JP2004035988A - 塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材 - Google Patents
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Abstract
【課題】Cr等の有害重金属を含まず、強い加工を行った時においてもアルミニウム表面と樹脂塗装との密着性に優れ、また樹脂皮膜を塗装することにより耐酸溶出性を改善し、かつ低コストで製造できる缶用のアルミニウム蓋材の提供。
【解決手段】化成皮膜層として熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、その皮膜の量が2〜50mg/m2かつその最表面では主要金属成分よりCが多く、さらに主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なく、Mg濃度が15mass%以下の皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材。
【選択図】 図1
【解決手段】化成皮膜層として熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、その皮膜の量が2〜50mg/m2かつその最表面では主要金属成分よりCが多く、さらに主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なく、Mg濃度が15mass%以下の皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、飲料缶や食缶の缶蓋用アルミニウム塗装下地処理材および缶蓋用アルミニウム塗装材に関する。特に、ノンクロム液により化成下地処理を行い、さらに樹脂皮膜を塗装した缶蓋用アルミニウム塗装材に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム材は華麗な金属光沢、軽量、適度な機械的特性を有する金属材で、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種包装材、容器類、車両、構造材等に広く使われている。例えば、食品等の容器は、アルミニウム材の優れた成形加工性を利用して、そのままアルミニウム箔としてあるいは樹脂塗装を行った後絞り加工する方法等により成形されている。
樹脂塗装を行う場合、絞り加工等の成形加工を受けてもアルミニウム表面と樹脂塗装との間の密着性を確保するために、アルミニウム表面に密着性向上効果の大きい下地皮膜を予め形成しておくことが一般的に行われている。この際、樹脂塗装にキズ等の欠陥があった場合ににおいても、下地皮膜は酸性溶液(飲料や食物は酸性のことが多い)に対し溶出しないことが求められる。
【0003】
このため従来は、リン酸、クロム酸およびフッ酸を主成分とする化成処理液でアルミニウム材を処理するクロメート処理が施されてきた。例えば特開平3−177580号には、下地皮膜としてCr付着量7〜25mg/m2なるリン酸クロメート皮膜層を設けたアルミニウム樹脂塗装材が提案されている。このようなクロメート処理は、製造工程管理が容易でコストが安く、耐酸性に優れたリン酸クロメート下地皮膜を容易に形成することができるため、広く用いられてきた。
【0004】
近年、環境汚染、環境破壊、健康等に対する安全性、エネルギー需給等への関心が急激に高まっている。
アルミニウム製品表面に形成されたリン酸クロメート皮膜からは、有害な6価クロム等が溶出することは無く、リン酸クロメート皮膜自体が環境汚染や健康被害をまねくことは無いとされている。しかし、リン酸クロメート皮膜製造工程では、無水クロム酸等の有害な6価クロムを含有する化成液を使っており、化成液廃液およびリンス工程で発生する6価クロムを含有する排水等を処理し、無害化しなければならない。このような処理には多大な工数、エネルギーおよび高価な廃液処理設備等を必要とするため、製品のコストアップが避けられない。近年は6価クロムなど有害物質に対する規制が益々強化される方向にあり、廃液処理に必要とするコストは従来以上に高まる傾向にある。
【0005】
このような問題を回避するために、Cr等の有害な金属イオンを含まない化成処理液を塗布またはスプレー等でアルミニウム材表面に付着させた、いわゆるノンクロメート皮膜と言われる下地処理アルミニウム材が提案されている。
特開平10−317162号にはリン酸またはその塩、ジルコニウム塩、フッ化物、亜リン酸またはその塩、硝酸またはその塩を含む表面処理浴で処理する方法、特公平7−84665号にはリン酸イオン、アルミニウムキレート化剤および界面活性剤を含むアルカリ脱脂剤で洗浄処理後、ジルコニウムイオン、リン酸イオンおよびフッ素イオンを含む化成処理剤で処理し、ジルコニウムを含む下地処理皮膜を形成する方法、あるいはさらにバナジウムイオンを含む化成処理液で処理して、ジルコニウムおよびバナジウムを含む下地処理皮膜を形成する方法、また特開平7−310189号にはリン酸イオン、ジルコニウム化合物、フッ化物および酸化剤を含む処理液で処理する方法等が開示されている。
【0006】
これらの下地処理液は有害な6価クロムを含まないことから、廃液による環境汚染や健康被害といった問題はほぼ回避されている。しかしこれらから得られた化成皮膜は、成形加工後における塗膜密着性や内容物充填後のレトルト処理といった苛酷な条件下での耐食性、塗料に対する密着性が劣るという欠点を有し、また酸性溶液に対する金属成分の溶出性に問題を残しており、リン酸クロメート皮膜の性能レベルに達していない。
【0007】
このような性能上の問題を解決するために、特開平7−331276号にはリン酸イオン、ジルコニウム化合物またはチタン化合物、フッ化物および水溶性ポリアミドを含有する処理液で処理する方法、特開平11−115098にはリン酸イオン、縮合リン酸イオンおよびフェノール系水溶性重合体からなる表面被覆層を設ける方法等、いわゆる有機−無機複合タイプの化成処理剤が、また特開平10−46101号にはフェノール、ナフトールまたはビスフェノール−ホルムアルデヒド樹脂からなる被覆層を設けるといった有機皮膜タイプの下地処理層を設ける方法が開示されている。
【0008】
また耐食性の改善および塗膜密着性の向上を目的として、ZrまたはTiの有機酸塩もしくは無機酸塩、水溶性樹脂類をそれぞれ適量宛含有した処理剤が使用された提案がなされている。例えば、特開平9−0314404号公報においては、1〜100重量部のリン酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子の重量に換算して1〜50重量部のジルコニウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子重量に換算して1〜200重量部のフッ化物と1〜200重量部の下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
[但し、式(1)において、nは平均重合度2〜50を表し、Xは水素原子、C1〜C5アルキル基、またはC1〜C5ヒドロキシアルキル基を表し、Yは水素原子または下記式(2)または(3)で表されるZ基
【化2】
【化3】
をあらわし、R1、R2およびR3 は、それぞれ他から独立にC1〜C10アルキル基またはC1〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、個々のベンゼン環に結合している前記Z基の数の平均値が0.2〜1.0である。]
により表される水溶性重合体からなる樹脂とを含有することを特徴とするアルミニウム含有金属材料表面処理組成物が開示されている。
【0011】
これらによれば加工後の塗膜密着性は高まり、酸性溶液に対する耐溶出性も向上するなど性能上の向上が認められる場合がある。しかし、下地処理皮膜中に樹脂を含むため、下地処理皮膜上に塗布する樹脂の種類によっては絞り加工やしごき加工のごとき通常の加工に対しては対応できるが、缶蓋材などにおけるリベット加工、缶蓋の円周部におけるカウンターシンク部、缶蓋と缶ボディーの連結部のカーリング部の如き強加工に対しては不十分となり、所定の性能が出ない等の不具合が起こることがある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような事情から、Cr等の有害重金属を含んではならず、リベット加工などを必要とする強い加工を行った時においてもアルミニウム表面と樹脂塗装との間の密着性に優れているだけでなく、また化成皮膜上に樹脂皮膜を塗装することにより化成皮膜に傷などの故障があったときにも耐酸溶出性を大きく改善でき、なおかつ低コストで製造できる飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材の開発が強く求められていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、
[1] 熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とする化成皮膜において、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
【0014】
[2] 化成皮膜層として熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、その皮膜の量が2〜50mg/m2かつその最表面では主要金属成分よりCが多く、さらに主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なく、Mg濃度が15mass%以下の皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
【0015】
[3] 化成皮膜の最表面におけるC濃度が50mass%以下である上記[1]または[2]に記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
[4] アルミニウム下地処理材の表面に、エポキシ、ポリエステル、塩ビの少なくとも1種を含む樹脂皮膜を設けた上記[1]〜[3]のいずれかに記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム塗装材、
【0016】
[5] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設け、次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法、
[6] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とする上記[4]に記載のアルミニウム下地処理材の製造方法、および
【0017】
[7] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施し、続いて化成皮膜上に樹脂塗膜を形成することを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法、を開発することにより上記の課題を解決した。
【0018】
【発明の実施の形態】
即ち、本発明は主要化成金属成分(Zr、Ti)、MgおよびCの、深さ方向における濃度の位置関係を規定し、また皮膜量を決定したことにより、加工時の塗膜密着性が向上した。また最表面のCを50mass%とすることにより水性塗料に対する不具合も同時に解消できた。本発明は上記主要金属成分、MgおよびCの位置関係、濃度関係を確保するために前処理のアルカリ脱脂処理・酸洗の方法が大きく影響することを解明することにより本発明を達成できた。
【0019】
本発明に使用する缶用塗装材の母材としては、機械的強度、加工性を満足させるために2〜5mass%程度のMgを添加したアルミニウム合金(JIS−5021、5052、5082、5182等)が使われている。そしてこれらの材料は、加熱−圧延時にアルミニウム材マトリクス中のMgが材料の表面に偏析濃化することが知られている。
【0020】
このようなアルミニウム表面に、先述したノンクロメート化成皮膜を設けた場合、その構造は確認されていないがアルミニウム素地と化成皮膜の界面にフッ化物、オキシ水酸化アルミニウム層が存在し、その上にZrまたはTiといった重金属のリン酸塩、水酸化物、酸化物を主体とする化成皮膜層が形成されているといったモデルで説明されていた。
【0021】
この際、表面に偏析していたMgは、大部分は前処理および化成処理にて除去されるが、一部は化成皮膜中に取り込まれるとされていた。そして、取り込まれたMgが塗膜の密着性等に悪影響を及ぼすことが、従来から漠然と指摘されてきた。
また、樹脂成分が加えられた化成皮膜の場合、樹脂成分はその最表面からアルミニウム素地まで一様に分布しているとされてはいるが、その分布状態に関する検討は殆どなされてこなかった。
【0022】
発明者らは、GDS(グロー放電発光スペクトル)、AES(オージェ電子分光法)といった解析機器を用い、化成皮膜の深さ方向の元素分布、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調べた。
なお、この際に測定対象とした元素は、H,C,O,Mg,Al,Mn,Si,Fe,Zn,CrおよびZrである。以後、元素のmass%は、この11元素を母集団として議論するが、これらはアルミニウム材表面のほとんど全てを網羅していると考えられるため、議論の一般性を何ら損なうものではない。
【0023】
その結果、主要化成金属成分(ZrまたはTi)とMgは化成皮膜全体に均一に存在するわけではなく、図1に示されるように最表面よりそれぞれ異なるやや深い位置に濃度のピークを示すこと、またそれらは必ずしも明確な層を形成せず、いわば濃度勾配を有して分布していることを確認した。さらに、樹脂成分に由来するC(本発明において化成皮膜中の樹脂成分は「C」として計算される。但し如何なる形で含まれるかは不明。)は、皮膜最表面で最大値を示し、深くなるに従って減少することも確認した。
【0024】
この時、化成皮膜の最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分は好ましくは2〜50mg/m2、より好ましくは2〜10mg/m2であって、これよりCが少なく、かつMg濃度が15mass%以下である時、塗料とアルミニウム材との塗膜密着性が十分高く、また酸に対する皮膜ダメージの度合いが十分低いのに対し、これらの一つでも満足しないと、缶蓋のリベット加工部に代表される強い加工後の塗膜密着性が著しく低下し、また酸に対する皮膜ダメージも急増することを見出した。本発明の下地処理材は当然のことながら絞りやしごきなど通常の加工には十分適用可能である。
【0025】
その理由は、次のように考えられる。
即ち、樹脂成分は缶蓋のリベット加工部に代表される強い加工に対する塗膜密着性に、主要化成金属成分は通常の塗膜密着性および耐酸性に、それぞれ主に寄与している。塗装板が強い加工を受けると、塗膜/化成皮膜界面、すなわち化成皮膜の最表面に強い応力がかかる。従って、化成皮膜の最表面において主要たるべき成分は、柔軟で加工への追従性が高い樹脂成分が好ましい。一方で、主要化成金属成分(ZnまたはTiのリン酸塩,水酸化物および酸化物等)の濃度ピーク付近の領域において樹脂成分やMg化合物が多く存在すると、主要化成金属成分による塗膜密着性および耐酸性は大きく損なわれる。従って、この領域において樹脂成分は主要化成金属成分より少なくなければならない。なお、Mgに関しては、混入濃度が15mass%以下であれば、周辺の他の無機成分(酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等)がMgの悪影響を緩和するので、樹脂成分のように必ずしも主要化成金属成分の濃度を下回る必要はない。
【0026】
さらに発明者らは、Cの定量的な検討を行った。その結果、化成皮膜の最表面のC濃度を制御することにより、化成皮膜と塗膜樹脂との相性問題を回避できることを見出した。すなわち、化成皮膜最表面のC濃度を50mass%以下に制限すると、化成皮膜中の樹脂成分と塗膜樹脂とのマッチングが不適切な場合でも、他の元素(Al,ZrまたはTi,O等)による塗工性向上の効果が強いため、塗工時ハジキや密着不良等の不具合が発生しない。一方、最表面のC濃度が50mass%を超えると、化成皮膜中の樹脂成分と塗膜樹脂とのマッチングが適切な場合は問題ないが、不適切な場合にはその影響がより顕著に現れるために、塗工時ハジキや密着不良等の不具合が発生しやすい。
【0027】
そして、この化成皮膜層の厚みは2〜50mg/m2好ましくは5〜40mg/m2が良い。2mg/m2以下では、主要化成金属成分の絶対量が不足するために皮膜を設けた効果が認められず、塗膜密着性や耐酸性の向上が得られない。一方、50mg/m2を超えると、化成皮膜を形成するために化成処理液を多く必要とするためコストアップになるだけでなく、製品の化成皮膜中の主要化成金属成分が多すぎるためにそれらが溶出し、内容物を汚染する恐れがある。
【0028】
なお、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、熱可塑性または熱硬化性樹脂を含む化成皮膜を得るためには、化成処理液に接触させて化学反応により皮膜を形成する「反応型」と、化成処理液を塗布し乾燥させて化成皮膜を形成する「塗布型」の両者が知られているが、本発明はそのどちらに対しても高い効果を発揮するものである。なお反応型はコーターロール、乾燥炉などが不要であるのに対し、塗布型は理論上は廃液処理設備が不要となる利点があるので、工場の立地や付属設備によりその適応性は異なってくる。
【0029】
ところで、請求項1を満たす化成皮膜を得るには、一例として、エッチング量が50〜1000mg/m2,好ましくは100〜700mg/m2のアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下、好ましくはpH約1程度かつMgイオン濃度が1mass%以下、好ましくは少ない程良いが、0.5mass%以下の酸(コスト面から希硫酸が使いやすい)にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の化成皮膜処理液で処理する方法を挙げることができる。
アルカリ脱脂によるエッチング量が50mg/m2未満では均質な化成皮膜が形成されず、1000mg/m2を超えるとアルミニウム板厚の精度に悪影響を及ぼす。また酸洗はMgの低減に寄与するが、pHが4.0を超えると効果が半減し、さらに浴中のMgイオン濃度が1mass%を超えると、Mgが化成皮膜中に取り込まれ、濃縮するので好ましくない。
【0030】
また、請求項2を満足させるためには、さらにアルカリ脱脂浴および酸洗浴の油汚染を3mass%以下に制御すればよい。これは、いずれの浴も化成皮膜最表面のCに影響を及ぼすためであり、油汚染が3mass%を超えると、必要とされる熱可塑性または熱硬化性樹脂以外のCが急激に増加するため好ましくない。もちろん、これ以外の方法で得られた化成皮膜でも、請求項1または2さえ満たしていれば、本発明の好ましい効果を享受できるのは当然である。
【0031】
以上の条件を満たす化成皮膜の上に、エポキシ、エポキシ・アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ・尿素樹脂、エポキシ・フェノール樹脂等の少なくとも1種を含む樹脂皮膜を上塗りすると、リベット加工部に代表される強い加工が行われる部分の塗膜密着性に優れ、高い耐酸溶出性を有し、さらに塗装ハジキによる品質不良を低減させた飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材を得ることができる。
【0032】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
以下、実験例1〜4及び比較例1〜5に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。アルミニウム材は全てJIS 5182合金(板厚0.26mm)を用いた。
[前処理]
a.アルカリ脱脂
日本ペイント(株)社製「SC420N−2(濃度2%、pH=12.5)」
浴温70℃、スプレー処理(圧力1.5kgf/cm2)×n秒
b.アルカリ脱脂(油)
日本ペイント(株)社製「SC420N−2(濃度2%、pH=12.5)」冷間圧延油[AL−41」添加(50g/1リットル)、浴温70℃、スプレー処理(圧力1.5kgf/cm2)×n秒
c.酸洗
1%硫酸、浴温50℃、浸漬処理×5秒
d.酸洗(比較例1)
1%硫酸、酸化マグネシウム添加(20g/1リットル)、浴温50℃、浸漬時間5秒
e.酸洗
1%硫酸、冷間圧延油[AL−41」添加(50g/1リットル)、浴温50℃、浸漬処理×5秒
【0033】
前処理の結果を表1に示す。
【表1】
【0034】
[化成処理/塗装]
a.反応型Zr
リン酸Zr+フェノール樹脂(平均分子量約3万)タイプ、浴温45℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
b.塗布型Zr
フッ化Zr酸+アクリル樹脂(平均分子量約5万)タイプ、乾燥温度180℃c.反応型Ti
フッ化Ti酸+フェノール樹脂(平均分子量約3万)タイプ、浴温45℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
d.リン酸クロメート
日本ペイントSCL408/48、浴温40℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
e.水性エポキシ・アクリル塗料
塗装量7g/m2,焼付温度250℃×24秒
f.溶剤エポキシ・フェノール塗料
塗装量7g/m2,焼付温度250℃×24秒
【0035】
結果を表2に示す。
【表2】
【0036】
[皮膜構成]
得られた皮膜の構成を表3に示す。
【表3】
【0037】
上記表3の結果を説明する。
実施例1〜4は問題ないが、比較例1〜5は次のような問題があった。
a.比較例1:酸洗不良のため、Mgが効果的に除去されていない。
b.比較例2:Zrが少ないため、Zrの最大濃度位置においてCとZrの位置関係が逆転。
c.比較例3:Zrが多いため、最表層においてCとZrの位置関係が逆転。
d.比較例4:エッチング不足のため、アルミニウム酸化膜残存の影響を受け、Zrの最大濃度位置においてCとZrの位置関係が逆転
e.比較例5:リン酸クロメートであるので性能的には十分である。
【0038】
【表4】
【0039】
これらのサンプルは、以下のような評価試験を実施した。
[塗料ハジキ] 塗料焼付後、塗料ハジキに由来する塗装ヌケの個数を計数する。
[レトルト密着性試験] 加圧滅菌装置により、試験片を水道水中にて125℃×30分保持した後、JIS−K5400に準拠した1mm角碁盤目試験を行う。
[30%圧延密着性試験] 圧延機により、30%の板厚減少となるまで圧延加工した後、JIS−K5400に準拠した1mm角碁盤目試験を行う。
[リベット部耐食性試験] 飲料缶蓋成形機(コンバージョンプレス)によりリベット成形したサンプルを、1.0mass%クエン酸一水和物+0.5mass%塩化ナトリウムの水溶液に70℃×72時間浸漬し、腐食の発生度合いを評価する。(◎:腐食なし,○:リベット周辺に1mm以下の腐食,△:リベット周辺に1〜2mmの腐食,△×:リベット周辺に2〜5mmの腐食,×:リベット周辺に5mm以上の腐食)
【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、Cr等の有害重金属を含まない、低コストの飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルミニウム下地材表面における主要金属成分濃度及び炭素濃度の変化状態を示す。
【産業上の利用分野】
本発明は、飲料缶や食缶の缶蓋用アルミニウム塗装下地処理材および缶蓋用アルミニウム塗装材に関する。特に、ノンクロム液により化成下地処理を行い、さらに樹脂皮膜を塗装した缶蓋用アルミニウム塗装材に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム材は華麗な金属光沢、軽量、適度な機械的特性を有する金属材で、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種包装材、容器類、車両、構造材等に広く使われている。例えば、食品等の容器は、アルミニウム材の優れた成形加工性を利用して、そのままアルミニウム箔としてあるいは樹脂塗装を行った後絞り加工する方法等により成形されている。
樹脂塗装を行う場合、絞り加工等の成形加工を受けてもアルミニウム表面と樹脂塗装との間の密着性を確保するために、アルミニウム表面に密着性向上効果の大きい下地皮膜を予め形成しておくことが一般的に行われている。この際、樹脂塗装にキズ等の欠陥があった場合ににおいても、下地皮膜は酸性溶液(飲料や食物は酸性のことが多い)に対し溶出しないことが求められる。
【0003】
このため従来は、リン酸、クロム酸およびフッ酸を主成分とする化成処理液でアルミニウム材を処理するクロメート処理が施されてきた。例えば特開平3−177580号には、下地皮膜としてCr付着量7〜25mg/m2なるリン酸クロメート皮膜層を設けたアルミニウム樹脂塗装材が提案されている。このようなクロメート処理は、製造工程管理が容易でコストが安く、耐酸性に優れたリン酸クロメート下地皮膜を容易に形成することができるため、広く用いられてきた。
【0004】
近年、環境汚染、環境破壊、健康等に対する安全性、エネルギー需給等への関心が急激に高まっている。
アルミニウム製品表面に形成されたリン酸クロメート皮膜からは、有害な6価クロム等が溶出することは無く、リン酸クロメート皮膜自体が環境汚染や健康被害をまねくことは無いとされている。しかし、リン酸クロメート皮膜製造工程では、無水クロム酸等の有害な6価クロムを含有する化成液を使っており、化成液廃液およびリンス工程で発生する6価クロムを含有する排水等を処理し、無害化しなければならない。このような処理には多大な工数、エネルギーおよび高価な廃液処理設備等を必要とするため、製品のコストアップが避けられない。近年は6価クロムなど有害物質に対する規制が益々強化される方向にあり、廃液処理に必要とするコストは従来以上に高まる傾向にある。
【0005】
このような問題を回避するために、Cr等の有害な金属イオンを含まない化成処理液を塗布またはスプレー等でアルミニウム材表面に付着させた、いわゆるノンクロメート皮膜と言われる下地処理アルミニウム材が提案されている。
特開平10−317162号にはリン酸またはその塩、ジルコニウム塩、フッ化物、亜リン酸またはその塩、硝酸またはその塩を含む表面処理浴で処理する方法、特公平7−84665号にはリン酸イオン、アルミニウムキレート化剤および界面活性剤を含むアルカリ脱脂剤で洗浄処理後、ジルコニウムイオン、リン酸イオンおよびフッ素イオンを含む化成処理剤で処理し、ジルコニウムを含む下地処理皮膜を形成する方法、あるいはさらにバナジウムイオンを含む化成処理液で処理して、ジルコニウムおよびバナジウムを含む下地処理皮膜を形成する方法、また特開平7−310189号にはリン酸イオン、ジルコニウム化合物、フッ化物および酸化剤を含む処理液で処理する方法等が開示されている。
【0006】
これらの下地処理液は有害な6価クロムを含まないことから、廃液による環境汚染や健康被害といった問題はほぼ回避されている。しかしこれらから得られた化成皮膜は、成形加工後における塗膜密着性や内容物充填後のレトルト処理といった苛酷な条件下での耐食性、塗料に対する密着性が劣るという欠点を有し、また酸性溶液に対する金属成分の溶出性に問題を残しており、リン酸クロメート皮膜の性能レベルに達していない。
【0007】
このような性能上の問題を解決するために、特開平7−331276号にはリン酸イオン、ジルコニウム化合物またはチタン化合物、フッ化物および水溶性ポリアミドを含有する処理液で処理する方法、特開平11−115098にはリン酸イオン、縮合リン酸イオンおよびフェノール系水溶性重合体からなる表面被覆層を設ける方法等、いわゆる有機−無機複合タイプの化成処理剤が、また特開平10−46101号にはフェノール、ナフトールまたはビスフェノール−ホルムアルデヒド樹脂からなる被覆層を設けるといった有機皮膜タイプの下地処理層を設ける方法が開示されている。
【0008】
また耐食性の改善および塗膜密着性の向上を目的として、ZrまたはTiの有機酸塩もしくは無機酸塩、水溶性樹脂類をそれぞれ適量宛含有した処理剤が使用された提案がなされている。例えば、特開平9−0314404号公報においては、1〜100重量部のリン酸イオンと、ジルコニウム原子またはチタン原子の重量に換算して1〜50重量部のジルコニウム化合物またはチタン化合物の少なくとも1種と、フッ素原子重量に換算して1〜200重量部のフッ化物と1〜200重量部の下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
[但し、式(1)において、nは平均重合度2〜50を表し、Xは水素原子、C1〜C5アルキル基、またはC1〜C5ヒドロキシアルキル基を表し、Yは水素原子または下記式(2)または(3)で表されるZ基
【化2】
【化3】
をあらわし、R1、R2およびR3 は、それぞれ他から独立にC1〜C10アルキル基またはC1〜C10ヒドロキシアルキル基を表し、個々のベンゼン環に結合している前記Z基の数の平均値が0.2〜1.0である。]
により表される水溶性重合体からなる樹脂とを含有することを特徴とするアルミニウム含有金属材料表面処理組成物が開示されている。
【0011】
これらによれば加工後の塗膜密着性は高まり、酸性溶液に対する耐溶出性も向上するなど性能上の向上が認められる場合がある。しかし、下地処理皮膜中に樹脂を含むため、下地処理皮膜上に塗布する樹脂の種類によっては絞り加工やしごき加工のごとき通常の加工に対しては対応できるが、缶蓋材などにおけるリベット加工、缶蓋の円周部におけるカウンターシンク部、缶蓋と缶ボディーの連結部のカーリング部の如き強加工に対しては不十分となり、所定の性能が出ない等の不具合が起こることがある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような事情から、Cr等の有害重金属を含んではならず、リベット加工などを必要とする強い加工を行った時においてもアルミニウム表面と樹脂塗装との間の密着性に優れているだけでなく、また化成皮膜上に樹脂皮膜を塗装することにより化成皮膜に傷などの故障があったときにも耐酸溶出性を大きく改善でき、なおかつ低コストで製造できる飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材の開発が強く求められていた。
【0013】
【課題を解決するための手段】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、
[1] 熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とする化成皮膜において、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
【0014】
[2] 化成皮膜層として熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、その皮膜の量が2〜50mg/m2かつその最表面では主要金属成分よりCが多く、さらに主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なく、Mg濃度が15mass%以下の皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
【0015】
[3] 化成皮膜の最表面におけるC濃度が50mass%以下である上記[1]または[2]に記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材、
[4] アルミニウム下地処理材の表面に、エポキシ、ポリエステル、塩ビの少なくとも1種を含む樹脂皮膜を設けた上記[1]〜[3]のいずれかに記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム塗装材、
【0016】
[5] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設け、次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法、
[6] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とする上記[4]に記載のアルミニウム下地処理材の製造方法、および
【0017】
[7] アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含むノンクロム化成皮膜処理を施し、続いて化成皮膜上に樹脂塗膜を形成することを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法、を開発することにより上記の課題を解決した。
【0018】
【発明の実施の形態】
即ち、本発明は主要化成金属成分(Zr、Ti)、MgおよびCの、深さ方向における濃度の位置関係を規定し、また皮膜量を決定したことにより、加工時の塗膜密着性が向上した。また最表面のCを50mass%とすることにより水性塗料に対する不具合も同時に解消できた。本発明は上記主要金属成分、MgおよびCの位置関係、濃度関係を確保するために前処理のアルカリ脱脂処理・酸洗の方法が大きく影響することを解明することにより本発明を達成できた。
【0019】
本発明に使用する缶用塗装材の母材としては、機械的強度、加工性を満足させるために2〜5mass%程度のMgを添加したアルミニウム合金(JIS−5021、5052、5082、5182等)が使われている。そしてこれらの材料は、加熱−圧延時にアルミニウム材マトリクス中のMgが材料の表面に偏析濃化することが知られている。
【0020】
このようなアルミニウム表面に、先述したノンクロメート化成皮膜を設けた場合、その構造は確認されていないがアルミニウム素地と化成皮膜の界面にフッ化物、オキシ水酸化アルミニウム層が存在し、その上にZrまたはTiといった重金属のリン酸塩、水酸化物、酸化物を主体とする化成皮膜層が形成されているといったモデルで説明されていた。
【0021】
この際、表面に偏析していたMgは、大部分は前処理および化成処理にて除去されるが、一部は化成皮膜中に取り込まれるとされていた。そして、取り込まれたMgが塗膜の密着性等に悪影響を及ぼすことが、従来から漠然と指摘されてきた。
また、樹脂成分が加えられた化成皮膜の場合、樹脂成分はその最表面からアルミニウム素地まで一様に分布しているとされてはいるが、その分布状態に関する検討は殆どなされてこなかった。
【0022】
発明者らは、GDS(グロー放電発光スペクトル)、AES(オージェ電子分光法)といった解析機器を用い、化成皮膜の深さ方向の元素分布、いわゆるデプスプロファイルを詳細に調べた。
なお、この際に測定対象とした元素は、H,C,O,Mg,Al,Mn,Si,Fe,Zn,CrおよびZrである。以後、元素のmass%は、この11元素を母集団として議論するが、これらはアルミニウム材表面のほとんど全てを網羅していると考えられるため、議論の一般性を何ら損なうものではない。
【0023】
その結果、主要化成金属成分(ZrまたはTi)とMgは化成皮膜全体に均一に存在するわけではなく、図1に示されるように最表面よりそれぞれ異なるやや深い位置に濃度のピークを示すこと、またそれらは必ずしも明確な層を形成せず、いわば濃度勾配を有して分布していることを確認した。さらに、樹脂成分に由来するC(本発明において化成皮膜中の樹脂成分は「C」として計算される。但し如何なる形で含まれるかは不明。)は、皮膜最表面で最大値を示し、深くなるに従って減少することも確認した。
【0024】
この時、化成皮膜の最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分は好ましくは2〜50mg/m2、より好ましくは2〜10mg/m2であって、これよりCが少なく、かつMg濃度が15mass%以下である時、塗料とアルミニウム材との塗膜密着性が十分高く、また酸に対する皮膜ダメージの度合いが十分低いのに対し、これらの一つでも満足しないと、缶蓋のリベット加工部に代表される強い加工後の塗膜密着性が著しく低下し、また酸に対する皮膜ダメージも急増することを見出した。本発明の下地処理材は当然のことながら絞りやしごきなど通常の加工には十分適用可能である。
【0025】
その理由は、次のように考えられる。
即ち、樹脂成分は缶蓋のリベット加工部に代表される強い加工に対する塗膜密着性に、主要化成金属成分は通常の塗膜密着性および耐酸性に、それぞれ主に寄与している。塗装板が強い加工を受けると、塗膜/化成皮膜界面、すなわち化成皮膜の最表面に強い応力がかかる。従って、化成皮膜の最表面において主要たるべき成分は、柔軟で加工への追従性が高い樹脂成分が好ましい。一方で、主要化成金属成分(ZnまたはTiのリン酸塩,水酸化物および酸化物等)の濃度ピーク付近の領域において樹脂成分やMg化合物が多く存在すると、主要化成金属成分による塗膜密着性および耐酸性は大きく損なわれる。従って、この領域において樹脂成分は主要化成金属成分より少なくなければならない。なお、Mgに関しては、混入濃度が15mass%以下であれば、周辺の他の無機成分(酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等)がMgの悪影響を緩和するので、樹脂成分のように必ずしも主要化成金属成分の濃度を下回る必要はない。
【0026】
さらに発明者らは、Cの定量的な検討を行った。その結果、化成皮膜の最表面のC濃度を制御することにより、化成皮膜と塗膜樹脂との相性問題を回避できることを見出した。すなわち、化成皮膜最表面のC濃度を50mass%以下に制限すると、化成皮膜中の樹脂成分と塗膜樹脂とのマッチングが不適切な場合でも、他の元素(Al,ZrまたはTi,O等)による塗工性向上の効果が強いため、塗工時ハジキや密着不良等の不具合が発生しない。一方、最表面のC濃度が50mass%を超えると、化成皮膜中の樹脂成分と塗膜樹脂とのマッチングが適切な場合は問題ないが、不適切な場合にはその影響がより顕著に現れるために、塗工時ハジキや密着不良等の不具合が発生しやすい。
【0027】
そして、この化成皮膜層の厚みは2〜50mg/m2好ましくは5〜40mg/m2が良い。2mg/m2以下では、主要化成金属成分の絶対量が不足するために皮膜を設けた効果が認められず、塗膜密着性や耐酸性の向上が得られない。一方、50mg/m2を超えると、化成皮膜を形成するために化成処理液を多く必要とするためコストアップになるだけでなく、製品の化成皮膜中の主要化成金属成分が多すぎるためにそれらが溶出し、内容物を汚染する恐れがある。
【0028】
なお、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、熱可塑性または熱硬化性樹脂を含む化成皮膜を得るためには、化成処理液に接触させて化学反応により皮膜を形成する「反応型」と、化成処理液を塗布し乾燥させて化成皮膜を形成する「塗布型」の両者が知られているが、本発明はそのどちらに対しても高い効果を発揮するものである。なお反応型はコーターロール、乾燥炉などが不要であるのに対し、塗布型は理論上は廃液処理設備が不要となる利点があるので、工場の立地や付属設備によりその適応性は異なってくる。
【0029】
ところで、請求項1を満たす化成皮膜を得るには、一例として、エッチング量が50〜1000mg/m2,好ましくは100〜700mg/m2のアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下、好ましくはpH約1程度かつMgイオン濃度が1mass%以下、好ましくは少ない程良いが、0.5mass%以下の酸(コスト面から希硫酸が使いやすい)にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の化成皮膜処理液で処理する方法を挙げることができる。
アルカリ脱脂によるエッチング量が50mg/m2未満では均質な化成皮膜が形成されず、1000mg/m2を超えるとアルミニウム板厚の精度に悪影響を及ぼす。また酸洗はMgの低減に寄与するが、pHが4.0を超えると効果が半減し、さらに浴中のMgイオン濃度が1mass%を超えると、Mgが化成皮膜中に取り込まれ、濃縮するので好ましくない。
【0030】
また、請求項2を満足させるためには、さらにアルカリ脱脂浴および酸洗浴の油汚染を3mass%以下に制御すればよい。これは、いずれの浴も化成皮膜最表面のCに影響を及ぼすためであり、油汚染が3mass%を超えると、必要とされる熱可塑性または熱硬化性樹脂以外のCが急激に増加するため好ましくない。もちろん、これ以外の方法で得られた化成皮膜でも、請求項1または2さえ満たしていれば、本発明の好ましい効果を享受できるのは当然である。
【0031】
以上の条件を満たす化成皮膜の上に、エポキシ、エポキシ・アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ・尿素樹脂、エポキシ・フェノール樹脂等の少なくとも1種を含む樹脂皮膜を上塗りすると、リベット加工部に代表される強い加工が行われる部分の塗膜密着性に優れ、高い耐酸溶出性を有し、さらに塗装ハジキによる品質不良を低減させた飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材を得ることができる。
【0032】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
以下、実験例1〜4及び比較例1〜5に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。アルミニウム材は全てJIS 5182合金(板厚0.26mm)を用いた。
[前処理]
a.アルカリ脱脂
日本ペイント(株)社製「SC420N−2(濃度2%、pH=12.5)」
浴温70℃、スプレー処理(圧力1.5kgf/cm2)×n秒
b.アルカリ脱脂(油)
日本ペイント(株)社製「SC420N−2(濃度2%、pH=12.5)」冷間圧延油[AL−41」添加(50g/1リットル)、浴温70℃、スプレー処理(圧力1.5kgf/cm2)×n秒
c.酸洗
1%硫酸、浴温50℃、浸漬処理×5秒
d.酸洗(比較例1)
1%硫酸、酸化マグネシウム添加(20g/1リットル)、浴温50℃、浸漬時間5秒
e.酸洗
1%硫酸、冷間圧延油[AL−41」添加(50g/1リットル)、浴温50℃、浸漬処理×5秒
【0033】
前処理の結果を表1に示す。
【表1】
【0034】
[化成処理/塗装]
a.反応型Zr
リン酸Zr+フェノール樹脂(平均分子量約3万)タイプ、浴温45℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
b.塗布型Zr
フッ化Zr酸+アクリル樹脂(平均分子量約5万)タイプ、乾燥温度180℃c.反応型Ti
フッ化Ti酸+フェノール樹脂(平均分子量約3万)タイプ、浴温45℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
d.リン酸クロメート
日本ペイントSCL408/48、浴温40℃、スプレー処理(圧力1.0kgf/cm2)
e.水性エポキシ・アクリル塗料
塗装量7g/m2,焼付温度250℃×24秒
f.溶剤エポキシ・フェノール塗料
塗装量7g/m2,焼付温度250℃×24秒
【0035】
結果を表2に示す。
【表2】
【0036】
[皮膜構成]
得られた皮膜の構成を表3に示す。
【表3】
【0037】
上記表3の結果を説明する。
実施例1〜4は問題ないが、比較例1〜5は次のような問題があった。
a.比較例1:酸洗不良のため、Mgが効果的に除去されていない。
b.比較例2:Zrが少ないため、Zrの最大濃度位置においてCとZrの位置関係が逆転。
c.比較例3:Zrが多いため、最表層においてCとZrの位置関係が逆転。
d.比較例4:エッチング不足のため、アルミニウム酸化膜残存の影響を受け、Zrの最大濃度位置においてCとZrの位置関係が逆転
e.比較例5:リン酸クロメートであるので性能的には十分である。
【0038】
【表4】
【0039】
これらのサンプルは、以下のような評価試験を実施した。
[塗料ハジキ] 塗料焼付後、塗料ハジキに由来する塗装ヌケの個数を計数する。
[レトルト密着性試験] 加圧滅菌装置により、試験片を水道水中にて125℃×30分保持した後、JIS−K5400に準拠した1mm角碁盤目試験を行う。
[30%圧延密着性試験] 圧延機により、30%の板厚減少となるまで圧延加工した後、JIS−K5400に準拠した1mm角碁盤目試験を行う。
[リベット部耐食性試験] 飲料缶蓋成形機(コンバージョンプレス)によりリベット成形したサンプルを、1.0mass%クエン酸一水和物+0.5mass%塩化ナトリウムの水溶液に70℃×72時間浸漬し、腐食の発生度合いを評価する。(◎:腐食なし,○:リベット周辺に1mm以下の腐食,△:リベット周辺に1〜2mmの腐食,△×:リベット周辺に2〜5mmの腐食,×:リベット周辺に5mm以上の腐食)
【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、Cr等の有害重金属を含まない、低コストの飲料缶または食缶用のアルミニウム蓋材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルミニウム下地材表面における主要金属成分濃度及び炭素濃度の変化状態を示す。
Claims (7)
- 熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とする化成皮膜において、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材。
- 化成皮膜層として熱可塑性または熱硬化性樹脂を含み、ZrまたはTiを主要化成金属成分とし、その皮膜の量が2〜50mg/m2かつその最表面では主要金属成分よりCが多く、さらに主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なく、Mg濃度が15mass%以下の皮膜を設けたことを特徴とする、加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材。
- 化成皮膜の最表面におけるC濃度が50mass%以下である請求項1又は2に記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム下地処理材。
- アルミニウム下地処理材の表面に、エポキシ、ポリエステル、塩ビの少なくとも1種を含む樹脂皮膜を設けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工時の塗膜密着性に優れたノンクロム型アルミニウム塗装材。
- アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、その最表面では主要化成金属成分よりCが多く、主要化成金属成分が最大濃度を示す深さでは主要化成金属成分よりCが少なくかつMg濃度が15mass%以下である化成皮膜を設け、次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含む化成液を用いて、ノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法。
- アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含む化成液を用いてノンクロム化成皮膜処理を施すことを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム下地処理材の製造方法。
- アルミニウム材に対し、エッチング量が50〜1000mg/m2かつ脱脂浴の油汚染が3mass%以下たるアルカリ脱脂を行った後、pHが4.0以下かつMgイオン濃度が1mass%以下,油汚染が3mass%以下たる酸にて酸洗浄を行い、次いで反応型または塗布型の次いで反応型または塗布型の熱可塑性または熱硬化性樹脂を含む化成液を用いてノンクロム化成皮膜処理を施し、続いて化成皮膜上に樹脂塗膜を形成することを特徴とするアルミニウム下地処理材の製造方法。
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JP2006008201A (ja) * | 2004-06-28 | 2006-01-12 | Furukawa Sky Kk | 沸水耐黒変性に優れた飲料容器用アルミ合金材 |
JP2006326863A (ja) * | 2005-05-23 | 2006-12-07 | Furukawa Sky Kk | プレコートフィン用アルミニウム材 |
JP2016043982A (ja) * | 2014-08-26 | 2016-04-04 | 大日本印刷株式会社 | 包装材料及びその製造方法 |
-
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