JP2004034131A - 溶接用ワイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ワイヤ表面に油成分と固体潤滑剤粒子とが塗布されており、前記油成分は植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種以上であって、その油成分量及び固体潤滑剤粒子量を10m毎に10箇所測定したとき、前記油成分の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.1乃至0.4gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であり、前記固体潤滑剤粒子は、その粒子径が0.1〜10μmであるMoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上であって、その平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002〜0.3gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下である。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄骨、橋梁、造船及び自動車等の溶接に広く使用されるアーク溶接用ワイヤに関し、特に、ワイヤ全長に亘って給電チップでの給電安定性が優れており、給電チップ内部における分流安定性が向上し、ヒューム発生量が著しく低減した溶接用ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
アーク溶接用ワイヤの送給性を向上させる方法としては、ワイヤ表面に滑り性を有する液体潤滑剤を塗布することが一般的である。従来、ワイヤ表面に液体潤滑剤を塗布する方法としては、特開平9−234590に記載されているように、固体潤滑剤をワイヤ表面に押付けて塗布する方法と、特開平8−131919に記載されているように、ローラ式潤滑油塗布装置を使用する方法と、特開平7−276089、特開平7−136796、特開平7−136797に記載されているように、湿式伸線時の潤滑剤としてワイヤ表面に付着させる方法と、伸線の最終スキンパスで塗布する方法と、更に、フェルト等に液体潤滑剤を染み込ませ、そのフェルトをワイヤに押し付けながら付着させる方法とがある。更に、特開昭59−145061、59−145062、59−145077に記載されているように、噴霧方式で油を霧化し、ワイヤ表面に静電気力で付着させる方法と、特開平6−106129に記載されているように、水系液体潤滑剤を回転霧化型静電塗油装置を使用して塗布する方法も開示されている。
【0003】
潤滑剤の種類に関しては特開平06−285678、特開平09−70684、特開平7−24169に記載されているように、MoS2、WS2、PTFE、黒鉛、フッ化黒鉛又は金属石鹸が挙げられる。これらは全てワイヤの送給性を向上し、安定化させる目的で塗布されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法で塗布した場合、伸線条件及びワイヤ表面状態の違いにより、ワイヤ長手方向に均一に潤滑剤を残すことはできない。潤滑剤を均一に塗布できないと、溶接時の給電安定性が損なわれ、アークの不安定を引き起こすことにより、ヒューム発生量が増加する等、作業性を損なうという問題点が生じる。また、塗布量が比較的安定する噴霧方式でも、定量搬送ポンプを使用していないためのノズル閉塞及び電極放電の問題から、固体微粒子を分散した油をワイヤ表面に塗布することはできない。また、固体微粒子が分散した油を塗布することができる回転霧化型静電塗油装置を使用しても、シェイピングエアと称する搬送用気流を使用して、容器内部でワイヤ表面に油を吹き付けると、塗布量にばらつきが発生しやすいという難点がある。ワイヤ表面の油付着量のばらつきが大きいと、給電チップとワイヤとの間での給電安定性が損なわれ、溶滴移行形態が不安定となり、ヒューム発生量が増加するという問題点が生じる。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ワイヤ表面に複合潤滑剤がワイヤ周方向及び長手方向の双方について均一に塗布されており、給電安定性が向上し、ヒューム発生量が大幅に低減した溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る溶接用ワイヤは、ワイヤ表面に油成分と固体潤滑剤粒子とが塗布されており、前記油成分は植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種以上であって、その油成分量及び固体潤滑剤粒子量を10m毎に10箇所測定したとき、前記油成分の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.1乃至0.4gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であり、前記固体潤滑剤粒子は、その粒子径が0.1〜10μmであるMoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上であって、その平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002〜0.3gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であることを特徴とする。
【0007】
この溶接用ワイヤにおいて、前記油成分と固体潤滑剤粒子は、前記油成分を基油とし、前記固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤の形で塗布されたものであるか、又は前記油成分と固体潤滑剤粒子は、前記固体潤滑剤粒子を水系溶媒に配合した水系複合潤滑剤の形で塗布された後、前記油成分若しくは前記油成分を基油として前記固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤が重ねて塗布されたものであることが好ましい。
【0008】
また、ワイヤ表面のK量をワイヤ10mおきに10箇所測定したとき、そのK量の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002〜0.02gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳細に説明する。先ず、本発明者等はワイヤ表面に存在する潤滑剤の量とヒューム発生量との関係について調査した。この潤滑剤とは、基油に、MoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上の固体潤滑剤粒子が分散した油系複合潤滑剤である。その結果、前記油系複合潤滑剤の基油部分(油成分)の量がその平均値でワイヤ表面1m2当たり0.1乃至0.4gの範囲にあり、標準偏差が平均塗布量の30%以下であり、MoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上の固体潤滑剤粒子の量がその平均値でワイヤ表面1m2当たり0.002乃至0.3gの範囲にあり、標準偏差が平均塗布量の30%以下に均一に塗布されていると、ヒュームを著しく低減できることを見いだした。基油部分の量がワイヤ表面1m2当たり0.1g未満では、ワイヤに十分な潤滑性を与えることができないため、チップ抵抗が低減せず、ヒューム発生量が低減しない。逆に、基油部分の量がワイヤ表面1m2当たり0.4gを超えて付着していても、チップ抵抗が低減する効果は飽和してしまい、それ以上送給性が更に向上することがないだけでなく、余分な複合潤滑剤がコンジットライナー内部で離脱して堆積し、閉塞物として送給性を損なうと行った問題が生じる。更に、送給ローラで離脱した複合潤滑剤は、送給ローラとワイヤ間の摩擦抵抗を小さくしすぎるために、安定したワイヤ送給を行うことができなくなるといった問題が生じる。
【0010】
また、MoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上の固体潤滑剤粒子がワイヤ表面1m2当たり0.002乃至0.3gの範囲にあることが必要である。この固体潤滑剤粒子が0.002g未満では、チップとワイヤとの間の給電が安定しないため、アークが安定せず、目的とするヒューム低減効果が得られない。一方、固体潤滑剤粒子が0.3gを超えると、ワイヤから剥離してコンジットライナー及びチップの内面に堆積する潤滑剤量が増大し、ワイヤ送給性及び給電安定性を阻害するため、アークが安定せず、目的とするヒューム低減効果が得られない。
【0011】
更に、本願発明者等は、ヒューム発生量を低減するためには、複合潤滑剤の量だけでなく、ワイヤ長手方向の複合潤滑剤のばらつきが小さいことが重要であることを見いだした。詳しくは、複合潤滑剤量の基油部分の量と固体潤滑剤粒子の量とをワイヤ10mおきに10箇所測定した場合に、その標準偏差が平均値(平均塗布量)の30%以下であれば、給電安定性が向上し、ヒューム発生量が低減する。複合潤滑剤の基油部分あるいは固体潤滑粒子部分の付着状態が不均一であると、ヒューム発生量の増加が顕著となる。即ち、複合潤滑剤量の標準偏差が30%より大きい場合は、局所的に複合潤滑剤の付着量が多い部分で、チップ抵抗が低下し、逆に、複合潤滑剤の付着量が少ない部分ではチップ抵抗が上がる。この状態で溶接を行うと、溶滴移行が安定せず、ヒューム発生量も増加する。複合潤滑剤の基油あるいは固体潤滑粒子部分の量の標準偏差が平均値の30%を超えるようなバラツキがあると、ワイヤ表面とチップとの間の接触電気抵抗が長手方向にバラツキを生じる結果、給電安定性が阻害される。その結果、チップ抵抗が増大してアークが安定せず、目的とするヒューム低減効果が得られない。
【0012】
なお、複合潤滑剤は、固体潤滑剤粒子の基油に対する配合比率が、2乃至50質量%であることが好ましい。更に、好ましい配合比率は、5乃至30質量%である。配合比率が2質量%未満であると、粒子の分散は容易であるが、十分な給電安定性効果、即ち、ヒューム低減効果は得られない。配合比率が50質量%を超えると、分散安定性が劣化し、ワイヤから剥離しコンジットライナー及びチップ内面に堆積する潤滑剤量が増大し、ワイヤ送給性及び給電安定性を阻害するため、アークが安定せず、目的とするヒューム低減効果が得られない。
【0013】
本発明の油系複合潤滑剤の基油(油成分)と固体潤滑剤粒子とは、夫々独立に塗布量(ワイヤ付着量)を制御できる。即ち、基油に対する固体潤滑剤粒子の配合比が50%以下(好ましくは30%以下)である場合は、基油に対する固体潤滑剤粒子の配合比率を変更したものを調合し、本発明の方法でワイヤに塗布すれば良い。また、基油に対する固体潤滑剤粒子のワイヤ付着量比が50%を超える場合には、予め固体潤滑剤粒子を水溶性の溶媒(水又はアルコール等)に分散した複合溶液を塗布した後、ワイヤ表面を乾燥させ、再度、基油及び/又は固体潤滑剤粒子を本発明の方法で必要量塗布することにより、独立に塗布量(ワイヤ付着量)を制御できる。ワイヤ表面のK量は、0.002乃至0.02g/m2が望ましい。0.002g/m2未満ではアーク安定性改善に寄与するだけのK量ではない。一方、0.02g/m2以上では、コンジットライナーへの堆積量が増加して、ワイヤ詰まりが生ずる等の不具合が起こる。K源としては、基油に混合し塗布する場合には、微粒子が得られ易いホウ酸カリウムが望ましく、水系溶媒に混合し塗布する場合には、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム等の水溶性無機塩の化合物が望ましい。
【0014】
本発明のように、複合潤滑剤がワイヤ表面に存在していると、送給抵抗が低減するため、長尺コンジットケーブルを使用した場合又はコンジットケーブルを屈曲した状態で使用した場合等でも、安定したワイヤ送給が可能となるため、アークが安定し、ヒューム発生量が低減する。ヒューム発生量を著しく低減させるためには、更に給電チップにおける給電安定性を向上させることが極めて有効であることを見出した。給電安定性を向上させることによって、ヒューム発生量が劇的に低減できる機構は次のように説明される。
【0015】
図1は溶接用ワイヤ1と給電チップ2との接触状態を模式的に示す。溶接用ワイヤ1は固有の曲率を有しているために、給電チップと一般的に▲1▼、▲2▼、▲3▼の3点で接触する。この上部▲3▼と下部▲1▼との間の距離は20乃至40mmである。
【0016】
給電チップ2は銅主体の合金で形成されているために、溶接用ワイヤ1に比較して電気抵抗が小さい。このため、電流の50%以上は給電チップの下部(先端)▲1▼からワイヤに供給される。残りの50%未満の電流は中央▲2▼又は上部▲3▼からワイヤに供給される。
【0017】
図2は絶縁膜22で3分割した3層分割給電チップ23を試作し、定電流電源27から給電し、シールドガスノズル24からシールドガスを供給しつつ、ワイヤ21と被溶接材26との間にアーク25を形成し、チップ23の下部▲1▼、中央▲2▼、上部▲3▼からワイヤ21に流入する電流をホール素子28により直接測定した。図3(a)、(b)はその分流電流の測定例を示す。この測定結果はYGW16相当の銅めっきなしソリッドワイヤを用いて測定したものである。シールドガスはAr−20%CO2であり、溶接電流は300A、チップ母材間距離は25mmである。図3(a)は本発明の比較例で油及び固体粒子の塗布量にばらつきが多い場合であり、図3(b)は本発明の実施例であって油塗布量が0.22g/m2、塗布量の標準偏差が0.01g/m2、MoS2の塗布量が0.05g/m2、標準偏差が0.0023g/m2の例である。
【0018】
この図3(a)と図3(b)との比較から、複合潤滑剤の塗布の均一性を向上させると、明確に分流電流の安定性が向上する。分流電流が安定化すると、給電チップ先端から母材間の突き出し部におけるジュール発熱が安定化する。具体的には溶滴直上のワイヤ温度が安定化する。
【0019】
また、ワイヤ表面に複合潤滑剤を均一に塗布すると、給電チップにおける機械的な抵抗が減少する。
【0020】
図4はチップ抵抗と送給抵抗の測定方法を示す図である。チップ抵抗の測定は、6m長のトーチ10を使用し、山なりで1ターンさせ、溶接時に給電チップ11がワイヤに引っ張られる荷重(チップ抵抗Tr)、即ち溶接電流を流した場合に発生する機械的抵抗を給電チップ11の直上に取り付けたロードセル12を使用して測定した。同時に、送給ローラ13がワイヤを押し出すに必要な力(送給抵抗Fr)をロードセル14により測定する。ロードセル14には溶接電流を流すことができないために、給電チップ11とロードセル14との間にパワーケーブルを接続し、給電チップ11に直接溶接電流を供給した。同様にシールドガスも供給した。得られたチップ抵抗Trの変動を解析し、チップ抵抗の値からワイヤ給電安定性を評価した。
【0021】
使用したワイヤと溶接条件は図3の分流電流測定の場合と同じである。図5は溶接せずにインチングしたときのチップ抵抗と送給抵抗を示す図であり、(a)は本発明の比較例であり、(b)は本発明の実施例である。溶接を行わないと、塗布にばらつきがあってもなくても、チップ抵抗及び送給抵抗がいずれも差は無い。
【0022】
図6はYGW16相当の銅めっきありのソリッドワイヤを280Aで溶接を行った場合のチップ抵抗と送給抵抗を示し、(a)は本発明の比較例、(b)は本発明の実施例である。図6(a)に示すように、塗布が均一に行われていないワイヤはチップ抵抗の変動が大きく、送給抵抗の変動も大きくなっている。一方、図6(b)に示すように、塗布が均一に行われているワイヤのチップ抵抗はほとんど変動せず、送給抵抗も変動しない。
【0023】
図5に示すように、溶接を行わないと両者に差は無いことから、給電チップにおける機械的な抵抗が送給抵抗を支配している。チップ抵抗が低減することによって送給抵抗が低減する。送給抵抗はチップ抵抗に同期して変化し、送給抵抗はチップ抵抗が約10倍に増幅されている。チップ抵抗が変動するのは、給電チップ内部における分流状態が変動するためである。チップ抵抗が不安定であると、突き出し部におけるワイヤ速度が変動し、ワイヤ溶融速度も変動する。
【0024】
直径が1.2mmのワイヤを280Aで溶接すると、1分間あたりのワイヤ送給量は十数mになる。1.2mm径のワイヤの10mあたりの質量は80g程度であるから、5乃至20g程度のワイヤ表面の複合潤滑剤の基油部分の量、固体潤滑粒子部分の量、及びK量を測定すると、ワイヤ長手方向の付着量のばらつきを評価することができる。この複合潤滑剤の量とばらつきは分流安定性及びチップ抵抗を支配し、更にはヒューム発生量を増減させる。
【0025】
分流電流が不安定であり、ワイヤ溶融速度が不安定になると、溶滴のふらつきが大きくなり、溶融池とワイヤ先端との瞬間短絡が多発してヒュームの発生量が増える。一方、ワイヤ表面に均一に複合潤滑剤を塗布することによって、分流電流及びワイヤ速度が安定化し、ヒューム発生量は著しく減少する。
【0026】
給電安定性を向上させるためには、複合潤滑剤の付着量がワイヤ表面長手方向に均一である必要がある。複合潤滑剤が均一に付着していると、給電チップにおける給電が安定化し、給電チップでの抵抗が低減し、安定化され、送給抵抗が低減し、送給抵抗の変動が少なく、ヒューム発生量を低減することができる。
【0027】
複合潤滑剤をワイヤ表面長手方向に均一に付着させるためには、複合潤滑剤の定量搬送、均一霧化、電圧印加、雰囲気制御が重要となる。
【0028】
<複合潤滑剤の定量搬送>
潤滑粒子が分散した油、潤滑粒子が分散した水溶液、又は油等の複合潤滑剤を定量的に搬送するためには、高精度の定量搬送ポンプが必要となる。ワイヤ速度は一定ではなく、必ず加速部及び減速部があり、この速度変動部にも均一に複合潤滑剤を塗布するためには、時間追従性に優れたポンプが必要となる。具体的には、高精度のギア式ポンプ、スクリュー式ポンプ又はローラ式ポンプ等を用い、ポンプの回転数はワイヤ速度に連動して制御する必要がある。これによって複合潤滑剤の供給量はワイヤ速度と連動して制御することができる。
【0029】
<複合潤滑剤の霧化>
ワイヤ表面に、標準偏差が30%以下になるように均一に複合潤滑剤を付着させるために、塗布方法に関して調査を行ったところ、圧縮空気又は遠心力により複合潤滑剤を霧化して塗布する方法が良いことを見いだした。付着量の制御は、複合潤滑剤の搬送量をワイヤ速度と連動させて制御し、霧化する複合潤滑剤の量を調整し、塗布容器中の複合潤滑剤の霧密度を調整することにより行うことができる。その他の複合潤滑剤の塗布方法としては、伸線時の潤滑剤をワイヤ表面に残留させる方法と、最終スキンパスで塗布する方法と、フェルト等に複合潤滑剤を染み込ませ、このフェルトをワイヤ表面に押付けて複合潤滑剤をワイヤ表面に塗布する方法等もある。しかし、これらの塗布方法では、複合潤滑剤の付着量を均一に塗布することは難しい。このため、前述のごとく、圧縮空気又は遠心力により霧化したワイヤ表面に塗布することが好ましい。
【0030】
油成分に固体潤滑剤粒子が分散した油系複合潤滑剤、又は水系溶媒に固体潤滑剤粒子が分散した水系複合潤滑剤(以下、油系複合潤滑剤と水系複合潤滑剤をまとめて複合潤滑剤ということもある)を、圧縮空気又は遠心力等を利用して極めて均一に霧化し、ワイヤ表面に付着させる方法が良い。定量的に搬送した複合潤滑剤と霧化用の圧縮空気は同軸であることが望ましい。また、遠心力を使用して霧化する場合は、500rpm以上の高速で回転する円錐形状をしたカップ内面に定量搬送した複合潤滑剤を連続的に供給し、この複合潤滑剤を遠心力により霧化する。塗装機等では、シェイピングエアを使用して複合潤滑剤の霧化流を被塗装物に吹き付けるが、高速に走行するワイヤに連続的に塗布するためには、シェイピングエアは使用せず、遠心力で吹き飛ばされた複合潤滑剤の軌跡とワイヤ軌跡を完全に重ねるか、又は部分的に重ねることによって塗布することが好ましい。
【0031】
<複合潤滑剤への高電圧印加>
更に、効率よく塗布するためには、霧化された複合潤滑剤に高電圧を印加し、複合潤滑剤とワイヤとの間の電位差から発生する静電気力を利用することが好ましい。また、本発明者等は、この方法を使用すると、複合潤滑剤の付着効率を良くするだけでなく、塗布の均一性及び複合潤滑剤とワイヤ表面との密着性も向上し、更に印加電圧を調整することにより、複合潤滑剤の付着量も制御することが可能であることを見いだした。
【0032】
即ち、複合潤滑剤に高電圧を加え、複合潤滑剤粒子を帯電させ、ワイヤとの間に静電気力を発生させて、ワイヤに付着させると、付着効率が向上するとともに、付着量の細かい制御が可能となる。霧化された複合潤滑剤粒子が静電気力で反発し、更に微粒子化すると共に、静電気力でワイヤ表面に衝突すると、複合潤滑剤とワイヤ表面の密着性も向上する。
【0033】
<雰囲気制御>
霧化した複合潤滑剤は付着効率を向上させるために、1000cm3乃至5m3程度の容積を有する容器内でワイヤに塗布することが好ましい。更に、静電気力を使用してワイヤに塗布する場合は、この容器をワイヤから完全に絶縁することが好ましい。更に好ましくは、容器内の湿度及び/又は温度、更には複合潤滑剤の温度も一定にし、塗布に関する全ての装置全体を温度制御及び湿度制御すると、塗布精度が向上する。
【0034】
<基油の種類>
また、霧化塗布する複合潤滑剤の成分を検討した結果、油成分としては、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種類以上を基油とすると、この基油にMoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上の固体粉末潤滑剤を分散させた油系複合潤滑剤の給電安定性の向上効果が優れていることを見いだした。上記油と固体粉末潤滑剤の混合をどのような組合せで行っても、給電安定性を向上させるとともに、ヒュームを低減させる効果に大きな差はなく、良好である。
【0035】
<固体潤滑剤粒子の粒径>
更に、複合潤滑剤と送給性の関係を詳細に調査した結果、固体潤滑剤粒子の粒径が重要であることが分かった。いずれの固体潤滑剤粒子を使用した場合も、その粒径が0.1乃至10μmである場合に、最も送給性を向上させる効果が大きい。粒径が0.1μm未満では送給性を向上する効果が少なく、ヒューム低減効果が少ない。一方、粒径が10μmより大きいとワイヤ表面から脱離し易く、十分な潤滑性能が得られない。加えて、粒子径が10μmを超える固体潤滑剤粒子の場合、基油及び水への分散安定性が極端に悪化し、固体粒子量のバラツキが30%を超えてしまって、本発明の目的を達成することができない。また、ワイヤ表面1m2当たり0.002乃至0.02gのKが存在し、その標準偏差が平均塗布量の30%以下であると、更に一層ヒューム発生量が低減する。
【0036】
<複合潤滑剤量測定>
油系複合潤滑剤量の基油部分の量の測定、油系及び水系複合潤滑剤に含まれる元素の同定、及び固体潤滑剤粒子の粒子径の測定は、以下の方法を用いて行うことができる。
【0037】
油系複合潤滑剤の基油部分の量は、ワイヤ表面を四塩化炭素で洗浄し、赤外吸収法で定量測定する。赤外吸収法で測定する場合には四塩化炭素中に一定量の既知の油、即ち吸収強度と濃度の関係が明らかな油を使用して校正し、相対的な量の変化を測定する。赤外吸収法にて油付着量のばらつきを調べる場合は、ワイヤ10mから5g乃至20gの一定量をサンプリングし、表面の基油量を測定すれば良い。ワイヤ表面に存在する油の絶対量は、ワイヤ100gを四塩化炭素で洗浄する前後での質量変化を測定して求めることができる。
【0038】
複合潤滑剤量、潤滑粒子、及びKの付着量が10m中で同時に測定できない場合は、複合潤滑剤量のばらつきを最初の100mで10回測定し、潤滑粒子の付着量は次の100mで10回測定する。
【0039】
<固体潤滑剤粒子の同定>
ワイヤを有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン、石油エーテル等)で洗浄した後、洗浄液をろ紙で濾過し、その後、乾燥する。ろ紙に残った粉末をX線回折解析又は赤外吸収法により結晶性又は分子構造を特定し、化学的分析方によって構成元素の質量比を求め、潤滑粒子の化学組成を決定する。
【0040】
<固体潤滑剤粒子の定量>
「MoS2、WS2」
ワイヤを有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン、石油エーテル等)で洗浄した後、洗浄液をろ紙でろ過し、その後、ろ紙を乾燥する。このろ紙を白煙処理によりMoS2、WS2を溶解し、原子吸光法によってMo、Wを定量化する(この量を夫々Mo(a)及びW(a)とする)。エタノール洗浄した後のワイヤを塩酸(HCl:水=1:1)に浸漬溶解し、MoS2、WS2(b)を遊離させる。ろ液をろ紙でろ過した後、白煙処理によってMoS2、WS2を溶解し、原子吸光法によってMo、Wを定量化する(この量を夫々Mo(b)及びW(b)とする)。そして、Mo(a)+Mo(b)と、W(a)+W(b)とを、夫々MoS2及びWS2に換算し、夫々ワイヤ表面積で除することによって、ワイヤ表面1m2当たりのMoS2及びWS2塗布量を求める。
【0041】
「黒鉛」
ワイヤを有機溶媒(例えばエタノール、アセトン、石油エーテル等)で洗浄した後、洗浄液をガラスフィルタで濾過した後、ガラスフィルタを乾燥させる。このガラスフィルタについてそのまま炭素分を測定する(a)。エタノール洗浄した後のワイヤを硝酸(HNO3:水=1:2)に120秒間浸漬し、ワイヤ表面のみを溶解し、ガラスフィルタで濾過した後乾燥させて、このガラスフィルタをそのまま炭素分測定する(b)。使用前のガラスフィルタの炭素分も測定し、ブランク値(c1、c2)として、これを各データより差し引く。ワイヤ中に固溶した炭素分はフィルタには捕集されず、ロ液に溶解する。従って、ワイヤ表面に付着又は埋め込まれた黒鉛のみがフィルタに捕集され、その量は(a)+(b)−(c1)−(c2)となる。これをワイヤ表面積で除することによって、ワイヤ表面1m2当たりの黒鉛塗布量を測定する。
【0042】
「PTFE」
燃焼中和滴定法によりワイヤ表面のフッ素量を定量化し、PTFEに質量換算する。湿酸素雰囲気で、ソリッドワイヤの場合は反応温度を1000℃、フラックス入りワイヤの場合は反応温度を550℃として、フッ素反応ガスを水に吸収させ、NaOH水溶液で滴定し、フッ素量を求める。
【0043】
「Kの定量」
ワイヤのカットサンプルを約20mm乃至30mm長さで20g程度用意する。石英ビーカに塩酸と過酸化水素を混合した液体を注ぎ、この中にカットサンプルを入れて数秒間浸漬した後、カットサンプルを取り出し、残った液体をろ過する。ろ過後の液体中K濃度を原子吸光法で測定し、ワイヤ1m2当たりのK付着量を測定する。
【0044】
<粒径の測定>
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて粒径を観察する。
【0045】
<ヒューム発生量の測定>
ヒューム発生量は、JIS−Z3930に準拠して測定する。即ち、図7に示すヒューム捕集装置を使用して、溶接電流280A及び適正電圧で溶接時に発生する全ヒュームを捕集し、単位時間当たりのヒューム発生量を求めた。図7において、捕集箱1に観察窓2が設けられており、更に捕集箱1には試料の差入れ口3と空気孔4が設けられている。そして、捕集箱1内には溶接台5が設置されており、捕集箱1の上部には、捕集用濾紙をセットするサンプラ6が設置されている。このサンプラ6の上部は吸引口へ通じている。このように、フィルタ(濾紙)を捕集箱上部の吸引口に取り付けて捕集前後のフィルタの質量変化を測定することにより、ヒューム発生量を求めた。
【0046】
<複合潤滑剤>
次に、複合潤滑剤の塗布方法について説明する。複合潤滑剤を圧縮空気又は遠心力により均一に霧化し、ワイヤ表面に衝突させることにより、ワイヤ表面に均一に塗布する。
【0047】
更に、塗布の安定性及び付着効率を向上させるために、霧化された複合潤滑剤に電圧を加え、静電気力を利用して塗布を行う。この印加電圧を変えることにより、塗布量を精密に制御することが可能となる。その際に、吹き付け用の潤滑剤搬送空気流を使用しないで、遠心力のみを利用して霧化及び搬送を行うことで、塗布効率良く、且つより均一にワイヤ表面に塗布することができる。
【0048】
複合潤滑剤としては、植物油、動物油、鉱物油又は合成油等の基油にMoS2、WS2、黒鉛、PTFE等を分散させたもの(油系複合潤滑剤)を使用しても良く、MoS2、WS2、黒鉛、PTFE等を水溶液に分散させ(水系複合潤滑剤)、これをワイヤに塗布し、乾燥した後、更に植物油、動物油、鉱物油、合成油等の油成分又はこの油成分に固体潤滑剤粒子を分散させた油系複合潤滑剤をワイヤ表面に塗布しても良い。ワイヤ全長に亘って送給性を向上させるためには、この油成分と固体潤滑剤粒子をワイヤ表面に均一に塗布することが極めて重要である。また、基油としては、植物油、動物油、鉱物油、及び合成油から選択された1種以上であることが望ましく、ワイヤ表面に塗布するMoS2、WS2、黒鉛、PTFEの粒径は0.1乃至10μmとすることにより、噴霧時の霧化性が向上し、ワイヤ表面への付着性及び潤滑性が向上し、ヒューム発生量は低減する。更に、ワイヤ表面にKを均一に塗布することでヒューム発生量が更に低減する。K量はワイヤ10mおきに10箇所、ワイヤ100m相当分を測定したとき、そのK量の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002乃至0.02gの範囲にあり、標準偏差が平均塗布量の30%以下であることが望ましい。
【0049】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。使用したワイヤは、線径が1.2mmのJISZ3312YGW16の銅めっきあり軟鋼ソリッドワイヤ及びめっき無し軟鋼ソリッドワイヤ、JISZ3313YFW−C50DXの銅めっきあり軟鋼フラックス入りワイヤ及びめっき無しの軟鋼フラックス入りワイヤの4種類である。これらのワイヤに基油と固体潤滑剤粒子からなる油系複合潤滑剤を圧縮空気又は遠心力により霧化し、塗布した。又は、固体潤滑粒子が水に分散した水系複合潤滑剤を圧縮空気又は遠心力により霧化し、ワイヤに塗布、乾燥した後、基油と固体潤滑剤粒子又はK粒子からなる複合潤滑剤を、圧縮空気又は遠心力により霧化し、ワイヤに塗布した。塗布は、最終径でワイヤ表面の伸線潤滑剤を取り除いてから行った。塗布量の調整は、電圧を加えていない場合は、複合潤滑剤の霧化量を、電圧を加えている場合は、霧化量と印加電圧の片方又は両方を変えて行った。
【0050】
以下に、本発明の実施例及び比較例を表1から表4にて説明する。
表1は全て「めっきなし軟鋼用ソリッドワイヤ」を素材に使用した結果であって、実施例No.1乃至No.9はワイヤへの塗布方法として、「請求項2」の「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、一時に塗布する方法で製造したものである。実施例No.1乃至No.5は、圧縮空気で前記複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。また、実施例No.6乃至No.9は回転型静電霧化装置を使用し、遠心力で前記複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。塗布された複合潤滑剤の量のワイヤ長手方向のバラツキが30%以下であれば、ヒューム発生量は従来技術である比較例No.25乃至No.28に比較して、ほぼ半減している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.3,No.4,No.8,No.9のように、油塗布剤へ静電気を印加すれば良い。これらのものは、ヒューム発生量もより低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.2,No.7,No.9)は、前記範囲を外れるものに比べ、若干ではあるがヒューム発生量が低減することがわかる。ここで、実施例No.4はK量が0.07gであって「請求項4」の範囲を外れるのではあるがヒューム発生量は最も少ない。これは、Kのアーク安定化効果によってヒュームは低減するのであるが、過剰なK化合物がコンジットライナーに堆積し、送給性を不安定にするため実用には適さない。
【0051】
表1の実施例No.10乃至No.18はワイヤへの塗布方法として、「請求項3」の塗布方法で製造したものであって、前段工程で固体潤滑剤粒子を配合した水系溶媒の水系複合潤滑剤の形で塗布し、水分乾燥後、前記の「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、2次的に塗布する方法で製造したものである。この塗布方法によれば、固体潤滑剤粒子の被塗布量を1桁近く多くすることができる。ヒューム発生量としては、従来技術である比較例No.25乃至No.28に比較して、ほぼ半減している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.12,No.13,No.14,No.17,No.18のように、油系複合潤滑剤に静電気を印加すれば良い。これらのものは、ヒューム発生量もより低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.11,No.16,No.18)は、前記範囲を外れるものに比べ、若干ではあるがヒューム発生量が低減した結果である。ここで、実施例No.13はK量が0.07gであって「請求項4」の範囲を外れるのではあるがヒューム発生量は最も少ない。これは、Kのアーク安定化効果によってヒュームは低減するのであるが、過剰なK化合物がコンジットライナーに堆積し、送給性を不安定にするため実用には適さなかった例である。
【0052】
表1の比較例No.19乃至No.24は固体潤滑剤粒子の粒子径が請求項1から外れる例である。比較例No.19,No.21,No.23は、粒子径が0.1μm未満であってワイヤ送給性が安定せず、ヒューム発生量も多かった。一方、比較例No.20,No.22,No.24は、粒子径が10μmを超えるものである。固体粒子径が大きいと、基油又は水への分散安定性が極端に悪化し、固体粒子量のバラツキが30%を超えてしまった。更に、ワイヤ表面から固体粒子が脱落し易く、十分なワイヤ潤滑性能が得られないため送給性も極めて不安定であって、ヒューム採取のための溶接ができなかった。
【0053】
表2は全て「めっきなし軟鋼用フラックス入りワイヤ」を素材に使用した結果であって、実施例No.29乃至No.36はワイヤへの塗布方法として、「請求項2」の「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、一時に塗布する方法で製造したものである。その中で、実施例No.29乃至No.32は圧縮空気で前記油系複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。また、実施例No.33乃至No.36は回転型静電霧化装置を使用し、遠心力で前記油系複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。塗布された油系複合潤滑剤の量のワイヤ長手方向のバラツキが30%以下であれば、ヒューム発生量は従来技術である比較例No.45乃至No.49に比較して、約3割減少している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.31,No.32,No.35,No.36のように油系複合潤滑剤に静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.30,No.32,No.34,No.36)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0054】
表2の実施例No.37乃至No.44はワイヤへの塗布方法として、「請求項3」の塗布方法で製造したものであって、前段工程で「固体潤滑剤粒子を配合した水系溶媒の水系複合潤滑剤」の形で塗布し、水分乾燥後、前記「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、2次的に塗布する方法で製造したものである。この塗布方法によれば、固体潤滑剤粒子の被塗布量を1桁近く多くすることができる。ヒューム発生量としては、従来技術である比較例No.45乃至No.49に比較して、約3割減少している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.39,No.40,No.43,No.44のように塗布剤へ静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.38,No.40,No.42,No.44)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0055】
表3は全て「銅めっき有り軟鋼用ソリッドワイヤ」を素材に使用した結果であって、実施例No.50乃至No.58はワイヤへの塗布方法として、「請求項2」の「基油(油成分)+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、一時に塗布する方法で製造したものである。その中で、実施例No.50乃至No.54は圧縮空気で前記油系複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。また、実施例No.55乃至No.58は回転型静電霧化装置を使用し、遠心力で前記複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。塗布された複合潤滑剤の量のワイヤ長手方向のバラツキが30%以下であれば、ヒューム発生量は従来技術である比較例No.69乃至No.72に比較して、ほぼ半減している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.53,No.54,No.55,No.57,No.58のように油系複合潤滑剤に静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.51,No.56,No.58)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0056】
表3の実施例No.59乃至No.67はワイヤへの塗布方法として、「請求項3」の塗布方法で製造したものであって、前段工程で「固体潤滑剤粒子を配合した水系溶媒の水系複合潤滑剤」の形で塗布し、水分乾燥後、前記「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、2次的に塗布する方法で製造したものである。この塗布方法によれば、固体潤滑剤粒子の被塗布量を1桁近く多くすることができる。ヒューム発生量としては、従来技術である比較例No.69乃至No.72に比較して、ほぼ半減している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.61,No.62,No.63,No.66,No.67のように塗布剤へ静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.65,No.67)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0057】
表4は全て「銅めっき有り軟鋼用フラックス入りワイヤ」を素材に使用した結果であって、実施例No.73乃至No.80はワイヤへの塗布方法として、「請求項2」の「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、一時に塗布する方法で製造したものである。その中で、実施例No.73乃至No.76は圧縮空気で前記油系複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。また、実施例No.77乃至No.80は回転型静電霧化装置を使用し、遠心力で前記油系複合潤滑剤を霧化し塗布したものである。塗布された複合潤滑剤の量のワイヤ長手方向のバラツキが30%以下であれば、ヒューム発生量は従来技術である比較例No.89乃至No.92に比較して、約3割強減少している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.75,No.76,No.79,No.80のように油系複合潤滑剤に静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.74,No.76,No.78,No.80)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0058】
表4の実施例No.81乃至No.88はワイヤへの塗布方法として、「請求項3」の塗布方法で製造したものであって、前段工程で「固体潤滑剤粒子を配合した水系溶媒の水系複合潤滑剤」の形で塗布し、水分乾燥後、前記の「基油+固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤」を、2次的に塗布する方法で製造したものである。この塗布方法によれば、固体潤滑剤粒子の被塗布量を1桁近く多くすることができる。ヒューム発生量としては、従来技術である比較例No.89乃至No.92に比較して、約3割強減少している。このバラツキ度を抑制するためには、実施例No.83,No.84,No.87,No.88のように塗布剤へ静電気を印加すれば良い。これらのものは静電気を印加していないものに比べ、ヒューム発生量が若干低減した結果になっている。また、K量が「請求項4」の0.002〜0.02gの範囲にあるもの(No.82,No.86)は、前記の適正K量範囲を外れるものに比べ、ヒューム発生量がより低減することがわかる。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、ワイヤ表面に油成分及び固体潤滑剤粒子がワイヤ周方向及び長手方向の双方について均一に塗布されているので、給電安定性が向上し、ヒューム発生量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接用ワイヤと給電チップとの接触状態を模式的に示す図である。
【図2】絶縁膜で分割した3層分割給電チップを試作し、下部▲1▼、中間▲2▼、上部▲3▼からワイヤに流入する電流を直接測定する方法を示す図である。
【図3】(a)、(b)はその分流電流の測定例を示す図である。
【図4】チップ抵抗と送給抵抗の測定方法を示す図である。
【図5】溶接せずにインチングしたときのチップ抵抗と送給抵抗を示す図であり、(a)は本発明の比較例であり、(b)は本発明の実施例である。
【図6】YGW16相当の銅めっきありのソリッドワイヤを280Aで溶接を行った場合のチップ抵抗と送給抵抗を示し、(a)は本発明の比較例、(b)は本発明の実施例である。
【図7】ヒューム捕集装置を示す図である。
【符号の説明】
1;捕集箱
2;観察窓
3;差入れ口
4;空気孔
5;溶接台
6;サンプラ
Claims (4)
- ワイヤ表面に油成分と固体潤滑剤粒子とが塗布されており、前記油成分は植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種以上であって、その油成分量及び固体潤滑剤粒子量を10m毎に10箇所測定したとき、前記油成分の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.1乃至0.4gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であり、前記固体潤滑剤粒子は、その粒子径が0.1〜10μmであるMoS2、WS2、黒鉛及びPTFEからなる群から選択された1種類以上であって、その平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002〜0.3gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であることを特徴とする溶接用ワイヤ。
- 前記油成分と固体潤滑剤粒子は、前記油成分を基油とし、前記固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤の形で塗布されたものであることを特徴とする請求項1に記載された溶接用ワイヤ。
- 前記油成分と固体潤滑剤粒子は、前記固体潤滑剤粒子を水系溶媒に配合した水系複合潤滑剤の形で塗布された後、前記油成分又は前記油成分を基油として前記固体潤滑剤粒子を配合した油系複合潤滑剤が重ねて塗布されたものであることを特徴とする請求項1に記載された溶接用ワイヤ。
- ワイヤ表面のK量をワイヤ10mおきに10箇所測定したとき、そのK量の平均値がワイヤ表面1m2当たり0.002〜0.02gの範囲にあり、標準偏差が平均値の30%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接用ワイヤ。
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