JP2004031635A - 白色発光led - Google Patents

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Fumitake Nakanishi
中西 文毅
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Abstract

【課題】ZnCdSe/ZnSe活性層またはZnSeTe活性層とSA発光不純物をドープしたZnSe基板をもつLEDにおいて、注入された電子がp型クラッド層へオーバーフローすること、注入された正孔がn型クラッド層へオーバーフローすることを防ぎ、より高輝度でより長寿命のZnSe系白色発光ダイオードを提供すること。
【解決手段】活性層とp型クラッド層の間に1〜10nmのZnMgSe第1追加障壁層を追加して電子オーバーフローを防ぎ、活性層とn型クラッド層の間に1〜10nmのZnSSe第2追加障壁層を追加して正孔オーバーフローを防ぐ。電子線、正孔のオーバーフローがなくなるから高輝度になり、さらに長寿命となる。
【選択図】   図5

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はZnSe系LEDのエピタキシャル構造、特にクラッド層の構造に関する。ZnSeはGaNと並んでワイドバンドギャップ半導体として極めて有用である。GaNのLEDは青色・緑色発光素子として一歩も二歩も先んじているがZnSe系のLEDも青色発光素子として有望である。青色が出るので蛍光材を用いて黄色、赤色の蛍光を発生させLEDの青色と重畳させて白色の発光素子としても有用である。
【0002】
輝度、寿命、コストなどの点で、ZnSe系のLEDはGaN系LEDになお及ばない。輝度の点では同じ駆動電流の場合で比較すると、ZnSeはGaNの0.6〜0.7程度である。寿命の点ではGaN−LEDは数万時間以上と言われているが、ZnSe−LEDは数千時間といったところである。コストでいえばGaNはサファイヤ基板を使うので基板コストがわずかで済む。ZnSeはZnSe単結晶基板を使うがZnSe単結晶基板は大型の良品を作るのが難しく基板コストが高い、という欠点がある。またZnSe−LEDは組立工程がやや複雑でGaN−LEDより組立に関する経費も大きい。
【0003】
白色LEDとする場合にZnSeには一つの利点がある。ZnSe基板に、ある不純物をドープすることによって基板自体を蛍光板として利用できるということである。GaNの場合はYAG蛍光材をGaN−LEDの上に塗布しなければならない。だからZnSe系LEDを用いた白色発光素子はGaN系より構造が単純化されるという利点がある。
【0004】
さらにLED自体の構造として比較するとZnSe独自の長所が幾つか存在する。GaN−LEDは劈開のないサファイヤ基板の上に作るのでサファイヤの上にデバイスを作製したあと自然劈開で切り出すことができずダイシングによって機械的に切り出すことになる。それは手数がかかりGaN/サファイヤ−LEDの歩留まりを下げる要因でもある。それに絶縁体であるサファイヤ基板を用いるから底面からn電極を取る事ができないという欠点がある。
【0005】
一方、n型ZnSe基板を製造することは可能になってきたのでZnSe基板底面にn電極を設けることができる。ZnSeには明確な劈開がある。そのような点でZnSeは優れている。しかし、寿命、輝度、コスト、信頼性などではGaNの方が格段に先行している。それが実状である。
【0006】
【従来の技術】
本発明は、ZnSe−LEDそのものではなくて、それを白色発光素子として利用する場合にさらに高輝度、長寿命の素子とすることを目的とする。ZnSe系のLEDを白色発光素子とするのは本出願人の独創である。次の先願がある。
【0007】
▲1▼ 特願平10−316169号「白色LED」
【0008】
これはZnCdSe/ZnSeの活性層をもつZnSe系のLEDにおいて、ZnSe基板にI、Al、In、Ga、Cl、BrなどのSA発光不純物をドープして、ZnCdSeの青色(490nm)と、ZnSeでの橙色、黄色(610nmにブロードな中心をもつ)の蛍光を組み合わせて白色を合成するものである。それはGaNを発光素子としてYAGを蛍光材とするものよりも構造が単純であり、寸法も小さくできるし効率も良いという利点がある。しかしZnSe−LEDを基本とするのでGaN/サファイヤ系LEDに比べて寿命の点で難がある。また輝度の点でもGaNに及ばない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ZnSe−LEDには輝度が低い、寿命が短いという欠点があると先に述べた。寿命を左右する因子は幾つもあろうが、ここで問題にするのはZnCdSe発光層から反対側のクラッド層へ漏れるキャリヤである。
【0010】
LEDはバンドギャップの狭い活性層(発光層)を、バンドギャップの大きいクラッド層によって挟んだ形になっている。活性層(発光層)にキャリヤを閉じ込めてキャリヤの再結合を局所的に起こさせるためである。n型クラッド層をA、活性層をB、p型クラッド層をCとする。
【0011】
n型クラッド層のバンドギャップをEg、活性層のバンドギャップをEg、p型クラッド層のバンドギャップをEgとすると活性層のバンドギャップが最も小さい。つまり、Eg>Eg、Eg>Egである。ここでZnSe−LEDの場合、n型クラッド層AはZn1−xMgSe1−yの4元混晶でMg、Sの混晶比x、yを高めることによってバンドギャップEgを高めている。p型クラッド層もZnMg1−xSe1−yの4元混晶でMg、Sの混晶比x、yを高めることによってバンドギャップEgを高くしている。
【0012】
図4にZnCdSe系LEDの概略のバンド図を示す。左がn型クラッド層A、中央が活性層B、右がp型クラッド層Cである。イロがn型クラッド層Aの伝導帯、ハニが活性層Bの伝導帯、ホヘがp型クラッド層の伝導帯である。トチがp型クラッド層Cの価電子帯、リヌが活性層Bの価電子帯、ルヲがn型クラッド層Aの価電子帯である。
【0013】
n型基板側から注入された電子はn型クラッド層Aの伝導帯イロからギャップロハを滑り落ち活性層Bの伝導帯ハニに落ちる。電子は活性層Bの伝導帯ハニに局在する。
【0014】
p型電極層から注入された正孔はp型クラッド層Cの価電子帯トチからギャップチリを滑り落ちて活性層Bの価電子帯リヌに入る。正孔は活性層Bの価電子帯リヌに局在する。
【0015】
電子に対しては障壁ニホがあるので活性層Bに閉じ込められ、正孔に対しては障壁ヌルがあるので活性層Bに閉じ込められるようになる。
【0016】
活性層(ZnCdSe/ZnSe)Bに電子、正孔が存在することになるが狭い層で衝突して消滅し、そのエネルギーに等しいエネルギーをもつホトン(光量子)を発生する。
【0017】
障壁ホニ、障壁ヌルに問題がある。注入された電子の一部が障壁ニホを越えてp型クラッド層Cまで進入することがある。これをここではオーバーフロー電子と呼ぶことにする。オーバーフロー電子は光とならず無駄になる。オーバーフロー電子が多いと光の発生効率が損なわれる。だからオーバーフロー電子のために輝度が下がる。同様に、注入された正孔の一部が障壁ヌルを越えてn型クラッド層Aへと進入することがある。それをここではオーバーフロー正孔と呼ぶ。オーバーフロー正孔によって光の発生効率が低下する。だからオーバーフロー正孔が多いと輝度が低下する。そこまではオーバーフロー電子もオーバーフロー正孔も同じことである。
【0018】
しかしオーバーフローについて電子に固有の性質もある。オーバーフロー電子がp型クラッド層Cへ進入すると、それがZnSe−LED素子を劣化させるということである。オーバーフロー電子のために結晶欠陥が増大し、それがLEDの劣化を引き起こす。ZnSe系LEDの寿命が短いということを既に述べているがその寿命の短さはオーバーフロー電子の作用であると本発明者は考えている。障壁ニホを越えて電子がp型クラッド層Cへ出て行き、それが結晶構造を乱し、寿命を制限している。オーバーフロー電子がZnSe−LEDの寿命を縮めるからZnSe−LEDは短命なのである、と本発明者は考える。
【0019】
だとすればオーバーフロー電子・オーバーフロー正孔を減らせば輝度は改善され寿命は長くなる。輝度と寿命でZnSe−LEDは、GaN−LEDに遅れを取っていたのであるから、輝度を増やし寿命を延ばせば、追いつくことができるはずである。障壁ホニを越えるオーバーフロー電子、障壁ヌルを越えるオーバーフロー正孔をなくすことによって輝度が増え寿命が延びるのだから、それはZnSe−LEDの特性を一挙に完全する可能性がある。
【0020】
ZnSe系LEDにおいて、活性層Bからp型クラッド層Cへのオーバーフロー電子を減少させるのが本発明の第1の目的である。活性層Bからn型クラッド層Aへのオーバーフロー正孔を減少させるのが本発明の第2の目的である。オーバーフロー電子、オーバーフロー正孔を減少させることによって高輝度のZnSe系LEDを提供するのが本発明の第3の目的である。オーバーフロー電子、オーバーフロー正孔を減少させることによって長寿命のZnSe系LEDを提供するのが本発明の第4の目的である。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明は、p型クラッド層より高い伝導帯と活性層とほぼ同じ高さの価電子帯を有する第1追加障壁層を活性層とp型クラッド層の境界に設ける。さらに本発明は、n型クラッド層より低い価電子帯をもち活性層とほぼ同じ高さの伝導帯を有する第2追加障壁層を活性層とn型クラッド層の境界に設けるようにする。
【0022】
実際には、p型クラッド層が4元Zn1−xMgSe1−y、活性層がZnCdSe/ZnSeであるので、第1追加障壁層は、ZnSeにMgだけを追加した三元のZn1−xMgSe混晶とし、Mgの混晶比は0.1〜0.4程度とする。第1障壁層の厚みは1nm〜10nm程度とする。
【0023】
n型クラッド層が4元ZnMgSSe、活性層がZnCdSeであるから、第2追加障壁層は、ZnSeにSだけを追加した三元のZnSSe1−y混晶とする。Sの混晶比yは0.1〜0.3の程度とする。第2障壁層の厚みは1nm〜10nmとする。
【0024】
第1追加障壁層のためにp型クラッドCへ向かうの電子のオーバーフローが抑制される。第2追加障壁層のためにn型クラッド層Aに向けた正孔のオーバーフローが減少する。電子のオーバーフローが減少するから、LEDの劣化の要因が除かれたことになり、長寿命のLEDとなる。電子オーバーフロー、正孔オーバーフローが減るので有効にキャリヤが利用されて光に変換される。それによって輝度が向上する。輝度が上がり寿命が延びるのでGaN系LEDに肩を並べるようになる。
【0025】
【発明の実施の形態】
[a.クラッド層バンドギャップを肥大化させないのはどうしてか?]
オーバーフロー電子が結晶構造を劣化させ発光効率を低減するのでいけないというのであるから、それを減らすにはp型クラッド層のバンドギャップEgを増やせば良いと思われる。つまり4元混晶Zn1−xMgSe1−yであるp型クラッド層のバンドギャップEg自体を増やす。それはxまたはyを増やすことによってなされる。活性層がZnCdSeなのでそれに格子整合するようにx、yを変えてEgを増やすことは可能である。格子整合条件を満足させながらクラッド層のバンドギャップを増やすというのは魅力的であるように見える。
【0026】
しかしZnSe系の半導体の共通の問題で、p型不純物ドープの困難という問題がある。
【0027】
これはZnSe系に特有のものであるが、p型が作りにくいし作れてもp型キャリヤが不足し抵抗率が下がらないということである。p型ドーパントとして知られている物質はいくつもある。しかし、それらのp型ドーパントがなかなか結晶の奥部まで進入していってくれない。p型の困難はバンドギャップが大きくなるほどに顕著になってくる。たとえばZnTeはp型の厚い結晶を作ることができるし抵抗も低いのであるが、ZnSeはp型にしてもキャリヤは少なくて抵抗が高い。それはZnTeの方がバンドギャップが狭いからである。
【0028】
ZnSeでも難しいのにZnMgSSeのようなZnSeよりもバンドギャップの広い結晶ではp型ドープはより難しい。p型ZnMgSSeをp型クラッド層に利用しているが現状ではx=0.2、y=0.2の程度である。それよりもx、yを増やすとバンドギャップEgを増やすことができる。しかしアクセプタ準位が深くなってしまい励起される正孔が著しく減ってしまう。それでキャリヤ(正孔)の濃度pがアクセプタ密度Nよりもずっと低いものになる。それは順方向電圧を上げ効率を下げるので困ったことである。
【0029】
それにp型クラッド層のバンドギャップEgを増やすということは伝導帯のレベルを上げるだけでなく価電子帯のレベルを下げる事にもなる。つまり図4で障壁ホニを上げるとともに障壁リチをも拡大することになる。リチの増加はオーバーフロー電子を防ぐ上に役に立たない。順方向に流れる正孔はリチだけエネルギーを失うが、それは非発光遷移だからエネルギー損失が増えるだけのことである。
【0030】
そのようなわけでp型クラッド層の全体のバンドギャップEgを上げることは好ましくないのである、と本発明者は考える。
【0031】
それはn型クラッド層Aについては少し事情が異なる。正孔のオーバーフローを下げるためにn型クラッド層AのバンドギャップEgを上げるとする。x、yを上げるとそれは容易に実現されるわけである。n型の場合はバンドギャップが広くてもキャリヤ(電子密度)nが減少するという不都合はない。だからn型クラッド層のバンドギャップを増やすというのは正孔のオーバーフローを防ぐ手段として有効であるかもしれない。しかし、ここでは電子、正孔のオーバーフローに対して同等の手段を採用したいので、n型クラッド層のバンドギャップを増やすという手段を採用しない。
【0032】
[b.非対称性の必要]
前節で説明したように、クラッド層のバンドギャップを増やすと価電子帯が下がり伝導帯が上がるが障壁形成のためには一方の性質は不要なのである。単純にバンドギャップを増やすのではなくて、伝導帯だけ上げる、あるいは価電子帯だけ下げる、というような非対称性のあるバンドの変更が望まれる。そうであればこそ望ましい電子障壁、正孔障壁となりうる。
【0033】
つまり電子のp型クラッド層Cへのオーバーフローを防ぐには、活性層Bとp型クラッド層Cの境界に伝導帯がクラッド層より高く、価電子帯は活性層なみの層を形成できれば良いのである。もしもそのようなことができれば、電子のp型クラッド層へのオーバーフローをほぼ完全に防ぐことができよう。
【0034】
同様に、正孔のn型クラッド層へのオーバーフローを防ぐには、活性層Bとn型クラッド層Aの境界に価電子帯がn型クラッド層より低く、伝導帯は活性層Bなみの層を形成できればよい。もし、それができたら正孔のn型クラッド層へのオーバーフローを有効に防ぐことができるはずである。
【0035】
[c.ZnMgSSeの伝導帯、価電子帯の変化の非対称性]
そのような都合の良い事が果たして可能であろうか?それはますますもって難しい要求だと考えられる。真正半導体というのは電子密度nと正孔密度pが等しいものであり、電子質量、正孔質量がもしも等しければフェルミエネルギーはバンドギャップの丁度中間に存在する。電子正孔質量が異なると、その比の対数に0.75kTを掛けた分だけ中間値からずれる。だからバンドギャップの大きい半導体を活性層とクラッド層の間に設けたとしても、それは伝導帯を上げ価電子帯を同じだけ下げるはずで非対称性は含まれない筈である。
【0036】
バンドギャップの中でフェルミエネルギーを上下させるのはドーパント濃度であって結晶の組成(混晶比)ではない。それは孤立した半導体のフェルミエネルギーとバンドの関係である。異なる組成の異なるバンドギャップの半導体層が接合する場合の話ではない。
【0037】
異なる層1、2が隣接する場合、全体としてのバンドギャップの差ΔEg=Eg−Eg(Eg、Egは層1、2のバンドギャップ)は初めから分かっている。しかし伝導帯のオフセットΔCB=CB−CB(CB、CBは層1、2の伝導帯エネルギー)、価電子帯のオフセットΔVB=VB−VB(VB、VBは層1、2の価電子帯エネルギー)がその内どのぐらいの配分になるのか?(ΔEg=ΔCB+ΔVB)というと難しい問題である。それは組成によって一義的に決まるものである。が文献に記載されているという量ではなく既知ではない。やってみなければ分からない。
【0038】
[d.ZnMgSe層]
電子のオーバーフローを防ぐためには、伝導帯エネルギーCBだけが大きくて、価電子帯エネルギーVBが活性層程度の材料を障壁層として活性層、p型クラッド層の境界に追加すればよい。つまり活性層の伝導帯、価電子帯エネルギーをCB、VB、p型クラッド層の伝導帯、価電子帯エネルギーをCB、VBとすると、ここで望まれる追加障壁層Fの伝導帯、価電子帯エネルギーCB、VB、バンドギャップEgは、
【0039】
CB>CB        (1)
【0040】
VB=VB        (2)
【0041】
Eg>Eg>Eg    (3)
【0042】
というような非対称な条件を満たすことである。特に(2)が難しい条件である。バンドギャップを増やすと伝導帯上昇も価電子帯下降も等しく起こりそうに思える。(2)、(1)はそうでなく価電子帯は殆ど連続だということを要求している。はたしてそのような都合の良いことが可能であろうか?
【0043】
ZnMgSSeの四元系はMgの混晶比x、Sの混晶比yを増やすとバンドギャップが増える。それはよく知られている。しかしその増加のうち、どれだけが価電子帯の下がりであり、どれだけが伝導帯の上がりに配分されるのかはよくわからない。
【0044】
それは基準となる結晶を決めないと定義できない量である。それに結晶構造だけでは決まらず結晶を接合したときの仕事関数の違いにもよるものである。バンドギャップのように基準結晶が定義に不要なものと違い、いっそう定義と計測が難しい。そこでZnSeを基準として考える。実際には活性層はZnCdSe/ZnSeの多重量子井戸(MQW:超格子)でありZnSeそのものでないがZnCdSe比率は少なくてZnSeとほぼ同じエネルギー帯、格子定数をもつので簡単にZnSeを基準結晶として考える。
【0045】
しかし実際に価電子帯エネルギーVB、伝導帯エネルギーCBを直接に測定するのは難しい。本発明者はこれまでの結晶製造の経験から、ZnSeを基準として、Mgだけを増やすと伝導帯がより高くなり価電子帯はあまり変化しないし、Sだけを増やすと価電子帯が低くなり、伝導帯があまり変化しない、という印象を受けて来た。そのようなことはどのような文献にも記載されておらず本発明者は純経験的に気付いたのである。
【0046】
ZnMgSSe4元混晶にはMgとSの添加に関し、そのような非対称性があるようである。それは電子オーバーフローを防ぐ、正孔オーバーフローを防ぐための追加障壁を形成しようとする際にまことに好都合の性質である。
【0047】
Mgを含みSを含まない三元混晶ZnMgSeは伝導帯CBを4元ZnMgSSeより高く上げ、価電子帯VBはZnSeと同じぐらいにする傾向がある((2)式のように)。つまりZnMgSeには上記の3条件をほぼ満たすような好都合な性質があることが本発明者に分かってきた。つまり上記の障壁層Fの性質はそのままZnMgSeの特性として置き換えることができる。そこでZnMgSeをFとすると
【0048】
(ZnMgSe層:F)
CB>CB        (1)
VB=VB        (2)
Eg>Eg>Eg     (3)
を満たすようにするのである。
【0049】
本発明は、ZnMgSeを第1追加障壁層Fとして活性層とp型クラッド層の境界に追加し電子のオーバーフローを防ぐようにする。図5のように伝導帯がイロハニワカヨヘというようになる。追加障壁層Fによって伝導帯がニワカヨのようにp型クラッド層よりも高く突出する。それによって電子のオーバーフローを防ぐことができる。オーバーフローを防ぐことができればZnSeエピ層の結晶の劣化という問題も解決できるし発光効率の低さ、つまり輝度が低いという問題にも解決を与えることができる。
【0050】
バンドギャップがZnSeより大きいので価電子帯がZnSeより下がるはずであるが、タレソリというように追加障壁層Fの存在による価電子帯の下がりは僅かであり、活性層Bとp型クラッド層Cの間で価電子帯は殆ど連続である。つまりレソリヌは殆ど直線に近い。ソ点で不連続がないので、それはp側からの正孔の注入を殆ど妨げないということである。ZnMgSe混晶はそのような非対称の好都合の性質をもつ。
【0051】
しかし、それは易しい選択だということではない。上記の(1)と(3)は相反する条件を要求しているからである。p型クラッド層はMgとSをZnSeに含ませたものでありMgもSもバンドギャップを増やす性質がある。だからこそクラッド層になるのである。クラッド層は活性層ZnCdSe/ZnSeよりバンドギャップが広いからキャリヤを活性層に閉じ込めることができるのである。ダブルヘテロの発光素子はすべてそのようなクラッド層を持っている。
【0052】
第1追加障壁層(ZnMgSe)Fについていえば、それはSを含まないので隣接するp型クラッド層よりバンドギャップは低い。それでいて伝導帯CBがクラッド層の伝導帯CBcより高くなければならない。それは価電子帯がZnSeと同一だという性質があってもなお難しい条件となる。第1障壁層のMgの混晶比をxとし、p型クラッド層のMgの混晶比をxとすると、少なくともxはxより大きくなくてはならない。
【0053】
>x
【0054】 
それだけでよいのかどうかはいまだはっきりしない。様々の混晶比の追加障壁層、p型クラッド層を作製して(1)CB>CBとなるかどうかを調べる必要がある。
【0055】
ZnMgSeという組成のクラッド層はこれまで用いられたという報告がない。結晶成長の難しさということもあるしZnSeと格子整合できないのでクラッド層の候補から外れていたのであろう。本発明はそのような非対称性のある混晶を発見し、それを非対称の用途に有効に利用している。
【0056】
[e.ZnSSe層]
同じようなことが正孔のオーバーフローを防ぐためにも利用できる。Mgを含まずSを含むZnSSe混晶は価電子帯エネルギーがn型ZnMgSSeクラッド層Aより下がり伝導帯エネルギーは活性層ZnCdSeと同等であることが本発明者に分かってきた。もしも、活性層Bとn型クラッド層Aの境界に、Mgを含まずSを含むZnSSe混晶Hの薄い層を設けると価電子帯がn型クラッド層より低く、伝導帯が活性層とほぼ同様のものが得られるであろうということがわかった。ZnSSeの特性はサフィックスhを付けて表現すると、
【0057】
(ZnSSe層:H)
【0058】
CB=CB        (4)
【0059】
VB<VB        (5)
【0060】
Eg>Eg>Eg     (6)
【0061】
というようになる。そこでZnSSeの薄い層を、n型クラッド層Aと活性層Bの間に挟むようにエピタキシャル成長して正孔のオーバーフローを防ぐ第2追加障壁層とする。これも(5)と(6)が相反する条件を求めており難しい条件である。
n型クラッド層はn−ZnMgSSeでありMgとSを含む。どちらもバンドギャップを増やす傾向がある。Mgは格子定数を増やし、Sは格子定数を減らす。第2追加障壁層HはMgを含まないからn型クラッド層よりもバンドギャップは狭い。それでいて価電子帯VBはn型クラッド層の価電子帯VBより低くなくてはならない。それは容易な条件でない。n型クラッド層のSの混晶比をyとし、第2追加障壁層のSの混晶比をyとすると、
【0062】
>y
【0063】 
という条件は必要であろう。しかし、それだけで良いのかどうかハッキリしない。様々のクラッド層A、第2追加障壁層Hを作製して(5)VB<VBかどうかを確かめることによって組成を決定すべきである。
【0064】
ZnSSe層もクラッド層としてあまり使われないが、それもZnSeと格子整合できないからであろう。
【0065】
つまり本発明はn型クラッド層A:活性層B:p型クラッド層CからなるABC構造に替えて、n型クラッド層A:第2追加障壁層H:活性層B:第1追加障壁層F:p型クラッド層CというAHBFC構造を提案する。
【0066】
図5において伝導帯は、イロハニワカヨヘのように活性層とp型クラッド層の間に突出部ニワカヨをもつ。それが電子オーバーフローを防止する。価電子帯はトタレソリヌツネナヲのように活性層とn型クラッド層の間に突出部ヌツネナをもつ。それが正孔オーバーフローを防ぐ。
【0067】
電子オーバーフローを防ぐ第1追加障壁層Fがより本質的であり、Hを欠落したABFC構造でもよい。それでも電子オーバーフローを防ぎ素子の劣化を防ぐ上に効果があるからである。
【0068】
[f.追加障壁層の厚みd]
クラッド層は4元ZnMgSSe結晶でZnSeと格子整合できるように組成が選ばれている。しかし本発明で提案する追加障壁層は三元混晶でパラメータが不足し活性層の基準結晶であるZnSeと格子整合できない。格子不整合であるから障壁層はあまり厚くできない。厚い障壁層とすると歪みが大きくなり、その上にp型クラッド層がうまく付かない。歪み格子となるから厚みが制限される。厚みはだから10nm以下である。下限は電子、正孔のオーバーフローをくい止める作用があるかどうかということで決まる。薄すぎるとトンネル電流が流れて電子、正孔を閉じ込めることができない。だから最低でも1nmの厚みを必要とする。だから第1、第2追加障壁層の厚みdは1nm≦d≦10nmといったところである。より好ましくは3nm〜8nm程度である。
【0069】
[g.Zn1−xMgSe第1追加障壁層の組成]
第1追加障壁層のMgの比率xは0.1〜0.4程度である。Mgの比率が高いとバンドギャップEgが広くなる。格子定数はZnSeより増える。だからMg比率が増えると活性層のZnSeとの格子不整合がより甚だしくなって歪みが増大するという問題がある。
【0070】
[h.ZnSSe1−y第2追加障壁層の組成]
第2追加障壁層のSの比率xは0.1〜0.3程度である。Sの比率が高いとバンドギャップEgが広くなる。格子定数はZnSeより減る。だからSの比率が増大すると活性層のZnSeとの格子不整合がより甚だしくなって歪みが増大するという問題がある。
【0071】
[i.追加障壁層F、Hの高さ]
第1追加障壁層ZnMgSeの伝導帯CBが隣りのp型クラッド層の伝導帯CBよりどれ程高ければ良いのか?
【0072】
同様に、第2追加障壁層ZnSSeの価電子帯VBが隣りのn型クラッド層の価電子帯VBよりどれほど低ければ良いのか?
【0073】
それが問題である。常温(298K)での温度のエネルギーkTは大体25meV程度である。伝導帯の電子の平均のエネルギーがその程度であり、それを既成のクラッド層よりも強く遮蔽するのであるから、25meV程度はクラッド層よりも高くなければ意味がないであろう。
【0074】
さらに望ましくは、50meV程度クラッド層より高いのが良い。つまり第1障壁層Fについていえば、最低の条件は
【0075】
CB≧CB+0.025 (eV)
【0076】
であり望ましくは
【0077】
CB≧CB+0.050 (eV)
【0078】
である。それは第2追加障壁層Hでも同様であり、価電子帯VBはn型クラッド層の価電子帯VBより25meV以上低い、あるいは50meV以上低いのが良い。最低の条件は
【0079】
VB≦VB+0.025  (eV)
【0080】
であり、より望ましくは
【0081】
VB≦VB+0.050  (eV)
【0082】
である。
【0083】
【実施例】
実施例において、ZnSe系薄膜を成長させるため分子線エピタキシャル成長法(MBE)を用いる。よく知られた薄膜成長方法であるが、ここで用いた分子線エピタキシャル成長装置を説明する。
【0084】
図1に分子線エピタキシー装置の成長室の概略を示す。これに隣接して導入室、予備室などがある。成長室1はステンレスの真空容器である。その内壁に沿って液体窒素シュラウド2が設けられる。液体窒素シュラウドは窒素温度(77K)に冷却された壁面にガス分子を吸着することによって真空度を上げるためのものである。所々に穴がありKセル(クヌーセンセル)、真空排気口、RHEED等の装置が設けられる。成長室1の中心部分にはマニピュレータ3がありZnSe基板5を貼り付けた基板ホルダー4を保持する。基板ホルダー4の後ろには基板を加熱するためのヒータ8がある。チャンバ(成長室)1の側方には真空排気口9があり、ここから内部を超高真空に引く。
【0085】
チャンバ壁に多数の分子線セルが設けられる。ここでは全ての分子線セルが断面図に現れるように書いているが実際には基板を頂点とする円錐に含まれる領域でチャンバの底側面に二次元的分布をもつように設置される。
【0086】
Zn用分子線セル52、Cd用分子線セル53、Mg用分子線セル54、Te用分子線セル55は通常のKセル(クヌーセンセル)である。るつぼに収容した金属原料をヒータで加熱して融液とし、これを蒸発させて分子線とするものである。詳細な構造は図示を略した。有底円筒形PBNるつぼをMoの支柱で支持し廻りにコイルヒータ、リボンヒータを備え、さらにその周囲にタンタルの反射板を設け、るつぼ上方にはシャッターがある。
【0087】
分子線セル56はZnCl用のセルである。それはn型ドーパントとしての塩素Clを分子線とするものである。これもPBNるつぼ、ヒータ、反射板、シャッターをもっている。これらるつぼに原料を入れた分子線セル52〜56は随時原料を補充する必要がある。
【0088】
分子線セル57、58は、セレンSe用、硫黄S用のバルブセルである。これらは閉じたるつぼでなく原料はガスの形で外部から連続的に導入される。ヒータによって加熱して分子線にしシャッター開閉して分子線を遮断通過させることができるのは同様である。バルブによって流量を調整できる。これも詳細な構造は省略した。
【0089】
分子線セル59、60は窒素N、水素Hを分子線とするためのRFセルである。これも外部のガスボンベから原料が導入される。バルブによって流量調整できる。RFコイルが導入部の外側に設けられ窒素をプラズマとするようにしている。窒素Nはそのままでは不活性でドーピングされないからRF励起しプラズマとして飛ばす。クラッカーセルともいう。窒素はp型ドーパントである。RFセルも二つ設置される。
【0090】
チャンバ1壁にはビューポート12が設けられる。ポートの開閉部分は透明窓になっており内部を観察できる。パイロメータ13によって基板5の近傍の温度を測定するようになっている。基板ホルダー4の側方にはRHEED電子銃6(反射高エネルギー電子線回折)が設けられる。その反対側の壁面にはRHEED用スクリーン7がある。
【0091】
チャンバ壁にはその他に真空排気口9がある。分子線セルから出た分子線は全て中心にある基板に向いて飛翔し基板面に付着し薄膜成長をおこす。
【0092】
この実施例で作製したZnSe系白色発光素子の層構造を図2によって述べる。
(100)面n型ZnSe基板20の上に、n−ZnSeバッファ層22、n−ZnMgSSeクラッド層23、ZnSSe正孔ブロック層(第2追加障壁層)24、ZnCdSe/ZnSe多重量子井戸活性層25、ZnMgSe電子ブロック層(第1追加障壁層)26、p−ZnMgSSeクラッド層27、p−ZnSe層28、p−ZnSe層29、p−(ZnTe/ZnSe)多重量子井戸層30、p−ZnTeコンタクト層32を順次エピタキシャル成長する。n−ZnSe基板20の裏面にはn電極33が形成されている。p−ZnTeコンタクト層32の上にはリング状(またはドット状)のp電極34が形成される。
【0093】
[1.n−ZnSe基板の準備・クリーニング]
(100)面n型ZnSe基板を、2クロム酸、硫酸、水からなるエッチング液で表面層を約1μmエッチングした。これは表面酸化層を除去するためである。そのZnSe基板をMo基板ホルダーにIn−Ga液体金属で貼り付けた。それをMBE装置の導入室に入れ導入室を真空排気した。導入室に隣接するMBE装置の成長室はもともと真空に引かれており、分子線セルのフラックス量の調整をする。圧力が10−7Torr(1.3×10−5Pa)以下に下がってから、ZnSe基板を貼り付けた基板ホルダーを、導入室から成長室へトランスファした。
【0094】
基板ホルダーは図1に示したように成長室の中心部においてZnSe基板5を下向きに保持する。ヒータ8に通電して基板温度を400℃とした。
【0095】
基板表面清浄化のための水素プラズマセルをパワー350W、流量2sccmの条件に設定した。基板温度、水素プラズマセルが充分に安定した後、水素プラズマセルのシャッターとメインシャッターを開き、20分間、水素プラズマを当ててZnSe基板表面をクリーニングした。クリーニングできたということは、RHEEDパターンを観察し、表面にC(2×2)再配列パターンが出ることによって確認した。
【0096】
クリーニング終了後、基板温度を300℃に設定した。温度が安定してから薄膜のエピタキシャル成長を開始した。
【0097】
[2.n−ZnSeバッファ層の成長]
初めに、Seバルブを所定の値に設定した。Znセル、Seセル、ZnClセルのセルシャッターを開きZn、Se、ZnClの分子線を発生させZnSe基板20に当てた。それによって、ZnSe基板の上に、1μm厚みのn−ZnSeバッファ層22を成長させた。成長速度は0.4μm/hであり、n−ZnSeバッファ層のキャリヤ密度はn=3〜4×1017cm−3であった。
【0098】
[3.n−ZnMgSSeクラッド層の成長]
Sバルブを所定の値に設定し、Mgセル、Sセルのシャッターを開き、新たにMg分子線、S分子線もZnSe基板に向かって照射した。それによってn−Zn1−x1Mgx1y1Se1−y1クラッド層23を0.5μm厚みで成長させた。このn−クラッド層の混晶比はx=0.22、y=0.19であった。この混晶比のZnMgSSeのバンドギャップはEg=2.95eV、キャリヤ密度n=2〜3×1017cm−3である。成長速度は約0.45μm/hである。
【0099】
これらのn−ZnSeバッファ層22と、n−ZnMgSSeクラッド層23の成長は、RHEED像において2×1とC(2×2)のパターンが混在し、やや2×1のパターンが強めに現れるストイキオメトリックな組成で行った。
【0100】
[4.ZnSSe第2追加障壁層(正孔ブロック層)の成長]
次にZnClセル、Mgセルのシャッターを閉じ、同時にSのバルブの開口量を増加させた。Znセル、Sセル、Seセルからの分子線によって、正孔ブロックの為の第2追加障壁層24となるZnSy2Se1−y2層を10nm厚み(0.01μm)になるよう成長させた。この時のSの混晶比はy=0.22であった。バンドギャップはEg=2.85eVであった。
【0101】
[5.ZnCdSe/ZnSe活性層の成長(発光層:MQW)]
活性層は、2nm厚みのZnCdSe量子井戸活性層43、45、47の3層を、厚み8nmのZnSe障壁層42、44、46、48の4層で挟んだものである。合計7層38nmよりなる活性層であるが以下のような手順で成長させる。
【0102】
正孔ブロック層24を形成したのち、Sバルブを閉じSセルのシャッターを閉める。Seセルのバルブ開口量を増やしSe分子線を増強する。同時にCdセルのシャッターを開きCd分子線を発生させる。Zn分子線、Cd分子線、Se分子線によってZnCdSe薄層(2nm)を成長させる。次にCdセルのシャッターを閉じSeのバルブ開口量を元に戻してZnSe層の成長を行う。8nm厚みになるとZnSe成長を中止する。再びCdセルのシャッターを開きSeバルブ開口量を増やしZnCdSeを成長させる。そのようなことを何度か繰り返してMQW構造を作る。
【0103】
そのようなZnCdSe(2nm)とZnSe(8nm)の複合膜を成長させ活性層とする。ZnCdSeはバンドギャップがZnSeより狭い。Cdの比率によって発光波長を460nm(青)〜510nm(緑)の範囲で変えることができる。ここでは485nmの青色発光を目指している。ZnSeと格子不整合なので薄い膜を相互に複数層重ねるようにする。だからMQW構造となる。
【0104】
[6.ZnMgSe第1追加障壁層(電子ブロック層)の成長]
最上層のZnSeの成長が終わるとCdセルのシャッターを閉じSeバルブ開口量を元へ戻し(減らす)、同時に電子ブロック層形成用に設けたもう一つのMgセルのシャッターを開きMg分子線を発生させる。このときZn分子線、Se分子線、Mg分子線が基板へ向けて飛んでいることになる。
【0105】
そのようにして第1追加障壁層(電子遮断)となるZn1−x3Mgx3Se層を成長させる。膜厚は10nmである。Mg混晶比はx=0.27であった。バンドギャップはEg=2.86eVである。
【0106】
[7.p−ZnMgSSeクラッド層の成長]
電子ブロック層用のMgセルのシャッターを閉じる。Sバルブを開ける。クラッド生成用のMgセル、Sセル、Nプラズマセルのシャッターを開き、S分子線、Mg分子線、N分子線、Se分子線を発生させ基板へ照射した。p−Zn1−x4Mgx4y4Se1−y4クラッド層の混晶比はx=0.24、y=0.18でバンドギャップはEg=2.95eVである。pドーパントのドーピングは、窒素流量0.5sccm、RFパワー50Wで行った。実効アクセプタ密度はN=2〜3×1016cm−3であった。p型クラッド層の成長は、RHEED像において、2×1のパターンと、C(2×2)のパターンが同等の強度で混在するストイキオメトリックな組成で行った。
【0107】
Sバルブを閉じ、Mgセル、Sセルのシャッターを閉じp−ZnMgSSeクラッド層の成長を終了した。
【0108】
[8.p−ZnSe層の成長]
窒素流量0.5sccm、RFパワー40Wで窒素セルを励起し窒素プラズマセルから窒素分子線を発生させた。Znセル、SeセルからのZn分子線、Se分子線と窒素分子線によりp−ZnSe層を0.4μm(400nm)成長させた。実効アクセプタ密度はN=1〜2×1017cm−3である。
【0109】
[9.p−ZnSe層の成長]
Seバルブを閉じ、窒素プラズマセルとSeセルのシャッターを閉じた。ZnセルからZn分子線の照射を約30秒行った。Znセルのシャッターも閉じ分子線が全く無い状態で基板温度を270℃まで下げた。約20分後に、Seバルブを所定の値に設定した。窒素流量1.0sccm、RFパワー80WでN分子線を発生させた。Znセル、Seセル、Nセルのシャッターを開いて、Zn分子線、Se分子線、N分子線を基板に向けて照射した。それによって厚み0.2μm(200nm)のp−ZnSe層を成長させた。実効アクセプタ密度はN=7〜8×1017cm−3であった。
【0110】
[10.ZnTe/ZnSe超格子電極(組成傾斜層)の成長]
−ZnSe層の上にp−ZnTe層、p−ZnSe層、p−ZnTe層、p−ZnSe層、…というように、交互に積層してゆく。初めp−ZnSe層は厚いが少しずつ薄くなり、反対にZnTe層は初め薄いが少しずつ厚くなるようにする。具体的には、初めZnTeが1原子層で次にZnSe12原子層の厚み、順にZnTe2原子層、ZnSe11原子層、ZnTe3原子層、ZnSe10原子層、ZnTe4原子層、ZnSe9原子層、…、と交互に厚みを変えていき、最後はZnTe12原子層、ZnSe1原子層とし組成傾斜層の成長は終了する。そして、その組成傾斜層の最表面に10原子層程度の厚みのp−ZnTe層を成長させる。p−ZnTeに金属p電極を付けるが、ZnSeはバンドギャップが広くZnTeはバンドギャップが狭いので正孔がうまく流れず、正孔準位がp−ZnSeの価電子帯に大体等しくなるように井戸層(ZnTe)と障壁層(ZnSe)の厚みを増減してゆくのである。以上でエピタキシャル成長は終わりである。エピタキシャルウエハが得られる。
【0111】
上から順にエピタキシャルウエハの構造を示す。
(エピタキシャル薄膜構造)
32 p−ZnTe   10原子層
30 p−(ZnTe/ZnSe) MQW
29 p−ZnSe  200nm  N=7〜8×1017cm−3
28 p−ZnSe  400nm  N=1〜2×1017cm−3
27 p−Zn0.76Mg0.240.18Se0.82 500nm N=2〜3×1016cm−3 Eg=2.95eV
26 Zn0.73Mg0.27Se  10nm Eg=2.86eV
48 ZnSe     8nm
47 ZnCdSe   2nm
46 ZnSe     8nm
45 ZnCdSe   2nm
44 ZnSe     8nm
43 ZnCdSe   2nm
42 ZnSe     8nm
24 ZnS0.22Se0.78  10nm  Eg=2.85eV
23 n−Zn0.78Mg0.220.19Se0.81  500nm Eg=2.95eV n=2〜3×1017cm−3
22 n−ZnSe 1000nm Eg=2.7eV n=3〜4×1017cm−3
20 n−ZnSe基板    Eg=2.7eV
【0112】
[11.p電極の形成]
円環状のp電極をp−ZnTe層32の上に形成する。例えばAu/Pt/Pdをp電極とする。
【0113】
[12.n電極の形成]
n−ZnSe基板の裏面にn電極を形成する。例えばInなどをn電極とする。
そのあとZnSeウエハを劈開面に沿って縦横にスクライブし折り曲げて個々のチップに分割した。一つ一つの独立したLEDチップになる。それをL型リードにボンディングし、他のリードとワイヤボンディングして透明樹脂でモールドした発光素子とした。
【0114】
[13.本発明の発光素子の駆動電流と光電流の関係]
本発明は電子のオーバーフローを防ぐための第1追加障壁層をp型クラッド層と活性層の間に設け、正孔のオーバーフローを防ぐための第2追加障壁層をn型クラッド層と活性層の間に設けている。駆動電流を変えて光出力を測定した。その結果を図3に示す。横軸は駆動電流(mA)である。縦軸は光出力(mW)である。
【0115】
従来構造のLEDの光出力の測定値はひし形・破線で示している。光出力は駆動電流5mAで1.1mW、10mAで2.2mWであり、15mAで3.3mW、20mAで4.3mWである。光出力は駆動電流に対して比例して増減する。
【0116】
追加障壁層を設けた本発明のLEDの光出力は正方形・実線で示している。駆動電流5mAで1.5mWの光出力、10mAで2.9mWの光出力である。15mAの駆動電流で4.3mWの光出力で、20mAで5.7mWである。本発明のLEDも、光出力が駆動電流に比例する。
【0117】
本発明の実施例の方が、同じ駆動電流でも約30%光出力(光電流)が大きい。それは追加障壁層が電子、正孔をくい止めて活性層の内部から抜け出るのを防ぐためである。また電子がp型クラッド層に出て行かないので寿命が延びる。
【0118】
【発明の効果】
ZnSe−LEDはZnCdSe/ZnSe型とZnSeTe型があるが本発明はいずれにも適用できる。ZnCdSe−LEDはCdの量によって青色、緑色の発光ダイオードとなる。ZnSe基板にIn、Cl、Al、Br、Gaなどの不純物をドープしておくと、それがSA発光中心となり青色を吸収し橙色黄色(590nm中心)の蛍光を発する。青色と橙色黄色が複合して白色の発光素子となる。
【0119】
本発明は、活性層Bとp型クラッド層Cの間に、ZnMgSeの第1追加障壁層Fを設けるから、活性層Bからp型クラッド層への電子のオーバーフローを防ぐことができる。それによってLEDの劣化の原因を除くことができ長寿命のZnSe系LEDを与えることができる。
【0120】
また無駄な電流が減るのであるから発光効率が上がり輝度が上昇する。白色発光素子としていっそう有望になる。
【0121】
活性層Bとn型クラッド層Aの間にもZnSSeの第2追加障壁層Hを設けるようにもできる。そうすると活性層Bからn型クラッド層へかけての正孔のオーバーフローをも防ぐことができる。それによって発光効率が上がり輝度が上がる。
【0122】
本発明によってZnSe系LEDの欠点であった、輝度、寿命を大幅に改善することができる。それによってZnSe系LEDが、GaN系LEDに比肩できる特性をもつようになる。
【0123】
白色発光素子の光源としてZnSe−LEDとGaN−LEDを比較するとZnSe−LEDの方が構造が単純であるから、LEDとしての寿命、輝度の問題が克服されたら白色発光素子としてもGaN系に追いつく性能をもつにいたる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ZnSe基板の上にZnSe、ZnMgSSe、ZnMgSe、ZnTe、ZnSSeなどの薄膜を成長させるための分子線結晶成長装置の概略断面図。
【図2】本発明の実施例にかかる白色LEDの層構造を示すための断面図。
【図3】従来例にかかるZnSe系白色発光素子の電流・光出力の測定結果と、第1追加障壁層を活性層とp−クラッド層の間に、第2追加障壁層を活性層とn−クラッド層の間に設けた本発明の実施例にかかるZnSe系白色発光素子の電流・光出力の測定結果を示すグラフ。黒四角点が本発明の実施例、黒ひし形点が従来例を示している。
【図4】n−ZnMgSSeクラッド層A、活性層B、p−ZnMgSSeクラッド層Cを有する従来例にかかるZnSe系発光素子において、注入された電子の一部が伝導帯のギャップを越えてp−ZnMgSSeクラッド層へオーバーフローし、注入された正孔の一部が価電子帯のギャップを越えてn−ZnMgSSeクラッド層へオーバーフローすることを説明するバンド図。
【図5】n−ZnMgSSeクラッド層A、第2障壁層H、活性層B、第1障壁層F、p−ZnMgSSeクラッド層Cを有する本発明にかかるZnSe系発光素子において、注入された電子は第1障壁層によって遮られ押し戻されて活性層において全て再結合に用いられ、注入された正孔は第2障壁層によって遮られ押し戻されて全て再結合に用いられることを説明するバンド図。
【符号の説明】
イロハニホヘ   従来例のZnSe系発光素子の伝導帯
イロハニワカヨヘ 本発明のZnSe系発光素子の伝導帯
トチリヌルヲ   従来例のZnSe系発光素子の価電子帯
トタレソリヌツネナヲ 本発明のZnSe系発光素子の価電子帯
1 成長室
2 シュラウド
3 マニピュレータ
4 基板ホルダー
5 ZnSe基板
6 RHEED電子銃
7 RHEEDスクリーン
8 ヒータ
9 真空排気口
12 ビューポート
13 パイロメータ
20 n−ZnSe基板
22 n−ZnSeバッファ層
23 n−Zn0.78Mg0.220.19Se0.81クラッド層
24 ZnS0.22Se0.78第2追加障壁層
25 ZnCdSe/ZnSe多重量子井戸活性層
26 Zn0.73Mg0.27Se第1追加障壁層
27 p−Zn0.76Mg0.240.18Se0.82クラッド層
28 p−ZnSe層
29 p−ZnSe層
30 (ZnTe/ZnSe)多重量子井戸層MQW
32 p−ZnTeコンタクト層
33 n電極
34 p電極
42 ZnSe層
43 ZnCdSe層
44 ZnSe層
45 ZnCdSe層
46 ZnSe層
47 ZnCdSe層
48 ZnSe層
52 Zn用分子線セル
53 Cd用分子線セル
54 Mg用分子線セル
55 Te用分子線セル
56 ZnCl用分子線セル
57 セレン用分子線セル
58 硫黄用分子線セル
59 窒素プラズマ用分子線セル
60 水素プラズマ用分子線セル

Claims (6)

  1. In、Al、Cl、Br、Ga、Iの何れかを不純物として含むn−ZnSe基板と、n−ZnSe基板の上へ直接にあるいはn−ZnSeバッファ層を介して成長させたn−ZnMgSSeクラッド層と、n−ZnMgSSeクラッド層の上に成長させたZnCdSe/ZnSe量子井戸活性層あるいはZnSeTe活性層と、活性層の上に成長させた電子オーバーフローを防ぐためのp型クラッド層より高い伝導帯をもちZnSeに格子不整合の1nm〜10nm厚みのZnMgSe第1追加障壁層と、ZnMgSe第1追加障壁層の上に成長させたp−ZnMgSSeクラッド層と、p−ZnMgSSeクラッド層の上に成長させたp−ZnSe層と、p−ZnSe層の上に設けた(ZnTe/ZnSe)多重量子井戸層と、多重量子井戸層の上に成長させたp−ZnTe層と、p−ZnTe層に設けたp側電極と、n−ZnSe基板の底面に形成したn側電極とを含むことを特徴とする白色発光LED。
  2. In、Al、Cl、Br、Ga、Iの何れかを不純物として含むn−ZnSe基板と、n−ZnSe基板の上へ直接にあるいはn−ZnSeバッファ層を介して成長させたn−ZnMgSSeクラッド層と、n−ZnMgSSeクラッド層の上に成長させた正孔オーバーフローを防ぐためのn型クラッド層より低い価電子帯をもちZnSeに格子不整合の1nm〜10nm厚みのZnSSe第2追加障壁層と、ZnSSe第2追加障壁層の上に形成したZnCdSe/ZnSe量子井戸活性層あるいはZnSeTe活性層と、活性層の上に成長させた電子オーバーフローを防ぐためのp型クラッド層より高い伝導帯をもちZnSeに格子不整合の1nm〜10nm厚みのZnMgSe第1追加障壁層と、ZnMgSe第1追加障壁層の上に成長させたp−ZnMgSSeクラッド層と、p−ZnMgSSeクラッド層の上に成長させたp−ZnSe層と、p−ZnSe層の上に設けた(ZnTe/ZnSe)多重量子井戸層と、多重量子井戸層の上に成長させたp−ZnTe層と、p−ZnTe層に設けたp側電極と、n−ZnSe基板の底面に形成したn側電極とを含むことを特徴とする白色発光LED。
  3. ZnMgSe第1追加障壁層のMgの混晶比xが0.1〜0.4であることを特徴とする請求項1または2に記載の白色発光LED。
  4. ZnSSe第2追加障壁層のSの混晶比yが0.1〜0.3であることを特徴とする請求項2に記載の白色発光LED。
  5. ZnMgSe第1追加障壁層の伝導帯CBが、p−ZnMgSSeクラッド層の伝導帯CBより25meV以上高い事を特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の白色発光LED。
  6. ZnSSe第2追加障壁層の価電子帯VBが、n−ZnMgSSeクラッド層の価電子帯VBより25meV以上低い事を特徴とする請求項2または4に記載の白色発光LED。
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