JP2004068109A - 反応性スパッタリング用ターゲットおよびそれを用いて成膜した光学薄膜 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の反応性スパッタリング用ターゲットは、一元素単体もしくはその化合物を主成分とし、少なくともこの主成分とは融点の異なる1種類の他の元素単体もしくはその化合物からなる成分を、主成分に対して所定の混合比で一様に混合固化したものである。上記ターゲットの主成分元素をSiとし、他の成分元素をTa、Nb、Zr、TiまたはAlのうち、少なくとも1種類とするのが好ましい。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光学薄膜の反応性スパッタリング技術による成膜に関し、とくにそれに用いる金属ターゲットに関する。
【0002】
【従来の技術】
光通信用レンズ、眼鏡、ディスプレイ装置の画面などの表面に光学薄膜を形成することで、基板だけでは実現できない優れた機能を付与することが可能である。このような光学薄膜としては反射防止膜、エッジフィルタ、バンドパスフィルタ、ダイクロイックミラー、コールドミラー等、種々の機能をもったものがある。
【0003】
これらの光学薄膜は、基板上に屈折率1.9以上の高屈折率材料と屈折率1.5以下の低屈折率材料を交互に成膜して形成されるのが一般的であるが、屈折率が1.5〜1.9の中間屈折率材料を用いることで、より優れた光学特性を得ることができる場合がある。
【0004】
例えば、屈折率が異なる2つの媒質間の界面に入射する光の反射を防止するためには、両媒質間に、一方の屈折率から他方の屈折率へ滑らかに屈折率が変化する媒質を挟むことにより、優れた反射防止特性が得られる。この場合、両媒質が上記の高屈折率材料と低屈折率材料に該当する場合には、必ず中間屈折率材料が必要となる。
【0005】
光学薄膜用に用いられる高屈折率材料としては、TiO2(波長1550nmでの屈折率n=2.2)、ZrO2(同n=1.9)、Nb2O5(同n=2.0)、Ta2O5(同n=2.0)など、低屈折率材料としてはSiO2(同n=1.45)、MgF2(同n=1.36)などが知られている。また、中間屈折率材料としては、Al2O3(同n=1.6)、MgO(同n=1.6)などが知られている。なお、Siなどは厳密には金属とは言えないが、ここでは上記の材料等を金属酸化物と総称する。
【0006】
光学薄膜の成膜方法としては真空蒸着法がもっとも一般的であるが、近年、交流電源の普及によりスパッタリング法(とくに反応性スパッタリング法)によっても化合物薄膜、特に酸化物薄膜の成膜を安定に行うことができるようになった。反応性スパッタリング法で成膜された金属酸化物薄膜は平坦性、均一性に優れ、基板に対する付着力も強いので十分な耐候性を有するので、上記光学薄膜への適用にはとくに好ましい。また、反応性スパッタリング法を用いて屈折率が1.5〜1.9程度の中間屈折率をもつ金属酸化物薄膜を得ることも可能である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、酸化物が中間屈折率をもつような金属材料としてはAlやMgなど選択の範囲が狭く、中間屈折率値をもつ光学薄膜は限られたものしか利用できなかった。たとえば、Al2O3の屈折率(n=1.6)よりも少し大きな屈折率、例えばn=1.7や1.75であるような薄膜を得ることは困難である。
【0008】
また、高屈折率から低屈折率に至る滑らかな屈折率変化を薄膜の積層によって得ようとしても、所望の屈折率が得られる金属材料の種類は限られており実現が難しかった。酸化物以外の誘電体を用いることも考えられるが、光学薄膜への応用である限り、使用波長域で透明性が高く、かつ化学的に安定でなければならない。このような条件を考慮すると、選択の幅はそれほど広げることはできない。
【0009】
上記問題点を解決する方法として、複合ターゲットを使用した反応性スパッタリング法が知られている。複合ターゲットとは、酸化物作製時に低屈折率薄膜になるような材料(例えばSi)および高屈折率薄膜になるような材料(例えばTi)を、あらかじめ、例えば碁盤目状などに交互に並べたものである。
【0010】
これを用いてスパッタリングを行うことで低屈折率材料と高屈折率材料が混合し、中間屈折率を有する誘電体薄膜を得ることができる。しかし、複合ターゲットを用いた方法は、ターゲット作製に多大な労力がかかり高コストとなるという問題点がある。その上、ターゲットを構成する各材料の大きさをあまり小さくできないために、得られる誘電体薄膜は面内に屈折率分布が発生しやすくなるという問題点があった。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、いわゆる高屈折率材料と低屈折率材料の中間の任意の屈折率値を有する膜を成膜するための手段を提供することにある。具体的には、スパッタリング法により所望の屈折率を有する光学薄膜を成膜するためのターゲットを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の反応性スパッタリング用ターゲットは、一元素単体もしくはその化合物を主成分とし、この主成分と異なる少なくとも1種類の元素単体もしくはその化合物からなる成分を、主成分に対して所定の混合比で一様に混合固化したものである。
【0013】
このターゲットを用いて酸素雰囲気で反応性スパッタリング法による成膜を行うことにより、主成分元素と少なくとも他の種類の元素を含む酸化物薄膜が得られる。またこのようなターゲットは、複数の元素を面内により均一に存在させることができるため、成膜される薄膜も面内組成分布が小さくできる。したがって光学薄膜としても屈折率分布の少ない膜を得ることができる。また、使用材料の組成比は、化学量論比に影響されずに細かく制御できる。
【0014】
上記ターゲットの主成分元素をSiとし、他の成分元素をTa、Nb、Zr、TiまたはAlのうち、少なくとも1種類とするのが好ましい。
このようなターゲットを使用することにより、SiO2を少なくとも含有し、上記Ta、Nb、Zr、TiまたはAlの少なくとも1種類の酸化物をさらに含有する金属酸化物薄膜を形成することができる。すなわち所望の屈折率を有する光学薄膜を成膜するために適したターゲットを提供することができる。
【0015】
上記の主成分元素と少なくとも1種類の他の成分元素とは、圧縮固化あるいは焼結あるいは反応固化あるいは融結されていることが好ましい。
これらの固化方法により、十分な硬度を有する取り扱い易いターゲットを提供できる。
【0016】
上記主成分元素と少なくとも1種類の他の成分元素は、それら元素間の化合物として含有されていることがさらに好ましく、上記金属元素のシリサイドであることが好ましい。
化合物とくにシリサイドを出発原料として使用することにより、化学的に安定で、かつ十分な硬度を有する取り扱い易いターゲットを提供できる。
【0017】
さらに、上記化合物が粒子として含有され、その平均径が、500μm以下であることが望ましく、100μm以下であればさらに好ましい。
粒径が500μmを超える場合には、得られる薄膜の面内の組成分布が大きくなり、屈折率分布も大きくなる傾向があるため、好ましくない。粒径が100μm以下であれば、面内組成分布が均一な薄膜を得ることができる。
【0018】
本発明の金属酸化物薄膜は、酸素を含有する雰囲気中で反応性スパッタリング法により成膜されるが、主成分元素と少なくとも1種類の他の成分元素を所定の混合比で含有するスパッタリング用ターゲットを用いて成膜されることが望ましい。複数の金属元素を含有した金属酸化物薄膜をその組成を詳細に制御して形成できる。
また、上記の混合比を選択することにより、屈折率を所望の値に制御することが望ましい。必要な屈折率をもつ光学薄膜を提供できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
[実施例1] 80Si−20Taターゲット
(ターゲットの作製)
Siが80atm%(原子百分率)、Taが20atm%となるように粉砕したSiおよびTa粉末を混合し、アルゴン雰囲気下にてホットプレスを行い、焼結を行った。焼結した混合材料を機械成型した後、銅製の背板上にボンディングを行ってターゲットとした。
【0020】
(ターゲット組成の分析)
上記ターゲットの構造、組成を分析するために、作製したターゲットの一部を切断、研磨した試料を準備し、表面の走査電子顕微鏡観察および特性X線面分析による組成分布分析を実施した。同分析の結果、ターゲットは、最大で粒径80μmのSiおよびTaから構成されていた。
【0021】
(酸化物薄膜の成膜)
上記ターゲットをカルーセル型スパッタリング装置に取り付け、反応性スパッタリング法により成膜を実施した。スパッタリングは2本一組のカソードに交流電源を接続して、アルゴン/酸素雰囲気下において行った。成膜条件は、カルーセル回転数0.13s−1、背圧8×10−4Pa、成膜時の圧力0.7Pa、導入ガスは、アルゴンと酸素の流量はそれぞれ15および45ml/分(標準状態)とし、放電出力は1500Wとした。成膜時には特に基板の加熱処理を行わなかった。基板には石英を用いた。
【0022】
(薄膜の評価)
得られた酸化物薄膜は平滑な表面を有し、膜の断面構造は柱状構造等を持たない均質なものであった。膜の屈折率を分光エリプソメータを用いて波長1550nmにおいて測定したところ、1.58であった。
【0023】
[実施例2]70Si−30Taターゲット
実施例1と同様にSiが70atm%、Taが30atm%となるようにターゲットを作製した。このターゲットを使用して実施例1と同様にスパッタリングにより酸化物の成膜を行った。同酸化物の屈折率(λ=1550nm)は1.64であった。
【0024】
[実施例3]80Si−20Nbターゲット
実施例1と同様にSiが80atm%、Nbが20atm%となるようにターゲットを作製した。このターゲットを使用して実施例1と同様にスパッタリングにより酸化物の成膜を行った。同酸化物の屈折率(λ=1550nm)は1.60であった。
【0025】
[実施例4]70Si−30Nbターゲット
実施例1と同様にSiが70atm%、Nbが30atm%となるようにターゲットを作製した。このターゲットを使用して実施例1と同様にスパッタリングにより酸化物の成膜を行った。同酸化物の屈折率(λ=1550nm)は1.65であった。
【0026】
[実施例5] 77Si−23Taターゲット
(ターゲットの作製)
粉砕したTaSi2(タンタルシリサイド)およびSi粉末を、最終的にSiが77atm%(原子百分率)、Taが23atm%となるように、秤量、混合し、アルゴン雰囲気下にてホットプレスを行い、焼結してターゲットを作製した。
【0027】
(ターゲット組成の分析)
上記ターゲットの構造、組成を分析するために、作製したターゲットの一部を切断、表面研磨した試料を準備し、表面の走査電子顕微鏡観察および特性X線面分析による組成分布分析を実施した。同分析の結果、ターゲット組成は、最大で粒径80μmのSiおよび一次粒径が平均約20μmのタンタルシリサイドから構成されていた。
このターゲットを使用して実施例1と同様にスパッタリングにより酸化物の成膜を行った。同酸化物の屈折率(λ=1550nm)は1.60であった。
【0028】
表1にスパッタ成膜に使用したターゲット材料と反応性スパッタにより得られた酸化物膜の屈折率をまとめた。
【表1】
【0029】
ターゲットの主成分であるSiに対する第2成分(この場合TaまたはNb)の添加量を変えることにより、反応性スパッタリング法により得られる酸化物の屈折率が調整可能であることがわかる。したがって、従来、利用できなかった中間屈折率(屈折率1.5〜1.9)の酸化物膜を成膜することが可能となった。
【0030】
また、Siを主成分とした場合、これより融点が高いTaやNbは比較的広い組成範囲で合金化することなく混合することができ、成膜される酸化物薄膜の屈折率を広い範囲で自由に選択できる。
【0031】
さらに第2成分としてZr、Ti、またはAlを用いた場合も上記同様にターゲットの作製が可能であった。またTa以外のNb、Zr、Ti、またはAlのシリサイドを使用することもできる。
【0032】
また、作製したターゲットの硬さについて検討した。SiおよびTa、またはSiおよびNbを原料として(実施例1、2、3、4)作製したものは使用上問題のない硬さを有している。また、出発材料としてSiおよびTaSi2を原料として作製したターゲット(実施例5)は上記ターゲットよりもさらに硬いものであり、スパッタ用ターゲットとしてより望ましいものであった。
【0033】
上記実施例から判るように、各成分は粒子状であり、その粒径は100μm以下である。従来の複合ターゲットのように各成分が数mm程度以上の大きさをもつと成膜された薄膜の成分に面内ゆらぎが発生しやすいが、粒径が100μm以下であれば、薄膜の成分の一様性は高くなる。粒径は100μm以下であることが望ましいが、500μm程度以下であれば、実用上問題のない一様性が得られる。
【0034】
【発明の効果】
本発明のターゲットを用いて酸素雰囲気で反応性スパッタリング法による成膜を行うことにより、主成分元素と少なくとも他の種類の元素を含む酸化物薄膜をその組成を詳細に制御して形成することができる。またこのようなターゲットは、複数の元素を面内により均一に存在させることができるため、成膜される薄膜も面内組成分布が少なくできる。したがって光学薄膜としても屈折率分布の少ない膜を得ることができる。
Claims (8)
- 一元素単体もしくはその化合物を主成分とし、該主成分と異なる少なくとも1種類の元素単体もしくはその化合物からなる成分を、前記主成分に対して所定の混合比で一様に混合固化したことを特徴とする反応性スパッタリング用ターゲット。
- 前記主成分を構成する元素をSi、他の成分を構成する元素をTa、Nb、Zr、TiまたはAlのうち、少なくとも1種類としたことを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング用ターゲット。
- 前記主成分元素と少なくとも1種類の他の成分元素とが圧縮固化あるいは焼結あるいは反応固化あるいは融結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の反応性スパッタリング用ターゲット。
- 前記化合物がTa、Nb、Zr、TiまたはAlのうち、少なくとも1種類の元素のシリサイドであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の反応性スパッタリング用ターゲット。
- 前記化合物が粒子として含有され、該粒子の平均径が、500μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の反応性スパッタリング用ターゲット。
- 前記粒子の平均径が、100μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の反応性スパッタリング用ターゲット。
- 酸素を含有する雰囲気中で反応性スパッタリング法により成膜した金属酸化物薄膜であって、主成分元素と少なくとも1種類の他の成分元素を所定の混合比で含有するスパッタリング用ターゲットを用いて成膜され、複数の金属元素を含有したことを特徴とする光学薄膜。
- 前記混合比を選択することにより、屈折率を所望の値に制御したことを特徴とする請求項7に記載の光学薄膜。
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JP2002231106A JP2004068109A (ja) | 2002-08-08 | 2002-08-08 | 反応性スパッタリング用ターゲットおよびそれを用いて成膜した光学薄膜 |
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JP2017115241A (ja) * | 2015-12-18 | 2017-06-29 | 三菱マテリアル株式会社 | スパッタリングターゲット |
WO2020129558A1 (ja) | 2018-12-21 | 2020-06-25 | コニカミノルタ株式会社 | 誘電体多層膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材 |
WO2020129424A1 (ja) | 2018-12-21 | 2020-06-25 | コニカミノルタ株式会社 | 誘電体膜、その製造方法及びそれを用いた光学部材 |
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2002
- 2002-08-08 JP JP2002231106A patent/JP2004068109A/ja active Pending
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