JP2004057536A - 変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 - Google Patents
変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004057536A JP2004057536A JP2002220820A JP2002220820A JP2004057536A JP 2004057536 A JP2004057536 A JP 2004057536A JP 2002220820 A JP2002220820 A JP 2002220820A JP 2002220820 A JP2002220820 A JP 2002220820A JP 2004057536 A JP2004057536 A JP 2004057536A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- substance
- adsorbent
- group
- rage
- denaturing
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- External Artificial Organs (AREA)
- Treatment Of Liquids With Adsorbents In General (AREA)
- Solid-Sorbent Or Filter-Aiding Compositions (AREA)
Abstract
【課題】血液等の液体中に存在する変性物質を除去可能な吸着材、カラムを提供すること。
【解決手段】α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着することを特徴とする変性物質吸着材および該吸着材を充填したカラム。
【選択図】なし
【解決手段】α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着することを特徴とする変性物質吸着材および該吸着材を充填したカラム。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質の吸着材、該吸着材を充填してなるカラム、および該吸着材あるいは該カラムを用いた、液体中に存在する変性物質の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生活習慣病といわれる病気が顕著に増加し、問題視されている。生活習慣病の中には、糖尿病や高脂血症などが原因となって起こる動脈硬化など、血管病変を引き起こす疾患が含まれ、患者の予後を大きく左右する場合が少なくない。特に糖尿病に至っては、罹患期間に依存して腎糸球体に病理学的変化が出現し、さらに悪化すると腎不全を伴い、透析を施行しなければならなくなる。透析導入患者の原疾患を見ると、1998年末に、糖尿病性腎症がこれまで主原因であった慢性糸球体腎炎を追い抜き、今後も増加の一途を辿ると言われている。この傾向は、糖尿病患者の増加が透析患者数の増加を後押しすることを示唆している。しかしながら、糖尿病性腎症の詳細な発症機序については未だ明らかとなっていないため、それを解明することが急務となっている。
【0003】
最近、糖尿病合併症因子の病因性は、主に細胞上のある特殊な受容体と結合することで引き起こされることがわかってきた。その多くは一般的にスカベンジャー受容体と呼ばれるものであるが、本来別の機能を有する受容体に、糖化変性物質(AGE)などの非酵素的変性物質が相互作用することで、病因性を引き起こす場合も報告されている。例えば、ガレクチン−3やRAGE(Receptor for Advanced Glycation End products)などである。特にRAGEは糖尿病の3大合併症である腎症、網膜症、神経障害の発症を引き起こすだけではなく、動脈硬化も助長することがわかってきた。最近になり、RAGEと糖尿病状態で亢進するある特定の物質との相互作用によって、糖尿病性合併症などの血管障害が引き起こされることが、動物レベルで証明されつつある(第42回日本糖尿病学会)。
【0004】
RAGEは、イムノグロブリンスーパーファミリーに属し、肺胞上皮細胞をはじめ、血管内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞などの血管壁細胞や腎臓メサンギウム細胞、赤血球、マクロファージなどに発現が認められている。発見当初はAGEの受容体として認識されていたが、その後の研究により、β−アミロイドやある種の炎症マーカーの一群であるHMG−1、血清アミロイドA、S100/カルグラニュリンスーパーファミリーと呼ばれる物質などとも結合するとの報告がなされ、現在はマルチリガンド受容体とされている。RAGEと結合できるリガンド、つまりRAGE結合物質は、EN−RAGE(extracellular newly identified RAGE−binding protein)と総称されている(セル、97巻、889頁、1999年)。また、今後も新たなRAGE結合物質が発見されることが予想される。
【0005】
ところで、RAGEと相互作用する物質の1つであるAGEに関して、その形成に関与する反応基質が、グルコース等の還元糖のみならずその関連代謝産物および分解産物である場合もあることが示されている。それらの反応基質として、メチルグリオキサール、グリオキサール、3−デオキシグルコゾンなどのジカルボニル化合物や、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒドなどのα−ヒドロキシアルデヒドが挙げられる。これまで、ジカルボニル化合物を反応基質として生成した変性物質については、それらを吸着除去する材料に関する知見が開示されているのに対し、糖尿病性腎症患者の血清中に存在し、生物活性が高いことが示唆されている(竹内ら(モレキュラー・メディシン、6巻、114−125頁、2000年))α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質を吸着する材料については、知られていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、変性物質、特にα−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した生物活性の高い変性物質を吸着できる材料に関して鋭意検討した結果、それらを吸着可能である材料を見い出し、さらに、該材料が体液処理可能であることを示し、本発明に到達した。すなわち本発明は、変性物質、特にα−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質を除去可能な吸着材、カラムを提供することを目的とする。また本発明は、血液等の液体中に存在する変性物質を除去可能な吸着材、カラムを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を有する。
「(1)α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着することを特徴とする変性物質吸着材。
(2)前記非酵素的反応生成物がRAGEのリガンドであることを特徴とする(1)に記載の変性物質吸着材。
(3)前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリコールアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする(1)または(2)に記載の変性物質吸着材。
(4)前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリセルアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする(1)または(2)に記載の変性物質吸着材。
(5)水不溶性担体にRAGE誘導体を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(6)水不溶性担体にカチオン化した原子を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(7)水不溶性担体に反応性アミンを含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(8)水不溶性担体に次式[I]で表される構造を含む吸着基が固定化されたものであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
【0008】
(水不溶性担体)−(Y)a −Z [I]
Y:アミド、または、ケトンのうちで何れかの官能基
Z:−(環式化合物1)l−(鎖状化合物)m−(環式化合物2)n−NH2であり、
且つ、炭素原子を1つ以上持つ官能基
a、l、m、n:0、または、1以上の整数。
(9)前記水不溶性担体に前記吸着基を固定する方法が、共有結合であることを特徴とする(5)〜(8)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(10)前記水不溶性担体が、多糖体あるいはビニル芳香族化合物であることを特徴とする(5)〜(9)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(11)前記変性物質吸着材の、液体中からのα−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物の除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(12)前記変性物質吸着材のジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(13)前記変性物質吸着材のRAGE結合物質の液体中からの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(14)前記変性物質吸着材の、液体中からのβ2ミクログロブリンの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(15)(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材を充填してなることを特徴とする変性物質除去カラム。
(16)(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材あるいは請求項15に記載の変性物質除去カラムを用いて、液体中の変性物質を除去する方法。
(17)体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(18)体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする(15)に記載の変性物質除去カラム。」
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明において、糖化変性物質とは、生体内の還元糖(例えばグルコース)とタンパク質等の生体分子とが、非酵素的に反応することにより生成する産物を指し、変性物質とは、還元糖とは異なる反応基質とタンパク質等の生体分子とが非酵素的に反応して生成する産物を指す。ここでいう還元糖とは異なる反応基質とは、例えばメチルグリオキサール、グリオキサール、3−デオキシグルコゾンなどのジカルボニル化合物や、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒドなどのα−ヒドロキシアルデヒド、グリセルアルデヒド−3−リン酸、グリコールアルデヒドアルキルイミンなどのα−ヒドロキシアルデヒド誘導体といった還元糖の代謝産物あるいは分解産物を指す。また、ここでいう生体分子とは、生体内に存在する物質全般のことを指すが、特にアミノ基を有する物質がそれに該当する。本発明における生体分子としては、例えばタンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質に代表される脂質関連タンパク質、ペプチド成分、ホルモン、核酸などの多糖体由来成分、ビタミンなど各種低分子の代謝産物、アミノ酸、アミノ酸関連物質、糖関連物質、脂質関連物質等の代謝産物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明でいう非酵素的反応とは、酵素を必要とすることなく進行する反応のことであり、代表的なものとしてメイラード反応が挙げられる。1912年にフランスの化学者メイラードが、ブドウ糖などの還元糖とアミノ酸を混合して過熱すると、黄褐色の物質が形成したことを報告したが、この反応は酵素による糖鎖の付加反応であるグリコシレーションとは異なり、酵素を必要としないことから、非酵素的糖化反応と呼ばれている。グルコースなどの還元糖若しくは前述の還元糖とは異なる反応基質と、タンパク質のN末端アミノ基か、リジンのε−アミノ基が反応してまず可逆性のシッフ塩基をつくり、ついで分子内転移を起こして安定なアマドリ化合物を形成する。さらに酸化・脱水・縮合などの複雑な反応を経ることにより、変性物質、糖化変性物質が生成する。また、生成した変性物質あるいは糖化変性物質の反応産物がさらに反応する場合もある。これら変性物質、糖化変性物質の構造や形成のメカニズムはまだ解明されていないが、単一の物質ではなく多様なものと考えられている。生成した変性物質、糖化変性物質は、褐色化や蛍光、架橋形成などの物理化学的特徴を有する他、RAGEによりリガンドとして認識される生物学的特徴を有するものもある。本発明においては、前述の変性物質および糖化変性物質を吸着除去することが好ましく、RAGEのリガンドとして認識される変性物質、糖化変性物質を除去することがさらに好ましい。ここで、本発明におけるRAGEのリガンドとは、RAGEと結合し得る分子のことであり、ヒトRAGE細胞外ドメインを用いたアフィニティーカラムによって濃縮精製し得る分子のことを指す。
【0011】
本発明でいう吸着材は、変性物質および糖化変性物質を特異的に結合できる物質(以下、吸着基)が、水不溶性である材料に固定されたものであればよく、特に限定されるものではない。吸着基が固定される材料としては、体外循環可能で、かつグラフト反応可能な水不溶性担体であることが好ましく、表面積を広く取れる多孔質体を形成可能な材料であることがより好ましい。また、溶血反応を起こさず、血液中の必須成分の吸着ができるだけ少なく、白血球への刺激が低く抑えられた生体適合性の高い素材であることが好ましい。ここで、親水性表面を有する担体を用いる、あるいは担体表面に生体適合性の高い物質をコーティング、グラフトすることにより、担体の生体適合性を高めることがいっそう好ましい。なお、担体は有機、無機を問わず、また有機−有機あるいは有機−無機の複合担体でもよい。無機担体としては、例えばガラスビーズ、シリカゲル、金属ビーズなどが、有機担体としては、例えば架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン、架橋ポリスルホン等のビニル芳香族化合物に代表される合成高分子や結晶性セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類がそれぞれ好適に用いられる。担体の形状は、粒状、繊維状またはそれらの高次加工品、中空糸状と任意に選ぶことができ、その大きさも特に限定されない。
【0012】
吸着基としては、変性物質と高い親和性を有し、また血液中の生体必須成分の吸着ができるだけ少なく、生体適合性の高いものであれば特に限定されない。例えば、RAGE若しくはそのリガンド結合部位を含む一部、抗変性物質抗体若しくはその抗原認識部位を含む一部といったタンパク質またはペプチドなどの物質が挙げられる。また、変性物質と親和性のある部位を含む天然化合物、合成化合物を用いることも可能である。
【0013】
吸着基を固定化する場合、化学的結合を用いる方法と物理的結合を用いる方法の2通りある。化学的結合を用いる場合、担体表面上に必要な官能基としては、例えば水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、ハロゲン基、サクシニルイミド基、酸無水物基などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。また、吸着基は、これら官能基修飾を受けた担体に直接結合してもよいし、何らかのスペーサー分子を介して結合することも可能である。リガンド間の立体障害を防ぎ、吸着基の自由度が増すことから、スペーサーを介して結合することがより好ましい。一方、物理的な結合を用いる場合、吸着基側の酸性もしくは塩基性側鎖と静電的相互作用により結合する方法と、遷移金属などを介した配位結合を利用する方法がある。いずれの固定化方法を利用するにせよ、吸着基の活性が維持される方法であれば、固定化方法は特に限定を受けない。もし、滅菌時や治療などの使用時に吸着基の脱落・遊離が問題となる場合には、共有結合法で固定化することが好ましい。
【0014】
一般に、吸着除去対象である生体由来物質の受容体そのものもしくはその一部、あるいはその抗体を吸着基に用いた場合、除去対象物質を結合することが明らかであるため利用しやすいが、生産コストや安定供給を考慮すると、化学合成の吸着基を用いたほうが有利な場合が多い。しかしながら、受容体や抗体と結合可能な生体由来物質と親和性を有する化学合成の吸着基を見いだすには、多くの試行錯誤が必要である。そこで我々は鋭意検討を行った結果、RAGEや抗変性物質抗体と結合可能な物質と親和性を有する化学合成の吸着基に必要な性質として、少なくとも下記に示す何れか1項目を満足すればよいことがわかった。
「性質(1):カチオン化した原子を含むこと」
「性質(2):反応性アミンを含むこと」
「性質(3):次式[I]で表されること。
【0015】
(水不溶性担体)−(Y)a−Z [I]
但し、Y:アミド、または、ケトンのうちで何れかの官能基
Z:−(環式化合物1)l−(鎖状化合物)m−(環式化合物2)n−NH2であり、且つ、炭素原子を1つ以上持つ官能基。
【0016】
a、l、m、n:0または1以上の整数。」
性質(1)においては、カチオン化原子が4級アミンである場合に、変性物質との親和性が最も高くなるが、我々は、生理的pH付近においては、必ずしもカチオン化されていなくても変性物質を吸着可能であることを見いだした。すなわち、生理的pH付近において、少なくとも1つ以上の正電荷性原子があればよい。ここで、正電荷性原子は必ずしもN原子とは限定されず、例えばC原子、Si原子、P原子といった元素、あるいは無機化合物を含む有機金属など、正電荷性を有するものであれば特に限定を受けない。
【0017】
一方、生理的pH付近において、非カチオン性構造を形成する場合には、性質(2)に示されるように、微小正電荷性官能基の近傍即ちα位もしくはβ位に水酸基やアミノ基のような電子吸引性官能基が存在すると、糖化変性物質に対する親和性を有することが多いだけでなく、α−ヒドロキシアルデヒド由来の変性物質との親和性も有する。正電荷性官能基の例としては、2級アミン、3級アミン、4級アミンといった脂肪族性の窒素原子含有官能基、ピロリジン、ピラロリジン、ピペリジン、ピペラジン等の窒素原子含有環化脂肪族性官能基、環化構造中に2重結合を有するピロール、ピロリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、ベンジイミダゾール、プリン、キノリン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン等の芳香族系複素環化合物、オキサゾール、チアゾール、モルフォリン、フェノチアジン等の環化脂肪族系もしくは芳香族性官能基中に酸素原子、硫黄原子等電気陰性度の高い原子を含有するトルイジン環のような構造が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。また、正電荷性官能基の近傍に存在する電子吸引性官能基の例としては、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アセチル基、ニトロ基、エステル基、ハロゲン基、スルホン酸基、リン酸基、フェニル基に代表される芳香族官能基等が挙げられるが、特にこれらに限定を受けるわけではない。さらに、非イオン性でかつ正電荷性構造を有する場合、全血接触に対して生体適合性がよいとされるため、いっそう好ましい。
【0018】
より良い血液適合性を求めるならば、一般的に性質(3)に記載した吸着基が好適に用いられる。これらの吸着基のうち、より好適な構造は、化学式[I]中のZ基の中に4−アミノジフェニルメタン基のような芳香族アミンが含まれたものであるが、ここで用いられる芳香族は必ずしも6員環である必要はなく、また環構造は、5員環以上10員環以下であれば特に問題はなく用いることが可能である。また、Z基中の環式化合物1及び2と鎖状化合物については、特に限定を受けることはなく、また、炭化水素系化合物に限定されることもない。
【0019】
Z基中の環式化合物1及び2は、シクロヘキサン、シクロペンタンのような脂環式化合物や、さらにメチル基、エチル基、イソブチル基などが結合した脂環式化合物誘導体でもよい。好ましくは、フェニル基、ジフェニルメチル基、ナフチル基等の芳香族化合物が挙げられるが、ハロゲン基、アルキル基、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基等の芳香族誘導体でも用いることができる。より好ましくは、芳香族アミン誘導体が用いられるが、特に限定を受けない。また、炭化水素系化合物に限定する必要はなく、ピロリジン、ピラロリジン、ピペリジン、ピペラジン等のN含有環化脂肪族性官能基であってもよく、さらに、環化構造中に2重結合を有するピロール、ピロリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、ベンジイミダゾール、プリン、キノリン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン等の芳香族系複素環化合物や、また、オキサゾール、チアゾール、モルフォリン、フェノチアジン等の環化脂肪族系もしくは芳香族性官能基中にO、S等の電気陰性度の高い原子を含有するトルイジン環のような構造であってもよく、特にこれに記載された構造に限定されるわけではない。同様にZ基中の鎖状化合物も限定を受けるものではなく、エチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基の直鎖状の構造やイソプロピル基、ジエチルメチレン基のような分岐状の構造でもよく、また、直鎖あるいは分岐ポリエチレンイミンのような含窒素鎖状構造でもよく、特に限定を受けない。好ましくはメチレン基が挙げられるが、特にこれに記載の構造に限定されることはない。
【0020】
α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着可能な変性物質吸着材は、例えば以下に示す方法によって製造することができる。可溶性RAGEや抗変性物質抗体のようなタンパク質、ペプチドを吸着基とする場合、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)あるいは臭化シアン(CNBr)を活性基としてセルロース担体に導入し、吸着基となる物質をカップリング反応させて固定化する方法や、末端にエポキシ基のような反応性の高い官能基を有するスペーサーを中空糸やビーズに結合させておき、吸着基と反応させて固定化する方法等がある。また、合成化合物を吸着基とする場合、例えばキトサンビーズあるいはセルロースビーズにイソシアネート基を有する芳香族化合物を導入した後、イソシアネート基をアミノ基に加水分解させることにより芳香族アミンを導入する方法や、親水性スペーサーを固定した担体にカチオン化原子を末端に有する化合物を固定化する方法、親水性ポリマーでコーティングした担体に活性基を導入し、反応性アミンを有する化合物を固定化する方法等により吸着材を製造することができる。これらの方法は、吸着基を共有結合で担体に固定する方法であるために吸着基が遊離しにくく好ましい。また以上に示したようにセルロースやキトサンのような多糖類に限らずポリスチレンなどのビニル芳香族化合物を担体として用いることにより生体適合性の高い吸着材を製造することができる。また、これらの方法により製造された吸着材は、非酵素的反応生成物がRAGEのリガンドである場合も良好な吸着性能を示し、αヒドロキシアルデヒドがグリコールアルデヒドやその誘導体である場合、αヒドロキシアルデヒドがグリセルアルデヒドやその誘導体である場合ま含めて良好な吸着性能を示すものである。α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、上述の製造方法において、例えば活性基を導入した担体に可溶性RAGEを固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、ジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、RAGE結合物質の液体中からの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば臭化シアン等の活性基を導入した担体にRAGEを固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、β2ミクログロブリンの液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば中空糸を担体に用いて、スペーサーを固定化しておき、さらに吸着基を有する化合物を固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。以上のような方法で本発明に係る吸着材を製造できるが、ここに示した方法に限定されるものではない。
【0021】
吸着材を充填してなるカラムは、入口と出口を1つずつ有する容器内に上述の吸着材を充填することにより、製造することができる。カラムに用いる容器の形状は特に限定されないが、血液を灌流させることを考慮すると、円筒状が好ましい。また、容器の材質は特に限定されないが、溶血反応を起こさず、血液中の必須成分の吸着ができるだけ少なく、白血球への刺激が低く抑えられた生体適合性の高い素材であることが好ましい。吸着材にビーズを利用する場合、カラムに液体を通過させるときに吸着材が流出しないようにするため、カラムの入口側、出口側にフィルターを装填することが好ましい。吸着材を充填してなるカラムは、γ線、オートクレーブ等により滅菌することが好ましい。また、吸着材、カラム容器をそれぞれ滅菌後、無菌的にカラムを組み立てる方法により製造してもよい。以上のような方法で本発明に係るカラムを製造できるが、ここに示した方法に限定されるものではない。
【0022】
本発明の吸着材を治療に用いる場合には種々の方法がある。最も簡便な方法としては、患者の血液等の体液を体外に導出して血液バッグに貯留し、これに本発明の吸着材を混合して糖化変性物質を吸着させた後、フィルターを通して吸着材を除去し、体液を患者に戻す方法がある。また、吸着材をカラムに充填し、体外循環回路に組み込み、オンラインで吸着除去をする方法もある。この場合、全血を直接灌流する方法と、血液から血漿を分離し、血漿のみをカラムに通過させる方法があり、本発明の吸着材はいずれの方法にも用いることができる。このうち、オンライン処理による治療方法が好ましく、全血を直接灌流する方法がさらに好ましい。
【0023】
ここでいう体外循環においては、本発明の吸着材を単独で用いることもできるが、他のアフェレーシス治療との併用も可能である。併用例としては、例えば人工透析が挙げられ、透析回路に本発明の吸着材を組み込み、透析療法と組み合わせて用いることも可能である。
【0024】
以下、本発明における実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
(1)ヒトRAGE細胞外ドメインのクローニング
ヒト肺cDNAライブラリーを鋳型にポリメラーゼ連鎖反応(PCR;polymerase chain reaction)を行い、細胞外ドメイン上流及び下流の2つの断片を増幅した。PCRプライマーはヒトRAGEのデータベース配列(Genebank accession No.M91211)を基に4種類設計し、各々2種類ずつを上流及び下流増幅プライマーとして用いた。
・上流増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置or塩基番号(RAGEの開始コドンATGのAを1とした))
S(1〜29)及びAS(730〜749)
・下流増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置)
S(462〜481)及びAS(1007〜1032)
(上流には制限酵素EcoRI、下流にはBglIIの切断部位を付加した。)また、プライマーの安定性と遺伝子発現効率を上げるためにいくつかの塩基は適宜置換した。さらに、RAGEを可溶型とするため、細胞外ドメインの下流末端に終止コドン(TGA)を付加した。
【0026】
2種類の反応産物をアガロースゲル電気泳動し、得られた各PCR増幅断片を電気泳動のゲルから回収した後、pUC18ベクターにクローニングし、PCR産物の塩基配列確認を行った。
(2)バキュロウイルストランスファーベクターへの遺伝子挿入
バキュロウイルスベクターへのクローニングを以下のように行った。ベクターはpVL1393(ファーミンジェン)を用いた。まず、ベクターを制限酵素EcoRIとBglIIで切断し、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化した後精製した。(1)で得たRAGE細胞外領域上流及び下流の2つの断片は以下に示す制限酵素で切断後、目的断片を精製した(目的断片の塩基数)。
・上流:EcoRI/FspI(666bp)
・下流:FspI/BglII(384bp)
精製した2断片をpVL1393ベクターのポリヘドリンプロモーターの下流に挿入した。得られたクローンについて電気泳動による挿入断片のサイズ確認と塩基配列決定により、目的DNAを持つクローンが構築できたことを確認した。
(3)His−Tag導入
(2)で得られたRAGEプラスミドDNAを鋳型にPCRを行い、細胞外ドメイン下流末端にHis−Tagを付加した断片を増幅した。PCRプライマーは(1)で用いた下流増幅用プライマーの終止コドンの前にHisをコードするコドン(CAT)の6回繰り返し配列を挿入したものを作製した。
・増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置または塩基番号(RAGEの開始コドンATGのAを1とした))
S(462〜481)及びAS(1007〜1032+(CAT)6+(TGA2)+BglII site)
プライマーの安定性と遺伝子発現効率を上げるためにいくつかの塩基は適宜置換した。確認の結果、ヒトRAGE細胞外ドメイン(RAGEアミノ酸配列のN末端側から344アミノ酸残基までの配列;但し最初のアミノ酸をGからMに変更した。)のC末端側にHis−Tagを融合した遺伝子配列を得た。
(4)昆虫細胞への感染とヒトRAGE細胞外ドメインの発現
バキュロウイルスを感染させる昆虫細胞はSf−9を用いた。昆虫細胞の培養、ウイルス感染、組み替えタンパク質の発現等については、次の文献を参考に操作を行った(バイオ・インダストリー:BIO INDUSTRY、10巻、1号、40頁、1993年)。TMN−FH培地に10%非働化ウシ血清を添加した培養液中で、Sf−9を27℃の条件で単層培養した。RAGE細胞外ドメイン遺伝子を導入するために、CELLFECTIN Reagentを用いて、Sf−9への発現ベクターとBaculovirus DNAのco−transfectionを行った。6日培養後、培養上清および細胞を回収した。RAGE細胞外ドメインの発現効率を上げるために、Baculogold Expression Vector System添付のマニュアルに従って感染増幅を2回行い、RAGE細胞外ドメインとバキュロウイルスを含む培養上清と昆虫細胞を別に回収した。
(5)ヒトRAGE細胞外ドメインの精製
(4)で得られたヒトRAGE細胞外ドメインを含む培養液から、目的タンパク質を精製した。精製には、HisTrap(アマシャムファルマシア)を用いた。精製したヒトRAGE細胞外ドメインの一部を、再度HisTrapに結合させた後、溶出バッファーで溶出を行わず、そのままカラムを解体して実施例1の変性物質吸着材(ヒトRAGE結合担体)とした。溶出液中の残存RAGE量をBCAプロテインアッセイキット(ピアース)で測定することにより、ヒトRAGE結合量を算定した結果、約2.26mg/g−ゲルであった。
(6)AGEの作製
本発明に係る変成物質吸着材の吸着能評価に用いるためのαヒドロキシアルデヒドと生体物質の非酵素的反応生成物として以下の方法により各種のAGEを作製した。
【0027】
α−D−グルコース(和光純薬工業)とウシ血清アルブミン(シグマ)とを37℃で2ヶ月反応させることにより、AGEを得た(AGE−1)。また、α−ヒドロキシアルデヒドとしてDL−グリセルアルデヒド(シグマ)、グリコールアルデヒド2量体(シグマ)、およびジカルボニル化合物としてメチルグリオキサール(シグマ)、グリオキサール(和光純薬工業)とウシ血清アルブミン(シグマ)とをそれぞれ混合し、37℃で1週間反応させることにより、各種AGEを得た(グリセルアルデヒド由来:AGE−2、グリコールアルデヒド由来:AGE−3、メチルグリオキサール由来:AGE−4、グリオキサール由来:AGE−5)。それぞれ反応終了後、PBSに対して透析し、標品を得た。
(7)AGEとRAGEの結合性確認
(6)で作製したAGE−1、AGE−2、AGE−3およびBSAを20μg/mlの濃度に調製し、96穴マイクロタイタープレートに1ウェル当たり100μl入れて、室温で2時間インキュベートすることにより固相化した。AGE溶液を除去し、0.5%BSAを含むPBSを1ウェル当たり400μl入れ、室温で1時間静置してブロッキングした。ブロッキング溶液を捨て、緩衝液を1ウェル当たり50μl入れ、さらに0.2μg/mlに調製したヒトRAGE細胞外ドメイン溶液を50μl加えて、25℃で1時間振盪した。反応液を除去し、PBS−ツイーン20で3回洗浄した後、0.5μg/mlに調製した抗RAGEモノクローナル抗体を1ウェル当たり100μl入れ、25℃で1時間振盪した。反応液を除去し、PBS−Tween20で3回洗浄した後、2500倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(ザイメット)を1ウェル当たり100μl入れ、25℃で30分振盪した。反応液を除去し、PBS−ツイーン20で4回洗浄した後、発色液を1ウェル当たり100μl入れ、5分振盪後1N硫酸を100μl加えて反応を停止させ、595nmの吸光度を測定した。その結果、図1に示すとおり、AGEとRAGEを反応させたサンプルは、BSAとRAGEを反応させたサンプルより有意に吸光度が高く、AGEとRAGEが強い親和性を有することが示された。
(8)抗AGE抗体の作製
ニュージーランド・ホワイト・ラビット(NZW)に対して、(6)で作製した各AGEで免疫した。免疫手法は、細胞工学 別冊 抗ペプチド抗体実験プロトコール、48頁を参考にして行った。AGE−1、AGE−2、AGE−3、AGE−4、AGE−5とフロイントの完全アジュバント(和光純薬)を混合し、NZWの背部3ヶ所に週1回、6回皮下投与した。免疫終了後は、頸部動脈から脱血して、抗血清を得た。得られた抗血清をHiTrap ProteinGカラム(アマシャムファルマシア)で精製した。得られた抗体は、BSAとはほとんど反応しないが、AGE化BSAとは反応したことから、これらの抗体は抗原性のあるAGEを認識することが示された。
(9)セルロース担体への抗体及びヒトRAGEの固定化
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)基を10原子の長さのスペーサーを介して導入したセルロースゲル(NHS活性化セファロース4B(アマシャムファルマシア))1mlに、(8)で得られたポリクローナル抗体1.42mgを0.5MのNaClを含む0.2M NaHCO3−Na2CO3緩衝液(pH8.3)1mlに溶解した溶液を加え、4℃で一晩ゆっくりと撹拌した。遠心してゲルを沈降させ、反応液を除去した後、1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)0.1mlを加えて、室温で2時間反応させ、未反応のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を不活化した。次に、それぞれ0.5MのNaClを含む0.1M酢酸−NaOH緩衝液(pH4.0)、0.1M炭酸−NaOH緩衝液(pH9.0)の順で3回洗浄し、最後にリン酸緩衝液により平衡化したものを実施例2の変性物質吸着材とした。固定化溶液に残存している抗体量から算定して、抗体の固定化量は約1.31mg/g−ゲルであった。
また、抗体固定化法と同様の手法を使って、ヒトRAGEをNHS活性化セファロース4Bに固定化した。NHS活性化セファロース4Bを1ml当たり、(5)で得られた精製ヒトRAGEを1.05mg反応させ、得られたものを実施例3の変性物質吸着材とした。固定化溶液に残存しているRAGE量から逆算して、ヒトRAGEの固定化量は約0.95mg/g−ゲルであった。
(10)アミドメチル化繊維の合成
50重量比の海成分(46重量比のポリスチレンと4重量比のポリプロピレンの混合物)と50重量比の島成分(ポリプロピレン)とからなる米国特許4661260記載の海島型複合繊維(太さ:2.6デニール、島の数:16)を、50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98%硫酸、0.85gのパラホルムアルデヒドの混合溶液と20℃で1時間反応させた。その後、繊維をニトロベンゼンで洗浄し、その後、水により反応を停止させた後、メタノールで再び洗浄することによりα−クロロアセトアミドメチル化架橋ポリスチレン繊維(以下AMPSt繊維と略す。)を得た。
(11)アミドメチル化繊維への抗体及びヒトRAGEの固定化
(10)で得られたAMPSt繊維をさらに水でよく洗浄し、AMPSt繊維0.5g(乾燥重量相当)を得た。(5)で得られたヒトRAGEあるいは(7)で得られた抗AGE抗体の溶媒を脱塩カラムで0.1M重曹水溶液に置換した。抗体溶液1.28mg/5mlあるいはヒトRAGE溶液1.08mg/8mlに各々AMPSt繊維0.5gを浸漬し、試験管内で37℃で2時間ゆっくり振盪しながら反応させた。反応前後における反応液中の吸光度を測定することにより、抗体あるいはヒトRAGEの固定化量を算定した結果、それぞれ抗体固定化繊維は0.82mg/g繊維(実施例4)、ヒトRAGE固定化繊維は1.18mg/g繊維(実施例5)であった。各々の固定化繊維を0.1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)5mlに浸漬し、室温で1.5時間反応させ、未反応のα−クロロアセトアミドメチル基を不活化した後、それぞれ0.5MのNaClを含む0.1M酢酸−NaOH(pH4.0)1ml及び0.1M炭酸−NaOH(pH9.0)1mlで交互に3回洗浄し、最後にリン酸緩衝液にて平衡化を行い、吸着実験に使用した。
(12)非生体分子固定化ビーズの作製
前記式[I]で表される構造を含む吸着基が固定化された吸着材として、4種類(実施例6〜9)の非生体分子固定化ビーズを作製した。各実施例の構造を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
粒径0.1mmのキトサンビーズ(富士紡(株)、“キトパール”AL−01)12ml(沈降時体積、乾燥時重量は1.0g)をジメチルホルムアミド中で攪拌した。この操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させた。このビーズを10gのヘキサメチレンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返し、未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを完全に除去した。次いで、水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解した。さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[II]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例6)。
(キトサンビーズ)−CONH−(CH2)6−NH2 [II]
また、キトサンビーズ(AL−01)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させたビーズを15gの4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。この洗浄を3回繰り返し、未反応4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解し、さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[III]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例7)。
(キトサンビーズ)−CONH−C6H4−CH2−C6H4−NH2 [III]
さらに、セルロースビーズ(セルロファインGCL−200cc;乾燥重量1.0g)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させた。
【0030】
このビーズを15gの4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。これを3回繰り返し、未反応の4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換した。さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解した。さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[IV]の構造を有するセルロースビーズを得た(実施例8)。
(セルロースビーズ)−CONH−C6H4−CH2−C6H4−NH2 [IV]
他にも、キトサンビーズ(AL−01、乾燥重量1.0g)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させたビーズを15gの4、4’−ビフェニルジカルボニルクロライドを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別々に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行い、この洗浄を3回繰り返し、未反応4、4’−ビフェニルジカルボニルクロライドを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させイソシアネート基を1級アミノ基に加水分解し、さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[V]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例9)。
(キトサンビーズ)−CO−C6H4−C6H4−NH2 [V]
(13) 吸着材のAGE吸着実験1
(5)、(8)、(10)、(11)で得られた吸着材、及び、市販の吸着材を使って、AGE吸着実験を行った。市販の吸着材は、カチオン性担体には、TSK−gel QAE−トヨパール 650M(東ソー:実施例10)を、また反応性アミン固定化担体には、アミノセルロファイン(チッソ:実施例11)をそれぞれ用いた。形状がゲルの場合は沈降体積で吸着材100μlあたり、サンプル((6)で得られたAGE−1,AGE−2およびAGE−3を10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。形状が繊維の場合は、AMPSt繊維の乾燥重量で50μgあたり、サンプルを1ml加えた。37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した。この反応液を3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を以下に示す免疫学的測定法(競合法ELISA)で測定した。(6)で作製したAGE−1、AGE−2、AGE−3を20μg/mlの濃度に調製し、96穴マイクロタイタープレートに1ウェル当たり100μl入れて、室温で2時間インキュベートすることにより固相化した。0.5%BSAを含むPBSでブロッキングした後、緩衝液25μl、測定サンプル25μl、(8)で作製したAGE抗体の希釈溶液を50μlを入れて、25℃で1時間振盪した。固相化抗原を認識した抗体に対して、抗ウサギペルオキシダーゼ標識抗体(カッペル)を反応させた後、発色させて595nmの吸光度を測定した。なお、検量線は(6)で作製した各AGEを用いた。各吸着材のAGE吸着率を表2に示す。すべての吸着材について、AGEに対して良好な選択性を示した。特に、カチオン性ビーズと反応性アミン固定化ビーズがAGEに対する強い親和性を示した。
【0031】
【表2】
【0032】
(14)吸着材のAGE吸着実験2
(9)で使用したNHS活性化セファロース4Bを1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)0.1mlに加えて、室温で1.5時間反応させ、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を不活化した担体(比較例1)と(10)で作成したAMPSt繊維(比較例2)を用いて(13)と同様の操作でAGEに対する吸着実験を行った。また、(13)に記載した吸着実験の方法が、AGEのキャリアタンパクであるBSAに対する親和性により吸着率が左右されないことを確認するために、BSA親和性担体であるトヨパール AF−Blue 650ML(東ソー:比較例3)を用いた場合のAGE吸着性能も調べた。結果を表3に示す。その結果、AGEに対して顕著な親和性を示さないことが明らかとなった。したがって、糖尿病合併症因子に対して特異的な親和性を持つリガンドを固定化することにより、AGEに対して特異的な親和性が生じることが示された。
【0033】
【表3】
【0034】
(15)吸着材のAGE吸着実験3
(13)に記載の実施例1〜11について、(6)で得られたAGEをさらにRAGE結合アフィニティーカラムにより精製したAGEの吸着実験を行った。RAGE結合アフィニティーゲルは、(8)で得られた実施例3を使用した。オープンカラムにRAGE結合ゲルを3ml充填し、10mlのPBSで洗浄した。(6)で得られたAGE化BSA(濃度:30mg/ml)を1ml添加して、RAGE結合性AGEを吸着させた。次いで、PBSを50ml通過させて、RAGE非結合性AGE化BSAを除去した。さらに、0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)を通過させて、結合したAGE化BSAを回収した。回収したAGE化BSAに1Mトリス塩酸緩衝液(pH9.0)を加えて中和後、PBSに対して十分透析し、目的とするRAGE結合性AGEを得た。得られたAGE溶液について、BCAプロテインアッセイキット(ピアース)でタンパク濃度を測定した結果、約4.71mg/mlであった。吸着実験は、(13)と同様の方法で行った。形状がゲルの場合は沈降体積で吸着材100μlあたり、サンプル(RAGE結合性AGEを10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。形状が繊維の場合は、AMPSt繊維の乾燥重量で50μgあたり、サンプルを1ml加えた。それぞれ37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した後、3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を(13)に記載したELISA法で測定した。結果を表4に示す。その結果、RAGE結合性AGEに対しても、検討した吸着材すべてにおいて良好な親和性を示した。また、吸着率はRAGEアフィニティーカラムで精製していないAGEより、高い吸着率を示した。したがって、実施例1〜11の吸着材はRAGE結合性AGEに対して、より良好な親和性を有することが示された。
【0035】
【表4】
【0036】
(16)吸着材のAGE吸着実験4
(14)で得られた比較例1〜3の吸着材を用いて、(15)と同様の操作でRAGE結合性AGEに対する吸着実験を行った。結果を表5に示す。(14)と同様、RAGE結合性AGEに対する顕著な親和性を有さないことが示された。したがって、実施例1〜11のように、糖尿病合併症因子に対して特異的な親和性を持つリガンドを固定化することにより、RAGE結合性AGEに対して特異的な親和性が生じることが示された。
【0037】
【表5】
【0038】
(17)吸着材のAGE吸着実験5
(12)に記載の実施例7、(13)に記載の実施例10、および(14)に記載の比較例1について、ジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物に対する吸着実験を行った。ジカルボニル化合物由来非酵素的反応生成物として、(6)に記載のメチルグリオキサール由来AGE(AGE−4)、およびグリオキサール由来AGE(AGE−5)を用いた。吸着材100μlあたり、サンプル(AGE−4あるいはAGE−5を10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した後、3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を(13)に記載したELISA法で測定した。結果を表6に示す。実施例7、実施例10は親和性を有していたのに対し、比較例1は親和性を有さなかったことから、実施例7、実施例10はジカルボニル化合物由来AGEに対して良好な親和性を有することが示された。
【0039】
【表6】
【0040】
(18)吸着材のHMG−1吸着実験
(12)に記載の実施例7及び(13)に記載の実施例10の吸着材について、RAGE結合物質として知られているHMG−1の吸着実験を行った。吸着材100μlあたり、ヒトHMG−1が100ng/mlの濃度になるよう添加した0.5%BSA−リン酸緩衝液(pH7.2)を1ml加えた。37℃で2時間振盪し、反応前後の上清のHMG−1をELISA法にて測定した。結果を表7に示す。実施例7および実施例10は、AGEの他に、HMG−1と親和性を有することが示された。
【0041】
【表7】
【0042】
(19)吸着材のβ2ミクログロブリン吸着実験
(12)に記載の実施例7について、β2ミクログロブリン吸着試験を行った。ヒト新鮮血清10mlに吸着材7を1g添加し、37℃で2時間振盪した。振盪前後の上清中のβ2ミクログロブリンをELISA法で測定した結果、吸着率は81.3%であった。したがって、実施例7は、AGEの他にβ2ミクログロブリンと親和性を有することが示された。
(20)吸着材充填容器によるAGE吸着実験
(12)に記載の実施例7を、円筒状のカラム(容量:1ml)に充填した。吸着材の流失を防ぐ目的で、カラムの入口と出口にそれぞれフィルターを装填した。カラムの入口および出口にチューブを接続し、ペリスタポンプを用いて、AGE濃度を10μg/mlに調製した0.5%BSA−リン酸緩衝液(pH7.2)10mlを流速0.5ml/minで循環させた。30、60、120、240、480分後にそれぞれ溶液をサンプリングし、各時間におけるAGE濃度をELISA法により測定した。結果を表8に示す。その結果、実施例7を充填したカラムはAGEを除去する性能を有していることが示された。また、カラムに充填された吸着材の圧損による変形はみられなかった。
【0043】
【表8】
【0044】
【発明の効果】
本発明の吸着材は、α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質と特異的に結合できる物質を、水不溶性担体に固定してなるものであり、該吸着材と変性物質を含む被処理液とを接触させることにより、変性物質を吸着除去することが可能となり、糖尿病合併症など非酵素的反応が原因で起こり得る血管障害の治療に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】作製した各AGEとヒトRAGE細胞外ドメインとの結合性をEIAで評価した結果を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質の吸着材、該吸着材を充填してなるカラム、および該吸着材あるいは該カラムを用いた、液体中に存在する変性物質の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生活習慣病といわれる病気が顕著に増加し、問題視されている。生活習慣病の中には、糖尿病や高脂血症などが原因となって起こる動脈硬化など、血管病変を引き起こす疾患が含まれ、患者の予後を大きく左右する場合が少なくない。特に糖尿病に至っては、罹患期間に依存して腎糸球体に病理学的変化が出現し、さらに悪化すると腎不全を伴い、透析を施行しなければならなくなる。透析導入患者の原疾患を見ると、1998年末に、糖尿病性腎症がこれまで主原因であった慢性糸球体腎炎を追い抜き、今後も増加の一途を辿ると言われている。この傾向は、糖尿病患者の増加が透析患者数の増加を後押しすることを示唆している。しかしながら、糖尿病性腎症の詳細な発症機序については未だ明らかとなっていないため、それを解明することが急務となっている。
【0003】
最近、糖尿病合併症因子の病因性は、主に細胞上のある特殊な受容体と結合することで引き起こされることがわかってきた。その多くは一般的にスカベンジャー受容体と呼ばれるものであるが、本来別の機能を有する受容体に、糖化変性物質(AGE)などの非酵素的変性物質が相互作用することで、病因性を引き起こす場合も報告されている。例えば、ガレクチン−3やRAGE(Receptor for Advanced Glycation End products)などである。特にRAGEは糖尿病の3大合併症である腎症、網膜症、神経障害の発症を引き起こすだけではなく、動脈硬化も助長することがわかってきた。最近になり、RAGEと糖尿病状態で亢進するある特定の物質との相互作用によって、糖尿病性合併症などの血管障害が引き起こされることが、動物レベルで証明されつつある(第42回日本糖尿病学会)。
【0004】
RAGEは、イムノグロブリンスーパーファミリーに属し、肺胞上皮細胞をはじめ、血管内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞などの血管壁細胞や腎臓メサンギウム細胞、赤血球、マクロファージなどに発現が認められている。発見当初はAGEの受容体として認識されていたが、その後の研究により、β−アミロイドやある種の炎症マーカーの一群であるHMG−1、血清アミロイドA、S100/カルグラニュリンスーパーファミリーと呼ばれる物質などとも結合するとの報告がなされ、現在はマルチリガンド受容体とされている。RAGEと結合できるリガンド、つまりRAGE結合物質は、EN−RAGE(extracellular newly identified RAGE−binding protein)と総称されている(セル、97巻、889頁、1999年)。また、今後も新たなRAGE結合物質が発見されることが予想される。
【0005】
ところで、RAGEと相互作用する物質の1つであるAGEに関して、その形成に関与する反応基質が、グルコース等の還元糖のみならずその関連代謝産物および分解産物である場合もあることが示されている。それらの反応基質として、メチルグリオキサール、グリオキサール、3−デオキシグルコゾンなどのジカルボニル化合物や、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒドなどのα−ヒドロキシアルデヒドが挙げられる。これまで、ジカルボニル化合物を反応基質として生成した変性物質については、それらを吸着除去する材料に関する知見が開示されているのに対し、糖尿病性腎症患者の血清中に存在し、生物活性が高いことが示唆されている(竹内ら(モレキュラー・メディシン、6巻、114−125頁、2000年))α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質を吸着する材料については、知られていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、変性物質、特にα−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した生物活性の高い変性物質を吸着できる材料に関して鋭意検討した結果、それらを吸着可能である材料を見い出し、さらに、該材料が体液処理可能であることを示し、本発明に到達した。すなわち本発明は、変性物質、特にα−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質を除去可能な吸着材、カラムを提供することを目的とする。また本発明は、血液等の液体中に存在する変性物質を除去可能な吸着材、カラムを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を有する。
「(1)α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着することを特徴とする変性物質吸着材。
(2)前記非酵素的反応生成物がRAGEのリガンドであることを特徴とする(1)に記載の変性物質吸着材。
(3)前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリコールアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする(1)または(2)に記載の変性物質吸着材。
(4)前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリセルアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする(1)または(2)に記載の変性物質吸着材。
(5)水不溶性担体にRAGE誘導体を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(6)水不溶性担体にカチオン化した原子を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(7)水不溶性担体に反応性アミンを含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(8)水不溶性担体に次式[I]で表される構造を含む吸着基が固定化されたものであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
【0008】
(水不溶性担体)−(Y)a −Z [I]
Y:アミド、または、ケトンのうちで何れかの官能基
Z:−(環式化合物1)l−(鎖状化合物)m−(環式化合物2)n−NH2であり、
且つ、炭素原子を1つ以上持つ官能基
a、l、m、n:0、または、1以上の整数。
(9)前記水不溶性担体に前記吸着基を固定する方法が、共有結合であることを特徴とする(5)〜(8)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(10)前記水不溶性担体が、多糖体あるいはビニル芳香族化合物であることを特徴とする(5)〜(9)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(11)前記変性物質吸着材の、液体中からのα−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物の除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(12)前記変性物質吸着材のジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(13)前記変性物質吸着材のRAGE結合物質の液体中からの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(14)前記変性物質吸着材の、液体中からのβ2ミクログロブリンの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(15)(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材を充填してなることを特徴とする変性物質除去カラム。
(16)(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材あるいは請求項15に記載の変性物質除去カラムを用いて、液体中の変性物質を除去する方法。
(17)体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(18)体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする(15)に記載の変性物質除去カラム。」
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明において、糖化変性物質とは、生体内の還元糖(例えばグルコース)とタンパク質等の生体分子とが、非酵素的に反応することにより生成する産物を指し、変性物質とは、還元糖とは異なる反応基質とタンパク質等の生体分子とが非酵素的に反応して生成する産物を指す。ここでいう還元糖とは異なる反応基質とは、例えばメチルグリオキサール、グリオキサール、3−デオキシグルコゾンなどのジカルボニル化合物や、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒドなどのα−ヒドロキシアルデヒド、グリセルアルデヒド−3−リン酸、グリコールアルデヒドアルキルイミンなどのα−ヒドロキシアルデヒド誘導体といった還元糖の代謝産物あるいは分解産物を指す。また、ここでいう生体分子とは、生体内に存在する物質全般のことを指すが、特にアミノ基を有する物質がそれに該当する。本発明における生体分子としては、例えばタンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質に代表される脂質関連タンパク質、ペプチド成分、ホルモン、核酸などの多糖体由来成分、ビタミンなど各種低分子の代謝産物、アミノ酸、アミノ酸関連物質、糖関連物質、脂質関連物質等の代謝産物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明でいう非酵素的反応とは、酵素を必要とすることなく進行する反応のことであり、代表的なものとしてメイラード反応が挙げられる。1912年にフランスの化学者メイラードが、ブドウ糖などの還元糖とアミノ酸を混合して過熱すると、黄褐色の物質が形成したことを報告したが、この反応は酵素による糖鎖の付加反応であるグリコシレーションとは異なり、酵素を必要としないことから、非酵素的糖化反応と呼ばれている。グルコースなどの還元糖若しくは前述の還元糖とは異なる反応基質と、タンパク質のN末端アミノ基か、リジンのε−アミノ基が反応してまず可逆性のシッフ塩基をつくり、ついで分子内転移を起こして安定なアマドリ化合物を形成する。さらに酸化・脱水・縮合などの複雑な反応を経ることにより、変性物質、糖化変性物質が生成する。また、生成した変性物質あるいは糖化変性物質の反応産物がさらに反応する場合もある。これら変性物質、糖化変性物質の構造や形成のメカニズムはまだ解明されていないが、単一の物質ではなく多様なものと考えられている。生成した変性物質、糖化変性物質は、褐色化や蛍光、架橋形成などの物理化学的特徴を有する他、RAGEによりリガンドとして認識される生物学的特徴を有するものもある。本発明においては、前述の変性物質および糖化変性物質を吸着除去することが好ましく、RAGEのリガンドとして認識される変性物質、糖化変性物質を除去することがさらに好ましい。ここで、本発明におけるRAGEのリガンドとは、RAGEと結合し得る分子のことであり、ヒトRAGE細胞外ドメインを用いたアフィニティーカラムによって濃縮精製し得る分子のことを指す。
【0011】
本発明でいう吸着材は、変性物質および糖化変性物質を特異的に結合できる物質(以下、吸着基)が、水不溶性である材料に固定されたものであればよく、特に限定されるものではない。吸着基が固定される材料としては、体外循環可能で、かつグラフト反応可能な水不溶性担体であることが好ましく、表面積を広く取れる多孔質体を形成可能な材料であることがより好ましい。また、溶血反応を起こさず、血液中の必須成分の吸着ができるだけ少なく、白血球への刺激が低く抑えられた生体適合性の高い素材であることが好ましい。ここで、親水性表面を有する担体を用いる、あるいは担体表面に生体適合性の高い物質をコーティング、グラフトすることにより、担体の生体適合性を高めることがいっそう好ましい。なお、担体は有機、無機を問わず、また有機−有機あるいは有機−無機の複合担体でもよい。無機担体としては、例えばガラスビーズ、シリカゲル、金属ビーズなどが、有機担体としては、例えば架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン、架橋ポリスルホン等のビニル芳香族化合物に代表される合成高分子や結晶性セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類がそれぞれ好適に用いられる。担体の形状は、粒状、繊維状またはそれらの高次加工品、中空糸状と任意に選ぶことができ、その大きさも特に限定されない。
【0012】
吸着基としては、変性物質と高い親和性を有し、また血液中の生体必須成分の吸着ができるだけ少なく、生体適合性の高いものであれば特に限定されない。例えば、RAGE若しくはそのリガンド結合部位を含む一部、抗変性物質抗体若しくはその抗原認識部位を含む一部といったタンパク質またはペプチドなどの物質が挙げられる。また、変性物質と親和性のある部位を含む天然化合物、合成化合物を用いることも可能である。
【0013】
吸着基を固定化する場合、化学的結合を用いる方法と物理的結合を用いる方法の2通りある。化学的結合を用いる場合、担体表面上に必要な官能基としては、例えば水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、ハロゲン基、サクシニルイミド基、酸無水物基などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。また、吸着基は、これら官能基修飾を受けた担体に直接結合してもよいし、何らかのスペーサー分子を介して結合することも可能である。リガンド間の立体障害を防ぎ、吸着基の自由度が増すことから、スペーサーを介して結合することがより好ましい。一方、物理的な結合を用いる場合、吸着基側の酸性もしくは塩基性側鎖と静電的相互作用により結合する方法と、遷移金属などを介した配位結合を利用する方法がある。いずれの固定化方法を利用するにせよ、吸着基の活性が維持される方法であれば、固定化方法は特に限定を受けない。もし、滅菌時や治療などの使用時に吸着基の脱落・遊離が問題となる場合には、共有結合法で固定化することが好ましい。
【0014】
一般に、吸着除去対象である生体由来物質の受容体そのものもしくはその一部、あるいはその抗体を吸着基に用いた場合、除去対象物質を結合することが明らかであるため利用しやすいが、生産コストや安定供給を考慮すると、化学合成の吸着基を用いたほうが有利な場合が多い。しかしながら、受容体や抗体と結合可能な生体由来物質と親和性を有する化学合成の吸着基を見いだすには、多くの試行錯誤が必要である。そこで我々は鋭意検討を行った結果、RAGEや抗変性物質抗体と結合可能な物質と親和性を有する化学合成の吸着基に必要な性質として、少なくとも下記に示す何れか1項目を満足すればよいことがわかった。
「性質(1):カチオン化した原子を含むこと」
「性質(2):反応性アミンを含むこと」
「性質(3):次式[I]で表されること。
【0015】
(水不溶性担体)−(Y)a−Z [I]
但し、Y:アミド、または、ケトンのうちで何れかの官能基
Z:−(環式化合物1)l−(鎖状化合物)m−(環式化合物2)n−NH2であり、且つ、炭素原子を1つ以上持つ官能基。
【0016】
a、l、m、n:0または1以上の整数。」
性質(1)においては、カチオン化原子が4級アミンである場合に、変性物質との親和性が最も高くなるが、我々は、生理的pH付近においては、必ずしもカチオン化されていなくても変性物質を吸着可能であることを見いだした。すなわち、生理的pH付近において、少なくとも1つ以上の正電荷性原子があればよい。ここで、正電荷性原子は必ずしもN原子とは限定されず、例えばC原子、Si原子、P原子といった元素、あるいは無機化合物を含む有機金属など、正電荷性を有するものであれば特に限定を受けない。
【0017】
一方、生理的pH付近において、非カチオン性構造を形成する場合には、性質(2)に示されるように、微小正電荷性官能基の近傍即ちα位もしくはβ位に水酸基やアミノ基のような電子吸引性官能基が存在すると、糖化変性物質に対する親和性を有することが多いだけでなく、α−ヒドロキシアルデヒド由来の変性物質との親和性も有する。正電荷性官能基の例としては、2級アミン、3級アミン、4級アミンといった脂肪族性の窒素原子含有官能基、ピロリジン、ピラロリジン、ピペリジン、ピペラジン等の窒素原子含有環化脂肪族性官能基、環化構造中に2重結合を有するピロール、ピロリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、ベンジイミダゾール、プリン、キノリン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン等の芳香族系複素環化合物、オキサゾール、チアゾール、モルフォリン、フェノチアジン等の環化脂肪族系もしくは芳香族性官能基中に酸素原子、硫黄原子等電気陰性度の高い原子を含有するトルイジン環のような構造が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。また、正電荷性官能基の近傍に存在する電子吸引性官能基の例としては、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アセチル基、ニトロ基、エステル基、ハロゲン基、スルホン酸基、リン酸基、フェニル基に代表される芳香族官能基等が挙げられるが、特にこれらに限定を受けるわけではない。さらに、非イオン性でかつ正電荷性構造を有する場合、全血接触に対して生体適合性がよいとされるため、いっそう好ましい。
【0018】
より良い血液適合性を求めるならば、一般的に性質(3)に記載した吸着基が好適に用いられる。これらの吸着基のうち、より好適な構造は、化学式[I]中のZ基の中に4−アミノジフェニルメタン基のような芳香族アミンが含まれたものであるが、ここで用いられる芳香族は必ずしも6員環である必要はなく、また環構造は、5員環以上10員環以下であれば特に問題はなく用いることが可能である。また、Z基中の環式化合物1及び2と鎖状化合物については、特に限定を受けることはなく、また、炭化水素系化合物に限定されることもない。
【0019】
Z基中の環式化合物1及び2は、シクロヘキサン、シクロペンタンのような脂環式化合物や、さらにメチル基、エチル基、イソブチル基などが結合した脂環式化合物誘導体でもよい。好ましくは、フェニル基、ジフェニルメチル基、ナフチル基等の芳香族化合物が挙げられるが、ハロゲン基、アルキル基、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシル基等の芳香族誘導体でも用いることができる。より好ましくは、芳香族アミン誘導体が用いられるが、特に限定を受けない。また、炭化水素系化合物に限定する必要はなく、ピロリジン、ピラロリジン、ピペリジン、ピペラジン等のN含有環化脂肪族性官能基であってもよく、さらに、環化構造中に2重結合を有するピロール、ピロリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、ベンジイミダゾール、プリン、キノリン、カルバゾール、アクリジン、フェナントロリン等の芳香族系複素環化合物や、また、オキサゾール、チアゾール、モルフォリン、フェノチアジン等の環化脂肪族系もしくは芳香族性官能基中にO、S等の電気陰性度の高い原子を含有するトルイジン環のような構造であってもよく、特にこれに記載された構造に限定されるわけではない。同様にZ基中の鎖状化合物も限定を受けるものではなく、エチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基の直鎖状の構造やイソプロピル基、ジエチルメチレン基のような分岐状の構造でもよく、また、直鎖あるいは分岐ポリエチレンイミンのような含窒素鎖状構造でもよく、特に限定を受けない。好ましくはメチレン基が挙げられるが、特にこれに記載の構造に限定されることはない。
【0020】
α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着可能な変性物質吸着材は、例えば以下に示す方法によって製造することができる。可溶性RAGEや抗変性物質抗体のようなタンパク質、ペプチドを吸着基とする場合、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)あるいは臭化シアン(CNBr)を活性基としてセルロース担体に導入し、吸着基となる物質をカップリング反応させて固定化する方法や、末端にエポキシ基のような反応性の高い官能基を有するスペーサーを中空糸やビーズに結合させておき、吸着基と反応させて固定化する方法等がある。また、合成化合物を吸着基とする場合、例えばキトサンビーズあるいはセルロースビーズにイソシアネート基を有する芳香族化合物を導入した後、イソシアネート基をアミノ基に加水分解させることにより芳香族アミンを導入する方法や、親水性スペーサーを固定した担体にカチオン化原子を末端に有する化合物を固定化する方法、親水性ポリマーでコーティングした担体に活性基を導入し、反応性アミンを有する化合物を固定化する方法等により吸着材を製造することができる。これらの方法は、吸着基を共有結合で担体に固定する方法であるために吸着基が遊離しにくく好ましい。また以上に示したようにセルロースやキトサンのような多糖類に限らずポリスチレンなどのビニル芳香族化合物を担体として用いることにより生体適合性の高い吸着材を製造することができる。また、これらの方法により製造された吸着材は、非酵素的反応生成物がRAGEのリガンドである場合も良好な吸着性能を示し、αヒドロキシアルデヒドがグリコールアルデヒドやその誘導体である場合、αヒドロキシアルデヒドがグリセルアルデヒドやその誘導体である場合ま含めて良好な吸着性能を示すものである。α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、上述の製造方法において、例えば活性基を導入した担体に可溶性RAGEを固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、ジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、RAGE結合物質の液体中からの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば臭化シアン等の活性基を導入した担体にRAGEを固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。また、β2ミクログロブリンの液体中からの除去率が40%以上であることを特徴とする変性物質吸着材は、例えば中空糸を担体に用いて、スペーサーを固定化しておき、さらに吸着基を有する化合物を固定化する方法や、担体に芳香族アミンを導入する方法等により製造することができる。以上のような方法で本発明に係る吸着材を製造できるが、ここに示した方法に限定されるものではない。
【0021】
吸着材を充填してなるカラムは、入口と出口を1つずつ有する容器内に上述の吸着材を充填することにより、製造することができる。カラムに用いる容器の形状は特に限定されないが、血液を灌流させることを考慮すると、円筒状が好ましい。また、容器の材質は特に限定されないが、溶血反応を起こさず、血液中の必須成分の吸着ができるだけ少なく、白血球への刺激が低く抑えられた生体適合性の高い素材であることが好ましい。吸着材にビーズを利用する場合、カラムに液体を通過させるときに吸着材が流出しないようにするため、カラムの入口側、出口側にフィルターを装填することが好ましい。吸着材を充填してなるカラムは、γ線、オートクレーブ等により滅菌することが好ましい。また、吸着材、カラム容器をそれぞれ滅菌後、無菌的にカラムを組み立てる方法により製造してもよい。以上のような方法で本発明に係るカラムを製造できるが、ここに示した方法に限定されるものではない。
【0022】
本発明の吸着材を治療に用いる場合には種々の方法がある。最も簡便な方法としては、患者の血液等の体液を体外に導出して血液バッグに貯留し、これに本発明の吸着材を混合して糖化変性物質を吸着させた後、フィルターを通して吸着材を除去し、体液を患者に戻す方法がある。また、吸着材をカラムに充填し、体外循環回路に組み込み、オンラインで吸着除去をする方法もある。この場合、全血を直接灌流する方法と、血液から血漿を分離し、血漿のみをカラムに通過させる方法があり、本発明の吸着材はいずれの方法にも用いることができる。このうち、オンライン処理による治療方法が好ましく、全血を直接灌流する方法がさらに好ましい。
【0023】
ここでいう体外循環においては、本発明の吸着材を単独で用いることもできるが、他のアフェレーシス治療との併用も可能である。併用例としては、例えば人工透析が挙げられ、透析回路に本発明の吸着材を組み込み、透析療法と組み合わせて用いることも可能である。
【0024】
以下、本発明における実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
(1)ヒトRAGE細胞外ドメインのクローニング
ヒト肺cDNAライブラリーを鋳型にポリメラーゼ連鎖反応(PCR;polymerase chain reaction)を行い、細胞外ドメイン上流及び下流の2つの断片を増幅した。PCRプライマーはヒトRAGEのデータベース配列(Genebank accession No.M91211)を基に4種類設計し、各々2種類ずつを上流及び下流増幅プライマーとして用いた。
・上流増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置or塩基番号(RAGEの開始コドンATGのAを1とした))
S(1〜29)及びAS(730〜749)
・下流増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置)
S(462〜481)及びAS(1007〜1032)
(上流には制限酵素EcoRI、下流にはBglIIの切断部位を付加した。)また、プライマーの安定性と遺伝子発現効率を上げるためにいくつかの塩基は適宜置換した。さらに、RAGEを可溶型とするため、細胞外ドメインの下流末端に終止コドン(TGA)を付加した。
【0026】
2種類の反応産物をアガロースゲル電気泳動し、得られた各PCR増幅断片を電気泳動のゲルから回収した後、pUC18ベクターにクローニングし、PCR産物の塩基配列確認を行った。
(2)バキュロウイルストランスファーベクターへの遺伝子挿入
バキュロウイルスベクターへのクローニングを以下のように行った。ベクターはpVL1393(ファーミンジェン)を用いた。まず、ベクターを制限酵素EcoRIとBglIIで切断し、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化した後精製した。(1)で得たRAGE細胞外領域上流及び下流の2つの断片は以下に示す制限酵素で切断後、目的断片を精製した(目的断片の塩基数)。
・上流:EcoRI/FspI(666bp)
・下流:FspI/BglII(384bp)
精製した2断片をpVL1393ベクターのポリヘドリンプロモーターの下流に挿入した。得られたクローンについて電気泳動による挿入断片のサイズ確認と塩基配列決定により、目的DNAを持つクローンが構築できたことを確認した。
(3)His−Tag導入
(2)で得られたRAGEプラスミドDNAを鋳型にPCRを行い、細胞外ドメイン下流末端にHis−Tagを付加した断片を増幅した。PCRプライマーは(1)で用いた下流増幅用プライマーの終止コドンの前にHisをコードするコドン(CAT)の6回繰り返し配列を挿入したものを作製した。
・増幅プライマー:(プライマーのRAGE中の位置または塩基番号(RAGEの開始コドンATGのAを1とした))
S(462〜481)及びAS(1007〜1032+(CAT)6+(TGA2)+BglII site)
プライマーの安定性と遺伝子発現効率を上げるためにいくつかの塩基は適宜置換した。確認の結果、ヒトRAGE細胞外ドメイン(RAGEアミノ酸配列のN末端側から344アミノ酸残基までの配列;但し最初のアミノ酸をGからMに変更した。)のC末端側にHis−Tagを融合した遺伝子配列を得た。
(4)昆虫細胞への感染とヒトRAGE細胞外ドメインの発現
バキュロウイルスを感染させる昆虫細胞はSf−9を用いた。昆虫細胞の培養、ウイルス感染、組み替えタンパク質の発現等については、次の文献を参考に操作を行った(バイオ・インダストリー:BIO INDUSTRY、10巻、1号、40頁、1993年)。TMN−FH培地に10%非働化ウシ血清を添加した培養液中で、Sf−9を27℃の条件で単層培養した。RAGE細胞外ドメイン遺伝子を導入するために、CELLFECTIN Reagentを用いて、Sf−9への発現ベクターとBaculovirus DNAのco−transfectionを行った。6日培養後、培養上清および細胞を回収した。RAGE細胞外ドメインの発現効率を上げるために、Baculogold Expression Vector System添付のマニュアルに従って感染増幅を2回行い、RAGE細胞外ドメインとバキュロウイルスを含む培養上清と昆虫細胞を別に回収した。
(5)ヒトRAGE細胞外ドメインの精製
(4)で得られたヒトRAGE細胞外ドメインを含む培養液から、目的タンパク質を精製した。精製には、HisTrap(アマシャムファルマシア)を用いた。精製したヒトRAGE細胞外ドメインの一部を、再度HisTrapに結合させた後、溶出バッファーで溶出を行わず、そのままカラムを解体して実施例1の変性物質吸着材(ヒトRAGE結合担体)とした。溶出液中の残存RAGE量をBCAプロテインアッセイキット(ピアース)で測定することにより、ヒトRAGE結合量を算定した結果、約2.26mg/g−ゲルであった。
(6)AGEの作製
本発明に係る変成物質吸着材の吸着能評価に用いるためのαヒドロキシアルデヒドと生体物質の非酵素的反応生成物として以下の方法により各種のAGEを作製した。
【0027】
α−D−グルコース(和光純薬工業)とウシ血清アルブミン(シグマ)とを37℃で2ヶ月反応させることにより、AGEを得た(AGE−1)。また、α−ヒドロキシアルデヒドとしてDL−グリセルアルデヒド(シグマ)、グリコールアルデヒド2量体(シグマ)、およびジカルボニル化合物としてメチルグリオキサール(シグマ)、グリオキサール(和光純薬工業)とウシ血清アルブミン(シグマ)とをそれぞれ混合し、37℃で1週間反応させることにより、各種AGEを得た(グリセルアルデヒド由来:AGE−2、グリコールアルデヒド由来:AGE−3、メチルグリオキサール由来:AGE−4、グリオキサール由来:AGE−5)。それぞれ反応終了後、PBSに対して透析し、標品を得た。
(7)AGEとRAGEの結合性確認
(6)で作製したAGE−1、AGE−2、AGE−3およびBSAを20μg/mlの濃度に調製し、96穴マイクロタイタープレートに1ウェル当たり100μl入れて、室温で2時間インキュベートすることにより固相化した。AGE溶液を除去し、0.5%BSAを含むPBSを1ウェル当たり400μl入れ、室温で1時間静置してブロッキングした。ブロッキング溶液を捨て、緩衝液を1ウェル当たり50μl入れ、さらに0.2μg/mlに調製したヒトRAGE細胞外ドメイン溶液を50μl加えて、25℃で1時間振盪した。反応液を除去し、PBS−ツイーン20で3回洗浄した後、0.5μg/mlに調製した抗RAGEモノクローナル抗体を1ウェル当たり100μl入れ、25℃で1時間振盪した。反応液を除去し、PBS−Tween20で3回洗浄した後、2500倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(ザイメット)を1ウェル当たり100μl入れ、25℃で30分振盪した。反応液を除去し、PBS−ツイーン20で4回洗浄した後、発色液を1ウェル当たり100μl入れ、5分振盪後1N硫酸を100μl加えて反応を停止させ、595nmの吸光度を測定した。その結果、図1に示すとおり、AGEとRAGEを反応させたサンプルは、BSAとRAGEを反応させたサンプルより有意に吸光度が高く、AGEとRAGEが強い親和性を有することが示された。
(8)抗AGE抗体の作製
ニュージーランド・ホワイト・ラビット(NZW)に対して、(6)で作製した各AGEで免疫した。免疫手法は、細胞工学 別冊 抗ペプチド抗体実験プロトコール、48頁を参考にして行った。AGE−1、AGE−2、AGE−3、AGE−4、AGE−5とフロイントの完全アジュバント(和光純薬)を混合し、NZWの背部3ヶ所に週1回、6回皮下投与した。免疫終了後は、頸部動脈から脱血して、抗血清を得た。得られた抗血清をHiTrap ProteinGカラム(アマシャムファルマシア)で精製した。得られた抗体は、BSAとはほとんど反応しないが、AGE化BSAとは反応したことから、これらの抗体は抗原性のあるAGEを認識することが示された。
(9)セルロース担体への抗体及びヒトRAGEの固定化
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)基を10原子の長さのスペーサーを介して導入したセルロースゲル(NHS活性化セファロース4B(アマシャムファルマシア))1mlに、(8)で得られたポリクローナル抗体1.42mgを0.5MのNaClを含む0.2M NaHCO3−Na2CO3緩衝液(pH8.3)1mlに溶解した溶液を加え、4℃で一晩ゆっくりと撹拌した。遠心してゲルを沈降させ、反応液を除去した後、1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)0.1mlを加えて、室温で2時間反応させ、未反応のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を不活化した。次に、それぞれ0.5MのNaClを含む0.1M酢酸−NaOH緩衝液(pH4.0)、0.1M炭酸−NaOH緩衝液(pH9.0)の順で3回洗浄し、最後にリン酸緩衝液により平衡化したものを実施例2の変性物質吸着材とした。固定化溶液に残存している抗体量から算定して、抗体の固定化量は約1.31mg/g−ゲルであった。
また、抗体固定化法と同様の手法を使って、ヒトRAGEをNHS活性化セファロース4Bに固定化した。NHS活性化セファロース4Bを1ml当たり、(5)で得られた精製ヒトRAGEを1.05mg反応させ、得られたものを実施例3の変性物質吸着材とした。固定化溶液に残存しているRAGE量から逆算して、ヒトRAGEの固定化量は約0.95mg/g−ゲルであった。
(10)アミドメチル化繊維の合成
50重量比の海成分(46重量比のポリスチレンと4重量比のポリプロピレンの混合物)と50重量比の島成分(ポリプロピレン)とからなる米国特許4661260記載の海島型複合繊維(太さ:2.6デニール、島の数:16)を、50gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98%硫酸、0.85gのパラホルムアルデヒドの混合溶液と20℃で1時間反応させた。その後、繊維をニトロベンゼンで洗浄し、その後、水により反応を停止させた後、メタノールで再び洗浄することによりα−クロロアセトアミドメチル化架橋ポリスチレン繊維(以下AMPSt繊維と略す。)を得た。
(11)アミドメチル化繊維への抗体及びヒトRAGEの固定化
(10)で得られたAMPSt繊維をさらに水でよく洗浄し、AMPSt繊維0.5g(乾燥重量相当)を得た。(5)で得られたヒトRAGEあるいは(7)で得られた抗AGE抗体の溶媒を脱塩カラムで0.1M重曹水溶液に置換した。抗体溶液1.28mg/5mlあるいはヒトRAGE溶液1.08mg/8mlに各々AMPSt繊維0.5gを浸漬し、試験管内で37℃で2時間ゆっくり振盪しながら反応させた。反応前後における反応液中の吸光度を測定することにより、抗体あるいはヒトRAGEの固定化量を算定した結果、それぞれ抗体固定化繊維は0.82mg/g繊維(実施例4)、ヒトRAGE固定化繊維は1.18mg/g繊維(実施例5)であった。各々の固定化繊維を0.1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)5mlに浸漬し、室温で1.5時間反応させ、未反応のα−クロロアセトアミドメチル基を不活化した後、それぞれ0.5MのNaClを含む0.1M酢酸−NaOH(pH4.0)1ml及び0.1M炭酸−NaOH(pH9.0)1mlで交互に3回洗浄し、最後にリン酸緩衝液にて平衡化を行い、吸着実験に使用した。
(12)非生体分子固定化ビーズの作製
前記式[I]で表される構造を含む吸着基が固定化された吸着材として、4種類(実施例6〜9)の非生体分子固定化ビーズを作製した。各実施例の構造を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
粒径0.1mmのキトサンビーズ(富士紡(株)、“キトパール”AL−01)12ml(沈降時体積、乾燥時重量は1.0g)をジメチルホルムアミド中で攪拌した。この操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させた。このビーズを10gのヘキサメチレンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返し、未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを完全に除去した。次いで、水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解した。さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[II]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例6)。
(キトサンビーズ)−CONH−(CH2)6−NH2 [II]
また、キトサンビーズ(AL−01)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させたビーズを15gの4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。この洗浄を3回繰り返し、未反応4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解し、さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[III]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例7)。
(キトサンビーズ)−CONH−C6H4−CH2−C6H4−NH2 [III]
さらに、セルロースビーズ(セルロファインGCL−200cc;乾燥重量1.0g)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させた。
【0030】
このビーズを15gの4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行った。これを3回繰り返し、未反応の4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換した。さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させ、イソシアネート基を1級アミノ基に加水分解した。さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[IV]の構造を有するセルロースビーズを得た(実施例8)。
(セルロースビーズ)−CONH−C6H4−CH2−C6H4−NH2 [IV]
他にも、キトサンビーズ(AL−01、乾燥重量1.0g)に対して、同じく、ジメチルホルムアミド中での攪拌操作を1回20分間、4回繰り返し、含水水分をジメチルホルムアミドと完全に置換させたビーズを15gの4、4’−ビフェニルジカルボニルクロライドを溶解させた1リットルのジメチルホルムアミドに徐々に添加し、攪拌しながら室温で1時間反応させた後、これらを取り出し、別々に準備しておいた1リットルのジメチルホルムアミド中に入れて20分間洗浄操作を行い、この洗浄を3回繰り返し、未反応4、4’−ビフェニルジカルボニルクロライドを完全に除去した。次いで水洗を4回行い、ジメチルホルムアミドを水と置換し、さらに0.1Mの水酸化ナトリウム溶液と攪拌しながら室温で20分間反応させイソシアネート基を1級アミノ基に加水分解し、さらに水洗を4回行い、最後に80℃の水中で20分間浸漬し、[V]の構造を有するキトサンビーズを得た(実施例9)。
(キトサンビーズ)−CO−C6H4−C6H4−NH2 [V]
(13) 吸着材のAGE吸着実験1
(5)、(8)、(10)、(11)で得られた吸着材、及び、市販の吸着材を使って、AGE吸着実験を行った。市販の吸着材は、カチオン性担体には、TSK−gel QAE−トヨパール 650M(東ソー:実施例10)を、また反応性アミン固定化担体には、アミノセルロファイン(チッソ:実施例11)をそれぞれ用いた。形状がゲルの場合は沈降体積で吸着材100μlあたり、サンプル((6)で得られたAGE−1,AGE−2およびAGE−3を10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。形状が繊維の場合は、AMPSt繊維の乾燥重量で50μgあたり、サンプルを1ml加えた。37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した。この反応液を3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を以下に示す免疫学的測定法(競合法ELISA)で測定した。(6)で作製したAGE−1、AGE−2、AGE−3を20μg/mlの濃度に調製し、96穴マイクロタイタープレートに1ウェル当たり100μl入れて、室温で2時間インキュベートすることにより固相化した。0.5%BSAを含むPBSでブロッキングした後、緩衝液25μl、測定サンプル25μl、(8)で作製したAGE抗体の希釈溶液を50μlを入れて、25℃で1時間振盪した。固相化抗原を認識した抗体に対して、抗ウサギペルオキシダーゼ標識抗体(カッペル)を反応させた後、発色させて595nmの吸光度を測定した。なお、検量線は(6)で作製した各AGEを用いた。各吸着材のAGE吸着率を表2に示す。すべての吸着材について、AGEに対して良好な選択性を示した。特に、カチオン性ビーズと反応性アミン固定化ビーズがAGEに対する強い親和性を示した。
【0031】
【表2】
【0032】
(14)吸着材のAGE吸着実験2
(9)で使用したNHS活性化セファロース4Bを1Mエタノールアミン−塩酸(pH8.0)0.1mlに加えて、室温で1.5時間反応させ、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を不活化した担体(比較例1)と(10)で作成したAMPSt繊維(比較例2)を用いて(13)と同様の操作でAGEに対する吸着実験を行った。また、(13)に記載した吸着実験の方法が、AGEのキャリアタンパクであるBSAに対する親和性により吸着率が左右されないことを確認するために、BSA親和性担体であるトヨパール AF−Blue 650ML(東ソー:比較例3)を用いた場合のAGE吸着性能も調べた。結果を表3に示す。その結果、AGEに対して顕著な親和性を示さないことが明らかとなった。したがって、糖尿病合併症因子に対して特異的な親和性を持つリガンドを固定化することにより、AGEに対して特異的な親和性が生じることが示された。
【0033】
【表3】
【0034】
(15)吸着材のAGE吸着実験3
(13)に記載の実施例1〜11について、(6)で得られたAGEをさらにRAGE結合アフィニティーカラムにより精製したAGEの吸着実験を行った。RAGE結合アフィニティーゲルは、(8)で得られた実施例3を使用した。オープンカラムにRAGE結合ゲルを3ml充填し、10mlのPBSで洗浄した。(6)で得られたAGE化BSA(濃度:30mg/ml)を1ml添加して、RAGE結合性AGEを吸着させた。次いで、PBSを50ml通過させて、RAGE非結合性AGE化BSAを除去した。さらに、0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)を通過させて、結合したAGE化BSAを回収した。回収したAGE化BSAに1Mトリス塩酸緩衝液(pH9.0)を加えて中和後、PBSに対して十分透析し、目的とするRAGE結合性AGEを得た。得られたAGE溶液について、BCAプロテインアッセイキット(ピアース)でタンパク濃度を測定した結果、約4.71mg/mlであった。吸着実験は、(13)と同様の方法で行った。形状がゲルの場合は沈降体積で吸着材100μlあたり、サンプル(RAGE結合性AGEを10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。形状が繊維の場合は、AMPSt繊維の乾燥重量で50μgあたり、サンプルを1ml加えた。それぞれ37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した後、3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を(13)に記載したELISA法で測定した。結果を表4に示す。その結果、RAGE結合性AGEに対しても、検討した吸着材すべてにおいて良好な親和性を示した。また、吸着率はRAGEアフィニティーカラムで精製していないAGEより、高い吸着率を示した。したがって、実施例1〜11の吸着材はRAGE結合性AGEに対して、より良好な親和性を有することが示された。
【0035】
【表4】
【0036】
(16)吸着材のAGE吸着実験4
(14)で得られた比較例1〜3の吸着材を用いて、(15)と同様の操作でRAGE結合性AGEに対する吸着実験を行った。結果を表5に示す。(14)と同様、RAGE結合性AGEに対する顕著な親和性を有さないことが示された。したがって、実施例1〜11のように、糖尿病合併症因子に対して特異的な親和性を持つリガンドを固定化することにより、RAGE結合性AGEに対して特異的な親和性が生じることが示された。
【0037】
【表5】
【0038】
(17)吸着材のAGE吸着実験5
(12)に記載の実施例7、(13)に記載の実施例10、および(14)に記載の比較例1について、ジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物に対する吸着実験を行った。ジカルボニル化合物由来非酵素的反応生成物として、(6)に記載のメチルグリオキサール由来AGE(AGE−4)、およびグリオキサール由来AGE(AGE−5)を用いた。吸着材100μlあたり、サンプル(AGE−4あるいはAGE−5を10μg/ml含む0.5%BSA−リン酸緩衝液)を900μl加えた。37℃の孵卵器中で2時間ゆっくり振盪した後、3000rpmで5分間遠心分離して吸着材を沈降させ、上清中のAGE量を(13)に記載したELISA法で測定した。結果を表6に示す。実施例7、実施例10は親和性を有していたのに対し、比較例1は親和性を有さなかったことから、実施例7、実施例10はジカルボニル化合物由来AGEに対して良好な親和性を有することが示された。
【0039】
【表6】
【0040】
(18)吸着材のHMG−1吸着実験
(12)に記載の実施例7及び(13)に記載の実施例10の吸着材について、RAGE結合物質として知られているHMG−1の吸着実験を行った。吸着材100μlあたり、ヒトHMG−1が100ng/mlの濃度になるよう添加した0.5%BSA−リン酸緩衝液(pH7.2)を1ml加えた。37℃で2時間振盪し、反応前後の上清のHMG−1をELISA法にて測定した。結果を表7に示す。実施例7および実施例10は、AGEの他に、HMG−1と親和性を有することが示された。
【0041】
【表7】
【0042】
(19)吸着材のβ2ミクログロブリン吸着実験
(12)に記載の実施例7について、β2ミクログロブリン吸着試験を行った。ヒト新鮮血清10mlに吸着材7を1g添加し、37℃で2時間振盪した。振盪前後の上清中のβ2ミクログロブリンをELISA法で測定した結果、吸着率は81.3%であった。したがって、実施例7は、AGEの他にβ2ミクログロブリンと親和性を有することが示された。
(20)吸着材充填容器によるAGE吸着実験
(12)に記載の実施例7を、円筒状のカラム(容量:1ml)に充填した。吸着材の流失を防ぐ目的で、カラムの入口と出口にそれぞれフィルターを装填した。カラムの入口および出口にチューブを接続し、ペリスタポンプを用いて、AGE濃度を10μg/mlに調製した0.5%BSA−リン酸緩衝液(pH7.2)10mlを流速0.5ml/minで循環させた。30、60、120、240、480分後にそれぞれ溶液をサンプリングし、各時間におけるAGE濃度をELISA法により測定した。結果を表8に示す。その結果、実施例7を充填したカラムはAGEを除去する性能を有していることが示された。また、カラムに充填された吸着材の圧損による変形はみられなかった。
【0043】
【表8】
【0044】
【発明の効果】
本発明の吸着材は、α−ヒドロキシアルデヒドを反応基質として生成した変性物質と特異的に結合できる物質を、水不溶性担体に固定してなるものであり、該吸着材と変性物質を含む被処理液とを接触させることにより、変性物質を吸着除去することが可能となり、糖尿病合併症など非酵素的反応が原因で起こり得る血管障害の治療に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】作製した各AGEとヒトRAGE細胞外ドメインとの結合性をEIAで評価した結果を示すグラフである。
Claims (18)
- α−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物を吸着することを特徴とする変性物質吸着材。
- 前記非酵素的反応生成物がRAGEのリガンドであることを特徴とする請求項1に記載の変性物質吸着材。
- 前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリコールアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の変性物質吸着材。
- 前記α−ヒドロキシアルデヒドがグリセルアルデヒドおよびその誘導体から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の変性物質吸着材。
- 水不溶性担体にRAGE誘導体を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 水不溶性担体にカチオン化した原子を含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 水不溶性担体に反応性アミンを含む吸着基を固定化したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 水不溶性担体に次式[I]で表される構造を含む吸着基が固定化されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の変性物質吸着材。
(水不溶性担体)−(Y)a −Z [I]
Y:アミド、または、ケトンのうちで何れかの官能基
Z:−(環式化合物1)l−(鎖状化合物)m−(環式化合物2)n−NH2であり、
且つ、炭素原子を1つ以上持つ官能基
a、l、m、n:0、または、1以上の整数。 - 前記水不溶性担体に前記吸着基を固定する方法が、共有結合であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 前記水不溶性担体が、多糖体あるいはビニル芳香族化合物であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 前記変性物質吸着材の、液体中からのα−ヒドロキシアルデヒドと生体分子との非酵素的反応生成物の除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 前記変性物質吸着材のジカルボニル化合物と生体分子との非酵素的反応生成物の液体中からの除去率が、少なくとも40%以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 前記変性物質吸着材のRAGE結合物質の液体中からの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 前記変性物質吸着材の、液体中からのβ2ミクログロブリンの除去率が、少なくとも30%以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 請求項1〜14のいずれかに記載の変性物質吸着材を充填してなることを特徴とする変性物質除去カラム。
- 請求項1〜14のいずれかに記載の変性物質吸着材あるいは請求項15に記載の変性物質除去カラムを用いて、液体中の変性物質を除去する方法。
- 体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の変性物質吸着材。
- 体液中の変性物質の除去に用いられることを特徴とする請求項15に記載の変性物質除去カラム。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002220820A JP2004057536A (ja) | 2002-07-30 | 2002-07-30 | 変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002220820A JP2004057536A (ja) | 2002-07-30 | 2002-07-30 | 変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004057536A true JP2004057536A (ja) | 2004-02-26 |
Family
ID=31941309
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002220820A Pending JP2004057536A (ja) | 2002-07-30 | 2002-07-30 | 変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004057536A (ja) |
Cited By (7)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008173033A (ja) * | 2007-01-17 | 2008-07-31 | Tohoku Univ | 糖鎖高分子の製造方法 |
JP2010284607A (ja) * | 2009-06-12 | 2010-12-24 | Toshiba Corp | リン吸着材、及びリン回収システム |
JP2011139805A (ja) * | 2010-01-07 | 2011-07-21 | Pharmit Co Ltd | 生体内塩基性物質を利用した体液浄化装置 |
JP2011139806A (ja) * | 2010-01-07 | 2011-07-21 | Pharmit Co Ltd | 生物由来塩基性物質およびその誘導体を利用した体液浄化装置 |
JP2012225762A (ja) * | 2011-04-19 | 2012-11-15 | Toyo Univ | 糖化タンパク質の検出方法および糖化タンパク質の検出のためのバイオセンサーチップ |
JP2020134368A (ja) * | 2019-02-21 | 2020-08-31 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 | AGEsを検出するためのアッセイ系 |
JP2020532417A (ja) * | 2017-08-31 | 2020-11-12 | サイトソーベンツ・コーポレーション | 体液からの終末糖化産物の削減 |
-
2002
- 2002-07-30 JP JP2002220820A patent/JP2004057536A/ja active Pending
Cited By (8)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008173033A (ja) * | 2007-01-17 | 2008-07-31 | Tohoku Univ | 糖鎖高分子の製造方法 |
JP2010284607A (ja) * | 2009-06-12 | 2010-12-24 | Toshiba Corp | リン吸着材、及びリン回収システム |
JP2011139805A (ja) * | 2010-01-07 | 2011-07-21 | Pharmit Co Ltd | 生体内塩基性物質を利用した体液浄化装置 |
JP2011139806A (ja) * | 2010-01-07 | 2011-07-21 | Pharmit Co Ltd | 生物由来塩基性物質およびその誘導体を利用した体液浄化装置 |
JP2012225762A (ja) * | 2011-04-19 | 2012-11-15 | Toyo Univ | 糖化タンパク質の検出方法および糖化タンパク質の検出のためのバイオセンサーチップ |
JP2020532417A (ja) * | 2017-08-31 | 2020-11-12 | サイトソーベンツ・コーポレーション | 体液からの終末糖化産物の削減 |
JP2020134368A (ja) * | 2019-02-21 | 2020-08-31 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 | AGEsを検出するためのアッセイ系 |
JP7262102B2 (ja) | 2019-02-21 | 2023-04-21 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 | AGEsを検出するためのアッセイ系 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
WO2001018060A1 (fr) | Materiaux de circulation extracorporelle, adsorbants de facteurs de complication diabetique, reservoirs servant a eliminer des facteurs de complication diabetique et procede d'elimination de facteurs de complication diabetique | |
EP0476721B1 (en) | A method for removing serum amyloid protein | |
CN106995496B (zh) | 用于去除抗a和/或抗b抗体的新型亲和层析介质 | |
JP6058877B2 (ja) | 生物学的物質の固定化のための生体適合性三次元マトリクス | |
CN1196688A (zh) | 亲和性膜系统及其应用方法 | |
US20090269778A1 (en) | Biocompatible three dimensional matrix for the immobilization of biological substances | |
WO2015095553A9 (en) | Methods and apparatus for kidney dialysis | |
JPH119688A (ja) | タンパク質を含有する溶液を浄化する装置、その装置のための支持材料を生産する方法及びその装置の使用方法 | |
JP2004057536A (ja) | 変性物質吸着材、変性物質除去カラムおよびそれらを用いた変性物質の除去方法 | |
JPH0256104B2 (ja) | ||
EP4003451A1 (en) | Device for extracorporeal lowering of asymmetric dimethylarginine and monomethyl arginine levels in human blood | |
JP6869600B2 (ja) | システインタグを付加したフコース結合性レクチン、および当該レクチンを利用した吸着剤 | |
CN114650852A (zh) | 从生物流体中去除免疫抑制剂的系统和方法 | |
JPH05340948A (ja) | 鶏卵抗体固定化担体およびその固定化方法 | |
EP0703001B1 (en) | Adsorbent for ketoamine-containing protein | |
JP2001286554A (ja) | 拡張型心筋症用吸着体 | |
JPH01181875A (ja) | 免疫複合体の吸着体およびそれを用いた免疫複合体の除去装置 | |
JP5808172B2 (ja) | 酸化低密度リポ蛋白および終末糖化産物の吸着剤 | |
JP2004236791A (ja) | 糖尿病合併症因子吸着体 | |
JP4773354B2 (ja) | インスリン結合たんぱく質と結合能力のあるペプチドおよび吸着材 | |
Beena et al. | Chitosan: A novel matrix for hemoperfusion | |
Singh et al. | Preparation and in vitro evaluation of a new extracorporeal dialyzer with immobilized insulin | |
US20130098834A1 (en) | Medium, devices and methods | |
JP6857957B2 (ja) | 腎臓透析および体外解毒に関する方法および装置 | |
JPH0634633A (ja) | 鶏卵抗体固定化担体およびその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20050701 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080909 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20090210 |