JP2004052070A - 硬質被膜被覆鋼及びその製造方法 - Google Patents

硬質被膜被覆鋼及びその製造方法 Download PDF

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Yoshitake Suzuki
鈴木 良剛
Hiroaki Yoshida
吉田 広明
Yukihiro Isogawa
五十川 幸宏
Fumio Iwane
岩根 文男
Kazutaka Taniguchi
谷口 一貴
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Daido Steel Co Ltd
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Daido Steel Co Ltd
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Abstract

【課題】剛性、靱性、耐摩耗性及び耐久性に優れ、高い表面硬度を有し、しかもクラッド界面にフクレのない硬質被膜被覆鋼及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】硬質被膜被覆鋼は、400HV以上の硬度を有する鋼からなる基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成されたTiNi層を含む硬質皮膜を備えている。TiNi層の上には、さらにTiNi層、又はTiNi層及びTiNi層が形成されていても良い。このような硬質皮膜被覆鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼の少なくとも一方の表面に、Ni基合金層を介してTi基合金からなる外層を積層圧着して積層板とし、この積層板を、第1関係式:DTi≦37・α−0.42(但し、DTi(μm)は、外層の厚さ)を満たす昇温速度α(℃/sec)で昇温し、900℃〜1100℃で15秒〜15分間保持した後、1℃/sec以上の冷却速度で急冷することにより得られる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬質被膜被覆鋼及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、歯車、軸受等の摺動部材、バリカン、電気かみそり等の刃物材、切削工具等に好適な硬質被膜被覆鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、摺動部材、刃物材、切削工具等の硬度及び耐摩耗性が要求される用途には、高炭素含有鋼(例えば、工具鋼、高炭素ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼等)が一般に使用されている。しかしながら、これらの材料は、靱性に優れるが、表面硬度を十分に高くすることができないために、大きな摩擦力が繰り返しかかる条件下では、消耗が激しいという問題があった。また、非常に高精度な加工が必要とされる部品にこれらの材料を適用した場合、研磨の際にカエリが大きく、高精度部品を製造するのが難しいという問題があった。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、硬度及び耐摩耗性が要求される部品全体又はその一部分に、表面硬度の高いセラミックス材料を用いる方法、基材となる鋼材表面にPVD(物理気相成長法)、CVD(化学気相成長法)等を用いてアルミナ等の硬質被膜をコーティングする方法などが知られている。
【0004】
また、国際公開された特許協力条約に基づく国際出願第PCT/JP98/05082号には、マルテンサイト系ステンレス鋼の片面又は両面に、Ni、Fe又はNi−Cu合金からなる中間層を介してTi又はTi合金からなる外層をクラッドして積層板とし、900℃〜1150℃で30秒〜5分間加熱保持した後、毎秒1℃以上の冷却速度で冷却する焼入処理を前記積層板に施す金属間化合物被覆ステンレス鋼の製造方法が本願出願人により開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、セラミックス材料は靱性に乏しいので、硬度及び耐摩耗性が要求される部品全体又はその一部分にセラミックス材料を用いた場合には、衝撃によって容易に破損するという問題がある。また、加工が困難であるために、シャープなエッジ形状を必要とする刃物や、複雑形状を有する部品に適用するのは困難である。
【0006】
また、PVDやCVDを用いて硬質被膜をコーティングする方法では、成膜速度が遅いために、現実的な処理時間によって得られる硬質被膜の厚さは、0.1μm程度である。そのため、これを大きな負荷がかかる耐摩耗部品に適用した場合には、短時間で硬質被膜が摩滅し、耐久性に乏しいという問題がある。
【0007】
これに対し、マルテンサイト系ステンレス鋼の表面に中間層及び外層をクラッドし、所定の温度に加熱した後、焼入れする方法によれば、高い硬度を有する鋼材の表面に、鋼材より高い硬度と、ミクロンオーダーの厚さを有する金属間化合物層を含む硬質被膜を形成することができる。そのため、この方法によれば、剛性、靱性、耐摩耗性及び耐久性に優れ、しかも高い表面硬度を有する耐摩耗材料を得ることができる。
【0008】
しかしながら、クラッド材を加熱する際に、加熱条件が不適切であると、クラッド界面にフクレが発生する場合があった。クラッド界面に発生したフクレは、硬質被膜を容易に剥離させ、耐久性を低下させる原因となる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、剛性、靱性、耐摩耗性及び耐久性に優れ、高い表面硬度を有し、しかもクラッド界面にフクレのない硬質被膜被覆鋼及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る硬質被膜被覆鋼は、ビッカース硬度で400HV以上の硬度を有する鋼材からなる基材と、該基材の少なくとも一方の表面に形成された硬質被膜とを備え、該硬質被膜は、TiNi層を備えていることを要旨とするものである。
【0011】
この場合、前記TiNi層の上に、さらにTiNi層が形成されていても良い。また、前記TiNi層の上に、さらにTiNi層が形成されていても良く、あるいは、前記TiNi層に代えて、(Ti、Ni)O層が形成されていても良い。さらに、前記TiNi層の下に、TiC層又はNi基合金層が形成されていていても良い。
【0012】
また、本発明に係る硬質皮膜被覆鋼の2番目は、ビッカース硬度で400HV以上の硬度を有する鋼材からなる基材と、該基材の少なくとも一方の表面に形成された硬質被膜とを備え、該硬質被膜は、Ti(Ni、Fe)層を備えていることを要旨とするものである。
【0013】
この場合、前記Ti(Ni、Fe)層の上に、さらにTi(Ni、Fe)層が形成されていても良い。また、前記Ti(Ni、Fe)層の上に、さらにTi(Ni、Fe)層が形成されていても良く、あるいは、前記Ti(Ni、Fe)層に代えて、(Ti、Ni、Fe)O層が形成されていても良い。
【0014】
また、本発明に係る硬質被膜被覆鋼の製造方法は、焼入性を有する鋼材からなる基材の少なくとも一方の表面に、Ni基合金からなる中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製するクラッド工程と、前記積層板を、
第1関係式:DTi≦37・α−0.42(但し、DTi(μm)は、外層の厚さ)
を満たす昇温速度α(℃/sec)で昇温し、900℃〜1100℃で15秒〜15分間保持する熱処理工程と、該熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で急冷する焼入工程とを備えていることを要旨とするものである。
【0015】
さらに、本発明に係る硬質被膜被覆鋼の製造方法の2番目は、焼入性を有する鋼材からなる基材の少なくとも一方の表面に、中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製するクラッド工程と、前記基材、前記中間層及び前記外層に含まれる元素の拡散によって金属間化合物が生成し、かつ液相が生成しない温度に、前記積層板を加熱する第1熱処理工程と、前記基材のオーステナイト化温度以上の温度に、前記積層板を加熱する第2熱処理工程と、該第2熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で急冷する焼入工程とを備えていることを要旨とするものである。
【0016】
基材、中間層及び外層がこの順で積層圧着された積層板を所定の温度に加熱すると、基材、中間層及び外層に含まれる元素が相互に拡散し、金属間化合物層を含む硬質被膜が、基材表面に形成される。この時、所定の昇温速度で昇温するか、あるいは最終加熱温度より低い温度で所定時間保持すると、昇温途中での溶解に起因するクラッド界面でのフクレを防止できる。
【0017】
このような方法により製造された硬質被膜被覆鋼は、400HV以上の硬度を有する鋼からなる基材の表面が、基材より高い硬度と、ミクロンオーダーの厚さを有する硬質被膜で被覆されている。そのため、高い表面硬度を有し、優れた剛性、靱性、耐摩耗性及び耐久性を示す。しかも、クラッド界面でのフクレがないので、硬質被膜の剥離に起因する耐久性の低下も抑制される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る硬質被膜被覆鋼は、基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成された硬質被膜とを備えている。
【0019】
本発明において、基材には、焼入によってビッカース硬度で400HV以上の硬度になり得る鋼材が用いられる。このようなな鋼材としては、具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼、焼入用合金鋼、工具鋼等が好適な一例として挙げられる。その他、基材として、マルエージング鋼も用いることができる。
【0020】
中でも、所定の組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入によって400HV以上の高い硬度が得られ、しかも剛性及び靱性に優れているので、基材として特に好適である。この場合、Cr量は、12〜18mass%が好ましい。Cr量が12mass%未満になると、耐食性が低下するので好ましくない。一方、Cr量が18mass%を超えると、フェライト系ステンレス鋼となり、焼入ができないので好ましくない。
【0021】
また、C量は、0.1〜1.0mass%が好ましい。C量が0.1mass%未満であると、焼入性が低下し、400HV以上の硬度が得られないので好ましくない。一方、C量が1.0mass%を超えると、耐食性が低下するので好ましくない。さらに、Moは、焼戻しの際の軟化抵抗を増大させる作用があるが、その含有量は、2.5mass%以下が好ましい。
【0022】
硬質被膜は、一層又は二層以上のTi系の金属間化合物層を含む。この場合、硬質被膜に含まれる金属間化合物層の総厚さは、2μm以上40μm以下が好ましい。金属間化合物層の総厚さが2μm未満であると、硬質被膜が短時間で摩滅し、耐久性に乏しいので好ましくない。一方、金属間化合物層の総厚さが40μmを超えると、硬質被膜が基材から剥離しやすくなるので好ましくない。金属間化合物層の総厚さは、さらに好ましくは、5μm以上20μm以下である。
【0023】
また、本発明に係る硬質被膜被覆鋼は、後述するように、基材の少なくとも一方の表面に、Ni基合金からなる中間層及びTi基合金からなる外層、並びに必要に応じてFe基合金からなる第3層を積層圧着し、所定の条件下で拡散焼入処理することにより得られる。
【0024】
従って、硬質被膜は、使用する基材、中間層、外層及び第3層の組成、並びに熱処理条件に応じて、金属間化合物層の表面側及び/又は基材側に他の層を含む場合がある。このような他の層は、硬質被膜にとって必ずしも有害ではなく、むしろ、硬度や耐摩耗性を向上させる作用を有するものもある。
【0025】
表面側に形成される他の層であって、無害又は有益なものとしては、具体的には、金属間化合物層を構成する1又は2以上の金属元素を含む酸化物層が好適な一例として挙げられる。また、基材側に形成される他の層であって、無害又は有益なものとしては、具体的には、中間層として用いた合金層、TiC層などが好適な一例として挙げられる。
【0026】
硬質被膜に含まれる金属間化合物層の構成は、使用する基材、中間層、外層及び第3層の組成、並びに熱処理条件に応じて異なる。具体的には、以下のようなものが好適な一例として挙げられる。
【0027】
硬質被膜の第1の具体例は、Ti−Ni系金属間化合物層を含むものからなる。このようなTi−Ni系金属間化合物層としては、具体的には、基材側に形成されたTiNi層が好適である。TiNi層の表面側には、さらにTiNi層が形成されていても良い。また、TiNi層の表面側には、さらに、TiNi層が形成されていても良い。このような硬質被膜は、中間層としてNi基合金を用いて、最適な条件下で熱処理することにより得られる。
【0028】
また、最外層は、TiNi層に代えて、Ti及び/又はNiを含む酸化物層(本発明においては、このような酸化物層を「(Ti、Ni)O層」と表記する。)であっても良い。
【0029】
さらに、これらの場合において、TiNi層の下に、金属間化合物の生成に消費されなかったNi基合金層、又は基材に含まれるCと外層に含まれるTiの拡散によって生成したTiC層が形成されていても良い。
【0030】
硬質被膜の第2の具体例は、Ti−Fe系金属間化合物とTi−Ni系金属間化合物の固溶体からなる金属間化合物層(以下、これを「Ti−Ni−Fe系金属間化合物層」という。)を含むものからなる。
【0031】
このような金属間化合物層としては、具体的には、基材側に形成されたTi(Ni、Fe)層が好適である。Ti(Ni、Fe)層の表面側には、さらにTi(Ni、Fe)層が形成されていても良い。また、Ti(Ni、Fe)層の表面側には、さらにTi(Ni、Fe)層が形成されていても良い。このような硬質被膜は、中間層としてNi基合金を用いて、最適な条件下で熱処理することにより得られる。あるいは、硬化処理前に素材の加工性向上のために、外層の上にさらに第3層としてFe合金を被覆する場合があり、その場合にも、Feを微量に含むTi−Ni−Fe系金属間化合物からなる硬質皮膜が得られる。
【0032】
なお、最外層は、Ti(Ni、Fe)層に代えて、(Ti、Ni、Fe)O層であっても良い。最表層に酸化物被膜を形成すると、光クリーン性等の特性を発揮できる。また、これらの場合において、Ti(Ni、Fe)層の下には、Ni基合金層又はTiC層が形成されていても良い。
【0033】
次に、本発明に係る硬質被膜被覆鋼の作用について説明する。基材表面に形成される硬質被膜は、金属間化合物層を含んでいるために、基材よりも高い硬度を有している。一方、基材自体も400HV以上の硬度を有し、しかも硬質被膜より高い靱性を有している。そのため、本発明に係る硬質被膜被覆鋼は、表面硬度が高く、しかも優れた剛性、靱性及び耐摩耗性を示す。
【0034】
また、硬質被膜は、ミクロンオーダーの厚さを有しているので、高負荷がかかっても短時間で摩滅することはなく、高い耐久性を示す。さらに、硬質被膜には耐食性の高いTi系の金属間化合物層が含まれているので、アルカリ性の腐食環境に曝されても硬度及び耐摩耗性が短時間で劣化することもない。
【0035】
次に、本発明に係る硬質被膜被覆鋼の製造方法について説明する。本発明の第1の実施の形態に係る製造方法は、クラッド工程と、熱処理工程と、焼入工程とを備えている。
【0036】
初めに、クラッド工程について説明する。クラッド工程は、焼入性を有する鋼材からなる基材の少なくとも一方の表面にNi基合金からなる中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製する工程である。この場合、外層の上には、必要に応じて、Fe基合金からなる第3層がさらに積層されていてもよい。
【0037】
焼入性を有する鋼材としては、上述したように、マルテンサイト系ステンレス鋼、焼入用合金鋼、工具鋼等が好適な一例として挙げられる。また、これらの中でも、12〜18mass%のCrと、0.1〜1.0mass%のCと、2.5mass%以下のMoを含むマルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入性、剛性及び靱性に優れているので、基材として特に好適である。その他、マルエージング鋼も基材として用いることができる。
【0038】
また、本発明において、「Ni基合金」とは、Niを含む金属材料をいう。中間層として用いられるNi基合金としては、具体的には、純Ni、Ni−Cr合金、Fe−Ni合金等が好適な一例として挙げられる。
【0039】
また、本発明において、「Ti基合金」とは、Tiを含む金属材料をいう。外層として用いられるTi基合金としては、具体的には、純Ti、Ti−Pd合金、β型Ti合金等が好適な一例として挙げられる。
【0040】
さらに、本発明において、「Fe基合金」とは、Feを含む金属材料をいう。第3層として用いられるFe基合金としては、具体的には、ステンレス鋼、純Fe、低炭素鋼等が好適な一例として挙げられる。
【0041】
積層板を構成する外層の厚さは、1μm以上20μm以下が好ましい。外層の厚さが1μm未満であると、後述する熱処理工程において生成する金属間化合物層の厚さが薄くなり、硬質被膜の耐久性が低下するので好ましくない。一方、外層の厚さが20μmを超えると、金属間化合物層の厚さが厚くなりすぎたり、あるいは、金属間化合物層の生成に消費されなかったTi基合金が表面側に多量に残留するので好ましくない。外層の厚さは、さらに好ましくは、2μm以上10μm以下である。
【0042】
また、中間層の厚さは、外層の厚さの0.5倍以上5倍以下が好ましい。中間層の厚さが外層の厚さの0.5倍未満になると、金属間化合物層の生成に消費されなかったTi基合金が表面側に多量に残留するので好ましくない。一方、中間層の厚さが外層の厚さの5倍を超えると、金属間化合物層の生成に消費されなかったNi基合金が基材側に多量に残留するので好ましくない。中間層の厚さは、さらに好ましくは、外層の厚さの1倍以上3倍以下である。
【0043】
さらに、外層の上に第3層を形成する場合において、第3層の厚さは、5μm以下が好ましい。第3層は、後述するように、最終的には剥離させるが、第3層の厚さが5μmを超えると、剥離作業が困難となるので好ましくない。第3層の厚さは、さらに好ましくは、2μm以下である。なお、基材の厚さは、その用途に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されるものではない。
【0044】
このような積層板は、具体的には、基材の少なくとも一方の面に中間層及び外層、並びに必要に応じて第3層をこの順で積み重ねて熱間又は冷間クラッド圧延し、次いで、冷間圧延及焼鈍を所定回数繰り返すことにより得られる。また、冷間圧延によって所定の厚さに仕上げられた積層板には、必要に応じて、曲げ、絞り、打ち抜き等の2次加工が行われる。
【0045】
また、熱間クラッド圧延を行う場合には、基材及び各層の酸化を防ぐために、全体をシースでくるんで行うのが好ましい。シースは、冷間圧延が行われる前に除去すればよい。熱間又は冷間クラッド圧延前の基材及び各層の厚さは、冷間圧延終了後の各層の厚さが上述の範囲内となり、かつ最終製品に要求される厚さが得られるように、熱間又は冷間クラッド圧延及び冷間圧延における圧下率、基材及び各層の変形能等に応じて、最適な値を選択すれば良い。
【0046】
また、冷間圧延された積層板に対する焼鈍は、冷間圧延の際に生ずる加工硬化を除去する必要がある場合に行われる。この場合、焼鈍温度は、600℃以上800℃以下が好ましい。焼鈍温度が600℃未満になると、冷間加工の際の加工硬化を十分に除去できないので好ましくない。一方、焼鈍温度が800℃を超えると、クラッド界面において金属間化合物層が生成し、冷間圧延や2次加工が困難となるので好ましくない。
【0047】
また、焼鈍時間は、15秒以上15分以下が好ましい。焼鈍時間が15秒未満であると、加工硬化の除去が不均一となるので好ましくない。一方、焼鈍時間が15分間を超えると、クラッド界面において金属間化合物が生成するので好ましくない。
【0048】
次に、熱処理工程について説明する。熱処理工程は、必要に応じて2次加工が施された積層板を、
第1関係式:DTi≦37・α−0.42(但し、DTi(μm)は、外層の厚さ)
を満たす昇温速度α(℃/sec)で昇温し、900℃〜1100℃で15秒〜15分間保持する工程である。
【0049】
第1関係式は、定性的には、外層厚さDTiが厚くなるほど昇温速度αを遅くする必要があることを示している。外層厚さDTiの厚さに比して、相対的に昇温速度αが速くなると、クラッド界面において融解に起因するフクレが発生するので好ましくない。
【0050】
熱処理温度及び熱処理時間は、要求される金属間化合物層の厚さと、要求される基材の硬度が得られるように、基材、中間層及び外層の材質、外層の厚さ等に応じて最適な値を選択する。
【0051】
熱処理温度は、具体的には、900℃以上1100℃以下が好ましい。熱処理温度が900℃未満になると、金属間化合物層の生成が不十分となったり、あるいは、基材の材質によっては、後述する焼入工程において、焼入が不十分となるので好ましくない。一方、熱処理温度が1100℃を超えると、外層に含まれるTiが基材の内部まで拡散してTiCを生成するために、基材中の有効炭素量が減少し、焼入性が低下するので好ましくない。
【0052】
また、熱処理時間は、15秒以上15分以下が好ましい。熱処理時間が15秒未満になると、金属間化合物層の生成が不十分となったり、あるいは、基材の焼入が不均一になるので好ましくない。一方、熱処理時間が15分を超えると、基材中の有効炭素量が減少し、焼入性が低下するので好ましくない。
【0053】
次に、焼入工程について説明する。焼入工程は、熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で積層板を急冷する工程である。これにより、基材のマルテンサイト変態が生じ、400HV以上の硬度を有する基材の表面に、Ti−Ni系金属間化合物層又はTi−Ni−Fe系金属間化合物層を有する硬質皮膜が形成された硬質皮膜被覆鋼が得られる。
【0054】
なお、焼入後、積層板に対して、焼戻し処理を行っても良い。この場合、焼戻し温度は、150℃以上500℃以下が好ましく、焼戻し時間は、15分以上300分以下が好ましい。不十分な焼戻しは、基材の延性や靱性の回復が不十分となり、また、必要以上の焼戻しは、基材の硬度を低下させるので、いずれも好ましくない。
【0055】
また、外層の上にさらに第3層を形成した積層板の場合、金属間化合物の生成に消費されなかった第3層は、熱処理工程終了後、又は焼き戻し処理が行われる場合には、焼き戻し処理終了後に、機械加工、エッチング等の除去手段を用いて除去すればよい。
【0056】
次に、本実施の形態に係る製造方法の作用について説明する。基材の上にNi基合金からなる中間層及びTi基合金からなる外層を積層し、所定の条件下で熱処理すると、基材、中間層及び外層に含まれる元素が相互に拡散し、基材側にはNiリッチの金属間化合物が生成し、表面側には、Tiリッチの金属間化合物が生成する。
【0057】
しかしながら、Ti−Ni系は、約23at%Ni組成において942℃の共晶点があるので、外層(Ti基合金層)の厚さDTiに比して昇温速度αが相対的に速いと、Ti−Ni系の金属間化合物が生成する前に、Ni基合金及びTi基合金のクラッド界面近傍が共晶組成となる。そのため、クラッド界面近傍が溶融し、フクレが発生する場合がある。
【0058】
これに対し、外層の厚さDTiに比して昇温速度αを相対的に小さくすると、Niの拡散が促進されるので、クラッド界面近傍で溶融が生じる前に、昇温途中で高融点の金属間化合物が生成する。すなわち、昇温速度αを小さくすることによって、昇温途中で共晶点を消滅させることができる。そのため、クラッド界面におけるフクレの発生が抑制され、耐久性に優れた硬質被膜被覆鋼が得られる。
【0059】
また、外層の上にさらに第3層を積層すると、熱間クラッド圧延時における外層の酸化、炭化、窒化等が抑制される。そのため、積層板の変形能を高く維持することができ、熱間クラッド圧延及びその後の冷間圧延時における亀裂の発生を抑制することができる。また、熱処理条件を最適化すると、第3層に含まれる元素が外層及び中間層に拡散し、Ti−Ni−Fe系金属間化合物層を含む硬質皮膜が形成される。その結果、硬質被膜の硬度がさらに向上する。
【0060】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る硬質皮膜被覆鋼の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、クラッド工程と、第1熱処理工程と、第2熱処理工程と、焼入工程とを備えている。
【0061】
クラッド工程は、焼入性を有する鋼材からなる基材の表面に、Ni基合金からなる中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製する工程である。クラッド工程は、上述した第1の実施の形態に係る製造方法と同様であるので説明を省略する。
【0062】
第1熱処理工程は、クラッド工程で得られた積層板を、基材、中間層及び外層に含まれる元素の拡散によって金属間化合物が生成し、かつ液相が生成しない温度で加熱する工程である。
【0063】
この場合、加熱温度は、750℃以上940℃以下が好ましい。また、加熱時間は、2分以上10分以下が好ましい。加熱時間が2分未満であると、所定の厚さを有する金属間化合物層が得られないので好ましくない。一方、加熱時間が10分を越えると、外層に含まれるTiが基材内部まで拡散し、基材中の有効炭素量が減少するので好ましくない。
【0064】
なお、第1熱処理工程における昇温速度は、必ずしも上述した第1関係式を満たしている必要はなく、任意に選択することができる。
【0065】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程による熱処理が終了した積層板を、基材のオーステナイト化温度以上の温度で加熱する工程である。この場合、加熱温度は、基材の材質に応じて最適な値を選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0066】
一方、加熱時間は、10秒以上10分以下が好ましい。加熱時間が10秒未満であると、基材の加熱が不均一となり、焼入硬化が不均一となるので好ましくない一方、加熱時間が10分を越えると、外層に含まれるTiが基材内部まで拡散し、基材の焼入性が低下するので好ましくない。
【0067】
なお、第2熱処理工程における昇温速度は、必ずしも上述した第1関係式を満たしている必要はなく、任意に選択することができる。また、第2熱処理工程は、第1熱処理が終了した積層板を一旦室温まで冷却した後に行っても良く、あるいは、第1熱処理が終了した後、室温まで冷却することなく、引き続き行っても良い。
【0068】
焼入工程は、第2熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で積層板を急冷する工程である。これにより、基材のマルテンサイト変態が生じ、400HV以上の硬度を有する基材の表面に、金属間化合物層を含む硬質皮膜が形成された硬質皮膜被覆鋼が得られる。
【0069】
なお、焼入工程終了後に、必要に応じて焼戻し処理を行うことが好ましい点は、第1の実施の形態に係る製造方法と同様である。また、基材の材質によっては、第1熱処理のための加熱温度が基材のオーステナイト化温度を超えている場合があるので、そのような場合には、第2熱処理工程を省略し、第1熱処理工程終了後に焼入を行えば良い。
【0070】
次に、本実施の形態に係る製造方法の作用について説明する。Ti−Ni系には、上述したように、共晶点がある。そのため、相対的に昇温速度が速いと、昇温途中で液相が発生し、クラッド界面にフクレが発生する場合がある。これに対し、熱処理を2段階に分けて行うと、クラッド界面近傍における融解に起因するフクレの発生を抑制できると同時に、基材の焼入を確実に行うことができる。
【0071】
【実施例】
(実施例1)
外層、中間層及び基材として、それぞれ、厚さ0.15mmのTi、厚さ0.15mmのNi及び厚さ15.5mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を用いて、硬質皮膜被覆鋼を作製した。
【0072】
まず、図1に示すように、外層12、中間層14及び基材16を、Ti/Ni/マルテンサイト系ステンレス鋼/Ni/Tiの順に積層した後、900℃で熱間クラッド圧延することにより、厚さ2mmの積層板10を作製した。次いで、冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、厚さ0.35mmに仕上げた。なお、焼鈍条件は、700℃×5分とした。また、冷間圧延終了後のTi層及びNi層の厚さは、それぞれ、約3μmであった。
【0073】
次に、この積層体を、昇温速度10℃/secで1050℃まで昇温し、1050℃で2分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0074】
(実施例2)
外層、中間層及び基材として、それぞれ、厚さ0.6mmのTi、厚さ0.4mmのNi及び厚さ15.5mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を用いて、硬質皮膜被覆鋼を作製した。
【0075】
まず、図1に示すように、外層12、中間層14及び基材16を、Ti/Ni/マルテンサイト系ステンレス鋼/Ni/Tiの順に積層した後、900℃で熱間クラッド圧延することにより、厚さ2mmの積層板10を作製した。次いで、冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、厚さ0.35mmに仕上げた。なお、焼鈍条件は、700℃×5分とした。また、冷間圧延終了後のTi層及びNi層の厚さは、それぞれ、約12μm及び約8μmであった。
【0076】
次に、この積層体を、昇温速度10℃/secで1050℃まで昇温し、1050℃で2分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0077】
(実施例3)
熱処理条件を、950℃×10分とした以外は、実施例2と同一の手順に従い、硬質皮膜被覆鋼を作製した。
【0078】
(実施例4)
図2に示すように、第3層18、外層12、中間層14及び基材16として、それぞれ、厚さ0.1mmのSUS430、厚さ0.6mmのTi、厚さ0.5mmのNi及び厚さ15mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を用い、SUS430/Ti/Ni/マルテンサイト系ステンレス鋼/Ni/Ti/SUS430の順で積層した後、900℃で熱間クラッド圧延することにより、厚さ2mmの積層体20を作製した。
【0079】
得られた積層体20に対し、実施例2と同一条件下で冷間圧延、焼鈍、熱処理及び焼入を行い、硬質皮膜被覆鋼を得た。なお、冷間圧延後のSUS430、Ti層及びNi層の厚さは、それぞれ、約2μm、約12μm及び約10μmであった。
【0080】
(比較例1)
15mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を900℃で熱間圧延することにより、厚さ2mmの金属板を作製した。次いで、冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、厚さ0.30mmに仕上げた。なお、焼鈍条件は、800℃×2分とした。
【0081】
次に、この金属板を、昇温速度10℃/secで1050℃まで昇温し、1050℃で2分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0082】
(比較例2)
厚さ0.2mmのTiと、厚さ15mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を、Ti/マルテンサイト系ステンレス鋼/Tiの順に積層した以外は、実施例2と同一の手順に従い、硬質皮膜被覆鋼を作製した。
【0083】
(比較例3)
厚さ0.015mmのAlと、厚さ15mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を、Al/マルテンサイト系ステンレス鋼/Alの順に積層した後、冷間クラッド圧延することにより、厚さ0.35mmの積層板を作製した。次いで、冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、厚さ0.25mmに仕上げた。なお、焼鈍条件は、300℃×10分とした。また、冷間圧延終了後のAl層の厚さは、約10μmであった。
【0084】
次に、この積層体を、昇温速度10℃/secで950℃まで昇温し、950℃で5分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0085】
(比較例4)
外層、中間層及び基材として、それぞれ、厚さ0.8mmのTi、厚さ0.5mmのNi及び厚さ13mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(0.4C−13.5Cr−1.2Mo)を用いた以外は、実施例2と同一条件下で、厚さ0.35mmの積層板を作製した。なお、冷間圧延後のTi層及びNi層の厚さは、それぞれ、約18μm及び約11μmであった。次いで、得られた積層体を、実施例2と同一条件下で、熱処理及び焼入を行った。
【0086】
(比較例5)
実施例2と同一条件下で、熱間クラッド圧延並びに冷間圧延及び焼鈍を行うことにより、厚さ0.35mmのTi/Ni/マルテンサイト系ステンレス鋼/Ni/Ti積層板を作製した。この場合、Ti層及びNi層の厚さは、それぞれ、約13μm及び約8μmであった。
【0087】
次に、この積層体を、昇温速度20℃/secで1050℃まで昇温し、1050℃で2分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0088】
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた試料について、それぞれ、A値の算出、X線回折による表面物質の同定、基材及び表面層のビッカース硬度HVの測定、並びに、耐食性及び界面品質の評価を行った。
【0089】
なお、実施例1〜4及び比較例4、5の「A値」とは、第1関係式の右辺に昇温速度αを代入して得られる値である。また、ビッカース硬度HVの測定は、加重300gの条件下で行った。
【0090】
また、耐食性は、得られた試料を濃度20%、温度25℃のNaOH水溶液に120時間浸漬し、錆の発生が認められないものを「○」、発錆が認められたものを「×」と表示した。
【0091】
さらに、界面品質は、クラッド界面でのフクレやハガレ等の欠陥の有無を走査型電子顕微鏡により検査し、フクレ等が無いものを「○」、フクレ等があるものを「×」と表示した。表1に、その結果を示す。
【0092】
【表1】
Figure 2004052070
【0093】
比較例1は、マルテンサイト系ステンレス鋼を単に焼入処理しただけであるので、表面硬度(すなわち、基材硬度)は、600HVであった。一方、Ti層のみをクラッドした比較例2の場合、基材硬度は、600HVであり、表面硬度は、基材より低い300HVであった。これは、比較例2の条件下では、クラッド界面において、TiC層が厚く形成し、FeのTi中への拡散を妨げたため、Ti−Fe系金属間化合物を形成させることができなかったためである。
【0094】
また、表面層にAl−Fe系金属間化合物層を形成した比較例3の場合、基材硬度は570HVであり、表面硬度は、1000HVに向上した。しかしながら、表面層にはAlが含まれているために、アルカリ環境下では腐食が進行し、ひどく発錆した。
【0095】
また、表面層にTi−Ni系金属間化合物層を形成した比較例4及び5の場合、いずれも、基材硬度は600HVであり、表面硬度は1000HVに向上した。また、表面層にAlが含まれていないために、アルカリ環境下において優れた耐食性を示した。しかしながら、積層板のTi層の厚さがA値を越えていた(すなわち、Ti層の厚さに比して相対的に昇温速度が速い)ために、いずれも、クラッド界面にフクレが発生した。
【0096】
これに対し、表面層にTi−Ni系、又はTi−Ni−Fe系の金属間化合物層を形成した実施例1〜4の場合、基材硬度は、570〜600HVであり、表面硬度は、1000〜1100HVに向上した。特に、Ti−Ni−Fe系の金属間化合物層を形成した実施例4は、表面硬度が最も高くなった。
【0097】
また、実施例1〜4の場合、表面層には、いずれもAlが含まれていないために、アルカリ性の腐食環境下において優れた耐食性を示した。さらに、いずれも積層板のTi層の厚さがA値以下であるために、クラッド界面においてフクレ等が発生したものはなかった。
【0098】
(実施例5)
外層及び中間層として、厚さの異なるTi及びNiを用いた以外は、実施例2と同一の手順に従い、積層板を作製した。次に、この積層板を種々の昇温速度で1050℃まで昇温し、1050℃で2分間加熱保持した。さらに、加熱保持が終了した後、直ちに冷却速度100℃/secで急冷し、焼入を行った。
【0099】
得られた試料について、界面品質の評価を行った。その結果、クラッド界面でのフクレの発生は、昇温速度及びTi層の厚さと相関があることがわかった。図3に、昇温速度とTi厚さの関係を示す。図3より、クラッド界面でのフクレの発生を抑制するためには、Ti層の厚さに応じて、昇温速度を相対的に遅くすれば良いことがわかる。
【0100】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0101】
【発明の効果】
本発明に係る硬質皮膜被覆鋼は、高い硬度を有する基材表面に、基材より硬度が高く、かつミクロンオーダーの厚さを有する硬質皮膜が被覆されているので、高い表面硬度と、優れた耐摩耗性及び耐久性を示すという効果がある。また、基材として所定の組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合には、剛性及び靱性に優れた硬質皮膜被覆鋼が得られるという効果がある。さらに、硬質皮膜の材質がTi系の金属間化合物であるので、アルカリ環境下における耐食性が向上するという効果がある。
【0102】
また、本発明に係る硬質皮膜被覆鋼の製造方法は、熱処理の際に、昇温速度を外層の厚さに応じて制御するか、あるいは、熱処理が2段階に分けて行われるので、クラッド界面におけるフクレ等の発生が抑制され、硬質皮膜の剥離に起因する耐久性の低下を抑制できるという効果がある。
【0103】
また、積層板を作製する際に外層の上にさらに第3層を形成すると、外層の酸化、炭化、又は窒化が抑制され、健全な硬質皮膜が得られるという効果がある。また、熱処理条件によっては、第3層に含まれる元素が金属間化合物層に拡散し、硬質皮膜の硬度がさらに高くなるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で作製した積層板の断面図である。
【図2】実施例4で作製した積層板の断面図である。
【図3】昇温速度及びTi層(外層)厚さと、フクレの発生の関係を示す図である。
【符号の説明】
10、20 積層板
12    外層
14    中間層
16    基材
18    第3層

Claims (19)

  1. ビッカース硬度で400HV以上の硬度を有する鋼材からなる基材と、該基材の少なくとも一方の表面に形成された硬質被膜とを備え、
    該硬質被膜は、TiNi層を備えている硬質被膜被覆鋼。
  2. 前記硬質皮膜は、前記TiNi層の上にさらにTiNi層を備えている請求項1に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  3. 前記硬質皮膜は、前記TiNi層の上にさらにTiNi層を備えている請求項2に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  4. 前記硬質皮膜は、前記TiNi層の上にさらに(Ti、Ni)O層を備えている請求項2に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  5. 前記硬質被膜は、前記TiNi層の下に形成されたTiC層又はNi基合金層をさらに備えた請求項1から4までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼。
  6. ビッカース硬度で400HV以上の硬度を有する鋼材からなる基材と、該基材の少なくとも一方の表面に形成された硬質被膜とを備え、
    該硬質被膜は、Ti(Ni、Fe)層を備えている硬質被膜被覆鋼。
  7. 前記硬質皮膜は、前記Ti(Ni、Fe)層の上にさらにTi(Ni、Fe)層を備えている請求項6に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  8. 前記硬質皮膜は、前記Ti(Ni、Fe)層の上にさらにTi(Ni、Fe)層を備えている請求項7に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  9. 前記硬質皮膜は、前記Ti(Ni、Fe)層の上にさらに(Ti、Ni、Fe)O層を備えている請求項7に記載の硬質皮膜被覆鋼。
  10. 前記基材は、12〜18mass%のCrと、0.1〜1.0mass%のCと、2.5mass%以下のMoを含むマルテンサイト系ステンレス鋼である請求項1から9までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼。
  11. 前記硬質被膜に含まれる金属間化合物層の総厚さは、2〜40μmである請求項1から10までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼。
  12. 焼入性を有する鋼材からなる基材の少なくとも一方の表面に、Ni基合金からなる中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製するクラッド工程と、
    前記積層板を、
    第1関係式:DTi≦37・α−0.42(但し、DTi(μm)は、外層の厚さ)
    を満たす昇温速度α(℃/sec)で昇温し、900℃〜1100℃で15秒〜15分間保持する熱処理工程と、
    該熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で急冷する焼入工程とを備えた硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  13. 焼入性を有する鋼材からなる基材の少なくとも一方の表面に、中間層を介してTi基合金からなる外層が積層圧着された積層板を作製するクラッド工程と、
    前記基材、前記中間層又は前記外層に含まれる元素の拡散によって金属間化合物が生成し、かつ液相が生成しない温度に、前記積層板を加熱する第1熱処理工程と、
    前記基材のオーステナイト化温度以上の温度に、前記積層板を加熱する第2熱処理工程と、
    該第2熱処理工程における加熱保持が終了した後、1℃/sec以上の冷却速度で急冷する焼入工程とを備えた硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  14. 前記基材は、12〜18mass%のCrと、0.1〜1.0mass%のCと、2.5mass%以下のMoを含むマルテンサイト系ステンレス鋼である請求項12又は13に記載の硬質被膜被覆鋼。
  15. 焼入れされた前記積層板に対し、150℃〜500℃で、15分以上300分以下加熱する焼戻し工程をさらに備えた請求項12から14までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  16. 前記外層の厚さは、1〜20μmであり、前記中間層の厚さは、前記外層の厚さの0.5〜5倍である請求項12から15までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  17. 前記クラッド工程は、前記外層の上に、さらにFe基合金からなる第3層が積層された積層板を製造するものである請求項12から16までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  18. 前記第3層の厚さは、5μm以下である請求項17に記載の硬質被膜被覆鋼の製造方法。
  19. 前記クラッド工程の後に、前記積層板を600℃〜800℃で15秒〜15分間加熱する焼鈍工程をさらに備えた請求項12から18までのいずれかに記載の硬質被膜被覆鋼の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN103016538A (zh) * 2012-12-12 2013-04-03 西安交通大学 一种提高高速球轴承用TiNi合金的超润滑方法

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