JP2004063167A - 燃料電池及び燃料電池システム - Google Patents
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Abstract
【課題】低加湿や高加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池を提案し、高出力,高効率の燃料電池システムを実現することにある。
【解決手段】燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードとが固体高分子電解質膜を介して配置された燃料電池において、前記アノード及び前記カソードが前記固体高分子電解質膜に接合され、前記アノード及び前記カソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層の少なくともいずれか一方に、前記固体高分子電解質膜が露出する空所(オープンミクロボイド)を有することを特徴とする燃料電池。
【選択図】 図2
【解決手段】燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードとが固体高分子電解質膜を介して配置された燃料電池において、前記アノード及び前記カソードが前記固体高分子電解質膜に接合され、前記アノード及び前記カソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層の少なくともいずれか一方に、前記固体高分子電解質膜が露出する空所(オープンミクロボイド)を有することを特徴とする燃料電池。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアノード,電解質膜,カソード,拡散層から構成され、アノードで燃料が酸化され、カソードで酸素が還元される燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、発電による排出物の環境に対する負荷が少なくクリーンな発電システムとして注目されている。特に、近年の環境保護への関心の高まりから、燃料電池の分散電源や電気自動車電源への用途展開が期待されている。また、高エネルギー密度の電源として、モバイル機器への燃料電池電源の適用の可能性が検討され始めている。
【0003】
燃料電池には、固体高分子型,リン酸型,溶融炭酸塩型,固体酸化物型等が挙げられる。その中で、固体高分子型燃料電池は室温から100℃の比較的低温で発電が可能であり、かつ、出力密度が高いことから、上述した用途では固体高分子型燃料電池が最も適している。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いる固体高分子電解質膜は、膜内に水を含有することによって高いプロトン導伝性を示す。また、固体高分子型燃料電池は、水素を含む燃料ガスやメタノール等の液体燃料を用いて発電を行い、発電反応によって水が生成する。
【0005】
以上のことから、プロトン導伝性を維持するには電解質膜への水の供給が必要であり、一方で、発電による生成水は燃料の電極触媒へ拡散・浸透を妨げるため速やかに排出しなければならない。従って、固体高分子型燃料電池システムでは、水のマネージメントが極めて重要な技術課題となっている。
【0006】
そこで、特開2000−353528号公報には、電極触媒層を三次元網目多孔質構造とすることによって、ガス透過性と排水性とを改善することが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
水素を含む燃料ガスを用いる燃料電池システムでは、電解質膜の乾燥を防ぐためカソード及びアノードへの供給ガスを加湿しているが、高効率化のためにはできるだけ供給ガスへの加湿量を少なくする必要がある。
【0008】
また、メタノール等を含む液体を燃料とする燃料電池システムでは、特にカソードでの生成水が触媒層への空気の拡散を妨げるため、これを速やかに排出しなければならない。つまり、幅広い加湿環境での発電電圧の維持が必須である。
【0009】
特開2000−353528号公報の開示技術は、電極触媒層の細孔を最適化したものであって、幅広い加湿条件で発電を行った場合、発電電圧を維持することはできない。また、特に低加湿条件では発電電圧が低下するばかりか、電解質膜の乾燥によって耐久性、即ち、発電寿命が短くなってしまう。
【0010】
本発明は、幅広い加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池を提案し、高出力,高効率の燃料電池システムを実現することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の方法によって達成することができる。
【0012】
本発明の燃料電池は、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードが固体高分子電解質膜を介して配置されたものであって、アノード及びカソードが固体高分子電解質膜に接合され、アノード及びカソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、アノード触媒層あるいはカソード触媒層の少なくともいずれか一方に、固体高分子電解質膜が露出する空所(オープンミクロボイド)を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、供給ガス中の燃料を酸化するアノードと供給ガス中の酸素を還元するカソードが固体高分子電解質膜を介して配置され、アノード及びカソードが固体高分子電解質膜に接合され、アノード及びカソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、アノード触媒層あるいはカソード触媒層の少なくともいずれか一方に、供給ガス中に含まれる水蒸気が固体高分子電解質膜に直接接触する細孔を有することを特徴とする燃料電池である。
【0014】
また、空所(オープンミクロボイド)の個々の面積が10〜5000μm2の範囲であることが好ましい。
【0015】
また、空所(オープンミクロボイド)の平均径が10〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
また、細孔の平均径が10〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0017】
また、空所(オープンミクロボイド)を有するアノード触媒層あるいはカソード触媒層の電極面積に対する空所(オープンミクロボイド)の総面積の割合が0.01〜0.05の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、固体高分子電解質膜及びアノード触媒層あるいはカソード触媒層に含まれる固体高分子電解質が、少なくともスルホン酸基を有するフルオロアルキルエーテル側鎖と、フルオロアルキル主鎖とからなる固体高分子電解質を含むことが好ましい。
【0019】
また、電極触媒が炭素粉末に貴金属を担持したものであって、炭素粉末がカーボンブラックであり、貴金属が白金あるいは白金合金であり、白金合金には少なくともルテニウムを含むことが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の燃料電池は、少なくとも燃料電池と、燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給装置と、燃料電池に空気を供給する空気供給装置と、燃料ガスあるいは空気を加湿する加湿器と、燃料電池を冷却する水を供給する水供給装置を具備する燃料電池システムにおける燃料電池として用いることが好ましい。
【0021】
また、燃料電池を冷却する水を燃料電池に送水したのち、加湿器に供給することが好ましい。
【0022】
また、燃料ガスの加湿露点温度(Tan)、及び空気の加湿露点温度(Tca)が、燃料電池の平均温度(Tcell)に対して、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃であることが好ましい。
【0023】
また、燃料電池の固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmであることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明による実施形態について図面を用いて詳しく述べる。
【0025】
図1に本発明の燃料電池の一例を示す。図1中、1がセパレータ、2が固体高分子電解質膜、3がアノード、4がカソード、5が拡散層、6がガスケットである。
【0026】
アノード3及びカソード4を固体高分子電解質膜2に接合し、一体化したものを特に、電極一体化電解質膜(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ぶ。
【0027】
セパレータ1は導電性を有しその材質は、緻密黒鉛プレート,黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料と樹脂によって成形したカーボンプレート,ステンレス鋼やチタン等の耐蝕性の優れた金属材料が望ましい。
【0028】
また、セパレータ1の表面を貴金属メッキしたり、耐食性,耐熱性の優れた導電性塗料を塗布し表面処理することも望ましい。セパレータ1のアノード3及びカソード4に面する部分には溝が形成されており、アノード側には燃料を供給し、カソード側には酸素もしくは空気を供給する。水素を燃料とし、空気を酸化剤とする場合、アノード3及びカソード4ではそれぞれ(1)及び(2)式に示す反応が起き、外部に電気が取り出せる。
【0029】
H2 → 2H+ + 2e− (1)
O2 + 4H+ + 4e− → 2H2O (2)
(1)及び(2)式のプロトンは固体高分子電解質膜2を介して移動する。
【0030】
拡散層5には、撥水化処理したカーボンペーパーあるいはカーボンクロスを用いる。ガスケット6は絶縁性があり、特に水素の透過が少なく、機密性が保たれる材質であればよく、例えばブチルゴム,バイトンゴム,EPDMゴム等が挙げられる。
【0031】
次に、本発明のMEAの一例を図2に示す。また、従来のMEAを図3に示し、本発明との相違を比較し、本発明の特徴を説明する。
【0032】
先ず、従来のMEAの問題点について説明する。図3中、31が固体高分子電解質膜、32がカソード、33がアノード、34が触媒金属、35が担持カーボンである。従来MEAは、D−E断面図に示すように、カソード及びアノードは緻密な触媒層として固体高分子電解質膜31の上下に形成されている。カソード32の触媒層のF拡大図で示すように、従来技術では、触媒金属34が担持された担持カーボン35の隙間を水蒸気あるいは生成水が移動するため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が大きい。
【0033】
次に本発明のMEAについて説明する。図2中、7は空所(オープンミクロボイド)、8が触媒金属、9が担持カーボンである。本発明のMEAのカソード4あるいはアノード3の少なくとも一方の触媒層には、下地である電解質膜が露出したオープンミクロボイド7を形成している。カソード4のオープンミクロボイド7部分を拡大図Cに示す。水蒸気あるいは生成水はオープンミクロボイド7に沿って移動することができるため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が小さい。このようなMEAの構造によって、極端な低加湿や高加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池が実現できる。
【0034】
個々のオープンミクロボイド7の面積は水の移動抵抗を低減するため10μm2以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない5000μm2 以下の範囲が望ましい。オープンミクロボイド7の平均径は上記と同様に、水の移動抵抗を低減するため10μm以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない100μm以下の範囲が望ましい。
【0035】
さらに、長時間発電での電圧低下を抑えるためには、アノード3あるいはカソード4の電極面積に対するオープンミクロボイド7の総面積の割合が0.01 〜0.05の範囲であるのが望ましい。
【0036】
次に、本発明の別のMEAの一例を図4に示す。図4中、10は細孔である。カソード4あるいはアノード3の少なくとも一方の触媒層に、下地である電解質膜に直接水蒸気が接触できる細孔10を形成することによって、オープンミクロボイド7を形成した場合と同様の効果が得られる。
【0037】
即ち、カソード4の細孔10の拡大図Iに示すように、水蒸気あるいは生成水は細孔10に沿って移動することができるため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が小さい。個々の細孔10の平均径は、水の移動抵抗を低減するため10μm以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない100μm以下の範囲が望ましい。細孔10は前記の平均径の範囲で下地の固体高分子電解質膜に通気していれば、複雑に入り組んだ通気路でよい。
【0038】
さらに、本発明で用いる固体高分子電解質膜2には、水素イオン導電性を示す高分子膜を用い、例えばパーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。その他にポリスルホン類,ポリエーテルスルホン類,ポリエーテルエーテルスルホン類,ポリエーテルエーテルケトン類,炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料が挙げられる。
【0039】
また、本発明の燃料電池発電装置を90℃以上の高温で作動させる場合は、タングステン酸化物水和物,ジルコニウム酸化物水和物,スズ酸化物水和物,ケイタングステン酸,ケイモリブデン酸,タングストリン酸,モリブドリン酸などの水素イオン導電性無機物を耐熱性樹脂にミクロ分散した複合固体高分子電解質膜を用いることが望ましい。
【0040】
一方、本発明で用いる触媒金属8には、カソード側に少なくとも白金,アノード側に少なくとも白金及びルテニウムを含む合金を用いることが、高い発電電圧が得られ、CO等の被毒による電圧の低下が小さい点で望ましい。
【0041】
但し、本発明では、特に前記に制限されるものではなく、電極触媒の安定化や長寿命化のために上記した貴金属成分に鉄,錫や希土類元素等から選ばれた第3の成分を添加した触媒を用いることは好ましい。
【0042】
さらに、担持カーボン9には微粒子の触媒金属8を担持するため、比表面積の大きいカーボンブラックが望ましく、その比表面積は50〜1500m2/g の範囲であることが望ましい。
【0043】
本発明のMEA作製の一例を以下に述べる。触媒金属8を担持した担持カーボン9(以下、単に電極触媒と述べる)、固体高分子電解質、及び固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合し、電極触媒ペーストを作製する。
【0044】
次に、スクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって電極触媒ペーストを、テトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の乖離フィルムに塗布する。乖離フィルムには予め後で抽出できるワックスをスプレー等によって噴霧し、乖離フィルム表面に粒状のワックスを形成しておく。
【0045】
電極触媒ペーストを塗布し触媒層を形成した後、粒状のワックスを固体高分子電解質が溶解しない溶媒で抽出して、触媒層にオープンミクロボイド7または細孔10を形成する。
【0046】
触媒層及び固体高分子電解質膜2をホットプレス法によって接合するか、あるいは、触媒層及び固体高分子電解質膜2の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することによって、本発明のMEAを作製することができる。
【0047】
本発明のMEA作製の別の一例を以下に述べる。電極触媒,固体高分子電解質,固体高分子電解質を溶解する溶媒,ワックス粒子を加えて十分混合し、電極触媒ペーストを作製する。
【0048】
次に、スクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって電極触媒ペーストを、テトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の乖離フィルムに塗布する。
【0049】
電極触媒ペーストを塗布し触媒層を形成した後、粒状のワックスを固体高分子電解質が溶解しない溶媒で抽出して、触媒層にオープンミクロボイド7または細孔10を形成する。触媒層及び固体高分子電解質膜2をホットプレス法によって接合するか、あるいは、触媒層及び固体高分子電解質膜2の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することによって、本発明のMEAを作製することができる。
【0050】
次に、本発明の燃料電池システムについて図5に示す。図5中、11が燃料電池、12が燃料供給装置、13が空気供給装置、14が加湿器、15が水供給装置である。
【0051】
本燃料電池システムの燃料電池は、上述の本発明のMEAをもちいることによって、幅広い加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さく、高出力の燃料電池システムを実現できる。
【0052】
また、燃料電池11へ送水した冷却水は電池の発熱を奪い温水となるため、図6に示すように、この温水を加湿器14へ送ることによって、加湿器14での加熱エネルギーを低減し、高効率の燃料電池システムを実現できる。
【0053】
さらに、図7に示すように、熱回収器16を具備することによって、加湿器
14に送水した温水の余剰熱を熱回収器16で回収することによって、高効率な燃料電池システムが実現できる。また、燃料の排ガス中に含まれる未反応燃料を還流することによって、より高効率な燃料電池システムが構築できる。
【0054】
上述の本発明の燃料電池システムにおいて、発電電圧が高く,熱効率が優れる運転条件は、燃料電池11の平均温度をTcell、燃料ガスの加湿露点温度をTan、空気の加湿露点温度をTcaとした場合、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃であることが分かった。
【0055】
また、前記の条件で燃料電池システムを運転する場合、本発明のMEAに用いる固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmの範囲が、発電電圧の変動が小さく、長時間発電の電圧低下が小さく望ましい。30μmより大きい場合発電電圧の変動が大きく、20μm未満の場合長時間発電での電圧低下が大きい。
【0056】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の趣旨とするところはここに開示した実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
アノード及びカソードにカーボンブラックに白金を50wt%担持した電極触媒を用い、この電極触媒にDuPont社のNafion(登録商標)を溶解したNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)を電極触媒対Nafion溶液の重量比が1:9となる割合で合わせ、溶媒揮発させながら混合し粘稠な電極触媒ペーストを調整した。融点が約70℃のパラフィンをキシレンに溶解し、濃度が10wt%のパラフィン溶液を調整した。
【0058】
このパラフィン溶液をPTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに粒状パラフィンを形成した。粒状パラフィンを形成したPTFEシートに電極触媒ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、電極触媒ペーストの溶媒を乾燥させて触媒層を形成した。触媒層中のPt量は単位面積当り0.5mg/cm2 とした。
【0059】
さらに、この触媒層をキシレンに浸漬してPTFEシートに形成した粒状パラフィンを抽出して、触媒層にオープンボードを作製した。上述の触媒層を2枚用い、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(厚み50μm)を用い、その両面にホットプレスによって圧着した。
【0060】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0061】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃あるいは35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0062】
(比較例1)
単なるPTFEシートを用いる以外は実施例1と同様の手順によって、オープンミクロボイドの無い従来MEAを作製した。従来MEAを用い、実施例1と同一条件で発電を行う。
【0063】
実施例1及び比較例1の発電電圧の比較を表1に示す。
【0064】
本発明のMEAを用いた実施例1の燃料電池は発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいが、従来MEAを用いた比較例1の燃料電池は発電電圧が低く、加湿温度によって大きく発電電圧が変動することが分かった。以上のように、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電性能を維持できる。
【0065】
【表1】
【0066】
(実施例2)
融点が約70℃のパラフィンをキシレンに溶解し、パラフィン溶液の濃度を2〜20wt%に変化させて種々の濃度のパラフィン溶液を作製した。これらを
PTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに種々大きさの粒状パラフィンを形成した。
【0067】
これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、種々の大きさのオープンミクロボイドを有する本発明のMEAを作製した。
【0068】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、オープンミクロボイド100個の面積の平均値を求めた。
【0069】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0070】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。
【0071】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0072】
表2に本発明で作製したMEAのオープンミクロボイドの平均面積と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.690V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.588Vより高い発電電圧が得られる。
【0073】
さらに、表2より、オープンミクロボイドの平均面積が10〜5000μm2 の範囲である場合、電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例3)
融点が約60℃のパラフィンをキシレンに溶解し、パラフィン溶液の濃度を2〜20wt%に変化させて種々の濃度のパラフィン溶液を作製した。これらをPTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに種々大きさの粒状パラフィンを形成した。これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、種々の大きさのオープンミクロボイドを有する本発明のMEAを作製した。
【0076】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、オープンミクロボイド100個の平均径を求めた。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0077】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行った。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水した。
【0078】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃とした。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0079】
表3に本発明で作製したMEAのオープンミクロボイドの平均径と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.685V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.630V より高い発電電圧が得られる。
【0080】
さらに、表3より、オープンミクロボイドの平均径が10〜100μmの範囲である場合、発電電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0081】
【表3】
【0082】
(実施例4)
融点が約60℃のパラフィンをキシレンに溶解し、濃度が15wt%のパラフィン溶液を作製した。これらをPTFEシートに噴霧時間を変えて噴霧し、キシレンを揮発させて、粒状パラフィン量の異なるPTFEシートにを形成した。これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、オープンミクロボイド量の異なる本発明のMEAを作製した。
【0083】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、電極面積に対するオープンミクロボイドの占有面積を求めた。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0084】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。
【0085】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は55℃とする。電流密度を0.5A/cm2 、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として連続発電を行う。
【0086】
(比較例2)
比較例1の従来MEAによって、実施例3と同様に連続発電を行う。
【0087】
実施例4及び比較例2の連続発電での発電電圧低下率の比較を表4に示す。本発明のMEAを用いた実施例1の燃料電池は発電電圧の低下が小さく、一方、従来MEAを用いた比較例2の燃料電池は発電電圧の低下が大きい。
【0088】
従って、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電耐久性を持つ。さらに、触媒面積に対するオープンミクロボイドの占有面積が0.01〜0.05の範囲である場合、特に電圧低下率が小さく望ましい。
【0089】
【表4】
【0090】
(実施例5)
アノード及びカソードにカーボンブラックに白金を50wt%担持した電極触媒を用い、この触媒にDuPont社のNafionを溶解したNafion溶液(濃度5wt%,アルドリッチ製)を触媒対Nafion溶液の重量比が1:9となる割合で合わせ、溶媒揮発させながら混合して粘稠な電極触媒ペーストを調整した。
【0091】
さらに、この電極触媒ペーストに、融点が約70℃のパラフィンの粉末を電極触媒対パラフィンの重量比が1:0.01 となる割合で混合した。PTFEシートに前記電極触媒ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、電極触媒ペーストの溶媒を乾燥させて触媒層を形成した。触媒層中のPt量は単位面積当り0.5mg/cm2とした。
【0092】
さらにこの触媒層をキシレンに浸漬して触媒層に含有するパラフィン粉末を抽出して、触媒層に複雑に入り組んだ細孔を作製した。上述の触媒層を2枚用い、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(厚み50μm)を用い、その両面にホットプレスによって圧着した。
【0093】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0094】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃あるいは35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。実施例5の発電電圧を表5に示す。実施例1と同様に、発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいことが分かる。
【0095】
【表5】
【0096】
(実施例6)
実施例5と同様の方法により、粒径が異なる融点が約70℃のパラフィンの粉末を用い、種々の大きさの細孔を有する本発明のMEAを作製した。
【0097】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、触媒層表面で観察される細孔100個の平均径を求めた。上記の本発明のMEAを用い、実施例3と同一条件で発電を行う。
【0098】
表6に本発明で作製したMEAの平均細孔径と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.680V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.630V より高い発電電圧が得られる。
【0099】
さらに、表6より、平均細孔径が10〜100μmの範囲である場合、発電電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0100】
【表6】
【0101】
(実施例7)
アノードに原子比率が1:1の白金ルテニウム合金をカーボンブラックに50wt%担持した電極触媒を用い、以下は実施例1と同様にして本発明のMEAを作製した。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0102】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスには、水素50%,炭酸ガス20%,窒素30%及び一酸化炭素を10ppm 含む混合ガス、カソード供給ガスには空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃ あるいは35℃とする。電流密度を0.25A/cm2 、アノードの水素利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0103】
(比較例3)
比較例1のMEAを用い、実施例7と同一条件で発電を行う。
【0104】
実施例7及び比較例3の発電電圧の比較を表7に示す。本発明のMEAを用いた実施例7の燃料電池は発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいが、従来MEAを用いた比較例3の燃料電池は発電電圧が低く、加湿温度によって大きく発電電圧が変動することが分かる。以上のように、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電性能を維持できる。
【0105】
【表7】
【0106】
(実施例8)
実施例1において作製した燃料電池を用い、図5及び図6に示す燃料電池システムで、加湿器14での消費エネルギーを比較する。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。
【0107】
アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0108】
図5に示す燃料電池システムでは100Wであるのに対して、図6に示す燃料電池システムでは50Wと消費エネルギーが小さくなり、燃料電池の冷却水を加湿器に送水して活用することによって、極端な低加湿や高加湿条件でも優れた発電性能有すると同時に、高効率の燃料電池システムを実現できる。
【0109】
(実施例9)
実施例1において作製した燃料電池を用い、図7に示す燃料電池システムによって発電を行う。このとき、燃料電池11の発電エネルギー,加湿器14の消費エネルギー,熱回収器16の回収エネルギーを合わせた総エネルギーを調べる。燃料電池11の温度が70℃または80℃となるように、水供給装置15から60〜78℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。
【0110】
アノード供給ガスの露点及びカソード供給ガスの露点を種々変更した。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。表8に燃料電池平均温度70℃、表9に80℃の総エネルギーの結果を示す。
【0111】
二重線で囲った条件で総エネルギーが大きく、この結果から、アノードガスの加湿露点温度(Tan)、及びカソードガスの加湿露点温度(Tca)が、燃料電池の平均温度(Tcell)に対して、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃の範囲であることが燃料電池システムの効率の面で望ましいといえる。
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
(実施例10)
実施例1で用いたNafion溶液(濃度5wt%,アルドリッチ製)をキャストして溶媒を乾燥させて、厚みが10,20,30,40μmの固体高分子電解質膜を作製した。
【0115】
これらの固体高分子電解質膜を用いて、実施例1と同様にして本発明の燃料電池を作製した。図7に示す燃料電池システムによって、燃料電池平均温度を70℃、アノードガスの加湿露点温度を65℃、アノードガスの加湿露点温度を50℃に制御して発電を行う。
【0116】
アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を
40%として発電を行う。発電電圧の変動幅と長時間発電の電圧低下率を表10に示す。固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmの範囲が、発電電圧の変動が小さく、長時間発電の電圧低下が小さく望ましいことが分かる。
【0117】
【表10】
【0118】
【発明の効果】
本発明のMEAによって、極端な低加湿や高加湿の条件でも発電電圧が高く、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池が実現可能であり、高出力,高効率の燃料電池システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池の一実施例を示す図である。
【図2】本発明のMEAの一実施例を示す図である。
【図3】従来のMEAを示す図である。
【図4】本発明のMEAの一実施例を示す図である。
【図5】本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【図6】本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【図7】
本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【符号の説明】
1…セパレータ、2,31…固体高分子電解質膜、3,33…アノード、4,32…カソード、5…拡散層、6…ガスケット、7…空所(オープンミクロボイド)、8,34…触媒金属、9,35…担持カーボン、10…細孔、11…燃料電池、12…燃料供給装置、13…空気供給装置、14…加湿器、15…水供給装置、16…熱回収器。
【発明の属する技術分野】
本発明はアノード,電解質膜,カソード,拡散層から構成され、アノードで燃料が酸化され、カソードで酸素が還元される燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、発電による排出物の環境に対する負荷が少なくクリーンな発電システムとして注目されている。特に、近年の環境保護への関心の高まりから、燃料電池の分散電源や電気自動車電源への用途展開が期待されている。また、高エネルギー密度の電源として、モバイル機器への燃料電池電源の適用の可能性が検討され始めている。
【0003】
燃料電池には、固体高分子型,リン酸型,溶融炭酸塩型,固体酸化物型等が挙げられる。その中で、固体高分子型燃料電池は室温から100℃の比較的低温で発電が可能であり、かつ、出力密度が高いことから、上述した用途では固体高分子型燃料電池が最も適している。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いる固体高分子電解質膜は、膜内に水を含有することによって高いプロトン導伝性を示す。また、固体高分子型燃料電池は、水素を含む燃料ガスやメタノール等の液体燃料を用いて発電を行い、発電反応によって水が生成する。
【0005】
以上のことから、プロトン導伝性を維持するには電解質膜への水の供給が必要であり、一方で、発電による生成水は燃料の電極触媒へ拡散・浸透を妨げるため速やかに排出しなければならない。従って、固体高分子型燃料電池システムでは、水のマネージメントが極めて重要な技術課題となっている。
【0006】
そこで、特開2000−353528号公報には、電極触媒層を三次元網目多孔質構造とすることによって、ガス透過性と排水性とを改善することが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
水素を含む燃料ガスを用いる燃料電池システムでは、電解質膜の乾燥を防ぐためカソード及びアノードへの供給ガスを加湿しているが、高効率化のためにはできるだけ供給ガスへの加湿量を少なくする必要がある。
【0008】
また、メタノール等を含む液体を燃料とする燃料電池システムでは、特にカソードでの生成水が触媒層への空気の拡散を妨げるため、これを速やかに排出しなければならない。つまり、幅広い加湿環境での発電電圧の維持が必須である。
【0009】
特開2000−353528号公報の開示技術は、電極触媒層の細孔を最適化したものであって、幅広い加湿条件で発電を行った場合、発電電圧を維持することはできない。また、特に低加湿条件では発電電圧が低下するばかりか、電解質膜の乾燥によって耐久性、即ち、発電寿命が短くなってしまう。
【0010】
本発明は、幅広い加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池を提案し、高出力,高効率の燃料電池システムを実現することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の方法によって達成することができる。
【0012】
本発明の燃料電池は、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードが固体高分子電解質膜を介して配置されたものであって、アノード及びカソードが固体高分子電解質膜に接合され、アノード及びカソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、アノード触媒層あるいはカソード触媒層の少なくともいずれか一方に、固体高分子電解質膜が露出する空所(オープンミクロボイド)を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、供給ガス中の燃料を酸化するアノードと供給ガス中の酸素を還元するカソードが固体高分子電解質膜を介して配置され、アノード及びカソードが固体高分子電解質膜に接合され、アノード及びカソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、アノード触媒層あるいはカソード触媒層の少なくともいずれか一方に、供給ガス中に含まれる水蒸気が固体高分子電解質膜に直接接触する細孔を有することを特徴とする燃料電池である。
【0014】
また、空所(オープンミクロボイド)の個々の面積が10〜5000μm2の範囲であることが好ましい。
【0015】
また、空所(オープンミクロボイド)の平均径が10〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
また、細孔の平均径が10〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0017】
また、空所(オープンミクロボイド)を有するアノード触媒層あるいはカソード触媒層の電極面積に対する空所(オープンミクロボイド)の総面積の割合が0.01〜0.05の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、固体高分子電解質膜及びアノード触媒層あるいはカソード触媒層に含まれる固体高分子電解質が、少なくともスルホン酸基を有するフルオロアルキルエーテル側鎖と、フルオロアルキル主鎖とからなる固体高分子電解質を含むことが好ましい。
【0019】
また、電極触媒が炭素粉末に貴金属を担持したものであって、炭素粉末がカーボンブラックであり、貴金属が白金あるいは白金合金であり、白金合金には少なくともルテニウムを含むことが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の燃料電池は、少なくとも燃料電池と、燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給装置と、燃料電池に空気を供給する空気供給装置と、燃料ガスあるいは空気を加湿する加湿器と、燃料電池を冷却する水を供給する水供給装置を具備する燃料電池システムにおける燃料電池として用いることが好ましい。
【0021】
また、燃料電池を冷却する水を燃料電池に送水したのち、加湿器に供給することが好ましい。
【0022】
また、燃料ガスの加湿露点温度(Tan)、及び空気の加湿露点温度(Tca)が、燃料電池の平均温度(Tcell)に対して、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃であることが好ましい。
【0023】
また、燃料電池の固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmであることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明による実施形態について図面を用いて詳しく述べる。
【0025】
図1に本発明の燃料電池の一例を示す。図1中、1がセパレータ、2が固体高分子電解質膜、3がアノード、4がカソード、5が拡散層、6がガスケットである。
【0026】
アノード3及びカソード4を固体高分子電解質膜2に接合し、一体化したものを特に、電極一体化電解質膜(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ぶ。
【0027】
セパレータ1は導電性を有しその材質は、緻密黒鉛プレート,黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料と樹脂によって成形したカーボンプレート,ステンレス鋼やチタン等の耐蝕性の優れた金属材料が望ましい。
【0028】
また、セパレータ1の表面を貴金属メッキしたり、耐食性,耐熱性の優れた導電性塗料を塗布し表面処理することも望ましい。セパレータ1のアノード3及びカソード4に面する部分には溝が形成されており、アノード側には燃料を供給し、カソード側には酸素もしくは空気を供給する。水素を燃料とし、空気を酸化剤とする場合、アノード3及びカソード4ではそれぞれ(1)及び(2)式に示す反応が起き、外部に電気が取り出せる。
【0029】
H2 → 2H+ + 2e− (1)
O2 + 4H+ + 4e− → 2H2O (2)
(1)及び(2)式のプロトンは固体高分子電解質膜2を介して移動する。
【0030】
拡散層5には、撥水化処理したカーボンペーパーあるいはカーボンクロスを用いる。ガスケット6は絶縁性があり、特に水素の透過が少なく、機密性が保たれる材質であればよく、例えばブチルゴム,バイトンゴム,EPDMゴム等が挙げられる。
【0031】
次に、本発明のMEAの一例を図2に示す。また、従来のMEAを図3に示し、本発明との相違を比較し、本発明の特徴を説明する。
【0032】
先ず、従来のMEAの問題点について説明する。図3中、31が固体高分子電解質膜、32がカソード、33がアノード、34が触媒金属、35が担持カーボンである。従来MEAは、D−E断面図に示すように、カソード及びアノードは緻密な触媒層として固体高分子電解質膜31の上下に形成されている。カソード32の触媒層のF拡大図で示すように、従来技術では、触媒金属34が担持された担持カーボン35の隙間を水蒸気あるいは生成水が移動するため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が大きい。
【0033】
次に本発明のMEAについて説明する。図2中、7は空所(オープンミクロボイド)、8が触媒金属、9が担持カーボンである。本発明のMEAのカソード4あるいはアノード3の少なくとも一方の触媒層には、下地である電解質膜が露出したオープンミクロボイド7を形成している。カソード4のオープンミクロボイド7部分を拡大図Cに示す。水蒸気あるいは生成水はオープンミクロボイド7に沿って移動することができるため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が小さい。このようなMEAの構造によって、極端な低加湿や高加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池が実現できる。
【0034】
個々のオープンミクロボイド7の面積は水の移動抵抗を低減するため10μm2以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない5000μm2 以下の範囲が望ましい。オープンミクロボイド7の平均径は上記と同様に、水の移動抵抗を低減するため10μm以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない100μm以下の範囲が望ましい。
【0035】
さらに、長時間発電での電圧低下を抑えるためには、アノード3あるいはカソード4の電極面積に対するオープンミクロボイド7の総面積の割合が0.01 〜0.05の範囲であるのが望ましい。
【0036】
次に、本発明の別のMEAの一例を図4に示す。図4中、10は細孔である。カソード4あるいはアノード3の少なくとも一方の触媒層に、下地である電解質膜に直接水蒸気が接触できる細孔10を形成することによって、オープンミクロボイド7を形成した場合と同様の効果が得られる。
【0037】
即ち、カソード4の細孔10の拡大図Iに示すように、水蒸気あるいは生成水は細孔10に沿って移動することができるため、水蒸気あるいは生成水の移動抵抗が小さい。個々の細孔10の平均径は、水の移動抵抗を低減するため10μm以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない100μm以下の範囲が望ましい。細孔10は前記の平均径の範囲で下地の固体高分子電解質膜に通気していれば、複雑に入り組んだ通気路でよい。
【0038】
さらに、本発明で用いる固体高分子電解質膜2には、水素イオン導電性を示す高分子膜を用い、例えばパーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。その他にポリスルホン類,ポリエーテルスルホン類,ポリエーテルエーテルスルホン類,ポリエーテルエーテルケトン類,炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料が挙げられる。
【0039】
また、本発明の燃料電池発電装置を90℃以上の高温で作動させる場合は、タングステン酸化物水和物,ジルコニウム酸化物水和物,スズ酸化物水和物,ケイタングステン酸,ケイモリブデン酸,タングストリン酸,モリブドリン酸などの水素イオン導電性無機物を耐熱性樹脂にミクロ分散した複合固体高分子電解質膜を用いることが望ましい。
【0040】
一方、本発明で用いる触媒金属8には、カソード側に少なくとも白金,アノード側に少なくとも白金及びルテニウムを含む合金を用いることが、高い発電電圧が得られ、CO等の被毒による電圧の低下が小さい点で望ましい。
【0041】
但し、本発明では、特に前記に制限されるものではなく、電極触媒の安定化や長寿命化のために上記した貴金属成分に鉄,錫や希土類元素等から選ばれた第3の成分を添加した触媒を用いることは好ましい。
【0042】
さらに、担持カーボン9には微粒子の触媒金属8を担持するため、比表面積の大きいカーボンブラックが望ましく、その比表面積は50〜1500m2/g の範囲であることが望ましい。
【0043】
本発明のMEA作製の一例を以下に述べる。触媒金属8を担持した担持カーボン9(以下、単に電極触媒と述べる)、固体高分子電解質、及び固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合し、電極触媒ペーストを作製する。
【0044】
次に、スクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって電極触媒ペーストを、テトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の乖離フィルムに塗布する。乖離フィルムには予め後で抽出できるワックスをスプレー等によって噴霧し、乖離フィルム表面に粒状のワックスを形成しておく。
【0045】
電極触媒ペーストを塗布し触媒層を形成した後、粒状のワックスを固体高分子電解質が溶解しない溶媒で抽出して、触媒層にオープンミクロボイド7または細孔10を形成する。
【0046】
触媒層及び固体高分子電解質膜2をホットプレス法によって接合するか、あるいは、触媒層及び固体高分子電解質膜2の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することによって、本発明のMEAを作製することができる。
【0047】
本発明のMEA作製の別の一例を以下に述べる。電極触媒,固体高分子電解質,固体高分子電解質を溶解する溶媒,ワックス粒子を加えて十分混合し、電極触媒ペーストを作製する。
【0048】
次に、スクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって電極触媒ペーストを、テトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の乖離フィルムに塗布する。
【0049】
電極触媒ペーストを塗布し触媒層を形成した後、粒状のワックスを固体高分子電解質が溶解しない溶媒で抽出して、触媒層にオープンミクロボイド7または細孔10を形成する。触媒層及び固体高分子電解質膜2をホットプレス法によって接合するか、あるいは、触媒層及び固体高分子電解質膜2の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することによって、本発明のMEAを作製することができる。
【0050】
次に、本発明の燃料電池システムについて図5に示す。図5中、11が燃料電池、12が燃料供給装置、13が空気供給装置、14が加湿器、15が水供給装置である。
【0051】
本燃料電池システムの燃料電池は、上述の本発明のMEAをもちいることによって、幅広い加湿条件でも発電電圧を維持し、長期発電による電圧低下が小さく、高出力の燃料電池システムを実現できる。
【0052】
また、燃料電池11へ送水した冷却水は電池の発熱を奪い温水となるため、図6に示すように、この温水を加湿器14へ送ることによって、加湿器14での加熱エネルギーを低減し、高効率の燃料電池システムを実現できる。
【0053】
さらに、図7に示すように、熱回収器16を具備することによって、加湿器
14に送水した温水の余剰熱を熱回収器16で回収することによって、高効率な燃料電池システムが実現できる。また、燃料の排ガス中に含まれる未反応燃料を還流することによって、より高効率な燃料電池システムが構築できる。
【0054】
上述の本発明の燃料電池システムにおいて、発電電圧が高く,熱効率が優れる運転条件は、燃料電池11の平均温度をTcell、燃料ガスの加湿露点温度をTan、空気の加湿露点温度をTcaとした場合、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃であることが分かった。
【0055】
また、前記の条件で燃料電池システムを運転する場合、本発明のMEAに用いる固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmの範囲が、発電電圧の変動が小さく、長時間発電の電圧低下が小さく望ましい。30μmより大きい場合発電電圧の変動が大きく、20μm未満の場合長時間発電での電圧低下が大きい。
【0056】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の趣旨とするところはここに開示した実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
アノード及びカソードにカーボンブラックに白金を50wt%担持した電極触媒を用い、この電極触媒にDuPont社のNafion(登録商標)を溶解したNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)を電極触媒対Nafion溶液の重量比が1:9となる割合で合わせ、溶媒揮発させながら混合し粘稠な電極触媒ペーストを調整した。融点が約70℃のパラフィンをキシレンに溶解し、濃度が10wt%のパラフィン溶液を調整した。
【0058】
このパラフィン溶液をPTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに粒状パラフィンを形成した。粒状パラフィンを形成したPTFEシートに電極触媒ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、電極触媒ペーストの溶媒を乾燥させて触媒層を形成した。触媒層中のPt量は単位面積当り0.5mg/cm2 とした。
【0059】
さらに、この触媒層をキシレンに浸漬してPTFEシートに形成した粒状パラフィンを抽出して、触媒層にオープンボードを作製した。上述の触媒層を2枚用い、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(厚み50μm)を用い、その両面にホットプレスによって圧着した。
【0060】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0061】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃あるいは35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0062】
(比較例1)
単なるPTFEシートを用いる以外は実施例1と同様の手順によって、オープンミクロボイドの無い従来MEAを作製した。従来MEAを用い、実施例1と同一条件で発電を行う。
【0063】
実施例1及び比較例1の発電電圧の比較を表1に示す。
【0064】
本発明のMEAを用いた実施例1の燃料電池は発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいが、従来MEAを用いた比較例1の燃料電池は発電電圧が低く、加湿温度によって大きく発電電圧が変動することが分かった。以上のように、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電性能を維持できる。
【0065】
【表1】
【0066】
(実施例2)
融点が約70℃のパラフィンをキシレンに溶解し、パラフィン溶液の濃度を2〜20wt%に変化させて種々の濃度のパラフィン溶液を作製した。これらを
PTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに種々大きさの粒状パラフィンを形成した。
【0067】
これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、種々の大きさのオープンミクロボイドを有する本発明のMEAを作製した。
【0068】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、オープンミクロボイド100個の面積の平均値を求めた。
【0069】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0070】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。
【0071】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0072】
表2に本発明で作製したMEAのオープンミクロボイドの平均面積と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.690V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.588Vより高い発電電圧が得られる。
【0073】
さらに、表2より、オープンミクロボイドの平均面積が10〜5000μm2 の範囲である場合、電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例3)
融点が約60℃のパラフィンをキシレンに溶解し、パラフィン溶液の濃度を2〜20wt%に変化させて種々の濃度のパラフィン溶液を作製した。これらをPTFEシートに噴霧し、キシレンを揮発させて、PTFEシートに種々大きさの粒状パラフィンを形成した。これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、種々の大きさのオープンミクロボイドを有する本発明のMEAを作製した。
【0076】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、オープンミクロボイド100個の平均径を求めた。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0077】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行った。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水した。
【0078】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃とした。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0079】
表3に本発明で作製したMEAのオープンミクロボイドの平均径と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.685V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.630V より高い発電電圧が得られる。
【0080】
さらに、表3より、オープンミクロボイドの平均径が10〜100μmの範囲である場合、発電電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0081】
【表3】
【0082】
(実施例4)
融点が約60℃のパラフィンをキシレンに溶解し、濃度が15wt%のパラフィン溶液を作製した。これらをPTFEシートに噴霧時間を変えて噴霧し、キシレンを揮発させて、粒状パラフィン量の異なるPTFEシートにを形成した。これらのPTFEシートを用い、実施例1と同様にして、オープンミクロボイド量の異なる本発明のMEAを作製した。
【0083】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、電極面積に対するオープンミクロボイドの占有面積を求めた。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0084】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。
【0085】
さらに、燃料アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は55℃とする。電流密度を0.5A/cm2 、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として連続発電を行う。
【0086】
(比較例2)
比較例1の従来MEAによって、実施例3と同様に連続発電を行う。
【0087】
実施例4及び比較例2の連続発電での発電電圧低下率の比較を表4に示す。本発明のMEAを用いた実施例1の燃料電池は発電電圧の低下が小さく、一方、従来MEAを用いた比較例2の燃料電池は発電電圧の低下が大きい。
【0088】
従って、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電耐久性を持つ。さらに、触媒面積に対するオープンミクロボイドの占有面積が0.01〜0.05の範囲である場合、特に電圧低下率が小さく望ましい。
【0089】
【表4】
【0090】
(実施例5)
アノード及びカソードにカーボンブラックに白金を50wt%担持した電極触媒を用い、この触媒にDuPont社のNafionを溶解したNafion溶液(濃度5wt%,アルドリッチ製)を触媒対Nafion溶液の重量比が1:9となる割合で合わせ、溶媒揮発させながら混合して粘稠な電極触媒ペーストを調整した。
【0091】
さらに、この電極触媒ペーストに、融点が約70℃のパラフィンの粉末を電極触媒対パラフィンの重量比が1:0.01 となる割合で混合した。PTFEシートに前記電極触媒ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、電極触媒ペーストの溶媒を乾燥させて触媒層を形成した。触媒層中のPt量は単位面積当り0.5mg/cm2とした。
【0092】
さらにこの触媒層をキシレンに浸漬して触媒層に含有するパラフィン粉末を抽出して、触媒層に複雑に入り組んだ細孔を作製した。上述の触媒層を2枚用い、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(厚み50μm)を用い、その両面にホットプレスによって圧着した。
【0093】
上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0094】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃あるいは35℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。実施例5の発電電圧を表5に示す。実施例1と同様に、発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいことが分かる。
【0095】
【表5】
【0096】
(実施例6)
実施例5と同様の方法により、粒径が異なる融点が約70℃のパラフィンの粉末を用い、種々の大きさの細孔を有する本発明のMEAを作製した。
【0097】
なお、本発明のMEAを電子顕微鏡(SEM)で観察し、触媒層表面で観察される細孔100個の平均径を求めた。上記の本発明のMEAを用い、実施例3と同一条件で発電を行う。
【0098】
表6に本発明で作製したMEAの平均細孔径と発電電圧の関係を示す。本発明のMEAを用いた場合0.680V 以上で、従来MEAを用いた比較例1の同一条件での0.630V より高い発電電圧が得られる。
【0099】
さらに、表6より、平均細孔径が10〜100μmの範囲である場合、発電電圧の低下がほとんど無く特に望ましいといえる。
【0100】
【表6】
【0101】
(実施例7)
アノードに原子比率が1:1の白金ルテニウム合金をカーボンブラックに50wt%担持した電極触媒を用い、以下は実施例1と同様にして本発明のMEAを作製した。上記の本発明のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製する。
【0102】
さらに、図5に示す燃料電池システムによって発電を行う。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスには、水素50%,炭酸ガス20%,窒素30%及び一酸化炭素を10ppm 含む混合ガス、カソード供給ガスには空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃,70℃ あるいは35℃とする。電流密度を0.25A/cm2 、アノードの水素利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0103】
(比較例3)
比較例1のMEAを用い、実施例7と同一条件で発電を行う。
【0104】
実施例7及び比較例3の発電電圧の比較を表7に示す。本発明のMEAを用いた実施例7の燃料電池は発電電圧が高く、加湿温度による影響が非常に小さいが、従来MEAを用いた比較例3の燃料電池は発電電圧が低く、加湿温度によって大きく発電電圧が変動することが分かる。以上のように、本発明の燃料電池は極端な低加湿や高加湿の条件でも優れた発電性能を維持できる。
【0105】
【表7】
【0106】
(実施例8)
実施例1において作製した燃料電池を用い、図5及び図6に示す燃料電池システムで、加湿器14での消費エネルギーを比較する。燃料電池11の温度が70℃となるように、水供給装置15から60〜68℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。
【0107】
アノード供給ガスの露点は70℃、カソード供給ガスの露点は85℃とする。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。
【0108】
図5に示す燃料電池システムでは100Wであるのに対して、図6に示す燃料電池システムでは50Wと消費エネルギーが小さくなり、燃料電池の冷却水を加湿器に送水して活用することによって、極端な低加湿や高加湿条件でも優れた発電性能有すると同時に、高効率の燃料電池システムを実現できる。
【0109】
(実施例9)
実施例1において作製した燃料電池を用い、図7に示す燃料電池システムによって発電を行う。このとき、燃料電池11の発電エネルギー,加湿器14の消費エネルギー,熱回収器16の回収エネルギーを合わせた総エネルギーを調べる。燃料電池11の温度が70℃または80℃となるように、水供給装置15から60〜78℃の水を送水する。アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、加湿器14を流通したあと燃料電池11に供給する。
【0110】
アノード供給ガスの露点及びカソード供給ガスの露点を種々変更した。電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を40%として発電を行う。表8に燃料電池平均温度70℃、表9に80℃の総エネルギーの結果を示す。
【0111】
二重線で囲った条件で総エネルギーが大きく、この結果から、アノードガスの加湿露点温度(Tan)、及びカソードガスの加湿露点温度(Tca)が、燃料電池の平均温度(Tcell)に対して、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃の範囲であることが燃料電池システムの効率の面で望ましいといえる。
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
(実施例10)
実施例1で用いたNafion溶液(濃度5wt%,アルドリッチ製)をキャストして溶媒を乾燥させて、厚みが10,20,30,40μmの固体高分子電解質膜を作製した。
【0115】
これらの固体高分子電解質膜を用いて、実施例1と同様にして本発明の燃料電池を作製した。図7に示す燃料電池システムによって、燃料電池平均温度を70℃、アノードガスの加湿露点温度を65℃、アノードガスの加湿露点温度を50℃に制御して発電を行う。
【0116】
アノード供給ガスは水素、カソード供給ガスは空気を用い、電流密度を0.5A/cm2、アノードの燃料利用率を80%、カソードの空気中の酸素利用率を
40%として発電を行う。発電電圧の変動幅と長時間発電の電圧低下率を表10に示す。固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmの範囲が、発電電圧の変動が小さく、長時間発電の電圧低下が小さく望ましいことが分かる。
【0117】
【表10】
【0118】
【発明の効果】
本発明のMEAによって、極端な低加湿や高加湿の条件でも発電電圧が高く、長期発電による電圧低下が小さい燃料電池が実現可能であり、高出力,高効率の燃料電池システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池の一実施例を示す図である。
【図2】本発明のMEAの一実施例を示す図である。
【図3】従来のMEAを示す図である。
【図4】本発明のMEAの一実施例を示す図である。
【図5】本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【図6】本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【図7】
本発明の燃料電池システムの一実施例を示す図である。
【符号の説明】
1…セパレータ、2,31…固体高分子電解質膜、3,33…アノード、4,32…カソード、5…拡散層、6…ガスケット、7…空所(オープンミクロボイド)、8,34…触媒金属、9,35…担持カーボン、10…細孔、11…燃料電池、12…燃料供給装置、13…空気供給装置、14…加湿器、15…水供給装置、16…熱回収器。
Claims (12)
- 燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードとが固体高分子電解質膜を介して配置された燃料電池において、
前記アノード及び前記カソードが前記固体高分子電解質膜に接合され、前記アノード及び前記カソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、
前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層の少なくともいずれか一方に、前記固体高分子電解質膜が露出する空所(オープンミクロボイド)を有することを特徴とする燃料電池。 - 供給ガス中の燃料を酸化するアノードと供給ガス中の酸素を還元するカソードが固体高分子電解質膜を介して配置された燃料電池において、
前記アノード及び前記カソードが前記固体高分子電解質膜に接合され、前記アノード及び前記カソードは、少なくとも電極触媒及び固体高分子電解質からなるアノード触媒層及びカソード触媒層からなり、
前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層の少なくともいずれか一方に、供給ガス中に含まれる水蒸気が前記固体高分子電解質膜に直接接触する細孔を有することを特徴とする燃料電池。 - 請求項1において、前記空所(オープンミクロボイド)の個々の面積が10〜5000μm2 の範囲であることを特徴とする燃料電池。
- 請求項1において、前記空所(オープンミクロボイド)の平均径が10〜100μmの範囲であることを特徴とする燃料電池。
- 請求項2において、前記細孔の平均径が10〜100μmの範囲であることを特徴とする燃料電池。
- 請求項3または4において、前記空所(オープンミクロボイド)を有する前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層の電極面積に対する前記空所(オープンミクロボイド)の総面積の割合が0.01〜0.05の範囲であることを特徴とする燃料電池。
- 請求項1または2において、前記固体高分子電解質膜及び前記アノード触媒層あるいは前記カソード触媒層に含まれる前記固体高分子電解質が、少なくともスルホン酸基を有するフルオロアルキルエーテル側鎖と、フルオロアルキル主鎖とからなる固体高分子電解質を含むことを特徴とする燃料電池。
- 請求項1または2において、前記電極触媒が炭素粉末に貴金属を担持したものであって、前記炭素粉末がカーボンブラックであり、前記貴金属が白金あるいは白金合金であり、前記白金合金には少なくともルテニウムを含むことを特徴とする燃料電池。
- 少なくとも燃料電池と、燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給装置と、燃料電池に空気を供給する空気供給装置と、前記燃料ガスあるいは前記空気を加湿する加湿器と、燃料電池を冷却する水を供給する水供給装置を具備する燃料電池システムにおいて、前記燃料電池として、請求項1から8に記載の燃料電池を用いたことを特徴とする燃料電池システム。
- 請求項9において、前記燃料電池を冷却する前記水を前記燃料電池に送水したのち、前記加湿器に供給することを特徴とする燃料電池システム。
- 請求項10において、前記燃料ガスの加湿露点温度(Tan)、及び前記空気の加湿露点温度(Tca)が、前記燃料電池の平均温度(Tcell)に対して、−10℃≦Tan−Tcell≦−5℃、及び−30℃≦Tca−Tcell≦−20℃であることを特徴とする燃料電池システム。
- 請求項11において、前記燃料電池の前記固体高分子電解質膜の厚みが20〜30μmであることを特徴とする燃料電池システム。
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2002
- 2002-07-26 JP JP2002217421A patent/JP2004063167A/ja active Pending
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