JP2004059939A - 耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材および該フィン材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ろう付時の耐エロージョン性に優れ、かつ高強度で薄肉化が可能な熱交換器用フィン材を得る。
【解決手段】フィン材の組成を、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものとする。上記組成のAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃でソーキングし、仕上温度200〜300℃で熱間圧延する。少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行う。冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上、最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とする。
【効果】ろう付時の耐エロージョン性およびろう付前後の強度に優れたフィン材が得られ、フィン材の薄肉、軽量化に貢献する。
【選択図】 なし
【解決手段】フィン材の組成を、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものとする。上記組成のAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃でソーキングし、仕上温度200〜300℃で熱間圧延する。少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行う。冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上、最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とする。
【効果】ろう付時の耐エロージョン性およびろう付前後の強度に優れたフィン材が得られ、フィン材の薄肉、軽量化に貢献する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ろう付法によって製造されるアルミニウム合金熱交換器に用いられる熱交換器用アルミニウム合金フィン材および該フィン材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車熱交換器の多くは軽量化、熱伝達率等の観点からアルミ化されており、熱交換器は所定の形状にコルゲート加工したフィンをチューブ間に組付けてろう付により接合している。上記熱交換器用のフィン材としては、通常1000系や3000系合金が用いられている。ろう付に際しては、上記フィン材、チューブ等を加熱炉に配し、600℃付近の高温に加熱してろう材を溶融させ、該ろう材が流れて形成されるフィレットによって各部材を互いに接合している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の合金により製造されたフィン材は、ろう付熱処理時に著しいろうの侵食(エロージョン)が生じ、フィンが座屈等を引き起こし、ろう付後、熱交換器としての強度が低下する問題がある。また、フィン材は軽量化及びコスト低減のため、近年薄肉化の要求が高まる一方であり、より高強度化が求められている。
【0004】
ろう付時のエロージョンに関しては、フィン材の結晶粒界がろうの侵食経路となりやすく、フィン材のろう付時の再結晶粒が微細な場合、結果として材料中に結晶粒界が多く存在することとなり、その後のろう溶融により、エロージョンが生じやすくなる。このことから、フィン材の耐エロージョン性を向上させるためには、ろう付加熱時の再結晶粒を粗大化させる必要がある。しかし、一方で従来のフィン材を用いて、薄肉・高強度化の特性を得るには、ろう付時の再結晶粒を微細化させる必要(結晶粒微細化硬化)がある。このように強度及び耐エロージョン性の両特性は相反する側面があり、これら両特性に優れる新規なAl合金フィン材が求められている。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ろう付時エロージョンが生じにくく、しかも高強度で一層の薄肉化が可能な熱交換器用アルミニウム合金フィン材および該フィン材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の発明者等は、耐エロージョン性および強度に優れたAl合金フィン材を得るべく、耐エロージョン性向上のためろう付時の再結晶粒を粗大化させる一方で、晶析出物の微細分散による強度向上を検討し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材のうち請求項1記載の発明は、質量%で、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1記載の発明において、さらに、質量%で、Zr:0.05〜0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1または2記載の発明において、さらに、質量%で、Zn:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Co:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃の温度でソーキングを行った後、仕上温度200〜300℃で熱間圧延を行い、その後、少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行うとともに、該冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上とし、かつ最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材によれば、ろう付時に、エロージョンに対し優れた防止効果を発揮し、座屈による強度低下を回避することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記効果をより確実なものとすることができる。
【0013】
以下に、本願発明における成分等の限定理由を説明する。以下に示す含有量はいずれも質量%で表されている。
【0014】
Si:0.6超〜1.2%未満
SiはAl−Mn−Si系の微細な析出物を生じ、ろう付時に生成される再結晶粒を粗大化させ、ろう付加熱時の耐座屈性を向上させる働きと、フィン材の強度を向上させる働きがある。Si含有量が0.6%以下であると、上記効果が小さく、一方、1.2%以上では、融点の低下により、ろう付時にフィン材が溶融する可能性がある。このため、Si含有量を上記範囲に定める。
【0015】
Mn:0.75〜2.5%
Mnは合金の強度を向上させるとともにAl−Mn系析出物(Al6Mn等)あるいはAl−Mn−Si等の微細な析出物を生じ、ろう付時生成の再結晶粒を粗大化させ、ろう付加熱時の耐高温座屈性を向上させる働きとフィン材の強度を向上させる働きがある。ただし、Mnの含有量が0.75%未満であると、その効果が小さく、一方、2.5%を越えると、鋳造時の晶出物が粗大化し、加工性およびフィン材の諸特性が低下する。このため、Mn含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でさらに下限を1.0%、上限を2.0%に定めるのが望ましい。
【0016】
Ni:1.0超〜5.0%
Niは、Fe等に比べて、非常に微細な金属間化合物を生成しやすく、ろう付時の再結晶粒をそれほど微細化させることなく耐高温座屈性を向上させるとともに強度を向上させる働きがある。ただし、Ni含有量が1.0%以下であると、その効果が小さく、一方、5.0%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生じ、加工性およびフィン材の諸特性を低下させる。このため、Ni含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でさらに下限を1.0超%、上限を2.0%に定めるのが望ましい。
【0017】
Zr:0.05〜0.3%
Zrは、ろう付時に生じる再結晶粒を粗大化させて、フィン材の耐エロージョン性を向上させるので、所望により含有させる。ただし、Zr含有量が0.05%未満ではその効果が小さく、一方、0.3%を超えると、鋳造時の晶出物が粗大化しやすく加工性を低下させるので、所望により添加する場合の含有量は0.05〜0.3%とする。
【0018】
Zn:1.0超〜5.0%
Znは、フィン材の電位を卑にし、犠牲陽極効果を与える効果があり、所望により含有させる。ただし、Znの含有量が1.0%以下であるとその効果が小さく、一方、5.0%を超えると、フィン材の自己耐食性が低下するので、所望により添加する場合の含有量は1.0超〜5.0%とする。また、犠牲陽極効果を付与するには、In、Sn等の犠牲陽極元素の添加も有効であり、それぞれ0.3%以下添加することが可能であり、その場合、下限を0.05%とするのが望ましい。
【0019】
Cr,V,Co:0.01〜0.5%
Cr,V,Coは、固溶硬化により強度を向上させるので、所望により1種以上を含有させる。ただし、それぞれ含有量が0.01%未満であると、その効果が小さく、一方、0.5%を超えると、鋳造時に粗大晶出物が生じやすく、加工性およびフィン材の諸特性を低下させるので、それぞれの含有量を上記範囲に定める。
【0020】
上記成分以外の残部はAlと不可避不純物とからなる。不可避不純物としてはFe、Cu等が挙げられるが、以下の理由により不可避不純物の含有量を規制するのが望ましい。
【0021】
Fe:0.2%以下
FeはMn,Si等と粗大な金属間化合物(Al−Mn−Fe、Al−Fe−Si等)を作りやすく、それらの粗大晶出物が再結晶の核となるため、ろう付熱処理後の再結晶粒が微細になり、耐エロージョン性が低下する問題がある。このためFeの含有量は0.2%以下であるのが望ましい。Fe≦0.2%の場合、粗大晶出物の生成が抑制され、耐エロージョン性の向上が期待できる。なお、同様の理由でFe含有量は、さらに0.10%以下であるのが望ましい。
【0022】
MnとSi、Feは、上記のように、Al−Mn−Si−Fe系等の粗大な金属間化合物を作りやすく、加工性を低下させるとともに、フィン材の耐エロージョン性および強度等の諸特性を低下させる。粗大金属間化合物の生成に関して、上記のMn含有量、Si含有量のそれぞれの範囲内において(さらに望ましくはFe:0.2%以下)、FeとMn,Siの比が、(Fe/(Mn+Si))≦0.1の式を満たすのが望ましい。上記式左辺の値が0.1を超えると、Mn,Siに対してFe量の影響が強くなって、鋳造時に粗大な晶出物を生成する傾向にあり、加工性およびフィン材の諸特性が低下する。よってFe、Mn、Si含有量は、(Fe/(Mn+Si))≦0.1の関係を満たすのが望ましい。
【0023】
Cu:0.05%未満
Cuは、電位を貴にし、フィン材の犠牲陽極効果を低下させるので、不純物として含有量を0.05%未満とするのが望ましい。0.05%以上であると、フィン材の電位が貴になり、チューブとの電位差が小さくなるため、期待の犠牲陽極効果が得られないとともに、鋳造時に割れ等が生じやすくなる。
【0024】
次に、本発明の製造工程を規定した理由を説明する。
先ず、均質化処理を含まず、熱間圧延前のソーキング温度を400〜480℃とすることとした理由を以下に示す。
本発明フィン材は、均質化処理およびソーキングの際に、固溶元素の析出が促進され、各元素の固溶量が低下する。このため、固溶硬化の低下により強度が低下するとともに再結晶を阻害する固溶元素が低下するため、ろう付時の再結晶が促進され、再結晶粒が微細化する(耐エロージョン性の低下)。さらには、鋳造時に生成したマトリクス中のAl−Ni(Al3Ni、Al3Ni2)、Al−Mn(Al6Mn)等の金属間化合物が均質化処理およびソーキングの際に粗大化し、耐エロージョン性および強度等のフィン材の諸特性が低下する。以上の観点から、本発明の製造方法では、通常、鋳造後、熱間圧延前に行われている均質化処理を施さず、さらにはソーキングによる上記弊害を小さくするためソーキング温度を限定した。
【0025】
ソーキング温度:400〜480℃
ソーキング温度を400〜480℃としたのは、400℃未満では圧延材に付与される熱量が小さいために、熱間圧延時に材料中にクラック等が発生し、材料作製上問題が生じるためであり400℃以上での加熱が必要である。また、480℃を越える温度とすると、フィン材の再結晶粒が微細化し、耐エロージョン性の低下が顕著になるので、ソーキング温度を上記範囲に定める。また、ソーキング時間は、本発明としては限定しないが、1〜2時間とするのが望ましい。これはソーキング時間が短いと圧延材に十分な熱量を付与できず、また、長時間ソーキングしても無駄であり、また固溶元素の析出がより促進されるので、上記時間を望ましいものとする。
【0026】
熱間圧延仕上温度:200〜300℃
熱間圧延時には圧延時の熱量が圧延材に付与されることにより、晶析出物が粗大化するとともに、圧延後の冷却過程において、固溶元素の析出が生じるため、前記のようにフィン材の諸特性が低下する。以上より熱間圧延時の仕上温度をより低くすることにより、材料に負荷される総熱量を小さくし、熱間圧延時の晶析出物の粗大化を抑制するとともに、圧延後の冷却過程における固溶元素の析出を抑制させることができる。このために仕上がり温度は300℃以下に限定する。ただし、熱間圧延の仕上温度が200℃未満であると熱間圧延時に材料中にクラック等が著しく発生し、材料作製上問題が生じるため、熱間圧延時の仕上温度を上記範囲に定める。
【0027】
冷間圧延時の中間焼鈍
上記熱間圧延を行った後に行う冷間圧延では、少なくとも1回の中間焼鈍を行う。
中間焼鈍は、熱間圧延および冷間圧延によって材料中に導入された歪みを除去し、その後の圧延性を向上させる目的で行う。最終の中間焼鈍は、最終製品での調質を制御することも目的とする。
【0028】
中間焼鈍の回数については、特に限定されず、2回または3回以上でもよく、また1回のみも可である。さらに、中間焼鈍の温度に関しても、特に規定はしないが、圧延による歪みを除去するためには、CALでは約350〜500℃、バッチ炉では約350〜400℃×3h程度の焼鈍により、完全に再結晶させるのが望ましい。
【0029】
冷間圧延の総冷延率:95%以上
本発明フィン材を含めた各フィン材は、鋳造および熱間圧延時に晶析出物が粗大化する傾向にあるが、その後の冷間圧延において、Al−Ni(Al3Ni、Al3Ni2)、Al−Mn(Al6Mn)等の、主に針状の粗大金属間化合物が、常温での圧延の負荷によって、物理的に破壊され、いずれの金属間化合物も数μm以下に微細化される。このような微細な析出物の分散状態は、転位の移動を阻害するため、強度の向上に大きく寄与するとともに、粗大晶の低減により再結晶核が低減されるため、ろう付後の再結晶粒が粗大化しやすく、耐エロージョン性に優れる。この作用を得るためには、大きな冷延率で冷間圧延するのが望ましい。最終板厚に至るまでの総圧延率が95%未満であると、部分的に数μm以上の比較的粗大な晶析出物が残存してしまい、上記の効果が小さくなる。したがって総圧延率を95%以上に限定する。好ましくは98%以上である。
【0030】
最終中間焼鈍後の冷延率(最終冷延率):20〜50%
本発明フィン材は、上記のように晶析出物を微細化しているため、ろう付加熱時の再結晶の生成が阻害されやすい。最終の中間焼鈍時の板厚から最終の板厚に至るまでの圧延率(最終冷延率という)が、20%未満となる圧下では再結晶の駆動力となるべき歪み量が不足し、その後のろう付時に完全に再結晶せず、亜結晶粒が残存し、耐エロージョン性が大きく低下する。一方、50%を越えると、ろう付時の再結晶粒が微細化し、耐エロージョン性が低下するため、上記最終冷延率を20〜50%とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明のフィン材に用いるアルミニウム合金は、上記組成に従って常法により溶製することができる。本発明のフィン材は、製造方法が特に限定されているものではないが、本発明で目的とする特性を確実かつ十分に導き出すために、本発明の上記製造方法を適用して製造するのが望ましい。常法により溶製した鋳塊は、本発明のフィン材では常法により均質化処理を行うことも可能であるが、本発明の製造方法に従って均質化処理を省略するのが望ましい。鋳塊は、熱間圧延後に面方向となる側を面削して偏析の多い部分を排除することができる。該鋳塊は、熱間圧延に先立ってソーキングを行うが、該ソーキングでは、本発明製造方法に従って加熱温度を400〜480℃、加熱時間を1〜2時間に規制するのが望ましい。熱間圧延は、周知の熱間圧延機を用いて圧延を行うことができ、望ましくは、本発明の製造方法に従って仕上がり温度を200〜300℃とする。
【0032】
熱間圧延後には、望ましくは1回以上の中間焼鈍を含むようにして、冷間圧延を行う。中間焼鈍、冷間圧延ともに周知の焼鈍炉、冷間圧延機装置を用いて行うことができる。
上記冷間圧延での総冷延率は、望ましくは95%以上とする。該総冷延率は、最終板厚を基にして熱間圧延材の板厚を設定し、該最終板厚が得られるように所定数パスで冷間圧延することにより達成される。
また、上記冷間圧延では、望ましくは、中間焼鈍時を基に冷延率を規制する。すなわち、本発明の製造方法に従って最終中間焼鈍後の冷延率を20〜50%とするのが望ましい。
【0033】
上記により得られたフィン材は、所定の形状に加工し、通常はコルゲート加工を施してフィンとする。該フィンは、単独で製造してもよく、またろう材をクラッドしたブレージングシートとして製造することもできる。上記フィンは、チューブ間に設置するなどして組み付けれられ、加熱炉にてろう付処理が行われる。ろう材の配置は、フィンをブレージングシートとしたり、チューブをブレージングシートとしたり、また、置きろうや粉末ろうの塗布などにより行うことができ、本発明としては、その方法は特に限定されない。上記加熱炉は、所定の雰囲気に調整して加熱処理を行うものであってもよい。上記ろう付によってフィンはチューブ等に接合され、アルミニウムフィンを備えた熱交換器が得られる。該熱交換器は、自動車用等の各種の用途に使用することができる。該熱交換器では、フィンにおけるろう付時エロージョンが効果的に防止されて高い強度が維持されており、薄肉化においても十分な強度を発揮し、熱交換器の軽量化に寄与する。
【0034】
【実施例】
以下に本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
表1に示すアルミニウム合金供試材を溶製し、得られた鋳塊(20×52×125mm)を片面につき1/4インチずつ面削した。その後、一部の供試材では560℃×4時間の均質化処理を行い、他の供試材では均質化処理を行わなかった。これら供試材には、460℃または530℃で1時間のソーキングを行い、厚さ2〜6mmまで熱間圧延を行った。その際の仕上温度を250〜400℃とした。次いで、途中で中間焼鈍を行うようにして冷間圧延を行って0.06mm厚の冷間圧延材を得た。なお、1回目の中間焼鈍として、CAL焼鈍(500℃×45秒)またはバッチ焼鈍(360℃×3時間)を行い、2回目の中間焼鈍として、360℃×3hのバッチ焼鈍を行った。また、上記冷間圧延では、表2に示すように、第2の中間焼鈍時板厚から最終板厚に至る冷延率を変化させた。各試験材の製造方法は表2に示すとおりであり、実施例2〜8および比較例1〜5は、実施例1と同じ製造方法を採用した。
【0035】
上記供試材に対し以下の特性試験を行い評価した。
【0036】
耐エロージョン性
0.3mm厚のブレージングシート(JIS A 7072/3003/4343Al合金:犠牲陽極材/芯材/ろう材)のろう材面に、コルゲート加工した本発明フィン材および比較フィン材を組付け、これにフラックスを塗布した後、上記ろう付熱処理を実施した。なお、ろう付熱処理は、窒素ガス雰囲気中で600℃×3min保持後、−100℃/minで冷却を行うものとした。
上記ろう付後、フィレットの形成状態で耐エロージョン性を評価した。すなわち、ろう侵食が全く認められないものを○印、若干のろう侵食あるものを△印、著しいろう侵食あるものを×印で示した。
【0037】
強度
ろう付相当の熱処理を行なった本発明フィン材および比較フィン材を用いて、引張試験片を作製し、これらの試験片を用いて、引張試験を行うことにより、強度を評価した。なお、評価は、160MPa以上のものを◎印、150〜160MPa未満のものを○印、150MPa未満のものを×印で示した。
【0038】
犠牲陽極効果
犠牲陽極効果は、チューブ芯材を想定した3003合金と各フィン材との電位差で評価した。なお、電位差100mV以上のものを◎印、電位差50〜100mV未満のものを○印、電位差50mV未満のものを×印で示した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
上記特性試験の結果を表1、2に示す。表から明らかなように、本発明のフィン材は、耐エロージョン性および強度に優れていた。さらに本発明フィン材では、本発明製造方法を採用することにより、上記効果が顕著になっていることが確認された。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材によれば、質量%で、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、所望により、Zr:0.05〜0.3%を含有し、さらに所望により、Zn:1.0超〜5.0%を含有し、さらに所望によりCr:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Co:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するので、ろう付時の耐エロージョン性およびろう付前後の強度に優れたフィン材が得られ、フィン材の薄肉、軽量化に大きく貢献する。
【0043】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法によれば、上記組成を有するAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃の温度でソーキングを行った後、仕上温度200〜300℃で熱間圧延を行い、その後、少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行うとともに、該冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上とし、かつ最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とするので、上記効果が一層確実かつ向上する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ろう付法によって製造されるアルミニウム合金熱交換器に用いられる熱交換器用アルミニウム合金フィン材および該フィン材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車熱交換器の多くは軽量化、熱伝達率等の観点からアルミ化されており、熱交換器は所定の形状にコルゲート加工したフィンをチューブ間に組付けてろう付により接合している。上記熱交換器用のフィン材としては、通常1000系や3000系合金が用いられている。ろう付に際しては、上記フィン材、チューブ等を加熱炉に配し、600℃付近の高温に加熱してろう材を溶融させ、該ろう材が流れて形成されるフィレットによって各部材を互いに接合している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の合金により製造されたフィン材は、ろう付熱処理時に著しいろうの侵食(エロージョン)が生じ、フィンが座屈等を引き起こし、ろう付後、熱交換器としての強度が低下する問題がある。また、フィン材は軽量化及びコスト低減のため、近年薄肉化の要求が高まる一方であり、より高強度化が求められている。
【0004】
ろう付時のエロージョンに関しては、フィン材の結晶粒界がろうの侵食経路となりやすく、フィン材のろう付時の再結晶粒が微細な場合、結果として材料中に結晶粒界が多く存在することとなり、その後のろう溶融により、エロージョンが生じやすくなる。このことから、フィン材の耐エロージョン性を向上させるためには、ろう付加熱時の再結晶粒を粗大化させる必要がある。しかし、一方で従来のフィン材を用いて、薄肉・高強度化の特性を得るには、ろう付時の再結晶粒を微細化させる必要(結晶粒微細化硬化)がある。このように強度及び耐エロージョン性の両特性は相反する側面があり、これら両特性に優れる新規なAl合金フィン材が求められている。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ろう付時エロージョンが生じにくく、しかも高強度で一層の薄肉化が可能な熱交換器用アルミニウム合金フィン材および該フィン材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の発明者等は、耐エロージョン性および強度に優れたAl合金フィン材を得るべく、耐エロージョン性向上のためろう付時の再結晶粒を粗大化させる一方で、晶析出物の微細分散による強度向上を検討し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材のうち請求項1記載の発明は、質量%で、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1記載の発明において、さらに、質量%で、Zr:0.05〜0.3%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1または2記載の発明において、さらに、質量%で、Zn:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Co:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃の温度でソーキングを行った後、仕上温度200〜300℃で熱間圧延を行い、その後、少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行うとともに、該冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上とし、かつ最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材によれば、ろう付時に、エロージョンに対し優れた防止効果を発揮し、座屈による強度低下を回避することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記効果をより確実なものとすることができる。
【0013】
以下に、本願発明における成分等の限定理由を説明する。以下に示す含有量はいずれも質量%で表されている。
【0014】
Si:0.6超〜1.2%未満
SiはAl−Mn−Si系の微細な析出物を生じ、ろう付時に生成される再結晶粒を粗大化させ、ろう付加熱時の耐座屈性を向上させる働きと、フィン材の強度を向上させる働きがある。Si含有量が0.6%以下であると、上記効果が小さく、一方、1.2%以上では、融点の低下により、ろう付時にフィン材が溶融する可能性がある。このため、Si含有量を上記範囲に定める。
【0015】
Mn:0.75〜2.5%
Mnは合金の強度を向上させるとともにAl−Mn系析出物(Al6Mn等)あるいはAl−Mn−Si等の微細な析出物を生じ、ろう付時生成の再結晶粒を粗大化させ、ろう付加熱時の耐高温座屈性を向上させる働きとフィン材の強度を向上させる働きがある。ただし、Mnの含有量が0.75%未満であると、その効果が小さく、一方、2.5%を越えると、鋳造時の晶出物が粗大化し、加工性およびフィン材の諸特性が低下する。このため、Mn含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でさらに下限を1.0%、上限を2.0%に定めるのが望ましい。
【0016】
Ni:1.0超〜5.0%
Niは、Fe等に比べて、非常に微細な金属間化合物を生成しやすく、ろう付時の再結晶粒をそれほど微細化させることなく耐高温座屈性を向上させるとともに強度を向上させる働きがある。ただし、Ni含有量が1.0%以下であると、その効果が小さく、一方、5.0%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生じ、加工性およびフィン材の諸特性を低下させる。このため、Ni含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でさらに下限を1.0超%、上限を2.0%に定めるのが望ましい。
【0017】
Zr:0.05〜0.3%
Zrは、ろう付時に生じる再結晶粒を粗大化させて、フィン材の耐エロージョン性を向上させるので、所望により含有させる。ただし、Zr含有量が0.05%未満ではその効果が小さく、一方、0.3%を超えると、鋳造時の晶出物が粗大化しやすく加工性を低下させるので、所望により添加する場合の含有量は0.05〜0.3%とする。
【0018】
Zn:1.0超〜5.0%
Znは、フィン材の電位を卑にし、犠牲陽極効果を与える効果があり、所望により含有させる。ただし、Znの含有量が1.0%以下であるとその効果が小さく、一方、5.0%を超えると、フィン材の自己耐食性が低下するので、所望により添加する場合の含有量は1.0超〜5.0%とする。また、犠牲陽極効果を付与するには、In、Sn等の犠牲陽極元素の添加も有効であり、それぞれ0.3%以下添加することが可能であり、その場合、下限を0.05%とするのが望ましい。
【0019】
Cr,V,Co:0.01〜0.5%
Cr,V,Coは、固溶硬化により強度を向上させるので、所望により1種以上を含有させる。ただし、それぞれ含有量が0.01%未満であると、その効果が小さく、一方、0.5%を超えると、鋳造時に粗大晶出物が生じやすく、加工性およびフィン材の諸特性を低下させるので、それぞれの含有量を上記範囲に定める。
【0020】
上記成分以外の残部はAlと不可避不純物とからなる。不可避不純物としてはFe、Cu等が挙げられるが、以下の理由により不可避不純物の含有量を規制するのが望ましい。
【0021】
Fe:0.2%以下
FeはMn,Si等と粗大な金属間化合物(Al−Mn−Fe、Al−Fe−Si等)を作りやすく、それらの粗大晶出物が再結晶の核となるため、ろう付熱処理後の再結晶粒が微細になり、耐エロージョン性が低下する問題がある。このためFeの含有量は0.2%以下であるのが望ましい。Fe≦0.2%の場合、粗大晶出物の生成が抑制され、耐エロージョン性の向上が期待できる。なお、同様の理由でFe含有量は、さらに0.10%以下であるのが望ましい。
【0022】
MnとSi、Feは、上記のように、Al−Mn−Si−Fe系等の粗大な金属間化合物を作りやすく、加工性を低下させるとともに、フィン材の耐エロージョン性および強度等の諸特性を低下させる。粗大金属間化合物の生成に関して、上記のMn含有量、Si含有量のそれぞれの範囲内において(さらに望ましくはFe:0.2%以下)、FeとMn,Siの比が、(Fe/(Mn+Si))≦0.1の式を満たすのが望ましい。上記式左辺の値が0.1を超えると、Mn,Siに対してFe量の影響が強くなって、鋳造時に粗大な晶出物を生成する傾向にあり、加工性およびフィン材の諸特性が低下する。よってFe、Mn、Si含有量は、(Fe/(Mn+Si))≦0.1の関係を満たすのが望ましい。
【0023】
Cu:0.05%未満
Cuは、電位を貴にし、フィン材の犠牲陽極効果を低下させるので、不純物として含有量を0.05%未満とするのが望ましい。0.05%以上であると、フィン材の電位が貴になり、チューブとの電位差が小さくなるため、期待の犠牲陽極効果が得られないとともに、鋳造時に割れ等が生じやすくなる。
【0024】
次に、本発明の製造工程を規定した理由を説明する。
先ず、均質化処理を含まず、熱間圧延前のソーキング温度を400〜480℃とすることとした理由を以下に示す。
本発明フィン材は、均質化処理およびソーキングの際に、固溶元素の析出が促進され、各元素の固溶量が低下する。このため、固溶硬化の低下により強度が低下するとともに再結晶を阻害する固溶元素が低下するため、ろう付時の再結晶が促進され、再結晶粒が微細化する(耐エロージョン性の低下)。さらには、鋳造時に生成したマトリクス中のAl−Ni(Al3Ni、Al3Ni2)、Al−Mn(Al6Mn)等の金属間化合物が均質化処理およびソーキングの際に粗大化し、耐エロージョン性および強度等のフィン材の諸特性が低下する。以上の観点から、本発明の製造方法では、通常、鋳造後、熱間圧延前に行われている均質化処理を施さず、さらにはソーキングによる上記弊害を小さくするためソーキング温度を限定した。
【0025】
ソーキング温度:400〜480℃
ソーキング温度を400〜480℃としたのは、400℃未満では圧延材に付与される熱量が小さいために、熱間圧延時に材料中にクラック等が発生し、材料作製上問題が生じるためであり400℃以上での加熱が必要である。また、480℃を越える温度とすると、フィン材の再結晶粒が微細化し、耐エロージョン性の低下が顕著になるので、ソーキング温度を上記範囲に定める。また、ソーキング時間は、本発明としては限定しないが、1〜2時間とするのが望ましい。これはソーキング時間が短いと圧延材に十分な熱量を付与できず、また、長時間ソーキングしても無駄であり、また固溶元素の析出がより促進されるので、上記時間を望ましいものとする。
【0026】
熱間圧延仕上温度:200〜300℃
熱間圧延時には圧延時の熱量が圧延材に付与されることにより、晶析出物が粗大化するとともに、圧延後の冷却過程において、固溶元素の析出が生じるため、前記のようにフィン材の諸特性が低下する。以上より熱間圧延時の仕上温度をより低くすることにより、材料に負荷される総熱量を小さくし、熱間圧延時の晶析出物の粗大化を抑制するとともに、圧延後の冷却過程における固溶元素の析出を抑制させることができる。このために仕上がり温度は300℃以下に限定する。ただし、熱間圧延の仕上温度が200℃未満であると熱間圧延時に材料中にクラック等が著しく発生し、材料作製上問題が生じるため、熱間圧延時の仕上温度を上記範囲に定める。
【0027】
冷間圧延時の中間焼鈍
上記熱間圧延を行った後に行う冷間圧延では、少なくとも1回の中間焼鈍を行う。
中間焼鈍は、熱間圧延および冷間圧延によって材料中に導入された歪みを除去し、その後の圧延性を向上させる目的で行う。最終の中間焼鈍は、最終製品での調質を制御することも目的とする。
【0028】
中間焼鈍の回数については、特に限定されず、2回または3回以上でもよく、また1回のみも可である。さらに、中間焼鈍の温度に関しても、特に規定はしないが、圧延による歪みを除去するためには、CALでは約350〜500℃、バッチ炉では約350〜400℃×3h程度の焼鈍により、完全に再結晶させるのが望ましい。
【0029】
冷間圧延の総冷延率:95%以上
本発明フィン材を含めた各フィン材は、鋳造および熱間圧延時に晶析出物が粗大化する傾向にあるが、その後の冷間圧延において、Al−Ni(Al3Ni、Al3Ni2)、Al−Mn(Al6Mn)等の、主に針状の粗大金属間化合物が、常温での圧延の負荷によって、物理的に破壊され、いずれの金属間化合物も数μm以下に微細化される。このような微細な析出物の分散状態は、転位の移動を阻害するため、強度の向上に大きく寄与するとともに、粗大晶の低減により再結晶核が低減されるため、ろう付後の再結晶粒が粗大化しやすく、耐エロージョン性に優れる。この作用を得るためには、大きな冷延率で冷間圧延するのが望ましい。最終板厚に至るまでの総圧延率が95%未満であると、部分的に数μm以上の比較的粗大な晶析出物が残存してしまい、上記の効果が小さくなる。したがって総圧延率を95%以上に限定する。好ましくは98%以上である。
【0030】
最終中間焼鈍後の冷延率(最終冷延率):20〜50%
本発明フィン材は、上記のように晶析出物を微細化しているため、ろう付加熱時の再結晶の生成が阻害されやすい。最終の中間焼鈍時の板厚から最終の板厚に至るまでの圧延率(最終冷延率という)が、20%未満となる圧下では再結晶の駆動力となるべき歪み量が不足し、その後のろう付時に完全に再結晶せず、亜結晶粒が残存し、耐エロージョン性が大きく低下する。一方、50%を越えると、ろう付時の再結晶粒が微細化し、耐エロージョン性が低下するため、上記最終冷延率を20〜50%とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明のフィン材に用いるアルミニウム合金は、上記組成に従って常法により溶製することができる。本発明のフィン材は、製造方法が特に限定されているものではないが、本発明で目的とする特性を確実かつ十分に導き出すために、本発明の上記製造方法を適用して製造するのが望ましい。常法により溶製した鋳塊は、本発明のフィン材では常法により均質化処理を行うことも可能であるが、本発明の製造方法に従って均質化処理を省略するのが望ましい。鋳塊は、熱間圧延後に面方向となる側を面削して偏析の多い部分を排除することができる。該鋳塊は、熱間圧延に先立ってソーキングを行うが、該ソーキングでは、本発明製造方法に従って加熱温度を400〜480℃、加熱時間を1〜2時間に規制するのが望ましい。熱間圧延は、周知の熱間圧延機を用いて圧延を行うことができ、望ましくは、本発明の製造方法に従って仕上がり温度を200〜300℃とする。
【0032】
熱間圧延後には、望ましくは1回以上の中間焼鈍を含むようにして、冷間圧延を行う。中間焼鈍、冷間圧延ともに周知の焼鈍炉、冷間圧延機装置を用いて行うことができる。
上記冷間圧延での総冷延率は、望ましくは95%以上とする。該総冷延率は、最終板厚を基にして熱間圧延材の板厚を設定し、該最終板厚が得られるように所定数パスで冷間圧延することにより達成される。
また、上記冷間圧延では、望ましくは、中間焼鈍時を基に冷延率を規制する。すなわち、本発明の製造方法に従って最終中間焼鈍後の冷延率を20〜50%とするのが望ましい。
【0033】
上記により得られたフィン材は、所定の形状に加工し、通常はコルゲート加工を施してフィンとする。該フィンは、単独で製造してもよく、またろう材をクラッドしたブレージングシートとして製造することもできる。上記フィンは、チューブ間に設置するなどして組み付けれられ、加熱炉にてろう付処理が行われる。ろう材の配置は、フィンをブレージングシートとしたり、チューブをブレージングシートとしたり、また、置きろうや粉末ろうの塗布などにより行うことができ、本発明としては、その方法は特に限定されない。上記加熱炉は、所定の雰囲気に調整して加熱処理を行うものであってもよい。上記ろう付によってフィンはチューブ等に接合され、アルミニウムフィンを備えた熱交換器が得られる。該熱交換器は、自動車用等の各種の用途に使用することができる。該熱交換器では、フィンにおけるろう付時エロージョンが効果的に防止されて高い強度が維持されており、薄肉化においても十分な強度を発揮し、熱交換器の軽量化に寄与する。
【0034】
【実施例】
以下に本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。
表1に示すアルミニウム合金供試材を溶製し、得られた鋳塊(20×52×125mm)を片面につき1/4インチずつ面削した。その後、一部の供試材では560℃×4時間の均質化処理を行い、他の供試材では均質化処理を行わなかった。これら供試材には、460℃または530℃で1時間のソーキングを行い、厚さ2〜6mmまで熱間圧延を行った。その際の仕上温度を250〜400℃とした。次いで、途中で中間焼鈍を行うようにして冷間圧延を行って0.06mm厚の冷間圧延材を得た。なお、1回目の中間焼鈍として、CAL焼鈍(500℃×45秒)またはバッチ焼鈍(360℃×3時間)を行い、2回目の中間焼鈍として、360℃×3hのバッチ焼鈍を行った。また、上記冷間圧延では、表2に示すように、第2の中間焼鈍時板厚から最終板厚に至る冷延率を変化させた。各試験材の製造方法は表2に示すとおりであり、実施例2〜8および比較例1〜5は、実施例1と同じ製造方法を採用した。
【0035】
上記供試材に対し以下の特性試験を行い評価した。
【0036】
耐エロージョン性
0.3mm厚のブレージングシート(JIS A 7072/3003/4343Al合金:犠牲陽極材/芯材/ろう材)のろう材面に、コルゲート加工した本発明フィン材および比較フィン材を組付け、これにフラックスを塗布した後、上記ろう付熱処理を実施した。なお、ろう付熱処理は、窒素ガス雰囲気中で600℃×3min保持後、−100℃/minで冷却を行うものとした。
上記ろう付後、フィレットの形成状態で耐エロージョン性を評価した。すなわち、ろう侵食が全く認められないものを○印、若干のろう侵食あるものを△印、著しいろう侵食あるものを×印で示した。
【0037】
強度
ろう付相当の熱処理を行なった本発明フィン材および比較フィン材を用いて、引張試験片を作製し、これらの試験片を用いて、引張試験を行うことにより、強度を評価した。なお、評価は、160MPa以上のものを◎印、150〜160MPa未満のものを○印、150MPa未満のものを×印で示した。
【0038】
犠牲陽極効果
犠牲陽極効果は、チューブ芯材を想定した3003合金と各フィン材との電位差で評価した。なお、電位差100mV以上のものを◎印、電位差50〜100mV未満のものを○印、電位差50mV未満のものを×印で示した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
上記特性試験の結果を表1、2に示す。表から明らかなように、本発明のフィン材は、耐エロージョン性および強度に優れていた。さらに本発明フィン材では、本発明製造方法を採用することにより、上記効果が顕著になっていることが確認された。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材によれば、質量%で、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、所望により、Zr:0.05〜0.3%を含有し、さらに所望により、Zn:1.0超〜5.0%を含有し、さらに所望によりCr:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Co:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するので、ろう付時の耐エロージョン性およびろう付前後の強度に優れたフィン材が得られ、フィン材の薄肉、軽量化に大きく貢献する。
【0043】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法によれば、上記組成を有するAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃の温度でソーキングを行った後、仕上温度200〜300℃で熱間圧延を行い、その後、少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行うとともに、該冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上とし、かつ最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とするので、上記効果が一層確実かつ向上する。
Claims (5)
- 質量%で、Si:0.6超〜1.2%未満、Mn:0.75〜2.5%、Ni:1.0超〜5.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
- さらに、質量%で、Zr:0.05〜0.3%を含有することを特徴とする請求項1記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
- さらに、質量%で、Zn:1.0超〜5.0%を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
- さらに、質量%で、Cr:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Co:0.01〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するAl合金を鋳造後、均質化処理を行うことなく、400〜480℃の温度でソーキングを行った後、仕上温度200〜300℃で熱間圧延を行い、その後、少なくとも1回の中間焼鈍を含む冷間圧延を行うとともに、該冷間圧延では、最終板厚までの総冷延率を95%以上とし、かつ最終の中間焼鈍時の板厚から最終板厚に至る最終冷延率を20〜50%とすることを特徴とする耐エロージョン性および強度に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法。
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