JP2004042048A - Al部材の摩擦攪拌接合方法及びそれに用いられるAl部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】接合して得られる接合材における接合強度を高度に確保しつつ、そのような接合材の変形を効果的に抑制乃至は阻止せしめ得るAl部材の摩擦攪拌接合方法、並びにそのような摩擦攪拌接合方法に有利に用いられるAl部材を、提供すること。
【解決手段】Al部材10aとして、板状部12aの突合せ部16に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が所定の幅において母材部よりも厚肉とされていると共に、かかる厚肉部位14aよりも突合せ部16側の部位22aが、厚肉部位14aよりも薄肉とされた形状の材料を用いて、摩擦攪拌接合を行なうようにした。
【選択図】図2
【解決手段】Al部材10aとして、板状部12aの突合せ部16に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が所定の幅において母材部よりも厚肉とされていると共に、かかる厚肉部位14aよりも突合せ部16側の部位22aが、厚肉部位14aよりも薄肉とされた形状の材料を用いて、摩擦攪拌接合を行なうようにした。
【選択図】図2
Description
【0001】
【技術分野】
本発明は、Al(アルミニウム)部材の摩擦攪拌接合方法及びそれに用いられるAl部材に係り、特に、接合して得られる接合材における接合強度を確保しつつ、そのような接合材の変形を効果的に抑制乃至は阻止せしめ得るAl部材の摩擦攪拌接合方法、並びにかかる摩擦攪拌接合に有利に用いられるAl部材に関するものである。
【0002】
【背景技術】
近年、摩擦圧接法と同様に、摩擦熱を利用して板の突合せ部位を接合する摩擦攪拌接合方法が、米国特許第5460317号明細書等に提案され、注目を浴びている。この摩擦攪拌接合方法では、一般に、接合されるべき二つの部材を突き合わせて拘束し、その突合せ部に対して、回転治具に設けた硬質のピンを、かかる回転治具と共に一体的に高速回転させながら差し込み、相対的に移動させることにより、摩擦熱を発生せしめて、その摩擦熱にて、突合せ部を塑性流動可能な状態と成し、更にピンの高速回転による攪拌作用にて、突合せ部位の組織を入り交わらせ、以て、溶融せしめることなく二つの部材を接合しようとするものである。そして、かかる手法を採用することによって、従来の手法を採用する場合に比して、或る程度の接合部の強度低下が抑制されると共に、歪みも少なくなることが明らかにされてきている。
【0003】
ところで、このような摩擦攪拌接合法にあっても、接合による強度低下は免れ得ず、その強度が充分であるとは言い難いものであったため、本願出願人は、先に、特開平10−216964号公報において、摩擦攪拌接合手法を利用して、強度に優れたアルミニウム広幅形材を製造する方法を提案した。具体的には、図1(a)及び(b)に示されるように、アルミニウム形材2a,2bの板状部の突き合わされる端部側の部位を、所定の高さで突出する厚肉部4a,4bと為すと共に、かかる厚肉部4a,4bの幅:w,w′[mm]を、回転治具6の肩部(ショルダー部)の半径:r[mm]に応じて、それ(r)よりも所定範囲内において大となるように、それぞれ設定することにより、熱処理合金(時効硬化型合金)や加工硬化材等からなるアルミニウム形材の攪拌接合部8における強度低下を抑制して、強度に優れたアルミニウム広幅形材を製造するようにしたものである。
【0004】
しかしながら、このアルミニウム形材の接合部位を厚肉化して、摩擦攪拌接合せしめる方式においては、その接合部位の強度の向上を有利に図ることが出来るのであるが、この方式とても、アルミニウム形材、特にその板状部を接合して得られる接合材においては、その接合方向において、また、その接合方向とは直角な方向において変形が惹起され易く、これが製品の反りとなって現われ、全体的に平坦な接合材を得ることは、依然として、困難であったのである。また、接合部位の厚肉化によって、接合時における回転治具6やピン7への負荷が大きくなって、接合速度が遅くなり、生産性が悪化することに加えて、厚肉部4a,4bを何等設けない場合に比して、接合時に発生する摩擦熱が大きくなって、熱影響部9a,9bの幅が大きくなる問題も内在している。
【0005】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、接合して得られる接合材における接合強度を高度に確保しつつ、そのような接合材の変形を効果的に抑制乃至は阻止せしめ得るAl部材の摩擦攪拌接合方法、並びにそのような摩擦攪拌接合方法に有利に用いられるAl部材を、提供することにある。また、本発明の別の課題とするところは、優れた接合強度を確保しながら、Al部材に対して一般に要求されている、軽量化を有利に図ることにある。
【0006】
【解決手段】
そして、本発明者らは、そのような課題を解決するために、更に鋭意検討を重ねた結果、先に提案した特開平10−216964号公報に開示された方法と同様に、摩擦攪拌接合によって生じる熱影響部に、厚肉部位を位置せしめるのであるが、攪拌接合部となる突合せ部側の部位を、かかる厚肉部位よりも薄肉とすると、接合して得られる接合材においては、優れた接合強度が維持されつつ、その接合方向(摩擦攪拌接合操作の進行方向)において、また、その接合方向とは直角な方向において、変形が惹起され難くなって、接合材の全体的な反り等の発生が効果的に抑制され得ることを見出したのである。
【0007】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、熱処理型Al合金からなる複数のAl部材の板状部を突き合わせ、その突合せ部に対して、回転治具の先端に同心的に設けたピンを、該回転治具と共に一体的に回転させつつ差し込み、相対的に移動させることにより、かかる突合せ部を摩擦攪拌接合するに際して、該Al部材として、前記板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の材料を用い、前記摩擦攪拌接合を該厚肉部位より薄肉の前記突合せ部側の部位において行なう一方、該摩擦攪拌接合によって生じる熱影響部が該厚肉部位に位置するようにして、かかる摩擦攪拌接合操作を進行せしめることを特徴とするAl部材の摩擦攪拌接合方法にある。
【0008】
すなわち、このような本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法によれば、Al部材として、その板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、該板状部の母材部よりも厚肉とされると共に、その厚肉とされた部位(厚肉部位)よりも突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の部材が用いられ、しかも、かかる厚肉部位に、熱影響部が位置せしめられるようにして、摩擦攪拌接合操作が行なわれているところから、接合による強度低下が、厚肉部位の形成によって、有利に抑制され得て、優れた強度を確保することが出来ると共に、摩擦攪拌接合操作によって発生する熱に基因するところの摩擦攪拌接合部における収縮挙動が、該接合部の両側に設けられたレール状乃至はリブ状の厚肉部位によって効果的に抑制乃至は阻止され得、摩擦攪拌接合操作の進行方向となる、その接合方向において、また、かかる接合方向とは直角な方向においても、変形が惹起され難くなって、接合材の全体としての反り等の発生が効果的に阻止され得ることとなるのである。
【0009】
また、かかる本発明方法にあっては、Al部材の板状部における突合せ部側の部位が、前記厚肉部位に比して薄肉とされて、その薄肉部位において摩擦攪拌接合が行なわれるようになっているところから、摩擦攪拌接合操作において回転治具やピンへの負荷が大きくならず、迅速な接合が可能となり、以て生産性を有利に高めることが出来ると共に、接合時に発生する摩擦熱が小さくなって、熱影響を少なくすることも可能となるのである。しかも、かかる厚肉部位は、突合せ部を挟んで両側に所定距離を隔ててそれぞれ設けられているところから、その突き合わせ部分全体に厚肉部位が形成された従来のものに比して、接合により発生する熱がこもり難く、放熱性に優れ、つまり、突合せ部を挟んで両側に設けられた厚肉部位が放熱フィンの如き作用を為して、熱が放出され、これによっても、熱による影響をより一層抑制することが可能となっているのである。従って、本発明に従う摩擦攪拌接合方法にてAl部材を接合すれば、熱による影響を可及的に抑制することが可能となるのであり、熱の影響を受けて、組織変化、ひいては材質変化(軟化等)が惹起せしめられる熱影響部の幅も、可及的に小さくすることが可能となり、更には、Al部材に形成せしめられる厚肉部位の幅を小さくせしめて、その軽量化を極めて効果的に達成し得るといった効果も、享受し得るのである。
【0010】
ところで、かかる本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法の好ましい態様の一つによれば、前記Al部材における厚肉部位は、予め測定された前記熱影響部における硬さ分布に基づいて、部材厚さを漸次変化せしめてなる形状とされていることが望ましい。このように、予め、摩擦攪拌接合手法にて接合せしめられたAl部材の硬さを測定して、軟化が惹起せしめられる熱影響部を把握することにより、Al部材の接合部位における軟化の程度に応じて、Al部材の厚さを適宜に変化せしめることが可能となり、以て、より一層無駄がなく、効果的に厚肉部位を形成せしめ得るようになって、本発明の目的が、より一層有利に実現され得ることとなる。
【0011】
また、本発明における好ましい態様の他の一つによれば、前記厚肉部位が、前記回転治具の差し込み側のみにおいて前記母材部から突出した突出部にて、形成されていることが望ましく、これによって、接合材の変形を、より一層有利に抑制し得るのである。
【0012】
さらに、本発明は、上述せる如き摩擦攪拌接合方法に用いられるAl部材にして、熱処理型Al合金からなると共に、相手部材に突き合わされて摩擦攪拌接合せしめられる板状部を有し、且つ該板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされている形状を有していることを特徴とするAl部材をも、その要旨とするものである。このようなAl部材を採用すれば、上述せる如き各種の効果が、有利に実現され得るのである。
【0013】
なお、かかる本発明に従うAl部材の好ましい態様の一つによれば、前記薄肉とされた部位が、前記母材部よりも厚肉とされていることが望ましい。なぜならば、摩擦攪拌接合するに際しては、高速回転せしめられている回転治具は、一般に、進行方向に後傾する形態において、相対的に移動せしめられるようになるため、接合後において、攪拌接合部の表面に、後傾した回転治具の肩部、特にエッジ部が食い込み、窪みが形成せしめられることとなり、これによって、攪拌接合部が、母材部よりも薄肉となって、継手強度が低下するといった問題が惹起される恐れがあるのであるが、前記薄肉とされた部位が、予め、母材部よりも厚肉とされておれば、そのような問題の発生が、極めて有利に抑制乃至は防止され得るようになるからである。
【0014】
【発明の実施の形態】
ところで、かくの如き本発明に従うAl(アルミニウム)部材の摩擦攪拌接合方法において、Al部材としては、時効硬化熱処理によって強度を高めることが可能な、従来より公知の熱処理型のアルミニウム合金、例えば、Al−Cu−Mg系(2000系)、Al−Mg−Si系(6000系)、Al−Zn−Mg系(7000系)等からなると共に、接合相手方の部材に突き合わされて、摩擦攪拌接合せしめられる板状部を有するものが用いられることとなる。なお、この板状部を有するAl部材の形状としては、板材に特に限定されるものではなく、公知の各種の手法にて製作された各種の形状のAl部材が何れも採用され得ることとなるが、一般に、押出形材が有利に用いられ得る。また、そのような押出形材を採用するに際しては、全体が板状の押出形材は勿論のこと、所謂、シングルスキンタイプの押出形材であっても、ダブルスキンタイプの押出形材であっても、その接合端部が板状である限りにおいて、何れをも、使用可能である。
【0015】
そして、そのようなAl部材の複数を用いて、摩擦攪拌接合を行なうために、本発明にあっては、図2に示されるように、Al部材10a,10bの板状部12a,12bに、それぞれ、かかる板状部12a,12bの本来の厚さを呈する母材部よりも所定の高さ(h,h′)だけ突出した突出部14a,14bが、突合せ部16から所定距離y,y′だけ入り込んだ位置において形成され、厚肉とされているのである。
【0016】
より具体的には、かかる突出部14a,14bは、厚肉部位を構成し、図3に示されるように、摩擦攪拌接合することにより、突合せ部16に形成される攪拌接合部18に隣接する位置に、突合せ部16乃至は攪拌接合部18に沿って、長手方向(図2中、紙面に垂直な方向)に延出するように設けられており、これによって、攪拌接合部18の周辺に生じる熱影響部20(熱の影響を受けて、母材部よりも軟化した部位)が、そのような突出部14a,14bに位置せしめられるようになっているのである。
【0017】
また、上記したAl部材10a,10bは、その板状部12a,12bの突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位において、それぞれ、内側の母材部の厚さ(t,t′)と突出高さ(h,h′)を合わせた、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)よりも所定の厚さだけ薄肉とされた薄肉部22a,22bを有するように、構成されている。
【0018】
ここにおいて、上述せる如き突出部14a,14bの高さ(h,h′)や幅(x,x′)は、使用するAl部材10a,10bの合金の種類や母材部の厚さ(t,t′)、更には接合条件[回転治具30の肩部の半径(r)等]に応じて、適宜に設定されるものであり、本発明において、特に制限されるものではないものの、接合によって得られる接合材24が、熱影響部20a,20bにおいて簡単に破断するようなことがない、充分な接合強度が得られるような突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)が選択されることとなる。
【0019】
なお、そのような突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)の設定は、予め測定された熱影響部における硬さ分布に基づいて行なわれることが望ましく、このようにして、軟化が惹起せしめられた熱影響部を把握することにより、Al部材10a,10bの軟化の程度に応じて、Al部材10a,10bの厚さ(h,h′)や幅(x,x′)を適宜に変化せしめることが可能となる。これによって、無駄な厚肉化をより一層有利に防止し得るのである。
【0020】
具体的には、図4(a)に示されるように、接合すべき板状部12a,12bと同様の合金及び、かかる板状部12a,12bと同様の厚さ(t,t′)を有する平板状のAl部材26a,26bを突き合わせて、摩擦攪拌接合を行ない、そして、接合によって得られた接合材28の硬さを、接合方向とは直角な方向に測定することにより、図4(b)に示される如き接合材28の硬さ分布が得られる。
【0021】
而して、そのような硬さ分布より、その測定された母材部の硬さと熱影響部の硬さを対比して、突出部14a,14bの突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)を設定し、母材部よりも小さな硬さとなる熱影響部に、かかる突出部14a,14bを設けるようにすればよいのである。特に、図5に示されるように、硬さ分布における熱影響部の硬さ変化に応じて、Al部材10a,10bの板状部12a,12bの厚さを、漸次変化せしめるようにすれば、軽量化を阻害する無用な厚肉化を、有利に防止し得るのである。
【0022】
一方、上述せる如き突出部14a,14bよりも突合せ部16側に位置する薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)や幅(y,y′)にあっても、本発明において、特に制限されるものではなく、接合によって得られる接合材24に充分な強度が確保され得る範囲内において、使用する回転治具30の肩部の半径(r)等の接合条件に応じて、適宜に設定されることとなるが、薄肉部22a,22bは、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉(s>t,s′>t′)とされることが望ましい。
【0023】
けだし、回転治具30が、進行方向に対して所定の角度をもって後傾する形態において、相対的に移動せしめられることによって、攪拌接合部18の表面に窪みが形成されても、攪拌接合部18の厚さが、母材部の厚さ(t,t′)よりも薄肉となるようなことが、有利に回避され得、以て、継手強度が低下するようなことが、極めて効果的に阻止され得るからである。
【0024】
ここにおいて、かかる薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)は、上述せるように、本発明に従って、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)よりも薄くされる必要があり、このように、突出部14a,14bよりも薄肉とすることによって、接合材24が歪んで、変形してしまうようなことが、中でも、接合方向における歪み(反り)が、突合せ部16の両側に設けられたレール状乃至はリブ状の突出部14a,14bの存在によって、接合部18の縮みが抑制されることにより、効果的に阻止され得るのである。
【0025】
また、突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位を薄肉とすることによって、突合せ部位全体に厚肉部位が形成された従来のものに比して、回転治具やピンへの負荷が小さくなり、接合速度を高めて、生産性の向上を図ることが可能となると共に、接合時に発生する摩擦熱も小さくなることに加えて、突合せ部16を挟んで両側に設けられた突出部14a,14bが、放熱フィンの如く作用して、接合により発生する熱が、放出され易くなり、熱による影響を可及的に抑えられ得るようになっているのである。このため、熱の影響を受けて、組織変化、ひいては材質変化(軟化等)が惹起せしめられる熱影響部の幅(大きさ)も、効果的に小ならしめられ得るのである。
【0026】
これに対し、薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)が、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)と同じか、或るはそれ以上になると、接合材24に歪みが発生し易くなって、反り等の変形が惹起され易くなることに加えて、摩擦攪拌接合のための回転治具30やピン32の高速回転に対する抵抗が大きくなり、大きな負荷を生じて、接合速度が遅くなると共に、接合時に発生する摩擦熱が大きくなって、熱影響部が大きくなり、更なる重量増加を招来することとなる。
【0027】
ところで、上述せる如き形状のAl部材10a,10bを摩擦攪拌接合する際に用いられる回転治具30としては、軸回りに回転せしめられるロッド状本体の先端部に、所定高さを有するピン32が同心的に設けられている、従来と同様なものが使用され、また、接合されるべきAl部材10a,10bの板状部12a,12bの材質よりも硬い材料にて形成されており、そのため、それら回転治具30やピン32が高速回転せしめられて、二つのAl部材10a,10bの突合せ部16に差し込まれたり、薄肉部22a,22bの上面に回転治具30の先端部たる肩部(ショルダ部)が接触せしめられても、殆ど損耗することのない非消費型の部材とされているのである。なお、これら回転治具30やピン32の軸心回りの高速回転は、回転治具30の基部側において、図示しない、従来と同様な回転駆動装置に取り付けられていることによって、容易に実現され得るようになっているのである。
【0028】
そして、本発明に従って、上述せる如き形状のAl部材10a,10bを摩擦攪拌接合して、目的とする接合製品を形成せしめるに際しては、先ず、図2に示されるように、薄肉部22a,22bを突き合わせた状態下で、それら二つのAl部材10a,10bが長手方向(接合方向)及び幅方向に相対的に移動することがないように、常法に従って拘束し、位置固定に保持せしめる一方、回転治具30をピン32と一体的に高速回転させて、突き合わされた薄肉部22a,22bの突合せ部16に向かって、移動させることにより、かかる突合せ部16に、該回転治具30のピン32を押し付けて、回転治具30の肩部が薄肉部22a,22bの上面に当接するまで、該ピン32を突合せ部16に差し込むようにするのである。これにより、突合せ部16とピン32及び回転治具30の肩部32との接触面において摩擦熱を発生させて、その周囲を可塑化せしめると共に、ピン32の高速回転に伴う攪拌作用にて、両側の薄肉部22a,22bのそれぞれの端部部位の組織を入り交じり合わせ、更に、かかる回転治具30及びピン32を突合せ部16に沿って、つまり、図2の紙面に対して垂直な方向に、相対的に移動せしめることにより、二つのAl部材10a,10bを、その突合せ部16において、摩擦攪拌接合せしめるのである。
【0029】
而して、上述せる如くして、摩擦攪拌接合操作が行なわれることにより、二つのAl部材10a,10bの突合せ部16には、図3に示されるように、それら二つのAl部材10a,10bに跨る攪拌接合部18が、長手方向に、連続的に延びるように形成されることとなるのである。また、摩擦攪拌接合による熱影響部(軟化部)20a,20bも、それぞれの突出部14a,14bの形成領域内に存在せしめられるのである。
【0030】
このように、本実施形態では、突合せ部16を、ピン32が設けられた回転治具30にて摩擦攪拌接合せしめる際において、Al部材10a,10bとして、板状部12a,12bの突合せ部16に形成される攪拌接合部18に隣接、位置する部位に、それぞれ、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉とされた突出部14a,14bが設けられ、且つ、かかる突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位が、それぞれ、突出部14a,14bよりも薄肉とされている形状の材料が用いられて、接合が実施されているところから、破断の惹起され易い熱影響部20a,20bは、それぞれ、厚肉部たる突出部14a,14bに位置せしめられて、破断強度の低下が有利に抑制されると共に、接合材の変形が効果的に抑制され、以て、優れた継手効率を実現し、且つ反りの少ない接合製品を、極めて有利に得ることが出来るのである。
【0031】
かくして、上述せるようにして、複数のAl部材が接合されて得られた接合製品は、近年における軽量化や大型化を図るべく、船舶や車両、航空機等の殻やフロア、建材、熱交換器、アンテナ、自動車部品、橋架等に、有利に用いられることとなる。
【0032】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0033】
例えば、上記の実施形態では、接合せしめられるAl部材10a,10bとして、母材厚さ(t,t′)や突出高さ(h,h′)、突出の幅(x,x′)、薄肉部の厚さ(s,s′)、薄肉部の幅(y,y′)が、それぞれ、同一であるものが用いられていたが、それらは、必ずしも同じである必要はない。例えば、互いに突き合わされるAl部材同士の材質(合金の種類)が異なるような場合等には、熱影響部の形成領域や、軟化の程度も異なるところから、所望とする接合強度が得られるように、突出高さ:h及びh′、突出の幅:x及びx′、薄肉部の厚さ:s及びs′等が、それぞれ、別個に設定されることとなる。
【0034】
また、上例では、回転治具30に一体的に取り付けられたピン32が、突出部14a,14bが形成された側から、突合せ部16に差し込まれていたが、図6に示されるように、突出部14a,14bが形成されていない面の側から、回転治具30に設けられたピン32を、差し込んで、接合するようにしても良い。
【0035】
さらに、例示の実施形態において、Al部材10a,10bの板状部12a,12bの下面、換言すれば、回転治具30が位置せしめられる側とは反対側の面が面一とされて、突出部14a,14bが、一方の側の面のみに突出するように設けられていたが、図7にも示される如く、両側の面に、突出部を設けることも可能である。
【0036】
また、突出部14a,14bは、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉とされておれば、その形状は、特に制限されるものではなく、図2に示されるような台形断面形状の他にも、矩形断面形状、円形断面形状、楕円形断面形状等の各種の形状であっても何等差支えないのであるが、上述せるように、硬さ分布に基づいて、部材厚さが漸次変化されてなる形状を有するものが、より好適に採用され得る。
【0037】
さらに、上述せる如き突出部14a,14bは、接合後において、面削等によって取り除かれても良いのであるが、面削を実施しない場合等には、板状部12a,12bの上面と突出部14a,14bの側面とで形成される角部で、疲労亀裂が起こり易くなる恐れがあるところから、図8に示されるように、かかる角部の曲率半径が、3mm以上となるようにされることが望ましい。
【0038】
加えて、上例では、突出部14a,14bを設けるに際して、接合すべき板状部12a,12bと同様の合金及び、かかる板状部12a,12bと同様の厚さ(t,t′)を有する平板状のAl部材26a,26bを摩擦攪拌接合して得られた接合材28の硬さ分布から、突出部14a,14bの突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)を設定する方法を一例として述べたが、このような設定を繰返し、突出部の寸法を微調整することによって、より一層無駄な厚肉化のない接合製品が得られることは、勿論、言うまでもないところである。
【0039】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0041】
実施例 1
接合せしめられるAl部材として、図2に示される如き形状の突出部14a(14b)を有する、幅:200mm×長さ:3000mmのAl板材(6N01−T5材)の2枚を、準備した。なお、かかるAl板材は、板厚(母材部厚さ:t):4mm、突出部14aの厚さ(h+t):6mm、突出部14aの幅(x):16mm、薄肉部22aの厚さ(s):4.5mm、薄肉部22aの幅(y):9mmであった。
【0042】
比較例 1
接合せしめられるAl部材として、厚さ:4mm×幅:200mm×長さ:3000mmの、厚肉部が何等設けられていない平板状のAl板材(6N01−T5材)を、2枚準備した。
【0043】
比較例 2
接合せしめられるAl部材として、図1の(a)に示される如き形状の厚肉部4aを有する、幅:200mm×長さ:3000mmの、Al板材(6N01−T5材)2aを、2枚準備した。なお、かかるAl板材は、板厚(母材部厚さ):4mm、厚肉部4aの厚さ:6mm、厚肉部4aの幅(w):25mmであった。
【0044】
次いで、かかる実施例1や比較例1,2で準備されたAl板材同士を、それぞれ、幅方向に突き合わせた後、その突き合わせた二つのAl板材が突合せ部において相対的に移動しないように拘束し、図2や図1(a)に示される如き形態において、先端にピンが設けられた回転治具を高速回転させつつ、かかる回転治具のピンを、二つのAl板材の突合せ部に差し込んで、そして、その突合せ部に沿って移動せしめることにより、摩擦攪拌接合を行なった。
【0045】
なお、何れの摩擦撹拌接合にも、回転治具として、ピン直径:4mm、ピン高さ:3.5mmのピンが同心的に設けられた、回転治具肩径:16mmであるものを用いると共に、回転数:1500rpm、及び、回転治具が進行方向において後傾する傾斜角度:3°の条件を採用した。また、接合時の移動速度(接合速度)は、下記表1に示されるように、500mm/分(実施例1,比較例1)、300mm/分(比較例2)であった。
【0046】
そして、上述せる如くして得られた実施例1及び比較例1,2に係る接合材について、それぞれ、JIS−Z3121−1961の「3.溶接継手の引張試験方法」に準拠して、軸方向に引張することにより、引張試験を実施し、得られた継手強度を、下記表1に併せ示した。なお、厚さ:4mmの平板状のAl板材(6N01−T5材)について、同様の引張試験を実施することにより、実施例1及び比較例1,2に係る接合材における母材部の引張強度を求めたところ、250MPaであった。
【0047】
また、図9に示される如き、得られた実施例1及び比較例1,2に係る接合材の長手方向(接合方向)の最大の歪み(反り):uを、それぞれ測定し、その結果を下記表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従う実施例1において得られた接合材にあっては、突合せ部の両側に設けられた突出部によって、その接合部の強度が、母材の92%以上、つまり、継手効率が92%以上となっており、優れた強度が確保されていると共に、接合材の歪み(反り)も極めて小さくなっているのである。
【0050】
これに対して、接合端部が何等厚肉化されていない比較例1にあっては、接合部の継手強度が低く、また、突合せ部位全体に厚肉部が形成された比較例2にあっては、優れた継手強度が得られているものの、接合部の厚肉化によって、接合速度が遅くなると共に、歪みが大きくなっていることが分かる。
【0051】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法にあっては、Al部材として、突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、母材部よりも厚肉とされると共に、その厚肉とされた部位(厚肉部位)よりも突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の板状部を有する部材が用いられ、しかも、かかる厚肉部位に、熱影響部が位置せしめられるようにして、摩擦攪拌接合操作が行なわれているところから、接合による強度低下が、厚肉部位の形成によって有利に抑制され、優れた強度を確保することが出来ると共に、攪拌接合部の両側に位置する厚肉部位の存在によって、摩擦攪拌接合操作によって発生する熱に基因するところの反り等の変形が極めて効果的に阻止され得るのである。
【0052】
また、Al部材の板状部における突合せ部側の部位が、厚肉部位に比して薄肉とされているところから、摩擦攪拌接合操作において回転治具やピンへの負荷が大きくならず、以て、摩擦攪拌接合において発生する熱も少なくなって、それによる悪影響が有利に回避され得ると共に、迅速な接合が可能となり、生産性を有利に高めることが出来る。
【0053】
加えて、突合せ部の両側に設けられた厚肉部位により、接合時に発生する摩擦熱が放熱され得るところから、これによっても、熱による影響がより一層抑えられ、熱影響部の幅も可及的に小さくすることが可能となる。このため、Al部材に形成される厚肉部位の幅を小さくせしめ得て、Al部材の軽量化をも効果的に実現し得るのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】先に提案したAl部材の摩擦攪拌接合方法を示す断面説明図であって、(a)は、接合前の状態を示し、(b)は、接合された後の状態を示している。
【図2】本発明手法に従って、突き合わされたAl部材を摩擦撹拌接合する工程の一例を示す断面説明図である。
【図3】本発明に従って、摩擦攪拌接合を施したAl部材の断面説明図であって、図2に対応する説明図である。
【図4】本発明に従うAl部材の形状を決定する方法の具体的な一例を示す説明図であって、(a)は、摩擦攪拌接合が施された平板状のAl部材の断面説明図を示し、(b)は、(a)の硬さ分布を示すグラフである。
【図5】本発明に従うAl部材の別の具体例を示す断面説明図である。
【図6】本発明手法に従って、突き合わされたAl部材を摩擦撹拌接合する工程の他の一例を示す断面説明図である。
【図7】本発明に従うAl部材の更に別の具体例を示す断面説明図である。
【図8】本発明に従うAl部材における厚肉部位の好ましい形態を示す部分拡大説明図である。
【図9】実施例において測定される歪み(反り)を示す説明図である。
【符号の説明】
10a,10b Al部材 12a,12b 板状部
14a,14b,34a,34b 突出部(厚肉部位)
16 突合せ部 18 攪拌接合部
20a,20b 熱影響部(軟化部)
22a,22b 薄肉部 24 接合材
30 回転治具 32 ピン
【技術分野】
本発明は、Al(アルミニウム)部材の摩擦攪拌接合方法及びそれに用いられるAl部材に係り、特に、接合して得られる接合材における接合強度を確保しつつ、そのような接合材の変形を効果的に抑制乃至は阻止せしめ得るAl部材の摩擦攪拌接合方法、並びにかかる摩擦攪拌接合に有利に用いられるAl部材に関するものである。
【0002】
【背景技術】
近年、摩擦圧接法と同様に、摩擦熱を利用して板の突合せ部位を接合する摩擦攪拌接合方法が、米国特許第5460317号明細書等に提案され、注目を浴びている。この摩擦攪拌接合方法では、一般に、接合されるべき二つの部材を突き合わせて拘束し、その突合せ部に対して、回転治具に設けた硬質のピンを、かかる回転治具と共に一体的に高速回転させながら差し込み、相対的に移動させることにより、摩擦熱を発生せしめて、その摩擦熱にて、突合せ部を塑性流動可能な状態と成し、更にピンの高速回転による攪拌作用にて、突合せ部位の組織を入り交わらせ、以て、溶融せしめることなく二つの部材を接合しようとするものである。そして、かかる手法を採用することによって、従来の手法を採用する場合に比して、或る程度の接合部の強度低下が抑制されると共に、歪みも少なくなることが明らかにされてきている。
【0003】
ところで、このような摩擦攪拌接合法にあっても、接合による強度低下は免れ得ず、その強度が充分であるとは言い難いものであったため、本願出願人は、先に、特開平10−216964号公報において、摩擦攪拌接合手法を利用して、強度に優れたアルミニウム広幅形材を製造する方法を提案した。具体的には、図1(a)及び(b)に示されるように、アルミニウム形材2a,2bの板状部の突き合わされる端部側の部位を、所定の高さで突出する厚肉部4a,4bと為すと共に、かかる厚肉部4a,4bの幅:w,w′[mm]を、回転治具6の肩部(ショルダー部)の半径:r[mm]に応じて、それ(r)よりも所定範囲内において大となるように、それぞれ設定することにより、熱処理合金(時効硬化型合金)や加工硬化材等からなるアルミニウム形材の攪拌接合部8における強度低下を抑制して、強度に優れたアルミニウム広幅形材を製造するようにしたものである。
【0004】
しかしながら、このアルミニウム形材の接合部位を厚肉化して、摩擦攪拌接合せしめる方式においては、その接合部位の強度の向上を有利に図ることが出来るのであるが、この方式とても、アルミニウム形材、特にその板状部を接合して得られる接合材においては、その接合方向において、また、その接合方向とは直角な方向において変形が惹起され易く、これが製品の反りとなって現われ、全体的に平坦な接合材を得ることは、依然として、困難であったのである。また、接合部位の厚肉化によって、接合時における回転治具6やピン7への負荷が大きくなって、接合速度が遅くなり、生産性が悪化することに加えて、厚肉部4a,4bを何等設けない場合に比して、接合時に発生する摩擦熱が大きくなって、熱影響部9a,9bの幅が大きくなる問題も内在している。
【0005】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、接合して得られる接合材における接合強度を高度に確保しつつ、そのような接合材の変形を効果的に抑制乃至は阻止せしめ得るAl部材の摩擦攪拌接合方法、並びにそのような摩擦攪拌接合方法に有利に用いられるAl部材を、提供することにある。また、本発明の別の課題とするところは、優れた接合強度を確保しながら、Al部材に対して一般に要求されている、軽量化を有利に図ることにある。
【0006】
【解決手段】
そして、本発明者らは、そのような課題を解決するために、更に鋭意検討を重ねた結果、先に提案した特開平10−216964号公報に開示された方法と同様に、摩擦攪拌接合によって生じる熱影響部に、厚肉部位を位置せしめるのであるが、攪拌接合部となる突合せ部側の部位を、かかる厚肉部位よりも薄肉とすると、接合して得られる接合材においては、優れた接合強度が維持されつつ、その接合方向(摩擦攪拌接合操作の進行方向)において、また、その接合方向とは直角な方向において、変形が惹起され難くなって、接合材の全体的な反り等の発生が効果的に抑制され得ることを見出したのである。
【0007】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、熱処理型Al合金からなる複数のAl部材の板状部を突き合わせ、その突合せ部に対して、回転治具の先端に同心的に設けたピンを、該回転治具と共に一体的に回転させつつ差し込み、相対的に移動させることにより、かかる突合せ部を摩擦攪拌接合するに際して、該Al部材として、前記板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の材料を用い、前記摩擦攪拌接合を該厚肉部位より薄肉の前記突合せ部側の部位において行なう一方、該摩擦攪拌接合によって生じる熱影響部が該厚肉部位に位置するようにして、かかる摩擦攪拌接合操作を進行せしめることを特徴とするAl部材の摩擦攪拌接合方法にある。
【0008】
すなわち、このような本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法によれば、Al部材として、その板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、該板状部の母材部よりも厚肉とされると共に、その厚肉とされた部位(厚肉部位)よりも突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の部材が用いられ、しかも、かかる厚肉部位に、熱影響部が位置せしめられるようにして、摩擦攪拌接合操作が行なわれているところから、接合による強度低下が、厚肉部位の形成によって、有利に抑制され得て、優れた強度を確保することが出来ると共に、摩擦攪拌接合操作によって発生する熱に基因するところの摩擦攪拌接合部における収縮挙動が、該接合部の両側に設けられたレール状乃至はリブ状の厚肉部位によって効果的に抑制乃至は阻止され得、摩擦攪拌接合操作の進行方向となる、その接合方向において、また、かかる接合方向とは直角な方向においても、変形が惹起され難くなって、接合材の全体としての反り等の発生が効果的に阻止され得ることとなるのである。
【0009】
また、かかる本発明方法にあっては、Al部材の板状部における突合せ部側の部位が、前記厚肉部位に比して薄肉とされて、その薄肉部位において摩擦攪拌接合が行なわれるようになっているところから、摩擦攪拌接合操作において回転治具やピンへの負荷が大きくならず、迅速な接合が可能となり、以て生産性を有利に高めることが出来ると共に、接合時に発生する摩擦熱が小さくなって、熱影響を少なくすることも可能となるのである。しかも、かかる厚肉部位は、突合せ部を挟んで両側に所定距離を隔ててそれぞれ設けられているところから、その突き合わせ部分全体に厚肉部位が形成された従来のものに比して、接合により発生する熱がこもり難く、放熱性に優れ、つまり、突合せ部を挟んで両側に設けられた厚肉部位が放熱フィンの如き作用を為して、熱が放出され、これによっても、熱による影響をより一層抑制することが可能となっているのである。従って、本発明に従う摩擦攪拌接合方法にてAl部材を接合すれば、熱による影響を可及的に抑制することが可能となるのであり、熱の影響を受けて、組織変化、ひいては材質変化(軟化等)が惹起せしめられる熱影響部の幅も、可及的に小さくすることが可能となり、更には、Al部材に形成せしめられる厚肉部位の幅を小さくせしめて、その軽量化を極めて効果的に達成し得るといった効果も、享受し得るのである。
【0010】
ところで、かかる本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法の好ましい態様の一つによれば、前記Al部材における厚肉部位は、予め測定された前記熱影響部における硬さ分布に基づいて、部材厚さを漸次変化せしめてなる形状とされていることが望ましい。このように、予め、摩擦攪拌接合手法にて接合せしめられたAl部材の硬さを測定して、軟化が惹起せしめられる熱影響部を把握することにより、Al部材の接合部位における軟化の程度に応じて、Al部材の厚さを適宜に変化せしめることが可能となり、以て、より一層無駄がなく、効果的に厚肉部位を形成せしめ得るようになって、本発明の目的が、より一層有利に実現され得ることとなる。
【0011】
また、本発明における好ましい態様の他の一つによれば、前記厚肉部位が、前記回転治具の差し込み側のみにおいて前記母材部から突出した突出部にて、形成されていることが望ましく、これによって、接合材の変形を、より一層有利に抑制し得るのである。
【0012】
さらに、本発明は、上述せる如き摩擦攪拌接合方法に用いられるAl部材にして、熱処理型Al合金からなると共に、相手部材に突き合わされて摩擦攪拌接合せしめられる板状部を有し、且つ該板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされている形状を有していることを特徴とするAl部材をも、その要旨とするものである。このようなAl部材を採用すれば、上述せる如き各種の効果が、有利に実現され得るのである。
【0013】
なお、かかる本発明に従うAl部材の好ましい態様の一つによれば、前記薄肉とされた部位が、前記母材部よりも厚肉とされていることが望ましい。なぜならば、摩擦攪拌接合するに際しては、高速回転せしめられている回転治具は、一般に、進行方向に後傾する形態において、相対的に移動せしめられるようになるため、接合後において、攪拌接合部の表面に、後傾した回転治具の肩部、特にエッジ部が食い込み、窪みが形成せしめられることとなり、これによって、攪拌接合部が、母材部よりも薄肉となって、継手強度が低下するといった問題が惹起される恐れがあるのであるが、前記薄肉とされた部位が、予め、母材部よりも厚肉とされておれば、そのような問題の発生が、極めて有利に抑制乃至は防止され得るようになるからである。
【0014】
【発明の実施の形態】
ところで、かくの如き本発明に従うAl(アルミニウム)部材の摩擦攪拌接合方法において、Al部材としては、時効硬化熱処理によって強度を高めることが可能な、従来より公知の熱処理型のアルミニウム合金、例えば、Al−Cu−Mg系(2000系)、Al−Mg−Si系(6000系)、Al−Zn−Mg系(7000系)等からなると共に、接合相手方の部材に突き合わされて、摩擦攪拌接合せしめられる板状部を有するものが用いられることとなる。なお、この板状部を有するAl部材の形状としては、板材に特に限定されるものではなく、公知の各種の手法にて製作された各種の形状のAl部材が何れも採用され得ることとなるが、一般に、押出形材が有利に用いられ得る。また、そのような押出形材を採用するに際しては、全体が板状の押出形材は勿論のこと、所謂、シングルスキンタイプの押出形材であっても、ダブルスキンタイプの押出形材であっても、その接合端部が板状である限りにおいて、何れをも、使用可能である。
【0015】
そして、そのようなAl部材の複数を用いて、摩擦攪拌接合を行なうために、本発明にあっては、図2に示されるように、Al部材10a,10bの板状部12a,12bに、それぞれ、かかる板状部12a,12bの本来の厚さを呈する母材部よりも所定の高さ(h,h′)だけ突出した突出部14a,14bが、突合せ部16から所定距離y,y′だけ入り込んだ位置において形成され、厚肉とされているのである。
【0016】
より具体的には、かかる突出部14a,14bは、厚肉部位を構成し、図3に示されるように、摩擦攪拌接合することにより、突合せ部16に形成される攪拌接合部18に隣接する位置に、突合せ部16乃至は攪拌接合部18に沿って、長手方向(図2中、紙面に垂直な方向)に延出するように設けられており、これによって、攪拌接合部18の周辺に生じる熱影響部20(熱の影響を受けて、母材部よりも軟化した部位)が、そのような突出部14a,14bに位置せしめられるようになっているのである。
【0017】
また、上記したAl部材10a,10bは、その板状部12a,12bの突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位において、それぞれ、内側の母材部の厚さ(t,t′)と突出高さ(h,h′)を合わせた、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)よりも所定の厚さだけ薄肉とされた薄肉部22a,22bを有するように、構成されている。
【0018】
ここにおいて、上述せる如き突出部14a,14bの高さ(h,h′)や幅(x,x′)は、使用するAl部材10a,10bの合金の種類や母材部の厚さ(t,t′)、更には接合条件[回転治具30の肩部の半径(r)等]に応じて、適宜に設定されるものであり、本発明において、特に制限されるものではないものの、接合によって得られる接合材24が、熱影響部20a,20bにおいて簡単に破断するようなことがない、充分な接合強度が得られるような突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)が選択されることとなる。
【0019】
なお、そのような突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)の設定は、予め測定された熱影響部における硬さ分布に基づいて行なわれることが望ましく、このようにして、軟化が惹起せしめられた熱影響部を把握することにより、Al部材10a,10bの軟化の程度に応じて、Al部材10a,10bの厚さ(h,h′)や幅(x,x′)を適宜に変化せしめることが可能となる。これによって、無駄な厚肉化をより一層有利に防止し得るのである。
【0020】
具体的には、図4(a)に示されるように、接合すべき板状部12a,12bと同様の合金及び、かかる板状部12a,12bと同様の厚さ(t,t′)を有する平板状のAl部材26a,26bを突き合わせて、摩擦攪拌接合を行ない、そして、接合によって得られた接合材28の硬さを、接合方向とは直角な方向に測定することにより、図4(b)に示される如き接合材28の硬さ分布が得られる。
【0021】
而して、そのような硬さ分布より、その測定された母材部の硬さと熱影響部の硬さを対比して、突出部14a,14bの突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)を設定し、母材部よりも小さな硬さとなる熱影響部に、かかる突出部14a,14bを設けるようにすればよいのである。特に、図5に示されるように、硬さ分布における熱影響部の硬さ変化に応じて、Al部材10a,10bの板状部12a,12bの厚さを、漸次変化せしめるようにすれば、軽量化を阻害する無用な厚肉化を、有利に防止し得るのである。
【0022】
一方、上述せる如き突出部14a,14bよりも突合せ部16側に位置する薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)や幅(y,y′)にあっても、本発明において、特に制限されるものではなく、接合によって得られる接合材24に充分な強度が確保され得る範囲内において、使用する回転治具30の肩部の半径(r)等の接合条件に応じて、適宜に設定されることとなるが、薄肉部22a,22bは、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉(s>t,s′>t′)とされることが望ましい。
【0023】
けだし、回転治具30が、進行方向に対して所定の角度をもって後傾する形態において、相対的に移動せしめられることによって、攪拌接合部18の表面に窪みが形成されても、攪拌接合部18の厚さが、母材部の厚さ(t,t′)よりも薄肉となるようなことが、有利に回避され得、以て、継手強度が低下するようなことが、極めて効果的に阻止され得るからである。
【0024】
ここにおいて、かかる薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)は、上述せるように、本発明に従って、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)よりも薄くされる必要があり、このように、突出部14a,14bよりも薄肉とすることによって、接合材24が歪んで、変形してしまうようなことが、中でも、接合方向における歪み(反り)が、突合せ部16の両側に設けられたレール状乃至はリブ状の突出部14a,14bの存在によって、接合部18の縮みが抑制されることにより、効果的に阻止され得るのである。
【0025】
また、突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位を薄肉とすることによって、突合せ部位全体に厚肉部位が形成された従来のものに比して、回転治具やピンへの負荷が小さくなり、接合速度を高めて、生産性の向上を図ることが可能となると共に、接合時に発生する摩擦熱も小さくなることに加えて、突合せ部16を挟んで両側に設けられた突出部14a,14bが、放熱フィンの如く作用して、接合により発生する熱が、放出され易くなり、熱による影響を可及的に抑えられ得るようになっているのである。このため、熱の影響を受けて、組織変化、ひいては材質変化(軟化等)が惹起せしめられる熱影響部の幅(大きさ)も、効果的に小ならしめられ得るのである。
【0026】
これに対し、薄肉部22a,22bの厚さ(s,s′)が、突出部14a,14bの厚さ(t+h、t′+h′)と同じか、或るはそれ以上になると、接合材24に歪みが発生し易くなって、反り等の変形が惹起され易くなることに加えて、摩擦攪拌接合のための回転治具30やピン32の高速回転に対する抵抗が大きくなり、大きな負荷を生じて、接合速度が遅くなると共に、接合時に発生する摩擦熱が大きくなって、熱影響部が大きくなり、更なる重量増加を招来することとなる。
【0027】
ところで、上述せる如き形状のAl部材10a,10bを摩擦攪拌接合する際に用いられる回転治具30としては、軸回りに回転せしめられるロッド状本体の先端部に、所定高さを有するピン32が同心的に設けられている、従来と同様なものが使用され、また、接合されるべきAl部材10a,10bの板状部12a,12bの材質よりも硬い材料にて形成されており、そのため、それら回転治具30やピン32が高速回転せしめられて、二つのAl部材10a,10bの突合せ部16に差し込まれたり、薄肉部22a,22bの上面に回転治具30の先端部たる肩部(ショルダ部)が接触せしめられても、殆ど損耗することのない非消費型の部材とされているのである。なお、これら回転治具30やピン32の軸心回りの高速回転は、回転治具30の基部側において、図示しない、従来と同様な回転駆動装置に取り付けられていることによって、容易に実現され得るようになっているのである。
【0028】
そして、本発明に従って、上述せる如き形状のAl部材10a,10bを摩擦攪拌接合して、目的とする接合製品を形成せしめるに際しては、先ず、図2に示されるように、薄肉部22a,22bを突き合わせた状態下で、それら二つのAl部材10a,10bが長手方向(接合方向)及び幅方向に相対的に移動することがないように、常法に従って拘束し、位置固定に保持せしめる一方、回転治具30をピン32と一体的に高速回転させて、突き合わされた薄肉部22a,22bの突合せ部16に向かって、移動させることにより、かかる突合せ部16に、該回転治具30のピン32を押し付けて、回転治具30の肩部が薄肉部22a,22bの上面に当接するまで、該ピン32を突合せ部16に差し込むようにするのである。これにより、突合せ部16とピン32及び回転治具30の肩部32との接触面において摩擦熱を発生させて、その周囲を可塑化せしめると共に、ピン32の高速回転に伴う攪拌作用にて、両側の薄肉部22a,22bのそれぞれの端部部位の組織を入り交じり合わせ、更に、かかる回転治具30及びピン32を突合せ部16に沿って、つまり、図2の紙面に対して垂直な方向に、相対的に移動せしめることにより、二つのAl部材10a,10bを、その突合せ部16において、摩擦攪拌接合せしめるのである。
【0029】
而して、上述せる如くして、摩擦攪拌接合操作が行なわれることにより、二つのAl部材10a,10bの突合せ部16には、図3に示されるように、それら二つのAl部材10a,10bに跨る攪拌接合部18が、長手方向に、連続的に延びるように形成されることとなるのである。また、摩擦攪拌接合による熱影響部(軟化部)20a,20bも、それぞれの突出部14a,14bの形成領域内に存在せしめられるのである。
【0030】
このように、本実施形態では、突合せ部16を、ピン32が設けられた回転治具30にて摩擦攪拌接合せしめる際において、Al部材10a,10bとして、板状部12a,12bの突合せ部16に形成される攪拌接合部18に隣接、位置する部位に、それぞれ、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉とされた突出部14a,14bが設けられ、且つ、かかる突出部14a,14bよりも突合せ部16側の部位が、それぞれ、突出部14a,14bよりも薄肉とされている形状の材料が用いられて、接合が実施されているところから、破断の惹起され易い熱影響部20a,20bは、それぞれ、厚肉部たる突出部14a,14bに位置せしめられて、破断強度の低下が有利に抑制されると共に、接合材の変形が効果的に抑制され、以て、優れた継手効率を実現し、且つ反りの少ない接合製品を、極めて有利に得ることが出来るのである。
【0031】
かくして、上述せるようにして、複数のAl部材が接合されて得られた接合製品は、近年における軽量化や大型化を図るべく、船舶や車両、航空機等の殻やフロア、建材、熱交換器、アンテナ、自動車部品、橋架等に、有利に用いられることとなる。
【0032】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0033】
例えば、上記の実施形態では、接合せしめられるAl部材10a,10bとして、母材厚さ(t,t′)や突出高さ(h,h′)、突出の幅(x,x′)、薄肉部の厚さ(s,s′)、薄肉部の幅(y,y′)が、それぞれ、同一であるものが用いられていたが、それらは、必ずしも同じである必要はない。例えば、互いに突き合わされるAl部材同士の材質(合金の種類)が異なるような場合等には、熱影響部の形成領域や、軟化の程度も異なるところから、所望とする接合強度が得られるように、突出高さ:h及びh′、突出の幅:x及びx′、薄肉部の厚さ:s及びs′等が、それぞれ、別個に設定されることとなる。
【0034】
また、上例では、回転治具30に一体的に取り付けられたピン32が、突出部14a,14bが形成された側から、突合せ部16に差し込まれていたが、図6に示されるように、突出部14a,14bが形成されていない面の側から、回転治具30に設けられたピン32を、差し込んで、接合するようにしても良い。
【0035】
さらに、例示の実施形態において、Al部材10a,10bの板状部12a,12bの下面、換言すれば、回転治具30が位置せしめられる側とは反対側の面が面一とされて、突出部14a,14bが、一方の側の面のみに突出するように設けられていたが、図7にも示される如く、両側の面に、突出部を設けることも可能である。
【0036】
また、突出部14a,14bは、母材部の厚さ(t,t′)よりも厚肉とされておれば、その形状は、特に制限されるものではなく、図2に示されるような台形断面形状の他にも、矩形断面形状、円形断面形状、楕円形断面形状等の各種の形状であっても何等差支えないのであるが、上述せるように、硬さ分布に基づいて、部材厚さが漸次変化されてなる形状を有するものが、より好適に採用され得る。
【0037】
さらに、上述せる如き突出部14a,14bは、接合後において、面削等によって取り除かれても良いのであるが、面削を実施しない場合等には、板状部12a,12bの上面と突出部14a,14bの側面とで形成される角部で、疲労亀裂が起こり易くなる恐れがあるところから、図8に示されるように、かかる角部の曲率半径が、3mm以上となるようにされることが望ましい。
【0038】
加えて、上例では、突出部14a,14bを設けるに際して、接合すべき板状部12a,12bと同様の合金及び、かかる板状部12a,12bと同様の厚さ(t,t′)を有する平板状のAl部材26a,26bを摩擦攪拌接合して得られた接合材28の硬さ分布から、突出部14a,14bの突出高さ(h,h′)や幅(x,x′)を設定する方法を一例として述べたが、このような設定を繰返し、突出部の寸法を微調整することによって、より一層無駄な厚肉化のない接合製品が得られることは、勿論、言うまでもないところである。
【0039】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0040】
【実施例】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0041】
実施例 1
接合せしめられるAl部材として、図2に示される如き形状の突出部14a(14b)を有する、幅:200mm×長さ:3000mmのAl板材(6N01−T5材)の2枚を、準備した。なお、かかるAl板材は、板厚(母材部厚さ:t):4mm、突出部14aの厚さ(h+t):6mm、突出部14aの幅(x):16mm、薄肉部22aの厚さ(s):4.5mm、薄肉部22aの幅(y):9mmであった。
【0042】
比較例 1
接合せしめられるAl部材として、厚さ:4mm×幅:200mm×長さ:3000mmの、厚肉部が何等設けられていない平板状のAl板材(6N01−T5材)を、2枚準備した。
【0043】
比較例 2
接合せしめられるAl部材として、図1の(a)に示される如き形状の厚肉部4aを有する、幅:200mm×長さ:3000mmの、Al板材(6N01−T5材)2aを、2枚準備した。なお、かかるAl板材は、板厚(母材部厚さ):4mm、厚肉部4aの厚さ:6mm、厚肉部4aの幅(w):25mmであった。
【0044】
次いで、かかる実施例1や比較例1,2で準備されたAl板材同士を、それぞれ、幅方向に突き合わせた後、その突き合わせた二つのAl板材が突合せ部において相対的に移動しないように拘束し、図2や図1(a)に示される如き形態において、先端にピンが設けられた回転治具を高速回転させつつ、かかる回転治具のピンを、二つのAl板材の突合せ部に差し込んで、そして、その突合せ部に沿って移動せしめることにより、摩擦攪拌接合を行なった。
【0045】
なお、何れの摩擦撹拌接合にも、回転治具として、ピン直径:4mm、ピン高さ:3.5mmのピンが同心的に設けられた、回転治具肩径:16mmであるものを用いると共に、回転数:1500rpm、及び、回転治具が進行方向において後傾する傾斜角度:3°の条件を採用した。また、接合時の移動速度(接合速度)は、下記表1に示されるように、500mm/分(実施例1,比較例1)、300mm/分(比較例2)であった。
【0046】
そして、上述せる如くして得られた実施例1及び比較例1,2に係る接合材について、それぞれ、JIS−Z3121−1961の「3.溶接継手の引張試験方法」に準拠して、軸方向に引張することにより、引張試験を実施し、得られた継手強度を、下記表1に併せ示した。なお、厚さ:4mmの平板状のAl板材(6N01−T5材)について、同様の引張試験を実施することにより、実施例1及び比較例1,2に係る接合材における母材部の引張強度を求めたところ、250MPaであった。
【0047】
また、図9に示される如き、得られた実施例1及び比較例1,2に係る接合材の長手方向(接合方向)の最大の歪み(反り):uを、それぞれ測定し、その結果を下記表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従う実施例1において得られた接合材にあっては、突合せ部の両側に設けられた突出部によって、その接合部の強度が、母材の92%以上、つまり、継手効率が92%以上となっており、優れた強度が確保されていると共に、接合材の歪み(反り)も極めて小さくなっているのである。
【0050】
これに対して、接合端部が何等厚肉化されていない比較例1にあっては、接合部の継手強度が低く、また、突合せ部位全体に厚肉部が形成された比較例2にあっては、優れた継手強度が得られているものの、接合部の厚肉化によって、接合速度が遅くなると共に、歪みが大きくなっていることが分かる。
【0051】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従うAl部材の摩擦攪拌接合方法にあっては、Al部材として、突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、母材部よりも厚肉とされると共に、その厚肉とされた部位(厚肉部位)よりも突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の板状部を有する部材が用いられ、しかも、かかる厚肉部位に、熱影響部が位置せしめられるようにして、摩擦攪拌接合操作が行なわれているところから、接合による強度低下が、厚肉部位の形成によって有利に抑制され、優れた強度を確保することが出来ると共に、攪拌接合部の両側に位置する厚肉部位の存在によって、摩擦攪拌接合操作によって発生する熱に基因するところの反り等の変形が極めて効果的に阻止され得るのである。
【0052】
また、Al部材の板状部における突合せ部側の部位が、厚肉部位に比して薄肉とされているところから、摩擦攪拌接合操作において回転治具やピンへの負荷が大きくならず、以て、摩擦攪拌接合において発生する熱も少なくなって、それによる悪影響が有利に回避され得ると共に、迅速な接合が可能となり、生産性を有利に高めることが出来る。
【0053】
加えて、突合せ部の両側に設けられた厚肉部位により、接合時に発生する摩擦熱が放熱され得るところから、これによっても、熱による影響がより一層抑えられ、熱影響部の幅も可及的に小さくすることが可能となる。このため、Al部材に形成される厚肉部位の幅を小さくせしめ得て、Al部材の軽量化をも効果的に実現し得るのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】先に提案したAl部材の摩擦攪拌接合方法を示す断面説明図であって、(a)は、接合前の状態を示し、(b)は、接合された後の状態を示している。
【図2】本発明手法に従って、突き合わされたAl部材を摩擦撹拌接合する工程の一例を示す断面説明図である。
【図3】本発明に従って、摩擦攪拌接合を施したAl部材の断面説明図であって、図2に対応する説明図である。
【図4】本発明に従うAl部材の形状を決定する方法の具体的な一例を示す説明図であって、(a)は、摩擦攪拌接合が施された平板状のAl部材の断面説明図を示し、(b)は、(a)の硬さ分布を示すグラフである。
【図5】本発明に従うAl部材の別の具体例を示す断面説明図である。
【図6】本発明手法に従って、突き合わされたAl部材を摩擦撹拌接合する工程の他の一例を示す断面説明図である。
【図7】本発明に従うAl部材の更に別の具体例を示す断面説明図である。
【図8】本発明に従うAl部材における厚肉部位の好ましい形態を示す部分拡大説明図である。
【図9】実施例において測定される歪み(反り)を示す説明図である。
【符号の説明】
10a,10b Al部材 12a,12b 板状部
14a,14b,34a,34b 突出部(厚肉部位)
16 突合せ部 18 攪拌接合部
20a,20b 熱影響部(軟化部)
22a,22b 薄肉部 24 接合材
30 回転治具 32 ピン
Claims (5)
- 熱処理型Al合金からなる複数のAl部材の板状部を突き合わせ、その突合せ部に対して、回転治具の先端に同心的に設けたピンを、該回転治具と共に一体的に回転させつつ差し込み、相対的に移動させることにより、かかる突合せ部を摩擦攪拌接合するに際して、
該Al部材として、前記板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされた形状の材料を用い、前記摩擦攪拌接合を該厚肉部位より薄肉の前記突合せ部側の部位において行なう一方、該摩擦攪拌接合によって生じる熱影響部が該厚肉部位に位置するようにして、かかる摩擦攪拌接合操作を進行せしめることを特徴とするAl部材の摩擦攪拌接合方法。 - 前記Al部材における厚肉部位が、予め測定された前記熱影響部における硬さ分布に基づいて、部材厚さを漸次変化せしめてなる形状とされている請求項1に記載のAl部材の摩擦攪拌接合方法。
- 前記厚肉部位が、前記回転治具の差し込み側のみにおいて前記母材部から突出した突出部にて、形成されている請求項1又は請求項2に記載のAl部材の摩擦攪拌接合方法。
- 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の摩擦攪拌接合方法に用いられるAl部材にして、
熱処理型Al合金からなると共に、相手部材に突き合わされて摩擦攪拌接合せしめられる板状部を有し、且つ該板状部の突合せ部に形成される攪拌接合部に隣接、位置する部位が、該板状部の母材部よりも厚肉とされていると共に、該厚肉とされた部位よりも前記突合せ部側の部位が、該厚肉部位よりも薄肉とされている形状を有していることを特徴とするAl部材。 - 前記薄肉とされた部位が、前記母材部よりも厚肉とされている請求項4に記載のAl部材。
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