JP2004059968A - 加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線 - Google Patents

加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線 Download PDF

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山本 正弘
Shintaro Yamanaka
山中 晋太郎
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Abstract

【課題】海浜環境において使用可能で、かつ加工性に優れた高耐食めっき鋼線を供する。
【解決手段】鋼線上に、20質量%以上80質量%未満のAlを含み、かつ、0.05質量%以上5.0質量%未満のMgとAl含有量に対して1〜12質量%のSiを含有し、残部がZn並びに不可避的不純物である溶融めっき層を有する加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線。また、前記溶融めっき層が、その下層にAlとFeの合計で60質量%以上を占め、厚さ1μm以上50μm以下の合金層が、該厚さの最大値と最小値の差が平均厚さを超えず、さらに鋼線表面長さ200μm長さあたりの地鉄−合金層界面の凹凸の最大値が50μm以下で地鉄と接している平滑で均質な合金層を有していることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線。
【選択図】  なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐食性に優れるめっき鋼線に関するものであり、さらに詳しくは海水環境でも利用可能な、土木用、農業用、漁業用の高耐食溶融めっき鋼線に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に大気環境で用いられるフェンス、ネット等は、錆が発生せず、景観上優れていることを理由に、溶融亜鉛めっき鋼線が使用されている。また、最近では、自然景観を有する護岸の改修法として自然石を利用することが行われ、その際の自然石の流出等を防ぐために、かごマットと称する溶融めっき鋼線が用いられている。さらに、漁業や農業用の網、綱等も溶融亜鉛めっき鋼線が使われることが多い。これらに用いられている鋼線は、海岸環境では容易に腐食し、寿命が短かった。そのため、高耐食性を有する溶融めっき鋼線が望まれていた。
【0003】
ところで、溶融亜鉛めっき中にAlとMg、さらにSiを共存させることで耐食性が向上することは、特開2000−107215号公報に記載されている。この際のAl濃度としては0.01〜20質量%、Mgとしては0.05〜7質量%と規定している。また、上記合金溶融めっきを鋼線に適用する場合には、鋼材に溶融Znめっきを施し、次いで溶融Al−Zn系合金浴に浸漬する方法が、2浴法又は2段めっき法等の呼称でよく知られ、広く用いられている。この方法は溶融Zn浴と溶融Al−Zn系合金浴を準備する必要があるため経済的な負担が大きい。また、めっき設備等の事情により、溶融Znめっきを施した後、浴を入れ替えて、再度溶融Al−Zn系合金浴に浸漬せざるを得ない場合があり、製造効率が大きく低下する。
【0004】
1浴法としては、溶融塩フラックスを用いてめっきを施す方法が特開平4−323356号公報に開示され、40〜80%程度の高濃度にAlを含有する溶融Al−Zn合金めっきに有効である。しかし、この方法を鋼線に用いるには、鋼材をめっき浴から引き上げる後にめっき表面にフラックスが付着し、これを除去する必要があるため適さない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解決し、海水環境で使用可能な加工性に優れた高耐食めっき鋼線を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための手段として、本発明では以下のように溶融めっき鋼線を規定する。
(1)鋼線上に、20質量%以上80質量%未満のAlを含み、かつ、0.05質量%以上5.0質量%未満のMgと、Al含有量に対して1〜12質量%のSiを含有し、残部がZn並びに不可避的不純物である溶融めっき層を有することを特徴とする加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線。
【0007】
(2)前記溶融めっき層が、その下層にAlとFeの合計で60質量%以上を占め、厚さ1μm以上50μm以下の合金層が、該厚さの最大値と最小値の差が平均厚さを超えず、さらに鋼線表面長さ200μm長さあたりの地鉄−合金層界面の凹凸の最大値が50μm以下で地鉄と接し、平滑で均質な合金層を有していることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線にある。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者は、海水環境での溶融めっき鋼線の耐食性を各種方法で作製した合金亜鉛めっき鋼線を用いて検討した。検討方法としては、人工海水への浸漬試験、人工海水噴霧試験、人工海水への浸漬+乾燥のサイクル試験、さらに海水中での暴露試験である。その結果、人工海水噴霧試験、人工海水への浸漬+乾燥のサイクル試験において、耐食性はめっき中のAlの含有量に強く影響を受け、Al濃度が20質量%以上80質量%未満であり、かつMg濃度が質量%で、かつ0.05質量%以上5.0質量%未満で、かつAl含有量に対して1〜12質量%のSiを含有する場合に、耐食性が優れ、めっき層の組成も構造も均一化し、外観的にも優れためっき層が存在することを見つけ出した。
【0009】
ここで、Al濃度が20質量%以下であると、めっきの組成、構造では問題は無いが、海水環境での耐食性が少し劣ることになる。また、Al濃度が80質量%以上になると、めっき表面にドロス付着や不めっき等の欠陥が生じやすくなる。さらに好ましくは、Al濃度が40質量%以上60質量%未満で、海水環境での耐食性が最も良好となる。
【0010】
本発明では、さらに、Mg濃度として0.05質量%以上5.0質量%未満を規定する。本発明におけるめっき組成では、Alの高濃度添加により、めっき層の組成は、Al濃度が高い部分とAl濃度の低い部分が混在した構造になる。このとき、海水環境での耐食性に優れた部分はAl濃度の高い部分であり、Al濃度の低い部分が優先的に溶解していくことになる。この部分が溶解してしまうと、めっき層は部分的に欠陥が形成された状態になるので、耐食性の向上は期待されない。Mgの添加は、このAl濃度の低い部分の海水環境での耐食性を向上させる。その濃度は比較的少量で効果があり、0.05質量%以上で有効となる。しかしながら、Mgの浴中濃度が5.0質量%を超えると、ドロス付着や不めっき等の欠陥が生じやすくなる。さらに、より耐食性の向上を考慮すると、3.0質量%未満が望ましい。
【0011】
さらに、本発明におけるめっきにおいては、めっきと鋼線の界面近傍にFe−Al系合金層が生成して、めっき密着性や曲げ加工性等の性能が大きく低下する場合がある。これを防ぐために、浴中のAl含有量に対して1〜12質量%程度のSiを添加することが、さらに好ましい。Al含有量に対するSiの添加量が1質量%未満の場合、めっき密着性や曲げ加工性等の性能の低下を防止する効果が小さくなる。また、Al含有量に対するSiの添加量が12質量%を超えても、その効果はあまり変化しない。
【0012】
さらに本発明では、より加工性を向上するために、めっき層の断面構造を詳しく規定する。図1は、本発明により作製しためっき線材のめっき層の断面を顕微鏡で観察した結果である。図1の断面は、溶融めっき鋼線をその長手方向に鋼線の中央部で切断し、樹脂に埋め込み、湿式研磨し、最後に塩酸によりエッチングした後、光学顕微鏡の50倍の倍率で観察した結果である。観察した結果は、溶融めっき鋼線の先端部、中央部、終端部のいずれにおいても、大きな違いは無く、図1の断面は、溶融めっき鋼線全体の平均的な情報を示している。
【0013】
図1より明らかなように、めっき断面は、合金層とめっき層の2層で構成されていることが見られる。1は地鉄、2がめっき下層の合金層、3がめっき上層である。この断面の構成を模式的に示したものを図2に示す。本発明では、2の部分の合金層組成をAlとFeの合計で60質量%以上であることを規定する。本発明の組成の溶融めっき鋼線では、2の合金層の部分は、Fe、Zn、Al、Mg、Siが含有される可能性があるが、この組成中にFe、Alの存在が多ければ、加工性に優れることを明らかにした。この範囲としては、少なくとも両者の合計で60質量%必要であり、これ以上であれば、該合金層の形状が次に加工性に影響を及ぼす。
【0014】
ここで、合金層組成の測定方法としては、断面のEPMA分析や走査型電子顕微鏡でのEDX分析が望ましい。さらに、本発明では、合金層と鋼素地との界面の構造を規定する。即ち、本発明におけるめっき層の断面構造は、めっき下層に相当する合金層の厚さが1μm以上50μmであり、該厚さの最大値と最小値の差が平均厚さを超えず、さらに鋼線表面長さ200μmあたりの地鉄−合金層界面の凹凸の最大値が50μm以下である平滑で均質な合金層であることを規定する。
【0015】
つまり、めっき下層の厚さは、図2で示した5に相当し、この厚さが1μm未満である場合には、極めて短時間処理でめっき外観が不良になりやすい。また、この厚さが50μmを超えると、加工性が著しく低下し、曲げ加工時にめっき層が剥離してしまう恐れが高くなる。さらに、この層の厚みが不均一で、厚さの最大値と最小値の差で平均厚さの1/2を超えた場合には、加工性と耐食性が劣ることがある。さらに、鋼線表面長さ200μmあたりの地鉄−合金層界面の凹凸の最大値が50μmを超えている場合には、加工時にめっき割れが発生することがある。
【0016】
ここで、界面の測定は、前述のように、溶融めっき鋼線の一部を長手方向に中央で切断し、これを埋め込み研磨して、エッチング後に顕微鏡にて観察することで行える。切断位置は、特に規定するものではないが、同様のめっき条件で同様の鋼成分の鋼線を溶融めっきした場合では、それらの中で、一つ若しくはそれ以上を確認することで、平均的な情報として代用しても問題は無い。
【0017】
本発明における鋼線は、特に規定するものではなく、その用途により適宜選定されるものであるが、網や綱に用いるのであれば、線径が10mmφ未満のものが適当である。また、本発明において、めっき層の目付け量は特に規定するものではないが、海水環境中での耐食性を考慮すると、めっき厚みとして20μm以上、目付け量として140/m2 以上が必要となり、厚いほど耐久性は望めるが、逆に加工時に割れが発生することもあり、かつ、めっき作業条件も難しくなるため、厚み100μm以下、目付け量700/m2 以下が望ましい。
【0018】
本発明では、耐食性に優れた上記組成の溶融めっき鋼線を製造するに当たり、溶融合金めっきで用いられる2段めっき法や乾式フラックス法ではなく、湿式フラックス法を用いた処理が望ましい。2段めっき法により上記組成のめっきを作製すると、めっき層中に1段目のめっきで形成されるZn−Fe合金層が不均一に形成され、これにより耐食性が劣化する不具合が生じる。また、乾式フラックス法では、めっき表面層の組成に塩化物等を含むために、海水環境中での耐食性が劣化する不具合が生じる。ところが、湿式フラックス法では、上記の不具合は発生せず、海水環境中での耐食性が良好である。
【0019】
本発明で用いる湿式フラックスの典型的な例としては、(1)ZnCl2 を主成分とし、アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素のフッ化物又はケイフッ化物を含み、さらにアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素の塩化物を含み、さらに、Sn、In、Tl、Sb、Bi等の塩化物を含むものがあげられる。
【0020】
次に、めっき方法について説明する。
まず、鋼線の表面を脱脂、酸洗等により表面を十分に清浄にした後、この鋼線を上記フラックスに浸漬する。本発明では、フラックス水溶液として用いるこのときの固形分の濃度(g/l)を特に規定するものではないが、薄すぎるとフラックスとしての効果が低下する。また、むやみに濃くしても性能上はほとんど変わらないばかりか、フラックスに起因する異物付着の原因になることがある。したがって、通常は100〜300g/l程度が好ましい。また、水に分散することによって白色の沈澱物を生成するが、この沈澱物はpHを酸性側に調節することによって容易に消失し、透明な水溶液となるので、例えば塩酸等を添加するとよい。なお、白色の沈澱物やpHの調節によって、フラックスの性能、即ちめっき性や製品品質には、何等影響はない。
【0021】
フラックス浴の温度は特に規定しないが、鋼線とフラックスの反応を促進させるため、及び、鋼線に付着したフラックスの乾燥を速めるために、通常は60〜80℃程度とするのが好ましい。また、浸漬時間も、任意に設定してかまわないのであるが、通常は5〜10秒程度で十分である。もちろん、これよりも長くてもめっき製品品質上の問題はない。
次に、鋼線をフラックス浴に浸漬した後、乾燥炉やインダクションヒーター等の加熱装置を用いて、付着したフラックスを十分に乾燥させることが好ましい。加熱乾燥を行う場合は、250℃以下、好ましくは200℃以下とするのがよい。これは、250℃を超えるとフラックスが溶融しやすくなって、良好なめっきを得ることができなくなるためである。
【0022】
めっき浴温度、浸漬時間、浸入速度、引上速度及びめっき後の鋼材冷却速度等の製造条件は、鋼材のサイズ、めっき浴組成、めっき厚み等によって適切に決定されるべきものであるので、ここでは敢えて規定しないが、例えば、55質量%のAl、0.5質量%のMg、1.6質量%のSi及び残部がZnと不可避的不純物からなるめっき浴を用いる場合は、めっき浴温度は620〜650℃とし、浸漬時間はφ4mmの鋼線で30秒程度を目安とするとよい。また、めっき浴の温度が高くなると、Feを含む合金層が急速に成長しやすくなり、光沢のないめっきになるので、水冷等の方法によってできるだけ急速に冷却するのが好ましく、冷却速度を特に規定するものではないが、40℃/秒程度以上が好適である。
【0023】
【実施例】
本発明の内容について、実施例に基づいて詳細に説明する。
被めっき材として200mm×5mmφの焼きなまし鋼線を用いた。この鋼線を市販のアルカリ性脱脂剤により脱脂を行った後、70℃の10%HCl水溶液に約10分間浸漬してスケールを除去した。次に、1Lあたりに、2molのZnCl、0.05molのNaF、0.5molのNaCl、0.3molのSnClを含むフラックス溶液に70℃、5秒間浸漬し、200℃の乾燥炉中で約5分間乾燥後、表1に示す浴組成のめっき浴中に約5分間浸漬して、めっきを行った。めっき浴温度は、浴組成によってそれぞれ融点が異なるため、470℃から650℃まで、めっき外観が良好な温度を選択して行った。ただし、一部の試験材では、外観が少し劣る場合もあったが、これらも腐食試験に供した。但し、不めっき部が存在した試験片では、腐食試験を行わなかった。
【0024】
めっき後の試験片は、5cm長さに切断し、インヒビターを添加した5%塩酸中でめっき層を溶解し、ICP分光法により、めっき層中のAl、Mg、Siをそれぞれ分析した。また、1cm長さで鋼線を長手方向に半分に切断し、樹脂に埋め込み、研磨後、塩酸でエッチングし、光学顕微鏡で50倍の倍率で写真撮影し、長手方向200μmの区間で、合金層の厚さの最大値、最小値及び平均値を計測した。さらに、埋め込み試料をEPMAにより分析し、合金層のFeとAlの量を定量分析した。両者の値は、合金層部分の線分析結果の平均値を基に、Al+Feの質量%を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 2004059968
【0026】
腐食試験は、塩水噴霧装置を改造し、人工海水の浸漬乾燥サイクル試験で、40℃、8時間浸漬、60℃16時間乾燥を1サイクルとし、赤錆で表面の5%で覆われるまでのサイクル数で評価した。なお、試験は300サイクル実施で終了し、赤錆の発生しなかったものを良好とした。その結果を表2に示す。また、作製しためっき鋼線の外観と180°曲げ加工をした時の割れ発生を評価した結果も表2に示した。
【0027】
【表2】
Figure 2004059968
【0028】
これらの結果から、本発明におけるめっき鋼線では、加工性と耐食性を両立できていることが示された。なお、No.17、18では、加工部に微小クラックの発生が認められるが、問題となるレベルではない。一方、比較例では、全てにおいて耐食性が劣り、かつ、加工性にも問題があるものもある。即ち、本発明の溶融めっき鋼線では、加工性に優れ、かつ耐食性にも優れることが分かる。
【0029】
【発明の効果】
本発明により、海水環境において長期耐久性を有する高耐食性溶融めっき鋼線が提供できると共に、該高耐食性溶融めっき鋼線を安価に生産性良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のめっき鋼線のめっき層断面顕微鏡写真である。
【図2】本発明のめっき層断面の模式図である。
【符号の説明】
1 地鉄
2 めっき下層(合金層)
3 めっき上層
4 合金層界面の凹凸
5 合金層の厚さ

Claims (2)

  1. 鋼線上に、20質量%以上80質量%未満のAlを含み、かつ、0.05質量%以上5.0質量%未満のMgと、Al含有量に対して1〜12質量%のSiを含有し、残部がZn並びに不可避的不純物である溶融めっき層を有することを特徴とする加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線。
  2. 前記溶融めっき層が、その下層にAlとFeの合計で60質量%以上を占め、厚さ1μm以上50μm以下の合金層が、該厚さの最大値と最小値の差が平均厚さを超えず、さらに鋼線表面長さ200μm長さあたりの地鉄−合金層界面の凹凸の最大値が50μm以下で地鉄と接し、平滑で均質な合金層を有していることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた高耐食溶融めっき鋼線。
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