JP2004053491A - 皮膚状態の鑑別法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体のような水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなる、角質細胞採取用具を用いて、水溶性の固着剤塗工面を湿潤用の水性担体で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を界面活性剤或いはプロテアーゼを含有する分散用の水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させる。分散に於いては超音波を抱えて分散することがより好ましい。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、角質細胞採取用具及び該角質細胞採取用具を使用して採取された角質細胞を用いた皮膚の状態の鑑別法に関する。
【0002】
【従来の技術】
角質細胞の面積が、皮膚の状態と密接に関連することは古くから知られており、これを利用して肌分析が行われている。この様な場合、角質細胞の採取は粘着テープなど皮膚より採取し、これをスライドグラス上に固定した後、有機溶剤で粘着剤を溶解させ、染色、観察する方法が採られている。この方法によれば、角質細胞はスライドグラス上に固定する際にここの細胞に分かれ、正確に面積を計測することができる。しかしながら、近年の検討では、皮膚の状態の指標としては、面積ではなく、細胞の厚さを用いることがより好ましいことがわかってきている。即ち、充分に成熟したバリア機能の高い角質細胞は、充分に扁平になっている。又、角質細胞の体積は個体差が大きく、面積で細胞の厚さの程度を代替して鑑別することには自ずから限度が生じている。かかる細胞の厚さの程度を求めるためには、面積と体積とを計測し、体積を面積で除することが必要である。この為、これまでの採取方法で採取していた角質細胞を用いると、溶剤により角質細胞より脂質を脱脂してしまうため、本来の体積を計測できない問題が生じてきている。この対応としては、水溶性の固着剤を用いて角質細胞を採取し、水性担体で固着剤を除去する方法が考えられるが、この様な方法では角質細胞がデスモゾームを介して接着し、数個の細胞が接着したままで個々の細胞には分かれにくい問題があり、水溶性の固着剤を用いる方法はこれまで採られていなかった。個々の細胞に分かれていなければ、その体積を計測することはできないからである。面積の計測では、従来の方法で支障がなかったのも、水溶性の固着剤が使用されなかった一因でもある。言い換えれば、近年になって、皮膚状態の新しい指標として角質細胞体積、細胞の厚さが見出され、体積形状を損なわずに角質細胞を採取する手段の開発が望まれるようになった。
【0003】
一方、水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなる、角質細胞採取用具は全く知られていないし、この様な角質細胞採取用具の水溶性の固着剤塗工面を水で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させ、水性担体に分散された角質細胞の面積と体積を測定し、該体積を面積で除した細胞の厚さを指標とすることを特徴とする、皮膚の状態の鑑別法も知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、体積形状を損なわずに角質細胞を採取する手段を提供し、皮膚の状態の鑑別をより正確に行わんとするものである。
【0005】
【課題の解決手段】
本発明者らは、この様な状況に鑑みて、体積形状を損なわずに角質細胞を採取する手段を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなる、角質細胞採取用具を用いて、水溶性の固着剤塗工面を湿潤用の水性担体で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を分散用の水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させることにより、角質細胞の形状を損なわずに角質細胞が採取できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す技術に関するものである。
(1)水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなる、角質細胞採取用具。
(2)水溶性の固着剤が、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸及び/又はその塩並びにポリメタクリル酸及び/又はその塩から選択されるものであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の角質細胞採取用具。
(3)支持体がフィルムであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の角質細胞採取用具。
(4)(1)〜(3)何れか1項に記載の角質細胞採取用具の水溶性の固着剤塗工面を湿潤用の水性担体で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を分散用の水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させ、水性担体に分散された角質細胞の面積と体積を測定し、該体積を面積で除した細胞の厚さを指標とすることを特徴とする、皮膚の状態の鑑別法。
(5)分散手段が、プロテアーゼ及び/又は界面活性剤であることを特徴とする、(4)に記載の皮膚の状態の鑑別法。
(6)更に超音波による分散促進手段を用いることを特徴とする、請求項4又は5に記載の皮膚の状態の鑑別法。
以下、本発明について詳細に説明を加える。
【0006】
【発明の実施の形態】
(1)本発明の角質細胞採取用具
本発明の角質細胞採取用具は、水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなることを特徴とする。本発明で言う、水溶性の固着剤とは水と混合し一様な溶状を呈する高分子化合物であって、少量具体的には自重量の2倍程度の水分との混合に於いては、粘着質のゲル状の性状を呈するものを総称する。この様な水溶性の固着剤としては、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルエーテルなどの重合体乃至は共重合体が好ましく例示でき、中でも、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸及び/又はその塩並びにポリメタクリル酸及び/又はその塩から選択されるものがより好ましく例示できる。これらは唯一種でも用いることができるし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。特に好ましいものは、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体などが特に好ましい。又、支持体としては、形態維持性のあるものであれば特段の限定はなく使用でき、中でも、形態維持性を有しつつも、適度の変形性を有する材料が好ましく例示できる。かかる材料は、透明でも不透明でも構わないが、皮膚との密着性が観察できる点で、透明であることが有利である。かかる支持体の好ましいものとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ナイロン、アクリル樹脂などの板乃至はディスクが好ましく例示できる。ディスクとは厚さ0.1〜1mmの薄板を意味し、形態維持性と変形性とを有するので、本発明の支持体としては特に好ましい。支持体上に水溶性の固着剤を塗工する方法であるが、これは常法に従って行えば良く、例えば、水性担体で支持体を湿らせ、これに水溶性の固着剤の粉末を噴霧する方法、水溶性の固着剤の水溶液を噴霧乾燥させる方法或いは水溶性の固着剤の水溶液をドクターブレードなどで塗工し乾燥させる方法等が好ましく例示できる。かかる塗工に際して、支持体上を予め界面活性剤などで処理し、塗工厚をより均一化することもできる。この様な界面活性剤としては、エーテル系の界面活性剤が好ましく、具体的にはトリトンX−100が好ましく例示できる。この様な形態は、細胞を採取後、水性担体中に分散させ回収する際に、デスモゾームを介する接着を超音波などの処理をするだけで解除できるので、その意味で好ましい。かかる塗工によって生じる水溶性の固着剤の被膜の厚さは0.1〜10ミルが好ましい。これは塗工膜の厚さが厚すぎると、塗工膜から細胞を回収する際の回収率が損なわれる場合があり、薄すぎると、皮膚からの細胞の採取効率が損なわれる場合があるからである。
【0007】
(2)本発明の皮膚の状態の鑑別法
本発明の皮膚の状態の鑑別法は、上記角質細胞採取用具を用いて行うことを特徴とする。即ち、前記角質細胞採取用具の水溶性の固着剤塗工面を湿潤用の水性担体で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を分散用の水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させ、水性担体に分散された角質細胞の面積と体積を測定し、該体積を面積で除した細胞の厚さを指標とすることを特徴とする。ここで、湿潤用の水性担体としては、固着剤を湿潤化でき、粘着性を付与できるものであれば特段の限定はされず、例えば、水、エタノール水溶液等が例示でき、これらの水性担体は等張に調整されていても良いし、pHを調整されていても良いが、手軽さから言えば水が特に好ましい。かかる水性担体の適用量は、被覆されている固着剤に対して、0.5〜2重量倍量が好ましい。かくして固着剤が湿潤、粘性ゲル化した本発明の角質細胞採取用具は、角質細胞採取部位、例えば、露出部位であれば頬部、非露出部位であれば上腕内側部等の部位に、固着剤が乾燥固化するまで密着、貼付し、しかる後に剥離する。この剥離時に角質細胞が固着剤に固着した形態で採取できる。かくして採取した角質細胞は、分散用の水性担体に分散する。分散に際しては、角質細胞同士のデスモゾームを介しての接着を解除する必要がある。この様な解除手段としては、界面活性剤を用いる方法とプロテアーゼによる処理が挙げられる。界面活性剤としては、エーテル型の界面活性剤が好ましく、トリトンX−100が特に好ましく例示できる。かかる界面活性剤の好ましい処理濃度は0.05〜0.5重量%である。又、プロテアーゼとしては、キモトリプシン、トリプシン、カテプシンD等が好ましく例示でき、処理濃度としては0.01〜0.25重量%が好ましく例示できる。かかる分散手段は、前記の界面活性剤或いはプロテアーゼを分散用の水性担体に含有させ、物理的攪拌手段で攪拌することにより実現できる。攪拌に際しては、超音波による処理を行うことが好ましい。超音波処理の処理時間は3〜8分が好ましい。超音波の処理時間が短すぎると、細胞が個々の細胞にほぐれない場合があり、長すぎると発生した熱エネルギーにより、角質細胞が変性する場合があるからである。又、分散用の水性担体としては、前記界面活性剤やプロテアーゼ以外に、塩化ナトリウムなどの等張剤や緩衝塩等の緩衝剤を含有することができる。好ましい形態は、界面活性剤乃至はプロテアーゼを含有するリン酸緩衝生理食塩水である。pHとしては6.5〜7.5が好ましい。かくして得られた細胞の形状を計測し、皮膚状態を鑑別する。すなわち、分散された角質細胞の面積と体積を測定し、該体積を面積で除した細胞の厚さを指標とし、皮膚の状態を鑑別する。厚さが薄いほど成熟した角質細胞が表皮に存在する鑑別でき、いい皮膚状態であると鑑別されるし、厚さが厚いほど未熟な角質細胞が表皮に存在し、悪い状態であると鑑別される。角質細胞の大凡の正常値としては、細胞の投影面積は600〜1000μm2程度、角質細胞体積は200〜300μm3程度、角質細胞の厚みは0.1〜0.3μm程度である。これらの値を判定の基準とすることができる。
【0008】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0009】
<実施例1>
次に示す、手順に従って、本発明の角質細胞採取用具を作成した。即ち、厚さ0.2mmのPETのディスク(2cm×4cm)上に下記に示す粘性組成物を20ミルのドクターブレードで塗工し、40℃で乾燥させ、本発明の角質細胞採取用具1とした。塗工厚は1.8ミルであった。
ポリ酢酸ビニルエマルジョン(固形分30%) 35 重量部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 5 重量部
トリトンX−100 0.1重量部
水 59.9重量部
【0010】
<実施例2>
実施例1と同様に下記の粘性組成物を用いて本発明の角質細胞採取用具2を得た。塗工厚は2.3ミルであった。
ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体 10 重量部
ヒドロキシプロピルセルロース 5 重量部
ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル 1 重量部
水 85 重量部
【0011】
<実施例3>
実施例1と同様に下記の粘性組成物を用いて本発明の角質細胞採取用具3を得た。塗工厚は1.6ミルであった。
ポリ酢酸ビニルエマルジョン(固形分30%) 35 重量部
ポリビニルピロリドン 5 重量部
ポリオキシエチレン(20)ベヘニルエーテル 1 重量部
水 59 重量部
【0012】
<実施例4>
実施例1〜3の角質細胞採取用具を用いて、ヘアレスマウスの背部より採取し、0.1%トリトンX−100含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7)に、超音波処理5分を行って、分散させ、しかる後、角質細胞を遠心分離によって集め、原子間力顕微鏡で観察し、角質細胞体積を計測した。角質細胞採取用具は0.5mlの水を垂らして湿潤化した後用いた。比較例として、粘着テープを貼付した後、剥離し、粘着テープの粘着剤をキシレンによって熔解させ、キシレン中に角質細胞を分散させ、集めたものも同様に計測した。計測結果、分散後の細胞の回収率、及び、剥離したときの取れ具合を表1に示す。計測結果の単位はμm3、回収率及び取れ具合の判断基準は○が良い、△がやや悪い、×が悪いである。これより、有機溶剤を使用する従来法に於いては、脂質が抽出されることにより角質細胞の体積の減少が認められるが、本発明の角質細胞採取用具を用い、水性担体により採取することにより、細胞の形状を変えることなく角質細胞が採取できることがわかる。又、水溶性の固着剤としては、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体が特に好ましいこともわかる。
【0013】
【表1】
【0014】
<実施例5>
実施例4と同様に、角質細胞用具2を用い、分散手段をトリトンX−100から、キモトリプシン0.1%含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7)、トリプシン0.1%含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7)、カテプシンD0.1%含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7)に代え、37℃2時間のインキュベーション条件で同様の実験を行った。酵素処理後には、超音波を5分間かけた。結果を表2に示す。これより、プロテアーゼによって実施例4と同様の結果が得られることがわかる。
【0015】
【表2】
【0016】
<実施例6>
投影面積からの肌分析では正常に分類されてしまうアトピー性皮膚炎患者より、角質細胞採取用具2を用い、トリプシン0.1%含有リン酸緩衝生理食塩水(pH7)を分散用の水性担体とし、37℃2時間のインキュベーション条件で同様の実験を行った。酵素処理後には、超音波を5分間かけ細胞を回収し、体積、投影面積、細胞の厚さを計測した。比較例は粘着テープで角質細胞を採取し、キシレンで粘着剤を熔解し、細胞を回収して計測したものである。これらの計測結果を表3に示す。これより、このアトピー性皮膚炎患者は、投影面積では正常と鑑別されるが、角質細胞体積或いは角質細胞の厚み指標にすることにより正確にアトピー性皮膚炎患者と鑑別できることがわかる。尚、正常人に於ける角質細胞の投影面積は600〜1000μm2程度、角質細胞体積は200〜300μm3程度、角質細胞の厚みは0.1〜0.3μm程度である。
【0017】
【表3】
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、体積形状を損なわずに角質細胞を採取する手段を提供し、皮膚の状態の鑑別をより正確に行うことができる。
Claims (6)
- 水溶性の固着剤を、支持体上に塗工してなる、角質細胞採取用具。
- 水溶性の固着剤が、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸及び/又はその塩並びにポリメタクリル酸及び/又はその塩から選択されるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の角質細胞採取用具。
- 支持体がフィルムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の角質細胞採取用具。
- 請求項1〜3何れか1項に記載の角質細胞採取用具の水溶性の固着剤塗工面を湿潤用の水性担体で湿らせ、膨潤させた後、角質細胞の採取部に貼付し、乾燥固化させ、剥離し、固着剤を分散用の水性担体で溶解させ、固着剤に固着された角質細胞を水性担体中に分散手段により分散させ、水性担体に分散された角質細胞の面積と体積を測定し、該体積を面積で除した細胞厚さを指標とすることを特徴とする、皮膚の状態の鑑別法。
- 分散手段が、プロテアーゼ及び/又は界面活性剤であることを特徴とする、請求項4に記載の皮膚の状態の鑑別法。
- 更に超音波による分散促進手段を用いることを特徴とする、請求項4又は5に記載の皮膚の状態の鑑別法。
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