JP2004034186A - 被覆切削工具及びその被覆方法 - Google Patents

被覆切削工具及びその被覆方法 Download PDF

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Abstract

【目的】Si含有耐摩耗皮膜の高硬度を犠牲にすることなく、過剰残留圧縮応力による脆化を抑制することにより、Si含有耐摩耗皮膜に靭性を付与することを目的とする。
【構成】基体が超硬合金又はTiCN基サーメットからなり、該基体に金属元素として周期律表の4a、5a、6a族金属及びAlの1種以上より選択された元素とSi元素とを含み、非金属元素としてN、C、O、Sのうち1種以上より選択された元素とB元素とを含むSi、Bを含有する皮膜を、少なくとも1層被覆し、該Si、B含有皮膜の結晶形態は、結晶質相と非晶質相とからなり、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が0.5nm以上、20nm未満であることを特徴とする被覆切削工具である。
【選択図】図3

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、金属材料等の切削加工に使用される耐摩耗皮膜被覆切削工具及びその被覆方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
切削加工の高能率化の要求に伴い高速マシニングセンターが普及し、切削加工は高速化傾向にある。切削工具に被覆される耐摩耗皮膜もTiN、Ti(CN)に変わり、より切削加工の高速化に対応可能である、耐摩耗皮膜の硬度並びに耐酸化性を改善した(TiAl)N皮膜を被覆した被覆切削工具が一般的である。更に、切削加工の高速化並びに長寿命化に対応すべく、皮膜硬度並びに皮膜の耐酸化性を更に改善するために、Siを含有する皮膜においてSi及びSi等の独立した相を化合物中に存在させ耐摩耗性の改善を試みた特開2000−334604号公報に代表される耐摩耗皮膜の改善がなされている。また、耐摩耗皮膜中にBN、TiB、SiN等の超微粒化合物を介在させる等の検討が特開2001−293601号公報で行なわれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Siを添加した耐摩耗皮膜においては、Si添加により耐酸化性の改善及び高硬度化による静的な耐摩耗性は、(TiAl)N皮膜よりも改善されるものの、耐摩耗皮膜が著しく脆化し、切削工具として使用した場合、被覆基体と十分な密着性が得られず、早期に被覆基体から剥離し、その改善は認められない。これは、耐摩耗皮膜へのSi添加に伴い、皮膜内部に発生する残留圧縮応力が著しく増加する為である。また耐摩耗皮膜内に、BN、SiN等の異相窒化物を分散させたものは、耐摩耗皮膜の脆化が更に著しく、耐欠損性に乏しい。また、同時にこれら異相窒化物とマトリックスとの結晶粒界が明瞭であり、その結晶粒界を介して拡散する酸素の移動を助長するため、耐酸化性が十分であるとも言い難い。このように依然として、硬質皮膜の耐酸化性、皮膜硬度、皮膜靭性のこれら3特性のバランスが悪く、切削加工の長寿命化並びに高速加工化において満足される切削特性は得られてはいない。本発明はこうした事情に鑑み、Si含有硬質皮膜の高硬度及び耐酸化性を犠牲にすることなく、Si含有耐摩耗皮膜の脆性を大幅に改善し、高靭性で耐チッピング性に優れ、更にSi含有耐摩耗皮膜の特性を改善し、切削工具の長寿命化並びに切削加工の高速化を可能にした、耐摩耗皮膜被覆切削工具並びにその被覆方法を提供する。
【0004】
Si含有耐摩耗皮膜においては、皮膜の高硬度化により静的な耐摩耗性は改善されるが、皮膜内部に発生する残留圧縮応力が非Si含有皮膜と比べ著しく高くなるため、皮膜が極めて脆くなり、この過剰な残留圧縮応力により成膜直後又は切削過程において被覆基体から剥離する。また、耐摩耗皮膜内にBN、SiN等の異種窒化物を分散させたものは、明瞭な結晶粒界を多数形成し、その結晶粒界を介し、酸素の拡散を助長するため、耐酸化性を劣化させる。これらの理由から切削工具に適用するには至っていない。しかしながら本発明者は、このSi含有耐摩耗皮膜が過剰な残留圧縮応力により脆くなり、皮膜剥離が発生する原因、また耐酸化性が不十分である原因等を改善する手段を見出し本発明に到達した。Si含有耐摩耗皮膜が脆くなる要因の一つとして以下に示すことが考えられる。現在使用されている(TiAl)N等の多元系窒化物の多くは立方晶NaCl型の結晶構造を有する置換型の窒化物を形成するが、このSiを添加した多元系皮膜においては、Siと他の金属元素とが置換型の結晶構造をとりにくく、Si及びその他の金属元素が夫々窒化物等を形成し易いものと考える。その結果、多くの結晶粒界を形成し、皮膜内に過剰残留圧縮応力を誘発させる。また、異種窒化物等の形成により、結晶粒界が増加することに加え、その結晶粒界が明瞭であり、異種窒化物とマトリックス間の結晶粒界に沿って酸化が進行するため耐酸化性が十分ではない。本発明者はこのSi含有耐摩耗皮膜の高硬度を犠牲にすることなく、過剰残留圧縮応力による脆化を抑制することにより、Si含有耐摩耗皮膜に靭性を付与することに成功した。更に異種材料を耐摩耗皮膜内に分散させる際に形成される結晶粒界を極めて不明瞭にすることにより、耐酸化性の更なる改善を可能とした。
【0005】
【課題を解決するための手段】
その手段として、基体が超硬合金又はTiCN基サーメットからなり、該基体に金属元素として周期律表の4a、5a、6a族金属及びAlの1種以上より選択された元素とSi元素とを含み、非金属元素としてN、C、O、Sのうち1種以上より選択された元素とB元素とを含むSi、Bを含有する皮膜を、少なくとも1層被覆し、該Si、B含有皮膜の結晶形態は、結晶質相と非晶質相とからなり、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が0.5nm以上、20nm未満であることを特徴とする被覆切削工具である。該Si、B含有皮膜は、SiとBを耐摩耗皮膜に複合添加することにより、Si含耐摩耗皮膜の皮膜硬度を更に向上させるとともに、耐摩耗皮膜内に発生する残留圧縮応力を著しく低減させることが可能となる。また、異種窒化物相等を介在させる場合においても、20nm未満の結晶質相の周辺を非晶質相からなるマトリックスが存在するため、明瞭な結晶粒界が存在せず、酸素の内向拡散を抑制し、耐酸化性に関しても著しく改善するに至った。これらの改善により、Si含有耐摩耗皮膜の皮膜硬度並びに耐酸化性を更に改善し、高靭性を有するため過剰な残留圧縮応力に起因する皮膜剥離または異常摩耗が抑制され、切削工具として十分にその特性が発揮されうる耐摩耗皮膜を被覆することを可能にした。
【0006】
【発明の実施の形態】
該Si、B含有皮膜のSi含有量は金属元素成分のみの原子%で50%未満であることが望ましく、また、該Si、B含有皮膜の最表面から深さ方向に500nm未満の領域でB含有量が最大となる場合、更に優れた切削寿命が得られる。該Si、B含有皮膜のSi含有量は金属元素成分のみの原子%で50%未満であることが好ましい。Si含有量が50原子%以上含有する場合、耐摩耗皮膜内の残留圧縮応力が著しく高くなり、切削工具として絶え得る密着性が得られない。また、Bは、該Si、B含有皮膜の最表面から膜厚深さ方向に500nm未満の領域でB含有量が最大となることが好ましい。500nm未満の表面層側にB濃度が高い場合、切削過程において耐摩耗皮膜中の1部のBがBとOの結合及び/又はBとNの結合となり、更に被加工物との摩擦が低減され好ましい。500nmより内部の硬質皮膜でBの濃度が高くなる場合、靭性が損なわれる場合があり耐欠損性が十分ではない場合が確認されており好ましくない。このような構成を採用することで、高速切削加工及び高硬度材切削加工などの過酷な切削環境下においても、皮膜剥離を生ずることなく、皮膜の耐酸化性及び皮膜硬さを改善しているため、切削寿命が極めて長く、切削速度の高速化が可能であり、従来技術の課題を解決するに至った。本発明のその構成要件について詳しく述べる。
【0007】
本発明の該Si、B含有皮膜は、SiとBの同時添加を行う。図1にTiN皮膜へSiを単独添加した場合の残留圧縮応力と皮膜硬度の関係を示す。皮膜硬度の測定にはナノインデンターを用い、荷重9.8MNで測定した。残留圧縮応力の測定は、被覆前後の薄板の曲率半径より算出した。Si添加量に伴い著しく皮膜硬度が上昇し、同時に皮膜内に発生する残留圧縮応力も増大する。図1中の残留圧縮応力が4GPaよりも増加する場合は、切削工具として使用した場合、その過剰な残留圧縮応力により、早期に皮膜剥離が発生し、切削工具として使用不可能であった。従って、切削工具としての使用可能範囲の密着強度を得る為には残留圧縮応力を4GPa未満に制御する必要がある。これに対し、本発明例のSi、B含有皮膜、例として、(TiSi)(BNO)皮膜、では残留圧縮応力と皮膜硬度の関係が図2に示す様に、Si単独添加の場合よりも低い残留圧縮応力で、より高い硬度が得られることがわかる。従って、Si及びBの同時添加することにより、皮膜の高硬度化と低残留圧縮応力実現において極めて有効であることが明らかである。この理由として、Siは母格子内の金属元素との置換型で固溶し難いため、Si添加に伴い格子歪が大きくなり、残留圧縮応力が著しく増加する。一方、Bは添加に伴い、格子定数が減少することより、1部のBは置換型固溶体を形成し、格子内の歪を低減させる作用があると考えられる。従って、Si、B含有皮膜は、高硬度を有しながら、残留圧縮応力を低減させたと考える。これらの改善の結果として、高硬度を有しながら、低残留圧縮応力である耐摩耗皮膜が得られるものと考えられる。
【0008】
更に、透過型電子顕微鏡による観察により、該硬質皮膜内に含まれる結晶粒子としては、金属/非金属元素の選択により、TiN、BN、(TiAl)N、(CrAl)N、(TiSi)N、(CrSi)N、AlN、CrN、CrB、CrB、TiB等が認められる。同様に、非晶質相としては、SiN、Si、Al、BN、CrB、TiB、AlN、SiO、CrO、BO、AlO、SO等が認められる。図3には、本発明の1例である(Cr70Si30)(BCNO)膜を例に、透過型電子顕微鏡による耐摩耗皮膜断面の格子像の観察結果を示す。図3の領域A及び領域Bに対応した電子線回折像撮影による結晶構造の解析結果を図4、図5に示す。電子線回折像の撮影にはビーム径を2〜5nmにて分析を行った。図3、図4、図5より本発明耐摩耗皮膜は、透過型電子顕微鏡による観察により、結晶質相である領域Aと非晶質相からなる領域Bを形成しており、領域Aと領域Bの結晶界面である結晶粒界は、結晶質同士の結晶粒界に比べ、極めて不明瞭であり、このことにより酸化の際の酸素拡散障壁として作用する。また、図3の領域A、領域Bに関してエネルギー分散型分析により1nm四方の定量分析を行った結果、領域Bは領域AのSi及びB含有量よりも、2倍以上Si及びBを多く含有した。
【0009】
次に、該Si、B含有皮膜は、X線回折における回折強度が(200)面で最大ピークを示し、その(200)面の回折線が2θの半価幅で1.5度以上である。
該Si、B含有皮膜の1部を、金属のみの原子%で10%未満をCu、Ni、Y、Co元素から選択される1種以上で置換すしても良い。図6にはX線回折パターンを示す。図6より、(200)面に最強ピーク強度を示し、その(200)面における回折ピークは2θの半価幅で1.5度以上の広がりが認められる。半価幅の測定には、X線回折における、Cu−Kα線の回折線を用い、入射角を5度に設定し、θ−2θ法で測定した。半価幅の測定には(200)面の回折線のバックグラウンドに対するピーク高さの2分の1における回折線の幅をもって算出した。Si、B含有皮膜は(200)面に強く配向した場合が最も皮膜内の格子欠陥が少なく、高密度であり耐酸化性に優れるため、(200)面に最大のピーク強度をもつことが好ましい。更にその半価幅が1.5度以上の広がりを有する場合、高硬度化並びに耐酸化性改善が著しく、更に好ましい。
【0010】
図3〜図5の透過型電子顕微鏡による組織構造解析結果及び図6のX線回折結果から考察すると、結晶質からなる領域Aはfcc構造のNaCl型の結晶構造を示し、更にこのfcc結晶質相が超微小粒子化されることと、複数の組成偏析を有する結晶質相を形成したことにより、(200)面における回折ピークが広がりをもったと考える。更に、その格子定数に着目すると、Crに対して原子半径の小さいSiを添加しているにもかかわらず格子定数の大きな変化は認められない。このことは、図3の領域Aは、少量のSiを格子内に置換した(CrSi)Nを主体とする結晶質相であると考えられる。また、格子内へ置換されない1部のSiは非晶質相としてマトリックスに存在する。
【0011】
更に、該Si、B含有皮膜は、金属元素としてTi、Cr、Alを、非金属元素としてNを含有すると良く、特に、皮膜硬度、耐酸化性及び靭性のバランスが良い。更に被覆方法としては、物理蒸着法及び/又はプラズマ活性化化学蒸着法で被覆することが望ましく、耐摩耗皮膜内へのBの添加方法としてはB含有気体を用いると耐摩耗皮膜内のB含有量を制御することが可能であり、更に優れた切削特性を得ることが可能であり好ましい。本発明の他の1例である(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析(以下、ESCA分析と称する。)により得られる結合エネルギーを図7〜図11に示す。ESCA分析はX線光電子分光装置でMgKα線源を用い、φ0.4mmの分析領域を耐摩耗皮膜表面より分析した。これらの結果より、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜内には、図7より少なくともCrとN、CrとOの結合エネルギー、図8より少なくともSiとN、Siの結合エネルギー、図9より少なくともBとNの結合エネルギー、図10より少なくともAlとNの結合エネルギー、図11より少なくともSとOに相当する結合エネルギーが確認された。X線回折結果より、AlN、SiN、BN、SiO、Si、SOの存在が明確に確認されないことより、これらは非晶質相として耐摩耗皮膜内に存在するものである。更に、上記解析結果は、Si及びB含有耐摩耗皮膜の1部を、金属のみの原子%で10%未満を、Cu、Ni、Y、Co元素から選択される1種以上で置換した場合も同様な結晶構造を示し、耐酸化性の改善に効果的である。
【0012】
該Si、B含有皮膜の被覆方法については,特に限定されるものではないが,工具の疲労強度,皮膜の密着性等を考慮した場合、被覆した皮膜に圧縮応力が残留する物理蒸着法及び/又はプラズマ活性化化学蒸着法で被覆することが好ましい。物理蒸着における被覆処理においては被覆時のイオン化率が高く、高密度なプラズマを形成することが可能であり、被覆基体との密着性が優れ好ましい。またはプラズマ活性化化学蒸着法においても同様に高密度であるプラズマを形成することが可能であると同時に、B含有気体を真空容器内に導入してイオン化することが可能であるため、B濃度のコントロールが容易であり更に好ましい。更に、耐摩耗皮膜の被覆基体への密着性の改善及び又は切削寿命を延ばすために、被覆前後に、工具切刃を機械的処理によってなじませることにより、突発的なチッピングが抑制され、好ましい。また、被覆中に付着したドロップレット等の欠陥に関しても機械的処理により除去することも、異常摩耗の抑制に効果的であり好ましい。以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0013】
【実施例】
目的とする組成となるよう作成した各種合金製ターゲット並びに各種反応ガスであるN、C、H、AlCl、TiCl、O、BCl、Bを用い、アークイオンプレーティング用蒸発源を配備する真空容器内を被覆基体温度650℃となるよう加熱及び排気をした。その後Arを真空容器内に導入しArイオンによる被覆基体のクリーニングを行なった後、反応ガスを真空容器内に導入しながら、各種合金ターゲット上でアーク放電を発生させ、負に印加したバイアス電圧により、超硬合金(WC−6重量%Co)製の6枚刃スクエアエンドミルに被覆処理を行なった。
B含有気体を真空容器内に導入する場合は、被覆用アーク蒸発源とは独立した蒸発源でアーク放電を行ないながら被覆処理を行なうことによりB含有気体のイオン化及び反応性が向上し、Bを安定して耐摩耗皮膜内へ添加できることが可能となる。耐摩耗皮膜内におけるB濃度の調整にはB含有気体とAlCl、TiClの流量比又はアーク放電用蒸発源からCr系、Ti系金属をアーク放電により蒸発させながら被覆することにより調整した。更に、必要に応じ予め、アークイオンプレーティング法により(Ti50Al50)(NO)皮膜を被覆した後、該Si、B含有皮膜を被覆した。本発明の皮膜の実施例及び切削試験の結果を表1に示す。
【0014】
【表1】
Figure 2004034186
【0015】
表1中の本発明例1〜16はアークイオンプレーティング法を用いて他層を被覆し、その後、本発明皮膜であるSi、B含有皮膜をプラズマ活性化化学蒸着法で被覆処理を行なった。表1中の組成の定量分析は、エネルギー分散型X線分光法、オージェ光電子分光法及び電子線エネルギーロス分光法により総合的に決定した。表1に示す組成の表示は金属成分、非金属成分を夫々あわせて100となるよう原子比で表記したが、ここでは金属成分と比金属成分の原子比が1対1であることを意味するものではない。また、ESCA分析においては、耐摩耗皮膜表面を10分間イオンミーリング後(SiO換算で表面から約20nm除去)、定性分析した化合物を結晶質相と非晶質相で示す。表1で非晶質相は頭にa−を付して表示した。結晶質相の最小結晶粒径の測定は耐摩耗皮膜断面を透過型電子顕微鏡によりランダムに選択した視野の断面写真より実測した数値を併記する。結晶粒径の実測方法は、断面写真から断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径により求めた。評価は工具が切削不能となるまでの最大切削長より、工具寿命を判定した。切削諸元は、側面仕上げで、被削材:SKD11(HRC61)、切り込み量:軸方向8mm、径方向0.2mm、切削速度は200m/min、1刃当りの送り量は0.10mm/刃、切削油は用いずエアーブローにて行った。
【0016】
本発明例5は、Si、B含有耐摩耗皮膜が(111)面に最大強度を示す耐摩耗皮膜の場合の事例を示すが、本発明例3と比較して、切削寿命が短く、(200)面に最強強度を示す場合がより好ましいと言える。本発明例6は、Si及びB含有耐摩耗皮膜の(200)面から算出される半価幅が1.5度よりも小さい場合の発明例であるが、本発明例4と比較して、切削寿命が短く、(200)面から算出される半価幅は1.5度以上が好ましいと言える。本発明例7、8は、Si及びB含有皮膜にCu又はTaを添加した場合の事例であるが、切削寿命が長く好ましい。本発明例9はSi、B含有皮膜内のSi含有量が金属元素のみの原子%で55%を越える場合の発明例であるが、本発明例2と比較して、切削寿命が短く、Si含有量としては、金属元素のみの原子%で50原子%未満がより好ましいと言える。本発明例10は、Si及びB含有耐摩耗皮膜の最表面から膜厚深さ方向に500nm未満の領域でB濃度が高い場合の発明例であるが、切削寿命が極めて長い。尚、このときのB濃度の調整に関しては、Bの真空容器内への導入量を調整することにより行なった。本発明例11は、物理蒸着法であるアークイオンプレーティング法による被覆事例であるが、Bの添加は金属ターゲット中にBを添加して実施したものである。本発明例3に比べ、切削寿命が短く、物理蒸着法とプラズマ活性化化学蒸着法との組み合わせがより好ましい被覆方法であることがわかる。本発明例12は、Si及びB含有耐摩耗皮膜である組成の異なる2層を組み合わせた場合の事例であるが切削寿命が長い。本発明例13〜16においても、切削寿命が長く好ましい耐摩耗皮膜の組成事例である。
【0017】
比較例17は、本発明例1に対応したBを含有しない例を示すが、Bを含有しないことにより、耐摩耗皮膜中の残留圧縮応力が高く、異常摩耗が発生し短寿命であった。比較例18は、本発明例2に対応したBを含有しない場合の例を示すが、皮膜剥離に起因した異常摩耗が発生し、切削寿命が短い。比較例19は、Si及びB含有耐摩耗皮膜内に非晶質相を含まない例であるが、耐酸化性が十分ではなく、切削加工中に赤熱し、早期に切削不能に至った。比較例20は、Si及びB含有皮膜内の最小結晶粒径を、透過型電子顕微鏡による観察により、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が20nmを越える場合の例であり、摩耗が著しく切削寿命が短い。
従来例21〜25は、周知な皮膜であり、エンドミル切削長において、3〜35mと本発明例の100m前後に比して著しく短寿命である。
【0018】
【発明の効果】
本発明による耐摩耗皮膜被覆工具は、従来の被覆工具に比べ、耐摩耗皮膜の高硬度化と優れた耐酸化性更には高靭性をバランスよく併せ持っているため、工具切刃のチッピングや皮膜剥離等に起因した異常摩耗を抑制することが可能となり、従来までの切削工具よりも格段に長い切削寿命が得られ、また、高速切削にも十分対応可能であり、切削加工における生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Si添加量と皮膜硬度並びに残留圧縮応力との関係を示す。
【図2】図2は、(TiSi)N系皮膜と(TiSi)(BN)系皮膜における皮膜硬度と残留圧縮応力の関係を示す。
【図3】図3は、(CrSi)(BCNO)皮膜断面の透過型電子顕微鏡による組織写真を示す。
【図4】図4は、図3中の領域Aの電子線回折写真を示す。
【図5】図5は、図3中の領域Bの電子線回折写真を示す。
【図6】図6は、(CrSi)(BCNO)皮膜のX線回折結果を示す。
【図7】図7は、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析によるCrの結合エネルギーを示す。
【図8】図8は、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析によるSiの結合エネルギーを示す。
【図9】図9は、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析によるBの結合エネルギーを示す。
【図10】図10は、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析によるAlの結合エネルギーを示す。
【図11】図11は、(CrAlSi)(CBNOS)皮膜のX線光電子分光分析によるSの結合エネルギーを示す。

Claims (9)

  1. 基体が超硬合金又はTiCN基サーメットからなり、該基体に金属元素として周期律表の4a、5a、6a族金属及びAlの1種以上より選択された元素とSi元素とを含み、非金属元素としてN、C、O、Sのうち1種以上より選択された元素とB元素とを含むSi、Bを含有する皮膜を、少なくとも1層被覆し、該Si、B含有皮膜の結晶形態は、結晶質相と非晶質相とからなり、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が0.5nm以上、20nm未満であることを特徴とする被覆切削工具。
  2. 請求項1記載の何れかの被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜のSi含有量は金属元素成分のみの原子%で50%未満としたことを特徴とする被覆切削工具。
  3. 請求項1又は2記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜の最表面から深さ方向に500nm未満の領域でB含有量が最大としたことを特徴とする被覆切削工具。
  4. 請求項1乃至3記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜の結晶質相はTiN、BN、(TiAl)N、(CrAl)N、(TiSi)N、(CrSi)N、AlN、CrN、CrB、CrB、TiBから選択される1種以上であることを特徴とする被覆切削工具。
  5. 請求項1乃至3記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜の非晶質相は、SiN、Si、Al、BN、CrB、TiB、AlN、SiO、CrO、BO、AlO、SOから選択される1種以上であることを特徴とする被覆切削工具。
  6. 請求項1乃至3記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜は、X線回折における回折強度が(200)面で最大ピークを示し、その(200)面の回折線が2θの半価幅で1.5度以上であることを特徴とする被覆切削工具。
  7. 請求項1乃至3記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜の1部を、金属のみの原子%で10%未満をCu、Ni、Y、Co元素から選択される1種以上で置換としたことを特徴とする被覆切削工具。
  8. 請求項1乃至6記載の被覆切削工具において、該Si、B含有皮膜の被覆方法は、物理蒸着法及び/又はプラズマ活性化化学蒸着法で被覆することを特徴とする被覆切削工具の製造方法。
  9. 請求項7記載の被覆切削工具の製造方法において、該Si、B含有へのBの添加方法としては、B含有気体を用いることを特徴とする被覆切削工具の製造方法。
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