JP2004051553A - 抗mrp1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤 - Google Patents

抗mrp1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤 Download PDF

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Abstract

【課題】抗MRP1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤を提供することを課題とする。
【解決手段】38例の肺癌由来細胞株および3例の正常繊維芽細胞株と43例の肺癌臨床検体および6例の正常肺組織よりRNAを調製、蛍光標識後7685種の遺伝子断片を固定化したスライドに対してハイブリダイゼーションを行った。通常行われる階層的クラスタリングを実施した結果、全ての細胞株と臨床検体とはそれぞれ異なるクラスターに分離された。培養細胞株あるいは臨床検体でそれぞれ共通して高発現あるいは発現低下している遺伝子を解析から除外する事により、各病型を反映した遺伝子発現プロファイルが得られるものと考え、これを可能とするフィルタリング法を新たに考え実施した。その結果、病型特異的な遺伝子発現プロファイルを得る事ができ、扁平上皮肺癌に特異的に発現上昇しているものとして、MRP1が選別された。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗MRP1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
肺癌は全世界的に見て男女を問わず癌による死亡原因の第1位の位置を占めており、その数は増加の一途にある。また日本だけを見ても年間に50,000人の命が肺癌により失われている。肺癌は病理学的にはその形態から小細胞性肺癌(small cell lung carcinoma:SCLC)と非小細胞性肺癌(non−small cell lung carcinoma:NSCLC)に分類され、後者はさらに扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)、腺癌(adenocarcinoma:AC)、大細胞性癌(large cell carcinoma:LCC)に分類されている。個々に分類された肺癌は悪性度、治療に対する反応性が異なる事から、正確な病型診断は治療指針を決定するうえで極めて重要である。非小細胞性肺癌の場合は病巣が限局していて明らかな転移を認めない場合には外科的手術による摘除が第1選択肢となるが、種々の状況により手術が困難な場合および術後の維持には化学療法および放射線療法による治療が選択される。化学療法に対する反応性は症例により異なるが一般に、複数の異なる作用機序に基づいた薬剤を組み合わせて用いる事により相乗的な効果を期待しつつ副作用を最小限とする努力が為されている。化学療法を行う場合にしばしば問題となるのが多剤耐性の獲得であり、薬物代謝酵素類の過剰発現や薬剤標的蛋白の変異、薬剤の細胞内取り込みの減少、逆に細胞外排出の増大等の機序の関与が知られている。この様な薬剤耐性と云う新しい機能の獲得には癌細胞のゲノムの不安定性が寄与している事から癌細胞のもつ特権とも云えるものであり、一般に化学療法で一度縮小した腫瘍が再燃する場合の多くに多剤耐性の獲得が付随している。従って新規な作用機序に基づいた治療薬の開発と多剤耐性の克服は癌の化学療法を考えるうえで極めて重要な課題である。
【0003】
従来の化学療法剤の殆どは癌細胞と正常細胞が共通して利用している基本的な経路に帰属するターゲットに対するものであるが故に副作用との分離は困難である。一方でより癌に特異的なターゲットを見出す事を目標とした細胞癌化のメカニズムに関する研究は著しい躍進を遂げ、多くの癌抑制遺伝子が癌において変異をうけて不活性化している事が細胞癌化の主たる原因となっている事が明らかとなってきた。しかし、これらの癌抑制遺伝子産物の機能が明らかになり、その変異が惹き起こす細胞増殖あるいはアポトーシス制御の破綻が明らかになるにつれ、これらの癌抑制遺伝子産物が制御する経路は全ての細胞に共通した基本的な経路であり低分子化合物を用いてその破綻を是正する事は一般に困難で、唯一遺伝子治療による失われた癌抑制遺伝子産物の補充以外には副作用を分離した癌に特異的な治療は困難である事が明らかとなってきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、癌特異的な遺伝子を見出し、該遺伝子の産物に対する抗体を含有する薬剤を提供することにある。より詳細には、抗MRP1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
癌細胞における遺伝子発現の異常は広く知られた現象であり、問題となる癌が発生した臓器では発現が認められない遺伝子の異所性発現や胎生期にしか発現が認められない遺伝子の発現が知られている。これらの遺伝子産物のうち細胞表面蛋白は抗体療法の格好のターゲットとなり得るし、また胎生期の細胞を含めた特殊な細胞集団でのみ機能している細胞周期調節機構やシグナル伝達機構をターゲットとした薬剤を開発する事により副作用との分離が可能になると考えられる。以上の考えに基づいて、本発明者らは新規な肺癌の治療ターゲットを見出すべく、各種病型肺癌の遺伝子発現プロファイル解析を実施した。個々の症例毎に異なる遺伝子発現異常はテーラーメード療法の対象とはなるが新規医薬品開発の為のターゲットとしては不適である事から、本発明者らは病型特異的な遺伝子発現に焦点を当てて解析を行った。
【0006】
38例の肺癌由来細胞株および3例の正常繊維芽細胞株と43例の肺癌臨床検体および6例の正常肺組織よりRNAを調製、蛍光標識後7685種の遺伝子断片を固定化したスライドに対してハイブリダイゼーションを行った。通常行われるhierarchical(階層的)クラスタリングを実施した結果、全ての細胞株と臨床検体とはそれぞれ異なるクラスターに分離された。細胞株のクラスターは培養系に特有の要因により細胞株に共通した遺伝子発現により形成されたものと考えられ、一方臨床検体クラスターでは腫瘍検体に混在する正常組織の影響を強く受けているものと考えられた。そこで、これら培養細胞株あるいは臨床検体でそれぞれ共通して高発現あるいは発現低下している遺伝子を解析から除外する事により、各病型を反映した遺伝子発現プロファイルが得られるものと考え、これを可能とするフィルタリング法(Binary String Search)を新たに考えた。該フィルタリング法により、細胞株あるいは臨床検体に共通して発現亢進している遺伝子を解析から除外することができ、病型特異的な遺伝子発現プロファイルを得る事ができた。病型特異的に高発現している遺伝子の中には全ての細胞に共通した基本的経路の構成成分は殆ど含まれていなかった。これらの病型特異的遺伝子には既知の病型特異的マーカー(例、小細胞性肺癌のneuroendocrineマーカーや扁平上皮癌のケラチン等)が数多く含まれており、これらを除いた残りの遺伝子から新規医薬品開発の為のターゲット(例えば抗体療法のターゲット)としての可能性が想定されるものを検索した。
【0007】
その結果、扁平上皮肺癌に特異的に発現上昇しているものとして、MRP1が選別された。MRP1はグルタチオンを補助因子とするdrug efflux pumpで、臨床で一般的に用いられる抗癌剤を細胞外に排出する事によりこれらの薬剤に対する抵抗性を賦与することが知られている。また、重金属の毒性に対しても抵抗性を賦与する事が報告されている。また一方、MRP1はLeucotriene C4 (LTC4)トランスポーターとしても知られている。MRP1を欠失させたマウスはStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対して抵抗性となる事が示され、この効果がMRP1欠失の結果細胞内にLTC4が蓄積しproduct inhibitionによりLTC4−synthaseの活性が低下し、LTC4−synthaseとLTA4−hydrolase間の基質に対する競合がLTA4−hydrolase側にシフトした結果、肺胞滲出液中のLTB4レベルが増大した事によると説明されている。
【0008】
以上の結果から、MRP1を標的とした中和抗体は各種抗癌剤の抗癌作用を増強する(癌細胞の抗癌剤に対する多剤耐性を克服する)と同時に、随伴するStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対する抵抗性を賦与する事が期待でき、この分子を過剰発現した癌のadjunct therapyに有効であると考えられる。また、MRP1を用いることで抗癌剤の抗癌作用を増強する薬剤をスクリーニングすることが可能になるものと考えられる。
【0009】
即ち、本発明は、
〔1〕抗MRP1抗体を有効成分として含有する、抗癌剤の抗癌作用を増強するための薬剤、
〔2〕抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤、
〔3〕癌が肺癌である、〔1〕または〔2〕に記載の薬剤、
〔4〕肺癌が扁平上皮肺癌である、〔3〕に記載の薬剤、
〔5〕抗MRP1抗体を投与することを特徴とする、抗癌剤の抗癌作用の増強方法、
〔6〕抗MRP1抗体および抗癌剤を投与することを特徴とする、癌の治療方法、
〔7〕被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する方法であって、
(a)MRP1タンパク質に被験試料を接触させる工程、
(b)該MRP1タンパク質の活性を測定する工程、
を含み、上記MRP1タンパク質の活性が、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される方法、
〔8〕被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する方法であって、
(a)MRP1遺伝子のプロモータ―領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程、
(b)該細胞または該細胞抽出液に被験試料を接触させる工程、
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を含み、上記レポーター遺伝子の発現レベルが、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される方法、
〔9〕以下の(a)および(b)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法、
(a)〔7〕または〔8〕に記載の評価方法により、複数の被験試料ついて、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する工程
(b)複数の被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
〔10〕以下の(a)〜(e)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法、
(a)MRP1タンパク質に複数の被験試料を接触させる工程
(b)該MRP1タンパク質と被験試料との結合を検出する工程
(c)該MRP1タンパク質と結合する被験試料を選択する工程
(d)〔7〕または〔8〕に記載の評価方法により、該MRP1タンパク質と結合する被験試料について、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する工程
(e)該MRP1タンパク質と結合する被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
〔11〕以下の(a)〜(e)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法、
(a)MRP1タンパク質に複数の被験試料を接触させる工程
(b)該MRP1タンパク質と被験試料との結合を検出する工程
(c)該MRP1タンパク質と結合する被験試料を選択する工程
(d)該MRP1タンパク質と結合する被験試料および抗癌剤を該抗癌剤に耐性を示す癌細胞に接触させる工程
(e)該MRP1タンパク質と結合する被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
〔12〕〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の工程に、さらに抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する医薬組成物の製造方法、
〔13〕癌が肺癌である、〔5〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法、
〔14〕肺癌が扁平上皮肺癌である、〔13〕に記載の方法、
を、提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、グルタチオンを補助因子とするdrug efflux pump として知られているMRP1(ATP−dependent transport protein, multidrug resistance associated protein−1)が、癌特異的に過剰発現していることを見出した。該MRP1は、臨床で一般的に用いられる抗癌剤を細胞外に排出する事によりこれらの薬剤に対する抵抗性を賦与することが知られている。よって、抗MRP1抗体は、抗癌剤の抗癌作用の増強剤になりうる。また、抗癌剤とともに抗MRP1抗体を有効成分として含有する薬剤は、該抗癌剤の抗癌活性が持続する有効な薬剤になりうる。一方、MRP1はStreptococcus pneumoniaeによる肺炎の成立に重要な役割を果たしていることが知られている。よって、上記薬剤は、癌に随伴するStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対して抵抗性を賦与する薬剤としても使用できる。本発明は、このような特徴を有する薬剤を提供するものである。
【0011】
本発明における癌としては、好ましくは肺癌であり、より好ましくは非小細胞性肺癌であり、さらに好ましくは扁平上皮肺癌である。また、本発明における抗癌剤としては、特に制限はないが、好ましくはMRP1により細胞外に排出される薬剤である。このような薬剤としては、doxorubicin、daunorubicin、vincristine、VP16、colchicine、重金属oxyanionであるsodium arsenite、antimonyなどが例示できる。
【0012】
また、本発明における抗体には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体変異体等が包含される。
【0013】
本発明における「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団、即ち、集団を構成する個々の抗体が、天然において起こり得る少量で存在する変異体を除いては均一である抗体集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して作用するものである。さらに、異なる抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む慣用な(ポリクローナル)抗体調製物と比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定基に向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンにより汚染されていないハイブリドーマ培養により合成される点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団より得られた抗体の特性を示唆するものであって、抗体が特定の方法により製造されることを限定するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗体を、例えば後述するハイブリドーマ法(Kohler and Milstein, Nature (1975) 256:495)、または、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。本発明において使用するモノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al., Nature (1991)  352:624−628; Marks etal., J.Mol.Biol. (1991)222:581−597)。本発明におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の種、または特定の抗体クラス若しくはサブクラス由来であり、鎖の残りの部分が別の種、または別の抗体クラス若しくはサブクラス由来である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに、所望の生物学的活性を有する限り、このような抗体の断片が含まれる(米国特許第4,816,567号; Morrison et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855 (1984))。
【0014】
本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。どのように改変されたアミノ酸バリアントであれ、元となった抗体と同じ結合特異性を有すれば、本発明における「抗体変異体」に含まれる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列相同性または類似性を有するアミノ酸配列と100%よりも少ない配列相同性、または類似性を有する。
【0015】
ポリクローナル抗体は好ましくは、関連抗原及びアジュバントの複数の皮下(sc)または腹膜内(ip)注射により非ヒト哺乳動物で作られる。免疫化される種に対して免疫原性の蛋白質、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、仔ウシチログロブリン、または大豆トリプシンインヒビターに、例えば、マレイミドベンゾイル スルフォスクシンイミド エステル(システイン残基を介した結合)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介した)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、塩化チオニル、若しくはRN=C=CR(式中、R及びRは異なるアルキル基である)等の二機能性の薬剤若しくは誘導剤を用いて関連抗原を結合させることもできる。
【0016】
例えば、100μg若しくは5μgの蛋白質若しくはコンジュゲート(それぞれ、ウサギまたはマウスについての量)を3倍量のFreund’s完全アジュバントと合わせ、溶液を複数回、皮内注射することにより、動物を抗原、免疫原性コンジュゲートまたは誘導体に対して免疫化する。一ヶ月後、動物をもとのFreund’s完全アジュバント中のペプチドまたはコンジュゲートの1/5〜1/10量を複数の部位に皮下注射することにより追加免疫する。7〜14日後、動物から採血し、血清を抗体力価について分析する。好ましくは、動物の追加免疫の際には、同じ抗原ではあるが異なる蛋白質に、及び/または、異なる交差結合試薬を介して結合されたコンジュゲートを用いる。コンジュゲートはまた、組換え細胞培養蛋白質融合で作成することもできる。また、免疫応答を増幅するため、ミョウバン等の凝集剤が好ましくは用いられる。選択された哺乳動物抗体は通常、抗原に対して十分に強い結合親和性を有する。抗体の親和性は、飽和結合、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、及び競合分析(例えば、放射性免疫分析)により決定することができる。
【0017】
所望のポリクローナル抗体のスクリーニング法としては、Antibodies, A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratoriey、Harlow and David Lane edit.(1988))に記載されるような慣用の交差結合分析を行うことができる。また、代わりに、例えば、エピトープマッピング(Champe et al., J.Biol.Chem. (1995) 270:1388−1394)を行ってもよい。蛋白質または抗体の効力の測定方法として好ましいのは、抗体結合親和性の定量化を用いた方法であるが、その他の態様では、それに加えて、または結合親和性測定に代えて抗体の1若しくはそれ以上の生物学的特性を評価する方法を含む。このような分析法は特に、抗体の治療的な有効性を示すので有用である。通常、必ずしもではないが、このような分析において改善された特性を示す抗体はまた、結合親和性も増幅されている。
【0018】
モノクローナル抗体は単一の抗原部位を認識する抗体であり、均一な特異性により、一般的に多数の異なる抗原部位を認識する抗体を含むポリクローナル抗体よりも有用である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法 (Kohler et al.,Nature (1975) 256:495)または、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)等により製造することができる。
【0019】
ハイブリドーマ法では、マウス、または、ハムスター若しくはアカゲザル等の他の適当な宿主動物を免疫化に使用した蛋白質に対して特異的に結合する抗体を産生するか、または、産生できるリンパ球を誘導するために上述と同様に免疫化する。また、in vitroにおいてリンパ球を免疫化することもできる。その後、リンパ球をポリエチレングリコール等の適当な融合剤を用いてミエローマ細胞と融合させハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding、Monoclonal Antibodies:Principals and Practice, pp.590−103, Academic Press, (1986))。製造されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは、未融合の親ミエローマ細胞の生育または成長を阻害する1またはそれより多くの物質を含む適当な培養培地に植え、生育する。例えば、もし親ミエローマ細胞がヒポキサンチン グアニン ホスホリボシル トランスフェラーゼ酵素(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、そのハイブリドーマのための培養培地には、典型的には、HGRPT欠損細胞の生育を阻止する物質ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンが含まれる(HAT培地)。好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞において、安定で高いレベルで抗体を産生し、そして、HAT培地等の培地に対して感受性の細胞である。これらの中で好ましいミエローマ細胞株は、Salk Institute Cell DistributionCenter (San Diego, Calif. USA)から入手できるMOPC−21及びMPC−11マウス腫瘍由来の細胞、並びに、American Type Culture Collection(Rockville, Md. USA)から入手できるSP−2、またはX63−Ag8−653細胞等のマウスミエローマ細胞株である。ヒトミエローマ、及び、マウス−ヒトheteromyeloma細胞株も、ヒトモノクローナ抗体の産生に用いられてきた(Kozbar, J.Immunol. 133:3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Application, pp.51−63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0020】
次に、ハイブリドーマ細胞が生育する培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について分析する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降、または、放射免疫分析(RIA)若しくは酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)等のin vitro結合分析により測定する。所望の特異性、親和性及び/または活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンを限定的希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により生育する(Goding, Monoclonal Antibodies:Principalsan Practice, pp.59−103, Academic Press, 1986)。この目的に適した培養培地は、例えば、D−MEMまたはRPIM−1640培地である。さらに、ハイブリドーマ細胞は、in vivoで動物中の腹水腫瘍として生育させることもできる。サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、好ましくは培養培地、腹水液、または血清から、例えば、プロテインA−セファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィー等の慣用な免疫グロブリン精製方法により分離される。
【0021】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、慣用な方法(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)により容易に単離、配列決定できる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましい出発材料である。一度単離したならば、DNAを発現ベクターに挿入し、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または形質転換されなければ免疫グロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞へ組換え、組換え宿主細胞からモノクローナル抗体を産生させる。また別の態様として、McCaffertyら(Nature 348:552−554 (1990))により記載された技術を用いて製造された抗体ファージライブラリーより抗体、または抗体断片は単離することができる。
【0022】
Clacksonら(Nature 352:624−628 (1991))、及びMarksら(J.Mol.Biol. 222:581−597 (1991))は、各々、ファージライブラリーを用いたマウス及びヒト抗体の単離について記載する。次の文献は、高親和性(nM範囲)ヒト抗体のチェーンシャッフリングによる製造(Marks et al., Bio/Technology 10:779−783 (1992))について、そして、巨大なファージライブラリーを構築するための方法としてのコンビナトリアル感染、及びin vivo組換え(Waterhouse et al., Nucleic Acids Res. 21:2265−2266 (1993))について記載する。これらの技術も、モノクローナル抗体の単離のために従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代えて利用し得る。
【0023】
モノクローナル抗体をコードするDNAはまた、例えば、ヒト重鎖、及び軽鎖の定常ドメインのコード配列をそれに対するマウス配列に代えて置換すること(米国特許第4,816,567号; Morrison et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851 (1984))、または免疫グロブリン蛋白質を共有結合により結合させることにより改変することができる。典型的には、このような非免疫グロブリン蛋白質は、1つの抗原に対して特異性を有する抗原結合部位、及び、異なる抗原に対して特異性を有する抗原結合部位を有するキメラ二特異性抗体を構築するため、抗体の定常ドメインで置換するか、または、抗体の抗原結合部位の可変ドメインを置換する。
【0024】
また、本発明の蛋白質と結合する抗体としては、ヒト抗体、ヒト型化抗体、キメラ抗体、および抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)、及びFv)等も挙げられる。
【0025】
上記「ヒト型化抗体」とはマウス等のヒトにとって異種の抗体を改変して、H鎖とL鎖の相補性決定部以外の一次構造をヒトの抗体の対応する一次構造で置き換えた抗体を言う。「キメラ抗体」とは、異種抗体由来のFab領域とFc領域とを有する抗体を意味する。
【0026】
本発明において、「抗体断片」とは、全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合領域または可変領域のことである。例えば、抗体断片にはFab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片が含まれる。抗体のパパイン消化により、Fab断片と呼ばれる、それぞれ1つの抗原結合部位を有する2つの同じ抗原結合断片、及び、残りの容易に結晶化するために「Fc」と呼ばれる断片が生じる。また、ペプシン消化により2つの抗原結合部位を有し、抗原を交差結合し得るF(ab’)断片、及び、残りの別な断片(pFc’と呼ばれる)が得られる。その他の断片としては、diabody(diabodies)、線状抗体、一本鎖抗体分子、及び抗体断片より形成された多特異性抗体が含まれる。
【0027】
ここで、「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位と結合部位を含む。この領域は1つの重鎖及び軽鎖の可変ドメインが非共有結合により強く連結されたダイマーである(V−Vダイマー)。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用し、V−Vダイマーの表面に抗原結合部位を形成する。6つのCDRは、抗体に抗原結合部位を付与するものである。しかしながら、1つの可変ドメイン(または、抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位よりは低い親和性ではあるが、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0028】
また、Fab断片(F(ab)とも呼ばれる)はさらに、軽鎖の定常ドメイン、及び、重鎖の細胞の定常ドメイン(CH1)を含む。Fab’断片はFab断片と、抗体のヒンジ領域からの1またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端由来の数個の残基を付加的に有する点で異なる。
【0029】
本発明において、「diabody(diabodies)」とは、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、該断片は、同じ蛋白質鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)(VH−VL)を含む。同じ鎖中で2つのドメインの間を結合できない位に短いリンカーを用いると、2つのドメインはもう一方の鎖の定常ドメインとペアを形成し、2つの抗原結合部位が創り出される。Diabodyはより詳細に、例えば、EP404,097号、WO93/11161号、及びHolliner et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448 (1993))に記載される。
【0030】
一本鎖抗体(以下、一本鎖Fv若しくはsFvとも呼ぶ)、またはsFv抗体断片には、抗体のVH及びVLドメインが含まれ、これらのドメインは単一の蛋白質鎖中に存在する。一般に、Fv蛋白質はさらに、VH及びVLドメインの間に蛋白質リンカーを含み、それによりsFvは、抗原結合のために必要な構造が形成できる。sFvの総説については、Pluckthun『The Pharmacology of Monoclonal Antibodies』Vol.113(Rosenburg及びMoore編、Springer Verlag, New York, pp.269−315 (1994))参照。
【0031】
多特異性抗体は、少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。通常このような分子は2個の抗原を結合するものであるが(即ち、二重特異性抗体)、本発明における「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類の)抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。多特異性抗体は全長からなる抗体、またはそのような抗体の断片(例えば、F(ab’)二特異性抗体)であり得る。
【0032】
従来、抗体断片は天然の抗体のプロテアーゼによる消化により製造されてきた(Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117 (1992); Brennan et al., Science 229:81 (1985))が、現在は組換技術により製造することも可能である。例えば、上述の抗体ファージライブラリーから抗体断片を単離することもできる。また、大腸菌等の宿主より直接F(ab’)−SH断片を回収し、F(ab’)断片の形態に化学的結合させることもできる(Carter et al.,Bio/Technology 10:163−167 (1992))。さらにまた別の方法としては、F(ab’)断片を直接、組換宿主培養物から単離することもできる。その他、一本鎖抗体等の断片の作製方法も公知である一本鎖抗体を作成する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。
【0033】
当分野において多特異性抗体の製造法は公知である。全長の二特異性抗体の産生は、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖の共発現を含むものである(Millstein et al., Nature 305:537−539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖はランダムに取り合わされるので、共発現を行う得られた複数のハイブリドーマ(クワドローマ)は、各々異なる抗体分子を発現するハイブリドーマの混合物であり、このうち正しい二特異性抗体を産生するるものを選択する必要がある。選択はアフィニティークロマトグラフィー等の方法により行うことができる。また、別な方法では所望の結合特異性を有する抗体の可変領域を免疫グロブリンの定常ドメイン配列に融合する。該定常ドメイン配列は、好ましくは免疫グロブリンの重鎖の定常領域の内、ヒンジ、CH2及びCH3領域の一部を少なくとも含むものである。好ましくは、さらに軽鎖との結合に必要な重鎖のCH1領域が含まれる。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、及び、所望により免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAをそれぞれ別々の発現ベクターに挿入し、適当な宿主生物に形質転換する。別々の発現ベクターに各遺伝子を挿入することにより、それぞれの鎖の存在割合が同じでない方が、得られる抗体の収量が上がる場合に、各鎖の発現割合の調節が可能となり都合が良いが、当然ながら、複数の鎖をコードする遺伝子を一つのベクターに挿入して用いることも可能である。
【0034】
好ましい態様においては、第一の結合特性を有する重鎖がハイブリッド免疫グロブリンの一方の腕として存在し、別の結合特性の重鎖−軽鎖複合体がもう一方の腕として存在する二重特異性抗体が望ましい。このように一方の腕のみに軽鎖を存在させることにより、二重特異性抗体の他の免疫グロブリンからの分離を容易に行うことができる。該分離方法については、WO94/04690参照。二特異性抗体の作成方法については、さらに、Sureshら(Methods in Enzymology 121:210 (1986))の方法を参照することができる。組換細胞培養物から得られる最終産物中のホモダイマーを減らしヘテロダイマーの割合を増加させる方法として、抗体の定常ドメインのCH3を含み、一方の抗体分子において、他方の分子と結合する表面の1若しくは複数の小さな側鎖のアミノ酸を大きな側鎖のアミノ酸(例えば、チロシンやトリプトファン)に変え、他方の抗体分子の対応する部分の大きさ側鎖のアミノ酸を小さなもの(例えば、アラニンやスレオニン)に変えて第一の抗体分子の大きな側鎖に対応する空洞を設ける方法も知られている(WO96/27011)。
【0035】
二重特異性抗体には、例えば、一方の抗体がアビジンに結合され、他方がビオチン等に結合されたようなヘテロ共役抗体が含まれる(米国特許第4,676,980号;WO91/00360;WO92/00373;EP03089)。このようなヘテロ共役抗体の作成に利用される架橋剤は周知であり、例えば、米国特許第4,676,980号にもそのような例が記載されている。
【0036】
また、抗体断片より二特異性抗体を製造する方法も報告されている。例えば、化学結合を利用して製造することができる。例えば、まずF(ab’)断片を作成し、同一分子内でのジフルフィド形成を防ぐため断片をジチオール錯化剤アルサニルナトリウムの存在化で還元する。次にF(ab’)断片をチオニトロ安息香酸塩(TNB)誘導体に変換する。メルカプトエチルアミンを用いて一方のF(ab’)−TNB誘導体をFab’−チオールに再還元した後、F(ab’)−TNB誘導体及びFab’−チオールを等量混合し二特異性抗体を製造する。
【0037】
組換細胞培養物から直接、二重特異性抗体を製造し、単離する方法も種々、報告されている。例えば、ロイシンジッパーを利用した二重特異性抗体の製造方法が報告されている(Kostelny et al., J,Immunol. 148(5):1547−1553 (1992))。まず、Fos及びJun蛋白質のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により異なる抗体のFab’部分に連結させ、ホモダイマーの抗体をヒンジ領域においてモノマーを形成するように還元し、抗体へテロダイマーとなるように再酸化する。また、軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を、これら2つのドメイン間での対形成できない位に短いリンカーを介して連結し、相補的な別のVL及びVHドメンと対を形成させ、それにより2つの抗原結合部位を形成させる方法もある(Hollinger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448 (1993))。また、一本鎖Fv(sFV)を用いたダイマーについても報告されている(Gruger et al., J.Immunol.152:5368 (1994))。さらに、二重特異性ではなく三重特異性の抗体についても報告されている(Tutt et al., J.Immunol. 147:60 (1991))。
【0038】
ヒト型化抗体は、免疫原(抗原)をヒト抗体産生トランスジェニック非ヒト哺乳動物に免疫し、既存の一般的な抗体産生方法によって取得することができる。用いるヒト型化抗体産生非ヒト哺乳動物、特にヒト型化抗体産生トランスジェニックマウスの作製方法は公知である(Nature Genetics 7:13−21 (1994); Nature Genetics 15:146−156 (1997);特表平4−504365号公報;特表平7−509137号公報;日経サイエンス 6:40−50 (1995);国際出願公開WO94/25585号公報; Nature 368:856−859 (1994);特表平6−500233号公報等)。
【0039】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより宿主を形質転換して得られる遺伝子組換え宿主であって、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する宿主を培養することにより培養上清中から得ることもできる。ここで、該宿主は受精卵以外の真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞である。
【0040】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988) が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia) 等が挙げられる。
【0041】
抗体には各種試薬を結合して使用することもできる。このような試薬としては、ドキソルビシン、メトトレキセート、タキソールなどの化学療法剤、重金属、放射核種、Pseudomonas解毒素などのトキシン類を挙げることができる。治療用試薬との結合体を生産する方法および治療用に使用する方法については、米国特許5057313号、米国特許5156840号に記載されている。
【0042】
また、抗癌剤の抗癌作用を増強することを目的として、抗MRP1抗体、または、抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤を投与することにより、癌の治療(または癌の予防)を行うことが可能である。また、該薬剤を投与することで、癌に随伴するStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対する抵抗性を賦与することも可能である。本発明は、これら疾患の治療方法(または癌の予防方法)もまた提供する。
【0043】
抗MRP1抗体、または、抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0044】
抗MRP1抗体、または、抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した薬剤として投与を行うことも可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で使用できる。また、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、ベヒクル、防腐剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0045】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80TM、HCO−50と併用してもよい。
【0046】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0047】
また、患者の年齢、症状により適宜投与量を選択することができる。例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の治療薬はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0048】
本発明には、MRP1タンパク質の発現を抑制するためのヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する抗癌剤もまた含まれる。
【0049】
本発明において、MRP1タンパク質の発現を抑制するためのヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体としては、特に制限はなく、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその誘導体が挙げられる。
【0050】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、MRP1タンパク質をコードするDNA配列(例えば、アクセッションAA424804)中のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくはMRP1タンパク質のDNA配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0051】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。修飾体として、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
【0052】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、DNAまたはmRNAとオリゴヌクレオチドとがDNA配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1 又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在しているものも含まれる。
【0053】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、MRP1タンパク質の産生細胞に作用して、該MRP1タンパク質をコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害したり、mRNAの分解を促進したりして、MRP1タンパク質の発現を抑制することにより、結果的にMRP1タンパク質の作用を抑制する効果を有する。
【0054】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドやその誘導体は、それらに対して不活性な適当な基剤と混和して塗布剤、パップ剤等の外用剤とすることができる。
【0055】
また、必要に応じて、賦形剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、無痛化剤等を加えて錠剤、散財、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤など、さらに凍結乾燥剤とすることができる。これらは常法にしたがって調製することができる。
【0056】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドやその誘導体は患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ−L−リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0057】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドやその誘導体の投与量は、患者の状態に応じて適宜調整し、好ましい量を用いることができる。
【0058】
また、本発明は、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する方法、並びに、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法を提供する。
【0059】
本発明の方法における「被検試料」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験試料は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。また、「複数の被験試料」としては、特に制限はなく、例えば、上記被験試料に加えて、これらの被験試料を複数種混合した混合物も含まれる。
【0060】
本発明の方法において、MRP1タンパク質が由来する生物種としては、特定の生物種に限定されるものではない。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギなどが挙げられる。
【0061】
また、本発明の方法において、「抑制されている」とは、完全に阻害されている場合だけでなく、減少している場合も含む。
【0062】
本発明の評価方法の第一の態様としては、まず、MRP1タンパク質に被験試料を接触させる。第一の態様に用いられるMRP1タンパク質の状態としては、特に制限はなく、例えば、精製された状態、細胞内に発現した状態、細胞抽出液内に発現した状態などであってもよい。
【0063】
MRP1タンパク質の精製は周知の方法で行うことができる(Mao Q. et al.; Biochim Biophys Acta. 1999 Nov 9;1461(1):69−82.、Mao Q. et al.; J Biol Chem. 2000 Nov 3;275(44):34166−72)。
【0064】
また、MRP1タンパク質が発現している細胞としては、内在性のMRP1タンパク質を発現している細胞、または外来性のMRP1タンパク質を発現している細胞が挙げられる。上記内在性のMRP1タンパク質を発現している細胞としては、培養細胞などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。上記培養細胞としては、特に制限はなく、例えば、doxorubicinで選択したH69AR(小細胞性肺癌由来NIH−H69 の多剤耐性亜株)や、lc−1/sq(Int. J. Cancer, 49: 436−443, 1991.)を用いることが可能である。
【0065】
また、上記外来性のMRP1タンパク質を発現している細胞は、例えば、MRP1タンパク質をコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで作製できる。ベクターの細胞への導入は、当業者に一般的な方法によって実施することができる。また、上記外来性のMRP1タンパク質を有する細胞は、例えば、MRP1タンパク質をコードするDNAを、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により、染色体へ挿入することで作製することができる。このような外来性のMRP1タンパク質が導入される細胞が由来する生物種としては、特に限定されず、外来タンパク質を細胞内に発現させる技術が確立されている生物種であればよい。
【0066】
また、MRP1タンパク質が発現している細胞抽出液は、例えば、試験管内転写翻訳系に含まれる細胞抽出液に、MRP1タンパク質をコードするDNAを含むベクターを添加したものを挙げることができる。該試験管内転写翻訳系としては、特に制限はなく、市販の試験管内転写翻訳キットなどを使用することが可能である。
【0067】
また、本発明において「接触」は、MRP1タンパク質の状態に応じて行う。例えば、MRP1タンパク質が精製された状態であれば、精製標品に被験試料を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験試料を添加することにより行うことができる。被験試料がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、MRP1タンパク質が発現している細胞へ導入する、または該ベクターをMRP1タンパク質が発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0068】
第一の態様では、次いで、上記MRP1タンパク質の活性を測定する。MRP1タンパク質の活性としては、ATPase活性、または、再構成したMRP1 proteoliposomeへの[3H]−LTC4あるいは[3H]−E2−17βGの取り込み活性が挙げられる(Mao Q. et al.; J Biol Chem. 2000 Nov 3;275(44):34166−72)。
【0069】
第一の態様においては、上記MRP1タンパク質の活性が、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される。
【0070】
本発明の評価方法の第二の態様としては、まず、MRP1遺伝子のプロモータ―領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。
【0071】
第二の態様において、「機能的に結合した」とは、MRP1遺伝子のプロモータ―領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、MRP1遺伝子のプロモータ―領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、MRP1遺伝子のプロモータ―領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0072】
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、MRP1タンパク質をコードするDNAもまた含まれる。
【0073】
第二の態様では、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被験試料を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。
【0074】
レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0075】
また、MRP1遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
【0076】
また、該遺伝子からコードされるMRP1タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該MRP1タンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、MRP1タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法などを実施し、該MRP1タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0077】
第二の態様においては、上記レポーター遺伝子の発現レベルが、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される。
【0078】
さらに、本発明は、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料を効率的にスクリーニングする方法を提供する。本発明の抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法の一つの態様においては、上記評価方法を利用して、複数の被験試料について、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価し、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する。
【0079】
上記スクリーニング方法の他の態様においては、まず、MRP1タンパク質に複数の被験試料を接触させる。次いで、MRP1タンパク質と被験試料との結合を検出する。次いで、MRP1タンパク質と結合する被験試料を選択する。
【0080】
MRP1タンパク質を用いて、これに結合するポリペプチドをスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。MRP1タンパク質をコードするDNAを、pSV2neo, pcDNA I, pCD8 などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしては SV40 early promoter (Rigby In Williamson (ed.), Genetic Engineering, Vol.3. Academic Press, London, p.83−141(1982)), EF−1 α promoter (Kimら Gene 91, p.217−223 (1990)), CAG promoter (Niwa et al. Gene 108, p.193−200 (1991)), RSV LTR promoter (Cullen Methods in Enzymology 152, p.684−704 (1987), SR α promoter (Takebe et al. Mol. Cell. Biol. 8, p.466 (1988)), CMV immediate early promoter (Seed and Aruffo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, p.3365−3369 (1987)), SV40 late promoter (Gheysen and Fiers J. Mol. Appl. Genet. 1, p.385−394 (1982)), Adenovirus late promoter (Kaufman et al. Mol. Cell. Biol. 9, p. 946 (1989)), HSV TK promoter 等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。
【0081】
動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法 (Chu, G. et al. Nucl. Acid Res. 15, 1311−1326 (1987))、リン酸カルシウム法 (Chen, C and Okayama, H. Mol. Cell. Biol. 7, 2745−2752 (1987))、DEAEデキストラン法 (Lopata, M. A. et al. Nucl. Acids Res. 12, 5707−5717 (1984); Sussman, D. J. and Milman, G. Mol. Cell. Biol. 4, 1642−1643 (1985))、リポフェクチン法 (Derijard, B. Cell 7, 1025−1037 (1994); Lamb, B. T. et al. Nature Genetics 5, 22−30 (1993); Rabindran, S. K. et al. Science 259, 230−234 (1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。
【0082】
特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をMRP1タンパク質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合ポリペプチドとしてMRP1タンパク質を発現させることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13, 85−90 (1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合ポリペプチドを発現することができるベクターが市販されている。また、融合ポリペプチドにすることによりMRP1タンパク質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合ポリペプチドを調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His−tag)、インフルエンザ凝集素 HA、ヒトc−myc、FLAG、Vesicular stomatitis ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7 gene10 タンパク質(T7−tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−tag)、E−tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、MRP1タンパク質に結合するポリペプチドのスクリーニングのためのエピトープ−抗体系として利用できる(実験医学 13, 85−90 (1995))。
【0083】
免疫沈降においては、これらの抗体を、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体はMRP1タンパク質、それと結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、MRP1タンパク質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。MRP1タンパク質に対する抗体は、例えば、MRP1タンパク質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させたポリペプチドを精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成したMRP1タンパク質の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
【0084】
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG 抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、MRP1タンパク質を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合ポリペプチドとして調製した場合には、グルタチオン−Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、MRP1タンパク質の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
【0085】
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E. and Lane, D.: Antibodies, pp.511−552, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988) )記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
【0086】
免疫沈降されたポリペプチドの解析にはSDS−PAGEが一般的であり、適当な濃度のゲルを用いることでポリペプチドの分子量により結合していたポリペプチドを解析することができる。また、この際、一般的にはMRP1タンパク質に結合したポリペプチドは、クマシー染色や銀染色といったポリペプチドの通常の染色法では検出することは困難であるので、放射性同位元素である35S−メチオニンや35S−システインを含んだ培養液で細胞を培養し、該細胞内のポリペプチドを標識して、これを検出することで検出感度を向上させることができる。ポリペプチドの分子量が判明すれば直接SDS−ポリアクリルアミドゲルから目的のポリペプチドを精製し、その配列を決定することもできる。
【0087】
また、MRP1タンパク質を用いて、該MRP1タンパク質に結合するポリペプチドを単離する方法としては、例えば、Skolnikらの方法(Skolnik, E. Y. et al.,Cell (1991) 65, 83−90)を用いて行うことができる。すなわち、MRP1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される細胞、組織よりファージベクター(λgt11, ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB−アガロース上で発現させフィルターに発現させたポリペプチドを固定し、精製して標識したMRP1タンパク質と上記フィルターとを反応させ、MRP1タンパク質と結合したポリペプチドを発現するプラークを標識により検出すればよい。MRP1タンパク質を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、MRP1タンパク質又はMRP1タンパク質に融合したポリペプチド(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
【0088】
また、本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、細胞を用いた2−ハイブリッドシステム(Fields, S., and Sternglanz, R.,Trends. Genet. (1994) 10, 286−292、Dalton S, and Treisman R (1992) Characterization of SAP−1, aprotein recruited by serum response factor to the c−fos serum response element. Cell 68, 597−612、「MATCHMARKER Two−Hybrid System」,「MammalianMATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One−Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(ストラタジーン社製))を用いて行う方法が挙げられる。
【0089】
2−ハイブリッドシステムにおいては、MRP1タンパク質またはその部分ペプチドをSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、MRP1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する(酵母細胞内でMRP1タンパク質と結合するポリペプチドが発現すると、両者の結合によりレポーター遺伝子が活性化され、陽性のクローンが確認できる)。単離したcDNAを大腸菌に導入して発現させることにより、該cDNAがコードするポリペプチドを得ることができる。これによりMRP1タンパク質に結合するポリペプチドまたはその遺伝子を調製することが可能である。
【0090】
2−ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI−1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。2ハイブリッド法によるスクリーニングは、酵母の他、哺乳動物細胞などを使って行うこともできる。
【0091】
MRP1タンパク質と結合する化合物のスクリーニングは、アフィニティクロマトグラフィーを用いて行うこともできる。例えば、MRP1タンパク質をアフィニティーカラムの担体に固定し、ここにMRP1タンパク質と結合するポリペプチドを発現していることが予想される被検試料を適用する。この場合の被検試料としては、例えば細胞抽出物、細胞溶解物等が挙げられる。被検試料を適用した後、カラムを洗浄し、MRP1タンパク質に結合したポリペプチドを調製することができる。
【0092】
得られたポリペプチドは、そのアミノ酸配列を分析し、それを基にオリゴDNAを合成し、該DNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、該ポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0093】
また、ポリペプチドに限らず、MRP1タンパク質に結合する化合物を単離する方法としては、例えば、固定したMRP1タンパク質に、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、MRP1タンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC; Farrell FX; Chang R; Kashyap AK; Barbone FP; Mulcahy LS;Johnson DL; Barrett RW; Jolliffe LK; Dower WJ., Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin, Science (UNITED STATES) Jul 26 1996,273 p458−64、Verdine GL., The combinatorial chemistry of nature. Nature(ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p11−13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p17−9)が当業者に公知である。
【0094】
本発明において、結合した化合物を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、MRP1タンパク質と被験試料との間の相互作用を微量のポリペプチドを用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることによりMRP1タンパク質と被験試料との結合を評価することが可能である。
【0095】
本発明のスクリーニング方法においては、上記方法により得られたMRP1タンパク質と結合する被験試料について、本発明の評価方法により、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する。次いで、MRP1タンパク質と結合する被験試料から抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する。また、該MRP1タンパク質と結合する被験試料および抗癌剤を該抗癌剤に耐性を示す癌細胞に接触させ、例えば該癌細胞の増殖を測定することで、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料(該癌細胞の増殖を阻害する試料)を選択することが可能である。上記癌細胞としては、特に制限はなく、MRP1により細胞外に排出される薬剤(doxorubicinなど)に耐性を示す臨床検体や培養細胞株などが例示できる。
【0096】
さらに、本発明においては、抗癌剤の抗癌作用を増強する医薬組成物の製造方法を提供する。該製造方法においては、上記スクリーニング方法によって抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料と上述した医薬上許容される担体とを混合する。該担体としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0097】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] アレイスライドの作成
スライドグラスに貼り付ける7685遺伝子のうち6734はResearch Genetics社より購入したIMAGEクローン、699は癌への関与が知られた、あるいは想定される中外所有のクローンに由来し、残る252は陰性コントロールとして加えた(Alu配列、ルシフェラーゼ等)ものでデータ解析からは除外した。スライド作成はHegde,P.等の方法(Cancer Res. (2001) 61: 7792−7797)に準じて行い、Microgrid II (BioRobotics社製)を用いて1枚のスライドに7685遺伝子をduplicateで貼り付けた。
【0098】
[実施例2] プローブの調製、ハイブリダイゼーション及び測定
38株のヒト肺癌由来細胞株、3株の正常ヒト繊維芽細胞株(表1)、43例の各種病型肺癌臨床検体および6例の正常肺組織(表2)を材料とした。
【0099】
【表1】
Figure 2004051553
【0100】
【表2】
Figure 2004051553
【0101】
臨床検体は(財)癌研究会癌研究所にて患者のinformed consentおよび倫理委員会の承認のもとで外科的摘除時に採取したものである。レファレンスサンプルとしては可能な限り多くの遺伝子について情報が得られる事を考慮して、20%の正常肺組織にNCI−H226、NCI−H522、EKVX、NCI−H460、Lu−134A、MRC5、SQ5、H23、PC14、MS1の10種の細胞株を夫々8%ずつ加えたものを用いた。全ての細胞株はRNAlater (Ambion社製)を用いて細胞浮遊液とした。臨床検体はRNAの分解を最小限にすべく採取後液体窒素にて瞬時に凍結せしめた。Isogen(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを抽出後、Luo, L.等の方法(Nat. Med. (1999) 5 : 117−122)に従ってcRNA合成を行った。プローブ合成はHughes, TR等の方法(Nat. Biotechnol.(2001) 19 : 342−347)に従って2ugのcRNAを鋳型として行った。レファレンスサンプルはCy3にてテストサンプルはCy5にて蛍光標識した。ハイブリダイゼーションとその後の洗浄はHegde, P.等の方法(前出)に従った。ハイブリダイズしたシグナルの測定と定量はScannarray 4000スキャナーとQuantarray (何れもPackard Bioscience社製)を用いて行った。
【0102】
[実施例3] データ解析
全てのcRNAサンプルはduplicateにて蛍光標識を行った。標識後のプローブを7685個のDNAスポットがduplicateで貼り付けてあるスライドにハイブリダイズさせる事により、個々の遺伝子について4回の独立した測定を行った。スポットした7685 element中252はcontrolとして加えたもの(Luciferase、Alu等)で残る7433のうち6384は5622個のUniGeneクラスターに相当し、1049はUniGeneクラスターに一致しない事から全体で6671個のユニークな遺伝子がスポットされている事になる。さらに初期の検討結果から、このうち285は全ての臨床検体・細胞株を含めた異なる検体間で同様な発現パターンを示した事から以後の解析から除外した。この初期フィルタリングの結果、6386のユニークな遺伝子が以下の解析の対象として残った(図1)。1回のアレイ実験内でのデータの標準化はlowess normalization法(Nucleic Acid Res. (2002), 30 : e15)に準拠し、標準化されたシグナル強度をレファレンスサンプルのシグナル強度で割る事により値を得た後に、Tseng等のプログラム(Nucleic Acid Res.(2001), 29 : 2549−2557)を用いてCV値が96%信頼区間から外れるデータをoutlierとして以後の解析から除外した。得られたデータセットはGeneSpring(Silicon Genetics社製)を用いてクラスター解析、視覚化を行った(図2)。腫瘍臨床検体と細胞株のデータの直接比較をした場合に異なる病型に関わらず臨床検体に共通して高い発現を示す遺伝子、逆に細胞株に共通して高い発現を示す遺伝子が認められた。これらの遺伝子を選別する目的でBinary Search Algorithmを新たに考えた。すなはち、個々の遺伝子について全てのサンプルでのシグナルの平均値を求めこれより高い値を示すものに”1”、低い値を示すものに”0”の値を与える事により個々のサンプルのプロファイルをBinary Stringsとして表現した。これをideal state(臨床検体で全て”1”/細胞株で全て”0”あるいはその逆)のstringと比較して66%以上のサンプルで”1”の場合、”overexpressed”、66%以上のサンプルで”0”の場合、”underexpressed”とした。この処理により6386のユニークな遺伝子中2218が臨床検体で細胞株と比較して発現が高い(1313)あるいは低い(905)ものとして選別された(図3)。さらにこれら2218遺伝子のクラスタリングの結果を目で見て確認した結果、299の遺伝子は臨床検体と細胞株間で際立った発現の差を認めなかった事から残る1919を以下の検討からは除去する事とした(図4)。全てのフィルタリングの結果最終的に4240の遺伝子が解析の対象として残った。Hierarchical clusteringの結果(図5、図6)、90の検体(肺癌臨床検体43、正常肺臨床検体6、肺癌細胞株38、正常胎児繊維芽細胞株3)は4つの大きなbranchに分かれた(表3)。
【0103】
【表3】
Figure 2004051553
SCLCは小細胞性肺癌、SCCは扁平上皮癌、NSCLCは非小細胞性肺癌、ACは腺癌、LCCは大細胞性癌を示す。また、*は、非小細胞性肺癌由来細胞株(病型分類不明)を示す。
【0104】
Branch 1は殆ど全ての小細胞性肺癌由来細胞株と全ての小細胞性肺癌とカルチノイドの臨床検体を含む。Branch 2には扁平上皮癌の臨床検体と細胞株が多く含まれ、Branch 3は細胞株のbranchで胎児由来正常繊維芽細胞株は全てこのbranchに含まれる。Branch 4には全ての腺癌、大細胞癌と正常肺の臨床検体が含まれる。2株の非小細胞性肺癌由来細胞株(病型分類不明)は上記4つのbranchからは独立したbranchを形成している。Binary Search Algorithmを適用して、細胞株全般に固有の遺伝子発現プロファイルおよび臨床検体全般に固有の遺伝子発現プロファイルを除去する事により、それまで困難であった臨床検体と細胞株を直接比較する事が可能となった。特に小細胞性肺癌由来細胞株の大部分(11/13)と扁平上皮癌由来細胞株の一部(4/8)は夫々の細胞株が由来する病型の臨床検体クラスターに帰属された事からこれらの細胞株はもとの腫瘍の形質をよく保持していると考えられた。腺癌については今回実施したフィルタリング・クラスタリングでは正常肺組織との分離が不充分でかつ腺癌由来細胞株の帰属は得られなかった(0/11)。この理由として、腺癌臨床検体が異なる分化度の症例からなっており、正常肺組織の混入度が高い為正常肺組織とのクラスター分離が不充分であったと考えられる一方、腺癌由来細胞株は由来する癌組織中の最も未分化な細胞が株化の過程で選択された事によると考えられた。
【0105】
以下に、各種病型肺癌で病型特異的に発現変化を示す遺伝子一覧を示す。
(1)正常肺組織で高発現していて癌化で低下するもの(表4)
【表4】
Figure 2004051553
【0106】
(2)小細胞性肺癌で高発現を示すもの(表5)
【表5】
Figure 2004051553
【0107】
(3)扁平上皮癌で高発現を示すもの(表6)
【表6】
Figure 2004051553
【0108】
(4)カルチノイドで高発現を示すもの(表7)
【表7】
Figure 2004051553
【0109】
(5)腺癌および正常肺組織で高発現を示すもの(表8)
【表8】
Figure 2004051553
【0110】
上記フィルタリング法により、細胞株あるいは臨床検体に共通して発現亢進している遺伝子を解析から除外する事により病型特異的な遺伝子発現プロファイルを得る事ができた。病型特異的に高発現している遺伝子の中には全ての細胞に共通した基本的経路の構成成分は殆ど含まれていない事から、フィルタリングが予想通りの効果を発揮したものと考えられた。
【0111】
[実施例4] 新規医薬品開発の為のターゲット分子の探索
これらの病型特異的遺伝子には既知の病型特異的マーカー(小細胞性肺癌のneuroendocrineマーカーや扁平上皮癌のケラチン等)が数多く含まれており、これらを除いた残りの遺伝子から新規医薬品開発の為のターゲット(例えば抗体療法のターゲット)としての可能性が想定されるものを検索した。その結果扁平上皮肺癌に特異的に発現上昇しているものとして、AA424804 (ATP−dependent transport protein, multidrug resistance associated protein−1; MRP1)が選別された。MRP1はグルタチオンを補助因子とするdrug efflux pumpで、臨床で一般的に用いられる抗癌剤である、doxorubicin、daunorubicin、vincristine、VP16、colchicine等を細胞外に排出する事によりこれらの薬剤に対する抵抗性を賦与するがtaxolに対する感受性には変化を与えない(PNAS, 1994 Sep; 91: 8822−26)。また、重金属oxyanionであるsodium arsenite や antimonyの毒性に対しても抵抗性を賦与する事が報告されている(Biochem Biophys Res Commun 2002 Mar 1;291)。また一方、MRP1はLeucotriene C4 (LTC4)トランスポーターとしても知られている(Cell 2000, Nov 22; 103: 757−68)。興味深い事に、MRP1を欠失させたマウスはStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対して抵抗性となる事が示され、この効果がMRP1欠失の結果細胞内にLTC4が蓄積しproduct inhibitionによりLTC4−synthaseの活性が低下し、LTC4−synthaseとLTA4−hydrolase間の基質に対する競合がLTA4−hydrolase側にシフトした結果、肺胞滲出液中のLTB4レベルが増大した事によると説明されている(J. Immunol. 2001; 166: 4059−64)。従ってMRP1を標的とした中和抗体は各種抗癌剤に対する多剤耐性を克服すると同時に、随伴するStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対する抵抗性を賦与する事が期待でき、この分子を過剰発現した扁平上皮肺癌のadjunct therapyに有効であると考える。
【0112】
【発明の効果】
本発明によって、MRP1を発現した癌の治療に使用可能な新たな薬剤が提供できるものと期待される。抗MRP1抗体を有効成分として含有する薬剤やスクリーニングによって得られるMRP1阻害剤は、各種抗癌剤の抗癌作用を増強する(癌細胞の抗癌剤に対する多剤耐性を克服する)と同時に、随伴するStreptococcus pneumoniaeによる肺炎に対する抵抗性を賦与する事が期待される。また、抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤は、該抗癌剤の抗癌活性が持続する有効な薬剤になりうるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】6386の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。タイプに応じて着色された標本が、左側に示され、赤はAC、緑はSCC、紫は正常、青はSCLC、黒はLCC; オレンジ色はカルチノイド、茶色は線維芽細胞、ピンクはNSLCを表わしている。各欄は、特定の遺伝子を表わす。正方形は、4つの複製にわたる対数平均発現比率に従って着色されている。基準標本との関係において、赤は1より大きい発現比率(過剰発現)、緑は1未満(過小発現)、黒はほぼ1に等しい比率(発現変化無し)を表わしている。
【図2】本文中に記述されているように統計的にろ過することによって得られた細胞系統中の5255の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。タイプに応じて着色された標本が左側に示され、赤はAC、緑はSCC、青はSCLC、茶色は線維芽細胞、ピンクはNSLCを表わしている。各欄は、特定の遺伝子を表わす。正方形は4つの複製にわたる対数平均発現比率に従って着色されている。基準標本との関係において、赤は1より大きい発現比率(過剰発現)、緑は1未満(過小発現)、黒はほぼ1に等しい比率(発現変化無し)を表わしている。
【図3】腫瘍及び細胞系統の間で示差的に調節された遺伝子の同定を示す図および写真である。(A)新鮮な標本に比べ細胞系統標本内で一般に過剰発現された905の遺伝子及び(B)新鮮な標本に比べて細胞系統標本中で一般に過小発現された1313の遺伝子についての全ての標本にわたる発現変化。(C)新鮮な標本と細胞系統標本の間で示差的に調節されている1919の遺伝子の2次元階層的クラスター化。左側の樹状図は、細胞系統標本と新鮮な標本のクラスター化を示す。分岐色は、図1に示されたとおりである。上部樹状図は、遺伝子のクラスター化を示している。
【図4】新鮮な標本と細胞系統標本の間で示差的に調節されるBinary Search Algorithmによって選択され2218の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。左側の樹状図は、細胞系統標本と新鮮な標本のクラスター化を示す。上部樹状図は、遺伝子のクラスター化を示す。新鮮な標本中でアップレギュレートされた遺伝子は右に向かってクラスター化している状態で示され、細胞系統標本中でアップレギュレートされた遺伝子は、左に向かってクラスター化している状態で示されている。主要データセットに内含させるのに、新鮮な標本と細胞系統標本の間で著しい対比を示さない遺伝子分岐(合計299)が選定された。
【図5】新鮮な標本又は細胞系統標本内の一般的に調節された遺伝子についてろ過した後の4240の遺伝子の削減されたデータセットの樹状図を示す写真である。標本は、図1の場合と同様に着色されている。左側に示されたグループは、特定の癌腫タイプの全く異なるクラスターを表わす。cl:細胞系統標本; fr:新鮮な腫瘍標本。
【図6】全く異なる発現パターンを示す、図5からの8つの選択された遺伝子クラスターの全ての標本にわたる発現プロファイルを示す写真である。図5からの樹状図及び強調されたクラスターは、参考として底部に沿って及び個々の遺伝子クラスターの間に示されている。(A)カルチノイド内でアップレギュレートされた遺伝子。(B)正常組織内でアップレギュレートされた遺伝子。(C)AC及びLCC内でアップレギュレートされた遺伝子。(D〜E)SCC内でアップレギュレートされた遺伝子。(F〜H)SCLC内でアップレギュレートされた遺伝子。

Claims (14)

  1. 抗MRP1抗体を有効成分として含有する、抗癌剤の抗癌作用を増強するための薬剤。
  2. 抗MRP1抗体および抗癌剤を有効成分として含有する薬剤。
  3. 癌が肺癌である、請求項1または2に記載の薬剤。
  4. 肺癌が扁平上皮肺癌である、請求項3に記載の薬剤。
  5. 抗MRP1抗体を投与することを特徴とする、抗癌剤の抗癌作用の増強方法。
  6. 抗MRP1抗体および抗癌剤を投与することを特徴とする、癌の治療方法。
  7. 被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する方法であって、
    (a)MRP1タンパク質に被験試料を接触させる工程、
    (b)該MRP1タンパク質の活性を測定する工程、
    を含み、上記MRP1タンパク質の活性が、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される方法。
  8. 被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する方法であって、
    (a)MRP1遺伝子のプロモータ―領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程、
    (b)該細胞または該細胞抽出液に被験試料を接触させる工程、
    (c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
    を含み、上記レポーター遺伝子の発現レベルが、被験試料を接触させないときに比べ減少する場合に、被験試料が抗癌剤の抗癌作用を増強すると判定される方法。
  9. 以下の(a)および(b)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法。
    (a)請求項7または8に記載の評価方法により、複数の被験試料ついて、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する工程
    (b)複数の被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
  10. 以下の(a)〜(e)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法。
    (a)MRP1タンパク質に複数の被験試料を接触させる工程
    (b)該MRP1タンパク質と被験試料との結合を検出する工程
    (c)該MRP1タンパク質と結合する被験試料を選択する工程
    (d)請求項7または8に記載の評価方法により、該MRP1タンパク質と結合する被験試料について、抗癌剤の抗癌作用を増強するか否かを評価する工程
    (e)該MRP1タンパク質と結合する被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
  11. 以下の(a)〜(e)の工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する試料のスクリーニング方法。
    (a)MRP1タンパク質に複数の被験試料を接触させる工程
    (b)該MRP1タンパク質と被験試料との結合を検出する工程
    (c)該MRP1タンパク質と結合する被験試料を選択する工程
    (d)該MRP1タンパク質と結合する被験試料および抗癌剤を該抗癌剤に耐性を示す癌細胞に接触させる工程
    (e)該MRP1タンパク質と結合する被験試料から、抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料を選択する工程
  12. 請求項9〜11のいずれかに記載の工程に、さらに抗癌剤の抗癌作用を増強すると評価された試料と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌剤の抗癌作用を増強する医薬組成物の製造方法。
  13. 癌が肺癌である、請求項5〜12のいずれかに記載の方法。
  14. 肺癌が扁平上皮肺癌である、請求項13に記載の方法。
JP2002211576A 2002-07-19 2002-07-19 抗mrp1抗体を含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤 Pending JP2004051553A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2022051390A1 (en) * 2020-09-02 2022-03-10 Kenjockety Biotechnology, Inc. Anti-abcc1 antibodies and uses thereof
CN115772219A (zh) * 2022-07-29 2023-03-10 生工生物工程(上海)股份有限公司 一种特异性结合mrp1蛋白的结合蛋白、试剂盒及其应用

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