JP2004033003A - Pnaおよび一本鎖核酸切断ヌクレアーゼを用いた一塩基多型を含む核酸内の変異の非標識検出方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、変異の簡便かつ安価な検出方法を提供する。
【解決手段】核酸内の変異を検出する方法であって、(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、そして、(b) 上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させることを含む、上記方法に関する。
【選択図】 なし
【解決手段】核酸内の変異を検出する方法であって、(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、そして、(b) 上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させることを含む、上記方法に関する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、核酸またはプローブの標識化を必要としない、一塩基多型(SNP)を含む核酸内の変異の簡便な検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子の変異は、種々の疾患に関与することが判っており、また様々な生物学的活性および生物学的形質に影響を与えることが判っているため、これらを検出することは、当技術分野において大変興味深い。
【0003】
特に、一塩基多型(SNP; Single nucleotide polymorphism)は、多数の疾患の病因となるゲノム中に存在する一塩基のみ異なっていることを特徴とする多型であり、疾患易羅患性(即ち、疾患へのかかりやすさ)、疾患の治療に対する感受性、疾患治療薬に対する副作用の危険性などの個人差にも関与している。SNPの型決定はこれらの予見および/または予測を可能とするため、医学および薬学的な利用価値が大きい。例えば、CYP2D6における一塩基多型は、個体の薬物代謝速度を予測するために用いることができる。
【0004】
さらに、薬理ゲノム学の分野における変異(特にSNP)の重要性は年々増大している。薬理ゲノム学への広範囲に及ぶ変異の応用およびゲノム内に広く存在する疾患感受性遺伝子を同定するための方法の開発が必要とされている。数年来、ローリングサークル型増幅(Hatch, ら (1999) Genetic Analysis, Biomolecular Engineering 15:35−40)、フローサイトメトリー、および一塩基鎖伸長法(Chen, ら (2000) Genome Res. 10:549−557; Iannone, ら (2000) Cytometry 39:131−140)、高密度オリゴヌクレオチドアレイ(Wang, ら (1998) Science 280:1077−1082; Fan, ら (2000) Genome Res. 10:853−860)、および光ファイバー遺伝子アレイ(Steemers, ら (2000) Nat. Biotechnol. 18:91− 94)などの固相基板(ビーズを含む)を用いる方法をはじめとし、多様なSNP検出手法が開示されている(Landegren,ら (1998) Genome Res. 8:769−776参照のこと)。これらは、PCR反応、および標識化合物を利用する手法である。これらの方法は、SNPの型決定および変異の正確な検出ができるが、工程が複雑でありかつ従事者の熟練を要する。さらに、複数種の高価な実験設備を必要とするなど、経費の面でも不利な点が多い。
【0005】
そこで、当技術分野において、簡便かつ安価に実施できるSNPを含む遺伝子の変異を検出する方法が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、試験サンプル核酸またはプローブを標識化することなく、試験サンプル核酸内の変異を迅速かつ簡便に検出する方法を提供することを目的とする。さらに、検出機器を必要としない、視覚的観察により変異が検出できる方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、変異を有する核酸に対するプローブとしてペプチド核酸(PNA; peptide nucleic acid)を用いて、該核酸とPNAとの複合体を形成させ、該複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ消化に供すると、ミスマッチによる非会合塩基対を含有する複合体は一本鎖核酸切断ヌクレアーゼにより消化されるが、フルマッチ複合体(即ち、プローブが核酸の対応する配列と完全に会合した場合)は一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによる消化を受けないので複合体のまま存在するため、シアニン染料を加えると、ミスマッチプローブとの複合体を含む試料はその吸収極大が646nm付近に存在するのに対して、フルマッチプローブとの複合体を含む試料はその吸収極大が534nm付近に変化することを見出した。
この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は以下の態様;
1. 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、そして、
(b) 上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させること、
を含む、上記方法、
2. 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が起こらないがその他の1本鎖核酸が切断可能な条件下で実施することを特徴とする、上記1記載の方法、
3. 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件下で実施することを特徴とする、上記1記載の方法、
4. ステップ(b)における一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応の後、さらに、
(c) 該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の塩基長または質量を特定することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、上記1〜3のいずれかに記載の方法、
5. 上記ステップ(c)における該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の質量の特定が、TOF/MS分析を含むものである、上記4記載の方法、
6. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記1〜5のいずれかに記載の方法、
7. 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、
(b) ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件下で、上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させてインキュベートし、そして、
(c) 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体を検出することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、上記方法、
8. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出がTOF/MS分析を含むものである、上記7記載の方法、
9. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が電気泳動手法を含むものである、上記7記載の方法、
10. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が二本鎖核酸を検出可能な染料を用いる手法を含むものである、上記7記載の方法、
11. 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、上記10記載の方法、
12. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの光吸収スペクトルの変化を分光光度計により測定することをさらに含む、上記10または11記載の方法、
13. 核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの色調変化を視覚的に観察することにより行われる、上記10または11記載の方法、
14. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記7〜13のいずれかに記載の方法、
15. 核酸−ペプチド核酸複合体を検出するためのキットであって、
(a) 1種以上のペプチド核酸プローブ、
(b) 1種以上の一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ、
を含む、上記キット、
16. (c) 1種以上の二本鎖核酸を検出可能な染料をさらに含む、上記15記載のキット、
17. 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、上記16記載のキット、
18. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記15〜17のいずれかに記載のキット、
19. 1種以上のペプチド核酸プローブが固相に固定化されていることを特徴とする、上記1〜14のいずれかに記載の方法に使用するための核酸内の変異を検出するためのアレイ、ならびに、
20. 1種以上のペプチド核酸プローブが上記19記載のアレイの形態である、上記15〜18のいずれかに記載のキット、
に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本明細書中に記載する、「核酸」とは、天然に存在するまたは人工的に合成/構築されたDNAおよびRNAを含むあらゆるポリヌクレオチドを包含する。
【0010】
本明細書中に記載する、「変異」とは、核酸内の塩基配列において、連続した5塩基以下、好ましくは2〜3塩基、最も好ましくは1塩基が対象とする塩基配列の対応する部分の塩基と異なっていることを指し、一塩基多型(SNP)を包含する。
【0011】
本明細書中に記載する「ペプチド核酸(PNA)」とは、ポリペプチド骨格に核酸塩基が結合した構造を有する化合物である。ポリペプチド骨格の例としては、2−アミノエチルグリシンを骨格単位とするものが挙げられるが、これに限定はされない。該PNAは、核酸分解酵素により分解されないため、DNAまたはRNAより安定性に優れている。さらに、ペプチド分解酵素によっても分解されない。さらに、PNAは、DNAまたはRNAと強いWatson−Crick塩基対を形成することができ、PNAとDNAまたはRNAとの二本鎖複合体は、DNA−DNA複合体またはRNA−DNA複合体より安定性が高い。したがって、PNAは、それをプローブに用いることにより、DNAまたはRNAをプローブとした場合には困難なハイブリダイゼーションを容易にする。PNAの核酸へのハイブリダイゼーションは、核酸同士のハイブリダイゼーションと同様に実施することができるので、本明細書中、PNAと核酸との複合体を形成させる際の「ハイブリダイズ可能な条件」とは、ミスマッチプローブおよびフルマッチプローブの双方ともが試験サンプル核酸の対応する塩基配列中に特異的にハイブリダイズし得る条件をいい、使用するプローブの配列および長さに応じて、温度ならびに/または塩および/もしくは界面活性剤等のバッファー組成および/もしくは濃度等を変更することにより設定することが可能であり、当業者には容易に設定することができる。また、PNAプローブを(好ましくは、該核酸分子の濃度に対して1倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上)の濃度となるようにPNAプローブを該溶液中に添加し、溶液中に含まれる二本鎖核酸を熱変性などの当業者には周知の方法によって一本鎖にし、時間をかけて室温にまで冷ますという方法で、核酸−PNA複合体を形成させることができるが、この方法に限らない。核酸−PNA複合体を形成させるための種々の方法および条件は当業者には公知である。さらに、予め固相に結合させたPNAプローブを用いても、核酸−PNA複合体を形成させることができる。
【0012】
本発明の方法に用いるPNAプローブは、試験サンプル中の核酸(ゲノムの二本鎖核酸である場合は、いずれかの鎖でもよい)の検出すべき変異塩基を含む配列に相補的になるように設計する。「変異塩基」とは、核酸内の変異を有していると考えられ得る位置に存在する塩基を指し、即ち、異なる変異型では、変異塩基が異種の塩基である。該PNAプローブ中に含まれる変異塩基は、その異種の塩基のうちのいずれかに対する相補的塩基となるように設計すればよい。遺伝子内の変異は、さまざまなものが公知であり、今後もゲノム解析およびそれに続く研究により多くのものが報告されるであろう。検出すべき変異がSNPである場合でも、これらのSNP塩基およびその近隣の核酸配列は、さまざまなデータベースおよび文献に見出すことができる。該PNAプローブ中の変異塩基以外の塩基は、その変異が存在する一本鎖核酸に対して完全に相補的であるように設計する。該PNAプローブのどの位置に変異塩基を含んでもよいが、該PNAプローブの核酸配列の両端の塩基は変異塩基ではないことが好ましい。さらには、該PNAプローブの核酸配列の両端から3塩基以内、好ましくは5塩基以内の塩基には変異塩基が含まれないことが好ましく、該PNAプローブの核酸配列の真ん中付近に変異塩基が存在するように該PNAプローブを設計することが最も望ましい。該PNAプローブの塩基長は、5塩基以上、好ましくは10塩基以上、さらに好ましくは15塩基以上、最も好ましくは18塩基以上であり、特にヒトゲノム中の変異を検出するためには、17塩基または18塩基以上が好ましいが、さらにPNAプローブの溶解性の問題および/または調製の便宜の点から、50塩基以下、好ましくは30塩基以下のものが好ましい。このような条件に沿ったPNAプローブの設計は、当業者であれば容易に達成し得る。
【0013】
本明細書に用いる「フルマッチ」という用語は、試験サンプル核酸中の該変異塩基が、用いたPNAプローブ中に含まれる変異塩基と相補的であり、PNAプローブとサンプル中の核酸の対応する部分の全ての塩基との間で相補的塩基対形成が起こることを指し、「フルマッチプローブ」とは試験サンプル核酸中の変異塩基に相補的な塩基を変異塩基の位置に含んでおり、変異塩基以外の位置もまた試験サンプル核酸の対応する塩基に相補的な塩基からなっているプローブをいう。「ミスマッチ」とは、試験サンプル核酸中の該変異塩基が、用いたPNAプローブ中に含まれる変異塩基に相補的ではなく、これらの変異塩基同士が塩基対形成しないことを指し、「ミスマッチプローブ」とは、変異塩基の位置に試験サンプル核酸中の変異塩基に対して非相補的であり、かつ変異塩基以外の位置には「フルマッチプローブ」と同じく、試験サンプル核酸の対応する塩基に相補的な塩基を有しているプローブをいう。
【0014】
本明細書中に用いる「一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ」とは、一本鎖核酸を切断可能なエンドヌクレアーゼを指し、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼが挙げられるがこれらに限定はされない。
【0015】
本明細書中に用いる「ミスマッチ塩基の酵素的切断が起こらないがその他の一本鎖核酸が切断可能な条件」とは、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが塩基対形成していない一本鎖核酸を切断するが、ミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合は切断しない条件をいう。一般的には、下記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」より、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応が進行し難い、すなわち弱い条件ということができる。
【0016】
本明細書中に用いる「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」とは、使用する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが塩基対形成していない一本鎖核酸に加えて、ミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合をも切断し得るが、PNAプローブ中の塩基と塩基対形成した核酸は切断し得ない条件をいい、例えば、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼを含有する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応用バッファー(例えば、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロール)中に1〜100μM好ましくは5〜50μM、特に好ましくは10〜30μMの濃度となるように核酸−PNA複合体が含まれており、温度は15℃〜37℃、好ましくは20〜25℃であり、かつ反応時間は10分以上、好ましくは20分以上である条件を指す。通常、この条件に用いる一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの濃度は0.5〜5 U/μlの範囲内である。該酵素濃度を1U/μl以上に設定した場合、反応温度は20〜25℃、反応時間は20分以上という条件が特に好ましい。しかし、これらの条件は、PNAプローブとハイブリダイズし得る試験サンプル核酸の配列、および条件中の他の要件などに応じて変化し得る。当業者であれば、これらの条件は通常の知識および/または日常的かつ簡単な実験を予め実施することにより設定できる。このような条件では、核酸−PNA複合体中の核酸のミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合も一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによる分解を受ける。しかし、このような反応条件下でも、フルマッチプローブを含む核酸−PNA複合体は、完全な相補的塩基対形成した二本鎖であるため、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ分解は受けない。本発明の方法はこの事実に基づいている。
【0017】
本明細書中に用いる、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件」とは、使用する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、PNAプローブと塩基対形成していない一本鎖核酸およびミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合を切断し得、かつPNAプローブと塩基対形成している試験サンプル核酸中の塩基がPNAプローブの塩基から解離し、この解離した塩基が一本鎖核酸切断ヌクレアーゼにより該核酸から切断され得る条件をいう。すなわち、このような条件下では、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによりPNAプローブと塩基対形成していない一本鎖核酸およびミスマッチ塩基と隣接する塩基との間の結合が切断されて、PNAプローブ1分子に対して該切断により生じる2つの核酸分子がハイブリダイズした形態の産物が反応溶液中に生じるが、該産物はフルマッチPNAプローブとハイブリダイズした核酸−PNA複合体より1分子あたりの核酸に含まれる塩基の数が少ないため、1分子あたりの核酸のハイブリダイゼーション強度はフルマッチ核酸−PNA複合体のそれと比較すると弱いので、解離し易く、フルマッチPNAプローブとハイブリダイズした核酸−PNA複合体は解離せず安定して複合体を維持できるが、ミスマッチ塩基対を含む核酸−PNA複合体は解離してヌクレアーゼにより分解される。このような条件下では、上記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」下の場合と比較して、核酸−PNA複合体が解離し易く、かつ/または解離した塩基を速やかに核酸分子から切断するために十分な一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ活性を含有していることが望ましい。例えば、上記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」と同様の反応溶液組成を用いることもできるが、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの活性が十分に維持できる限度内で温度を上昇させるか、温度を上昇させることにより喪失される酵素活性を補充するため、もしくは解離した塩基をより速やかに分解できるように酵素濃度を上げるか、または反応時間を延長することも可能である。通常、この条件に用いる一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの濃度は1〜10U/μl、好ましくは1.5〜5U/μlの範囲内である。これらの条件は、PNAプローブとハイブリダイズし得る試験サンプル核酸の配列、および条件中の他の要件などに応じて変化し得る。当業者であれば、これらの条件は通常の知識および/または日常的かつ簡単な実験を予め実施することにより設定できる。
【0018】
本発明の1つの態様として、本発明の方法により得られた反応産物溶液中に残存する核酸−PNA複合体または該複合体中に含まれる核酸を電気泳動的に検出することが可能である。該複合体をTOF/MS解析に供して、含有される核酸の質量によりその配列を特定することもできる。さらに、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」を用いて反応を実施した場合は、該複合体中に試験サンプル核酸に対してPNAプローブがミスマッチであるために変異塩基の位置で切断された短い核酸が検出され、試験サンプル核酸に対してPNAプローブがフルマッチであったため変異塩基の位置で切断を受けていない核酸が検出されるかということにより、変異を判定できる。あるいは、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件」を用いて反応を実施した場合は、試験サンプル核酸に対してPNAプローブがミスマッチであった場合は核酸は検出されないか、上記変異塩基の位置で切断された短い核酸よりもさらに短い核酸となって検出されるため、変異を判定できる。
【0019】
二本鎖核酸を検出可能な染料を用いると、TOF/MSまたは電気泳動による解析よりもさらに簡便に変異を検出できる。本発明の方法に用いる二本鎖核酸を検出可能な染料は、二本鎖核酸に吸着または結合して、光学的特徴により二本鎖核酸を検出することができる任意の化合物である。即ち、二本鎖核酸を含む試料溶液中に混合すると、二本鎖核酸に吸着または結合して、その光吸収スペクトルまたは蛍光スペクトルの変化が起こるという特徴を有するいかなる化合物でもよい。該光吸収スペクトルの変化は、可視光領域内に限らず、赤外、近赤外または紫外光領域で起こる場合もあり、これらを検出することも可能である。かかる染料の例としては、シアニン染料(cyanin dye DiSc2)、臭化エチジウム、アクリジンオレンジなどが挙げられるがこれらには限定されない。このような光吸収スペクトルまたは蛍光スペクトルの変化は、公知の方法で測定することができ、そのための分析機器も多種多様な機種が当業者には普及しており、適宜選択して用いるとよい。特に好ましい本発明の方法に用いる二本鎖核酸を検出可能な染料は、シアニン染料DiSc2である。該染料溶液は、二本鎖核酸に結合していない状態では640〜650nm付近(具体的には646nm)に吸収極大波長を有し青色を呈するが、二本鎖核酸に結合した状態では530〜540nm付近(具体的には534nm)に吸収極大波長を有し紫色を呈する。このような吸収極大波長の変化は、一般的な可視光用の分光光度計により測定することができる。さらに、青色から紫色への色調変化を視覚的観察により判断することもできる。即ち、本発明の方法においてシアニン染料を用いる態様では、プローブと試験サンプル核酸とがミスマッチである場合は青色を呈するのに対して、フルマッチである場合は紫色を呈し、この試験サンプル溶液の色調の相違は肉眼で容易に観察でき、変異を肉眼による視覚的観察によって検出し得る。
【0020】
このような検出アッセイは、安価な、試験管、マイクロチューブ、96または384ウェル等のマルチウェルプレートなどの容器内で実施でき、ハイブリダイゼーションおよび一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ消化の温度条件を設定し得る設備等(インキュベーター、温度調節用水浴など)の安価かつ汎用な設備さえあれば、実施できる。さらに、本発明の方法は、作業行程が簡便かつ単純であることから、自動化が極めて容易であり、多検体を短時間で試験するハイスループットスクリーニング系への利用が可能である。さらに、本発明の方法は、標識化合物を用いる必要がないということが大きな利点である。
【0021】
さらに、本発明の他の態様は、PNA−核酸複合体を検出するためのキットである。該キットは、上記のように設計された1種以上のPNAプローブ、1種以上の一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ(S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼまたはP1ヌクレアーゼが例として挙げられるが、これらに限定はされない)を含む。さらに、1種以上の二本鎖核酸を検出可能な染料(例えば、シアニン染料)を含んでもよい。PNAプローブとしては、変異の検出をより確実なものとするために、変異塩基のみが異なる2種以上のプローブを含むこともできる。さらに、上記プローブ、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼおよび染料は、キットを使用する者の便宜に合わせて、かつ保存および/または輸送期間中の安定性を付与し得る形態でキットに含ませることができる。さらに、該キットには、本発明の方法に使用するバッファー又はバッファー組成物、反応停止液および反応容器を合わせて提供することもでき、使用方法を解説した使用説明書を添付することが好ましい。
【0022】
1種以上の変異検出用のPNAプローブが固相に固定化されている変異検出用アレイも本発明の範囲に包含することができる。このようなアレイはまた、上記キットの一部として提供され得る。該アレイに用いる固相は、通常の核酸アレイに用いるものでよく、固定化の方法も様々なものが当業者に公知である。PNAは核酸に比べて、非常に安定性が高いため、該アレイは公知の方法でハイブリダイズしたサンプルを洗浄することにより、核酸を接着させたアレイに比べて再利用性に優れている。該アレイを利用して、試験サンプル核酸とインキュベートして、上記と同様な方法で一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応に供して変異の検出を行うことができ、生物ゲノム中のさまざま位置に存在する複数の変異を一度に検出することができる。複数の変異に対するPNAプローブの設計および反応条件の設定は、当業者の通常の知識および日常的な試験により容易になし得る。反応条件(例えば、温度、塩濃度など)を経時的にシフトさせることも可能であり、また経時的に光吸収スペクトルの変化を検出することも可能である。このような手法により、異なる反応条件を要求する複数のPNAプローブを用いて、複数の変異を一度に検出することが可能であることは、当業者には理解できる。
【0023】
このことから、本発明の方法は、非常に簡便かつ安価な変異検出法であるという大きな利点を有している。さらに、本発明の方法の利点としては、PCR反応を必要としないこと、検出工程が単純で非常に簡単に習得できること、および短時間で実施できることが挙げられる。また、反応後の溶液中には、最初の試験サンプル中に含有されていた核酸二本鎖が存在しないため、検出の際のバックグラウンドの影響がないかもしくは非常に低いレベルであるということも本発明の方法の利点である。
【0024】
【実施例】
試験サンプル DNA および PNA プローブ
試験サンプルDNAとしては、配列番号1〜4に示す配列を有するDNA(DNA−30G、DNA−30C、DNA−30AおよびDNA−30T)を合成機により合成した後、常法により精製した。これらは15塩基目の塩基のみを異にする配列を有している。PNAプローブには、配列番号5に示す配列を有するPNAをW.C.ChanおよびP.D.White(Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis(Oxford University Press New York, 2000中、41頁の題「A practical approach」の章参照のこと)の方法により合成した。該PNAプローブは、DNA−30Cに対してフルマッチプローブとなり、DNA−30G、DNA−30AおよびDNA−30Tに対しては一塩基のみミスマッチするミスマッチプローブとなる。
【0025】
1. TOF/MS 分析による検出
DNA−PNA 複合体形成
各試験サンプルDNA(10μM)およびPNAプローブ(20μM)をNaClまたは酢酸ナトリウム(10 mM)溶液(10μl)中で90℃で50分間加熱し、2時間かけて室温まで徐々に冷却した。この冷却の際にDNA−PNA複合体が形成する。
【0026】
S 1ヌクレアーゼ反応
上記複合体を含有する溶液を、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロールという反応液(150μl)の組成になるように調製し、10℃で30分水浴中でインキュベートした。その後S1ヌクレアーゼを0.25U/μLとなるように添加して反応を開始させ、10℃で20分水浴中でインキュベートした。EDTA溶液を用いて反応を停止させ、TOF/MS分析に供した。その結果を図1および表1に示す。なお、PNAの代わりに、用いたPNAと同様の配列を有するDNAをプローブとして用いた場合には、重量体が検出されず、変異塩基の検出は不可能であった。
【0027】
【表1】
【0028】
2.色素による検出
S 1ヌクレアーゼ反応
上記と同様の複合体を含有する溶液を、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロールという反応液(150μl)の組成になるように調製し、20℃で30分水浴中でインキュベートした。その後、S1ヌクレアーゼを5.0U/μLとなるように添加して反応を開始させ、20℃で20分水浴中でインキュベートした。EDTA溶液を用いて反応を停止させ、シアニン色素(3’,3’−diethylthiodicarbocyanine iodide; Sigma−Aldrich)溶液(メタノール中、1.5mM、10μl)を加えて、可視−UVスペクトル(JASCO, V−530)を分析した。その結果を図1に示す。また、該溶液の染料の色調変化を視覚的に検出することができた。なお、PNAの代わりに、用いたPNAと同様の配列を有するDNAをプローブとして用いた場合には、変異塩基の検出は不可能であった。
【0029】
【発明の効果】
以上の実施例に示したように、本発明は塩基配列中の一塩基の相違を非常に簡便に検出し得、検出装置を必要としない視覚的観察により変異を検出し得る。
【0030】
したがって、本発明は、非常に簡便かつ安価な変異検出法およびそれに有用なキットを提供し得る。本発明による検出方法は、実施例の実験手法に拘束されることなく、染料を用いた染色法以外にも電気泳動的手法、TOF/MS分析などの手法のなかから好都合のものを、当業者の通常の知識に基づいて選択して用いることが可能である。本発明の方法のさらなる利点としては、PCR反応を必要としないこと、検出工程が単純で非常に簡単に習得できること、および短時間で実施できることと共に、核酸およびプローブのいずれをも標識化合物で標識する必要がないこと、さらに、反応後の溶液中には最初の試験サンプル中に含有されていた核酸二本鎖が存在しないため、検出の際のバックグラウンドの影響がないかもしくは非常に低いレベルであるという利点がある。
【0031】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、TOF/MS分析により解析した結果のうち、フルマッチのDNA−30G(左)およびミスマッチのDNA−30T(右)の解析結果を示す。
【図2】図2は、シアニン色素(3’,3’−diethylthiodicarbocyanine iodide)溶液を用いて、配列番号1〜4に示す配列を有するDNA(DNA−30G、DNA−30C、DNA−30AおよびDNA−30T)中の変異を、配列番号5に示す配列を有するPNAプローブを用いて検出した可視−UVスペクトルを示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、核酸またはプローブの標識化を必要としない、一塩基多型(SNP)を含む核酸内の変異の簡便な検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子の変異は、種々の疾患に関与することが判っており、また様々な生物学的活性および生物学的形質に影響を与えることが判っているため、これらを検出することは、当技術分野において大変興味深い。
【0003】
特に、一塩基多型(SNP; Single nucleotide polymorphism)は、多数の疾患の病因となるゲノム中に存在する一塩基のみ異なっていることを特徴とする多型であり、疾患易羅患性(即ち、疾患へのかかりやすさ)、疾患の治療に対する感受性、疾患治療薬に対する副作用の危険性などの個人差にも関与している。SNPの型決定はこれらの予見および/または予測を可能とするため、医学および薬学的な利用価値が大きい。例えば、CYP2D6における一塩基多型は、個体の薬物代謝速度を予測するために用いることができる。
【0004】
さらに、薬理ゲノム学の分野における変異(特にSNP)の重要性は年々増大している。薬理ゲノム学への広範囲に及ぶ変異の応用およびゲノム内に広く存在する疾患感受性遺伝子を同定するための方法の開発が必要とされている。数年来、ローリングサークル型増幅(Hatch, ら (1999) Genetic Analysis, Biomolecular Engineering 15:35−40)、フローサイトメトリー、および一塩基鎖伸長法(Chen, ら (2000) Genome Res. 10:549−557; Iannone, ら (2000) Cytometry 39:131−140)、高密度オリゴヌクレオチドアレイ(Wang, ら (1998) Science 280:1077−1082; Fan, ら (2000) Genome Res. 10:853−860)、および光ファイバー遺伝子アレイ(Steemers, ら (2000) Nat. Biotechnol. 18:91− 94)などの固相基板(ビーズを含む)を用いる方法をはじめとし、多様なSNP検出手法が開示されている(Landegren,ら (1998) Genome Res. 8:769−776参照のこと)。これらは、PCR反応、および標識化合物を利用する手法である。これらの方法は、SNPの型決定および変異の正確な検出ができるが、工程が複雑でありかつ従事者の熟練を要する。さらに、複数種の高価な実験設備を必要とするなど、経費の面でも不利な点が多い。
【0005】
そこで、当技術分野において、簡便かつ安価に実施できるSNPを含む遺伝子の変異を検出する方法が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、試験サンプル核酸またはプローブを標識化することなく、試験サンプル核酸内の変異を迅速かつ簡便に検出する方法を提供することを目的とする。さらに、検出機器を必要としない、視覚的観察により変異が検出できる方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、変異を有する核酸に対するプローブとしてペプチド核酸(PNA; peptide nucleic acid)を用いて、該核酸とPNAとの複合体を形成させ、該複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ消化に供すると、ミスマッチによる非会合塩基対を含有する複合体は一本鎖核酸切断ヌクレアーゼにより消化されるが、フルマッチ複合体(即ち、プローブが核酸の対応する配列と完全に会合した場合)は一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによる消化を受けないので複合体のまま存在するため、シアニン染料を加えると、ミスマッチプローブとの複合体を含む試料はその吸収極大が646nm付近に存在するのに対して、フルマッチプローブとの複合体を含む試料はその吸収極大が534nm付近に変化することを見出した。
この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は以下の態様;
1. 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、そして、
(b) 上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させること、
を含む、上記方法、
2. 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が起こらないがその他の1本鎖核酸が切断可能な条件下で実施することを特徴とする、上記1記載の方法、
3. 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件下で実施することを特徴とする、上記1記載の方法、
4. ステップ(b)における一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応の後、さらに、
(c) 該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の塩基長または質量を特定することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、上記1〜3のいずれかに記載の方法、
5. 上記ステップ(c)における該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の質量の特定が、TOF/MS分析を含むものである、上記4記載の方法、
6. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記1〜5のいずれかに記載の方法、
7. 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、
(b) ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件下で、上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させてインキュベートし、そして、
(c) 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体を検出することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、上記方法、
8. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出がTOF/MS分析を含むものである、上記7記載の方法、
9. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が電気泳動手法を含むものである、上記7記載の方法、
10. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が二本鎖核酸を検出可能な染料を用いる手法を含むものである、上記7記載の方法、
11. 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、上記10記載の方法、
12. 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの光吸収スペクトルの変化を分光光度計により測定することをさらに含む、上記10または11記載の方法、
13. 核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの色調変化を視覚的に観察することにより行われる、上記10または11記載の方法、
14. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記7〜13のいずれかに記載の方法、
15. 核酸−ペプチド核酸複合体を検出するためのキットであって、
(a) 1種以上のペプチド核酸プローブ、
(b) 1種以上の一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ、
を含む、上記キット、
16. (c) 1種以上の二本鎖核酸を検出可能な染料をさらに含む、上記15記載のキット、
17. 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、上記16記載のキット、
18. 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、上記15〜17のいずれかに記載のキット、
19. 1種以上のペプチド核酸プローブが固相に固定化されていることを特徴とする、上記1〜14のいずれかに記載の方法に使用するための核酸内の変異を検出するためのアレイ、ならびに、
20. 1種以上のペプチド核酸プローブが上記19記載のアレイの形態である、上記15〜18のいずれかに記載のキット、
に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本明細書中に記載する、「核酸」とは、天然に存在するまたは人工的に合成/構築されたDNAおよびRNAを含むあらゆるポリヌクレオチドを包含する。
【0010】
本明細書中に記載する、「変異」とは、核酸内の塩基配列において、連続した5塩基以下、好ましくは2〜3塩基、最も好ましくは1塩基が対象とする塩基配列の対応する部分の塩基と異なっていることを指し、一塩基多型(SNP)を包含する。
【0011】
本明細書中に記載する「ペプチド核酸(PNA)」とは、ポリペプチド骨格に核酸塩基が結合した構造を有する化合物である。ポリペプチド骨格の例としては、2−アミノエチルグリシンを骨格単位とするものが挙げられるが、これに限定はされない。該PNAは、核酸分解酵素により分解されないため、DNAまたはRNAより安定性に優れている。さらに、ペプチド分解酵素によっても分解されない。さらに、PNAは、DNAまたはRNAと強いWatson−Crick塩基対を形成することができ、PNAとDNAまたはRNAとの二本鎖複合体は、DNA−DNA複合体またはRNA−DNA複合体より安定性が高い。したがって、PNAは、それをプローブに用いることにより、DNAまたはRNAをプローブとした場合には困難なハイブリダイゼーションを容易にする。PNAの核酸へのハイブリダイゼーションは、核酸同士のハイブリダイゼーションと同様に実施することができるので、本明細書中、PNAと核酸との複合体を形成させる際の「ハイブリダイズ可能な条件」とは、ミスマッチプローブおよびフルマッチプローブの双方ともが試験サンプル核酸の対応する塩基配列中に特異的にハイブリダイズし得る条件をいい、使用するプローブの配列および長さに応じて、温度ならびに/または塩および/もしくは界面活性剤等のバッファー組成および/もしくは濃度等を変更することにより設定することが可能であり、当業者には容易に設定することができる。また、PNAプローブを(好ましくは、該核酸分子の濃度に対して1倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上)の濃度となるようにPNAプローブを該溶液中に添加し、溶液中に含まれる二本鎖核酸を熱変性などの当業者には周知の方法によって一本鎖にし、時間をかけて室温にまで冷ますという方法で、核酸−PNA複合体を形成させることができるが、この方法に限らない。核酸−PNA複合体を形成させるための種々の方法および条件は当業者には公知である。さらに、予め固相に結合させたPNAプローブを用いても、核酸−PNA複合体を形成させることができる。
【0012】
本発明の方法に用いるPNAプローブは、試験サンプル中の核酸(ゲノムの二本鎖核酸である場合は、いずれかの鎖でもよい)の検出すべき変異塩基を含む配列に相補的になるように設計する。「変異塩基」とは、核酸内の変異を有していると考えられ得る位置に存在する塩基を指し、即ち、異なる変異型では、変異塩基が異種の塩基である。該PNAプローブ中に含まれる変異塩基は、その異種の塩基のうちのいずれかに対する相補的塩基となるように設計すればよい。遺伝子内の変異は、さまざまなものが公知であり、今後もゲノム解析およびそれに続く研究により多くのものが報告されるであろう。検出すべき変異がSNPである場合でも、これらのSNP塩基およびその近隣の核酸配列は、さまざまなデータベースおよび文献に見出すことができる。該PNAプローブ中の変異塩基以外の塩基は、その変異が存在する一本鎖核酸に対して完全に相補的であるように設計する。該PNAプローブのどの位置に変異塩基を含んでもよいが、該PNAプローブの核酸配列の両端の塩基は変異塩基ではないことが好ましい。さらには、該PNAプローブの核酸配列の両端から3塩基以内、好ましくは5塩基以内の塩基には変異塩基が含まれないことが好ましく、該PNAプローブの核酸配列の真ん中付近に変異塩基が存在するように該PNAプローブを設計することが最も望ましい。該PNAプローブの塩基長は、5塩基以上、好ましくは10塩基以上、さらに好ましくは15塩基以上、最も好ましくは18塩基以上であり、特にヒトゲノム中の変異を検出するためには、17塩基または18塩基以上が好ましいが、さらにPNAプローブの溶解性の問題および/または調製の便宜の点から、50塩基以下、好ましくは30塩基以下のものが好ましい。このような条件に沿ったPNAプローブの設計は、当業者であれば容易に達成し得る。
【0013】
本明細書に用いる「フルマッチ」という用語は、試験サンプル核酸中の該変異塩基が、用いたPNAプローブ中に含まれる変異塩基と相補的であり、PNAプローブとサンプル中の核酸の対応する部分の全ての塩基との間で相補的塩基対形成が起こることを指し、「フルマッチプローブ」とは試験サンプル核酸中の変異塩基に相補的な塩基を変異塩基の位置に含んでおり、変異塩基以外の位置もまた試験サンプル核酸の対応する塩基に相補的な塩基からなっているプローブをいう。「ミスマッチ」とは、試験サンプル核酸中の該変異塩基が、用いたPNAプローブ中に含まれる変異塩基に相補的ではなく、これらの変異塩基同士が塩基対形成しないことを指し、「ミスマッチプローブ」とは、変異塩基の位置に試験サンプル核酸中の変異塩基に対して非相補的であり、かつ変異塩基以外の位置には「フルマッチプローブ」と同じく、試験サンプル核酸の対応する塩基に相補的な塩基を有しているプローブをいう。
【0014】
本明細書中に用いる「一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ」とは、一本鎖核酸を切断可能なエンドヌクレアーゼを指し、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼが挙げられるがこれらに限定はされない。
【0015】
本明細書中に用いる「ミスマッチ塩基の酵素的切断が起こらないがその他の一本鎖核酸が切断可能な条件」とは、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが塩基対形成していない一本鎖核酸を切断するが、ミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合は切断しない条件をいう。一般的には、下記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」より、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応が進行し難い、すなわち弱い条件ということができる。
【0016】
本明細書中に用いる「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」とは、使用する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが塩基対形成していない一本鎖核酸に加えて、ミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合をも切断し得るが、PNAプローブ中の塩基と塩基対形成した核酸は切断し得ない条件をいい、例えば、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼを含有する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応用バッファー(例えば、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロール)中に1〜100μM好ましくは5〜50μM、特に好ましくは10〜30μMの濃度となるように核酸−PNA複合体が含まれており、温度は15℃〜37℃、好ましくは20〜25℃であり、かつ反応時間は10分以上、好ましくは20分以上である条件を指す。通常、この条件に用いる一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの濃度は0.5〜5 U/μlの範囲内である。該酵素濃度を1U/μl以上に設定した場合、反応温度は20〜25℃、反応時間は20分以上という条件が特に好ましい。しかし、これらの条件は、PNAプローブとハイブリダイズし得る試験サンプル核酸の配列、および条件中の他の要件などに応じて変化し得る。当業者であれば、これらの条件は通常の知識および/または日常的かつ簡単な実験を予め実施することにより設定できる。このような条件では、核酸−PNA複合体中の核酸のミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合も一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによる分解を受ける。しかし、このような反応条件下でも、フルマッチプローブを含む核酸−PNA複合体は、完全な相補的塩基対形成した二本鎖であるため、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ分解は受けない。本発明の方法はこの事実に基づいている。
【0017】
本明細書中に用いる、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件」とは、使用する一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、PNAプローブと塩基対形成していない一本鎖核酸およびミスマッチ塩基とそれに隣接する塩基との間の結合を切断し得、かつPNAプローブと塩基対形成している試験サンプル核酸中の塩基がPNAプローブの塩基から解離し、この解離した塩基が一本鎖核酸切断ヌクレアーゼにより該核酸から切断され得る条件をいう。すなわち、このような条件下では、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼによりPNAプローブと塩基対形成していない一本鎖核酸およびミスマッチ塩基と隣接する塩基との間の結合が切断されて、PNAプローブ1分子に対して該切断により生じる2つの核酸分子がハイブリダイズした形態の産物が反応溶液中に生じるが、該産物はフルマッチPNAプローブとハイブリダイズした核酸−PNA複合体より1分子あたりの核酸に含まれる塩基の数が少ないため、1分子あたりの核酸のハイブリダイゼーション強度はフルマッチ核酸−PNA複合体のそれと比較すると弱いので、解離し易く、フルマッチPNAプローブとハイブリダイズした核酸−PNA複合体は解離せず安定して複合体を維持できるが、ミスマッチ塩基対を含む核酸−PNA複合体は解離してヌクレアーゼにより分解される。このような条件下では、上記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」下の場合と比較して、核酸−PNA複合体が解離し易く、かつ/または解離した塩基を速やかに核酸分子から切断するために十分な一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ活性を含有していることが望ましい。例えば、上記の「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」と同様の反応溶液組成を用いることもできるが、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの活性が十分に維持できる限度内で温度を上昇させるか、温度を上昇させることにより喪失される酵素活性を補充するため、もしくは解離した塩基をより速やかに分解できるように酵素濃度を上げるか、または反応時間を延長することも可能である。通常、この条件に用いる一本鎖核酸切断ヌクレアーゼの濃度は1〜10U/μl、好ましくは1.5〜5U/μlの範囲内である。これらの条件は、PNAプローブとハイブリダイズし得る試験サンプル核酸の配列、および条件中の他の要件などに応じて変化し得る。当業者であれば、これらの条件は通常の知識および/または日常的かつ簡単な実験を予め実施することにより設定できる。
【0018】
本発明の1つの態様として、本発明の方法により得られた反応産物溶液中に残存する核酸−PNA複合体または該複合体中に含まれる核酸を電気泳動的に検出することが可能である。該複合体をTOF/MS解析に供して、含有される核酸の質量によりその配列を特定することもできる。さらに、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件」を用いて反応を実施した場合は、該複合体中に試験サンプル核酸に対してPNAプローブがミスマッチであるために変異塩基の位置で切断された短い核酸が検出され、試験サンプル核酸に対してPNAプローブがフルマッチであったため変異塩基の位置で切断を受けていない核酸が検出されるかということにより、変異を判定できる。あるいは、「ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件」を用いて反応を実施した場合は、試験サンプル核酸に対してPNAプローブがミスマッチであった場合は核酸は検出されないか、上記変異塩基の位置で切断された短い核酸よりもさらに短い核酸となって検出されるため、変異を判定できる。
【0019】
二本鎖核酸を検出可能な染料を用いると、TOF/MSまたは電気泳動による解析よりもさらに簡便に変異を検出できる。本発明の方法に用いる二本鎖核酸を検出可能な染料は、二本鎖核酸に吸着または結合して、光学的特徴により二本鎖核酸を検出することができる任意の化合物である。即ち、二本鎖核酸を含む試料溶液中に混合すると、二本鎖核酸に吸着または結合して、その光吸収スペクトルまたは蛍光スペクトルの変化が起こるという特徴を有するいかなる化合物でもよい。該光吸収スペクトルの変化は、可視光領域内に限らず、赤外、近赤外または紫外光領域で起こる場合もあり、これらを検出することも可能である。かかる染料の例としては、シアニン染料(cyanin dye DiSc2)、臭化エチジウム、アクリジンオレンジなどが挙げられるがこれらには限定されない。このような光吸収スペクトルまたは蛍光スペクトルの変化は、公知の方法で測定することができ、そのための分析機器も多種多様な機種が当業者には普及しており、適宜選択して用いるとよい。特に好ましい本発明の方法に用いる二本鎖核酸を検出可能な染料は、シアニン染料DiSc2である。該染料溶液は、二本鎖核酸に結合していない状態では640〜650nm付近(具体的には646nm)に吸収極大波長を有し青色を呈するが、二本鎖核酸に結合した状態では530〜540nm付近(具体的には534nm)に吸収極大波長を有し紫色を呈する。このような吸収極大波長の変化は、一般的な可視光用の分光光度計により測定することができる。さらに、青色から紫色への色調変化を視覚的観察により判断することもできる。即ち、本発明の方法においてシアニン染料を用いる態様では、プローブと試験サンプル核酸とがミスマッチである場合は青色を呈するのに対して、フルマッチである場合は紫色を呈し、この試験サンプル溶液の色調の相違は肉眼で容易に観察でき、変異を肉眼による視覚的観察によって検出し得る。
【0020】
このような検出アッセイは、安価な、試験管、マイクロチューブ、96または384ウェル等のマルチウェルプレートなどの容器内で実施でき、ハイブリダイゼーションおよび一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ消化の温度条件を設定し得る設備等(インキュベーター、温度調節用水浴など)の安価かつ汎用な設備さえあれば、実施できる。さらに、本発明の方法は、作業行程が簡便かつ単純であることから、自動化が極めて容易であり、多検体を短時間で試験するハイスループットスクリーニング系への利用が可能である。さらに、本発明の方法は、標識化合物を用いる必要がないということが大きな利点である。
【0021】
さらに、本発明の他の態様は、PNA−核酸複合体を検出するためのキットである。該キットは、上記のように設計された1種以上のPNAプローブ、1種以上の一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ(S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼまたはP1ヌクレアーゼが例として挙げられるが、これらに限定はされない)を含む。さらに、1種以上の二本鎖核酸を検出可能な染料(例えば、シアニン染料)を含んでもよい。PNAプローブとしては、変異の検出をより確実なものとするために、変異塩基のみが異なる2種以上のプローブを含むこともできる。さらに、上記プローブ、一本鎖核酸切断ヌクレアーゼおよび染料は、キットを使用する者の便宜に合わせて、かつ保存および/または輸送期間中の安定性を付与し得る形態でキットに含ませることができる。さらに、該キットには、本発明の方法に使用するバッファー又はバッファー組成物、反応停止液および反応容器を合わせて提供することもでき、使用方法を解説した使用説明書を添付することが好ましい。
【0022】
1種以上の変異検出用のPNAプローブが固相に固定化されている変異検出用アレイも本発明の範囲に包含することができる。このようなアレイはまた、上記キットの一部として提供され得る。該アレイに用いる固相は、通常の核酸アレイに用いるものでよく、固定化の方法も様々なものが当業者に公知である。PNAは核酸に比べて、非常に安定性が高いため、該アレイは公知の方法でハイブリダイズしたサンプルを洗浄することにより、核酸を接着させたアレイに比べて再利用性に優れている。該アレイを利用して、試験サンプル核酸とインキュベートして、上記と同様な方法で一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応に供して変異の検出を行うことができ、生物ゲノム中のさまざま位置に存在する複数の変異を一度に検出することができる。複数の変異に対するPNAプローブの設計および反応条件の設定は、当業者の通常の知識および日常的な試験により容易になし得る。反応条件(例えば、温度、塩濃度など)を経時的にシフトさせることも可能であり、また経時的に光吸収スペクトルの変化を検出することも可能である。このような手法により、異なる反応条件を要求する複数のPNAプローブを用いて、複数の変異を一度に検出することが可能であることは、当業者には理解できる。
【0023】
このことから、本発明の方法は、非常に簡便かつ安価な変異検出法であるという大きな利点を有している。さらに、本発明の方法の利点としては、PCR反応を必要としないこと、検出工程が単純で非常に簡単に習得できること、および短時間で実施できることが挙げられる。また、反応後の溶液中には、最初の試験サンプル中に含有されていた核酸二本鎖が存在しないため、検出の際のバックグラウンドの影響がないかもしくは非常に低いレベルであるということも本発明の方法の利点である。
【0024】
【実施例】
試験サンプル DNA および PNA プローブ
試験サンプルDNAとしては、配列番号1〜4に示す配列を有するDNA(DNA−30G、DNA−30C、DNA−30AおよびDNA−30T)を合成機により合成した後、常法により精製した。これらは15塩基目の塩基のみを異にする配列を有している。PNAプローブには、配列番号5に示す配列を有するPNAをW.C.ChanおよびP.D.White(Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis(Oxford University Press New York, 2000中、41頁の題「A practical approach」の章参照のこと)の方法により合成した。該PNAプローブは、DNA−30Cに対してフルマッチプローブとなり、DNA−30G、DNA−30AおよびDNA−30Tに対しては一塩基のみミスマッチするミスマッチプローブとなる。
【0025】
1. TOF/MS 分析による検出
DNA−PNA 複合体形成
各試験サンプルDNA(10μM)およびPNAプローブ(20μM)をNaClまたは酢酸ナトリウム(10 mM)溶液(10μl)中で90℃で50分間加熱し、2時間かけて室温まで徐々に冷却した。この冷却の際にDNA−PNA複合体が形成する。
【0026】
S 1ヌクレアーゼ反応
上記複合体を含有する溶液を、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロールという反応液(150μl)の組成になるように調製し、10℃で30分水浴中でインキュベートした。その後S1ヌクレアーゼを0.25U/μLとなるように添加して反応を開始させ、10℃で20分水浴中でインキュベートした。EDTA溶液を用いて反応を停止させ、TOF/MS分析に供した。その結果を図1および表1に示す。なお、PNAの代わりに、用いたPNAと同様の配列を有するDNAをプローブとして用いた場合には、重量体が検出されず、変異塩基の検出は不可能であった。
【0027】
【表1】
【0028】
2.色素による検出
S 1ヌクレアーゼ反応
上記と同様の複合体を含有する溶液を、30mM 酢酸ナトリウム(pH4.6)、1.0mM ZnSO4、5%(v/v) グリセロールという反応液(150μl)の組成になるように調製し、20℃で30分水浴中でインキュベートした。その後、S1ヌクレアーゼを5.0U/μLとなるように添加して反応を開始させ、20℃で20分水浴中でインキュベートした。EDTA溶液を用いて反応を停止させ、シアニン色素(3’,3’−diethylthiodicarbocyanine iodide; Sigma−Aldrich)溶液(メタノール中、1.5mM、10μl)を加えて、可視−UVスペクトル(JASCO, V−530)を分析した。その結果を図1に示す。また、該溶液の染料の色調変化を視覚的に検出することができた。なお、PNAの代わりに、用いたPNAと同様の配列を有するDNAをプローブとして用いた場合には、変異塩基の検出は不可能であった。
【0029】
【発明の効果】
以上の実施例に示したように、本発明は塩基配列中の一塩基の相違を非常に簡便に検出し得、検出装置を必要としない視覚的観察により変異を検出し得る。
【0030】
したがって、本発明は、非常に簡便かつ安価な変異検出法およびそれに有用なキットを提供し得る。本発明による検出方法は、実施例の実験手法に拘束されることなく、染料を用いた染色法以外にも電気泳動的手法、TOF/MS分析などの手法のなかから好都合のものを、当業者の通常の知識に基づいて選択して用いることが可能である。本発明の方法のさらなる利点としては、PCR反応を必要としないこと、検出工程が単純で非常に簡単に習得できること、および短時間で実施できることと共に、核酸およびプローブのいずれをも標識化合物で標識する必要がないこと、さらに、反応後の溶液中には最初の試験サンプル中に含有されていた核酸二本鎖が存在しないため、検出の際のバックグラウンドの影響がないかもしくは非常に低いレベルであるという利点がある。
【0031】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、TOF/MS分析により解析した結果のうち、フルマッチのDNA−30G(左)およびミスマッチのDNA−30T(右)の解析結果を示す。
【図2】図2は、シアニン色素(3’,3’−diethylthiodicarbocyanine iodide)溶液を用いて、配列番号1〜4に示す配列を有するDNA(DNA−30G、DNA−30C、DNA−30AおよびDNA−30T)中の変異を、配列番号5に示す配列を有するPNAプローブを用いて検出した可視−UVスペクトルを示す。
Claims (20)
- 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、そして、
(b) 上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させること、
を含む、上記方法。 - 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が起こらないがその他の1本鎖核酸が切断可能な条件下で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
- 上記ステップ(b)を、ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能な条件下で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
- ステップ(b)における一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応の後、さらに、
(c) 該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の塩基長または質量を特定することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 - 上記ステップ(c)における該反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体に含まれる核酸の質量の特定が、TOF/MS分析を含むものである、請求項4記載の方法。
- 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 核酸内の変異を検出する方法であって、
(a) ハイブリダイズ可能な条件下で、試験サンプル核酸とペプチド核酸プローブとを共にインキュベートして、核酸−ペプチド核酸複合体を形成させ、
(b) ミスマッチ塩基の酵素的切断が可能であり、ミスマッチ塩基の切断の結果生じた切断産物中の核酸がPNAプローブから解離し、解離した塩基が切断される条件下で、上記複合体を一本鎖核酸切断ヌクレアーゼと接触させてインキュベートし、そして、
(c) 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ反応溶液中に残存する核酸−ペプチド核酸複合体を検出することにより、用いたペプチド核酸プローブに対して試験した核酸がミスマッチであるかフルマッチであるかを判定すること、
を含む、上記方法。 - 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出がTOF/MS分析を含むものである、請求項7記載の方法。
- 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が電気泳動手法を含むものである、請求項7記載の方法。
- 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が二本鎖核酸を検出可能な染料を用いる手法を含むものである、請求項7記載の方法。
- 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、請求項10記載の方法。
- 上記ステップ(c)における核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの光吸収スペクトルの変化を分光光度計により測定することをさらに含む、請求項10または11記載の方法。
- 核酸−ペプチド核酸複合体の検出が、染料を含有する試験サンプルの色調変化を視覚的に観察することにより行われる、請求項10または11記載の方法。
- 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、請求項7〜13のいずれか1項に記載の方法。
- 核酸−ペプチド核酸複合体を検出するためのキットであって、
(a) 1種以上のペプチド核酸プローブ、
(b) 1種以上の一本鎖核酸切断ヌクレアーゼ、
を含む、上記キット。 - (c) 1種以上の二本鎖核酸を検出可能な染料をさらに含む、請求項15記載のキット。
- 二本鎖核酸を検出可能な染料がシアニン染料である、請求項16記載のキット。
- 一本鎖核酸切断ヌクレアーゼが、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼおよびP1ヌクレアーゼからなる群より選択されるものである、請求項15〜17のいずれか1項に記載のキット。
- 1種以上のペプチド核酸プローブが固相に固定化されていることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法に使用するための核酸内の変異を検出するためのアレイ。
- 1種以上のペプチド核酸プローブが請求項19記載のアレイの形態である、請求項15〜18のいずれか1項に記載のキット。
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