被覆されていない裸ままの原板)を用いた場合に比べ、本発明塗装体を用いた場合には、電子機器稼動時における塗装体自体の温度上昇を如何に抑えられるかという指標(自己冷却性)を定めたものであり、本発明では、ΔT2を測定する装置として、特に、図1に示す本発明独自の放熱性評価装置を用いた。
【0112】
優れた自己冷却性を得る為には、上記ΔT2は大きい程、好ましい。ΔT2の好ましい順に1.0℃以上、1.5℃以上、2.0℃以上、2.5℃以上である。
【0113】
(IV)式(4):b≦0.9(a−0.05)
式中、a及びbの意味、並びに赤外線積分放射率の測定方法は、
前述した(II)に記載した通りである。
【0114】
前述した通り、上式(4)も、塗装体自体の温度上昇を抑制する「自己冷却性」の指標として有用である。上式は、「基板の裏面(電子機器内部側)に比べ、基板の表面(外気側)の赤外線放射率を高くした塗膜を施すことにより、塗装体自体の温度上昇を抑制しよう」という思想のもと、所望の自己冷却性(ΔT2≧0.5℃)を確保できる表面・裏面の赤外線放射率の関係式を特定したものである。
【0115】
塗装体を電子機器の筺体に使用する場合、筺体内部面(裏面)の赤外線放射率を高めると、電子機器内熱源から放出される赤外線吸収量が増加し、塗装体自体の温度は上昇してしまう。一方、筺体外部面(表面)の放射率を高めれば、塗装体から外気に向けて放出する赤外線放出量が増加し、塗装体の温度も低下する。
本発明は、この様な知見に基づき、種々の実験を重ねて上式を定めたものであり、本発明によれば、基板の裏面側で吸収(放射)される熱量よりも、基板の表面側から放射される熱量が大きくなるので、塗装体自体の温度上昇を効率よく抑えることが可能になる。
【0116】
この様に基板の表面と裏面に放熱特性の異なる塗膜を設け、放熱特性の水準を或る程度維持しつつ、しかも塗装体の温度上昇をも抑制させた塗装体は従来知られておらず、新規であると考える。
【0117】
従って、上記第二の塗装体では、aとbの赤外線放射率の差が大きい程、優れた自己冷却性が得られる。具体的には、上記Q値(=0.9a−b)が大きい程好ましく、好ましい順に、0.13以上、0.24以上、0.35以上、0.47以上である。
【0118】
(V)式(5):(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08
上式(5)は、第二の塗装体における放熱特性の指標を、表裏面の赤外線積分放射率の積によって特定したもので、左辺[(a−0.05)×(b−0.05)]の計算値(以下、R値で代表させる場合がある)が大きい程、放熱特性(ΔT1)に優れていることを示す。好ましい下限は順に、0.35(ΔT1で、約2.6℃)、0.52(ΔT1で、約3.5℃)である。
【0119】
この上式(5)は、前述したΔT1(第一の塗装体で説明した「電子機器内部温度の差」)と、良好な相関関係を有している。参考までに、後記する実施例の結果をプロットしたグラフを図7に示す。
【0120】
上記第二の塗装体における放熱特性のレベル(ΔT1に換算するとΔT1≧1.5℃)は、第一の塗装体のレベル(ΔT1≧2.6℃)に比べ、許容範囲が広い。これは、第二の塗装体では自己冷却性の向上を主な解決課題として掲げており、当該課題を達成する限りにおいては、放熱特性のレベルは、第一の塗装体に比べて若干低い態様をも包含し得るという知見に基づき、定めたものである。
【0121】
次に、上記第二の塗装体を得る為の具体的構成について説明する。
【0122】
上記塗装体は、基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜が被覆されたものである。所望の自己冷却性を確保する為には、裏面に比べ、表面の赤外線放射率を高くして上式(4)を満足することが必要であり、且つ、放熱特性は、少なくとも上式(5)を満足することが必要である。この様に第二の塗装体では、表面・裏面に要求される放熱特性のレベルが異なる為、以下、場合を分けて説明する。
【0123】
まず、上記第二の塗装体における「表面の放熱塗膜」は、下記(i)及び(ii)の態様を包含する。
【0124】
(i)黒色添加剤を主に添加し、放熱塗膜中に含まれる黒色添加剤(X)を、塗膜厚(Y)との関係で制御する態様
表面の塗膜に黒色添加剤を添加し、放熱特性を高めようとする場合は、黒色添加剤の添加量(X)と塗膜厚(Y)が下式(6)を満足する様、X及びYを適宜、適切に制御すれば良い。具体的には下記▲4▼〜▲6▼の通りである。
【0125】
▲4▼式(6):(X−3)×(Y−0.5)≧3
上式(6)は、第二の塗装体における放熱性の目標レベル(ΔT1≧1.5℃)を実現する為の、X及びYの関係式を定めたものであり、P値[=(X−3)×(Y−0.5)]が大きい程、優れた放熱特性が得られる。好ましい順に、7以上、11以上、15以上、30以上、50以上である。
【0126】
但し、P値をあまり大きくしても放熱特性は飽和していまい、使用する黒色添加剤等の量が増えるだけで経済的に無駄である他、本発明塗装体は電子機器の筺体として使用され、加工性や導電性等にも要求されることを考慮すると、P値の上限を、好ましい順に、240、200、150、100に制御することが推奨される。
【0127】
尚、上式(6)の下限は、第一の塗装体で定めた式(2)の下限値に比べ、小さい。これは、第一の塗装体に比べ、第二の塗装体の放熱特性レベルは、若干低い態様も包含し得ることから、許容範囲が広がった為である。
【0128】
▲5▼式(7):4%≦X<15%
黒色添加剤の含有量Xは3%超を前提とし、4%以上とすることが推奨される。ここで、「X>3%」を前提としたのは、上式(6)を満足する為には、当該式の左辺の係数である(X−3)は正(>0)であることが必要だからである。
【0129】
また、上記Xの下限は、優れた放熱特性を得ると同時に、塗装体自体の特性(塗装性、外観等)を確保する為に定められたもので、3%以下では所望の特性が得られない。好ましい下限は順に、5%、7%、8%、10%である。一方、Xの上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、15%以上になると塗装性が悪くなり、塗布むらが生じて外観不良が発生する。従って、塗装性等を考慮した好ましい上限は順に、15%未満、13%、11%である。
【0130】
▲6▼Y>1μm
放熱塗膜の塗膜厚さYは、0.5μm超を前提とし、1μm超とすることが推奨される。ここで、「Y>0.5μm」を前提としたのは、上式(6)を満足する為には、当該式の左辺の係数である(Y−0.5)が正(>0)であることが必要だからである。
【0131】
上記Yの下限は、特に優れた放熱特性を得る為に定められたもので、Yが0.5μm以下では、黒色添加剤を多く添加しても所望の放熱効果が得られない。好ましい下限は順に、3μm、5μm、7μm、10μmである。
【0132】
尚、上記Yの上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、本発明塗装体は電子機器部品への適用を意図しており、当該用途との関係上、加工性の向上も要求されること;特に曲げ加工時における塗膜のクラックや剥離等の発生防止等を考慮すると、50μm以下(より好ましい順に、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下)に制御することが推奨される。
【0133】
更に、良好な加工性を備えると共に、優れた導電性も確保する為には、上記Yを12μm以下(より好ましい順に、11μm以下、更により好ましくは10μm以下)に制御することが推奨される。
【0134】
(ii)黒色添加剤以外の他の添加剤を主に添加する態様
表面塗膜の放熱特性を高める為に、黒色添加剤以外の他の添加剤を使用する場合は、当該他の添加剤として、例えばTiO2、セラミックス、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素等が用いられる。これらは、1種または2種以上使用することができる。更にカーボンブラック等の黒色添加剤を添加しても良い。上記放熱塗膜の膜厚は、所望の放熱特性が得られる様、使用する添加剤の種類等に応じて適宜適切な膜厚を定めることができるが、概ね、5〜30μm程度とすることが推奨される。
【0135】
具体的にはTiO2含有塗膜の場合、塗膜中に酸化チタンを概ね、50〜70%添加し、塗膜厚を約25〜30μmとすることが推奨される。また、メタリック調外観の塗膜を施したいときは、Alフレーク等を概ね、5〜30%添加し、塗膜厚を約5〜30μmとすることが推奨される。
【0136】
次に、本発明に係る第二の塗装体における「裏面の塗膜」について説明する。
前述した「表面の塗膜」は、優れた自己冷却性を確保する為に放熱塗膜とする必要があるが、「裏面の塗膜」は、第二の塗装体で掲げる所望の特性が得られる限り、必ずしも放熱塗膜とする必要はない。即ち、上記第二の塗装体には、基板の裏面に塗膜が施されていない「片面塗装鋼板」は包含されない(塗膜なし原板の赤外線放射率は概ね0.04で、所望の自己冷却性は得られない)が、上式(4)を満足する限りにおいて、任意の塗膜を採用することができる。
【0137】
具体的には、前述した黒色添加剤・黒色添加剤以外の他の添加剤を単独または併用し、表面塗膜の放射率に応じて、適宜、添加量及び塗膜厚を適切に調整して裏面の塗膜を形成することができる。尚、黒色添加剤を用いて裏面の塗膜を形成する場合、前記XとYの関係は、必ずしも、前述した(6)式を満足する必要はなく、放熱性を殆ど有しない塗膜(前記のP値が0未満)であっても、表面塗膜の赤外線放射率さえ、適切に制御すれば、所望の自己冷却性を確保することができる(後記する表6のNo.1及び11を参照)。
【0138】
或いは、上記の添加剤を全く添加せず、塗膜厚を所定範囲(約2.5μm以上)に制御した塗膜も採用することができる(後記する表6のNo.3及び7を参照)。塗膜中に含まれる樹脂のみによっても、或る程度の放熱特性が得られるからである。
【0139】
具体的には、例えば塗膜形成樹脂として非親水性のポリエステル系樹脂を使用する場合は、塗膜厚を概ね、2.5μm以上に調整すれば良い。
【0140】
以上、本発明に係る第二の塗装体において、表面・裏面の塗膜を形成する黒色添加剤/他の添加剤について、その基本構成を説明した。その他、上記塗膜において、使用する黒色添加剤の種類や平均粒径;黒色添加剤以外の他の添加剤の種類;塗膜中に添加される樹脂や添加剤の種類等は、前述した第一の塗装体で説明した通りである。
【0141】
以上、本発明の塗装体を特徴付ける塗膜について詳述した。前述した通り、本発明の最重要ポイントは塗膜の構成を特定したところにあり、塗膜以外の基板については特に限定されない。従って本発明に用いられる基板としては、▲1▼代表的には金属板、具体的には冷延鋼板、熱延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、5%Al−Znめっき鋼板、55%Al−Znめっき鋼板、Al等の各種めっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板類や、公知の金属板等を全て適用することができる他、▲2▼金属板以外の基板、具体的には線材、棒材、パイプ材、セラミック材等も挙げられる。このうち好ましいのは、熱導電性に優れた金属板等の金属材料、セラミックである。
【0142】
尚、上記▲1▼の金属板は、耐食性向上、塗膜の密着性向上等を目的として、クロメート処理やリン酸塩処理等の表面処理を施してもよいが、環境汚染等を考慮して、ノンクロメート処理した金属板を使用してもよく、いずれの態様も本発明の範囲内に包含される。
【0143】
ここで、ノンクロメート処理した金属板を用いた本発明塗装体の構成について説明する。
【0144】
まず、上記基板は、クロムフリーの下地処理がなされており、且つ、放熱塗膜(少なくとも表面)は、更に防錆剤を含有することが必要である。一般にノンクロメート処理すると耐食性が低下することが知られており、耐食性向上の目的で、防錆剤の使用が不可欠だからである。
【0145】
ここで、上記「クロムフリーの下地処理」は特に限定されず、通常、使用される公知の下地処理を行えば良い。具体的には、リン酸塩系、シリカ系、チタン系、ジルコニウム系等の下地処理を、単独で、若しくは併用して行うことが推奨される。
【0146】
また、上記防錆剤としては、シリカ系化合物、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物、イオウ系有機化合物、ベンゾトリアゾール、タンニン酸、モリブデン酸塩系化合物、タングステン酸塩系化合物、バナジウム系化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、これらを単独で若しくは併用することができる。特に好ましいのは、シリカ系化合物(例えばカルシウムイオン交換シリカ等)と、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物(例えばトリポリリン酸アルミニウム等)との併用であり、シリカ系化合物:(リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、またはポリリン酸塩系化合物)を、質量比率で0.5〜9.5:9.5〜0.5(より好ましくは1:9〜9:1)の範囲で併用することが推奨される。この範囲に制御することにより、所望の耐食性と加工性の両方を確保することができる。
【0147】
尚、これらの防錆剤は、前記の下地処理にも使用しても良い。
【0148】
上記防錆剤の使用により耐食性は確保できるが、一方、防錆剤の添加による加工性が低下することも知られている。そこで本発明では、放熱塗膜の形成成分として、特に、樹脂及び架橋剤の組合わせに留意しており、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂、及び架橋剤(好ましくはイソシアネート系樹脂及び/又はメラミン系樹脂、より好ましくは両者の併用)を組合わせて使用することが推奨される。
【0149】
このうちエポキシ変性ポリエステル系樹脂及びフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂(例えばビスフェノールAを骨格に導入したポリエステル系樹脂等)は、ポリエステル系樹脂に比べ、耐食性及び塗膜密着性に優れている。
【0150】
一方、イソシアネート系架橋剤は加工性向上作用(加工後の外観向上作用を意味し、後記する実施例では、密着性曲げ試験におけるクラック数で評価している)を有しており、これにより、防錆剤を添加したとしても優れた加工性を確保することが可能となる。
【0151】
また、メラミン系架橋剤は、優れた耐食性を有することが本発明者らの検討結果により明らかになった。従って、本発明では、前述した防錆剤と併用することにより、非常に良好な耐食性が得られることになる。
【0152】
本発明では、上記イソシアネート系架橋剤及びメラミン系架橋剤を単独で使用しても良いが、両者を併用すると、加工性及び耐食性を一層向上させることができる。具体的には、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、メラミン系樹脂を5〜80質量部の比率で含有することが推奨される。メラミン系樹脂が5質量部未満の場合、所望の耐食性が得られず、一方、メラミン系樹脂が80質量部を超えると、イソシアネート系樹脂の添加による効果が良好に発揮されず、所望の加工性向上作用が得られない。より好ましくは、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、10質量部以上、40質量部以下、更により好ましくは15質量部以上、30質量部以下である。
【0153】
尚、上述した塗膜形成成分を構成する樹脂、防錆剤、架橋剤、黒色添加剤、及び導電性フィラーの比率については、後記する「塗料組成物」において説明する。
【0154】
この様な構成を満足する塗装体は、耐食性、塗膜密着性及び加工性に優れている。具体的には、耐食性に関しては、JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(72時間)における外観異常部(塗膜膨れ、錆等)の面積率が10%以下(より好ましくは5%以下)を満足するものである。上記特性は、使用する架橋剤の種類を適切に制御したり(例えば耐食性向上に有用なメラミン系架橋剤を単独で所定量添加する)、防錆剤の溶出を抑制する目的で、塗膜の上に塗膜(好ましくはクリヤー塗膜)を施した二層塗膜とする等の構成を採用することにより、一層高められ、その結果、より過酷な試験[JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(120時間)]における外観異常の面積率が10%以下(より好ましくは5%以下)をも満足するものである。
【0155】
更に上記塗装体は、塗膜密着性及び加工性にも優れたものである。ここで、「塗膜密着性」も「加工性」も、共に「加工後の外観に優れている」点で共通の性質を備えているが、本発明では、特に「加工性」について、「JIS K 5400に規定されている密着曲げ試験におけるクラック(ひび割れ)の数」で評価しており(本発明塗装体は、上記密着曲げ試験におけるクラック数が5個以下、より好ましくは2個以下、更により好ましくは0個を満足する)、一方、「塗膜密着性」は、「加工した部分の塗膜密着性」で評価している。
【0156】
以上、ノンクロメート処理した金属板を用いた本発明塗装体について説明した。
【0157】
これまで説明した本発明塗装体は、基板に塗膜が施された単層皮膜構成であるが、本発明には、更に、その上に塗膜が一種または2種以上被覆された複層皮膜構成の態様も包含される。特に本発明では、耐疵付き性及び耐指紋性の付与を目指して、特に黒色塗膜を使用した場合、当該黒色塗膜にクリヤー皮膜を施した二層皮膜構成とすることが推奨される。黒色塗膜は濃色系の黒で塗装されている為、手で取扱う際、指紋が目立ち易いというデメリットを抱えており、外観品質が低下するが、クリヤー皮膜の形成により、耐指紋性が改善される。また、たとえ黒色塗膜に疵が付いたとしても、クリヤー皮膜を施すことにより当該疵が目立たなくなるというメリットもある。
【0158】
ここで、所望の特性(放熱特性/自己冷却性)を維持しつつ、耐疵付き性及び耐指紋性を向上させる為には、クリアー塗膜の膜厚を制御することが重要であるが、放熱性に加えて優れた導電性をも具備させる場合には、当該クリアー塗膜厚の好ましい範囲が変化する。
【0159】
即ち、塗膜に導電性フィラーを添加しない塗装体の場合、優れた放熱特性/自己冷却性を維持しつつ、しかも耐疵付き性及び耐指紋性の向上を図る為には、クリアー塗膜の膜厚を0.1〜10μmに制御することが推奨される。0.1μm未満では耐疵付き性及び耐指紋性の向上作用が得られない。より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上である。但し、膜厚が10μm超と厚くしても、耐疵付き性等の向上作用は飽和してしまい、皮膜コストが増加するのみで不経済である為、その上限を10μmにすることが好ましい。より好ましくは8μm以下、更に好ましくは7μm以下である。
【0160】
上述の如く塗膜の上にクリアー塗膜を被覆した二層塗膜構造とすることにより、塗膜単独からなる単層塗膜構造に比べ、耐疵付き性を格段に向上し得ると共に、該単層塗膜構造では達成できなかった耐指紋性向上も得られる点で、クリアー塗膜の形成は極めて有効である。
【0161】
ここで、上記クリヤー皮膜を構成する樹脂としては特に限定されず、透明な皮膜を形成し得る樹脂は全て包含される。具体的にはアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の樹脂、及びこれら樹脂の混合物または変性した樹脂等が挙げられる。更にクリヤー皮膜中には、本発明の作用を損なわない範囲で、架橋剤、ワックス、艶消し剤等の添加剤を添加しても良い。これにより、塗膜の潤滑性や強度等を容易に調整することが可能になり、その結果、耐疵付き性を更に高めることができるからである。本発明に用いられる添加剤としては、塗膜中に通常使用され、上記作用を有効に発揮し得るものであればとくに限定されず、例えばメラミン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。
【0162】
尚、前述した通り、本発明の塗装体には、クリヤー塗膜でない塗膜が施された複数皮膜構成のものも包含されるが、この場合には、上述したクリヤー塗膜を構成する樹脂および添加剤に、更に着色顔料等の顔料等を添加することができる。
【0163】
また、クロムフリー系下地処理の施された基板に適用される塗料組成物として、塗膜形成成分に対し、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂を35質量%以上(好ましくは40質量%以上、更により好ましくは45質量%以上)、防錆剤を2〜25質量%(好ましくは3質量%以上、20質量%以下;更により好ましくは4質量%以上、15質量%以下)、架橋剤を1〜20質量%(好ましくは2質量%以上、18質量%以下;更により好ましくは3質量%以上、15質量%以下)、及び黒色添加剤を3質量%超含有する塗料組成物も本発明の範囲内に包含される。このうち上記記架橋剤の好ましい要件(好ましくはソシアネート系架橋剤100質量部に対し、メラミン系架橋剤を5〜80質量部の比率で含有すること)、及び上記黒色添加剤の好ましい要件は前述した通りである。本発明の塗料組成物を用いれば、放熱性、耐食性、塗膜密着性、及び加工性に優れたクロムフリー系塗膜を形成することができるので、電子機器部材用塗装体を得る為の塗料であって、特に、クロムフリー塗装体用の塗料として好適に用いることができる。
【0164】
次に、本発明の塗装体を製造する方法について説明する。本発明の塗装体は、上記成分を含む塗料を、公知の塗装方法で基板の表面に塗布し、乾燥させて製造することができる。塗装方法は特に限定されないが、例えば表面を清浄化して、必要に応じて塗装前処理(例えばリン酸塩処理、クロメート処理など)を施した長尺金属帯表面に、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法などを用いて塗料を塗工し、熱風乾燥炉を通過させて乾燥させる方法などが挙げられる。被膜厚さの均一性や処理コスト、塗装効率などを総合的に勘案して実用上好ましいのは、ロールコーター法である。
【0165】
尚、基板として樹脂塗装金属板を使用する場合には、樹脂被膜との密着性または耐食性の向上目的で、塗装前処理としてリン酸塩処理またはクロメート処理を施しても構わない。但し、クロメート処理材については、樹脂塗装体使用中のクロム溶出性の観点から、クロメート処理時のCr付着量を35mg/m2以下に抑制することが好ましい。この範囲であれば、下地クロメート処理層からのクロム溶出を抑えることが可能だからである。また、従来のクロメート処理材は必要に応じて設けられる上塗り塗装の耐水密着性が、6価クロムの溶出に伴って、湿潤環境下において低下する傾向にあるが、上記金属板では溶出が抑制されるため、上塗り被膜の耐水密着性が悪化することはない。
【0166】
或いは、前述したクロムフリーの下地処理を、ロールコーター法、スプレー法、浸漬処理法等により施せば、ノンクロメートタイプの塗装体を得ることができる。
【0167】
更に本発明には、閉じられた空間に発熱体を内蔵する電子機器部品であって、該電子機器部品は、その外壁の全部または一部が上記電子機器部材用塗装体で構成されている電子機器部品も包含される。上記電子機器部品としては、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等が挙げられる。
【0168】
更に本発明には、被験板の放熱性を評価する放熱性評価装置であって、天井面の全部または一部は前記被験体で構成され、側面及び底面は断熱材で構成された箱体の底面には発熱体が設置され、且つ、箱体内略中央部には測温装置を設けた放熱性評価装置も包含される。前述した図1はその代表例である。尚、外気や空調機等に由来する風等の影響を回避し、安定したデータを得る目的で、上記被験板の上方に、外気条件から遮断する防護部材を設けたものは好ましい態様である。
【0169】
この様な装置の代表例を、図8及び図9に示す。このうち図8は、箱体の上方を、防護部材で部分的に覆った放熱性評価装置の概略図を;図9は、箱体全面を防護部材で覆った放熱性評価装置の概略図を、夫々、示す。図9によれば、外気による影響を完全にカットすることができるので有用である。勿論、これらの装置は代表例に過ぎず、これらの装置に限定する趣旨では決してない。
【0170】
図中、1は被験体(放熱性を評価したいサンプル)、2は断熱材、3は発熱体、4は防護部材(カバー)、5は測温装置である。本発明の放熱性評価装置は箱状構造を有しており、その側面及び底面は断熱材2で構成され、箱体の底面には発熱体3が、箱体内略中央部には測温装置5が設置されており、装置の外側は、防護部材4で覆われている。尚、外気条件を一定にして測定する場合は上記防護部材の設置は不要であり、その態様を図示したのが前述した図1である。上記防護部材は、外気を遮断し得るものであれば特に限定されず、例えばプラスチック、木質材、金属材料等が使用される。
【0171】
上記測温装置5は、装置内部の雰囲気温度を測定することのできる装置であり、当該温度を正しく測定する為には、その位置を、適切に制御することが推奨される。具体的には、底面に設置された発熱体3において、最も長く引ける直線(mm)をL;発熱体3の底面積(mm2)をS;発熱体3から測温装置5までの高さ(mm)をHT;発熱体3から被験体1までの高さ(mm)をHとしたとき、これらが、L/H=0.7〜2.8;S/H2=0.25〜4;HT/H=0.3〜0.7の関係を満足する様に制御することが推奨される。これらの範囲を外れると、データの精度が低下するからである。参考までに、図10に、上記L、S,HT、及びHの関係を図示する。
【0172】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本願発明に含まれる。
【0173】
【実施例】
下記実施例1〜4は、本発明に係る第一の塗装体について、放熱性等を中心に種々の特性を評価したものである。このうち実施例1〜3は、基板の表裏面に同量の塗料を施し、同じ厚さの放熱塗膜を施した塗装体について実施したものであり、実施例4は、基板の表裏面に添加する塗料の種類や量等を変え、表裏面に、放射率の異なる放熱塗膜を施した塗装体について実施したものである。
【0174】
実施例1:第一の塗装体(導電性フィラーの添加無)における放熱性の評価
本実施例では、本発明に係る第一の塗装体の放熱特性を評価した。
【0175】
まず、電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.6mm)を原板として、その表裏面に、表1に示す所定量のカーボンブラック(平均粒径25nm)を同量添加した塗料(ベース樹脂としてポリエステル樹脂を用い、架橋剤としてメラミン樹脂を使用)を塗布した後、焼付け、乾燥してNo.1〜23の各供試材(120×150mm)を作製した。尚、比較の為に、塗料を施さない無塗装の原板を、同様に処理した。
【0176】
この様にして得られた各供試材について、図1の装置を用い、前述した方法に基づいて赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率、及びΔT1[No.1〜32の各供試材を用いたときの温度と、比較例の供試材(無塗装原板)を用いたときの温度の差]を測定した。尚、赤外線放射率は、100℃に加熱したときのデータと、200℃に加熱したときのデータを併記する。
【0177】
また、ΔT1は、大きければ大きい程、放熱特性に優れていることを示すが、下記基準で相対評価した。尚、本発明に係る第一の塗装体では、◎及び●の塗装体を、「当該塗装体における優れた放熱性を発揮するもの」として評価している。
【0178】
◎:3.5≦ΔT1
●:2.7≦ΔT1<3.5
○:1.5≦ΔT1<2.7
△:1.0≦ΔT1<1.5
×:ΔT<1.0
得られた結果を表1に併記すると共に、図11に、カーボンブラックの添加量(X)と、塗膜厚さ(Y)との関係をグラフ化して示す。図中、◎,●,○,△及び×は、上記の評価基準を意味する。
【0179】
【表1】
【0180】
表1より、本発明の要件を満足しない塗装体(No.1〜2)は、いずれも放熱特性に劣っているのに対し、本発明の要件を満足する塗装体(No.3〜23)は、いずれも放熱特性に優れている。
【0181】
尚、表には示していないが、カーボンブラックの含有量Xを、本発明の好ましい範囲(15%未満)を超えて18%とした場合、塗膜厚さYを1、10、18μmと厚くして上式(2)の範囲内[=(X−3)×(Y−0.5)≧15]に制御したとしても、塗布むらが著しく、均一に塗布することが困難であることを確認している。
【0182】
実施例2:第一の塗装体(導電性フィラーの添加有)における放熱性及び
導電性の評価
実施例1において、表1に記載の塗料の代わりに下記の組成からなる塗料a(樹脂の組成は実施例1と同じ)を使用したこと以外は実施例1と同様にして表2のNo.1〜2の供試材(120×150mm)を作製した。
【0183】
塗料a(導電性フィラー添加)
実施例1に記載の樹脂を65%
黒色添加剤として、平均粒径25nmのカーボンブラックを10%
導電性フィラーとして、鱗片状(厚さ1μm、大きさ15〜20μmの
Niを25%
この様にして得られた各供試材について、前述した方法により、赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率、放射率の変化幅、ΔT1、及び電気抵抗(導電性)を測定した。
【0184】
尚、従来鋼板として、Zn−Ni合金めっき鋼板の表裏面に黒色化成処理皮膜を形成し、表面にのみ、その上に更にクリヤー塗膜を被覆した塗装鋼板(表2のNo.3)を用い、上記と同様にして各種特性を評価した。この鋼板は、黒色化成処理皮膜の形成に当たり、めっきを電解処理して得られたものである。
【0185】
また、比較の為に、塗料を施さない無塗装の原板についても同様にして各種特性を評価した(表2のNo.4)。
【0186】
これらの結果を表2に記載する。また、図12〜15に、表2のNo.1、2、3、及び4における、赤外線の波長と赤外線放射率の関係をグラフ化して示す。
【0187】
【表2】
【0188】
表2及び上記図より、本発明の要件を満足する塗装体(No.1〜2)は、赤外線放射率、放射率の変化幅、及びΔT1のいずれも本発明の要件を満たしており、放熱特性に優れている。
【0189】
これに対し、No.3は、従来の黒色鋼板(カーボンブラックなどの黒色添加剤を使用せずに黒色処理を施したもの)を使用した例であるが、黒色添加剤を使用せず、且つ、導電性フィラーも含有していない為、所望の放熱特性及び導電性が得られない。
【0190】
尚、塗装なしの原板(No.4)の赤外線放射率の積は0.0016と、放熱特性は全く見られなかった。
【0191】
実施例3:第一の塗装体における放熱性、導電性、耐指紋性、及び
耐疵付き性の評価
本実施例では、クリヤー皮膜形成による耐指紋性及び耐疵付き性の向上作用、並びに、導電性フィラー添加による導電性の向上作用を確認すべく、実験を行った。
【0192】
具体的には、電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.6mm)を原板として、その表裏面に、下塗り塗料として、表3に示す種々の平均粒径を有するカーボンブラック[含有量(X)は全て10%]、及び0〜40%の鱗片状Ni(厚み1μm、幅15〜20μm)を添加した塗料(ベース樹脂としてポリエステル樹脂を用い、架橋剤としてメラミン樹脂を使用)を同量塗布した後、焼付け、乾燥してすることにより表3のNo.1〜11の各供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜なし)。
【0193】
更に、クリアー塗膜の形成による耐疵付き性及び耐指紋性の向上作用を確認すべく、上記の塗料を塗布した後、クリアーのポリエステル系樹脂を塗布し、その後、焼付け、及び乾燥することにより、表3のNo.12〜22の各供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜あり)。このうちNo.12〜14は、導電性フィラーであるNiを添加しなかった例である。
【0194】
この様にして得られた各供試材につき、実施例1と同様の方法で放熱性及び導電性を評価すると共に、下記要領で耐指紋性、及び耐疵付き性を評価した。尚、導電性は以下の基準で相対評価した。
【0195】
◎:優れる 抵抗10Ω以下
○:良好 抵抗10〜100Ω
×:劣る 抵抗100Ω超
[耐疵付き性]
ブランク径110mm、ポンチ径約50mmの円筒成形プレス機を用い、各供試材にプレステストを施し、摺動部の疵付き状況を肉眼で観察し、以下の基準で評価した。尚、ポンチ径は金型のクリアランスが+40μmとなる様に調整し、プレス条件は、速度40spm、ポンチR0.5mmとした。
【0196】
◎:良好(外観変化なし)
○:わずかに痕跡あり
×:痕跡が目立つ
[耐指紋性]
各供試材の表面に指を1秒間当て、指紋の痕跡を目視評価した。評価基準は以下の通りである。
【0197】
◎:指紋の痕跡が認められない
○:わずかに指紋の痕跡あり
×:指紋の痕跡が目立つ
得られた結果を表3に併記する。尚、表中、「−」は、導電性フィラーを添加しない/クリヤー皮膜を形成しない為、各特性を評価しなかったことを意味する。
【0198】
【表3】
【0199】
表3より以下の様に考察することができる。
【0200】
まず、No.1〜2は、導電性フィラー(Ni)を添加せず、黒色添加剤(カーボンブラック)の平均粒径を変化させた例であるが、当該平均粒径が本発明の好ましい範囲(5〜100nm)に制御されているので、いずれも良好な放熱特性が得られている。
【0201】
また、No.3〜11は、塗膜中にカーボンブラック及びNiを含有する例であるが、このうちNo.3〜10は、本発明の要件を満足しているので、放熱特性及び導電性の双方に優れている。尚、No.10の導電性が他の例(No.3〜9)に比べ、若干低下するのは、塗膜厚が増加する為に塗膜の電気抵抗が大きくなっていることが考えられる。
【0202】
これに対し、No.11は黒色塗膜の膜厚が好ましい上限(12μm以下)を外れている為、導電性が低下した。
【0203】
また、No.12〜22は、黒色塗膜にクリヤー皮膜を被覆した例である。
【0204】
このうちNo.12〜18、21〜22は、クリヤー塗膜の膜厚が本発明の好ましい範囲を満足している為、耐指紋性及び耐疵付き性の双方に優れている。但し、No.12〜14は、導電性フィラーを含有しない為、或いは、No.21は、導電性フィラーの添加量が本発明の好ましい下限を下回る為、導電性フィラーを含有するNo.15〜20及び22に比べ、導電性が低下している。尚、No.22は、導電性フィラーの添加量が多い例であり、導電性は非常に良好であるが、加工性が低下することを確認している(表には記載せず)。
【0205】
これに対し、No.19はクリヤー皮膜の膜厚が本発明の好ましい上限を超える為、導電性が阻害されている。また、No.20はクリヤー皮膜の膜厚が本発明の好ましい下限を外れる為、耐指紋性及び耐疵付き性が低下した。
【0206】
実施例4:第一の塗装体における放熱性及び導電性の評価
本実施例は、実施例1において、原板及び添加剤の種類、表裏面の放射率を種々変化させた各供試体における放熱特性及び導電性を、実施例1と同様にして測定した。
【0207】
具体的には表4及び表5に記載の組成からなる供試体(No.1〜30)を用いた。このうち表5のNo.19は、原板としてZn−Ni合金めっき鋼板を黒色化処理したものを使用し;表5のNo.26は、原板としてAl板(1050)を使用し;表5のNo.27は、原板としてCu板を使用し;その他の供試体は、原板として電気亜鉛めっき鋼板を使用した。尚、これら原板の板厚はすべて0.6mmである。
【0208】
尚、ベース樹脂は、実施例1と同様、ポリエステル樹脂を用い、架橋剤としてメラミン樹脂を使用し、実施例1と同じ方法で焼付け、乾燥することにより表4及び5の各供試材(120×150mm)を作製した。
【0209】
得られた結果を表4及び表5に併記する。
【0210】
【表4】
【0211】
【表5】
【0212】
表4及び表5より、本発明の要件を満足する塗装体(表4のNo.1〜15、表5のNo.23〜28)は、いずれも良好な放熱特性を有しており、放射率の積(表中、a×b)が大きい程、放熱特性に優れることが分かる。また、塗膜中にNiを添加した塗装体(表4のNo.2、4、6〜7、10、13;表5のNo.16〜18、24〜26)は、更に導電性にも優れている。
【0213】
このうち表5のNo.23〜26は、裏面にカーボンブラックを添加し、表面にカーボンブラック以外の添加剤を添加して放熱塗膜を形成させた例である(No.23は、酸化チタンのみ添加した例;No.24は、酸化チタン及び酸化鉄を混合添加した例;No.25は、カーボンブラックとアクリルビーズを混合添加した例;No.26は、Alフレークのみ添加した例)が、本発明の要件を満足しているので、優れた放熱特性を発揮している。
【0214】
これに対し、本発明の要件を満足しない塗装体(表5のNo.16〜22、29〜30)は、いずれも放熱特性に劣っている。特に表5のNo.18〜20、29は、片面のみ塗装した例であるが、所望の放熱特性が得られない。
【0215】
以下の実施例5は、本発明に係る第二の塗装体について、放熱性及び自己冷却性を中心に種々の特性を評価したものである。
【0216】
実施例5:第二の塗装体における放熱性及び導電性の評価
本実施例では、実施例1において、添加剤の種類、表裏面の放射率を種々変化させた各供試体における放熱特性及び導電性を、実施例1と同様にして測定すると共に、前述した方法により自己冷却性を評価した。
【0217】
具体的には表6に記載の組成からなる供試体(No.1〜19)を用いた。このうちNo.17は、原板として、Zn−Ni合金めっき鋼板を黒色化処理したもの(板厚0.6mm)を使用し、それ以外は、原板として電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.6mm)を使用した。ベース樹脂はいずれの供試体も、実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、架橋剤としてメラミン樹脂を使用し、実施例1と同じ方法で焼付け、乾燥することにより各供試材(120×150mm)を作製したものである。
【0218】
尚、放熱特性を表すΔT1は、下記基準で相対評価した。本発明に係る第二の塗装体では、◎、●及び○の塗装体を、「当該塗装体における良好な放熱性を発揮するもの」と評価している。
【0219】
◎:3.5≦ΔT1
●:2.7≦ΔT1<3.5
○:1.5≦ΔT1<2.7
△:1.0≦ΔT1<1.5
×:ΔT<1.0
また、自己冷却性を示すΔT2は、下記基準で相対評価した。ΔT2が大きければ大きい程、放熱特性に優れていることを示す。尚、本発明に係る第二の塗装体では、◎及び○の塗装体を、「優れた自己冷却性を発揮するもの」として評価している。
【0220】
◎:1.5≦ΔT2
○:0.5≦ΔT2<1.5
×:ΔT2<0.5
得られた結果を表6及び7に記載する。
【0221】
【表6】
【0222】
【表7】
【0223】
上記表より、本発明の要件を満足する塗装体(No.1〜12)は、いずれも良好な放熱特性を維持しつつ、しかも、優れた自己冷却性を有している。特に、自己冷却性の指標である式(4)において、Q値(=0.9a−b)が0.045以上を遥かに超えるNo.1〜8は、極めて優れた自己冷却性を発揮しており、Q値が大きい程、自己冷却性に優れていることが分かる。
【0224】
また、塗膜中にNiを添加した塗装体(No.1〜5、7〜9、11〜12)は、更に導電性にも優れている。
【0225】
このうち表6のNo.3及び7は、表面にカーボンブラック含有塗膜を被覆し、裏面には塗膜のみ被覆した(添加剤なし)例;No.6/No.12は、表面/裏面にカーボンブラック含有塗膜を被覆し、裏面/表面に酸化チタン含有塗膜を被覆した例;No.10は、表裏面にいずれも、メタリック調外観塗膜を被覆した例;No.11は、表面にAlフレーク含有塗膜を被覆し、裏面にカーボンブラック含有塗膜を被覆した例であるが、いずれも本発明の要件を満足しているので、優れた自己冷却性を有しており、放熱特性も良好である。
【0226】
また、表6のNo.1及びNo.11は、裏面の塗膜にカーボンブラックを添加した例であるが、上式(6)を満足しなくとも、第二の塗装体で定める指標[式(4)及び(5)]を満足する為、自己冷却性も放熱特性も良好である。
【0227】
これに対し、本発明の要件を満足しない塗装体(No.13〜19)は、いずれも自己冷却性に劣っている。
【0228】
例えばNo.13は、片面に塗装を施さない片面塗装体であり、ベースとなる放熱特性が得られていない。同様にNo.14は、表面(カーボンブラック含有塗膜)の組成が上式(6)を満足しない為、放熱特性の指標となる式(5)を満たさず、所望の放熱特性が得られない。No.15も、表裏面に添加剤を全く添加せず、塗膜厚が薄い為、所望の放熱特性が得られない。
【0229】
一方、No.16は、表裏面の放射率が同程度の例であり、所望の自己冷却性が得られない。No.17は、表裏面を同じ方法で黒色化処理した従来例であり、表裏面の放射率が同程度になる為、所望の自己冷却性が得られない。No.18は、表面に比べ、裏面の放射率が大きい例であり、自己冷却性が低下している。
【0230】
以下の実施例6は、本発明に係るクロムフリー塗装体について、耐食性、塗膜密着性、加工性及び導電性を中心に検討したものである。
【0231】
実施例6:クロムフリー塗装体における耐食性、塗膜密着性、加工性及び導電性の評価
本実施例では、クロムフリーの下地処理が施された基板の表裏面に同量の塗料を施し、同じ厚さの放熱塗膜を施した塗装体を用い、上述した種々の特性を評価した。
【0232】
具体的には、電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、片面Zn付着量20g/m2)を原板として用い、日本ペイント株式会社製「サーフコートEC2000(Si付着量50mg/m2)」によるクロムフリーの下地処理を行った。その表裏面に、下塗り塗料として、カーボンブラック(10%)、及び表8に記載の塗料成分[ベース樹脂、架橋剤、及び防錆剤(トリポリりん酸アルミニウムとカルシウムイオン交換シリカを8:2の質量比率で混合したものを使用)]、更に必要に応じて鱗片状Ni(厚み1μm、幅15〜20μm)を同量塗布して放熱塗膜を形成した後、焼付け、乾燥することにより表8のNo.23の各供試材(120×150mm)を作製する(クリヤー塗膜なし)と共に、上記の塗料を塗布した後、クリアーのポリエステル系樹脂を塗布し、その後、焼付け、及び乾燥することにより、表8のNo.1〜22の各供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜あり)。ここで、放熱塗膜の膜厚はすべて8μmであり、クリヤー塗膜の膜厚はすべて1μmである。また、No.21は、導電性フィラーであるNiを添加しなかった例である。
【0233】
この様にして得られた各供試材につき、実施例1と同様の方法で放熱性及び導電性を評価すると共に、実施例3と同様の方法で耐指紋性及び耐疵付き性を評価した。更に耐食性、塗膜密着性、及び加工性について、以下の基準で評価した。
【0234】
[耐食性]
上記各供試体を用いてJIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験を72時間若しくは120時間行い、各経過時間で平面部の塗膜に発生した外観異常部(錆・膨れ)の面積率を測定する。この様にして測定された外観異常部の面積率が10%以下のものを「本発明例」とする。
【0235】
[加工性(クラックの数)]
上記供試体を50×50mmにカットし、JIS K 5400に規定されている屈曲曲げ試験にて密着曲げ(0T曲げ)試験を行い、曲げ部のクラックをビデオスコープ写真(倍率は25倍)で観察して、当該クラックの数を測定する。
詳細には、3mm幅視野中に存在する長径0.1mm以上のクラック数を測定し、合計10視野におけるクラック数の平均値を「クラックの数」と評価する。この様にして測定された「クラックの数」が5個以下のものを「本発明例」と評価する。
【0236】
[加工性(塗膜密着性)]
上記の密着曲げ試験を行った後、曲げ部をテーピングし、テープ剥離した後の塗膜剥離の程度に応じて、下記基準に従い、塗膜密着性を評価する。評価対象部分は、サンプルの両端5mmを外した40mm幅分とする。
【0237】
○:剥離なし
△:僅かに剥離あり(評価部分における塗膜の剥離が3個以内)
×:剥離あり(評価部分における塗膜の剥離が4個以上)
得られた結果を表8に併記する。
【0238】
【表8】
【0239】
上記表より、以下の様に考察することができる。尚、上記の各供試体は、いずれも良好な放熱性を有しており、クリヤー塗膜を施したNo.1〜22については、優れた耐指紋性及び耐疵付き性を有していることを確認している(表には記載せず)。
【0240】
まず、本発明の要件を満足する塗装体(No.2〜5、7〜14、16〜17、21〜23)は、いずれも耐食性、塗膜密着性、及び加工性に優れている。特に、上記塗装体のうち、メラミン系架橋剤とイソシアネート系架橋剤を所定比率で併用した塗装体は、単独で使用した塗装体(No.8、9)に比べ、上記特性が格段に優れていることが分かる。更に、放熱塗膜の上にクリヤー塗膜を施した塗装体(No.23を除く上記塗装体)は、非常に優れた耐食性を備えている。
尚、No.8は、架橋剤としてメラミン系架橋剤を単独使用(添加量5.5質量%)し、且つ、クリヤー塗膜を施した例であるが、クリヤー塗膜を施さなくとも、同程度の非常に優れた耐食性[塩水噴霧試験耐食性試験(120時間)における外観異常部の面積率は1%未満]を有することを、実験により確認している(表には示さず)。
【0241】
更に導電性フィラーのNiを添加した塗装体(No.21を除く上記塗装体)は、導電性も良好である。
【0242】
これに対し、本発明の要件を満足しない塗装体(No.1、6、15、18〜20)は、以下の不具合を有している。
【0243】
まず、No.1は、防錆剤を使用しない例であり、耐食性に劣っている。
【0244】
No.6は、樹脂の量が少ない例であり、塗膜密着性及び加工性が低下する。
【0245】
No.15、18及び19は、イソシアネート系架橋剤に対し、メラミン系架橋剤の含有比率が多い(即ち、イソシアネート系架橋剤の含有比率が少ない)例であり、いずれもクラックの数が多く、加工性に劣っている。特にメラミン系架橋剤の含有比率が非常に多いNo.19は、イソシアネート系架橋剤の添加による加工性向上作用が充分得られず、クラックの数が非常に多くなり、塗膜密着性も低下する。
【0246】
No.20は、ポリエステル系樹脂を使用した例であり、耐食性及び塗膜密着性が低下する。
【0247】
【発明の効果】
本発明の塗装体は以上の様に構成されているので、電子機器部材に要求される本来の特性(防水・防塵等に伴う気密性確保、小型化・軽量化)を満足しつつ、当該電子機器部材の内部温度の低減化(放熱特性)をも具備し得る新規な電子機器部材用塗装体;更には、電子機器部材用塗装体自体の温度上昇を抑える特性(自己冷却性)にも優れた電子機器部材用塗装を提供することができた。本発明の塗装体は、特に、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録分野;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連分野等の他、プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等、様々な電子機器部材に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明塗装体において、ΔT1(放熱性)を評価する為に用いた装置の概略図である。
【図2】本発明に係る第一の塗装体における放熱特性(a×b)の範囲を示すグラフである。
【図3】本発明に係る第二の塗装体における、自己冷却性と放熱特性の双方に優れた範囲を示すグラフである。
【図4】ΔT1と、表面・裏面の赤外線放射率の積(a×b)の関係を示すグラフである。
【図5】P値[=(X−3)×(Y−0.5)]と、表面・裏面の赤外線放射率の積(a×b)の関係を示すグラフである。
【図6】実施例5において、ΔT2と、Q値(=0.9a−b)との関係を示すグラフである。
【図7】実施例5において、ΔT1と、R値[=(a−0.05)×(b−0.05)]との関係を示すグラフである。
【図8】防護部材で部分的に覆われた放熱性評価装置の概略図である。
【図9】全面を防護部材で覆った放熱性評価装置の概略図である。
【図10】本発明装置に用いられる測温装置の好ましい位置を示す概略説明図である。
【図11】実施例1において、カーボンブラックの含有量(X)と塗膜厚(Y)の関係を示すグラフである。
【図12】実施例2のNo.1における、赤外線の波長と放射率との関係を示すグラフである。
【図13】実施例2のNo.2における、赤外線の波長と放射率との関係を示すグラフである。
【図14】実施例2のNo.3における、赤外線の波長と放射率との関係を示すグラフである。
【図15】実施例2のNo.4における、赤外線の波長と放射率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 供試材(被験体)
2 断熱材
3 発熱体
4 防護部材(カバー)
5 測温装置
Claims (31)
- 基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
図1に示す放熱性評価装置を用い、
供試材として前記塗装体を使用したときのT1位置の温度T1Aと、
供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときのT1位置の温度T1Bとの差ΔT1(=T1B−T1A)が2.6℃以上であることを特徴とする放熱性に優れた電子機器部材用塗装体。 - 基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
該塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(1)を満足することを特徴とする放熱性に優れた電子機器部材用塗装体。
a×b≧0.42 … (1)
a:表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率 - a≧0.65及び/又はb≧0.65を満足するものである請求項2に記載の塗装体。
a:表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率 - 前記塗装体において、4.5〜15.4μmの波長域における分光放射率の最大値Aと最小値Bとの差(A−B)が0.35以下である請求項2または3に記載の塗装体。
- 基板の表裏面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
該放熱塗膜のうち少なくとも片面は、黒色添加剤を含有しており、且つ、
下式(2)を満足することを特徴とする放熱性に優れた塗装体。
(X−3)×(Y−0.5)≧15 … (2)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を、
Yは塗膜厚さ(μm)を、夫々、意味する。 - 更に、下式(3)を満足するものである請求項5に記載の塗装体。
4≦X<15 … (3)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を意味する。 - 更に、塗膜厚さY>1μmを満足するものである請求項5または6に記載の塗装体。
- 前記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmである請求項5〜7のいずれかに記載の塗装体。
- 前記黒色添加剤はカーボンブラックである請求項5〜8のいずれかに記載の塗装体。
- 基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
図1に示す放熱性評価装置を用い、
供試材として前記塗装体を使用したときの塗装体温度T2Aと、
供試材として塗膜が被覆されていない基板を使用したときの基板温度T2Bとの差ΔT2(=T2B−T2A)が0.5℃以上である放熱性及び自己冷却性に優れた塗装体。 - 基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
該塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(4)及び(5)を満足することを特徴とする放熱性及び自己冷却性に優れた電子機器部材用塗装体。
b≦0.9(a−0.05) … (4)
(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08… (5)
a:表面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率 - 基板の表裏面に塗膜が被覆されており、且つ、基板の少なくとも表面に、放熱性を有する放熱塗膜であって導電性フィラーを含有しない放熱塗膜が被覆された塗装体であって、
前記放熱塗膜は黒色添加剤を含有しており、且つ、
下式(6)を満足することを特徴とする放熱性及び自己冷却性に優れた塗装体。
(X−3)×(Y−0.5)≧3 … (6)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を、
Yは塗膜厚さ(μm)を、夫々、意味する。 - 更に、下式(7)を満足するものである請求項12に記載の塗装体。
4≦X<15 … (7)
式中、Xは放熱塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量(質量%)を意味する。 - 更に、塗膜厚さY>1μmを満足するものである請求項12または13に記載の塗装体。
- 前記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmである請求項12〜14のいずれかに記載の塗装体。
- 前記黒色添加剤はカーボンブラックである請求項12〜15のいずれかに記載の塗装体。
- 前記放熱塗膜を形成する樹脂は、非親水性樹脂である請求項1〜16のいずれかに記載の塗装体。
- 前記非親水性樹脂は、ポリエステル系樹脂である請求項17に記載の塗装体。
- 前記放熱塗膜に、クリアー塗膜が被覆されることにより耐疵付き性及び耐指紋性が高められたものである請求項1〜18のいずれかに記載の塗装体。
- 前記放熱塗膜は、更に防錆剤を含有するものである請求項1〜19のいずれかに記載の塗装体。
- JIS K 5400に規定されている密着曲げ試験におけるクラック数が5個以下を満足するものである請求項19または20に記載の塗装体。
- JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(72時間)における外観異常部の面積率は10%以下を満足するものである請求項19〜21のいずれかに記載の塗装体。
- 前記放熱塗膜に、更に塗膜が被覆された塗装体であって、JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(120時間)における外観異常部の面積率は10%以下を満足するものである請求項19〜21のいずれかに記載の塗装体。
- クロムフリー系下地処理の施された基板に適用される塗料組成物であって、
塗膜形成成分に対し、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂を35質量%以上、防錆剤を2〜25質量%、架橋剤を1〜20質量%、及び黒色添加剤を3質量%超含有することを特徴とする電子機器部材用塗料組成物。 - 前記架橋剤は、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、メラミン系樹脂を5〜80質量部の比率で含有するものである請求項24に記載の組成物。
- 前記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmである請求項24または25に記載の組成物。
- 前記黒色添加剤はカーボンブラックである請求項24〜26のいずれかに記載の組成物。
- 放熱性、耐食性、塗膜密着性、及び加工性に優れたクロムフリー系塗膜を形成するものである請求項24〜28のいずれかに記載の組成物。
- 閉じられた空間に発熱体を内臓する電子機器部品であって、
該電子機器部品は、その外壁の全部または一部が請求項1〜23のいずれかに記載の電子機器部材用塗装体で構成されていることを特徴とする電子機器部品。 - 被験板の放熱性を評価する放熱性評価装置であって、
天井面の全部または一部は前記被験体で構成され、側面及び底面は断熱材で構成された箱体の底面には発熱体が設置され、且つ、
箱体内略中央部には測温装置を設けたものであることを特徴とする放熱性評価装置。 - 前記被験板の上方に、外気条件から遮断する防護部材を設けたものである請求項30に記載の放熱性評価装置。
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